説明

平版印刷版の作製方法及び平版印刷版作製セット

【課題】 厚さの薄いインク層を有するインクリボンを用いた場合にもインク層の転写性が良好で、インク層の定着性に優れ、耐刷性の優れた刷版を作製することができる平版印刷版の作製方法を提供する。
【解決手段】 熱溶融転写記録媒体のインク層を平版印刷用刷版材料の画像受理層に所定パターンで転写させて平版印刷版を作製する方法において、前記熱溶融転写記録媒体として、前記インク層の厚さが4μm以下のものを用い、前記平版印刷用刷版材料として、前記画像受理層の表面粗さ(JIS-B0601-1994)が算術平均粗さRaで0.15μm以上且つ十点平均粗さRzで1.00〜3.00μmであるものを用いることを特徴とする平版印刷版の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱溶融転写記録媒体(インクリボン)を用いた熱溶融転写記録法により平版印刷用刷版(以下、刷版という場合もある)を作製するための材料に対しパターンを転写させて平版印刷版を作製する方法と、平版印刷版作製セットとに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターから画像信号を印画紙やリスフィルムに出力することなく、サーマルヘッドや赤外線半導体レーザーを使用したデジタル出力機により直接製版する製版方法が提案されている。このような直接製版方法の一つに、熱溶融転写記録媒体(インクリボン)を用いた熱溶融転写記録法による刷版作製法が知られている(特許文献1等)。
【0003】
インクリボンを用いた熱溶融転写の場合、インク層の転写性や定着性が十分でないと、製版、印刷に供したときに、ベタ画像部の白抜けや細線や小網点の脱落等耐刷性が不足する問題があり、平版印刷用刷版材料としてはインクリボンのインク層の転写性及び定着性のよいことが望まれる。しかし、一般に平版印刷用刷版材料の表面は保水性を持たせるために、ある程度の凹凸を設けており、このような凹凸はインクリボンのインク層の転写性を低下させる原因となる場合もある。また平版印刷用刷版材料の表面を予め親水化処理し、製版後の不感脂化処理を不要とした材料(以下、ノンエッチタイプの材料という)を用いた場合には、インクリボンのインク層の定着性が劣り、上述した印刷性能の低下が問題であった。
【0004】
一方、熱溶融転写記録法においては高解像度の印字を得るためにインクリボンとしてインク層の膜厚が薄いものが使われるようになってきており、熱溶融転写記録法を利用した刷版作製法でも、このようなインク層の膜厚が薄いインクリボンを使用すれば、高解像度の印刷物を得ることができると考えられる。
【0005】
しかし、このようにインク層の膜厚が極めて薄いインクリボンを使用して、上述のように表面に凹凸のある平版印刷用刷版材料の表面に転写すると、凸部分がインク層から突き出て、印刷物のベタ画像部の白抜けが発生したり、非画像部における凸部分がインク層表面をけずりとり、非画像部の凸部分に対応して印刷物に地汚れを生じさせるなどの転写性の低下を招き良好な印刷画像を得ることができないという問題が生じた。
【0006】
特に画像部におけるこの問題は、画像受理層のバインダーとして熱硬化性の水溶性樹脂を用いたノンエッチタイプの材料において特に問題となっている。それは熱可塑性樹脂を用いた材料ではインク層転写の際のサーマルヘッドの熱と圧力によって、凹凸がある程度平滑化されるのに対し、熱硬化性の水溶性樹脂では熱と圧力によって凹凸形状の平滑化が少ないためと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−16420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、厚さの薄いインク層を有するインクリボンを用いた場合にもインク層の転写性が良好で、インク層の定着性に優れ、耐刷性の優れた刷版を作製することができる平版印刷版の作製方法と、これに用いる平版印刷版作製セットとを提供することを目的とする。また本発明は、保水性に優れ、製版後の不感脂化処理が不要であって、しかもインクリボンの定着性に優れた平版印刷版の作製方法と、これに用いる平版印刷版作製セットとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明者らは、平版印刷版を作製する際に用いる平版印刷用刷版材料の表面形状について鋭意研究した結果、保水性については一般に使用される表面粗さの尺度である算術平均粗さRaと相関があり、画像受理層を構成する材料に応じて所定の算術平均粗さRaの範囲で良好な保水性を得ることができるが、インクリボンのインク層の転写性については算術平均粗さRaは必ずしもその良否に反映せず、十点平均粗さRzとの相関があること、この十点平均粗さRzを所定の範囲とすることにより、良好な転写性、定着性が得られ、しかも保水性が確保できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
即ち本発明によれば、熱溶融転写記録媒体のインク層を平版印刷用刷版材料の画像受理層に所定パターンで転写させて平版印刷版を作製する方法において、前記熱溶融転写記録媒体として、前記インク層の厚さが4μm以下のものを用い、前記平版印刷用刷版材料として、前記画像受理層の表面粗さ(JIS-B0601-1994)が算術平均粗さRaで0.15μm以上且つ十点平均粗さRzで1.00〜3.00μmであるものを用いることを特徴とする平版印刷版の作製方法が提供される。
【0011】
また上記平版印刷版の作製方法において、前記インク層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする。また上記平版印刷版の作製方法において、前記画像受理層は、親水性高分子バインダーと平均粒子径1.5〜2.5μmの粗面化剤を含有することを特徴とする。また上記平版印刷版の作製方法において、前記親水性高分子バインダーは、架橋された親水性高分子化合物であることを特徴とする。また上記平版印刷版の作製方法において、前記親水性高分子バインダーは、テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物を架橋剤として架橋させた重合度1000未満の完全鹸化ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。
【0012】
さらに本発明によれば、熱溶融転写記録媒体のインク層を平版印刷用刷版材料の画像受理層に所定パターンで転写させて平版印刷版を作製するために用いる平版印刷版作製セットにおいて、前記熱溶融転写記録媒体は、前記インク層の厚さが4μm以下であり、前記平版印刷用刷版材料は、前記画像受理層の表面粗さ(JIS-B0601-1994)が算術平均粗さRaで0.15μm以上且つ十点平均粗さRzで1.00〜3.00μmであることを特徴とする平版印刷版作製セットが提供される。
【0013】
また上記平版印刷版作製セットにおいて、前記インク層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする。また上記平版印刷版作製セットにおいて、前記画像受理層は、親水性高分子バインダーと平均粒子径1.5〜2.5μmの粗面化剤を含有することを特徴とする。また上記平版印刷版作製セットにおいて、前記親水性高分子バインダーは、架橋された親水性高分子化合物であることを特徴とする。また上記平版印刷版作製セットにおいて、前記親水性高分子バインダーは、テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物を架橋剤として架橋させた重合度1000未満の完全鹸化ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明では、平版印刷版を作製する際に、表面粗さ(特に十点平均粗さRz)を特定の範囲とした画像受理層を備えた平版印刷用刷版材料を用いることにより、表面の保水性を確保でき、しかもインク層の膜厚が薄い熱溶融転写記録媒体(インクリボン)の転写性、定着性に優れ、これにより耐刷性の優れた平版印刷版を得ることができる。特にインク層の膜厚が薄いインクリボンに対して優れた転写性を有するので、解像度が高い印刷画像を与える平版印刷用刷版を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、平版印刷版を作製する際に用いる平版印刷用刷版材料の画像受理層の表面粗さを特定の範囲としたことにより、非画像部の保水性に優れ、また熱溶融転写記録法によって刷版を製造する際にインク層の膜厚が薄い熱溶融転写記録媒体の転写性、定着性に優れているので、耐刷性があり、高品質印刷が可能な刷版を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の平版印刷版の作製方法及びこれに用いる平版印刷版作製セットについて詳述する。
本発明で用いる平版印刷用刷版材料は、支持体上にインクリボンを用いた熱溶融転写記録可能な画像受理層を備えた構造を有する。
【0017】
支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂からなるプラスチックフィルムやこれらプラスチックフィルムを表面にラミネート加工した耐水紙、これら樹脂を表面に塗布加工した耐水紙を使用することができる。
【0018】
特に、機械的強度、寸法安定性、耐化学薬品性、耐水性に優れている点でポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。また光学的遮蔽効果を持たせるために、カーボンブラック、酸化チタンなどの隠蔽性顔料を練り混んで製膜されたものでもよい。厚さは、特に限定されないが、通常50μm〜300μmのものを使用する。
【0019】
支持体は、画像受理層との接着性を向上させるためにプラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理を施してもよい。また画像受理層との間の下引易接着処理として下引層を設けてもよい。
【0020】
下引層は、支持体及び画像受理層を構成する樹脂の双方に対し接着性の良好な樹脂からなることが好ましい。従って、下引層を構成する樹脂は使用する支持体及び画像受理層の樹脂によって異なるが、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、エチレン、アクリロニトリル等の重合体若しくは共重合体、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂等の非水溶性高分子、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、水溶性ポリウレタン等の水溶性高分子等があげられ、これらのうちの1種若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
下引層は、このような樹脂を含む塗布液を、支持体上に塗布することにより形成する。厚さは特に限定されないが、通常、乾燥後膜厚0.5μm〜10μmである。
【0022】
下引層は必要に応じて導電剤、着色剤、界面活性剤、架橋剤等の添加剤を添加することができる。
【0023】
画像受理層は、その表面粗さが、算術平均粗さRaで0.15μm以上、好適には0.25μm以上、また十点平均粗さRzで1.00〜3.00μm、好適には1.50〜2.50μmである。
【0024】
尚、算術平均粗さRaとは、評価長さの粗さ曲線の山と谷の各標高の絶対値を積分して評価長さで割り均等な標高として求めた値であり、十点平均粗さRzとは、カットオフ値と等しいサンプリング長さのN倍の評価長さの粗さ曲線をN等分し、各区間毎に第1位から第5位までの高さの山頂の平均標高と第1位から第5位までの深さの谷底の平均標高の間隔Rz’を求めたときのN個のRz’の算術平均値である。
【0025】
このような画像受理層の表面粗さは、そのインクリボンのインク層の転写性、定着性及び湿し水を保持する力(保水性)を決定するものであり、算術平均粗さRaが0.15μm未満では、刷版としたときに十分な保水性を得ることができず、地汚れが発生する。
【0026】
また、十点平均粗さRzが3.00μmを超える場合には、良好なインク層の転写性を得ることができない。この結果、ベタ画像部の白抜け等を生じたり、またインクリボンのこすれによる非画像部の地汚れが発生する。画像受理層の表面粗さを十点平均粗さRzで制限するのは、算術平均粗さRaを所定の値にするのみでは、そのRa値よりも標高がかなり高い山(凸部)が含まれていても、積分した面積が小さい値となる場合もあり、その場合、このような山(凸部)にインク層を転写するとインク層から山(凸部)が突き出し、この部分でインク層が転写されなくなるからである。これに対し、十点平均粗さRzでは、Rz値よりも極端に標高が高い山が含まれることはないので、この値を適切な範囲とすることにより、インクリボンのインク層の良好な転写性を確保できる。
【0027】
但し、十点平均粗さRzが1.00μm未満では、インク層の定着性が劣り、十分な耐刷性が得られないので1.00μm以上とすることが必要である。
【0028】
このような表面形状の画像受理層は、親水性高分子バインダー、保水性を付与する無機物微粒子、上述した所定の表面粗さを付与するための粗面化剤とを含む。
【0029】
親水性高分子バインダーとしては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体等の親水性高分子バインダーがあげられる。さらに画像受理層の耐水性、機械的強度を向上させるために、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、アルデヒド化合物、シラン化合物など公知の架橋剤を併用することが望ましい。特にテトラアルコキシシラン加水分解反応生成物を架橋剤として架橋させた重合度1000未満の完全鹸化ポリビニルアルコールが好適である。
【0030】
画像受理層の保水性、耐水性、機械的強度を向上させるために、上述した親水性高分子バインダーの他に、親水性を損なわない範囲で、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、エチレン、スチレンなどの単独重合体及び共重合体樹脂のエマルジョン等の樹脂エマルジョンを添加することができる。
【0031】
無機物微粒子は、微細な凹凸を付与することにより、画像受理層の保水性を高めるために添加される。
【0032】
このような無機物微粒子としては、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、クレー、カオリン、水酸化アルミニウム、アルミナ等を用いることができる。特に酸化チタンとコロイダルシリカ及び/又はコロイダルアルミナの組み合わせが好適である。
【0033】
また無機物微粒子は、平均粒子径が1μm未満、好ましくは0.2μm未満のものを用いる。平均粒子径を1μm未満とすることにより、画像受理層の表面積を十分に増加することができ、耐水性を低下させることなく湿し水に対する保水性を向上させることができる。
【0034】
上記効果を得るために無機物微粒子の添加量は、バインダー樹脂に対し、好ましくは150重量%以上、より好ましくは300重量%以上とする。但し無機物微粒子の添加量が多くなると、塗膜が脆くなり耐刷性の低下などを招くことになるので、好ましくは1000重量%以下、より好ましくは900重量%以下とする。
【0035】
画像受理層を所定の表面粗さにするための粗面化剤としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、シリカ、アルミナなどの無機物微粒子や、アクリル樹脂、エボキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の合成樹脂微粒子などがあげられ、このうちシリカ、特に無定形シリカが好適であり、平均粒子径が1.0〜3.0μm、好適には1.5〜2.5μmのものを用いる。また粒度分布の狭いものが好適である。
【0036】
平均粒子径が3.0μmを超える場合や、平均粒子径が小さくても粒度分布が広く大きな粒子径の粒子を含む場合には、十点平均粗さRzが3.0μmを超えてしまい、良好なインク層の転写性を得ることができない。また平均粒子径が1.0μm未満の場合には、殆どの粒子が画像受理層を構成する樹脂中に埋もれてしまい、十分なインク層の定着性を得ることができない。
【0037】
粗面化剤の添加量は、画像受理層を構成するバインダー樹脂100部に対し5〜100部、好適には10〜60部とする。
【0038】
画像受理層は、上述したバインダー樹脂、無機物微粒子及び粗面化剤の他に、上述した性能を損なわない範囲で、必要に応じて導電剤、着色剤、界面活性剤等の添加剤を添加することができる。
【0039】
本発明で用いる平版印刷用刷版材料は、支持体上に直接、或いは下引層を構成する樹脂を含む塗布液を塗布、乾燥して下引層を形成した後、画像受理層を構成する材料を含む塗布液を塗布、乾燥することによって形成することができる。画像受理層の親水性高分子バインダーとして、テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物により架橋するポリビニルアルコールを用いる場合には、予めポリビニルアルコール及び無機物微粒子を含み、アルコール及び水を溶媒とする分散液を調製しておき、これにテトラアルコキシシラン加水分解反応生成物、粗面化剤を添加、混合し、画像受理層塗布液とする。この塗布液を支持体或いは下引層上に塗布、乾燥することにより架橋ポリビニルアルコールを親水性高分子バインダーとする画像受理層を形成することができる。
【0040】
画像受理層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1〜10μm、より好ましくは3〜7μmの範囲とする。1μm以上とすることにより、画像受理層の保水性、インク層の転写性、定着性を付与することができ、10μm未満とすることにより、画像受理層の可撓性が維持される。
【0041】
本発明で用いる平版印刷用刷版材料は、支持体の画像受理層とは反対の面に帯電防止層やカール防止層等を刷版に必要な諸機能を付加するための層を設けることも可能である。
【0042】
本発明で用いる平版印刷用刷版材料は、熱溶融転写記録媒体(インクリボン)を用いた熱溶融転写記録法によって親水性の画像受理層に親油性の転写画像を形成することにより刷版とする。画像部は水をはじき印刷インキを載せるインキ受理部となり、転写画像が形成されていない非画像部は湿し水が載り、インキをはじく親水化部となる。
【0043】
熱溶融転写記録媒体(インクリボン)は、厚さ3〜6μmのポリエステルフィルム支持体上に厚さ0.5〜4μmの親油性のインク層を設けたものである。インク層は、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、キャンデリワックス、モンタンワックス、ラノリンワックス等の融点が60〜120℃のワックス類、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、アミド樹脂、ポリテルペン樹脂等の軟化点が60〜200℃の樹脂類、カーボンブラック等の着色性顔料及び分散剤よりなる。
【0044】
またインクリボンは、インク層の上に、本発明の画像受理層とインク層の接着力を向上させ、インク層の転写性を向上させるため、オーバーコート層を設けたものであってもよい。
本発明で用いる平版印刷用刷版材料は、表面粗さ、特に十点平均粗さRzを特定の範囲としたことにより、インク層の厚さが1μm程度のインクリボンを用いた場合にも、凹凸によってインク層が突き破られることがなく、凹凸に沿って熱溶融転写インク層を確実且つ堅固に転写し、定着させることができる。これにより耐刷性に優れ、高解像度の刷版を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明で用いる平版印刷用刷版材料の実施例を説明する。尚、実施例において、特に断らない限り、「%」、「部」は「重量部」を表す。
【0046】
[実施例1]
厚さ125μmの白色ポリエステルフィルムからなる支持体上に、下記の組成からなる下引層塗布液をバーコーティング法により乾燥膜厚5μmとなるように塗布して下引層を形成した。
【0047】
<下引層塗布液>
・ポリエステル樹脂 10部
(エリーテルUE3201:ユニチカ社)
・イソシアネートプレポリマー(固形分60%)2部
(タケネートD110N:武田薬品工業社)
・トルエン 40部
・メチルエチルケトン 40部
【0048】
次いで、下記組成の画像受理層用分散液Aを調製し、さらにこの分散液Aを用いて画像受理層塗布液Bを調製し、これを上述の下引層上に塗布、乾燥し、厚さ7μmの画像受理層を形成し、平版印刷用刷版材料を得た。
【0049】
<画像受理層用分散液A>
・無機物微粒子 30部
(酸化チタン:平均粒子径0.12μm)
(FA55W:古河機械金属社)
・無機物微粒子 3部
(コロイダルシリカ:一次粒子径12nm)
(アエロジル200:日本アエロジル社)
・ポリビニルアルコール(10%水溶液) 100部
(ゴーセノールNL05:日本合成化学工業社)
・イソプロピルアルコール 40部
・蒸留水 100部
【0050】
<画像受理層塗布液B>
・画像受理層用分散液A 100部
・粗面化剤 1部
(無定形シリカ:平均粒子径1.9μm)
(サイリシア530:富士シリシア化学社)
・テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物
15部
なお、テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物は、
・テトラエトキシシラン(試薬:和光純薬社)
100部
・エタノール 100部
・0.1規定塩酸水溶液 200部
を混合して室温で24時間加水分解反応させたものである。
【0051】
[比較例1]
実施例1における画像受理層塗布液Bの調製で、粗面化剤を未添加にした以外は実施例1と同様にして平版印刷用刷版材料を得た。
【0052】
[比較例2]
実施例1における画像受理層塗布液Bの調製で、粗面化剤を下記のように変更した以外は実施例1と同様にして平版印刷用刷版材料を得た。
【0053】
<画像受理層塗布液B’>
・画像受理層用分散液A 100部
・粗面化剤 1部
(シリカ:平均粒子径3.0μm)
(サイリシア730:富士シリシア化学社)
・粗面化剤 1部
(シリカ:平均粒子径6.0μm)
(サイリシア770:富士シリシア化学社)
・テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物
15部
【0054】
実施例および比較例で得られた平版印刷用刷版材料の表面粗さ(算術平均粗さRa、十点平均粗さRz)を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
[転写性]
実施例及び比較例の平版印刷用刷版材料を、インク層の厚さ1μmの熱溶融転写インクリボンを使用する、600DPIのシリアルヘッドを有するインクリボン熱溶融転写プリンターを用いてデジタルデータにより3ポイントから18ポイントの明朝文字、85線10%、30%、50%、70%の平網画像及び、黒ベタ画像を出力して平版印刷用刷版を製版した。この平版印刷用刷版について下記(1)のプリンター出力画像評価を行った後、この平版印刷用刷版を不感脂化処理せずに下記印刷条件により印刷を行い、下記(2)印刷物のベタ画像部の白抜け評価、及び(3)リボンのこすれによる印刷物の非画像部の地汚れ評価を行うことによりインク層の転写性に関する評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
印刷機 ハイデルベルグクイックマスターQM46-1
印刷速度 6000枚/hr
用紙 コート紙(OKトップコート)
インキ TKハイエコー墨M:東洋インキ製造社
湿し水 アストロマーク3:日研化学研究所
50倍水道水希釈液。
【0058】
(1)プリンター出力画像評価
評価○:上記平版印刷用刷版の黒ベタ画像部に白抜けが生じておらず、非画像部にインク層のこすれによる黒色の汚れも生じていないもの
評価×:上記平版印刷用刷版の黒ベタ画像部に白抜けが生じているか、非画像部にインク層のこすれによる黒色の汚れが生じているもの
(2)印刷物のベタ画像部の白抜け評価
評価○:印刷物の黒ベタ画像部に白抜けがないもの
評価×:印刷物の黒ベタ画像部に白抜けが生じたもの
(3)リボンのこすれによる印刷物の非画像部の地汚れ評価
評価○:印刷物の非画像部にリボンのこすれによる地汚れが生じていないもの
評価×:印刷物の非画像部にリボンのこすれによる地汚れが生じたもの
【0059】
[定着性]
上述した転写性の評価において作製した印刷物について、耐刷性を観察し、インク層の画像受理層への定着性を評価した。結果を表2に示す。
評価○:印刷枚数5000枚を超えても3ポイントから18ポイントの明朝文字、85線10%、30%、50%、70%の平網画像が十分に解像再現しているもの
評価×:印刷枚数100枚目で明朝文字、平網画像の一部が欠落しているもの
【0060】
[保水性]
上述した転写性の評価において作製した印刷物について、保水性不足による地汚れが生じているかを観察することにより、画像受理層の保水性を評価した。結果を表2に示す。
評価○:印刷枚数100枚目の印刷物について、非画像部に保水性不足による地汚れがまったく生じていないもの
評価×:印刷枚数100枚目の印刷物について、非画像部に保水性不足による地汚れが生じているもの
【0061】
【表2】

【0062】
表1及び表2に示す結果からわかるように、比較例1については算術平均粗さRa、十点平均粗さRzが共に小さいため、インク層の転写性は良好であったが、インク層の定着性が悪いことから耐刷性がまったくなく、また刷版とした時に十分な保水性を得ることができないことから非画像部に地汚れを生じてしまった。
【0063】
比較例2については、算術平均粗さRaは範囲内であるため、保水性は良好であったが、十点平均粗さRzが大きいため、凸部分がインク層から突き出て黒ベタ画像部に白抜けが生じてしまうと共に、非画像部の凸部分がインク層をこすって刷版に汚れを生じさせ、これらによって印刷物にも白抜けや地汚れを生じさせてしまった。
【0064】
これに対し、算術平均粗さRa、十点平均粗さRzが適正な範囲にある実施例の平版印刷用刷版材料は、インク層の転写性、定着性がよく、刷版としたときの保水性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融転写記録媒体のインク層を平版印刷用刷版材料の画像受理層に所定パターンで転写させて平版印刷版を作製する方法において、
前記熱溶融転写記録媒体として、前記インク層の厚さが4μm以下のものを用い、
前記平版印刷用刷版材料として、前記画像受理層の表面粗さ(JIS-B0601-1994)が算術平均粗さRaで0.15μm以上且つ十点平均粗さRzで1.00〜3.00μmであるものを用いることを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項2】
請求項1記載の平版印刷版の作製方法において、
前記インク層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の平版印刷版の作製方法において、
前記画像受理層は、親水性高分子バインダーと平均粒子径1.5〜2.5μmの粗面化剤を含有することを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項4】
請求項3記載の平版印刷版の作製方法において、
前記親水性高分子バインダーは、架橋された親水性高分子化合物であることを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の平版印刷版の作製方法において、
前記親水性高分子バインダーは、テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物を架橋剤として架橋させた重合度1000未満の完全鹸化ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項6】
熱溶融転写記録媒体のインク層を平版印刷用刷版材料の画像受理層に所定パターンで転写させて平版印刷版を作製するために用いる平版印刷版作製セットにおいて、
前記熱溶融転写記録媒体は、前記インク層の厚さが4μm以下であり、
前記平版印刷用刷版材料は、前記画像受理層の表面粗さ(JIS-B0601-1994)が算術平均粗さRaで0.15μm以上且つ十点平均粗さRzで1.00〜3.00μmであることを特徴とする平版印刷版作製セット。
【請求項7】
請求項6記載の平版印刷版作製セットにおいて、
前記インク層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする平版印刷版作製セット。
【請求項8】
請求項6又は7記載の平版印刷版作製セットにおいて、
前記画像受理層は、親水性高分子バインダーと平均粒子径1.5〜2.5μmの粗面化剤を含有することを特徴とする平版印刷版作製セット。
【請求項9】
請求項8記載の平版印刷版作製セットにおいて、
前記親水性高分子バインダーは、架橋された親水性高分子化合物であることを特徴とする平版印刷版作製セット。
【請求項10】
請求項8又は9記載の平版印刷版作製セットにおいて、
前記親水性高分子バインダーは、テトラアルコキシシラン加水分解反応生成物を架橋剤として架橋させた重合度1000未満の完全鹸化ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする平版印刷版作製セット。

【公開番号】特開2010−120387(P2010−120387A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9134(P2010−9134)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【分割の表示】特願2000−182898(P2000−182898)の分割
【原出願日】平成12年6月19日(2000.6.19)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】