説明

工事時期選択装置及び工事時期選択方法

【課題】風力発電装置12に対する工事を行う適切な時期を特定することを目的とする。
【解決手段】風力発電システム10は、風力発電装置12に備えられている主要部品の状態を検出する状態検出装置から出力された検出信号の時間変化に基づいて予測された、該主要部品に故障が生じる時期に応じて、主要部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を設備管理装置20が判定する。そして、工事計画装置22は、判定された時期を基準とし、風力発電装置12が設置されている場所の平均風速が、主要部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる工事停止率に基づいて、主要部品に対する工事を行う時期を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事時期選択装置及び工事時期選択方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置で用いられているベアリング、増速器、及び発電機等の風力発電装置にとって主要な部品が故障すると、故障した部品の交換又は修理を行う工事(メンテナンス作業)の完了まで、風力発電装置の運転を停止しなければならず、この結果、売電収入が低下する。
さらに、部品が故障した後に、部品の交換又は修理の手続き等が行われると、故障から復旧に至るまでに要する風力発電装置の停止期間がより長くなり、より売電収入が低下するという問題があった。
【0003】
この問題を解決することを目的として、特許文献1には、風力発電設備の監視装置として、運転状態監視手段が取得した風力発電設備の稼働実績と、予め設定した風力発電設備のメンテナンス条件に基づいて、実際の稼働状況がメンテナンスの必要となる可動量に達しているか否かを判定することで、部品の故障を事前に予測し、予測結果に応じて風力発電装置をメンテナンスすることで、風力発電装置の停止期間をより短くする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−342766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、風力発電装置にとって主要な部品は、主に、基礎上に立設される支柱の上端に設置されるナセル内及びナセルに設けられるロータヘッド内等、すなわち高所に備えられている。そのため、風力発電装置の部品に対する修理又は交換を行う工事を実施する場合は、クレーン設備等を用いた高所作業の必要性がある。
【0006】
しかしながら、風力発電装置は、風力を電力に変換する装置であることから風が吹きやすい立地に設置されている。さらに、上述のように、風力発電装置にとって主要な部品は、高所、すなわち風に晒される位置に備えられている。
そのため、風の影響により、例えばクレーン設備等を用いることができない場合があり、季節によっては、工事を実施できない日時が生じ、工事期間が長くなり、これに伴い風力発電装置の停止期間がより長くなる場合があった。
【0007】
また、風力発電装置に対する工事期間が長くなると、例えば、クレーン設備等を使用するためのコスト(クレーン設備のレンタル料金)等が増加し、これに伴い工事費用も増加する場合がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、風力発電装置に対する工事を行う適切な時期を特定することができる、工事時期選択装置及び工事時期選択方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の工事時期選択装置及び工事時期選択方法は以下の手段を採用する。
【0010】
すなわち、本発明に係る工事時期選択装置は、風力発電装置に備えられている部品の状態を検出する検出手段から出力された検出信号の時間変化に基づいて予測された、該部品に故障が生じる時期に応じて、前記部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を判定する判定手段と、前記風力発電装置が設置されている場所の風速が、前記部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合を所定日数毎及び所定時間数毎に示した工事停止情報を記憶した記憶手段と、前記判定手段で判定された時期を基準に、前記記憶手段に記憶された前記工事停止情報により示される前記割合に基づいて、前記部品に対する工事を行う時期を選択する選択手段と、を備える。
【0011】
本発明によれば、判定手段によって、風力発電装置に備えられている部品の状態を検出する検出手段から出力された検出信号の時間変化に基づいて予測された、該部品に故障が生じる時期に応じて、部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期が判定される。
また、記憶手段は、風力発電装置が設置されている場所の風速が、部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合を所定日数毎及び所定時間毎に示した工事停止情報を記憶している。なお、所定日数毎とは、例えば1週間毎や1月毎等であり、所定時間数毎とは、例えば1日のうち1時間毎や2時間毎等である。
【0012】
風力発電装置は、風が吹きやすい立地に設置され、風力発電装置にとって主要な部品は、高所、すなわち風に晒される位置に備えられている。このため、風速によっては工事ができない場合が生じやすい。
そこで、選択手段は、判定手段で判定された時期を基準に、工事停止情報により示される割合に基づいて、部品に対する工事を行う時期を選択する。
【0013】
従って、本発明は、風の影響が小さい時期を、工事を行う時期として選択できるようになるので、風力発電装置に対する工事を行う適切な時期を特定することができる。
【0014】
また、本発明の工事時期選択装置は、前記選択手段が、前記判定手段によって判定された時期を基準に策定された複数の工事計画のうち、前記工事停止情報により示される割合に基づいて算出された工事期間が、所定値以下となる工事計画を選択してもよい。
【0015】
本発明によれば、判定手段で判定された時期を基準に策定された複数の工事計画から、工事停止情報により示される割合に基づいて算出された工事期間が、所定値以下となる工事計画を選択するので、より効率のよい工事が行える時期を特定することができる。なお、所定値以下の工事期間として最も好ましくは、複数の工事計画のうち最小値となる工事期間である。
【0016】
また、本発明の工事時期選択装置は、前記判定手段によって判定された時期を基準に策定された複数の工事計画毎に、必要とするコストを算出する算出手段を、備え、前記選択手段が、複数の前記工事計画のうち、前記算出手段によって算出されたコストが所定値以下となる工事計画を選択してもよい。
【0017】
本発明によれば、工事計画毎に必要とするコストを算出し、コストが所定値以下となる工事計画を選択するので、金銭的により効率のよい工事が行える時期を特定することができる。なお、所定値以下のコストとして最も好ましくは、複数の工事計画のうち最小値となるコストである。
【0018】
また、本発明の工事時期選択装置は、前記算出手段によって算出されるコストに、前記風力発電装置が停止することによって生じる損害金が含まれてもよい。
【0019】
本発明によれば、工事のコストに風力発電装置が停止することによって生じる損害金が含まれるので、金銭的により効率のよい工事が行える時期を特定することができる。
【0020】
一方、本発明に係る工事時期選択方法は、風力発電装置に備えられている部品の状態を検出する検出手段から出力された検出信号の時間変化に基づいて予測された、該部品に故障が生じる時期に応じて、前記部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を判定する第1工程と、前記第1工程で判定された時期を基準とし、前記風力発電装置が設置されている場所の風速が、前記部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合を所定日数毎及び所定時間数毎に示した工事停止情報により示される該割合に基づいて、前記部品に対する工事を行う時期を選択する第2工程と、を含む。
本発明によれば、風の影響が小さい時期を、工事を行う時期として選択できるようになるので、風力発電装置に対する工事を行う適切な時期を特定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、風力発電装置に対する工事を行う適切な時期を特定することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る風力発電システムの全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る風力発電装置に備えらている主要部品の状態を検出する状態検出装置を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る工事計画策定処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る状態監視装置で行われる主要部品の状態の診断方法の説明に要する図であり、(A)は、振動センサの検出結果を示す図であり、(B)は、振動センサの検出結果から得られる故障日時の予測を示す図であり、(C)は、メタルスキャンの検出結果から得られる故障日時の予測を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る寿命予測装置で行われる主要部品に対する工事の必要性の有無を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る工事計画装置で行われる工事時期選択プログラムの内容を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態に係る気象予測データベースの内容を示す模式図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る工事情報データベースの内容を示す模式図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る工事計画装置で策定される工事計画を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る工事時期選択装置及び工事時期選択方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について、図1を用いて説明する。
本第1実施形態に係る風力発電システム10は、複数の風力発電装置12を備えた複数のサイト14A,14B,14C、並びに情報処理装置としての遠隔監視装置16、状態監視装置18、設備管理装置20、及び工事計画装置22を備えている。なお、以下の説明において、各サイト14を区別する場合は、符号の末尾にA〜Bの何れかを付し、各サイト14を区別しない場合は、A〜Bを省略する。
【0025】
風力発電装置12は、風力を電力に変換する装置であり、風力発電装置12に備えられている主要部品の状態を示すデータ(以下、「部品状態データ」という。)を、通信回線24(例えば、インターネット又は専用の回線等)を介して遠隔監視装置16へ送信する。
【0026】
図2は、風力発電装置12に備えられている主要部品の状態を検出する状態検出装置を示す模式図である。
図2に示す風力発電装置12は、基礎上に立設される支柱の上端に設置されるナセル40と、略水平な軸線周りに回転可能にしてナセル40に設けられるロータヘッド42とを有している。
【0027】
ロータヘッド42には、その回転軸線周りに放射状にして複数枚(本第1実施形態では3枚)の翼44がロータヘッド42に取り付けられている。これにより、ロータヘッド42の回転軸線方向から翼44に当たった風の力が、ロータヘッド42を回転軸線周りに回転させる動力に変換される。そして、ロータヘッド42の回転に応じて回転する主軸48、及び主軸48の回転数を増速する増速機46を介して動力が発電機50に伝達され、発電機50によって動力が電力に変換される。
【0028】
なお、主軸48には、主軸48を支持する主軸受52が設けられている。また、増速機46の低速段には、軸受54Aが設けられ、増速機46の高速段には、軸受54Bが設けられている。
【0029】
さらに、ナセル40内には、各種軸受に対して、潤滑油を供給して潤滑する油潤滑装置56が設けられている。
【0030】
なお、本第1実施形態では、主要部品を軸受54A,54B及び油潤滑装置56として説明するが、これは一例であり、他の部品を主要部品としてもよい。
【0031】
本第1実施形態に係る主要部品の状態を検出する状態検出装置としては、一例として、増速機46の軸受54Aに対して振動センサ58Aが設けられ、増速機46の軸受54Bに対して振動センサ58Bが設けられ(例えば、3箇所ずつ、計測周波数1kHz)、油潤滑装置56に対してメタルスキャン(摩耗粒子検出装置)60が設けられる。
なお、振動センサ58A,58Bは、軸受54A,54Bに生じる振動を検出し、メタルスキャン60は、油潤滑装置56内の摩耗粒子量を検出する。
【0032】
振動センサ58A,58B及びメタルスキャン60は、データ収集装置62によって、動作が制御される。
具体的には、データ収集装置62は、所定間隔(例えば、1日に1回、5分程度)で振動センサ58A,58B及びメタルスキャン60を動作させ、振動センサ58A,58B及びメタルスキャン60からの検出信号の入力を受け付ける。データ収集装置62は、検出信号が入力されると、該検出信号に基づいて解析を行い、部品状態データとして、通信装置64及び通信回線(例えば、インターネット)を介して遠隔監視装置16へ送信する。なお、データ収集装置62及び通信装置64は、例えば、ナセル40内又は支柱内に設けられている。
【0033】
遠隔監視装置16は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置70を備え、記憶装置70に、データ収集装置62から送信された部品状態データを時系列、かつ風力発電装置12毎及び主要部品毎に表形式で示した遠隔監視データベースを記憶させる。
【0034】
状態監視装置18は、遠隔監視装置16の記憶装置70に記憶されている遠隔監視データベースの内容に基づいて、風力発電装置12に備えられている主要部品の状態を診断し、記憶装置72に、各主要部品毎の診断結果を示す状態監視データベースを記憶させる。なお、主要部品の状態の診断とは、風力発電装置12に備えられている主要部品の状態を検出する状態検出装置(例えば、振動センサ58A,58B及びメタルスキャン60)から出力された検出信号の時間変化に基づいて、主要部品に故障が生じる時期を予測することである。
【0035】
設備管理装置20は、記憶装置74に部品工事データベース及び寿命予測データベースを記憶している。
【0036】
部品工事データベースは、各主要部品毎に生じた故障に伴い主要部品の交換又は修理を行った時期を、サイト毎及び主要部品毎に示している。
寿命予測データベースは、部品工事データベースの内容に基づいて算出された、各主要部品の故障が発生する率を予測する予測式を示している。
【0037】
そして、設備管理装置20は、状態監視装置18から送信される主要部品の診断結果と寿命予測データベースに示される予測式から、主要部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を判定する。
【0038】
工事計画装置22は、記憶装置76に気象情報データベース、工事情報データベース、工事コストデータベース、及びLDデータベースを記憶している。
【0039】
気象情報データベースは、風力発電装置12が設置されている場所の風速が、主要部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合を所定日数毎及び所定時間数毎に示している。
工事情報データベースは、主要部品に対して工事を行う場合に必要とする工程、日数、人数、作業制限等を各主要部品毎に示している。
工事コストデータベースは、主要部品に対して行う工事のコストを算出するために必要なデータを示している。
LDデータベースは、風力発電装置12で発電した電力を供給する電気事業主との間で取り決められている、電力の供給が滞ったときに発生する約定損害賠償金(Liquidated Damage:LD)単価等を示している。
【0040】
そして、工事計画装置22は、設備管理装置20から送信される判定結果並びに、気象情報データベース、工事情報データベース、工事コストデータベース、及びLDデータベースに基づいて、工事を必要とする主要部品に対して工事を行う時期を選択すると共に、工事計画を立てる。
【0041】
次に、本第1実施形態に係る風力発電システム10による工事計画策定処理の流れを、図3を参照して説明する。
【0042】
ステップ100では、データ収集装置62が状態検出装置(例えば、振動センサ58A,58B及びメタルスキャン60)からデータを収集するタイミングとなると、状態検出装置からの検出信号を受け付け、該検出によって得られた部品状態データを、通信回線24を介して遠隔監視装置16へ送信する。
【0043】
次のステップ102では、遠隔監視装置16が、受信した部品状態データを、風力発電装置12及び主要部品毎に遠隔監視データベースに追加させることで、HDD70に記憶させる。
【0044】
次のステップ104では、状態監視装置18が遠隔監視データベースの内容に基づいて、風力発電装置12の主要部品の状態を診断する。
【0045】
ここで、状態監視装置18で行われる主要部品の状態の診断方法について説明する。
【0046】
例えば、状態監視装置18は、増速機46の軸受54A,54Bの振動を検知する振動センサ58A,58Bから出力された検出信号に基づいた部品状態データから、回転数毎(低速段の回転数N,高速段の回転数2N)に応じた固有振動数の振幅を求める(図4(A)参照)。
そして、状態監視装置18は、回転数毎の振幅の実測値の時間変化から、さらに時間が経過した後の振幅の予測値を算出する。
【0047】
さらに、状態監視装置18は、算出した振幅の予測値が予め定められた故障の閾値を超える日時である、増速機46の故障の予測時期を導出する(図4(B)参照)。なお、予測値は、例えば、実測値から得られる近似式により算出される。また、故障の閾値は、段階的に複数定められている。
【0048】
また、例えば、状態監視装置18は、油潤滑装置56内の摩耗粒子量を検出するメタルスキャン60から出力された検出信号に基づいた部品状態データである摩耗粒子検出量の時間変化から、さらに時間が経過した後の摩耗粒子検出量の予測値を算出する。
さらに、状態監視装置18は、算出した摩耗粒子検出量の予測値が予め定められた故障の閾値を超える日時である、油潤滑装置56の故障の予測時期を導出する(図4(C)参照)。
【0049】
そして、状態監視装置18は、状態監視データベースに、図4(B),(C)に示されるような実測値の時間変化と予測結果とを状態監視データベースに追加すると共に、導出した各主要部毎の故障の予測時期を設備管理装置20へ送信する。
【0050】
次のステップ106では、設備管理装置20が、状態監視装置18から送信される主要部品の診断結果と寿命予測データベースに示される予測式から、主要部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を判定する。
【0051】
ここで、設備管理装置20で行われる主要部品の工事を行う時期の判定方法について説明する。
なお、設備管理装置20は、風力発電装置12の主要部品に対し工事(修理又は交換)を行った時期が入力される毎に、該時期が部品工事データベースへ追加され、追加された時期は、サイト14毎及び主要部品毎に管理される。なお、風力発電装置12の主要部品に対し工事(修理又は交換)を行った時期の入力は、例えば、オペレータによってキーボード等を介して入力される。
【0052】
設備管理装置20は、記憶装置74に記憶されている部品工事データベースの内容に基づいて、主要部品毎に累積故障率(故障が発生する率)の時間変化を算出する。
【0053】
累積故障率の実績値は、下記(1)式によって算出される。なお、累積故障率の実績値は、各サイト14毎の主要部品毎に算出される。
【数1】

例えば、サイト14Aの増速機46が合計で120台あり、2008年(運転開始年)から2010年の累積故障数が10台とすると、2010年までの累積故障率は、8.3%となる。
【0054】
そして、設備管理装置20は、各年の累積故障率の実績値に基づいて、さらに時間が経過した後の累積故障率を予測する。
累積故障率を予測するためには、一例として、累積故障率の実績値の近似式を用いる。この近似式としては、例えば、下記(2)式に示されるワイプル近似式が用いられる。
【数2】

なお、(2)式において、tは年を示し、a,bはパラメータであり、該パラメータを変化させることで、累積故障率の近似式を得、該近似式から累積故障率を予測する。主要部品毎に予測された累積故障率は、寿命予測データベースに追加される。
【0055】
図5は、累積故障率の近似式に基づいた、設備管理装置20で行われる主要部品に対する工事の必要性の有無を示す図である。
なお、設備管理装置20は、状態監視装置18から送信される主要部品の診断結果より健全性を指数化し、故障の予測時期に当てはめ(例えば、図5の年数を0〜15年とし、健全性を0〜100%とする。例えば、現在が7年であり、健全性が30%であったらAとし、健全性が80%であったらCとする。)、累積故障率の近似式と比較する。
【0056】
図5に示すように、診断結果が現在よりも過去に故障していることを示し、かつ近似式で示される累積故障率よりも大きい場合(診断結果Aの場合)、該当する主要部品は、すでに故障している可能性があるため即時工事を行う必要があると判定される。
【0057】
また、診断結果が今後故障することを示し、かつ診断結果が閾値以下の場合(診断結果Bの場合)、該当する主要部品は、故障する可能性が低いと考えられるため、該主要部品に対する工事を見送る、と判定される。
【0058】
一方、診断結果が今後故障することを示し、かつ診断結果が閾値を超える場合(診断結果Cの場合)、該当する主要部品は、故障する可能性が高いと考えられる。そのため、該主要部品に対して診断結果で得られた故障の予測時期が、該主要部品に対する工事を行う時期と判定される。判定結果としての工事を行う時期は、後述するように、工事計画を策定するにあたり、基準の時期(以下、「基準工事時期」という。)となる。
なお、上記閾値は、主要部品毎に予め定められており、寿命予測データベースで管理されている。
【0059】
次のステップ108では、設備管理装置20によって、工事を行う必要がある主要部品(以下、「要工事部品」という。)が有るか否かが判定され、肯定判定の場合は、ステップ110へ移行し、否定判定の場合は、本処理を終了する。
【0060】
ここでいう、要工事部品とは、図5の診断結果Cで示される主要部品であり、診断結果Aで示される即時工事を行う必要のある主要部品は、別途報知される。
一方、診断結果Bで示される主要部品は、工事が行われない。そのため、該主要部品は、状態監視装置18で算出される予測値が複数の閾値のうち、次の段階の閾値に達した場合に、再び設備管理装置20によって工事を行う時期の判定がされる。
【0061】
そして、ステップ110へ移行する場合、すなわち、要工事部品がある場合、設備管理装置20は、要工事部品に関するデータを、基準工事時期と共に工事計画装置22へ送信する。
【0062】
ステップ110では、工事計画装置22が、要工事部品に対する工事を行う時期を選択する工事時期選択処理を行う。
図6は、工事時期選択処理を行う場合に、工事計画装置22によって実行される工事時期選択プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、工事時期選択プログラムは例えば、記憶装置76の所定領域に予め記憶されている。
【0063】
まず、ステップ200では、工事計画の策定を行う。
工事計画の策定は、記憶装置76に記憶された気象情報データベースの内容に基づいて策定される。
【0064】
図7は、気象情報データベースの内容の一例を示す模式図である。
上述のように、気象情報データベースは、風力発電装置12が設置されている場所の風速が、要工事部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合(以下、「工事停止率」という。)を所定日数毎及び所定時間数毎に示している。
【0065】
なお、本第1実施形態では、風力発電装置12が設置されている場所の風速を、平均風速とするが、これに限らず、最大風速としてもよいし、例えば、平均風速よりも所定割合(例えば20%)遅い風速又は速い風速等、他の風速としてもよい。
また、本第1実施形態では、図7に示すように、所定日数を1月とし、所定時間数を4時間とするが、これに限らず、所定日数を例えば5日や10日、又は1週間や2週間等としてもよく、所定時間数を例えば、0.5時間、又は1時間や2時間等としてもよい。
【0066】
なお、工事停止率は、例えば、各サイト14の近隣の風速データから、月及び時間帯毎の平均風速を算出し、平均風速が予め定められた閾値となる風速を超える割合を算出することによって生成される。なお、平均風速は、工事計画装置22に新たな風速データが入力される毎に適宜更新されるため、これに伴い工事停止率も適宜更新される。
【0067】
そして、工事期間は、要工事部品をPNとし、工事月をmとし、時間帯をtとし、工事停止率をP(m,t)とし、標準工事期間をTC0(PN)とすると、下記(3)式から算出される。
【数3】

なお、工事停止率P(m,t)は、気象情報データベースから読み出され、標準工事期間TC0(PN)は、各主要部品毎に予め記憶装置76に記憶されているため、記憶装置76から読み出される。
【0068】
図7の一例は、工事作業を行う時間帯である8時から16時の間では、2月から4月の工事停止率が高い一方、6月から9月の工事停止率が低いことを示しており、図7の例では、(3)式から、2月から4月が工事停止期間が長く、6月から9月が工事停止期間が短く算出される。
【0069】
また、具体的な工事計画は、要工事部品に対して工事を行う場合に必要とする工程、日数、人数、作業制限等を各主要部品毎に示した工事情報データベースに基づいて、策定される。
【0070】
図8は、工事情報データベースの内容の一例を示す模式図であり、工事を行うにあたり、必要とされる標準的な工程を表わしている。
標準工程Yは、倉庫作業を示しており、作業制限はない、標準工程Pは、地上作業を示しており、風速10m/sec以下でなければ作業ができないという作業制限がある。また、標準工程Cは、クレーンを用いた作業であり、風速5m/sec以下でなければ作業ができないという作業制限があり、標準工程Rは、撤収作業及び運転復旧作業であり、ナセル40に対して行う作業であるセンターリング作業が行われる場合のみ、風速5m/sec以下でなければ作業ができないという作業制限がある。なお、本第1実施形態では、標準工程毎に作業制限、特に風速の制限値が異なるが、風速の制限値を同一としてもよい。
【0071】
そして、各主要部品に対する工事を行うための標準工程の組み合わせは、予め定められている。図9は、工事計画装置22で策定された工事計画の一例を示す模式図である。
図9に示されるように、工事計画は、各主要部品毎に曜日単位で工程が決定される。なお、標準工程を示すアルファベットの後端に付加されている数字は、必要とする班数(図8に示される班数の整数倍)を示している。
【0072】
さらに、要工事部品に対する工事計画は、設備管理装置20から入力された基準工事時期を基準として複数策定される。例えば、本第1実施形態では、基準工事時期から前1年以内の各月毎に工事計画を策定するが、これに限らず、基準工事時期から前半年以内の各月毎に工事計画を策定したり、基準工事時期の前後半年以内の各月毎に工事計画を策定してもよい。
なお、工事計画は、工事計画を策定するための他のプログラムを用いて策定されてもよいし、オペレータ自身によって策定されてもよい。
【0073】
次のステップ202では、策定した複数の工事計画毎に工事に要するコスト(金額)である工事コストを算出する。
【0074】
工事コストを算出する方法の一例を以下に説明する。
本第1実施形態では、下記(4)式に示すように、クレーンに要するコスト(以下、「クレーンコスト」という。)CC(Tc)と、人工に要するコスト(以下、「人工コスト」という。)CP(Tp)との和から工事コストC(PN)を算出する。なお、Tcは、クレーンの拘束時間であり、Tpは、人工の拘束時間である。
【数4】

すなわち、本第1実施形態では、クレーンの拘束時間に応じてクレーンコストが算出され、人工の拘束時間に応じて人工コストが算出される。
【0075】
そして、クレーンの拘束時間Tcは、下記(5)式から算出される。
【数5】

TC(PN)は、上述のように工事期間であり、TMc(x,y)は、サイト14内のx位置からy位置へクレーンを移動させるための移動時間であり、TMSc(S)は、他の場所からクレーンを移動させるための移動時間である。
【0076】
また、人工の拘束時間Tpは、下記(6)式から算出される。
【数6】

TMSp(S)は、他の場所から人工を移動させるための移動時間である。
なお、クレーンコストCC(Tc)、人工コストCP(Tp)、移動時間TMc(x,y)、移動時間TMSc(S)、移動時間TMSp(S)を算出するための関数は、工事コストデータベースで管理されている。
【0077】
次のステップ204では、策定した複数の工事計画毎に約定損害賠償金(LD)を算出する。約定損害賠償金は、下記(7)式から算出される。
【数7】

(7)式におけるTは、風力発電装置12の停止期間であり、工事期間と同じ期間又は工事期間よりも長い期間であり、稼動率保証値は、一例として、90〜99%である。また、LD単価は、LDデータベースから読み出される。
【0078】
次のステップ206では、策定した複数の工事計画毎に、下記(8)式に示されるように工事コストC(PN)と約定損害賠償金LD(T)の和から合計コストCtotalを算出する。
【数8】

【0079】
次のステップ208では、複数の工事計画から、実際に行う工事計画を選択することによって、工事時期を選択し、本プログラムを終了する。具体的には、複数の工事計画のうち、ステップ206で算出された合計コストが所定値以下となる工事計画を選択する。
本第1実施形態に係る工事時期選択処理では、複数の工事計画のうち合計コストが最小値となる工事計画を選択する。しかし、これに限らず、例えば、合計コストが予め設定されたコスト以下となる工事計画のうち、最も早い時期に開始される工事計画、又は基準工事時期に最も近い工事計画を選択してもよい。
【0080】
次のステップ210では、ステップ208で選択した工事計画を出力し、本プログラムを終了する。選択した工事計画の出力方法の具体例としては、工事計画装置22に備えられている画像表示装置による選択した工事計画の表示、印刷装置による工事計画を記録した用紙の出力、及び記憶装置76への選択した工事計画を示すデータの記憶等である。
【0081】
以上説明したように、本第1実施形態に係る風力発電システム10は、風力発電装置12に備えられている主要部品の状態を検出する状態検出装置から出力された検出信号の時間変化に基づいて予測された、該主要部品に故障が生じる時期に応じて、主要部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を設備管理装置20が判定する。そして、工事計画装置22は、判定された時期を基準とし、風力発電装置12が設置されている場所の平均風速が、要工事部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる工事停止率に基づいて、要工事部品に対する工事を行う時期を選択する。
【0082】
従って、本第1実施形態に係る風力発電システム10は、風の影響が小さい時期を、工事を行う時期として選択できるようになるので、風力発電装置12に対する工事を行う適切な時期を特定することができる。
【0083】
また、本第1実施形態に係る風力発電システム10は、工事計画毎に必要とする合計コストを算出し、合計コストが所定値以下となる工事計画を選択するので、金銭的により効率のよい工事が行える時期を特定することができる。
【0084】
また、本第1実施形態に係る風力発電システム10は、工事の合計コストに風力発電装置12が停止することによって生じる約定損害賠償金が含まれるので、金銭的により効率のよい工事が行える時期を特定することができる。
【0085】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0086】
なお、本第2実施形態に係る風力発電システム10の構成は、図1に示される第1実施形態に係る風力発電システム10の構成と同様であるので説明を省略する。
【0087】
上記第1実施形態では、要工事部品に対する工事を行うにあたって、サイト14間のクレーンの移動及び人工の移動は考慮されていなかった。そこで、本第2実施形態では、サイト14間のクレーン及び人工の移動並びに配分を考慮して、工事計画を策定する。
例えば、本第2実施形態では工事計画装置22が、隣り合うサイト14間でクレーン及び人工の移動が行われ、移動コストが低下するように工事計画を策定、選択する。また、他の例としては、工事計画装置22が、異なるサイト14で、同時期に同じ要工事部品に対する工事を行わないように工事計画を策定、選択する。
【0088】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0089】
例えば、上記各実施形態では、工事計画選択処理において、合計コストが所定値以下となる工事計画を選択する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、約定損害賠償金の算出を行うことなく、工事コストが所定値以下となる工事計画を選択する形態としてもよい。
【0090】
また、工事計画選択処理において、工事コスト及び約定損害賠償金の算出を行うことなく、基準工事時期を基準に策定された複数の工事計画から、気象予測情報データベースにより示される工事停止率に基づいて算出された工事期間が、所定値以下となる工事計画を選択されてもよい。これにより、より効率のよい工事が行える時期を特定することができる。
なお、この形態の場合、所定値以下の工事期間として、複数の工事計画のうち工事期間が最小値となる工事計画が選択されてもよいし、例えば、工事期間が予め設定された工事期間以下となる工事計画のうち、最も早い時期に開始される工事計画、又は基準工事時期に最も近い工事計画が選択されてもよい。
【0091】
また、上記各実施形態では、遠隔監視装置16、状態監視装置18、設備管理装置20、及び工事計画装置22を各々異なる情報処理装置とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、遠隔監視装置16、状態監視装置18、設備管理装置20、及び工事計画装置22の各機能を一つの情報処理装置に備えさせる形態、又は遠隔監視装置16、状態監視装置18、設備管理装置20、及び工事計画装置22の各機能のうち、何れか2つ以上を一つの情報処理装置に備えさせる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 風力発電システム
12 風力発電装置
16 遠隔監視装置
18 状態監視装置
20 設備管理装置
22 工事計画装置
46 増速機
54A,54B 軸受
56 油潤滑装置
58A,58B 振動センサ
60 メタルスキャン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置に備えられている部品の状態を検出する検出手段から出力された検出信号の時間変化に基づいて予測された、該部品に故障が生じる時期に応じて、前記部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を判定する判定手段と、
前記風力発電装置が設置されている場所の風速が、前記部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合を所定日数毎及び所定時間数毎に示した工事停止情報を記憶した記憶手段と、
前記判定手段で判定された時期を基準に、前記記憶手段に記憶された前記工事停止情報により示される前記割合に基づいて、前記部品に対する工事を行う時期を選択する選択手段と、
を備えた工事時期選択装置。
【請求項2】
前記選択手段は、前記判定手段によって判定された時期を基準に策定された複数の工事計画のうち、前記工事停止情報により示される割合に基づいて算出された工事期間が、所定値以下となる工事計画を選択する請求項1記載の工事時期選択装置。
【請求項3】
前記判定手段によって判定された時期を基準に策定された複数の工事計画毎に、必要とするコストを算出する算出手段を、
備え、
前記選択手段は、複数の前記工事計画のうち、前記算出手段によって算出されたコストが所定値以下となる工事計画を選択する請求項1又は請求項2記載の工事時期選択装置。
【請求項4】
前記算出手段によって算出されるコストは、前記風力発電装置が停止することによって生じる損害金が含まれる請求項3記載の工事時期選択装置。
【請求項5】
風力発電装置に備えられている部品の状態を検出する検出手段から出力された検出信号の時間変化に基づいて予測された、該部品に故障が生じる時期に応じて、前記部品の故障に伴う交換又は修理の工事を行う時期を判定する第1工程と、
前記第1工程で判定された時期を基準とし、前記風力発電装置が設置されている場所の風速が、前記部品の工事を行えない予め定められた閾値以上となる割合を所定日数毎及び所定時間数毎に示した工事停止情報により示される該割合に基づいて、前記部品に対する工事を行う時期を選択する第2工程と、
を含む工事時期選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−140905(P2012−140905A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294197(P2010−294197)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】