説明

左官用モルタル混和材およびそれを含むモルタル組成物

【課題】 石綿成分をまったく含まない左官用モルタル混和材において、コテ塗りを一層円滑に行うことができ、混和も均一となり、表面層として塗布しても経時的な変色等を生じさせることのない左官用モルタル混和材およびそれを含むモルタル組成物を提供する。
【解決手段】 44〜94重量%(好ましくは67〜89重量%)の炭酸カルシウムと、5〜50重量%(好ましくは10〜30重量%)の真珠岩パーライトと、1〜6重量%(好ましくは1〜3重量%)のPVALとを混合した左官用モルタル混和材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左官用モルタル混和材およびそれを含むモルタル組成物に関し、特に、モルタル中に混和することによって、コテでの塗り易さを改善して作業性を向上させることのできる左官用モルタル混和材およびそれを含むモルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
左官用モルタルのコテ塗り性を良好にするために、従来から種々の混和材が用いられている。性能およびコストの点で石綿が有効な混和材であったが、健康上の理由から石綿の使用は禁止されるようになり、モルタル混和材として石綿に代わる他の材料が模索されている。
【0003】
特許文献1(特開2004−75526号公報)には、石綿含有蛇紋岩を900〜1050℃の温度で焼成した後、粒度を298μm以下に粒度調整して得られるモルタル混和材が記載され、この温度で焼成することにより石綿(クリソタイル)の毒性が消失し、また肺障害も低減する混和材が得られると記載されている。
【0004】
特許文献2(特開平7−138057号公報)には、複合セメント混和剤組成物として、水溶性のセメント混和剤粉体1重量部に対して、1〜99重量部の微粉体を均一に粉体混合したものが記載されている。水溶性のセメント混和剤粉体としては、ポリスチレンスルホン酸塩やポリビニルアルコール系高分子等が用いられ、微粉体としては、シリカ系微粉体や炭酸カルシウム等の炭酸塩が用いられる。
【0005】
特許文献3(特開平11−116311号公報)には、屋根用耐火断熱材等である無機質高充填ポリオレフィン系難燃樹脂発泡体の粉砕粒と、黒曜石を発泡させて得られる球状パーライト等である無機質発泡粒と、ポリビニルアルコール等である水溶性高分子物質と、接着剤樹脂組成物と、繊維とからなる骨材用モルタル組成物に対して、セメントと水を混和して得られる壁塗り用モルタル組成物が記載されている。
【特許文献1】特開2004−75526号公報
【特許文献2】特開平7−138057号公報
【特許文献3】特開平11−116311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の混和材は、実質的にあるいはまったく石綿を含んでないので、通常の場合、健康に悪影響を与えることはない。しかし、特許文献1のものは石綿含有蛇紋岩を使用しており、焼成等をして無毒化するとしても、製造過程の都合により微量とはいえ有毒性のある石綿(クリソタイル)が残存する可能性がある。特許文献2や3に記載のものはまったく石綿成分を含んでいないのでそのような恐れはないが、特許文献2のものは主成分が微粉体であることから表面エネルギーが高く、凝集しやすい。そのため、モルタル中での拡散性が悪く、混和が不均一になる恐れがある。特許文献3のものは主成分として樹脂発泡体を多く含んでいることから、当該モルタルを表面層として使用したときに紫外線の影響を受けて、経年的に美観を損なう恐れがある。
【0007】
上記のように、従来提案されている左官用モルタル混和材は依然として改善すべき課題が残っている。本発明はそのような事情に鑑みてなされたものであり、石綿成分をまったく含まない左官用モルタル混和材において、コテ塗りを一層円滑に行うことができ、混和も均一となり、表面層として塗布しても経時的な変色等を生じさせることのない左官用モルタル混和材およびそれを含むモルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による左官用モルタル混和材は、44〜94重量%の無機粉体と、5〜50重量%の無機発泡粉体と、1〜6重量%の水溶性高分子粉体とを混合したものである。後の実施例から明らかなように、本発明による左官用モルタル混和材において、無機粉体のより好ましい重量%は67〜89重量%であり、無機発泡粉体のより好ましい重量%は10〜30重量%であり、また、水溶性高分子粉体のより好ましい重量%は1〜3重量%である。また、上記の左官用モルタル混和材と、セメント、骨材および水とを混合することにより、本発明によるモルタル組成物が得られる。
【0009】
本発明において、無機粉体は、水溶性高分子のモルタル中への拡散性を向上させる目的で用いられるものであり、使用する無機粉体としては、炭酸カルシウム、無水珪酸、珪酸アルミニウム、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト、フライアッシュ、酸化アルミニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、等が挙げられる。中でも、炭酸カルシウムはモルタル中への拡散性がよく、純度が高く、品質が安定しているという理由から好ましい。無機粉体の平均粒子径は200μm以下が好ましい。200μmより大きな粒子径のものは分散性が幾分不良となるという理由から好ましくない。より好ましくは100μm以下であり、最も好ましくは10〜50μmの範囲である。
【0010】
本発明において、無機発泡粉体はモルタル混和材中に空気を連行し、微粉体同士の凝結を妨げる目的で用いられるものであり、軽量で高強度であり、吸水性が小さいという理由から、真珠岩を粉砕し加熱膨張して得られる真珠岩パーライトが好ましくは用いられる。そのほかに、無機発泡粉体として、黒曜石パーライト、ガラスバルーン、シラスバルーン等を挙げることができる。無機発泡粉体の平均粒子径は、1.2mm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、最も好ましくは100〜250μmである。1.2mmより大きくなると、分離性が幾分不良となる。粒子径が小さいものの場合、無機発泡粉体は、発泡構造を持つ無機発泡粉体を粉砕機にかけて発泡体構造が破壊されたものであってもよく、同等の効果が得られる。100〜250μmであれば、分離性、外観のよいものとなる。
【0011】
本発明において、水溶性高分子粉体は、モルタル混和材に適度な粘性を与え、保水性を向上させ、かつモルタルの滑りをよくする目的で用いられるものであり、使用する水溶性高分子粉体としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールはモルタルへの粘性付与性がよく、かつ化学的な安定性も高いという理由から好ましい。水溶性高分子粉体の平均粒子径は180μm以下であることが好ましい。180μmより大きな粒子径ものは水への溶解性が低下するという理由から好ましくない。より好ましくは30〜150μmの範囲である。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、本発明による左官用モルタル混和材は石綿をまったく含まないので、製造時、使用時に人体に悪影響を及ぼすことはない。後の実施例に示すように、モルタルへの拡散も短時間で均一に進行するので、作業性も向上する。それを混和して得られるモルタル組成物は、長い間放置しても粘性に大きな変化が生じず、コテによる塗り易さも長時間にわたって継続する。さらに、発泡樹脂を混和材として使用していないので、塗布したモルタル面が紫外線を受けて変色することもない。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例と比較例により説明する。
[実施例]
原料として、以下のものを用いた。
・無機粉体:炭酸カルシウム(旭鉱末社製)、平均粒子径20μm。
・無機発泡粉体:真珠岩パーライト(東邦レオ社製「TS−4」)、平均粒子径170μm(ただし、実施例6を除く)。
・水溶性高分子粉体:ポリビニルアルコール(PVAL):日本合成化学工業社製「ゴーセノールGH−17」、平均粒子径65μm。
【0014】
上記Aの原料を下記実施例1〜実施例6のように配合(重量%)したもの1kgを、セメント(普通ポルトランドセメント)25kg、骨材(珪砂5号)62.5kgに対し、約10リットルの水を混入・攪拌して得たモルタルに、それぞれ混入・攪拌し、練り上がった各混和材入りモルタルを試験壁に塗りつけて、性能を確認した。その結果を実施例1〜6として表1に示す。なお、実施例6では、混合する真珠岩パーライトとして、東邦レオ社製「10F」を粒子径1.2mm以下1.0mm以上にふるい分けしたものに変更した。
【0015】
[比較例]
実施例で使用した原料を用い、その配合比を代えて混合したものを下記比較例1〜4とした。それを実施例と同様のモルタルに混和・攪拌し、練り上がった各混和材入りモルタルを試験壁に塗りつけて、実施例と同様にして性能を確認した。その結果を比較例1〜4として表1に示す。
【0016】
[配合(重量%)]
[実施例1]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=75:20:5
[実施例2]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=78:20:2
[実施例3]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=88:10:2
[実施例4]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=68:30:2
[実施例5]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=48:50:2
[実施例6]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=68:30:2
[比較例1]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=72:20:8
[比較例2]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=80:20:0
[比較例3]炭酸カルシウム:PVAL=98:2
[比較例4]炭酸カルシウム:パーライト:PVAL=38:60:2
【0017】
なお、各原料の平均粒子径は次のようにして測定した。
[無機粉体の平均粒子径の測定方法]
・JIS K 5101に準ずる。
・JIS Z 8801に規定する標準網ふるい、目開き250μm、目開き212μm、目開き180μm、目開き150μm、目開き125μm、目開き106μm、目開き90μm、目開き75μm、目開き63μm、目開き53μm、目開き45μm、目開き38μm、目開き32μm、目開き26μm、目開き22μmを使用する。
・試料100gを0.1gまで正確に計り標準ふるいに入れ、シャワー状の水をふるい上に注ぎ、通過した水に炭酸カルシウムが認められなくなるまで洗う。ふるい上の試料を110℃の乾燥器中で乾燥後、室温まで冷却したのち、ふるい上の残分量を計り、百分率で表示する。ふるい上の試料重量を測定し、その結果から得られた累積重量分布曲線を元に、累積重量が50%となる粒子径(メディアン径)をその試料の平均粒子径とした。
【0018】
[無機発泡粉体の平均粒子径の測定方法]
・JIS A 5007に準ずる。
・JIS Z 8801に規定する標準網ふるい、目開き1.0mm、目開き850μm、目開き710μm、目開き600μm、目開き500μm、目開き425μm、目開き355μm、目開き300μm、目開き250μm、目開き212μm、目開き180μm、目開き150μm、目開き125μm、目開き106μm、目開き90μmを使用する。
・試料100gを標準網ふるいに入れ、上下・水平動をあたえ、1分間に各ふるいにとどまる量の重量1%以上がそのふるいを通過しなくなるまでふるい分けを行う。ふるい上の試料重量を測定し、その結果から得られた累積重量分布曲線を元に、累積重量が50%となる粒子径(メディアン径)をその試料の平均粒子径とした。
【0019】
[PVALの平均粒子径の測定方法]
・JIS K 6726に準ずる。
・JIS Z 8801に規定する標準網ふるい、目開き180μm、目開き150μm、目開き125μm、目開き106μm、目開き90μm、目開き75μm、目開き63μm、目開き53μm、目開き45μmを使用する。任意に100g採取した試料を電動式水平振動機によって、振動数毎分200〜300回、振幅5cm及び打数毎分約150回の条件下で15分間振動させる。振動後ふるい上の試料重量を測定し、その結果から得られた累積重量分布曲線を元に、累積重量が50%となる粒子径(メディアン径)をその試料の平均粒子径とした。
【0020】
【表1】

【0021】
なお、表1での評価項目、判断基準および総合評価は以下のようにした。
[評価項目]
分離性:○混和材に振動を与えても原料が均一に混合した状態を保ち良好 △振動を与ると原料分離が起こる ×振動を与えなくても容易に原料分離が起こり不良
拡散性:○混和材が凝集せず瞬時にモルタル中に拡散する △時間はかかるが拡散する ×拡散しない
施工性:○施工面が良好 △実用的に問題はない ×左官材としての不適当である
保水性:○30分間放置しても粘性がほぼ変化しない △少々硬くなるが実用的に問題な い ×放置後は使用できない
外観 :○良好 △実用的に問題はない ×施工面に欠損がある
【0022】
[総合評価]
◎:5項目全て○の場合
○:5項目中×がなく△が1つの場合
△:5項目中×がなく△が2つの場合
×:5項目中×が1つ以上又は△が3つ以上の場合
【0023】
[評価]
実施例1〜6のものは総合評価が良好であり、本発明の有効性が示される。中でも、実施例2、3、4は特に優れていることから、炭酸カルシウムのより好ましい重量%は67〜89重量%、パーライトのより好ましい重量%は10〜30重量%、また、PVALのより好ましい重量%は1〜3重量%であることがわかる。実施例6ではパーライトの粒子径が1.2〜1.0mmと大きいことから、分離性と外観において実施例1〜5と比較してやや劣っており、このことから、パーライトの粒子径は170μm前後が特に好ましいことがわかる。
【0024】
一方、比較例1はPVALの量が8重量%と多く、本発明の範囲(1〜6重量%)を外れている。その結果、拡散性、外観において実施例品よりも性能が低下している。一方、比較例2はPVALの量が0重量%であり、やはり本発明の範囲を外れている。保水性において実施例品よりも性能が低下している。そのことから、本発明によるセメント混和剤において、水溶性高分子粉体(PVAL)が所定量含まれていることは重要であることがわかる。
【0025】
比較例3はパーライトを混入していない点で、実施例品と相違する。その結果、性能的には、拡散性、施工性、保水性の点で本発明品よりやや劣っており、総合評価は×となっている。このことから、本発明によるセメント混和材において、無機発泡粉体(パーライト)が所定量含まれていることは、混和材の凝集を防ぎ、モルタル混合時に瞬時に拡散させるうえで重要であることがわかる。
【0026】
比較例4は炭酸カルシウムの量が38重量%と少なく、本発明の範囲(44〜94重量%)を外れている。その結果、性能的に、分離性、拡散性、保水性において本発明品よりやや劣っており、総合評価は×となっている。このことから、本発明によるセメント混和剤において、無機粉体(炭酸カルシウム)が所定量含まれていることは重要であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
44〜94重量%の無機粉体と、5〜50重量%の無機発泡粉体と、1〜6重量%の水溶性高分子粉体とを混合した左官用モルタル混和材。
【請求項2】
無機発泡粉体は平均粒子径が300μm以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の左官用モルタル混和材。
【請求項3】
無機粉末は炭酸カルシウムであり、無機発泡粉体は真珠岩パーライトであり、水溶性高分子粉体はポリビニルアルコールの粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の左官用モルタル混和材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の左官用モルタル混和材と、セメント、骨材および水とからなるモルタル組成物。

【公開番号】特開2006−96631(P2006−96631A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286359(P2004−286359)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】