工具経路作成方法及び工具経路作成装置
【課題】無駄な動作を少なくして加工効率を向上させることができる工具経路作成方法及び工具経路作成装置を提供すること。
【解決手段】工具経路作成方法では、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、nr<d<2nr(n=1,2)に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する。設定された輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定し、特定された非接触部分に対応して加工円が内接可能な曲線に形状変換する。形状変換された輪郭線に加工円が内接するように工具経路を作成する。
【解決手段】工具経路作成方法では、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、nr<d<2nr(n=1,2)に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する。設定された輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定し、特定された非接触部分に対応して加工円が内接可能な曲線に形状変換する。形状変換された輪郭線に加工円が内接するように工具経路を作成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械を用いて被加工物を工具により除去加工する加工方法の工具経路作成方法及び工具経路作成装置に関し、特に重複動作又は回避動作を最小限にする工具経路作成方法及び工具経路作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いて被加工物を工具により除去加工を行う加工方法としては、工具及び被加工物を相対的に移動させながら工具を被加工物に接触させて、切削等により被加工物を部分的に除去して所望の形状に加工する方法が実用化されている。この加工方法では、工具の加工形状と被加工物の加工領域とが合致しない場合が多く、そのため加工効率を向上させるためには、加工領域に対して工具をいかに最適な経路に沿って移動させて加工するかが重要である。
【0003】
図12は、幅dで2回直角に折れ曲るように設定された加工領域Aについて行う加工工程に関する説明図である。
この例では、加工に使用する工具の半径をrとし、幅dは、工具の半径rよりも大きく、かつ、工具の直径2rよりも小さく設定されている。塗りつぶしの効率を考慮して、加工領域Aの中心線を通る経路p1からp3までの工具経路を設定した場合、工具のR形状による削り残しR(斜線部分)が生じる。そのため、削り残しRを除去する経路p4からp7までの工具経路を設定しなければならず、削り残しRのための工具の重複動作が必要となって加工効率が低下する。
【0004】
削り残しRを解消するために、図13に示すように、経路p1を延長して経路p1’とすることが考えられるが、経路p1’に延長すると、次の経路p2’が中心線から外側にずれるため、加工領域Aの内側に帯状の削り残しSが生じる。そのため、削り残しSを除去する経路p4’からp7’を設定しなければならなくなる。
【0005】
ここで、従来の工具経路作成についてみると、例えば、工具径方向の加工範囲を示す曲線よりも工具をはみ出させて加工するはみ出し量を設定して、曲線をはみ出し量だけ延長すると共に、曲線を除去側に順次オフセットして加工経路を生成して加工時間を短縮するCAD/CAM装置が知られている(特許文献1参照)。
この特許文献1に記載された処理方法では、図14に示すように、距離hに対応するはみ出し量を設定することになるが、この場合でも図13と同様に加工領域Aの内側に帯状の削り残しが生じることになり、図12のような加工領域を加工する場合には、加工時間の短縮にはつながらない。
【0006】
また、図15に示すように、直方体状の被加工物Mの上部を除去して段差状に加工する場合、直方体状の加工領域Bが設定される。この場合、加工領域Bの幅Dは、工具の半径rの直径2rよりも大きく、かつ、直径の2倍4rよりも小さく設定されている。塗りつぶしの効率を考慮すれば、図16に示すように、加工領域Bの輪郭に沿って工具が移動するように工具経路を設定することになる。そのため、経路p11からp13までを加工領域B内を往復移動するようになり、図12と同様に削り残しR(斜線部)が生じる。そのため、図12の場合と同様に、削り残しRを除去する経路p14及びp15の工具経路を設定しなければならず、削り残しのための工具の重複動作が必要となって加工効率が低下する。
【0007】
削り残しRを解消するために、図17に示すように、経路p11及びp13を外側にずらして経路p11’及びp13’とすることが考えられるが、経路p11’及びp13’を外側にずらすと、加工領域Bの中心部に帯状の削り残しSが生じる。そのため、削り残しSを除去する経路p14’及びp15’を設定しなければならなくなり、工具経路が増加する分加工時間の短縮にはつながらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−332517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、工具により除去加工を行う場合、上述したように、所望の形状に除去加工するために必要な動作以外の無駄な動作が多くなる場合があり、その場合には加工時間が増加して加工効率が低下する。
【0010】
そこで、本発明は、無駄な動作を少なくして加工効率を向上させることができる工具経路作成方法及び工具経路作成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る工具経路作成方法は、所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成方法であって、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、nr<d<2nr(n=1,2)に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する工程と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する工程と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する工程と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する工程と、を有することを特徴とする。さらに、前記曲線は、曲率半径がr以上の円弧であることを特徴とする。
本発明に係る工具経路作成装置は、所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成装置であって、所望の形状データ及び工具経路の作成に必要なパラメータを入力する入力部と、入力された前記形状データ及び前記パラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶されたデータに基づいて加工領域を決定して工具経路を作成する処理部とを備え、前記処理部は、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、nr<d<2nr(n=1,2)に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する設定手段と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する特定手段と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する変換手段と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する作成手段と、を備えていることを特徴とする。さらに、前記変換手段は、前記非接触部分に対応して曲率半径がr以上の円弧に形状変換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無駄な動作が少なく加工時間を短縮可能な工具経路を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図2】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図3】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図4】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図5】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図6】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図7】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図8】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図9】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図10】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図11】工具経路作成装置に関する概略構成図である。
【図12】従来の加工工程に関する説明図である。
【図13】図12に示す加工工程とは別の従来の加工工程に関する説明図である。
【図14】削り残しに対応するはみ出し量に関する説明図である。
【図15】別の被加工物の形状に関する正面図及び平面図である。
【図16】別の形状データに基づく従来の加工工程に関する説明図である。
【図17】図16に示す加工工程とは別の従来の加工工程に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1から図5は、本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
まず、図1に示すように、所望の形状データに基づいて被加工物の加工領域Aが設定される。この例では、図12に示す例と同一の加工領域Aが設定されており、加工領域Aの幅はdである。また、工具の加工範囲は、加工半径rの加工円Cに設定される。ここで、幅d及び加工半径rの関係は以下のとおりである。
r<d<2r
すなわち、幅dは、加工円Cの加工半径rよりも大きく、かつ、加工直径2rよりも小さく設定されている。設定された加工領域Aに対して、図2に示すように、加工領域Aの外側の輪郭に沿って以下に示す距離tだけ間隔を空けて輪郭線Lを設定する。距離tは、以下の式で表される。
t=(2r−d)/2
すなわち、加工直径2rと幅dとの差の半分だけ加工領域Aの外側の輪郭から外側にずらして輪郭線Lを設定することで、加工領域Aの幅方向の中心線と加工円Cの中心を合致させた状態に設定することができる。
【0015】
次に、図3に示すように、輪郭線Lに沿って加工円Cを内接させていき、加工円Cが接触できない部分が存在するか判定する。この例では角部に非接触部分L1及びL2が存在することが特定される。
そして、図4に示すように、特定された非接触部分L1及びL2に対応して加工円Cが内接可能な曲線L1’及びL2’に形状変換を行う。この例では、曲線L1’及びL2’は、曲率半径r1の円弧の形状に変換されており、曲率半径r1は加工半径r以上の値に設定されている。曲率半径を加工半径以上とすることで、形状変換された円弧内に加工円Cが内接できるようになり、非接触部分をなくすことができる。図4の例では、図面の上側に突出するように形状変換しているが、左右両側又は斜め上側に突出するように形状変換してもよく、非接触部分がなく加工円が内接可能な曲線であれば特に限定されない。
【0016】
非接触部分L1及びL2に対応させて形状変換後、図5に示すように、形状変換された輪郭線Lに加工円Cが内接するように工具経路を作成する。この例では、加工領域Aの幅dの中心線に沿うように経路P1が設定され、経路P1は加工領域Aから曲線L1’内まで延長される。そして、曲線L1’を内接するように経路P2が設定された後輪郭線Lの直線部分に沿って経路P3が設定される。経路P3についても経路P1と同様に中心線に沿う位置に設定されている。そして、曲線L2’に内接するように経路P4が設定された後、輪郭線Lの直線部分に沿って経路P5が設定される。経路P5についても経路P1と同様に中心線に沿う位置に設定されている。このように工具経路を設定することで、図12及び図13に示すような削り残しR及びSは発生せずに工具を動作させることができ、重複動作や回避動作といった無駄な動作もないため、加工時間を短縮することができる。
【0017】
図6から図10は、別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。まず、図6に示すように、所望の形状データに基づいて被加工物の加工領域Bが設定される。この例では、図15に示す例と同一の加工領域Bが設定されており、加工領域Bの幅はDである。また、工具の加工範囲は、加工半径rの加工円Cに設定される。ここで、幅D及び加工半径rの関係は以下のとおりである。
2r<D<4r
すなわち、加工領域Bの幅Dは、加工円Cの加工直径2rよりも大きく、かつ、加工直径の2倍4rよりも小さく設定される。設定された加工領域Bに対して、図7に示すように、加工領域Bの外側の輪郭に沿って幅方向に距離uだけ間隔を空けて輪郭線Lを設定する。距離uは、以下の式で表される。
u=(4r−D)/2
すなわち、加工直径の2倍4rと幅Dとの差の半分だけ加工領域Bの外側の輪郭から外側にずらして輪郭線Lを設定することで、加工領域Bの幅方向において輪郭線Lの間に加工円Cが2つ内接した状態で配列することができる。なお、この例では、加工領域Bの左側に段差が形成されるため、輪郭線Lは加工領域Bに沿って設定する。
【0018】
次に、図8に示すように、輪郭線Lに沿って加工円Cを内接させていき、加工円Cが接触できない部分が存在するか判定し、この例では角部に非接触部分L1及びL2が存在することが特定される。そして、図9に示すように、特定された非接触部分L1及びL2を、それに対応して加工円Cが内接可能な曲線L1’及びL2’に形状変換を行う。この例では、曲線L1’及びL2’は、曲率半径r1の円弧の形状に変換されており、曲率半径r1は加工半径r以上の値に設定されている。曲率半径を加工半径以上にすることで、形状変換された円弧内に加工円Cが内接できるようになり、非接触部分をなくすことができる。図9では、加工領域Bの左側に段差が形成されることを考慮して図面の上下に突出するように形状変換している。
【0019】
非接触部分L1及びL2に対応させて形状変換後、図10に示すように、形状変換された輪郭線Lに加工円Cが内接するように工具経路を作成する。この例では、加工領域Bの上側の輪郭線Lに沿って加工円Cが内接するように経路P11が設定され、続いて曲線L1’に内接するように経路P12が設定される。そして、加工領域Bの左側の輪郭線Lの直線部分に沿って経路P13が設定され、続いて曲線L2’に内接するように経路P14が設定される。そして、加工領域Bの下の輪郭線Lの直線部分に沿って経路P15が設定される。
このように工具経路を設定することで、図16及び図17に示すような削り残しR及びSは発生せずに工具を動作させることができ、重複動作や回避動作といった無駄な動作もないため加工時間を短縮することができる。
【0020】
図11は、以上で説明した工具経路を作成する工具経路作成装置の概略構成図である。
工具経路作成装置は、工具経路を作成する処理部100、形状データ及びパラメータを入力する入力部101、入力された形状データ及びパラメータを記憶する記憶部102、NC装置等にデータを出力する出力部103、処理されたデータを表示する表示部104、及び、工具経路データに基づいて工具の動作をシミュレートするシミュレータ部105を備えている。この工具経路作成装置の各部の機能は、必要なプログラムをパソコン等のコンピュータに読み込ませて実現することができる。
【0021】
入力部101は、加工後の所望の形状データをCAD装置から入力したり、工具データ、素材データ等のパラメータ、NC装置からの装置関係のパラメータ等の工具経路を作成するのに必要なパラメータを入力する。入力された形状データ及びパラメータは記憶部102に記憶される。処理部100では、記憶された形状データ及びパラメータを読み込んで工具経路を作成する。
具体的には、加工領域の輪郭から所定距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する設定部100a、設定部100aで設定された輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する特定部100b、特定部100bで特定された非接触部分に対応して加工円か内接可能な曲線に形状変換する変換部100c、変換部100cで形状変換された輪郭線に加工円が内接するように工具経路を作成する作成部100dを備えている。
【0022】
設定部100aでは、上述したように、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、
nr<d<2nr (n=1,2)
に設定されている場合に加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ間隔を空けて輪郭線を設定する。
【0023】
処理部100で作成された工具経路データは、表示部104で表示する。また、シミュレータ部105では、工具経路データに基づいて工具の動作をシミュレートし、工具と被加工物との干渉等をチェックする。チェック結果は表示部104に表示されて加工を開始する前にオペレータが確認する。出力部103では、工具経路データに基づいてNC装置を動作させるために必要なNCプログラムに変換し、変換したNCプログラムをNC装置に出力して除去加工が行われる。
本実施形態では、以上のように削除加工をする場合に、前もって工具の経路を無駄のない経路に設定し、かつ工具と被加工物との干渉等をチェックしてから実際の除去加工を行うため、効率よく確実に除去加工を行うことができる。
【符号の説明】
【0024】
A・・加工領域、B・・加工領域、C・・加工円、L・・輪郭線、P・・経路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械を用いて被加工物を工具により除去加工する加工方法の工具経路作成方法及び工具経路作成装置に関し、特に重複動作又は回避動作を最小限にする工具経路作成方法及び工具経路作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いて被加工物を工具により除去加工を行う加工方法としては、工具及び被加工物を相対的に移動させながら工具を被加工物に接触させて、切削等により被加工物を部分的に除去して所望の形状に加工する方法が実用化されている。この加工方法では、工具の加工形状と被加工物の加工領域とが合致しない場合が多く、そのため加工効率を向上させるためには、加工領域に対して工具をいかに最適な経路に沿って移動させて加工するかが重要である。
【0003】
図12は、幅dで2回直角に折れ曲るように設定された加工領域Aについて行う加工工程に関する説明図である。
この例では、加工に使用する工具の半径をrとし、幅dは、工具の半径rよりも大きく、かつ、工具の直径2rよりも小さく設定されている。塗りつぶしの効率を考慮して、加工領域Aの中心線を通る経路p1からp3までの工具経路を設定した場合、工具のR形状による削り残しR(斜線部分)が生じる。そのため、削り残しRを除去する経路p4からp7までの工具経路を設定しなければならず、削り残しRのための工具の重複動作が必要となって加工効率が低下する。
【0004】
削り残しRを解消するために、図13に示すように、経路p1を延長して経路p1’とすることが考えられるが、経路p1’に延長すると、次の経路p2’が中心線から外側にずれるため、加工領域Aの内側に帯状の削り残しSが生じる。そのため、削り残しSを除去する経路p4’からp7’を設定しなければならなくなる。
【0005】
ここで、従来の工具経路作成についてみると、例えば、工具径方向の加工範囲を示す曲線よりも工具をはみ出させて加工するはみ出し量を設定して、曲線をはみ出し量だけ延長すると共に、曲線を除去側に順次オフセットして加工経路を生成して加工時間を短縮するCAD/CAM装置が知られている(特許文献1参照)。
この特許文献1に記載された処理方法では、図14に示すように、距離hに対応するはみ出し量を設定することになるが、この場合でも図13と同様に加工領域Aの内側に帯状の削り残しが生じることになり、図12のような加工領域を加工する場合には、加工時間の短縮にはつながらない。
【0006】
また、図15に示すように、直方体状の被加工物Mの上部を除去して段差状に加工する場合、直方体状の加工領域Bが設定される。この場合、加工領域Bの幅Dは、工具の半径rの直径2rよりも大きく、かつ、直径の2倍4rよりも小さく設定されている。塗りつぶしの効率を考慮すれば、図16に示すように、加工領域Bの輪郭に沿って工具が移動するように工具経路を設定することになる。そのため、経路p11からp13までを加工領域B内を往復移動するようになり、図12と同様に削り残しR(斜線部)が生じる。そのため、図12の場合と同様に、削り残しRを除去する経路p14及びp15の工具経路を設定しなければならず、削り残しのための工具の重複動作が必要となって加工効率が低下する。
【0007】
削り残しRを解消するために、図17に示すように、経路p11及びp13を外側にずらして経路p11’及びp13’とすることが考えられるが、経路p11’及びp13’を外側にずらすと、加工領域Bの中心部に帯状の削り残しSが生じる。そのため、削り残しSを除去する経路p14’及びp15’を設定しなければならなくなり、工具経路が増加する分加工時間の短縮にはつながらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−332517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、工具により除去加工を行う場合、上述したように、所望の形状に除去加工するために必要な動作以外の無駄な動作が多くなる場合があり、その場合には加工時間が増加して加工効率が低下する。
【0010】
そこで、本発明は、無駄な動作を少なくして加工効率を向上させることができる工具経路作成方法及び工具経路作成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る工具経路作成方法は、所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成方法であって、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、nr<d<2nr(n=1,2)に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する工程と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する工程と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する工程と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する工程と、を有することを特徴とする。さらに、前記曲線は、曲率半径がr以上の円弧であることを特徴とする。
本発明に係る工具経路作成装置は、所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成装置であって、所望の形状データ及び工具経路の作成に必要なパラメータを入力する入力部と、入力された前記形状データ及び前記パラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶されたデータに基づいて加工領域を決定して工具経路を作成する処理部とを備え、前記処理部は、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、nr<d<2nr(n=1,2)に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する設定手段と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する特定手段と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する変換手段と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する作成手段と、を備えていることを特徴とする。さらに、前記変換手段は、前記非接触部分に対応して曲率半径がr以上の円弧に形状変換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無駄な動作が少なく加工時間を短縮可能な工具経路を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図2】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図3】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図4】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図5】本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
【図6】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図7】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図8】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図9】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図10】別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。
【図11】工具経路作成装置に関する概略構成図である。
【図12】従来の加工工程に関する説明図である。
【図13】図12に示す加工工程とは別の従来の加工工程に関する説明図である。
【図14】削り残しに対応するはみ出し量に関する説明図である。
【図15】別の被加工物の形状に関する正面図及び平面図である。
【図16】別の形状データに基づく従来の加工工程に関する説明図である。
【図17】図16に示す加工工程とは別の従来の加工工程に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1から図5は、本発明に係る工具経路作成方法に関する説明図である。
まず、図1に示すように、所望の形状データに基づいて被加工物の加工領域Aが設定される。この例では、図12に示す例と同一の加工領域Aが設定されており、加工領域Aの幅はdである。また、工具の加工範囲は、加工半径rの加工円Cに設定される。ここで、幅d及び加工半径rの関係は以下のとおりである。
r<d<2r
すなわち、幅dは、加工円Cの加工半径rよりも大きく、かつ、加工直径2rよりも小さく設定されている。設定された加工領域Aに対して、図2に示すように、加工領域Aの外側の輪郭に沿って以下に示す距離tだけ間隔を空けて輪郭線Lを設定する。距離tは、以下の式で表される。
t=(2r−d)/2
すなわち、加工直径2rと幅dとの差の半分だけ加工領域Aの外側の輪郭から外側にずらして輪郭線Lを設定することで、加工領域Aの幅方向の中心線と加工円Cの中心を合致させた状態に設定することができる。
【0015】
次に、図3に示すように、輪郭線Lに沿って加工円Cを内接させていき、加工円Cが接触できない部分が存在するか判定する。この例では角部に非接触部分L1及びL2が存在することが特定される。
そして、図4に示すように、特定された非接触部分L1及びL2に対応して加工円Cが内接可能な曲線L1’及びL2’に形状変換を行う。この例では、曲線L1’及びL2’は、曲率半径r1の円弧の形状に変換されており、曲率半径r1は加工半径r以上の値に設定されている。曲率半径を加工半径以上とすることで、形状変換された円弧内に加工円Cが内接できるようになり、非接触部分をなくすことができる。図4の例では、図面の上側に突出するように形状変換しているが、左右両側又は斜め上側に突出するように形状変換してもよく、非接触部分がなく加工円が内接可能な曲線であれば特に限定されない。
【0016】
非接触部分L1及びL2に対応させて形状変換後、図5に示すように、形状変換された輪郭線Lに加工円Cが内接するように工具経路を作成する。この例では、加工領域Aの幅dの中心線に沿うように経路P1が設定され、経路P1は加工領域Aから曲線L1’内まで延長される。そして、曲線L1’を内接するように経路P2が設定された後輪郭線Lの直線部分に沿って経路P3が設定される。経路P3についても経路P1と同様に中心線に沿う位置に設定されている。そして、曲線L2’に内接するように経路P4が設定された後、輪郭線Lの直線部分に沿って経路P5が設定される。経路P5についても経路P1と同様に中心線に沿う位置に設定されている。このように工具経路を設定することで、図12及び図13に示すような削り残しR及びSは発生せずに工具を動作させることができ、重複動作や回避動作といった無駄な動作もないため、加工時間を短縮することができる。
【0017】
図6から図10は、別の形状データに基づく工具経路作成方法に関する説明図である。まず、図6に示すように、所望の形状データに基づいて被加工物の加工領域Bが設定される。この例では、図15に示す例と同一の加工領域Bが設定されており、加工領域Bの幅はDである。また、工具の加工範囲は、加工半径rの加工円Cに設定される。ここで、幅D及び加工半径rの関係は以下のとおりである。
2r<D<4r
すなわち、加工領域Bの幅Dは、加工円Cの加工直径2rよりも大きく、かつ、加工直径の2倍4rよりも小さく設定される。設定された加工領域Bに対して、図7に示すように、加工領域Bの外側の輪郭に沿って幅方向に距離uだけ間隔を空けて輪郭線Lを設定する。距離uは、以下の式で表される。
u=(4r−D)/2
すなわち、加工直径の2倍4rと幅Dとの差の半分だけ加工領域Bの外側の輪郭から外側にずらして輪郭線Lを設定することで、加工領域Bの幅方向において輪郭線Lの間に加工円Cが2つ内接した状態で配列することができる。なお、この例では、加工領域Bの左側に段差が形成されるため、輪郭線Lは加工領域Bに沿って設定する。
【0018】
次に、図8に示すように、輪郭線Lに沿って加工円Cを内接させていき、加工円Cが接触できない部分が存在するか判定し、この例では角部に非接触部分L1及びL2が存在することが特定される。そして、図9に示すように、特定された非接触部分L1及びL2を、それに対応して加工円Cが内接可能な曲線L1’及びL2’に形状変換を行う。この例では、曲線L1’及びL2’は、曲率半径r1の円弧の形状に変換されており、曲率半径r1は加工半径r以上の値に設定されている。曲率半径を加工半径以上にすることで、形状変換された円弧内に加工円Cが内接できるようになり、非接触部分をなくすことができる。図9では、加工領域Bの左側に段差が形成されることを考慮して図面の上下に突出するように形状変換している。
【0019】
非接触部分L1及びL2に対応させて形状変換後、図10に示すように、形状変換された輪郭線Lに加工円Cが内接するように工具経路を作成する。この例では、加工領域Bの上側の輪郭線Lに沿って加工円Cが内接するように経路P11が設定され、続いて曲線L1’に内接するように経路P12が設定される。そして、加工領域Bの左側の輪郭線Lの直線部分に沿って経路P13が設定され、続いて曲線L2’に内接するように経路P14が設定される。そして、加工領域Bの下の輪郭線Lの直線部分に沿って経路P15が設定される。
このように工具経路を設定することで、図16及び図17に示すような削り残しR及びSは発生せずに工具を動作させることができ、重複動作や回避動作といった無駄な動作もないため加工時間を短縮することができる。
【0020】
図11は、以上で説明した工具経路を作成する工具経路作成装置の概略構成図である。
工具経路作成装置は、工具経路を作成する処理部100、形状データ及びパラメータを入力する入力部101、入力された形状データ及びパラメータを記憶する記憶部102、NC装置等にデータを出力する出力部103、処理されたデータを表示する表示部104、及び、工具経路データに基づいて工具の動作をシミュレートするシミュレータ部105を備えている。この工具経路作成装置の各部の機能は、必要なプログラムをパソコン等のコンピュータに読み込ませて実現することができる。
【0021】
入力部101は、加工後の所望の形状データをCAD装置から入力したり、工具データ、素材データ等のパラメータ、NC装置からの装置関係のパラメータ等の工具経路を作成するのに必要なパラメータを入力する。入力された形状データ及びパラメータは記憶部102に記憶される。処理部100では、記憶された形状データ及びパラメータを読み込んで工具経路を作成する。
具体的には、加工領域の輪郭から所定距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する設定部100a、設定部100aで設定された輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する特定部100b、特定部100bで特定された非接触部分に対応して加工円か内接可能な曲線に形状変換する変換部100c、変換部100cで形状変換された輪郭線に加工円が内接するように工具経路を作成する作成部100dを備えている。
【0022】
設定部100aでは、上述したように、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、
nr<d<2nr (n=1,2)
に設定されている場合に加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ間隔を空けて輪郭線を設定する。
【0023】
処理部100で作成された工具経路データは、表示部104で表示する。また、シミュレータ部105では、工具経路データに基づいて工具の動作をシミュレートし、工具と被加工物との干渉等をチェックする。チェック結果は表示部104に表示されて加工を開始する前にオペレータが確認する。出力部103では、工具経路データに基づいてNC装置を動作させるために必要なNCプログラムに変換し、変換したNCプログラムをNC装置に出力して除去加工が行われる。
本実施形態では、以上のように削除加工をする場合に、前もって工具の経路を無駄のない経路に設定し、かつ工具と被加工物との干渉等をチェックしてから実際の除去加工を行うため、効率よく確実に除去加工を行うことができる。
【符号の説明】
【0024】
A・・加工領域、B・・加工領域、C・・加工円、L・・輪郭線、P・・経路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成方法であって、
加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、
nr<d<2nr (n=1,2)
に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する工程と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する工程と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する工程と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する工程と、を有することを特徴とする工具経路作成方法。
【請求項2】
前記曲線は、曲率半径がr以上の円弧であることを特徴とする請求項1に記載された工具経路作成方法。
【請求項3】
所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成装置であって、
所望の形状データ及び工具経路の作成に必要なパラメータを入力する入力部と、入力された前記形状データ及び前記パラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶されたデータに基づいて加工領域を決定して工具経路を作成する処理部とを備え、
前記処理部は、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、
nr<d<2nr (n=1,2)
に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する設定手段と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する特定手段と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する変換手段と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する作成手段と、を備えていることを特徴とする工具経路作成装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記非接触部分に対応して曲率半径がr以上の円弧に形状変換することを特徴とする請求項3に記載された工具経路作成装置。
【請求項1】
所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成方法であって、
加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、
nr<d<2nr (n=1,2)
に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する工程と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する工程と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する工程と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する工程と、を有することを特徴とする工具経路作成方法。
【請求項2】
前記曲線は、曲率半径がr以上の円弧であることを特徴とする請求項1に記載された工具経路作成方法。
【請求項3】
所望の形状データに基づいて除去加工するための工具経路を作成する工具経路作成装置であって、
所望の形状データ及び工具経路の作成に必要なパラメータを入力する入力部と、入力された前記形状データ及び前記パラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶されたデータに基づいて加工領域を決定して工具経路を作成する処理部とを備え、
前記処理部は、加工領域の幅dが工具の加工半径rに対して、
nr<d<2nr (n=1,2)
に設定されている場合に、加工領域の輪郭から(2nr−d)/2の距離だけ外側に間隔を空けて輪郭線を設定する設定手段と、設定された前記輪郭線のうち半径rの加工円が内接できない非接触部分を特定する特定手段と、特定された前記非接触部分に対応して前記加工円が内接可能な曲線に形状変換する変換手段と、形状変換された前記輪郭線に前記加工円が内接するように工具経路を作成する作成手段と、を備えていることを特徴とする工具経路作成装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記非接触部分に対応して曲率半径がr以上の円弧に形状変換することを特徴とする請求項3に記載された工具経路作成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−111007(P2012−111007A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262790(P2010−262790)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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