説明

工作機械用異常検出装置及び異常検出方法

【課題】 装置全体としての異常検出を精度高く行うことができる工作機械用異常検出装置を提供する。
【解決手段】 第1〜第4モータ3A〜3Dへの供給電力から得られるモータ対応移動平均値HVc(第1〜第4モータ対応移動平均値HV1〜HV4)及びモータ対応移動標準偏差SVc(第1〜第4モータ対応移動標準偏差値SV1〜SV4)に加えて、第1〜第4モータ3A〜3Dへの供給電力の差分値から得られるモータ相互間移動平均値HVab及びモータ相互間移動標準偏差値SVabを用いて装置全体の異常検出を行う。モータ対応移動平均値HVc及びモータ対応移動標準偏差SVcでは、その検出範囲が各モータに対応する負荷に制約されてしまうが、モータ相互間移動平均値HVab及びモータ相互間移動標準偏差値SVabを用いることにより、各モータの負荷相互間の影響を把握することができ、その分、検出精度の向上及び検出範囲の拡大を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台のモータを用いたNC工作機械などの工作機械用の異常検出装置及び異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械に対する異常検出装置の一例として、特許文献1に示される装置がある。
この異常検出装置は、ワークに加工を施すための工具を主軸に保持し、この主軸を回転駆動するための主軸モータに流れる電流を所定時間毎に測定し、その平均値を算出し、さらにこの算出した平均値の標準偏差を求め、その平均値及び標準偏差をそれぞれのしきい値と比較して、工具異常の判定を行うようにしている。
【0003】
また、故障診断装置の例として、非特許文献1に示される装置がある。
この装置は、工具の刃先の劣化(摩耗)程度の把握を、主軸モータの電力値と共に、電力値の標準偏差を用いて行うようにしている。
【特許文献1】特開平10−146740号公報
【非特許文献1】「電力診断による故障予知技術の確立」(日野 功司、岡本 渉 著 プラントメンテナンス協会発行「Plant Engineer」 Mar.2003 第21〜23頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工作機械では、工具の摩耗し異常状態になった場合、その影響はこの工具を作動させるモータの電力値に変化を及ぼす一方,同時に他軸のモータ(例えばX軸テーブル駆動用モータ)にも影響を及ぼす。また,同様に、前記X軸テーブルを駆動するために設けられる送りねじ機構の軸受の摩耗が当該X軸テーブル駆動用モータの電力に影響するのみならず、例えば工具を作動させるモータを含む他のモータの電力にも影響することになる。
しかしながら、特許文献1の装置は、主軸モータに流れる電流のみを用いて、工具異常の判定を行うようにしている。このため、他のモータの負荷の影響が考慮されておらず、その分、検出精度が劣っているものになっていた。このことは、非特許文献1の装置についても、同様に言えることである。
【0005】
また、工作機械では、工具単独のように負荷毎の異常検出に留まらず、装置全体として幅広く異常検出を図ることが望まれている。しかしながら、上述したように他のモータの負荷の影響が考慮されていない特許文献1又は非特許文献1の装置では、これら装置を複数備えても、装置全体としての異常検出を精度高く行うことは難しく、改善が求められているというのが実情であった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、装置全体としての異常検出を精度高く行うことができる工作機械用異常検出装置及び異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、工具のワークに対する作動及び前記工具及び前記ワークの移動を行う複数個のモータを有する工作機械用の異常検出装置であって、前記複数個のモータの各電力値であるモータ対応電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差を求めると共に、前記複数個のモータ相互間の電力値の差分値であるモータ相互間電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を求める移動平均値・移動標準偏差算出手段と、前記モータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差及びモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を、予め設定された前記複数個のモータ毎のモータ対応許容移動平均値とモータ対応許容移動標準偏差、前記相互のモータに対応するモータ相互間許容移動平均値とモータ相互間許容移動標準偏差とそれぞれ比較し、その比較結果に基づいて装置状態の判定を行う判定手段と、を備えたことを特徴する。
【0008】
請求項2記載の発明は、工具のワークに対する作動及び前記工具の移動を行う複数個のモータを有する工作機械に対する異常検出方法であって、前記複数個のモータの各電力値であるモータ対応電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差を求め、前記複数個のモータ相互間の電力値の差分値であるモータ相互間電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を求め、前記モータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差及びモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を、予め設定された前記複数個のモータ毎のモータ対応許容移動平均値、前記複数個のモータ毎のモータ対応許容移動標準偏差、前記相互のモータに対応するモータ相互間許容移動平均値、及び前記相互のモータに対応するモータ相互間許容移動標準偏差と比較し、その比較結果に基づいて装置状態の判定を行うことを特徴する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1又は2記載の発明によれば、モータ対応電力値から得られるモータ対応移動平均値及びモータ対応移動標準偏差に加えて、モータ相互間電力値から得られるモータ相互間移動平均値及びモータ相互間移動標準偏差を用いて装置全体の異常検出を行う。モータ対応移動平均値及びモータ対応移動標準偏差では、その検出範囲が各モータに対応する負荷に制約されてしまうが、モータ相互間移動平均値及びモータ相互間移動標準偏差値を用いることにより、各モータの負荷相互間の影響を把握することができ、その分、検出精度の向上及び検出範囲の拡大を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態に係る工作機械用異常検出装置を図面に基づいて説明する。
図1及び図2において、工作機械用異常検出装置(以下、異常検出装置という。)1は工作機械2に用いられており、後述する第1〜第4モータ3A〜3Dに対応する各負荷のみならず、工作機械2全体に対する異常検出を行うようにしている。
工作機械2は、X軸テーブル4、Y軸テーブル5及びZ軸テーブル6を有している。X軸テーブル4、Y軸テーブル5及びZ軸テーブル6は、それぞれに対応して設けられたX軸テーブル4用のサーボモータ(以下、第2モータという。)3B、Y軸用のサーボモータ(以下、第3モータという。)3C及びZ軸テーブル6用のサーボモータ(以下、第4モータという。)3Dによりそれぞれ送りねじ機構7B,7C,7Dを介してX軸方向、X軸方向と直角なY軸方向、X軸方向及びY軸方向と直角なZ軸方向へ移動可能となっている。
【0011】
Y軸テーブル5には、Z軸方向と平行に後述する主軸用のサーボモータ(以下、第1モータという。)第1モータ3Aが配設され、そのロータである主軸8に回転工具9が取り付けられている。Z軸テーブル6にはワーク10が保持されている。そして、工作機械2は、ワーク10に対する回転工具9の作動によりワーク10に加工を施すようにしている。
【0012】
前記第1〜第4モータ3A〜3Dには、NC制御装置11及び異常検出装置1が接続されている。NC制御装置11は、第1〜第4モータ3A〜3Dの位置情報を用いて主軸8とワーク10との相対位置を検出しながら目標位置との偏差を逐次把握してフィードバック制御し、予め定められた移動経路(NCデータ)に従って主軸8(回転工具9)とワーク10とを相対移動させ、ワーク10に対する加工処理を行うようにしている。
【0013】
異常検出装置1は、第1〜第4モータ3A〜3Dに供給される電力をそれぞれ検出する電力検出部12と、表面パネル13(ディスプレイ)を有し後述するマイコン部14に接続されたPIC15(パネル制御I/F)と、マイコン部14からのデータ(検出値及び演算結果値など)を読出し可能に格納するコンパクトフラッシュ(登録商標)リードライト(以下、便宜上、演算結果値等記憶部という。)16と、後述するモータ電流検出部25とモータ3側の検出部との間に分岐接続された電源回路17と、を備えている。
【0014】
異常検出装置1は、さらに、NC制御装置11からの信号(測定中信号)20を入力する入力I/F(入力インターフェース)21と、前記各モータ(第1〜第4モータ3A〜3D)に対応して設けられた表示部22A〜22D及び報知器23A〜23Dにそれぞれ、マイコン部14から出力される各モータ(第1〜第4モータ3A〜3D)の負荷の状態を示す表示信号及び報知信号を伝達する出力I/F(出力インターフェース)24と、前記マイコン部14と、から大略構成されている。
【0015】
電力検出部12は、第1〜第4モータ3A〜3Dにそれぞれ供給される電流(以下、モータ電流という。)を検出するモータ電流検出部25と、各モータ(第1〜第4モータ3A〜3D)にかかる電圧(以下、モータ電圧という。)を検出するモータ電圧検出部26と、を有している。そして、電力検出部12は、モータ電流及びモータ電圧の乗算によりモータ毎に電力値(以下、第1〜第4モータ対応電力値という)W1,W2,W3,W4を求めてマイコン部14に出力する。
【0016】
マイコン部14は、図1に示すように、メイン処理部30と、演算部31と、判定部32と、計時機能を有するRTC33と、演算部31等のワークエリアになる記憶部(便宜上、マイコン記憶部という。)34と、を有し、後述する図3乃至図5のフローチャートに示す演算処理を行うようになっている。
演算部31は、電力検出部12から第1〜第4モータ対応電力値W1〜W4のそれぞれを所定制御周期毎にサンプリングし、それぞれ時系列的に並ぶn個の第1〜第4モータ対応電力値W1〜W4に対する平均値(第1〜第4モータ対応平均値)H1〜H4、及び標準偏差(第1〜第4モータ対応標準偏差値)S1〜S4を求める。
以下、適宜、第1〜第4モータ対応平均値H1〜H4をモータ対応平均値Hcと総称し、第1〜第4モータ対応標準偏差値S1〜S4をモータ対応標準偏差値Scと総称する。
例えば、第3モータ対応平均値H3、第3モータ対応標準偏差S3は、それぞれ次の式(1)及び(2)により求めるようにしている。
【0017】
H3=(1/n)×Σni=1(W3i) … … (1)
ただし、n :時系列的に並ぶ演算対象個数
【0018】
S3=√[[1/(n−1)]×Σni=1(W3i−H3)2] … … (2)
ただし、W3i:時系列的に検出されるn個の第3モータ対応電力値W3のうちi番目の電力値。
【0019】
演算部31は、上述した第1〜第4モータ対応平均値H1〜H4(モータ対応平均値Hc)、及び第1〜第4モータ対応標準偏差値S1〜S4(モータ対応標準偏差値Sc)の算出を順次、時系列的に1個ずつずらして行うことにより、各モータ(第1〜第4モータ3A〜3D)に対応する移動平均値(第1〜第4モータ対応移動平均値)HV1〜HV4(以下、適宜、モータ対応移動平均値HVcという。)、移動標準偏差(第1〜第4モータ対応移動標準偏差値)SV1〜SV4(以下、適宜、モータ対応移動平均値SVcという。)を得る。
【0020】
演算部31は、さらに、第1モータ対応電力値W1から第2モータ対応電力値W2を減算して第1・第2モータ相互間電力値W12(=W1−W2)を算出し、第1・第2モータ相互間電力値W12を所定制御周期毎にサンプリングし、前記モータ対応電力値(例えば第1モータ対応電力値W1)の場合と同様に、時系列的に並ぶn個の第1・第2モータ相互間電力値W12に対する平均値(第1・第2モータ相互間平均値)H12、及び標準偏差(第1・第2モータ相互間標準偏差値S12)を求めると共に、この算出を順次、時系列的に1個ずつずらして行うことにより、各モータに対応する移動平均値(第1・第2モータ相互間移動平均値)HV12、移動標準偏差(第1・第2モータ相互間移動標準偏差値SV12)を得る。
【0021】
演算部31は、第1、第2モータ対応電力値W1,W2の場合と同様に、第1、第3モータ対応電力値W1,W3、第1、第4モータ対応電力値W1,W4、第2、第3モータ対応電力値W2,W3、第2、第4モータ対応電力値W2,W4、第3、第4モータ対応電力値W3,W4に対しても、上述したのと同様に演算を行い、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間、第2・第3モータ相互間、第2・第4モータ相互間、第3・第4モータ相互間平均値H13,H14,H23,H24,H34(以下、適宜、第1・第2モータ相互間平均値H12と合わせてモータ相互間平均値Habという。)を算出する。
演算部31は、モータ相互間平均値Habの算出の場合と同様に、第1・第2モータ相互間、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間、第2・第3モータ相互間、第2・第4モータ相互間、第3・第4モータ相互間標準偏差値S12,S13,S14,S23,S24,S34(以下、適宜、モータ相互間標準偏差値Sabと総称する。)を算出する。
【0022】
演算部31は、上述したのと同様に、モータ相互間平均値Habの算出を順次、時系列的に1個ずつずらして行うことにより、モータ相互間移動平均値HVab(第1・第2モータ相互間、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間、第2・第3モータ相互間、第2・第4モータ相互間、第3・第4モータ相互間移動平均値HV12,HV13,HV14,HV23,HV24,HV34)を得る。
同様にして、第1・第2モータ相互間移動標準偏差値SV12(第1・第2モータ相互間、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間、第2・第3モータ相互間、第2・第4モータ相互間、第3・第4モータ相互間移動標準偏差値SV12,SV13,SV14,SV23,SV24,SV34)を得る。
演算部31は、上述したようにしてモータ対応平均値Hc、モータ対応標準偏差値Sc、モータ対応移動平均値HVc、モータ対応移動標準偏差値SVc、モータ相互間平均値Hab、モータ相互間標準偏差値Sab、モータ相互間移動平均値HVab、後述するモータ相互間移動標準偏差値SVabを、所定制御周期で求めるようにしている。
【0023】
モータ対応平均値Hc、モータ対応標準偏差値Sc、モータ相互間平均値Hab及びモータ相互間標準偏差値Sabの算出例を図6の表及び式に示す。図6の表及び式は、第1、第2モータ対応電力値W1,W2について時系列的に5回検出した(n=5)場合に、第1、第2モータ対応平均値H1,H2、第1・第2モータ相互間平均値H12、第1、第2モータ対応標準偏差値S1,S2及び第1・第2モータ相互間標準偏差値S12を求めた例を示している。
【0024】
また、予め、試作品を対象にした計測により第1〜第4モータ対応許容移動平均値KHV1〜KHV4(以下,適宜、モータ対応許容移動平均値KHVcと総称する。)及びモータ相互間許容平均値KHV12,KHV13,KHV14,KHV23,KHV24,KHV34(以下,適宜、モータ相互間許容移動平均値KHVabと総称する。)が求められている。このモータ対応許容移動平均値KHVc及びモータ相互間許容移動平均値KHVab(以下、適宜、許容移動平均値KHVTと総称する。)は、演算結果等記憶部16に格納されている。
【0025】
また同様に、上記計測により、第1〜第4モータ対応許容移動標準偏差KSV1〜KSV4(以下、適宜、モータ対応許容移動標準偏差値KSVcと総称する。)及びモータ相互間許容移動標準偏差値KSV12,KSV13,KSV14,KSV23,KSV24,KSV34(以下,適宜、モータ相互間許容移動標準偏差値KSVabと総称する。)が求められている。このモータ対応許容移動標準偏差値KSVc及びモータ相互間許容移動標準偏差値KSVab(以下、適宜、許容移動標準偏差値KSVTと総称する。)は、演算結果等記憶部16に格納されている。
【0026】
判定部32は、上述したように所定制御周期で求められるモータ対応移動平均値HVc、モータ対応移動標準偏差値SVc、モータ相互間移動平均値HVab、モータ相互間移動標準偏差値SVabを、所定制御周期毎に、それぞれ対応するモータ対応許容移動平均値KHVc、モータ対応許容移動標準偏差値KSVc、モータ相互間許容移動平均値KHVab、モータ相互間許容移動標準偏差値KSVabと比較して,比較結果に応じて、装置の状態を判定するようにしている。
【0027】
上述したように構成されるマイコン部14の演算処理内容を、図3乃至図5に基づいて説明する。図3は、マイコン部14が実行するメインルーチンを示す。図3において、マイコン部14は、電源などの投入により演算処理を開始し(ステップST1)、まず、変数(測定値など)の初期化、表面パネル12の初期画面の表示、RTC33からの日付、時刻の読込み、及び取得した日付、時刻のチェック、演算結果値等記憶部16への日付、時刻の書込み、登録内容の読込みなどの処理を行う初期化処理サブルーチンを実行する(ステップST2)。
ステップST2に続いて、モード設定項目cDispModeが、「SETTEI」、「HOZON」、「MEASURE」、「HANTEI」のいずれであるかの判定を、順次実行する(ステップST3〜ST6)。
【0028】
ステップST3でモード設定項目cDispModeが「SETTEI」である否かの判定を行い、ここでNOと判定するとステップST4に進んで、モード設定項目cDispModeが「HOZON」である否かの判定を行う。ステップST4でNOと判定すると、ステップST5に進んで、モード設定項目cDispModeが「MEASURE」である否かの判定を行う。ステップST5でNOと判定すると、ステップST6に進んで、モード設定項目cDispModeが「HANTEI」である否かの判定を行う。
【0029】
ステップST3でYESと判定すると、許容移動平均値KHVT〔モータ対応許容移動平均値KHVc、モータ相互間許容移動平均値KHVab〕、許容移動標準偏差値KSVT〔モータ対応許容移動標準偏差値KSVc、モータ相互間許容移動標準偏差値KSVab〕の設定、時刻設定などを含む設定処理サブルーチンを実行する(ステップST7)。
ステップST4でYESと判定すると、保存モード処理サブルーチンに進んで、演算部31で得た演算結果の演算結果値等記憶部16への書込み処理等を実行する(ステップST8)。
【0030】
ステップST5でYESと判定すると、測定モード処理サブルーチンを実行する(ステップST9)。
ステップST6でYESと判定すると、判定モード処理サブルーチンを実行する(ステップST10)。
【0031】
ステップST6でNOと判定するか、ステップST7〜ST10の処理が終了すると、リセット信号がオン(ON)されているか否かの判定を行う(ステップST11)。ステップST11でYESと判定すると、第1〜第4モータ3A〜3Dに対応して設けられた第1〜第4チャンネル(CH)の各NGランプ50(全CHのNGランプ50)を消灯させ(ステップST12)、モード設定項目cDispModeが「ERROR」であるか否かの判定を行う(ステップS13)。ステップS13でNOである〔モード設定項目cDispModeは「ERROR」でない〕と判定すると、ステップST3に戻る。
【0032】
ステップST13でYESであると判定すると、ステップST14でエラー表示(無限ループ)及びNGランプ50の点灯を行い、オペレータにエラー発生を報知する。
ステップST11でNOと判定すると、ステップST13に進む。
【0033】
測定モード処理サブルーチン(ステップST9)では、図4に示すように、検出データ(第1〜第4モータ対応電力値W1〜W4)を入力し(ステップST31)、検出データに基づいて、モータ相互間電力値Wab(第1・第2、第1・第3、第1・第4、第2・第3、第2・第4、第3・第4モータ相互間電力値W12、W13、W14、W23、W24、W34)を算出する(ステップST32)。
【0034】
ステップST31、ST32で得られたデータに基づいて、第1〜第4モータ対応平均値H1〜H4(Hc)、モータ相互間平均値Hab、第1〜第4モータ対応標準偏差値S1〜S4、及びモータ相互間標準偏差値Sabを算出し(ステップST33)、図3のメインルーチンに戻る。そして、ステップST33が制御周期毎に実行されることにより、第1〜第4モータ対応移動平均値HV1〜HV4(HVc)、第1〜第4モータ対応移動標準偏差値SV1〜SV4(SVc)、モータ相互間移動平均値HVab、及びモータ相互間移動標準偏差値SVabを得る。そして、これら演算結果は、演算結果等記憶部16に格納される。
【0035】
判定モード処理サブルーチン(ステップST10)では、図5に示すように、第1〜第4モータ対応移動平均値HV1〜HV4(HVc)をモータ対応許容移動平均値KHVcと比較し、かつ第1〜第4モータ対応移動標準偏差値SV1〜SV4をモータ対応許容移動標準偏差値KSVcを比較し、第1〜第4モータ3A〜3D側の負荷状態が良好であるか否かの判定を行う良否を判定する(ステップST41)。
【0036】
ステップST41で良好と判定すると、モータ相互間移動平均値HVabをモータ相互間許容移動平均値KHVabと比較し、かつモータ相互間移動標準偏差値SVabをモータ相互間許容移動標準偏差値KSVabと比較することにより、各モータ(第1〜第4モータ3A〜3D)の負荷による他の負荷への影響を含む装置全体の状態が良好であるか否かの判定を行う(ステップST42)。ステップST42で良好と判定すると、図3のメインルーチンに戻る。
ステップST41又はST42で不良と判定すると、第1〜第4モータ3A〜3Dに対応した負荷状態又は装置全体の状態が不良であるとして、その旨を表面パネル13に表示させ、かつ報知器23A〜23Dに報知させ(ステップST43)、オペレータに不良状態の発生を知らせ、処理を終了する。
【0037】
上述したように構成された工作機械用異常検出装置1の作用を以下に説明する。
一般に工作機械においては、上述したように工具のワークに対する加工状態(切れ味)の鈍化に伴い、工具を駆動するモータへの供給電力(大きさなど)が変化することになり、この供給電力の大きさを基準値と比較することにより、工具の状態が不良になったどうかを把握する(換言すれば異常判定を行う)ことが可能である。この場合、供給電力を所定制御周期でサンプリングして移動標準偏差を求め、その移動標準偏差を基準移動標準偏差と比較することにより、前記異常判定の精度向上を図ることができる。
【0038】
そして、本実施の形態は、上述したように、第1モータ対応移動平均値HV1を第1モータ対応許容移動平均値KHV1と比較し、かつ、第1モータ対応移動標準偏差値SV1を第1モータ対応許容移動標準偏差値KSV1と比較して判定を行うが、この判定により、第1モータ3Aに対応する負荷側に相当する回転工具9の異常判定を行うことができるものになっている。
また、同様にして、第2〜第4モータ対応移動平均値HV2〜HV4を、第2〜第4モータ対応許容移動平均値KHV2〜KHV4と比較し、かつ、第2〜第4モータ対応移動標準偏差値SV2〜SV4を第2〜第4モータ対応許容移動標準偏差値KSV2〜KSV4と比較して判定を行っており、この判定により、第2〜第4モータ3Dに対応する負荷側に相当する送りねじ機構7B,7C,7Dの軸受などの異常判定を行うことができる。
【0039】
また、工作機械2において、モータに駆動される各要素(例えば工具、送りねじ機構7B,7C,7D)は、各要素に対応するモータのみの供給電力に影響するものではなく、他のモータの供給電力にも影響する。このため、上述したように第1〜第4モータ対応移動平均値HV1〜HV4を、第1〜第4モータ対応許容移動平均値KHV1〜KHV4と比較し、かつ、第1〜第4モータ対応移動標準偏差値SV1〜SV4を第1〜第4モータ対応許容移動標準偏差値KSV1〜KSV4と比較して判定するのみでは、第1〜第4モータ3A〜3Dに対応する負荷側の異常状態の判定としては、精度上、十分ではなく、装置全体として異常検出を行う上で改善の余地がある。
【0040】
そして、本実施の形態では、モータ相互間移動平均値HVabをモータ相互間許容移動平均値KHVabと比較し、かつ、モータ相互間移動標準偏差値SVabをモータ相互間許容移動標準偏差値KSVabと比較し、比較結果に応じて、装置の状態を判定する。このため、各モータ(第1〜第4モータ3A〜3D)に対応する負荷の変化が他のモータに変化を及ぼす場合にもこのような状態変化を把握することが可能になる。このため、第1〜第4モータ対応移動平均値HV1〜HV4及び第1〜第4モータ対応移動標準偏差値SV1〜SV4のみを用いて異常判定を行なう場合に比して、第1〜第4モータ3A〜3Dの各負荷間の影響が反映された状態で異常検出を行えることになり、検出精度の向上を図ることができると共に、各負荷間の影響が反映された状態で異常検出できる分、検出範囲が広いものになる。
【0041】
上記実施の形態では、モータ相互間移動平均値、移動標準偏差として、モータ相互間移動平均値HVab(第1・第2モータ相互間、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間、第2・第3モータ相互間、第2・第4モータ相互間、第3・第4モータ相互間移動平均値HV12,HV13,HV14,HV23,HV24,HV34)及びモータ相互間移動標準偏差値Sab(第1・第2モータ相互間、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間、第2・第3モータ相互間、第2・第4モータ相互間、第3・第4モータ相互間移動標準偏差値SV12,SV13,SV14,SV23,SV24,SV34)を用いている。なお、本発明はこれに限らず、上記に代えて、主軸8側からの影響を比較的大きく受ける第1・第2モータ相互間、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間移動平均値HV12,HV13,HV14、及び第1・第2モータ相互間、第1・第3モータ相互間、第1・第4モータ相互間移動標準偏差値SV12,SV13,SV14を用いて異常検出を行うようにしてもよい。このように構成することにより、演算部31の演算の簡素化を図って異常状態を把握することが可能である。
【0042】
なお、上記実施の形態において、許容移動平均値KHVT及び許容移動標準偏差値KSVTは、下限値及び上限値で範囲指定して定める(例えば下限値αで上限値βとした許容移動平均値KHVT)ようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態に係る工作機械用異常検出装置を模式的に示す機能ブロック図である。
【図2】図1の工作機械用異常検出装置が用いられる工作機械を模式的に示す斜視図を示すフローチャートである。
【図3】図1のマイコン部の演算処理内容のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図4】図3の測定モード処理を示すフローチャートである。
【図5】図3の判定モード処理を示すフローチャートである。
【図6】図1の演算部が実行するモータ対応平均値、モータ相互間平均値、モータ対応標準偏差値及びモータ相互間標準偏差値の算出の具体例を表形式で示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1…異常検出装置、2…工作機械、3A〜3D…第1〜第4モータ、14…マイコン部、31…演算部(移動平均値・移動標準偏差算出手段)、32…判定部(判定手段)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具のワークに対する作動及び前記工具及び前記ワークの移動を行う複数個のモータを有する工作機械用の異常検出装置であって、
前記複数個のモータの各電力値であるモータ対応電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差を求めると共に、前記複数個のモータ相互間の電力値の差分値であるモータ相互間電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を求める移動平均値・移動標準偏差算出手段と、
前記モータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差及びモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を、予め設定された前記複数個のモータ毎のモータ対応許容移動平均値とモータ対応許容移動標準偏差、前記相互のモータに対応するモータ相互間許容移動平均値とモータ相互間許容移動標準偏差とそれぞれ比較し、その比較結果に基づいて装置状態の判定を行う判定手段と、
を備えたことを特徴する工作機械用異常検出装置。
【請求項2】
工具のワークに対する作動及び前記工具の移動を行う複数個のモータを有する工作機械に対する異常検出方法であって、
前記複数個のモータの各電力値であるモータ対応電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差を求め、
前記複数個のモータ相互間の電力値の差分値であるモータ相互間電力値について所定数個、時系列的に順次サンプリングしてモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を求め、
前記モータ対応移動平均値とモータ対応移動標準偏差及びモータ相互間移動平均値とモータ相互間移動標準偏差を、予め設定された前記複数個のモータ毎のモータ対応許容移動平均値、前記複数個のモータ毎のモータ対応許容移動標準偏差、前記相互のモータに対応するモータ相互間許容移動平均値、及び前記相互のモータに対応するモータ相互間許容移動標準偏差と比較し、その比較結果に基づいて装置状態の判定を行うことを特徴する異常検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−99632(P2006−99632A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287460(P2004−287460)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591172054)株式会社明和eテック (24)
【Fターム(参考)】