説明

工業用抗菌組成物

【課題】工業用水や工業製品などにおいて優れた抗菌効果を発揮し、かつ安全性やそれ自体の安定性にも優れる工業用抗菌組成物を提供する。
【解決手段】有効抗菌成分として(A)ハロゲン化脂肪族ニトロアルコールおよびグリコールハロアセテートを含有し、溶媒として(B)ポリオキシアルキレンエーテル、環状エステル、環状アミドのうちの少なくとも1種および(C)プロピレンカーボネートを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙・パルプ工業における抄紙工程水や、各種工業用の冷却水や洗浄水などの工業用水、重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、塗料、ラテックス、接着剤、紙用塗工液、糊剤、皮革などの工業製品などに用いた際に優れた抗菌効果を示す工業用抗菌組成物であって、かつ安全性や安定性にも優れる工業用抗菌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製紙工程における抄紙工程水や、各種工業用の冷却水や洗浄水などの工業用水、重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、塗料、ラテックス、接着剤、紙用塗工液、糊剤、皮革などの工業製品などにおいては、細菌や黴などの微生物が増殖しやすく、それらの生産性低下や製造工程中の作業性低下を招来し、ひいては品質低下の原因となっている。
特に、製紙工業用水を用いて製造される紙用塗工液においては、有害微生物によりこれが固化したり、悪臭や異臭が発生して作業環境を悪化させ、公衆衛生上好ましくない現象を引き起こしたりしている。
【0003】
また、製紙工程における用水系では、糸状菌類や酵母菌類などの有害微生物の増殖によりスライムが発生し、パルプスラリーが流れる水路や、チェスト、フローボックス、輸送パイプ、その他パルプスラリーの流速が小さくなって淀むような場所にスライムが多量に付着形成しやすい。
これらのスライムはしばしば剥離し、パルプスラリー中に再び混入して抄紙工程に移行し、紙切れ、あるいは製品汚染の原因となり、品質の低下や種々の障害を発生させ、殊に近年の高速抄紙においては、著しい生産性低下や断紙、損紙などの経済的損失を招来している。
【0004】
他方、重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、塗料、ラテックス、接着剤、紙用塗工液、糊剤、皮革などの工業製品においても微生物が非常に繁殖しやすく、腐敗した場合、悪臭や異臭を発生したり、発泡を引き起こしたりするなどの製品衛生上好ましくない現象や、発泡に起因する使用時の不都合などを生じることがあり、著しい品質の低下を招くなど種々の障害を発生させているのが現状である。
【0005】
当該技術分野において、有害微生物の防除剤としては、これまで、例えば有機金属化合物類、有機塩素化合物類、有機硫黄化合物類、有機窒素化合物類、第四級アンモニウム塩化合物類などが用いられてきた。
しかし、これらの化合物は、人体に対して毒性を有するのみならず、悪臭や異臭を発し、またこれらが一般河川や海などに流入した場合には、魚介類などに対して悪影響を与えるなど、環境保護上において問題を生じる。
このような問題を回避する有効な手段として、上記の化合物に代えて例えば2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドなどを使用することが知られているが、このアミドは作用性に偏りがあり微生物に対する効力が不十分であることに加え、シアノ基を有するため、作業に際しての安全性や排水を介しての動植物などの環境への影響が危惧される。
【0006】
そこで、環境保全上の問題を低減するため、上記のような化合物を使用しない防腐剤、具体的には、脂肪族ニトロアルコールと4,5−ジクロロ−2−オクチルイソチアゾリン−3−オンとを10:1〜1:10の重量割合で含有する防腐剤(特許第2140014号公報)や、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールと、酢酸誘導体またはイソチアゾロンとを有効成分とする防菌防藻剤(特公昭58−4682号公報)などが提案されている。
しかし、これらの防腐剤は、上記のような化合物を使用しないという点においては評価されるものの、得られる剤自体の安定性が十分ではない。
【特許文献1】特許第2140014号公報
【特許文献2】特公昭58−4682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、工業用水や工業製品などにおいて優れた抗菌効果を発揮し、かつ安全性や安定性にも優れる工業用抗菌組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を行った結果、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとグリコールハロアセテートとを有効抗菌成分とし、ポリオキシアルキレンエーテル、環状エステル、環状アミドのうち少なくとも1種とプロピレンカーボネートとを溶媒として得られる組成物は、高い安定性と安全性とを兼備できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)一般式I表されるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールおよび一般式IIで表されるグリコールハロアセテートと、(B)一般式IIIで表されるポリオキシアルキレンエーテル、一般式IVで表される環状エステル、一般式Vで表される環状アミドのうちの少なくとも1種と、(C)プロピレンカーボネートを含有することを特徴とする工業用抗菌組成物を要旨とする。
【0010】
【化2】

【0011】
式I〜V中、
1、R2:水素基、ハロゲン基、または置換基を有してもよいアルキル基
3:炭素数1〜4のアルキレン基、または炭素数2〜4のアルケニレン基
4:水素基、または−CO−CH2−X
5:炭素数1〜6のアルキル基
61,R62,R63:水素基、水酸基、または低級アルキル基
7:水素基、または低級アルキル基
α:炭素数3〜4の炭化水素
X、Y:ハロゲン基
n:2、または3
m:1〜11
【0012】
本発明の工業用抗菌組成物は、(A)成分としての一般式Iで表されるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールと一般式IIで表されるグリコールハロアセテートをその有効抗菌成分とする。
このうち、一般式Iで表されるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールは、これ自体公知の抗菌化合物であるが、単独の使用では糸状菌類や酵母菌類に対して活性が著しく劣り、細菌類に対しても所望の効果が十分には得られない。
また、グリコールハロアセテートも、これ自体公知の抗菌化合物であるが、やはり糸状菌類や酵母菌類、あるいは細菌類に対して、単独の使用では所望の効果を十分に得ることはできない。
本発明の工業用抗菌組成物は、このように、公知の抗菌成分をそれぞれ単独で使用する場合からは予測することのできない極めて優れた抗菌効果を発揮し、しかも有害微生物である糸状菌類や酵母菌類、細菌類などに対して、その種類に係わりなく広い抗菌範囲を有するものである。
【0013】
上記(A)成分中、一方の成分であるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールを示す一般式Iにおいて、R1、R2の置換基を有してもよいアルキル基の置換基とは、ヒドロキシ,カルボキシ,アルコキシ,アリールオキシ,フェニル,フェノキシなどであって、具体例としては、ヒドロキシメチル,ヒドロキシエチル,ヒドロキシプロピル,アセトキシメチルなどが挙げられる。R1とR2とは、同じ基としてもよいし、それぞれ異なる基としてもよい。
【0014】
このハロゲン化脂肪族ニトロアルコールの具体例としては、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール−(1,3)、1,1−ジブロモ−1−ニトロプロパノール(2)、2−クロロ−2−ニトロエタノール、1−クロロ−1−ニトロプロパノール(2)、3−クロロ−3−ニトロブタノール−(2)、2−クロロ−2−ニトロブタンジオール−(1,3)、1−クロロ−1−ニトロブタノール−(2)、2−クロロ−2−ニトロブタノール、2−クロロ−2−ニトロペンタノール(3)、2,2−ジクロロ−2−ニトロエタノール、2−クロロ−2−ブロモ−2−ニトロエタノール、3−クロロ−3−ニトロペンタンジオール−(2,4)、4−クロロ−4−ニトロヘキサノール−(3)、2−ブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパノール、2−ブロモ−2−ニトロブタンジオール−(1,3)、3−ブロモ−3−ニトロペンタンジオール−(2,4)、1,1−ジブロモ−1−ニトロプロパノール−(2)、4−ブロモ−4−ニトロヘキサノール−(3)、2−フルオロ−2−ニトロエタノール、2−フルオロ−2−ニトロブタンジオール−(1,3)、3−ヨード−3−ニトロブタノール−(2)、2−フルオロ−2−クロロ−2−ニトロエタノール、2−ヨード−2−ブロモ−2−ニトロエタノール、2−クロロ−2−ニトロプロパンジオール−(1,3)、2−ブロモ−2−ニトロ−アセトキシプロパノールなどが挙げられる。
これらの中でも、経済的且つ効力的理由から、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール−(1,3)などを好ましく用いることができる。
これらのハロゲン化脂肪族ニトロアルコールは、どれかを単独で用いてもよいし、必要に応じて適宜の組み合わせによる2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記(A)成分中、他方の成分であるグリコールハロアセテートを示す一般式IIにおいて、R3は、炭素数1〜4のアルキレン基か、炭素数2〜4のアルケニレン基であり、R4は、水素基が−CO−CH2−Xであり、このグリコールハロアセテートの具体例としては、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)プロパン、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、2−ブロモアセトキシエタノール、ブロモアセトキシプロパノール、ブロモアセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテンなどが挙げられる。
これらの中でも、経済的且つ効力的理由から、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)プロパン、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテンなどを好ましく用いることができる。
これらのグリコールハロアセテートも、どれかを単独で用いてもよいし、必要に応じて適宜の組み合わせによる2種以上を併用してもよい。
【0016】
有効抗菌成分である(A)のハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとグリコールハロアセテートとの配合割合は、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコールに対するグリコールハロアセテートの比が小さすぎると、グリコールハロアセテートによる抗菌効果が十分に得られず、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコールの単独使用の場合と同程度の抗菌効果しか得られず、大きすぎると、逆にハロゲン化脂肪族ニトロアルコールによる抗菌効果が十分に得られず、グリコールハロアセテートの単独使用の場合と同程度の抗菌効果しか得られず、(A)の抗菌成分を2種併用する技術的意義が生じないため、1:0.1〜1:10、好ましくは1:0.25〜1:5の重量比とする。
本発明の工業用抗菌組成物は、上記1:0.1〜1:10、好ましくは1:0.25〜1:5の範囲内の配合割合において、(A)の抗菌成分をそれぞれ単独で使用する場合からは予測することのできない極めて優れた抗菌効果を発現して、広い抗菌範囲を有することとなる。
【0017】
本発明の工業用抗菌組成物は、上記の(A)成分のハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとグリコールハロアセテートとを溶媒に均一に混合した液剤の形で用いられる。
これらの有効成分は、水への分散力が非常に小さいため、本発明では、(B)成分の一般式IIIで表されるポリオキシアルキレンエーテル、一般式IVで表される環状エステル、一般式Vで表される環状アミドの少なくとも1種と、(C)成分のプロピレンカーボネートとを溶媒として用い、溶液、あるいはエマルションやサスペンションなどの形態として用いられる。
これらの(B),(C)成分を溶媒として使用することにより、上記(A)成分の有効抗菌成分を長期間に渡って安定した状態の液剤(溶液、エマルション、サスペンションを含む意であり、以下、液剤と言うときは同じ)を保持することができる。
【0018】
(B)成分の上記ポリオキシアルキレンエーテルの具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができ、これらの中でも、経済的な理由や、製剤の安定性を向上させることができる理由から、特にジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどを好ましく用いることができる。
上記環状エステルの具体例としては、γ−ブチロラクトンなどを好ましく用いることができる。
上記環状アミドの具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタムなどが挙げられ、中でも、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
これらの(B)成分は、どれかを単独で用いてもよいし、適宜の組み合わせによる2種以上を併用してもよい。
【0019】
特に本発明において、高い製剤安定性を得るためには、上記の(B)成分中ポリオキシアルキレンエーテルが好ましく、このポリオキシアルキレンエーテルと、(C)成分のプロピレンカーボネートとを併用することが好ましい。
すなわち、(B)成分の1つであるポリオキシアルキレンエーテルは、上記のように溶媒として機能するほか、界面活性剤としても機能するため、例えば、(A)成分の有効抗菌成分と微生物との接触を有効に行わせたり、あるいは(腐敗を防ぎたい)試料中において、有効抗菌成分を速やかにまた、均一に分散させる作用なども有する。
一方、(C)成分のプロピレンカーボネートは、(B)成分に比べて、(A)成分の有効抗菌成分を均一に分散させる機能が優れている。
そして、この(C)成分のプロピレンカーボネートと、(B)成分、特に上記のポリオキシアルキレンエーテルとを併用することにより、(A)成分である有効抗菌成分の均一な分散状態を速やかに実現すると共に、この均一な分散状態の保持に有効に寄与し、本発明の工業用抗菌組成物を液剤として長期間に渡り安定な状態に保持する作用を発現する。
【0020】
上記の(B)成分のポリオキシアルキレンエーテル、環状エステル、環状アミドのうちの少なくとも1種、特にポリオキシアルキレンエーテルと、(C)成分のプロピレンカーボネートの併用割合は、(B),(C)両成分の上記機能を考慮して、1:0.1〜1:10、好ましくは1:0.4〜1:6が適している。
【0021】
また、(A)成分(有効抗菌成分)に対する(B)成分+(C)成分(溶媒)の重量比は、大きいすぎると、本発明の工業用抗菌組成物中における有効抗菌成分の分散性が向上し、ひいては抗菌組成物自体の安定性の向上には寄与するが、容量が大きくなりすぎるため、保管、運搬などに不都合を生じる場合があり、小さすぎると、抗菌組成物中における有効抗菌成分の分散保持、抗菌組成物自体の安定性に支障を来す場合があるため、1:0.5〜1:10、好ましくは1:0.5〜1:5が適している。
【0022】
上記(A)成分のハロゲン化脂肪族ニトロアルコールとグリコールハロアセテートとからなる有効抗菌成分は、通常の溶媒にも分散させることができるが、(A)成分の化学的な性質上、安定性を欠くため、経時的にその抗菌効果を失効、または減効してしまうことがある。
これを防ぐため、本発明では、(B)成分としてのポリオキシアルキレンエーテル、環状エステル、環状アミドのうちの少なくとも1種と、(C)成分としてのプロピレンカーボネートとを、(A)成分に対する溶媒として使用する。
これら(B)成分、特にポリオキシアルキレンエーテルと、(C)成分のプロピレンカーボネートとの混合体を、(A)成分に対する溶媒として使用することにより、前記したように、(A)成分の有効抗菌成分を、本発明の工業用抗菌組成物中において、高い分散性を有して長期間に渡って保持することができ、本発明の工業用抗菌組成物の安定性を飛躍的に向上させることができる。
【0023】
また、本発明の工業用抗菌組成物には、必要に応じてノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤などの添加剤を配合することもできる。
添加剤として界面活性剤を用いる場合は、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシアルキレンソルビタンモノラウレート、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミンなどを単独で、または複数を混合して用いることができる。
【0024】
本発明の工業用抗菌組成物を対象物に添加する際の濃度は、対象物に存在する微生物の種類やその濃度などによっても異なるが、一般的に製紙工業などの分野における工業用水に用いる場合は、1〜300ppm程度、好ましくは10〜100ppm程度とし、水性塗料、糊料、紙用塗工液、繊維用油剤、皮革などの工業製品に用いる場合には、10〜1000ppm程度、好ましくは100〜700ppm程度とする。
【0025】
また、従来から存在する種々の防腐剤は、アルカリ雰囲気下において使用すると、その有効成分は速やかにまた、著しく分解し防腐剤としての効力を持たなくなる。それに対し、本発明の工業用抗菌組成物はアルカリ雰囲気下の使用においても有効成分の分解が少なく、防腐効果を維持することができるため、pH7〜10程度のアルカリ域において使用することにより、その抗菌効果をより顕著に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の工業用抗菌組成物は、工業用水や工業用品などに適用されて優れた微生物への抗菌効果を発揮し、かつ組成物自体の安定性にも優れるため、長期間に渡って優れた抗菌効果を安定して維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
表1〜6の処方により抗菌組成物を調製した。例中の部は全て重量部を示す。
【0028】
なお、表1〜6中、
(A成分)
BNP:2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール−(1,3)
DBNE:2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール
BBAE:1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン
BBEB:1,4−ビス(ブロモアセトキシ)ブテン
(B成分)
MDG:ジエチレングリコールモノメチルエーテル
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
ML−250:アデカカーポールML−250(旭電化工業社製商品名)
GBL:γ−ブチロラクトン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
(C成分)
PC:プロピレンカーボネート
(溶媒)
DG:エチレングリコール
である。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
上記で調製した実施例1〜60、および比較例1〜6の抗菌組成物について、下記の各試験を行った。
〈微生物生育阻止濃度〉
試験例1
ブイヨン液体培地10mlに、前培養した供試菌(前培養後の菌数については下記に示す)50μl、および培地中において所定の濃度となるように各抗菌組成物を加え、32℃にて振盪培養を行った。
24時間後、培養液の濁度を目視で確認することにより微生物生育阻止濃度(ppm)を求めた。
供試濃度は、5、10、20、40、80ppmとした。
結果を表7〜9に示す。
【0036】
【表7】

【0037】
【表8】

【0038】
【表9】

【0039】
供試菌
i:Bacillus subtillis
(菌数:106〜107 CFU/ml)
ii:Pseudomonas aeruginosa
(菌数:107〜108 CFU/ml)
iii:Staphylococcus aureus
(菌数:106〜107 CFU/ml)
iv:Aerobactor aerogenea
(菌数:107〜108 CFU/ml)
v:A製紙会社B工場よりの分離菌1(細菌)
(菌数:106〜107 CFU/ml)
vi:A製紙会社B工場の分離菌2(糸状菌)
(菌数:105〜106 CFU/ml)
【0040】
表7〜9から明らかなように、本発明の工業用抗菌組成物(実施例1〜60)は、いずれの供試菌に対しても20ppm以下の低濃度で効果を示すのに対し、比較例においては全ての供試菌に対して一様に有効な効果を得ることができないことがわかる。
【0041】
〈製紙用塗工液における菌増殖防止試験〉
試験例2
pH9.8の澱粉系塗工液50mlに,ブイヨン液体培地1ml、および予め腐敗させた該塗工液0.5mlを加え撹拌し、上記にて調製した各抗菌組成物の濃度が300ppmとなるようにこれを添加した。
これを32℃の恒温器に5日間保存した後、各塗工液中の生菌数を測定した。結果を表10〜12に示す。
【0042】
【表10】

【0043】
【表11】

【0044】
【表12】

【0045】
表10〜12から明らかなように、本発明の工業用抗菌組成物(実施例1〜60)は、いずれも5日後の生菌数が102CFU/ml以下と優れた抗菌効果を示すのに対し、比較例においては全てその生菌数が105CFU/ml以上と、有効な抗菌効果を得ることができないことがわかる。
【0046】
〈繊維用油剤エマルション液における菌増殖防止試験〉
試験例3
pH8.5のポリエステル系油剤エマルション液50mlに,ブイヨン液体培地1ml、および予め腐敗させた該油剤エマルション液0.5mlを加えて撹拌し、上記にて調製した各抗菌剤の濃度が300ppmとなるようにこれを添加した。
これを32℃の恒温器に15日間保存し、5、10、15日目の各油剤エマルション液中の生菌数を測定した。結果を表13〜15に示す。
【0047】
【表13】

【0048】
【表14】

【0049】
【表15】

【0050】
表13〜15から明らかなように、本発明の工業用抗菌組成物(実施例1〜60)は、いずれも15日間もの間、その生菌数が10CFU/ml以下と優れた抗菌効果を示すのに対し、比較例においては有効な抗菌効果を得ることができないことがわかる。
【0051】
〈安定性試験〉
上記の実施例1〜60、および比較例1〜6にて調製した抗菌組成物各100gを、ガラス製の試薬瓶2個に各々入れて密封し、1個を−5℃に保った恒温器中に、他方の1個を50℃に保った恒温器に入れて各々7日間保管した。
その後、高速液体クロマトグラフィーにより、本発明の工業用抗菌組成物を構成する有効抗菌成分のうち、(A)成分である2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール−(1,3)、および1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテンの濃度を測定し、各々の残存率を算出した。
なお、濃度の測定にあたり、抗菌組成物に結晶が析出した場合は、溶液部分について各成分の濃度測定を行った。
結果を表16〜18に示す。
【0052】
【表16】

【0053】
【表17】

【0054】
【表18】

【0055】
表中、*は、2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール−(1,3)の結晶が析出したことを示している。
【0056】
表16〜17に見られるように、実施例1〜60の抗菌組成物、すなわち本発明の工業用抗菌組成物は、−5℃において7日間保管した後でも、(A)成分である2つの有効抗菌成分はともに、その残存率が95%以上と優れた安定性を示している。また、50℃において7日間保管した後にも、(A)成分はともに、その残存率が90%以上と優れた安定性を示している。
【0057】
一方、表18に見られるように、比較例1および比較例4のように、(B)成分のポリオキシアルキレンエーテルのみを溶媒として用い、(C)成分であるプロピレンカーボネートを配合しないものでは、(A)成分の1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタンや1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテンの残存率が低い。
また、比較例2および比較例5のように、(C)成分であるプロピレンカーボネートのみを溶媒として用い、(B)成分であるポリオキシアルキレンエーテルを配合しないものでは、−5℃において7日間保管した場合に、(A)成分である2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール−(1,3)が析出するため、この残存率が低くなる。
さらに、比較例3および比較例6のように、(B)成分であるポリオキシアルキレンエーテルの代わりに通常の溶媒であるアルキレングリコールを用い、(C)成分のプロピレンカーボネートとの混合溶媒としたものでは、(A)成分はともにその残存率が低く、50℃において7日間保管した場合の残存率は特に低い。
【0058】
以上の結果から、本発明の工業用抗菌組成物は、溶媒として(B)成分、特にポリオキシアルキレンエーテルと、(C)成分を併用することにより、実際の使用状況を模擬、または加速した低温、および高温の両環境下において、(A)成分である2つの有効抗菌成分はともにその残存率が高く、抗菌組成物として安定性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の工業用抗菌組成物は、抄紙工程水、工業用冷却水、工業用設備の循環液、工業用洗浄水などの工業用水、工業用油剤、高分子ラテックス、塗工液、糊料、塗料、金属加工油、印刷インキ、接着剤、サイズ剤、皮革などの工業製品などに用いられて、優れた抗菌効果を発揮し、上記の他にも微生物による腐敗を防止することが必要とされるものの殆どに適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式Iで表されるハロゲン化脂肪族ニトロアルコールおよび、一般式IIで表されるグリコールハロアセテートと、
(B)一般式IIIで表されるポリオキシアルキレンエーテル、一般式IVで表される環状エステル、一般式Vで表される環状アミドのうちの少なくとも1種と
(C)プロピレンカーボネート
を含有することを特徴とする工業用抗菌組成物。
【化1】


式I〜V中、
1、R2:水素基、ハロゲン基、または置換基を有してもよいアルキル基
3:炭素数1〜4のアルキレン基、または炭素数2〜4のアルケニレン基
4:水素基、または−CO−CH2−X
5:炭素数1〜6のアルキル基
61,R62,R63:水素基、水酸基、または低級アルキル基
7:水素基、または低級アルキル基
α:炭素数3〜4の炭化水素
X、Y:ハロゲン基
n:2、または3
m:1〜11

【公開番号】特開2006−89397(P2006−89397A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274853(P2004−274853)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000135760)株式会社パーマケム・アジア (17)
【Fターム(参考)】