説明

差込式管継手

【課題】接続管が斜めに傾いた姿勢で接続される可能性を低くする。
【解決手段】差込式管継手20は、継手本体30と、抜止部材34と、筒状の保持部材36と、抜落防止部材32と、パッキン44とを備える。継手本体30は受入口60を有する。抜止部材34は、継手本体30内に接続管の端部が挿入されるとその外周面に係合される。保持部材36は、抜止部材34を保持する。抜落防止部材32は、保持部材36が継手本体30の中から抜け落ちることを防止する。パッキン44は、接続管の外周面に密着する。抜落防止部材32のうち接続管が貫通する部分の内径が、接続管の外径より大きく、かつ、支持部材40における進入口450の直径以下である。抜落防止部材32には、工具進入路330が設けられている。工具進入路330は、継手本体30の内外を連通させ、かつ、開口の一方が保持部材36に対向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差込式管継手に関し、特に、給水用ステンレス鋼管および給湯用ステンレス鋼管をはじめとする接続管が斜めに傾いた姿勢で接続される可能性を低くできる上にその接続管を取り外すことが可能な差込式管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、差込式管継手にかかる発明を開示している。その差込式管継手は、継手本体を備える。継手本体は、少なくとも一端部に受入口を有する。受入口は接続管の端部を受け入れる。受口部の内周にテーパ面が設けられている。テーパ面は接続管差込み方向上流側に向かって次第に窄まる。継手本体は、抜止部材と、この抜止部材を保持する保持部材と、弾性部材と、環状のスペーサと、パッキンとを収容している。抜止部材は、継手本体の内部に収容される。抜止部材は、継手本体内に接続管の端部が挿入されると接続管の外周面に係合される。これにより、抜止部材は接続管が継手本体から抜けることを防止する。弾性部材は、抜止部材を保持部材ごとテーパ面に向かって押し付ける。スペーサは、弾性部材の接続管差込み方向下流側端部を保持する。パッキンは、接続管の外周面に密着する。パッキンは、環状部と、この環状部の内周から径方向内方へ突出しているリップ部とを有する。スペーサの接続管差込み方向下流側端面は、環状部の接続管差込み方向上流側端部に接する。スペーサのこの端面には、接続管差込み方向下流側に向かって次第に窄まるテーパ面が形成されている。
【0003】
特許文献1に開示された差込式管継手によれば、パッキンによるシール性能の向上を図れて水漏れ防止を全うできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−65745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くの場合、特許文献1に開示された差込式管継手では、継手本体の中心軸に対して接続管の中心軸が傾いた状態でその接続管が継手本体に挿入されたとき、作業者はそのことに気づく。接続管がそのように挿入されたときは、継手本体の中心軸と接続管の中心軸とがほぼ平行となるようにその接続管が継手本体に挿入されたときに比べ、挿入の際に作業者が感じる抵抗が大きいためである。しかしながら、例えば手を無理に伸ばしているといった普段とは異なる姿勢で接続管を差込式管継手に挿入しなければならないとき、作業者は、普段との抵抗の違いを感じ取りにくい。普段感じている抵抗を基準とすることが難しいためである。抵抗の違いを感じ取りにくいので、継手本体の中心軸に対して接続管の中心軸が傾いた状態でその接続管が継手本体に挿入されても、作業者はそのことに気づきにくい。この他にも、作業者は、様々な理由により、継手本体の中心軸に対して接続管の中心軸が傾いた状態でその接続管が継手本体に挿入されたことに気づかないことがある。なお、以下の説明では、継手本体の中心軸に対して接続管の中心軸が傾いていることを「斜めに傾いた」と称する。
【0006】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、接続管が斜めに傾いた姿勢で接続される可能性を低くできる上にその接続管を取り外すことが可能な差込式管継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のある局面に従うと、差込式管継手20は、継手本体30と、抜止部材34と、筒状の保持部材36と、抜落防止部材32と、パッキン44とを備える。継手本体30は、少なくとも一端部に受入口60を有する。受入口60は、接続管100の端部を受け入れる。抜止部材34は、継手本体30の内部に収容される。抜止部材34は、継手本体30内に接続管100の端部が挿入されると接続管100の外周面に係合される。抜止部材34は、接続管100が継手本体30から抜けることを防止する。保持部材36は、継手本体30の内部に収容される。保持部材36を接続管100が貫通する。保持部材36は抜止部材34を保持する。抜落防止部材32は、継手本体30の内部のうち保持部材36より受入口60側に配置される。抜落防止部材32を接続管100が貫通する。抜落防止部材32は保持部材36が継手本体30の中から抜け落ちることを防止する。パッキン44は、継手本体30の内部のうち受入口60からみて保持部材36より奥の位置に収容される。パッキン44を接続管100が貫通する。パッキン44は、接続管100の外周面に密着する。継手本体30の内部には、テーパ面64が形成されている。テーパ面64は受入口60に近づくにつれ窄まる。差込式管継手20は、弾性部材38と、支持部材40とをさらに備える。弾性部材38は、継手本体30の内部のうち受入口60からみて保持部材36より奥の位置に収容される。弾性部材38は、継手本体30内部のテーパ面64に抜止部材34を押し付ける。支持部材40は、弾性部材38を支持する。支持部材40を接続管100が貫通する。保持部材36は、継手本体30内部で抜止部材34を保持したまま移動可能となっている。抜落防止部材32には、工具進入路330が設けられている。工具進入路330は、継手本体30内外を連通させる。工具進入路330は、開口の一方が保持部材36に対向する。抜落防止部材32のうち接続管100が貫通する部分の内径が、接続管100の外径より大きい。
【0008】
上述した抜落防止部材32のうち接続管100が貫通する部分の内径が、支持部材40における接続管400の進入口450の直径以下であることが望ましい。
【0009】
接続管100が抜落防止部材32と保持部材36とを順次貫通することにより、接続管100の傾きは矯正される。抜落防止部材32のうち接続管100が貫通する部分(貫通部分)の内径が、接続管100の外径より大きく、かつ、進入口450の直径以下であると、斜めに傾いた姿勢で継手本体30内に挿入されたために保持部材36を貫通して進入口450の縁に突き当たった接続管100の先端が、支持部材40をそのまま押し続ける可能性は、上述した貫通部分の内径が進入口450の直径を超える場合よりも、低くなる。さらに、貫通部分の内径が進入口450の直径以下の場合、貫通部分の内径が進入口450の直径より大きい場合に比べ、接続管100の先端が支持部材40の進入口450の縁から外れて支持部材40の中を進む可能性が高くなる。その結果、接続管100が斜めに傾いた姿勢で継手本体30の内部に進入したとき、継手本体30の内部で抜止部材34を保持したまま移動可能であるゆえに保持部材36がこの接続管100の障壁とならないことがあっても、接続管100が斜めに傾いた姿勢で接続される可能性を低くできる。
【0010】
貫通部分の内径が、接続管100の外径より大きく、かつ、支持部材40における接続管400の進入口450の直径以下であることにより、継手本体30の外から、受入口60から見て継手本体30の奥の方向へ保持部材36を押すことが困難である。このため、抜止部材34ごと保持部材36を押して抜止部材34と接続管100の外周面との係合を解除することも困難である。この問題を解決するため、抜落防止部材32には、工具進入路330が設けられている。工具進入路330は、継手本体30内外を連通させる。これにより、継手本体30の外から工具進入路330を経て継手本体30の中へ工具を進入させることができる。工具進入路330の開口の一方が保持部材36に対向している。開口の一方が保持部材36に対向しているので、工具進入路330を経て継手本体30の中へ進入した工具は保持部材36を押すこととなる。保持部材36を押すことで、弾性部材38の力に対抗して抜止部材34をテーパ面64から離すことができる。抜止部材34がテーパ面64から離れると、抜止部材34と接続管100の外周面との係合が解除される。その結果、接続管100が斜めに傾いた姿勢で接続される可能性を低くできる上にその接続管100を取り外すことが可能となる。
【0011】
また、上述した抜落防止部材32は、工具進入路330に加え、工具進入路330を閉塞する膜332を有していることが望ましい。
【0012】
膜332は、工具を進入させると、その工具に破られることとなる。これにより、接続管100が差込式管継手20から抜けたとき、膜332が破られているか否かに基づいて、接続管100が人為的に取り外されたか否かを容易に判別できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接続管が斜めに傾いた姿勢で接続される可能性を低くできる上にその接続管を取り外すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例にかかる差込式管継手を示す断面図である。
【図2】同差込式管継手の抜落防止部材を示す斜視図である。
【図3】同差込式管継手の保持部材を示す斜視図である。
【図4】同差込式管継手の傷付き防止スリーブを示す斜視図である。
【図5】接続管を挿入中の同差込式管継手の断面図である。
【図6】接続管の挿入が完了した時の同差込式管継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
[構造の説明]
図1に示すように、本発明の一実施例にかかる差込式管継手20は、継手本体30と、抜落防止部材32と、抜止部材34と、保持部材36と、弾性部材38と、支持部材40と、傷付き防止スリーブ42と、パッキン44とを備えている。
【0017】
継手本体30は、両端部が開口した筒形状を有する。継手本体30は、精密鋳造の手法などを用いて製造される。継手本体30は、耐食性および剛性に優れた物質を素材とすることが好ましい。耐食性および剛性に優れた物質の例は、JIS(Japanese Industrial Standards)に定められているSCS(Steel Casting Stainless)と、青銅材とである。
【0018】
継手本体30は、受入口60と、内周溝62と、テーパ面64と、受入口側段部66と、差込前収容部68と、途中段部70と、差込後収容部72と、流路側段部74と、流路76と、接続用雄ねじ78とを備えている。
【0019】
受入口60は、継手本体30の軸方向一端部に形成されている。受入口60には接続管100の端部が差し込まれる。内周溝62は、受入口60の奥に設けられている。内周溝62には、抜落防止部材32の突起324が嵌まる。突起324については後述する。受入口60から見て内周溝62の奥にはテーパ面64が設けられている。テーパ面64は、受入口60から遠ざかるにつれ広がる。言い換えると、テーパ面64は、受入口60に近づくにつれ窄まる。受入口側段部66は受入口60から見てテーパ面64の奥に設けられている段差である。差込前収容部68は受入口60から見て受入口側段部66の奥に設けられている。接続管100の端部が継手本体30内に差し込まれる前、差込前収容部68には、支持部材40と、傷付き防止スリーブ42と、パッキン44とが収容されている。途中段部70は差込前収容部68と差込後収容部72との境界に設けられる段差である。差込後収容部72は受入口60から見て途中段部70の奥に設けられている。差込後収容部72の内径は差込前収容部68の内径よりも小さい。接続管100の端部が継手本体30内に差し込まれた後、差込後収容部72には、傷付き防止スリーブ42が収容される。流路側段部74は差込後収容部72と流路76との境界に設けられる段差である。流路76は、受入口60から見て流路側段部74の奥に設けられている。流路76は、差込後収容部72より内径が小さい。接続用雄ねじ78は、継手本体30のうち流路76と同じ側の軸方向一端部の外周面に形成されている。
【0020】
図1と図2とを参照しつつ、抜落防止部材32について説明する。抜落防止部材32は、保持部材36が継手本体30から抜出ることを防止するための部材である。抜落防止部材32はオーステナイト系ステンレス鋼(たとえばJISに定められているSUS304)などで形成することができる。
【0021】
抜落防止部材32は、筒形部320と、環状部322と、突起324とを有する。筒形部320には、保持部材36の一端が嵌まる。また、筒形部320を接続管100が貫通する。環状部322は筒形部320の内周面から張出すように設けられる。接続管100は環状部322も貫通する。環状部322の内周面には工具進入路330が設けられている。工具進入路330の大きさは特に限定されるものではないが、本実施例では、工具進入路330の大きさは小さいドライバが挿入できる大きさである。図1に示すように、工具進入路330は、継手本体30の内外を連通させる。また、工具進入路330の開口のうち一方は保持部材36に対向している。工具進入路330の途中には、膜332が設けられている。膜332は、工具進入路330を閉塞している。環状部322の内径は、接続管100の外径より大きく、かつ、支持部材40における進入口450(図1参照)の直径以下であることが好ましい。なお、本実施例では、進入口450の縁に面取りが施されている場合、進入口450の直径とは、その面取りされた縁のうちもっとも内径が大きい部分を意味する。進入口450に面取りが施されていない場合、進入口450の直径は、支持部材40の内径に等しくなる。ちなみに、本実施例についてより正確に述べると、環状部322のうち工具進入路330が設けられていない箇所の内径は進入口450の直径に等しい。突起324は、環状部322とは反対側である筒形部320の一端に設けられている。突起324は、筒形部320の外周面から張出している。上述した通り、突起324は継手本体30の内周溝62に嵌まる。このため、抜落防止部材32は継手本体30の軸方向に動かない。抜落防止部材32が継手本体30の軸方向に動かないまま、筒形部320内へ進入した保持部材36が環状部322に突当たることにより、保持部材36が継手本体30から抜落ちることが防止される。
【0022】
図1を参照しつつ、抜止部材34について説明する。抜止部材34は、継手本体30の内部に収容される。抜止部材34の素材は、接続管100より硬質の素材である。例えば、接続管100がオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)であれば、抜止部材34の素材をマルテンサイト系ステンレス鋼(たとえばJISに定められているSUS420)とすればよい。抜止部材34のうち接続管100に対向する側面には複数(図示例では2個)の歯340が形成されている。抜止部材34が継手本体30のテーパ面64に押し付けられると同時に歯340が接続管100の外周面に食込むことで、継手本体30から接続管100が抜けることが防止される。
【0023】
図3を参照しつつ、保持部材36について説明する。図3に示すように、本実施例にかかる保持部材36は筒状である。本実施例にかかる保持部材36の中央部分(後述する保持孔360が設けられている部分)は太くなっている。接続管100はその筒形部分を貫通する。保持部材36は継手本体30の内部に収容される。保持部材36は上述した抜止部材34を保持する。保持部材36は、架橋ポリエチレンとPPS(ポリフェニレンサルファイド)とをはじめとするエンジニアリングプラスチックで形成される。後者は優れた耐熱性を有しているので、保持部材36の素材として好ましい。保持部材36は、複数個の保持孔360を有している。それらの保持孔360は上述したリング形部分の円周方向に所定間隔おきに設けられている。本実施例の場合、保持孔360の数は6個である。各保持孔360に上述した抜止部材34が1つずつ嵌込まれる。
【0024】
再び図1を参照しつつ、弾性部材38について説明する。弾性部材38は抜止部材34を保持部材36ごと継手本体30内のテーパ面64に向かって押付ける。本実施例における弾性部材38についてより具体的に説明するならば、弾性部材38は圧縮コイルバネによって実現される。弾性部材38として圧縮コイルバネを使用する場合は、この部材を例えばオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)で形成することができる。弾性部材38のうち受入口60側の端部は保持部材36のうち流路76側の段部362に引掛かる。弾性部材38のうち流路76側の端部は支持部材40に引掛かる。
【0025】
支持部材40は、パッキン44に隣接するよう配置される。支持部材40の断面はL字形をしている。支持部材40は、段部400を有している。上述した弾性部材38の流路76側の端部は、この段部400に引掛かる。支持部材40は、弾性部材38を支持する。支持部材40の中を接続管100が貫通する。接続管100は、進入口450から、支持部材40の中に入る。
【0026】
図4を参照しつつ、傷付き防止スリーブ42について説明する。傷付き防止スリーブ42は、プラスチックまたは金属で形成される。この場合のプラスチックの例には、ポリプロピレンがある。傷付き防止スリーブ42の内径は、接続管100の内径以下である。傷付き防止スリーブ42は、パッキン保持筒部420と、薄肉の管端受け筒形部422とを有する。パッキン保持筒部420の外径は、継手本体30の差込後収容部72の内径よりも小さい。管端受け筒形部422は、パッキン保持筒部420に一体に連なっている。管端受け筒形部422の内径は、接続管100の外径よりも大きく形成されている。これにより、管端受け筒形部422を接続管100の先端の外側に嵌めることができる。パッキン保持筒部420の内周面と管端受け筒形部422の内周面との間には段部424が形成されている。段部424には、接続管100の先端が当たる。パッキン保持筒部420の外周には、断面V形状の凹溝430が形成されている。凹溝430には、パッキン44の一部が嵌まり込む。管端受け筒形部422の後端部432はラッパ状に形成されている。これにより接続管100の差込み時に接続管100の先端が管端受け筒形部422の後端部432に引っ掛かることなくスムーズに差し込まれるようになっている。管端受け筒形部422にはスリット434を円周方向に所定間隔おきに設けている。
【0027】
再び図1を参照しつつ、パッキン44について説明する。パッキン44は、ゴム製パッキンなどを素材とすることにより弾性変形自在に形成される。そして、図1に示すように、パッキン44は、筒形部440と環状のリップ部442とを有する。リップ部442は筒形部440の内周から筒形部440の中心方向へ張出している。リップ部442は弾性変形自在である。リップ部442に荷重がかかっていないとき、その内径は接続管100の外径よりも小さい。このパッキン44は継手本体30の差込前収容部68内に配置される。
【0028】
[接続手順の説明]
次に、上述した差込式管継手20による接続管100の接続手順を図5と図6とを参照しつつ説明する。
【0029】
先ず、作業者は、継手本体30の受入口60に接続管100を挿入し、抜落防止部材32を貫通させる。図5は、接続管100の先端部が傷付き防止スリーブ42の近くにまで達している状況を示している。作業者が接続管100を差込んだことにより、接続管100が管端受け筒形部422内に入った後、作業者が接続管100をさらに押込むと、接続管100の先端は、傷付き防止スリーブ42内の段部424に接触する。この接続管100の押込みに伴い抜止部材34は継手本体30の内奥方向に移動する。本実施例に言う「内奥方向」とは、受入口60から流路76へ向かう方向である。抜止部材34の移動中、歯340は接続管100の外周面に接触する。この状態で接続管100を引き抜く方向に外力が加わったとしても、抜止部材34がテーパ面64に接触し、かつ、歯340が接続管100の外周面に食込むので、接続管100は抜けない。
【0030】
この接続管100の差込み時にはパッキン44と接続管100の先端との間に傷付き防止スリーブ42が介在している。この状態においては、接続管100の先端の端面はパッキン44と非接触の状態である。そのため、接続管100の先端の端面に外側のエッジが生じていてもその外側のエッジでパッキン44が傷付けられることはない。したがって、パッキン44の損傷による水漏れは生じない。
【0031】
作業者が接続管100を更に深く差込むと、接続管100は、傷付き防止スリーブ42をパッキン44よりも継手本体30の内奥方向に押込む。これにより、傷付き防止スリーブ42のパッキン保持筒部420は、継手本体30内の流路側段部74に接触する。この過程において、傷付き防止スリーブ42は、パッキン44のリップ部442を継手本体30内奥方向に変形させながら移動する。その移動の結果、傷付き防止スリーブ42はパッキン44から外れる。図6に示すような、接続管100の差込みが完了した状態では、パッキン44のリップ部442は接続管100の外周面に密着している。これにより接続管100の外周面と継手本体30の差込前収容部68との間を密封シールする状態が得られる。さらに、抜止部材34の歯340が接続管100の外周面に食込んだ抜止め状態が得られる。
【0032】
接続管100の差込み完了後、その接続管100を抜き出し方向に引っ張ると、抜止部材34の外周部がテーパ面64の窄まり側にあたる。抜止部材34が接続管100と同行するためである。そうすると抜止部材34が窄まる。抜止部材34が窄まると歯340が接続管100の外周面へ係合される。これにより接続管100が継手本体30から抜けることを防止できる。
【0033】
[引抜手順の説明]
次に、上述した差込式管継手20から接続管100を引抜くための引抜手順を説明する。
【0034】
まず、接続管100を引抜こうとする作業者は、継手本体30の外から工具進入路330にマイナスドライバを挿入する。マイナスドライバは工具進入路330を経て保持部材36に当たる。その際マイナスドライバは膜332を突き抜ける。作業者は、そのままマイナスドライバを継手本体30の中に押込む。マイナスドライバが押込まれることにより、保持部材36は継手本体30の内奥方向に移動する。保持部材36の移動に伴い、抜止部材34がテーパ面64から離れる。抜止部材34がテーパ面64から離れると、接続管100の外周面との係合が解除される。この時、作業者は、接続管100を継手本体30から引抜く。
【0035】
[本実施例にかかる差込式管継手の効果の説明]
接続管100を斜めに傾けつつこれを継手本体30内に挿入するとする。上述したとおり、本実施例にかかる環状部322のうち工具進入路330が設けられていない箇所の内径は進入口450の直径に等しい。このため、ほんの少し接続管100が傾いても、その接続管100の先端は、進入口450の縁に突き当たるので、進入口450の縁から外れない限り、それ以上継手本体30の内奥方向に進まない。そのため、差込式管継手20との接続が完了した時点で、継手本体30の中心軸に対する接続管100の中心軸の傾きはかなり小さくなっている。
【0036】
さらに、本実施例の場合、筒形部320には保持部材36の一端が嵌まる。筒形部320は継手本体30の内周面に支持されている。これにより、継手本体30の中心軸と保持部材36の中心軸とが斜めに交差するような保持部材36の動きは筒形部320によって制限される。接続管100は環状部322に続いて保持部材36を貫通するので、保持部材36の動きが制限されることにより、継手本体30の中心軸に対して傾くような接続管100の動きも制限されることとなる。その結果、本実施例にかかる差込式管継手20は、接続管100が斜めに傾いた姿勢で接続される可能性を低くできる。
【0037】
また、継手本体30の外から工具進入路330にマイナスドライバを挿入することで、接続管100を継手本体30から容易に引抜くことができる。
【0038】
また、膜332が工具進入路330の途中に設けられているので、工具進入路330にマイナスドライバを挿入すると、膜332が破られる。膜332が破られるので、接続管100が差込式管継手20から抜けたとき、膜332が破られているか否かに基づいて、接続管100が人為的に取り外されたか否かを容易に判別できる。
【0039】
[変形例の説明]
今回開示された実施形態はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施形態に基づいて制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更をしてもよいのはもちろんである。
【0040】
例えば、上記実施例では、継手本体30の一方の側に接続用雄ねじ78を形成した差込式管継手20について記述したが、本発明はこれに限られない。例えば、左右対称のソケット形差込式管継手、および、エルボ型差込式管継手にも本発明が適用できることは勿論である。また、接続管100は、ステンレス鋼管等の金属管に限られない。接続管100は、塩化ビニールその他の合成樹脂製の接続管にも適用することができる。
【0041】
また、膜332は設けられていなくともよい。また、膜332は、抜落防止部材32の形成時に抜落防止部材32と一体となるよう形成されるものではなく、抜落防止部材32の形成後に工具進入路330の開口に紙を貼るなどして形成されたものであってもよい。
【0042】
また、抜落防止部材は、真ん中に丸い孔があいた円板であってもよい。この場合、その真ん中の孔の内径は接続管100の外径より大きく、かつ、支持部材40における進入口450の直径以下であることが好ましい。さらに、その真ん中の孔の縁の一部が切欠かれていることが必要である。その切欠かれた部分を工具進入路とするためである。
【符号の説明】
【0043】
20 差込式管継手
30 継手本体
32 抜落防止部材
34 抜止部材
36 保持部材
38 弾性部材
40 支持部材
42 防止スリーブ
44 パッキン
60 受入口
62 内周溝
64 テーパ面
66 受入口側段部
68 差込前収容部
70 途中段部
72 差込後収容部
74 流路側段部
76 流路
100 接続管
320,422,440 筒形部
322 環状部
324 突起
330 工具進入路
332 膜
340 歯
360 保持孔
362,400,424 段部
420 パッキン保持筒部
430 凹溝
432 後端部
434 スリット
442 リップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端部に接続管の端部を受け入れる受入口を有する継手本体と、
前記継手本体の内部に収容され、前記継手本体内に前記接続管の端部が挿入されると前記接続管の外周面に係合され、かつ、前記接続管が前記継手本体から抜けることを防止する抜止部材と、
前記継手本体の内部に収容され、前記接続管が貫通し、かつ、前記抜止部材を保持する筒状の保持部材と、
前記継手本体の内部のうち前記保持部材より前記受入口側に配置され、前記接続管が貫通し、かつ、前記保持部材が前記継手本体の中から抜け落ちることを防止する抜落防止部材と、
前記継手本体の内部のうち前記受入口からみて前記保持部材より奥の位置に収容され、前記接続管が貫通し、かつ、前記接続管の外周面に密着するパッキンとを備える差込式管継手において、
前記継手本体の内部には、前記受入口に近づくにつれ窄まるテーパ面が形成されており、
前記差込式管継手は、
前記継手本体の内部のうち前記受入口からみて前記保持部材より奥の位置に収容され、前記継手本体の内部のテーパ面に前記抜止部材を押し付ける弾性部材と、
前記弾性部材を支持し、かつ、前記接続管が貫通する支持部材とをさらに備え、
前記保持部材は、前記継手本体の内部で前記抜止部材を保持したまま移動可能となっており、
前記抜落防止部材には、前記継手本体の内外を連通させ、かつ、開口の一方が前記保持部材に対向する工具進入路が設けられており、
前記抜落防止部材のうち前記接続管が貫通する部分の内径が、前記接続管の外径より大きいことを特徴とする、差込式管継手。
【請求項2】
前記抜落防止部材のうち前記接続管が貫通する部分の内径が、前記支持部材における前記接続管の進入口の直径以下であることを特徴とする、差込式管継手。
【請求項3】
前記抜落防止部材は、前記工具進入路に加え、前記工具進入路を閉塞する膜を有していることを特徴とする、請求項2に記載の差込式管継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−47271(P2012−47271A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190364(P2010−190364)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000231121)JFE継手株式会社 (140)
【Fターム(参考)】