説明

嵌合構造体の組み付け方法

【課題】一対の嵌合部材のうちの一方に設けられた外周溝に対し、弾性体によって構成されたリング状部材及び無端シールリングを重ねた状態として容易に装着可能な嵌合構造体の組み付け方法の提供を目的とした。
【解決手段】嵌合構造体10において、嵌合部材102は、外周溝108にリング状部材110と弾塑性変形可能な無端シールリング112とを重ねて嵌め込んだ構造とされている。嵌合構造体100は、先ず嵌合部材102の外周溝108にリング状部材110を嵌め込んだ後、別途用意した拡径治具により拡径させられた無端シールリング112を嵌め込むことにより嵌合部材102が準備される。その後、嵌合部材104に対して嵌合部材102を嵌め込む。この際、無端シールリング112は、縮径方向に押圧された状態になり、外周溝108から外れることなく収まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置が備えるプライマリシーブ及びセカンダリシーブ等の摺動可能なように二部材を嵌合させることにより形成された嵌合構造体の組み付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されている密封装置及び密封装置の製造方法、特許文献2に開示されているシーリング組み付け装置等が提供されている。特許文献1に開示されている従来技術は、二部材間に形成される環状の隙間を密封する密封装置に関するものであり、一方の部材に設けられた環状の隙間に、他方の部材と摺動接触する弾性リング及びシールリングを組み付けることにより形成された密封装置、及びこの密封装置の製造方法に関するものである。
【0003】
また、特許文献2に開示されている従来技術は、ワークに設けられた外周溝にシールリングを組み付けるための組み付け装置に関するものである。特許文献2の組み付け装置は、シールリングをテーパ面に沿って拡径させる案内治具と、拡径されたシールリングの一端部を押すことによりワークの外周溝に嵌入する嵌入手段とを有し、この嵌入手段をワークの軸回りに回動させることによりシールリングを装着することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/72738号公報
【特許文献2】実開昭64−20228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、一方の部材に設けられた環状の隙間に弾性リング及びシールリングを組み付ける構造のものを製作しようとした場合には、シールリングの取り付けが困難であるという問題がある。具体的には、一方の部材の外周溝に弾性リングを嵌め込んだ後、外周溝に対してシールリングを引っかけ、周方向に順次嵌め込もうとすると、シールリングに引きずられるようにして弾性リングが引き延ばされ、最終段階において余分な弾性リングが外周溝の外側にはみ出してしまう。シールリングとして肉厚が厚く剛性が高いものを用いようとする場合には、外周溝に対するシールリングの係り代が小さいため、組み立て時に前述したような不具合が生じる可能性が高く、製造効率が著しく低下するという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に開示されているようにシールリングとして合口を有するものを用いることが出来る場合には、上述したような組み立て時の不具合が生じにくい。しかしながら、合口を有さないシールリングを用いなければならない場合には、特許文献2のようにしてシールリングを取り付けることができないという問題がある。
【0007】
かかる問題を解消すべく、本発明は、一対の嵌合部材のうちの一方に設けられた外周溝に対し、弾性体によって構成されたリング状部材及び無端シールリングを重ねた状態として容易に装着可能な嵌合構造体の組み付け方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の嵌合構造体の組み付け方法は、相対的に軸方向及び/又は周方向に摺動可能なように嵌合した一対の嵌合部材A,Bと、前記嵌合部材A,Bが摺動する部位に設けられたシール部とを有し、前記嵌合部材Aが前記嵌合部材Bの内側に嵌合しており、前記嵌合部材Aの外周面に外周溝が形成されており、前記外周溝に弾性体によって構成されたリング状部材が嵌め込まれ、さらに前記外周溝において前記リング状部材に対して外周側に弾塑性変形可能な無端シールリングが嵌め込まれた嵌合構造体を形成するためのものである。本発明の嵌合構造体の組み付け方法は、前記外周溝に前記リング状部材を嵌め込むリング嵌着工程と、前記嵌合部材Aの外径よりも大径の拡径治具に対して前記無端シールリングを嵌め込むことにより無端シールリングの内径を拡径させるシールリング拡径工程と、前記シールリング拡径工程により拡径された無端シールリングを所定時間に亘って放置することにより、前記無端シールリングの内径を所定寸法だけ収縮させる収縮工程と、前記収縮工程において収縮させた前記無端シールリングを前記嵌合部材Aの前記外周面を通過させ、前記外周溝に嵌め込むシールリング嵌め込み工程と、前記シールリング嵌め込み工程の後、前記無端シールリングを縮径方向に押圧し、嵌合部材Aを嵌合部材B内に嵌合させる縮径・嵌合工程とを有することを特徴としている。
【0009】
本発明の嵌合構造体の組み付け方法においては、シールリング拡径工程において無端シールリングを拡径治具を用いて拡径させておくため、リング嵌着工程において弾性体からなるリング状部材を嵌め込んである嵌合部材Aの外周溝に対して容易に無端シールリングを嵌め込むことが可能である。従って、本発明によれば、嵌合部材Aの外周溝にリング状部材及び無端シールリングを重ね合わせて嵌め込んだ嵌合構造体を容易かつ精度良く組み立てることが可能となり、嵌合構造体の製造効率を向上させうる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一対の嵌合部材のうちの一方に設けられた外周溝に対し、弾性体によって構成されたリング状部材及び無端シールリングを重ねた状態として容易に装着可能な嵌合構造体の組み付け方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る嵌合構造体を示す分解斜視図である。
【図2】(a)は図1の嵌合構造体の製造工程(縮径・嵌合工程)を示す断面図であり、(b)は嵌合構造体の完成状態を示す断面図である。
【図3】図1の嵌合構造体の製造時に用いられる拡径治具を示す断面図である。
【図4】図1の嵌合構造体の製造時に用いられる拡径治具を示す平面図である。
【図5】(a)図3及び図4に示す拡径治具のリング案内部を内周面側から正面視した状態を示す正面図であり、(b)はリング案内部により無端シールリングが案内される状態を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施例に係る無段変速機のスケルトン図である。
【図7】図6に示す無段変速機の展開断面図である。
【図8】図7に示す無段変速機の駆動プーリ近傍を拡大した展開断面図である。
【図9】図7に示す無段変速機の従動プーリ近傍を拡大した展開断面図である。
【図10】図7の駆動プーリ及び従動プーリの製造工程(縮径・嵌合工程)を示す説明図である。
【図11】図10の製造工程の完了状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、本発明の一実施形態に係る組み付け方法により製造される嵌合構造体100の概略構造、及び前記組み付け方法に用いる拡径治具120の構造について説明した上で、前記組み付け方法について詳細に説明する。図1及び図2に示すように、嵌合構造体100は、嵌合部材102(嵌合部材A)及び嵌合部材104(嵌合部材B)を有し、嵌合部材102を嵌合部材104の内側に嵌合させた構造を有する。嵌合構造体100は、嵌合部材102及び嵌合部材104を軸方向及び/又は周方向に向けて相対的に摺動させることが可能とされており、嵌合部材102,104が摺動する部位にシール部106が形成されている。
【0013】
嵌合部材102には、全周に亘って外周溝108が設けられている。外周溝108にはリング状部材110及び無端シールリング112が嵌め込まれている。リング状部材110は、ゴム等の弾性体によって構成されたリング状の部材であり、弾性変形させることにより外周溝108に対して容易に装着することができる。
【0014】
また、無端シールリング112は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)等の弾塑性変形可能な樹脂によって構成されている。従って、無端シールリング112は、拡径方向への僅かな変形に対しては弾性を有するが、変形がある限界を越えると塑性状態になり、力を取り除いても元の形状に戻らない性質を有する。無端シールリング112は、外周溝108においてリング状部材110に対して嵌合部材102の径方向外側に嵌め込まれている。
【0015】
続いて、嵌合構造体100の組み付け方法に用いる拡径治具120について図面を参照しつつ詳細に説明する。図3及び図4に示すように、拡径治具120は、台座121と、アーム部122と、引掛部材124とを有する。台座121は、円盤状の外観形状を有する部材である。台座121は、厚み方向中間部分において外径が変化しており、両者の境界部分に段部126を有する。台座121の段部126よりも天面128側の部分は、拡径する無端シールリング112を装着するためのリング装着部130として機能する。リング装着部130の外径は、上述した嵌合部材Aの外径よりも僅かに大きい程度とされている。また、台座121の段部126よりも底面132側の部分の外径は、リング装着部130の外径よりもさらに大きい。
【0016】
アーム部122は、アーム部134とリング案内部138とを有する。アーム部134は、リング装着部130の半径と略同一の長さを有するアーム状の部材である。アーム部134は、台座121の天面128側において、リング装着部130の軸心位置に設けられたピン135によって自由に旋回させることが可能なように取り付けられている。また、アーム部134の先端側には、ハンドル136が取り付けられている。アーム部122は、図示状態において反時計回り方向を正回転方向として自由に旋回させることができる。
【0017】
リング案内部138は、アーム部134の先端側に設けられており、下方(底面132側)に向けて突出するように設けられている。図5に示すように、リング案内部138の内周面138a側の面には、段状部140が設けられている。段状部140は、テーパー状に形成されており、底面140aが幅方向一端側から他端側、言い換えればアーム部134の正回転方向上流側から下流側に向けて下り勾配となるように形成されている。
【0018】
引掛部材124は、図4に示すように扇面状の形状を有する板体によって形成されており、台座121のリング装着部130の上に取り付けられている。引掛部材124は、リング装着部130の湾曲に沿う形状に湾曲しており、リング装着部130の外縁から僅かに径方向外側に向けて突出するように取り付けられている。これにより、引掛部材124が設けられた部位に無端シールリング112を引っ掛けることが可能とされている。
【0019】
拡径治具120は、無端シールリング112を引掛部材124が設けられた部位に引っ掛けた後、アーム部134を正回転方向に旋回させることにより、無端シールリング112を台座121のリング装着部130の外周面に嵌め込んで行くことが可能とされている。具体的には、引掛部材124により無端シールリング112の一部をリング装着部130の外周面に引っかけた状態においてアーム部134を旋回させることにより、リング案内部138が引掛部材124の位置まで到達すると、図5(b)に示すようにリング案内部138に設けられた段状部140が無端シールリング112に当接する。その後、さらにアーム部134を正方向に回転させると、段状部140の底面140aによって押しやられ、無端シールリング112がリング装着部130の外周面に沿って下方に向けて案内される。アーム部134をリング装着部130の全周に亘って旋回させると、無端シールリング112がリング装着部130の外周に嵌め込まれた状態になる。
【0020】
ここで、上述したように、リング装着部130の外径は、嵌合部材Aの外径よりも僅かに大きい程度とされている。従って、無端シールリング112は、リング装着部130の外周面に沿って装着された状態になると、リング装着部130の外径と同程度まで全周に亘って略均等に拡径された状態になる。また、無端シールリング112は、弾塑性素材によって形成されているため、リング装着部130から無端シールリング112を取り外したとしても、しばらくの間は無端シールリング112の内径が嵌合部材Aの外径よりも僅かに大きい程度に維持される。
【0021】
続いて、嵌合構造体100の組み付け方法について説明する。嵌合構造体100は、リング嵌着工程、シールリング拡径工程、収縮工程、シールリング嵌め込み工程、及び縮径・嵌合工程の各工程を経ることにより製造される。リング嵌着工程は、嵌合部材102の外周溝108に弾性を有するリング状部材110を嵌め込む工程である。この工程においては、リング状部材110を径方向外側に向けて拡径させることにより、リング状部材110を容易に外周溝108に嵌着させることができる。
【0022】
シールリング拡径工程は、上述した拡径治具120を用いて無端シールリング112を拡径する工程である。拡径治具120を用いた無端シールリング112の拡径方法については、上述の通りであるため、詳細については省略する。
【0023】
収縮工程は、シールリング拡径工程において拡径治具120を用いることにより内径を拡大させた無端シールリング112を拡径治具120から取り外し、所定時間に亘って放置することにより、無端シールリング112の内径を所定寸法だけ収縮させる工程である。すなわち、収縮工程においては、無端シールリング112が拡径治具120から取り外した後、内径の大きさが元の寸法に戻ろうとする性質を利用し、内径が嵌合部材Aの外径よりも僅かに小さい寸法(以下、「嵌込前寸法」とも称す)となるまで無端シールリング112を収縮させる。本工程において無端シールリング112を縮径させるために放置する時間の長さは、拡径治具120から取り外した後の経過時間と、無端シールリング112が収縮する寸法(収縮寸法)との関係を予め実験等により求めておき、この結果に基づき前述した嵌込前寸法となる時間を設定することが可能である。
【0024】
シールリング嵌め込み工程は、収縮工程において内径が嵌合部材Aの外径よりも僅かに小さい程度まで収縮した状態になった無端シールリング112を、リング嵌着工程において既にリング状部材110が嵌着されている嵌合部材102の外周溝108に嵌め込む工程である。本工程においては、無端シールリング112が嵌合部材Aの外周面を通過し、その後外周溝108に嵌り込む。ここで、無端シールリング112は、収縮工程において内径が嵌合部材Aの外径よりも僅かに小さくなっているが、無端シールリング112の内径と嵌合部材Aの外径との差はごく僅かである。また、無端シールリング112が弾塑性変形するものであることから、嵌合部材Aの外径程度の大きさまでであれば、無端シールリング112に対して作業員の手などによって力を加える程度で拡径させることが可能である。そのため、シールリング嵌め込み工程においては、無端シールリング112を容易に外周溝108に嵌め込むことが可能である。このようにしてシールリング嵌め込み工程が完了すると、図1及び図2(a)に示すように、無端シールリング112が外周溝108に嵌り、一部が外周溝108から径方向外側に突出した状態になる。
【0025】
縮径・嵌合工程は、上述したシールリング嵌め込み工程において嵌め込まれた無端シールリング112を縮径方向に押圧しつつ、嵌合部材102を嵌合部材104内に嵌合させる工程である。本工程においては、図2(a)に示すように、嵌合部材104の開口端にテーパ状のガイド部材142が設置され、ガイド部材142に沿って嵌合部材102が圧入される。これにより、無端シールリング112が縮径方向に押圧されると共に、嵌合部材102が嵌合部材104内に嵌合した状態になる。
【0026】
上述したようにして嵌合構造体100を製造すれば、嵌合部材102の設けられた外周溝108に弾性体によって形成されたリング状部材110、及び弾塑性素材によって形成された無端シールリング112を重ねた状態として容易に装着することが可能となる。これにより、嵌合構造体100の製造効率を格段に向上させることが可能である。
【実施例1】
【0027】
続いて、上述した嵌合構造体100の組み付け方法の適用例として、いわゆるベルト式無段変速機X(以下、単に「無段変速機X」とも称す)を例に挙げ説明する。なお、以下の説明においては、嵌合構造体100の一例である駆動プーリ11及び従動プーリ21の油圧サーボ12,22を含む無段変速機Xの全体構造について簡単に説明し、その後特徴的構造部分及びその組み付け方法について詳細に説明する。
【0028】
≪無段変速機Xの全体構造について≫
無段変速機Xは、FF横置き式の自動車用変速機であり、図6や図7に示すように大略、入力軸3、前後進切替装置4、無段変速装置A、デファレンシャル装置30などで構成されている。入力軸3は、エンジン出力軸1によりトルクコンバータ2を介して駆動されるものであり、トルクコンバータ2のタービンランナ2bに接続されている。前後進切替装置4は、入力軸3の回転を正逆切り替えて駆動軸10に伝達する装置である。また、無段変速装置Aは、駆動プーリ11と従動プーリ21と両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15とを備えている。デファレンシャル装置30は、従動軸20の動力を出力軸32に伝達するものである。
【0029】
無段変速機Xにおいては、入力軸3と駆動軸10とは同一軸線上に配置され、従動軸20とデファレンシャル装置30の出力軸32とが入力軸3に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機Xは全体として3軸構成とされている。Vベルト15は、一対の無端状張力帯と、これら張力帯に支持された多数のブロックとで構成された公知の金属ベルトである。
【0030】
無段変速機Xを構成する各部品は変速機ケース5の中に収容されている。トルクコンバータ2と前後進切替装置4との間には、オイルポンプ6が配置されている。オイルポンプ6は、トルクコンバータ2のポンプインペラ2aにより駆動されるポンプギア9を備えている。
【0031】
前後進切替装置4は、図6や図7に示すように、遊星歯車機構40と前進用ブレーキ50と後進用クラッチ51とで構成されている。遊星歯車機構40のサンギヤ41が入力部材である入力軸3に連結され、リングギヤ42が出力部材である駆動軸10に連結されている。遊星歯車機構40はシングルピニオン方式であり、前進用ブレーキ50はピニオンギヤ43を支えるキャリア44と変速機ケース5との間に設けられ、後進用クラッチ51はキャリア44とサンギヤ41との間に設けられている。後進用クラッチ51を解放して前進用ブレーキ50を締結すると、入力軸3の回転が逆転され、かつ減速されて駆動軸10へ伝えられる。逆に、前進用ブレーキ50を解放して後進用クラッチ51を締結すると、遊星歯車機構40のキャリア44とサンギヤ41とが一体に回転するので、入力軸3と駆動軸10とが直結される。
【0032】
無段変速装置Aの駆動プーリ11は、駆動軸(プーリ軸)10上に一体に形成された固定シーブ11aと、駆動軸10上において軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bと、可動シーブ11bの背後に設けられた油圧サーボ12とを備えている。可動シーブ11bの外周部には、背面側へ延びるピストン部12aが一体に形成され、このピストン部12aの外周部が駆動軸10に固定されたシリンダ部12bの内周部に摺接している。可動シーブ11bとシリンダ部12bとの間には、油圧サーボ12の作動油室12cが形成されており、この作動油室12cへの油圧を制御することにより、変速制御を実施することができる。
【0033】
従動プーリ21は、従動軸(プーリ軸)20上に一体に形成された固定シーブ21aと、従動軸20上を軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bと、可動シーブ21bの背後に設けられた油圧サーボ22とを備えている。可動シーブ21bの外周部には、背面側へ延びるシリンダ部22aが一体に形成され、このシリンダ部22aの内周部に従動軸20に固定されたピストン部22b(固定ピストン)が摺接している。可動シーブ21bとピストン部22bとの間に油圧サーボ22の作動油室22cが形成され、この作動油室22cの油圧を制御することにより、トルク伝達に必要なベルト推力が与えられる。また、作動油室22c内には、初期推力を与えるスプリング24が配置されている。
【0034】
従動軸20の一端部はエンジン側に向かって延び、この一端部に出力ギヤ27aが固定されている。出力ギヤ27aはデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びる出力軸32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0035】
≪駆動プーリ11及び従動プーリ21の構成及び組み付け方法について≫
上述したように、駆動プーリ11においては、油圧サーボ12が嵌合構造体100を形成している。すなわち、油圧サーボ12は、可動シーブ11bの外周部に一体的に形成されたピストン部12aが、シリンダ部12bの内周部に摺接可能なように嵌合したものである。そのため、油圧サーボ12においては、ピストン部12aが上記実施形態において説明した嵌合構造体100を構成する嵌合部材102(嵌合部材A)に相当し、シリンダ部12bが嵌合部材104(嵌合部材B)に相当する。
【0036】
図8に示すように、油圧サーボ12において嵌合部材102に相当するピストン部12aの外周面には、外周溝12xが形成されている。また、外周溝12xには、リング状部材13a及びシールリング13bが嵌め込まれている。リング状部材13a及びシールリング13bは、シールリング13bが径方向外側となるように重ね合わせた状態で嵌め込まれている。従って、油圧サーボ12においては、外周溝12xが上記実施形態において嵌合部材102に設けられた外周溝108に相当し、リング状部材13a及びシールリング13bが外周溝108に嵌め込まれたリング状部材110及び無端シールリング112に相当する。
【0037】
また、従動プーリ21においては、油圧サーボ22が嵌合構造体100を形成している。すなわち、油圧サーボ22においては、可動シーブ21bの外周部に一体的に形成されたシリンダ部22aの内周部に、従動軸20に固定されたピストン部22bが摺接可能なように嵌合した構造とされている。従って、油圧サーボ22においては、ピストン部22bが上記実施形態における嵌合部材102(嵌合部材A)に相当し、シリンダ部22aが嵌合部材104(嵌合部材B)に相当する。
【0038】
油圧サーボ22において嵌合部材102に相当するピストン部22bの外周面には、外周溝22xが形成されている。また、外周溝22xには、リング状部材23a及びシールリング23bが嵌め込まれている。リング状部材23a及びシールリング23bは、シールリング13bが径方向外側となるように重ね合わせた状態で嵌め込まれている。従って、油圧サーボ22においては、外周溝22xが上記実施形態において嵌合部材102に設けられた外周溝108に相当し、リング状部材23a及びシールリング23bが外周溝108に嵌め込まれたリング状部材110及び無端シールリング112に相当する。
【0039】
駆動プーリ11は、図10(a)に示すように予めシリンダ部12bを除く部分(以下、「駆動プーリ主要構成部11m」とも称す)を組み立てておき、その後図11に示すように駆動プーリ主要構成部11mとシリンダ部12bとを合体させることにより製造される。駆動プーリ主要構成部11mの製造に際してピストン部12aの外周面に設けられた外周溝12xにリング状部材13a及びシールリング13bを嵌め込む際には、上述した嵌合構造体100の製造工程のうち、リング嵌着工程、シールリング拡径工程、及びシールリング嵌め込み工程の3工程が実施される。
【0040】
また、上記各工程を経てリング状部材13a及びシールリング13bを装着した駆動プーリ主要構成部11mは、図10(a)に示すように作業台にセットされ、シリンダ部12b内に圧入により合体させられる。これにより、上述した縮径・嵌合工程が実行される。具体的には、駆動プーリ主要構成部11mとシリンダ部12bとを合体させる際には、シリンダ部12bの開口部にガイド部材142があてがわれる。これにより、シリンダ部12bを嵌め込む作業を行うことによりシールリング13bが縮径方向に押圧され、縮径された状態になる。
【0041】
従動プーリ21の組み立てについても、上述した駆動プーリ11の組み立てと同様の要領により実施される。具体的には、従動プーリ21を組み立てる際には、図10(a)に示すように、予めシリンダ部22aを除く部分(以下、「従動プーリ主要構成部21m」とも称す)が組み立てられる。従動プーリ主要構成部21mの組み立てに際し、ピストン部22bの外周溝22xにリング状部材23a及びシールリング23bを嵌め込む作業は、上述したリング嵌着工程、シールリング拡径工程、及びシールリング嵌め込み工程の3工程を実施することにより実行される。
【0042】
リング状部材23a及びシールリング23bを嵌め込んだ従動プーリ主要構成部21mが作業台上に準備されると、これとシリンダ部22aとを圧入により合体させることより、上述した縮径・嵌合工程を実行する。すなわち、シリンダ部22aの開口部にガイド部材142をあてがい、ガイド部材142に沿って従動プーリ主要構成部21mをシリンダ部22a内に嵌合させる。これにより、ガイド部材142によってシールリング23bが縮径方向に押圧され、縮径された状態になる。
【0043】
本実施例において説明した無段変速機X用の駆動プーリ11及び従動プーリ21においては、上述した実施形態に係る組み付け方法により油圧サーボ12,22(嵌合構造体100)を製造することができるため、リング状部材13a,23a及びシールリング13b,23b重ねた状態として容易に装着することが可能となる。これにより、従って、本実施例に示した組み付け方法によれば、駆動プーリ11、従動プーリ21、及びこれらを含む無段変速機Xの製造効率を向上させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
無段変速機の駆動プーリ及び従動プーリを構成する油圧サーボ等、一対の嵌合部材が摺動可能なように嵌合した構造を有し、一方の嵌合部材の外周溝に対してOリング等のリング状部材と無端シールリングとを重ねて嵌め込んだものを製造するために好適に使用できる。
【符号の説明】
【0045】
11 駆動プーリ
11m 駆動プーリ主要構成部
12 油圧サーボ
12a ピストン部(嵌合部材A)
12b シリンダ部(嵌合部材B)
12x 外周溝
13a リング状部材
13b シールリング
21 従動プーリ
21m 従動プーリ主要構成部
22 油圧サーボ
22a シリンダ部(嵌合部材B)
22b ピストン部(嵌合部材A)
22x 外周溝
23a リング状部材
23b シールリング
100 嵌合構造体
102 嵌合部材(嵌合部材A)
104 嵌合部材(嵌合部材B)
106 シール部
108 外周溝
110 リング状部材
112 無端シールリング
120 拡径治具
142 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に軸方向及び/又は周方向に摺動可能なように嵌合した一対の嵌合部材A,Bと、
前記嵌合部材A,Bが摺動する部位に設けられたシール部とを有し、
前記嵌合部材Aが前記嵌合部材Bの内側に嵌合しており、
前記嵌合部材Aの外周面に外周溝が形成されており、
前記外周溝に弾性体によって構成されたリング状部材が嵌め込まれ、
さらに前記外周溝において前記リング状部材に対して外周側に弾塑性変形可能な無端シールリングが嵌め込まれた嵌合構造体の組み付け方法であって、
前記外周溝に前記リング状部材を嵌め込むリング嵌着工程と、
前記嵌合部材Aの外径よりも大径の拡径治具に対して前記無端シールリングを嵌め込むことにより無端シールリングの内径を拡径させるシールリング拡径工程と、
前記シールリング拡径工程により拡径された無端シールリングを所定時間に亘って放置することにより、前記無端シールリングの内径を所定寸法だけ収縮させる収縮工程と、
前記収縮工程において収縮させた前記無端シールリングを前記嵌合部材Aの前記外周面を通過させ、前記外周溝に嵌め込むシールリング嵌め込み工程と、
前記シールリング嵌め込み工程の後、前記無端シールリングを縮径方向に押圧し、嵌合部材Aを嵌合部材B内に嵌合させる縮径・嵌合工程とを有することを特徴とする嵌合構造体の組み付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−140976(P2012−140976A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291911(P2010−291911)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】