説明

幹細胞の増幅因子

本発明は、造血幹細胞のような幹細胞を未分化のまま、多能性を維持し、かつ、自己複製能も保持させる方法および物質に関する。詳細には、本発明は、幹細胞の増幅またはその多能性の維持のための組成物であって、活性型STAT5を含む、組成物またはそれを利用する方法を提供する。STAT5はタンパク質形態であっても核酸形態であってもよい。この組成物は、細胞生理活性物質(例えば、SCF、TPOおよびFlt−3Lなど)を含んでいてもよい。本発明は、上記幹細胞から調製された細胞、組織および臓器にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性(もしくは未分化性)もしくは自己複製能を維持するための組成物、方法およびキットに関する。より詳細には、本発明は、活性型STAT5を使用した幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性(もしくは未分化性)もしくは自己複製能を維持するための組成物、方法およびキットに関する。本発明はまた、そのような方法を用いて調製された幹細胞(特に、造血幹細胞)にも関する。
【背景技術】
【0002】
再生医学(再生医療)による疾患治療が最近注目を浴びている。しかし、これを臓器ないし組織機能不全を呈する多くの患者に対して日常的に適応するまでには至っていない。現在まで、そのような患者の治療として、臓器移植のほか、医療機器での補助システムの利用がごく限られた患者に適応されているにすぎない。しかし、これらの治療法には、ドナー不足、拒絶、感染、耐用年数などの問題がある。特に、ドナー不足は深刻な問題であり、骨髄移植の場合、国内外で骨髄ないし臍帯血バンクが次第に充実してきたといっても、限られたサンプルを多くの患者に提供することが困難である。従って、これらの問題を克服するために幹細胞治療とその応用を中心とした再生医学に対する期待がますます高まっている。
【0003】
生物の体は一生の間に外傷や病気によって臓器の一部を失ったり、大きな傷害を受けたりする。その場合、損傷した臓器が再生できるか否かは、臓器によって(または動物種によって)異なる。自然には再生できない臓器(または組織)を再生させ、機能を回復させようというのが再生医学である。組織が再生したかどうかは、その機能が改善したかにどうかによって判定することができる。哺乳動物は、組織・器官(臓器)を再生する力をある程度備えている(例えば、皮膚、肝臓および血液の再生)。しかし、心臓、肺、脳などの臓器は再生能力に乏しく、一旦損傷すると、その機能を再生させることができないと考えられてきた。従って、従来であれば、例えば、臓器が損傷した場合、臓器移植による処置しかほとんど有効な措置がなかった。
再生能力の高い臓器には幹細胞が存在することが古くから想定されていた。この概念が正しいことは動物モデルを用いた実験的骨髄移植によって証明された。そして、その後の研究によって骨髄中の幹細胞がすべての血液細胞再生の源であることが明らかにされた。幹細胞は骨髄、皮膚等の再生能力の高い臓器に存在することも明らかにされた。さらに、再生されないと長年思われてきた脳にも、幹細胞が存在することが明らかとなってきた。すなわち、体内のあらゆる臓器には幹細胞が存在し、多かれ少なかれ、各臓器の再生を司っていることがわかってきた。また、各組織に存在する幹細胞には予想以上に可塑性があり、ある臓器中の幹細胞は他の臓器の再生にも利用できる可能性が指摘されている。
【0004】
幹細胞は今まで不可能であった臓器の再生にも利用できる可能性がある。幹細胞治療を中心として、再生医学はその注目度を増している。近年、医学・医療分野から再生に関する研究の必要性が高まるにつれて、幹細胞または器官形成に関する知見が毎年、増大している。例えば、全能性を有する胚性幹細胞(ES細胞)の樹立と成体体細胞からのクローン個体の作製が特に注目されている。幹細胞治療に発生・再生に関する技術を利用できるからで、幹細胞を用いた再生医学は各分野で臨床応用を目的とした、準備段階にはいっている。また、すでに実用化がすすんでいる分野もある。
【0005】
再生医学においては、器官・臓器の再構築が最重要となる。この場合、大きく分けて生体外で器官を構築し人工器官として用いる方法と、生体内で器官を再構築させる方法とがある。いずれの場合でも、器官の構築には幹細胞が必要となる。ここで用いられる幹細胞にとって重要な性質としては、多能性および自己複製能がある。
【0006】
幹細胞には大きく分けて、胚性幹細胞と体性(組織)幹細胞とが存在する。体性幹細胞の中でも古くから注目されていたものとして、造血幹細胞がある。寿命の短い成熟血球をヒトの一生の間維持するためには、造血幹細胞の自己複製能と多分化能とが必要であり、このことは、1961年にすでに提唱されていた(Till,J.E.,et al.、Radiat.Res.14:213−222)。1972年にマウスモデルを用いた骨髄移植法が確立され(Micklem,H.S.et al.:J.Cell Physiol.,79:293−298,1972)、造血系再構築を調べることにより造血幹細胞を検出することができるようになって以来、造血幹細胞の研究は飛躍的に進展した。その後の研究により、自己複製能と多分化能との両方を有する造血幹細胞の存在が示された(Dick,J.E.,et al.;Cell 42;71−79,1985)。しかし、造血幹細胞は、マウスの場合でも10万個の骨髄細胞中に数個程度という低い頻度で存在することから、実際の研究または臨床応用する場合には、濃縮・純化する必要がある。
【0007】
従来から造血幹細胞移植治療は行われていたが、天然の細胞を濃縮したものを使用していたことから、種々の副作用があった。例えば、大量抗癌剤または放射線照射を用いた移植前処置による副作用(RRT)が存在していた。また、前処置による骨髄抑制中の細菌・真菌感染症、出血;他人からの移植の場合、ドナーの白血球が生着して増えてきた時に患者臓器を異物(他人)とみなして攻撃する反応(移植片対宿主病=GVHD);サイトメガロウィルス(CMV)肺炎を中心とする様々な肺合併症;血管内皮細胞(血管の内側を覆っている細胞)の障害による種々の内臓障害;生着後にも遷延する免疫抑制状態(少なくとも1〜2年)の間に罹患する様々な感染症;遷延し様々な症状を呈する慢性GVHD;二次性発癌、性腺機能障害、不妊などの晩期障害などの副作用があった。
【0008】
以上のような合併症のために、移植を行ったがために、かえって一時的に全身状態が悪くなるということはしばしば起こる。また、合併症のために死亡する患者も、自家移植でも10〜20%、他人からの移植では20〜40%程度認められる。また、これらの合併症を乗り越えても、もとの病気が再発する可能性があり、現在の移植治療の限界があった。
【0009】
骨髄移植後の合併症による早期死亡を予防することを目的に幹細胞を分離・純化し、生体外で幹細胞から前駆細胞を大量に産生し、それを幹細胞とともに移植することによって行う治療法が登場し、すでに臨床試験が試みられようとしている。
【0010】
FACS(fluorescence activated cell sorter)が1980年代に提唱されて以来、FACSを使用した方法が造血幹細胞の濃縮・純化に多用されている。多重染色した骨髄細胞からCD34−KSL細胞を分離することによって純度の高い造血幹細胞が得られることが明らかになっている(Osawa,M.et al.,Science,273:242−245,1996)。上述のように、多分化能および自己複製能は幹細胞の本質である。その能力を十二分に引き出すためには幹細胞を濃縮・純化し、それを体外培養によって増幅することが重要となる。
幹細胞の分化を調節する機構として種々のタンパク質が重要な役割を果たす。
例えば、幹細胞因子(stem cell factorまたはsteel factor;SCFともいう)は、造血幹細胞では注目されている因子である。
【0011】
SCFは、骨髄ストローマ細胞により生成され、多能性幹細胞、CFU−GMのCFU−M、CFU−Megなどの骨髄系細胞、リンパ系幹細胞に作用し、これらの分化を支持する。すなわち造血幹細胞から分化細胞へのほぼすべての系統の分化段階の細胞に作用して、他のサイトカインによる最終分化段階への分化誘導する作用を助けるとされる(北村聖(S.Kitamura)、サイトカインの最前線、羊土社、平野俊夫(T.Hirano)編、174頁〜187頁、2000)。
【0012】
しかし、SCF単独の作用は弱く、他の因子と協働でなければ充分に機能しないようである。例えば、SCFは、インターロイキン(IL)−3、IL−6、IL−11、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)などの他のサイトカインの存在下で、造血幹細胞の分化・増殖を強く誘導する。また、肥満細胞、赤芽球系前駆細胞、顆粒球マクロファージ系前駆細胞、巨核球系前駆細胞などの分化・増殖も誘導する。
【0013】
従って、SCFは分化そのものを制御するというよりは、多くの種類の造血系細胞の生存を支持しながら、種々のサイトカインに対する反応性を高めると位置づけることができる。
【0014】
トロンボポイエチン(TPO)もまた注目されている。この因子は、巨核球系の分化と血小板産生を支持するが、幹細胞にも作用しその分化を誘導する。また、幹細胞の自己複製にも関与することが分かっている。
【0015】
このように、従来の因子では、幹細胞の分化を促進することはなしえても、未分化のままその多能性を維持すること(すなわち、増幅すること)ができないという問題点があった。
【0016】
造血幹細胞の未分化性の維持および自己複製に、トロンボポイエチン受容体およびgp130を介したシグナルが有効であることが報告されている。このシグナルの下流には、JAK−Stat系などの種々の因子が存在することが知られているが、どの因子が実際に未分化性の維持および/または自己複製において役割を果たしているかについては、解明が進んでいない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明は、造血幹細胞のような幹細胞を増幅(expansion)させ、あるいは、多能性を維持し、および/または自己複製能も保持させる方法および物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
本発明は、一部、本発明者らが、活性型STAT5自体が予想外に、造血幹細胞のような幹細胞を未分化のまま、多能性を維持し、かつ、自己複製能も保持させる機能を有することを発見したことによって、上記課題を解決する。
【0019】
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物であって、活性型STAT5を含む、組成物。
(2)前記幹細胞は、造血幹細胞である、項目1に記載の組成物。
(3)前記活性型STAT5は、活性型STAT5AまたはSTAT5Bである、項目1に記載の組成物。
(4)前記活性型STAT5は、活性型STAT5Aである、項目1に記載の組成物。
(5)前記活性型STAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であって、少なくとも1つのセリン残基、スレオニン残基またはチロシン残基がリン酸化されている、項目1に記載の組成物。
(6)前記活性型STAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
のホモ二量体またはヘテロ二量体を含む、項目1に記載の組成物。
(7)前記活性型STAT5は、配列番号2における694番目のチロシン残基またはそれに対応するチロシン残基が少なくともリン酸化されている、項目1に記載の組成物。
(8)前記活性型STAT5は、二量体である、項目1に記載の組成物。
(9)前記活性型STAT5は、配列番号2または6における150番目、298番目および710番目からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、アミノ酸残基が置換されている、項目1に記載の組成物。
(10)前記活性型STAT5は、配列番号2または6における298番目のヒスチジン残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれアルギニンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、項目1に記載の組成物。
(11)前記STAT5は、配列番号2または6における150番目のグルタミン酸残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれグリシンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、項目1に記載の組成物。
(12)前記STAT5は、配列番号2または6における710番目のセリン残基がフェニルアラニンに置換されている、項目1に記載の組成物。
(13)前記活性型STAT5は、配列番号10または配列番号13に示す配列を有する、項目1に記載の組成物。
(14)前記活性型STAT5は、恒常的または一過的に活性である、項目1に記載の組成物。
(15)さらなる細胞生理活性物質を含む、項目1に記載の組成物。
(16)前記細胞生理活性物質は、SCF、TPOおよびFlt−3Lからなる群より選択される、項目15に記載の組成物。
(17)前記細胞生理活性物質は、SCF、TPOおよびFlt−3Lを含む、項目15に記載の組成物。
(18)薬学的に受容可能なキャリアを含む、項目1に記載の組成物。
(19)幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物であって、STAT5および該STAT5の活性化因子を含む、組成物。
(20)前記STAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有する、項目19に記載の組成物。
(21)前記活性化因子は、JAKファミリーから選択されるメンバーまたはその改変体である、項目19に記載の組成物。
(22)活性型STAT5をコードする核酸分子を含む、幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物。
(23)前記活性型STAT5をコードする核酸分子は、二量体を形成するSTAT5をコードする核酸配列を含む、項目22に記載の組成物。
(24)前記活性型STAT5をコードする核酸分子は、
(a)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載の塩基配列からなるDNAの対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含む、項目22に記載の組成物。
(25)前記活性型STAT5は、配列番号2または6における150番目、298番目および710番目からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、アミノ酸残基が置換されている、項目22に記載の組成物。
(26)前記活性型STAT5は、配列番号2または6における298番目のヒスチジン残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれアルギニンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、項目22に記載の組成物。
(27)前記活性型STAT5は、配列番号2または6における150番目のグルタミン酸残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれグリシンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、項目22に記載の組成物。
(28)前記活性型STAT5は、配列番号2または6における710番目のセリン残基がフェニルアラニンに置換されている、項目22に記載の組成物。
(29)前記活性型STAT5は、配列番号10または配列番号13に示す配列を有する、項目22に記載の組成物。
(30)前記核酸分子は、ベクターに含まれる、項目22に記載の組成物。
(31)前記核酸分子は、レトロウイルスベクターに含まれる、項目22に記載の組成物。
(32)前記核酸分子は、配列番号9に示す配列を有する、項目22に記載の組成物。
(33)幹細胞の増幅(expansion)のための組成物であって、STAT5をコードする核酸分子および該STAT5を活性化する因子を含む、組成物。
(34)前記STAT5をコードする核酸分子は、
(a)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載の塩基配列からなるDNAの対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含む、項目33に記載の組成物。
(35)前記核酸分子は、ベクターに含まれる、項目33に記載の組成物。
(36)前記核酸分子は、レトロウイルスベクターに含まれる、項目33に記載の組成物。
(37)前記活性化する因子は、JAKファミリーから選択されるメンバーまたはその改変体である、項目33に記載の組成物。
(38)幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための方法であって、
A)幹細胞を提供する工程;および
B)該幹細胞に、活性型STAT5を提供する工程、
を包含する、方法。
(39)幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための方法であって、
A)幹細胞を提供する工程;
B)該幹細胞に、STAT5を提供する工程;および
C)該STAT5を活性化する工程、
を包含する、方法。
(40)幹細胞を一定量調製するための方法であって、
A)幹細胞を提供する工程;および
B)該幹細胞に、活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子を提供する工程、
を包含する、方法。
(41)項目38〜40のいずれか1項に記載の方法によって得られた細胞。
(42)幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、活性型STAT5の使用。
(43)幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、STAT5の使用。
(44)幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、STAT5および該STAT5の活性化因子の使用。
(45)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる、細胞。
(46)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞から得られた組織。
(47)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞から得られた臓器。
(48)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞を含む、医薬組成物。
(49)幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するための方法であって、
A)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞をそのような処置または予防を必要とする被検体に投与する工程、
を包含する、方法。
(50)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞の、幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するための使用。
(51)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞の、幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するため医薬を製造するための使用。
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明の効果】
【0021】
幹細胞(例えば、造血幹細胞)の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持する組成物が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
発明の詳細な説明
以下に本発明の好ましい形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0023】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0024】
(増幅因子)
本明細書において「STAT5」(signal transducer and activator of transcription 5)とは、配列番号1、3、5および7(核酸配列)および2、4、6および8(アミノ酸配列)に示されるような配列を有する因子および他の種の動物において対応する因子(オルソログ)をいう。STAT5は、核移行能および特異的な配列へのDNA結合、さらには転写因子活性という活性を有することによって同定することができる。STAT5は、分子内に、特異的リン酸化構造を認識するSH2(src homology 2)ドメインを有する。STAT5は、セリン残基、スレオニン残基またはチロシン残基がリン酸化されると、二量体化されホモ二量体(homodimer)を形成し、核内へ移行し、特異的DNA配列を認識して結合し、多くの遺伝子の転写を制御していることが知られている。STAT5では、特に、配列番号2または6では694位のチロシンがリン酸化されることが重要なようである。本明細書において、そのようにSTAT5が特異的に認識して結合する部位は、「STAT5コンセンサス配列」と呼ぶ。そのような配列は、5’−GATCCGAATTCCAGGAATTCAGATC−3’(配列番号11)という共通配列を有する。
【0025】
STAT5は、ヒト、ラットおよびマウスなどを含む哺乳動物のほか、ショウジョウバエなどでもそのホモログが知られている。従って、本明細書においてSTAT5は、通常、哺乳動物のほか、生物一般において存在するSTAT5を指す。
【0026】
STAT5には、哺乳動物などではSTAT5AおよびSTAT5Bという非常に類似した分子が存在することが知られる。本発明では、STAT5AおよびSTAT5Bが存在する場合、どちらの分子でも同様の作用を有することが企図される。ある好ましい実施形態では、STAT5Aが使用され得る。
【0027】
本明細書において「活性型STAT5」とは、STAT5が活性化されてできた分子をいい、核内への移行能を有し、かつ、STAT5コンセンサス配列に結合する能力を有する分子をいう。そのような活性型STAT5は、少なくとも1つのセリン、スレオニンまたはチロシン残基がリン酸化されていることが特徴である。そのような活性型STAT5は、代表的には、SH2ドメイン外にあるチロシン残基がリン酸化され、二量体化したものをいう。そのようなチロシン残基は、例えば、配列番号2または6では、694番目のチロシン残基が挙げられるがそれに限定されない。
【0028】
そのような活性型STAT5は、人工的に作製したり、合成により作製することもできる。そのような人工的に作製されたSTAT5としては、恒常的に二量体化するように変異が導入されたSTAT5が挙げられる。そのような恒常的に二量体化するSTAT5、すなわち恒常性の活性型STAT5としては、例えば、配列番号10または13に示される配列を有する分子が挙げられるがそれに限定されない。
【0029】
別の実施形態では、活性型STAT5は、低分子化合物(例えば、コンビナトリアルライブラリーの生成物)であり得る。当業者であれば、容易にそのような低分子化合物をスクリーニングすることができる。そのようなスクリーニングは、本明細書において記載される活性型STAT5の活性を測定するアッセイを用いることにより行うことができる。
【0030】
本明細書において、活性型STAT5は、天然に存在する活性型STAT5(例えば、リン酸化され二量体化したSTAT5A)が有する機能を有する限り、どのような分子でもよい。ある因子が活性型STAT5であるかどうかは、その因子が細胞の核内に入る能力を有することおよび/またはSTAT5コンセンサス配列に結合する能力を有することを判定することによって、判断することができる。具体的には、核移行はその因子が核酸分子である場合、STAT5遺伝子を細胞にトランスフェクトし、抗STAT5抗体を用いて免疫染色し、核への局在を確認することで判定することができる。そのような因子がタンパク質などの場合は、直接細胞内に導入し、その後、核内にそのような因子が移行するかどうかを、その因子に特異的な抗体を用いて免疫染色することによって確かめることができる。そのような技術は、当該分野において周知である。
【0031】
STAT5コンセンサス配列に結合する能力を判断するために、STAT5結合塩基配列として用いられているプロラクチン応答性エレメント(PRE)を含む塩基配列(5’−GATCCGAATTCCAGGAATTCAGATC−3’)(配列番号11)を含む2本鎖オリゴヌクレオチドを用いたゲルシフトアッセイで調べる。ある因子(核酸の場合)をトランスフェクトした細胞の核抽出液または因子そのもの(タンパク質など直接作用する場合)と、この塩基配列を含む核酸分子とを反応させ、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動および分離後、その因子または因子の遺伝子産物と、コンセンサス配列を含む核酸分子との複合体の形成を同定することによって判定することができる。通常は、複合体の形成が有意に確認することができれば、その因子は、活性型STAT5と同一の機能を有すると判断することができる。
【0032】
転写活性化は上記同様PRE配列を含むウシのβカゼインプロモーターを用いて行う。βカゼインプロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子をつないだものをレポーター遺伝子とし、細胞にレポーター遺伝子およびSTAT5遺伝子を同時にトランスフェクトし、ルシフェラーゼ活性を測定する。あるいは、その因子が直接作用する場合は、細胞にレポーター遺伝子のみをトランスフェクトし、その後因子を作用させてルシフェラーゼ活性を測定することによって、活性型STAT5であるかどうかを判断することができる。ルシフェラーゼ活性が上がれば転写活性化能があると評価することができる。限定されることを望まないが、そのような評価の際には、統計学的処理を行い、統計学的に有意であるかどうかを判断することができる。
【0033】
活性型STAT5であるかどうかを判断するには、以上の少なくとも1つで有意な活性が判定することができることで十分である。また、基本的にはルシフェラーゼレポーターアッセイで活性が認められれば、核に移行しDNAに結合していることの間接的な証明になることから、簡便にはこれだけ見ることで判定することも可能である。
【0034】
STAT5は、トロンボポイエチンのシグナル伝達系において有意な役割を果たす。STAT5は、造血幹細胞において見出されており、造血幹細胞における役割が企図される。トロンボポイエチンを介して、JAK2/STAT5が活性化され、T細胞・B細胞等の免疫細胞、造血細胞、肝細胞、神経細胞に対して、増殖・分化・細胞死の抑制など多種多様なシグナルを細胞内へ伝えることが知られている。従って、本発明では、活性型STAT5を生成するようなトロンボポイエチンなどのシグナル伝達経路を刺激することによっても、同様の効果を達成することができる。
【0035】
本明細書において「恒常性」の活性型STAT5とは、特に何も刺激しない場合には、活性型STAT5の機能を保持するものをいう。これに対し、「一過性」の活性型STAT5とは、ある一定期間のみ活性型STAT5の機能を発揮するものをいう。恒常性の活性型STAT5には、例えば、STAT5A1*6のように発現されると常に二量体を形成するものが挙げられるがそれに限定されない。そのような恒常性の活性型STAT5としては、例えば、STAT5A1*6(配列番号9および10、この配列は配列番号6において298番目のヒスチジンおよび710番目のセリンがそれぞれアルギニンおよびフェニルアラニンに置換されている)、および種相同体における対応する配列が同様の改変体(例えば、ヒトのものなど)が挙げられるがそれに限定されない。
【0036】
本発明において用いられる活性型STAT5について、糖鎖が付加され得る部分としては、N−アセチル−D−グルコサミンなどが結合するN−グルコシド結合可能な部分、およびN−アセチル−D−ガラクトサミンのO−グリコシド結合をする部分(セリンまたはスレオニン残基が頻出する部分)が挙げられる。本明細書において使用されるSTAT5または活性型STAT5は、糖鎖の有無は特に活性に影響を与えるというわけではないが、これらの糖鎖が付加されたタンパク質は、通常生体内での分解に対して安定であり、強い生理活性を有し得る。従って、これら糖鎖が付加されたポリペプチドもまた、本発明の範囲内にある。
【0037】
(生化学・分子生物学)
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされ得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)などが挙げられる。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。特に言及する場合、本発明の「ポリペプチド」は、STAT5または活性型STAT5を指すこともある。
【0038】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0039】
用語「核酸」はまた、本明細書において、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。特定の核酸配列はまた、「スプライス改変体」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を暗黙に包含する。その名が示唆するように「スプライス改変体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス改変体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。本発明において用いられる場合、STAT5はまた、この核酸形態をとり得る。
【0040】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0041】
本明細書ではアミノ酸および塩基配列の類似性、相同性および同一性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0042】
本明細書において「リガンド」とは、あるタンパク質に特異的に結合する物質をいう。例えば,細胞膜上に存在する種々のレセプタータンパク質分子と特異的に結合するレクチン、抗原、抗体、ホルモン、神経伝達物質などがリガンドとして挙げられる。
【0043】
本明細書において「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。従って、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、STAT5または活性型STAT5など)には、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0044】
本明細書において「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、配列番号2、4、6および8で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。核酸配列の相同性は、たとえばAltschulら(J.Mol.Biol.215,403−410(1990))が開発したアルゴリズムを使用した検索プログラムBLASTを用いることにより、scoreで類似度が示される。
【0045】
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrooket al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(ColdSpring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:A PracticalApproach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、NucleicAcid Hybridization:A Practical Approach、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
【0046】
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
Tm(℃)=81.5+16.6(log[Na])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
【0047】
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015Mナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
【0048】
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015Mナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
【0049】
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1MNaClにおける融解温度の適切な概算は、
Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)
によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
【0050】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0051】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0052】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0053】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。好ましい実施形態では、そのような発現されたポリペプチドは、恒常的または一過的に活性化されたSTAT5であり得る。
【0054】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物質についていうとき、一方の物質と他方の物質との間で力(例えば、分子間力(ファンデルワールス力)、水素結合、疎水性相互作用など)を及ぼしあうこという。通常、相互作用をした2つの物質は、会合または結合している状態にある。
【0055】
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つのタンパク質もしくは化合物または関連するタンパク質もしくは化合物の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
【0056】
本明細書中で使用される用語「調節する(modulate)」または「改変する(modify)」は、特定の活性またはタンパク質の量、質または効果における増加または減少あるいは維持を意味する。
【0057】
STAT5またはその改変体もしくはフラグメントなどのタンパク質をコードする天然の核酸は、例えば、配列番号1などの核酸配列の一部またはその改変体を含むPCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを有するcDNAライブラリーから容易に分離される。好ましいSTAT5またはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸は、本質的に1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);1mM EDTA;42℃の温度で 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に2×SSC(600mM NaCl;60mM クエン酸ナトリウム);50℃の0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、さらに好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に50℃の1×SSC(300mM NaCl;30mM クエン酸ナトリウム);1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、最も好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);200mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7%SDSを含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に65℃の0.5×SSC(150mM NaCl;15mM クエン酸ナトリウム);0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下に配列番号1または3に示す配列の1つまたはその一部とハイブリダイズし得る。
【0058】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の対象となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。
【0059】
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。
【0060】
本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用されるSTAT5などには、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0061】
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、 Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)(たとえば、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
【0062】
(1) BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリ配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2) BLASTNでヌクレオチドのクエリ配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3) BLASTXでヌクレオチドのクエリ配列(両方の鎖)を6つの読み枠で変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4) TBLASTNでタンパク質のクエリ配列を6つの読み枠(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5) TBLASTXでヌクレオチドのクエリ配列を6つの読み枠で変換したものを、6つの読み枠で変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
【0063】
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリ配列または核酸のクエリ配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet et al.,1992,Science 256:1443−1445、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAMまたはPAM250マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships:Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington:National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2267−2268参照のこと)。
【0064】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0065】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0066】
本明細書において「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。
【0067】
本明細書において「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。
【0068】
本明細書において「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、上述のD型アミノ酸、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。
【0069】
本明細書において「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
【0070】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0071】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。また、本発明の活性型STAT5では、対応するアミノ酸は、例えば、リン酸化される部位であり得る。別の実施形態では、本発明の活性型STAT5では、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0072】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、マウスのSTAT5A、STAT5Bなどの遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物(ヒト、ラット、ブタ、ウシなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、マウスのSTAT5A、STAT5Bなどの遺伝子)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0073】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2’−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド型核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0075】
本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含むサンプル中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用することをいう。物質または因子について特異的な相互作用としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、リガンド−レセプター反応、酵素−基質反応など、核酸およびタンパク質の両方が関係する場合、転写因子とその転写因子の結合部位との反応など、タンパク質−脂質相互作用、核酸−脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター−リガンド反応による相互作用、酵素−基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、転写因子と、その転写因子が対象とする核酸分子の結合領域との間の相互作用が包含される。したがって、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。本明細書において「因子」(agent)としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0076】
本明細書中で使用される「化合物」は、任意の識別可能な化学物質または分子を意味し、これらには、低分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチド、または核酸が挙げられるが、これらに限定されず、そしてこのような化合物は、天然物または合成物であり得る。
【0077】
本明細書において「有機低分子」とは、有機分子であって、比較的分子量が小さなものをいう。通常有機低分子は、分子量が約1000以下のものをいうが、それ以上のものであってもよい。有機低分子は、通常当該分野において公知の方法を用いるかそれらを組み合わせて合成することができる。そのような有機低分子は、生物に生産させてもよい。有機低分子としては、例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0078】
本明細書中で使用される「接触(させる)」とは、化合物を、直接的または間接的のいずれかで、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して物理的に近接させることを意味する。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多くの緩衝液、塩、溶液などに存在し得る。接触とは、核酸分子またはそのフラグメントをコードするポリペプチドを含む、例えば、ビーカー、マイクロタイタープレート、細胞培養フラスコまたはマイクロアレイ(例えば、遺伝子チップ)などに化合物を置くことが挙げられる。
【0079】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がリガンドである場合、その生物学的活性は、そのリガンドが対応するレセプターに結合する活性を包含する。本発明の活性型STAT5の場合は、その生物学的活性は、少なくともSTAT5が有する活性の少なくとも1つ(核内への移行能、STAT5コンセンサス配列への結合能など)を包含する。別の実施形態では、生物学的活性としては、転写因子としての活性(例えば、STAT5コンセンサス配列への結合能)が挙げられる。
【0080】
本明細書において生物学的活性をアッセイする方法としては、(例えば、上述の活性型STAT5を判定するためのアッセイ)を利用したアッセイが挙げられるがそれらに限定されない。
【0081】
本発明において使用されるポリペプチドを製造する方法としては、例えば、そのポリペプチドを産生する初代培養細胞または株化細胞を培養し、培養上清などから単離または精製することによりそのポリペプチドを得る方法が挙げられる。あるいは、遺伝子操作手法を利用して、そのポリペプチドをコードする遺伝子を適切な発現ベクターに組み込み、これを用いて発現宿主を形質転換し、この形質転換細胞の培養上清から組換えポリペプチドを得ることができる。上記宿主細胞は、生理活性を保持するポリペプチドを発現するものであれば、特に限定されず、従来から遺伝子操作において利用される各種の宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、動物細胞など)を用いることが可能である。このようにして得られた細胞に由来するポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。
【0082】
あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
【0083】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0084】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
【0085】
親水性指数もまた、本発明のアミノ酸配列を改変するのに有用である。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0086】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0087】
本明細書において「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のSTAT5のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0088】
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
【0089】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0090】
本明細書において「ペプチドアナログ」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0091】
本発明のポリペプチドがポリマーに結合している、化学修飾されたポリペプチド組成物は、本発明の範囲に包含される。このポリマーは、水溶性であり得、水溶性環境(例えば、生理学的環境)でこのタンパク質の沈澱を防止し得る。適切な水性ポリマーは、例えば、以下からなる群より選択され得る:ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、または他の炭水化物に基づくポリマー、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)およびポリビニルアルコール。この選択されたポリマーは、通常は改変され、単一の反応性基(例えば、アシル化のための活性エステルまたはアルキル化のためのアルデヒド)を有し、その結果、重合度は制御され得る。ポリマーは、任意の分子量であり得、そして、このポリマーは分枝状でも分枝状でなくてもよく、そしてこのようなポリマーの混合物はまた、使用され得る。この化学修飾された本発明のポリマーは、治療用途に決定付けられる場合、薬学的に受容可能なポリマーが使用するために選択される。
【0092】
このポリマーがアシル化反応によって改変される場合、このポリマーは、単一の反応性エステル基を有するべきである。あるいは、このポリマーが還元アルキル化によって改変される場合、このポリマーは単一の反応性アルデヒド基を有するべきである。好ましい反応性アルデヒドは、ポリエチレングリコール、プロピオンアルデヒド(このプロピオンアルデヒドは、水溶性である)または、そのモノC1〜C10の、アルコキシ誘導体もしくはアリールオキシ誘導体である(例えば、米国特許第5,252,714号(これは、本明細書中で全体が参考として援用される)を参照のこと)。
【0093】
本発明のポリペプチドのPEG化(Pegylation)は、例えば、以下の参考文献に記載されるような、当該分野で公知の、任意のPEG化反応によって実施され得る:Focus on Growth Factors 3,4−10(1992);EP 0 154 316;およびEP 0 401 384(これらの各々は、本明細書中で、全体が参考として援用される)。好ましくは、このPEG化は、反応性ポリエチレングリコール分子(または、類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応を介して実施される。本発明のポリペプチド(例えば、STAT5またはその活性型あるいはその活性化因子など)のPEG化のための好ましい水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。本明細書中で使用される場合、「ポリエチレングリコール」は、PEGの任意の形態の包含することを意味し、ここで、このPEGは、他のタンパク質(例えば、モノ(C1〜C10)アルコキシポリエチレングリコールまたはモノ(C1〜C10)アリールオキシポリエチレングリコール)を誘導体するために使用される。
【0094】
本発明のポリペプチドの化学誘導体化を、生物学的に活性な物質を活性化したポリマー分子と反応させるのに使用される適切な条件下で、実施され得る。PEG化した本発明のポリペプチドを調製するための方法は、一般に以下の工程を包含する:(a)STAT5またはその活性型あるいはその活性化因子が1以上のPEG基に結合するような条件下で、ポリエチレングリコール(例えば、PEGの、反応性エステルまたはアルデヒド誘導体)とこのポリペプチドを反応させる工程および(b)この反応生成物を得る工程。公知のパラメータおよび所望の結果に基づいて、最適な反応条件またはアシル化反応を選択することは当業者に容易である。
【0095】
PEG化された本発明のポリペプチドは、一般に、本明細書中に記載のポリペプチドを投与することによって、緩和または調節され得る状態を処置するために使用され得るが、しかし、本明細書中で開示された、化学誘導体化された本発明のポリペプチド分子は、それらの非誘導体分子と比較して、さらなる活性、増大された生物活性もしくは減少した生物活性、または他の特徴(例えば、増大された半減期または減少した半減期)を有し得る。本発明のポリペプチド、それらのフラグメント、改変体および誘導体は、単独で、併用して、または他の薬学的組成物を組み合わせて使用され得る。
【0096】
本発明では、発現されるものが恒常的または一過的に活性型STAT5を生成するものであれば、核酸形態(核酸分子)も使用することができる。このような核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型の活性型STAT5と実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0097】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0098】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、癌マーカー、神経疾患マーカーなど)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0099】
本発明において使用されるポリペプチドは、任意の生物由来であり得る。好ましくは、その生物は、脊椎動物(例えば、哺乳動物、爬虫類、両生類、魚類、鳥類など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、齧歯類(マウス、ラットなど)、霊長類(ヒトなど)など)であり得る。本発明において使用されるポリペプチドは、所望の効果を発揮するかぎり、合成されたものでもよい。そのようなポリペプチドは、当該分野において周知の合成方法によって合成され得る。例えば、自動固相ペプチド合成機を用いた合成方法は、Stewart,J.M.et al.(1984).Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.;Grant,G.A.(1992).Synthetic Peptides: A User’s Guide,W.H.Freeman;Bodanszky,M.(1993).Principles of Peptide Synthesis,Springer−Verlag;Bodanszky,M.et al.(1994).The Practice of Peptide Synthesis,Springer−Verlag;Fields,G.B.(1997).Phase Peptide Synthesis,Academic Press;Pennington,M.W.et al.(1994).Peptide Synthesis Protocols,Humana Press;Fields,G.B.(1997).Solid−Phase Peptide Synthesis,Academic Pressにおいて記載されている。
【0100】
本発明において使用されるポリペプチドは、抗体のヒンジ領域部分のみとの融合タンパク質を発現させて、ジスルフィド結合にて2量体を形成させる方法、もしくは活性に影響を与えないほかの方法でジスルフィド結合を生じさせる形態で、C末端、N末端または他の場所において発現するように作製された融合タンパク質を含む二量体以上高い比活性を有する多量体型ポリペプチドもまた利用され得る。また、配列番号2または4のような本発明の配列を直列で並べて多量体構造を持たせる方法も本発明において利用可能である。従って遺伝子工学技術により作製される任意の二量体またはそれを超える形態は、本発明の範囲内にある。あるいは、本発明の二量体またはそれを超える形態に含まれるモノマーは、同種であってもよく異種であってもよい。したがって、本発明の二量体はホモダイマーであってもヘテロダイマーであってもよい。
【0101】
(免疫学)
本明細書において「抗体」とは、当該分野で通常使用される意味で用いられ、本明細書においては、抗体の全部およびそのフラグメント、誘導体、結合体なども包含する。好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドを認識する抗体であり、より好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドを特異的に認識する抗体である。そのような抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれでもよい。本発明の1実施形態において、そのような抗体もまた、本発明の範囲内に包含される。
【0102】
本明細書において「抗原」とは、抗体と結合したり、Bリンパ球、Tリンパ球などの特異的レセプターに結合して、抗体産生および/または細胞障害などの免疫反応をひきおこす物質(例えば、タンパク質、脂質、糖などが挙げられるがそれらに限定されない)をいう。抗体またはリンパ球レセプターとの結合性を、「抗原性」(antigecity)という。抗体産生などの免疫応答を誘導する特性を「免疫原性」(immunogenicity)という。抗原として使用される物質は、例えば、その目的とする物質(例えば、タンパク質)を少なくとも1つ含む。含まれる物質は、全長が好ましいが、免疫を惹起し得るエピトープを少なくとも一つ含んでいれば、部分配列でもよい。本明細書において「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
【0103】
エピトープは、必ずしもその正確な位置および構造が判明していないとしても使用することができる。従って、エピトープには特定の免疫グロブリンによる認識に関与するアミノ酸残基のセット、または、T細胞の場合は、T細胞レセプタータンパク質および/もしくは主要組織適合性複合体(MHC)レセプターによる認識について必要であるアミノ酸残基のセットが包含される。この用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に使用される。免疫系分野において、インビボまたはインビトロで、エピトープは、分子の特徴(例えば、一次ペプチド構造、二次ペプチド構造または三次ペプチド構造および電荷)であり、免疫グロブリン、T細胞レセプターまたはHLA分子によって認識される部位を形成する。ペプチドを含むエピトープは、エピトープに独特な空間的コンフォメーション中に3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般に、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、代表的には少なくとも6つ、7つ、8つ、9つ、または10のこのようなアミノ酸からなる。エピトープの長さは、より長いほど、もとのペプチドの抗原性に類似することから一般的に好ましいが、コンフォメーションを考慮すると、必ずしもそうでないことがある。アミノ酸の空間的コンフォメーションを決定する方法は、当該分野で公知であり、例えば、X線結晶学、および2次元核磁気共鳴分光法を含む。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、当該分野で周知の技術を使用して容易に達成される。例えば、Geysenら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3998(所定の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定するために迅速にペプチドを合成する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、そして化学的に合成するための手順);およびGeysenら(1986)Molecular Immunology 23:709(所定の抗体に対して高い親和性を有するペプチドを同定するための技術)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、単純な免疫アッセイにおいて同定され得る。このように、ペプチドを含むエピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
【0104】
従って、ペプチドを含むエピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、より好ましくは少なくとも5アミノ酸、少なくとも6アミノ酸、少なくとも7アミノ酸、少なくとも8アミノ酸、少なくとも9アミノ酸、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。エピトープは線状であってもコンフォメーション形態であってもよい。
【0105】
高分子構造(例えば、ポリペプチド構造)は種々のレベルの構成に関して記述され得る。この構成の一般的な議論については、例えば、Albertsら、Molecular Biology of the Cell(第3版、1994)、ならびに、CantorおよびSchimmel、Biophysical Chemistry Part I:The Conformation of Biological Macromolecules(1980)を参照。「一次構造」とは、特定のペプチドのアミノ酸配列をいう。「二次構造」とは、ポリペプチド内の局所的に配置された三次元構造をいう。これらの構造はドメインとして一般に公知である。ドメインは、ポリペプチドの緻密単位を形成し、そして代表的には50〜350アミノ酸長であるそのポリペプチドの部分である。代表的なドメインは、βシート(βストランドなど)およびα−ヘリックスのストレッチ(stretch)のような、部分から作られる。「三次構造」とは、ポリペプチドモノマーの完全な三次元構造をいう。「四次構造」とは、独立した三次単位の非共有的会合により形成される三次元構造をいう。異方性に関する用語は、エネルギー分野において知られる用語と同様に使用される。したがって、本発明において使用されるポリペプチドは、活性型STAT5と同等の能力を有するような高次構造を有する限り、どのようなアミノ酸配列のポリペプチドをも包含し得る。
【0106】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、生体内の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。従って、本発明の活性型STAT5をコードする遺伝子は、発現が所望される部位または時期に特異的に発現するように操作することができる。そのような技術は、当該分野において周知であり、本明細書において援用した文献に記載されている。
【0107】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0108】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0109】
(遺伝子工学)
本発明において用いられるSTAT5などならびにそのフラグメントおよび改変体は、遺伝子工学技術を用いて生産することができる。
【0110】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0111】
本明細書において「ウイルスベクター」とは、ベクターのうち、ウイルス由来のものをいう。本明細書において「ウイルス」とは、DNAまたはRNAのいずれかをゲノムとして有する、感染細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体をいう。ウイルスとしては、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科およびヘパドナウイルス科からなる群より選択される科に属するウイルスが挙げられる。本明細書において「レトロウイルス」とは、RNAの形で遺伝情報を有し、逆転写酵素によってRNAの情報からDNAを合成するウイルスをいう。
【0112】
本明細書において「レトロウイルスベクター」とは、レトロウイルスを遺伝子の担い手(ベクター)として使用した形態をいう。本発明において使用される「レトロウイルスベクター」としては、例えば、Moloney Murine Leukemia Virus(MMLV)、Murine Stem Cell Virus(MSCV)にもとづいたレトロウイルス型発現ベクターなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、レトロウイルスベクターとしては、pGen−、pMSCVなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0113】
本明細書において「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。ヒトの場合、本発明に用いる発現ベクターはさらにpCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))を含み得る。
【0114】
本明細書において「組換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0115】
本明細書において、動物細胞に対する「組換えベクター」としては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107(特開平3−22979、Cytotechnology,3,133(1990))、pREP4(Invitrogen)、pAGE103(J.Biochem.,101,1307(1987))、pAMo、pAMoA(J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993))、pCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))などが例示される。
【0116】
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターとしては、哺乳動物由来のターミネーターのほかに、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。
【0117】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0118】
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、動物)の部位(例えば、動物の場合、心臓、心筋細胞など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(たとえば、動物)の特定の段階(例えば、発作時など)に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
【0119】
本明細書において、本発明のプロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上の同一または対応する部位のいずれにおいても実質的に発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「ストレス応答性」であるとは、少なくとも1つのストレス(例えば、分化刺激など)が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス減少性」という。「ストレス減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析またはRT−PCRで発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。ストレス誘導性のプロモーターを本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された動物または動物の一部(特定の細胞、組織など)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件(例えば、分化刺激時)下での本発明において使用されるポリペプチドの発現を行うことができる。
【0120】
本明細書において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前初期エンハンサー(human cytomegalovirus immediate−early enhancer)の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0121】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0122】
本発明は、任意の動物において利用され得る。そのような動物における利用のための技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0123】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、動物細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0124】
本明細書において「動物」は、当該分野において最も広義で用いられ、脊椎動物および無脊椎動物を含む。動物としては、哺乳綱、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、昆虫綱、蠕虫綱などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、動物は、哺乳動物を含む。
【0125】
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、キット、システム、組成物および方法は、哺乳動物だけでなく他の動物を含む動物全体において機能することが企図される。なぜなら、STAT5に対応するリガンドは、哺乳動物以外の生物においても存在することが知られているからである。
【0126】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。
【0127】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、臓器(器官)の一部であり得る。臓器(器官)内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
【0128】
本明細書において「器官(臓器)」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。動物では、胃、肝臓、腸、膵臓、肺、気管、鼻、心臓、動脈、静脈、リンパ節(リンパ管系)、胸腺、卵層、眼、耳、舌、皮膚等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0129】
本明細書において「活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で処理」するとは、本発明の活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子に細胞を暴露して増幅させるようにすることをいう。したがって、そのような処理には、直接接触させることのほか、細胞に一過的に発現させるように形質転換してその発現を誘導することなどの技術が含まれる。
【0130】
本明細書において「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子がある生物に組み込むことまたは組み込まれた生物(例えば、動物(マウスなど)または植物を含む)をいう。
【0131】
本発明においてトランスジェニック生物が利用される場合、そのようなトランスジェニック生物は、マイクロインジェクション法(微量注入法)、ウィルスベクター法、ES細胞法(胚性幹細胞法)、精子ベクター法、染色体断片を導入する方法(トランスゾミック法)、エピゾーム法などを利用したトランスジェニック動物の作製技術を使用して作製することができる。そのようなトランスジェニック動物の作成技術は当該分野において周知である。
【0132】
(スクリーニング)
本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0133】
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。スクリーニングは、インビトロ、インビボなど実在物質を用いた系を使用してもよく、インシリコ(コンピュータを用いた系)の系を用いて生成されたライブラリーを用いてもよい。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた化合物もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。また本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0134】
1実施形態において、本発明は、本発明のタンパク質または本発明のポリペプチド、あるいはその生物学的に活性な部分に結合するか、またはこれらの活性を調節する、候補化合物もしくは試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。本発明の試験化合物は、当該分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチの任意のものを使用して得られ得、これには、以下が挙げられる:生物学的ライブラリー;空間的にアクセス可能な平行固相もしくは溶液相ライブラリー;逆重畳を要する合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法。生物学的ライブラリーアプローチはペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマーもしくは化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。
【0135】
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当該分野において、例えば以下に見出され得る:DeWittら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6909;Erbら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422;Zuckermannら(1994)J.Med.Chem 37:2678;Choら(1993)Science 261:1303;Carrellら(1994)Angew Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carrellら(1994)Angew Chem.Int.Ed.Engl.33:2061;およびGallopら(1994)J.Med.Chem 37:1233。
【0136】
化合物のライブラリーは、溶液中で(例えば、Houghten(1992)BioTechniques 13:412〜421)、あるいはビーズ上(Lam(1991)Nature 354:82〜84)、チップ上(Fodor(1993)Nature 364:555〜556)、細菌(Ladner 米国特許第5,223,409号)、胞子(Ladner、上記)、プラスミド(Cullら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865〜1869)またはファージ上(ScottおよびSmith(1990)Science 249:386〜390;Devlin(1990)Science 249:404〜406;Cwirlaら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:6378〜6382;Felici(1991)J Mol Biol 222:301〜310;Ladner上記)において示され得る。
【0137】
本発明は、他の実施形態において、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸)と同等に有効な因子をスクリーニングするための道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物もまた、本発明に包含される。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
【0138】
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:S tructure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物(例えば、活性型STAT5の等価物)を設計することができる。
【0139】
(投与・注入・医薬)
本発明の因子によって調製された細胞(例えば、幹細胞、それから分化した細胞(例えば、心筋細胞))または細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与経路としては経口投与、非経口投与、患部への直接投与などが挙げられる。
【0140】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。
【0141】
1つの実施形態において、本発明の因子(例えば、活性型STAT5またはそれをコードする核酸など)は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0142】
本発明の組成物またはキットはまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。好ましくは、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
【0143】
核酸分子を含む本発明の組成物を投与する場合、核酸分子は、非ウイルスベクター形態またはウイルスベクター形態による投与、またはnaked DNAでの直接投与の形態などで投与され得る。このような投与形態は、当該分野において周知であり、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに詳説されている。
【0144】
特定の実施形態において、本発明の正常な遺伝子の核酸配列、抗体またはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸は、本発明のポリペプチドの異常な発現および/または活性に関連した疾患または障害を処置、阻害または予防するために、遺伝子治療の目的で投与される。遺伝子治療とは、発現されたか、または発現可能な核酸の、被験体への投与により行われる治療をいう。本発明のこの実施形態において、核酸は、それらのコードされたタンパク質を産生し、そのタンパク質は治療効果を媒介する。
【0145】
当該分野で利用可能な遺伝子治療のための任意の方法が、本発明に従って使用され得る。例示的な方法は、以下のとおりである。
【0146】
遺伝子治療の方法の一般的な概説については、Goldspielら,Clinical Pharmacy 12:488−505(1993);WuおよびWu,Biotherapy 3:87−95(1991);Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573−596(1993);Mulligan,Science 260:926−932(1993);ならびにMorganおよびAnderson,Ann.Rev.Biochem.62:191−217(1993);May,TIBTECH 11(5):155−215(1993)を参照のこと。遺伝子治療において使用される一般的に公知の組換えDNA技術は、Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載される。
【0147】
したがって、本発明では、STAT5またはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸分子を用いた遺伝子治療が有用であり得る。
【0148】
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などが利用され得る。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS(Gene 108:193−9、Niwa H,Yamamura K,Miyazaki J(1991))、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen、Stratageneなどから入手可能である)などが挙げられる。
【0149】
HVJ−リポソーム法は、脂質二重膜で作製されたリポソーム中に核酸分子を封入し、このリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan、HVJ)とを融合させることを包含する。このHVJ−リポソーム法は、従来のリポソーム法よりも、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とする。HVJ−リポソーム調製法は、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997に詳述されている。HVJとしては、任意の株が利用可能であり(例えば、ATCC VR−907、ATCC VR−105など)、Z株が好ましい。
【0150】
本発明の組成物は、ウイルスベクターの核酸形態で提供される場合、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターが利用される。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、活性型STAT5をコードする核酸またはSTAT5をコードする核酸を導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。これらウイルスベクターでは、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターによる効率よりも遙かに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0151】
Naked DNA法の場合、上述の非ウイルスベクターである発現プラスミドを生理食塩水などに溶解し、そのまま投与する。例えば、Tsurumi Y,Kearney M,Chen D,Silver M,Takeshita S,Yang J,Symes JF,Isner JM.、Circulation 98(Suppl.II)、382−388(1997)に記載される方法により、生物の器官の組織などに直接注入することができる。
【0152】
従って、本発明の組成物およびキットにおいて含まれる活性成分としてのポリペプチド(例えば、活性型STAT5など)の量は、例えば、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約1000mg、好ましくは約5μg〜約100mgであり得る。このポリペプチドの量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約1mgの間の任意の数値であり得る。このポリペプチドの量の範囲の上限は、例えば、約1000mg、約900mg、約800mg、約700mg、約600mg、約500mg、約400mg、約300mg、約200mg、約100mg、約75mg、約50mg、約25mg、約10mg、約5mgなど、約1000mg〜約1mgの任意の数値であり得る。
【0153】
本発明の活性成分が核酸形態(例えば、活性型STAT5をコードする核酸またはSTAT5をコードする核酸など)の場合、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約10mg、好ましくは約1μg〜約1000μg、より好ましくは約5μg〜約400μgであり得る。この核酸の量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約20μgの間の任意の数値であり得る。この核酸の量の範囲の上限は、例えば、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、約750μg、約500μg、約250μg、約100μgなど、約10mg〜約10μgの任意の数値であり得る。2種類以上の細胞生理活性物質(SCFなど)が含まれる場合も、上記の量が個々に適用される。ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターとして投与される場合は、通常、0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜10mg、より好ましくは0.01〜1mgである。投与頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。
【0154】
本発明において調製された細胞を含む組成物において含まれる細胞の量は、例えば、約1×10細胞〜約1×1011細胞、好ましくは約1×10細胞〜約1×1010細胞、より好ましくは約1×10細胞〜約1×10細胞などであり得る。これらの細胞は、例えば、約0.1ml、0.2ml、0.5ml、1mlの生理食塩水のような溶液として存在し得る。細胞の量の範囲の上限としては、例えば、約1×1011細胞、約5×1010細胞、約2×1010細胞、約1×1010細胞、約5×10細胞、約2×10細胞、約1×10細胞、約5×10細胞、約2×10細胞、約1×10細胞、約5×10細胞、約2×10細胞、約1×10細胞などが挙げられる。細胞の量の下限としては、例えば、約1×10細胞、約2×10細胞、約5×10細胞、約1×10細胞、約2×10細胞、約5×10細胞、約1×10細胞、約2×10細胞、約5×10細胞、約1×10細胞などが挙げられる。
【0155】
本明細書においてポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。
【0156】
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0157】
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法を医師、患者など投与を行う人に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の医薬などを心筋梗塞発作直後(例えば、48時間以内、36時間以内、24時間以内、12時間以内、好ましくは6時間以内など)に投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、骨格筋に投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0158】
本発明が対象とする「疾患」は、一定量の幹細胞またはそれに由来する分化細胞、組織、臓器を必要とするものであれば、どのようなものでもよい。本発明により処置され得る疾患または障害は、本発明の幹細胞が分化し得る分化細胞、組織または臓器の障害に関連する疾患または障害であり得る。
【0159】
1つの実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は循環器系(血液細胞など)であり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびその化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期以降の寛解期)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期)など。
【0160】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、神経系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷。
【0161】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、免疫系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:T細胞欠損症、白血病。
【0162】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、運動器・骨格系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、骨形成不全症、骨軟骨異形成症。
【0163】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、皮膚系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹。
【0164】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、内分泌系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:視床下部・下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質・髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、侏儒症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型。
【0165】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、呼吸器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:肺疾患(例えば、肺炎、肺癌など)、気管支疾患。
【0166】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、消化器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:食道疾患(たとえば、食道癌)、胃・十二指腸疾患(たとえば、胃癌、十二指腸癌)、小腸疾患・大腸疾患(たとえば、大腸ポリープ、結腸癌、直腸癌など)、胆道疾患、肝臓疾患(たとえば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓癌、嚢胞性膵疾患)、腹膜・腹壁・横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病。
【0167】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、泌尿器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:腎疾患(腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎癌など)、膀胱疾患(膀胱炎、膀胱癌など)。
【0168】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、生殖器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:男性生殖器疾患(男性不妊、前立腺肥大症、前立腺癌、精巣癌など)、女性生殖器疾患(女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、子宮内膜症、卵巣癌、絨毛性疾患など)。
【0169】
別の実施形態において、上記分化細胞、組織または臓器は、循環器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋・心膜疾患、先天性心疾患(たとえば、心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴)、動脈疾患(たとえば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(たとえば、静脈瘤)、リンパ管疾患(たとえば、リンパ浮腫)。
【0170】
本発明の幹細胞によって、上述のような疾患を処置するにおいて、従来の天然物由来の幹細胞移植治療に伴う副作用(特に、異物、異種細胞に伴うもの、例えば、感染、移植片対宿主病など)が回避された。この効果は、多能性を維持しつつ自己複製を保持させることを可能にすることで、初めて効率よく達成されたものであり、従来技術では不可能であったかまたは困難であった格別の効果といえる。
【0171】
(細胞分化および細胞増幅)
本発明では、増幅することが企図される細胞が対象であり、通常幹細胞が使用され得るが本発明の因子による処理によって所望の細胞になることができる細胞であれば、どのような細胞でも使用することができる。
【0172】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能と多分化能を有した細胞と定義され、実際には組織が傷害を受けたときに少なからずその組織を再生することができる細胞をいう。本発明において使用される幹細胞は、胚性幹細胞(ES)または組織幹細胞(組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。従って、本発明の1つの好ましい実施形態では、細胞として胚性幹細胞(Embryonic stem cellsとEmbryonic germ cells)が使用され得る。別の好ましい実施形態では、組織幹細胞(例えば、骨髄細胞(例えば、造血幹細胞))が使用され得る。
【0173】
組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が比較的限定されている細胞であり、組織中に存在し、未分化な細胞内構造をしている。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。従って、本発明の1つの好ましい実施形態において、細胞として血液細胞へと方向付けられた組織幹細胞が使用され得る。
【0174】
組織幹細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉、内胚葉由来の幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の組織幹細胞には、脳に存在する神経幹細胞、皮膚存在にする表皮幹細胞、毛包幹細胞および色素幹細胞が含まれる。中胚葉由来の組織幹細胞には、骨髄中および血液中に認められるに血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞が含まれる。内胚葉由来の組織幹細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞、腸管上皮幹細胞が含まれる。そのほかに精層および卵層には生殖系幹細胞(germ line stem cells)が存在する。本発明の好ましい実施形態では、中胚葉由来の幹細胞が使用され得る。本発明のより好ましい実施形態では、骨髄細胞(例えば、造血幹細胞)が使用され得る。
【0175】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。本発明の1つの実施形態では、予想外に骨髄細胞が好適であることが判明した。
【0176】
好ましい実施形態において、本発明では、骨髄細胞をそのまま供給源として使用することもできるし、濃縮または純化したある特定の細胞集団(例えば、組織幹細胞)を細胞供給源として用いることができる。
【0177】
本明細書において「再生」とは、損傷した組織ないし臓器が元通りに回復することをいい、病理的再生ともいう。生物の体は一生の間に外傷や病気によって臓器の一部を失ったり、大きな傷害を受けたりする。その場合、損傷した臓器が再生できるか否かは、臓器によって(または動物種によって)異なる。自然には再生できない臓器(または組織)を再生させ、機能を回復させようというのが再生医学である。組織が再生したかどうかは、その機能が改善したかどうかによって判定することができる。哺乳動物は、組織・器官(臓器)を再生する力をある程度備えている(例えば、皮膚、肝臓および血液の再生)。しかし、心臓、肺、脳などの臓器は再生能力に乏しく、一旦損傷すると、その機能を再生させることができないと考えられてきた。従って、従来であれば、例えば、心臓が損傷した場合、心臓移植による処置しかほとんど有効な措置がなかった。
【0178】
再生能力の高い臓器には幹細胞が存在することが古くから想定されていた。この概念が正しいことは動物モデルを用いた実験的骨髄移植によって証明された。そして、その後の研究によって骨髄中の幹細胞がすべての血液細胞再生の源であることが明らかにされた。幹細胞は骨髄、皮膚等の再生能力の高い臓器に存在することも明らかにされた。さらに、再生されないと長年、思われてきた脳、心臓などにも幹細胞が存在することが明らかとなってきた。すなわち、体内のあらゆる臓器には幹細胞が存在し、多かれ少なかれ、各臓器の再生を司っていることがわかってきた。また、各組織に存在する幹細胞には予想以上に可塑性があり、ある臓器中の幹細胞は他の臓器の再生にも利用できる可能性が指摘されている。したがって、本発明において見出された増幅作用は、このような種々の組織幹細胞においても有効であり、その用途は無限大にある。
【0179】
本明細書において「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的・機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も分化に包含される。現在では細胞分化を、ゲノム中の特定の遺伝子群が発現した状態と考えることが一般的であり、このような遺伝子発現状態をもたらす細胞内あるいは細胞外の因子または条件を探索することにより細胞分化を同定することができる。細胞分化の結果は原則として安定であって、特に動物細胞では、別の型の細胞に分化することは例外的にしか起こらない。従って、「未分化」とは、形態的・機能的に質的な差を未だ持たない細胞の状態をいう。
【0180】
本明細書において未分化状態の「維持」は、多能性を保持することをいう。従って、未分化状態が維持されているかどうかは、多能性を保持しているかどうかを判定することによって判断することができる。
【0181】
本明細書において幹細胞の「増幅(expansion)」とは、その幹細胞の自己増幅能および多能性(多分化能)を保持したまま細胞数が増加することをいう。幹細胞において増幅という現象は知られていたが、そのような増幅を特異的に担う分子はこれまで知られていなかった。したがって、本発明は、そのような特異的な分子として初めての分子を提供する。本明細書において増幅作用が維持するものは、多能性であればどのような程度の多能性であってもよいが、例えば、全能性、狭義の多能性(すなわち、組織幹細胞が有するような)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0182】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、骨格筋細胞、神経細胞、心筋細胞、血液細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、胆管細胞、血液細胞(例えば、赤血球、血小板、T細胞、B細胞など)、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。従って、本発明の1つの実施形態において、ある原料細胞を本発明の因子(たとえば、活性型STAT5ポリペプチドまたは核酸)で処理することによって、白血球のような分化細胞に分化させることができる場合、そのような分化細胞もまた本発明の範囲内にある。
【0183】
本発明の供給源として使用される細胞は、本発明において使用されるポリペプチド、核酸、組成物、キットおよび/または医薬での処理により、心筋細胞へと分化することができる。
【0184】
本明細書において「多能性」または「多分化能」とは、互換可能に使用され、細胞の性質をいい、種々の組織または器官(臓器)に属する細胞に分化し得る能力をいう。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され、成体では一つの組織または器官を構成する分化細胞が別の組織または器官の細胞に変化することは少ない。したがって多能性は通常失われている。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。従って、本発明の原料細胞としては、多能性を有する細胞であることが好ましくあり得るが、これは必ずしも必要ではない。
【0185】
本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する全ての種類の細胞に分化する能力は「全能性」といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ただし、明確に区別する場合は、全能性と多能性とは区別され得、前者はどのような細胞へも分化し得る能力をいい、後者は、複数の方向を有するが、生物が可能なすべての方向には分化できない能力を有することをいう。また、1つの方向にのみ分化する能力は、単能性ともいう。
【0186】
本明細書において全能性と多能性とは、例えば、受精後の日数により判定することができ、例えば、マウスであれば、受精後約8日を基準として区別され得る。理論に束縛されないが、マウスでは、受精後、以下のような経過をたどることが通常である。受精後6.5日(E6.5とも表記する)では、原始線条(原条ともいう)がエピブラストの片側に出現し、胚の将来の前後軸が明らかになる。原条は、胚の将来の後方端を示し、外胚葉を横切って円筒の遠位端まで達する。原条は、細胞運動が行われる領域であり、その結果、将来の内胚葉と中胚葉とが形成されることになる。E7.5までに結節の前方に頭部突起が出現し、この部分には脊索と、それを取り囲んで下層には将来の内胚葉、上層には神経板が形成されることになる。結節は、E6.5日ごろから現れ、後方へと移動し、軸構造が前から後ろへと形成される。E8.5日までに胚は幾分丈が長くなり、その前端には大部分前方神経板からなる大きな頭部ヒダが形成される。体節はE8日から1.5時間に1個の割合で前方から後方へと形成され始める。この時期を越えた細胞は、仮に胎盤に戻したとしても、脱分化をしない限りもはや全能性を示さず、個体を形成しない。これより前では特別の処理をしなくても全能性を示し得ることから、この点が全能性の分岐点であるといえる。このことは、ES細胞がこれ以降の胚から樹立することが困難であり、これ以降の胚からは通常EG(生殖細胞由来)細胞と呼ばれる細胞が樹立されることから、そのような意味でも分岐点であるといえる。
【0187】
本発明で用いられる細胞は、どの生物由来の細胞(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましくはヒト由来の細胞が用いられる。
【0188】
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
【0189】
本明細書において「インビトロ」とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0190】
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子または因子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。本発明の増幅因子は、エキソビボ治療のためにも有用である。
【0191】
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0192】
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片または移植体を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片または移植体を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
【0193】
(細胞生理活性物質)
本明細書において、増幅因子とともに用いられ得る「細胞生理活性物質」(cellular physiologically active substance)とは、細胞に作用する物質を言う。細胞生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。細胞生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、細胞生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものである。本明細書では、細胞生理活性物質はタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0194】
本明細書において「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制御作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0195】
本明細書において「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
【0196】
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、SCFなどのほか、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、カルジオトロフィンのような増殖活性を有するものが挙げられる。
【0197】
サイトカインおよび増殖因子などの細胞生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される細胞生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性を有してさえいれば、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。
【0198】
本発明では、どのような細胞生理活性物質も使用され得る。本発明の1つの好ましい実施形態において、細胞生理活性物質として、造血活性、コロニー刺激活性または細胞増殖活性を有するサイトカインまたは増殖因子が使用される。造血活性またはコロニー刺激活性を有するサイトカインとしては、白血病阻害因子(LIF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、multi−CSF(IL−3)、エリスロポエチン(EPO)、c−kitリガンド(SCF)などが挙げられる。細胞増殖活性を有する増殖因子としては、血小板由来増殖因子(PDGF)、表皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)インシュリン様増殖因子(IGF)などが挙げられる。本発明の1つの好ましい実施形態では、細胞増殖活性を有する細胞生理活性物質(例えば、サイトカインまたは増殖因子)が使用され得る。好ましい実施形態では、そのような細胞生理活性物質は、SCF、TPOおよびFlt−3Lを含む。
【0199】
サイトカインおよび増殖因子のような細胞生理活性物質はまた、そのレセプター(例えば、サイトカインレセプター)によって分類することもできる。サイトカインレセプターは、非キナーゼ型およびキナーゼ型に分類される。非キナーゼ型としては、Gタンパク質結合型レセプター、NGF/TNFレセプターファミリー、IFNレセプターファミリー、サイトカインレセプタースーパーファミリーなどが挙げられる。キナーゼ型としては、増殖因子型レセプター(チロシンキナーゼ型、例えば、HGFの場合はc−met)、TGFβレセプターファミリー(セリン・スレオニンキナーゼ型)などが挙げられる。細胞生理活性物質は、場合により、レセプターサブユニットを共有することから、上記好ましいサイトカインまたは増殖因子とレセプターサブユニットを共有するサイトカインまたは増殖因子もまた、好ましいサイトカインおよび増殖因子であり得る。
【0200】
サイトカインおよび増殖因子のような細胞生理活性物質はまた、タンパク質または核酸の形態で提供される場合、相同性比較により分類され得る。従って、本発明の好ましい実施形態として、本発明の好ましい細胞生理活性物質と相同性のある細胞生理活性物質が使用される。そのような相同性を有する細胞生理活性物質としては、例えば、BLASTのデフォルトパラメータを用いて比較した場合に、比較対照の細胞生理活性物質に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の相同性を有する細胞生理活性物質が挙げられる。
【0201】
(変異型ポリペプチドの作製方法)
本発明のポリペプチド(例えば、STAT5またはその活性型あるいはその活性化因子など)のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加(融合を含む)は、周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。かかる1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0202】
(医薬)
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、医薬ならびにそのようなポリペプチドまたは核酸によって調製された分化細胞または分化細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。本発明の組成物および医薬は、全身投与されるとき、発熱物質を含ない、経口的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能なタンパク質溶液の調製は、pH、等張性、安定性などに相当な注意を払うことを条件として、当業者の技術範囲内である。
【0203】
本発明において医薬の処方のために使用される溶媒は、水性または非水性のいずれかの性質を有し得る。さらに、そのビヒクルは、処方物の、pH、容量オスモル濃度、粘性、明澄性、色、滅菌性、安定性、等張性、崩壊速度、または臭いを改変または維持するための他の処方物材料を含み得る。同様に、本発明の組成物は、有効成分の放出速度を改変または維持するため、または有効成分の吸収もしくは透過を促進するための他の処方物材料を含み得る。
【0204】
本発明は、医薬または医薬組成物として処方される場合、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990)と、所望の程度の純度を有する選択された組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で、保存のために調製され得る。
【0205】
そのような適切な薬学的に受容可能な因子としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。代表的には、本発明の医薬は、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに組成物の形態で投与され得る。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。そのような受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0206】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、本発明の医薬は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。その溶液のpHはまた、種々のpHにおいて、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)の相対的溶解度に基づいて選択されるべきである。
【0207】
本発明の製剤の処方手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、投与すべきポリペプチド量および細胞量を決定することができる。
【0208】
1つの実施形態において、本発明の組成物および医薬は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態で投与される場合、活性成分(例えば、核酸またはポリペプチド)は、徐々に放出されるので、長期にわたり薬効が期待される場合に有効である。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0209】
別の実施形態では、本発明では、さらに他の薬剤もまた投与することも企図される。そのような薬剤は、当該分野において公知の任意の医薬であり得、例えば、そのような薬剤は、薬学において公知の任意の薬剤(例えば、抗生物質など)であり得る。当然、そのような薬剤は、2種類以上の他の薬剤であり得る。そのような薬剤としては、例えば、日本薬局方最新版、米国薬局方最新版、他の国の薬局方の最新版において掲載されているものなどが挙げられる。
【0210】
他の実施形態において、本発明の方法によって調製された細胞は2種類以上の細胞を含み得る。2種類以上の細胞を使用する場合、類似の性質または由来の細胞を使用してもよく、異なる性質または由来の細胞を使用してもよい。
【0211】
本発明の方法において使用されるポリペプチド、核酸、組成物、医薬および細胞の量は、使用目的、対象物の齢、サイズ、性別、既往歴、ポリペプチド、核酸、組成物、医薬もしくは細胞の形態または種類、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。
【0212】
本発明の組成物を対象物に対して与える頻度もまた、使用目的、対象物の齢、サイズ、性別、既往歴、および処置経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、一日に1回〜数回、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0213】
本発明を実施するための最良の形態
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0214】
本発明は、幹細胞(例えば、造血幹細胞)の増幅(expansion)またはその多能性の維持のための組成物および方法を提供する。造血幹細胞のような幹細胞の多能性および自己複製能を天然に存在するよりも顕著に維持させることができる方法はこれまで知られておらず、当該分野において驚くべき効果を提供する。
【0215】
1つの局面において、本発明は、活性型STAT5を含む、幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物を提供する。好ましくは、この幹細胞は、造血幹細胞である。ここで、活性型STAT5は、活性型STAT5Aであっても活性型STAT5Bであってもよい。好ましくは、活性型STAT5は、配列番号2,4,6または8に記載の配列を含むポリペプチドまたはその改変体であって、少なくとも1つのセリン、スレオニンまたはチロシンがリン酸化されている。リン酸化されている部位は、好ましくは、チロシン残基であり、より好ましくは、C末端側のチロシン残基(たとえば、配列番号2および6において694番目、配列番号4および8において699番目)であり得る。リン酸化されることが好ましい残基としては、例えば、配列番号2において、461番目のスレオニン、694番目のチロシン、726番目のセリンならびにそれに対応するスレオニン、チロシン、セリンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0216】
活性型STAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチドであり得る。活性型STAT5は、二量体であり得る。そのような二量体は、ホモ二量体であってもヘテロ二量体であってもよい。ホモ二量体が好ましい。
【0217】
ある因子が活性型STAT5であるかどうかは、核内への移行能および/またはSTAT5コンセンサス配列への結合能により判定できる。活性型STAT5を作製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、そのような分子は、恒常的または一過的に活性型のSTAT5をコードする核酸分子を当該分野において周知の手段を用いて発現させることによって作製することができる。あるいは、不活性型のSTAT5を遺伝子操作によるかまたは天然のものから精製するか、あるいは有機合成によって作製し、JAKなどのキナーゼ(好ましくは、JAK1、JAK2、JAK3のようなSTAT5(STAT5A、STAT5Bを含む)を特異的にリン酸化することが知られているもの)によってリン酸化することによって活性型のSTAT5を作製することができる。リン酸化されたSTAT5は通常、二量体化され、活性化が維持される。
【0218】
好ましい実施形態において、本発明の活性型STAT5は、配列番号2または6において、150番目のグルタミン酸基および/または298番目のヒスチジン残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれ別のアミノ酸、好ましくは、それぞれグリシンおよび/またはアルギニンおよび/またはフェニルアラニンに置換されたものであり得る。好ましくは、この3つのうち2つの変異が両方とも導入されたものが使用され得る。あるいは、好ましくは、710番目のセリン残基がフェニルアラニンに置換されたものも使用され得る。さらに好ましくは、配列番号10または13に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが本発明の好ましい活性型STAT5として使用され得る。
【0219】
ある実施形態において、本発明の活性型STAT5は恒常的に活性であるかまたは一過的に活性であり得る。恒常的または一過的の別は、当業者が状況に応じて適宜選択することができる。
【0220】
好ましくは、本発明の活性型STAT5は、そのアミノ酸配列において、配列番号2、4、6または8と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明の活性型STAT5は、そのアミノ酸配列において、配列番号2、4、6または8と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明の活性型STAT5は、そのアミノ酸配列において、配列番号2または配列番号4のヘリックスおよび/またはそれぞれの間のループを規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。最も好ましくは、本発明の活性型STAT5は、配列番号2、4、6、8、10または13に示す配列を有する。
【0221】
好ましい実施形態において、本発明は、さらなる生理活性物質を含み得る。そのような細胞生理活性物質としては、例えば、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖活性を有するものが挙げられるがそれらに限定されない。ある実施形態において、そのような細胞生理活性物質は、SCF、TPOおよびFlt−3Lからなる群より選択されるものを使用することが好ましい。SCF、TPOおよびFlt−3Lは、未分化能を維持する際に効果があることが報告されているからである。好ましくは、このSCF、TPOおよびFlt−3Lはすべて使用され得る。
【0222】
本発明の組成物は、医薬組成物として使用することができる。その際は、薬学的に受容可能なキャリアを含ませることができる。
【0223】
別の局面において、本発明は、幹細胞の増幅またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物であって、STAT5およびSTAT5の活性化因子を含む、組成物に関する。そのようなSTAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有するものであり得る。
【0224】
STAT5の活性化因子は、当該分野において公知のものを使用することができるし、あるいは、天然に存在するSTAT5を活性化することができるものを新たに製造して用いてもよい。ある因子がSTAT5を活性化することができるかどうかは、例えば、あるSTAT5またはその改変体に、ある因子を作用させて、そのSTAT5またはその改変体について、活性型STAT5についてのアッセイを行うことによって、STAT5の活性化能を測定することができる。そのようなSTAT5の活性化因子としては、例えば、JAKファミリーから選択される因子(例えば、JAK1、JAK2、JAK3)またはその改変体であり得る。
【0225】
本明細書において「低分子化合物」とは、化合物であって、比較的分子量が小さなものをいう。通常低分子化合物は、分子量が約1000以下のものをいうが、それ以上のものであってもよい。低分子化合物は、通常当該分野において公知の方法を用いるかそれらを組み合わせて合成することができる。そのような低分子化合物は、生物に生産させてもよい。低分子化合物としては、例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0226】
他の局面において、本発明は、活性型STAT5をコードする核酸分子を含む、幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物を提供する。本発明はまた、幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物であって、STAT5をコードする核酸分子およびSTAT5の少なくとも1つのセリン、スレオニンまたはチロシンをリン酸化する因子を含む、組成物を提供する。好ましくは、そのような各核酸分子は、二量体を形成するSTAT5をコードする核酸配列を含み得る。
【0227】
1つの実施形態において、活性型STAT5をコードする核酸分子は、
(a)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載の塩基配列からなるDNAの対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含み得る。
【0228】
核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、そのままの形態でも、プラスミドなどのベクター(例えば、レトロウイルスベクター)に含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。
【0229】
本発明で使用される活性型STAT5をコードする核酸分子は、核酸配列において、配列番号1、3、5または7と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明の活性型STAT5をコードする核酸分子は、核酸配列において、配列番号1、3、5または7に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明の活性型STAT5をコードする核酸分子は、核酸配列において、配列番号1、3、5または7に示す配列のヘリックスおよび/またはそれぞれの間のループをコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。最も好ましくは、本発明の活性型STAT5をコードする核酸分子は、配列番号1、3、5、7、9または12に示す配列を有する。
【0230】
このような核酸配列は、二量体を形成するような分子をコードするように改変されていてもよい。そのような配列としては、例えば、配列番号9に示す配列またはそこで改変されている(150番目のグルタミン酸がグリシンに、298番目のヒスチジンがアルギニンに、710番目のセリンがフェニルアラニンに置換されている)ものに対応するアミノ酸が置換されているものが挙げられるがそれに限定されない。上述の150番目のグルタミン酸、298番目のヒスチジンおよび710番目のセリンが置換されるアミノ酸は、二量体の形成能が発揮される限りどのようなアミノ酸でもよい。したがって、当業者は、STAT5の活性化能を見ながら、適宜適切な置換を設定することができる。
【0231】
別の局面において、本発明は、幹細胞を増幅またはその多能性を維持させるための方法を提供する。この方法は、A)幹細胞を提供する工程;およびB)この幹細胞に本発明の組成物を提供する工程、を包含する。
【0232】
従って、好ましい実施形態において、本発明の核酸分子がコードする活性型STAT5は、配列番号2または6において、150番目のグルタミン酸残基および/または298番目のヒスチジン残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれ別のアミノ酸、好ましくは、それぞれグリシンおよび/またはアルギニンおよび/またはフェニルアラニンに置換されたものであり得る。好ましくは、この3つのうち2つの変異が両方とも導入されたものが使用され得る。あるいは、好ましくは、710番目のセリン残基がフェニルアラニンに置換されたものも使用され得る。さらに好ましくは、本発明の核酸がコードする活性型STAT5は、配列番号10または13に示されるアミノ酸配列を有する。
【0233】
好ましい実施形態において、上記幹細胞は、胚性幹細胞および組織幹細胞からなる群より選択される。より好ましくは、上記幹細胞は、造血幹細胞であり得る。
【0234】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する。好ましい実施形態において、このさらなる細胞生理活性物質は、SCF、TPOおよびFlt−3Lからなる群より選択される。
【0235】
1つの実施形態において、本発明は、幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための方法を提供する。この方法は、A)幹細胞を提供する工程;およびB)該幹細胞に、活性型STAT5を提供する工程、
を包含する。ここで、幹細胞は、好ましくは造血幹細胞であり得る。そのような活性型STAT5は、好ましい実施形態において、本明細書において記載される好ましい実施形態のものが使用され得る。
【0236】
1つの実施形態において、本発明は、幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための方法を提供する。この方法は、A)幹細胞を提供する工程;B)該幹細胞に、STAT5を提供する工程;およびC)該STAT5を活性化する工程、を包含する。そのような活性化する因子は、JAKファミリーから選択されるメンバーまたはその改変体であり得るが、それらに限定されない。そのような活性化因子は、本明細書の記載に基づいて、当業者が適宜選択することができる。上述のSTAT5についても、本明細書において記載される形態のものが用いられ得る。
【0237】
1つの局面において、本発明では、幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、活性型STAT5の使用が提供される。そのような活性型STAT5は、本明細書において記載されるものが使用され得る。好ましくは、幹細胞は造血幹細胞であり得る。
【0238】
1つの局面において、本発明は、幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、STAT5の使用を提供する。そのような活性型STAT5は、本明細書において記載されるものが使用され得る。好ましくは、幹細胞は造血幹細胞であり得る。
【0239】
1つの局面において、本発明は、幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、STAT5および該STAT5の活性化因子の使用を提供する。そのような活性化する因子は、JAKファミリーから選択されるメンバーまたはその改変体であり得るが、それらに限定されない。そのような活性化因子は、本明細書の記載に基づいて、当業者が適宜選択することができる。
【0240】
別の局面において、本発明は、本発明の方法によって得られた細胞、その細胞から得られた組織および臓器に関する。
【0241】
本発明の好ましい局面において、本発明は、本発明の方法によって得られた細胞を含む医薬組成物を提供する。そのような医薬組成物には、必要に応じて、薬学的キャリアおよびさらなる薬効成分が含まれていてもよい。
【0242】
本発明の別の局面において、本発明は、幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するための方法を提供する。この方法は、A)本発明によって得られた細胞をそのような処置または予防を必要とする被検体に投与する工程、を包含する。
【0243】
本発明の別の局面において、本発明は、本発明によって得られた細胞の、幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するための使用に関する。そのような細胞の使用技術は、当該分野において周知であり、当業者は、適宜選択することができる。
【0244】
別の局面において、本発明は、上記幹細胞を増幅およびその多能性もしくは自己複製能を維持するための方法によって調製された幹細胞を提供する。この方法は、インビボまたはインビトロで使用することができる。本発明の方法によって調製された幹細胞は、一定の品質を確保することができ、大量に調製することも可能であるように、従来にない特徴を有することから、好ましい治療効果を有し得る。
【0245】
このように、本発明により幹細胞をより効率的に提供することができるようになった。従って、このような効果は、従来技術にはない格別な効果であるといえ、その有用性は筆舌に尽くしがたい。
【0246】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0247】
(実施例1:レトロウイルスベクターの調製)
本実施例では、活性型STAT5として、恒常的に二量体を形成することが知られる構造物を使用した。その構造物の構造を図2に示す。この構造物は、GCsam STAT ires EGFPと呼ばれる。ここで使用したSTAT5は、STAT5A1*6という改変体(核酸配列は配列番号9に示し、アミノ酸配列は配列番号10に示す)である。この改変体は、二量体を恒常的に形成し、常に活性型STAT5活性を示すという利点がある。
【0248】
GC−sam−STAT5A 1*6−IRES−EGFP(STAT5A 1*6遺伝子をレトロウイルスベクターGCsam−IRES−EGFPに挿入したもの)またはVSV−g(vesicular stomatitis virus G protein)エンベロープ発現ベクターをパッケージング細胞である293gp細胞にトランスフェクトし、培養上清を回収した(図2を参照)。
【0249】
培養は、加湿した、37℃、10%CO存在下で10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変必須培地(DMEM)に、1×ペニシリン(100U/ml)、1×ストレプトマイシン(100μg/ml)中で行った。代表的には3日毎に、1/4〜1/10量を継代培養した。
【0250】
293gp細胞のトランスフェクションは、代表的には、15cmのプレートに7×10個の293gp細胞を播種した。播種の24時間後、リン酸カルシウム法を用いて、以下のようにトランスフェクションに使用した。
【0251】
1.215mlの水を15mlのチューブに分取した。DNA溶液(ベクタープラスミド(GCsam STAT ires EGFP、図2、45μg)およびエンベローププラスミド(vsv−g、20μg))を加えた後、2.5M塩化カルシウム135μlを添加し、穏やかに混合し、2×BBS1.35mlを加えてDNA溶液を室温で20分間インキュベートした。この混合液を細胞培養培地に添加した。ウイルス産生細胞を、加湿した、37℃、5%CO存在下で16時間培養した。その後、新鮮な細胞培養培地に交換した。
【0252】
トランスフェクション(新鮮な細胞培養培地への交換)の48時間後、10mlのシリンジを使用して、上清を回収(15cmのプレートあたり15ml)し、0.45μmのメンブレン(HTuffryn、Pall Gelman Laboratory(Ann Arbor,MI,USA)を通して濾過し、ウイルス産生細胞および細胞の砕片を除去した。ウイルス上清は、あるいは、19,400rpmで2時間遠心分離することによって約100倍に濃縮した。濾過したウイルス調製物を、直接感染に使用するか、または−80℃で保存した。
【0253】
(実施例2:細胞の調製)
8−10週齢のC57BL/6 Ly5.1マウスの骨髄液を採取し、比重遠心分離により単核球を分離した(図3を参照)。単核球を各種の単クローン抗体で染色後(抗CD34,抗c−Kit,抗Sca−1,Lineage−marker mixture(CD4,CD8,B220,Gr−1,Mac−1、Ter119))、FACS Vantage細胞分取器(Becton Dickinson)を用いて CD34−/lowc−kitSca−1Lineage−marker(CD34KSL)の造血幹細胞分画を96マルチタイタープレートに100細胞/ウェルずつ選別した。培養液は無血清培地である X−vivo−10(BioWhittaker)を200μl/ウェルで用い、サイトカインとしては SCF(Stem cell factor)およびTPO(thrombopoietin)をそれぞれ100ng/mlで添加した(図3を参照)。
【0254】
(実施例3:ウイルスの感染)
実施例2で採取した造血幹細胞を24時間培養後、濃縮したウイルスをMOI(Multiplicity of infection)600で加えた。この際、感染を補助するために、CH296(レトロネクチン(登録商標):宝酒造)とprotamine(Sigma)を1microgram/mlで加えた。ウイルスを加えて24時間後に細胞をX−vivo−10 5mlで洗浄後、SCF単独の培地あるいはSCF,TPO,Flt3L(Flt3 ligand)(100ng/ml)の培地に再浮遊させ、さらに7日から9日培養した。その結果を図4に示す。
【0255】
(実施例4:コロニーアッセイ)
ウイルス感染後、SCF単独培地あるいはSCF,TPO,Flt3L(Flt3 ligand)培地で7日から9日培養後、その一部の細胞をメチルセルロース培地(Methocult:Stem Cell Technologies,Inc)に浮遊させ10日培養した(図5)。この際使用されたサイトカインはSCF(20ng/ml),TPO(100ng/ml),IL−3(インターロイキン−3,20ng/ml),Epo(エリスロポイエチン5ユニット/ml)であった。10日後に形成されたコロニーの数と種類を評価した(図5)。
【0256】
結果を図6に示す。図6に示すように、コントロールとして用いたGFPもSTAT3(図2の構造を参照)も、多能性維持機能は有しなかったが、活性型STAT5は、顕著に多能性を維持し、かつ、自己複製能を維持していることが判明した。図7には、この結果を棒グラフとしたものを示す。図7からも明らかなように活性型STAT5の顕著な効果が示された。
【0257】
このように活性型STAT5が多能性を維持し、かつ、自己複製能を維持させる機能を有する、すなわち幹細胞を増幅させる機能が判明したことは、従来わかっていなかった結果であり、特に活性型STAT3には効果がなく活性型STAT5のみに効果があったことは驚くべき効果であるといえる。
【0258】
(実施例5:骨髄移植)
ウイルス感染後、SCF単独培地あるいはSCF,TPO,Flt3L(Flt3 ligand)培地で7日から9日培養後、細胞を5等分してそれぞれC57BL/6 Ly5.2マウス骨髄細胞2x10と混ぜた。致死量の放射線を照射された57BL/6 Ly5.2マウスに細胞を尾静脈から注入した。細胞を移植後定期的に末梢血を採取し、移植した細胞の末梢血におけるキメリズムをFlow cytometerを用いて観察した(図8を参照)。遺伝子導入細胞はGFPを発現しているため、GFP陽性細胞を定量することにより、STAT5導入細胞の骨髄移植後の骨髄再構築における寄与の割合を評価することができた。その結果を図9に示す。図9に示すように、活性型STAT5に加えてSCF、TPOおよびFlt−3Lを加えることによって、造血幹細胞活性を顕著に確保することが示された。なお、活性型STAT5単独でも、幹細胞の活性を維持することができるが、その効果は弱い。したがって、細胞生理活性物質をさらに加えることが好ましいことがわかった。
【0259】
(実施例6:タンパク質の直接導入)
上述の遺伝子を用いる形態に代えて、活性型STAT5を直接使用して、幹細胞の能力を保持することができるかどうかを調べた。
【0260】
活性型STAT5は、上述のSTAT5A1*6を用いた。この遺伝子産物を当該分野において周知の方法を用いて、調製した。
【0261】
調製したSTAT5A1*6の活性は、STAT5結合塩基配列として用いられているプロラクチン応答性エレメント(PRE)を含む塩基配列(5’−GATCCGAATTCCAGGAATTCAGATC−3’)(配列番号11)を含む2本鎖オリゴヌクレオチドを用いたゲルシフトアッセイで調べた。調製したタンパク質溶液と、この塩基配列を含む核酸分子とを反応させ、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動および分離後、その因子と、コンセンサス配列を含む核酸分子との複合体の形成を同定することによって判定したところ、活性型STAT5の活性を保持していることが判明した。
【0262】
この活性型STAT5を用いてコロニーアッセイおよび骨髄移植アッセイをしたところ、効果は弱いものの、同様の効果が得られたことが示された。
【0263】
(実施例7:別の活性型STAT5改変体による効果)
上述の活性型STAT5Aの代わりに、別の改変を有するSTAT5改変体の効果を調べた。配列番号6の150位においてE(グルタミン酸)がG(グリシン)になっており、かつ、710位においてS(セリン)がF(フェニルアラニン)になっている改変体を作製した。その配列は、配列番号12および13(核酸およびアミノ酸)に示されるとおりである。この改変体は、STAT5A1*7と命名した。この改変体をSTAT5A1*6の代わりに実施例1のような構造物に挿入した。この改変体もまた、二量体を恒常的に形成し、常に活性型STAT5活性を示すことがあきらかになった。
【0264】
GC−sam−STAT5A 1*7−IRES−EGFP(STAT5A 1*7遺伝子をレトロウイルスベクターGCsam−IRES−EGFPに挿入したもの)またはVSV−g(vesicular stomatitis virus G protein)エンベロープ発現ベクターをパッケージング細胞である293gp細胞にトランスフェクトし、培養上清を回収した(図2を参照)。
【0265】
培養は、加湿した、37℃、10%CO存在下で10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変必須培地(DMEM)に、1×ペニシリン(100U/ml)、1×ストレプトマイシン(100μg/ml)中で行った。代表的には3日毎に、1/4〜1/10量を継代培養した。
【0266】
293gp細胞のトランスフェクションは、代表的には、15cmのプレートに7×10個の293gp細胞を播種した。播種の24時間後、リン酸カルシウム法を用いて、以下のようにトランスフェクションに使用した。
【0267】
1.215mlの水を15mlのチューブに分取した。DNA溶液(ベクタープラスミド45μg)およびエンベローププラスミド(vsv−g、20μg))を加えた後、2.5M塩化カルシウム135μlを添加し、穏やかに混合し、2×BBS1.35mlを加えてDNA溶液を室温で20分間インキュベートした。この混合液を細胞培養培地に添加した。ウイルス産生細胞を、加湿した、37℃、5%CO存在下で16時間培養した。その後、新鮮な細胞培養培地に交換した。
【0268】
トランスフェクション(新鮮な細胞培養培地への交換)の48時間後、10mlのシリンジを使用して、上清を回収(15cmのプレートあたり15ml)し、0.45μmのメンブレン(HTuffryn、Pall Gelman Laboratory(Ann Arbor,MI,USA)を通して濾過し、ウイルス産生細胞および細胞の砕片を除去した。ウイルス上清は、あるいは、19,400rpmで2時間遠心分離することによって約100倍に濃縮した。濾過したウイルス調製物を、直接感染に使用するか、または−80℃で保存した。
【0269】
この生成物を、実施例2のように調製した細胞を用いて、実施例3に記載のようにウイルス感染させ、実施例4に記載のようなコロニーアッセイを行ったところ、STAT5A 1*7もまた、STAT5A 1*6と同じ程度の活性を有することがあきらかになった。
【0270】
(実施例8:別の改変体による骨髄移植における効果)
STAT5A 1*7について、骨髄移植における効果(特に、骨髄再建能)を確認した。そのプロトコールは、実施例5の記載に従った。
【0271】
移植後4週間での骨髄におけるSTAT5A 1*7で形質導入した細胞のキメリズムは以下のとおりである。以下の表は、コントロールとして、GFPを用い、実施例1で作製したSTAT5A 1*6およびSTAT5A 1*7を対比して示してある。
【0272】


ウイルス No.HSC(細胞数) マウス キメリズム
GFP 20 1 0.02%
GFP 20 2 0.02%
GFP 20 3 0.2%

STAT5 1*6 20 1 0.5%
STAT5 1*6 20 2 5.9%
STAT5 1*6 20 3 35.3%

STAT5 1*7 20 1 28.2%
STAT5 1*7 20 2 57.9%
【0273】
(実施例9:他のSTAT5による効果)
上述の活性型STAT5Aの代わりに、活性型STAT5Bおよびヒト活性型STAT5A(上述のSTAT5 1*6およびSTAT5 1*7において対応する変異を有する改変体)を使用して、上述の実施例1〜5と同じ実験を行う。すると、その結果、同じように、活性型STAT5が未分化性を維持させ、自己複製能を維持させる結果を示すことがわかる。したがって、活性型STAT5は、活性型STAT5としての能力が保たれる限り(特に下流シグナルの伝達)、本発明がもたらす効果を奏することが判明する。
【0274】
(実施例10:STAT5を活性化する物質のスクリーニング)
本発明では、活性型STAT5を用いることもできるが、STAT5を活性化する因子もまた有用である。そこで、本実施例では、STAT5を活性化する因子のスクリーニングを行う。活性化されていないSTAT5を用意し、そのSTAT5が候補因子の提供によって活性化されるかどうかを確認することによってSTAT5の活性化因子をスクリーニングし、同定することができる。
【0275】
このようにして選別された化合物は、STAT5の活性化を促進することから、幹細胞の増幅のための因子として使用することができる。このような物質は、不活性型STAT5に結合し、重合することによってSTAT5を活性化する低分子であり得る。
【0276】
本実施例において、ある物質が、活性型STAT5であるかどうかは、その因子が細胞の核内に入る能力を有することおよび/またはSTAT5コンセンサス配列に結合する能力を有することを判定することによって、判断することができる。本実施例では、STAT5遺伝子を細胞にトランスフェクトし、抗STAT5抗体を用いて免疫染色し、候補化合物を投与したときに、核への局在が存在するかを確認することで判定することができる。そのような因子がタンパク質など候補化合物の場合は、直接細胞内に導入し、その後、核内にそのような因子が移行するかどうかを、その因子に特異的な抗体を用いて免疫染色することによって確かめることができる。そのような技術は、当該分野において周知である。
【0277】
STAT5コンセンサス配列に結合する能力を判断するために、STAT5結合塩基配列として用いられているプロラクチン応答性エレメント(PRE)を含む塩基配列(5’−GATCCGAATTCCAGGAATTCAGATC−3’)(配列番号11)を含む2本鎖オリゴヌクレオチドを用いたゲルシフトアッセイで調べる。候補化合物を投与したときに、ある不活性型STAT5と、この塩基配列を含む核酸分子とを反応させ、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動および分離後、不活性型STAT5と、コンセンサス配列を含む核酸分子との複合体の形成を同定することによって判定することができる。通常は、複合体の形成が有意に確認することができれば、その因子は、活性型STAT5と同一の機能を有すると判断することができる。
【0278】
転写活性化は上記同様PRE配列を含むウシのβカゼインプロモーターを用いて行う。βカゼインプロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子をつないだものをレポーター遺伝子とし、細胞にレポーター遺伝子およびSTAT5遺伝子を同時にトランスフェクトし、ルシフェラーゼ活性を測定する。あるいは、その因子が直接作用する場合は、細胞にレポーター遺伝子のみをトランスフェクトし、その後因子を作用させてルシフェラーゼ活性を測定することによって、活性型STAT5であるかどうかを判断することができる。ルシフェラーゼ活性が上がれば転写活性化能があると評価することができる。限定されることを望まないが、そのような評価の際には、統計学的処理を行い、統計学的に有意であるかどうかを判断することができる。
【0279】
活性型STAT5であるかどうかを判断するには、以上の少なくとも1つで有意な活性が判定することができることで十分である。また、基本的にはルシフェラーゼレポーターアッセイで活性が認められれば、核に移行しDNAに結合していることの間接的な証明になることから、簡便にはこれだけ見ることで判定することも可能である。
【0280】
(実施例11:STAT5活性化因子の利用)
実施例10で調製されたSTAT5を活性化する因子を用いて、幹細胞を増幅することができる。このような化合物を、不活性型STAT5を発現する幹細胞に投与して、一定期間培養する。すると、幹細胞が増幅することが分かる。
【0281】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0282】
本発明により、特に造血幹細胞を増幅する組成物がはじめて提供される。このような組成物は、造血幹細胞および分化細胞を種々の治療に使用するために使用され、非常に有用である。このような組成物は医薬として使用され得ることから、特に、製薬業において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0283】
【図1】図1は、造血幹細胞における自己複製シグナルを例示する図である。
【図2】図2は、本発明において用いられる恒常性活性型STAT5の構造である。
【図3】図3は、本発明で用いたコロニーアッセイのプロトコールを例示する図である。
【図4】図4は、増殖曲線を示す図である。
【図5】図5は、本発明で用いた実験のタイムスケジュールを示す図である。
【図6】図6は、コロニーアッセイの結果を示す図である。
【図7】図7は、図6をグラフ化したものである。MIXは骨髄球、赤芽球、巨核球を含むコロニーを示し、GM/Mは骨髄球のみを含むコロニーを示す。
【図8】図8は、骨髄移植のタイムスケジュールを示す図である。
【図9】図9は、骨髄移植の実験結果を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0284】
(配列表の説明)
配列番号1は、STAT5Aのヒト核酸配列である。
配列番号2は、STAT5Aのヒトアミノ酸配列である。
配列番号3は、STAT5Bのヒト核酸配列である。
配列番号4は、STAT5Bのヒトアミノ酸配列である。
配列番号5は、STAT5Aのマウス核酸配列である。
配列番号6は、STAT5Aのマウスアミノ酸配列である。
配列番号7は、STAT5Bのマウス核酸配列である。
配列番号8は、STAT5Bのマウスアミノ酸配列である。
配列番号9は、STAT5Aの改変体であるSTAT5A1*6の核酸配列である。
配列番号10は、STAT5Aの改変体であるSTAT5A1*6のアミノ酸配列である。
配列番号11は、STAT5コンセンサス配列である。
配列番号12は、STAT5Aの改変体であるSTAT5A1*7の核酸配列である。
配列番号13は、STAT5Aの改変体であるSTAT5A1*7のアミノ酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物であって、活性型STAT5を含む、組成物。
【請求項2】
前記幹細胞は、造血幹細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記活性型STAT5は、活性型STAT5AまたはSTAT5Bである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記活性型STAT5は、活性型STAT5Aである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記活性型STAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であって、少なくとも1つのセリン残基、スレオニン残基またはチロシン残基がリン酸化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記活性型STAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
のホモ二量体またはヘテロ二量体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記活性型STAT5は、配列番号2における694番目のチロシン残基またはそれに対応するチロシン残基が少なくともリン酸化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記活性型STAT5は、二量体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記活性型STAT5は、配列番号2または6における150番目、298番目および710番目からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、アミノ酸残基が置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記活性型STAT5は、配列番号2または6における298番目のヒスチジン残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれアルギニンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記STAT5は、配列番号2または6における150番目のグルタミン酸残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれグリシンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記STAT5は、配列番号2または6における710番目のセリン残基がフェニルアラニンに置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記活性型STAT5は、配列番号10または配列番号13に示す配列を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記活性型STAT5は、恒常的または一過的に活性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
さらなる細胞生理活性物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記細胞生理活性物質は、SCF、TPOおよびFlt−3Lからなる群より選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記細胞生理活性物質は、SCF、TPOおよびFlt−3Lを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
薬学的に受容可能なキャリアを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物であって、STAT5および該STAT5の活性化因子を含む、組成物。
【請求項20】
前記活性型STAT5は、
(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列の対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記活性化因子は、JAKファミリーから選択されるメンバーまたはその改変体である、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
活性型STAT5をコードする核酸分子を含む、幹細胞の増幅(expansion)またはその多能性もしくは自己複製能の維持のための組成物。
【請求項23】
前記活性型STAT5をコードする核酸分子は、二量体を形成するSTAT5をコードする核酸配列を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記活性型STAT5をコードする核酸分子は、
(a)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載の塩基配列からなるDNAの対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記活性型STAT5は、配列番号2または6における150番目、298番目および710番目からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、アミノ酸残基が置換されている、請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
前記活性型STAT5は、配列番号2または6における298番目のヒスチジン残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれアルギニンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、請求項22に記載の組成物。
【請求項27】
前記活性型STAT5は、配列番号2または6における150番目のグルタミン酸残基および/または710番目のセリン残基またはそれに対応する残基がそれぞれグリシンおよび/またはフェニルアラニンに置換されている、請求項22に記載の組成物。
【請求項28】
前記活性型STAT5は、配列番号2または6における710番目のセリン残基がフェニルアラニンに置換されている、請求項22に記載の組成物。
【請求項29】
前記活性型STAT5は、配列番号10または配列番号13に示す配列を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項30】
前記核酸分子は、ベクターに含まれる、請求項22に記載の組成物。
【請求項31】
前記核酸分子は、レトロウイルスベクターに含まれる、請求項22に記載の組成物。
【請求項32】
前記核酸分子は、配列番号9に示す配列を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項33】
幹細胞の増幅(expansion)のための組成物であって、STAT5をコードする核酸分子および該STAT5を活性化する因子を含む、組成物。
【請求項34】
前記STAT5をコードする核酸分子は、
(a)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載の塩基配列からなるDNAの対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記核酸分子は、ベクターに含まれる、請求項33に記載の組成物。
【請求項36】
前記核酸分子は、レトロウイルスベクターに含まれる、請求項33に記載の組成物。
【請求項37】
前記活性化する因子は、JAKファミリーから選択されるメンバーまたはその改変体である、請求項33に記載の組成物。
【請求項38】
幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための方法であって、
A)幹細胞を提供する工程;および
B)該幹細胞に、活性型STAT5を提供する工程、
を包含する、方法。
【請求項39】
幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための方法であって、
A)幹細胞を提供する工程;
B)該幹細胞に、STAT5を提供する工程;および
C)該STAT5を活性化する工程、
を包含する、方法。
【請求項40】
幹細胞を一定量調製するための方法であって、
A)幹細胞を提供する工程;および
B)該幹細胞に、活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子を提供する工程、
を包含する、方法。
【請求項41】
請求項38〜40のいずれか1項に記載の方法によって得られた細胞。
【請求項42】
幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、活性型STAT5の使用。
【請求項43】
幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、STAT5の使用。
【請求項44】
幹細胞を増幅またはその多能性もしくは自己複製能を維持するための、STAT5および該STAT5の活性化因子の使用。
【請求項45】
活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる、細胞。
【請求項46】
活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞から得られた組織。
【請求項47】
活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞から得られた臓器。
【請求項48】
活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞を含む、医薬組成物。
【請求項49】
幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するための方法であって、
A)活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞をそのような処置または予防を必要とする被検体に投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項50】
活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞の、幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するための使用。
【請求項51】
活性型STAT5またはSTAT5および該STAT5を活性化する因子で幹細胞を処理することによって得られる細胞の、幹細胞またはそれに由来する分化細胞を必要とする疾患または障害を処置または予防するため医薬を製造するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−505266(P2006−505266A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549576(P2004−549576)
【出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013579
【国際公開番号】WO2004/042040
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(503341675)株式会社リプロセル (13)
【Fターム(参考)】