説明

布状コンデンサおよびこれを備える入力装置

【課題】柔軟性と信頼性とを兼ね備える布状コンデンサ、およびこのコンデンサを備えた入力装置を提供する。
【解決手段】コンデンサ10は、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維から形成された少なくとも一対の導電性部材12,13と、これらの導電性部材を固定するための固定部材14と、前記導電性部材を被覆する誘電性の被覆部材16とを備え、このコンデンサ10では、誘電性被覆部材16に対して人体が接触すると、人体が本来有する静電容量によりコンデンサ10の静電気容量が変化する。そのため、このコンデンサを備える入力装置では、人体の接触によりスイッチングが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と信頼性とを兼ね備える布状コンデンサおよびこれを備える入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子回路は板状の基板の上に各種電子素子が半田付けにより固定されることにより形成される。柔軟性を発揮する点では、フレキシブル配線基板も存在しているが、結局、フレキシブル配線基板でも、その柔軟性や耐屈曲性には、おのずから限界が存在する。
【0003】
一方、特許文献1には、電子回路を衣服に一体化する「電気的にアクティブな布地」が提案されている。この文献では、一連の平行な行をなす導電性部材が裏側に縫い付けられた第1の布地パネルと;第1の布地パネルの導電性部材に対して垂直に延びるとともに、一連の平行な行をなす導電性部材が縫い付けられた第2の布地パネルと;これらの布地パネルの間に挿入され、第1の布地パネルと第2の布地パネルとの導電性部材がオーバラップする領域に穴が設けられている布地からなるスイッチマトリクスが記載されている。
このスイッチマトリクスでは、第1の布地パネルの表側において、ユーザが導電性部材のオーバラップ領域を押すと、対向する導電性領域が物理的に接触し、印加された電圧が検出される。
【0004】
また、この文献には、金属メッキされた導電性糸から形成された一対の導電性パッチが、所定の間隔をあけて非導電性の布地に配置されたコンデンサも記載されている。このコンデンサでは、ユーザの指を介してパッチをつなぐことにより、静電容量が増加して検出信号を得ている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−168268号公報(段落番号[0028]−[0029],[0048]−[0049])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、金属メッキにより形成された導電繊維や金属繊維は、金属部分の断線や剥離により導電性が低下する場合がある。そのため、特に金属メッキ繊維や金属繊維をコンデンサとして用いた場合、静電容量が変化しやすく信頼性が低下する。
【0007】
さらに、金属メッキ繊維や金属繊維は、天然繊維や合成繊維と比べて柔軟性や風合いにかけるため、衣服としての適合性に欠ける一方、これらの繊維を細くして柔軟性や風合いを付与しようとすると、金属部分の断線や剥離がますます起きやすくなるため、柔軟性と信頼性とを両立することはできない。
【0008】
また、衣服に取り付けられている導電性部材は、布地の柔軟な動きに同調して折り曲げられたり重ねられたりするため、このような布地の屈曲や衝突により導電性部材同士が接触してしまうと、スイッチングの誤動作につながってしまう。
【0009】
しかも、実際に使用する場合、さまざまな物体が導電性部材に対して接触する可能性があり、このような意図しない接触によってスイッチングが行われてしまうのは、使用上好ましくない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、柔軟性と信頼性とを兼ね備える布状コンデンサおよび入力装置を提供することにある。
本発明の別の目的は、布地の屈曲動作や衝突動作を行ってもスイッチングが誤動作しない布状コンデンサおよび入力装置を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、さまざまな物体による意図しない接触と、人体による接触とを区別することが可能な布状コンデンサおよび入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記したコンデンサを得るべく、鋭意検討を重ねた結果、(i)柔軟性の高い特定の導電性ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する場合がある)系繊維は、金属部分のはがれや断線がなく、柔軟性と導電性とを両立できること、また、(ii)前記導電性PVA系繊維から形成された導電性部材に対して、特定の固定部材を用いることにより、屈曲動作や衝突動作を行っても、スイッチングの誤動作を防止できること、さらに(iii)この導電性部材を誘電体で被覆すると、さまざまな物体が導電部材に直接接触することによって発生する抵抗変化を防止できること、を見出し本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維から形成された少なくとも一対の導電性部材と、これらの導電性部材を互いに接触させることなく固定するための誘電性固定部材と、前記導電性部材を被覆する誘電性の被覆部材とを備える布状コンデンサである。このコンデンサにおいて、例えば、固定部材は誘電性布帛またはシートであってもよく、複数の導電性部材が、固定部材の同一平面において、それぞれ接触することなく固定されていてもよい。
【0013】
さらに、コンデンサでは、複数の導電性部材が第1の導電性部材と第2の導電性部材とで構成され、それぞれの導電性部材は、同じ方向に向かって突出した複数の櫛歯部と、この櫛歯部同士をつなぐ基部から形成される櫛型形状であってもよい。
【0014】
これら第1と第2の導電性部材は、それぞれの基部を互いに外側に向け、櫛歯部を内側に向けて配設されてもよく、さらに、これらの導電性部材の櫛歯部は、少なくとも互いに対向する部分を有するよう固定部材に固定されていてもよい。
【0015】
また、第1と第2の導電性部材は、同じ方向に向かって突出した複数の櫛歯部と、この櫛歯部同士をつなぐ基部から形成される櫛型形状であって、それぞれの基部を互いに内側に向け、櫛歯部を外側に向けて配設されるよう固定部材に固定されていてもよい。
【0016】
一方で、前記コンデンサの別の態様において、固定部材は誘電性布帛またはシートであり、複数の導電性部材が、互いに接触することなく固定部材を挟んで両面に固定されていてもよい。
このようなコンデンサでは、複数の導電性部材が、面状の第1の導電性部材と第2の導電性部材とで構成され、
誘電性布帛の上に第2の導電性部材が配設され、第2の導電性部材の上に固定部材が配設され、固定部材の上に第1の導電性部材が配設され、第1の導電性部材の上にこの導電性部材を被覆する誘電性の被覆部材が配設されていてもよい。さらに、通常、このコンデンサでは、誘電性布帛またはシートからなる固定部材には、固定部材を挟んで両側に配設された導電性部材を接触させるための貫通孔が存在しない。
【0017】
これらのコンデンサにおいて、導電性ポリビニルアルコール系繊維の体積固有抵抗値は、1×10〜1×10−2Ω・cm程度であってもよい。
【0018】
さらに本発明は、前記布状コンデンサを含む容量検出回路を少なくとも備える入力装置を包含する。この入力装置は、複数のコンデンサを配設してもよい。
さらにまた、本発明は、前記布状コンデンサを含む電子回路をも包含する。
【0019】
なお、本明細書において、布帛とは、織物(例えば、平織物、綾織物または朱子織物など)、編物(例えば、緯編物、経編物、平編物、天竺編物、レース編物など)、不織布(例えば、乾式不織布、湿式不織布など)などを含む意味で用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特定の導電性PVA系繊維を用いた導電性部材を誘電性の被覆部材で被覆してコンデンサを形成することにより、通気性や柔軟性に優れるコンデンサを形成できるだけでなく、コンデンサの信頼性も向上することができる。また、屈曲動作を繰り返し行っても、導電性部材を形成する導電性PVA系繊維の体積固有抵抗値の変化が少ないため、安定したスイッチング特性を実現できる。
【0021】
本発明のコンデンサにおいて、固定部材の同一平面で、複数の導電性部材がそれぞれ接触することなく固定されている場合、コンデンサの薄型化を達成できるだけでなく、摩擦や折り曲げ、洗濯などの負荷に対して優れた耐性を示し、コンデンサを長期に亘って使用することができる。
【0022】
本発明の布状コンデンサを利用した入力装置では、人体が有する静電容量を利用するため、人間以外の物体がコンデンサに接触してもコンデンサが反応せず、意図しない接触によるスイッチングを防止することができる。さらに、従来用いられている導電性部材間の物理的接触により導通するコンデンサと異なり、導電性部材が接触することなくスイッチングが行われるため、スイッチ部の屈曲や衝突によるスイッチの誤作動を有効に防止できるだけでなく、スペーサを介して導電性部材同士を接触させるために求められる圧力を加えることなく、軽いタッチでコンデンサに触れるだけでスイッチングが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[布状コンデンサ]
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。図1は、本発明の第1実施形態の布状コンデンサを示す分解斜視図である。
【0024】
図1に示すように、第1実施形態の布状コンデンサ10は、誘電性布帛で形成された固定部材14と、この固定部材14の上に、互いに接触することなく固定された一対の導電性部材、すなわち第1の導電性部材12および第2の導電性部材13と、これらの導電性部材12,13を覆うように配設された誘電性の被覆部材16とを備えている。
【0025】
第1の導電性部材12および第2の導電性部材13は、導電性PVA系繊維のマルチフィラメントが引き揃えられて集束したフィラメント糸で形成されている。これらの導電性部材は、導電性微粒子が導電性部材の内部に分散している特定の導電性PVA系繊維で形成されているため、柔軟であるとともに、導電部分が剥がれたり、導電性部材が断線することなく、コンデンサに対して柔軟性と信頼性との双方をもたらすことができる。
【0026】
第1の導電性部材12は、同じ方向に向かって突出した複数の櫛歯部12aと、この櫛歯部同士をつなぐ基部12bとから形成され、第2の導電性部材13は、同じ方向に向かって突出した複数の櫛歯部13aと、この櫛歯部同士をつなぐ基部13bとから形成されている。第1と第2の導電性部材は、それぞれの基部12bおよび13bを外側に、それぞれの櫛歯部12aおよび13aを内側にして、向かい合っており、櫛歯部12a,13aは、その一部において互いに対向する部分を有している。第1と第2の導電性部材の一端部は、それぞれ端子に接続されている。
【0027】
コンデンサ10では、人体が直接導電性部材に触れることがないよう、誘電性の被覆部材で導電性部材が被覆されているため、人体が直接導電体に接触する場合に生じてしまう抵抗変化を防ぐことができ、コンデンサの信頼性が向上する。
【0028】
また、固定部材14に対して、それぞれの導電性部材が固定されているため、コンデンサ10では、コンデンサ10を柔軟に屈曲させたり、衝突により摩擦を発生させたりしても、導電性部材同士が接触せず、誤動作を有効に防止できる。さらに、コンデンサー10では、誘電性布帛と導電性部材とが一体化しているため、実質的に導電性部材と被覆部材との2層構造で形成することが可能であり、薄くても信頼性の高いコンデンサを得ることができる。
【0029】
また、被覆部材は、必ずしも面状である必要はなく、導電性部材に誘電性物質をコーティングして形成してもよい。この場合は、導電性部材と誘電性被覆部材が一体化しているため、コンデンサは、実質的に単層構造で形成することが可能となる。
【0030】
また、図2は、本発明の第2実施形態のコンデンサ20を示す分解斜視図である。このコンデンサ20は、誘電性布帛で形成された固定部材24と、この固定部材を挟んで両側にそれぞれ配設された第1の導電性部材22および第2の導電性部材23と、第1の導電性部材を覆うため、固定部材24とは反対側の面に配設された誘電性の被覆部材26とを備える。
【0031】
第1の導電性部材24および第2の導電性部材23は、導電性PVA系繊維で形成された不織布であり、これらは誘電性布帛から形成された固定部材24により、互いに接触することなく固定されている。第1と第2の導電性部材の一端部は、それぞれ端子に接続されている。
【0032】
また、このコンデンサ20では、人間が被覆部材26を押す力に応じて、固定部材24が圧縮され、その結果第1と第2の導電性部材間の距離が減少するためコンデンサの容量変化率を大きくすることができる。したがって、このコンデンサは、圧力を検知するセンサに対して用いることも可能である。
【0033】
(導電性部材)
導電性部材は、例えば、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維(以下、導電性PVA系繊維と称する場合がある)を少なくとも含む。導電性部材は、導電性PVA系繊維のみから形成されてもよいし、導電性PVA系繊維と導電性PVA系繊維以外の繊維(絶縁性繊維)とから形成されてもよい。絶縁性繊維は、有機繊維(例えば、天然繊維、化学繊維など)であってもよいし、無機繊維(例えば、ロックファイバー、ガラス繊維など)であってもよい。
【0034】
天然繊維としては、例えば、動物繊維(例えば、絹、バイサス、羊毛、モヘヤ、アンゴラ、牛毛など)、植物繊維[例えば、綿類(例えば、綿花、リンターなど)、麻類(たとえば、大麻、亜麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻など)、カポック、竹、ケナフ、ココヤシなど]などが挙げられる。
【0035】
化学繊維としては、例えば、合成繊維[例えば、ポリビニルアルコール系繊維(例えば、ポリビニルアルコール繊維、エチレン−ビニルアルコール繊維、ポリビニルアセタール繊維など)、ポリエステル系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド系繊維(例えば、脂肪族ナイロン繊維、芳香族ナイロン繊維など)、アクリル繊維(例えば、ポリアクリロニトリル繊維、アクリロニトリル−アクリル酸エステル繊維、アクリロニトリル−メタクリル酸エステル繊維、アクリロニトリル−酢酸ビニル繊維など)、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維など)、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維など]、再生繊維(例えば、レーヨン、キュプラ、モダル、リヨセルなどのセルロース誘導体繊維;キチン、コラーゲン、アルギン酸など)、半合成繊維(例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテートなど)などが挙げられる。
【0036】
これらの繊維は、単独でまたは組み合わせて使用できる。これらの絶縁性繊維のうち、屈曲性と柔軟性の観点から、有機繊維が好ましく、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などが好ましい。
【0037】
導電性PVA系繊維と絶縁性繊維との割合は、繊維構造体が導電性を呈する限り特に限定されないが、例えば、導電性PVA系繊維/絶縁性繊維(重量部)として、50/50〜100/0程度、好ましくは60/40〜95/5程度、さらに好ましくは70/30〜90/10程度である。
【0038】
本発明で、導電性PVA系繊維および絶縁性繊維の繊度は特に限定されず、例えば、繊度は、0.1〜100,000dtex程度、好ましくは0.3〜50,000dtex程度、より好ましくは、1〜10,000dtex程度であってもよい。
【0039】
導電性部材の形状は、固定部材への固定形状に応じて自由に設定することができ、1次元構造体、2次元構造体および3次元構造体のいずれであってもよい。これらの形状のうち、柔軟性や耐屈曲性の観点から、1次元構造体や2次元構造体が好ましい。これらの導電性部材は、公知または慣用の方法により、所定の形状に作製できる。
【0040】
例えば、導電性部材が1次元構造体である場合、1次元構造体としては、糸状物(例えば、単糸、双糸、引きそろえ糸、フィラメント糸、三子糸、紡績糸など)、紐状物(例えば、組み紐、より紐、まき紐、編み紐、ロープなど)などが挙げられる。なお、これらの1次元構造体が固定部材に固定される場合、1次元構造体の形状は一直線である必要はなく、曲線部分を有していてもよいし、枝分かれ部分を有していてもよい。
【0041】
例えば、導電性部材が1次元構造体の場合、導電性部材は、同じ方向に向かって突出した複数の櫛歯部と、この櫛歯部同士をつなぐ基部から形成される櫛型形状であってもよい。
なお、同じ方向に向かって突出する櫛歯部は、厳密な平行である必要はなく、互いの櫛歯部が接触しない限り、略平行に突出していればよい。このような櫛型形状の導電性部材では、基部から突出する櫛歯部の数は、1〜10列程度であってもよく、好ましくは2〜8列程度であってもよい。
【0042】
このような櫛型形状の導電性部材を第1と第2の導電性部材として用いた場合、第1と第2の導電性部材は、(i)それぞれの基部を互いに外側に向け、櫛歯部を内側に向けて配設されるよう固定部材に固定されていてもよいし、(ii)それぞれの基部を互いに内側に向け、櫛歯部を外側に向けて配設されるよう固定部材に固定されていてもよい。
さらに、前記(i)の場合、通常、第1と第2の導電性部材の櫛歯部は、少なくとも互いに対向する部分を有することが多い。
【0043】
導電性部材が1次元構造体である場合、例えば、導電性部材の直径は、使用目的によって0.01mm〜10mm程度の広い範囲から適宜選択することができ、例えば、衣服としての着心地のよさと導電性能とを両立する観点から、導電性部材の直径は、0.03mm〜5mm程度、好ましくは0.1mm〜3mm程度、さらに好ましくは0.5mm〜2mm程度であってもよい。
【0044】
また、導電性部材が2次元構造体である場合、2次元構造体としては、布帛[例えば、織物(例えば、平織物、綾織物または朱子織物など)、編物(例えば、緯編物、経編物、平編物、天竺編物、レース編物など)、不織布(例えば、乾式不織布、湿式不織布など)など]、帯状物などが挙げられる。
【0045】
導電性部材が2次元構造体である場合、例えば、導電性部材の厚さは、使用目的によって0.01mm〜1cm程度の広い範囲から適宜選択することができるが、本発明では、特定の導電性PVA系繊維を用いるため、導電性部材の厚さが、例えば、0.03mm〜5mm程度(好ましくは0.1mm〜3mm程度、さらに好ましくは0.3mm〜2mm程度)であっても、耐屈曲性および導通性を両立できる。
【0046】
また、導電性部材が、帯状である導電帯である場合、各導電帯の幅は、例えば、1mm〜10cm程度、好ましくは5mm〜7cm程度、さらに好ましくは1cm〜5cm程度であってもよい。
【0047】
(導電性ポリビニルアルコール系繊維)
導電性PVA系繊維は、導電性微粒子を含有する。導電性微粒子としては、例えば、各種金属類(金属単体、金属酸化物、金属硫化物など)、グラファイト類などが挙げられる。これらの導電性微粒子のうち、ポリビニルアルコール系繊維との結合性の観点から、金属硫化物、特に硫化銅(例えば、一価の硫化銅や二価の硫化銅)が好ましい。
【0048】
導電性微粒子の平均粒子径は、繊維内部へ微分散する観点から、500nm以下であるのが好ましい。例えば、導電性微粒子の平均粒子径は、400nm以下(例えば、1nm〜400nm程度)、好ましくは300nm以下(例えば、5nm〜200nm程度)、さらに好ましくは100nm以下(例えば、7nm〜50nm程度)であってもよい。なお、導電性PVA系繊維中の硫化銅微粒子は、透過型顕微鏡(TEM)にて確認できる。
【0049】
このような微粒子であることにより、繊維中での粒子間距離の著しい減少が可能となり、少ない量にて高い導電性を発現することができる。例えば、同じ重量%の含有量において、粒子径が百分の一になると、粒子間距離は一万分の一にまで小さくなることが知られている。また、このような場合、粒子間相互作用が非常に強く働き、その間に挟まれたポリマー分子は、あたかも導電性粒子と同じような機能を示すこと(サイズ効果)も知られている[例えば、ナノコンポジットの世界、p22(工業調査会)参照]。従って、このサイズ効果により、繊維内部にて電流が流れやすくなり、少ない量でも、優れた導電性を付与することができ、それ故、このような繊維を用いたコンデンサは優れたセンシング特性を発現する。
【0050】
さらに、このような微粒子は、通常、繊維の表層だけでなく繊維内部にも微分散するので、繊維内部で強固な導通パスを形成できる。このような導通パスの形成により、導電性PVA系繊維は、繊維であるにも関わらず、高い導電性を達成できる。すなわち、導電性PVA系繊維は、金属メッキ繊維や金属繊維などと異なり、繊維自体の柔軟性と導電性とを両立できる。なお、本発明で、繊維の表層とは、繊維表面から1μm程度の深さ範囲のことを示し、繊維の内部とは、繊維の表面から繊維の中心までの範囲を示す。
【0051】
それに加え、導電性PVA系繊維では、繊維本体と導電性微粒子との一体性が高いため、繰り返し圧縮力を与えても繊維の体積固有抵抗値が変化しにくい。さらに屈曲や洗濯などの負荷をかけても導通パスが破壊されないので、本発明のコンデンサに、耐屈曲性や耐洗濯性を付与することができる。
【0052】
すなわち、本発明で用いられる導電性PVA系繊維では、屈曲や洗濯における導電層の破壊や剥離が起こらず、繰り返しの使用に対して安定的な性能を保持することが出来る。さらに、金属メッキ繊維や金属繊維に比べて、通気性や柔軟性、風合いに優れている。
【0053】
本発明で使用する導電性PVA系繊維は、短繊維(例えば、ステープルファイバー、ショートカットファイバーなど)、長繊維(例えば、モノフィラメント、マルチフィラメントなどのフィラメントヤーン)などのあらゆる形態で用いることができる。このような繊維は、公知または慣用の方法により、糸や布帛などの所定形状に加工でき、優れた導電性と耐屈曲性を付与できる。
【0054】
導電性PVA系繊維の体積固有抵抗値は、例えば、1×10〜1×10−2Ω・cm程度、好ましくは5×10〜5×10−2Ω・cm程度、さらに好ましくは1×10〜1×10−1Ω・cm程度であってもよい。なお、体積固有抵抗値は後述の方法により測定される。体積固有抵抗値が大きすぎると、導電性が足りず、誤動作を起こしたりするなど良好なセンシング特性が得られない場合がある。また、体積固有抵抗値が小さすぎると、過電流によってショートする虞がある。
【0055】
また、導電性PVA系繊維では、JIS P 8115に準拠した耐屈曲性試験(荷重1.5kgf;1000回)を行う前後の体積固有抵抗値の変動率が、例えば、50%程度以内、好ましくは40%程度以内、さらに好ましくは30%程度以内であってもよい。体積固有抵抗値の変動率が高すぎると、センサーの誤動作を誘発するだけでなく、繰り返し使用による安定したセンシング特性を発現することができず、信頼性に欠ける。
【0056】
(PVA系ポリマー)
本発明のコンデンサに用いる導電性PVA系繊維を形成するPVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、所望により他の構成単位(変性ユニット)を有していてもかまわない。このような構造単位としては、例えば、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等)、アクリル酸類(例えば、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステルなど)、メタクリル酸類(例えば、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類など)、アクリルアミド類(例えば、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類(例えば、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等)、N−ビニルラクタム類(例えば、N−ビニルピロリドンなど)、N−ビニルアミド類(例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等)、ビニルエーテル類(例えば、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等)、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル等)、ハロゲン化ビニル化合物(塩化ビニル等)、不飽和ジカルボン酸類(例えば、マレイン酸およびその塩またはその無水物やそのエステル等)などが挙げられる。これらの変性ユニットは、単独でまたは組み合わせて使用できる。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。
【0057】
ビニルアルコールユニットに対する変性ユニットの割合(モル比)は、(ビニルアルコールユニット)/(変性ユニット)=85/15〜100/0程度、好ましくは88/12〜99/1程度、さらに好ましくは90/10〜98/2程度である。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。なお、これらの添加剤は、単独でまたは組み合わせて含まれていてもよい。
【0058】
導電性PVA系繊維を構成するPVA系ポリマーの重合度は、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が1200〜20000程度(好ましくは1500〜15000程度、さらに好ましくは2000〜10000程度)のものが望ましい。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から、平均重合度が1500〜5000である場合が多い。
【0059】
また、PVA系ポリマーのケン化度も、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の力学物性の点から、例えば、88モル%以上、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であってもよい。PVA系ポリマーのケン化度が低すぎると、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの面で好ましくない場合が多い。
【0060】
本発明の導電性PVA系繊維は、公知または慣用の方法により得ることができるが、例えば、硫化銅が内部に微分散した導電性PVA系繊維は、通常のPVA系繊維の製造工程中において、銅イオンを含む化合物を繊維中に含侵させ、その後の工程で銅を硫化処理することにより得ることができる。
【0061】
導電性PVA系繊維を得るためには、まず、PVA系ポリマーを溶媒に溶解した紡糸原液を調製する。
紡糸原液の溶媒としては、各種極性溶媒を用いることができ、例えば、水、有機溶媒[ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称す)などのスルホキシド類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの窒素含有極性溶媒;グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類など]、これらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。これらのうち、水やDMSOがコスト、回収性等の工程通過性の点で好適である。
【0062】
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、例えば、8〜60重量%程度(好ましくは10〜50重量%程度)であるのが好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液が分解、着色しない範囲であることが好ましく、具体的には50〜200℃とすることが好ましい。
【0063】
得られた紡糸原液は、通常、ノズルからPVA系ポリマーに対して固化能を有する固化液あるいは、気体中に吐出される。紡糸形式としては、湿式紡糸、乾湿式紡糸あるいは乾式紡糸などが挙げられる。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。
【0064】
本発明において、湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる固化浴は、原液溶媒が有機溶媒の場合と水(または水溶液)の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合には、得られる繊維強度等の点から固化浴溶媒と原液溶媒からなる混合液であることが好ましく、固化溶媒としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。これらの中でも低腐食性及び溶剤回収の点でメタノールとDMSOとの組合せが好ましい。一方、紡糸原液が水溶液の場合、固化浴を構成する固化溶媒としては、PVA系ポリマーに対して固化能を有する限り特に限定されず、例えば、硫酸ナトリウム(芒硝)、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の無機塩類の水溶液;水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。また、PVA系ポリマーと共にホウ酸などを加えた水溶液を、アルカリ性固化浴中にゲル化紡糸することも出来る。
【0065】
次に固化された原糸から紡糸原液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させる。この際、抽出と同時に原糸を湿延伸すると、乾燥時の繊維間の膠着を抑制でき、繊維の機械的特性を向上させる観点から好ましい。その際の湿延伸倍率としては、2〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。なお、抽出溶媒としては固化溶媒単独あるいは原液溶媒と固化溶媒の混合液を用いることができる。また、湿延伸された糸は、乾燥後、更に乾熱延伸および熱処理を施してもよい。延伸すると、繊維の結晶化度と配向度があがり、繊維の機械特性が著しく向上できるので好ましい。
【0066】
延伸は、公知または慣用の手段により行うことができ、例えば100℃以上(好ましくは150℃〜260℃程度)で行うことができる。温度が低すぎると、繊維の白化が生じ、そのため機械的物性の低下をもたらす。また温度が高すぎると、繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらす。また、延伸倍率としては、3倍以上(好ましくは5〜25倍程度)の全延伸倍率であってもよい。なお、ここでいう全延伸倍率とは、先述した乾燥前の固化浴中での湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積である。例えば、湿延伸を3倍とし、その後の乾熱延伸を2倍とした場合の全延伸倍率は6倍となる。
【0067】
導電性PVA系繊維では、上記の湿延伸後の膨潤状態の糸篠、若しくは乾燥または延伸後の糸篠を、銅イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させて該化合物を繊維中に含浸させる。この場合、繊維内部への銅イオンを含む化合物を均一に浸透させ、銅イオンとPVA系ポリマーの水酸基とを配位結合させるためには、繊維は浴溶媒により膨潤していることが必要である。そのため、浴に用いる溶媒はメタノール等のアルコール類、水、塩類などの水溶液、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
【0068】
浴溶媒による繊維の膨潤率は20質量%以上(好ましくは30質量%〜300質量%程度、さらに好ましくは50質量%〜250質量%程度)であるのが好ましい。なお、膨潤率調整のため、糸篠を先ず所定の浴に浸漬し、その後、銅イオンを放出する化合物が溶解された浴に浸漬する事が望ましい場合もある。膨潤率が小さすぎると、銅イオンがPVA系ポリマーの水酸基と十分な配位結合を形成できず、従って繊維内部まで硫化銅ナノ微粒子を生成させることができない。一方で、膨潤率が大きくなりすぎた場合、浴へのPVA系ポリマーの溶出などが起こり、工程通過性の面で好ましくない。
【0069】
次にPVA系繊維中で配位結合している銅イオンを硫化還元処理する目的で、硫化物イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させる。その場合、硫化物イオンを含む化合物の浴への添加量は、銅イオンの導入量によって必要に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1〜100g/L程度(好ましくは10〜90g/L程度、さらに好ましくは20〜80g/L程度)の範囲であってもよい。添加量が少なすぎると、繊維内部の銅イオンまで還元処理が進まない可能性があるので好ましくない。また添加量が多すぎると、PVA系繊維内に含まれる銅イオンを還元処理するに十分な量ではあるが、回収系や臭気問題など工程性の面であまり好ましくない。
【0070】
繊維に含浸された銅イオンを硫化する反応は、特に硫化還元能の大きい化合物を用いた場合は瞬時に起こることから、この場合の滞留時間には特に制限はないが、繊維内部にまで十分硫化還元処理を施すことを目的に、滞留時間は0.1秒以上であることが望ましい。また、先述した銅イオンを含浸させる工程、ここでいう銅イオンを繊維中で硫化析出させる工程にて、特定の周波数の超音波を照射することが、得られる導電性や品質確保において、有利になることもある。
【0071】
さらに、このようにして得られた、繊維中に硫化銅ナノ微粒子を導入された原糸若しくは延伸糸に対し、熱処理を施すことにより、繊維物性を向上できる。熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃程度の温度で行うのがよい。温度が低すぎると、繊維物性の向上効果が不十分であり、一方、温度が高すぎると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらす。
【0072】
(固定部材)
本発明で用いられる固定部材は誘電体から形成され、固定部材の所定の位置に、導電性部材は互いに接触することなく縫い付けや接着などにより固定されている。
【0073】
固定部材の比誘電率は導電性部材がコンデンサを形成できる限り特に限定されないが、例えば比誘電率としては、1〜100程度であってもよく、好ましくは2〜50程度であってもよい。
【0074】
固定部材の形状は、導電性部材の形状に応じて適宜変化させることができ、特に限定されないが、通常、面状である場合が多い。また、導電性部材が、固定部材を挟んでその両側に配設される場合、固定部材は、対になった導電性部材を接触させるための貫通孔を有しない。
【0075】
例えば、固定部材としては、誘電性布帛またはシートが挙げられる。また、一体成形性に優れる観点から、固定部材は、固定部材を挟んで両側に存在する導電性部材同士を接着する接着層であってもよい。なお、本発明では、コンデンサにおいて接着層がシート状に導電性部材の間に存在している場合、接着層を誘電性シートの範疇に含めるものとする。
【0076】
例えば、固定部材として用いられる誘電性布帛としては、導電性部材の項で述べた各種天然繊維(例えば、動物繊維、植物繊維)、化学繊維(例えば、合成繊維、半合成繊維)などを用いて、公知または慣用の方法により形成された織編布や不織布などが挙げられる。
【0077】
また、固定部材として用いられる誘電性シートとしては、各種樹脂(好ましくは軟質樹脂)やゴムから、公知または慣用の方法により形成されたシートなどが挙げられる。
軟質樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル共重合体など)、アイオノマー樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレンなど)、塩素系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなど)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610など)、セルロース誘導体(例えば、セロファン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプチレートなど)、アクリル系樹脂(例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルニトリル、エチレン−メタクリル酸共重合体など)、ポリイミド系樹脂(ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなど)、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂などが挙げられる。
【0078】
また、ゴムとしては、天然ゴム、合成ゴム(例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコーンゴムなど)、熱可塑性エラストマー(TPE)(例えば、スチレン系TPE、オレフィン系TPE、塩化ビニル系TPE、ウレタン系TPE、ポリエステル系TPE、ポリアミド系TPEなど)などが挙げられる。
【0079】
固定部材の厚みは、導電性部材の配設様式に応じて適宜設定することができ、導電性部材を良好に絶縁して、コンデンサとしての機能を発揮させることができる限り特に限定されないが、例えば、0.1mm〜1cm程度、好ましくは0.2mm〜5mm程度、さらに好ましくは0.3mm〜3mm程度であってもよい。
【0080】
(誘電性被覆部材)
誘電性被覆部材としては、導電性部材と人体とが直接接触するのを防止できる限り、導電性部材の形状に応じて、適宜設定することができる。例えば、導電性部材が1次元構造体である場合、被覆部材は、導電性部材の各1次元構造体を心材として、その周囲を被覆するようなシース形状(鞘状)であってもよいし、導電性部材全体を上から覆うような面状(シート状)であってもよい。また、導電性部材が2次元構造体である場合、被覆部材は導電性部材全体を覆うような面状であってもよい。
【0081】
被覆部材が面状である場合、被覆部材としては、布帛やシートなどが例示でき、その材料としては、前記固定部材の項で述べた各種誘電性布帛またはシートを利用することができる。また、被覆部材がシース形状(鞘状)である場合、被覆部材としては、誘電性シートを形成するために例示した各種軟質樹脂やゴムを、公知または慣用の方法によりシース形状(鞘状)に成形し、導電性部材を被覆したものが例示できる。
【0082】
被覆部材の比誘電率としては、例えば、1〜100程度であってもよく、好ましくは1.5〜50程度であってもよい。
【0083】
また、被覆部材の厚みは、導電性部材の形状に応じて適宜設定することができるが、例えば、被覆部材が面状である場合、被覆部材の厚みとしては、50μm〜5mm程度、好ましくは0.1mm〜3mm程度、さらに好ましくは0.3mm〜2mm程度であってもよい。
【0084】
また、被覆部材がシース形状(鞘状)である場合、被覆部材の厚みとしては、20μm〜1mm程度、好ましくは30μm〜800μm程度、さらに好ましくは50μm〜500μm程度であってもよい。
【0085】
[入力装置]
本発明は、前記布状コンデンサを含む容量検出回路を少なくとも備える入力装置も包含する。図3は、本発明の一実施形態を示す入力装置のブロック図である。
【0086】
入力装置で用いられる容量検出回路は、人体の接触による布状コンデンサCの容量変化を検出してスイッチング可能である限り特に限定されないが、構成が簡単で低い発振周波数を実現しやすい観点から、弛張型発振回路を用いるのが好ましい。
【0087】
例えば、図3は、布状コンデンサを含む容量検出回路を備える入力装置の一例を示すブロック図である。図3に示すように、弛張型発振回路は、布状コンデンサCと抵抗Rによる時定数回路部と、コンパレータおよび充放電用スイッチとを備える。図3において、布状コンデンサCに取り付けられた一方の端子は接地され、もう一方の端子は、抵抗Rを介して電源Vへと接続されている。
【0088】
充放電用スイッチ18は、Y点の電圧が“H”ならON,“L”ならOFFになり、コンパレータ17によってON/OFF制御される。電源Vからの電流は、抵抗Rを通してキャパシタCへと充電され、X点の電圧が上昇する。そしてX点の電圧がコンパレータ17の参照電圧Vref(V)に到達すると、コンパレータ17の電圧、すなわちY点の電圧が“H”となり、その結果、充放電用スイッチ18がONとなる。
【0089】
そして、コンデンサCにおいて充電されていた電流が一気に放電され、X点の電圧は参照電圧以下となる。このとき、コンパレータ17の出力は“L”に戻るので、充放電用スイッチ18はOFFとなり、再びコンデンサCの充電が始まる。
【0090】
弛張型発振回路では、このようにコンデンサの充放電を繰り返すことによって、発振状態が継続される。そして、コンデンサの容量が増加すると、Vref(V)に到達するまでの時間が増加して発振周期が長くなり、逆に容量が減少すると発振周期が短くなる。したがって、この発振周期を、制御回路部19で計測することにより、コンデンサの静電容量の変化を検出することができ、その結果、入力装置のスイッチング動作を行うことができる。
【0091】
例えば、図1における導電性部材12,13を覆う被覆部材に人間の指が触れると、人体の静電容量により前記コンデンサ10の容量が変化する。そして、このコンデンサの容量変化が発振周期の長さに反映され、その発振周期の変化が制御回路部19で計測される。制御回路部19で計測された周期が、予め設定された閾値を超えると、最終的に制御回路部19から入力装置をONにする出力がなされる。
【0092】
制御回路部19は、求められる入力装置の性能に応じ、マイクロコンピュータを利用してもよいし、汎用のICを利用してもよい。
【0093】
さらに、入力装置では、複数のコンデンサを配設してもよく、複数のコンデンサを配設すると、各コンデンサに対する人体の接触を、個別に検知することができる。
【0094】
また、本発明は、前記布状コンデンサを含む電子回路をも包含し、このような電子回路では、本発明の布状コンデンサを構成する繊維が有する体積固有抵抗率を生かし、電子回路中で有効に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のコンデンサおよび入力装置は、ユビキタス情報化社会の進歩に伴って、例えば、コンピュータ・OA機器などの電気・電子分野、人工臓器・おむつなどの医療・衛生材料分野、衣類・靴などの被服材料分野、日用品・玩具・カーペット・壁紙などの生活関連資材分野、自動車分野、土木資材分野、建設資材分野、産業資材分野、農業・園芸資材分野など、種々の用途で広く使用することができる。
【0096】
特に、本発明のコンデンサは、実用上十分なスイッチング特性に加えて柔軟性、通気性、耐屈曲性、人体のみに対して反応する信頼性をも兼ね備えているので、ポインティングデバイス(例えば、ON/OFF用スイッチ、タッチパネルなど)、キーボードなどの入力装置として有効に利用することができる。
【0097】
例えば、テレビなどの電子機器で必要とされるリモコンをこれで作成し衣服に装着したり、電気カーペットで人が座った位置を検知してそこだけを暖める省エネスイッチとして用いたり、車や飛行機の座席シートに組み込んで、着座時に自動的に体位置を調整する装置などに使用することが出来る。
【0098】
また、曲面での使用も可能であることから、玩具(例えば、音や光を出すためのセンサー)やメディカル用途(例えば、心電図、呼吸検出、リハビリセンサー)、スポーツ用途(例えば、歩行分析)などに用いることが出来る。また、小学生などの危険通知システム、IDカードとの併用によるゲートオープン化、運転時の危険通知など、その応用範囲も広い。勿論、これらの他に、通常のスイッチセンシングされている用途には全て使用可能である。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお、以下の実施例において、繊維の体積固有抵抗値は下記の方法により測定したものを示す。
【0100】
[繊維中の硫化銅微粒子の存在状態]
繊維中の硫化銅微粒子の存在状態について、透過型電子顕微鏡[(株)日立製作所製、H−800NA]を用いて確認した。繊維断面の写真から任意に50個の硫化銅微粒子を選び、その大きさをそれぞれ実測した粒子径の平均値をもって、平均粒子径とした。
【0101】
[繊維の体積固有抵抗値]
繊維を温度105℃で1時間かけて乾燥させ、その後、温度25℃、湿度30%の雰囲気下で24時間以上放置させて調湿した。この繊維から、長さ2cmの繊維試験片を採取し、該試験片の両端間に10Vの電圧をかけて、抵抗値測定機[横河ヒューレットパッカード社製、MULTIMETER]を用いてその時の抵抗値(Ω)を測定した。この抵抗値から、以下の計算式に従い、各試験片の体積固有抵抗値(ρ)を求め、これを25試験片について行い、その平均値を試料の体積固有抵抗値とした。
体積固有抵抗値[(ρ),単位:(Ωcm)]=R×(S/L)
Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、Lは長さ(2cm)を示す。なお、試験片の断面積は、繊維を顕微鏡下で観察して算出した。
【0102】
[耐屈曲性試験前後の体積固有抵抗値の変動率]
耐屈曲性試験は、JIS P 8115に準拠して行い、1.5kgfの加重下、1000回試験片を屈曲させた。耐屈曲性試験前後の体積固有抵抗値の変動率は、試験前の体積固有抵抗値をρ(i)、試験後の体積固有抵抗値をρ(a)とし、以下の式に従い算出した。
変動率(%)=[(ρ(a)−ρ(i))/ρ(i)]×100
【0103】
(実施例1)
(1)粘度平均重合度1700、ケン化度99.8モル%のPVAをPVA濃度50重量%となるように水を含水させ、押出し機を通して165℃に加熱し、孔径0.1mm、ホール数32のノズルを通して空気中に乾式紡糸した。巻取り機で160m/分の速度で巻き取った繊維を、200℃の熱風延伸炉中で1.6倍になるように延伸した。
【0104】
(2)得られた繊維を、関西触媒(株)製の硝酸銅水溶液を200g/Lに希釈した50℃の温浴に、滞留時間が240秒になるように導糸し、引き続き、ナガオ(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した30℃の温水浴に滞留時間が120秒間になるように導糸した。この工程を2回繰り返した後、洗浄するために25℃の水浴を通し、120℃の熱風乾燥することで導電性PVA系繊維を得た。繊維の断面顕微鏡写真を図4に示した。
【0105】
(3)得られた繊維の外観は良好で糸斑はなく、平均粒子径15nmの硫化銅粒子が繊維の表層や内部に存在しており、導電性PVA繊維の体積固有抵抗値は5.0×10Ωcmであった。また、繊維の耐屈曲性試験前後の体積固有抵抗値の変動率は、22%(耐屈曲試験前:5.0×10Ωcm、耐屈曲試験後:6.1×10Ωcm)であった。
【0106】
(4)導電性部材は、以下のようにして調製した。まず、上記(2)で得られた総繊度:1800dtex/32fの導電性PVA系フィラメント糸(またはフィラメント束)を得た。この導電性PVA系フィラメント糸を用いて、ポリエステル繊維(繊度:84dtex/36f)からなる経編パワーネットメッシュの一方の面に、図1に示すように、3列の櫛歯部を有する第1の導電性部材および2列の櫛歯部を有する第2の導電性部材として、縫い付けることにより配設した。そして、これらの導電性部材を、PETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、「テイジン(登録商標)テトロン(登録商標)フィルム、比誘電率3.2」)により被覆した。
【0107】
(5)第1および第2の導電性部材の一端にそれぞれ端子を設けて布状コンデンサとし、この布状コンデンサを発振回路に配設して入力装置を得た。得られた入力スイッチは柔軟であり、風合いにも優れていた。
【0108】
なお、この入力装置では、図4に示すように、コンパレータから出力されるパルス信号が、8ビットカウンタでカウントされ、そのカウント結果がDフリップフロップへと渡される。一方で、タイマによりサンプリング周期が計測され、周期ごとにDフリップフロップの出力を更新した後、カウンタのカウント値をリセットする。
【0109】
タイマとカウンタのリセット入力の間には、カウンタのカウント値のリセットを確実に実現するため、遅延回路が挿入されている。そして、マグニチュードコンパレータ(大小比較器)でDフリップフロップの8ビット出力を閾値カウント数と比較し、閾値カウント数より小さい場合、Voから“H”が出力され、検知用LEDが点灯する。
【0110】
得られた入力装置において、誘電性被覆部材の面上部を指で押さえたところ、人体の接触によりコンデンサの容量が変化してランプが点灯し、指を離すとランプは消灯した。また、指に代えて、指と同程度の接触面積を有する棒状物を用いて誘電性被覆部材の面上部を圧迫したが、ランプは点灯しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明のコンデンサの一例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明のコンデンサの他の例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の入力装置の一例を示すブロック図である。
【図4】実施例1で用いられた導電性PVA繊維において、硫化銅ナノ微粒子が分散している状態を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0112】
10,20…布状コンデンサ
12,22…第1の導電性部材
13,23…第1の導電性部材
12a,13a…櫛歯部
12b,13b…基部
14,24…固定部材
16,26…被覆部材
17…コンパレータ
18…充放電用スイッチ
19…制御回路部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維から形成された少なくとも一対の導電性部材と、これらの導電性部材を互いに接触させることなく固定するための誘電性固定部材と、前記導電性部材を被覆する誘電性の被覆部材とを備える布状コンデンサ。
【請求項2】
請求項1のコンデンサにおいて、固定部材が誘電性布帛またはシートであり、複数の導電性部材が、固定部材の同一平面において、それぞれ接触することなく固定されている布状コンデンサ。
【請求項3】
請求項2のコンデンサにおいて、複数の導電性部材が第1の導電性部材と第2の導電性部材とで構成され、
それぞれの導電性部材は、同じ方向に向かって突出した複数の櫛歯部と、この櫛歯部同士をつなぐ基部から形成される櫛型形状である布状コンデンサ。
【請求項4】
請求項3のコンデンサにおいて、第1と第2の導電性部材は、それぞれの基部を互いに外側に向け、櫛歯部を内側に向けて配設されるよう固定部材に固定されている布状コンデンサ。
【請求項5】
請求項4のコンデンサにおいて、第1と第2の導電性部材の櫛歯部は、少なくとも互いに対向する部分を有する布状コンデンサ。
【請求項6】
請求項3のコンデンサにおいて、第1と第2の導電性部材は、それぞれの基部を互いに内側に向け、櫛歯部を外側に向けて配設されるよう固定部材に固定されている布状コンデンサ。
【請求項7】
請求項1のコンデンサにおいて、固定部材が誘電性布帛またはシートであり、複数の導電性部材が、互いに接触することなく固定部材を挟んで両面に固定されている布状コンデンサ。
【請求項8】
請求項7のコンデンサにおいて、複数の導電性部材が、面状の第1の導電性部材と第2の導電性部材とで構成され、
誘電性布帛の上に第2の導電性部材が配設され、第2の導電性部材の上に固定部材が配設され、固定部材の上に第1の導電性部材が配設され、第1の導電性部材の上にこの導電性部材を被覆する誘電性の被覆部材が配設されている布状コンデンサ。
【請求項9】
請求項7または8のコンデンサにおいて、誘電性布帛またはシートからなる固定部材に、固定部材を挟んで両側に配設された導電性部材を接触させるための貫通孔が存在しない布状コンデンサ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のコンデンサにおいて、導電性ポリビニルアルコール系繊維の体積固有抵抗値が1×10〜1×10−2Ω・cmである布状コンデンサ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の布状コンデンサを含む容量検出回路を少なくとも備える入力装置。
【請求項12】
請求項11の入力装置において、複数のコンデンサが配設されている入力装置。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の布状コンデンサを含む電子回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−103408(P2010−103408A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275430(P2008−275430)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(507213983)
【Fターム(参考)】