説明

帯域拡張装置

【課題】 帯域拡張成分においてスペクトル包絡のピークを正しく再現することにより、聴認度の向上を図ることができる帯域拡張装置を提供する。
【解決手段】 入力信号に基づいて帯域拡張成分を生成し、この生成した帯域拡張成分を入力信号に付加することにより入力信号の帯域を拡張する帯域拡張装置2である。この帯域拡張装置2は、入力信号から所定の帯域成分を抽出するための帯域成分抽出手段14と、この抽出された所定の帯域成分をシフトさせるための周波数シフト手段20と、シフトにより生成された帯域拡張成分と入力信号とを加算するための加算手段10と、を備えている。周波数シフト手段20は、所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数に基づいて、所定の帯域成分をシフトさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号に基づいて帯域拡張成分を生成し、この生成した帯域拡張成分を入力信号に付加することにより入力信号の帯域を拡張する帯域拡張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の可聴上限周波数は20kHzであると言われてきたが、近年の研究で20kHz以上の音を知覚していることが分かってきた。ところが、例えば携帯電話などの電話システムでは、伝送される音声信号の帯域は300Hz〜3.4kHzであり、3.4kHz以上の帯域成分はカットされている。また、例えばCDプレイヤなどのデジタル音響機器では、サンプリング周波数によって高域の再生上限周波数(例えば22.05kHz)が決まっており、デジタル音響機器を再生するときには、この再生上限周波数以上の帯域成分がカットされる。このため、電話の通話時やデジタル音響機器の再生時などには、聴感上不自然な感じがする場合がある。
【0003】
そこで、カットされた高域の帯域成分を再現して帯域を拡張することにより、電話の通話音質やデジタル音響機器の再生音質などを改善する帯域拡張装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。従来の帯域拡張装置は、入力信号から所定の帯域成分を抽出するためのハイパスフィルタと、この抽出された所定の帯域成分を高域側にシフトさせるための周波数シフト回路と、このようにシフトすることにより生成された高域拡張成分と入力信号とを加算するための加算器と、を備えている。周波数シフト回路による所定の帯域成分のシフト量は、所定の周波数範囲(9.45kHz〜12.6kHz)内にある基本周波数の倍音成分の周波数に設定されている。これにより、倍音列が高域まで連続して配置された高域拡張成分が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−104015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、入力信号の性質を表す重要な要素として、スペクトル包絡の1次共振モードのピークにおける周波数(以下、「ピーク周波数」という)がある。音声におけるスペクトル包絡のピーク周波数はホルマントピーク周波数であり、このホルマントピーク周波数は、声道伝達系の音韻を識別するために重要である。また、楽音におけるスペクトル包絡のピーク周波数は、楽器の種類及びその各部分の構造に基づく共振系の共鳴周波数であり、この共鳴周波数は、楽音の特徴を表すものとして重要である。このようなスペクトル包絡のピーク周波数は共鳴・共振現象であるため、逓倍となる周波数に高次共振モードを有するのが一般的である。従って、高域拡張成分を生成する際には、基本周波数の倍音と同様に、適切な周波数にスペクトル包絡の高次共振モードのピークを持たせることが重要となる。
【0006】
しかしながら、上述のような従来の帯域拡張装置では、周波数シフト回路による所定の帯域成分のシフト量は、基本周波数及びその倍音に基づいて設定されており、スペクトル包絡のピーク周波数とは無関係であるため、高域拡張成分においてスペクトル包絡の高次共振モードのピークを再現することができなかった。そのため、自然な特性の入力信号を得るのは難しく、聴認度の向上には限界があった。
【0007】
本発明の目的は、帯域拡張成分においてスペクトル包絡のピークを再現することにより、聴認度の向上を図ることができる帯域拡張装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の帯域拡張装置では、入力信号に基づいて帯域拡張成分を生成し、この生成した帯域拡張成分を入力信号に付加することにより入力信号の帯域を拡張する帯域拡張装置であって、
入力信号から所定の帯域成分を抽出するための帯域成分抽出手段と、この抽出された前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数に基づいて前記所定の帯域成分をシフトさせるための周波数シフト手段と、このようにシフトすることにより生成された帯域拡張成分と前記入力信号とを加算するための加算手段と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載の帯域拡張装置では、前記周波数シフト手段は、前記帯域成分抽出手段により抽出された前記所定の帯域成分を高域側にシフトさせ、前記加算手段は、このようにシフトすることにより生成された前記帯域拡張成分としての高域拡張成分と前記入力信号とを加算し、
前記周波数シフト手段による前記所定の帯域成分のシフト量は、抽出された前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に記載の帯域拡張装置では、前記帯域成分抽出手段は、前記入力信号から前記所定の帯域成分を複数抽出し、前記周波数シフト手段は、この抽出された前記複数の所定の帯域成分を高域側にそれぞれシフトさせ、前記加算手段は、このようにシフトすることにより生成された複数の前記高域拡張成分と前記入力信号とを加算し、
前記周波数シフト手段による前記複数の所定の帯域成分の各々のシフト量は、前記複数の所定の帯域成分の各々のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に記載の帯域拡張装置では、前記周波数シフト手段は、シフトにより生成された前記高域拡張成分のスペクトル包絡のピークが前記入力信号の帯域外に配置されるように、そのシフト量を前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数に設定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に記載の帯域拡張装置では、前記周波数シフト手段は、前記帯域成分抽出手段により抽出された前記所定の帯域成分を低域側にシフトさせ、前記加算手段は、このようにシフトすることにより生成された前記帯域拡張成分としての低域拡張成分と前記入力信号とを加算し、
前記周波数シフト手段による前記所定の帯域成分のシフト量は、抽出された前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項6に記載の帯域拡張装置では、前記入力信号は、マイクロホンや振動ピックアップ、骨伝導マイクロホン、デジタル音響機器、電話システム、人工声帯等により生成される音声信号又は楽音信号であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に記載の帯域拡張装置によれば、周波数シフト手段は、帯域成分抽出手段により抽出された所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数に基づいて、所定の帯域成分をシフトさせる。このシフトにより生成された帯域拡張成分と入力信号とが加算手段により加算されることにより、入力信号の帯域が拡張される。上述のようにシフトさせることによって、帯域拡張成分にスペクトル包絡の高次共振モード又は基底帯域のピークを再現することができ、それ故に、自然な特性の出力信号(即ち、加算手段より出力される信号)を得ることができ、聴認度の向上を図ることができる。例えば入力信号が音声信号である場合には、一般に、スペクトル包絡のピーク周波数は音声ホルマントピーク付近の音声ピッチ周波数の倍音(即ち、ホルマントピーク周波数)となり、周波数シフト手段によるシフト量はこのホルマントピーク周波数となる。周波数シフト手段により所定の帯域成分をホルマントピーク周波数に基づいてシフトさせることにより、ホルマントピーク周波数の高次共振モード周波数を中心とした音声ピッチ周波数間隔の帯域拡張成分を得ることができ、これにより、音声ホルマントピークの高次共振モードが強調された自然な音声を出力信号として得ることができる。また、例えば入力信号が楽音信号である場合には、一般に、スペクトル包絡のピーク周波数は楽器の構造に基づく共鳴ピーク周波数となり、周波数シフト手段によるシフト量はこの共鳴ピーク周波数となる。周波数シフト手段により所定の帯域成分を共鳴ピーク周波数に基づいてシフトさせることにより、共鳴ピーク周波数の高次共振モード周波数を中心とした音程周波数間隔の帯域拡張成分を得ることができ、これにより、楽器の構造に基づく共鳴ピークの高次共振モードが強調された自然な楽音を出力信号として得ることができる。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載の帯域拡張装置によれば、周波数シフト手段は、帯域成分抽出手段により抽出された所定の帯域成分を高域側にシフトさせる。このように高域側にシフトすることにより生成された高域拡張成分と入力信号とが加算手段により加算されることにより、入力信号の高域側に高域拡張成分が付加される。周波数シフト手段による所定の帯域成分のシフト量は、抽出された所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数であるので、高域拡張成分にスペクトル包絡の高次共振モードのピークを再現することができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載の帯域拡張装置によれば、帯域成分抽出手段は、入力信号から所定の帯域成分を複数抽出し、周波数シフト手段は、この抽出された複数の所定の帯域成分を高域側にそれぞれシフトさせる。周波数シフト手段による複数の所定の帯域成分の各々のシフト量は、複数の所定の帯域成分の各々のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数であるので、入力信号の高域側の帯域にスペクトル包絡のピークが複数存在する場合において、高域拡張成分にスペクトル包絡の複数の高次共振モードのピークを再現することができる。従って、スペクトル包絡の高次共振モードのピークの再現性が高められ、より自然な特性の出力信号を得ることができる。
【0017】
また、本発明の請求項4に記載の帯域拡張装置によれば、周波数シフト手段は、シフトにより生成された高域拡張成分のスペクトル包絡のピークが入力信号の帯域外に配置されるように、そのシフト量を設定するので、入力信号の高域側に高域拡張成分が付加された際に、この高域拡張成分のスペクトル包絡に高次共振モードのピークを持たせることができ、スペクトル包絡のピークをより正確に再現することができる。
【0018】
また、本発明の請求項5に記載の帯域拡張装置によれば、周波数シフト手段は、帯域成分抽出手段により抽出された所定の帯域成分を低域側にシフトさせる。このように低域側にシフトすることにより生成された低域拡張成分と入力信号とが加算手段により加算されることにより、入力信号の低域側に低域拡張成分が付加される。周波数シフト手段による所定の帯域成分のシフト量は、抽出された所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数であるので、低域拡張成分にスペクトル包絡の基底帯域のピークを再現することができる。
【0019】
また、本発明の請求項6に記載の帯域拡張装置によれば、入力信号は、マイクロホンや振動ピックアップ、骨伝導マイクロホン、デジタル音響機器、電話システム、人工声帯等により生成される音声信号又は楽音信号である。このようなマイクロホンや振動ピックアップ、骨伝導マイクロホン、デジタル音響機器、電話システム、人工声帯等は、その特性不足により高音域を出力するのが難しいが、これらに本発明の帯域拡張装置を適用することにより、自然な高音域を再現することができ、聴認度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態による帯域拡張装置を簡略的に示すブロック図である。
【図2】図1の周波数シフト回路を簡略的に示すブロック図である。
【図3】図1の高域拡張成分生成回路による高域拡張成分の生成過程を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による帯域拡張装置を簡略的に示すブロック図である。
【図5】図4の第1及び第2高域拡張成分生成回路による高域拡張成分の生成過程を説明するための図である。
【図6】本発明の第3の実施形態による帯域拡張装置を簡略的に示すブロック図である。
【図7】図6の低域拡張成分生成回路による低域拡張成分の生成過程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う帯域拡張装置の各種実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
まず、図1〜図3を参照して、第1の実施形態の帯域拡張装置について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による帯域拡張装置を簡略的に示すブロック図であり、図2は、図1の周波数シフト回路を簡略的に示すブロック図であり、図3は、図1の高域拡張成分生成回路による高域拡張成分の生成過程を説明するための図である。
【0022】
図1を参照して、図示の帯域拡張装置2は、オーバーサンプリング型ローパスフィルタ(LPF)4、高域拡張成分生成回路6、遅延回路8及び加算器10(加算手段を構成する)を含んでいる。以下、これら各構成要素について説明する。
【0023】
オーバーサンプリング型ローパスフィルタ4は、入力端子12を介して入力された入力信号のサンプリング周波数fをm倍(mは2以上の整数)にオーバーサンプリングするとともに、入力信号の周波数f/2以上の帯域を減衰させる(図3(a)参照)。なお、入力信号は、例えば電話システムにおける音声信号やデジタル音響機器における楽音信号である。例えば、入力信号が音声信号である場合には、オーバーサンプリング型ローパスフィルタ4は、入力信号のサンプリング周波数fを例えば8kHzから16kHzにオーバーサンプリングする。
【0024】
高域拡張成分生成回路6は、バンドパスフィルタ(BPF)14(帯域成分抽出手段を構成する)、ピーク周波数検出回路18、周波数シフト回路20(周波数シフト手段を構成する)、ハイパスフィルタ(HPF)22及びレベル調整回路24を含んでいる。
【0025】
バンドパスフィルタ14は、オーバーサンプリング型ローパスフィルタ4より出力された入力信号の帯域を制限する。即ち、バンドパスフィルタ14は、入力信号から周波数f/4〜f/2の帯域を有する帯域成分を抽出する(図3(b)参照)。
【0026】
ピーク周波数検出回路18は、バンドパスフィルタ14より出力された帯域成分に基づき、そのスペクトル包絡のピーク(即ち、入力信号のスペクトル包絡の1次共振モードのピーク)における周波数、即ち、ピーク周波数fを検出する。このように検出されたピーク周波数fは、周波数シフト回路20の正弦波信号発生器26(後述する)に出力される。
【0027】
周波数シフト回路20は、バンドパスフィルタ14より出力された帯域成分を周波数軸上でシフトさせるためのものである。この周波数シフト回路20は、正弦波信号発生器26及び乗算器28を含んでいる(図2参照)。正弦波信号発生器26は、ピーク周波数検出回路18より出力されたピーク周波数fに基づき、このピーク周波数fを有する正弦波信号(正弦波の形状を有する信号)を発生させる。また、乗算器28は、バンドパスフィルタ14より出力された帯域成分と、正弦波信号発生器26にて発生された正弦波信号とを乗算する。即ち、帯域成分をsinA(種々の周波数を含む信号)、正弦波信号をcosB(固定周波数の信号)とすると、乗算器28によって次式(1)の演算が行われる。
【0028】
【数1】

このように演算が行われると、帯域成分sinAが高域側に周波数fだけシフトされた成分sin(A+B)と、帯域成分sinAが低域側に周波数fだけシフトされた成分sin(A−B)とが生成される(図3(c)参照)。このとき、低域側の成分sin(A−B)のスペクトル包絡のピーク周波数は0(零)、高域側の成分sin(A+B)のスペクトル包絡のピーク周波数は2fとなる。
【0029】
ハイパスフィルタ22は、周波数シフト回路20より出力された低域側の成分sin(A−B)を遮断する。これにより、ハイパスフィルタ22からは、高域側の成分sin(A+B)、即ち、高域拡張成分(帯域拡張成分を構成する)が出力されるようになる(図3(d)参照)。また、レベル調整回路24は、ハイパスフィルタ22より出力された高域拡張成分のレベル(強度)を所定値、具体的には、オーバーサンプリング型ローパスフィルタ4により帯域制限される前における入力信号の高域側の帯域のレベルに調整する。
【0030】
遅延回路8は、入力信号を所定時間、具体的には、高域拡張成分の生成処理に要した時間だけ遅延させる。加算器10は、高域拡張成分生成回路6により生成された高域拡張成分と入力信号とを加算する(図3(e)参照)。
【0031】
次に、上述した帯域拡張装置2による高域拡張成分の生成処理の流れについて説明する。まず、入力端子12より入力された入力信号は、オーバーサンプリング型ローパスフィルタ4においてオーバーサンプリングされるとともに周波数f/2以上の帯域が減衰される(図3(a)参照)。その後、この入力信号は、遅延回路8及び高域拡張成分生成回路6にそれぞれ入力される。
【0032】
高域拡張成分生成回路6においては、次のようにして高域拡張成分の生成処理が行われる。まず、バンドパスフィルタ14において、入力信号から周波数f/4〜f/2の帯域を有する帯域成分が抽出される(図3(b)参照)。そして、ピーク周波数検出回路18によってこの帯域成分のピーク周波数fが検出され、この検出されたピーク周波数fに基づき、周波数シフト回路20において、帯域成分が高域側及び低域側にそれぞれ周波数fだけシフトされる(図3(c)参照)。その後、ハイパスフィルタ22において、低域側にシフトされた帯域成分が遮断され(図3(d)参照)、レベル調整回路24において、高域側にシフトされた帯域成分、即ち、高域拡張成分のレベルが調整される。このようにして高域拡張成分が生成され、そのスペクトル包絡のピーク周波数は2fとなる。
【0033】
また、遅延回路8においては、入力信号が所定時間だけ遅延される。このように遅延された入力信号及び高域拡張成分は加算器10において加算され、この加算された信号は、出力端子30に出力信号として出力される。これにより、入力信号の高域側に高域拡張成分が付加される(図3(e)参照)。このとき、上述のように入力信号を遅延させることにより、高域拡張成分の生成処理に要した時間遅延との整合を取ることができ、これにより加算器10に入力される入力信号及び高域拡張成分の入力タイミングを一致させることができる。
【0034】
以上のようにして入力信号の帯域が拡張され、そのスペクトル包絡のピーク周波数はf及び2fとなる。従って、出力信号において、周波数fにスペクトル包絡の1次共振モードのピーク、周波数fの逓倍となる周波数2fにスペクトル包絡の高次共振モードのピークをそれぞれ持たせることができ、それ故に、自然な特性の出力信号を得ることができ、聴認度の向上を図ることができる。
【0035】
なお、本実施形態の帯域拡張装置2は種々の用途に適用することができる。例えば、帯域拡張装置2を電話システムに適用した場合には、自然な通話音声を得ることができるようになり、これにより、高齢者などが通話する際の聴認度を向上させることができ、また、他人になりすまして通話することによる犯罪行為(所謂、振り込め詐欺など)を防止することができる。また、帯域拡張装置2を喉頭摘出者向けの人工声帯などに適用した場合には、自然な音声を再現することができる。また、帯域拡張装置2をデジタル音響機器に適用した場合には、自然な再生音質を得ることができる。更に、入力信号を生成する例えばマイクロホンや振動ピックアップ、骨伝導マイクロホンなどは、その特性不足により高音域を出力するのは難しいが、これらに対して本実施形態の帯域拡張装置2を適用することにより、自然な高音域を再現することが容易となる。
【0036】
また、本実施形態の帯域拡張装置2では、入力信号から周波数f/4〜f/2の帯域を有する帯域成分をバンドパスフィルタ14により抽出するように構成したが、この抽出する帯域成分の帯域幅は適宜設定することができる。例えば周波数f/8〜f/2の帯域を有する帯域成分を抽出した場合において、そのスペクトル包絡のピーク周波数fが周波数f/8〜f/4の範囲内に存在するときには、周波数シフト回路20による帯域成分のシフト量は、ピーク周波数fの逓倍である周波数nf(nは2以上の整数)に設定される。これにより、高域側にシフトすることにより生成された高域拡張成分のスペクトル包絡のピークを入力信号の帯域外、即ち、周波数f/2〜fの範囲内に配置させることができる。
[第2の実施形態]
次に、図4及び図5を参照して、第2の実施形態の帯域拡張装置について説明する。図4は、本発明の第2の実施形態による帯域拡張装置を簡略的に示すブロック図であり、図5は、図4の第1及び第2高域拡張成分生成回路による高域拡張成分の生成過程を示す説明図である。なお、以下に示す各実施形態において、上記実施形態と実質上同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0037】
図4を参照して、本実施形態の帯域拡張装置2Aでは、2つの高域拡張成分生成回路、即ち、第1高域拡張成分生成回路6a及び第2高域拡張成分生成回路6bが設けられている。これら第1及び第2高域拡張成分生成回路6a,6bの各々は、上記実施形態の高域拡張成分生成回路6と同様に構成されている。第1高域拡張成分生成回路6aのバンドパスフィルタ14a(帯域成分抽出手段を構成する)は、図5(b)中に破線で示すように、入力信号から周波数f/4〜3f/8の帯域を有する帯域成分を抽出する。ピーク周波数検出回路18aは、この帯域成分のピーク周波数fp1を検出し、周波数シフト回路20aは、この検出されたピーク周波数fp1に基づき、帯域成分を高域側及び低域側にそれぞれ周波数fp1だけシフトさせる。その後、図5(b)中に実線で示すように、ハイパスフィルタ22aによって、高域側にシフトされた帯域成分、即ち、高域拡張成分が残るようになる。この高域拡張成分のスペクトル包絡のピーク周波数は2fp1となる。
【0038】
また、第2高域拡張成分生成回路6bのバンドパスフィルタ14b(帯域成分抽出手段を構成する)は、図5(c)中に破線で示すように、入力信号から周波数3f/8〜f/2の帯域を有する帯域成分を抽出する。ピーク周波数検出回路18bは、この帯域成分のピーク周波数fp2を検出し、周波数シフト回路20bは、この検出されたピーク周波数fp2に基づき、帯域成分を高域側及び低域側にそれぞれ周波数fp2だけシフトさせる。その後、図5(c)中に実線で示すように、ハイパスフィルタ22bによって、高域側にシフトされた帯域成分、即ち、高域拡張成分が残るようになる。この高域拡張成分のスペクトル包絡のピーク周波数は2fp2となる。
【0039】
そして、入力信号と、第1及び第2高域拡張成分生成回路6a,6bによりそれぞれ生成された高域拡張成分とが加算器10において加算されることにより、入力信号の帯域が拡張され、そのスペクトル包絡のピーク周波数はfp1,fp2,2fp1,2fp2となる(図5(d)参照)。従って、出力信号において、周波数fp1,fp2にスペクトル包絡の1次共振モードのピーク、それらの逓倍となる周波数2fp1,2fp2にスペクトル包絡の高次共振モードのピークをそれぞれ持たせることができ、それ故に、より自然な特性の出力信号を得ることができ、聴認度の向上を図ることができる。
【0040】
なお、本実施形態の帯域拡張装置2Aでは、2つの高域拡張成分生成回路6a,6bを設けたが、3つ以上の高域拡張成分生成回路を設けるようにし、入力信号から3つ以上の帯域成分を抽出するように構成することもできる。また、抽出する帯域成分の帯域幅も適宜設定することができる。また、上記第1の実施形態と同様に、シフトにより生成された高域拡張成分のスペクトル包絡のピークが入力信号の帯域外に配置されるように、ピーク周波数fp1(fp2)の逓倍である周波数nfp1(nfp2)を周波数シフト回路20a(20b)のシフト量とすることもできる。
[第3の実施形態]
次に、図6及び図7を参照して、第3の実施形態の帯域拡張装置について説明する。図6は、本発明の第3の実施形態による帯域拡張装置を簡略的に示すブロック図であり、図7は、図6の低域拡張成分生成回路による低域拡張成分の生成過程を示す説明図である。
【0041】
図6を参照して、本実施形態の帯域拡張装置2Bでは、オーバーサンプリング型バンドパスフィルタ32、低域拡張成分生成回路34、遅延回路8及び加算器10を含んでいる。オーバーサンプリング型バンドパスフィルタ32は、入力端子12を介して入力された入力信号のサンプリング周波数fをオーバーサンプリングするとともに、入力信号の周波数f/8以下の帯域及びf/2以上の帯域をそれぞれ減衰させる。
【0042】
低域拡張成分生成回路34は、バンドパスフィルタ14(帯域成分抽出手段を構成する)、ピーク周波数検出回路18、周波数シフト回路20(周波数シフト手段を構成する)、ローパスフィルタ36及びレベル調整回路24を含んでいる。バンドパスフィルタ14は、オーバーサンプリング型バンドパスフィルタ32より出力された入力信号の帯域を制限する。即ち、バンドパスフィルタ14は、入力信号から周波数f/8〜f/4の帯域を有する帯域成分を抽出する。
【0043】
次に、図7をも参照して、本実施形態の帯域拡張装置2Bによる低域拡張成分の生成処理の流れについて説明する。入力端子12より入力された入力信号は、オーバーサンプリング型バンドパスフィルタ32においてオーバーサンプリングされるとともに、周波数f/8以下の帯域及び周波数f/2以上の帯域がそれぞれ減衰される(図7(a)参照)。その後、この入力信号は、遅延回路8及び低域拡張成分生成回路34にそれぞれ入力される。
【0044】
低域拡張成分生成回路34においては、次のようにして低域拡張成分の生成処理が行われる。まず、バンドパスフィルタ14において、入力信号から周波数f/8〜f/4の帯域を有する帯域成分が抽出される(図7(b)参照)。そして、ピーク周波数検出回路18によってこの帯域成分のピーク周波数fが検出され、この検出されたピーク周波数fに基づき、周波数シフト回路20において、帯域成分が高域側及び低域側にそれぞれ周波数fだけシフトされる(図7(c)参照)。その後、ローパスフィルタ36において、高域側にシフトされた帯域成分が遮断され(図7(d)参照)、レベル調整回路24において、低域側にシフトされた帯域成分、即ち、低域拡張成分(帯域拡張成分を構成する)のレベルが調整される。このようにして低域拡張成分が生成され、そのスペクトル包絡のピーク周波数は0(零)となる。
【0045】
また、遅延回路8においては、入力信号が所定時間だけ遅延される。このように遅延された入力信号及び低域拡張成分は加算器10において加算され、この加算された信号は出力端子30に出力される。これにより、入力信号の低域側に低域拡張成分が付加される(図7(e)参照)。
【0046】
以上のようにして入力信号の帯域が拡張され、そのスペクトル包絡のピーク周波数は0及びfとなる。従って、出力信号において、周波数fにスペクトル包絡の1次共振モードのピーク、周波数0にスペクトル包絡の基底帯域のピークをそれぞれ持たせることができ、それ故に、自然な特性の出力信号を得ることができ、聴認度の向上を図ることができる。
【0047】
以上、本発明に従う帯域拡張装置の各種実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0048】
上記第1及び第2の実施形態では、帯域成分抽出手段としてバンドパスフィルタ14(14a)(14b)を用いたが、バンドパスフィルタ14(14a)(14b)に代えてハイパスフィルタを用いることもできる。また、上記第3の実施形態では、帯域成分抽出手段としてバンドパスフィルタ14を用いたが、バンドパスフィルタ14に代えてローパスフィルタを用いることもできる。
【0049】
また、上記各実施形態では、オーバーサンプリング型ローパスフィルタ4により入力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して処理するように構成したが、このようにデジタル信号に変換することなく、オーバーサンプリング型ローパスフィルタ4やバンドパスフィルタ14(14a)(14b)、周波数シフト回路20(20a)(20b)等において入力信号をアナログ信号で処理するように構成してもよい。
【0050】
また、上記各実施形態では、サンプリング周波数fを2倍にオーバーサンプリングする場合について説明したが、2倍より大きなm倍(mは3以上の整数)にオーバーサンプリングする場合にも、上述と同様の処理が可能である。
【0051】
また、入力信号をDFT(Discrete Fourier Transformation)によって時間領域の信号から周波数領域の信号に変換した後に、帯域成分を抽出してこれを高域側(又は低域側)にシフトさせて高域拡張成分(又は低域拡張成分)を生成し、更にその後に、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transformation)によって高域拡張成分(又は低域拡張成分)を周波数領域の信号から時間数領域の信号に変換し、この変換した高域拡張成分(又は低域拡張成分)と入力信号とを加算するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0052】
2,2A,2B 帯域拡張装置
4 オーバーサンプリング型ローパスフィルタ
6 高域拡張成分生成手段
8 遅延回路
10 加算器
14,14a,14b バンドパスフィルタ
18a,18a,18b ピーク周波数検出回路
20,20a,20b 周波数シフト回路
22,22a,22b ハイパスフィルタ
24,24a,24b レベル調整回路
26 正弦波信号発生器
28 乗算器
34 低域拡張成分生成回路
36 ローパスフィルタ










【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に基づいて帯域拡張成分を生成し、この生成した帯域拡張成分を入力信号に付加することにより入力信号の帯域を拡張する帯域拡張装置であって、
入力信号から所定の帯域成分を抽出するための帯域成分抽出手段と、この抽出された前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数に基づいて前記所定の帯域成分をシフトさせるための周波数シフト手段と、このようにシフトすることにより生成された帯域拡張成分と前記入力信号とを加算するための加算手段と、を備えていることを特徴とする帯域拡張装置。
【請求項2】
前記周波数シフト手段は、前記帯域成分抽出手段により抽出された前記所定の帯域成分を高域側にシフトさせ、前記加算手段は、このようにシフトすることにより生成された前記帯域拡張成分としての高域拡張成分と前記入力信号とを加算し、
前記周波数シフト手段による前記所定の帯域成分のシフト量は、抽出された前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数であることを特徴とする請求項1に記載の帯域拡張装置。
【請求項3】
前記帯域成分抽出手段は、前記入力信号から前記所定の帯域成分を複数抽出し、前記周波数シフト手段は、この抽出された前記複数の所定の帯域成分を高域側にそれぞれシフトさせ、前記加算手段は、このようにシフトすることにより生成された複数の前記高域拡張成分と前記入力信号とを加算し、
前記周波数シフト手段による前記複数の所定の帯域成分の各々のシフト量は、前記複数の所定の帯域成分の各々のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数であることを特徴とする請求項2に記載の帯域拡張装置。
【請求項4】
前記周波数シフト手段は、シフトにより生成された前記高域拡張成分のスペクトル包絡のピークが前記入力信号の帯域外に配置されるように、そのシフト量を前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数又はその逓倍の周波数に設定することを特徴とする請求項2又は3に記載の帯域拡張装置。
【請求項5】
前記周波数シフト手段は、前記帯域成分抽出手段により抽出された前記所定の帯域成分を低域側にシフトさせ、前記加算手段は、このようにシフトすることにより生成された前記帯域拡張成分としての低域拡張成分と前記入力信号とを加算し、
前記周波数シフト手段による前記所定の帯域成分のシフト量は、抽出された前記所定の帯域成分のスペクトル包絡のピークにおける周波数であることを特徴とする請求項1に記載の帯域拡張装置。
【請求項6】
前記入力信号は、マイクロホンや振動ピックアップ、骨伝導マイクロホン、デジタル音響機器、電話システム、人工声帯等により生成される音声信号又は楽音信号であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の帯域拡張装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−209548(P2011−209548A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77838(P2010−77838)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(504017681)日本ロジックス株式会社 (8)
【出願人】(510087623)株式会社システムアドバンス (2)
【出願人】(507022802)Takumi Vision株式会社 (14)
【Fターム(参考)】