説明

常温流通可能容器包装食品

【課題】
食品を常温流通する場合、高温殺菌処理が必要であるが、当該処理により色調、風味、香
が劣化し、酵素、抗酸化物質は効力を失ってしまう。また製造する上で多額のエネルギー
コストと設備投資とを必
要とする。劣化防止のため冷蔵、冷凍流通をすると流通上に多く
のエネルギーを使わなければならない。しかも取扱いが煩雑となる。
【解決手段】
加熱済食品中の溶存酸素濃度を低減しまたゼロにすることで芽胞が死滅することを発見し
た。この技術を使って、溶存酸素濃度制御することで食品の常温流通を可能にする。場合
によって、糖や水溶性乳化剤を使用すればさらに好ましい結果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低温殺菌でありながら常温流通できる容器包装食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の常温流通のために採用される手段は高温熱殺菌が必要である。高温加熱条件は100
℃を超える温度での高温殺菌、120℃以上のレトルト殺菌または百数十度Cの加熱殺菌後ア
セプティック充填を施す無菌充填が実用化されている。
【0003】
また関連技術分野として次の第1から第3の技術が公知となっている。第1の背景技術と
して「間欠殺菌」がある。この間欠殺菌は培地殺菌に、また原料を限定した総菜の殺菌等
に使用されている。第2の背景技術として1950年代に芽胞菌を死滅させる現象が報告
されている。食品のレトルト殺菌を行いかつ当該レトルト食品を芽胞菌が増殖しない温度
以下に保存すると、菌が減少又は死滅してしまうことが記載されている(たとえば非特許
文献1、2参照)。最後に紹介する関連技術としてコーヒー缶中の高温耐熱芽胞菌を制菌
する技術がある。コーヒー缶等に親水性乳化剤を添加することにより、芽胞菌を制菌し、
品質劣化、膨張等のクレームを防止することが紹介されている。またレトルト総菜では殺
菌条件を緩和することができ総菜の品質劣化を防止できることが述べられている。
【非特許文献1】ピアス、ウィートン(W.E.Pearce,E.Wheaton)缶詰における好熱性芽胞の自己死滅(Autosterilization of thermophilic spores in canned foods)Food Res.,17:487(1952)
【非特許文献2】シュミット、ナンク(C.F.Schmidt and W.K.Nank)芽胞不活性化による殺菌(sterilization by means of spore deactivation )Food Res.,22:562(1957)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら高温殺菌を採用した商品の場合、熱劣化するため色調、味、香、分解酵素、
抗酸化物質に変化、劣化を来す。また高温殺菌を実施するためには、高額のエネルギーコ
ストと高額の設備投資コストが必要となる。また食品の熱劣化を防止するため冷蔵流通、
冷凍流通を行うこともできるがこれもまた輸送貯蔵設備に投資コストと高額の電気エネル
ギーが必要とされる。
【0005】
また関連技術分野の上記第1の方法は当該殺菌があくまで特定の対象に限定さており、一
般の食品への実用化は、耐熱芽胞菌が殺菌できないため、使用不可能な状況にある。すな
わち間欠殺菌は低温殺菌を使用した殺菌方法であるが菌は死滅せず実用化には至っていな
い。上記第2の背景技術は菌を減少させるために数ヶ月の長期を要し、またこの技術が普
遍的でないため実用化は出来ていない。上記最後の背景技術はあくまで「制菌」と「レト
ルトでの殺菌条件緩和」が達成されたに過ぎず、低温殺菌による常温流通を達成したもの
ではない。
【0006】
本発明者は上記高温熱殺菌ではなく、低温で食品中の菌を滅菌できないかについて鋭意研
究した結果、実に低温熱処理を施すだけで、食品の滅菌が出来る方法を発見するに至り、
本発明を出願するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は平衡状態にある気相中に酸素が存在しないかあるいは気相そのものが存
在しない容器包装食品であって、かつ当該食品中の溶存酸素濃度が1mg/L以下である常温
流通可能な加熱済腐敗性容器包装液体食品に関するものであり、本発明の溶存酸素濃度を
制御する1つの手段を用いた当該食品として、脱酸素処理した後、密閉シールし、その後
低温熱処理した容器包装食品であって、かつ当該容器包装食品と平衡状態にある気相中に
酸素が存在しないかあるいは気相そのものが存在しない常温流通可能な腐敗性容器包装液
体食品を提案するものである。
【0008】
まず本発明請求範囲で使用する言葉の定義を説明する。
【0009】
「気相中に酸素が存在しない」とは、「製品製造時点」及び/又は「消費のための開封前
まで」において、大気圧下での酸素が容器包装内気相容量の1mg/L以下の状態をいう。酸
素は無い方が好ましい。「消費のための開封前まで」であるから、たとえば流通や保存中
に一時的に菌が増殖または存在して、菌が酸素を消費した後に、酸素のない状態を呈して
も、また何らかの化学反応が起り酸素を消費し酸素の状態を呈しても本発明の容器包装食
品に該当するものである。
【0010】
「気相がない」とは目視で気相が確認できない状態をいう。不透明な容器包装に封入され
た食品の場合など目視できない状態の場合は、気泡を容器包装の上隅に集め、注射器で(
針の部分等空気を含む場合は空気を完全に水に置換した後)、当該上隅部分に注射器を差
し込み、吸引することで、不透明容器中の気泡の存在を確認すると良い。もちろんその他
の方法(X線写真、超音波等)も採用できる。
【0011】
「常温流通可能な」とは常温流通しても少なくとも10日以上衛生的トラブルが発生しない
ことを示すが、本発明の食品は、一般に、2ヶ月以上の期間、上記トラブルが発生しない。
もちろん本発明の常温流通可能な商品を冷蔵流通、冷凍流通、冷暗所保存しても本特許請
求範囲に含まれる。常温とは主として25℃以下の温度帯を示すが25℃以上の温度での流通
であっても常温流通ということとする。最も細菌が増殖しやすいといわれる37℃の流通温
度も本発明の常温流通に含まれる。常温流通の場合実際的には25℃以下で必ずしも流通さ
れている訳ではなく、25℃以上で流通されることもあるのが現実である。
【0012】
本発明の「1mg/L」の測定に当たり、公知の溶存酸素測定法を採用できるが、測定値に妨
害物質が邪魔しないように工夫を要する。外挿法等も場合によって採用する。本発明では
、本発明の液体食品中の溶存酸素濃度測定を実施するにあたり、本発明の液体食品の代わ
りに水道水を使用し、本発明の脱酸素条件の処理を施し、水道水中の溶存酸素濃度の変化
を溶存酸素測定用電極法や隔膜電極法を採用して測定した測定値を、本発明の液体食品の
溶存酸素濃度とすることができる。ただしこの2つの方法は他の物質の存在により値が左
右され正常な値がでないので他の物質を添加する場合は注意を要する。
【0013】
本発明の「脱酸素処理」とは平衡状態にある気相中の酸素を除く処理、平衡状態にある気
相を無くす処理、液体食品を沸騰させ溶存酸素を追い出す処理、常温や低温で減圧下沸騰
させ溶存酸素を追い出す処理等の処理をいう。脱酸素処理後の溶存酸素濃度は5mg/L好ま
しくは2mg/L、さらに好ましくは1.5mg/L以下であることが望ましい。
【0014】
本発明で言う「低温熱処理」とは大気圧下の加熱処理をいう。一般には100℃以下の処理
となる。100℃以下の加熱処理は加圧設備を必要とせずまた低い蒸気圧で加熱処理でき、
常圧の大気中で実施できる加熱処理方法である。1回の低温熱処理でもよいし、2回、3回
に及ぶ間欠殺菌でもよい。当然間欠殺菌間の保持時間が存在するが、すべてを総括して低
温熱処理という。また加熱済とは密閉シール後低温熱処理を施したことを示す。密閉シー
ルとは、袋状包材のヒートシールのほか、びん類、スパウト類の密栓、缶類のシール等、
外部から遮断する操作をいう。
【0015】
本発明でいう「腐敗性」とは、レトルト処理または無菌充填をしなければ常温流通できな
い食品であって代表的には、水分活性(AW)が0.9以上でかつ水素イオン濃度(PH)が
4.5以上の食品を言う。さらに最も効果的な領域はAWが0.94以上でかつPH4.6
以上の食品である。この領域の商品は腐敗性が極めて高く、本発明の効果が発揮されやす
い。しかしこの領域に限定されるものではない。
【0016】
本発明に使用される「糖」は殆どの糖がその効果を発現できるが量を多量添加すると甘味
が不適切な味を与えることとなるので、糖としてグルコース好ましくはD+グルコースを
選択すると効果的である。甘味も高くはなく、かつ添加量も少量で、その効果を発揮する
ことが可能である。具体的には0.5%以下でも効果が発現できる。糖のかわりにアミノ
酸、微量金属等も効果が見られるが、価格が高く味が好ましくないため、本発明では糖に
限定して申請を行った。芽胞発芽を惹起しイニシエーションを起こしやすくすること、お
よびメイラード反応により芽胞発芽に必要な酸素が低減されることが背景にあるのではな
いかと推察される。ちなみに惹起物質としてアミノ酸、糖、無機イオン、核酸関連、酸
(炭酸ガスを含む)、キレート剤等があげられる。
【0017】
本発明の「容器」とはフィルム袋、ポリ容器、ペット容器、スパウト容器、ガラス容器、
紙容器その他の容器包装器材をいう。このうち酸素難透過性容器とは酸素難透過性フィル
ムで構成される包装器材のほか、ガラス容器、金属容器その他の難酸素透過性包装器材を
示す。本発明の「酸素難透過性フィルム」とはポリ塩化ビニリデン、「ビニルアルコール
を原料としたポリマー」のラミネートやコーティングフィルム、アルミラミネート、アル
ミ蒸着フィルム等の、汎用フィルムに比較して酸素を透過させにくい難酸素透過のフィル
ムを言う。一般用袋に使用されているフィルムたとえばナイロンポリエチレンラミネート
フィルムは酸素透過性が高いことのほか、シール時に微細孔が開き、そこから菌がコンタ
ミしやすいので使用時には注意を要する。ただ一般高分子たとえばポリエチレン等のフィ
ルムや容器であっても、厚みが極めて厚い等で酸素透過が難酸素透過性フィルムに匹敵す
る場合は酸素難透過性フィルムの範疇とする。包装とはこれらの容器で対象となる本発明
の食品を収納密閉していることをいう。
【0018】
本発明の「液体食品」とは液体状食品(粘性食品含む)、液体状食品と固形状食品の共存
食品をいう。たとえば調味料で味付けされた調味料入り総菜類等をいうものである。
【0019】
「調味料」とはたとえば、だし、つゆ、ソース類、醤油類、ドレッシング類、味噌類等を
示す。すなわち食品に味を付加する食品群をしめす。ドレッシングのように水層と油層が
分離しているような調味料も本願に含むものである。
【0020】
本発明の「水溶性乳化剤」とは水溶性蔗糖脂肪酸エステル、水溶性ポリグリセリン脂肪酸
エステル、水溶性リゾレシチンである。
【0021】
次に、まず本発明者が発見し本出願を行うに至った経緯を説明する。第1に、思いがけず
偶然にも、本発明の容器包装液体食品を脱酸素処理後、密閉シールし、その後間欠殺菌(
低温熱処理を期間をおいて繰り返すもの)したサンプルを、1〜2週間37℃に保存する
と、一度菌が存在(菌は存在するが増殖しない状況)または増殖するが、保存後は、ほぼ
すべての芽胞菌死滅させることができることを発見した(この効果を利用することで約10
日後に菌数を「0」として系内無菌化(系内滅菌)することは可能であるが、0になる前に
菌の存在や増殖が見られており、この存在や増殖により菌の作用の副産物が対象となる食
品の品質を劣化させる恐れが考えられる。そのため本発明者はさらに研究を進め、次の第
2、3、4の事実を発見するに至った)。第2に、この現象がグルコースや水溶性乳化剤
の存在下で発現しやすいことを発見した。第3に当該食品中の溶存酸素濃度を低減すれば
、第1に記載した「保存による菌の存在や菌の増殖過程」を経ずに、滅菌が可能であるこ
とがわかった。第4に、脱酸素処理、密閉シール後、間欠殺菌のように、低温熱処理間に
保持期間(芽胞を発芽させる保持期間をいい、37℃で24時間以下の時間、保持させる
期間をいう)を設けなくても、脱酸素後即低温熱処理を1回実施すれば、耐熱芽胞菌が滅
菌できることを発見した。
【0022】
すなわち本発明者らが到達した知見は次のようにまとめられる。容器包装液体食品中の溶
存酸素濃度を低減もしくはゼロにすると、低温熱処理後に残存する耐熱性芽胞は発芽増殖
できずに死滅する。グルコースや水溶性乳化剤が存在していると死滅がおこりやすくなる。
脱酸素処理、密閉シール後、間欠殺菌は敢えて必要なく、1回の低温熱処理で滅菌が可能
である。不思議なことではあるが、脱酸素処理、密閉シール後の低温熱処理は、本発明の
滅菌をする上で必要なプロセスと思えた(おそらく溶存酸素濃度を芽胞発芽抑制レベルま
で低下させる意味合いがあるのであろう)。
【0023】
この現象が引き起こされるメカニズムは次のように考えられる。
脱酸素処理、低温熱処理で「発芽して栄養細胞に成長した芽胞菌」は死滅し耐熱性芽胞の
みが残る。この残存芽胞は上記処理により活性化(アクチベーション)が行われている。
その後芽胞はイニシエーション(ダークニングを伴う)プロセスを通過するが、酸素がな
いので「発芽できない環境」におかれる。グルコースが存在すればイニシエーションしや
すくなる。それに続く発芽プロセスで酸素要求が起こる。しかし酸素がなく発芽できない
環境におかれる。この矛盾環境に置かれた芽胞は不思議にも死滅する。すなわちこの現象
を自己死滅(autosterilization)と呼ぶとすると、この自己死滅が発現する。この現象
がアポトーシスにあたるかネクローシスにあたるかは定かではない。)。
【0024】
以下さらに本発明を詳細に説明する。
「低温熱処理」についてさらに詳しく説明する。本発明の低温熱処理は密閉シール状態(
一般的にはヒートシールを施してシールし外部と本発明の液体食品の系を遮断すること)
で行われる。低温熱処理温度は60℃以上が好ましいが一般的には沸騰水に浸漬し、95
℃で30分間保持する。この低温熱処理により酸素が理想状態まで除去されると考えられ
る。脱酸素処理後の溶存酸素が多目(5mg/L前後)のときはグルコースや水溶性乳化剤を
液体食品に添加して低温熱処理することにより溶存酸素濃度を理想状態まで低減すること
ができる。当該低温熱処理は溶存酸素を理想状態まで低減し、「芽胞が利用できる形で存
在する酸素」を無くすための重要なプロセスである。おそらくメイラード反応等がおこり
酸素を理想状態まで低減させるものと考えられる。
【0025】
「低温熱処理」と「脱酸素処理」の処理は芽胞を加熱で活性化することも本プロセスの目
的である。この加熱処理の外に、還元物質、PH、蒸気、アルコール、加齢(芽胞齢)でも
発芽促進されるので系内に還元物質、アルコール等を添加してもよいし、水素イオン濃度
調整、蒸気吹き込み等を行うことも可能である。
【0026】
「脱酸素処理」さらに詳しく説明する。脱酸素処理は一般的には沸騰状態で10分から3
0分間脱酸素処理をしたのち、空気中の酸素を吸収しないように即シールする方法を行う
が熱劣化しやすい食品の場合は温度をかけないように減圧下で脱酸素を実施してもよい。
その他の脱酸素処理にはグルコースオキシターゼ等の酸素吸収または脱酸素剤を添加する
方法もある。また窒素ブローしてもよいが菌コンタミに注意すること。脱酸素工程の工業
化に当たっては容器包装充填前にタンクを設置し、このタンクに充填前の当該食品(調味
料等)をためて、沸点近くまたは沸点まで加熱して、溶存酸素を追い出すことにより脱酸
素が可能となる。タンクは空気のコンタミを避けるため窒素等の不活性ガスでシールする
とよい。窒素等不活性ガスを食品内に吹き込みバブリングさせると脱酸素が加速される。
当該設置タンクで脱酸素した後、空気にできるだけ接触しないように容器包装する(たと
えば縦ピロー包装は平衡する気相が存在しないので好ましい)。以上のように容器包装食
品の系内にコンタミする空気量を極力減少させる方法の外、脱酸素状態を作る方法として
容器包装のヘッドスペースに窒素等不活性ガスを満たして酸素コンタミ除去する方法もあ
る。この場合流通中も同不活性ガスを充填して流通する。製造後、流通、消費に至る前に、
酸素が系内に侵入することを避けるためには、使用する容器包装の材質は既に述べたよう
に難酸素透過性のフィルム等の空気を通過させない包装材料を使用するのが好ましい。ア
ルミラミネートは最も効果的な包材である。その他酸素透過性の低い素材を使用するとよ
い。
【0027】
「水溶性乳化剤」についてさらに詳細に説明する。添加量は1.0%では溶解しにくいの
で、0.5%前後が好ましい。0.05%では、系内に存在する溶存酸素濃度にもよるが
、効果は少なくなる。当該乳化剤を添加すれば95℃1分という極めて緩和な低温熱処理条
件でも効果が発現できるのは驚きである。なおこれら乳化剤の添加によって食品(調味料
等)の味・風味・香り変化は認められず、本来の味・風味香りが維持されることが確認さ
れた。当該乳化剤の働きは「酸素を自ら捕らえて溶存酸素濃度を低減する効果」「グルコ
ースと酸素との反応を起こりやすくする触媒作用」「グルコースを巡る競合反応を調整す
る働き」「芽胞の表面から水を進入し易くする働き」「自己滅菌が起こりやすくなる」等
が考えられる。メカニズムとして想像されることは、芽胞表面から水を進入し易くし、発
芽惹起時に水が細孔を通って、芽胞内部に侵入し発芽惹起を起こしやすくすることが想像
される。芽胞の耐熱性は芽胞内に水分が少ないことで達成されているのでこの水侵入でこ
の耐熱性喪失も起こることが考えられる。本発明の効果を示す水溶性乳化剤が「レトルト
総菜の殺菌促進」や「レトルトコーヒー飲料の制菌」に使われている乳化剤と同じタイプ
の乳化剤であり、かつまた本発明効果が「脱酸素下」においてのみ発現することは思いも
寄らない発見であった。
【発明の効果】
【0028】
花粉症を含むアレルギーや癌は現代人を悩ます病気である。老人化社会の到来でこれら病
はさらに問題化される。年を経るに従って人間のもつ酵素作用が弱まってくる。たんぱく
質の分解酵素も作用が弱まるためペプチドまでしか分解されない。腸管から吸収されたペ
プチドが花粉症等のアレルギーを誘引する。酵素作用が脆弱化した人は不足酵素を外部か
ら取得することが必要になる。また抗酸化物質も同様である。癌を引き起こす酸素ラジカ
ルをキャッチするこの抗酸化物質も老齢化とともに少なくなり、外部から取得する必要が
ある。現在常温流通している食品は、レトルトや無菌充填等高温加熱処理しているため、
酵素は失活され、また抗酸化物質は無くなってしまっている。自然界に存在しない環境下
での処理が人間の身体に良いはずがない。食品から取得すべき酵素や抗酸化物質が取得で
きず、そのためアレルギーや癌を誘発する。本発明の食品は低温処理しか施しておらず、
酵素や抗酸化物質を含有しているため、喫食による当該物質の取得を可能にする。本発明
はこれら現代病を予防する大きな効果を有する。
【0029】
いわずもがなのことであるが、高温殺菌を使用せずとも、低温処理のみで常温流通ができ
るため、食品のおいしさが維持できる。
【0030】
また冷蔵や冷凍流通をしないため、流通過程での冷蔵、冷凍倉庫が不要になり、また工場
や家庭での解凍等の取扱が容易になり、革新的効果が期待できる。
【0031】
もう1つの効果は非加熱食品への効果である。非加熱食品を冷蔵や常温流通させるには当
該非加熱食品の水素イオン濃度や水分活性等の基礎物性を、目的とする流通温度帯を可能
とする物性に調整せねばならず、そのため味風味が犠牲となっていた。本発明は、本発明
のように、非加熱食品中の酸素濃度を極端に減少させるまたは皆無にすること、場合によ
っては低温の加熱をかけることにより、如何なる非加熱食品であっても常温流通させるこ
とができる可能性を示唆している。この場合、問題となるのは嫌気性菌であるが、当該非
加熱食品の酸化還元電位を100mV以上にする手段を加えることでこの問題が解決できる
のではないかと推察する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
腐敗性のある「低温殺菌では常温流通できない商品」を常温流通させるため、対象となる
液体食品を脱酸素処理し、難酸素透過性容器包装密閉シール後、低温熱処理を行い、溶存
酸素濃度をほぼゼロにして、常温流通する。当該液体食品内に糖や水溶性乳化剤を添加す
ると効果的である。以下実施例で効果と実施態様を説明する。
【0033】
以下調味料で最も菌が増殖しやすく変敗しやすい「白だし」を、また食品の中で最も腐敗
しやすいものの1つである「牛乳」について実施例をあげて本発明の効果をしめす。あく
まで例示であり、本発明の精神がこれらの例示によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
低温殺菌における脱酸素とグルコース添加の共存効果について実施例1で示す。
【0035】
実施例1で使用する白だしの製造方法を示す。昆布10部に水1300部を加え浸漬したのち90
℃まで加熱後昆布を引き上げ、続いて節150部を投入し90℃で10分加熱する。その後塩20
部を入れ、90℃で5分保持する。冷ました後、節をろ過して白だしとした。その後各記載
の袋に、300ml充填しサンプルの原体とした。物性を測定したところ水分活性0.99、
水素イオン濃度6.0、ブリックス1.15であった。
【0036】
脱酸素処理の操作方法は上記明細書に記載したように100℃前後に加熱した状態で水蒸気
とともに溶存酸素も追い出し、その後シールした。シール後尚かつ残留する空気を液部を
シールしシールの上方と下方に区分することで空気を系外に除いた。空気入りサンプルは
高周波ヒートシール機で空気が自然に混入した状態でシールしたものである。低温熱処理
条件は表1に示す殺菌条件と保持条件項に記載した間欠殺菌を使用した。
【0037】
使用した容器であるアルミラミとはアルミをラミネートしたレトルトパウチ袋である。ナ
イロン/ポリエチレン(NY/PE)袋とはナイロンとポリエチレンをラミネートした袋である。
表1は実験結果を示している。殺菌操作と保持操作の項に温度と時間を記載した。+は左
から右に操作を連続して行うことを示す。保存は最も菌が増殖しやすい37℃に保存して下
表のように日にち経過とともに菌数変化を測定した。グルコースの添加による味変化はな
かった。
【0038】
結果は表1のように「殺菌後の一般菌」に保存開始時の菌数を記載した。10日と2週間保
存後の菌数を記載したが、備考に記載したように「空気なし」と「グルコース添加」の両
者を同時に実施したときにはじめて滅菌が行われることが判明した。実施例1では脱酸素
時の溶存酸素濃度は6mg/Lであり、グルコースを添加した系のみで溶存酸素濃度が理想状
態まで低減されたのであろう。
【表1】

【0039】
(比較例1)
空気がある場合、85℃低温熱処理および低温間欠殺菌時での菌の推移を調べた。
【0040】
サンプルの項で記載した植菌とは、工場落下耐熱菌、製品から釣菌された耐熱菌のコロニ
ーをシャーレ上に生成させ、このコロニーから釣菌して生理食塩水に分散させた。測定す
ると1.5*103個/mlの菌数を示した。白だしの作り方は実施例1と同様な方法で100L
の装置で製造した。開発品は手鍋で同様の組成、温度で作成した。
【0041】
比較例1を実施した結果、気相に空気があり、グルコースがない状態では滅菌はされない
ことが判明した。
【表2】

【実施例2】
【0042】
白だしに脱酸素処理をしてグルコース添加した場合、低温熱処理の条件により、自己死滅
(滅菌)が発現されるかを調べた。実施例1表1最下段と全く同様なサンプルを作成し「
殺菌条件と保持条件」に記載したような条件で殺菌し、最下段実験の再現性を確認すると
ともに、間欠殺菌でなく、1回だけの低温熱殺菌で自己死滅(滅菌)されるかどうかを確
かめた。その結果、実施例1最下段の再現性が確認された。間欠殺菌を行わなくても、1回
の低温熱処理でも10日後に滅菌が発現することが判明した。
【表3】

【実施例3】
【0043】
低温熱処理条件を「97℃*1分の間欠殺菌」と緩和した場合、滅菌ができるか。またその
系に乳化剤を添加した場合、滅菌することができるか、少し強い「95℃30分の間欠殺菌」
の場合は97℃*1分の間欠殺菌と比べて滅菌の程度はどうなるか、また、菌を植菌し幅広
い菌種の菌叢であった場合は滅菌させることはできるかを実験で確かめた。
【0044】
各操作法は実施例1、2を参照してほしい。乳化剤は蔗糖脂肪酸エステルを使用した。脂肪
酸エステルとは三菱化学(株)製リョートーシュガーエステルS-1570、S-770、S-370の3種
を使用した。この中で水溶性ショ糖脂肪酸エステルはS-1570であり、実験5ではこの乳化
剤を使用した。
【0045】
実験結果として乳化剤添加は味変化もなく、また97℃1分の緩和な殺菌でも10日後には滅
菌された。さらに95℃30分の処理で、保存当初から滅菌されていた。乳化剤を添加せず植
菌しない系では、97℃1分の緩和な低温殺菌では10日後でも滅菌がおこらないが、95℃30
分の殺菌では11日後に滅菌させることができた。植菌されたサンプルは滅菌させることが
できなかった。この実験では溶存酸素濃度は測定しなかったが同濃度が理想状態まで低減
されていれば滅菌できる可能性がある。
【表4】


【表5】

【0046】
(比較例2)
本発明で脱酸素処理されていない場合、乳化剤の添加の効果はあるのかを実験で確かめた
(操作は実施例1、2を参照してほしい)。結果として乳化剤を使用しても空気があればそ
の効果はでないことがわかった。
【表6】

【実施例4】
【0047】
いままでの実験で乳化剤に効果を見出せたが、乳化剤を使わず、低温熱処理に間欠殺菌を
採用した場合、滅菌することが出来るかを本実験で確かめた(操作は実施例1、2を参照し
てほしい)。結果として、実験1のように8時間と16時間の間欠殺菌後、1日毎に殺菌を繰
り返すような頻度の頻繁な間欠殺菌をすれば菌の滅菌は発現される。実験2で解るように8
時間*37℃の保持条件を実施すれば、僅か2回の間欠殺菌で滅菌発現は可能となる。空気混
在系とは脱酸素後故意に平衡状態となる空気を混在させたものである。空気があると増殖
が見られる。
【表7】

【0048】
(比較例3)
包材に難酸素透過性以外の包材を使用した場合、滅菌させることが可能かの実験を行った
。その結果いずれも間欠殺菌も滅菌発現は不可能であった。
【表8】

【実施例5】
【0049】
白だしの代わりに腐敗性食品である牛乳を使った場合、間欠殺菌を低温熱処理手段として
使い、さらにこの間欠殺菌に乳化剤を添加した場合、滅菌はできるのかを実験で確かめた
(操作は実施例1、2を参照してほしい)。その結果、本発明の滅菌は、対象となる商品
が牛乳であっても、十分滅菌できることがわかった。
【表9】

【実施例6】
【0050】
液体食品でもっとも腐敗性の高い白だし、牛乳を使って、低温熱処理条件を確認した。第
1に低温熱処理として間欠殺菌を実施した場合、および低温熱処理を間欠殺菌ではなく、
脱酸素処理後、1回の低温熱処理(間欠殺菌は実施しなかった)を行った場合、無添加、
グルコース添加、乳化剤添加の各ケースで滅菌できるかどうかを調べた。第2に比較とし
て低温熱処理を行わない場合(脱酸素のみで)滅菌がどのように行われるかを実験でしら
べた。なお本実施例の脱酸素処理条件は、アルミラミに対象食品をいれシールしたのち、
20%の飽和食塩水を使って加熱し、アルミラミ袋が膨張してから、シール上面の一方を
カットし水蒸気を噴出させた。この対象食品の沸騰状態を20分保った後、カット部をピ
ンセットで押さえ空気と遮断し、その後ヒートシールした。同様の脱酸素処理を水道水を
使って行い、隔膜電極法を使って溶存酸素濃度を測定したところ1mg/L以下であった。(
表8)に実験結果を示す。なお表中空気の入った系とは敢えて空気がほんの僅か混入した
比較用サンプルを作り(酸素量は測定しなかった)、このサンプルの菌数を測定
した結果を示すものである。
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0051】
容器包装加工食品のおいしさ、風味、色調を維持しながら、常温流通を可能にする。従来
はレトルト殺菌、無菌充填等を使わなければ常温流通できなかった食品類が本発明により
低温殺菌を施しただけで常温流通できるようになる。食品流通に大きな変化をもたらす。
【0052】
もう一つの利用可能性として、全世界的規模の問題となっている地球温暖化がある。議定
書に基づき各国は排出ガス規制を行っている。日本に於いても然りであり、将来、企業は
燃焼等により発せられる排出ガスを規制するように迫られるであろう。食品分野において
は、冷蔵や冷凍を作り出すための電気エネルギー、レトルトや無菌充填等の高温処理をす
るためのボイラー燃焼エネルギー等極めて多量なエネルギーを必要としている。本発明を
採用すれば、低温処理のみで常温流通が可能となるため、エネルギー消費が極めて少量と
なる。その結果、排出ガスが削減され、温暖化抑制に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡状態にある気相中に酸素が存在しないかあるいは気相そのものが存在しない容器包装
食品であって、かつ当該食品中の溶存酸素濃度が1mg/L以下である常温流通可能な加熱済
腐敗性容器包装液体食品
【請求項2】
脱酸素処理した後、密閉シールし、その後低温熱処理した容器包装食品であって、かつ当
該容器包装食品と平衡状態にある気相中に酸素が存在しないかあるいは気相そのものが存
在しない常温流通可能な腐敗性容器包装液体食品
【請求項3】
当該食品中に糖および/または親水性乳化剤を含有する組成を有する特許請求の範囲第1項
および第2項の容器包装液体食品
【請求項4】
食品が調味料である、特許請求の範囲第1項および第2項の容器包装液体食品。
【請求項5】
糖がグルコースである、特許請求の範囲第3項の容器包装液体食品。
【請求項6】
低温熱処理が大気圧下の加熱処理である、特許請求の範囲第2項の容器包装液体食品。
【請求項7】
脱酸素処理が大気圧下加熱処理または減圧下の沸騰処理である、特許請求の範囲第2項の
容器包装液体食品。
【請求項8】
容器が酸素難透過性容器である、特許請求の範囲第1項および第2項の容器包装液体食品。
【請求項9】
容器が酸素難透過性フィルムである、特許請求の範囲第1項および第2項の容器包装液体
食品。


【公開番号】特開2008−259455(P2008−259455A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105089(P2007−105089)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(307006790)
【Fターム(参考)】