説明

差動式キャスタ

【課題】電動モータを確実に支軸に固定することができ、良好な駆動力を得ることができる差動式キャスタを提供する。
【解決手段】副軸10に一対の電動モータを電動モータ取付けプレート31を介して互いに固定する差動式キャスタであって、副軸10に電動モータ取付けプレート31の周方向への回転を規制する止めネジ63を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一対の車輪を有する差動式キャスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、差動式キャスタを用いて自走可能にした電動車椅子や、倉庫等に保管された部品を搬送する搬送車等が知られている。
この差動式キャスタは、シャーシ部(車体)に回転自在に取付けられた支軸の一端に一対の駆動輪を備えたものである。これら駆動輪には、小型化を図るためにそれぞれ電動モータが内蔵され、各々駆動輪が独立して駆動することができるようになっている。そして、各駆動輪の回転差によって電動車椅子や搬送車の走行方向を変更可能にしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−90903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、差動式キャスタにあっては、支軸の一端にこの軸方向と交差する中空部(貫通孔)を設け、ここに駆動輪の電動モータを固定するための電動モータ取付けプレートを設けたものがある。そして、この電動モータ取付けプレートにそれぞれ電動モータをボルトで締結固定するようになっている。
【0004】
ここで、電動モータは、ボルトで締め付けられると電動モータ取付けプレート側(支軸側)へと引っ張られるようになっている。このとき、電動モータと支軸とに摩擦抵抗が発生し、この摩擦力によって電動モータの自転(周方向への回転)が規制されるようになっている。
このように、電動モータ取付けプレートを用いて支軸に電動モータを固定すれば、支軸の外周面に電動モータを固定するための固定部を設ける必要がなくなるため、差動式キャスタの小型化を図ることができる。
【0005】
しかしながら、電動モータ取付けプレートは、中空部に遊嵌されているため、電動モータを締め付けているボルトの締結力が低下すると、電動モータと支軸との間の摩擦力も弱まってしまう。このため、電動モータが自転してしまい、効率的に駆動輪が駆動しなくなるおそれがあるという課題がある。
【0006】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、電動モータを確実に支軸に固定することができ、良好な駆動力を得ることができる差動式キャスタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、取付け板と、前記取付け板に回転自在に設けられた主軸と前記主軸の一端から前記主軸に交差する方向に延び中空部を有する副軸とを備えた支軸と、前記中空部に設けられた電動モータ取付けプレートと、前記副軸の両端に設けられ前記電動モータ取付けプレートを介して互いに固定されている一対の電動モータと、前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対の車輪とから成る差動式キャスタであって、前記副軸に前記電動モータ取付けプレートの周方向への回転を規制する規制部材を設けたことを特徴とする。
この場合、請求項2に記載した発明のように、前記電動モータ取付けプレートに前記規制部材を受け入れ可能な受け入れ部を形成してもよい。
このように構成することで、支軸の中空部に設けられた電動モータ取付けプレートの周方向への回転を防止することができるため、電動モータの自転を防止し、確実に支軸に固定することができる。
【0008】
請求項3に記載した発明は、前記電動モータ取付けプレートに前記電動モータに接続されるリード線を配索するためのリード線配索部を形成したことを特徴とする。
このように構成することで、支軸の副軸内にリード線を配索することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1、及び請求項2に記載した発明によれば、支軸の中空部に設けられた電動モータ取付けプレートの周方向への回転を防止することができるため、電動モータの自転を防止し、確実に支軸に固定することができる。よって、良好な駆動力を得る差動式キャスタを提供することができる。
【0010】
請求項3に記載した発明によれば、支軸の副軸内にリード線を配索することが可能になるため、差動式キャスタのさらなる小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、差動式キャスタ1は、電動車椅子や搬送車として用いられる車体2の下面(図1における下側)にフリーキャスタ3,4と共に取付けられている。車体2は、その上面が椅子や部品を載置するスペースになっている。また、車体2には、差動式キャスタ1の設置位置に対応する部位に孔2aが形成されている。この孔2aは、車体2と差動式キャスタ1との干渉を防止するためのものである。
【0012】
図2に示すように、差動式キャスタ1は、これを車体2に取付けるための取付け板5を備えている。取付け板5には、径方向中央に2つの軸受け6,7が設けられ、ここに支軸8が回転自在に支持されている。
支軸8は、鉛直方向(図2における上下方向)に沿って延在する主軸9と、主軸9の下端(図2における下側)に設けられ水平方向(図2における左右方向)に沿って延在する副軸10とが一体成形されたものである。主軸9、及び副軸10には、それぞれの軸方向に沿って貫通する中空部9a,10aが形成されている。これら中空部9a,10aは、電動モータ12に電力を供給するための電力供給線30を配索するためのものであって、互いに連通した状態となっている。
【0013】
主軸9の上端側(図2における上側)には、支軸8の回転角度を検出するための中空軸型エンコーダ11が設けられている。中空軸型エンコーダ11は、この上端側に設けられた中空状のカラー33と下端側に設けられた受け座34とによって支軸8の軸方向への移動が規制されるようになっている。受け座34は、ボルト54で取付け板5に締結固定してある。
【0014】
一方、副軸10の両端には、一対の車輪35,35が軸受け36,36でそれぞれが回転自在に取付けられている。各車輪35,35は、副軸10に回転自在に支持された有底筒状のホイール37を有し、ホイール37の開口部を蓋部38で覆うと共に、ホイール37の外周部分に床面などに接地するタイヤ39がタッピングネジ40で固定されている。ホイール37と蓋部38が形成する内部空間には、電動モータ12が1つずつ内蔵されており、各々車輪35,35を独立して回転駆動できるようになっている。
【0015】
ここで、電動モータ12は、副軸10の中空部10aの軸方向略中央(図2における中央)に設けられた電動モータ取付けプレート31にボルト32によって締結固定してある。
図2、図3に示すように、電動モータ取付けプレート31は、平面視で中空部10aの軸方向と直交する断面形状に対応するように形成されている。電動モータ取付けプレート31には、雌ネジ部60a,60b,60c,60dが4箇所刻設されている。この雌ネジ部60a,60b,60c,60dは、それぞれ2つずつ電動モータ12,12を締結固定するために用いられる。
【0016】
つまり、4つ雌ネジ部60a,60b,60c,60dのうちの2つは、図2における左側からボルト32が螺入され、残りの2つは、図2における右側からボルト32が螺入されることによって2つの電動モータ12,12がそれぞれ締結固定されるようになっている。尚、図3において、中央下方に位置する雌ネジ部60aと左側に位置する雌ネジ部60cとを一方の電動モータ12を締結固定するために、また、中央に位置する雌ネジ部60bと右側に位置する雌ネジ部60dとを他方の電動モータ12を締結固定するために用いることが望ましい。
【0017】
電動モータ取付けプレート31の中央やや下寄り(主軸9とは反対寄り)には、切り欠き部61,61が中央から下方外側(図3における左右方向)に向かって斜めに2箇所形成されている。これら切り欠き部61,61のエンド部(底部)61aは、円弧状に形成されている。
【0018】
一方、副軸10の周壁10bには、切り欠き部61,61に対応する部位に雌ネジ部62,62が刻設されており、ここに止めネジ63が螺入されている。この止めネジ63は、副軸10の周壁10bを外側から内側に向かって貫通し、電動モータ取付けプレート31の切り欠き部61に介在した状態になっている。つまり、電動モータ取付けプレート31の切り欠き部61は、止めネジ63を受け入れ可能に形成されている。
【0019】
尚、切り欠き部61の幅E1は、止めネジ63の直径と略一致するように設定することが望ましい。
また、電動モータ取付けプレート31の主軸9側には、平面取り部64が形成されている。平面取り部64は、電力供給線30を配索するための配索部としての機能を有するものである。つまり、この平面取り部64によって、中空部10aの内周面と平面取り部64との間に空隙Sが形成され、この空隙Sに電力供給線30を配索するようになっている。
【0020】
図2に示すように、電動モータ12は、支軸8の副軸10に固定されたブラケット15と、ブラケット15に固定された有底筒状のヨーク13とを有し、ブラケット15、及びヨーク13でアーマチュア14を回転自在、且つ水平方向に沿うように支持している。
ブラケット15は、副軸10の中空部10aに内嵌される筒部24と、筒部24のアーマチュア14側(図2における左右方向)端から径方向外側に延出するフランジ部25とが一体成形されたものである。
【0021】
筒部24の周壁には、ボルト32を螺入するためのボルト孔55が形成されていると共に、主軸9側(図2における上側)に筒部24の軸方向に貫通する貫通孔24aが形成されている。この貫通孔24aは、電力供給線30を挿通するためのものである。また、筒部24のアーマチュア14側(図2における左右方向)には、径方向中央に軸受け26が設けられ、ここにアーマチュア14の出力軸17の一端が回転自在に支持されている。
【0022】
図2、図4に示すように、フランジ部25は、ヨーク13の開口部を覆うように断面略ハット状に形成されたものであって、このエンド部25aには、副軸10側(図4における左側)に段差部47が形成されている。この段差部47により、フランジ部25は、副軸10の両端に設けられた軸受け36の内輪のみに当接するようになっている。
【0023】
したがって、ブラケット15は、ボルト32を締め付けることによって副軸10側へと引っ張られることになるが、フランジ部25に段差部47が形成されているため、軸受け36の外輪の回転を阻害するおそれがない。しかも、フランジ部25が軸受け36の内輪に押し付けられることによって両者に摩擦抵抗が発生し、この摩擦力によってブラケット15が周方向に回転してしまうことを防止することができるようになっている。尚、ボルト32の締結力が大きければ大きいほど摩擦力が大きくなることはいうまでもない。
【0024】
一方、フランジ部25のアーマチュア14側(図4における右側)には、ホルダーステー48が取付けられている。このホルダーステー48には、複数のブラシホルダ28が設けられており、このブラシホルダ28に、それぞれブラシ29が出没自在に内装されている。
これらブラシ29には、電力供給線30の一端が電気的に接続されている。この電力供給線30の一端は、外部から支軸8の中空部9a,10a、筒部24の貫通孔24aを通ってブラシ29まで配索されている一方、他端は不図示の外部電源に接続されている。
【0025】
フランジ部25の周縁部には、ヨーク13の開口部が固定されている。ヨーク13の内周面には、複数の永久磁石27が周方向に等間隔で接着剤等により固定されている。
ヨーク13のエンド部(底部)16には、径方向中央にアーマチュア14の出力軸17を挿通するための挿通孔18が形成され、この挿通孔18内に軸受け19が設けられている。この軸受け19は、アーマチュア14の出力軸17の他端側を回転自在に支持するためのものである。
【0026】
アーマチュア14は、出力軸17に外嵌固定されたアーマチュアコア20と、アーマチュアコア20に巻装されたアーマチュアコイル21と、アーマチュアコア20の一端側(図2における中央側)に配置されたコンミテータ(整流子)22とで構成されている。
コンミテータ22の外周面には、導電材で形成されたセグメント23が複数枚取付けられている。
【0027】
セグメント23は軸方向に長い板状の金属片からなり、互いに絶縁された状態で周方向に沿って等間隔に並列に固定されている。各セグメント23には、アーマチュアコイル7の巻き始め端と巻き終わり端とがヒュージングにより接続されている。
また、セグメント23は、ブラシ29の先端部に摺接している。これにより、外部からの電源が電力供給線30,ブラシ29を介してコンミテータ22に供給されるようになっている。
【0028】
出力軸17の他端側は、ヨーク13のエンド部16に形成されている挿通孔18から外側に向かって突出している。この出力軸17の突出した部分には、外周面にギア部41が形成され、減速機構42に噛合されている。
減速機構42は、出力軸17に噛合され歯数の異なる2つの平歯車を同軸上に備えた段付平歯車43と、車輪35の蓋部38に一体に形成され段付平歯車43に噛合される内歯歯車45とで構成されている。段付平歯車43は、ヨーク13のエンド部16に突設されている不図示の支軸に回転自在に支持されている。この不図示の支軸は、段付歯車43を貫通し、車輪35の蓋部38側に突出している。この支軸が突出した部位には、支持部材44が取付けられている。この支持部材44は、軸受け46を介して蓋部38を回転自在に支持している。このように、アーマチュア14の出力軸17は、減速機構42を介して車輪35と連係した状態になっている。
【0029】
このように構成された差動式キャスタ1は、両輪(図2における一対の車輪35,35)を同じ回転速度で駆動させたとき、車体2が直進、又は後進(図2における紙面手前側、又は奥側)するようになっている。そして、それぞれ車輪35,35を互いに違う回転速度で駆動させたとき、又は一方の車輪35を駆動し、他方の車輪35を停止させたとき、車体2が右方向、又は左方向に旋回するようになっている。
【0030】
したがって、上述の実施形態によれば、副軸10の中空部10aに設けられた電動モータ取付けプレート31に切り欠き部61を設けると共に、副軸10に止めネジ63を螺入し、この止めネジ63が切り欠き部61に介在するようになっている。このため、電動モータ取付けプレート31の周方向への回転を防止することで電動モータ12の自転を防止することができる。よって、確実に支軸8の副軸10に電動モータ12を固定することができ、良好な駆動力を得る差動式キャスタ1を提供することができる。
【0031】
また、例えば、電動モータ12を締結固定するためのボルト32の締結力が低下した場合であっても、止めネジ63を用いて容易に電動モータ12の自転を防止できるので、フェールセーフ(fail safe)機能を安価に付加することができる。
ここで、フェールセーフとは、部品やシステムなどの故障が確実に安全側のものとなること、又は少なくともほぼ確実に安全側のものとなる(すなわち、危険側の故障の可能性が極めて低い)ことを意味する。
【0032】
さらに、電動モータ取付けプレート31の主軸9側に平面取り部64を形成し、中空部10aの内周面と平面取り部64との間に空隙Sを形成することで電力供給線30を配索することができる。このため、主軸9、及び副軸10に形成されている中空部9a,10aを電動モータ取付けプレート31で遮断することがなく、この結果電力供給線30を支軸8内部に配索することが可能になる。よって、差動式キャスタ1のさらなる小型化を図ることができる。
【0033】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
また、上述の実施形態では、電動モータ取付けプレート31に切り欠き部61を形成した場合について説明したが、これに限られるものではなく、例えば、平面取り部を形成する等、副軸10に螺入された止めネジ63を受け入れ可能に形成すればよい。
【0034】
さらに、上述の実施形態では、電動モータ取付けプレート31に切り欠き部61を形成した場合について説明したが、これに限られるものではなく、副軸10に螺入された止めネジ63を直接電動モータ取付けプレート31の周面に押圧するようにしてもよい。この場合、止めネジ63は、この先端形状が先細りに形成されているものが望ましい。
そして、上述の実施形態では、差動式キャスタ1は、電動車椅子や搬送車の車体2の下面にフリーキャスタ3,4と共に取付けられている場合について説明したが、これに限られるものではなく、車体2の下面に差動式キャスタ1のみ取付けてもよい。
【0035】
また、アーマチュア14の出力軸17は、減速機構42を介して車輪35と連係した状態になっている場合について説明したが、これに限られるものではなく、減速機構42に代えて遊星減速機構としてもよい。この場合、段付歯車43を出力軸17に噛合って自転すると共に、出力軸17を中心に公転可能な遊星歯車に代えればよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態における差動式キャスタの取付け状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における差動式キャスタの縦断面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】本発明の実施形態における差動式キャスタの一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 差動式キャスタ
5 取付け板
8 支軸
9 主軸
10 副軸
9a,10a 中空部
12 電動モータ
17 出力軸
30 電力供給線(リード線)
31 電動モータ取付けプレート
35 車輪
61 切り欠き部(受け入れ部)
63 止めネジ(規制部材)
64 平面取り部(リード線配索部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付け板と、
前記取付け板に回転自在に設けられた主軸と前記主軸の一端から前記主軸に交差する方向に延び中空部を有する副軸とを備えた支軸と、
前記中空部に設けられた電動モータ取付けプレートと、
前記副軸の両端に設けられ前記電動モータ取付けプレートを介して互いに固定されている一対の電動モータと、
前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対の車輪とから成る差動式キャスタであって、
前記副軸に前記電動モータ取付けプレートの周方向への回転を規制する規制部材を設けたことを特徴とする差動式キャスタ。
【請求項2】
前記電動モータ取付けプレートに前記規制部材を受け入れ可能な受け入れ部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の差動式キャスタ。
【請求項3】
前記電動モータ取付けプレートに前記電動モータに接続されるリード線を配索するためのリード線配索部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の差動式キャスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−213573(P2008−213573A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51287(P2007−51287)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】