説明

幹細胞をホーミングさせるためのCCRリガンド

【課題】治療的に応用するために、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドを、幹細胞をホーミングさせるために使用する方法の提供。
【解決手段】幹細胞の走化性を誘導するケモカインの使用に関し、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるか、または発現するように誘導する、間葉系幹細胞、成体多能性前駆細胞および/またはその他の幹細胞等の、幹細胞のための化学誘引物質として機能するケモカイン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケモカインに関し、詳細には、幹細胞の走化性を誘導するケモカインの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
急性心筋梗塞(MI)は、西洋社会において、依然として発病および死亡の主な原因である。梗塞責任血管における順行性灌流の修復を主なターゲットとした最近の治療が進歩しているにもかかわらず、そのメリットには限界があるようである(例えば、非特許文献1参照)。急性心筋梗塞(MI)を既往した患者のうちかなりの割合の患者は、左室(LV)リモデリング(心筋の菲薄、心筋の拡張、心筋機能の低下という経過を経る)によってうっ血性心不全(CHF)を発症し、最終的に死亡する(例えば、非特許文献2〜4参照)。
【0003】
心筋梗塞後の経過を治療する1つの方法は、細胞療法に関するものである(例えば、非特許文献5参照)。移植は、骨格筋芽細胞、心筋細胞、平滑筋細胞および線維芽細胞などの分化細胞や、骨髄由来の細胞を含む様々な細胞タイプを使用することに、重点をおいている(例えば、非特許文献6〜16参照)。
【0004】
多くの文献において示唆されているように、幹細胞が心臓へ動員されて心筋細胞へ分化することは自然に起こる過程である(例えば、非特許文献17および18参照)。この過程は、心筋梗塞後において、左室機能の意義ある回復をもたらすほどの十分な速度で進んでいない(同著)。近年の研究によれば、心筋梗塞に先立って、血流中へ幹細胞を直接投与することによって、または、化学療法により骨髄から幹細胞を動員することによって、損傷した心筋を再生できる可能性が明らかにされている。これらの研究により、梗塞発症期間に、幹細胞が梗塞領域へホーミング(homing)するホーミング能、および、これらの細胞が心筋細胞へ分化する分化能が実証されている(例えば、非特許文献19〜22参照)。現在まで、いずれの研究においても、心筋梗塞後48時間以内に幹細胞が心筋を再生する能力に重点をおいていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Topol, E. J. Lancet 357, 1905-1914 (2001)
【非特許文献2】Robbins, M. A. & O’Connell, J.B., pp. 3-13 (Lippincott-Raven, Philadelphia, 1998)
【非特許文献3】Pfeffer, J. M., Pfeffer, M. A., Eletcher, P.J. and Braunwald, E. Am. J. Physiol 260, H1406-H1414 (1991)
【非特許文献4】Pfeffer, M. A. and Braunwald, E. Circulation 81, 1161-1172 (1990)
【非特許文献5】Penn, M. S. et al. Prog. Cardiovasc. Dis. 45, 21-32 (2002)
【非特許文献6】Koh, G. Y., Klug, M. G., Soonpaa, M. H. and Field, L.J. J. C1in. Invest 92, 1548-1554 (1993)
【非特許文献7】Taylor, D. A, et al. Nat. Med. 4, 929-933 (1998)
【非特許文献8】Jain, M, et al. Circulation 103, 1920-1927 (2001)
【非特許文献9】Li, R. K. et al. Ann. Thorac. Surg. 62, 654-660 (1996)
【非特許文献10】Etzion, S. et al. J.Mol.Ce11 Cardiol. 33, 1321-1330 (2001)
【非特許文献11】Li, R. K., Jia, Z.Q., Weisel, R. D., Merante, F. and Mickle, D. A. J. Mol. Cell Cardiol. 31, 513-522 (1999)
【非特許文献12】Yoo, K. J. et al. Yonsei Med. J. 43, 296-303 (2002)
【非特許文献13】Sakai, T. et al. Ann. Thorac. Surg. 68, 2074-2080 (1999)
【非特許文献14】Sakai, T. et al. J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 118, 715-724 (1999)
【非特許文献15】Orlic, D. et al. Nature 410, 701-705 (2001)
【非特許文献16】Tomita, S. et al. J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 123, 1132-1140 (2002)
【非特許文献17】Jackson, K. A. et al. J. Clin. Invest 107, 1395-1402 (2001)
【非特許文献18】Quaini, F. et al. N. Engl. J. Med. 346, 5-15 (2002)
【非特許文献19】Kocher, A. A. et al. Nat. Med. 7, 430-436 (2001)
【非特許文献20】Orlic, D. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 98, 10344-10349 (2001)
【非特許文献21】Peled, A. et al. Blood 95, 3289-3296 (2000)
【非特許文献22】Yong, K. et al. Br. J. Haematol. 107, 941-449 (1999)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるか、または発現するように誘導する、間葉系幹細胞(MSC)、成体多能性前駆細胞(MAPC)および/またはその他の幹細胞等の、幹細胞のための化学誘引物質として機能するケモカインに関する。本発明に係るケモカインは、治療への応用および/または細胞療法のため、哺乳動物被験体の組織に提供し、その組織への幹細胞の動員を誘導させることができる。幹細胞は、誘導され、再増殖できる(すなわち、生着できる)分化した細胞および/または部分的に分化した細胞に分化し、治療している組織の正常な機能を部分的または全面的に回復させることができる。本発明に係るケモカインによって誘導することができる特定のタイプの幹細胞の一つの例は、間葉系幹細胞(MSC)である。本発明に係るケモカインによって誘導できる可能性がある幹細胞の別の例は、成体多能性前駆細胞(MAPC)である。さらに別の幹細胞の例は、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現するよう遺伝的に改変された幹細胞である。
【0007】
本発明の1つの態様によれば、ケモカインは、CCR1、CCR2、CCR3またはCCR5のうち少なくとも1つに対するリガンドを含む。CCR1、CCR2、CCR3またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、哺乳動物被験体における、MSC、MAPCおよび/またはその他の幹細胞の化学誘引物質であるということが明らかにされた。CCR1、CCR2、CCR3またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドとしては、例えば、単球走化性タンパク質1〜5(すなわちMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、およびMCP−5)、マクロファージ炎症性タンパク質1〜2(すなわちMIP−1α、MIP−1β、およびMIP−2)、ならびに、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つへの結合能をもち、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の化学誘導剤としての働きをもつ任意の他のリガンド(例えば、タンパク質、ポリペプチドなど)が挙げられる。
【0008】
本発明に係るMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2は、天然の哺乳動物MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2のほか、哺乳動物MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の断片、類似体、および誘導体等の哺乳動物MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の変異体に実質的に類似のアミノ配列を有していてもよい。
【0009】
本発明の別の態様によれば、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、発現ベクターを組織に導入することにより当該組織に供給することができる。この発現ベクターは、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドをコードする核酸を含む。選択的に、この発現ベクターは、心筋組織を標的とする組織特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターを含んでいてもよい。
【0010】
本発明のまた別の態様によれば、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、ex vivoで培養された組織へ細胞を導入することによって、当該組織に供給することができる。ex vivoで培養された細胞は、治療される患者から採取された同種および/または自己細胞を含んでいてもよい。その梗塞した組織へ導入する前に、治療対象の組織へ導入する細胞に発現ベクターをトランスフェクトしてもよい。発現ベクターは、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドをコードする核酸を含んでいてもよい。
【0011】
本発明はまた、哺乳動物被験体の梗塞した組織を治療する方法に関する。この方法により、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドを、梗塞した組織および/または梗塞した組織の近隣の部位に供給することができる。梗塞した組織の末梢血中においてCCR1、CCR2、CCR3またはCCR5のうち少なくとも1つを発現するまたは発現するよう誘導される幹細胞の濃度(または数)は、第1の濃度から第2の濃度に高めることができ、一方、CCR1、CCR2、CCR3またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドを、梗塞した組織に供給することができる。
【0012】
末梢血中において、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させる幹細胞の数、またはCCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現するように誘導した幹細胞の数は、治療している哺乳動物被験体において、末梢血中に幹細胞を注入して増加させることができ、および/または幹細胞を動脈注入または静脈注入することによって増加させることができる。本発明に従って注入することができる特定のタイプの幹細胞の一つ例は、間葉系幹細胞(MSC)である。注入(inject)または注入(infuse)できる可能性がある幹細胞の別の例は、成体多能性前駆細胞(MAPC)である。さらに別の幹細胞の例は、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現するよう遺伝的に改変された幹細胞である。
【0013】
本発明のさらなる特徴は、付属の図面を参照しながら以下の説明を読むことによって、本発明が関連する技術分野の当業者にとって明らかなものとなるであろう。
【0014】
[関連文献とのクロスリファレンス]
本出願は、2004年6月21日付けで出願した米国仮出願第60/581,571号に基づく優先権を主張する。この文献を本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、LAD結紮3日後およびLAD結紮14日後にMSCを注入したラットの、梗塞域中の単位面積当たりのMSCの数を比較したグラフである。
【図2】図2は、心筋梗塞後一過性に発現したケモカインと、CF上には発現しないがMSC上に発現したケモカイン受容体とを比較したグラフである。
【図3】図3は、PCRにより決定した、MSC、CF、およびラット脾臓におけるCCR1、CCR2、およびCCR5の発現を示す。
【図4】図4は、梗塞した領域における単位面積当たりのMSCの数を、MSCの単回注入した後と、MCP−3を発現しているCFとMCP−3を発現していないCFを複数回注入した後と、を比較したグラフである。
【図5】図5aは、コントロールのCFと比較した、MCP−3を発現しているCFを投与したラットのLVEDDを示すグラフである。また、図5bは、コントロールのCFと比較した、MCP−3を発現しているCFを投与したラットの左室内径短縮率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特に定義しない限り、本明細書中で使用する専門用語はすべて、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。分子生物学用語の一般に理解されている定義は、例えばRieger et al., Glossary of Genetics: Classical and Molecular, 5th edition, Springer-Verlag: New York, 1991;およびLewin, Genes V, Oxford University Press: New York, 1994などにおいて見出すことができる。
【0017】
従来の分子生物学技術に関わる方法は本明細書中に記述している。このような技術は当技術分野で一般的に既知であり、A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;およびCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992 (定期的に改定)などの方法論集に、詳細に記述されている。核酸の化学合成方法については、例えば、Beaucage and Carruthers, Tetra. Letts. 22:1859-1862, 1981や、Matteucci et al., J. Am. Chem. Soc. 103:3185, 1981などに論じられている。核酸の化学合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチドシンセサイザーによって行なうことができる。免疫学的方法(抗原特異性抗体の調製、免疫沈降、およびイムノブロッティング等)については、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991;およびMethods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992などに記載されている。また、従来の遺伝子導入法および遺伝子治療法を、本発明での使用に合わせて改変することができる。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999; Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P. D. Robbins, Humana Press, 1997;およびRetro-vectors for Human Gene Therapy, ed. C. P. Hodgson, Springer Verlag, 1996などを参照されたい。
【0018】
本発明は、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるか、または発現するように誘導する、例えば、間葉系幹細胞(MSC)、成体多能性前駆細胞(MAPC)、および/またはその他の幹細胞等の幹細胞のための化学誘引物質として機能するケモカインに関する。本発明に係るケモカインは、治療への応用および/または細胞療法のため、哺乳動物被験体の組織に供給し、その組織への幹細胞の動員を誘導させることができる。幹細胞は、誘導され、再増殖できる、(すなわち、生着できる)分化した細胞および/または部分的に分化した細胞に分化し、治療している組織の正常な機能を部分的または全面的に回復させることができる。
【0019】
本発明に係る哺乳動物被験体としては、例えば、ヒト、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、類人猿、ウサギ、ウシ等のあらゆる哺乳動物が挙げられる。哺乳動物被験体としては、成体、幼若動物、および新生児を含む、任意の成長段階であってもよい。哺乳動物被験体はまた、胎児期の発達段階にあるものを含んでいてもよい。
【0020】
本発明に係るCCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるか、または発現するように誘導する幹細胞は、無制限に自己再生でき、また特定の機能をもつより成熟した細胞へと分化することができる。ヒトにおいては、幹細胞は、初期胚の内部細胞塊、胎児のいくつかの組織(臍帯および胎盤)、およびいくつかの成体器官の中で同定されている。いくつかの成体器官では、幹細胞はその器官内で、複数の特定の細胞タイプに分化することができる。幹細胞は、通常存在する組織の細胞タイプを超えて分化する能力をもち、可塑性を示す。幹細胞が、異なる器官の複数のタイプの組織に分化する場合、それは多能性(multipotent)または多能性(pluripotent)をもつといわれる。
【0021】
本発明に係るケモカインによって誘導することができる特定のタイプの幹細胞の1つの例は、間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、特定のタイプの結合組織(すなわち、様々なin vivoまたはin vitro環境の影響によって、分化した要素を支持する生体の組織であって、特に脂肪性、骨性、軟骨、弾性、筋肉内、および線維性の結合組織を含むもの)に分化する、形成能を有する多能性の芽細胞または胚細胞である。このような細胞は、骨髄、血液、真皮、および骨膜中に存在し、様々な周知の方法を用いて単離し精製することができる。その例としては、CaplanとHaynesworthに付与された米国特許第5,197,985号に開示されている方法(その開示内容を本明細書に援用する)や、その他の多数の参考文献が挙げられる。
【0022】
本発明に係るケモカインによって誘導できる幹細胞の別の例は、成体多能性前駆細胞(MAPC)である。本発明に係るMAPCには、それが通常存在する組織の細胞タイプを超えて分化する能力をもつ(すなわち、可塑性を示す)、成体前駆細胞または成体幹細胞が含まれる。MAPCとしては、例えば、成体MSCおよび造血前駆細胞が挙げられる。MAPCの供給源としては、骨髄、血液、眼組織、真皮、肝臓、および骨格筋を挙げることができる。一例を挙げると、造血前駆細胞を含むMAPCは、米国特許第5,061,620号に開示されている方法(その開示内容を本明細書に援用する)や、その他の多数の参考文献に記載されている方法を用いて、単離し精製することができる。
【0023】
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などの幹細胞は、CXCR5、CCR−1、Cmkbr1L2、CCR2、CCR3、CCR5、CCR7、CCR8、CCR9、CMKOR1、およびCX3CR1などの様々なCXCケモカイン受容体ならびにCCケモカイン受容体を天然で発現させることができるか、あるいは発現するように誘導することができる。CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、哺乳動物被験体において、MSCおよび/またはMAPCのための化学誘引物質としての働きをすることが可能であることが明らかにされた。CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドとしては、例えば、単球走化性タンパク質1〜5(すなわちMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、およびMCP−5)、マクロファージ炎症性タンパク質1〜2(すなわちMIP−1α、MIP−1β、およびMIP−2)、ならびに、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つへの結合能をもち、しかもMSCおよび/またはMAPCの化学誘引物質としての働きをする、その他のリガンド(例えば、タンパク質、ポリペプチドなど)が挙げられる。
【0024】
本発明に係るMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2は、天然の哺乳動物MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2に実質的に類似のアミノ配列を有することができる。例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2は、それぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、および配列番号8に実質的に類似のアミノ酸配列を有することができる。配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、および配列番号8は、それぞれ、ヒトMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、マウスMIP−1α、ラットMIP−1β、およびマウスMIP−2のアミノ酸配列を含み、それぞれ、GenBankアクセッション番号AAM54046、CAA76341、CAA50407、CAA04888、AAS28707、NP035467、NP446310、およびNP063316の核酸配列に実質的に類似である。
【0025】
本発明に係るMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2は、また、例えば、哺乳動物MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の断片、類似体、および誘導体等の、天然哺乳動物MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の変異体であってもよい。このような変異体としては、例えば、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子の天然対立遺伝子変異体によりコードされるポリペプチド(すなわち、天然哺乳動物MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードする天然核酸)、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子の選択的スプライシング型によりコードされるポリペプチド、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子のホモログまたはオーソログによりコードされるポリペプチド、および、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子の非天然変異体によりコードされるポリペプチドなどが挙げられる。
【0026】
MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2変異体は、1個以上のアミノ酸において、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2とは異なるペプチド(またはアミノ酸)配列を有する。このような変異体のペプチド配列は、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の1個以上のアミノ酸の欠失、付加、または、置換を有してもよい。アミノ酸の挿入は、約1〜4個の連続するアミノ酸であることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するアミノ酸であることが好ましい。変異MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質は、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の機能活性を実質的に維持している。好ましいMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質変異体は、サイレント(silent)または保存的な変化を有する本発明の範囲内の核酸分子を発現させることにより、作製することができる。
【0027】
MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の、1つ以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応する断片は、本発明の範囲内である。単離されたMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質のペプチジル部位は、このようなペプチドをコードする核酸に対応する断片から組換え技術によって作製したペプチドをスクリーニングすることにより、得ることができる。さらに、断片は、例えば、従来のメリフィールド固相f−Moc化学またはメリフィールド固相t−Boc化学などの当技術分野で既知の技術を使用して、化学合成することができる。例えば、本発明のMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質は、所望の長さの断片に任意に分割してもよい。その際、断片をオーバーラップさせなくてもよいが、所望の長さのオーバーラップする断片に分割することが好ましい。この断片は、組換え技術によって作製して、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質のアゴニストとして機能し得るペプチジル断片を同定するために試験することができる。
【0028】
MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質はまた、組換え型のタンパク質を含んでいてもよい。MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−22タンパク質に加え、本発明における好ましい組換え型ポリペプチドは、哺乳動物のMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも約85%の配列同一性を有する核酸によってコードされる。
【0029】
MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質変異体は、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の機能活性を構造的に表わすタンパク質のアゴニスト型を含んでもよい。その他のタンパク質変異体としては、例えば、プロテアーゼの標的配列を変化させる突然変異に起因するタンパク質分解性開裂に対する耐性をもつ変異体が挙げられる。ペプチドのアミノ酸配列が変化した結果、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の1つ以上の機能活性をもつ変異体が生じるかどうかということは、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の機能活性について変異体を試験することにより容易に明らかにすることができる。
【0030】
MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質をコードする核酸分子は、天然の核酸であっても、非天然の核酸であってもよく、また、RNAの形態であっても、DNAの形態(例えば、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA)であってもよい。このDNAは、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。一本鎖の場合、コード鎖(センス鎖)であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
【0031】
例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2Cをコードする核酸分子は、それぞれ、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、および配列番号16と実質的に類似の配列を有していてもよい。配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、および配列番号16は、それぞれ、GenBankアクセッション番号NM002982、NM005623、NM006273、NM005408、NM011331、NM013025、NM013652、およびNM053647の核酸配列と実質的に類似である。
【0032】
本発明の範囲内におけるMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質をコードするその他の核酸分子は、例えば、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の断片、類似体、および誘導体をコードするような、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質遺伝子の変異体であってもよい。このような変異体としては、例えば、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子の天然対立遺伝子変異体、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子のホモログ、または、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子の非天然変異体などが挙げられる。これらの変異体は、1個以上の塩基において天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子とは異なる塩基配列を有する。例えば、このような変異体の塩基配列は、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子の1個以上のヌクレオチドの欠失、付加、または置換を有してもよい。核酸の挿入は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましい。
【0033】
その他の応用法において、構造が実質的に変化している変異MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質は、コードされるポリペプチドにおいて保存的とはいえない変化を引き起こすようなヌクレオチド置換を作製することによって生成してもよい。このようなヌクレオチド置換の例としては、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷もしくは疎水性、または、(c)アミノ酸側鎖の大部分、をそれぞれ変化させる置換が挙げられる。タンパク質の特性を最も大きく変化させると一般に予想されるヌクレオチド置換は、コドンにおいて非保存的な変化を引き起こす置換である。タンパク質の構造を大きく変化させる可能性があるコドンの変化としては、例えば、次のような置換を引き起こす変化が挙げられる(a)親水性の残基(例えば、セリンもしくはトレオニン)の、疎水性の残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、もしくはアラニン)への(または、による)置換、(b)システインもしくはプロリンの、他の任意の残基への(または、による)置換、(c)塩基性側鎖を有する残基(例えば、リジン、アルギニン、もしくはヒスチジン)の、電気陰性の側鎖(例えば、グルタミンもしくはアスパルチン)への(または、による)置換、あるいは、(d)かさ高い側鎖を有する残基(例えば、フェルアラニン)の、側鎖を有しない残基(例えば、グリシン)への(または、による)置換などが挙げられる。
【0034】
本発明の範囲における天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子の天然対立遺伝子変異体とは、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を有し、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする、哺乳動物の組織から単離された核酸のことをいう。本発明の範囲における天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子のホモログまたはオーソログとは、天然遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を有し天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする、他の種から単離された核酸のことをいう。天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子と高い(例えば、70%以上の)配列同一性を有する他の核酸分子を同定するため、公的なおよび/または私的な核酸データベースで探索してもよい。
【0035】
非天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子変異体とは、自然界には存在せず(例えば、人工的に作製される)、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を有し、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸のことをいう。非天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子変異体としては、例えば、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質断片をコードする変異体や、ストリンジェントな条件下で、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/もしくはMIP−2遺伝子、または天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/もしくはMIP−2遺伝子の相補体にハイブリダイズする変異体や、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/もしくはMIP−2遺伝子、または天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/もしくはMIP−2遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を有する変異体や、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP‐2融合タンパク質をコードする変異体などが挙げられる。
【0036】
本発明の範囲内における、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子断片をコードする核酸とは、天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質のアミノ酸残基をコードする核酸のことをいう。天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の断片をコードするか、または、これをコードする核酸とハイブリダイズする、短いオリゴヌクレオチドは、プローブ、プライマー、またはアンチセンス分子として使用してもよい。天然MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の断片をコードするか、または、これをコードする核酸とハイブリダイズする、長いポリヌクレオチドは、また、本発明の様々な態様において使用してもよい。MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2断片をコードする核酸は、酵素消化によって(例えば、制限酵素を使用して)、または全長のMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子もしくはその変異体の化学分解によって作製することができる。
【0037】
前述の核酸のうちの1つにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸はまた、本発明で使用することができる。例えば、このような核酸は、本発明の範囲内で、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件下で、前述の核酸のうちの1つにハイブリダイズする核酸であってもよい。
【0038】
MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2融合タンパク質をコードする核酸分子はまた、本発明で使用することができる。このような核酸は、適切な標的細胞へ導入すると、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2融合タンパク質を発現するような構成物(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。このような構成物は、例えば、好適な発現系での発現によって融合タンパク質を産生するように、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを、別のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとインフレームで結合することによって作製してもよい。
【0039】
本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、それらのキメラ混合体であってもそれらの誘導体もしくはそれらの改変体であってもよく、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。このようなオリゴヌクレオチドは、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなど向上させるために、例えば、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において改変されていてもよい。本発明の範囲内のオリゴヌクレオチドには、例えば、ペプチド(例えば、in vivoで標的細胞受容体を標的とするためのペプチド)や、細胞膜を横断する輸送やハイブリダイゼーション誘発開裂を促進する薬剤などの、他の追加の原子団などがさらに含まれる。この目的のために、オリゴヌクレオチドは、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤などの別の分子に結合させてもよい。
【0040】
CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、当該ケモカインリガンドを、近隣の組織に投与したり、医薬組成物に含有させて投与したりすることにより、治療対象の哺乳動物被験体の組織に提供することができる。ケモカインリガンドを含有する医薬組成物は、治療する組織によって様々な方法によって送達することができる。1つの態様において、医薬組成物は注射によって送達することができる。投与経路は、皮下であってもよいし、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、心筋内、および経内皮などの非経口投与であってもよい。
【0041】
ケモカインリガンドを非経口投与する場合、一般に、注射可能な単位用量形態(例えば、溶液、懸濁液、および/または乳濁液)で処方される。注射に適した医薬製剤としては、例えば、無菌注射用溶液または無菌注射用分散液に再調剤するための、無菌水溶液または無菌分散液および無菌粉末剤が挙げられる。キャリアは、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であってもよい。
【0042】
例えば、レシチンのようなコーティングを施すことや、分散液の場合は、必要とされる粒径を維持することや、界面活性剤を用いることで、適切な流動性を保つことができる。綿実油、胡麻油、オリーブ油、大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、またはピーナッツ油、およびエステル類(例えば、ミリスチン酸イソプロピル)などの非水性賦形剤を、化合物組成物のための溶媒系として用いてもよい。
【0043】
さらに、抗菌性防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、および緩衝剤などの、組成物の安定性、無菌性、および等張性を高める様々な添加剤を加えてもよい。例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの、種々の抗菌剤および抗真菌剤によって、微生物の作用を防止することができる。多くの場合において、等張剤(例えば、糖、塩化ナトリウムなど)を含有していることが好ましい。モノステアリン酸アルミニウムやゼラチンのような、吸収を遅らせる薬剤を使用することによって、注射用組成物を長期間にわたって吸収させてもよい。一方、本発明に従って、どんな賦形剤、希釈剤、添加剤でも、その化合物と適合する必要がある。
【0044】
無菌の注射用溶液は、必要に応じて、本発明を実施する際に使用される化合物を、他の成分とともに、必要量含有させることによって調製することができる。
【0045】
別の方法として、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−β、および/またはMIP−2)のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、これらのケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)のうち少なくとも1つの発現を引き起こし、増加させ、さらに/またはアップレギュレートさせる標的細胞に薬剤を導入することにより、治療対象の哺乳動物被験体の組織に供給することができる。標的細胞は、治療対象の組織の細胞だけでなく、その薬剤を導入した後治療対象の組織へ移植される生体外(ex vivo)細胞(例えば、心線維芽細胞)を含んでいてもよい。培養細胞は、周知の細胞移植技術によって治療対象の組織に移植することができる。例えば、ツベルクリン注射器を用いて、治療している哺乳動物被験体の組織に、培養細胞の懸濁液を注入してもよい。
【0046】
生体外(ex vivo)細胞は、治療している哺乳動物被験体の組織に対して、自己細胞であっても同種細胞であってもよい。標的細胞が治療対象の組織へ移植される細胞である場合、その標的細胞は、治療している組織の細胞と同じ細胞タイプであってもよいし、異なる細胞タイプであってもよい。
【0047】
一例を挙げると、治療対象の組織が梗塞した心筋である場合、治療対象の組織へ移植される細胞は、培養された心細胞、骨格筋芽細胞、線維芽細胞(例えば、心線維芽細胞)、平滑筋細胞、および骨髄由来細胞を含んでもよい。これらの細胞は、治療対象の被験体から採取し(すなわち、自己細胞)、移植の前に培養していてもよい。自己細胞を用いると、移植時の細胞の生体適合性が高まり、拒絶の可能性を最小限に抑えることができる。
【0048】
梗塞した心筋へ移植することができる細胞としては、例えば、骨格筋芽細胞が挙げられる。筋芽細胞は、ストレス期に骨格筋を再生する能力を維持し、増殖して筋管細胞に分化し、最終的には収縮能をもつ筋繊維を形成する。心筋層へ移植された筋芽細胞は筋管を形成し、細胞周期を停止するが、依然として生存可能である。機能的な研究により、心筋層へ筋芽細胞を移植後に、局所収縮性およびコンプライアンスの向上が認められている。
【0049】
骨格筋芽細胞は、筋繊維の基底膜の下から容易に採取でき、培養して細胞株をスケールアップでき、次いで、梗塞した心筋層へ移植することができる。例えば、マウス被験体では、この被験体の後肢から骨格筋芽細胞を採取し、培養した後に、この被験体の梗塞した心筋層へ移植することができる。
【0050】
梗塞した心筋に有利に移植されるその他の細胞としては、例えば、心臓の線維芽細胞(すなわち、心線維芽細胞)が挙げられる。心線維芽細胞は、心筋と適合しやすく、目的のケモカインを発現させるように容易にトランスフェクトさせることができる。
【0051】
培養した細胞は、例えば、ツベルクリン注射器を使用して梗塞した心筋組織にその培養細胞の懸濁液を注入することにより、梗塞した心筋に移植してもよい。
【0052】
標的細胞へ導入する薬剤は、その細胞に導入することができ、かつ細胞内で複製能を有する、組換え核酸構成物(典型的には、DNA構成物)に組み込まれた天然核酸または合成核酸(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2核酸)を含有していてもよい。このような構成物は、特定の標的細胞においてポリペプチドをコードする配列を転写し、かつ翻訳する能力を有する、複製系および配列を含むことが好ましい。
【0053】
標的細胞からケモカインリガンドを発現させるため、他の薬剤を標的細胞へ導入してもよい。例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードする遺伝子の転写を増加させる薬剤は、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードするmRNAの翻訳を増加させる。その上/あるいは、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードするmRNAの分解を減少させる薬剤を、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2レベルを増加させるために使用してもよい。細胞内の遺伝子からの転写率は、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードする遺伝子の上流に外因性プロモーターを導入することにより、高めることができる。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサー因子を使用してもよい。
【0054】
標的細胞へ薬剤を導入する好ましい方法は、遺伝子治療の利用と関わっている。遺伝子治療とは、in vivoまたはin vitroにおいて細胞から治療産物を発現させるための、遺伝子導入のことをいう。本発明に係る遺伝子治療は、in vivoまたはin vitroにおいて標的細胞からケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)を発現させるために用いることができる。
【0055】
遺伝子治療の1つの方法は、CCRI、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)をコードするヌクレオチドを含むベクターを使用する。「ベクター」(遺伝子送達ビヒクルまたは遺伝子導入ビヒクルと呼ぶこともある)とは、in vitroまたはin vivoのいずれかにおいて、標的細胞へ送達されるポリヌクレオチドを含む、高分子または分子複合体をいう。送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療において目的とするコード配列を含んでもよい。ベクターとしては、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(‘Ad’)、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレトロウイルスなど)、リポソームやその他の脂質を含む複合体、および標的細胞へポリヌクレオチドの送達を仲介することができるその他の高分子複合体などが挙げられる。
【0056】
ベクターはまた、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節するか、あるいは標的細胞に有益な特性を与える、他の成分または機能を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、細胞との結合または細胞への標的化に影響を及ぼす成分(細胞型もしくは組織に特異的な結合を仲介する成分を含む)、細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす成分、取り込み後の細胞内において、ポリヌクレオチドの局在化に影響を及ぼす成分(例えば、核局在化を仲介する薬剤等)、およびポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす成分などが挙げられる。このような成分はまた、当該ベクターにより送達される核酸を取り込み、かつそれを発現している細胞を検出したり選択したりするために用いることができる検出可能なマーカー、および/または選択可能なマーカーなどのマーカーが挙げられる。このような成分は、当該ベクターの本来の特徴として提供(例えば、結合と取り込みを仲介する成分または機能を有する特定のウイルスベクターの使用など)してもよいし、あるいは、このような機能をもつようにベクターを改変してもよい。
【0057】
選択可能マーカーはポジディブであっても、ネガティブであっても、二機能性であってもよい。ポジティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞を選択できるようにするものであり、ネガティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞が選択的に除去されるようにするものである。二機能性(すなわちポジティブ/ネガティブ)のマーカーを含め、種々のこのようなマーカー遺伝子についての記載がある(例えば、1992年5月29日公開のLupton,S.の国際公開第92/08796号パンフレット、および1994年12月8日公開のLupton,S.の国際公開第94/28143号パンフレット)。このようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の様々な状況において有利となる可能性があるさらなるコントロール手段を提供することができる。多種多様なこのようなベクターは、当技術分野で公知であり、一般に利用できる。
【0058】
本発明において使用されるベクターとしては、ウイルスベクター、脂質に基づいたベクター、および本発明に従ってヌクレオチドを標的細胞へ送達し得る他のベクターが挙げられる。このベクターは、標的ベクター、特に、心筋細胞のような特定の細胞タイプに優先的に結合する標的ベクターであってもよい。本発明で使用される好ましいウイルスベクターは、標的細胞に低毒性であって、組織特異的な方法で治療上有用な大量のケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)の産生を誘導するベクターである。
【0059】
現在、好ましいウイルスベクターは、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来のものである。ヒトウイルスのベクターもヒト以外のウイルスのベクターも共に使用することができるが、組換えウイルスベクターはヒトにおいて複製能をもたないことが好ましい。ベクターがアデノウイルスである場合、このベクターは、例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを有するポリヌクレオチドを含み、かつヒトにおいて複製能をもたないことが好ましい。
【0060】
アデノウイルスベクターは本発明において使用することが好ましい。なぜなら、それらは、(1)標的細胞において非常に効率的な遺伝子発現能を有し、(2)比較的大量の異種(非ウイルス)DNAの挿入が可能であるからである。組換えアデノウイルスの例は、「ガットレス(gutless)」アデノウイルスベクター、「高容量(high−capacity)」アデノウイルスベクター、または「ヘルパー依存型」アデノウイルスベクターである。このようなベクターは、例えば、(1)すべてまたはほぼすべてのウイルスコード配列(ウイルスタンパク質をコードする配列)の欠失(2)ウイルスDNA複製のために必要な配列であるウイルス逆位末端反復配列(ITR)(3)28〜32kbまでの「外因性」配列または「異種」配列(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードする配列)、および(4)ウイルスゲノムを感染性キャプシド中にパッケージングするために必要とされるウイルスDNAパッケージング配列、などの特徴を有する。とりわけ心筋細胞の場合、このような組換えアデノウイルスベクターの好ましい変異体は、ケモカインリガンド遺伝子(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)に作動可能に連結された組織(例えば、心筋細胞)に特異的なエンハンサーおよびプロモーターを含有してもよい。
【0061】
標的細胞への高い形質導入効率を示し、かつ部位特異的な方法で標的ゲノムに組み込むことができるため、AAV随伴ウイルス由来のベクターは有益である。組換えAAVベクターの使用については、Tal, J., J. Biomed. Sci. 7:279-291, 2000 およびMonahan and Samulski, Gene Therapy 7:24-30, 2000に論じられている。好ましいAAVベクターは、一対のAAV逆位末端反復配列と隣接した、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の核酸のうち少なくとも1つに作動可能に連結された組織(例えば、心筋層)特異的なプロモーターまたは細胞(例えば、心筋細胞または心線維芽細胞)特異的なプロモーターを含む少なくとも1つのカセットを含むものである。ITR、プロモーター、およびMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子を含むAAVベクターのDNA配列を、標的ゲノムへ組み込んでもよい。
【0062】
本発明に従って使用することができる他のウイルスベクターとしては、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のベクターが挙げられる。1つ以上の前初期遺伝子(IE)を欠損したHSVベクターは、一般に非細胞毒性であり、標的細胞中で潜伏状態を持続し、かつ効率的な標的細胞への形質導入を可能にするため有益である。組換えHSVベクターは、約30kbの異種核酸を組み込むことができる。好ましいHSVベクターとしては、(1)HSV1型を改変し、(2)そのIE遺伝子を欠損し、(3)MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2核酸のうち少なくとも1つに作動可能に連結された組織(例えば、心筋層)特異的なプロモーターを含むものである。HSVアンプリコンベクターもまた、本発明の様々な方法において有用である。一般に、HSVアンプリコンベクターは、長さ約15kbで、ウイルスの複製開始点およびパッケージング配列を有する。
【0063】
例えば、C型レトロウイルスやレンチウイルスなどのレトロウイルスもまた、本発明において使用することができる。レトロウイルスは、(i)その構造遺伝子をコードする配列のうち大部分が欠失し、目的とする遺伝子で置換され、そしてこの遺伝子が、レトロウイルスの制御配列の制御下で、その末端反復配列(LTR)領域内で転写されること、および、(ii)宿主ゲノムに組み込まれるDNA中間体を介して複製すること、という2つの理由から、構造と生活環の点で、理想的な遺伝子移入ビヒクルである。組み込み部位は、宿主ゲノムに関してはランダムであると考えられるが、プロウイルスは、低コピー数で規定構造をもって組み込まれる。
【0064】
レトロウイルスは、RNAウイルスであってもよい。すなわち、ウイルスのゲノムはRNAであってもよい。しかし、このゲノムRNAは、感染細胞の染色体DNAへ高い効率で組み込まれるDNA中間体へと逆転写される。この組み込まれたDNA中間体を、プロウイルスという。レトロウイルスのゲノムおよびプロウイルスDNAは、gag、pol、およびenvという3つの遺伝子をもち、これらの遺伝子の両端には、2つの長い末端反復配列(LTR)が存在する。gag遺伝子は内部構造物である(ヌクレオカプシド)タンパク質をコードする。pol遺伝子はRNA指向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードする。また、env遺伝子はウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5’LTRおよび3’LTRは、ウイルス粒子RNAの転写とポリアデニル化を促進する働きがある。
【0065】
5’LTRに隣接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)およびウイルスのRNAが効果的なキャプシド形成により粒子内に取り込まれるために必要な配列(Psi部位)が存在する(Mulligan, R. C., In: Experimental Manipulation of Gene Expression, M. Inouye (ed). Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A. 81:6349-6353 (1984))。
【0066】
組み換えゲノムを含むウイルス粒子を生成させるためには、パッケージングの「介助」となる細胞株を作成する必要がある。これを実現するため、例えばレトロウイルスの構造遺伝子gag、pol、envをコードするプラスミドを、通常は形質転換されていない組織細胞株に従来のリン酸カルシウムによるDNAトランスフェクションによって導入する(Wigler, et al., Cell 11:223 (1977))。このようなプラスミドを含んでいる細胞を「パッケージング細胞株」という。このようなプラスミドを含むパッケージング細胞株をそのまま維持してもよいし、複製能力のないレトロウイルスベクターをその細胞のゲノムに導入してもよい。後者の場合、ベクター構築物によって生成したゲノムRNAが、パッケージング細胞株の構成的に発現しているレトロウイルスの構造タンパク質と組み合わされ、その結果、レトロウイルス粒子が生成して、培地中に放出される。レトロウイルスの構造遺伝子配列を含んでいる安定した細胞株は、レトロウイルスの「生成細胞株」である。
【0067】
レトロウイルスベクターは、マウス白血病ウイルス(MLV)由来のものであってもよい。例えば、Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52: 493-511, 2000およびFong et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 17:1-60, 2000を参照されたい。MLV由来のベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに8kb以内の異種DNA(治療用DNA)を含んでいてもよい。この異種DNAは、組織特異的なプロモーターおよびMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2核酸のような核酸を含んでいてもよい。梗塞した心筋層へ送達するための方法においては、心筋特異的な受容体に対するリガンドをコードさせてもよい。
【0068】
その他の使用可能と思われるレトロウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のベクターを含む、複製欠損レンチウイルス由来のベクターである。例えば、Vigna and Naldini, J. Gene Med. 5:308-316, 2000およびMiyoshi et al., J. Virol. 72:8150-8157, 1998を参照されたい。レンチウイルスベクターは、活動的な分裂細胞と非分裂細胞のいずれにも感染させることができるという点で有利である。レンチウイルスベクターはまた、ヒト上皮細胞への形質導入効率が高い。
【0069】
本発明において使用されるレンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルス由来であっても、非ヒトレンチウイルス(SIVを含む)由来であってもよい。好ましいレンチウイルスベクターは、ベクター増殖に必要な核酸配列のほか、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子に作動可能に連結される組織(例えば、心筋層)特異的なプロモーターを含む。これらの核酸配列には、当該ウイルスのLTR、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位、およびキャプシッド形成部位を含んでいてもよい。
【0070】
レンチウイルスベクターは、任意の好適なレンチウイルスのキャプシドへパッケーングされていてもよい。1つの粒子タンパク質の異なるウイルス由来の別のタンパク質での置換を、「シュードタイピング」という。ベクターのキャプシドは、マウス白血病ウイルス(MLV)または水疱性口内炎ウイルス(VSV)を含む他のウイルス由来のウイルスエンベロープタンパク質を含んでいてもよい。VSV Gタンパク質を用いると、高いベクターの力価が得られ、ベクターウイルス粒子の安定性を高めることができる。
【0071】
アルファウイルス由来のベクター(例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)やシンドビスウイルス(SIN)から作製したもの)もまた、本発明において使用してもよい。アルファウイルスの使用については、Lundstrom, K., Intervirology 43:247-257, 2000およびPerri et al., Journal of Virology 74:9802-9807, 2000に記載されている。アルファウイルスベクターは、一般に、レプリコンとして知られているフォーマットで構築されている。レプリコンは、(1)RNA複製に必要なアルファウイルスの遺伝因子、および(2)例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2をコードする核酸などの異種核酸、を含んでいてもよい。アルファウイルスのレプリコン内では、異種核酸は、組織(例えば、心筋層)特異的プロモーターまたはエンハンサーに作動可能に連結されていてもよい。
【0072】
組換えの複製欠損アルファウイルスベクターは、高レベルで異種遺伝子(治療用遺伝子)の発現を可能にするし、広範囲の標的細胞に感染させることができるため、有益である。アルファウイルスのレプリコンは、そのウイルス粒子表面に、同種の結合パートナーを発現している標的細胞へ選択的に結合することができると考えられる、機能的な異種リガンドや結合ドメインを提示させることにより、特定の細胞型(例えば、心筋細胞および/または心線維芽細胞)に対して標的化してもよい。アルファウイルスのレプリコンが潜伏状態を確立し、その結果、標的細胞中で異種核酸を長期発現させるようにしてもよい。このレプリコンはまた、標的細胞において異種核酸を一過性に発現させてもよい。アルファウイルスベクターまたはレプリコンは、細胞変性を示さないものが好ましい。
【0073】
本発明の方法に適合するウイルスベクターの多くにおいて、1種以上の異種遺伝子をこのベクターで発現させるため、1つ以上のプロモーターをこのベクターに組み込んでもよい。さらに、このベクターには、標的細胞からのMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子産物などのケモカインリガンド遺伝子産物の分泌を促進する、シグナルペプチドまたはその他の部分をコードする配列を含んでいてもよい。
【0074】
2つのウイルスベクター系の有益な特性を組み合わせるため、標的組織(例えば、心筋層)にMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2核酸などの核酸を送達させるのに、ハイブリッドウイルスベクターを用いてもよい。ハイブリッドベクターを構築する標準的な方法は、当業者に周知である。このような技術は、例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor, N.Y.や、その他の多くの組換えDNA技術について論じている実験マニュアルにおいて見出すことができる。細胞に形質導入するため、AAVのITRとアデノウイルスのITRとの組み合わせを含むアデノウイルスのキャプシド中の二本鎖AAVゲノムを用いてもよい。別のバリエーションでは、AAVベクターを「ガットレス」(gutless)、「ヘルパー依存性」、すなわち「高性能」のアデノウイルスベクターに導入してもよい。アデノウイルス/AAVハイブリッドベクターについては、Lieber et a1., J. Virol. 73:9314-9324, 1999で、レトロウイルス/アデノウイルスハイブリッドベクターについては、Zheng et al., Nature Biotechnol. 18:176-186, 2000で論じられている。アデノウイルスに含まれるレトロウイルスのゲノムを、標的細胞ゲノム内に組み込み、安定した遺伝子発現(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子発現)もたらしてもよい。
【0075】
さらに、ケモカインリガンド遺伝子(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子)の発現を促進する他の塩基配列要素、およびベクターのクローニングを容易にする他の塩基配列要素が考えられる。例えば、プロモーター上流のエンハンサーの存在や、コード領域下流のターミネーターの存在は、発現を促進することができる。
【0076】
本発明の別の態様によれば、左室のミオシン軽鎖−2(MLC2v)またはミオシン重鎖(MHC)の組織特異的な転写制御配列などの組織特異的なプロモーターは、ケモカインリガンド遺伝子(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子)と融合させてもよい。このような組織特異的なプロモーターをアデノウイルスの構築物内に融合することにより、導入遺伝子の発現は心室の心筋細胞に限定される。組織特異的プロモーターによりもたらされる遺伝子発現の効果および特異性の程度は、本発明の組換えアデノウイルス系を用いて判定することができる。心臓特異的(すなわち、心筋組織特異的)な発現は当業者に周知である(J. Biol. Chem., 267:15875-15885, 1992)。例えば、トロポニンCプロモーターなどの他のプロモーターを使用してもよい。
【0077】
in vivoでケモカインリガンド遺伝子(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子)を送達する場合、心筋細胞のみ(すなわち、心臓内の内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞において、共発現はない)に組織特異的なプロモーターを使用すると、治療上の処置のためのケモカインヂガンドの発現を十分に提供する。心筋細胞に発現を限定することはまた、CHFの治療に対する遺伝子導入の有用性という点で有用である。さらに、心筋細胞は、速いターンオーバーを有さないため、最も長く導入遺伝子の発現を提供すると思われる。従って、心筋細胞の発現は、内皮細胞のように細胞分裂や細胞死により低下することはないと考えられる。この目的のために、内皮細胞特異的なプロモーターは既に入手可能である(Lee, et a1., J. Biol. Chem., 265:10446-10450, 1990)。
【0078】
標的細胞にケモカインリガンド遺伝子(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2遺伝子)を導入するために、ウイルスベクターに基づく方法に加え、非ウイルス性の方法を用いてもよい。非ウイルス性の遺伝子送達方法については、 Nishikawa and Huang, Human Gene Ther. 12:861-870, 2001で概説されている。本発明に係る好ましい非ウイルス性の遺伝子送達方法の1つは、ケモカインリガンド核酸(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2核酸)を細胞に導入するために、プラスミドDNAを使用する。プラスミドに基づく遺伝子送達方法は、一般にこの技術分野において公知である。
【0079】
合成遺伝を導入分子は、プラスミドDNA(例えば、心筋特異的なプロモーターに作動可能に連結されるMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2コード配列を有するプラスミド)を有する多分子集合体を形成するように設計してもよい。このような集合体は、標的細胞(例えば、心筋細胞)に結合するように設計してもよい。
【0080】
リポポリアミンやカチオン性脂質などのカチオン性両親媒性物質は、受容体非依存性の核酸(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2核酸)を標的細胞(例えば、心筋細胞)へ導入するために使用してもよい。さらに、細胞にトランスフェクトする複合体を生成するために、予め形成したカチオン性リポソームまたはカチオン性脂質をプラスミドDNAと混合してもよい。カチオン性脂質製剤に関する方法については、Felgner et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 772:126-139, 1995 およびLasic and Templeton, Adv. Drug Delivery Rev. 20:221-266, 1996に概説されている。遺伝子送達のために、DNAを両親媒性のカチオン性ペプチド(Fominaya et al., J. Gene Med. 2:455-464, 2000)と結合させてもよい。
【0081】
ウイルス由来の成分と非ウイルス由来の成分の両方を含む方法は、本発明に使用してもよい。例えば、治療用遺伝子送達に関するエプスタインバーウイルス(EBV)由来のプラスミドについては、Cui et al., Gene Therapy 8: 1508-1513, 2001.に記載されている。さらに、アデノウイルスに結合したDNA/リガンド/ポリカチオン性の添加物に関する方法は、Curiel, D. T., Nat. Immun. 13: 141-164, 1994.に記載されている。
【0082】
CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうちの1つに対するケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)の発現をコードするベクターは、必要に応じ、例えば、生理食塩水などの薬学的に受容可能なキャリアを含む注射剤の形態で標的細胞へ送達することができる。他の薬剤キャリア、剤形、および投与量はまた、本発明に従って適用することができる。
【0083】
標的細胞が治療対象の組織(例えば、梗塞した心筋層)の細胞を含む場合、このベクターは、効果的な治療を可能にさせる程度に発現させた十分量のケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)において、透視下でツベルクリン注射器を用いて、冠状動脈に直接注入することによって送達することができる。治療対象の組織(例えば、梗塞した心筋組織)にこのベクターを直接注入することによって、この遺伝子をかなり効率よく標的にすることができ、また、組換えベクターの損失を最小限に抑えることができる。
【0084】
このような注入法によって、罹患した組織(例えば、心筋層)において所望の数の細胞(例えば、心筋細胞)に局所的にトランスフェクトすることができ、その結果、遺伝子導入による治療効果が最大になり、ウイルスタンパク質に対して炎症反応が起こる可能性は最小になる。例えば、心筋細胞に限定して発現させるために、心筋細胞特異的なプロモーターを用いてもよい。従って、この方法で導入遺伝子を送達した結果、例えば、左室の細胞で標的遺伝子の発現が起こり得る。当技術分野で周知の他の技術もまた、梗塞した心筋層の標的細胞にベクターを導入するために使用してもよい。
【0085】
標的細胞が、梗塞した心筋層に後に移植される培養細胞である場合、ベクターは、培地の中へ直接注入することにより送達することができる。細胞にトランスフェクトした核酸(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2核酸)は、組織特異的なプロモーター(例えば、心筋層特異的なプロモーター)やエンハンサーを含む任意の好適な調節配列に作動可能に結合していてもよい。
【0086】
その結果、トランスフェクトした標的細胞を、ツベルクリン注射器を使用して、周知の移植技術(例えば、冠状動脈に直接注入するなど)によって、梗塞した心筋層に移植してもよい。最初にin vitroで標的細胞にトランスフェクトし、次いで、このトランスフェクトした標的細胞を梗塞した心筋層に移植することによって、梗塞した心筋層において炎症反応が起きる可能性は、梗塞した心筋層にベクターを直接投与する場合と比較して最小になる。
【0087】
本発明のCCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうちの1つに対するケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)は、一過性の発現および安定した長期的な発現を含め、任意の好適な期間にわたって標的細胞内で発現させてもよい。好ましい実施形態では、ケモカインリガンドが、好適な規定の期間にわたって、治療量発現することである。
【0088】
ここで治療量とは、治療された動物またはヒトにおいて医学的に望ましい結果を生むことができる量のことをいう。医学の分野では周知のように、任意の1匹の動物または1人のヒトに対する投与量は、被験体の身長体重、体表面積、年齢、投与する特定の組成、性別、投与期間および投与経路、全身的な健康状態、ならびに併用薬等の、多くの因子によって決まる。タンパク質、核酸、または小さい分子の特定の投与量は、以下に記載する実験方法により、当業者が容易に決定することができる。
【0089】
治療対象の組織(例えば、梗塞した心筋層)にMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/もしくはMIP−2をコードするベクターをトランスフェクトする場合、または、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、IP−1α、MIP−1β、および/もしくはMIP−2Mをコードするベクターをトランスフェクトする細胞を、治療対象の組織(例えば、梗塞した心筋層)に移植する場合と同じように、ケモカインの発現は一過性であっても長期間であってもよい。
【0090】
長期間にわたってケモカインリガンドを発現させることは、以下の理由で有益である。すなわち、長期間にわたってケモカインリガンドを発現させると、トランスフェクトした標的細胞を移植する手術または移植する手段から、一定の時間が経過した後でも、幹細胞の濃度を高めることができるからである。また、CCR1、CCR2、CCR3、および/またはCCR5に対するケモカインリガンドが長期的または慢性的にアップレギュレートされれば、末梢血中の幹細胞濃度を増加させるために、いろいろな方法を試みることができるだろう。さらに、ケモカインリガンドの発現が慢性的にアップレギュレートされれば、幹細胞の動員剤を用いる必要なく、末梢血から治療対象の組織(例えば、梗塞した心筋組織)中への幹細胞の長期的なホーミングが起こる。
【0091】
CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるかまたは発現するように誘導する幹細胞(例えば、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞)の、末梢血から治療対象の組織までの遊走を誘導することができる。幹細胞は、例えば、ツベルクリン注射器を用いて、組織または治療している組織の近隣の組織に幹細胞を直接注入することにより、治療している組織の末梢血中に供給することができる。幹細胞はまた、治療対象の哺乳動物被験体に幹細胞を静脈注入または動脈注入することにより末梢血中に供給することができる。そして、この注入した幹細胞を誘導して、組織中に提供されたMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2を、治療している組織まで遊走させることができる。
【0092】
CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるか、または発現するように誘導する幹細胞は、治療している組織にケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)を供給した後に、哺乳動物被験体に注入(inject)してもよいし、注入(infuse)してもよい。一方、これらの幹細胞は、治療している組織にケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)を供給する前に投与してもよい。
【0093】
本発明の1つの態様では、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるかまたは発現するように誘導する幹細胞は、複数回注入によって、哺乳動物被験体に注入(inject)してもよいし、注入(infuse)してもよい。一例を挙げると、静脈への注入後、血液中のMSCの半減期は、通常短くなる(例えば、約1時間未満)。そのため、治療対象の組織にケモカインリガンド(例えば、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2)を備えた哺乳動物にMSCを連続して注入することにより、MSC移植の成功につながる。
【0094】
別の方法として、幹細胞は、MSCおよび/またはMAPCなどの幹細胞の動員を誘導する薬剤を、被験体の末梢血に投与することにより、治療対象の組織に供給することができる。多数の薬剤を用いて、被験体の末梢血に幹細胞を動員し、被験体の末梢血中の幹細胞濃度を高めてもよい。例えば、哺乳動物の被験体の末梢血中の幹細胞数を増加させるため、多能性幹細胞を骨髄から動員させる薬剤を被験体に投与してもよい。このような薬剤の多くは公知であり、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−GSF)、インターロイキン(IL)−7、IL−3、IL−12、幹細胞因子(SCF)およびflt−3リガンドなどのサイトカイン、IL−8、Mip−1αおよびGroβなどのケモカイン、およびシクロフォスファマイド(Cy)およびパクリタキセルといった化学療法剤などが含まれる。これらの薬剤は、幹細胞の動員を達成するための期間、動員される幹細胞のタイプ、および効率で異なる。
【0095】
被験体中へ動員剤を直接注入することによって、動員剤を投与することができる。動員剤は、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2を治療対象の組織に供給した後に投与することが好ましい。一方、動員剤は、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2を治療対象の組織に供給する前に投与してもよい。
【0096】
CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、組織系および/または臓器系の拡張、再増殖、保存、および/または再生のためMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などの遊走を誘導することが望ましい場合に、どんな組織系や器官系においても、そして/あるいは潜在的などんな細胞療法や治療への応用においても用いることができる。本発明の1つの態様において、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドは、心臓の虚血領域の心筋(または、末梢血管組織の場合においては、骨格筋)を再生する方法において使用することができる。本発明の方法は、心筋梗塞から一定の時間(すなわち、数週間)が経過した後に虚血性心筋症を治療するために使用することができる。
【0097】
本発明の方法は、哺乳動物被験体内の梗塞した心筋へ、MSCおよび/またはMAPCなどのCCR1、CCR2、CCR3またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるかまたは発現するように誘導された幹細胞を、動員する工程と、その遊走を方向付ける工程とを包含する。梗塞した心筋には、梗塞した心筋組織、梗塞した心筋組織周囲の心筋組織、および梗塞した心筋組織と梗塞した心筋組織の周囲の心筋組織の両方が含まれる。
【0098】
心筋梗塞から一定の時間が経過した後に、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などのCCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるかまたは発現するように誘導される幹細胞は、例えば、梗塞した心筋組織におけるMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の濃度を第1の濃度から第2の濃度へ高めることにより、梗塞した心筋に行き来するように(traffic)誘導することができる。MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の第1の濃度は、心筋梗塞から一定の時間(すなわち、数週間)が経過した後に梗塞した心筋において通常認められるMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の濃度であってもよい。MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の第2の濃度は、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の第1の濃度より実質的に大きくてもよい。MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の濃度は、心筋梗塞から一定の時間が経過した後に、投与することによって、あるいは、梗塞した心筋において通常認められるMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2の量から、梗塞した心筋内のMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の発現をアップレギュレートすることによって、梗塞した心筋において増加させてもよい。
【0099】
幹細胞を梗塞した心筋に誘導することによって、梗塞した心筋組織は再生することができる。それは、梗塞した心筋において、細胞に分化することができる幹細胞の数が増え、これらの細胞が再増殖し(すなわち、生着し)、梗塞した心筋の正常機能が部分的にまたは全面的に回復するためである。
【0100】
本発明の方法は、さらに、末梢血におけるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などのCCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるか、または発現するように誘導される幹細胞の濃度(すなわち、数)を、第1の濃度から、この第1の濃度より実質的に大きい第2の濃度まで高める工程を包含する。幹細胞の第1の濃度は、心筋梗塞から一定の時間が経過した後に、末梢血で通常認められる幹細胞の濃度であってもよい。梗塞した心筋におけるMCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の濃度を高めながら、末梢血における幹細胞の濃度を高めてもよい。末梢血における幹細胞の濃度は、梗塞した心筋において、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の発現をアップレギュレートさせる前またはアップレギュレートさせた後のいずれかにおいて高めてもよい。
【0101】
心筋の構造を再生するのに用いられるCCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるかまたは発現するように誘導するMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、心筋の構造を再生するのに用いられるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、梗塞した心筋組織または梗塞に隣接する心筋組織に、例えば、ツベルクリン注射器を使用して、直接注入することにより梗塞した心筋に送達することができる。別の方法として、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などの幹細胞を、治療対象の哺乳動物被験体中へ静脈注入や動脈注入をすることにより、梗塞した心筋組織に送達させてもよい。心筋の構造を再生するために用いられるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の注入は、心筋梗塞後すぐに(例えば、約1日)、または一定の時間が経過した後(例えば、数週間)に施行してもよい。さらに、心筋の構造を再生するために用いられるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、治療期間の間、複数回注入してもよい。
【0102】
梗塞した心筋へ誘導されるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などの幹細胞は、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、および/またはMIP−2タンパク質の濃度を高め、その結果、心筋の再生が促進され、左室機能を実質的に向上させる。
【0103】
MSCおよび/またはMAPCなどの、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるかまたは発現するように誘導する幹細胞を、治療している組織に誘導するための、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドの使用は、当初、急性心筋梗塞やうっ血性心不全の治療のためと説明されていたが、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するこのケモカインリガンドは、治療のために、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などの幹細胞を誘導することが望ましいとされる、他の治療への応用として用いられてもよい、ということが分かる。例えば、本発明に係るCCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つおよび幹細胞に対するケモカインリガンドは、骨髄移植と併せて肝細胞を再生させることで障害された肝臓組織を置換し肝機能を回復するためや、化学療法および/または放射線療法による骨髄消耗後の骨髄の再生のためや、骨および/または軟骨の再構成のためや、または筋障害(例えば、筋ジストロフィー)を治療するためなどの目的に用いることができるだけでなく、組織を再生したり、CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つを発現させるか、または発現するよう誘導されるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を通常使用したりするように、その他の治療への応用に用いることができる。
【実施例】
【0104】
以下、具体的な実施例により本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は説明を目的としたものであり、決して本発明の範囲や内容を制限するものではない。
【0105】
==序論==
MSCは多くの器官特異的な細胞タイプに分化し、損傷した組織の局所微小環境を調節し、かつ、免疫系をも調節することができる。幹細胞が損傷した組織にどのように遊走するか/ホーミングするかについてほとんど知られていない。最近、MSCの1つの亜母集団はSDF−1ケモカイン受容体CXCR4を発現する、ということが明らかにされ、それにより、この亜母集団がSDF−1の発現に反応してホーミングする可能性を示唆した研究がある。興味深いことに、MSC自体がSDF−1を発現するのだが、MSCが自ら分泌するケモカインに反応して遊走する細胞については、その文献において先例を示していない。
【0106】
本発明者らは、心筋梗塞後の心臓において、造血幹細胞のホーミングが一過性に生じることを明らかにした。造血幹細胞のホーミングが一過性であることは、SDF−1の一過性な発現に起因している。MI後の心臓において、MSCのホーミングは明らかにされていたので、本発明者らは、MSCをホーミングさせる心筋が分泌するケモカインも同様であるという仮説を立てた。MSCホーミング候補因子を同定するため、本発明者らは遺伝子アレイベースの手法を使用した。
【0107】
==材料と方法==
LAD結紮:動物研究委員会がすべての動物プロトコールを承認し、すべての動物はクリーブランドクリニック財団の国際実験動物管理公認協会実験動物施設で飼育した。ルイスラットの左冠動脈前下行枝の結紮を行なった。簡潔に述べると、動物に対して、腹腔内にケタミンとキシラジンを入れて麻酔をして挿管し、圧力サイクル式げっ歯動物用ベンチレーター(ケント・サイエンティフィック社RSP1002、トリントン、コネチカット州)を用いて、室内空気にて80回/分で人工呼吸した。外科用手術顕微鏡(M500、Leica(登録商標)、マイクロシステムズ社、バノックバーン、イリノイ州)を補助的に用いて、左冠動脈前下行枝(LAD)を直接結紮し、前壁心筋梗塞を誘導した。
【0108】
細胞の調製および細胞の送達:ラットの骨髄は、0.6mlのDMEM(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)で大腿骨を洗い流すことにより単離した。20Gの針を用いて、骨髄の塊を丁寧に細分化した。Percoll密度勾配によって細胞を分離した。細胞を260gで10分間遠心分離し、100U/mlペニシリンおよび100g/mlストレプトマイシン(インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)を含有するPBSで、3回交換しながら洗浄した。次いで、洗浄した細胞を、10%FBSならびに1%抗生物質および抗真菌剤(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)を含有する低グルコースDMEM(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)に再懸濁しプレーティングした。これらの細胞を37℃でインキュベートした。3日後に培地を交換することにより、接着していない細胞を除去した。14日後に、(第4継代)0.05%トリプシンおよび2mM EDTA(インビトロゲン(登録商標)、カールスバード、カリフォルニア州)と細胞を5分間インキュベートして、細胞を回収した。MSC培養物から、細胞10個あたりPE結合マウス抗ラットCD45一次抗体(販売元:BDバイオサイエンス;カタログ番号:554878)を10μlずつ用いて、ネガティブセレクションにより、CD45細胞を除去した。メーカー(ステムセル・テクノロジーズ社)の使用説明書に従い、EasySep PEセレクションキットを用いて、PE陽性細胞をネガティブセレクションした。得られたMSC(第6〜12継代)を本発明者らの研究に使用した。注入3日前に、細胞を、1:3の割合で新たにプレーティングし、S期の細胞周期にあるこれらの細胞を標識するために、10μM BrdU(5−ブロモ−2−デオキシウリジン)を含有する完全培地中でインキュベートした。100μlのPBSあたり10個のBrdUで標識されたMSCを回収した。
【0109】
ラット心線維芽細胞に、ラットMCP−3発現ベクターまたはpcDNA3.1(コントロールベクター)を安定に導入した。MCP−3の発現をリアルタイムPCRによって確認した。コンフルエントに達した細胞を継代し、第11代まで2倍〜3倍希釈でプレーティングした。
【0110】
リアルタイムPCR:600万個の細胞からRNAを単離した後、Rneasy Mini Kit(キアゲン社、バレンシア、カリフォルニア州)を使用し、メーカーの使用説明書に従ってRT−PCRを行った。ABI Prism 7700 sequence detector (アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)を使用し、定量的リアルタイムPCRを行った。反応液にはSYBR Green PCR master mix(アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)、300nMの各プライマー、および10μlのcDNAが含まれていた。95℃で10分間AmpliTaq Gold(アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)を活性化した後、95℃で15秒間、60℃で1分間を1サイクルとして、45サイクルを行った。各増幅の解離曲線を解析し、非特異的なPCR産物がなかったことを確認した。CXCR4プライマー配列:フォーワード:ATCATCTCCAAGCTGTCACACTCC;リバース:GTGATGGAGATCCACTTGTGCAC
免疫染色:動物を、心筋梗塞72時間後または4週間後に屠殺した。確立しているプロトコールに従い、組織をホルマリンで固定し、パラフィンブロックで包埋した。10mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)を用いて、95℃で5分間加熱して、抗原回復を行った。バッファーは新鮮なバッファーと交換してさらに5分間再加熱し、次いで、約20分間冷却した。次いで、スライドを2分間脱イオン水で3回洗浄した。次いで、非特異的なIgGの結合を抑制するため、標本を1% normal blocking serumを含むPBSで60分間インキュベートした。次いで、スライドを、マウス抗BrdU一次抗体(BDバイオサイエンシーズ社、サンホセ、カリフォルニア州)とともに60分間インキュベートした。最適な抗体濃度は滴定によって決定した。次いで、スライドをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後、normal blocking serumを含むPBSで1.5μg/mlに希釈し暗室でインキュベートした、FITC結合二次抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社、サンタクルーズ、カリフォルニア州)とともに、45分間インキュベートした。PBSでよく洗浄した後に、水溶性封入剤(Vectashield Mounting Medium with DAPI,H−1200;ベクター研究所、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を用いてカバーガラスで封入した。
【0111】
共焦点免疫蛍光顕微鏡法:アルゴンレーザー青(DAPI用)、アルゴンレーザー緑(Alexa Fluor 488用)、およびクリプトンレーザー赤(Alexa Fluor 594)を備えた正立型共焦点レーザー走査顕微鏡(モデルTCS−SP;ライカマイクロシステムズ、ハイデルベルク、ドイツ)を用いて、組織を解析した。データは、「ブリードスルー」を最小限に留めるため、連続励起により収集した。画像処理、解析、および共局在化の程度を、Leica Confocal Softwareを使用して評価した。光学切片は、4フレーム間の平均値を取り、画像サイズは1024×1024ピクセルに設定した。画像のデジタル調節はしなかった。
【0112】
ウエスタンブロッティングのプロトコール:細胞抽出液を、4×reducing Laemmli Buffer(200mM Tris HCl (pH 6.8)、8%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、40%グリセロール)で調製した。確立されたプロトコールに従い、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)を調製した。タンパク質を10%SDSポリアクリルアミドゲル中で分離した。ブロッティング膜を5%スキムミルク含有1×TBST(トリス塩基−2.42g、NaCl−8g、1M HCl−3.8mL(pHを7.5に調整)、水−1L、Tween 20−2mL)に1時間浸し、次いで、リン酸化Akt(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社、サンタクルーズ、カリフォルニア州)に対する一次抗体(1×TBSTで1:5000に希釈)でプローブし、その後、ペルオキシダーゼ結合抗マウス二次抗体(5%スキムミルク含有1×TBSTで1:5000に希釈)とともにインキュベートした。可視化には、Chemiluminescence(アマシャム・バイオサイエンス社UK、バッキンガムシャー、英国)を用いた。
【0113】
心エコー検査:Sequoia C256およびGE Vision 7と接続した15MHzのリニアアレイトランスデューサを用いて、LAD結紮およびMSC移植後の2週目および5週目に断層心エコー法(2D−echocardiography)を行った。左室径および左室壁厚を定量化するため、本発明者らは、乳頭筋直下左室中心部からの2Dクリップ画像およびMモード画像を短軸断面でデジタル記録し、異なるラットの同じ解剖学的位置からの計測値が一致するようにした。超音波検査技師は、どちらが治療群かについて盲検化されていた。計測は2名の無関係な盲検化された観察者がProSolve心エコー検査用ソフトウェアを用いてオフラインにて行った。治療群について盲検化された観察者が、記録された5枚のMモードクリップ画像のうち無作為に3枚を選び、動物各個体において、測定をそれぞれ6回ずつ行った。左室内径短縮率をMモード記録から算出した。左室内径短縮率(%)=(LVEDD−LVESD)/LVEDD×100(ここで、LVEDDは左室拡張末期径を、LVESDは左室収縮末期径を表す)。
【0114】
==結果==
=損傷した心筋におけるMSCの一過性のホーミング=
200万個のBrdUで標識されたMSCを、LAD結紮1日後または14日後にラットの尾静脈へ注入した。MSC注入3日後、ラットを屠殺し心臓を採取した。MSCはmmあたりのBrdU陽性細胞の数として定量化した。本発明者らのMSC調製物は、急性心筋梗塞後の心筋に一過性にホーミングする、ということを図1のデータに示す。LAD結紮1日後、単位面積当たり有意な数のMSCが確認されたが、LAD結紮14日後には、MSCの注入に起因する梗塞域内の有意なMSCの生着はみられなかった。
【0115】
=MSCホーミング候補因子の同定=
図2は、MSCホーミング候補因子を同定するため、本発明者らが行った戦略およびその結果について描写したものである。本発明者らは、ケモカインとケモカイン受容体のアレイを用いて、2つの異なる集団を同定した。第1の集団は、LAD結紮1時間後という早い時期に発現したケモカインの集団であるが、その発現はLAD結紮10日後までには消滅した(左の円)。第2の集団は、MSC上で発現していたが心線維芽細胞表面では発現していなかったケモカイン受容体からなるものであった(右の円)。MSCホーミング候補因子は、左側の円に含まれるケモカイン(LAD結紮後に心筋組織により一過性に発現)のうち、左側の円に含まれる受容体に結合した(心線維芽細胞ではなくMSCにより発現)ケモカインであった。図2に示されるように、受容体CCR−1およびCCR−2を介する単球走化性タンパク質(1と3)ならびに受容体CCR−5を介するMIP−1αおよびMIP−1βという、2つのケモカインファミリーのみが同定された。
【0116】
このアレイ研究からの結果を検証しさらに精密なものとするため、本発明者らは、CCR1、CCR2、およびCCR5の存在をさらに評価するためのPCRを行なった。図3は、MSC、CF、およびラットの脾臓(ポジティブコントロール)由来のPCR産物を示す。これらの結果は、CCR1およびCCR5の発現が、幼若MSC中のCFより有意に強く、MSCによるCCR5の発現が時間の経過とともに消滅することを示している。
【0117】
=MCP−3の発現が、MSCのホーミングに与える影響=
(i)CCR2の発現はMSC中で維持される、また、(ii)時間が経過してもMSCのホーミング能は失われない、という考察に基づき、本発明者らは、MCP−3に着目することにした。MSCホーミング因子を同定するためにあらかじめ定義される、さらにもう1つの基準は、MSCが目的とするケモカインを発現しないということである。本発明者らは、MSCとCFにおけるMCP−3発現についてリアルタイムPCR解析を行なった。これらのデータは、MSCが有意なレベルのMCP−3を発現しないことを示す。
【0118】
MCP−3がMSCのホーミングを誘導することができるかどうかを調べるために、LAD結紮1ヵ月後に梗塞境界域へコントロールまたはMCP−3を発現しているCFを移植した。3日後に、200万個のBrdUで標識されたMSCを尾静脈から注入し、それから3日後に、MSCの生着を定量化した。図4のデータは、心筋組織においてMCP−3の発現が再確立すると、心筋組織は、循環するMSCをホーミングさせて生着させる能力を回復する、ということを示している。これらのデータはMSCのホーミングにおけるMCP−3の役割と一貫性があるものの、MSCの生着のレベルは、同じモデル中の慢性的なSDF−1の発現に反応するHSCの生着に比べて低いものであった。
【0119】
本発明者らは、MCP−3に反応するMSCの比較的低い生着の原因の1つが、HSCと異なり、MSCは、骨髄により恒常的に放出されているものではないため、静脈注射後の血流中のMSCの半減期が短い(<1時間)という事実にあるのではないかと考えた。従って、本発明者らは、MCP−3を発現しているCFを移植した動物にMSCを連続して注入すると、MSCの生着率が高くなるのではないかと仮定した。図4のデータは、12日間にわたり、1回あたり100万個のMSCを6回静脈注射後、コントロールのCFと比較して、MCP−3を発現しているCFを投与した動物の心筋に、有意に大きいMSCの生着があったことを示す。
【0120】
=MSCのホーミングを再確立することによる心機能への影響=
本発明者らはLAD結紮1ヶ月後に、コントロールおよびMCP−3を発現しているCFを移植した。その後、CF移植の3日後より、すべての動物に対して、一日おきに12日間、1回あたり100万個のMSCを6回注入した。CF移植1カ月後(MI2カ月後)に、心機能および心臓の寸法を心エコー検査によって定量した。図5bのデータは、左室内径短縮率により測定される心機能がMCP−3を発現しているCFを投与した動物において有意に増強したことを示す。CFを移植しても、心機能の改善は認められなかった。MCP−3を発現しているCFを投与した動物はまた、コントロールのCFを投与した動物と比較して、左室拡張末期径が有意に短かった(図5a)。
【0121】
本発明の以上の説明から、当業者であれば、改良、変更、および修正について理解するだろう。当該技術内におけるそのような改良、変更、および修正は、添付の請求の範囲によって包含されるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CCR1、CCR2、CCR3、またはCCR5のうち少なくとも1つに対するケモカインリガンドを、治療している組織に供給する工程と、
治療している前記組織の末梢血における幹細胞の濃度を第1の濃度から第2の濃度に高める工程と、
を包含することを特徴とする方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−100670(P2012−100670A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−276355(P2011−276355)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【分割の表示】特願2007−518201(P2007−518201)の分割
【原出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(595033056)ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション (14)
【氏名又は名称原語表記】The Cleveland ClinicFoundation
【住所又は居所原語表記】9500 Euclid Avenue,Cleveland,Ohio,United States of America
【Fターム(参考)】