説明

平版印刷版の作製方法

【課題】インクを打滴した際に、インクの滲みを抑制し、かつ印刷時の汚れにくさを満足し、さらに良好な耐刷性を与える平版印刷版用インク受容体を用いた、高解像度の画像形成が可能で、耐刷性に優れた平版印刷版の作製方法を提供する。
【解決手段】支持体上にインク受容層を有し、前記支持体が、平均波長5〜100μmの大波構造と平均開口径0.5〜5μmの中波構造と平均開口径0.01〜0.2μmの小波構造とを重畳した構造の砂目構造を有するインク受容体上に、インクジェット記録方法により、水および有機溶剤から選択される1種以上を含む分散媒にポリマー微粒子を分散させるインクを打滴し、加熱処理してインクを定着させた後、印刷前に前期インクを打滴していないインク受容層を除去する平版印刷版の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式による画像形成において用いられるインク受容体とインクとの組合せによる平版印刷版の作製方法に関し、詳細には、インクジェット記録方式により平版印刷版を作製する際に好適に用いられるインク受容体と特定のインクとの組合せにより得られる平版印刷版の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、記録媒体に画像を形成する記録方式として、電子写真方式、熱転写方式、インクジェット方式などがある。電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電及び露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とし、システムが複雑となり高価な装置となる。熱転写方式は、装置は安価であるが、インクリボンを用いるため、転写に使用されなかったインクリボンが廃材となり、ランニングコストも高い。一方、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し記録媒体上へ直接画像形成するため、廃材が無く、ランニングコストも安いので、記録方式として優れている。
【0003】
インクジェット記録方式に用いられる記録媒体は、紙、プラスチック、金属など多岐に渡り、使用目的に応じて選択される。例えば、上質紙や再生紙などの普通紙に記録すれば直接印刷物を得ることができる。しかし、インクジェット記録は、記録速度が低いため、多数枚の印刷物を得るためには、多くの時間を要することになる。そこで、インクジェット記録により印刷版を作製し、作製した印刷版により多数枚の印刷物を得る試みが成されている。例えば、インクジェット法を用いて画像を描画するための直描型平版印刷版として、アルミニウム支持体を予め親水性有機高分子化合物により親水化処理したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、インクジェットにより打滴したインクが基板上で滲む問題があった。
これに対して、末端アルキル、シリコン系、フッ素系界面活性剤により表面処理した支持体に特定のインクを作用させ平版印刷版を作製する方法が開示されている(例えば、特許文献2〜7参照。)。また、打滴されたインクの支持体への接触角が20°以上であればインクが滲み難くなること記載されている(例えば、特許文献8参照。)。しかしながらこれらの方法では、打滴されたインクの滲みは抑制されるが、印刷時に汚れが発生しやすく、インクにより形成された画像部領域の強度や支持体との密着性が十分ではなく、耐刷性が劣るという問題がある。
【特許文献1】特開2000−108537号公報
【特許文献2】米国特許第6472045号明細書
【特許文献3】米国特許第6455132号明細書
【特許文献4】米国特許第6451413号明細書
【特許文献5】米国特許第6555205号明細書
【特許文献6】米国特許第6471359号明細書
【特許文献7】米国特許第6742886号明細書
【特許文献8】特開2000−43439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、インクを打滴した際に、インクの滲みを抑制し、かつ印刷時に汚れが問題なく、さらに良好な耐刷性を与える平版印刷版用インク受容体と、特定のインク組成物とを組み合わせることにより、画像部の解像度、耐刷性に優れ、得られた印刷物の非画像部の汚れが抑制された平版印刷版の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、打滴インクを速やかに受容する特定の表面形状を有するインク受容体を用いること、さらには、このようなインク受容体と特定の熱硬化型インクとの組合せにより、インクの滲みが抑制され、インクのインク受容体に対する密着性を確保しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の平版印刷版の作製方法は、支持体上にインク受容層を設けたインク受容体に、インクジェット記録方式によりインクを打滴し、加熱処理して、インクを定着させた後、前記インクを打滴していない前記インク受容層を除去する平版印刷版の作製方法であって、前記支持体が、平均開口径0.5〜5μmの中波構造と平均開口径0.01〜0.2μmの小波構造とを重畳した構造の砂目構造を表面に有し、かつ前記インクが水及び有機溶剤から選択される1種以上を含む分散媒にポリマー微粒子を分散させていることを特徴とする。
前記インク受容体においては、前記支持体表面が、平均波長5〜100μmの大波構造と平均開口径0.5〜5μmの中波構造と平均開口径0.01〜0.2μmの小波構造とを重畳した構造の砂目形状を有することが好ましく、また、前記小波構造の開口径に対する深さの比の平均が0.2以上であることがさらに好ましい態様である。
【0006】
本発明平版印刷版の作製方法において、前記したインク受容体表面のインク受容層の除去は、インクジェット記録方法により打滴されたインクの硬化後に、例えば、印刷途上において湿し水により実施されてもよく、ガム引き工程においてガムにより実施されてもよい。インク受容層が除去された、非画像部領域においては、親水性層が露出することで、油性インクによる汚れ防止性が一層向上する。
【0007】
インクジェット記録方式に用いるインク受容体においては、インク滲みを抑制するためインク受容層表面と打滴インクの接触角を30°より大きくする必要がある。印刷時に汚れにくくするためには、水との接触角を10°より小さくし、インク受容層と水および印刷時に使用する湿し水との濡れ性を高める必要がある。
本発明の平版印刷版の作製方法においては、水、湿し水或いはガムによりインク受容層が除去され、インク受容層の下にある親水性表面が露出することにより、インクが硬化して形成された画像部と、親水性の非画像部との疎水性/親水性の差が十分となり、高画質の印刷物が得られる。しかしながら、インク受容層の除去性を向上させるために、インク受容層として水に濡れやすく、さらに水に溶解する材料を用いる場合には、疎水性のインクとの親和性が低下し、これに起因して耐刷性も低下する傾向にある。本発明においては、耐刷低下の抑制、及び、画像部の膜質向上を目的とし、インクとして、ポリマー微粒子を水および有機溶剤から選択される1種以上を含む分散媒に分散させてなるインクを使用するとともに、さらにインクとインク受容体表面との密着性を高めるために表面形状を最適化している。このようにすることでインク滲みが抑制でき、印刷時に汚れず、高耐刷性を示す直描型平版印刷版の作製方法を提供することができた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクを打滴した際に、インクの滲みを抑制し、かつ印刷時に汚れが問題なく、さらに良好な耐刷性を与える平版印刷版用のインク受容体を用いることで、画像部の解像度、耐刷性に優れ、得られた印刷物の非画像部の汚れが抑制された平版印刷版の作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に記載する。
まず、本発明の平版印刷版の作製方法に好適に使用しうるインク受容体(平版印刷版用支持体)についてのべる。本発明に係るインク受容体は、下記の如き支持体上にインク受容層を設けたものである。
【0010】
〔支持体〕
本発明に係るインク受容体に使用される支持体としては、必要な強度と耐久性を備えた寸度的に安定な板状物であれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、もしくはプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0011】
中でも、本発明においては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸度安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は高々10質量%以下である。本発明においては表面処理されたアルミニウム支持体が好ましい。以下これらについて記載する。
【0012】
<アルミ支持体>
本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.15mm〜0.3mmである。
【0013】
このようなアルミニウム板には、必要に応じて粗面化処理、陽極酸化処理などの表面処理を行なってもよい。以下、このような表面処理について簡単に説明する。
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。
【0014】
<本発明に係る砂目形状を作製するための表面処理の詳細>
本発明に係る平版印刷版用インク受容体は、後述するアルミニウム板に表面処理を施すことによって、上述した表面の砂目形状をアルミニウム板の表面に形成させたものである。本発明に係る平版印刷版用インク受容体は、アルミニウム板に粗面化処理および陽極酸化処理を施して得られるが、この支持体の製造工程は、特に限定されず、粗面化処理および陽極酸化処理以外の各種の工程を含んでいてもよい。上述した表面の砂目形状を形成させるための代表的方法として、アルミニウム板に機械的粗面化処理、アルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理および電解液を用いた電気化学的粗面化処理を順次施す方法、アルミニウム板に機械的粗面化処理、アルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理および異なる電解液を用いた電気化学的粗面化処理を複数回施す方法、アルミニウム板にアルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理および電解液を用いた電気化学的粗面化処理を順次施す方法、アルミニウム板にアルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理および異なる電解液を用いた電気化学的粗面化処理を複数回施す方法が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。これらの方法において、前記電気化学的粗面化処理の後、更に、アルカリエッチング処理および酸によるデスマット処理を施してもよい。これらの方法により得られた本発明に係るインク受容体は、上述したように、2種以上の異なる周期の凹凸を重畳した構造が表面に形成されており、平版印刷版としたときの耐汚れ性および耐刷性のいずれにも優れる。以下、表面処理の各工程について、詳細に説明する。
【0015】
<機械的粗面化処理>
機械的粗面化処理は、電気化学的粗面化処理と比較してより安価に、平均波長5〜100μmの凹凸のある表面を形成することができるため、粗面化処理の手段として有効である。機械的粗面化処理方法としては、例えば、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、特開平6−135175号公報および特公昭50−40047号公報に記載されているナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法を用いることができる。また、凹凸面をアルミニウム板に圧接する転写方法を用いることもできる。即ち、特開昭55−74898号、特開昭60−36195号、特開昭60−203496号の各公報に記載されている方法のほか、転写を数回行うことを特徴とする特開平6−55871号公報、表面が弾性であることを特徴とした特願平4−204235号明細書(特開平6−024168号公報)に記載されている方法も適用可能である。
【0016】
また、放電加工、ショットブラスト、レーザー、プラズマエッチング等を用いて、微細な凹凸を食刻した転写ロールを用いて繰り返し転写を行う方法や、微細粒子を塗布した凹凸のある面を、アルミニウム板に接面させ、その上より複数回繰り返し圧力を加え、アルミニウム板に微細粒子の平均直径に相当する凹凸パターンを複数回繰り返し転写させる方法を用いることもできる。転写ロールへ微細な凹凸を付与する方法としては、特開平3−8635号、特開平3−66404号、特開昭63−65017号の各公報等に記載されている公知の方法を用いることができる。また、ロール表面にダイス、バイト、レーザー等を使って2方向から微細な溝を切り、表面に角形の凹凸をつけてもよい。このロール表面には、公知のエッチング処理等を行って、形成させた角形の凹凸が丸みを帯びるような処理を行ってもよい。また、表面の硬度を上げるために、焼き入れ、ハードクロムメッキ等を行ってもよい。そのほかにも、機械的粗面化処理としては、特開昭61−162351号公報、特開昭63−104889号公報等に記載されている方法を用いることもできる。本発明においては、生産性等を考慮して上述したそれぞれの方法を併用することもできる。これらの機械的粗面化処理は、電気化学的粗面化処理の前に行うのが好ましい。
【0017】
以下、機械的粗面化処理として好適に用いられるブラシグレイン法について説明する。ブラシグレイン法は、一般に、円柱状の胴の表面に、ナイロン(商標名)、プロピレン、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなる合成樹脂毛等のブラシ毛を多数植設したローラ状ブラシを用い、回転するローラ状ブラシに研磨剤を含有するスラリー液を噴きかけながら、上記アルミニウム板の表面の一方または両方を擦ることにより行う。上記ローラ状ブラシおよびスラリー液の代わりに、表面に研磨層を設けたローラである研磨ローラを用いることもできる。ローラ状ブラシを用いる場合、曲げ弾性率が好ましくは10,000〜40,000kg/cm2、より好ましくは15,000〜35,000kg/cm2であり、かつ、毛腰の強さが好ましくは500g以下、より好ましくは400g以下であるブラシ毛を用いる。ブラシ毛の直径は、一般的には、0.2〜0.9mmである。ブラシ毛の長さは、ローラ状ブラシの外径および胴の直径に応じて適宜決定することができるが、一般的には、10〜100mmである。
【0018】
研磨剤は公知の物を用いることができる。例えば、パミストン、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、炭化ケイ素、窒化ケイ素、火山灰、カーボランダム、金剛砂等の研磨剤;これらの混合物を用いることができる。中でも、パミストン、ケイ砂が好ましい。
特に、ケイ砂は、パミストンに比べて硬く、壊れにくいので粗面化効率に優れる点で好ましい。研磨剤の平均粒径は、粗面化効率に優れ、かつ、砂目立てピッチを狭くすることができる点で、3〜50μmであるのが好ましく、6〜45μmであるのがより好ましい。研磨剤は、例えば、水中に懸濁させて、スラリー液として用いる。スラリー液には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。スラリー液の比重は0.5〜2であるのが好ましい。
機械的粗面化処理に適した装置としては、例えば、特公昭50−40047号公報に記載された装置を挙げることができる。
【0019】
<電気化学的粗面化処理>
電気化学的粗面化処理には、通常の交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる電解液を用いることができる。中でも、塩酸または硝酸を主体とする電解液を用いることで特徴的な凹凸構造を表面に形成させることができる。本発明における電解粗面化処理としては、陰極電解処理の前後に酸性溶液中での交番波形電流による第1および第2の電解処理を行うことが好ましい。陰極電解処理により、アルミニウム板の表面で水素ガスが発生してスマットが生成することにより表面状態が均一化され、その後の交番波形電流による電解処理の際に均一な電解粗面化が可能となる。この電解粗面化処理は、例えば、特公昭48−28123号公報および英国特許第896,563号明細書に記載されている電気化学的グレイン法(電解グレイン法)に従うことができる。この電解グレイン法は、正弦波形の交流電流を用いるものであるが、特開昭52−58602号公報に記載されているような特殊な波形を用いて行ってもよい。また、特開平3−79799号公報に記載されている波形を用いることもできる。また、特開昭55−158298号、特開昭56−28898号、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭54−85802号、特開昭60−190392号、特開昭58−120531号、特開昭63−176187号、特開平1−5889号、特開平1−280590号、特開平1−118489号、特開平1−148592号、特開平1−178496号、特開平1−188315号、特開平1−154797号、特開平2−235794号、特開平3−260100号、特開平3−253600号、特開平4−72079号、特開平4−72098号、特開平3−267400号、特開平1−141094の各公報に記載されている方法も適用できる。また、前述のほかに、電解コンデンサーの製造方法として提案されている特殊な周波数の交番電流を用いて電解することも可能である。例えば、米国特許第4,276,129号明細書および同第4,676,879号明細書に記載されている。
【0020】
電解槽および電源については、種々提案されているが、米国特許第4203637号明細書、特開昭56−123400号、特開昭57−59770号、特開昭53−12738号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32823号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特開昭62−127500号、特開平1−52100号、特開平1−52098号、特開昭60−67700号、特開平1−230800号、特開平3−257199号の各公報等に記載されているものを用いることができる。また、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭53−12738号、特開昭53−12739号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32833号、特開昭53−32824号、特開昭53−32825号、特開昭54−85802号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特公昭48−28123号、特公昭51−7081号、特開昭52−133838号、特開昭52−133840号号、特開昭52−133844号、特開昭52−133845号、特開昭53−149135号、特開昭54−146234号の各公報等に記載されているもの等も用いることができる。
【0021】
電解液である酸性溶液としては、硝酸、塩酸のほかに、米国特許第4,671,859号、同第4,661,219号、同第4,618,405号、同第4,600,482号、同第4,566,960号、同第4,566,958号、同第4,566,959号、同第4,416,972号、同第4,374,710号、同第4,336,113号、同第4,184,932号の各明細書等に記載されている電解液を用いることもできる。
【0022】
酸性溶液の濃度は0.5〜2.5質量%であるのが好ましいが、上記のスマット除去処理での使用を考慮すると、0.7〜2.0質量%であるのが特に好ましい。また、液温は20〜80℃であるのが好ましく、30〜60℃であるのがより好ましい。
【0023】
塩酸または硝酸を主体とする水溶液は、濃度1〜100g/Lの塩酸または硝酸の水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物または塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。また、塩酸または硝酸を主体とする水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、塩酸または硝酸の濃度0.5〜2質量%の水溶液にアルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等を添加した液を用いることが好ましい。
【0024】
更に、Cuと錯体を形成しうる化合物を添加して使用することによりCuを多く含有するアルミニウム板に対しても均一な砂目立てが可能になる。Cuと錯体を形成しうる化合物としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のアンモニアの水素原子を炭化水素基(脂肪族、芳香族等)等で置換して得られるアミン類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸塩類が挙げられる。また、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩も挙げられる。温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
【0025】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電源波は、特に限定されず、サイン波、矩形波、台形波、三角波等が用いられるが、矩形波または台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。台形波とは、図2に示したものをいう。この台形波において電流がゼロからピークに達するまでの時間(TP)は1〜3msecであるのが好ましい。1msec未満であると、アルミニウム板の進行方向と垂直に発生するチャタマークという処理ムラが発生しやすい。TPが3msecを超えると、特に硝酸電解液を用いる場合、電解処理で自然発生的に増加するアンモニウムイオン等に代表される電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり、均一な砂目立てが行われにくくなる。その結果、平版印刷版としたときの耐汚れ性が低下する傾向にある。
【0026】
台形波交流のduty比は1:2〜2:1のものが使用可能であるが、特開平5−195300公報に記載されているように、アルミニウムにコンダクタロールを用いない間接給電方式においてはduty比が1:1のものが好ましい。台形波交流の周波数は0.1〜120Hzのものを用いることが可能であるが、50〜70Hzが設備上好ましい。50Hzよりも低いと、主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、また、70Hzよりも高いと、電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。
【0027】
電解槽には1個以上の交流電源を接続することができる。主極に対向するアルミニウム板に加わる交流の陽極と陰極との電流比をコントロールし、均一な砂目立てを行うことと、主極のカーボンを溶解することとを目的として、図3に示したように、補助陽極を設置し、交流電流の一部を分流させることが好ましい。図3において、11はアルミニウム板であり、12はラジアルドラムローラであり、13aおよび13bは主極であり、14は電解処理液であり、15は電解液供給口であり、16はスリットであり、17は電解液通路であり、18は補助陽極であり、19aおよび19bはサイリスタであり、20は交流電源であり、40は主電解槽であり、50は補助陽極槽である。整流素子またはスイッチング素子を介して電流値の一部を二つの主電極とは別の槽に設けた補助陽極に直流電流として分流させることにより、主極に対向するアルミニウム板上で作用するアノード反応にあずかる電流値と、カソード反応にあずかる電流値との比を制御することができる。主極に対向するアルミニウム板上で、陽極反応と陰極反応とにあずかる電気量の比(陰極時電気量/陽極時電気量)は、0.3〜0.95であるのが好ましい。
【0028】
電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液は、アルミニウムウェブの進行方向に対してパラレルであってもカウンターであってもよい。
【0029】
(硝酸電解)
硝酸を主体とする電解液を用いた電気化学的粗面化処理により、平均開口径0.5〜5μmのピットを形成することができる。ただし、電気量を比較的多くしたときは、電解反応が集中し、5μmを超えるハニカムピットも生成する。このような砂目を得るためには、電解反応が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、1〜1000C/dm2であるのが好ましく、50〜300C/dm2であるのがより好ましい。この際の電流密度は20〜100A/dm2であるのが好ましい。また、高濃度または高温の硝酸電解液を用いると、平均開口径0.2μm以下の小波構造を形成させることもできる。
【0030】
(塩酸電解)
塩酸はそれ自身のアルミニウム溶解力が強いため、わずかな電解を加えるだけで表面に微細な凹凸を形成させることが可能である。この微細な凹凸は、平均開口径が0.01〜0.2μmであり、アルミニウム板の表面の全面に均一に生成する。このような砂目を得るためには電解反応が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、1〜100C/dm2であるのが好ましく、20〜70C/dm2であるのがより好ましい。この際の電流密度は20〜50A/dm2であるのが好ましい。
【0031】
このような塩酸を主体とする電解液での電気化学的粗面化処理では、アノード反応にあずかる電気量の総和を400〜1000C/dm2と大きくすることでクレーター状の大きなうねりを同時に形成することも可能であるが、この場合は平均開口径10〜30μmのクレーター状のうねりに重畳して平均開口径0.01〜0.4μmの微細な凹凸が全面に生成する。
【0032】
上記の硝酸、塩酸等の電解液中で行われる第1および第2の電解粗面化処理の間に、アルミニウム板は陰極電解処理を行うことが好ましい。この陰極電解処理により、アルミニウム板表面にスマットが生成するとともに、水素ガスが発生してより均一な電解粗面化処理が可能となる。この陰極電解処理は、酸性溶液中で陰極電気量が好ましくは3〜80C/dm2、より好ましくは5〜30C/dm2で行われる。陰極電気量が3C/dm2未満であると、スマット付着量が不足する場合があり、また、80C/dm2を超えると、スマット付着量が過剰となる場合があり、いずれも好ましくない。また、電解液は上記第1および第2の電解粗面化処理で使用する溶液と同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
<アルカリエッチング処理>
アルカリエッチング処理は、上記アルミニウム板をアルカリ溶液に接触させることにより、表層を溶解する処理である。
【0034】
電解粗面化処理より前に行われるアルカリエッチング処理は、機械的粗面化処理を行っていない場合には、前記アルミニウム板(圧延アルミ)の表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等を除去することを目的として、また、既に機械的粗面化処理を行っている場合には、機械的粗面化処理によって生成した凹凸のエッジ部分を溶解させ、急峻な凹凸を滑らかなうねりを持つ表面に変えることを目的として行われる。
【0035】
アルカリエッチング処理の前に機械的粗面化処理を行わない場合、エッチング量は、0.1〜10g/m2であるのが好ましく、1〜5g/m2であるのがより好ましい。エッチング量が0.1g/m2未満であると、表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等が残存する場合があるため、後段の電解粗面化処理において均一なピット生成ができずムラが発生してしまう場合がある。一方、エッチング量が1〜10g/m2であると、表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等の除去が十分に行われる。上記範囲を超えるエッチング量とするのは、経済的に不利となる。
【0036】
アルカリエッチング処理の前に機械的粗面化処理を行う場合、エッチング量は、3〜20g/m2であるのが好ましく、5〜15g/m2であるのがより好ましい。エッチング量が3g/m2未満であると、機械的粗面化処理等によって形成された凹凸を平滑化できない場合があり、後段の電解処理において均一なピット形成ができない場合がある。また、印刷時に汚れが劣化する場合がある。一方、エッチング量が20g/m2を超えると、凹凸構造が消滅してしまう場合がある。
【0037】
電解粗面化処理の直後に行うアルカリエッチング処理は、酸性電解液中で生成したスマットを溶解させることと、電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。電解粗面化処理で形成されるピットは電解液の種類によって異なるためにその最適なエッチング量も異なるが、電解粗面化処理後に行うアルカリエッチング処理のエッチング量は、0.1〜5g/m2であるのが好ましい。硝酸電解液を用いた場合、塩酸電解液を用いた場合よりもエッチング量は多めに設定する必要がある。電解粗面化処理が複数回行われる場合には、それぞれの処理後に、必要に応じてアルカリエッチング処理を行うことができる。
【0038】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、タケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、および、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0039】
アルカリ溶液の濃度は、エッチング量に応じて決定することができるが、1〜50質量%であるのが好ましく、10〜35質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液中にアルミニウムイオンが溶解している場合には、アルミニウムイオンの濃度は、0.01〜10質量%であるのが好ましく、3〜8質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜120秒であるのが好ましい。
【0040】
アルミニウム板をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
【0041】
<デスマット処理>
電解粗面化処理またはアルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(デスマット処理)が行われる。用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。上記デスマット処理は、例えば、上記アルミニウム板を塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウム板を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、酸性溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。デスマット処理においては、酸性溶液として、上述した電解粗面化処理において排出される硝酸を主体とする水溶液もしくは塩酸を主体とする水溶液の廃液、または、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸を主体とする水溶液の廃液を用いることができる。デスマット処理の液温は、25〜90℃であるのが好ましい。また、処理時間は、1〜180秒であるのが好ましい。デスマット処理に用いられる酸性溶液には、アルミニウムおよびアルミニウム合金成分が溶け込んでいてもよい。
以上のように粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0042】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は2.0g/m2より少ないと平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなる。
【0043】
前記した支持体表面には、親水性層が形成され、本発明に係る支持体は表面親水性を有するものとなる。
〔親水性層〕
支持体上の親水性層は、支持体表面の陽極酸化被膜に親水化処理を施してなるものでもよく、支持体表面に別途、親水性層を塗布法又は浸漬法などにより形成したものであってもよい。
以下、支持体表面の親水化について説明する。
<親水性表面および親水化処理>
親水性表面としては、陽極酸化皮膜でもよいが、さらにその上から親水化処理を施すことが好ましい。ここでいう親水性表面とは、水との接触角が10°より小さいものを言い、5°より小さくなるものが特に好ましい。また親水化処理した際、親水化化合物は陽極酸化皮膜に吸着していることが好ましい。
親水化処理としては、例えば、米国特許第2,946,638号明細書に記載されているフッ化ジルコニウム酸カリウム処理、米国特許第3,201,247号明細書に記載されているホスホモリブデート処理、英国特許第1,108,559号に記載されているアルキルチタネート処理、独国特許第1,091,433号明細書に記載されているポリアクリル酸処理、独国特許第1,134,093号明細書および英国特許第1,230,447号明細書に記載されているポリビニルホスホン酸処理、特公昭44−6409号公報に記載されているホスホン酸処理、米国特許第3,307,951号明細書に記載されているフィチン酸処理、特開昭58−16893号公報および特開昭58−18291号公報に記載されている親油性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理、タモールなど多価スルホン酸化合物への浸漬処理が挙げられる。
【0044】
また、特開昭62−019494号公報に記載されているリン酸塩、特開昭62−033692号公報に記載されている水溶性エポキシ化合物、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプン、特開昭63−056498号公報に記載されているジアミン化合物、特開昭63−130391号公報に記載されているアミノ酸の無機または有機酸、特開昭63−145092号公報に記載されているカルボキシ基またはヒドロキシ基を含む有機ホスホン酸、特開昭63−165183号公報に記載されているアミノ基とホスホン酸基を有する化合物、特開平2−316290号公報に記載されている特定のカルボン酸誘導体、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平3−261592号公報に記載されている1個のアミノ基とリンの酸素酸基1個を持つ化合物、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平5−246171号公報に記載されているフェニルホスホン酸等の脂肪族または芳香族ホスホン酸、特開平1−307745号公報に記載されているチオサリチル酸のようなS原子を含む化合物、特開平4−282637号公報に記載されているリンの酸素酸のグループを持つ化合物等を用いた下塗りによる処理も挙げられる。更に、特開昭60−64352号公報に記載されている酸性染料による着色を行うこともできる。
【0045】
また、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。
【0046】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0047】
Si付着量としては、1.0〜20.0mg/m2付着させることが望ましい。2.0から17.0mg/m2がより望ましい。1.0mg/m2以上であると汚れにくさが良好になり、20.0mg/m2以下であると耐刷性、バーニング耐刷性が良好となる。
【0048】
なお塗布量は、例えば、蛍光X線分析装置を用いて検量線法により特定原子の量(m/m2)を求め算出した。蛍光X線分析装置として理学電機工業(株)製RIX3000を用い、ピーク高さより原子の量を測定した。
このような親水性層を形成した後も、上記塗布量の範囲においては、親水性層表面は、前記支持体表面の形状を反映した砂目構造を有するものである。
【0049】
<水洗処理>
上述した親水化に係る各処理の工程終了後には、水洗を行うのが好ましい。水洗には、純水、井水、水道水等を用いることができる。処理液の次工程への持ち込みを防ぐためにニップ装置を用いてもよい。
【0050】
〔インク受容層〕
本発明に係る平版印刷版用インク受容体は、親水性層を有する支持体の、親水性層表面にインク受容層を有する。ここで言うインク受容層とは、平版印刷版の画像部(印刷用インクを受容させる領域)を形成させるためインクジェット記録方式によりインク受容体表面に吐出される加熱定着型のインク組成物を受容するための層を指す。インク受容層としては、インク滲みを抑制するために、ペルフルオロアルキル基を有する有機フッ素化合物およびジメチルシロキサン骨格を有する化合物からなる群より選択される1種以上の化合物(以下、適宜、特定撥水性化合物と称する)を含有した層である。特定撥水性化合物を含有するインク受容層を設ける際に、親水性樹脂と併用することがインク受容層に湿し水などによる除去性を与え、結果として非画像部の汚れ発生を効果的に抑制できるため好ましい。
なお、後述するインク組成物として、ペルフルオロアルキル基を有する化合物やジメチルシロキサン骨格を有する化合物を含有させる場合には、インク受容層の形成に以下に述べる親水性樹脂のみを用いてもよい。
【0051】
以下、特定撥水性化合物について説明する。
<ペルフルオロアルキル基を有する有機フッ素化合物>
本発明に用いうる好ましいフッ素系化合物は、一般式 RF−Rpol で表される化合物である。
前記一般式中、RFは炭素原子3個以上の直鎖または分枝鎖のペルフルオロアルキル基を表し、Rpolはカルボン酸あるいはその塩、スルホン酸あるいはその塩、燐酸あるいはその塩、ホスホン酸あるいはその塩、アミノ基あるいはその塩、4級アンモニウム塩、ポリエチレンオキシ骨格、ポリプロピレンオキシ骨格、スルホンアミド基、エーテル基、ベタイン構造などの極性基を表す。これらの中でスルホキシル基あるいはその塩の構造を有するものがシリケートと相互作用しにくく、除去性がよく、好ましい。
またRFはCn2n+1m2mCOO−骨格を有するものがインク滲みを抑制する観点より特に好ましく、1分子中に2つ以上のCn2n+1m2mCOO−骨格を有するものがさらに好ましい。ここでnは2以上の整数、mは1以上の整数である。
以下に、本発明に好ましく用いられるフッ素系化合物の具体例〔(F−1)〜(F−19)〕を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
【化1】

【0053】
【化2】

【0054】
また、本発明に係るフッ素系化合物として、高分子フッ素系化合物を使用してもよい。特に界面活性剤作用を有するもので水溶性であるものが好ましい。
高分子フッ素系界面活性剤の具体例としては、フルオロ脂肪族基を有するアクリレートまたはフルオロ脂肪族基を有するメタクリレートと、ポリ(オキシアルキレン)アクリレートまたはポリ(オキシアルキレン)メタクリレートとの共重合体が挙げられる。該共重合体において、フルオロ脂肪族基を有するアクリレートまたはメタクリレートのモノマー単位が共重合体の質量に基づいて7〜60質量%であることが好ましく、また、該共重合体の分子量は3000〜100000が適当である。
【0055】
該フルオロ脂肪族基は、直鎖状でも分岐していてもよく、かつ40質量%以上のフッ素を含有することが好ましい。上記フルオロ脂肪族基を有するアクリレートまたはメタクリレートの具体例としては、N−ブチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエチルアクリレート、N−プロピルペルフルオロオクタンスルホンアミドエチルアクリレート、メチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエチルアクリレートなどがある。ポリ(オキシアルキレン)アクリレートまたはメタクリレートにおける該ポリオキシアルキレン基の分子量は200〜3000であることが好ましい。オキシアルキレン基としては、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン基が挙げられ、好ましくはオキシエチレン、オキシプロピレン基である。例えばオキシエチレン基が8〜15モル付加したアクリレートまたはメタクリレートが使用される。また、必要に応じて該ポリオキシアルキレン基の末端にジメチルシロキサン基などを付加することにより発泡性を抑制することができる。
【0056】
上述のようなフッ素系界面活性剤は、市場で一般に入手することができ、本発明では市販品も使用することができる。フッ素系界面活性剤を2種以上併用することもできる。
販売されている製品としては、旭硝子(株)製、サーフロンS−111、S−112、S−113、S−121、S―131、S−141、S−145、S−381、S−382、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−110、F120、F−142D、F−150、F−171、F177、F781、住友3M(株)製フロラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC135、FX−161、FC170C、FC−171、FC176、バイエルジャパン(株)製FT−248、FT−448、FT−548、FT−624、FT−718、FT−738等(以上、商品名)が挙げられる。
【0057】
本発明に用いることができる他の特定撥水性化合物としては、ジメチルシロキサン骨格を有する化合物が挙げられ、具体的には下記のような化合物を挙げることができる。
<ポリジメチルシロキサン化合物>
ポリジメチルシロキサン化合物としてシリコン系界面活性剤を挙げることができる。特に水溶性のものが除去性が好ましい。ジメチルシロキサンメチル(ポリオキシエチレン)共重合体、ジメチルシロキサンメチル(ポリオキシプロピレン)共重合体、ジメチルシロキサンメチル(オリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン)共重合体などを挙げることができる。
【0058】
<親水性樹脂>
これらの有機フッ素化合物やジメチルシロキサン骨格を有する化合物から選択される1種以上の化合物と、親水性樹脂をブレンドしインク受容層とすることができる。
親水性樹脂と併用することにより、汚れにくさとインク滲み抑制をさらに改良することができる。
インク受容層に撥水性化合物とともに親水性樹脂を併用することにより、画像部を形成するインク打滴領域以外の汚れ防止効果にさらに有効となる。
また、先に述べたように、インクに前記特定撥水性化合物を含有する場合には、この親水性樹脂のみでインク受容層を形成することもできる。
本発明に用いうる親水性樹脂としては、水溶性樹脂であれば問題ないが、特にカルボン酸あるいはその塩を有する水溶性セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)、アクリルあるいはメタクリルポリマーあるいはその共重合体、スルホン酸基あるいはその塩を有するアクリル、メタクリル、ビニル、スチレン系親水性樹脂、ポリアクリルアミドあるいはポリビニルピロリドンなどアミド基含有する親水性樹脂、アミノ基を有する親水性樹脂、リン酸あるいはその塩を有する親水性樹脂、例えば、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプンも挙げられる。
【0059】
また、オニウム基を有する化合物を含有することも好ましい。オニウム基を有する化合物は、特開2000−10292公報、同2000−108538公報等に詳述されている。その他、ポリ(p−ビニル安息香酸)などで代表される構造単位を分子中に有する高分子化合物群の中から選ばれる化合物を用いることもできる。これらの高分子化合物として、より具体的には、p−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリエチルアンモニウム塩との共重合体、p−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドとの共重合体などが挙げられる。
また特開2005−125749公報記載のエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ含有する繰り返し単位と支持体表面と相互作用する官能基を少なくとも1つ含有する繰り返し単位とを有する共重合体も好ましい。
これらの中で、特にスルホン酸塩骨格を有するポリマーが特にインク滲みを抑制し、かつ汚れ難くする点で好ましい。
【0060】
以上のような化合物を含有するインク受容層形成用組成物の好ましい態様としては、ペルフルオロアルキル基を有する化合物およびジメチルシロキサン骨格を有する化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を固形分濃度で、0.5〜50質量%含有し、所望により併用される親水性樹脂を1.0〜99.5質量%含有する態様が挙げられる。
また、親水性樹脂のみでインク受容層を形成する場合、親水性樹脂は、インク受容層形成用組成物中に、固形分濃度で、10.0〜100質量%含有することが好ましい。
インク受容層の形成にあたっては、本発明の効果を損なわない範囲において、公知の添加剤を併用することができる。
【0061】
<インク受容層の形成>
この有機インク受容層は次のような方法で設けることができる。即ち、水又メタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布、乾燥して設ける方法と、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム板を浸漬して上記化合物を吸着させ、その後水などによって洗浄、乾燥して有機下塗層を設ける方法である。
前者の方法(塗布法)では、上記の有機化合物の0.005〜10質量%の濃度の溶液を種々の方法で塗布できる。また後者の方法(浸漬法)では、溶液の濃度は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。
このような手法でインク受容層を形成することにより、親水性層表面に形成されるインク受容層の塗布量は1.0〜100mg/m2となることが好ましい。より好ましくは2.0〜50mg/m2である。
より詳細には、インク受容層を構成する場合の有機フッ素化合物の塗布量としては50mg/m2以下が好ましく、さらに好ましくは、1〜10mg/m2の範囲である。ジメチルシロキサン骨格を有する化合物の塗布量としては50mg/m2以下が好ましく、さらに好ましくは、1〜10mg/m2の範囲である。また、親水性樹脂の塗布量は100mg/m2以下が好ましく、1〜50mg/m2の範囲がより好ましい。
インク受容層の形成方法としては、塗布法を用いることが、基板への吸着を抑制し、印刷時における汚れ防止効果が向上するという観点から好ましい。
このインク受容層は、インクジェット記録方式により打滴されるインク組成物の受容に好適に用いられる。
【0062】
このようにして、支持体上に親水性層とインク受容層とを積層、形成することで本発明に係る平版印刷版用のインク受容体を得ることができる。上記のようにして、支持体上に親水性層、インク受容層を形成した後のインク受容層表面の形状は、前記支持体上の砂目形状を反映したものとなる。
【0063】
本発明においては、支持体上の砂目形状を測定する方法として、以下のような方法を採用している。
(1)中波構造の平均開口径
SEMを用いて支持体の表面を真上から倍率2000倍で撮影し、得られたSEM写真においてピットの周囲が環状に連なっている中波構造のピット(中波ピット)を50個抽出し、その直径を読み取って開口径とし、平均開口径を算出した。
(2)小波構造の平均開口径
高分解能SEMを用いて支持体の表面を真上から倍率50000倍で撮影し、得られたSEM写真において小波構造のピット(小波ピット)を50個抽出し、その直径を読み取って開口径とし、平均開口径を算出した。
【0064】
(3)小波構造の開口径に対する深さの比の平均
小波構造の開口径に対する深さの比の平均は、高分解能SEMを用いて支持体の破断面を倍率50000倍で撮影し、得られたSEM写真において開口径0.3μm以下の小波ピットを20個抽出し、開口径と深さとを読み取って比を求めて平均値を算出した。
(4)大波構造の平均波長
触針式粗さ計(sufcom575、東京精密社製)で2次元粗さ測定を行い、ISO4287に規定されている平均山間隔Sm を5回測定し、その平均値を平均波長とした。2次元粗さ測定は、以下の条件で行った。cut off0.8、傾斜補正FLAT−ML、測定長3mm、縦倍率10000倍、走査速度0.3mm/sec、触針先端径2μm
【0065】
次に、このインク受容体を用いた本発明の平版印刷版の作製方法について説明する。
〔直描型平版印刷版の作製方法〕
本発明の平版印刷版の作製方法は、前記本発明に係るインク受容体表面に、後述する特定の加熱硬化型のインクを画像様に打滴する工程、打滴したインクを加熱により硬化させる工程、さらに、インクを打滴していないインク受容層を除去する工程を含み、インクが硬化することで画像部領域が形成され、インク受容層の除去により親水性層表面が露出して非画像部の親水性が確保される。
本発明の平版印刷版の作製方法に好適に用いられるインク組成物について説明する。
【0066】
〔ポリマー微粒子を水および有機溶剤から選択される1種以上を含む分散媒に分散させてなるインク〕
本発明においては、吐出性の観点から、吐出する際の温度において、インクの粘度が、1〜1000mPa・sの範囲内にあり、表面張力が、1〜100mN/mの範囲内にあることが好ましい。さらに、吐出する際の温度において、インクの粘度が、1〜100mPa・sの範囲内にあり、表面張力が、1〜80mN/mの範囲内にあることが好ましい。
本発明において用いられるインク組成物としては、ポリマー粒子の水分散液、あるいは、ポリマー粒子の有機溶剤分散液が挙げられるが、インク受容層として水との親和性に優れたものを用いる場合には、インク滲み抑制の観点から、非水系の分散媒を用いたものが好ましい。
インク滲み抑制の観点から選択される好ましいインク受容体とインクの組合せは、インク受容体とインクとの接触角が30°以上となる態様であり、このような条件においてインク滲みが抑制される。なお、本発明における接触角は、空気中で、インク受容体にインクを0.8μlゆっくりと滴下し、10秒後に測定した接触角の値を用いている。
以下、本発明に用いられるインクについて詳細に述べる。
【0067】
[(1)ポリマー粒子の水分散液]
本発明において好適に用いられるポリマー粒子の水分散液からなるインクとしては、原料のモノマーを水中で重合することにより得られる水性ラテックスが挙げられる。水性ラテックスは、例えば、室井宗一著 高分子刊行会(株)発行 「高分子ラテックスの化学」(1970年5月5日刊行)に記載の方法により合成することができる。
【0068】
ポリマー微粒子の作製に用いられるモノマーとしては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸、スチレン類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類などが挙げられる。
【0069】
分散液中におけるポリマー粒子の濃度は、1〜70質量%の範囲内にあることが好ましく、さらに、10〜60質量%の範囲内にあることが好ましい。
また、ポリマー粒子の粒子直径は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。さらに、ポリマー粒子の水分散液は、視認性のために着色されることが好ましい。着色は、分散液に施されても良いが、ポリマー粒子が着色されることが好ましい。着色には、公知の染料や顔料を用いることができ、水分散系インクに用いるためには油性染料が好ましいことから、例えば、エチルバイオレット、VALIFAST BLUE2620、Oil BLUE N、Sudan Blue、Oil Violetなどを挙げることができる。
【0070】
[(2)ポリマー粒子の有機溶剤分散液]
本発明において好適に用いられるポリマー粒子の有機溶剤分散液として、原料のモノマーを有機溶剤中で重合することにより得られる非水性ラテックスが挙げられる。非水性ラテックスは、例えば、特許第2640288号公報などに記載されている公知の方法により作製できる。
非水性ラテックスの合成に用いられるモノマーとしては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸、スチレン類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類などが挙げられる。
【0071】
非水系インク(分散液)中のポリマー粒子の濃度は、1〜70質量%の範囲内にあることが好ましく、さらに、10〜60質量%の範囲内にあることが好ましい。
また、ポリマー粒子の粒子直径は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。
ポリマー粒子の水分散液は、視認性のために着色されることが好ましい。着色は、分散液に施されても良いが、ポリマー粒子が着色されることが好ましい。着色には、公知の染料や顔料を用いることができ、有機溶剤分散系インクでは水溶性染料が好ましいことから、例えば、Acid Red 52、Acid Violet 34、Acid Yellow 23、Direct Pure Yellow 5Gなどを挙げることができる。
【0072】
本発明においては、ポリマー粒子の有機溶剤分散液として、ポリマー粒子を有機溶剤中で湿式分散することにより得られる分散液を用いることもできる。このような分散液は、欧州特許第1,471,121A明細書などに記載されている公知の方法により作製できる。
微粒子の湿式分散により得られたインクにおいても、インク中のポリマー粒子の濃度は、1〜70質量%の範囲内にあることが好ましく、さらに、10〜60質量%の範囲内にあることが好ましい。
湿式分散型のポリマー粒子の粒子直径は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。
ポリマー粒子の有機溶剤分散液は、視認性のために着色されることが好ましい。着色は、分散液に施されても良いが、ポリマー粒子が着色されることが好ましい。着色には、前記したような種々の染料や顔料を用いることができる。
【0073】
なお、これらのインク組成物に、前記したペルフルオロアルキル基を有する化合物やジメチルシロキサン骨格を有する化合物を含有させる場合には、添加量としては、インク組成物中、0.001〜5.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0074】
<平版印刷版の画像部の形成>
(1.インクジェットによる描画)
ここでは、前記ポリマー粒子分散型のインク組成物を、インクジェット記録方式にて前記本発明に係るインク受容体表面に打滴する。
ここで用いうるインクジェット記録方式には、インク滴を連続吐出させた後、電界などにより記録用と非記録用のインク滴を分け、媒体に記録するコンティニュアス方式と、記録に必要なインク滴のみをノズルから吐出するオンデマンド方式がある。
オンデマンド方式には、インクを急激に加熱し発生した気泡圧によりインク滴を吐出させるサーマル方式(バブル方式)や、ピエゾ素子(圧電素子)を用いるピエゾ方式がある。ピエゾ方式は、印加電圧に対する歪みの発生方向の違いにより、ダイレクトモード型とシェアモード型に分類される。また、オンデマンド方式には、インクまたはインク中に含まれる粒子に電荷を付与し、静電的にインクの吐出を制御する静電方式や、固体インクを加熱溶融して吐出させるソリッドインクジェット方式などもある。インクジェット記録方式の詳細は、 シーエムシー(株)発行「インクジェットプリンター技術と材料」(1998年7月31日刊行)、及び、技術情報協会(株)発行 「最新インクジェット技術ノウハウ集」(2005年6月24日刊行)に記載されているが、本発明においては、いずれの方式も制限無く好適に使用できる。
【0075】
(2.インクの定着)
以上、描画されたものは、ポリマー粒子分散型のインク組成物であるため、必要に応じて加熱を行い、ポリマー粒子を記録媒体へ溶融定着することにより、強固な画像を形成することができる。
加熱の手段としては、ホットプレート、ヒートブロック及びヒートローラなどの接触式加熱や、赤外線ランプ及び温風などの非接触式加熱などが挙げられる。これらの加熱は、インク受容体の形態や構造の変形が起こらない温度と時間で行われることが好ましく、具体的には、40℃〜200℃の範囲で、0.01秒〜30分の範囲内で行われることが好ましい。
【0076】
(3.ガム処理)
さらに、前記加熱定着工程の後、得られた平版印刷版を印刷に付すに先立って、アラビアガムや澱粉誘導体、界面活性剤等を主成分とするガム処理することも可能である。
ガムとしては、特公昭62−16834号、同62−25118号、同63−52600号、特開昭62−7595号、同62−11693号、同62−83194号の各公報に記載されているものが好ましい。
なお、このガム処理工程の際に、インク受容層がガム液により溶解除去されることが好ましい態様である。
【0077】
このようにして、画像様に適用されたポリマー粒子分散型インク中におけるポリマー粒子が溶融定着することで画像部領域が形成された平版印刷版は、平版印刷機にセットしてインクと湿し水とを供給することにより通常の印刷を行うことができる。
本発明の平版印刷版の作製方法により得られた平版印刷版により印刷する際に供給する湿し水及びインクは汎用のものを用いることができ、平版印刷機も一般に使用されるものを用いることができる。
【0078】
湿し水としては、一般に、イソプロピルアルコールを約20〜25%加えた水溶液を湿し水として用いるダールグレン方式が提案され、広く普及している。その他にも、イソプロピルアルコールは特有の不快臭があることと共に、毒性の面でも問題があり、有機溶剤中毒予防規則(有機則)第2種有機溶剤であって規制を受けるため、イソプロピルアルコールを代替する技術を導入したもの、さらにイソプロピルアルコール代替化合物として不揮発性もしくは高沸点化合物を使用する技術も開発されている。また、例えば、特定のアルキレンオキサイド系非イオン系界面活性剤を湿し水組成物に含めたもの、及び、アルキレンジアミンのエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物を湿し水組成物に含めたものなども提案されており、これらのいずれも、本発明に係る平版印刷版を用いた印刷に使用することができる。
【0079】
前記したイソプロピルアルコールを代替する技術を導入した湿し水については、例えば、特開平5−92677号公報、特開平5−318958号公報、特開2001−287476号公報、特開平2−269094号公報、特開平3−63187号公報、特開平3−90389号公報、特開平3−90390号公報、特開平4−363297号公報、特開平5−112085号公報、特開平11−78281号公報、特開平11−105449号公報、特開2001−130164号公報、特開2001−138659号公報、特開2001−180146号公報、特開2001−18553号公報、特開2001−71658号公報、特開2002−187375号公報、特開2002−187376号公報、及び、特開2002−192853号公報に詳細に記載されており、特定のアルキレンオキサイド系非イオン系界面活性剤を湿し水組成物に含めたものについては、例えば、特開昭51−72507号公報に、アルキレンジアミンのエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物を湿し水組成物に含めたものについては、例えば、特開2002−254852号公報に詳細に記載され、これらの湿し水もまた、本発明に係る平版印刷版の印刷に適用しうる。
【0080】
本発明の平版印刷版の作製方法においては、インク受容層が、前記したガム処理工程を行わなかった場合、或いは、ガム処理工程により除去されなかった場合、印刷途上においてこれらの湿し水によって除去されることも好ましい態様である。印刷の初期において、湿し水によりインク受容層が除去され、親水性の表面が露出することで、非画像部の汚れを効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1〜55、比較例1〜5]
〔支持体の作製〕
<アルミニウム板>
Si:0.06質量%、Fe:0.30質量%、Cu:0.005質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.001質量%、Zn:0.001質量%、Ti:0.03質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物のアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、溶湯処理およびろ過を行った上で、厚さ500mm、幅1200mmの鋳塊をDC鋳造法で作製した。表面を平均10mmの厚さで面削機により削り取った後、550℃で、約5時間均熱保持し、温度400℃に下がったところで、熱間圧延機を用いて厚さ2.7mmの圧延板とした。更に、連続焼鈍機を用いて熱処理を500℃で行った後、冷間圧延で、厚さ0.24mmに仕上げ、JIS 1050材のアルミニウム板を得た。このアルミニウム板を幅1030mmにした後、以下に示す表面処理に供した。
【0082】
<表面処理>
(表面処理1)
表面処理は、以下の(b)〜(j)の各種処理を連続的に行った。なお、各処理および水洗の後にはニップローラで液切りを行った。
【0083】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板をカセイソーダ濃度2.6質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m2溶解した。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0084】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0085】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L、アンモニウムイオンを0.007質量%含む。)、液温50℃であった。交流電源波形は図2に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。使用した電解槽は図3に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0086】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.25g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0087】
(f)デスマット処理
温度30℃の硫酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0088】
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L含む。)、温度35℃であった。交流電源波形は図2に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。使用した電解槽は図3に示すものを使用した。電流密度は電流のピ−ク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0089】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0090】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
【0091】
(j)陽極酸化処理
図4に示す構造の陽極酸化装置を用いて陽極酸化処理を行い、実施例1のインク受容体を得た。第一および第二電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも、硫酸濃度170g/L(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度38℃であった。その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0092】
(表面処理2および3)
上記(h)において、アルミニウム板の溶解量をそれぞれ0.2g/m2および0.5g/m2とした以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理2および3のインク受容体を得た。
【0093】
(表面処理4)
上記(g)において、交流電圧の周波数を30Hzとし、かつ、上記(h)を行わなかった以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理4のインク受容体を得た。
【0094】
(表面処理5および6)
上記(g)において、交流電圧の周波数をそれぞれ300Hzおよび500Hzとした以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理5および6のインク受容体を得た。
【0095】
(表面処理7)
上記(d)において、電流密度を電流のピ−ク値で15A/dm2とした以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理7のインク受容体を得た。
【0096】
(表面処理8)
上記(d)において、電解液の液温を70℃とした以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理8のインク受容体を得た。
【0097】
(表面処理9)
上記(b)の前に、下記(a)を行った以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理9のインク受容体を得た。
(a)機械的粗面化処理
図1に示したような装置を使って、比重1.12の研磨剤(パミス)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的粗面化処理を行った。図1において、1はアルミニウム板、2および4はローラ状ブラシ、3は研磨スラリー液、5、6、7および8は支持ローラである。研磨剤の平均粒径は40μm、最大粒径は100μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長は50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0098】
(表面処理10:比較例用表面処理1)
上記(g)において、交流電圧の周波数を10Hzとした以外は、表面処理3と同様の方法により、表面処理10のインク受容体を得た。
【0099】
(表面処理11:比較例用表面処理2)
上記(g)において、交流電圧の周波数を10Hzとし、かつ、上記(h)において、アルミニウム板の溶解量を1.0g/m2とした以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理11のインク受容体を得た。
【0100】
(表面処理12:比較例用表面処理3)
上記(d)において、交流電圧の周波数を15Hzとした以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理12のインク受容体を得た。
【0101】
(表面処理13:比較例用表面処理4)
上記(d)において、電解液の液温を80℃とし、かつ、TPを0msecとした以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理13のインク受容体を得た。
【0102】
(表面処理14:比較例用表面処理5)
上記(g)において、交流電圧の周波数を10Hzとし、かつ、上記(h)において、アルミニウム板の溶解量を1.0g/m2とした以外は、表面処理8と同様の方法により、表面処理14のインク受容体を得た。
【0103】
(表面処理15:比較例用表面処理6)
上記(g)、(h)および(i)を行わなかった以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理15のインク受容体を得た。
【0104】
(表面処理16:比較例用表面処理7)
上記(d)、(e)および(f)を行わなかった以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理16のインク受容体を得た。
【0105】
(表面処理17:比較例用表面処理8)
上記(g)において、電解液として塩酸と酢酸との混合液(塩酸濃度7.5g/L、酢酸濃度15g/L)を用いた以外は、表面処理1と同様の方法により、表面処理17のインク受容体を得た。
【0106】
2.インク受容体の表面形状の測定
上記で得られたインク受容体の表面の凹部について、下記(1)〜(4)の測定を行った。結果を第1表に示す。なお、第1表中、「−」は、該当する波長の凹部がなかったことを示す。
【0107】
(1)中波構造の平均開口径
SEMを用いて支持体の表面を真上から倍率2000倍で撮影し、得られたSEM写真においてピットの周囲が環状に連なっている中波構造のピット(中波ピット)を50個抽出し、その直径を読み取って開口径とし、平均開口径を算出した。
【0108】
(2)小波構造の平均開口径
高分解能SEMを用いて支持体の表面を真上から倍率50000倍で撮影し、得られたSEM写真において小波構造のピット(小波ピット)を50個抽出し、その直径を読み取って開口径とし、平均開口径を算出した。
【0109】
(3)小波構造の開口径に対する深さの比の平均
小波構造の開口径に対する深さの比の平均は、高分解能SEMを用いて支持体の破断面を倍率50000倍で撮影し、得られたSEM写真において開口径0.3μm以下の小波ピットを20個抽出し、開口径と深さとを読み取って比を求めて平均値を算出した。
【0110】
(4)大波構造の平均波長
触針式粗さ計(sufcom575、東京精密社製)で2次元粗さ測定を行い、ISO4287に規定されている平均山間隔Smを5回測定し、その平均値を平均波長とした。2次元粗さ測定は、以下の条件で行った。cut off0.8、傾斜補正FLAT−ML、測定長3mm、縦倍率10000倍、走査速度0.3mm/sec、触針先端径2μm
【0111】
【表1】

【0112】
<親水性層の形成>
上記で得られた各インク受容体に、親水化処理を行った。
(ポリビニルホスホン酸化合物による親水化処理:親水性層1〜3)
前記支持体を、表2記載の濃度のポリビニルホスホン酸水溶液に浸漬した後、水洗乾燥した。
(シリケートによる親水化処理:親水性層4〜6)
前記支持体を、表2記載の濃度の3号珪酸ソーダ水溶液に浸漬した後、水洗乾燥した。
(フッ化ジルコン酸カリウムによる親水化処理:親水性層7〜9)
前記支持体を、表2記載の濃度のフッ化ジルコン酸水溶液に浸漬した後、水洗乾燥した。
(タモールによる親水化処理:親水性層10〜12)
前記支持体を表2記載の濃度のタモール水溶液に浸漬した後、水洗乾燥した。
【0113】
【表2】

【0114】
<インク受容層の形成>
下記表3に記載の組成のインク受容層塗布液をワイヤーバーにて塗布し、80℃で15秒間乾燥し、塗膜を形成させた。乾燥後の塗膜の被覆量はワイヤーバーのウエット量を調整することで実施した。
【0115】
【表3】

【0116】
各塗布液組成に用いたフッ素化合物、親水性樹脂は下記表4に示すとおりである。
【0117】
【表4】

【0118】
前記表4中、に使用した化合物の詳細は以下の通りである。
Si−1(水溶性シリコン系界面活性剤);サンシリコンM−84(水溶性シリコン系界面活性剤、ジメチルシロキサンエチレンオキサイド共重合体、三洋化成工業製品)
親水性樹脂:
(A)ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)
(B)カルボキシメチルセルロースカリウム塩
(C)下記構造式
【0119】
【化3】

【0120】
以上の支持体、表面処理、親水化処理、インク受容層を組合せてインク受容体を作製した。なお、インク受容層の表面を支持体表面の砂目構造を観察したのと同様に測定したところ、アルミニウム支持体表面の砂目構造をよく再現していることが確認された。
これらインク受容体の表面にインクを打滴し、加熱定着させることで平版印刷版を作製した。
(インク1の作製)
<水分散インクの作製>
フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ蒸留水800mlを加え、分散剤としてドデシル硫酸ナトリウム1.0g、1NのNaOH3.5g添加し、内温が80℃となるまで加熱した。そこへ、開始剤として、蒸留水11gに溶解させたK228(0.46g)と、4−ビニルピリジン(0.25モル)、スチレン(0.75モル)をそれぞれ3時間かけて滴下した。その後、蒸留水11gに溶解させたK228(0.46g)、1NのNaOH3.5gを更に添加し、2時間反応を行い、下記構造を有するポリマー粒子の水分散物を得た。
得られた分散物(ポリマー粒子)は重合率98.1%で平均粒径0.09μm、Mwは4.1×104の粒子であった。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
得られた水分散粒子の固形分に対して5重量%のビクトリアピュアブルーを加えて、50℃で4時間反応させた。反応終了後、4μmのフィルター濾過を行う事により、青色着色インク1を得た。
【0121】
【化4】

【0122】
(インク2の作製)
<重合造粒粒子インクの作製>
分散剤の合成(C−I)
オクタデシルメタクリレート96g、4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシカルボニル)酪酸4g、およびトルエン250gの混合溶液を窒素気流下、温度80℃に加温した。開始剤として、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(略称A.I.B.N.)1.5g加え4時間反応し、続けてA.I.B.N.を0.8g加えて温度80℃に加温し、4時間反応した。
反応混合物を室温に冷却した後、攪拌下に、アリルアルコール6gを加えて、続けてジシクロヘキシルカルボジイミド(略称D.C.C.)10g、4−(N,N−ジエチルアミノ)ピリジン0.1gおよび塩化メチレン30gの混合溶液を1時間で滴下した。さらにこのまま3時間反応し、反応を完結させた。次に、この反応混合物に80%ギ酸を10g加え1時間攪拌した後、不溶物を濾別し、濾液をメタノール2.5リットル中に再沈した。沈澱物を濾集後、再びトルエン200gに溶解し、不溶分を濾別した後、濾液をメタノール1リットル中に再沈した。沈澱物を濾集し、乾燥してポリマー分散剤(C−1)を得た。なお、構造はNMR、IRで同定した。
得られた重合体の収率は85%でMwは4.9×104であった。
【0123】
【化5】

【0124】
重合造粒粒子の合成(X−1)
分散剤〔C−I〕20g、メタクリル酸メチル40g、アクリル酸メチル40g、メタクリル酸20g、およびアイソパーG200gの混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.V.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後200メッシュのナイロン布を通し、白色のポリマー粒子(X−1)の分散物を得た。白色分散物中のポリマー粒子は重合率99.2%で平均粒径1.2μmの粒子であり、Mwは5.8×104であった。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
【0125】
【化6】

【0126】
得られた重合造粒粒子の固形分に対して5重量%のビクトリアピュアブルーを加えて、50℃で4時間反応させた。反応終了後、4μmのフィルター濾過を行う事により、青色着色インク2を得た。
【0127】
<フッ素系界面活性剤を添加したインク3の作製>
前記のようにして得られた青色着色インク2にペルフルオロアルキル基を有する有機フッ素化合物であるメガファックF780(大日本インキ(株)製)を0.5%添加して、青色着色インク3を得た。
【0128】
<インクジェット記録方式によるインクの打滴>
青色着色インク2を、ピエゾ方式のヘッドと紫外線照射装置を搭載するミマキエンジニアリング(株)製UJF−605Cを用いて、紫外線照射装置をOFFにした状態で、平版印刷版用インク受容体1〜107にインクジェットによりインクを吐出して描画した。その後、120℃で10秒間加熱して、インクをインク受容体表面に定着させた。
【0129】
<平版印刷版の性能評価>
(1.耐刷性評価)
得られた平版印刷版を、小森コーポレーション社製のリスロン印刷機で、湿し水をIF102(富士写真フィルム(株)製)大日本インキ化学工業社製のDIC−GEOS(N)墨のインキを用いて印刷し、ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、耐刷性を評価した。
(2.汚れにくさ評価)
三菱ダイヤ型F2印刷機(三菱重工社製)で、湿し水として、エコリティー2の3%水溶液(富士写真フィルム(株)製)を、インキとしてDIC−GEOS(s)紅を用いて印刷した。水つけローラーを10回転版に接触させた後、インクをつけると同時に印刷を開始し、きれいな印刷物ができるまでに必要な紙の枚数を計測した。
【0130】
まず、表面処理9の支持体上に親水化処理5で親水化したものを用い、その表面に表5に示すインク受容層を形成して実施例1〜24、比較例1〜5の平版印刷版を作製し、前記の方法で評価した。
【0131】
【表5】

【0132】
表5の結果より、インク接触角が30°より大きく、水接触角が10°より小さいものはドット径が小さく、現像枚数も20枚以下で良好であり、さらに問題のない耐刷性を有していることがわかる。一方、インク接触角が30°より小さい場合、ドット径は100μmを超え、水接触角が15°を超える場合は現像枚数が多くなることがわかる。
【0133】
次に、表面処理1を施した支持体表面に、下記表6に記載の親水性層を形成し、その表面にインク受容層15を形成してなるインク受容体を用いて、実施例25〜36の平版印刷版を作製し、同様に評価を行った。
【0134】
【表6】

【0135】
表6の結果より、陽極酸化皮膜に親水化処理を施すことにより水接触角が低くなり現像枚数が低下することがわかる。
【0136】
次に、表7に記載の表面処理を行ったアルミニウム支持体表面に、親水化処理3を施し、インク受容層15を形成したインク受容体を用いて、実施例37〜53の平版印刷版を作製し、同様に評価した。
【0137】
【表7】

【0138】
平均開口径0.5〜5μmの中波構造と平均開口径0.01〜0.2μmの小波構造以外のものは耐刷性と汚れにくさの一方が、実用上問題ないレベルではあるが、最適のものに比較してやや劣ることがわかる。
平均波長5〜100μmの大波構造と平均開口径0.5〜5μmの中波構造と平均開口径0.01〜0.2μmの小波構造とを重畳した構造の砂目形状は耐刷性と汚れにくさのバランスがよい。
【0139】
次に、表面処理9と親水化処理5とを施した支持体表面に表8に記載のインク受容層を形成し、さらに、前記インク1又はインク2を打滴して実施例54〜55の平版印刷版を作製し、同様に評価した。また、対照例として、インクのみが異なる実施例14、比較例1の結果を併記した。
【0140】
【表8】

【0141】
インク2にF−780を添加することにより、インク接触角が5°から70°となり、このため、インク受容層24に打滴した場合、インク1によるドット径が130μmであったものが、インク2を用いることで30μmになった。このことから、インクに撥水性化合物を添加することでより滲みのない高解像度の画像を形成しうることがわかる。
【0142】
[実施例56]
実施例1記載のプレートを実施例1と同様に描画、加熱した後、ガムコーターG−800H(富士写真フィルム製)にGU−7を倍に水で希釈したガム液を仕込み、ガムを塗布した。耐刷、汚れ性は実施例1と同等であり、ガム処理により、非画像部領域のインク受容層が除去されていることがわかった。
【0143】
<インクジェット記録方式によるインクの打滴>
前記のようにして得られた青色着色インク1を、ピエゾ方式のヘッドを搭載するセイコーエプソン(株)製PX−G920を用いて、直描型平版印刷版用インク受容体に、1.5plの液滴量でインクジェットした。さらに、インクジェット後に120℃10秒加熱した。
【0144】
まず、表面処理9の支持体上に親水化処理5で親水化したものを用い、その表面に表9に示すインク受容層を形成して実施例57〜58の平版印刷版を作製し、前記と同様の方法で評価した。
【0145】
【表9】

【0146】
表9の結果より、水分散系のインク2を用いた場合においても、溶剤分散系と同様に、インク接触角が30°より大きく、水接触角が10°より小さいものはドット径が小さく、現像枚数も20枚以下で良好であり、さらに問題のない耐刷性を有していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明に係る平版印刷版用インク受容体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図2】本発明に係る平版印刷版用インク受容体の作製における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【図3】本発明に係る平版印刷版用インク受容体の作製における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図4】本発明に係る平版印刷版用インク受容体の作製における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0148】
1 アルミニウム板
2、4 ローラ状ブラシ
3 研磨スラリー液
5、6、7、8 支持ローラ
11 アルミニウム板
12 ラジアルドラムローラ
13a、13b 主極
14 電解処理液
15 電解液供給口
16 スリット
17 電解液通路
18 補助陽極
19a、19b サイリスタ
20 交流電源
40 主電解槽
50 補助陽極槽
410 陽極酸化処理装置
412 給電槽
414 電解処理槽
416 アルミニウム板
418、426 電解液
420 給電電極
422、428 ローラ
424 ニップローラ
430 電解電極
432 槽壁
434 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上にインク受容層を設けたインク受容体に、インクジェット記録方式によりインクを打滴し、加熱処理して、インクを定着させた後、前記インクを打滴していない前記インク受容層を除去する平版印刷版の作製方法であって、前記支持体が、平均開口径0.5〜5μmの中波構造と平均開口径0.01〜0.2μmの小波構造とを重畳した構造の砂目構造を表面に有し、かつ前記インクが水及び有機溶剤から選択される1種以上を含む分散媒にポリマー微粒子を分散させていることを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項2】
前記支持体が、平均波長5〜100μmの大波構造と平均開口径0.5〜5μmの中波構造と平均開口径0.01〜0.2μmの小波構造とを重畳した構造の砂目構造を表面に有することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項3】
前記小波構造の開口径に対する深さの比の平均が0.2以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項4】
前記インク受容層の除去が、印刷途上において湿し水により行われることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項5】
前記インク受容層の除去が、インクを定着させた後に実施されるガム引き工程においてガムにより行われることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−260987(P2007−260987A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86576(P2006−86576)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】