説明

崩壊温度より高温での凍結乾燥

本発明は、崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において実行される一次乾燥ステップを伴う医薬物質を凍結乾燥する方法を提供する。本発明はまた、崩壊温度または崩壊温度より高温において凍結乾燥した医薬物質を提供する。
【図1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年8月5日出願の米国仮特許出願第61/086,426号に対する優先権を主張し、参照によりその全体を本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
凍結乾燥またはフリーズドライは、医薬品業界において生物材料および医薬材料の保存に広く使用されている方法である。凍結乾燥において、材料中に存在する水は、凍結ステップ中に氷に変化し、次いで、一次乾燥ステップ中に低圧条件下で直接昇華することによって材料から除去される。しかし、凍結中にすべての水が氷に変化するわけではない。水の一部は、例えば処方成分および/または有効成分を含有する固体マトリックス中に閉じ込められている。マトリックス内の余分な結合水は、二次乾燥ステップ中に所望の残留水分レベルに減少させることができる。すべての凍結乾燥ステップ、凍結、一次乾燥、および二次乾燥は、最終生成物の性質を決定する。
【0003】
しかし、一次乾燥は、一般に、凍結乾燥プロセスで最も長いステップである。したがって、プロセスのこの部分を最適化することは、著しい経済効果をもたらす(Pikalら、「Freeze−drying of proteins.Part 2:formulation selection」、BioPharm3:26〜30(1990);Pikalら、「The collapse temperature in freeze−drying:dependence of measurement methodology and rate of water removal from the glassy phase」、International Journal of Pharmaceutics、62(1990)、165〜186)。長年、サイクルおよび製剤化の最適化は、一次乾燥中の生成物温度が崩壊温度を確実に超えないように実施された。崩壊温度は、その温度を超えると生成物ケークがもとの構造を失い始めるフリーズドライ中の生成物温度である。生成物は、崩壊温度を超えると、生成物の外観に影響を及ぼす恐れのあるゆっくりとした散発的な発泡、膨潤、起泡、空洞化、開口(fenestration)、総崩壊、収縮、および数珠状化(beading)を受ける可能性があることが文献に報告された(MacKenzie、「Collapse during freeze−drying−Qualitative and quantitative aspects」In Freeze−Drying and Advanced Food Technology;S.A.Goldblith、L.Rey、W.W.Rothmayr編、Academic Press、New York、1974、277〜307)。その結果、崩壊は、不十分な生成物安定性、長い乾燥時間(孔の崩壊のため)、不均一な乾燥、およびテキスチャの損失をもたらすと考えられている(R.Bellowsら、「Freeze−drying of aqueous solutions: maximum allowable operating temperature」Cryobiology、9、559〜561(1972))。タンパク質では、フリーズドライ中の崩壊は、水分の上昇、分解速度および復元時間の増大をまねくことが報告されている(J.F.Carpenterら、「Rational design of stable lyophilized protein formulations:some practical advice」、Pharmaceutical Research(1997)、14(8):969〜975;Adamsら、「Optimizing the lyophilization cycle and the consequences of collapse on the pharmaceutical acceptability of Erwinia L−Asparaginase」、J.of Pharmaceutical Sciences、Vol.8606、No.12、12月(1996);S.Passotら、「Effect of product temperature during primary drying on the long−term stability of lyophilized proteins」、Pharm.Dev.and Tech.、12:543〜553、2007)。したがって、長年、崩壊温度より低温でフリーズドライすることが重要であると考えられてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生成物安定性、生体活性、および他の重要な生成物特性を依然として保持しながら、崩壊温度より高温でフリーズドライを行うことができるという発見を包含する。したがって、本発明は、とりわけ、一次乾燥ステップが著しく短縮した、改良された凍結乾燥方法を提供する。
【0006】
一態様では、本発明は、崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において実行される一次乾燥ステップを包含する液体製剤を凍結乾燥する方法を提供する。いくつかの実施形態では、進歩性のある方法は、凍結乾燥生成物における崩壊(例えば、微量崩壊、視覚的に検出可能または大量な崩壊)を回避することなく実行される一次乾燥ステップを包含する。いくつかの実施形態では、液体製剤は、医薬物質(例えば、タンパク質)を少なくとも約1mg/ml(例えば、少なくとも約10mg/ml、少なくとも約50mg/ml、少なくとも約100mg/ml、少なくとも約150mg/ml、少なくとも約200mg/ml、少なくとも約250mg/ml、少なくとも約300mg/ml、または少なくとも約400mg/ml)の濃度で含有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、液体製剤は、ショ糖ベースの製剤である。
【0008】
いくつかの実施形態では、液体製剤は、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも1℃高くなるように製剤化する。いくつかの実施形態では、液体製剤は、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも2℃高くなるように製剤化する。いくつかの実施形態では、液体製剤は、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも5℃高くなるように製剤化する。いくつかの実施形態では、液体製剤は、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも10℃高くなるように製剤化する。
【0009】
いくつかの実施形態では、一次乾燥は、崩壊温度、または崩壊温度より高いが共晶融点より低い温度において実行する(例えば、崩壊温度を少なくとも1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃超)。
【0010】
別の態様では、本発明は、崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度での一次乾燥ステップを包含する液体製剤を凍結乾燥する方法を提供し、この液体製剤は、医薬物質(例えば、タンパク質)および安定化剤を包含するものである。いくつかの実施形態では、安定化剤と医薬物質の質量比は、1000以下(例えば、500以下、100以下、50以下、10以下、1以下、0.5以下、0.1以下)である。
【0011】
いくつかの実施形態では、医薬物質は、濃度が少なくとも約1mg/ml(例えば、少なくとも約10mg/ml、少なくとも約50mg/ml、少なくとも約100mg/ml、少なくとも約150mg/ml、少なくとも約200mg/ml、少なくとも約250mg/ml、少なくとも約300mg/ml、または少なくとも約400mg/ml)である。
【0012】
いくつかの実施形態では、安定化剤は、ショ糖、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、トレハロース、グリシン、マンニトール、塩化ナトリウム、アルギニン、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、およびポリビニルピロリドン、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0013】
別の態様では、本発明は、(a)崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において実行される一次乾燥ステップを含む液体製剤の医薬物質を凍結乾燥するステップ、(b)凍結乾燥された医薬物質を3カ月超(例えば、8カ月超、12カ月超、18カ月超、24カ月超)の期間保存するステップを包含する、医薬物質(例えば、タンパク質)を保存する方法を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、医薬物質は、濃度が少なくとも約1mg/ml(例えば、少なくとも約10mg/ml、少なくとも約50mg/ml、少なくとも約100mg/ml、少なくとも約150mg/ml、少なくとも約200mg/ml、少なくとも約250mg/ml、少なくとも約300mg/ml、または少なくとも約400mg/ml)である。
【0015】
いくつかの実施形態では、液体製剤はさらに、安定化剤を含有する。いくつかの実施形態では、安定化剤は、ショ糖、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、トレハロース、グリシン、マンニトール、塩化ナトリウム、アルギニン、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、およびポリビニルピロリドン、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明による凍結乾燥生成物は、非晶質材料(例えば、完全に非晶質な材料)を含有することができる。いくつかの実施形態では、本発明による凍結乾燥生成物は、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含有することができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、本発明は、崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において液体製剤の医薬物質(例えば、タンパク質)を凍結乾燥することによって、その凍結乾燥された医薬物質(例えば、タンパク質)の安定性または凍結乾燥サイクルの効率を向上させる方法を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明は、(a)凍結乾燥生成物のバッチからの1種または複数の試料を評価するステップであって、少なくとも1種の試料がケーク崩壊(例えば、微量崩壊、視覚的に検出可能または大量な崩壊)を特徴とするステップと、(b)ステップ(a)からの評価結果に基づいて凍結乾燥生成物のバッチをリリースするステップとを包含する、凍結乾燥生成物のバッチを評価する方法を提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)は、1種または複数の試料の残留水分を測定するステップを包含する。いくつかの実施形態では、ステップ(a)は、1種または複数の試料の安定性プロフィルを決定するステップを包含する。いくつかの実施形態では、安定性プロフィルを決定するステップは、分解速度を決定することを包含する。いくつかの実施形態では、分解速度は、SE−HPLC、RP−HPLC、CEX−HPLC、MALS、蛍光法、紫外線吸収法、比濁分析、CE、およびそれらの組合せからなる群から選択される方法によって決定する。いくつかの実施形態では、ステップ(a)は、凍結乾燥生成物の活性を決定するステップを包含する。いくつかの実施形態では、活性は、様々な活性アッセイ(例えば、細胞ベース、ELISA、酵素アッセイ)によって決定することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、凍結乾燥生成物は、多糖を含有し、ステップ(a)は、多糖のキャリアタンパク質への結合(conjugation)効率を測定するステップを包含する。
【0021】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)は、復元時間を決定するステップを包含する。
【0022】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)は、1種または複数の試料のケーク外観を評価するステップを包含しない。
【0023】
いくつかの実施形態では、本発明は、(a)ケーク崩壊(例えば、微量崩壊、視覚的に検出可能または大量な崩壊)を特徴とする凍結乾燥された医薬物質(例えば、タンパク質)を提供するステップ、(b)凍結乾燥された医薬物質を復元するステップであって、復元された医薬物質が生物学的または薬剤学的に活性があるステップを包含する、医薬物質(例えば、タンパク質)を製造する方法を提供する。
【0024】
本発明による進歩性のある方法は、タンパク質、核酸(例えば、RNA、DNA、またはRNA/DNAハイブリッド、アプタマー)、化学化合物、多糖、小分子、薬剤物質、天然物、免疫原、ワクチン、炭水化物、およびそれらの組合せを包含するがそれらだけに限らない医薬物質を凍結乾燥、保存、評価、かつ/または製造するのに利用することができる。本明細書では、用語「タンパク質」は、ポリペプチド(すなわち、ペプチド結合によって互いに結合する少なくとも2つのアミノ酸の鎖)またはポリペプチドの組合せを指す。タンパク質は、アミノ酸以外の部分(例えば、糖タンパク質、プロテオグリカンなど)を包含することができ、かつ/またはその他の方法で処理もしくは変性されていてもよい。「タンパク質」が、細胞によって産生されるような完全なポリペプチド鎖(シグナル配列の有無に関わらない)、合成ポリペプチドである可能性があり、またはそれらの特性部分である可能性があることを当業者なら理解するであろう。タンパク質が、時には、例えば、1個もしくは複数のジスルフィド結合によって結合される、または他の手段によって連結される複数のポリペプチド鎖を包含することができることを当業者なら理解するであろう。ポリペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、または両方を含有することができ、当技術分野で周知の様々なアミノ酸変性体または類似体のいずれも含有することができる。有用な変性法としては、例えば、末端アセチル化、アミド化、グリコシル化などが挙げられる。いくつかの実施形態では、タンパク質は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、合成アミノ酸、およびそれらの組合せを含むことができる。典型的なタンパク質としては、抗体(例えば、モノクローナル抗体)またはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、多糖含有抗原、医薬剤物質、ワクチン(例えば、不活化ウイルスワクチン、弱毒化ウイルスワクチン、トキソイドワクチン、サブユニットワクチン、多価ワクチン、結合型ワクチン、生ウイルスワクチン、およびそれらの個々の成分など)、酵素、Small Modular ImmunoPharmaceuticals(SMIP(商標))が挙げられるが、それらだけに限らない。本明細書では、抗体または抗体フラグメントとしては、完全IgG、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、ScFv、単一ドメイン抗体(例えば、サメの単一ドメイン抗体(例えば、IgNARまたはそのフラグメント))、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体が挙げられるが、それらだけに限らない。
【0025】
本発明はさらに、本発明による進歩性のある方法を使用して凍結乾燥、保存、かつ/または製造されたタンパク質、核酸(例えば、RNA、DNA、またはRNA/DNAハイブリッド、アプタマー)、化学化合物、小分子、薬剤物質、天然物、多糖、天然物、免疫原、ワクチン、炭水化物、および/または他の生成物を提供する。
【0026】
本出願で使用する用語「約(about)」および「約(approximately)」は、同等のものとして使用する。本出願で使用する約(about/approximately)を伴うまたは伴わない任意の数字は、当業者によって理解される任意の通常の変動を包含することを意味する。例えば、当該の値の正常な変動としては、別段の指示がない、または文脈から明白でない限り、規定の基準値のいずれの方向(超または未満)にしても、25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、それ未満内にある一連の値を挙げることができる(このような数があり得る値の100%を超える場合を除く)。
【0027】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかし、この詳細な説明は、本発明の実施形態を示しているが、限定ではなく例示としてのみ提供するものであることを理解されたい。本発明の範囲内の様々な変更および改変は、詳細な説明から当業者には明らかになるであろう。
【0028】
図は、限定のためではなく、例示の目的だけのものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーク崩壊を回避することなく、崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において実行される一次乾燥ステップを含む、液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法。
【請求項2】
前記医薬物質が、タンパク質、ペプチド、多糖、小分子、天然物、核酸、免疫原、ワクチン、ポリマー、化学化合物、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬物質が、タンパク質である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、抗体もしくはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、酵素、キャリアタンパク質もしくはSmall Modular ImmunoPharmaceutical(SMIP(商標))、またはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記医薬物質が、少なくとも約1mg/mlの濃度である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記医薬物質が、少なくとも50mg/mlの濃度である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記医薬物質が、少なくとも100mg/mlの濃度である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記凍結乾燥生成物が、非晶質材料を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記凍結乾燥生成物が、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記液体製剤が、ショ糖ベースの製剤である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記液体製剤が、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも1℃高くなるように製剤化される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記液体製剤が、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも2℃高くなるように製剤化される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記液体製剤が、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも5℃高くなるように製剤化される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記液体製剤が、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも10℃高くなるように製剤化される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記一次乾燥が、崩壊温度、または崩壊温度より高いが共晶融点より低い温度において実行される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度での一次乾燥ステップを含む液体製剤を凍結乾燥する方法であって、前記液体製剤が医薬物質および安定化剤を含み、前記安定化剤と医薬物質の質量比が1000以下である方法。
【請求項17】
前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、500以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、100以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、50以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、10以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、1以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、0.5以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、0.1以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記医薬物質が、少なくとも約1mg/mlの濃度である、請求項16から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記医薬物質が、少なくとも10mg/mlの濃度である、請求項16から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記医薬物質が、少なくとも50mg/mlの濃度である、請求項16から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記安定化剤が、ショ糖、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、塩化ナトリウム、アルギニン、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、グリシン、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項16から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記凍結乾燥生成物が、非晶質材料を含む、請求項16から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記凍結乾燥生成物が、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含む、請求項16から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記医薬物質が、タンパク質、ペプチド、多糖、小分子、天然物、核酸、免疫原、ワクチン、ポリマー、化学化合物、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項16から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記医薬物質が、タンパク質である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記タンパク質が、抗体またはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、酵素、キャリアタンパク質、多糖含有抗原、Small Modular ImmunoPharmaceutical(SMIP(商標))、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記抗体が、モノクローナル抗体または単一ドメイン抗体である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項1から33のいずれか一項に記載の方法を使用して製造される凍結乾燥医薬物質。
【請求項35】
医薬物質を保存する方法であって、
(a)崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において実行される一次乾燥ステップを含む、液体製剤の医薬物質を凍結乾燥するステップ、
(b)前記凍結乾燥医薬物質を3カ月超の期間保存するステップ
を含む方法。
【請求項36】
前記期間が、8カ月超である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記期間が、12カ月超である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記期間が、18カ月超である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記期間が、24カ月超である、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記医薬物質が、少なくとも約1mg/mlの濃度である、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記医薬物質が、少なくとも10mg/mlの濃度である、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記医薬物質が、少なくとも50mg/mlの濃度である、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記液体製剤がさらに、安定化剤を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記安定化剤が、ショ糖、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、塩化ナトリウム、アルギニン、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、グリシン、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記凍結乾燥生成物が、非晶質材料を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項46】
前記凍結乾燥生成物が、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において液体製剤の医薬物質を凍結乾燥するステップを含む、凍結乾燥医薬物質の安定性または凍結乾燥サイクルの効率を向上させる方法。
【請求項48】
前記凍結乾燥生成物が、非晶質材料を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記凍結乾燥生成物が、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
凍結乾燥生成物のバッチを評価する方法であって、
(a)前記凍結乾燥生成物のバッチからの1種または複数の試料を評価するステップであって、少なくとも1種の試料がケーク崩壊を特徴とするステップと、
(b)ステップ(a)からの評価結果に基づいて前記凍結乾燥生成物のバッチをリリースするステップとを含む方法。
【請求項51】
ステップ(a)が、前記1種または複数の試料の残留水分を測定するステップを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
ステップ(a)が、前記1種または複数の試料の安定性プロフィルを決定するステップを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記安定性プロフィルを決定するステップが、分解速度を決定することを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記分解速度が、SE−HPLC、RP−HPLC、CEX−HPLC、MALS、蛍光、紫外線吸収、比濁分析、CE、およびそれらの組合せからなる群から選択される方法によって決定される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
ステップ(a)が、前記凍結乾燥生成物の活性を決定するステップを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項56】
前記活性が、細胞ベースアッセイ、ELISA、および/または酵素アッセイによって決定される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
ステップ(a)が、前記復元時間を決定するステップを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項58】
ステップ(a)が、前記1種または複数の試料のケーク外観を評価するステップを含まない、請求項50から57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記凍結乾燥生成物が、凍結乾燥タンパク質を含む、請求項50から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記タンパク質が、抗体またはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、医薬剤物質、ワクチン、酵素、キャリアタンパク質、多糖含有抗原、および/またはSmall Modular ImmunoPharmaceutical(SMIP(商標))である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記抗体が、モノクローナル抗体または単一ドメイン抗体である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記凍結乾燥生成物が、凍結乾燥多糖を含む、請求項50から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
ステップ(a)が、前記多糖のキャリアタンパク質への結合効率を測定することを含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記凍結乾燥生成物が、生ウイルスワクチンを含む、請求項50から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
医薬物質を製造する方法であって、
(a)ケーク崩壊を特徴とする凍結乾燥医薬物質生成物を提供するステップ、
(b)前記凍結乾燥医薬物質を復元するステップであって、前記復元医薬物質が生物学的または薬剤学的に活性があるステップを含む方法。
【請求項66】
前記医薬物質が、タンパク質、ペプチド、多糖、小分子、天然物、核酸、免疫原、ワクチン、ポリマー、化学化合物、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記医薬物質が、タンパク質である、請求項65または66に記載の方法。
【請求項68】
前記タンパク質が、抗体またはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、酵素、多糖含有抗原、キャリアタンパク質、Small Modular ImmunoPharmaceutical(SMIP(商標))、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記抗体が、モノクローナル抗体または単一ドメイン抗体である、請求項68に記載の方法。

【図1】崩壊温度より高温での50mg/mlの分子Gの典型的なフリーズドライサイクルのグラフを示す図である:積極的サイクル。製剤はまた、5%のショ糖、10mMのヒスチジン、10mMのメチオニン、および0.01%のポリソルベート80も含有する。
【図2】フリーズドライ後の分子Gの典型的なケーク外観を示す図である。左のバイアルは、崩壊温度より高温での乾燥を示す図であり(図1)、右のバイアルは、Tg’よりかなり低温でフリーズドライしたものである。
【図3】分子Gの典型的な制御サイクルを示す図である。
【図4】崩壊温度より高いが共晶温度より低い温度での分子Gの典型的なフリーズドライサイクルのグラフを示す図である:超積極的サイクル。
【図5】図4からの超積極的サイクルを使用して凍結乾燥された分子Gの典型的なケーク外観を示す図である。右のバイアルは、超積極的サイクルからの試料を示す図であり、左のバイアルは、制御サイクルからの試料である。
【図6】TMS緩衝液(10mMのトリス、4%のマンニトール、1%のショ糖)中での10mg/mlのタンパク質Jの典型的なフリーズドライ顕微鏡像を示す図である。
【図7】−18℃の崩壊温度の開始より低温で実施したTMS緩衝液中の10mg/mlのタンパク質Jに関する典型的な凍結乾燥サイクルを示す図である:作業サイクル1。
【図8】作業サイクル1後のTMS中の10mg/mlのタンパク質Jの典型的なケーク外観を示す図である。残留水分は、0.1%である。
【図9】TMS中の10mg/mlのタンパク質Jを示す図である。崩壊温度よりかなり高いがマンニトールの融点より低い温度でフリーズドライした。
【図10】非晶相の崩壊温度よりかなり高温で凍結乾燥したTMS中の10mg/mlのタンパク質Jの典型的なケーク外観を示す図である。残留水分は、0.14%である。
【図11】昇華面の崩壊の始まりを示す−34℃(上図)での等温保持中の間隙領域の典型的な形成を示す図である。凍結乾燥時の構造の全壊は、−33℃における30分間の等温保持中に起こった(下図)。
【図12】50ml容のSchott管状バイアルにおけるSerotypeX製剤の典型的なフリーズドライを示す図である。ケークの高さは、約0.5cmであった。凍結乾燥サイクルは、Benchmark1000凍結乾燥機(SP Industries)で実施した。
【図13】崩壊温度より低温で凍結乾燥したSerotypeXの典型的なケーク外観を示す図である。
【図14】崩壊温度よりわずかに高温の生成物温度を維持したSerotypeX多糖を凍結乾燥するのに使用した典型的なフリーズドライサイクルを示す図である(崩壊試験1)。
【図15】崩壊温度よりわずかに高温(崩壊試験1、左のバイアル)および崩壊温度よりかなり高温(崩壊試験2、右のバイアル)でフリーズドライしたSerotypeX多糖の典型的なケーク外観を示す図である。
【図16】崩壊温度より高温でSerotypeX多糖を凍結乾燥するのに使用した典型的なフリーズドライサイクルを示す図である(崩壊試験2)。
【図17】崩壊温度より低温で鶏ワクチンを凍結乾燥するのに使用した典型的なフリーズドライサイクルを示す図である。
【図18】凍結乾燥した鶏ワクチンの典型的なケーク外観を示す図である。左のバイアルは、崩壊温度より低温でフリーズドライしたケークが入っている。右のバイアルは、崩壊温度より高温でフリーズドライしたケークが入っている(ケークの底に構造の損失を見ることができた)。
【図19】崩壊温度より高温で鶏ワクチンを凍結乾燥するのに使用した典型的なフリーズドライサイクルを示す図である。
【図20】37℃で保存中の鶏ワクチンの典型的な安定性解析結果を示す図である。黒四角は、崩壊温度より高温でフリーズドライした材料を表し、白三角は、崩壊温度より低温でフリーズドライした材料を表す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、高効率で経済性に優れた凍結乾燥方法を提供する。とりわけ、本発明は、崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度での一次乾燥ステップを包含する液体製剤を凍結乾燥する方法を提供する。本発明による進歩性のある方法は、タンパク質または他の医薬物質を高濃度含有する液体製剤をフリーズドライするのに特に有用である。いくつかの実施形態では、本発明による進歩性のある方法は、凍結乾燥生成物の安定性を向上させるものである。
【0031】
医薬剤生成物の化学的および物理的な分解速度は乾燥状態で著しく低減される可能性があるので、より長い生成物貯蔵寿命を考慮して、医薬剤生成物の保存に、フリーズドライとしても知られる凍結乾燥がしばしば使用される。しかし、凍結乾燥は、一般に、薬剤の製造費用を著しく増大させる。生成物の品質または安定性を脅かすことなく、消費時間が最短のサイクルを開発することによって、この費用を最小限にすることができる。例えば、凍結乾燥中に生成物温度を1℃上昇させると、一次乾燥時間を13%短縮させることができるであろう。Pikalら、「The collapse temperature in freeze−drying:dependence of measurement methodology and rate of water removal from the glassy phase」、International Journal of Pharmaceutics、62(1990)、165〜186を参照されたい。
【0032】
凍結乾燥は、凍結、一次乾燥、および二次乾燥などのいくつかのステップを包含する。X.Tangら、(2004)「Design of freeze−drying processes for pharmaceuticals:Practical advice」、Pharm.Res.、21:191〜200;S.L.Nailら、「Fundamentals of freeze−drying」、In:Development and manufacture of protein pharmaceuticals、S.L.Nail編、New York:Kluwer Academic/Plenum Publishers、281〜353;Wangら、「Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals」、Int.J.Pharm.、203:1〜60;N.A.Williamsら、「The lyophilization of pharmaceuticals;A literature review」、J.Parenteral Sci.Technol.、38:48〜59を参照されたい。一次乾燥ステップは、凍結水または非結合水の昇華を伴い、凍結乾燥サイクルの最も時間がかかるステップである。従来より、凍結溶液中に存在する固形材料の顕微鏡的構造を無傷に保つためには、一次乾燥中の生成物温度をその崩壊温度より低く維持することが重要であると考えられてきた。この構造によって、フリーズドライケークが比較的高表面積となることから、フリーズドライ後に、残留水分が低く、復元が迅速になると考えられてきた。
【0033】
実施例の項で論じるように、本発明者らは、タンパク質安定性および他の望ましい品質特性(例えば、残留水分、復元時間など)を維持しながら、崩壊温度より高温の生成物温度において実行することができる凍結乾燥、具体的には、一次乾燥を発見した。通常廃棄されるであろう明らかに崩壊(例えば、バイアルにおいて視覚的に検出可能な崩壊)した試料でさえ、崩壊温度より低温で凍結乾燥した試料と同様の安定性プロフィルを示した。さらに、場合によっては、崩壊温度より高温でフリーズドライすることによって、凍結乾燥生成物の安定性が向上した。例えば、実施例2に記載する非限定的な例のように、崩壊温度よりかなり高いがマンニトールの融点よりわずかに低い温度で凍結乾燥した部分的結晶質/部分的非晶質な材料は、崩壊温度より低温で凍結乾燥した試料より良好な安定性を示した。したがって、従来の凍結乾燥サイクルに比べて、本発明は、積極的および/または高速な凍結乾燥サイクルを提供することによって、一次乾燥時間をより短縮し、タンパク質の品質および安定性を脅かすことなく、著しい経済的利点を提供する。場合によっては、本発明は、向上した生成物安定性を提供する。
【0034】
本発明の別の利点は、商業的製造中の偏差の評価への適用である。既存の商業的サイクル(通常、崩壊温度より低温で実施)中のプロセスパラメータの偏差が視覚的に検出可能な生成物崩壊をもたらすとき、本発明者らは、残留水分が仕様(specification)内にある場合、崩壊した生成物の安定性プロフィルが通常サイクルと同程度である可能性があることを企図している。したがって、視覚的に検出可能なケーク崩壊を含む試料を含有するこの特定のバッチをリリースすることができるであろう。したがって、特定の生成物が崩壊に耐えられた場合、廃棄率がゼロまたは実質上低減された商業的バッチの製造が可能である。発展ロバスト性研究を商業的製造前に実施して、特定の各生成物に関して、崩壊した材料の安定性が制御材料の安定性と同程度かどうか確認することができる。
【0035】
本明細書では、用語「崩壊温度(Tc)」は、崩壊が起こる温度またはそれより高温でのフリーズドライ中の温度(例えば、生成物温度)を指す。本明細書では、用語「崩壊」は、凍結乾燥ケークの無傷な構造の損失またはもとの構造の変化を指す。いくつかの実施形態では、崩壊は、顕微鏡的構造の損失(また、微量崩壊と称す)を包含する。いくつかの実施形態では、微量崩壊は、視覚的に検出不可能である。いくつかの実施形態では、微量崩壊は、もとの無傷な構造(例えば、凍結乾燥ケークの構造)の約1%未満(例えば、約0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、または0.01%未満)の損失を指す。いくつかの実施形態では、微量崩壊が起こる温度またはそれより高温を、微量崩壊温度と称す。いくつかの実施形態では、崩壊は、総構造の損失(また、総崩壊または大量崩壊と称す)を包含する。いくつかの実施形態では、総崩壊が起こる温度またはそれより高温を、総崩壊温度(または大量崩壊温度)と称す。一般に、総崩壊または大量崩壊は、凍結乾燥生成物中に視覚的に検出可能な崩壊をもたらす。本明細書では、用語「総崩壊」、「大量崩壊」、および「視覚的に検出可能な崩壊」は、互換的に使用される。いくつかの実施形態では、総崩壊、大量崩壊、または視覚的に検出可能な崩壊は、もとの無傷な構造(例えば、凍結乾燥ケークの構造)の少なくとも0.1%(例えば、少なくとも約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%)の損失を指す。
【0036】
いくつかの実施形態では、崩壊が起こる温度は、不連続ではない可能性がある。代わりに、崩壊は、ある温度領域にわたって起こる漸進的なプロセスである可能性があり、無傷のケーク構造はこの温度領域にわたって次第に消失する。一般に、凍結乾燥プロセス中の無傷な構造の最初の変化または損失は、崩壊の開始と考えられる。この最初の変化が観察された温度を、一般に、開始崩壊温度と称す。構造損失または構造変化がケーク全体に完了したように見える温度を、崩壊完了温度と称す。
【0037】
凍結乾燥中の生成物における崩壊は、生成物温度測定装置、フリーズドライ顕微鏡、または電気抵抗を検出する機器を包含するがそれらだけに限らない様々な機器によって検出することができる。凍結乾燥生成物(例えば、ケーク)における崩壊は、目視検査、残留水分、示差走査熱量測定法(DSC)、BET表面積法によって手動で検出することができる。
【0038】
崩壊現象は、関与する材料の性質に敏感である。例えば、ショ糖優位の製剤は、特に、それが塩および緩衝液などの小分子種も含有する場合、崩壊に対して非常に敏感である(Shalaevら、「Thermophysical properties of pharmaceutically compatible buffers at sub−zero temperatures:implications for freeze−drying」、Pharmaceutical Research(2002)、19(2):195〜201)。これらの製剤では、崩壊は、通常、ガラス転移の中間点に近い温度で起こる。非晶質ショ糖−塩−緩衝液系の粘度は非常に低いことから、生成物温度が一次乾燥中にこれの臨界温度を超えたとき、構造が大規模に崩壊する。したがって、従来より、凍結乾燥は、可能な限りTg’より低温で実行される。
【0039】
生成物濃度が増大すると、ケークの崩壊に対する構造耐性が変更される。
【0040】
本発明は、様々な生成物濃度を含有する液体製剤を凍結乾燥するのに利用することができる。いくつかの実施形態では、本発明は、医薬物質を高濃度で含有する液体製剤を凍結乾燥するのに特に有用である。例えば、本発明に適した液体製剤は、当該の生成物(例えば、タンパク質)を少なくとも約1mg/ml、少なくとも約10mg/ml、少なくとも約20mg/ml、少なくとも約30mg/ml、少なくとも約40mg/ml、少なくとも約50mg/ml、少なくとも約75mg/ml、少なくとも約100mg/ml、少なくとも約150mg/ml、少なくとも約200mg/ml、少なくとも約250mg/ml、少なくとも約300mg/ml、少なくとも約400mg/mlの濃度で含有することができる。いくつかの実施形態では、本発明に適した液体製剤は、当該の生成物(例えば、タンパク質)を、約1mg/ml〜400mg/ml(例えば、約1mg/ml〜50mg/ml、1mg/ml〜60mg/ml、1mg/ml〜70mg/ml、1mg/ml〜80mg/ml、1mg/ml〜90mg/ml、1mg/ml〜100mg/ml、100mg/ml〜150mg/ml、100mg/ml〜200mg/ml、100mg/ml〜250mg/ml、または100mg/ml〜300mg/ml、または100mg/ml〜400mg/ml)の範囲の濃度で含有することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、適切な製剤は、1種または複数の安定化剤(例えば、ショ糖、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、トレハロース、グリシン、マンニトール、塩化ナトリウム、アルギニン、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、またはポリビニルピロリドン)を含有する。いくつかの実施形態では、安定化剤と医薬物質(例えば、タンパク質)の質量比は、1000以下(例えば、500以下、250以下、100以下、50以下、10以下、1以下、0.5以下、0.1以下)である。いくつかの実施形態では、適切な液体製剤はさらに、塩化ナトリウム、ラクトース、マンニトール、グリシン、ショ糖、トレハロース、およびヒドロキシエチルデンプンなどの1種または複数の増量剤を包含する。いくつかの実施形態では、適切な液体製剤は、トリス、ヒスチジン、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩、およびコハク酸塩などの緩衝剤を含有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、本発明に適した液体製剤は、非晶質材料を含有する。いくつかの実施形態では、本発明に適した液体製剤は、かなりの量の非晶質材料(例えば、ショ糖ベースの製剤)を含有する。いくつかの実施形態では、本発明に適した液体製剤は、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含有する。
【0043】
従来の方法とは違って、本発明は、Tg’よりかなり高いフリーズドライ温度を可能にする。例えば、タンパク質濃度が50mg/ml超の製剤では、本発明者らは、フリーズドライ顕微鏡によって測定した凍結乾燥中の崩壊が、ガラス転移温度の中間点(Tg’)より約5〜7℃高いことを観察した。したがって、本発明は、中間点のTg’より少なくとも1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、または10℃高温でのフリーズドライを可能にする。
【0044】
本発明による凍結乾燥生成物は、生成物の品質分析、復元時間、復元の質、高分子量、水分、ガラス転移温度、および生物学的または生物化学的活性に基づいて評価することができる。一般に、生成物の品質分析としては、サイズ排除HPLC(SE−HPLC)、カチオン交換−HPLC(CEX−HPLC)、X線回折(XRD)、変調示差走査熱量測定法(mDSC)、逆相HPLC(RP−HPLC)、多角光散乱検出器(MALS)、蛍光、紫外線吸収、比濁分析、キャピラリー電気泳動法(CE)、SDS−PAGE、およびそれらの組合せを包含するがそれらだけに限らない方法を使用する生成物分解速度分析が挙げられる。いくつかの実施形態では、本発明による凍結乾燥生成物の評価は、ケーク外観を評価するステップを包含しない。さらに、凍結乾燥生成物は、一般に復元後に、生成物の生物学的または生物化学的活性に基づいて評価することができる。
【0045】
本発明による進歩性のある方法は、任意の材料、具体的には、医薬物質を凍結乾燥するのに利用することができる。本明細書では、用語「医薬物質」は、in vivoまたはin vitroで生物学的または化学的な事象を変更、阻害、活性化、またはその他の方法で影響を及ぼす任意の化合物または実体を指す。例えば、医薬物質としては、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、RNA、DNAまたはRNA/DNAハイブリッド、アプタマー)、化学化合物、多糖、小分子、薬剤物質、天然物、免疫原、ワクチン、炭水化物、および/または他の生成物が挙げられるが、それらだけに限らない。いくつかの実施形態では、本発明は、抗体(例えば、モノクローナル抗体)またはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、多糖抗原、医薬剤物質、ワクチン、酵素、Small Modular ImmunoPharmaceuticals(商標)(SMIP(商標))を包含するがそれらだけに限らないタンパク質を凍結乾燥するのに利用する。いくつかの実施形態では、本発明は、完全IgG、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、ScFv、単一ドメイン抗体(例えば、サメの単一ドメイン抗体(例えば、IgNARまたはそのフラグメント))、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体を包含するがそれらだけに限らない抗体または抗体フラグメントを凍結乾燥するのに利用する。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明は、ワクチンまたはワクチン成分を凍結乾燥するのに使用する。適切なワクチンとしては、不活化ウイルスワクチン、弱毒化ウイルスワクチン、トキソイドワクチン、サブユニットワクチン、多価ワクチン、結合型ワクチン、生ウイルスワクチンが挙げられるが、それらだけに限らない。適切なワクチン成分としては、多糖およびキャリアタンパク質が挙げられるが、それらだけに限らない。本明細書で使用する「多糖」としては、限定はしないが、繰返し単位が50以上の多糖および繰返し単位が50以下の少糖を包含するがそれらだけに限らない複数の繰返し単位を含む糖が挙げられる。一般に、多糖は、約50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95個の繰返し単位〜約2,000個以上の繰返し単位、好ましくは、約100、150、200、250、300、350、400、500、600、700、800、900または1000個の繰返し単位〜約100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、または1900個の繰返し単位を有する。少糖は、一般に、約6、7、8、9、または10個の繰返し単位〜約15、20、25、30、35、40、または45個の繰返し単位を有する。適切なキャリアタンパク質としては、一般に、対象への投与のために化学的または遺伝学的な手段によって安全化された免疫学的に有効なキャリアである細菌毒素が挙げられる。例としては、ジフテリアトキソイド、CRM197、破傷風トキソイド、百日咳トキソイド、大腸菌LT、大腸菌ST、および緑膿菌からのエキソトキシンAなどの不活性化された細菌毒素が挙げられる。外膜コンプレックスc(OMPC)、ポーリン、トランスフェリン結合タンパク質、ニューモリシス(pneumolysis)、肺炎球菌表面タンパク質A(PspA)、肺炎球菌付着タンパク質(PsaA)、または肺炎球菌表面タンパク質BVH−3およびBVH−11などの細菌外膜タンパク質も使用することができる。炭疽菌の防御抗原(PA)ならびに炭疽菌の解毒された浮腫因子(EF)および致死因子(LF)、卵白アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン(BSA)、ならびに精製ツベルクリンタンパク質誘導体(PPD)などの他のキャリアタンパク質も使用することができる。
【0047】
凍結乾燥されたワクチン成分の品質は、結合型ワクチンを形成するそれらの能力によって評価し、決定することができる。例えば、凍結乾燥された多糖の品質は、キャリアタンパク質に連結または結合するそれらの能力によって決定することができる。同様に、凍結乾燥されたキャリアタンパク質の品質は、多糖に連結または結合するそれらの能力によって決定することができる。多糖をキャリアタンパク質に結合させるための様々な方法が当技術分野で知られており、結合効率は、遊離タンパク質のパーセンテージ、遊離多糖のパーセンテージ、分子サイズの分布、糖とタンパク質の比(「SPR」)、および収率を包含するがそれらだけに限らない様々な解析方法によって決定することができる。結合効率を決定する典型的な方法は、実施例に記載する。
【0048】
別の医薬物質としては、抗AIDS物質、抗癌物質、抗生剤、免疫抑制剤、抗ウイルス物質、酵素阻害剤、神経毒、オピオイド、催眠剤、抗ヒスタミン剤、滑沢剤、精神安定剤、抗けいれん剤、筋弛緩剤および抗パーキンソン病物質、鎮痙剤、およびチャネル遮断剤を含有する筋収縮剤、縮瞳剤および抗コリン作動剤、抗緑内障化合物、抗寄生虫および/または抗原虫化合物、細胞増殖阻害剤および抗癒着分子を包含する細胞−細胞外マトリックス相互作用のモジュレーター、血管拡張剤、DNA、RNA、またはタンパク質合成の阻害剤、降圧剤、鎮痛剤、解熱剤、ステロイド系および非ステロイド系抗炎症剤、抗血管新生因子、抗分泌因子、抗凝血剤および/または抗血栓剤、局所麻酔剤、眼病剤、プロスタグランジン、抗うつ剤、抗精神病物質、制吐剤、ならびに造影剤を挙げることができるが、それらだけに限らない。
【0049】
本発明での使用に適した医薬物質および特定の薬剤のより完全な列挙は、Axel KleemannおよびJurgen Engelによる「Pharmaceutical Substances:Syntheses,Patents,Applications」、Thieme Medical Publishing(1999);「Merck Index:An Encyclopedia of Chemicals,Drugs,and Biologicals」、Susan Budavariら編、CRC Press、1996、ならびにUnited States Pharmacopeia−25/National Formulary−20、United States Pharmcopeial Convention,Inc.、Rockville Md.出版、(2001)に見ることができ、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0050】
凍結乾燥は、チューブ、バッグ、ボトル、トレー、バイアル(例えば、ガラス製バイアル)、シリンジ、または他の任意の適切な容器などの容器中で実施することができる。容器は、使い捨てでもよい。制御された凍結および/または解凍はまた、大規模でも小規模でも実施することができる。
【0051】
本発明による進歩性のある方法は、商用規模凍結乾燥機、パイロット規模凍結乾燥機、または実験室規模凍結乾燥機などの様々な凍結乾燥機を使用して実行することができる。
【0052】
上記の実施形態および以下の実施例は、限定ではなく例示として提供するものであることを理解されたい。本発明による凍結乾燥方法は、一般に任意の分子(例えば、タンパク質)に適用することができる。例えば、以下の実施例で使用する分子A〜Jは、任意のタンパク質、抗体、核酸、化学化合物、ワクチン、酵素、多糖、天然物、小分子、または他の任意のタイプの分子とすることができる。本発明の範囲内の様々な変更および改変は、本発明の説明から当業者には明らかになるであろう。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
完全に非晶質な材料に関する崩壊温度または崩壊温度より高温でのフリーズドライ)
この実施例では、分子Gを、一次乾燥ステップ中に崩壊温度でフリーズドライした。製剤は、50mg/mlの分子G、5%のショ糖、10mMのヒスチジン、10mMのメチオニン、および0.01%のポリソルベート80(13)を含有した。崩壊温度での典型的なフリーズドライサイクルを図1に示す。
【0054】
図1に示すように、生成物温度(T生成物、図1)は、実際に、崩壊温度(T崩壊、図1)を超えていた。ケーク外観の徹底した目視分析から、ケークの底がある程度崩壊したことが示された(左のバイアル、図2)。
【0055】
しかし、明白な崩壊にもかかわらず、崩壊ケーク(左のバイアル)からの材料の残留水分は、通常または制御ケークの残留水分と類似していた(崩壊ケークでは0.36%、対して制御材料では0.37%)。復元時間もまた類似していた。崩壊温度より高温での凍結乾燥サイクル(図1)が、制御サイクル(図3)より短時間であったことに注目することは重要である。熱電対と氷との接触がなくなり始め、ピラニセンサの読取り値がキャパシタンスマノメータの読取り値に近づいたとき、制御サイクルでの生成物温度は、一次乾燥の終了まで崩壊温度を超えなかった(図3)。
【0056】
崩壊温度でのフリーズドライが非晶質材料に関して予想したほど劇的ではないという概念を証明するために、同じ製剤のさらに8種の分子を、図1に示すのと同じサイクルを使用してフリーズドライした。9種の分子(分子Gを包含)に関する典型的なデータを表1に要約する。表1のデータは、分子が積極的サイクル(図1)中に受けるストレスにもかかわらず、残留水分およびガラス転移温度が、Tg’より低温で実施されたサイクル(制御サイクル)に類似していたことを示している。最も重要なことには、崩壊した試料の分解速度(HMWのパーセンテージの増加として示される)はまた、制御材料の分解速度に類似していた。制御材料と崩壊材料との間の復元時間の差は、9種の分子すべてに観察されなかった。したがって、崩壊温度でのフリーズドライは、特に50mg/ml以上などの高タンパク質濃度で、通常ガラス転移温度が低い、緩衝液およびショ糖も含有する製剤に関してさえ可能である。
【0057】
この実施例で検査した材料はすべて非晶質であり、それを粉末X線回折で確認したことに言及しておきたい。
【0058】
【表1】
image rotate

【0059】
高タンパク質濃度での非晶質材料に対する崩壊の影響をさらに調査するために、分子Gを、ほぼすべての一次乾燥が崩壊温度より高温で実施される条件(超積極的サイクルと称す)で凍結乾燥した(図4)。このサイクルでは、生成物温度は、崩壊温度(−15℃)より高いが、氷−タンパク質−ショ糖共晶の融点(−3℃)より低かった。分かるように(図5)、ケークのほぼ半分はフリーズドライ中に崩壊した。残留水分は0.76%であったが、これは、制御サイクル(図3)、さらには積極的サイクル(図1)からの試料の残留水分よりも2倍高い。視覚的な崩壊にもかかわらず、超積極的サイクル(図4)からの試料の復元時間は、制御サイクル(図3)からの試料に類似していた。最も重要なことには、制御サイクルからの試料のHMW種と比べて、4℃および25℃で少なくとも8カ月間保存した間、HMW種に明白な増加はなかった(表2)。したがって、超積極的サイクル(崩壊温度よりかなり高温で凍結乾燥)からの試料は、制御サイクル(崩壊温度より低温で凍結乾燥)からの試料と同じくらい安定である。さらに、超積極的サイクルからの試料の残留水分は、1%未満であった。
【0060】
【表2】
image rotate

【0061】
(実施例2)
結晶質/非晶質材料に関する崩壊温度または崩壊温度より高温でのフリーズドライ)
医薬タンパク質Jを、10mMのトリス、4%のマンニトール、1%のショ糖を含有する、pH7.4(TMS)のTMS緩衝液において10mg/mlの濃度で製剤化した。この製剤のTg’は、−22.6℃であった。試料は、ガラス転移温度よりかなり低い生成物温度、ならびにTg’よりかなり高い生成物温度において凍結乾燥した。図6は、ガラス転移温度より低温(−25℃)、およびTg’よりかなり高温(すなわち、−18℃、−12℃、および−6℃)で凍結乾燥したTMS中の10mg/mlタンパク質Jのフリーズドライ顕微鏡法からの典型的な画像を示している。
【0062】
Tg’よりかなり高温でのフリーズドライ中に総崩壊がないにもかかわらず、構造変化(孔のサイズの増大として見られる)が、−18℃から開始し(崩壊の開始)、−6℃で非常に明白になることが観察された。したがって、−18℃が、TMS中の10mg/mlタンパク質Jの崩壊温度と考えられる。
【0063】
2種の凍結乾燥サイクルを実施した。一方のサイクルは、−18℃の崩壊温度(崩壊の開始)より低温での一次乾燥ステップを包含し、もう一方は、崩壊温度よりかなり高いがマンニトールの融点より低い温度での一次乾燥ステップを包含する。第1サイクル(作業サイクル1、図7)は、収縮率が小さい良いケーク(図8)を製造する。第2サイクル(図9)は、非常に積極的な条件下で行われ、それによって、生成物温度は、ほぼ全一次乾燥ステップに関して−18℃の崩壊温度より高くなった。しかし、ケーク外観(図10)は、許容できるものであった。
【0064】
崩壊温度より低温でフリーズドライした試料の残留水分は、崩壊温度より高温でフリーズドライした試料の残留水分と同程度である。例えば、崩壊温度より低温でフリーズドライした試料の残留水分は、約0.1%であり、崩壊温度より高温でフリーズドライした試料の残留水分は、約0.14%であった。さらに、崩壊温度より高温でフリーズドライした試料の復元時間、さらにはケーク外観も、崩壊温度より低温でフリーズドライした試料のものと類似していた。
【0065】
重要なことには、崩壊温度よりかなり高温で凍結乾燥した材料の安定性は、制御材料(崩壊温度より低温でフリーズドライ)の安定性に比べて著しく良好であった。例えば、表3は、40℃で保存したとき、崩壊した材料が、制御材料(崩壊温度より低温で凍結乾燥)に比べてはるかに安定であったことを示している。任意の理論に拘泥するものではないが、1つの仮説として、崩壊温度より高温でフリーズドライしたとき、タンパク質は、再折りたたみまたは「アニーリング」を受け、それによって、安定性が向上する。
【0066】
【表3】
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【0067】
上記のデータを要約すると、非晶相の崩壊温度より高温でフリーズドライした高濃縮タンパク質(微小崩壊はあったが、視覚的に検出されるケーク崩壊はまったくなかった)では、特に残留水分が仕様内にある場合、生成物の安定性を向上させることができることが企図されている。
【0068】
(実施例3)
崩壊温度または崩壊温度より高温での多価ワクチン多糖のフリーズドライ)
この実施例では、13価肺炎球菌ワクチンの血清型の1種(SerotypeX)の非結合型多糖を、一次乾燥中に3種の異なる温度でフリーズドライした。第1の温度は、崩壊温度より低温とし、第2の温度は、崩壊温度よりわずかに高温とし、第3の温度は、崩壊温度より約10℃高温とした。凍結乾燥製剤は、多糖、ショ糖、およびジフテリアCRM197タンパク質を含有し、総乾燥固形分含有量が6.5%であった。フリーズドライは、溶液5mlを充填した50ml容のSchott管状バイアルで実施した。残留水分、ガラス転移温度、復元時間、および復元した材料の結合効率を、以下に示す条件下でフリーズドライした凍結乾燥生成物の評価に使用する品質特性とした。これらの特性の目標値は、残留水分が≦5%、ガラス転移温度が≧20℃、復元時間が≦1分である。
【0069】
フリーズドライ前に、熱分析を実施して、SerotypeX溶液のガラス転移温度および崩壊温度を測定した。ガラス転移温度を、変調示差走査熱量測定法(「DSC」)(Q1000、TA Instruments、ニューキャッスル、デラウェア州)によって転移の中間点として測定すると、−34.7℃であった。フリーズドライ顕微鏡法(「FDM」)は、Nikon Eclipse E600(メルヴィル、ニューヨーク州)顕微鏡に取り付けたLinkam FDCS−196(サリー州、英国)ステージで実施し、温度が−34℃に上昇したとき、フリーズドライマトリックス構造中に小さな間隙領域が生じ始めたことが示された(上図、図11)。生成物温度を−33℃に上昇させたとき、昇華表面の乾燥生成物の構造が崩壊し始めた。したがって、この特定の製剤の顕微鏡的崩壊温度は、−33℃であり、ガラス転移温度より高いが、その高さは2℃未満であった。DSCとFDMはどちらも、融解吸熱の開始が約−2.7℃であることを示した。
【0070】
ベースラインフリーズドライサイクル−崩壊温度より低温
ベースラインフリーズドライサイクルは、崩壊温度よりかなり低い、−37℃に近い生成物温度(図12)で実施した。凍結は、エタノール−ドライアイス浴中で実施し、凍結した材料を入れたバイアルは、Benchmark1000凍結乾燥機(SP Industries、ガードナー、ニューヨーク州)の事前冷却(−50℃)した棚に装填した。一次乾燥は、二次乾燥ランプ(ramp)の前に完了させた。凍結乾燥した材料の残留水分は低く、0.08±0.01%であった。2種のガラス転移温度が検出され、小さい方が63℃、大きい方が84℃であった。収縮にもかかわらず、ケーク外観は許容できるものであった(図13)。凍結乾燥した材料の復元は、迅速であった(復元後に溶液が透明になる時間も包含して1分未満)。凍結乾燥した材料の結合効率は、許容域内にあった(表4)。しかし、ケークの高さがたった0.5cmであることを考えると、凍結乾燥サイクルは非常に長いものであった(約52時間)。
【0071】
崩壊温度よりわずかに高温でのフリーズドライ(崩壊試験1)
同材料を崩壊温度よりわずかに高温でフリーズドライしたとき(一次乾燥中の生成物温度を約−31℃で維持)、サイクル時間は、20時間に短縮された(図14)。凍結乾燥した材料の残留水分は、3.69±0.13%であり、44℃の低いガラス転移温度となった。崩壊現象と40℃(図12を参照)から25℃(図14を参照)に低下した二次乾燥温度との組合せが、ベースラインサイクルに比べて残留水分がより高くなったことの一因であった。ベースラインフリーズドライサイクル(上記の崩壊試験1を参照)とさらに比べると、ケーク外観は崩壊現象によってほんのわずか変化したが(図15、左のバイアル)、復元時間は影響されなかった。崩壊温度よりわずかに高温で製造した材料の結合効率に対する生化学的特性は、仕様内にあった(表4)。
【0072】
崩壊温度より約10℃高温でのフリーズドライ(崩壊試験2)
凍結乾燥した材料の品質に対する総崩壊の影響を評価するために、SerotypeX溶液を、同じ容器(同じ充填量)において同じ凍結乾燥機でフリーズドライしたが、生成物温度は崩壊温度よりほぼ10℃高温とした(サイクル例は図16に示す)。一次乾燥は8時間で完了したが、これは、ベースラインサイクルの35時間に比べると非常に短時間であり(図12)、さらに崩壊試験1の10時間よりも短時間であった(図14)。生成物にさらにストレスを与えるために、真空ポンプをつけたまま、冷凍システムを一次乾燥の終了時に停止させた(図16)。このストレスの組合せにより、本明細書に開示する他の凍結乾燥した材料と比べて、残留水分が6.12±0.15%と非常に高くなり、ケーク外観が不良になった(図15、右のバイアル)。崩壊試験2後の凍結乾燥した材料のガラス転移温度(図16)は20℃であったが、これは他の凍結乾燥サイクルに比べて低かった。水分の上昇およびケーク外観の不良にもかかわらず、復元は依然として1分未満であった。最も重要なことには、崩壊温度よりかなり高温で製造した復元材料の生化学的特性は、結合効率に関して許容基準をほぼすべて満たしていた(表4)。任意の理論に拘泥するものではないが、いくつかの凍結乾燥した生物材料は、それらの重要な性質を維持しながら、極端な条件(例えば、崩壊温度より約10℃高温)でのフリーズドライ後でさえ容易に復元できることが企図されている。この処理中の生成物温度は、氷−凍結−濃縮物共晶の融点より低いままであった。したがって、プロセス時間を著しく短縮させるために、崩壊温度より高いが融点より低い温度でフリーズドライすることは、凍結乾燥した材料の品質が許容できるままであるならば、経済的観点から非常に有益である可能性がある。
【0073】
結合効率の評価
凍結乾燥した多糖の品質を、当技術分野で周知の標準の方法を使用して、多糖がキャリアタンパク質と結合する能力(例えば、結合効率)によって評価した。この実施例では、凍結乾燥した多糖を復元し、キャリアタンパク質CRM197に結合させる。結合効率は、次の基準を使用して決定した。
(1)糖とタンパク質の比(「SPR」):結合反応の再現性および効率の指標であり、糖含有量をタンパク質含有量で割ると得られる、
(2)糖≦0.3Kdのパーセント(%)(「0.3Kd」):多糖含有量によって決定される、サイズ排除クロマトグラフィーで確定した分子サイズの分布、
(3)遊離糖のパーセント(「%FS」):キャリアタンパク質と非共有結合的に結合している全糖の部分、
(4)遊離タンパク質のパーセント−キャピラリー電気泳動法(「%FP−CE」):キャピラリー電気泳動法で試験した、糖と結合(conjugate)していないキャリアタンパク質(CRM197)の部分。
(5)調整可能収率:推定した%FSに基づいて調整された収率。
【0074】
凍結乾燥かつ復元した多糖の典型的な性質を表4に示す。
【0075】
【表4】
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【0076】
要約すると、この実施例は、多価ワクチン成分(例えば、多糖)を、崩壊温度または崩壊温度より高温の生成物温度において凍結乾燥することができることを立証している。このプロセスからの凍結乾燥生成物は、崩壊温度より低温の生成物温度において凍結乾燥した材料と比べて同程度の品質を有する。さらに、一次乾燥中の生成物温度が崩壊温度または崩壊温度より高温であるとき、凍結乾燥プロセス全体は、より短時間となる。
【0077】
(実施例4)
崩壊温度より高温での生ウイルスワクチンのフリーズドライ)
この実施例では、生ウイルス若鶏ワクチンを、崩壊温度より高温および低温の両方で凍結乾燥したが、その結果は同程度であった。ワクチンの品質は、37℃で3カ月間保存した後にケーク外観、残留水分、および力価安定性によって評価した。ガラス転移温度は、変調DSCで測定すると、−26.8℃であった。−18℃の崩壊温度は、フリーズドライ顕微鏡(Linkamステージ)で測定した。崩壊温度より低温で実施した典型的な凍結乾燥サイクルを図17に示す。凍結乾燥した材料のケーク外観は、許容できるものであった(図18、左のバイアル)。残留水分は、0.5±0.05%であった。生成物を崩壊温度より高温でフリーズドライしたとき(図19)、凍結乾燥ケークに目に見えるいくらかの崩壊が観察された。構造の損失が、ケークの底に見られた(図18、右のバイアル)。サイクルが長かったので、崩壊した材料の残留水分は、0.24%と低くなった。両方の材料の復元時間は同程度であった。さらに、崩壊温度より高温で凍結乾燥した材料の安定性は、崩壊温度より低温で製造した材料の安定性より良好であった。例えば、図20に示した3カ月保存後の力価データは、一次乾燥中に崩壊温度より高温の生成物温度において凍結乾燥した材料の安定性が向上したことを示している。さらに、崩壊温度より高温で実施したサイクルの一次乾燥時間は、崩壊温度より低温でのサイクルに比べてより短時間であった。したがって、この実施例の実験は、フリーズドライ中に崩壊しても、生物材料の重要な品質特性への影響は極小であるように見えるということを再度立証している。場合によっては、崩壊温度より高温での凍結乾燥は、凍結乾燥生成物のいくつかの性質を向上させる可能性がある。
【0078】
等価物
前述の記載は、本発明のいくつかの非限定的な実施形態を説明するものである。当業者なら、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態の多くの等価物を理解し、または日常的な実験を使用するだけで確認することができよう。以下の特許請求の範囲に定義される本発明の精神または範囲から逸脱することなく、本記載への様々な変更および改変を行い得ることは、当業者なら理解するであろう。
【0079】
特許請求の範囲では、「a」、「an」、および「the」などの冠詞は、反対であることの指示がない、または文脈から明白でない限り、1または1より多いことを意味することができる。グループのうちの1つまたは複数のメンバーの間に「または(or)」を包含する特許請求の範囲または説明は、反対であることの指示がない、または文脈から明白でない限り、グループメンバーのうちの1つ、複数、またはすべてが所与の生成物またはプロセスに存在し、使用され、またはその他の方法で関連する場合に満足するものと考えられる。本発明は、グループのちょうど1メンバーが所与の生成物またはプロセスに存在し、使用され、またはその他の方法で関連する実施形態を包含する。本発明はまた、グループメンバーの複数またはすべてが所与の生成物またはプロセスに存在し、使用され、またはその他の方法で関連する実施形態を包含する。さらに、本発明が、請求項の1項もしくは複数または説明の関連する部分からの1つまたは複数の限定、構成要素、条項、記述用語などが別の請求項に導入されるすべての変更、組合せ、および並べ替えを包含することを理解されたい。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項が、同一の基礎とする請求項に従属する任意の他の請求項に見出される1つまたは複数の限定を包含するように改変することができる。さらに、特許請求の範囲が組成物を列挙する場合、別段の指示がない限り、または矛盾もしくは不一致が発生することが当業者に明らかではない限り、本明細書に開示する目的のいずれのためにもこの組成物を使用する方法が包含され、本明細書に開示する作製方法のいずれかまたは当技術分野で周知の他の方法に従ってこの組成物を作製する方法が包含されることを理解されたい。さらに、本発明は、本明細書に開示する組成物を調製する方法のいずれかに従って作製された組成物を包含する。
【0080】
構成要素がリスト(例えば、マーカッシュグループ様式で)として提示される場合、構成要素の各部分グループ(subgroup)もまた開示され、任意の構成要素がグループから除去され得ることを理解されたい。また、用語「含む(comprising)」が、開放(open)であることを意図し、追加の構成要素またはステップの包含を許容することに留意されたい。一般的に、本発明または本発明の態様が特定の構成要素、特徴、ステップなどを含むと称される場合、本発明の特定の実施形態または本発明の態様が、こうした構成要素、特徴、ステップなどからなる、または本質的にそれらからなることを理解されたい。簡略化のために、これらの実施形態は、本明細書において具体的に正確に(in haec verba)示されてはいない。したがって、1つまたは複数の構成要素、特徴、ステップなどを含む本発明の各実施形態に関して、本発明はまた、これらの構成要素、特徴、ステップなどからなる、または本質的にそれらからなる実施形態を提供する。
【0081】
範囲が示される場合、終点は包含される。さらに、別段の指示がない、または文脈および/もしくは当業者の理解から明白でない限り、範囲として表現される値は、文脈上そうでないことが明白に要求されない限り、本発明の種々の実施形態において言及した範囲内の、範囲の下限の単位の10分の1(the tenth of the unit of the lower limit of the range)までの、任意の具体的な値とみなすことができることを理解されたい。別段の指示がない、または文脈および/もしくは当業者の理解から明白でない限り、範囲として表現される値は、所与の範囲内の任意の部分範囲(subrange)とみなすことができ、この部分範囲の終点は、範囲の下限の単位の10分の1と同程度の精度まで表現されることを理解されたい。
【0082】
さらに、本発明の任意の特定の実施形態が、請求項の任意の一項または複数から明確に除外され得ることを理解されたい。本発明の組成物および/または方法の任意の実施形態、構成要素、特徴、適用、または態様は、任意の一項または複数の請求項から除外することができる。簡潔さのために、1つまたは複数の構成要素、特徴、目的、または態様が除外された実施形態のすべては、本明細書に明確には示されない。
【0083】
参照による援用
本出願に引用される刊行物および特許文書はすべて、各個々の刊行物または特許文書の内容が本明細書に援用される場合と同じ程度に、すべての目的でそれら全体が本明細書に参照により援用される。
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2011−530524(P2011−530524A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522218(P2011−522218)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/052852
【国際公開番号】WO2010/017296
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】