説明

平台の枚葉印刷機

【課題】印刷版上の残存インキを効率的に再利用できる平台の枚葉印刷機を提供すること。
【解決手段】本発明の平台の枚葉印刷機は、印刷版21が載置される印刷版定盤16と、印刷版定盤16に載置された印刷版21上にインキを供給するインキ供給装置26と、印刷版21上を接触しながら平行移動可能であって、インキ供給装置26によって印刷版上に供給されたインキを印刷版21に塗り付けるようになっている第1ドクター11と、第1ドクター11の通過後の印刷版21に対して回転走行可能なブランケットユニット40と、印刷版21上を接触しながら平行移動可能であって、ブランケットユニット40の通過後に印刷版21上に残存するインキを印刷版21に再び塗り付けるようになっている第2ドクター12と、を備える。第2ドクター12の印刷版21に対する接触圧力は、一定である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版からブランケットユニットを介してワークへとインキを転移させる平台の枚葉印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フレームと、フレーム上に配置されるとともに印刷版が載置される印刷版定盤と、フレーム上に配置されるとともにワーク(例えば、有機ELに用いられる有機層を載置するためのガラス基板やフィルム基板など)が載置されるワーク定盤と、ブランケット胴及び当該ブランケット胴に巻かれたブランケットを有するブランケットユニットと、を備えた印刷機が知られている。
【0003】
また、フレームの側方には、ラックベースを介してラックが設けられており、ブランケット胴には当該ラックに係合可能なピニオンが設けられている。このような印刷機では、ブランケット胴を回転させることによってピニオンがラック上で回転移動できる。これにより、ブランケットユニットはフレームに対して水平方向に移動でき、この際に、ブランケットユニットからワークへとインキ(塗料)が転移される(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−34490号公報
【特許文献2】特開平5−69650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の印刷機において、インキは、ドクターと呼ばれる部材で印刷版上に充填される。当該ドクターにより、インキは、ブランケットへの転移にとって好適な状態で印刷版上に充填される。その後、印刷版上をブランケットが移動することで、印刷版上に充填されたインキはブランケットへと転移される。そして、ブランケットからワークへとインキが転移されることで、1回の印刷工程が終了する。
【0006】
この状態で、ブランケット上には、ワークに転移されなかったインキが残っている。この残存インキを除去しないで、連続的にブランケットを利用する場合には、残存インキの存在のために膜厚ムラが発生して、均一な印刷面が得られないおそれがある。また、印刷版上においても、ブランケットに転移されなかったインキが残っている。この残存インキを除去しないで、連続的に印刷版を利用する場合には、残存インキの存在のために膜厚ムラが発生して、やはり均一な印刷面が得られないおそれがある。
【0007】
ブランケット上の残存インキの除去については、ブランケットを洗浄するブランケット洗浄装置が知られている。ブランケット洗浄装置によるブランケット洗浄は、ある程度の時間を要する。この時間を利用して、印刷版上の残存インキを除去するという対応が考えられてきた。しかしながら、印刷版上に展延されるインキのうち、ブランケットに転移するのは約50%程度に過ぎない。すなわち、1回の印刷工程の度に印刷版上の残存インキを除去することは、インキの使用効率が1/2以下となってしまって、好ましくない。
【0008】
本発明は、このような事情に基づいて行われたものであり、その目的は、印刷版上の残存インキを効率的に再利用できる平台の枚葉印刷機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、印刷版が載置される印刷版定盤と、印刷版定盤に載置された印刷版上にインキを供給するインキ供給装置と、印刷版上を接触しながら平行移動可能であって、インキ供給装置によって印刷版上に供給されたインキを印刷版に塗り付けるようになっている第1ドクターと、第1ドクターの通過後の印刷版に対して回転走行可能であって、ブランケット胴と、当該ブランケット胴に巻かれたブランケットと、を有するブランケットユニットと、印刷版上を接触しながら平行移動可能であって、ブランケットユニットの通過後に印刷版上に残存するインキを印刷版に再び塗り付けるようになっている第2ドクターと、を備え、印刷版の端部には、印刷版の他の部分から降下して傾斜した印刷版傾斜面が形成されており、第2ドクターは、印刷版傾斜面上をも、接触しながら移動可能であり、第2ドクターの印刷版に対する接触圧力は、接触部位が印刷版傾斜面上であるか否かにかかわらず、一定とされていることを特徴とする平台の枚葉印刷機である。
【0010】
本発明によれば、第2ドクターが、ブランケットユニットの通過後に印刷版上に残存するインキを印刷版に再び塗り付けるようになっているため、印刷版上の残存インキを効率的に再利用できる。具体的には、第2ドクターによって掻き取られて印刷版に再充填されるインキの量に基づいて、インキ供給装置から次の印刷工程のために供給されるインキの量を低減することができる。これは、インキに関する顕著なコストダウンを図れるということを意味する。
【0011】
また、印刷版の端部に、印刷版の他の部分から降下して傾斜した印刷版傾斜面が形成されていることにより、ブランケットユニットが印刷版から離れる際の移動工程について簡便な構成で円滑にできる。そして、印刷版傾斜面上まで移動されてきたインキを効率的に再利用するために、第2ドクターは、当該印刷版傾斜面上をも接触しながら移動可能であるべきだが、そのような場合であっても、第2ドクターの印刷版に対する接触圧力が一定であることによって、第2ドクターや印刷版が損傷するおそれが顕著に低減される。
【0012】
好ましくは、第1ドクター及び第2ドクターは、印刷版に対する接触圧力が、押し込み量ではなく、エア圧によって制御され得る。例えば、第1ドクター及び第2ドクターには、印刷版に対する接触圧力を一定に保つため、レギュレータが内蔵され得る。
【0013】
また、好ましくは、第1ドクターのインキを印刷版に塗り付ける際の平行移動方向と、第2ドクターのインキを印刷版に再び塗り付ける際の平行移動方向とは、正反対方向になっている。この場合、両部材をいわゆる往復移動させて使用する態様が採用可能である。これにより、両部材の移動に関するコストも抑制できる。具体的には、例えば、第1ドクターと第2ドクターとは、それぞれが独立に上下位置を調整可能な態様で、共通のドクターユニットに設けられ得る。
【0014】
また、第1ドクターの印刷版に対する接触部位は、第1ドクターのインキを印刷版に塗り付ける際の平行移動方向の後方側に傾斜したテーパ面を有しており、第2ドクターのインキを印刷版に塗り付ける際の印刷版に対する接触部位は、第2ドクターの平行移動方向の後方側に傾斜したテーパ面を有していることが好ましい。この場合、印刷版へのインクの充填が、効率的かつ高品質に実施される。
【0015】
また、印刷品質を高く維持するためには、ブランケットユニットを洗浄するブランケット洗浄ユニットが設けられていることが好ましい。この場合、第2ドクターは、ブランケット洗浄ユニットがブランケットを洗浄している間に、印刷版上に残存するインキを印刷版に再び塗り付けるようになっていることが好ましい。
【0016】
また、ブランケット胴及びブランケットは、フレキソ版を装着することで、フレキソ版としても使用可能であることが好ましい。その場合、いわゆるフレキソ印刷を実施することができる。(通常のスリーブなどを装着することで、グラビアオフセット印刷を実施することができることは言うまでもない。)
また、本特許出願は、上記いずれかの特徴を備えた平台の枚葉印刷機を用いた有機EL素子の製造方法をも、保護対象として求めるものである。
【0017】
また、本特許出願は、上記いずれかの特徴を備えた平台の枚葉印刷機を用いて製造された有機EL素子をも、保護対象として求めるものである。上記いずれかの特徴を備えた平台の枚葉印刷機を用いて製造された有機EL素子には、そのような印刷機を用いて製造された証として、輝度半減寿命が極めて長いという物理的特性を備えることが本件発明者によって確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態による平台の枚葉印刷機による印刷工程を概略的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態による平台の枚葉印刷機による残存インキ処理工程を概略的に示す図である。
【図3】有機ELを構成する有機層の例を示す側方断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態による平台の枚葉印刷機による印刷工程を概略的に示す図である。図1に示すように、本発明の一実施の形態による平台の枚葉印刷機は、不図示のフレーム上に配置されるとともに印刷版21が載置される印刷版定盤16と、フレーム上に配置されるとともにワーク22が載置されるワーク定盤17と、を備えている。
【0020】
有機ELや有機薄膜トランジスタ(有機TFT)に用いられる有機層では膜の均一性が要求される。本実施の形態による平台の枚葉印刷機は、そのような有機層を形成する際に用いることができる。例えば、ワーク22は、有機ELに用いられる有機層を載置するための基板を含む。このようなワーク22としては、例えば、何も載置されていないガラス基板や、有機ELや有機TFTに用いられる有機層の幾つかが既に載置されているガラス基板や、絶縁層および電極(ITOなど)が既に載置されているガラス基板や、何も載置されていないフィルム基板や、有機ELや有機TFTに用いられる有機層の幾つかが既に載置されているフィルム基板や、絶縁層および電極(ITOなど)が既に載置されているフィルム基板などを用いることができる。
【0021】
このようなガラス基板やフィルム基板などのワーク22に載置される有機層としては、例えば、発光層32、電子輸送層31、中間層34、正孔注入・正孔輸送層35などを挙げることができる(図3参照)。ここで、発光層32の厚みは80nm程であり、中間層34の厚みは20nm程であり、正孔注入・正孔輸送層35の厚みは80nm程である。以下では、ワーク22としてガラス基板を用い、当該ガラス基板22に有機ELを構成する有機層である膜を形成する場合を例にとって説明する。
【0022】
図1に戻って、本実施の形態の平台の枚葉印刷機は、印刷版定盤16に載置された印刷版21上にインキを供給するインキ供給装置26を備えている。また、印刷版21上を接触しながら平行移動可能であって、インキ供給装置26によって印刷版21上に供給されたインキを当該印刷版21に塗り付けるようになっている第1ドクター11が設けられている。
【0023】
更に、第1ドクター11の通過後の印刷版21に対して回転走行可能であって(詳しくは後述する)、ブランケット胴41と、当該ブランケット胴41に巻かれたブランケット42と、を有するブランケットユニット40が設けられている(図2参照)。
【0024】
また、印刷版21上を接触しながら平行移動可能であって、ブランケットユニット40の通過後に印刷版21上に残存するインキを当該印刷版21に再び塗り付けるようになっている第2ドクター12が設けられている。
【0025】
本実施の形態では、第1ドクター11と第2ドクター12とは、それぞれが独立に上下移動可能な態様で(上下位置を調整可能な態様で)、共通のドクターユニット13に設けられている。具体的には、第1ドクター11の下端位置のみが下端側に突出した状態(図1の状態)と、第2ドクター12の下端位置のみが下端側に突出した状態(図2の状態)と、を選択的に取ることができるようになっている。
【0026】
そして、ドクターユニット13が図1における左から右へ移動する際に、第1ドクター11がインキを印刷版21に塗り付けるようになっており、ドクターユニット13が図1における右から左へ移動する際に(図2参照)、第2ドクター12が残存インキを印刷版21に再び塗り付けるようになっている。すなわち、ドクターユニット13の往復移動を無駄なく利用するようになっている。
【0027】
また、第1ドクター11の印刷版21に対する接触部位は、図1及び図2に示すように、第1ドクター11のインク塗り付け時の移動方向の後方側に傾斜したテーパ面11aを有しており、同様に、第2ドクター12の印刷版21に対する接触部位は、第2ドクター12のインク塗り付け時の移動方向の後方側に傾斜したテーパ面12aを有している。これにより、各ドクター11、12による印刷版21へのインクの充填が、効率的かつ高品質に実施されるようになっている。
【0028】
さらに、第2ドクター12については、印刷版21に対する接触圧力を一定に保つために、レギュレータ及びエアシリンダ機構が内蔵されている。すなわち、印刷版21に対する接触部位が受ける接触圧力をシリンダ内のエアによって支持する機構を有していて、エアが変形容易な緩衝媒体として機能することにより、印刷版21上の凹凸の存在を吸収して、第2ドクター12と印刷版21との間に瞬間的に過度の圧力が生じることが効果的に防止されている。
【0029】
また、印刷版21からのブランケット42の分離移動の円滑のため、印刷版21の下流側端部に、印刷版21の他の部分から降下して傾斜した印刷版傾斜面21aが形成されている。そして、第2ドクター12は、印刷版傾斜面21a上をも、接触しながら移動可能に構成されている。ここで、「下流側」とは、ブランケットユニット40の印刷工程時の移動方向の下流側を意味している(図1及び図2の右側を意味している)。
【0030】
更に、ブランケット42からワーク22へのインキの転移の後、ブランケット42に残存するインキを除去するために、ブランケット42を洗浄するブランケット洗浄ユニット45が設けられている。そして、第2ドクター12は、コンピュータ等からなる印刷機制御装置50の制御に従って、ブランケット洗浄ユニット45がブランケット42を洗浄している間に、印刷版21上に残存するインキを印刷版21に再び塗り付けるようになっている。
【0031】
その他、図示は省略されているが、フレームの側方には、ラックベースを介してラックが設けられている。また、ブランケットユニット40のブランケット胴41には、当該ラックに係合可能なピニオンが設けられている。これにより、当該ピニオンとラックとの係合を利用しつつ、ブランケット胴41を回転させることによって、ピニオンがラック上で回転移動して、ブランケットユニット40がフレームに対して水平方向に移動できるようになっている。
【0032】
次に、このような構成からなる本実施の形態の印刷機の作用について述べる。
【0033】
まず、インキ供給装置26によって、印刷版定盤16上に載置された印刷版21上にインキが供給される。
【0034】
次に、第1ドクター11が、印刷機制御装置50の制御によって、印刷版21の上方の退避エリア(印刷版21と非接触の状態)から下降してきて、印刷版21の上面に当接する(この時、第2ドクター12の下端位置は、第1ドクター11の下端位置よりも上方に調整されて、第2ドクター12は印刷版21の上面に当接しない)。そして、第1ドクター11は、印刷機制御装置50の制御によって、当該印刷版21上を接触しながら水平方向に(図1の左から右方向に)略等速で平行移動し、印刷版21上に供給されたインキを当該印刷版21に塗り付ける(印刷版21の凹パターン部にインキが充填される)。第1ドクター11は、印刷版21の凹パターン部を通過した後、再び退避エリアへと上昇する。本実施の形態では、以上の第1ドクター11の移動は、すべてドクターユニット13の移動と一体的に実施される。
【0035】
次に、第1ドクター11の通過後の印刷版21に対して、ブランケットユニット40が、印刷機制御装置50の制御によって、印刷版21の上方の退避エリア(印刷版21と非接触の状態)から下降してきて、印刷版21の上面に当接する。この時、ブランケットユニットのピニオンとフレームのラックとが係合される。そして、ブランケット胴41が回転されることによって、ピニオンがラック上で回転移動して、ブランケットユニット40がフレームに対して水平方向(図1の右方向)に移動していく。この移動の過程で、印刷版21上のインキがブランケット42上に転移(受理)される。
【0036】
その後、ブランケットユニット40は、印刷版21を離れて、ワーク定盤17上のワーク(ガラス基板)22に達する。印刷版21を離れる際、印刷版傾斜面21aが設けられていることにより、ラックに突発的な力が加わること等が防止されて、ブランケットユニット40の移動は円滑である。
【0037】
そして、ブランケット42に転移(受理)されたインキは、ワーク定盤17に載置されたワーク22へと転移されていく。これにより、ワーク22への印刷工程(パターン転写工程)が実施される。
【0038】
ワーク22への印刷工程が終了した後、ブランケットユニット40は、ブランケット洗浄ユニット45による洗浄位置へと移動する。ブランケットユニット40の当該移動が終了した後、ブランケット洗浄ユニット45が、印刷機制御装置50の制御によって、上方の退避エリア(ブランケット42とは接触不可能な高さ)から下降してきて、ブランケット42の上面に当接する。そして、ブランケット洗浄ユニット45によるブランケット42の洗浄工程が開始される。
【0039】
このブランケット42の洗浄工程中に、図2に示すように、ドクターユニット13が初期位置へと戻っていく。この戻り移動の際に、第2ドクター12が、印刷機制御装置50の制御によって、印刷版21の上方の退避エリア(印刷版21と非接触の状態)から下降してきて、印刷版傾斜面21aの上面に当接する(この時、第1ドクター11の下端位置は、第2ドクター12の下端位置よりも上方に調整されて、第1ドクター11は印刷版傾斜面21aの上面に当接しない)。そして、第2ドクター12は、印刷機制御装置50の制御によって、当該印刷版傾斜面21aの上面と接触しながら当該傾斜面21aを登るように移動し、更に印刷版21の上面と接触しながら水平方向に(図1の右から左方向に)略等速で平行移動して、印刷版傾斜面21a上及び印刷版21上に残存していたインキを印刷版21に再び塗り付ける(印刷版21の凹パターン部にインキが充填される)。
【0040】
ここで、印刷版傾斜面21aを登るような第2ドクター12の移動については、印刷機制御装置50によって、印刷版傾斜面21aの具体的な傾斜形状に合わせて制御されるが、残存インキの存在等に起因して、実際の第2ドクター12の移動軌道には乱れが生じる可能性がある。しかしながら、本実施の形態では、第2ドクター12にレギュレータ及びエアシリンダ機構が内蔵されているため、当該エアシリンダ機構内のエアが印刷版傾斜面21a上の残存インキによる凹凸の存在等を吸収して、第2ドクター12と印刷版傾斜面21aとの間に瞬間的に過度の当接圧力が生じることが効果的に防止される。これにより、第2ドクター12や印刷版傾斜面21aが損傷するおそれが顕著に低減される。また、第2ドクター12によるインクの回収(掻き取り)効果も円滑になって、好ましい。
【0041】
同様に、印刷版21上の水平移動についても、残存インキの存在等に起因して、実際の第2ドクター12の移動軌道には乱れが生じる可能性がある。しかしながら、本実施の形態では、第2ドクター12にレギュレータ及びエアシリンダ機構が内蔵されているため、当該エアシリンダ機構内のエアが印刷版21上の残存インキによる凹凸の存在等を吸収して、第2ドクター12と印刷版21との間に瞬間的に過度の当接圧力が生じることが効果的に防止される。これにより、第2ドクター12や印刷版21が損傷するおそれが顕著に低減される。また、第2ドクター12によるインクの回収(掻き取り)効果も円滑になって、好ましい。更に、第2ドクター12による印刷版21へのインクの塗り付け効果も円滑となって、好ましい。
【0042】
第2ドクター12は、印刷版21の凹パターン部を通過した後、退避エリアへと上昇して、最初の初期位置に復帰する。本実施の形態では、以上の第2ドクター12の移動は、すべてドクターユニット13の移動と一体的に実施される。
【0043】
本実施の形態では、特に、第2ドクター12が、印刷版21上の水平移動の前に、印刷版傾斜面21aに対して接触しながら移動可能となっている。従って、第1ドクター11によって印刷版傾斜面21a上まで移動されてきたインキを、効率的に再利用することができる。
【0044】
以上の通り、本実施の形態によれば、第2ドクター12が、ブランケットユニット40の通過後に印刷版21上に残存するインキを印刷版21に再び塗り付けるようになっているため、印刷版21上の残存インキを効率的に再利用できる。具体的には、第2ドクター12によって掻き取られて印刷版21に再充填されるインキの量に基づいて、インキ供給装置26から次の印刷工程のために供給されるインキの量を低減することができる。これにより、インキに関する顕著なコストダウンを図れる。
【0045】
また、印刷版21の端部に、印刷版21の他の部分から降下して傾斜した印刷版傾斜面21aが形成されていることにより、ブランケットユニット40が印刷版21から離れる際の移動工程を、簡便な構成でありながら、極めて円滑に実現できる。そして、印刷版傾斜面21a上まで移動されてきたインキを効率的に再利用するために、第2ドクター12は、当該印刷版傾斜面21a上をも接触しながら移動可能であるが、第2ドクター12の印刷版21に対する接触圧力が一定とされていることにより、第2ドクター12や印刷版21(印刷版傾斜面21aを含む)が損傷するおそれが顕著に低減されている。
【0046】
また、第1ドクター11によってインキを印刷版21に塗り付ける工程と、第2ドクター12によってインキを印刷版21に再び塗り付ける工程とが、ドクターユニット13の往復移動を利用することで実施されるため、両部材の移動に関するコストを抑制できる。
【0047】
また、第2ドクター12は、印刷機制御装置50の制御によって、ブランケット洗浄ユニット45がブランケット42を洗浄している間に印刷版21上に残存するインキを印刷版21に再び塗り付けるようになっている。従って、全体の処理時間の短縮が図れる。また、印刷版21上のインキに対して第1ドクター11及び第2ドクター12が適度な時間間隔で接触することは、印刷版21上のインキの乾燥を防ぐという副次的な効果もある。
【0048】
この乾燥防止効果を重くみて、第2ドクター12によってインキを再び塗り付けた後に更に、第1ドクター11によるインキの塗り付けと第2ドクター12によるインキの塗り付けとを、ブランケット42の洗浄工程中に繰り返してもよい(ブランケット42の洗浄工程中に、新たなインキを供給しないまま、ドクターユニット13が更なる往復移動を行うことになる)。
【0049】
以上の実施の形態においては、レギュレータ及びエアシリンダ機構は第2ドクター12のみに内蔵されているが、第1ドクター11にも内蔵されてよい。その場合、第1ドクター11のエアシリンダ機構内のエアが印刷版21上のインキによる凹凸の存在等を吸収して、第1ドクター11と印刷版21との間に瞬間的に過度の当接圧力が生じることが効果的に防止される。これにより、第1ドクター11や印刷版21が損傷するおそれが顕著に低減される。また、第1ドクター11による印刷版21へのインクの塗り付け効果も円滑となる。第1ドクター11のエアシリンダ機構のエア圧力と、第2ドクター12のエアシリンダ機構のエア圧力とは、同一である必要はなく、個別に調整され得る。更には、より簡便な一態様として、ドクターユニット13が全体として一組のレギュレータ及びエアシリンダ機構を有するという構成も採用されてよい。
【0050】
なお、本実施の形態の平台の枚葉印刷機を用いて製造された有機EL素子は、輝度半減寿命が極めて長いという物理的特性を備えることが本件発明者によって確認されている。より具体的には、本実施の形態を用いてグラビアオフセット印刷として赤色発光素子を製造した場合、電流効率0.82Cd/A、輝度半減寿命10000h、を達成することができた。この輝度半減寿命は、スピンコート法によって同様の素子を製造した場合(電流効率0.8Cd/A、輝度半減寿命6000h)よりも、極めて長い。さらに、本実施の形態を用いてフレキソ印刷として赤色発光素子を製造した場合、電流効率0.83Cd/A、輝度半減寿命11000h、を達成することができた。
【符号の説明】
【0051】
11 第1ドクター
11a 傾斜面
12 第2ドクター
12a 傾斜面
13 ドクターユニット
16 印刷版定盤
17 ワーク定盤
21 印刷版
21a 印刷版傾斜面
22 ガラス基板(ワーク)
26 インキ供給装置
31 電子輸送層
32 発光層
34 中間層
35 正孔注入層・正孔輸送層
40 ブランケットユニット
41 ブランケット胴
42 ブランケット
45 ブランケット洗浄ユニット
50 印刷機制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷版が載置される印刷版定盤と、
印刷版定盤に載置された印刷版上にインキを供給するインキ供給装置と、
印刷版上を接触しながら平行移動可能であって、インキ供給装置によって印刷版上に供給されたインキを印刷版に塗り付けるようになっている第1ドクターと、
第1ドクターの通過後の印刷版に対して回転走行可能であって、ブランケット胴と、当該ブランケット胴に巻かれたブランケットと、を有するブランケットユニットと、
印刷版上を接触しながら平行移動可能であって、ブランケットユニットの通過後に印刷版上に残存するインキを印刷版に再び塗り付けるようになっている第2ドクターと、
を備え、
印刷版の端部には、印刷版の他の部分から降下して傾斜した印刷版傾斜面が形成されており、
第2ドクターは、印刷版傾斜面上をも、接触しながら移動可能であり、
第2ドクターの印刷版に対する接触圧力は、接触部位が印刷版傾斜面上であるか否かにかかわらず、一定とされている
ことを特徴とする平台の枚葉印刷機。
【請求項2】
第1ドクター及び第2ドクターは、印刷版に対する接触圧力が、エア圧によって制御されている
ことを特徴とする請求項1に記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項3】
第1ドクター及び第2ドクターは、印刷版に対する接触圧力を一定に保つため、レギュレータが内蔵されている
ことを特徴とする請求項2に記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項4】
第1ドクターの、インキを印刷版に塗り付ける際の平行移動方向と、第2ドクターの、インキを印刷版に再び塗り付ける際の平行移動方向とは、正反対方向になっている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項5】
第1ドクターと第2ドクターとは、それぞれが独立に上下位置を調整可能な態様で、共通のドクターユニットに設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項6】
第1ドクターの印刷版に対する接触部位は、第1ドクターのインキを印刷版に塗り付ける際の平行移動方向の後方側に傾斜したテーパ面を有しており、
第2ドクターの印刷版に対する接触部位は、第2ドクターのインキを印刷版に塗り付ける際の平行移動方向の後方側に傾斜したテーパ面を有している
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項7】
ブランケットを洗浄するブランケット洗浄ユニットが更に設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項8】
第2ドクターは、ブランケット洗浄ユニットがブランケットを洗浄している間に、印刷版上に残存するインキを印刷版に再び塗り付けるようになっている
ことを特徴とする請求項7に記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項9】
ブランケット胴及びブランケットは、フレキソ版を装着することで、フレキソ版としても使用可能である
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の平台の枚葉印刷機。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の平台の枚葉印刷機を用いる
ことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の平台の枚葉印刷機を用いて製造された
ことを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148272(P2011−148272A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13465(P2010−13465)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】