説明

工具の軌跡表示機能を備えた数値制御装置

【課題】加工条件変更前後での軌跡形状変化を視覚的に精度よく分析することができ、適切な駆動軸のパラメータ調整を行うことができるようにした数値制御装置の提供。
【解決手段】数値制御装置14は、予め定めた位置指令に基づいて各駆動軸12を制御する数値制御部16と、数値制御部16により駆動制御される各駆動軸12の位置データを取得する位置データ取得部18と、取得された各軸の位置データすなわち位置フィードバック及び工作機械10の機械構成の情報から、工作機械の工具先端点の座標を算出する工具座標算出部20と、算出された工具先端点の座標をフィードバック軌跡として記憶する工具軌跡記憶部22と、記憶されたフィードバック軌跡を画面表示する表示部24と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の工具先端点等の代表点の軌跡を表示する機能を備えた数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工形状の誤差を確認する手法として、工作機械の工具先端点等の代表点の指令軌跡と、その指令に従って工具先端点等の代表点を実際に移動させたときのフィードバック軌跡とを重ねて表示し、指令軌跡に対する誤差を視覚的に確認する工具軌跡表示手法が用いられてきた。例えば特許文献1には、制御装置から取得したサーボ情報に基づいて、2つのサーボ情報波形を同一の表示枠内に重ねて表示する技術が開示されている。
【0003】
特許文献2には、NCプログラム解析して生成した工具の移動軌跡と、その移動軌跡に基づいて工具を移動させたときの工具の位置データを該移動軌跡に重ねて表示させる機能を有するNC装置が開示されている。
【0004】
特許文献3には、サーボ制御装置及びサーボ系の調整方法が開示されており、ここでは、「周期性を有する移動指令として正弦波状の円弧指令をサーボ系に与え、これによる位置フィードバックデータとその1/4周期前若しくは1/4周期後のデータ又はその1/4周期前若しくは1/4周期後の前記位置指令による位置データとを、X軸及びY軸の各々の位置データに変換して二次元平面(X−Y平面)上に描画する」と記載されている。
【0005】
さらに特許文献4には、工具軌跡と穴明図とワーク図とを重ね合わせて描画表示できる手段を備えたNCプログラムの解析編集装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−75472号公報
【特許文献2】特開平6−59717号公報
【特許文献3】特開2006−227886号公報
【特許文献4】特開2011−22666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、加工速度等の加工条件の変更前後でのフィードバック軌跡をそれぞれ重ねて表示することができなかったため、それらの軌跡を視覚的に比較するには、異なる表示器に別々に表示する必要があり、加工条件変更前後での軌跡形状の違いを精度よく評価することはできなかった。
【0008】
例えば特許文献1には、時間軸基準の重ね合せについての記載はあるが、工具軌跡のような時間軸によらないデータの重ね合わせに関する言及はない。特許文献2及び3では、指令軌跡にフィードバック軌跡を重ねて表示する旨は記載されているが、複数のフィードバック軌跡を重ね合わせて表示することについては言及されていない。さらに特許文献4には、工具軌跡とワークの加工形状及び穴明状態とを重ねて表示する旨は記載されているが、複数のフィードバック軌跡を重ね合わせて表示する手法に関する言及はない。
【0009】
そこで本発明は、加工条件変更前後での工具の軌跡変化を視覚的に精度よく確認・分析することを可能にする数値制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、工作機械が有する少なくとも1つの駆動軸を制御する数値制御部と、前記駆動軸の位置フィードバック及び前記工作機械の機械構成の情報から工具の代表点のフィードバック軌跡を算出する工具座標算出部と、前記フィードバック軌跡を記憶する工具軌跡記憶部と、前記フィードバック軌跡を表示する表示部と、を備え、前記表示部は、該表示部に表示されたフィードバック軌跡上に、前記工具軌跡記憶部に記憶された過去のフィードバック軌跡を少なくとも1つ以上重ねて表示する、数値制御装置を提供する。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記表示部は、前記駆動軸を制御するための位置指令及び前記工作機械の機械構成の情報から算出された工具の代表点の指令軌跡を表示し、さらに前記フィードバック軌跡を前記指令軌跡に少なくとも1つ以上重ねて表示する、数値制御装置を提供する。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記指令軌跡又は前記フィードバック軌跡は、3次元の軌跡を2次元平面に投影したものである、数値制御装置を提供する。
【0013】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記表示部は、前記指令軌跡に対する前記フィードバック軌跡の誤差又は前記フィードバック軌跡間の誤差をその誤差方向にのみ拡大して表示する、数値制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異なる条件でのフィードバック軌跡を重ねて表示することにより、加工条件変更前後での工具の代表点の軌跡変化を視覚的に精度よく分析することができ、適切な駆動軸のパラメータ調整を行うことができるようになる。またフィードバック軌跡及び指令軌跡はいずれも、時間軸を含まない位置座標系に表示されるので、工具の移動速度や移動時間の差の影響は無視することができ、軌跡間の誤差をより容易に把握できるようになる。
【0015】
フィードバック軌跡に指令軌跡を重ねて表示することにより、指令軌跡に対するフィードバック軌跡の誤差を容易に視覚的に把握できるようになる。
【0016】
3次元のフィードバック軌跡を2次元平面に投影することにより、複雑な3次元形状の軌跡も容易に視覚的に認識できるようになる。
【0017】
指令軌跡に対するフィードバック軌跡の誤差又はフィードバック軌跡間の誤差をその誤差方向にのみ拡大して表示することにより、誤差をより容易に認識しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る数値制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】数値制御装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】矩形の指令軌跡と、加工条件が異なる2つのフィードバック軌跡とを重ねて表示した例を示す図である。
【図4】図3の矩形の角部を拡大表示した図である。
【図5】指令軌跡に対する2つのフィードバック軌跡の誤差を拡大表示した例を示す図である。
【図6】指令軌跡が円の場合に、該指令軌跡に対する2つのフィードバック軌跡の誤差を拡大表示した例を示す図である。
【図7】2つの3次元フィードバック軌跡を2次元グラフに重ねて投影した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係る軌跡表示機能を備えた数値制御装置を含むシステム構成例を示す図である。工作機械(機構部)10は、少なくとも1つ(図示例では5つ)のサーボモータ等の駆動軸12を有し、駆動軸12の各々は数値制御装置(CNC)14によって制御される。数値制御装置14は、予め定めた位置指令に基づいて各駆動軸12を制御する数値制御部16と、数値制御部16により駆動制御される各駆動軸12の位置データを取得する位置データ取得部18と、取得された各軸の位置データすなわち位置フィードバック及び工作機械10の機械構成の各部の寸法等の情報から、工作機械の工具の代表点(例えば工具先端点)の座標すなわちフィードバック軌跡を算出する工具座標算出部20と、算出された工具の代表点の座標を、フィードバック軌跡として記憶するメモリ等の工具軌跡記憶部22と、記憶されたフィードバック軌跡を画面表示するモニタ等の表示器又は表示部24と、を有する。
【0020】
数値制御部16は、予め定めた位置指令に基づき、各駆動軸12のフィードバック制御を行う。位置データ取得部18は、数値制御部16から各駆動軸12の位置指令を取得することができ、工具座標算出部20は該位置指令と工作機械10の機械構成の情報とに基づいて工具先端点の指令軌跡を算出することができる。また位置データ取得部18は、エンコーダ等の図示しない測定手段により測定された各駆動軸12の位置フィードバックを取得することができ、工具座標算出部20は該位置フィードバックに基づいて工具の代表点(例えば工具先端点)のフィードバック軌跡を算出することができる。工具座標算出部20が算出した工具の代表点(例えば工具先端点)の指令軌跡及びフィードバック軌跡は、工具軌跡記憶部22に記憶される。表示部24は、工具軌跡記憶部22に記憶された指令軌跡及びフィードバック軌跡を、後述するような位置座標系に画面表示することができる。
【0021】
図2は、本発明に係る数値制御装置における処理の一例を示すフローチャートである。先ずステップS1において、上述の工具座標算出部20が、各駆動軸12の位置フィードバック及び工作機械の各部の寸法等の構成情報から、工具の代表点(例えば工具先端点)の移動軌跡を第1のフィードバック軌跡として算出する。第1のフィードバック軌跡は、工具軌跡記憶部22に記憶される(ステップS2)。
【0022】
次のステップS3では、第1のフィードバック軌跡を表示器24上に表示する。さらに次のステップS4において、過去のデータとして記憶されている第2のフィードバック軌跡を、表示器24に表示されている第1のフィードバック軌跡に重ねて(具体的には第1のフィードバック軌跡と同一の座標系に)表示する。一般に、第2のフィードバック軌跡は第1のフィードバック軌跡と比較し、工具の代表点(例えば工具先端点)が通過すべき軌跡(指令軌跡)は同一であるが、第1のフィードバック軌跡とは異なる移動条件(例えば移動速度やゲインパラメータ)で、工作機械10の各駆動軸12を制御して得られた工具の代表点(例えば工具先端点)の軌跡であり、上述のステップS1及びS2と同様の手順で工具軌跡記憶部22に予め記憶されているものである。
【0023】
なおステップS1の前又は他の適当なタイミングで、表示器上に指令軌跡を表示するステップを追加してもよい。具体的には、各駆動軸の位置指令及び工作機械の構成情報から工具の代表点(例えば工具先端点)の指令軌跡を算出し、算出した該指令軌跡をフィードバック軌跡と同一の座標系に重ねて表示する。このようにすれば、該指令軌跡とフィードバック軌跡との比較が視覚的に容易に行え、駆動軸のパラメータ調整等を適切かつ迅速に行うことができるようになる。
【0024】
図3は、本発明に係る数値制御装置14の表示部24の画面表示例を示す図であり、具体的には、横軸(X軸)及び縦軸(Y軸)の寸法がいずれも20mmの正方形の指令軌跡30に沿って工具先端点を移動させて切削加工、レーザ加工又は溶接加工等の処理を行う場合に、異なる2つの加工条件(工具の移動条件)に従って工作機械を操作した場合の工具先端点のフィードバック軌跡32、34を示している。なお図3の例では指令軌跡30と2つのフィードバック軌跡32、34を同一の位置座標系(X−Y座標系)に重ねて表示しているが、図3の表示倍率では3つの軌跡間の誤差が殆ど識別できない。
【0025】
そこで、図4に示すように、表示部24は図3に示した軌跡の一部(正方形の角部)36を拡大表示することができる。例えば図4の場合、指令軌跡30に対して第1の加工条件で加工を行ったときの工具先端点の第1のフィードバック軌跡32が得られた場合、第1のフィードバック軌跡32を指令軌跡30に重ねて表示することにより、指令軌跡30の角部近傍においていくらか誤差があることがわかる。一方、第1のフィードバック軌跡32が得られる前に、指令軌跡30に対して第2の加工条件で加工を行ったときの工具先端点の第2のフィードバック軌跡34(破線で図示)が得られ、既に第2のフィードバック軌跡34は上述の工具軌跡記憶部22に記憶されているとする。この場合、該第2のフィードバック軌跡34を第1のフィードバック軌跡に重ねて(同一座標系)に表示することにより、両フィードバック軌跡の誤差(加工条件の違いによる変化)を視覚的に容易に把握することができる。例えば図4の場合、第1のフィードバック軌跡32は第2のフィードバック軌跡34に比べて、指令軌跡30に対する誤差の大きさという観点では大幅に改善されていることがわかる。
【0026】
なお図4に示したように、単純に軌跡の一部を拡大しただけでは、指令軌跡に対するフィードバック軌跡の誤差、又はフィードバック軌跡間の誤差が明確にならない場合もある。その場合は比較したいフィードバック軌跡を、例えば図5に示すように、強調したい誤差方向(図5の例ではX方向)にのみ拡大表示することが有効である。図5では、指令軌跡30に対する第1のフィードバック軌跡32をX方向にのみ5倍に拡大表示しており、第1の加工条件に比較的近い第3の加工条件で加工を行ったときの工具先端点の第3のフィードバック軌跡38(破線で図示)を同じくX方向にのみ5倍に拡大表示したものと比較している。
【0027】
図6は、指令軌跡が円形である場合のフィードバック軌跡の重ね表示例を示している。円形の指令軌跡40に対してX軸及びY軸の双方を変化させながら加工を行うような場合、得られたフィードバック軌跡を拡大せずに重ねて表示しても誤差が殆ど視覚的に確認できない場合が多い、そこで図6に示すように、例えば加工条件の異なる2つのフィードバック軌跡42及び44のそれぞれについて、指令軌跡40に対する誤差をその誤差方向(半径方向)に拡大(例えば10倍)表示することが有効である。このようにすれば、加工条件の違いに基づくフィードバック軌跡の差を容易に視覚的に確認できるようになる。
【0028】
一般に、工具は複数の駆動軸によって移動し、故に工具先端点の軌跡は複雑な3次元軌跡を呈する場合が多い。そこで図7に示すように、異なる複数(図示例では2種類)の3次元のフィードバック軌跡46及び48を、2次元平面に投影して同一座標系に重ねて表示することが非常に有効である。このようにすれば、2つの軌跡をより的確に比較することができ、両者の差異を容易に視覚的に確認できるようになる。なお図7の場合でも、図5のように強調したい誤差方向にのみ拡大表示することができる。
【0029】
上述の実施形態のように、指令軌跡にフィードバック軌跡を重ねて表示する場合、或いは異なるフィードバック軌跡同士を重ねて表示する場合は、座標軸が時間軸を含まないX−Y平面等の位置座標系に表示することが好ましい。これにより、指令軌跡に対するフィードバック軌跡の誤差や、重ね合わせたフィードバック軌跡間の差が視覚的に容易に把握できる。
【0030】
また図3〜図7を参照して説明したように異なるフィードバック軌跡を重ねて表示する場合、それらの表示順序や、軌跡の色、線種及び線の太さ等の表示属性は、視覚的な効果等を考慮して適宜選定可能である。
【0031】
本発明に係る数値制御装置によれば、加工条件別にフィードバック軌跡を重ねて表示し、さらに必要であれば部分的に拡大又は誤差方向に拡大することにより、加工形状の誤差を容易に比較することができ、最適加工条件の探索や推定を迅速かつ容易に行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0032】
10 工作機械
12 駆動軸
14 数値制御装置
16 数値制御部
18 位置データ取得部
20 工具座標算出部
22 工具軌跡記憶部
22 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械が有する少なくとも1つの駆動軸を制御する数値制御部と、
前記駆動軸の位置フィードバック及び前記工作機械の機械構成の情報から工具の代表点のフィードバック軌跡を算出する工具座標算出部と、
前記フィードバック軌跡を記憶する工具軌跡記憶部と、
前記フィードバック軌跡を表示する表示部と、を備え、
前記表示部は、該表示部に表示されたフィードバック軌跡上に、前記工具軌跡記憶部に記憶された過去のフィードバック軌跡を少なくとも1つ以上重ねて表示する、数値制御装置。
【請求項2】
前記表示部は、前記駆動軸を制御するための位置指令及び前記工作機械の機械構成の情報から算出された工具の代表点の指令軌跡を表示し、さらに前記フィードバック軌跡を前記指令軌跡に少なくとも1つ以上重ねて表示する、請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記指令軌跡又は前記フィードバック軌跡は、3次元の軌跡を2次元平面に投影したものである、請求項1又は2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記指令軌跡に対する前記フィードバック軌跡の誤差又は前記フィードバック軌跡間の誤差をその誤差方向にのみ拡大して表示する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の数値制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−69231(P2013−69231A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209033(P2011−209033)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】