説明

巻線装置

【課題】確実に線材の張力変動を抑制することができ、巻線不良の発生を防止することができる巻線装置を提供する。
【解決手段】テンション調整機構6は、固定配置された第一プーリ12と、この第一プーリ12よりも下流側に固定配置された第二プーリ13と、第一プーリ12よりも下流側であって第二プーリ13よりも上流側に配置された第三プーリ14と、支柱16を中心にして回動自在に設けられ、第三プーリ13を揺動自在に支持することで巻線2に張力を付与するテンションアーム15と、テンションアーム15の回転位置を検出する回転位置検出装置19とを備え、巻装時において、第一プーリ12、および第二プーリ13と第三プーリ14との間に存在する巻線2の配索方向と、テンションアーム15の長手方向との間の角度θ1,θ2が略直交するように、回転位置検出装置19の検出結果に基づいて、テンションプーリ4からの巻線2の送出速度を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、モータのロータにロータコイルを形成するための巻線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の巻線装置は、線材を巻き取る際に生じる線材の巻取り速度(以下、単に巻取り速度という。また、巻取り速度の変動のことを速度変動という。)を常に一定に保つことが困難であるため、線材の張力が速度変動に応じて大きく変化する(以下、線材の張力の変動のことを張力変動という。)。例えば、モータのロータにロータコイルを形成する場合、張力変動が大きくなるとロータコイルに巻線不良が生じてしまう。このため、線材の張力変動を抑制するために、さまざまな技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、巻線装置を線材の送出方向の上流側に配置される材料引出部と、下流側に配置される材料巻取部と、これら材料引出部、および材料巻取部を連設するための材料接続部とで構成したものが開示されている。
材料引出部は、線材が巻回されているボビンと、ボビンから線材を引き出すために引出プーリとを備えている。引出プーリにはサーボモータが接続されており、線材の送出速度が制御可能になっている。
材料巻取部は、ボビンから引き出された線材を対象ワークに巻装するように構成されている。また、材料巻取部には、線材に適宜の張力を付与するためのテンションプーリが設けられている。テンションプーリにもサーボモータが接続されている。
【0004】
材料接続部には、引出プーリとテンションプーリとの間に存在する線材が鉛直下方へ大きく迂回するように構成されたダンサーが設けられている。ダンサーを設けることによって、引出プーリとテンションプーリとの間において、一旦、線材の張力をフリー状態にしている。このようにすることで、引出プーリ側に存在する線材の張力とテンションプーリ側に存在する張力との相互影響を切り離し、対象ワークに高精度で、かつ安定した張力で線材を巻装しようとしている。
【特許文献1】特開2007−331915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、ダンサーを用いてただ単に引出プーリ側に存在する線材の張力とテンションプーリ側に存在する張力との相互影響を切り離しただけであって、結局、対象ワークに巻装される線材の張力は、対象ワークの巻取り速度とテンションプーリの周速とが同一になるように制御することにより行われる。
【0006】
ここで、線材の巻取り速度の変化に追随させてテンションプーリの回転速度を制御する場合、タイムラグを発生させずに制御することは困難である。このため、逐一変化する線材の張力変動をテンションプーリの制御のみで抑制することは現実的に困難で、安定した張力で線材を対象ワークに巻装し難いという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、確実に線材の張力変動を抑制することができ、巻線不良の発生を防止することができる巻線装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備えた巻線装置であって、前記テンション調整機構は、固定配置された第一プーリと、この第一プーリよりも下流側に固定配置された第二プーリと、前記第一プーリよりも下流側であって前記第二プーリよりも上流側に配置された第三プーリと、支点を中心にして回動自在に設けられ、前記第三プーリを揺動自在に支持することで前記線材に張力を付与するテンションアームと、前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、巻装時において、前記第一プーリ、および前記第二プーリと前記第三プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする。
このように構成することで、巻装時において、線材のテンションプーリからの送出速度、およびフライヤによる引き込み速度の変化により発生する張力変動をテンションアームで緩和することができる。これに加え、角度θが略直交するように、回転位置検出部の検出結果に基づいて、テンションプーリからの線材の送出速度を決定している。このため、線材のテンションプーリからの送出速度、およびフライヤによる引き込み速度の変化により、テンションアームが支点を中心に回動した際、テンションアームの慣性モーメントの影響により発生する線材の張力変動も抑制することができる。
【0009】
請求項2に記載した発明は、ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備え、前記テンション調整機構は、複数の固定プーリと、前記固定プーリとの間で線材が巻回される複数の揺動プーリと、支点を中心にして回動自在に設けられ、前記揺動プーリを揺動自在に支持することで前記線材に張力を付与するテンションアームと、前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部とを有し、前記線材は、前記固定プーリと前記揺動プーリとの間を複数回巻回してから前記フライヤに引き込まれている巻線装置であって、巻装時において、前記複数の固定プーリと前記複数の揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、それぞれ固定プーリと揺動プーリとを配置すると共に、前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする。
このように構成することで、固定プーリ間の線材の長さ変化に伴う揺動プーリの移動量を少なくすることができる。
【0010】
請求項3に記載した発明は、前記複数の固定プーリをそれぞれ一方の同軸線上に配置し、前記複数の揺動プーリをそれぞれ他方の同軸線上に配置し、前記一方の同軸線と前記他方の同軸線は、互いに同一方向に沿って延びていることを特徴とする。
このように構成することで、固定プーリと揺動プーリのレイアウトのバリエーションを増大することができる。
【0011】
請求項4に記載した発明は、ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備え、前記テンション調整機構は、固定プーリと、支点を中心にして回動自在に設けられ、前記線材に張力を付与するテンションアームと、前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部と、前記テンションアームの一端側に設けられた揺動プーリとを有し、前記線材は、前記固定プーリと前記揺動プーリとの間を複数回巻回してから前記フライヤに引き込まれている巻線装置であって、巻装時において、前記固定プーリと前記揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする。
このように構成することで、固定プーリと揺動プーリとの間の線材の長さ変化に伴う揺動プーリの移動量を簡単な構造を用いて少なくすることができる。
【0012】
請求項5に記載した発明は、ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備え、前記テンション調整機構は、支点を中心にして回動自在に設けられ、前記線材に張力を付与するテンションアームと、前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部と、前記テンションアームの一端側に設けられた揺動プーリと、前記テンションプーリと前記揺動プーリとの間に配置された第一固定プーリ群と、前記揺動プーリと前記フライヤとの間に配置された第二固定プーリ群とを有し、これら第一固定プーリ群と第二固定プーリ群は、それぞれ複数の固定プーリを備え、前記各固定プーリ群に含まれる複数の固定プーリは、隣接する前記固定プーリ間における線材の配索方向が、前記各固定プーリ群の前後における線材の配索方向の中間方向となるように配置されている巻線装置であって、前記第一固定プーリ群の複数の固定プーリのうち、下流側にある固定プーリと前記揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向、および、前記第二固定プーリ群の複数の固定プーリのうち、上流側にある固定プーリと前記揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする。
このように構成することで、線材の曲率半径をできる限り大きく設定することができ、例えば、比較的太径の線材を使用する場合であっても線材の損傷を防止することができる。また、線材の曲率半径を大きく設定しつつ各々固定プーリの直径を小さく設定できるので、各プーリによる慣性モーメントを小さくすることができる。
【0013】
請求項6に記載した発明は、前記角度θが
75°≦θ≦105°
を満たすように、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする。
このように構成することで、容易に線材の張力変動を抑制することができる。
【0014】
請求項7に記載した発明は、前記角度θが
85°≦θ≦95°
を満たすように、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする。
このように構成することで、より確実に線材の張力変動を抑制することが可能になる。
【0015】
請求項8に記載した発明は、前記テンションアームに、前記線材に張力を付与するように弾性体が設けられていることを特徴とする。
このように構成することで、簡単な構造で線材に張力を付与することが可能になる。
【0016】
請求項9に記載した発明は、前記ボビンと前記テンションプーリとの間に、この間の前記線材の撓みを防止するためのバックテンショナ部を設けたことを特徴とする。
このように構成することで、テンションプーリによる線材の送出速度の制御を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載した発明によれば、巻装時において、線材のテンションプーリからの送出速度、およびフライヤによる引き込み速度の変化による張力変動をテンションアームで緩和することができる。これに加え、角度θが略直交するように、回転位置検出部の検出結果に基づいて、テンションプーリからの線材の送出速度を決定している。このため、線材の張力変動によって、テンションアームが支点を中心に回動した際、テンションアームの慣性モーメントの影響により発生する線材の張力変動も抑制することができる。よって、確実に線材の張力変動を抑制することができ、巻線不良の発生を防止することができる。
【0018】
請求項2に記載した発明によれば、固定プーリ間の線材の長さ変化に伴う揺動プーリの移動量を少なくすることができる。このため、テンションアームの慣性モーメントに起因する線材の張力変動をさらに抑制することができる。
【0019】
請求項3に記載した発明によれば、固定プーリと揺動プーリのレイアウトのバリエーションを増大することができる。このため、例えば、設計時の制約に柔軟に対応できる巻線装置を提供することが可能になる。
【0020】
請求項4に記載した発明によれば、固定プーリと揺動プーリとの間の線材の長さ変化に伴う揺動プーリの移動量を簡単な構造を用いて少なくすることができる。テンションアームの慣性モーメントに起因する線材の張力変動を抑制しつつ、製造コストを低減することが可能になる。
【0021】
請求項5に記載した発明によれば、線材の曲率半径をできる限り大きく設定することができ、例えば、比較的太径の線材を使用する場合であっても線材の損傷を防止することができる。また、線材の曲率半径を大きく設定しつつ各々固定プーリの直径を小さく設定できるので、各プーリによる慣性モーメントを小さくすることができる。このため、各プーリの慣性モーメントの影響による張力変動を抑制することが可能になる。
【0022】
請求項6に記載した発明によれば、容易に線材の張力変動を抑制することができる。このため、巻線装置の製造コストが必要以上に増大することを防止できる。
【0023】
請求項7に記載した発明によれば、より確実に線材の張力変動を抑制することが可能になる。
【0024】
請求項8に記載した発明によれば、簡単な構造で線材に張力を付与することが可能になる。このため、さらに製造コストを低減することが可能になる。
【0025】
請求項9に記載した発明によれば、テンションプーリによる線材の送出速度の制御を確実に行うことができる。このため、さらに確実に線材の張力変動を抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第一実施形態)
次に、この発明の第一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
図1に示すように、巻線装置1は、例えば、不図示のモータのロータにロータコイルを形成するための装置であって、予め巻線2が巻装され、上流側に配置されているボビン3と、ボビン3の巻線2を送出するテンションプーリ4と、下流側に配置され巻線2を引き込むフライヤ5と、テンションプーリ4とフライヤ5との間に配置されているテンション調整機構6とを備え、ボビン3とテンションプーリ4との間に上流側から順にガイドプーリ7、バックテンショナ部8が設けられている。
【0027】
テンションプーリ4には、ダイレクトドライブ方式によってモータ9の回転軸(不図示)が連結されている。モータ9としては、例えば、ブラシレスDCモータなどが採用され、不図示の制御部によってテンションプーリ4の回転速度が制御されている。テンションプーリ4には巻線2が巻き付けられ、これらテンションプーリ4と巻線2との間に摩擦力が発生するようになっている。テンションプーリ4が回転することによって、巻線2が下流側に向かって送出される。したがって、巻線2の送出速度は、テンションプーリ4の回転速度を制御することによって行われる。
【0028】
バックテンショナ部8は、テンションプーリ4に巻きつけられる巻線2に弛みが生じないように、巻線2に張力を付与するためのものである。バックテンショナ部8としては、フェルトとフェルトで線材を挟んだ機構や、電動モータとプーリで構成されたものなどを用いることが可能である。これらを用いて巻線2にバックテンションを付与することでテンションプーリ4に巻き付けられる巻線2の弛みを防止できるようになっている。
【0029】
フライヤ5は、この先端から引き込んだ巻線2を不図示のロータに向かって繰り出し、ロータに巻線2を巻装するものである。フライヤ5には、プーリやベルトなどで構成された駆動機構10を介してサーボモータ11が連係されている。駆動機構10は、サーボモータ11の駆動に伴ってフライヤ5が不図示のロータの周りを周回するように構成されている。フライヤ5がロータ(不図示)の周りを周回することによって、フライヤ5の先端から繰り出される巻線2がロータ(不図示)に巻装され、ロータコイルを形成する。
【0030】
テンション調整機構6は、上流側に配置された第一プーリ12と、下流側に配置された第二プーリ13と、これら第一プーリ12と第二プーリ13との間であって、かつ第一プーリ12、および第二プーリ13よりも下方(図1における下方)に配置された第三プーリ14の3つのプーリ12〜14を有している。第三プーリ14には、テンションアーム15の一端が回転自在に取り付けられている。テンションアーム15の他端は、支柱16に回転自在に支持されている。すなわち、第一プーリ12と第二プーリ13は、回転可能に固定され、固定プーリとして機能しているのに対し、第三プーリ14は、支柱16を中心にして揺動する揺動プーリとして機能するように構成され、かつ、テンションアーム15に対して回転可能になっている。
【0031】
テンションアーム15の上方と下方には、テンションアーム15の回転を規制するストッパ17がそれぞれ設けられている。また、テンションアーム15の長手方向中央よりもやや支柱16寄りには、バネ引っ掛け部23が設けられており、ここに引っ張りコイルバネ18の一端が係止されている。
なお、テンションアーム15の長手方向とは、支柱16の中心(支点)とテンションアーム15の一端に取り付けられた揺動プーリである第三プーリ14の中心とを結んだ直線方向をいう。以下の実施形態においても、支柱16の中心と揺動プーリの中心とを結んだ直線方向をテンションアーム15の長手方向とする。
【0032】
引っ張りコイルバネ18の他端は、テンション調整機構6内に設けられているバネ引っ掛け部24に係止されている。これによって、テンションアーム15には、この一端側が第一プーリ12、および第二プーリ13から離反する方向に向かう力が付与され、この結果テンションプーリ4からフライヤ5に引き込まれる巻線2に張力が付与される。
さらに、テンションアーム15の他端には、テンションアーム15の回転位置を検出するための回転位置検出装置19が設けられている。回転位置検出装置19としては、例えば、ポテンショメータなどが挙げられる。
【0033】
このような構成のもと、ボビン3に巻装されている巻線2は、ガイドプーリ7、テンションプーリ4、第一プーリ12、第三プーリ14、および第二プーリ13の順に掛け回され、フライヤ5に引き込まれる。そして、テンションプーリ4、およびフライヤ5を駆動させることにより、不図示のロータに巻線2を巻装する。
【0034】
ここで、第一プーリ12、第二プーリ13、および第三プーリ14は、巻装時において、第一プーリ12と第三プーリ14との間に配索されている巻線2aの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度θ1が約90°となるように配置されている。また、第三プーリ14と第二プーリ13との間に配索されている巻線2bの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度θ2が約90°となるように配置されている。
【0035】
すなわち、巻装時において、第一プーリ12と第三プーリ14との間に配索されている巻線2aと、第三プーリ14と第二プーリ13との間に配索されている巻線2bとが互いに略並行になるように第一プーリ12、および第二プーリ13が配置されている。これに加え、テンションアーム15は、引っ張りコイルバネ18によって所望の張力を巻線2に付与しつつ、巻装時において、長手方向が巻線2a,2bと略直交するように配置されている。
【0036】
また、巻装時にあっては、フライヤ5がロータ(不図示)の円形ではない周囲を周回するので、巻線2の速度が変動し、巻線2の張力が変動する。このとき、テンションアーム15は巻線2の速度変動に応じて支柱16を中心にして回転する。これによって、巻線2の張力変動がやや緩和される。さらに、回転位置検出装置19によって検出されたテンションアーム15の回転位置情報がテンションプーリ4の制御部(不図示)に伝達され、回転位置情報に基づいてテンションプーリ4の回転速度が制御される。つまり、巻線2の送出速度が制御される。これによって、巻線2a,2bの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度θ1,θ2が約90°程度の値を保つように制御される。このため、確実に巻線2の張力変動が抑制される。
【0037】
ここで、図2〜図7に基づいて、巻線2a,2bの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度θを常時約90°程度となるように制御することにより、巻線2の張力変動が抑制されることについて、より詳しく説明する。
【0038】
図2、図3はテンション調整機構6の簡略図を示す。
ここで、簡略図を作成するにあたり、以下の項目を前提条件として挙げる。
(1) 巻線2は伸び縮みしない。
(2) 各プーリ12,13,14を点として扱い、それぞれ巻線2との間に摩擦は作用しない。
(3) 各プーリ12,13,14の質量、および慣性モーメントは無視する。
(4) テンションプーリ4から下流側の巻線2に生じる張力は一様とする。
(5) 巻線2の弛みは考慮しない。
(6) 巻線2の曲げ剛性はない。
(7) 巻線2、および引っ張りコイルバネ18の質量は無視する。
(8) 支柱16まわりに生じる摩擦によるモーメントは無視する。
(9) テンションアーム15に作用する重力が巻線2の張力に付与する影響は無視する。
【0039】
このような前提条件のもと、テンションアーム15については、支柱16に対応する位置を点Oとし、第三プーリ14に対応する位置を点Aとしてモデル化した。すなわち、図2、図3において、テンションアーム15(線分OA)は、点Oを中心にして回動する。また、第一プーリ12に対応する位置を点Cとし、第二プーリ13に対応する位置を点Bとしてモデル化した。さらに、点Cと点Aとを結ぶ線分を第一プーリ12と第三プーリ14との間に配索されている巻線2aとし、点Aと点Bとを結ぶ線分を第三プーリ14と第二プーリ13との間に配索されている巻線2bとし、巻線2a(線分AC)の長さをl1、巻線2b(線分AB)の長さをl2とした。そして、テンションアーム15が水平方向に向いているとき、テンションアーム15に沿って延出する線分15’と巻線2aとの間の角度をθ1とし、線分15’と巻線2bとの間の角度をθ2とした。
なお、図2、図3に示す簡略図に用いたモデルパラメータを図4の表に示す。
【0040】
次に、図2〜図4に基づいて、関係式を導出する。
まず、テンションアーム15の支柱16まわりの運動方程式は、巻線2の張力F、引っ張りコイルバネ18による引っ張り張力Fsによって影響を受けており、数式1のように表される。
【0041】
【数1】

【0042】
点Oを原点としているので、点Aと点Dの座標は、水平方向からの線分OAの角度、つまり、水平方向からのテンションアーム15の角度θtで表される。すなわち、点Aは、数式2、および数式3により表される。また、点Dは、数式4、および数式5により表される。ここで、座標系の定義として、水平右方向をXの正方向とし、鉛直上方向をYの正方向としたときの座標位置を(X,Y)とし、原点は、(0,0)とする。
【0043】
【数2】

【0044】
【数3】

【0045】
【数4】

【0046】
【数5】

【0047】
数式1より巻線2の張力Fについて解くと次のようになる。
【0048】
【数6】

【0049】
ここで、線分OAに対する線分ACの成す角度α、線分OAに対する線分ABの成す角度β、および線分DOに対する線分DEの成す角度γは、各点の座標を用いて幾何学的に求められる。数式6から巻線2の張力Fは、引っ張りコイルバネ18の影響により発生する張力(数式6における第1項目)と、テンションアーム15の慣性モーメントにより発生する張力(数式6における第2項目、ここでは張力変動ということにする)とに分けて考えることができる。
【0050】
引っ張りコイルバネ18の長さ、つまり、線分DEの長さlsは、点Dと点Eの座標により次のように表され、さらに引っ張りコイルバネ18による引っ張り張力Fsもそれにより表される。すなわち、数式7、数式8により表される。
【0051】
【数7】

【0052】
【数8】

【0053】
また、点Aを経由した点Cから点Bに至るまでの巻線2の長さlは、点A、点B、点Cの座標で数式9のように表される。
【0054】
【数9】

【0055】
また、点Aを経由した点Cから点Bに至るまでの巻線2の長さlは、テンションプーリ4側から送出された巻線2の長さとフライヤ5側に引き込まれた巻線2の長さとの差として考えることができる。巻線2がフライヤ5側へ引き込まれる速度とテンションプーリ4側から送出される速度が一致していないということを前提とすれば、このlは、逐一変化すると考えられる。可動点(揺動点)である点Aは、数式2、および数式3のように角度θtで表されるため、数式9より長さlが角度θtに対して一意的に決定する。
ここで、角度θtの任意の範囲内において、角度θtに対してlが単調に変化するのならば、この範囲内で長さlに対して角度θtが一意的に決定すると考えられる。つまり、長さlの値に応じて角度θtが決定され、数式10の関係が成り立つ。このことは、とりもなおさず、長さlにより角度θtが決まり、角度θtにより角度α、および角度βも決まるから、角度α、および角度βは長さlの関数になる。
【0056】
【数10】

【0057】
次に、数式6に基づいて、長さlを変化させたときの巻線2の張力Fの変動を求めるためのシミュレーションを行う。
ここで、シミュレーションの条件を以下に示す。
(1) 線分OAが水平方向にあるときの線分15’と巻線2aとの間の角度をθ1、および線分15’と巻線2bとの間の角度θ2(図2参照)をそれぞれ30[deg]から150[deg]まで5[deg]の刻みでシミュレーションを行う。
(2) 線分OAが水平方向にあるときの長さl1と長さl2(図2参照)の長さをそれぞれ200[mm]とする。このとき、(1)と(2)によって、各シミュレーションにおける点Cと点Bの座標が決定する。
(3) 長さlの波形は以下のように決定する。すなわち、図2に示すように、線分OAが水平方向にあるときの長さlは、(1)で角度が決定することで決まる。このときの長さlを400[mm]とする。振幅を10[mm]、周波数を100[Hz]とした正弦波がオフセット400[mm]を持った波形とする(図5参照)。
(4) シミュレーションでは張力変動について評価するため、ここでは、数式6の第1項目のバネの影響により発生する張力については無視することとする。
【0058】
図6は、X軸を角度θ1[deg]、Y軸を角度θ2[deg]、Z軸を張力変動[N]とした場合の張力変動[N]を示すシミュレーション結果のグラフである。
図6のP部に示すように、角度θ1、および角度θ2が90°付近であるとき、張力変動が最も小さくなることが確認できる。
【0059】
より詳しくは、角度θ1、および角度θ2がそれぞれ
【0060】
【数11】

【0061】
【数12】

【0062】
を満たす場合、巻線2の張力変動を小さく抑えることが確認できる。すなわち、数式11、および数式12を満たすようにテンションプーリ4の回転速度を制御することで、巻線2の張力変動を小さく抑えられることが確認できる。
【0063】
さらには、角度θ1、および角度θ2がそれぞれ
【0064】
【数13】

【0065】
【数14】

【0066】
を満たす場合、より確実に巻線2の張力変動を小さく抑えることが確認できる。すなわち、数式13、および数式14を満たすようにテンションプーリ4の回転速度を制御することで、巻線2の張力変動をより確実に抑えられることが確認できる。
【0067】
(作用)
次に、図1に基づいて、巻線装置1の作用について説明する。
まず、巻装対象ワークとして、例えば、モータのロータ(不図示)をセットした後、テンションプーリ4のモータ9、フライヤ5、およびサーボモータ11を駆動させ、ロータ(不図示)に巻線2を巻装していく。このとき、巻線2がフライヤ5側へ引き込まれる速度が逐一変化することによって、この速度とテンションプーリ4側から送出される速度とが一致し難いため、モータプーリ4からフライヤ5側へ引き込まれるまでの間の巻線2の長さ(以下、巻線長さという。)が変化する。すると、テンションアーム15が支柱16を中心にして揺動する。
【0068】
ここで、テンションアーム15の回転位置は回転位置検出装置19によって検出され、この検出結果がテンションプーリ4の制御部(不図示)に伝達される。この制御部は、回転位置検出装置19の検出結果に基づいてテンションプーリ4のモータ9の制御を行う。
具体的には、巻装時において、巻線長さが小さくなり、テンションアーム15が第一プーリ12、および第二プーリ13側に向かって揺動した場合、第一プーリ12と第三プーリ14との間に配索されている巻線2aと、テンションアーム15の長手方向との間の角度θ1が90°よりも小さくなる。
【0069】
同様に、第三プーリ14と第二プーリ13との間に配索されている巻線2bと、テンションアーム15の長手方向との間の角度θ2も90°よりも小さくなる。
このとき、モータ9の回転速度を上げて巻線2の送出速度を速める。すると、巻線長さが大きくなり、テンションアーム15が第一プーリ12、および第二プーリ13とは反対側に向かって揺動し、角度θ1,θ2が90°になる。
【0070】
また、巻装時において、巻線長さが大きくなり、テンションアーム15が第一プーリ12、および第二プーリ13とは反対側に向かって揺動した場合、角度θ1、および角度θ2の値が90°から離れていく。このとき、モータ9の回転速度を下げて巻線2の送出速度を遅くする。すると、巻線長さが小さくなり、テンションアーム15が第一プーリ12、および第二プーリ13側に向かって揺動し、角度θ1,θ2が90°になる。
【0071】
このように、テンションアーム15の回転位置に基づいて、テンションプーリ4から送出される巻線2の送出速度を制御することにより、角度θ1、および角度θ2が約90°程度の値を保つように制御しつつ、不図示のロータに巻線2を巻装する。
【0072】
したがって、上述の第一実施形態によれば、巻装時において、テンション調整機構6のテンションアーム15が巻線長さに応じて支柱16を中心にして回転するので、巻線2の張力変動がやや緩和される。これに加え、回転位置検出装置19によって検出されたテンションアーム15の回転位置情報に基づいてテンションプーリ4の回転速度を制御している。つまり、第一プーリ12と第三プーリ14との間に配索されている巻線2aの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度θ1、および、第三プーリ14と第二プーリ13との間に配索されている巻線2bの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度θ2がそれぞれ約90°程度の値を保つように巻線2の送出速度を制御している。このため、確実にモータプーリ4から下流側の巻線2の張力を抑制することができ、巻線不良の発生を防止することができる。
【0073】
また、角度θ1、および角度θ2が数式11、および数式12を満たすようにテンションプーリ4の回転速度を制御することで巻線2の張力変動を抑制することができるので、テンションプーリ4の回転速度制御を高精度に行う必要がなく、容易に巻線2の張力変動を抑制することが可能になる。このため、巻線装置1の製造コストが必要以上に増大することを防止できる。
さらに、角度θ1、および角度θ2が数式13、および数式14を満たすようにテンションプーリ4の回転速度を制御することでより確実に巻線2の張力変動を抑制することが可能になる。
【0074】
そして、テンションアーム15に引っ張りコイルバネ18を設けることによって、簡単な構造で巻線2に張力を付与することが可能になる。このため、さらに製造コストを低減することが可能になる。
また、ボビン3とテンションプーリ4との間にバックテンショナ部8を設けることによって、テンションプーリ4に巻き付けられる巻線2の弛みを防止できる。このため、テンションプーリ4と巻線2との間に、確実に摩擦力を発生させ、テンションプーリ4の駆動力を確実に巻線2に伝達させることができる。よって、さらに確実に巻線2を送出することが可能になる。
【0075】
(第二実施形態)
次に、この発明の第二実施形態を図7、図8に基づいて説明する。なお、第一実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明を省略する(以下の実施形態でも同様)。
この第二実施形態において、巻線装置21は、例えば、不図示のモータのロータにロータコイルを形成するための装置であって、予め巻線2が巻装され、上流側に配置されているボビン3と、ボビン3の巻線2を送出するテンションプーリ4と、下流側に配置され巻線2を引き込むフライヤ5と、テンションプーリ4とフライヤ5との間に配置されているテンション調整機構26とを備え、ボビン3とテンションプーリ4との間に上流側から順にガイドプーリ7、バックテンショナ部8が設けられている点、テンション調整機構26はテンションアーム15を有しており、この基端側が支柱16に回転自在に支持されている点、テンションアーム15の基端(他端)には、テンションアーム15の回転位置を検出するための回転位置検出装置19が設けられている点等の基本的構成は、上述の第一実施形態と同様である(以下の実施形態でも同様)。
【0076】
ここで、第二実施形態における巻線装置21のテンション調整機構26は、テンション調整機構26内に固定された固定プーリとして、第一プーリ27、第二プーリ28、および第三プーリ29の3つのプーリ27〜29を有していると共に、テンションアーム15の先端側に支柱16を中心にして揺動する揺動プーリとして、第四プーリ33、第五プーリ34の2つのプーリ33,34を有している。
第四プーリ33、および第五プーリ34は、テンションアーム15の長手方向に沿って並設されている。また、第一プーリ27、第二プーリ28、および第三プーリ29は、第四プーリ33、および第五プーリ34の並設方向に沿うように、上流側から順に並んで配置されている。
【0077】
そして、ボビン3に巻装されている巻線2は、ガイドプーリ7、テンションプーリ4、第一プーリ27、第四プーリ33、第二プーリ28、第五プーリ34、および第三プーリ29の順に掛け回され、フライヤ5に引き込まれている。
【0078】
各プーリ27〜34は、巻装時において、第一プーリ27と第四プーリ33との間に配索されている巻線2cの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度αが約90°となるように配置されている。また、第四プーリ33と第二プーリ28との間に配索されている巻線2dの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度βが約90°となるように配置されている。さらに、第二プーリ28と第五プーリ34との間に配索されている巻線2eの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度ζが約90°となるように配置されている。そして、第五プーリ34と第三プーリ29との間に配索されている巻線2fの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度ηが約90°となるように配置されている。
【0079】
これに加え、巻装時において、回転位置検出装置19によって検出されたテンションアーム15の回転位置情報に基づいて、テンションプーリ4の回転速度が制御される。つまり、巻線2c〜2fの配索方向とテンションアーム15の長手方向との間の角度α〜ηが約90°程度の値を保つように、巻線2の送出速度が制御される。
【0080】
ここで、図8に示す簡略図を用いて関係式を導出し、角度α〜ηが約90°程度の値を保つように制御されることによって巻線2の張力変動が抑制されることについて説明する。なお、簡略図を作成するにあたっての前提条件は上述の第一実施形態と同様である。
また、前提条件のもと、第四プーリ33に対応する位置を点Aとしてモデル化すると共に、第五プーリ34に対応する位置を点A’としてモデル化した。また、第一プーリ27に対応する位置を点C、第二プーリ28に対応する位置を点B、第三プーリ29に対応する位置を点B’としてモデル化した。さらに、点Cと点Aとを結ぶ線分を第一プーリ27と第四プーリ33との間に配索されている巻線2c、点Aと点Bとを結ぶ線分を第四プーリ33と第二プーリ28との間に配索されている巻線2d、点Bと点A’とを結ぶ線分を第二プーリ28と第五プーリ34との間に配索されている巻線2e、点A’と点B’とを結ぶ線分を第五プーリ34と第三プーリ29との間に配索されている巻線2fとした。
なお、図8において、分かり易くするために、点Aと点A’とを互いに離して記載しているが、点Aと点A’は互いに同じ位置にあるものとする。
【0081】
次に、関係式を導出する。
まず、テンションアーム15の支柱16まわりの運動方程式は、巻線2の張力F、引っ張りコイルバネ18による引っ張り張力Fsによって影響を受けているが、張力変動のみについて考慮するために、引っ張りコイルバネ18による影響は無視するものとすると、数式15のように表される。
【0082】
【数15】

【0083】
数式15を巻線2の張力Fについて解くと数式16のように表される。
【0084】
【数16】

【0085】
ここで、点A’と点B’が無い場合(図2、および図3参照)では、数式17のように表される。
【0086】
【数17】

【0087】
以下に、上述の第一実施形態における図2、および図3の簡略図と、第二実施形態における図7の簡略図との張力変動の違いについて考える。
まず、上述の第一実施形態における図2、および図3の簡略図について考える。
線分OAが水平方向にあるときの線分OAに対する、線分ACおよび線分ABの成す角度をそれぞれ90[deg](=π/2[rad])とする。
線分OAが水平方向にある状態から巻線2の長さl(l=l1+l2)が変動することを考える。巻線2の長さlの加速度成分(2階微分成分)accが発生した場合、アーム角度θtとの間には数式18のような関係が成り立つ。
【0088】
【数18】

【0089】
数式18、およびα=π/2[rad]、β=π/2[rad]を数式17へ代入すると、数式19のように表される。
【0090】
【数19】

【0091】
次に、第二実施形態の図7の簡略図について考える。
線分OAが水平方向にあるとき、線分OAに対する、線分AC、線分AB、線分A’B、および線分A’B’の成す角度をそれぞれ90[deg](=π/2[rad])とする。線分OAが水平方向にある状態から、点Cから点B’にかけての巻線2の長さが変動することを考える。巻線2の長さの加速度成分(2階微分成分)は、上述の第一実施形態の場合の加速度成分accと同じとする。
accとテンションアーム15の角度θt(図8参照)との間には、数式20のような関係が成り立つ。しかしながら、幾何学的な関係から数式18と比較して2分の1のアーム角加速度(アーム角の2階微分)となる。
【0092】
【数20】

【0093】
数式20、およびα=π/2[rad]、β=π/2[rad]、ζ=π/2[rad]、η=π/2[rad]を数式16へ代入すると、数式21のように表される。
【0094】
【数21】

【0095】
ここで、数式19と数式21を比較すると、数式21のFが数式19のFと比較して4分の1になっていることが確認できる。
したがって、上述の第二実施形態によれば、前述した第一実施形態と比較して、第一プーリ27から第三プーリ29までの間の巻線2の長さ変化に伴う第四プーリ33、および第五プーリ34の移動量を少なくすることができ、さらに、巻線2の張力変動を抑制することが可能になる。
【0096】
なお、上述の第二実施形態では、第四プーリ33、および第五プーリ34は、テンションアーム15の長手方向に沿って並設され、第一プーリ27、第二プーリ28、および第三プーリ29は、第四プーリ33、および第五プーリ34の並設方向に沿うように、上流側から順に並んで配置されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、図9に示すように、第四プーリ33、および第五プーリ34の回転軸を同軸上に配置すると共に、第一プーリ27、第二プーリ28、および第三プーリ29の回転軸を同軸上に配置してもよい。この場合、第四プーリ33、および第五プーリ34の軸線と、第一プーリ27、第二プーリ28、および第三プーリ29の軸線とが互いに同一方向に沿っていればよく、これらの軸線とテンションアーム15の長手方向とが交差した状態であってもよい。このようにすることで、例えば、設計時の制約により柔軟に対応できる巻線装置21を提供することが可能になる。
【0097】
また、上述の第二実施形態では、固定プーリとして、第一プーリ27、第二プーリ28、および第三プーリ29の3つのプーリ27〜29を設け、揺動プーリとして第四プーリ33、および第五プーリ34の2つのプーリ33,34を設けた場合について説明した。しかしながら、固定プーリが複数設けられ、揺動プーリは少なくとも1つ設けられていればよく、巻線2を上流側から順に固定プーリと揺動プーリとの順に掛け回せればよい。固定プーリが3つよりも多く、かつ揺動プーリが2つよりも多い場合、より巻線2の張力変動を抑制することが可能になる。
【0098】
(第三実施形態)
次に、この発明の第三実施形態を図10に基づいて説明する。
第三実施形態の巻線装置31のテンション調整機構36は、テンション調整機構36内に固定された固定プーリとして、第一プーリ37を有していると共に、テンションアーム15の先端側に支柱16を中心にして揺動する揺動プーリとして、第二プーリ38を有している。
そして、ボビン3に巻装されている巻線2は、ガイドプーリ7、およびテンションプーリ4を介して第一プーリ37と第二プーリ38との間を複数回(少なくとも2回)巻回されてフライヤ5に引き込まれている。
【0099】
このような構成のもと、巻装時にあっては、第一プーリ37と第二プーリ38との間に配索された巻線2の配索方向と、テンションアーム15の長手方向との間の角度θ1’,θ2’が約90°程度の値を保つように、回転位置検出装置19によって検出されたテンションアーム15の回転位置情報に基づいて、テンションプーリ4の回転速度が制御される。
したがって、上述の第三実施形態によれば、上述の第二実施形態と同様の効果に加え、簡単な構造で巻線2の張力変動を抑制することができる。このため、さらに巻線装置31の製造コストを低減することが可能になる。
【0100】
(第四実施形態)
次に、この発明の第四実施形態を図11に基づいて説明する。
この第四実施形態の巻線装置41のテンション調整機構46は、第一固定プーリ群60と、第二固定プーリ群61とを有すると共に、テンションアーム15の先端側に支柱16を中心にして揺動する揺動プーリとして、第五プーリ51を有している。
第一固定プーリ群60は、第五プーリ51よりも上流側である第五プーリ51とテンションプーリ4との間に配置されている。第一固定プーリ群60には、テンション調整機構46内に固定された固定プーリとして、第一プーリ47、および第二プーリ48の2つのプーリ47,48が設けられている。
【0101】
第一プーリ47、および第二プーリ48は、これらの間に配索されている巻線2a’の配索方向が鉛直方向に対して、つまり、第二プーリ48と第五プーリ51との間に配索されている巻線2aの配索方向に対して約45°となるように配置されている。このことは、テンションプーリ4と第一プーリ47との間に配索されている巻線2に対する巻線2a’の屈曲角度が約45°であって、かつ、巻線2a’に対する巻線2aの屈曲角度が約45°であるということになる。さらには、巻線2a’の配索方向が第一固定プーリ群60の前後における巻線2,2aの配索方向の中間方向になっているということになる。
【0102】
一方、第二固定プーリ群61は、第五プーリ51よりも下流側である第五プーリ51とフライヤ5との間に配置されている。第二固定プーリ群61には、テンション調整機構46内に固定された固定プーリとして、第三プーリ49、および第四プーリ50の2つのプーリ49,50が設けられている。
【0103】
第三プーリ49、および第四プーリ50は、これらの間に配索されている巻線2b’の配索方向が鉛直方向に対して、つまり、第五プーリ51と第三プーリ49との間に配索されている巻線2bの配索方向に対して約45°となるように配置されている。このことは、巻線2bに対する巻線2b’の屈曲角度が約45°であって、かつ、巻線2b’に対する第四プーリ50とフライヤ5との間に配索されている巻線2の屈曲角度が約45°であるということになる。さらには、巻線2b’の配索方向が第二固定プーリ群61の前後における巻線2b,2の配索方向の中間方向になっているということになる。
【0104】
このような構成のもと、巻装時にあっては、第二プーリ48と第五プーリ51との間に配索された巻線2a、および第五プーリ51と第三プーリ49との間に配索された巻線2bの配索方向と、テンションアーム15の長手方向との間の角度θ1'',θ2''が約90°程度の値を保つように、回転位置検出装置19によって検出されたテンションアーム15の回転位置情報に基づいて、テンションプーリ4の回転速度が制御される。
【0105】
したがって、上述の第四実施形態によれば、上述の第一実施形態と同様の効果に加え、巻線2aに対する巻線2a’の屈曲角度、および巻線2bに対する巻線2b’の屈曲角度を約45°に設定することで、第一固定プーリ群60、および第二固定プーリ群61に配索された巻線2の曲率半径を大きく設定することができる。このため、例えば、比較的太径の巻線2を使用する場合であっても巻線2を無理に屈曲させることがなく、巻線2の損傷を防止することができる。
また、第一固定プーリ群60に2つのプーリ47,48を設けると共に、第二固定プーリ群61に2つのプーリ49,50を設けている。ここで、巻線2の曲率半径を大きく設定すべく、第一固定プーリ群60、および第二固定プーリ群61に代わって大径のプーリを用いる場合、プーリによる慣性モーメントが大きくなってしまう。しかしながら、第一固定プーリ群60、および第二固定プーリ群61を用いることによって、比較的小径のプーリ47〜50を用いて巻線2の曲率半径を大きく設定することができる。このため、巻線2の損傷を防止しつつ各プーリ47〜50による慣性モーメントも小さくすることができる。よって、各プーリ47〜50の慣性モーメントの影響による張力変動を抑制することが可能になる。
【0106】
なお、上述の第四実施形態では、第一固定プーリ群60に2つのプーリ47,48を設けると共に、第二固定プーリ群61に2つのプーリ49,50を設ける場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、各固定プーリ群60,61にプーリを2つ以上設けてもよい。また、第一固定プーリ群60と第二固定プーリ群61とにそれぞれ設けられたプーリの個数が互いに違っていてもよい。
【0107】
また、上述の第四実施形態では、第一プーリ47、および第二プーリ48によって、巻線2aに対する巻線2a’の屈曲角度を約45°に設定していると共に、第三プーリ49、および第四プーリ50によって、巻線2bに対する巻線2b’の屈曲角度を約45°に設定している場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、巻線2a’の配索方向が第一固定プーリ群60の前後における巻線2,2aの配索方向の中間方向になっていればよい。また、巻線2b’の配索方向が第二固定プーリ群61の前後における巻線2b,2の配索方向の中間方向になっていればよい。このように構成することで、上述の第一実施形態から第三実施形態と比較して太径の巻線の損傷を防止することが可能になる。
【0108】
さらに、上述の実施形態では、例えば、巻線装置1,21,31,41は、不図示のモータのロータにロータコイルを形成するための装置である場合について説明したが、これに限られるものではなく、巻線装置1,21,31,41は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、広く利用することができる。例えば、ロータに代わって、モータのステータにコイルを形成する場合や電源用のコイルを形成する場合などに巻線装置1,21,31,41を用いることが可能である。
そして、上述の実施形態では、テンションアーム15の回転位置を検出するための回転位置検出装置19として、例えば、ポテンショメータなどが挙げられる場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ポテンションメータに代わってエンコーダ、レゾルバなどを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の第一実施形態における巻線装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第一実施形態におけるテンション調整機構の簡略図である。
【図3】本発明の第一実施形態におけるテンション調整機構の簡略図である。
【図4】本発明の第一実施形態におけるモデルパラメータを示す表である。
【図5】本発明の第一実施形態におけるシミュレーションに用いる巻線の正弦波形を示すグラフである。
【図6】本発明の第一実施形態における張力変動の変化を示すシミュレーション結果のグラフある。
【図7】本発明の第二実施形態におけるテンション調整機構の概略構成図である。
【図8】本発明の第二実施形態におけるテンション調整機構の簡略図である。
【図9】本発明の第二実施形態における他のテンション調整機構の概略構成図である。
【図10】本発明の第三実施形態におけるテンション調整機構の概略構成図である。
【図11】本発明の第四実施形態におけるテンション調整機構の概略構成図である。
【符号の説明】
【0110】
1,21,31,41 巻線装置
2,2a〜2f 巻線
4 テンションプーリ
5 フライヤ
6,26,36,46 テンション調整機構
8 バックテンショナ部
12 第一プーリ
13 第二プーリ
14 第三プーリ
15 テンションアーム
16 支柱(支点)
18 引っ張りコイルバネ(弾性体)
19 回転位置検出装置(回転位置検出部)
27,37,47 第一プーリ(固定プーリ)
28,48 第二プーリ(固定プーリ)
29,49 第三プーリ(固定プーリ)
33 第四プーリ(揺動プーリ)
34 第五プーリ(揺動プーリ)
38 第二プーリ(揺動プーリ)
50 第四プーリ(固定プーリ)
51 第五プーリ(揺動プーリ)
60 第一固定プーリ群
61 第二固定プーリ群
θ1,θ1’,θ1'',θ2,θ2’,θ2'',α,β,ζ,η 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、
前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、
前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備えた巻線装置であって、
前記テンション調整機構は、
固定配置された第一プーリと、
この第一プーリよりも下流側に固定配置された第二プーリと、
前記第一プーリよりも下流側であって前記第二プーリよりも上流側に配置された第三プーリと、
支点を中心にして回動自在に設けられ、前記第三プーリを揺動自在に支持することで前記線材に張力を付与するテンションアームと、
前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部とを備え、
巻装時において、
前記第一プーリ、および前記第二プーリと前記第三プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする巻線装置。
【請求項2】
ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、
前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、
前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備え、
前記テンション調整機構は、
複数の固定プーリと、
前記固定プーリとの間で線材が巻回される複数の揺動プーリと、
支点を中心にして回動自在に設けられ、前記揺動プーリを揺動自在に支持することで前記線材に張力を付与するテンションアームと、
前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部とを有し、
前記線材は、前記固定プーリと前記揺動プーリとの間を複数回巻回してから前記フライヤに引き込まれている巻線装置であって、
巻装時において、
前記複数の固定プーリと前記複数の揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、それぞれ固定プーリと揺動プーリとを配置すると共に、
前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする巻線装置。
【請求項3】
前記複数の固定プーリをそれぞれ一方の同軸線上に配置し、前記複数の揺動プーリをそれぞれ他方の同軸線上に配置し、
前記一方の同軸線と前記他方の同軸線は、互いに同一方向に沿って延びていることを特徴とする請求項2に記載の巻線装置。
【請求項4】
ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、
前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、
前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備え、
前記テンション調整機構は、
固定プーリと、
支点を中心にして回動自在に設けられ、前記線材に張力を付与するテンションアームと、
前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記テンションアームの一端側に設けられた揺動プーリとを有し、
前記線材は、前記固定プーリと前記揺動プーリとの間を複数回巻回してから前記フライヤに引き込まれている巻線装置であって、
巻装時において、
前記固定プーリと前記揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする巻線装置。
【請求項5】
ボビンに巻装されている線材を送出するテンションプーリと、
前記テンションプーリから送出された線材を引き込み、この線材をワークに向かって繰り出してワークに巻装するフライヤと、
前記テンションプーリと前記フライヤとの間に設けられるテンション調整機構とを備え、
前記テンション調整機構は、
支点を中心にして回動自在に設けられ、前記線材に張力を付与するテンションアームと、
前記テンションアームの回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記テンションアームの一端側に設けられた揺動プーリと、
前記テンションプーリと前記揺動プーリとの間に配置された第一固定プーリ群と、
前記揺動プーリと前記フライヤとの間に配置された第二固定プーリ群とを有し、
これら第一固定プーリ群と第二固定プーリ群は、それぞれ複数の固定プーリを備え、
前記各固定プーリ群に含まれる複数の固定プーリは、隣接する前記固定プーリ間における線材の配索方向が、前記各固定プーリ群の前後における線材の配索方向の中間方向となるように配置されている巻線装置であって、
前記第一固定プーリ群の複数の固定プーリのうち、下流側にある固定プーリと前記揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向、および、前記第二固定プーリ群の複数の固定プーリのうち、上流側にある固定プーリと前記揺動プーリとの間に存在する線材の配索方向と、前記テンションアームの長手方向との間の角度θが略直交するように、前記回転位置検出部の検出結果に基づいて、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする巻線装置。
【請求項6】
前記角度θが
75°≦θ≦105°
を満たすように、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする請求項1〜請求項5の何れかに記載の巻線装置。
【請求項7】
前記角度θが
85°≦θ≦95°
を満たすように、前記テンションプーリからの前記線材の送出速度を決定することを特徴とする請求項6に記載の巻線装置。
【請求項8】
前記テンションアームに、前記線材に張力を付与するように弾性体が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項7の何れかに記載の巻線装置。
【請求項9】
前記ボビンと前記テンションプーリとの間に、この間の前記線材の撓みを防止するためのバックテンショナ部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項8の何れかに記載の巻線装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−118452(P2010−118452A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289932(P2008−289932)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】