説明

差動装置の駆動力配分機構

【課題】 差動装置の駆動力配分機構において、差動装置に駆動力を入力するモータ・ジェネレータが引きずり抵抗の原因となるのを防止する。
【解決手段】 差動装置Dの第1、第2遊星歯車機構PR,PLの各一対のプラネタリキャリヤ、リングギヤおよびサンギヤのうちの第1の要素を2つの出力要素13R,13Lにそれぞれ連結するとともに、第2の要素どうしを相対回転不能に結合して入力要素18に連結し、かつ第3の要素どうしをギヤ機構21a〜21d,22R,22Lを介して相互に逆方向に回転するように連結したので、第1モータ・ジェネレータMG1で第3の要素を相互に逆方向に駆動することで旋回をアシストあるいは抑制し、第2モータ・ジェネレータMG2で入力要素18を駆動することで車両の駆動力をアシストする。またクラッチCを係合解除することで、第2モータ・ジェネレータMG2が駆動も回生制動も行わないときに引きずり抵抗の原因となるのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置の入力要素に加えられる駆動力を2つの出力要素に所定の比率で配分する差動装置の駆動力配分機構に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと左右の車輪との間に配置される差動装置を一対の遊星歯車機構で構成し、両リングギヤにエンジンの駆動力を入力し、両プラネタリキャリヤを左右の車輪に接続し、両サンギヤを油圧モータあるいは電気モータに接続して相互に逆方向に駆動することで、エンジンの駆動力を左右の車輪に任意の比率で配分して旋回をアシストあるいは抑制する差動装置の駆動力配分機構が、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−297977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、かかる差動装置の駆動力配分機構において、モータ・ジェネレータで差動装置に走行用の駆動力を入力する場合、モータ・ジェネレータが駆動も回生制動も行わない場合に、そのモータ・ジェネレータが引きずり抵抗の原因となってエネルギーを無駄に消費する可能性がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、差動装置の駆動力配分機構において、差動装置に駆動力を入力するモータ・ジェネレータが引きずり抵抗の原因となるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、差動装置の入力要素に加えられる駆動力を2つの出力要素に所定の比率で配分する差動装置の駆動力配分機構であって、第1リングギヤと、第1サンギヤと、前記第1リングギヤおよび第1サンギヤに噛合する第1ピニオンを支持する第1プラネタリキャリヤとよりなる第1遊星歯車機構と、第2リングギヤと、第2サンギヤと、前記第2リングギヤおよび第2サンギヤに噛合する第2ピニオンを支持する第2プラネタリキャリヤとよりなる第2遊星歯車機構とを備え、前記各一対のプラネタリキャリヤ、リングギヤおよびサンギヤのうちの第1の要素を前記2つの出力要素にそれぞれ連結するとともに、第2の要素どうしを相対回転不能に結合して前記入力要素に連結し、かつ第3の要素どうしをギヤ機構を介して相互に逆方向に回転するように連結するものにおいて、前記第3の要素を相互に逆方向に駆動する第1駆動源と、モータ・ジェネレータで構成されてクラッチを介して前記入力要素を駆動する第2駆動源とを備えることを特徴とする差動装置の駆動力配分機構が提案される。
【0007】
尚、実施の形態の第1ギヤ21a〜第4ギヤ21dおよび第1、第2外歯ギヤ22R,22Lは本発明のギヤ機構に対応し、実施の形態の第1モータ・ジェネレータMG1は本発明の第1駆動源に対応し、実施の形態の第2モータ・ジェネレータMG2は本発明の第2駆動源に対応する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、差動装置の第1、第2遊星歯車機構の各一対のプラネタリキャリヤ、リングギヤおよびサンギヤのうちの第1の要素を2つの出力要素にそれぞれ連結するとともに、第2の要素どうしを相対回転不能に結合して入力要素に連結し、かつ第3の要素どうしをギヤ機構を介して相互に逆方向に回転するように連結したので、第1駆動源で第3の要素を相互に逆方向に駆動することで、車両の駆動力を2つの出力要素に任意の比率で配分して旋回をアシストあるいは抑制できるだけでなく、第2駆動源で入力要素を駆動することで、車両を走行させたり走行をアシストしたりすることができる。第2駆動源はモータ・ジェネレータで構成されるので、車両の減速時に第2駆動源を回生制動して車体の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することができ、また第2駆動源はクラッチを介して入力要素に接続されるので、駆動も回生制動も行わない場合にクラッチを係合解除することで第2駆動源の引きずり抵抗をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】差動装置の駆動力配分機構の構成を示す図(第1の実施の形態)。
【図2】差動装置の駆動力配分機構の構成を示す図(第2の実施の形態)。
【図3】差動装置の駆動力配分機構の構成を示す図(第3の実施の形態)。
【図4】差動装置の駆動力配分機構の構成を示す図(第4の実施の形態)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施の形態による差動装置の駆動力配分機構を、フロントエンジン・フロントドライブ車に適用したものである。同図に示すように、車体に横置きに搭載したエンジンEにはトランスミッションMが接続されており、そのトランスミッションMの出力軸である差動装置入力軸11は遊星歯車式の差動装置Dに駆動力を伝達するための入力ギヤ12を備える。
【0012】
差動装置Dは、右輪WRを駆動する右シャフト13Rに連なる右側の第1遊星歯車機構PRと、左輪WLを駆動する左シャフト13Lに連なる左側の第2遊星歯車機構PLとを備える。両遊星歯車機構PR,PLは車体中心線を挟んで左右対称に形成されており、2つの出力要素としての右シャフト13Rおよび左シャフト13Lにそれぞれ固設された左右一対の第1、第2プラネタリキャリヤ14R,14Lと、一体に形成された左右一対の第1、第2リングギヤ15R,15Lと、右シャフト13Rおよび左シャフト13L上に回転自在に支持された左右一対の第1、第2サンギヤ16R,16Lと、各プラネタリキャリヤ14R,14Lに回転自在に支持され、第1、第2リングギヤ15R,15Lおよび第1、第2サンギヤ16R,16Lに同時に噛合する各複数個の第1、第2ピニオン17R…,17L…とから構成される。そして、第1、第2リングギヤ15R,15Lと一体に形成した1つの入力要素としての外歯ギヤ18が、前記入力ギヤ12に噛合する。
【0013】
第1モータ・ジェネレータMG1に、遊星歯車機構よりなる減速機31を介して第1駆動軸20が接続される。減速機31は、第1モータ・ジェネレータMG1の回転軸32に固設されたサンギヤ33と、第1駆動軸20に固設されたプラネタリキャリヤ34と、プラネタリキャリヤ34に回転自在に支持された複数のピニオン35…と、ケーシング36に固設されたリングギヤ37とを備えており、ピニオン35…はサンギヤ33およびリングギヤ37に同時に噛合する。従って、第1モータ・ジェネレータMG1の回転軸32の回転は減速機31により減速されて第1駆動軸20に伝達される。
【0014】
第1駆動軸20には第1ギヤ21aが固設されており、この第1ギヤ21aは前記第1サンギヤ16Rと一体に形成した第1外歯ギヤ22Rに噛合する。また第1駆動軸20に第3ギヤ21cおよび第4ギヤ21dを介して連結された第2駆動軸23には第2ギヤ21bが固設されており、この第2ギヤ21bは前記第2サンギヤ16Lと一体に形成した第2外歯ギヤ22Lに噛合する。第1駆動軸20と第2駆動軸23とを連結する第3、第4ギヤ21c,21dは同一の歯数を有しており、従って第1駆動軸20と第2動軸23とは同一回転数で逆方向に回転する。また第1、第2ギヤ21a,21bは同一の歯数を有するとともに、第1、第2外歯ギヤ22R,22Lも同一の歯数を有しており、従って、第1モータ・ジェネレータMG1を駆動することにより、第1、第2サンギヤ16R,16Lは同一回転数で逆方向に回転する。
【0015】
第2モータ・ジェネレータMG2が、遊星歯車機構よりなる減速機41を介して差動装置Dの入力要素である外歯ギヤ18に接続される。減速機41は、第2モータ・ジェネレータMG2の回転軸42に固設されたサンギヤ43と、第3駆動軸40に固設されたプラネタリキャリヤ44と、プラネタリキャリヤ44に回転自在に支持された複数のピニオン45…と、ケーシング36に固設されたリングギヤ47とを備えており、ピニオン45…はサンギヤ43およびリングギヤ47に同時に噛合し、第3駆動軸40に固設したギヤ48が外歯ギヤ18に噛合する。従って、第2モータ・ジェネレータMG2の回転軸42の回転は減速機41により減速されて第3駆動軸40に伝達される。
【0016】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0017】
クラッチCを非係合にして第2モータ・ジェネレータMG2を差動装置Dから切り離した状態で、第1モータ・ジェネレータMG1をオープン状態(コイルの電流を遮断して無負荷で回転し得る状態)にすれば、第1、第2サンギヤ16R,16Lと一体の第1、第2外歯ギヤ22R,22Lは、第1、第2駆動軸20,23および第1〜第4ギヤ21a〜21dで接続されて同一回転数で同一方向に回転できるため、差動装置Dは通常の差動機能のみを発揮する。
【0018】
クラッチCを非係合にして第2モータ・ジェネレータMG2を差動装置Dから切り離した状態で、第1モータ・ジェネレータMG1を駆動すると、第1、第2サンギヤ16R,16Lと一体の第1、第2外歯ギヤ22R,22Lが同一回転数で相互に逆方向に駆動されるため、第1モータ・ジェネレータMG1の回転方向に応じて左右のシャフト13R,13Lに差回転を発生させ、エンジンEの駆動力を左輪WLおよび右輪WRに任意の比率で配分することができる。従って、旋回外輪に配分される駆動力を旋回内輪に配分される駆動力よりも多くすれば、車両の旋回性能を高めることができ、逆に旋回外輪に配分される駆動力を旋回内輪に配分される駆動力よりも少なくすれば、車両の直進安定性能を高めることができる。
【0019】
エンジンEを駆動しての走行時にクラッチCを係合して第2モータ・ジェネレータMG2を駆動すると、その駆動力が差動装置Dの外歯ギヤ18に入力され、エンジンEからの駆動力に合流する。その結果、エンジンEの駆動力を第2モータ・ジェネレータMGの駆動力でアシストすることができる。このとき、エンジンEが停止していれば、第2モータ・ジェネレータMG2の駆動力だけで車両を発進あるいは走行させることができる。
【0020】
車両の減速時にクラッチCを係合して第2モータ・ジェネレータMG2を回生制動すると、車体の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することができる。
【0021】
エンジンEを駆動しての走行時に第2モータ・ジェネレータMG2を駆動しない場合、仮にクラッチCが係合していると、エンジンEの駆動力で第2モータ・ジェネレータMG2が駆動されてしまう。このとき、第2モータ・ジェネレータMG2をオープン状態にしても、その回転軸42の摩擦抵抗や減速機41の摩擦抵抗によるエネルギー損失が発生するが、クラッチCを非係合にすることで、第2モータ・ジェネレータMG2の回転軸42の摩擦抵抗や減速機41の摩擦抵抗が発生するのを回避し、エンジンEの駆動力の損失を最小限に抑えることができる。
【0022】
また第1モータ・ジェネレータMG1の作動による駆動力の左右配分と、第2モータ・ジェネレータMG2の作動によるエンジンEの駆動力のアシストおよび回生制動とは、相互に干渉するものではないため、エンジンEの駆動力のアシストあるいは回生制動を行いながら、駆動力の左右配分を同時に行うことも可能である。
【0023】
第1の実施の形態は、第1、第2遊星歯車機構PR,PLの第1、第2プラネタリキャリヤ14R,14L、第1、第2リングギヤ15R,15Lおよび第1、第2サンギヤ16R,16Lの三つの要素のうち、第1、第2リングギヤ15R,15Lを入力要素とし、第1、第2プラネタリキャリヤ14R,14Lを出力要素とし、第1、第2サンギヤ16R,16Lに第1モータ・ジェネレータMG1で差回転を与えているが、第1、第2遊星歯車機構PR,PLの前記三つの要素のうち、何れを入力要素とし、何れを出力要素とし、何れに第1モータ・ジェネレータMG1で差回転を与えるかは任意である。
【0024】
図2に示す本発明の第2の実施の形態は、第1、第2遊星歯車機構PR,PLの前記三つの要素のうち、第1、第2サンギヤ16R,16Lを入力要素とし、第1、第2プラネタリキャリヤ14R,14Lを出力要素とし、第1、第2リングギヤ15R,15Lに第1モータ・ジェネレータMG1で差回転を与えるものである。
【0025】
図3に示す本発明の第3の実施の形態は、第1、第2遊星歯車機構PR,PLの前記三つの要素のうち、第1、第2プラネタリキャリヤ14R,14Lを入力要素とし、第1、第2サンギヤ16R,16Lを出力要素とし、第1、第2リングギヤ15R,15Lに第1モータ・ジェネレータMG1で差回転を与えるものである。
【0026】
図4に示す本発明の第4の実施の形態は、第1、第2遊星歯車機構PR,PLの前記三つの要素のうち、第1、第2リングギヤ15R,15Lを入力要素とし、第1、第2サンギヤ16R,16Lを出力要素とし、第1、第2プラネタリキャリヤ14R,14Lに第1モータ・ジェネレータMG1で差回転を与えるものである。
【0027】
これらの第2〜第4の実施の形態によっても、上述した第1の実施の形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0028】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0029】
例えば、遊星歯車機構PR,PLを構成する前記3つの要素の役割、すなわちプラネタリキャリヤ14R,14L、リングギヤ15R,15Lおよびサンギヤ16R,16Lの役割は、第1〜第4の実施の形態以外にも任意に入れ換えることができる。
【0030】
また本発明の駆動力配分機構は、実施の形態で説明したフロントドライブ車の前輪の駆動系に限らず、フロントドライブ車の後輪の駆動系、リヤドライブ車の後輪の駆動系あるいはリヤドライブ車の前輪の駆動系にも適用可能である。
【0031】
また実施の形態では第1駆動源をモータ・ジェネレータで構成しているが、それを油圧モータで構成することができる。
【符号の説明】
【0032】
14R 第1プラネタリキャリヤ
14L 第2プラネタリキャリヤ
15R 第1リングギヤ
15L 第2リングギヤ
16R 第1サンギヤ
16L 第2サンギヤ
17R 第1ピニオン
17L 第2ピニオン
21a 第1ギヤ(ギヤ機構)
21b 第2ギヤ(ギヤ機構)
21c 第3ギヤ(ギヤ機構)
21d 第4ギヤ(ギヤ機構)
22R 第1外歯ギヤ(ギヤ機構)
22L 第2外歯ギヤ(ギヤ機構)
C クラッチ
D 差動装置
MG1 第1モータ・ジェネレータ(第1駆動源)
MG2 第2モータ・ジェネレータ(第2駆動源)
PR 第1遊星歯車機構
PL 第2遊星歯車機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動装置(D)の入力要素に加えられる駆動力を2つの出力要素に所定の比率で配分する差動装置の駆動力配分機構であって、
第1リングギヤ(15R)と、第1サンギヤ(16R)と、前記第1リングギヤ(15R)および第1サンギヤ(16R)に噛合する第1ピニオン(17R)を支持する第1プラネタリキャリヤ(14R)とよりなる第1遊星歯車機構(PR)と、第2リングギヤ(15L)と、第2サンギヤ(16L)と、前記第2リングギヤ(15L)および第2サンギヤ(16L)に噛合する第2ピニオン(17L)を支持する第2プラネタリキャリヤ(14L)とよりなる第2遊星歯車機構(PL)とを備え、前記各一対のプラネタリキャリヤ(14R,14L)、リングギヤ(15R,15L)およびサンギヤ(16R,16L)のうちの第1の要素を前記2つの出力要素にそれぞれ連結するとともに、第2の要素どうしを相対回転不能に結合して前記入力要素に連結し、かつ第3の要素どうしをギヤ機構(21a〜21d,22R,22L)を介して相互に逆方向に回転するように連結するものにおいて、
前記第3の要素を相互に逆方向に駆動する第1駆動源(MG1)と、モータ・ジェネレータで構成されてクラッチ(C)を介して前記入力要素を駆動する第2駆動源(MG2)とを備えることを特徴とする差動装置の駆動力配分機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190286(P2010−190286A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33971(P2009−33971)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】