説明

常圧タービンにおける潤滑装置

【課題】常圧タービンにおいて、軸受の潤滑油が常圧−負圧間の差圧によって流出しない潤滑装置を提供する。
【解決手段】回転軸を支持する軸受25,26と、前記軸受を潤滑する潤滑油を前記軸受に供給するオイルポンプ12と、前記軸受と前記オイルポンプとの間を前記潤滑油が循環する潤滑ライン35とを備える常圧燃焼タービンエンジンにおいて、前記潤滑ライン35の、前記軸受25,26から前記オイルポンプ12へ戻るオイル戻り経路33が負圧に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧下で作動する部分を含む常圧タービンエンジンに関し、より具体的には、そのようなエンジンの軸受潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガスタービンエンジンにおいては、大気圧の空気を圧縮機で昇圧して燃焼器に導き、燃料と混合して燃焼させ、その後タービンで動力を回収するため、燃料の圧力を圧縮機出口空気圧力よりも高くする必要があり、常圧燃焼、常圧排熱利用ができないことから、ガス化燃料、固形燃料、未利用高温ガスなどを利用することが困難である。
【0003】
一方近年では、常圧・高温のガスを利用できるタービン装置として、常圧燃焼で得られた常圧の高温ガスをタービンで膨張させ、負圧の状態で熱交換器等により熱を回収後、圧縮機により圧力を大気圧に戻して大気中に排気する常圧燃焼タービンエンジンが知られている。この常圧燃焼タービンエンジンは、常圧燃焼及び常圧廃熱利用ができることから、各種ガス化燃料、固形燃料および未利用高温ガスなどを利用することができ、排ガスを循環させて系外への放出熱量を削減できる利点がある。
【0004】
従来のガスタービンエンジンのロータ軸の軸受、あるいはピストンエンジンのクランク軸の軸受の潤滑構造は、大気圧下に置かれたオイル溜より吸引された潤滑油が油ポンプで昇圧され、軸受の潤滑部に供給された後、再び大気圧のオイル溜に戻って循環するようになっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−87754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、常圧下で動作するエンジンに使用されている従来の軸受け潤滑構造を、常圧燃焼タービンエンジンのような、系内に負圧で動作する部分を有するエンジンにそのまま適用した場合には、常圧部分と負圧部分との差圧によって、常圧下にある潤滑油経路内の潤滑油が流出してしまう。あるいは、これを防止するために、常圧下にある潤滑油経路と、負圧発生部分の間に高気密性のオイルシールを設ける必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、常圧タービンにおいて、潤滑ラインの軸受からオイルポンプへ戻る部分を負圧に保持することにより、軸受部分との間のシール構造を高気密性を必要としない簡易なものとしても、潤滑油のエンジン内への流出が低減される潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の潤滑装置は、常圧高温の作動ガスを負圧にまで膨張させるタービンと、前記タービンからの排気を昇圧する圧縮機とを備えた常圧燃焼タービンエンジンにおける潤滑装置であって、前記エンジンの回転軸を支持する軸受を潤滑する潤滑油を前記軸受に供給するオイルポンプと、前記軸受と前記オイルポンプとの間を前記潤滑油が循環する潤滑ラインとを備え、前記潤滑ラインの、前記軸受から前記オイルポンプへ戻るオイル戻り経路が負圧に保持されている。ここで、常圧とは、装置等の設置環境の圧力をいい、負圧とはそれよりも低い圧力をいう。また、本明細書において、常圧−負圧間動作エンジンとは、負圧下で動作する部分を含むエンジンをいう。
【0008】
この構成によれば、潤滑ラインのうちの軸受からオイルポンプへ戻るオイル戻り経路が負圧に保持されているため、当該経路が常圧下にある場合に比べて、エンジン内の他の負圧部分との差圧が大幅に低減されるので、軸受の潤滑部と、エンジン内の他の負圧部分との間のシールを気密性の低い簡易な構造としながら、潤滑油のエンジン内への流出を抑制することができる。
【0009】
前記オイル戻り経路の圧力は、エンジン内の最低圧力にほぼ等しく保持されていることが好ましい。こうすることにより、差圧による潤滑油の流出はほぼなくなるので、軸受潤滑部のシール構造を、常圧下で動作する従来のエンジンに使用される簡易なものを使用しながら、潤滑油のエンジン内への流出を大幅に抑制することができる。
【0010】
好ましくは、前記オイル戻り経路の中途に、前記潤滑油を貯蔵するオイルタンクを備え、このオイルタンク内の油面よりも上方のタンク空間が前記タービン出口または前記圧縮機入口に連通している。このように構成することで、常圧燃焼タービンエンジンの起動からきわめて短時間で、当該タンク空間を常圧から負圧に減圧することができるので、起動直後における潤滑油の流出を抑制することができる。
【0011】
好ましくは、前記オイル戻り経路が、前記タービンの出口または前記圧縮機の入口に連通している。この構成によれば、軸受を常圧燃焼タービンエンジンにおける負圧部分であるタービンの出口または圧縮機の入口と連通させるという簡単な構造で、軸受からオイルポンプへの戻り部分を負圧あるいはエンジン内の最低圧力として、潤滑油の流出を抑制することができる。さらには、軸受と、タービン出口および圧縮機入口との間のシール構造を、ラビリンスシールのような簡易なものとすることができる。
【0012】
好ましくは、前記オイル戻り経路と前記タービンの出口または前記圧縮機の入口との間に通気性のシールが介在しており、前記回転軸が中空軸であり、前記中空軸の内方空間を経てエンジン外部と前記シール部とを連通する連通路を設けることにより、前記シール部が、前記オイル戻り経路よりも高い圧力に保持されている。この構成によれば、シール部に導入されたエンジン外部の空気が、潤滑油を負圧のオイルタンクに連通しているオイル戻り経路へと押し戻すので、より確実に潤滑油の流出を防ぐことができる。
【0013】
あるいは、前記オイル戻り経路が、前記タービンの入口側の内径部または前記圧縮機の出口側の内径部に連通していてもよい。この構成によれば、常圧である圧縮機出口にオイル戻り経路が連通しているので、圧縮機出口の空気が、シール部を介して潤滑油を負圧のオイルタンクに連通しているオイル戻り経路へと押し戻すので、より確実に潤滑油の流出を防ぐことができる。
【0014】
上記のようにオイルタンク上方空間とタービン出口または圧縮機入口とを連通させる場合には、それらの間に、前記潤滑油のオイルミストを捕捉するオイルミストトラップを設けることが好ましい。このようにオイルミストトラップを設けることにより、常圧燃焼タービンエンジンの起動時、すなわちオイルタンクの上方空間が常圧から負圧に減圧される時に、タンク内の潤滑油の一部がミスト状になって前記潤滑ラインの外部へ流出するのを防止できる。したがって、潤滑ライン内の潤滑油の減少を抑制して、エンジンの保守点検の負担を軽減することができる。
【0015】
また、前記オイルタンクは、前記軸受よりも下方に位置していることが好ましい。この構成によれば、重力によって潤滑油をオイルタンクに戻すことができるので、潤滑ラインの構造を簡易なものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の潤滑装置によれば、常圧燃焼タービンエンジンにおいて、潤滑油が循環する潤滑ラインのうちの軸受からオイルポンプへ戻る部分が負圧に保持されているため、当該部分が常圧下にある場合に比べて、エンジン内の他の負圧部分との差圧が大幅に低減されるので、軸受の潤滑部と、エンジン内の他の負圧部分との間のシールを気密性の低い簡易な構造としながら、潤滑油のエンジン内への流出を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る潤滑装置を備える常圧燃焼タービンエンジンの概略図である。この実施形態では、負圧部分を含むエンジンとして常圧燃焼タービンエンジンAPTを用いている。この常圧燃焼タービンエンジンAPTは、燃料Fを空気Aと共に燃焼させる燃焼器1、その燃焼ガスである常圧・高温の作動ガスG1を負圧にまで膨張させるタービン2、このタービン2が発生する動力により駆動されて、タービン2から排気された作動ガスG2を昇圧する圧縮機4、およびタービン2から圧縮機4に入る高温の作動ガスG2を冷却する冷却器、例えば燃焼器1に供給される空気Aとの間で熱交換する熱交換器8を備えている。燃焼器1に代えて、浸炭処理炉のような工業用熱処理炉からの高温排ガス、また、熱交換器8に代えて、または熱交換器8に加えて水冷式の冷却器を設けてもよい。タービン2と圧縮機4とは、回転軸23により連結されており、回転軸は機械的軸受の一種である玉軸受からなる第1,第2軸受25,26により、ケーシング20に回転自在に支持されている。この回転軸23には、負荷である発電機GEが連結されている。
【0018】
第2軸受26の下方には、第1および第2軸受25,26に潤滑油LOを供給するオイルポンプ12と、潤滑油LOを貯蔵するオイルタンク14とが設置されている。オイルポンプ12の出口側は、オイル供給通路30に接続されている。オイル供給通路30は、途中で2方向に分岐して、各軸受25,26の近傍まで延びており、その各先端部に、第1および第2軸受25,26に向かって潤滑油LOを導くオイル供給ノズル31が取り付けられている。
【0019】
第1,第2軸受25,26とオイルタンク14とは、第1戻り通路33aを介して連通している。また、オイルタンク14は、第2戻り通路33bを介してオイルポンプ12の吸引側と連通している。これら第1戻り通路33a、オイルタンク14および第2戻り通路33bが、潤滑油LOの、各軸受25,26からオイルポンプ12へ戻る経路であるオイル戻り経路33を形成している。さらには、オイル戻り経路33、オイルポンプ12、オイル供給通路30および第1,第2軸受25,26が、潤滑油LOの循環系路である潤滑ライン35を構成している。
【0020】
第1および第2軸受25,26とタービン2および圧縮機4との間にはそれぞれ、通気性で液密の第1シール28および第2シール29が介在している。第1,第2軸受25,26の近傍の構造については、後に詳しく説明する。また、オイルタンク14内の、油面より上方のタンク空間であるタンク上方空間14aは、オイルタンク連通路32を介して圧縮機4の入口と連通しており、これによって、オイルタンク14が圧縮機4の入口圧力に保持される。このオイルタンク連通路32の中途には、潤滑油LOのオイルミストを捕捉するオイルミストトラップ16が設けられている。オイルミストトラップ16で捕捉されたオイルミストは、液体となってリターン通路34からタンク上方空間14aに戻る。なお、タンク上方空間14aは、タービン2の出口に連通していてもよい。また、オイルミストトラップ16は、オイルタンク連通路32の中途のどこに配置してもよいが、この実施形態のようにオイルタンク14の上方に配置することがスペース的に好ましい。
【0021】
図2は、この実施形態の要部である、第2軸受26の近傍を示す縦断面図である。なお、図1のタービン2側の第1軸受25の近傍は、圧縮機4側の第2軸受26の近傍とほぼ同一の構造であるので、ここでは圧縮機4側の第2軸受26の近傍を代表として説明する。この実施形態では、図2に示す圧縮機4は遠心型であり、その負圧部分である圧縮機入口4bが軸受側を向いている。
【0022】
第2軸受26は、内輪26aと、外輪26cと、両者の間に介在するボールである転動体26bとからなる玉軸受であるが、回転軸23を回転自在に支持できるものであれば、玉軸受に限らず、ころ軸受、ニードル軸受のような他のタイプの機械的軸受でもよい。内輪26aのタービン2側(図2の左側)端面は、回転軸23の軸心方向中央部に装着された筒状の第1間座42の、圧縮機4側の端面に接している。第1間座42は、他方の端面が図1の第1軸受25の内輪に接している。一方内輪26aの圧縮機4側(図2の左側)端面は、回転軸23の外周面に嵌め込まれた第2間座43に接している。また、外輪26cの圧縮機4側の端面は、常圧燃焼タービンエンジンAPTの外壁面を形成するケーシング20の軸受収納部分の内周面に嵌め込まれた止めリング44に接している。これら第1間座42、第2間座43、および止めリング44によって、第2軸受26の軸心方向位置が規制されている。
【0023】
回転軸23と圧縮機4のインペラ4aとは、回転軸23の大径の圧入部23aをインペラ4aの軸孔の前部(第2軸受26寄りの部分)に圧入嵌合することにより相対回転不能に連結されている。圧縮機4の径方向外方は、圧縮機ケーシング5のシュラウド5aによって覆われており、圧縮機ケーシング5における圧縮機入口4b近傍に、オイルタンク連通路32の一端が開口している。インペラ4aの背面は、圧縮機ケーシング5の、軸心に垂直方向に延びる背板5bにより覆われている。回転体であるインペラ4aの背面側のボス部4aaと固定側である背板5bの内径面との間の隙間は、ボス部4aaに設けたラビリンスシールのような第3シール4eによってシールされている。なお、この実施形態では回転軸23を中実軸としているが、中空軸を使用することもできる。
【0024】
回転軸23の外周面におけるインペラ4aの入口側端部の近傍には、通気性のシール構造である第2シール29が形成さている。第2シール29としては、どのようなタイプのものも適用可能であり、回転軸23やケーシング20とは別体であってもよいが、この実施形態では、回転軸23の外周面に一体形成されたラビリンスシールを使用している。回転するインペラ4aの入口側端部とこれを覆う固定側であるケーシング20との間には、わずかな隙間27が存在し、第2シール29および隙間27を介して第2軸受26と圧縮機4の負圧部分である入口4aとが、ほぼ同一の圧力になるように連通されている。
【0025】
ケーシング20の内周面における第2軸受26の近傍で、タービン2側(図2の左側)には、オイル供給通路30からの潤滑油LOを内輪26aと外輪26cの間の空間に導くオイル供給ノズル31が設けられている。第2軸受26の近傍で圧縮機4側(図2の右側)、つまり第2軸受26と第2シール29の間の空間には、第1戻り通路33aの一端が開口している。
【0026】
次に、前記構成に係る潤滑装置を備えた常圧燃焼タービンエンジンの作用について説明する。図1において、空気Aと燃料Fを混合して燃焼させる燃焼器1から排出された常圧・高温ガスG1が、タービン2に送られてこのタービン2を駆動し、その発生動力により圧縮機4と、常圧燃焼タービンエンジンAPTの外部に配置された発電機GEが駆動される。また、常圧・高温ガスG1は、タービン2を通過することにより負圧まで膨張し、この膨張した負圧・中温の作動ガスG2が吸引通路3を通って圧縮機4に送られ、ここで大気圧(常圧)まで昇圧されて常温の排ガスG3として大気に放出される。吸引通路3の中途には、熱交換器8が設けられて、燃焼器1に送られる空気Aと圧縮機4に送られる作動ガスG2との間で熱交換し、空気Aを加熱して燃焼器1での燃焼効率を高めるとともに、作動ガスG2を冷却して圧縮機4での圧縮機仕事を減少させ、機関効率を高める。
【0027】
オイルタンク14内の潤滑油LOは、第2戻り通路33bを通ってオイルポンプ12に吸引され、このオイルポンプ12から吐出されて、オイル供給路30を経てその先端のオイル供給ノズル31から第1および第2軸受25,26に供給される。軸受を潤滑した潤滑油LOは、第1戻り通路33aを通ってオイルタンク14に回収される。
【0028】
このような常圧タービンエンジンAPTの定常動作時において、タービン2の出口および圧縮機4の入口4bは負圧であって、かつ常圧タービンエンジンAPT内のほぼ最低圧力であるから、これらの部分に通気性第1シール28,29を介して連通している第1,第2軸受25,26および戻り通路33もエンジンAPT内の最低圧力下で動作することになる。この実施形態においては、図1の細かいドットで示す範囲が負圧かつエンジンAPT内の最低圧力下で動作する部分であり、それ以外は大気圧下で動作する部分である。したがって、第1,第2軸受25,26に供給された潤滑油LOが差圧によってタービン2の出口または圧縮機4の入口4bから外方へ流出することがない。つまり、図2の圧縮機4側についていえば、第2軸受26に供給された潤滑油LOが、第2シール29および隙間27を通って圧縮機入口4bへ漏出するのが抑制される。さらには、図1の第1シール28,29として特別に高気密な構造のものを使用する必要がなく、ラビリンスのような簡易な構造の第1シール28,29を使用することができる。
【0029】
また、オイルタンク14のタンク上方空間14aが、オイルタンク連通路32を介して直接圧縮機4の入口に連通しているので、常圧燃焼タービンエンジンAPTの起動時には、圧縮機4の入口が減圧されるのとほぼ同時にオイルタンク14内が減圧される。したがって、起動時においても、実質的に差圧が生じることがなく、潤滑油LOのタービン2および圧縮機4への流出を防止できる。
【0030】
さらには、オイルタンク連通路32の中途にオイルミストトラップ16を設けているので、常圧燃焼タービンエンジンAPTの起動時に、オイルタンク14内が短時間に急速に減圧されることによって生じる潤滑油LOのオイルミストが、圧縮機4に吸引されることが防止される。オイルミストトラップ16はオイルタンク14の上方に配置されているので、捕捉されたオイルミストは、重力によってリターン通路34からオイルタンク14内に戻る。したがって、潤滑ライン35内の潤滑油LOの減少が抑制されて、保守点検の負担が軽減される。
【0031】
オイルタンク14は、第1、第2軸受25,26の下方に配置されているので、これらの軸受を潤滑した後の潤滑油LOは、圧力差と重力によってオイルタンク14に戻る。したがって、ポンプのような駆動装置を使用することなく、潤滑油LOをオイルタンク14に回収することができる。
【0032】
なお、この実施形態では、潤滑ライン35のオイル戻り経路33を負圧あるいはエンジン内の最低圧力に保持するために、負圧部分である圧縮機4の入口4bと、軸受25,26およびタンク上方空間14aとをそれぞれ連通させたが、オイル戻り経路33の他の部分、例えば第1戻り通路33aのみを、負圧部分であるタービン2の出口または圧縮機4の入口4bと連通させてもよい。
【0033】
図3は、本発明の第2実施形態に係る潤滑装置を備える常圧燃焼タービンエンジンの要部を示す縦断面図である。この実施形態においては、回転軸23を中空軸としており、軸方向の中央部分23bと圧縮機4側の軸端部分23cとが、これらの内径面に嵌合する嵌合ロッド47を介して連結されて回転軸23を構成している。また、インペラ4aの軸孔と回転軸23の軸端部分23cとの間には、この部分を非圧接部とするために環状の隙間50が存在する。この実施形態では、このように回転軸23を中空とすることで、常圧であるエンジン外部から、回転軸23の内方空間23aを通って第2シール29に連通する、シール空気経路59を形成している。具体的には、圧縮機ケーシング5の背板5bの内径面における第3シール4eに対向する部分よりも軸方向外側(図3の右側)部分とインペラ4aのボス部4aaとの間の径方向の隙間4fと、この隙間4fから若干内側(図3の左側)にかかる軸方向位置でインペラ4aの外周面から軸孔に貫通する外部空気導入孔51と、中空の回転軸23の出力部分23cの外周面から内周面に貫通するシール空気吸入孔53と、第2シール29の軸方向ほぼ中央部に位置して回転軸23の内周面から外周面に貫通するシール空気供給孔57とが追加で設けられている。さらに、嵌合ロッド47は、圧縮機4側にのみ開口する有底円筒状であり、その外周面の軸方向中央部には、シール空気供給孔57に連通する凹所47aが形成され、この凹所47aの周壁に、内周面から外周面に貫通する貫通孔55が設けられている。したがって、エンジンの外部と第2シール29の軸方向中央部とが、隙間4f、外部空気導入孔51、隙間50、シール空気吸入孔53、回転軸23の内方空間23a、貫通孔55、凹所47a、およびシール空気供給孔57を介して連通されている。
【0034】
なお、図3の実施形態では、外部空気導入孔51の軸方向位置を隙間4fとほぼ同一としたが、隙間4fよりも内側または外側に配置してもよい。
【0035】
この実施形態では、常圧部であるエンジンの外部から、負圧部である圧縮機入口4bに連通している第2シール29へ、シール空気経路59を通って空気が流入する。ただし、シール空気経路59を形成する上記各孔が小径の孔であること、および外部空気導入孔51を通過して流入する空気の量が遠心力の影響により制限されることから、第2シール29に流入する空気の量は僅かであるので、第2シール29は、常圧よりも若干負圧であり、かつ常圧燃焼タービンAPT内の最大負圧に対しては正圧の状態(以下「小負圧」と呼ぶ)となる。
【0036】
一方、第1戻り通路33aは、オイルタンク14を介して圧縮機4の入口4bの大きな負圧(以下「大負圧」と呼ぶ)に保たれている。したがって、通気性の第2シール29の軸方向中央部に導入された小負圧の空気が、第2シール29の軸受側半分29aを経て、潤滑油LOを負圧のオイルタンク14に連通している第1戻り通路33aへと押し戻すので、図2の実施形態と比較してさらに確実に、潤滑油LOが圧縮機4の入口4bへ漏出するのを防ぐことができる。他方、第2シール29の小負圧の空気は、第2シール29の圧縮機側半分29bにより、圧縮機4の入口4bへの漏れ量が抑制される。
【0037】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る潤滑装置を備える常圧燃焼タービンエンジンの要部を示す縦断面図である。この実施形態は、圧縮機4の常圧部である出口側の内径部が軸受側に対向するように配置し、第2シール29を介して第1戻り通路33aと連通する構造としたものである。回転軸23は軸方向の圧縮機側端部が大径の圧入部23aとなる形状を有しており、この圧入部23aをインペラ4aの軸孔における圧縮機入口側部分に圧入嵌合することにより、回転軸23とインペラ4aとが相対回転不能に連結されている。インペラ4aの軸孔の出口側部分と回転軸23の外周面の間には環状の隙間50Bが形成されている。また、インペラ4aの背面を覆う、圧縮機ケーシング5の背板5aの内径面に、回転軸23の外周面の第1戻り通路33aとインペラ4aとの間の軸方向位置に形成されたラビリンスシールである第2シール29が対向している。なお、この実施形態では、発電機GEはタービン2よりも外側(図1の左側)で回転軸23に連結されている。本実施形態における上記した以外の部分の構造は、図1および図2に示す実施形態と同様である。また、この実施形態において、回転軸23は中実軸としてもよい。
【0038】
インペラ4aの背面の内径部は、遠心力の作用により、出口4cの圧力である常圧よりも若干負圧になっており、この小負圧が第2シール29の圧縮機側の端部に作用する。一方、第1戻り通路33aは大負圧となっているので、この小負圧の空気が第2シール29を経て、潤滑油LOを第1戻り通路33aへと押し戻す。したがって、図2の実施形態と比較してさらに確実に、潤滑油LOが圧縮機4へ漏出するのを防ぐことができる。
【0039】
なお、図示はしないが、上記各実施形態で使用する図1のタービン2はラジアル型である。したがって図2〜4に示した遠心型の圧縮機におけるのと同様の構造で、タービン2と第1シール28間のシールを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る潤滑装置を備える常圧燃焼タービンエンジンを示す概略図である。
【図2】図1の実施形態に係るエンジンの要部を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る潤滑装置を備える常圧燃焼タービンエンジンの要部を示す縦断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る潤滑装置を備える常圧燃焼タービンエンジンの要部を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 燃焼器
2 タービン
4 圧縮機
4b 圧縮機入口
4c 圧縮機出口
4f 隙間
12 オイルポンプ
14 オイルタンク
14a オイルタンク上方空間
16 オイルミストトラップ
23 回転軸
23a 回転軸の内方空間
25 第1軸受
26 第2軸受
28 第1シール
29 第2シール
30 オイル供給通路
31 オイル供給ノズル
32 オイルタンク連通路
33 オイル戻り経路
33a 第1戻り通路
33b 第2戻り通路
35 潤滑ライン
47 嵌合ロッド
47a 嵌合ロッド小径部
50 隙間
51 外部空気導入孔
53 シール空気吸入孔
55 通過孔
57 シール空気供給孔
59 シール空気経路
APT 常圧燃焼タービンエンジン
LO 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧高温の作動ガスを負圧にまで膨張させるタービンと、前記タービンからの排気を昇圧する圧縮機とを備えた常圧燃焼タービンエンジンにおける潤滑装置であって、
前記エンジンの回転軸を支持する軸受を潤滑する潤滑油を前記軸受に供給するオイルポンプと、前記軸受と前記オイルポンプとの間を前記潤滑油が循環する潤滑ラインとを備え、
前記潤滑ラインの、前記軸受から前記オイルポンプへ戻るオイル戻り経路が負圧に保持されている潤滑装置。
【請求項2】
請求項1において、前記オイル戻り経路が、エンジン内の最低圧力にほぼ等しい圧力に保持されている潤滑装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記オイル戻り経路の中途に、前記潤滑油を貯蔵するオイルタンクを備え、このオイルタンク内の油面よりも上方のタンク空間が前記タービン出口または前記圧縮機入口に連通している潤滑装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、前記オイル戻り経路が、前記タービンの出口または前記圧縮機の入口に連通している潤滑装置。
【請求項5】
請求項4において、前記オイル戻り経路と前記タービンの出口または前記圧縮機の入口との間に通気性のシールが介在しており、前記回転軸が中空軸であり、前記中空軸の内方空間を経てエンジン外部と前記シール部とを連通する連通路を設けることにより、前記シール部が、前記オイル戻り経路よりも高い圧力に保持されている潤滑装置。
【請求項6】
請求項5において、前記オイル戻り経路が、前記タービンの入口側の内径部または前記圧縮機の出口側の内径部に連通している潤滑装置。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項において、前記オイルタンクと前記タービンの出口または前記圧縮機の入口との間に、前記潤滑油のオイルミストを捕捉するオイルミストトラップを備える潤滑装置。
【請求項8】
請求項3から7のいずれか一項において、前記オイルタンクが、前記軸受よりも下方に位置する潤滑装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−106634(P2008−106634A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287885(P2006−287885)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】