説明

平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法

【課題】耐刷性や印刷適性に優れ、均一微細なエッチングピットを形成できる平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】質量%で、Feを0.1〜0.6%、Siを0.02〜0.2%、Cuを0.001〜0.02%、Znを0.01〜0.1%、Mgを0.005〜0.1%、Tiを0.001〜0.05%、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法において、熱間圧延を施した後、複数の冷間圧延の間または最終冷間圧延の終了後のいずれかにおいて、前記アルミニウム合金板の表面層除去の工程を備え、前記表面層除去の工程が、前記アルミニウム合金板の板厚の0.1%以上の深さを除去する工程であることを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法を用いることにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷に用いるPS版用等のアルミニウム合金板に関し、特に電解エッチングによる粗面の均一性に優れたアルミニウム合金板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、アルミニウム合金板からなる支持体上にジアゾ化合物等の感光物を含有する感光層を塗設し、PS版(Presensitized Plate)に画像露光、現像等の製版処理を行って画像部を形成した平版印刷版を印刷機の円筒状版胴に巻付け、非画像部に付着した湿し水の存在のもとにインキを画像部に付着させてこのインキをゴム製ブランケットに転写、紙面に印刷するものである。
PS版においては、感光膜の密着性及び非画像部における保水性の点から、支持体の表面を粗面化することが必要である。
【0003】
従来、支持体表面の粗面化処理方法として、ボール研磨法又はブラシ研磨法等の機械的処理法が使用されていたが、最近では塩酸若しくはこれを主成分とする電解液、又は硝酸を主成分とする電解液を使用して、支持体であるアルミニウム板の表面を電気化学的に粗面化する電解粗面化処理法、又は前記機械的処理法と前記電解粗面化処理法とを組み合わせた処理方法が主に採用されている。これは、電解粗面化処理法によって得られた粗面板が製版に適しており、また印刷性能にも優れているからである。更に、電解粗面化処理法では、アルミニウム合金板をコイル状にして連続処理する場合に適しているからである。
前述のようにして、粗面化されるアルミニウム合金板には、その粗面化処理によって均一な凹凸が形成されることが要求される。均一な凹凸が形成された印刷版用アルミニウム合金板においては、感光膜との密着性及び保水性が向上すると共に、優れた画像鮮明性及び耐刷性を得ることができる。また、最近では粗面化処理コストを低減させるため、より短時間又は低通電量で均一な凹凸を形成することができる材料の開発が強く求められている。
【0004】
PS版の支持体として用いられるアルミニウム合金としては、当初、JIS1050(純度99.5%以上の純Al)が用いられ、最近ではJIS1100(Al−(0.05〜0.20)%Cu合金)、JIS3003(Al−(0.05〜0.20)%Cu−1.5%Mn合金)等のCu系合金あるいはCu−Mn系アルミニウム合金が主に用いられるようになってきた。
通常、アルミニウム合金板はアルミニウム合金スラブを均熱処理した後、熱間圧延、中間焼鈍及び冷間圧延の工程を経て製造される。アルミニウム合金材料を熱間圧延する過程で表面に不均一な酸化膜が形成される。この酸化膜は350℃以上の高温に曝されると急激に成長するようになる。また、一連の圧延工程で印刷板以外のアルミニウム合金板を圧延した際に圧延油中に混入する異種材質のアルミニウム合金粉や異物などが表面に付着し、そのまま圧延されることがある。
【0005】
あるいは雰囲気中の異物が圧延板の表面に付着してそのまま圧延されることがある。上記のような原因に起因して、圧延板表面には“コーティング層”が形成され、この“コーティング層”は印刷板製造過程の電解エッチング処理工程において未エッチング部分を形成し易い。アルミニウム合金板の表面の未エッチング部分は、外観不良となるばかりでなく耐刷性等の印刷性能の劣化を引き起こし、鮮明な印刷像が得られないので問題となっている。
また、Cuを含んだアルミニウム合金は強度が高くなり支持担体としての平坦性は向上するものの、アルミニウム合金板中に含まれるCu成分は、印刷板製造過程の電解エッチング処理工程においてピットを粗大化させる作用があるので、均一な凹凸を形成することができなくなるという問題点がある。この原因はアルミニウム合金板中に含まれるCu成分が、電解エッチング表面を不動態化するためである。
【0006】
電解処理の際にピットの粗大化を防ぐ対策として、Cu含有量を低く抑える試みがなされている。たとえば、特許文献1には、Si;0.02〜0.15%、Fe;0.1〜1.0%、Cu;0.003%以下、残部Alおよび不可避的不純物からなるオフセット印刷用アルミニウム合金板が開示されている。しかしながらCuの含有量を低くすると硬さが低下して印刷板としての剛性が確保できなくなるので、目的を果たすまでには至っていない。
また、圧延工程中の高温領域でCuが熱拡散し、材料表面にCuが濃縮されるため、Cuの平均含有量の低い材料を使用しても材料表面部ではCu濃度が高くなってしまうからである。この対策として、Cuの拡散を抑制するような比較的低い温度で熱間圧延や熱処理をする方法も試みられているが、熱間圧延温度を低くすると圧延性が悪くなり、所定の板厚まで圧延するのに要するパス回数が増加してしまう。
【0007】
上記事情を鑑み、特許文献2では、熱間圧延を施した後、冷間圧延途中又は最終冷間圧延終了後に表面を一定量エッチングする製造方法により、Cuの表面濃度を低下させたFe−Si−Cu系アルミニウム合金板を製造した。それを用いて電解エッチングを行うと、表面に未エッチング部分が少なく、粗大化したエッチングピットが生じず、かつ表面部分のCu含有量の低い印刷用アルミニウム合金板とすることができた。
しかしながら、前記印刷用アルミニウム合金板であっても耐刷性や印刷適性の点で不十分であったので、電解エッチング法により、より均一微細なエッチングピットが形成できる特質を備えた平版印刷版用アルミニウム合金板が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開昭58−221254号公報
【特許文献2】特開2004−35984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、耐刷性や印刷適性に優れ、均一微細なエッチングピットを形成できる平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、質量%で、Feを0.1〜0.6%、Siを0.02〜0.2%、Cuを0.001〜0.02%、Znを0.01〜0.1%、Mgを0.005〜0.1%、Tiを0.001〜0.05%、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法であって、熱間圧延を施した後、複数の冷間圧延の間または最終冷間圧延の終了後のいずれかにおいて、前記平版印刷版用アルミニウム合金板の表面層除去の工程を備え、前記表面層除去の工程が、前記平版印刷版用アルミニウム合金板の板厚の0.1%以上の深さを除去する工程であることを特徴とする。
【0011】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、前記平版印刷版用アルミニウム合金板が、複数の金属間化合物粒子を有しており、0.1〜1.0μm未満の円相当径の金属間化合物粒子の含有量をA、1.0μm以上の円相当径の金属間化合物粒子の含有量をBとした場合、(A/B)×100の値が0.20以上であることを特徴とする。
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、前記平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する方法において、化学的方法により前記表面層除去を行うことを特徴とする。
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、前記平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する方法において、前記化学的方法がエッチング処理であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記の構成によれば、耐刷性や印刷適性に優れ、均一微細なエッチングピットを形成できる平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法の実施形態の一例について説明する。
まず、本実施形態の平版印刷版用アルミニウム合金板の組成限定理由について述べる。
【0014】
Feは、Al−Fe系金属間化合物を形成し、電解エッチングによる粗面均一性を向上させるとともに、耐疲労強度を向上させる。しかし、0.1%未満ではこの効果が不十分であり、また0.6%を超えると金属間化合物の粗大化により電解エッチングによる粗面の均一性を害する傾向にあるので、0.1〜0.6%の範囲が好ましく、0.2〜0.4%の範囲がより好ましい。
SiはAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、熱間圧延時の再結晶粒の微細化を促す。0.02%未満では、この効果が不足して粗大な結晶粒が生じてしまい、電解エッチングによる粗面の均一性を阻害する。また、ストリークと呼ばれる軽い未エッチング部を生じさせる場合もある。一方、0.2%を超えると、Al−Fe−Si系の金属間化合物が粗大化し、電解エッチングによる粗面の均一性を阻害するので、0.02〜0.2%の範囲が好ましく、0.04〜0.08%の範囲がより好ましい。
【0015】
Cuはアルミニウム合金中に固溶状態で存在し、材料の硬さを向上させる。さらに、アルミニウムマトリクスと金属間化合物との間で生じる電位差を調整し、電解粗面を均一化する効果を有する。Cu含有量が、0.001%未満では、アルミニウムマトリクスの硬度が不足となるとともに、電位差を調整する効果が不十分となり、電解粗面を均一化できない。一方、Cu含有量が0.02%を超えると、アルミニウム合金板の表面に粗大化したピットが生じ易くなる。従って、0.001%〜0.02%の範囲が好ましい。
Znは、0.01〜0.1%の範囲が好ましい。Znは縞模様の発生に大きく影響する元素である。Zn含有量が0.01%未満ではカソード溶解性が不足し、縞模様の発生抑止効果が得られ難い。また、Zn含有量が0.1質量%を超えるとカソード溶解性が増し過ぎて、むしろ縞模様の発生を助長する。好ましいZn含有量の範囲は0.03〜0.07質量%である。
【0016】
なお、前記縞模様は、電解エッチングの際、アルミニウム板表面に形成される模様であり、アルミニウム板をロールから送出しつつ電解処理液に浸漬して電解エッチングを施した場合、アルミニウム板を送る方向と直角方向に生じるエッチングむらのことである。この縞模様の発生は電解エッチング時に使用する交流電源の周波数に対応する。電解エッチングにおいて、アノード部位ではアルミニウムが溶解し、エッチングピットが形成されて白色化する一方、カソード部位ではアルミニウムの溶解はほとんど生じない結果、交流の周波数に対応した縞模様が形成される。
【0017】
Mgは、0.005〜0.1%の範囲が好ましい。前記範囲のMgを添加することにより、電解エッチングにより形成するエッチングピットの均一性を向上させることができる。また、Mgも前記縞模様の発生に大きく影響する元素である。その含有量が0.005質量%未満ではカソード溶解性が不足し、強度の向上効果も少なく、逆にその含有量が0.1質量%を超えるとカソード溶解性が低下して縞模様の発生を助長してしまう。
Tiは、0.001〜0.05%の範囲が好ましい。Tiは結晶粒を微細化する元素であるが、Ti含有量が0.001質量%未満では結晶粒微細化の効果が得られない。また、Ti含有量が0.05質量%を超えると粗大な晶出物が増加してカソード溶解性を低下させ、縞模様の発生を助長する傾向にある。好ましいTi含有量の範囲は0.005〜0.02質量%である。
不可避不純物として、Mn,Y,Sn,Zr,Ga,Ni,In等を例示することができる。これら不可避不純物の含有量は、それぞれ0.03質量%以下に抑えることが好ましい。
【0018】
金属間化合物粒子はエッチングピットの起点になるものであり、その数と大きさを適切に制御することが、より均一微細なエッチングピットを形成するために必要となる。
前記金属間化合物粒子は、円相当径0.1μm未満の場合には、エッチングピットの起点として十分に作用せず、適切なエッチングピットを形成することができない。一方、円相当径1.0μm以上の場合には、エッチングピットを粗大化させ、またエッチングピットの均一性を低下させる。従って、金属間化合物粒子の大きさは、円相当径0.1〜1.0μm未満が適切な大きさの範囲となる。
したがって、円相当径が0.1〜1.0μm未満の金属間化合物粒子の含有量をA、円相当径が1.0μm以上の金属間化合物粒子の含有量をBとした場合には、(A/B)×100の値が0.20以上であることが好ましい。
【0019】
また、この(A/B)×100の値は300以下であることが好ましい。これ以上に増やしても、ピットの粗大化を抑制する効果は少ないにもかかわらず、圧延パス回数が増えて圧延コストが増加してしまう場合があるためである。
前記組成のアルミニウム合金板でかつ金属間化合物粒子の数と大きさを制御したものは、粗面均一性を向上させるとともに、耐疲労強度および材料の硬さを向上させ、また電解エッチングにより均一微細なエッチングピットを形成するなど平版印刷版用アルミニウム合金板材料として優れた特性を示す。しかし、Mgは酸化皮膜を形成しやすいので、熱間圧延工程において、酸化膜が不均一に成長しコーティング層を形成する場合がある。このコーティング層は表面を局所的に覆い、覆われた部分は未エッチング部となる。そのため、均一微細なエッチングピットを形成するなど平版印刷版用アルミニウム合金板を製造するためには、このコーティング層を除去する工程が不可欠となる。
【0020】
次に、本実施形態の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造工程の一例について説明する。
質量%で、Feを0.1〜0.6%、Siを0.02〜0.2%、Cuを0.001〜0.02%、Znを0.01〜0.1%、Mgを0.005〜0.1%、Tiを0.001〜0.05%、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成の合金溶湯を得る。
次に、これを溶解鋳造して得たスラブに対し、500℃〜550℃の温度で均質化処理を行う。更に、熱間圧延し、厚さ2〜10mmのアルミニウム合金板とする。
前記アルミニウム合金板を、冷間圧延によって0.1〜3.0mmの厚さ(以後、直前板厚とする)まで圧延した後に、化学的方法を用いて0.1%(以後、除去量とする)以上の表面層を除去する。
ここで、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延はアルミニウム合金板を製造するときに用いられる一般的な方法を、製造する板厚、大きさ等にあわせて製造条件を設定し、用いてかまわない。
【0021】
表面層を除去する化学的方法は、サンプルをアルカリ溶液中に浸漬する方法を用いる。液温20〜80℃の水酸化ナトリウム水溶液中に、5秒〜8分間浸漬し、表面層を除去する。前記水酸化ナトリウム水溶液は、遊離アルカリ濃度3〜15%のものを用いる。浸漬後に水洗し、3〜9%濃度の硝酸に浸漬することにより中和し、再び水洗して乾燥することにより、平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する。
化学的方法は、化学反応を用いて表面層を除去する方法ならば、前記方法に限定されず、どのような方法を用いてもかまわない。
表面層を除去する方法として、機械的方法も存在する。
【0022】
以下、本発明の実施形態の効果について説明する。
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板は、質量%で、Feを0.1〜0.6%、Siを0.02〜0.2%、Cuを0.001〜0.02%、Znを0.01〜0.1%、Mgを0.005〜0.1%、Tiを0.001〜0.05%、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成なので、粗面均一性を向上させるとともに、耐疲労強度および材料の硬さを向上させ、縞模様の発生を抑止させることができる。
【0023】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板は、金属中に含有する金属間化合物粒子については、円相当径が0.1〜1.0μm未満の金属間化合物粒子の含有量をA、円相当径が1.0μm以上の金属間化合物粒子の含有量をBとした場合に、(A/B)×100の値が0.20以上であるので、円相当径が0.1〜1.0μm未満の金属間化合物粒子の必要とされる数を充足し、それらがエッチングピットの起点として働き、均一微細なエッチングピットを形成することができる。
【0024】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、前記組成のアルミニウム合金板を用いて、熱間圧延を施した後、複数の冷間圧延の間または最終冷間圧延の終了後のいずれかにおいて、前記平版印刷版用アルミニウム合金板の表面層除去の工程を備え、前記表面層除去の工程が、前記平版印刷版用アルミニウム合金板の板厚の0.1%以上の深さを除去する工程であることを特徴とする構成なので、熱間圧延でアルミニウム合金板表面に形成されたコーティング層を除去することができ、均一微細なエッチングピットを形成できる表面とすることができる。
【0025】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、化学的方法、特にエッチング法により前記表面層除去を行うことを特徴とする構成なので、熱間圧延でアルミニウム合金板表面に形成されたコーティング層を除去するとともに、アルミニウム合金板表面を化学的に処理し、均一微細なエッチングピットを形成できる表面とすることができる。
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
質量%で、Feを0.1%、Siを0.02%、Cuを0.003%、Znを0.05%、Mgを0.03%、Tを0.01%、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成で合金溶湯とし、溶解鋳造して得たスラブに対し、約525℃の温度で均質化処理を行った後、熱間圧延し、厚さ6mmのアルミニウム合金板とした。
前記アルミニウム合金板を、冷間圧延によって2.0mmの厚さ(以後、直前板厚とする)まで圧延した後に、化学的方法を用いて1.0%(以後、除去量とする)すなわち0.02mmの厚さの表面層を除去した。
表面層を除去する化学的方法は、サンプルをアルカリ溶液中に浸漬する方法を用いた。液温60℃の水酸化ナトリウム水溶液中に、2分間浸漬し、表面層を除去した。前記水酸化ナトリウム水溶液の遊離アルカリ濃度10%であった。浸漬後に水洗し、6%濃度の硝酸に浸漬することにより中和し、再び水洗して乾燥することにより、平版印刷版用アルミニウム合金板を製造した。その後、冷間圧延によって0.3mmの板厚とした。
【0028】
以下の評価は、後述の実施例2〜9、比較例1〜8に共通である。
前記アルミニウム合金板から試料片として約1gを切り取り、180℃の温度とした100gのフェノールに溶解した後、100gのベンジルアルコールを追加して180℃に再加熱して、前記試料片を溶解したものを、目開き1.0μmのメンブレンフィルターでろ過して、捕捉された粒子をベンジルアルコールで洗浄、乾燥した後、粒子質量を測定し、その質量をBとした。次に、同時に得られたろ液を目開き0.1μmのメンブレンフィルターでろ過して、捕捉された粒子を、前記と同様にして粒子質量を測定し、その質量をAとした。以上の結果から、(A/B)×100の値を算出した。
前記アルミニウム合金板を、浴温25℃の2%塩酸中に浸漬し、周波数50Hz、電流密度60A/dm2、15秒の条件で電解エッチング処理を行った。その後、浴温50℃の3%水酸化ナトリウムに5秒浸漬したのち、浴温25℃の10%硝酸に30秒浸漬し、表面に付着したエッチング残渣を除去した。
前記アルミニウム合金板の表面を500倍で電子顕微鏡(以下、SEM)観察し、円相当径8μm未満の微細なピットが形成されている面積を測定した。微細なピットが形成されている面積が95%以上である場合を合格、95%未満である場合は不合格と判定した。
【実施例2】
【0029】
以下は、表1の条件で行った。
実施例1〜9および比較例1〜8で作製したアルミニウム合金板の組成および表面層除去の方法および条件を表1に示す。
熱間圧延、厚さ6mmまでは実施例1と同じであり(実施例9は後述)、その後、表1の直前板厚まで冷間圧延を行い、表面層を除去した。その後、実施例2、3、5〜9、比較例1、3〜8は冷間圧延によって、0.3mmの板厚とした。
【0030】
【表1】

【0031】
金属間化合物質量から得られた(A/B)×100の値および円相当径8μm以下の微細ピット形成面積の測定結果について、表2に示す。(A/B)×100の値は、実施例9および比較例8が0.20未満の値であった。
実施例9は、均質化処理を560℃で行うことで、(A/B)×100の値が0.20未満になるように調整した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、実施例はすべて合格であったが、比較例はすべて不合格という結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、PS版用等の平版印刷版用アルミニウム合金板、特に電解エッチングにより形成した粗面の均一性に優れた平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法および平版印刷版用アルミニウム合金板に関するものであり、印刷分野において利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Feを0.1〜0.6%、Siを0.02〜0.2%、Cuを0.001〜0.02%、Znを0.01〜0.1%、Mgを0.005〜0.1%、Tiを0.001〜0.05%、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法であって、熱間圧延を施した後、複数の冷間圧延の間または最終冷間圧延の終了後のいずれかにおいて、前記平版印刷版用アルミニウム合金板の表面層除去の工程を備え、前記表面層除去の工程が、前記平版印刷版用アルミニウム合金板の板厚の0.1%以上の深さを除去する工程であることを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項2】
前記平版印刷版用アルミニウム合金板が、複数の金属間化合物粒子を有しており、0.1〜1.0μm未満の円相当径の金属間化合物粒子の含有量をA、1.0μm以上の円相当径の金属間化合物粒子の含有量をBとした場合、(A/B)×100の値が0.20以上であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
前記平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法において、化学的方法により前記表面層除去を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項4】
前記平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法において、前記化学的方法がエッチング処理であることを特徴とする請求項1〜3に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。



【公開番号】特開2008−272941(P2008−272941A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115494(P2007−115494)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】