説明

巻線形誘導機の駆動装置

【課題】簡単な構成で巻線形誘導機を高トルクにて始動可能とした駆動装置を提供する。
【解決手段】巻線形誘導機1の固定子巻線1S及び回転子巻線1Rに給電するための電力変換器2と、電力系統と固定子巻線1Sとの間に接続された第1の開閉器41と、電力変換器2と固定子巻線1Sとの間に接続され、その閉動作時に固定子巻線1Sと回転子巻線1Rとの印加電圧・電流の相回転方向が互いに異なるように結線される第2の開閉器42と、を備えた駆動装置において、固定子巻線1Sを、第2の開閉器42と相間リアクトル8Aとを介して電力変換器2の出力側に接続すると共に、回転子巻線1Rを、相間リアクトル8Aを介して電力変換器2の出力側に接続し、かつ、電力変換器2の出力側を、直接または等価的に相間リアクトル8Aの中間タップに接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線形誘導機の回転子巻線に接続された電力変換器によって巻線形誘導機を始動または停止させる駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固定子巻線が電力系統に接続され、回転子巻線が電力変換器に接続された巻線形誘導機では、すべりが小さい速度範囲で運転する場合、回転子側の小さな電力で固定子側の大きな電力を制御できる特徴があり、これによって電力変換器の所要容量を小さくできる利点がある。しかるに、そのためには、巻線形誘導機を所定の回転速度まで加速させる始動装置が別途必要になる。
【0003】
このため、従来より、巻線形誘導機の回転子巻線と電力変換器との間を開路するとともに、回転子巻線に直列に始動抵抗を接続して始動する方法がよく知られている。この方法は、始動時に電力変換器に印加される過電圧から電力変換器を保護すると共に、始動時に流れる過大な突入電流を抑制することを可能にしている。ただし、この方法では比較的大形で高価な始動抵抗が必要になり、また、少なからず電力系統に突入電流が流れるという問題がある。
【0004】
一方、双方向の電力変換が可能な電力変換器、例えばPWMコンバータとPWMインバータとを直流中間回路を介して接続した電力変換器を使用して、巻線形誘導機を始動することも可能である。この種の方法としては、巻線形誘導機の固定子巻線を三相短絡することにより、かご形誘導機と等価な構成にして始動する方法が知られている。
【0005】
しかし、上記の方法では、電力変換器の出力電圧の限界から巻線形誘導機に十分な磁束を発生させることができず、高速時の加速トルクが著しく低下するという欠点があり、例えば、同期速度のときのトルクが定格トルクの5%程度になる。このため、始動時間が著しく長くなったり、最悪の場合には目標速度まで加速できなくなる等の問題が生じる。
【0006】
これらの問題を解決する始動装置や制御装置として、特許文献1〜特許文献3に記載された従来技術が知られている。
まず、図8は、特許文献1に記載された従来技術と原理的に等価な構成図(単線図)を示している。図8において、1は巻線形誘導機、21,22は第1,第2の電力変換器、31,32,33は変圧器、41は巻線形誘導機1の固定子巻線と電力系統との間に接続された開閉器、46は固定子巻線と三相短絡器との間に接続された開閉器、42〜45は巻線形誘導機1の回転子巻線または変圧器33と電力変換器21,22との間に接続された開閉器である。
【0007】
この従来技術では、始動時に開閉器41をオフ(開路)し、開閉器46をオン(閉路)にして固定子巻線を三相短絡する。また、開閉器42をオンすることにより、電力変換器21から回転子巻線に電力を供給して巻線形誘導機1を始動する。
【0008】
このときの、巻線形誘導機1の回転速度に対する回転子電圧及び加速トルクの波形例を、図9(a),(b)にそれぞれ破線で示す。電力変換器21の出力電圧限界から、図9(b)に示すごとく、速度上昇と共に加速トルクは低下する。ここで、電力変換器22と、ブースタトランスと称される変圧器33とは、加速トルクが不足する場合に使用される付帯機器である。
加速トルクが不足する場合は、開閉器42,44をオフして開閉器43,45をオンにし、変圧器(ブースタトランス)33を介して第1の電力変換器21の出力電圧に第2の電力変換器22の出力電圧を重畳し、その電圧が巻線形誘導機1の回転子電圧になるようにする。
図9(a),(b)における実線は電力変換器21,22の出力電圧重畳時の回転子電圧、トルクを示しており、これらの図から明らかなように、第2の電力変換器22及び変圧器33の使用によって回転子電圧の上限が大きくなるので、高速時の加速トルクを大きくすることができる。
【0009】
次に、図10は、特許文献2によって回路構成とその原理が開示され、特許文献3によって制御方法が開示された従来技術と原理的に等価な構成図を示している。なお、この従来技術では三相間の接続が重要であるため、図10では三相接続図として表してある。
図10において、41,42は図8と同様に開閉器、1は巻線形誘導機、2は電力変換器、3は変圧器、6は回転子位置を検出する位置センサ、7は制御装置、51,52はそれぞれ回転子電流、固定子電流を検出する電流センサである。
【0010】
巻線形誘導機1を始動するときは、開閉器41をオフして開閉器42をオンする。開閉器42をオンすると、回転子巻線と固定子巻線とが並列接続されることになるが、図10では、電力変換器2から給電される回転子巻線電圧と固定子巻線電圧の相回転方向が互いに逆方向となるように結線されている。
【0011】
ところで、誘導機では、周波数に対する毎分の回転数Nの定常値が、数式1によって表される基本特性がある。
[数1]
N=(120/極数)×(固定子巻線の周波数−回転子巻線の周波数)
【0012】
数式1において、周波数とは相順を考慮した巻線に流れる電流の周波数であり、正相順の場合は正値、逆相順の場合は負値である。このため、固定子電流が正相順、回転子電流が逆相順であって、両者の周波数の絶対値が同一の場合、巻線形誘導機は固定子電流の周波数の2倍の速度で回転する。
例えば、極数が4極(p=4)の誘導機を小さいすべりで1500〔r/min〕にて回転させる場合、同期速度N=120f/p=1500の関係から、図8の構成によると電力変換器21が出力すべき周波数fは約50〔Hz〕になるが、図10の構成では回転子巻線と固定子巻線とが逆相順であるため、電力変換器2が出力すべき周波数fは約25〔Hz〕となる。このように電力変換器2の出力周波数が低下すると、誘導機1の同一磁束に対して必要な端子電圧が低くて済むので、この従来技術によれば、端子電圧が低くても大きなトルクを発生することができる。
【0013】
特許文献3においては、図10に示すように回転子巻線の電流を検出する電流センサ51、固定子巻線の電流を検出する電流センサ52、及び、回転子位置を検出する位置センサ6を備えることを前提としている。制御装置7では、これらのセンサ51,52,6による各検出値と巻線形誘導機1の等価回路定数とを用いて、巻線形誘導機1の励磁電流、トルク発生に寄与するトルク電流、磁束、磁束角の変化率、励磁電流とトルク電流との相互的な影響を相殺するための補正量等を演算し、これらを電力変換器2の制御に反映させることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−7995号公報(段落[0019]〜[0021]、図2等)
【特許文献2】昭63−117678号公報(第3頁左上欄第12行〜右下欄第17行行、第1図等)
【特許文献3】特開平1−248984号公報(第4頁右下欄第9行〜第5頁左下欄の下から第6行、第1図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に係る従来技術では、巻線形誘導機を始動するために第2の電力変換器、ブースタトランス及び開閉器が必要になることから、装置全体が大形化・高コスト化する問題がある。
また、特許文献3に係る従来技術では、回転子電流と固定子電流とを合成した電流は制御できるものの、電力変換器が1台であるため、回転子電流と固定子電流とをそれぞれ個別に制御できないという基本的な問題がある。
【0016】
そこで、本発明の解決課題は、特許文献2に開示された主回路を基本構成として、簡単な構成で巻線形誘導機を高トルクにて始動可能とした駆動装置を提供することにある。なお、本発明は、巻線形誘導機を停止させる場合にも適用できるが、以下では巻線形誘導機の始動装置として機能させる場合につき説明する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、巻線形誘導機の固定子巻線及び回転子巻線に給電するための電力変換器と、電力系統と前記固定子巻線との間に接続された第1の開閉手段と、前記電力変換器と前記固定子巻線との間に接続され、その閉動作時に前記固定子巻線及び前記回転子巻線への印加電圧・電流の相回転方向が互いに異なるように結線される第2の開閉手段と、を備えた巻線形誘導機の駆動装置において、
前記固定子巻線を、前記第2の開閉手段と相間リアクトルとを介して前記電力変換器の出力側に接続すると共に、前記回転子巻線を、前記相間リアクトルを介して前記電力変換器の出力側に接続し、かつ、
前記電力変換器の出力側を、直接または等価的に前記相間リアクトルの中間タップに接続したものである。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記相間リアクトルを構成する巻線のうち、前記固定子巻線に接続される巻線と前記回転子巻線に接続される巻線との巻数比が、前記固定子巻線と前記回転子巻線との巻数比にほぼ等しいことを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項2において、電力変換装置の出力側に接続された電流センサと、巻線形誘導機の回転速度が所定値以下では回転子巻線軸と固定子巻線軸との中間位置を基準軸として、電流センサによる検出電流を前記基準軸に平行な第1の電流成分(d軸電流という)と前記基準軸に直交する第2の電流成分(q軸電流という)とからなる回転座標系の電流成分に座標変換する手段と、巻線形誘導機の磁束または端子電圧に基づいてd軸電流を制御し、巻線形誘導機のトルクまたは回転速度に基づいてq軸電流を制御する手段と、を備えたものである。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項において、電力変換器の出力側と回転子巻線とを接続する第3の開閉手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回転子巻線及び固定子巻線に相回転方向が互いに異なる同一周波数の交流電圧・電流を電力変換器から供給することにより、印加周波数の倍速度で回転可能な巻線形誘導機の駆動装置において、相間リアクトルを介して回転子巻線と固定子巻線とに給電し、相間リアクトルの巻数比を巻線形誘導機の巻数比に関連付けて設計することにより、巻線形誘導機の磁束制御とトルク制御とを分離して制御するベクトル制御が可能となる。これにより、巻線形誘導機や電力変換器が能力として有する最大電力または最大トルクで巻線形誘導機を始動することができる。
通常、巻線形誘導機の巻数比は1前後に設計されることが多い。この場合、相間リアクトルの端子電圧は電力変換器の出力電圧に比較して非常に小さな電圧となるため、本発明によれば相間リアクトルの容量を小さくすることができ、装置の小形化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態の主回路を示す構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態の主回路を示す構成図である。
【図3】図1及び図2における制御装置の構成図である。
【図4】本発明の実施形態におけるd軸,q軸及び巻線軸の説明図である。
【図5】本発明の実施形態における巻線形誘導機の等価回路図である。
【図6】図1及び図2における制御装置の他の構成図である。
【図7】本発明の第3実施形態を示す構成図である。
【図8】特許文献1に記載された従来技術と原理的に等価な構成図である。
【図9】図8における誘導機の回転速度と回転子電圧及び加速トルクの関係を示す特性図である。
【図10】特許文献2,3に開示された従来技術と原理的に等価な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は本発明の第1実施形態に係る駆動装置の主回路を示している。なお、図1では、本発明に関係する部分、すなわち巻線形誘導機の始動及び停止に関係する部分のみを記載してある。
【0024】
図1において、巻線形誘導機1の固定子巻線1Sは、第1の開閉器41を介して三相電力系統に接続されている。また、固定子巻線1Sと回転子巻線1Rとは、第2の開閉器42と相間リアクトル8Aとの直列回路を介して接続され、相間リアクトル8Aの中間タップは電力変換器2の出力側に接続されている。この電力変換器2の入力側は、変圧器3を介して三相電力系統に接続されている。相間リアクトル8Aは、相ごとに巻数Nの巻線81と巻数Nの巻線82とを直列に接続して構成されており、これらの巻線81,82は磁気結合されている。
ここで、開閉器42は、そのオンにより相間リアクトル8Aの三相出力のうち二相を入れ替えて固定子巻線1Sに接続するように結線されている。
【0025】
巻線形誘導機1の回転子には位置センサ6が接続されており、その出力である回転子位置θは制御装置7に入力されている。また、電力変換器2の出力側には電流センサ5が設けられ、その出力である電流検出値I,Iも制御装置7に入力されている。
制御装置7は、電力変換器2に対する三相各相の電圧指令値V,V,Vを生成して出力するものである。
【0026】
次に、この実施形態における巻線形誘導機1の始動時の動作を説明する。
巻線形誘導機1の始動時には、まず、開閉器41をオフして開閉器42をオンする。開閉器42をオンすると、電力変換器2から相間リアクトル8Aを介して、固定子巻線1S及び回転子巻線1Rの両方に同一周波数の交流電圧・電流が供給されるが、前述したような開閉器42の相入れ替え作用により、両巻線1S,1Rに給電される電圧・電流の相回転方向は互いに逆方向となる。
【0027】
本実施形態の特徴は、開閉器42と直列に相間リアクトル8Aが接続されると共に、電力変換器2の出力側が相間リアクトル8Aの中間タップに接続されていることである。また、電力変換器2の出力側の電流センサ5からは、回転子電流と固定子電流との合成電流が検出されて制御装置7に入力されることになる。
【0028】
ところで、一相当たり二巻線、例えば巻線81,82が磁気結合された相間リアクトル8Aでは、二巻線81,82を流れる電流が生成する合成起磁力がゼロに近付くような起電力を発生する。その結果、相間リアクトル8Aの中間タップからみて、固定子巻線1Sに接続される巻線81の巻数をNとし、回転子巻線1Rに接続される巻線82の巻数をNにすると、回転子巻線1Rに供給される電流Iと固定子巻線1Sに供給される電流Iとの比I/Iを、理想的にはN/Nと等しくすることができる。
なお、制御装置7の動作については後述する。
【0029】
次に、図2は第2実施形態の主回路を示す構成図であり、第1実施形態の変形例に相当する。
この第2実施形態では、相間リアクトル8Bが、相ごとに巻数Nの巻線81と巻数Nの巻線82とに二分割されて構成され、更に、図1と比べた場合に開閉器42と巻線81の位置とが入れ替わっている。すなわち、固定子巻線1Sの各相が巻線81を介して開閉器42の各一端に接続され、開閉器42の各他端が、電力変換器2に接続されると共に巻線82を介して回転子巻線1Rの各相に接続されている。この変形例でも、開閉器42は、そのオンにより、巻線81に対する三相出力のうち二相を入れ替えるように結線されている。
このように第2実施形態の主回路構成は図1と異なっているが、電気的な動作は図1と同一である。
【0030】
上記第1実施形態または第2実施形態においては、巻線81,82の巻数比N/Nを、巻線形誘導機1の巻数比と等しくする。すなわち、巻線形誘導機1の固定子巻線1Sの等価巻数をN、回転子巻線1Rの等価巻数をNとすると、N/N=N/Nとする。ここで、前述したようにI/I=N/Nの関係があるとすれば、結果としてI/I=N/Nとなり、巻線形誘導機1の固定子側、回転子側の電流と巻数とは反比例の関係になる。
【0031】
図3は、図1,図2における制御装置7の構成を示している。
図1,図2の位置センサ6により検出した、固定子に対する回転子位置θは、図3における分周器703によって二分周され、θr0=θ/2として与えられるθr0が得られる。電流センサ5による検出電流I,I(及びこれらを用いて求めたI)は、周知の三相/二相変換器705に入力され、二相電流Iα,Iβに変換される。
二相電流Iα,Iβは座標変換器706に入力され、回転座標系の電流であるd軸電流Iとq軸電流Iとに変換される。数式2及び数式3は、Iα,IβからI,Iへの変換式を示している。
[数2]
=Iα×cos(θr0)−Iβ×sin(θr0
[数3]
=Iα×sin(θr0)+Iβ×cos(θr0
【0032】
これらの電流I,Iと、それぞれの指令であるI,Iとの偏差が加減算器707,708により演算され、電流調節器701,702の入力信号となる。電流調節器701,702から出力されたd軸電圧指令V及びq軸電圧指令Vは、角度θr0が入力されている座標変換器709により直交二相電圧指令Vα,Vβに変換され、更に二相/三相変換器710により三相の電圧指令V,V,Vが演算される。これらの電圧指令V,V,Vは図1,図2における電力変換器2に送られ、その出力電圧が電圧指令V,V,Vに従って制御されることとなる。
【0033】
次いで、この実施形態を更に詳述する。ここでは説明を簡単にするため、巻数比N/N=1(つまり、N/N=1)と仮定して説明する。
いま、図1の第1実施形態において、開閉器41がオフの状態で開閉器42がオンしたときに、回転子のa相電流Iarと固定子a相電流Iasとは互いに等しく、回転子b相電流Ibrと固定子c相電流Icsとは互いに等しく、回転子c相電流Icrと固定子b相電流Ibsとは互いに等しくなる。この結果、回転子α相電流Iαrと固定子α相電流Iαsとは絶対値及び極性が互いに等しく(Iαr=Iαs)、回転子β相電流Iβrと固定子β相電流Iβsとは絶対値が等しく極性が互いに異なっている(Iβr=−Iβs)。
【0034】
従って、回転子電流を例えば数式4,数式5のように仮定すると、固定子電流を数式6,数式7のように仮定することができる。
[数4]
αr=Isin(θr0+φ)
[数5]
βr=Icos(θr0+φ)
[数6]
αs=Isin(θr0+φ)
[数7]
βs=−Icos(θr0+φ)
【0035】
次に、図4を用いて、d軸及びq軸の定義を明らかにする。図示するように、固定子α巻線軸に対する回転子α巻線軸の角度がθである。これらの両巻線軸の中間の基準軸をd軸と定義し、更にd軸と直交するq軸を定義する。また、θを2分周した角度θr0は、d軸からみた回転子α巻線軸及び固定子α巻線軸の角度である。
この定義と、前述した数式4〜数式7から、Idr,Iqrは数式8,数式9により表され、Ids,Iqsは数式10,数式11により表される。
[数8]
dr=Iαr×cos(θr0)−Iβr×sin(θr0)=Isinφ
[数9]
qr=Iαr×sin(θr0)+Iβr×cos(θr0)=Icosφ
[数10]
ds=Iαs×cos(θr0)+Iβs×sin(θr0)=Isinφ
[数11]
qs=−Iαs×sin(θr0)+Iβs×cos(θr0)=−Icosφ
【0036】
数式8〜数式11から、回転子d軸電流Idrと固定子d軸電流Idsとは等しく、回転子q軸電流Iqrと固定子q軸電流Iqsとは絶対値が等しく、極性が互いに異なる電流値であることが分かる。
【0037】
図5は、巻線形誘導機1の等価回路と電流との関係を示している。上述したようにIdsとIdrとはその値が等しいので、両者を合成した電流Iは励磁インダクタンスLに流れ、巻線形誘導機1の磁束発生に寄与する。一方、IqsとIqrとは値が等しく逆極性であるため、固定子巻線から流入して回転子巻線から流出する。図5において、E,Eはそれぞれ固定子巻線、回転子巻線に誘導する誘導起電力であり、IqsとE、及び、IqrとEの作用によって巻線形誘導機1に機械出力やトルクが発生する。
なお、図5において、Rは一次抵抗、Rは二次抵抗、Lは一次漏れインダクタンス、Lは二次漏れインダクタンスを示す。
【0038】
巻線形誘導機1の巻数比N/Nが1でない場合でも、N/NとN/Nとを等しく、またはほぼ等しくすれば、回転子側の電流を固定子側に換算した場合にIdsとIdrとはその値が等しく、IqsとIqrとはその値が等しく逆極性になるので、巻数比が1の場合と基本原理は同じである。
【0039】
次いで、図6は制御装置7の他の構成を示しており、図3と異なる部分を中心に説明する。
d軸電流Iが磁束発生に寄与する電流であり、q軸電流Iがトルク発生に寄与する電流であることから、巻線形誘導機1の始動においても従来のベクトル制御と同様な制御が可能になるため、図6では、磁束に関連付けてd軸電流Iを制御し、速度指令ωに関連付けてq軸電流Iを制御する構成としている。
【0040】
図6において、加減算器714は、速度指令ωと速度演算器712により演算した速度ωとの偏差を求め、速度調節器715は、前記偏差を増幅してq軸電流指令Iを出力する。関数器713は、速度ωからd軸電流指令Iを演算するものであり、例えば、所定速度までIは一定で、所定速度を超えたらIを速度にほぼ反比例させるように機能し、弱め磁束制御を行って端子電圧をほぼ一定に制御する。図6のその他の構成及び動作は、図3と同様である。
図6に示したような制御装置を用いれば、磁束制御とトルク制御とを分離しながら駆動装置が出力可能な最大トルクで巻線形誘導機1を始動することができる。
【0041】
次に、図7は本発明の第3実施形態に係る駆動装置の主回路を示している。この実施形態が図1の第1実施形態と異なるのは、相間リアクトル8Aの中間タップと回転子巻線1Rとの間に、第3の開閉器47を接続した点であり、その他の構成は図1と同様である。
【0042】
以下に、本実施形態における開閉器47の機能及び動作を説明する。
巻線形誘導機1の始動後にその速度が所定速度まで上昇したら、開閉器42をオフして回転子巻線1Rだけに給電する。このとき、開閉器47がオフされていると、相間リアクトル8Aは巻線82によって単なるインダクタンスとして作用し、回転子電流を高応答に制御しようとする際の阻害要因となる。このため、開閉器42をオフした後に開閉器47をオンして巻線82を短絡する。しかる後に、巻線形誘導機1の誘起電圧と電源電圧の大きさ、周波数及び位相を一致させてから、開閉器41を同期投入すればよい。
【符号の説明】
【0043】
1:巻線形誘導機
1S:固定子巻線
1R:回転子巻線
2:電力変換器
3:変圧器
41,42,47:開閉器
5:電流センサ
6:位置センサ
7:制御装置
701,702:電流調節器
703:分周器
705:三相/二相変換器
706,709:座標変換器
707,708,714:加減算器
710:二相/三相変換器
712:速度演算器
713:関数器
715:速度調節器
8A,8B:相間リアクトル
81,82:巻線
:d軸電流
:q軸電流
:d軸電流指令
:q軸電流指令
:d軸電圧指令
:q軸電圧指令
〜V:三相電圧指令
ds:固定子d軸電流
dr:回転子d軸電流
qs:固定子q軸電流
qr:回転子q軸電流
θ:回転子位置
ω:回転速度
ω:速度指令
:一次抵抗
:二次抵抗
:一次漏れインダクタンス
:二次漏れインダクタンス
:励磁インダクタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線形誘導機の固定子巻線及び回転子巻線に給電するための電力変換器と、電力系統と前記固定子巻線との間に接続された第1の開閉手段と、前記電力変換器と前記固定子巻線との間に接続され、その閉動作時に前記固定子巻線及び前記回転子巻線への印加電圧・電流の相回転方向が互いに異なるように結線される第2の開閉手段と、を備えた巻線形誘導機の駆動装置において、
前記固定子巻線を、前記第2の開閉手段と相間リアクトルとを介して前記電力変換器の出力側に接続すると共に、前記回転子巻線を、前記相間リアクトルを介して前記電力変換器の出力側に接続し、かつ、
前記電力変換器の出力側を、直接または等価的に前記相間リアクトルの中間タップに接続したことを特徴とする巻線形誘導機の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した巻線形誘導機の駆動装置において、
前記相間リアクトルを構成する巻線のうち、前記固定子巻線に接続される巻線と前記回転子巻線に接続される巻線との巻数比が、前記固定子巻線と前記回転子巻線との巻数比にほぼ等しいことを特徴とする巻線形誘導機の駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載した巻線形誘導機の駆動装置において、
前記電力変換装置の出力側に接続された電流センサと、
前記巻線形誘導機の回転速度が所定値以下では回転子巻線軸と固定子巻線軸との中間位置を基準軸として、前記電流センサによる検出電流を前記基準軸に平行な第1の電流成分と前記基準軸に直交する第2の電流成分とからなる回転座標系の電流成分に座標変換する手段と、
前記巻線形誘導機の磁束または端子電圧に基づいて前記第1の電流成分を制御し、前記巻線形誘導機のトルクまたは回転速度に基づいて前記第2の電流成分を制御する手段と、
を備えたことを特徴とする巻線形誘導機の駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載した巻線形誘導機の駆動装置において、
前記電力変換器の出力側と前記回転子巻線とを接続する第3の開閉手段を備えたことを特徴とする巻線形誘導機の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−244558(P2011−244558A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112815(P2010−112815)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】