説明

帯電部材とその製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置

【課題】電荷を帯びたトナー等の物質の付着による帯電ムラに起因した電子写真画像への濃度ムラの発生を抑制した帯電部材の提供。
【解決手段】表面層を有する帯電部材であって、該表面層に核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛を含有し、該針状結晶部が、該表面層の表面に露出した状態で突出している帯電部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電部材とその製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置においては、ローラ形状の帯電部材(以下、「帯電ローラ」と呼ぶ。)を電子写真感光体に当接させ、直流電圧のみの電圧(以下、「DC帯電方式」と呼ぶ)または直流電圧および交流電圧を重畳した電圧(以下、「AC・DC重畳帯電方式」と呼ぶ)を印加することで当該電子写真感光体を帯電させる接触帯電方式が多く採用されている。
DC帯電方式は、低コスト、及び、装置の小型化という観点から好んで用いられている。しかしながら、DC帯電方式は、AC・DC重畳帯電方式に比べ放電領域が狭く、また、AC放電電流による帯電電位の均一化の効果を得られない。そのため、表面に局所的な電気抵抗のムラを有する帯電部材と電子写真感光体との間に直流電圧のみを印加した場合に、当該電気抵抗のムラに起因して電子写真感光体の表面電荷にムラが生じ、その結果として電子写真画像に横スジ状の濃度ムラを生じさせてしまうことがあった。
【0003】
特許文献1には、上記の課題の改善を目的として、帯電部材の表面層に絶縁粒子を含有させ絶縁粒子に由来する凸部を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−113177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の電子写真画像に対する高画質化への要求を満たすために、トナーの粒径がより小さくなってきている。また、トナーの高機能化に伴って、様々な外添剤が使用されるようになってきている。現像剤における、これらの技術動向は、帯電部材を長期に使用した場合における帯電部材の表面への汚れ付着の抑制の観点からは、より不利な方向である。加えて、帯電部材自体には、より一層の長寿命化が求められてきている。
そこで、本発明の目的は、電子写真感光体に電位ムラを生じさせにくく、その結果として高品位な電子写真画像の形成に資する帯電部材およびその製造方法の提供にある。
また、本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像の安定した形成に資するプロセスカートリッジおよび電子写真装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、表面層を有する帯電部材であって、該表面層に、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛を含有し、該針状結晶部が、該表面層の表面に露出した状態で突出している帯電部材が提供される。
また、本発明によれば、導電性基体と、導電性酸化亜鉛を含有している表面層とを有し、該導電性酸化亜鉛は、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなり、該表面層は、該導電性酸化亜鉛の一部が埋没し、該針状結晶部が該表面層の表面から露出し、かつ、該表面層の表面の凸部を構成している帯電部材が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛を含有し、該針状結晶部が、該表面層の表面に露出した状態で突出している表面層を有する帯電部材の製造方法であって、下記工程(1)から(4)を有する帯電部材の製造方法が提供される:
(1)該表面層のベースとなる樹脂層を形成する工程、
(2)該樹脂層を形成する樹脂の貧溶媒に該導電性酸化亜鉛を分散する工程、
(3)工程(2)により得られた分散液を工程(1)により得られた樹脂層の上に塗布する工程、
(4)工程(3)により得られた樹脂層を溶融することで、該導電性酸化亜鉛の一部を該樹脂層に埋没させる工程。
【0008】
更に、本発明によれば、電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させる帯電部材とを具備し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されており、該帯電部材が、上記の帯電部材であるプロセスカートリッジが提供される。
更にまた、本発明によれば、電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させる帯電部材とを具備し、該帯電部材が上記の帯電部材である電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子写真感光体に帯電ムラを生じさせにくく、その結果として高品位な電子写真画像の形成に資する帯電部材を得ることができる。また、本発明によれば、高品位な電子写真画像の安定した形成に資するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る帯電部材の表面の模式図である。
【図2】本発明に係る帯電部材と電子写真感光体とのニップ部において、トナー等の物質の付着を抑制する説明図である。
【図3】本発明に係る帯電ローラの断面図である。
【図4】電子写真装置の一例である。
【図5】プロセスカートリッジの一例である。
【図6】絶縁粒子に由来する凸部を有する表面層を持つ帯電部材と電子写真感光体とのニップ部において、トナー等の物質が付着する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、特許文献1に係る、表面層に絶縁粒子を含有させ絶縁粒子に由来する凸部を形成した帯電ローラを用いてDC帯電方式によって電子写真感光体を接触帯電せしめた場合において、電子写真画像の出力枚数が増えるにつれて、電子写真画像に帯電ムラに起因する濃度ムラが発生し易くなるメカニズムについて検討を行った。その結果、以下のようなメカニズムによって、濃度ムラが電子写真画像に生じるものと考えられる。
すなわち、図6に示したように、表面層61の絶縁粒子に由来する凸部62は、凸部以外の部分と比較して、電子写真感光体63との距離が近く、電子写真感光体との間にかかる電界が強い。また、凸部62は、絶縁粒子によって形成されているため、電荷が逃げにくくなっている。そのため、凸部62には、電荷が蓄積されやすい。
【0012】
一方、電子写真装置内で帯電部材に付着するトナーや外添剤等の物質64は、電子写真感光体上に付着して帯電部材に運ばれてくる。この物質64は、電子写真感光体と摺擦する他部材の電位や材料の帯電系列によって、種々の極性に電荷を帯びているため、帯電部材表面の電界が強い部分に付着しやすい。そのため、絶縁粒子に由来する凸部を有する表面層をもつ帯電部材を用いた場合、該凸部に電荷を帯びた物質64が付着し易い。そして、かかる帯電部材を長期に亘って使用していくことにより、該凸部には物質64が堆積していき、電子写真感光体の帯電ムラ、ひいては、電子写真画像に帯電ムラに起因する濃度ムラを生じさせることとなる。
【0013】
かかる知見に基づき、本発明者らは、本発明をなすに至った。以下に、本発明に係る帯電部材について、詳細に説明する。
本発明に係る帯電部材の表面方向に垂直な断面の模式図を図1に表す。図1のように帯電部材の表面は、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛11の一部が露出して突出している。
核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛11の露出していない部分は、表面層12に埋没している。以後、特別な記載がある場合を除き、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛を四針状酸化亜鉛と称す。
【0014】
本発明では、四針状酸化亜鉛の表面に露出した針状結晶部が、電子写真感光体と接触する凸部となる。本発明者らは、以下のようなメカニズムで、四針状酸化亜鉛からなる凸部が、電荷を帯びた物質の付着を抑制できると推定している。
まず、四針状酸化亜鉛が導電性であることに起因して、四針状酸化亜鉛からなる凸部自体に電荷が蓄積されにくいため、電荷を持った物質との間に静電的な引力が生じにくい。また、四針状酸化亜鉛の針状結晶部が電荷を持った物質と接触した場合には、その物質の電荷が緩和され、物質の静電的な付着力が低下する。
【0015】
さらに、帯電部材の表面の凸部が、針状の形状を有するために、電子写真感光体とのニップ間で物質が押し潰されることが抑制される。
さらにまた、四針状酸化亜鉛は核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部を有しており、その一部が表面層に埋没している。そのため、球状や塊状や1本の針状結晶部のみを有する酸化亜鉛に比べて、表面層からの脱離が抑制される。つまり、針状の凸部でありながら長期の使用にも耐えうる強度を有する。以上のような理由から電荷を帯びた物質の付着を抑制できると考える。
【0016】
本発明に係る帯電部材について、以下にその構成を詳細に説明する。
<表面層>
表面層は、四針状酸化亜鉛を含有し、その針状結晶部が、表面層の表面に露出した状態で突出している。
このような表面層の構成材料について以下説明する。
【0017】
<四針状酸化亜鉛>
四針状酸化亜鉛は、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなり、正四面体の重心に核部が位置し、そこから四面体の4つの頂点に向かって針状結晶部が伸びた構造を示す。針状結晶部の平均長さの目安としては、2μm以上50μm以下で、帯電部材として要求される表面粗さと同程度の長さとすればよい。
平均アスペクト比の目安としては、10以上200以下で、電子写真装置内の他部材との摺擦に対して折れない程度の太さとすればよい。針状結晶部の形状をこの範囲とすることで、本発明に適した針状結晶部からなる凸部を形成することができる。核部の粒子径は特に限定されないが、針状結晶部の基部の径と同程度であればよい。針状結晶部の平均長さ、平均アスペクト比の測定方法としては以下のようにすることができる。
【0018】
電子顕微鏡(商品名:「S−4800」、日立製作所製)を用いて導電性酸化亜鉛を任意の角度から観察した場合の4本の各針状結晶部について、針状結晶部の基部の径、基部から先端までの長さを測定する。ここで基部とは、針状結晶部が核部に連結する部分である。
4本の各針状結晶部について測定した値のうちの最大値を、針状結晶部の基部径、針状結晶部の長さとする。以上の測定方法により、導電性酸化亜鉛を100個測定し、その相加平均を、針状結晶部の平均基部径、針状結晶部の平均長さとする。そして、下記式(1)から針状結晶部の平均アスペクト比を算出する。
式(1)
平均アスペクト比=針状結晶部の平均長さ/針状結晶部の平均基部径
なお、酸化亜鉛の導電性としては、体積固有抵抗が1.0×10Ω・cm以下であればよい。
【0019】
<表面層>
表面層は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマー等を含む。具体的には、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体、オレフィン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体等を例示することができる。これらは、1種単独で又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、電子写真感光体との離型性や、耐汚染性に優れることから、熱硬化性樹脂が特に好ましい。具体的には、例えば、熱硬化性のウレタン樹脂が挙げられる。
上記表面層は、本発明の趣旨を没却しない範囲で、イオン導電剤、電子導電剤等を含有させてもよい。また、表面層には、表面層の抵抗の均一性向上、誘電率の調整、弾性率の調整等の目的で無機微粒子を添加してもよい。無機微粒子としては、シリカや酸化チタンの粒子が好ましい。
【0020】
<四針状酸化亜鉛の針状結晶部の露出平均長さと露出平均アスペクト比>
針状結晶部の露出平均長さ、露出平均アスペクト比の測定方法としては以下のようにすることができる。
電子顕微鏡(商品名:「S−4800」、日立製作所製)を用いて表面に露出している針状結晶部を任意の角度から観察し、針状結晶部の露出基部の径、露出基部から先端までの長さを測定する。ここで露出基部とは、針状結晶部のうち表面層の表面から露出した状態で突出している部分の根元部分である。針状結晶部を100点測定し、その相加平均を、針状結晶部の露出平均基部径、針状結晶部の露出平均長さとする。そして、下記式(2)から針状結晶部の露出平均アスペクト比を算出する。
式(2)
露出平均アスペクト比=針状結晶部の露出平均長さ/針状結晶部の露出平均基部径
露出平均長さが5μm以上、露出平均アスペクト比が10以上であると、電荷を帯びた物質の付着を抑制する効果が高い。また、露出平均長さの上限値としては19μm、露出平均アスペクト比の上限値としては30とすることが好ましい。
【0021】
<四針状酸化亜鉛の樹脂層への埋没法>
本発明の表面層は、表面層のベースとなる樹脂層に対して、四針状酸化亜鉛の一部分を埋め込むことで得られる。四針状酸化亜鉛を埋め込む方法は、特に限定されないが、次の工程(1)から(4)によって、該針状結晶部が、該表面層の表面に露出した状態で突出している表面層を形成する方法が挙げられる。
(1)表面層のベースとなる樹脂層を形成する工程。
(2)該樹脂層を形成する樹脂の貧溶媒に四針状酸化亜鉛を分散する工程。
(3)工程(2)で得られた分散液を該樹脂層上に塗布する工程。
(4)工程(3)で得られた樹脂層を溶融することで、該四針状酸化亜鉛の一部を該樹脂層に埋没させる工程。
上記方法は、工程が簡便で、四針状酸化亜鉛の付着を制御する自由度が高く、四針状酸化亜鉛の埋没具合を調整できるために好ましい。
【0022】
<工程(1)>
樹脂層を形成する方法は特に限定されないが、上記の樹脂層の材料を塗料として塗布する方法がある。塗布方法としては、スリット塗工、ロール塗工、リング塗工、スプレー塗工、ディッピング塗工等の方法がある。
樹脂層の厚さは、樹脂層用塗料の固形分、粘度、塗工速度等を適宜調整することにより可変である。樹脂層用塗料に含まれる固形分が大きく、その粘度が高く、塗工速度が速いほど膜厚を厚くすることができ、四針状酸化亜鉛を深く埋没することができる。膜厚の値は、表面層の任意の複数点を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察して測定し、その平均値を採用することができる。
樹脂層の膜厚は、四針状酸化亜鉛の針状結晶部の長径の0.2倍以上2倍以下が好ましい。この膜厚の範囲であれば四針状酸化亜鉛が適度な露出平均長さになると同時に脱離しない程度に十分埋没する。
【0023】
<工程(2)>
四針状酸化亜鉛を分散する溶媒としては、上記樹脂層を構成する樹脂を溶かしにくい貧溶媒を用いる。分散機としては、塗料の分散に一般的な、湿式分散機を用いればよい。露出した針状結晶部の平均長さは、四針状酸化亜鉛の粒子径を選ぶことで制御することができる。また、樹脂層上に塗布される四針状酸化亜鉛の量は、溶媒中の四針状酸化亜鉛濃度によって制御することができる。
【0024】
<工程(3)>
該工程(2)で得られた分散液を該樹脂層上に塗布する方法としては、スリット塗工、ロール塗工、リング塗工、スプレー塗工、ディッピング塗工等を用いることができる。なお、工程(3)終了後では、四針状酸化亜鉛は樹脂層に埋没しておらず、付着している状態である。
【0025】
<工程(4)>
該樹脂層を溶融することで、該導電性酸化亜鉛の一部を該樹脂層に埋没させる。樹脂層を溶融するために用いられる加熱装置としては、熱風乾燥炉などの既知の加熱装置を用いることが可能である。四針状酸化亜鉛の埋没する深さは、加熱条件によって制御することができる。熱可塑性の樹脂層の場合には、加熱温度が高く加熱時間が長いほど四針状酸化亜鉛は樹脂層へ深く埋没する。また、熱硬化性の樹脂層の場合には、加熱温度が架橋温度よりも低く加熱時間が長いほど、四針状酸化亜鉛は樹脂層へ深く埋没する。
【0026】
<導電性基体>
導電性基体の材質としては、例えば、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等の金属やその合金を挙げることができる。
【0027】
本発明に係る帯電部材は、導電性基体、表面層の機能を阻害しない範囲において、他の機能を持つ層を有していてもよい。また、帯電部材の形状は、ローラ、ベルト、パッド等、電子写真感光体と接触して使用する形状であれば特に限定されない。その帯電部材の一様式として、図3に示すように、導電性基体31と表面層33との間に導電性弾性層32を設けた帯電ローラが挙げられる。
【0028】
<電子写真装置>
図4は、本発明の帯電ローラを用いた電子写真装置の断面図である。電子写真装置は、電子写真感光体401、これを帯電する帯電ローラ402、潜像形成用の露光光408を発する露光装置(不図示)、現像装置403、転写材404に転写する転写装置405、クリーニングブレード407および定着装置406を具備している。電子写真感光体401は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラム型である。電子写真感光体401は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電ローラ402は、電子写真感光体401に所定の力で押圧されることにより接触配置される。帯電ローラ402は、電子写真感光体401の回転に従い従動回転し、帯電用電源413から所定の電圧を印加することにより、電子写真感光体401を所定の電位に帯電する。電子写真感光体401に潜像を形成する潜像形成装置は、例えばレーザービームスキャナーなどの露光装置が用いられる。一様に帯電された電子写真感光体401に、画像情報に対応した露光を行うことにより、静電潜像が形成される。現像装置403は、電子写真感光体401に接触して配設される接触式の現像ローラを有する。電子写真感光体の帯電極性と同極性に静電処理されたトナーを反転現像により、静電潜像をトナー像に可視化現像する。転写装置405は、接触式の転写ローラを有する。電子写真感光体401からトナー像を普通紙などの転写材404に転写する。クリーニングブレード407は、電子写真感光体401上に残留する転写残トナーを機械的に掻き落として回収する。定着装置406は、加熱されたロール等で構成され、転写されたトナー像を転写材404に定着する。
【0029】
図5は、本発明に係る帯電ローラ402、電子写真感光体401、現像装置403、及びクリーニングブレード407などが一体化され、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジの断面図である。
本発明の帯電ローラは、このような電子写真装置およびプロセスカートリッジの帯電ローラとして好適である。さらに帯電用電源からAC+DC重畳電圧を印加する場合には、特有の帯電音が発生する場合があるが、本発明の帯電ローラを用いると帯電音の低減をすることができる。帯電音は、電子写真感光体と帯電ローラの間にかかる静電気力によっておこる。本発明の帯電ローラでは四針状酸化亜鉛の針状結晶部が露出して突出することにより電子写真感光体と帯電ローラの間にできる空隙が大きくなる。そのため、表面層に絶縁粒子を含有して絶縁粒子に由来する凸部を形成するような従来の帯電ローラに比べ静電気力が弱まる。つまり、電子写真感光体と帯電ローラを電極板としたコンデンサーと見立てると、その静電容量が小さくなるため、電子写真感光体と帯電ローラにかかる静電気力が小さくなり、帯電音を低減することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、具体的な実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。
[酸化亜鉛分散液の作製]
<製造例1>
核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛(商品名:パナテトラWZ−501L、株式会社アムッテク社製)を用意した。イソプロピルアルコール100質量部に対し、この四針状酸化亜鉛10質量部を分散し、この分散液を金網(目開き0.043mmの325メッシュ)に通したものを酸化亜鉛分散液1とした。
針状結晶部の平均長さは21μm、平均アスペクト比は43であった。
<製造例2>
製造例1の酸化亜鉛の代わりに核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛(商品名:パナテトラWZ−501、株式会社アムッテク社製)を用いること、金網を通さないこと以外は製造例1と同様の方法で、酸化亜鉛分散液2を得た。針状結晶部の平均長さは10μm、平均アスペクト比は34であった。
<製造例3>
製造例2の金網を通さないことの代わりに金網(目開き0.020mmの635メッシュ)に通した以外は製造例2と同様の方法で、酸化亜鉛分散液3を得た。針状結晶部の平均長さは6μm、平均アスペクト比は26であった。
<製造例4>
製造例1の酸化亜鉛の代わりに塊状の絶縁性酸化亜鉛(商品名:LPZINC−11、堺化学工業株式会社製)を用いること、金網を通さないこと以外は製造例1と同様の方法で、酸化亜鉛分散液4を得た。塊状の平均粒子径は11μmであった。
【0031】
[複合電子導電剤の作製]
<製造例5>
樹脂層に添加する複合電子導電剤である、シリカ粒子にメチルハイドロジェンポリシロキサンを介してカーボンブラック被覆した導電剤の作製について示す。
はじめに、シリカ粒子(平均粒子径15nm、体積抵抗率1.8×1012Ω・cm)7.0kgに、メチルハイドロジェンポリシロキサン140gを、エッジランナーを稼動させながら添加した。次に、588N/cm(60kg/cm)の線荷重で、攪拌速度22rpmで30分間混合攪拌を行った。その中に、カーボンブラック粒子(粒子径28nm、体積抵抗率1.0×10Ω・cm)7.0kgを、エッジランナーを稼動させながら10分間かけて添加し、更に588N/cm(60kg/cm)の線荷重で60分間、攪拌速度22rpmで混合攪拌した。その後、乾燥機を用いて温度80℃で60分間乾燥を行い、複合電子導電剤を得た。得られた複合電子導電剤は、平均粒子径が47nmであり、体積抵抗率は2.3×10Ω・cmであった。
【0032】
[表面処理酸化チタン微粒子の作製]
<製造例6>
樹脂層に添加する表面処理酸化チタン微粒子の作製について示す。針状ルチル型酸化チタン粒子(平均粒子径15nm、体積抵抗率5.2×1010Ω・cm)1000gに、表面処理剤としてイソブチルトリメトキシシラン110g及び溶媒としてトルエン3000gを配合してスラリーを調製した。このスラリーを、攪拌機で30分間混合した後、有効内容積の80%が平均粒子径0.8mmのガラスビーズで充填されたビスコミルに供給し、温度35±5℃で湿式解砕処理を行った。湿式解砕処理して得たスラリーを減圧蒸留してトルエンを除去し、温度120℃で2時間表面処理剤を焼付け処理した。焼付け処理した粒子を室温まで冷却した後、ピンミルで粉砕して、平均粒子径17nmの表面処理酸化チタン微粒子を得た。
【0033】
[導電性基体付き弾性層の作製]
<製造例7>
直径6mm、長さ252.5mmの鉄製の円柱に、熱硬化性接着剤(商品名:メタロックN−33、株式会社東洋化学研究所製)を塗工し、乾燥させたものを導電性基体として使用した。
表1に記載の材料を温度50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して原料コンパウンド1を調製した。
【0034】
【表1】

【0035】
得られた原料コンパウンド1に表2に記載の材料を添加し、温度20℃に冷却したオープンロールにて10分間混練して、導電性弾性層用コンパウンド1を得た。
【0036】
【表2】

【0037】
前記導電性基体とともに、導電性弾性層用コンパウンド1をクロスヘッド押出成型機にて押し出し、外径が約9mmのローラ形状になるように成型した。次いで、温度160℃の電気オーブンの中で1時間加熱し、加硫及び接着剤を架橋した。ゴムの両端部を切り取り、導電性基体を露出させると共に、導電性弾性層の長さを228mmとした。その後、外径が8.5mmのローラ形状になるように表面を研削して、導電性基体付き弾性層1を得た。
【0038】
<製造例8>
表3に記載の材料を温度50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して原料コンパウンド2を調製した。
【0039】
【表3】

【0040】
得られた原料コンパウンド2に表4に記載の材料を添加し、温度20℃に冷却したオープンロールにて10分間混練して、導電性弾性層用コンパウンド2を得た。
【0041】
【表4】

【0042】
この導電性弾性層用コンパウンド2を用いた以外は製造例7と同様にして、導電性基体付き弾性層2を得た。
【0043】
<製造例9>
表5に記載の材料を温度50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して原料コンパウンド3を調製した。
【0044】
【表5】

【0045】
得られた原料コンパウンド3に表6に記載の材料を添加し、温度20℃に冷却したオープンロールにて10分間混練して、導電性弾性層用コンパウンド3を得た。
【0046】
【表6】

【0047】
この導電性弾性層用コンパウンド3を用いた以外は製造例7と同様にして、導電性基体付き弾性層3を得た。
【0048】
[樹脂層用塗料の調製]
<製造例10>
表7に記載の原料を、平均粒子径0.8mmのガラスビーズと共にガラス瓶に入れ、ペイントシェーカー分散機を用いて60時間分散して樹脂層用塗料1を調製した。
【0049】
【表7】

【0050】
<製造例11>
製造例10において、MIBKの量を328質量部に変えた以外は製造例10と同様にして樹脂層用塗料2を調製した。
<製造例12>
製造例10において、MIBKの量を616質量部に変えた以外は製造例10と同様にして樹脂層用塗料3を調製した。
<製造例13>
製造例10の樹脂層用塗料1に核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛(商品名:パナテトラWZ−501、株式会社アムッテク社製)を7質量部添加し、MIBKを108質量部追加した。それをガラスビーズの入ったペイントシェーカー分散機で5分間分散し、ガラスビーズをろ過した。こうして四針状酸化亜鉛があらかじめ樹脂層用塗料中に含有されている樹脂層用塗料4を作製した。
<製造例14>
表8に記載の材料を、体積平均粒子径0.8mmのガラスビーズと共にガラス瓶に入れ、ペイントシェーカー分散機を用いて60時間分散して樹脂層用塗料5を調製した。
【0051】
【表8】

【0052】
<製造例15>
表9に記載の材料を、体積平均粒子径0.8mmのガラスビーズと共にガラス瓶に入れ、ペイントシェーカー分散機を用いて60時間分散して樹脂層用塗料6を調製した。
【0053】
【表9】

【0054】
〔実施例1〕
製造例7で作製した導電性基体付き弾性層1の表面に、製造例10で作製した樹脂層用塗料1をディッピング塗工した。この弾性層上に樹脂層を形成したものに、製造例1で作製した酸化亜鉛分散液1にディッピング塗工した。続いて、電気オーブンにて温度80℃で30分加熱して四針状酸化亜鉛を樹脂層に埋没させ、更に温度160℃で30分加熱して樹脂層用塗料1の塗膜を架橋した。このようにして導電性基体上に弾性層及び表面層を有する帯電ローラを得た。
【0055】
[電荷を帯びた物質の付着による画像ムラ評価]
上記帯電ローラを用いて、以下のように評価を行った。まず、評価に用いる電子写真装置(商品名:LBP5400:キヤノン株式会社製)を用意した。そして、この電子写真装置の出力スピードを、200mm/secに改造した。
次に、上記の帯電ローラを装着した、上記電子写真装置用のブラックのプロセスカートリッジを2個用意し、まず、1つ目のプロセスカートリッジを上記電子写真装置に装填し、3万枚の電子写真画像を出力した。
ここで、画像形成の条件としては、1枚画像を出力すると電子写真装置を停止させ、10秒後また画像形成動作を再開する運転を繰り返すものとした。出力した電子写真画像は、A4サイズの紙の画像形成領域に、印字面積が1面積%となるようにランダムに文字を印字した画像とした。3万枚の電子写真画像の出力後、ハーフトーン画像(電子写真感光体の回転方向と垂直方向に幅1ドット、間隔2ドットの横線を描く、中間濃度の画像)を1枚出力した。このハーフトーン画像を目視にて観察した。
次に、プロセスカートリッジを2つ目のものと交換し、画像形成条件のうち、中間転写ベルトにかける電圧を+700V高くしたこと以外は、先の画像形成条件と同様にして3万枚の電子写真画像を形成した。引き続いて、中間転写ベルトにかける電圧を通常の電圧に戻した上で、1枚のハーフトーン画像を出力し、目視にて観察した。2枚のハーフトーン画像の観察結果から、表10に記載の基準に照らして帯電ローラを評価した。結果を表12に示す。
【0056】
【表10】

【0057】
[帯電音測定]
帯電音は以下の条件で測定した。測定治具は、電子写真感光体と帯電ローラと電子写真感光体を駆動する静音モーターと帯電ローラに電圧を印加する電源と騒音計からなる。本治具において、電子写真感光体と帯電ローラは当接しており、電子写真感光体を駆動させると帯電ローラは従動回転する。この帯電ローラと電子写真感光体間に電圧を印加して、その時発生する帯電音を騒音計にて検出した。
電子写真感光体には、電子写真装置(商品名:LBP5400:キヤノン株式会社製)の電子写真感光体を用いた。測定環境は、温度23℃湿度50%RHの無響音室とした。印加電圧はVdc=−600V、Vpp=1800V、1600HzのAC+DC重畳電圧とした。騒音計と帯電ローラの距離は30cmとした。帯電音の評価は、騒音計(商品名:LA5560、株式会社小野測器製)を使用し、JIS C 1505:1988のA特性についての8秒間の平均値を取った音圧レベルを帯電音の値として評価した。結果を表12に示す。
【0058】
〔実施例2〜7〕
樹脂層用塗料、酸化亜鉛、溶融加熱条件を表11に示したように変化させた以外は、実施例1と同様にして実施例2〜7の帯電ローラを製造した。得られたそれぞれの帯電ローラについて、実施例1と同様に評価した。結果を表12に示した。
【0059】
〔比較例1〕
酸化亜鉛分散液を塗布する工程を行わない以外は実施例2と同様に、比較例1の帯電ローラを製造し評価した。
〔比較例2〕
比較例1の樹脂層用塗料2の代わりに樹脂層用塗料4を用いた以外は比較例1と同様に、比較例2の帯電ローラを製造し評価した。得られた帯電ローラの針状結晶部の露出平均長さを観察したところ、表面層の四針状酸化亜鉛はすべて樹脂層に覆われ、帯電ローラの表面には四針状酸化亜鉛の針状結晶部は露出していなかった。
〔比較例3〕
実施例4の酸化亜鉛分散液2の代わりに酸化亜鉛分散液4を用いた以外は、実施例4と同様に、比較例3の帯電ローラを製造し評価した。針状結晶部の露出平均長さを観察する代わりに、樹脂層上に露出した塊状の酸化亜鉛の高さと露出部の露出平均アスペクト比を算出した。
以上、実施例1〜7と比較例1〜3の製造条件を表11に、評価結果を表12に示す。
【0060】
【表11】

【0061】
【表12】

【0062】
〔実施例8〜13〕
樹脂層用塗料、酸化亜鉛、溶融加熱条件を下記表13に示したように変化させた以外は、実施例1と同様にして実施例8〜13の帯電ローラを製造した。得られたそれぞれの帯電ローラについて、実施例1と同様に評価した。
〔比較例4〜5〕
樹脂層用塗料、溶融加熱条件を下記表13に示したように変化させた以外は比較例3と同様に、比較例4〜5の帯電ローラを製造し評価した。
以上、実施例8〜13と比較例4〜5の製造条件を表13に、評価結果を表14に示す。
【0063】
【表13】

【0064】
【表14】

【0065】
〔実施例14〜19〕
導電性基体付き弾性層、樹脂層用塗料、酸化亜鉛、溶融加熱条件を下記表15に示したように変化させた以外は、実施例1と同様にして実施例14〜19の帯電ローラを製造した。得られたそれぞれの帯電ローラについて、実施例1と同様に評価した。
〔比較例6〜7〕
導電性基体付き弾性層を下記表15に示したように変化させた以外は、比較例3と同様に、比較例6〜7の帯電ローラを製造し評価した。
以上、実施例14〜19と比較例6〜7の製造条件を表15に、評価結果を表16に示す。
【0066】
【表15】

【0067】
【表16】

【0068】
上記表11〜16に示した実施例及び比較例の対比から、表面層に核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛が露出した状態で突出していることで、トナーや外添剤等の物質の帯電部材表面への付着または固着が抑制されたことにより、電子写真画像への濃度ムラの発生が抑制されていることが分かる。
また、針状結晶部の露出平均長さと露出平均アスペクト比が大きいほど、トナーや外添剤等の物質の付着または固着が抑制されたことによる電子写真画像への濃度ムラの発生の抑制効果がより高められていることが分かる。
また、実施例4と比較例3の対比から同程度の粗さを有していても、針状の凸部を有する方が帯電音の改善効果が大きいことが分かる。さらに表面層に核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛が露出した状態で突出している帯電部材の中では針状結晶部の露出平均長さと露出平均アスペクト比が大きいほど、帯電音の抑制効果が大きいことが分かる。
【符号の説明】
【0069】
11‥‥核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛
12‥‥表面層




【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層を有する帯電部材であって、
該表面層は、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛を含有し、
該針状結晶部が、該表面層の表面に露出した状態で突出していることを特徴とする帯電部材。
【請求項2】
前記針状結晶部の露出平均アスペクト比が10以上であり、露出平均長さが5μm以上である請求項1に記載の帯電部材。
【請求項3】
前記露出平均アスペクト比が30以下であり、前記露出平均長さが19μm以下である請求項2に記載の帯電部材。
【請求項4】
前記表面層が、熱硬化性樹脂を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の帯電部材。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、熱硬化性のウレタン樹脂である請求項4に記載の帯電部材。
【請求項6】
導電性基体と、導電性酸化亜鉛を含有している表面層とを有する帯電部材であって、
該導電性酸化亜鉛は、核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなり、
該表面層は、該導電性酸化亜鉛の一部が埋没し、該針状結晶部が該表面層の表面から露出し、かつ、該表面層の表面の凸部を構成していることを特徴とする帯電部材。
【請求項7】
核部と該核部から外側に向かって放射状に伸びた4本の針状結晶部とからなる導電性酸化亜鉛を含有し、該針状結晶部が、該表面層の表面に露出した状態で突出している表面層を有する帯電部材の製造方法であって、
下記工程(1)から(4)を有することを特徴とする帯電部材の製造方法:
(1)該表面層のベースとなる樹脂層を形成する工程、
(2)該樹脂層を形成する樹脂の貧溶媒に該導電性酸化亜鉛を分散する工程、
(3)工程(2)により得られた分散液を工程(1)により得られた樹脂層の上に塗布する工程、
(4)工程(3)により得られた樹脂層を溶融することで、該導電性酸化亜鉛の一部を該樹脂層に埋没させる工程。
【請求項8】
電子写真感光体と、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の帯電部材と、を具備し、電子写真装置の本体に着脱可能であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項9】
電子写真感光体と、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の帯電部材と、を具備していることを特徴とする電子写真装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29815(P2013−29815A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−123044(P2012−123044)
【出願日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】