幹細胞を分化させるための重量オスモル濃度の操作法
本開示は、重量オスモル濃度340mOsm/kg未満の培養培地中で幹細胞を培養する工程を含む、幹細胞から胚葉を作製する方法を提供する。本開示はまた、該胚葉から様々な細胞系列を作製する方法、ならびにこれらを免疫学的方法によって検出する方法も含む。さらに本開示は、言及される前駆細胞を作製、単離、培養、および増殖するための方法、ならびに3種類の胚葉から分化した細胞を作製する方法を提供する。本開示はまた、該3種類の胚葉の誘導において使用するための培養培地も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2010年6月15日に出願された同時係属中の米国特許仮出願第61/354,947号および2009年10月13日に出願された同第61/251,130号の優先権の恩典を主張する。これらの内容は全て、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【0002】
開示の分野
本開示は、幹細胞を胚葉に、さらには細胞系列に分化させる方法に関する。本開示はまた前記分化のための培地に関する。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
ヒト胚性幹(ES)細胞は、発生中の胚盤胞から単離された多能性細胞である。人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、遺伝学的手法および非遺伝学的手法によって再プログラミングされた体細胞から最初に単離された多能性細胞である(総説については、Amabile and Meissner, 2009を参照されたい)。ES細胞ならびにiPS細胞は、分化事象を研究するための優れたインビトロ系として、ならびに基礎研究用、薬物スクリーニング用、および再生治療用の特殊化した様々な細胞タイプを多量に作製するための無限の供給源として役立つ。
【0004】
ヒト胚性幹細胞および人工多能性幹細胞を含むヒト多能性幹細胞から、ある特定の胚葉細胞タイプおよびその後の最終的な組織タイプを誘導するプロトコールは非常に多く、多種多様にあり、現在、標準化されていない。これらのプロトコールには、一般的に、以下の3つの主なプロトコールのカテゴリーを用いた分化が関与する(総説については、Murry and Keller, 2008を参照されたい)。
1.多能性幹細胞と、他の細胞タイプ、例えば、フィーダー細胞との共培養(例えば、D'Amour et al., 2005, Perrier et al., 2005)または体細胞タイプとの共培養(例えば、マウス内胚葉様細胞株との共培養を介した心筋細胞の誘導)に基づく(Mummery et al., 2007));ある特定の肺葉運命を誘導する、フィーダー細胞によって条件付けされた(Schulz et al., 2003)または因子を添加した(D'Amour et al., 2005)培地中での、共培養に基づくプロトコール。
2.血清を含む、または血清を含まない、およびモルフォゲンの添加を含む、単層としての付着培養に基づくプロトコール(Nat et al., 2007; Chambers et al., 2009)。
3.胚様体(EB)と呼ばれる三次元凝集物の形成に基づくプロトコール。EBの中の細胞は多分化能があり、3種類の胚葉(内胚葉、中胚葉、または外胚葉)のどの細胞にも発生する傾向がある(Odorico et al., 2001)。通常、モルフォゲンも、誘導のきっかけとして働くようにEB形成時に直接添加されるか、または望ましい細胞系列の生存を選択的に支持するようにさらに後の時点で(例えば、EBを播種した後に)添加される(胚性幹細胞プロトコールを参照されたい)。
【0005】
これらのプロトコールの主な欠点は以下のようにまとめることができる。これらのプロトコールは各研究室に独特のものであり、作業者および研究室にかなり左右されるので、時間および労力に莫大な投資をすることなく他の研究室に移転および再現することは非常に難しい。前記の3種類のプロトコールカテゴリーにおいて用いられる培地製剤は、研究室とプロトコールとの間で首尾一貫しない様々な培地成分、添加物、サプリメント混合物からなる。培養培地中の個々の成分およびその使用濃度の詳細なリストは入手できないことが多く、特に、民間供給業者の予め混合されたサプリメントが用いられる時には入手できないことが多い。
【0006】
多能性幹細胞に由来する培養物は最も明確な条件下でさえも、様々な系列および様々な発生段階の細胞タイプからなり、本質的に不均一である。不均一性は、固有の細胞間シグナル伝達、および前記のプロトコールの一部において細胞を操作する際に用いられる時点のばらつきによって説明がつくことがある。誘導されている望ましい細胞タイプのパーセントを高めるために適用されている解決策の1つは、培地への添加物としてサイトカインまたは増殖因子のようなモルフォゲンを使用することである。これらは非常に費用がかかり、供給源に応じて一定しないことがある。
【0007】
不均一性を制御する別の一般的なアプローチは、望ましい細胞タイプを得るために選択戦略、例えば、機械的選択、またはある特定の培地サプリメントおよび因子を用いた選択的生存の促進を使用することである。機械的選択は非常に時間がかかることがあり、また、望ましい細胞タイプの完全に純粋な集団を生じることはほとんどない。細胞タイプを誘導するために、ある特定のサプリメント(例えば、神経誘導用のN2サプリメント)を使用する主な欠点は、実際の前駆細胞が単離された時に、プロトコールの後の段階で細胞生存を妨害することである(Dhara et al., 2008)。
【0008】
特に、前記のようにプロトコールが多段階からなり、選択戦略を含む時、多くのプロトコールの別の欠点は、純粋な分化細胞集団を得るのにかかる時間である。手順全体が最大数週間かかることがある。
【0009】
ヒト多能性幹細胞に由来する分化細胞タイプは、細胞移植などの治療アプローチの対象である。現行の研究目標は、ヒト多能性幹細胞培養物および分化系列からの動物由来タンパク質の除去に焦点を合わせている(Mallon et al., 2006)。多くの現行のプロトコールにおいて、胚葉誘導に用いられる、いわゆるフィーダー細胞は、一般的に、マウス組織に由来する。さらに、EBの分化、特に中胚葉へのEBの分化では、特徴決定されていない動物由来産物である胎仔ウシ血清が、培養培地に用いられる。
【0010】
単層培養における細胞播種密度は多くのプロトコールにおいて詳細に明らかにされていないことが多く、かつこれは、前記のように細胞固有のシグナル伝達のために誘導される望ましい細胞タイプのパーセントに影響を及ぼすことがある。EBのサイズおよび形状のばらつきに対処するEB形成に基づく分化プロトコールを用いると、初期誘導事象も潜在的に影響を受けることがある。
【0011】
培養培地の重量オスモル濃度が細胞の増殖、生存、および分化に影響を及ぼすという、いくつかの証拠が文献にある。例えば、mTeSR(商標)培地の重量オスモル濃度は、ヒトES細胞の未分化状態を良好に維持するために、ほとんどの細胞培養培地において用いられる290〜330mOsm/kgの標準的な重量オスモル濃度と比較して高い340mOsm/kgの重量オスモル濃度に調節された(Ludwig et al., 2006)。他方で、分化細胞タイプ、例えば、CNSから単離された初代ニューロンは、標準的な重量オスモル濃度と比較して低い重量オスモル濃度(230〜280mOsm/kg)の培地で良好に生存する(Brewer et al., 1993; Brewer and Price 1996; Kivell et al., 2000)。入手可能な情報から、ある特定の重量オスモル濃度は、細胞を未分化状態で維持して、生存を促進するのに有効であるか、または既に分化した細胞もしくは成熟細胞を分化状態で維持するのに有効であるかのいずれかであると示唆されている。
【0012】
多能性幹細胞を分化させるためのプロトコールが標準化されていないことも文献において広く議論されている(総説については、Sanchez-Pernaute and Sonntag, 2006を参照されたい)。
【0013】
ヒトES細胞は、
1.マウスまたはヒトに由来する特定の胚性線維芽細胞に固有の活性によって方向付けられて、インビトロで神経組織を生じることができる。この活性は、間質由来誘導活性(stromal derived inducing activity)すなわちSDIAと呼ばれる(Perrier et al., 2004, Sonntag et al., 2007)。
2.単層として、凝集塊(clump)または単一細胞として付着条件下で自発的に、ならびにN2およびB27などのサプリメントが添加されて(Nat et al., 2007)、またはモルフォゲン添加によって方向付けられて(Osafune et al., 2007)、インビトロで神経組織を生じることができる。
3.胚様体(EB)として知られる分化中の細胞の凝集塊として自発的にインビトロで神経組織を生じることができる。これは、初期胚において起こっている事象を模倣するEB内部に誘導因子が存在するために起こると考えられている。これらのEBは、外胚葉系列のニューロン細胞を含む、3種類全ての胚葉の細胞を含有する(Odorico et al., 2001, Zhang et al., 2001, Yan et al., 2005)。
【0014】
現在に至るまで、神経外胚葉を誘導する前述の3つの方法全てが非効率であり、不均一な細胞集団を生じ、これらの多くが非神経性であった。
【0015】
しかしながら、ヒト胚性幹細胞(hESC)が、レチノイン酸(Schuldiner et al., 2001)、Fgf2(Zhang et al., 2001)、条件培地(Schulz et al., 2003; Shin et al., 2006)、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤(Itsykson et al., 2005, Gerrard et al., 2005, Sonntag et al., 2007)、またはSMADシグナル伝達阻害剤、SB431542(Chambers et al., 2009; Kim et al., 2010)のようなモルフォゲンに曝露されると、さらに高い神経/ニューロン分化効率が実現した。
【0016】
これらのプロトコールを用いると神経細胞の発生が増加するが、これらのプロトコールの大半では、分化中のES細胞培養物から比較的純粋なニューロン細胞集団を得るために、この混合物から神経細胞を後で選択しなければならなかった。インビトロでは、現れつつある初期神経前駆細胞は他の細胞タイプと形態学的に異なり、「神経ロゼット」と呼ばれる放射状に組織化された円柱上皮細胞の形成を特徴とする(Zhang et al. 2001, 2005; Elkabetz et al., 2008)。これらの構造は、Pax6およびSox1などの初期神経外胚葉マーカーを発現する細胞を含み、発生の適切な合図に応答して様々な領域特異的なニューロン細胞タイプおよびグリア細胞タイプに分化することができる(Yan et al., 2005, Perrier et al. 2004; Li et al. 2005)。培養中、徐々に、Pax6陽性細胞はPax6発現をダウンレギュレートし、Sox1発現を維持する。しかしながら、Pax6陽性細胞はネスチンも発現し始める。インビボでの神経発生において、神経板段階の神経前駆細胞と神経管閉鎖後に現われる神経前駆細胞を比較した時に、同様のタンパク質発現プロファイルが観察されている(Jessell 2000)。現在、ネスチンおよびSox1タンパク質の同時発現ならびに「神経ロゼット」の形成は、神経前駆細胞を検出するための信頼性の高い基準とみなされている(Elkabetz et al., 2008; Elkabetz and Studer 2009; Koch et al., 2009; Peh et al. 2009)。
【0017】
さらなる選択手順なく、ヒト多能性細胞を純粋なまたは高濃度の神経前駆細胞集団に制御して分化させ、その後に、これらの細胞を、中枢神経系(CNS)の3種類の細胞タイプ:ニューロン、星状細胞、およびオリゴデンドロサイトに分化させることは、この分野において極めて望ましいであろう。なぜなら、これらの全ての細胞集団が、CNSの発生および疾患の基礎研究および応用研究に真の利益を提供するからである。
【0018】
要約すると、この分野には、短期間で3種類の胚葉を誘導し、その後に、これらに由来するさらに特殊化した細胞タイプを誘導するための標準化された培地製剤およびプロトコールが無い。この分野はまた、異なる研究室において再現が容易であり、作業者に依存する標準化されたプロトコールが無いという損害を受けている。
【発明の概要】
【0019】
本開示の概要
本発明者らは、選択的なかつ標準化された様式で望ましい分化した細胞タイプが得られる培地製剤を開発することによって、多能性幹細胞分化の分野における主な制限の一部を解決した。本発明者らは、培養培地の重量オスモル濃度を操作することによって、未分化多能性幹細胞からの3種類の胚葉:中胚葉、外胚葉、および内胚葉の初期誘導を偏らせることができることを示した。このような培地は、純粋な胚葉前駆細胞集団を作製する、モルフォゲンフリー、血清フリー、およびフィーダーフリーの系を可能にする。
【0020】
従って、本開示は、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養する工程および細胞を胚葉前駆細胞に分化させる工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する。
【0021】
1つの態様において、本開示は、以下の工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する:
(a)多能性幹細胞を解離してクラスターまたは単一細胞にする工程;
(b)(a)由来の解離細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で培養する工程;および
(c)(b)の細胞を解離し、該細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種し、該培養培地中で少なくとも1日培養して、胚葉前駆細胞を作製する工程。
【0022】
1つの態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞をマイクロウェル装置内で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、および該マイクロウェル装置内での培養を24時間超にわたり前記培養培地中で続け、次に、該凝集物を遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。1つの態様において、凝集物を、マイクロウェル装置内で最大14日間、任意で5〜6日間培養した後に遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。別の態様において、凝集物をマイクロウェル装置内で最大11日間培養する。
【0023】
別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を前記マイクロウェル装置内で前記培養培地中で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、該凝集物を該マイクロウェル装置から遊離させ、次に、該遊離した凝集物を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養する工程、該凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。1つの態様において、細胞を最大14日間、任意で5〜6日間、懸濁培養した後、凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0024】
さらに別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養し、次に該細胞を解離する工程、およびコーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。1つの態様において、細胞を最大14日間、任意で5〜6日間、懸濁培養した後に、解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0025】
さらなる態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも3日間培養する工程を含む。1つの態様において、細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上で最大14日間、任意で5〜6日間、培養培地中で培養する。別の態様において、付着細胞をフィーダー上で培養する。
【0026】
1つの態様において、培養培地はダルベッコ最小必須培地を含み、任意で、ビタミン類、微量元素類、セレン、インシュリン、脂質、b-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、抗生物質、bFGF、B27、N2、またはこれらの混合物をさらに含む。別の態様において、培養培地は、表2に示した成分を含む。
【0027】
1つの態様において、幹細胞は、哺乳動物多能性幹細胞、任意で、ヒト多能性幹細胞である。別の態様において、多能性幹細胞は人工多能性幹細胞または胚性幹細胞である。さらに別の態様において、胚葉は、外胚葉性、内胚葉性、および/または中胚葉性である。
【0028】
1つの態様において、凝集物またはクラスターは胚様体を含む。1つの態様において、胚様体は500〜20,000個の細胞を含む。
【0029】
1つの態様において、解離細胞を最初にマイクロウェル装置内で培養する、かつ/または懸濁培養する場合の、外胚葉性前駆細胞の誘導における使用に関して、培養培地は260〜280mOsm/kgである。別の態様において、解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種する場合の、外胚葉性前駆細胞の誘導における使用に関して、培養培地の重量オスモル濃度は270〜320mmOsm/kgである。
【0030】
以下の工程を含む、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の神経前駆細胞を維持する方法も、本明細書において提供される:本明細書に記載の方法に従って外胚葉性前駆細胞を作製する工程;培養物から外胚葉性前駆細胞を解離する工程;前記前駆細胞を該培養培地中に播種して少なくとも1日培養する工程。1つの態様において、重量オスモル濃度は約270mOsm/kgである。別の態様において、培養培地はbFGFを含む。さらに別の態様において、前駆細胞を播種して少なくとも4日間培養する。さらなる態様において、外胚葉性前駆細胞をさらに分化させて、ニューロン、オリゴデンドロサイト、または星状細胞を形成させる。
【0031】
別の態様において、解離細胞を最初にマイクロウェル装置内で培養する、かつ/または懸濁培養する場合の、内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞の誘導に関して、培養培地の重量オスモル濃度は280mOsm/kg超、任意で290〜340mOsm/kgである。別の態様において、解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種する場合の、内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞の誘導に関して、培養培地の重量オスモル濃度は320mOsm/kg超、任意で320〜340mOsm/kgである。
【0032】
以下の工程を含む、重量オスモル濃度290〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を維持する方法も、本明細書において提供される:本明細書に記載の方法に従って中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を作製する工程;付着培養物から中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を解離する工程;ならびに前記前駆細胞を播種および培養する工程。1つの態様において、中胚葉性前駆細胞および内胚葉性前駆細胞をさらに分化されて、間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、骨格筋細胞、膵細胞、または肝細胞を形成させる。
【0033】
胚葉分化の誘導、ならびに細胞分化を調節することができる剤のスクリーニングアッセイ、または本明細書に記載の方法によって作製された細胞の一次スクリーニングもしくは二次スクリーニングに有用な培養培地組成物も本明細書において提供される。
【0034】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は本開示の好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本開示の精神および範囲の中で様々な変更および修正が当業者に明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
以下、本開示を添付の図面に関連して説明する。
【図1】BD Matrigel(商標)上で培養した5日目のヒト胚性幹細胞(H9 p51)を示す。倍率:2x(左)、10x(右)。
【図2】マウス線維芽細胞(MEF)上で培養した培養4日目のヒト胚性幹細胞を示す。倍率:2x。
【図3】未分化多能性ヒトESC(左側)の形態および分化の徴候を示した培養物(右側)の形態を示す。上:倍率2x、下:10x。
【図4】AggreWellにおけるEB形成を示す。単一細胞懸濁液を、AggreWell(商標)400プレートのシングルウェルに入れて分配する。それぞれのマイクロウェルには2000個の細胞が保持される。倍率:2x(左)および10x(右)。
【図5】懸濁培養して1日後の、こそぎ落とされたEBを示す。倍率:2x(左)および10x(右)。
【図6】AggreWell(商標)400プレート中で24時間インキュベートした後のEBを示す。AggreWell(商標)400プレート中で強制的に凝集させることによって形成したEBをセルストレーナーに適用して、単一細胞を除去した。倍率2x、10x、および40x。
【図7】付着培養条件で5日目の、ヒト胚性幹細胞から誘導された神経ロゼットを示す。使用した培地は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg+1xB27/N2A(上横列)およびmTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg+1xB27/N2A(下横列)であった。矢印はロゼット構造を示す。左縦列:倍率2x、右縦列:倍率10x。
【図8】EBをベースとする条件で、3種類の異なる培地が入っているAggreWell(商標)400の中で誘導された神経ロゼットを示す。上横列:mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg;中央の横列:mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg;下横列:mTeSR(登録商標)1-F 280mOsm/kg。矢印はロゼット構造を示す。左縦列:倍率2x、右縦列:倍率10x。
【図9】mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg(33.3%);mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(40.6%)またはmTeSR(登録商標)1-F 280mOsm/kg(30%)の中でEBを誘導および培養した実験の平均ロゼット数を示す。
【図10】mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(上横列、左にある2枚の写真);mTeSR(登録商標)1-F 290mOsm/kg(上横列、右にある2枚の写真);mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg(下横列、左にある2枚の写真)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(下横列、右にある2枚の写真)の中で5日間、懸濁培養した後の付着EBの形態を示す。倍率:2x(各条件で左の写真)および10x(各条件で右の写真)。
【図11】3日後の付着EBを示す。ネスチン(左縦列)およびSox1(右縦列)の免疫細胞化学的染色。Sox1発現のある写真の領域を線引きした(白色の線)。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(上横列)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(下横列)の中で、EBを形成した。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で誘導された細胞におけるSox1発現細胞領域は、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で誘導された細胞と比較して明らかに大きい。倍率20x。
【図12】mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg(13%)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(7.9%)の中でEBを誘導および培養した個々の実験の平均ロゼット数を示す。
【図13】1xPBS(Caフリー、Mgフリー)pH7.4を用いた選択的な神経前駆細胞解離手順の間の細胞形態の写真を示す。上横列、左の写真:解離前のロゼットコロニー。上横列、中央:解離中(20分)。上横列、右の写真:解離中(40分)。下横列、左の写真:解離中(60分)。下横列、中央:解離後(破砕(90分)によって神経前駆細胞が剥がれた時)。下横列、右:破砕後、ディッシュに残っていた細胞。倍率:下横列の左および中央を除く全て:10x;下横列の左および中央:2x。
【図14】3日目(上横列)、6日目(中央の横列)、および12日目(下横列)の、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて選択的に解離された後に播種された神経前駆細胞を示す。左縦列:mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび右縦列:mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg。倍率:左:4x、右:10x。
【図15】PBSを用いて選択的に解離されて6日後の神経前駆細胞を示す。細胞を播種し、ネスチン抗体およびSox1抗体(右縦列)を用いて免疫細胞化学を行った。左縦列は、核対比染色としてDAPI染色された同じ細胞を示す。最初に、細胞を、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(上横列)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(下横列)の中で誘導および増殖させた。明らかに、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で得られた神経前駆細胞に存在する、両抗体で染色された細胞は少なかった。倍率20x。
【図16】選択されて2日後の、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で形成、増殖、および付着されたEBに由来する手作業で選択されたロゼットコロニーを示す。倍率10x。
【図17】神経前駆細胞が継代され、付着2日後(左)または付着5日後(右)に写真が撮影されたことを示す。倍率10x。
【図18】mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(左)の中で培養された神経前駆細胞に由来するニューロンは抗TUJ1抗体によって染色されたが、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(右)の中で培養された神経前駆細胞に由来するニューロンは染色されなかったことを示す。TUJ1抗体染色およびSox1抗体染色は別々の矢印で示した。Sox1はニューロンでは発現しない。倍率20x。
【図19】BD Matrigel(商標)上で培養した、継代39の5日目のヒト胚性幹細胞H1株(A)および継代33の5日目のヒト人工多能性幹細胞4D1株(B)を示す。倍率:2x(A、B)および10x(C)。
【図20】単一細胞懸濁液として継代後、培養5日目の約70%コンフルエントなヒト胚性幹細胞株コロニー(H9)(A、B)、および、2x104/cm2の密度で再播種して1日後のH9(C)を示す。倍率2x(A)、10x(BおよびC)。
【図21】AggreWell(商標)800プレートのマイクロウェル中で4D1多能性幹細胞から作製された、24時間後および回収前(AおよびB)のEBを示す。懸濁培養して2日後(C)ならびに4日後(DおよびE)のAggreWell(商標)800から回収されたEB。倍率:4x(A)、10x(B、E)、2x(CD)。
【図22】3日目の、ポリ-L-オルニチン/ラミニンプレートに付着させたEBにおいて観察された神経ロゼットの代表的な画像を示す(A〜D)。ここに示したEB 1個あたり約2000個の細胞の付着EBは、AggreWell(商標)800を用いて、ヒト人工幹細胞4D1株から前もって作製された。倍率:2x(A)、10x(B〜D)。
【図23】細胞4D1株(A〜D)およびH9(E〜H)から作製された、ポリ-L-オルニチン/ラミニンプレートに付着させたEBにおいて観察された神経ロゼット(いくつかの例については矢印)を示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EB(A〜D)およびEB 1個あたり5000個の細胞を含有する付着EB(E〜H)を、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B、E、F)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D、G、H)の中で培養した。対応する画像の中にスコアリング結果も%として示した。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図24】H9ヒト胚性幹細胞から前もって作製された異なるサイズのEBを播種して1日後の付着EBを示す。EBの異なるサイズは以下の通りである:EB 1個あたり500個の細胞(AおよびB)、EB 1個あたり1000個の細胞(CおよびD)、ならびにEB 1個あたり2000個の細胞(EおよびF)。倍率2x左(A、C、およびE)、10x右縦列(B、D、およびF)。
【図25】マイクロウェル装置から回収され、ポリ-L-オルニチン(orthinine)/ラミニンでコーティングされたプレート上に播種されたEBの2日目の形態を示す。対応する画像の中にスコアリング結果を%として示した。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で作製したEB(A、B、およびC)ならびにmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で作製したEB(D、EおよびF)。試験したEBサイズは、EB 1個あたり2000個の細胞のEB(CおよびF)ならびにEB 1個あたり500個の細胞のEB(A、B、D、およびE)であった。倍率:2x(A、C、D、F)および10x(B、E)。
【図26】EBを回収および播種する前の、5日目のAggreWell(商標)800のマイクロウェル内にある様々なサイズのEBを示す。以下のEBサイズを示した:EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEB(AおよびB)、EB 1個あたり5000個の細胞のサイズのEB(CおよびD)、EB 1個あたり10000個の細胞のサイズのEB(EおよびF)、EB 1個あたり15000個の細胞のサイズのEB(G)、ならびにEB 1個あたり20000個の細胞のサイズのEB(H)。倍率:4x(A、C、E、H)、10x(B、D、F、G)。
【図27】マイクロウェル装置から回収された様々なサイズのEB、およびポリ-L-オルニチン/ラミニンプレート上に播種して1日後のEBを示す。以下のEBサイズを示した:EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEB(A、B)、EB 1個あたり5000個の細胞のサイズのEB(C、D)、EB 1個あたり10000個の細胞のサイズのEB(E、F)、EB 1個あたり15000個の細胞のサイズのEB(G、H)、ならびにEB 1個あたり20000個の細胞のサイズのEB(I、J)。倍率:2x(A、C、E、G、I)および10x(B、D、F、H、J)。
【図28】mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A〜D)およびmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(E〜H)の中で作製され、ポリ-D-オルニチン/ラミニン上に播種された、2日目のEBの形態を示す。以下のEBサイズを示した:EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEB(A、B、E、F)ならびにEB 1個あたり5000個の細胞のサイズのEB(C、D、G、H)。倍率:2x(A、C、E、G)および10x(B、D、F、H)。
【図29】重量オスモル濃度の異なる培地中で作製され、次いで、同じ培地が入っているポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたプレート上に播種された、2日後のEBの付着を示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B)、mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg(C、D)、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(E、F)、mTeSR(登録商標)1-F 400mOsm/kg(G、H)、およびmTeSR(登録商標)1-F 450mOsm/kg(I、J)の中で前もって作製された、付着EB。倍率:左2x(A、C、E、G、I)、および10x(B、D、F、H、J)。
【図30】重量オスモル濃度の異なる培地(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg;mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg、およびmTeSR(登録商標)1-F 400mOsm/kg)の中で作製された、2日後の付着EBのスコアリング結果を示す。1日目に、mTeSR(登録商標)1-F 450mOsm/kgを含有する培養物にロゼットが存在するかどうか目視検査した。
【図31】付着3日後のEBを示す。EBは、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(B)の中で、4継代(p51〜p55)にわたって単一細胞懸濁液として継代されたヒト胚性幹細胞H9株から前もって作製された。倍率2x。
【図32】EB形成前の継代52の5日目のH9細胞を示す(A〜D)。丸で囲んだ領域は、低倍率のコロニーの分化した領域(A、C)および高倍率の同じ領域(B、D)を示す。ここでは、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で前もって形成され、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたプレートに付着させて2日後のEBを示した(E、F)。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。ここでは、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で前もって形成され、ポリ-D-オルニチン/ラミニンでコーティングされたプレートに付着させて2日後のEBを示した(G、H)。倍率:2x(A、C、E、G)および10x(B、D、F、H)。
【図33】播種して1日後の、hESC H7株 p38から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり5000個の細胞を含有するEBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D)の中で作製した。倍率2x(A、C、D)、10x(B)。
【図34】播種して2日後の、hESC H9株p44から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、Knockout(商標)-D-MEM 270mOsm/kg(A、B)またはKnockout(商標)-D-MEM 340mOsm/kg(C、D)の中で作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C)、10x(B、D)。
【図35】AggreWell(商標)400のマイクロウェル中でhESC H9株p44から作製された5日目、EBを遊離および播種する直前の、EB 1個あたり2000個の細胞のサイズを有するEBを示す(A、D)。B、C、E、Fは、播種して2日後の付着EBを示す。EBを、Neurobasal(商標)270mOsm/kg(A、B、C)またはNeurobasal(商標)340mOsm/kg(D、E、F)の中で作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(B、E)、4x(A、D)および10x(C、F)。
【図36】播種して3日後の、hESC H9株p41から作製された、EB 1個あたり500個の細胞を含有する付着EB(A、B、E、F)、hESC H9株p45から作製されたEB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EB(C、D)、およびhESC H9株p44から作製されたEB 1個あたり5000個の細胞を含有する付着EB(G、H)を示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット2)(C、G)、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット3)(A、B)、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(BSAロット2)(D、H)、またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(BSAロット3)(E、F)の中で、EBを作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x。
【図37】播種して2日後の、hESC H9株p44およびp53から作製された、EB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EB(A、B)、EB 1個あたり5000個の細胞を含有する付着EB(C、D)、EB 1個あたり10000個の細胞を含有する付着EB(E、F)を示す。G、Hは、2000個の細胞を含有する付着EBを示し、それぞれhESC H1株p59から作製された。全てのEBは、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット2)の中で作製された。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図38】播種して2日後の、hESC H9株p52から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D)の中で作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C)、10x(B、D)。
【図39】播種して2日後の、hESC H9株p64から作製された付着EBを示す。AggreWell(商標)400(A〜D)またはAggreWell(商標)800(E〜H)を用いて、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット2)(A、B、E、F)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D、G、H)の中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図40】播種して2日後の、hESC H9株p52から作製された、EB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EBを示す。TeSR(商標)2-F 270mOsm/kg(HSA含有)(A、B)またはTeSR(商標)2-F 340mOsm/kg(HSA含有)(C、D)の中でEBを作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C)、10x(B、D)。
【図41】懸濁培養(ULAディッシュ)した後に、コーティングされたディッシュ上に播種して6日後の、hESC H9株p52から作製された付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)、20ng/mL bFGFを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(B)、または20ng/mL bFGF、1%B27、および1%N2Aを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(C)の中で、EBを作製した。D〜Fは、播種して4日後の付着EBを示す。これらのEBを、AggreWell(商標)800プレートの中で5日間培養した後に、1%N2Aを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(D)、100ng/mL FGF8および200ng/mL SHHを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(E)、または1%B27を添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(F)に播種した。倍率2x(A、B、C、D、F)、10x(E)。
【図42】播種後の日数が異なる、hESC H9株p36およびp42から作製された付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを作製した。(A)に示したEBは、EB形成後1日目に播種され、播種後3日目に示された(培養して合計4日)。(B)に示したEBは、EB形成後1日目に播種され、播種後5日目に示された(培養して合計6日)。(C)に示したEBは、EB形成後2日目に播種され、播種後1日目に示された(培養して合計3日)。(D)に示したEBは、EB形成後2日目に播種され、播種後5日目に示された(培養して合計7日)。(E、F)に示したEBは、EB形成後3日目に播種され、播種後3日目に示された(培養して合計6日)。(G)に示したEBは、EB形成後4日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計6日)。(H)に示したEBは、EB形成後5日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計7日)。(I)は、神経マーカーであるSox1の抗体で染色された、1日目に播種された付着EBのFACSプロットを示す(0.77%陽性細胞)。(J)は、5日目に播種されたEBのSox1陽性細胞のFACSプロットを示す(35.21%陽性細胞;(IおよびJ)にある左のプロットは生細胞のゲーティングを示す)。倍率2x(A〜E、G、H)、10x(F)。
【図43】播種後の日数が異なる、hESC H9株p36およびp42から作製された付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを作製した。(A、B)に示したEBは、EB形成後7日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計9日)。(C、D)に示したEBは、EB形成後8日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計10日)。(E、F)に示したEBは、EB形成後11日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計13日)。(G、H、I)に示したEBは、EB形成後11日目に播種され、播種後5日目に示された(培養して合計16日)。(G)の丸はロゼット構造を示し、(H)の細い矢印は神経前駆細胞を示し、(I)の太い矢印は成熟ニューロンを示す。倍率2x(A、C、E)、10x(B、D、F、G、H、I)。
【図44】異なる表面に播種して3日後の、hESC H9株p38から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で作製した。(A)は、ポリ-L-オルニチンおよび1μg/mLのラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種したEBを示す。(B)は、ポリ-L-オルニチンおよび10μg/mLのラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種したEBを示す。(C)は、ポリ-L-オルニチンおよび20μg/mLのラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種したEBを示す。倍率2x。
【図45】超低付着性(ULA)ディッシュプレートの中で5日間、懸濁培養した後、1日目のニューロスフェアを示す。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみ(A)、または1%B27を添加した重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(B)、または1%N2Aを添加した重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(C)の中で最初に形成された付着EBからニューロスフェアを作製した。矢印は、付着したニューロスフェアから成長しているニューロンおよび伸長している軸索を示す。
【図46】播種後6日目の付着EBを示す。重量オスモル濃度260mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(A〜C)または重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(D〜F)の中でEBを形成し、AggreWell(商標)800の中で13日間、培養した。A〜Fにおいて、神経ロゼットを太い矢印で示し、ニューロンを細い矢印で示した。倍率10x(A、B、C、E、F)、4x(D)。
【図47】播種して4日後の、hESC H9株p47から作製された付着EBを示す。hESCを、EB形成までhESC維持培地中で培養したか(A)、またはmTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kgの中で24時間前条件付けした(B)。次いで、EBをmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で作製し、5日間、懸濁培養した(ULAディッシュ)。この後に、EBを付着させた。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x。
【図48】様々な方法によって解離した、付着EBから得られた神経前駆細胞(NPC)を示す。EBは、AggreWell(商標)400および重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でhESC H9株p47から前もって作製されている。EBを5日間、懸濁培養(ULAディッシュ)した後に、播種した。(A)に示したNPCは、細胞解離緩衝液である酵素非含有PBSベースの、0.02%EDTA溶液(B)、1mg/mLディスパーゼ(C)、Accutase(商標)(D)、Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit(Mouse)(E)、または0.05%トリプシン-EDTA(F)を用いて付着EBから得られた。倍率10x。
【図49】播種して3日後に様々な解離方法を用いて解離され、免疫細胞化学(ICC)を用いてNPCマーカーであるSox1(細胞核を染色する)およびネスチン(細胞質を染色する;(C)の矢印)について染色された、付着EBから得られた神経前駆細胞(NPC)を示す。(A)のNPCは、Accutase(商標)を用いて解離された付着EBから得られた。(B)に示したNPCは、HBSSを用いて解離された付着EBから得られた。(C)に示したNPCは、Ca++およびMg++を含まないD-PBSを用いて解離されたEBから得られた。倍率20x。
【図50】播種後の日数が異なる、hESC H7株およびH9株(それぞれ、継代38、または継代35、継代36、継代41、継代45)から作製された、EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞を含有する付着EBを示す。AggreWell(商標)800プレートから異なる時点でEBを遊離もした。(A、B)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり5000個の細胞)を5日目に遊離および播種した。写真は、播種後7日目の細胞形態を表す。(C、D)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり10000個の細胞)を5日目に遊離および播種した。写真は、播種後7日目の細胞形態を表す。(E、F)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり2000個の細胞)を11日目に遊離および播種した。写真は、播種後5日目の細胞形態を表す。(G、H)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり10000個の細胞)を6日目に遊離および播種した。写真は、播種後8日目の細胞形態を表す。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図51】解離した付着EBから播種して5日後(A、B)または6日後(C〜I)のNPCを示す(図50に記載)。異なる日に、AggreWell(商標)800プレートからEBを前もって遊離した。(A、B)に示したNPCは、8日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、5日目に解離された。(C)に示したNPCは、6日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり10000個の細胞)を付着させた後、8日目に解離された。(D、E、F)に示したNPCは、5日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり5000個の細胞)を付着させた後、7日目に解離された。(G、H)に示したNPCは、5日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり10000個の細胞)を付着させた後、7日目に解離された。(I)に示したNPCは、5日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり5000個の細胞)を付着させた後、6日目に解離された。倍率20x(A、D、G)、40x(B、C、E、F、H、I)。
【図52】解離した付着EBから単離し、播種して4日後のNPCを示す(図50に示した)。異なる日に、AggreWell(商標)800プレートからEBを遊離した。(A)に示したNPCは、7日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、11日目に単離された。(B)は、ニューロンマーカーであるPSA-NCAMについての同じNPCの免疫細胞化学的(ICC)染色を示す(矢印は、ロゼット構造の陽性染色された管腔を示す)。(C)は、ニューロンロゼットマーカーであるZO-1についての同じNPCのICC染色を示し、ロゼットの管腔が特異的に染色された(矢印)。(D)に示したNPCは、9日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、9日目に単離された。(E)は、ニューロンマーカーであるSox1についての同じNPCのICC染色を示す(丸は、存在するロゼット構造の一部を示す)。(F)は、ニューロンマーカーであるネスチンについての同じNPCのICC染色を示す(ここで矢印によって示されたように、ネスチンは細胞質を染色する。全ての細胞が陽性である)。(G)に示したNPCは、11日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、7日目に単離された。(H)は、ニューロンマーカーであるネスチンについての同じNPCのICC染色を示す(全ての細胞が陽性である)。全ての染色細胞を、DAPIを用いて青色に細胞を対比染色した。倍率10x(A、D、G)、20x(B、C、E、F、H)。
【図53】2継代が終了した時点でのNPCの年齢およびNPCの供給源のリストを含む、図50〜52からの結果をまとめたチャートを示す。1.マイクロウェルからEBを遊離した日、2.付着EBからNPCを単離した日(図50に示した)、3.付着EBを解離した時の全日数(図50に示した)、4.EB 1個あたりの細胞の数、および5.NPCの写真を撮影した日(図51または52に示した)。全日数は培養した日数に等しい。
【図54】hESC H9株p65から作製された付着EBおよび単離NPCを示す。EBを、AggreWell(商標)800プレートの中で、EB 1個あたり2000個の細胞のサイズで形成した。EBを遊離するまで12日間、プレートの中で培養した。(A〜D)は、播種後4日目の付着EBを示す。(E〜H)は、付着EBから単離され、1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、および20μg/mlラミニン(それぞれ、E〜H)に播種されて3日後のNPCを示す。(I〜L)は、播種されて7日後の同じNPCを示す。倍率10x。
【図55】10μg/mlラミニンまたは20μg/mlラミニンに播種された場合は3日目、1μg/mlラミニンまたは5μg/mlラミニンに播種された場合は7日目に抗TUJ-1抗体を用いて染色された、図54に示したNPCを示す(ニューロンは、明るい外観と、ニューロンから伸長している軸索によって特定することができる)。DAPIを用いて青色に細胞を対比染色した。倍率20x。
【図56】hESC H9株から作製された付着EBおよび単離NPCを示す。EBをAggreWell(商標)800の中で作製し、遊離し、11日目に播種した。付着後11日目に、付着EBの写真を撮影した(A、B、D、E)。これらの付着EBからNPCを得、播種後3日目のNPCを示した(C、F)。EBの形成、付着EBの培養、およびその後のNPCの培養には、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A〜C)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(D〜F)を使用した。倍率2x(A、B、D、E)、10x(C、F)。
【図57】神経マーカーであるネスチン、ニューロンマーカーであるTUJ1(A、B)、および神経マーカーであるSox1(C)に対する抗体で染色された、図56に記載のNPCを示す。(A)および(B)の矢印は、ネスチン陽性細胞の密度が高い領域を示す((B)の方が少ない)。多くの細胞がSox1を発現する。倍率20x。
【図58】hESC H9株p36およびp41から得られたNPCを示す。AggreWell(商標)800の中で異なるサイズのEB(EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞)を形成し、5日目または7日目に遊離した。NPCを、11日目(EB 1個あたり2000個の細胞の場合)または7日目(EB 1個あたり5000個および10000個の細胞の場合)に付着EBから単離した。(A)は、AggreWellの中で7日間、前もって培養されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)から単離され、付着EB培養物として11日間増殖され、次いで、培養して4日目にHBSSで処理されたNPCを示す。(B)は、HBSSを用いて、付着EBから 7日目に単離された6日目のNPCを示す。これらのEB(EB 1個あたり10000個の細胞)は、AggreWellの中で5日間、前もって培養された。(C)は、HBSSを用いて(A)の細胞を解離した後の、培養3日目の継代2 NPCを示す。これらのNPCを、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。(D)は、TryplEを用いて(B)の細胞を解離した後の、培養1日目の継代2 NPCを示す。これらのNPCを、matrigelでコーティングされたディッシュ上に播種した。E)は、トリプシンを用いて、(C)の細胞を解離した後の、培養3日目の継代3 NPCを示す。これらのNPC を、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。(F)は、TryplEを用いて(D)の細胞を解離した後の、培養4日目の継代3 NPCを示す。これらのNPCを、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。倍率10x。
【図59】図58に記載の結果をまとめたものである。(A)は、神経マーカーであるmusashiについて、およびロゼットマーカーであるZO-1を用いて染色された継代1の5日目のNPCを示す(全ての細胞がmusashi陽性であり、ZO-1は、よく目につくロゼット構造の管腔を染色する)。(B)は、ニューロンマーカーであるTUJ-1について染色された、継代1の6日目(p1d6)のNPCを示す(矢印は、いくつかの軸索構造を示している)。倍率20x。
【図60】神経マーカーであるPax6(A、E)およびSox1(B、F)について染色された付着EBを示す。(C、G)は2種類のマーカーのオーバーレイを示し、(D、H)は細胞のDAPI対比染色を示す。AggreWell(商標)400の中でhESC H9株p63から、EB 1個あたり500個の細胞を含有するEBを形成し、5日後に遊離および播種した。(A〜D)に示した付着EBを培養するために、誘導培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを使用したのに対して、(D〜H)に示した付着EBを培養するために、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgを使用した。(E、G、およびH)と比較して(A、C、およびD)から、形成されたEBから得られ、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で培養された細胞は神経マーカーであるPax6およびSox1を多く発現していることが分かる。倍率10x。
【図61】神経前駆細胞が豊富なことを証明するために、様々な実験に由来し、播種後の日数が異なる、神経マーカーであるPax6およびSox1(A)、Sox1およびネスチン(B)、ならびにSox1およびネスチン(C)について共染色された付着EBを示す。全ての細胞が3つ全てのマーカー組み合わせをそれぞれ同時発現している。倍率10x。
【図62】様々な実験に由来し、播種後の日数が異なる、神経マーカーであるPax6およびロゼットマーカーであるZO-1(A)について共染色された、神経マーカーであるSox1およびロゼットマーカーであるZO-1(B)について共染色された、ならびに放射状グリア(radial glia)マーカーであるBLBPおよび神経マーカーであるネスチン(C、D)について共染色された付着EBを示す。ネスチンおよびBLBPについて、(A)および(B)では全ての細胞がダブルポジティブであり、(C)および(D)ではロゼット構造がダブルポジティブであり、写真の中で明るく見える。倍率10x(A、B)、20x(C、D)。
【図63】播種して2日後の付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(B、C)の中で、hESC H9株p51からEBを作製した。(A)の細い矢印は神経ロゼットを示す。(BおよびC)の太い矢印は、付着EBを取り囲んでいる平らな細胞を示す。これらの図には神経ロゼットは存在しないことに留意のこと。倍率10x。
【図64】H9 p52 hEScから前もって作製された、2日目の付着EB(図63に記載)から単離された、神経ロゼット細胞および「平らな」非神経細胞におけるネスチン(ダークグレー)およびSox1(ライトグレー)転写物発現のqPCR結果(比較定量(RQ値))を示すグラフを示す。神経ロゼット細胞および「平らな」非神経細胞は、それぞれ、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で作製された。
【図65】継代1の8日目(p1d8)(A)、p2d2(B)、およびp3d3(C)のNPC(H9;p36細胞)を示す。NPCは、播種後、5日目に付着EBから得られた(5日目にAggreWellから遊離された)。継代1および2では、主にNPCが観察されたのに対して、継代3では、ニューロン亜集団が自発的に発生した。(D)は、神経マーカーであるネスチンおよびニューロンマーカーであるTUJ-1について染色されたp1細胞を示す。(E)は、神経マーカーであるネスチンおよびニューロンマーカーであるTUJ-1について染色されたp3細胞を示す。矢印は、ニューロンから伸びている軸索を示している。(D)より(E)に存在するニューロンの方が多い。倍率10x。
【図66】全ニューロンマーカーであるTUJ-1(短く太い矢印で示される)(A)およびGABA作動性ニューロンマーカーであるGABA(矢印)(B)について共染色された、NPCに由来する自発的に分化したニューロンを示す。(C)は、TUJ-1染色およびGABA染色の重複部分を示し、全てのニューロンがGABA作動性ニューロンとは限らないことを示す。(B)および(C)の矢印は陽性GABA作動性ニューロンを示す。(D)NPCの自発的に分化したニューロンの中に、星状細胞の存在を示すGFAP陽性細胞(太い矢印)も特定することができる。TUJ-1陽性染色ニューロンはGFAP(細い矢印)について共染色されない。倍率40x。
【図67】単一細胞懸濁液として4継代にわたって継代されたhESC H9株 継代55からの神経誘導を示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、D)、1%N2A、1%B27を添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(B、E)、または2%B27を添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中、matrigel上で、7日間、神経外胚葉を誘導した後の付着NPC培養物。倍率2x(A〜C)、10x(D〜F)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
開示の詳細な説明
開示の方法
胚葉前駆細胞の誘導
本発明者らは、重量オスモル濃度が管理された培地中で幹細胞を培養することによって胚葉前駆細胞を誘導する方法を開発した。
【0037】
従って、本開示は、重量オスモル濃度340mOsm/kg未満、任意で240〜340mOsm/kgまたは260〜340mOsm/kgの範囲の培養培地中で幹細胞を培養する工程、および細胞を胚葉前駆細胞に分化させる工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する。
【0038】
1つの態様において、本開示は、以下の工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する:
(a)多能性幹細胞を解離してクラスターまたは単一細胞にする工程;
(b)(a)由来の解離細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で培養する工程;および
(c)(b)の細胞を解離し、該細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種し、該培養培地中で少なくとも1日培養して、胚葉前駆細胞を作製する工程。
【0039】
1つの態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞をマイクロウェル装置内で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、および該マイクロウェル装置内での培養を24時間超にわたり前記培養培地中で続け、次に、該凝集物を遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。凝集物は、任意で、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上、マイクロウェル装置内で培養した後に、遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0040】
別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を前記マイクロウェル装置内で前記培養培地中で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、該凝集物を該マイクロウェル装置から遊離させ、次に該遊離させた凝集物を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養する工程、該凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。凝集物を、任意で2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上懸濁培養した後に、遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0041】
さらに別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養し、次に該細胞を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。この方法では、EBは、こそぎ落とし法によって幹細胞から作製し、培養培地中で少なくとも1日培養する。凝集物は、任意で、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上、懸濁培養した後に、解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0042】
さらなる態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュまたはフィーダーの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも3日間培養する工程を含む。細胞は、任意で、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上、付着培養物中で培養する。
【0043】
本明細書で使用する「重量オスモル濃度」という用語は、溶媒1キログラムあたりの溶質をオスモルで表した溶液濃度を指す。溶媒1キログラムあたりの溶質のオスモルは、1kgあたりの粒子の数に相当する。この場合、溶媒1kgあたりのイオン(塩:NaClに由来する場合=2)の濃度であり、1kgあたりの分子の数を指す重量モル濃度(mol/kg)の2倍である。当業者であれば、ある特定の重量オスモル濃度の培地を得るために必要な塩の量を容易に求めることができる。このような算出の一例は実施例5に見られる。
【0044】
幹細胞培養培地は当技術分野において公知である。1つの態様において、培養培地は無血清である。別の態様において、培養培地はダルベッコ最小必須培地を含む。さらに、培養培地は、ビタミン類、微量元素類、セレン、インシュリン、脂質、β-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、抗生物質、bFGF、B27、N2、またはこれらの混合物を含んでもよい。典型的な培養培地の例には、mTeSR(登録商標)1-F、Knockout(商標)D-MEM、Neurobasal(商標)培地、およびTeSR(商標)2が含まれる。幹細胞を分化させるために、成分の一部も培地に使用することができる。例えば、B27、bFGF、およびN2は外胚葉誘導に一般的に用いられる。これらの成分の組み合わせは中胚葉誘導および内胚葉誘導にも使用することができる。1つの態様において、本明細書に記載の培養培地は、表2に示した成分を含む、多能性フリーまたは因子フリーの培地を含み、重量オスモル濃度は、本明細書に記載のように塩を添加することによって望ましいレベルまで調節される。
【0045】
本明細書で使用する「幹細胞」という用語は、自己複製能を有する細胞を指す。1つの態様において、幹細胞は多能性幹細胞である。本明細書で使用する「多能性の」という用語は、様々な細胞タイプに分化する能力を維持している未分化細胞を指す。1つの態様において、多能性は、例えば、実施例4に記載のように形態学的に確かめられる。このような態様において、細胞のコロニーが1%未満の分化を示す場合、細胞は多能性とみなされる。1つの態様において、多能性幹細胞は胚性幹細胞である。別の態様において、多能性幹細胞は、遺伝学的方法または化学的方法を用いて任意の体細胞から得られた人工多能性幹細胞である。
【0046】
胚性幹細胞は、哺乳動物の初期胚である胚盤胞の内部細胞塊から得ることができる。人工多能性幹細胞(iPSC)は、身体の体細胞を再プログラミングすることによって得られる。「多能性幹細胞」という用語には、培養された胚性幹細胞株および任意の組織に由来する人工多能性幹細胞株が含まれるが、それに限定されるわけではない。人工多能性幹細胞は哺乳動物細胞から得ることができる。幹細胞はまた、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ(drosophila)、およびイモリなどの非哺乳動物供給源においても発見されている。1つの態様において、多能性幹細胞はヒトである。
【0047】
1つの態様において、凝集物またはクラスターは、Y27632(rock阻害剤)の存在下で形成される。Y27632(rock阻害剤)は単一幹細胞の生存を高めるために添加される。
【0048】
本明細書で使用する「凝集物」という用語は、ある細胞が別の細胞に付着しているもの、または複数の細胞が一緒になって付着しているもの、または細胞の集まりが一緒になって付着しているものを指す。このような凝集物は、ヒト多能性幹細胞のコンフルエント培養物もしくはセミコンフルエント培養物を破壊した後に細胞から、またはヒト多能性幹細胞のコンフルエント培養物もしくはセミコンフルエント培養物を破壊することによって得られた細胞のクラスターから形成される。本明細書で使用する「胚様体」または「EB」という用語は、ヒト多能性幹細胞に由来する三次元凝集物を指す。胚様体は、ヒト多能性幹細胞をこそげ落とすことを含む、様々なプロトコールを用いて形成される。凝集物および胚様体は同義に用いられる。しかしながら、場合によっては、凝集物は、特に、実施例7に示したAggreWell(商標)400または実施例24に示したAggreWell(商標)800と呼ばれるマイクロウェル装置を用いた時の凝集物を指す。1つの態様において、胚様体は500〜20,000個の細胞を含む。
【0049】
さらなる態様において、(c)における解離および付着された培養物は、少なくとも1日、任意で、3〜6日間、前記培養培地中で培養される。
【0050】
本明細書で使用する「解離」という用語は、細胞凝集物またはクラスターをさらに小さな凝集物もしくは異なるサイズにするか、または単一細胞懸濁液にすることを指す。本明細書に記載の細胞の解離は、酵素的手段、化学的手段、または機械的手段を含むが、それに限定されるわけではない任意の方法によるものでよい。1つの態様において、解離は機械的手段を含む。別の態様において、解離は、Accutase、ディスパーゼ、Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit、またはトリプシンなどの酵素的手段を含む。
【0051】
1つの態様において、コーティングされた培養ディッシュは、細胞付着を促進する因子、例えば、細胞外マトリックス分子、合成分子、合成ペプチド、または化学基質を含む。別の態様において、コーティングされた培養ディッシュは、ポリ-L-オルニチン/ラミニン、ラミニンのみ、またはMatrigelを含む。ラミニンの濃度は当業者によって容易に求められ、1〜20ug/mL、例えば、1ug/mL、5ug/mL、10ug/mL、または20ug/mLを含む。ポリ-L-オルニチンの濃度は当業者によって容易に求められ、1〜100ug/mL、例えば、1ug/mL、5ug/mL、10ug/mL、または20ug/mLを含む。
【0052】
本明細書で使用する「分化」という用語は、幹細胞などの特殊化していない細胞が、ある特定の前駆細胞ならびにさらに特殊化した体細胞を含むが、それに限定されるわけではない特定の系列に方向付けられるように、特殊化した細胞タイプになるプロセスを指す。幹細胞を分化させるための条件は当技術分野において容易に知られる。
【0053】
本明細書で使用する「胚葉前駆細胞」という用語は、哺乳動物胚形成中に形成される3種類の細胞層に分化することができる細胞を指す。従って、1つの態様において、胚葉は、皮膚および神経組織に発生する外側の胚葉を指す、外胚葉;消化器系および呼吸器系の内層に発生する内側の胚葉を指す、内胚葉;および/または筋肉、骨および軟骨、ならびに血液および結合組織に発生する中間の胚葉を指す、中胚葉を指す。
【0054】
外胚葉分化
本発明者らは、最初にマイクロウェル装置内で培養された、および/または懸濁培養される解離細胞については、重量オスモル濃度範囲260〜280mOsm/kgの培養培地中で、ならびに本明細書に記載の方法に従って、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種される解離細胞については、重量オスモル濃度範囲270〜320mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養することによって、外胚葉性胚葉を誘導できることを示した。従って、1つの態様において、培養培地の重量オスモル濃度は、外胚葉性前駆細胞を誘導する場合、260〜280mOsm/kgである。別の態様において、本明細書に記載の方法において用いられる培養培地の重量オスモル濃度は、外胚葉性前駆細胞を誘導する場合、270〜320mOsm/kgである。
【0055】
なおさらなる態様において、本明細書に記載の方法は、Pax6、Sox1、Sox2、A2B5、CD15、CD24、CD29、CD81、CD133、PSA-NCAM、ビメンチン、Musashi1、Musashi2、およびネスチンより選択される神経細胞運命に関連するマーカーの存在に基づいて外胚葉性前駆細胞または神経前駆細胞を特定する工程をさらに含む。
【0056】
本開示はまた、以下の工程を含む、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の神経前駆細胞を維持する方法を提供する:本明細書に記載の方法に従って外胚葉性前駆細胞を作製する工程、付着培養物から外胚葉性前駆細胞を解離する工程;前記前駆細胞を播種して少なくとも1日培養する工程。1つの態様において、単一の神経前駆細胞をbFGFの存在下で維持する。別の態様において、前駆細胞を播種し、少なくとも4日間培養する。1つの態様において、細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する。1つの態様において、コーティングされた培養ディッシュは、細胞付着を促進する因子、例えば、細胞外マトリックス分子、合成分子、合成ペプチド、または化学基質を含む。別の態様において、コーティングされた培養ディッシュはポリ-L-オルニチン/ラミニンを含む。典型的なラミニン濃度は本明細書に記載の通りである。
【0057】
1つの態様において、bFGFの濃度は10〜100ng/mLである。別の態様において、細胞を、少なくとも3継代にわたって培養状態で増殖させかつ維持する。1つの態様において、細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。
【0058】
本発明者らは、付着培養物を、pH7.0〜8.0のCa2+およびMg2+フリーの1xPBS緩衝液とインキュベートすると、単一の神経前駆細胞を選択的に遊離または解離できることを発見した。従って、別の態様において、単一の神経前駆細胞は、Ca2+およびMg2+フリーの1xPBSまたは1xハンクス緩衝液, pH7.0〜8.0を含む緩衝液中で解離される。1つの態様において、単一細胞は緩衝液中で1〜2時間インキュベートされる。別の態様において、細胞は緩衝液中で30〜90分間インキュベートされる。
【0059】
さらに別の態様において、分化細胞を作製するために、細胞は、DMEM-F12、N2、B27もしくはその組み合わせ、非必須アミノ酸、ホルモン、脂質、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、レチノイン酸、TGFβ(ニューロン)、ソニックヘッジホッグ(SHH)、甲状腺ホルモン、BMPファミリーの任意のメンバー、EGFおよびPDGF(オリゴデンドロサイト)、シクロパミン、または他の任意のSHH阻害剤(星状細胞)を含むニューロン細胞分化培地において培養される。分化細胞を、任意で、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。分化のために、bFGFは除去される。1つの態様において、分化細胞は、ニューロン、星状細胞、またはオリゴデンドロサイトを含む。これらは、任意で、TUJ1、MAP2(ニューロン)、A2B5、GFAP、GLAST(グリア細胞、星状細胞、および放射状グリア細胞)、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、O4、OLIG2、GalC、ならびにNG2(オリゴデンドロサイト)より選択されるマーカーの存在に基づいて特定される。
【0060】
内胚葉分化/中胚葉分化
本発明者らは、本明細書に記載の方法によって、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する前に、マイクロウェル装置内でおよび/または細胞懸濁液中で培養される解離細胞の場合は、重量オスモル濃度範囲が280mOsm/kgを上回る、任意で、290〜340mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養することによって、ならびに本明細書に記載の方法によって、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種される解離細胞の場合は、重量オスモル濃度320mOsm/kg超、任意で320〜340mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養することによって、内胚葉/中胚葉を誘導できることを示した。従って、別の態様において、本明細書に記載の方法において用いられる培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、280mOsm/kgより高い。別の態様において、培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、290〜340mOsm/kgである。さらに別の態様において、本明細書に記載の方法において用いられる培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、320mOsm/kgより高い。なおさらなる態様において、培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、320〜340mOsm/kgである。
【0061】
1つの態様において、重量オスモル濃度280mOsm/kg超の、任意で320mOsm/kg超の培養培地は中胚葉運命になるように分化を引き起こし、間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、および骨格細胞を生じることができる。別の態様において、重量オスモル濃度280mOsm/kg超の、任意で320mOsm/kg超の培養培地は内胚葉運命になるように分化を引き起こし、膵臓、腸細胞、および肝細胞を生じることができる。
【0062】
なおさらなる態様において、本明細書に記載の方法は、Sox17、HNF1β、HNF3β、Gata4、Gata6、CXCR4(CD184)、AFP(内胚葉)およびBry、MixL1、Snail、Bmp2、Bmp4、CD31、およびCD34(中胚葉)より選択されるマーカーの存在に基づいて、内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞を特定する工程をさらに含む。
【0063】
本開示はまた、以下の工程を含む、重量オスモル濃度290〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞を維持する方法を提供する:本明細書に記載の方法に従って内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞を作製する工程、付着培養物から単一の内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞を解離する工程;ならびに前記前駆細胞を播種および培養する工程。1つの態様において、細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する。
【0064】
1つの態様において、内胚葉および中胚葉を得るために、培養培地に誘導因子が添加される。因子は、例えば、BMPおよびFGFファミリーのメンバーならびにアクチビンAを含む(Boyd et al., 2009; Kubo et al., 2004; Lee et al., 2009, Takei et al., 2009, Sulzbacher et al., 2009)。
【0065】
1つの態様において、細胞を、少なくとも3継代にわたって培養中で増殖させかつ維持する。1つの態様において、細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。
【0066】
本発明者らは、付着培養物を、pH7.0〜8.0のCa2+およびMg2+フリーの1xPBS緩衝液とインキュベートすると、単一の外胚葉性前駆細胞または神経前駆細胞を遊離または解離できることを発見した。従って、別の態様において、内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞は、pH7.0〜8.0のCa2+およびMg2+フリーの1xPBS緩衝液の緩衝液中で解離することによって、培養物から外胚葉細胞を遊離し、従って、培養のために、内胚葉細胞および/または中胚葉細胞をプレートに付着させたままにすることによって得られる。内胚葉性前駆細胞および中胚葉性前駆細胞は表面から剥がれず、従って、この方法は、高濃度の内胚葉細胞および中胚葉細胞の集団を残したまま、外胚葉性前駆細胞を取り除き、次いで、これらを解離することができる。
【0067】
さらに別の態様において、分化細胞を作製するために、細胞を、中胚葉細胞分化培地または内胚葉細胞分化培地の中で培養する。任意で、前記分化細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。このような分化培地には、胎仔ウシ血清(FBS)、BMPおよびFGFファミリーのメンバー、フォリスタチン、Noggin、ならびにアクチビンAが含まれるが、それに限定されるわけではない。1つの態様において、分化細胞は、間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、骨格筋細胞(中胚葉)、膵細胞、腸細胞、または肝細胞(内胚葉)を含む。
【0068】
別の態様において、分化細胞系列は、Stro1、コラーゲン2、MyoD、Sox9、アクチン、Msx2、Runx2、Dlx5(間葉系幹細胞);CD44、CD151、Sox9、オステオネクチン、コラーゲン2(軟骨細胞)、MyoD(心筋細胞)、CD34、CD31、CD133、Tie2(造血幹細胞)、アクチン、α-アクチニン、MyoD、デスミン(骨格筋細胞)、Islet1、Islet2、Pdx1、インシュリン(膵細胞)、Hnf1β、Cdx2(腸細胞)、アルブミン、ApoE(肝細胞)を含むが、それに限定されるわけではない分化マーカーを用いて特定される。
【0069】
本開示のアッセイ
本明細書に記載の方法によって作製された細胞を用いると、神経系の初期発生中の事象を実験によって検討し、治療能力、例えば、再生プロセスを誘導する能力を有する可能性のある新たな遺伝子およびポリペプチド因子を特定することが可能になる。さらなる薬学的用途には、毒性アッセイおよび創薬プラットフォーム、例えば、神経保護化合物のハイスループットスクリーニングの開発が含まれ得る。インビトロでのhES細胞から神経前駆細胞の作製は、神経変性疾患の潜在的な細胞療法のための、ならびに神経系に因子を送達および発現するための無限の細胞供給源として役立つかもしれない。
【0070】
本明細書に記載の方法によって作製された神経前駆細胞および分化神経細胞は、ヒト神経発生の細胞生物学および分子生物学の研究のために、神経の分化および再生において役割を果たす遺伝子、増殖因子、および分化因子の発見のために、創薬のために、ならびに催奇作用、毒性作用、および神経保護作用のスクリーニングアッセイの開発のために使用することができる。
【0071】
従って、本開示は、以下の工程を含む、胚葉細胞をスクリーニングする方法を提供する:
(a)本明細書に記載の方法によって、外胚葉性胚葉細胞、内胚葉性胚葉細胞、および/または中胚葉性胚葉細胞の培養物を調製する工程;
(b)該胚葉細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;ならびに
(c)処理された該胚葉細胞を分析に供する工程。
【0072】
別の態様において、以下の工程を含む、神経前駆細胞をスクリーニングする方法が提供される:
(a)本明細書に記載の方法によって、神経前駆細胞の培養物を調製する工程;
(b)該神経前駆細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;および
(c)処理された該神経前駆細胞を分析に供する工程。
【0073】
1つの態様において、試験剤は、特定の細胞タイプへの胚葉細胞または神経前駆細胞の分化に及ぼす作用について試験されている化学物質または他の物質である。このような態様において、分析は、分化細胞タイプのマーカーを検出する工程を含んでもよい。外胚葉性前駆細胞または神経前駆細胞から神経を分化させる場合、マーカーには、ネスチン、Sox1、およびTUJ1が含まれるが、それに限定されるわけではない。内胚葉細胞から内胚葉を分化させる場合、マーカーには、Sox7、Sox17、HNF-1β、HNF3β、Gata4、Gata6、CXCR4(CD184)、α-フェトプロテイン(AFP)(内胚葉)が含まれるが、それに限定されるわけではない。中胚葉細胞から中胚葉を分化させる場合、マーカーには、Bry、MixL1、Snail、Bmp2、Bmp4、CD31、CD34、(中胚葉)が含まれるが、それに限定されるわけではない。1つの態様において、スクリーニングアッセイは、再生プロセスの誘導または神経保護化合物の提供など治療能力を有する可能性のある化合物を特定するのに用いられる。
【0074】
別の態様において、試験剤は化学物質または薬物であり、スクリーニングは、化学物質または薬物の一次スクリーニングとして、または二次薬理学評価スクリーニングおよび毒物学評価スクリーニングとして用いられる。
【0075】
本開示の培養培地
本開示はまた、胚葉前駆細胞を誘導するのに有用な培養培地組成物を提供する。1つの態様において、培養培地は、340mOsm/kgより低い重量オスモル濃度を含む。別の態様において、培養培地は、240〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。さらに別の態様において、培養培地は、260〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。
【0076】
本開示はまた、外胚葉性胚葉前駆細胞の誘導において使用するための培養培地組成物を提供する。1つの態様において、培養培地は、260〜280mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。別の態様において、培養培地は、270〜320mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。さらに、本開示は、中胚葉性胚葉前駆細胞および/または内胚葉性胚葉前駆細胞の誘導において使用するための培養培地を提供する。1つの態様において、培養培地は、280mOsm/kgより高い重量オスモル濃度、任意で、290〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。別の態様において、培養培地は、320mOsm/kgより高い重量オスモル濃度、任意で、320〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。
【0077】
培養培地は、幹細胞分化において有用な任意の培養培地でよい。例えば、培養培地は、任意で、多能性因子フリーであり、または、望ましい重量オスモル濃度、任意で260〜340mOsm/kg、260〜280mOsm/kg、290〜340mOsm/kg、または約270mOsm/kgになるように調節された、表2に示した成分を含む、因子フリーの培地である。当業者であれば、溶液の重量オスモル濃度を調節する方法を容易に理解するであろう。例えば、重量オスモル濃度は、実施例5に記載のように塩を添加することによって調節することができる。簡単に述べると、5xサプリメントに添加される塩の量は、以下の式を用いて計算される。例えば、5xサプリメント(初期重量オスモル濃度100mOsm/kg)および基本培地(ここでは、初期重量オスモル濃度300mOsm/kg)を混合した後に、270の重量オスモル濃度を得るためには、
[270-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=0.30g/L NaCl
である。
【0078】
他の任意の培地調製法および出発培地製剤によって、NaCl濃度を調節することによって、重量オスモル濃度270を得ることができる。
【0079】
前述の開示は本開示を大まかに説明している。以下の特定の実施例を参照することによって、さらに完璧に理解することができる。これらの実施例は例示のためだけに示され、本開示の範囲を限定すると意図されない。状況によっては、形態の変更および均等物の置換が示唆されるかまたは有効であることが、意図される。本明細書において特定の用語が用いられているが、このような用語は説明の意味で用いられ、限定を目的としない。
【0080】
以下の非限定的な実施例は本開示を例示する。
【実施例】
【0081】
実施例1.無血清合成培地中のBD Matrigel(商標)コーティング上での凝集物としてのヒト多能性幹細胞の培養
ヒト多能性細胞を、無血清合成培地の中、BD Matrigel(商標)でコーティングされたディッシュ上で維持した。詳細なプロトコールは、BD Matrigel(商標)コーティングの手順を含む、ヒト多能性幹細胞を維持するための、STEMCELL TECHNOLOGIES INCによるマニュアル番号29106「Maintenance of Human Embryonic Stem Cells in mTeSR(登録商標)1」において見られる。コロニーが大きく、合体し始め、縁と比較して中央の密度が濃くかつ明るい位相となった時に、細胞を継代した(図1を参照されたい)。播種された凝集物のサイズおよび密度に応じて初回播種の5〜7日後に、培養物を継代した。
【0082】
幹細胞培養物から培地を吸引し、細胞をDMEM/F-12(2mL/ウェル)でリンスした。1mg/mLの濃度のディスパーゼ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07923)を1ウェルにつき1mL添加した。ディッシュを37℃で7分間置いた。
【0083】
コロニーの縁がわずかに折り畳まれているように見えたら、ディスパーゼを除去し、残っているディスパーゼを希釈するために、各ウェルを1ウェルにつき2mLのDMEM/F-12で2〜3回、穏やかにリンスした。2mL/ウェルのDMEM/F-12またはmTeSR(登録商標)1をウェルに添加し、細胞スクレーパー(例えば、Corningカタログ番号3010)またはセロロジカルピペットチップを用いて、コロニーをこそぎ落とした。
【0084】
剥離した細胞凝集物を15mLコニカルチューブに移し、ウェルを、さらに2mLのDMEM/F-12でリンスして、全ての残りの凝集物を収集した。残っている細胞を含有する、リンスされた培地を同じ15mLチューブに添加した。
【0085】
凝集物を含有する15mLチューブを300xg、室温(15〜25℃)で5分間、遠心分離した。上清を吸引した。15mLチューブに収集したhESC凝集物の各ウェルについて、1〜2mLのmTeSR(登録商標)1を添加した。P1000マイクロピペットを用いて上下に(1〜2回)ピペッティングすることによって、ペレットを穏やかに再懸濁した。細胞を凝集物として維持した。「凝集塊カウント」法を用いて、凝集塊の数を見積もった。付着および増殖している可能性の高い、正しいサイズ(直径が約50〜60μm)の凝集塊を数え上げるために、顕微鏡の接眼レンズの中に入れられているマイクロメーターを使用する。凝集塊カウントを行うために、30μLのDMEM/F-12を96ウェル平底プレートのウェル2つに分注した。カウンティンググリッド(counting grid)として役立つように、これらのウェルの底の中心に「+」を書いた。5μLの新たに混合した凝集塊懸濁液を各ウェルに添加した。約3500μm2またはこれより大きい凝集塊を2回繰り返してカウントした。これは、直径が約60μmの凝集塊に相当する。以下の式:
1μlあたりの凝集塊の総数=カウントしたx個の凝集塊/5μLの懸濁液総体積
を用いて、1μlあたりの凝集塊の総数を見積もった。
【0086】
播種されているウェルまたはディッシュのサイズに応じて、決められた数の凝集塊を播種した。適切な播種密度についての表1の案内を用いて、新たなディッシュに播種するのに使用する凝集塊懸濁液の体積(y)を計算した。例えば、6ウェルに対する(y)は以下に等しい:350/1μLあたりにカウントされる凝集塊の数。
【0087】
BD Matrigel(商標)でコーティングされた新たな6ウェルにつき2mLのmTeSR(登録商標)1と共に、hESC凝集物を播種した。ウェルの表面全体にわたって細胞を均等に分散させるために、プレートを数回、素速く短時間で前後左右に動かした。プレートを37℃インキュベーターに入れた。mTeSR(登録商標)1およびBD Matrigel(商標)の中で培養したhESCを、本開示における分化プロトコール用の一貫した細胞供給源として使用することができる。図1は、培養5日目、継代51の未分化なH9 hESCを示す。
【0088】
実施例2.hES細胞の培養物を維持するためのマウス胚線維芽細胞層(MEF)の調製
標準的なプロトコール(WiCell Research Instituteウェブページ:https://www.wiceil.orgおよびDravid et al., Human Embryonic Stem Cell Protocols, Humana press)に従って、放射線を照射した胚13日目マウス胚線維芽細胞(MEF)(CF-1マウス株)を調製した。ヒト多能性幹細胞をMEFに播種する日の前日に、WiCell Research Instituteの標準的なプロトコールに従って、放射線を照射したMEFのバイアルを解凍して標準的な「MEF培地」に入れた。6ウェルあたりの約2x105個の細胞に相当する、約2x104細胞/cm2を播種した。図2は、MEF上で培養された4日目のhESCを示す。
【0089】
実施例3.マウスフィーダー細胞上でのヒト多能性幹細胞の培養
マウスフィーダー細胞上で維持されたヒト多能性幹細胞は、本開示における分化プロトコール用の一貫した細胞供給源として使用することもできる。
【0090】
WiCell Research Institute ウェブページ(https://www.wicell.org)およびDravid et al., Human Embryonic Stem Cell Protocols, Humana press)において見られるWiCell Research Instituteの標準的なプロトコールに従って、hESC培地(DMEM-F12(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号36254)、25%knock-out serum replacer(Invitrogen,カタログ番号10828028)、200mM L-グルタミン(Invitrogen, カタログ番号25030081)、0.1mM β-メルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号63689)、1xNEAA溶液(Invitrogen,カタログ番号11140050)、4ng/ml bFGF(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号02634)の中で、MEF(実施例2を参照されたい)上で、H9 hESCを増殖させた。
【0091】
簡単に述べると、フィーダー層が2週齢を超え、コロニーが合体し始めるか、または大きくなり中心の密度が濃くなった時に、細胞を分割した。ヒト多能性幹細胞を継代するために、6ウェルあたり、DMEM/-F12に溶解した1mg/mlコラゲナーゼIV型(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号07909)溶液を使用した。培養培地を吸引し、コラゲナーゼ溶液を37℃で5分間添加した。5mlセロロジカルピペットを用いて、表面の細胞を洗浄するためにコラゲナーゼ溶液を上下にゆっくりとピペッティングしながら、細胞をプレートからこそげ落とした。懸濁液を15mlコニカルチューブ(Falcon)に移し、300gで5分間遠心分離した。上清を吸引し、2〜3mlのhESC培地を添加した。チューブを穏やかに軽くたたくことによって、ペレットを再構成し、300xgで5分間、再遠心分離した。その間に、培地をMEFから吸引し、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で2回洗浄した。上清をペレット状のhESCから除去し、12mLの新鮮なhESC培地を添加した。10mlセロロジカルピペットを用いて、ペレットを注意深く再懸濁し、細胞懸濁液をMEFの6ウェルプレートに分配した(これはhESCの1:6分割比に等しい)。細胞を均等に分配させるために、プレートを数回、前後左右に動かした。次いで、プレートをインキュベーターに戻した。
【0092】
実施例4.mTeSR(登録商標)1の中、BD Matrigel(商標)上で増殖させたヒト多能性幹細胞(hPSC)の多能性の形態学的評価
胚葉誘導を成功させるために、高度に純粋な多能性幹細胞の集団を使用した。以下の基準を用いて、細胞の形態および質を評価した(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.による技術マニュアル番号29106に記載されている)。図1に示したように、未分化なヒト多能性幹細胞が、密集した多細胞のコロニーとして増殖した。未分化なヒト多能性幹細胞は、高い核:細胞質比および顕著な核小体を示した。これらのコロニーは特異な境目を特徴とした。健康なhPSCコロニーは中心で多層状になり、位相差顕微鏡下で観察した時に、位相の明るい細胞のクラスターとなった。分化は、境目の完全性の消失、コロニー内での全体の不均一な細胞形態、および明らかに異なる細胞タイプの出現を特徴とした。多能性のパーセントは、(4xおよび10x対物レンズを使用した)顕微鏡下でコロニーを観察することによって見積もられた。分化が1%未満の場合にしか、細胞を胚葉誘導に使用しなかった。図3は、左縦列に多能性幹細胞を示し、右縦列に、分化している中心のあるコロニーの一例(赤色の枠および大写し)を示す。
【0093】
実施例5.重量オスモル濃度範囲の異なる培地製剤:重量オスモル濃度が改変された因子フリーのmTeSR(登録商標)1培地
改変TeSR(mTeSR(登録商標)1、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号05850)のための完全培地製剤および調製方法は、Ludwig et al, Nature Methods 3(8): 637, 2006において公表されている。これは、Ludwig et al., Nature Biotechnology 24(2): 185, 2006において公表されているオリジナルのTeSR製剤をベースとし、以下の変更:ヒト血清アルブミン(HSA)とウシ血清アルブミン(BSA)との交換を加えた。
【0094】
因子フリーのmTeSR(登録商標)1(mTeSR(登録商標)1-F)培地を製造するために、以下の5種類の因子:GABA、ピペコリン酸、bFGF、TGFβ1、塩化リチウム以外は、mTeSR(登録商標)1試薬の全てを5倍濃度で含有する5xサプリメントを作製した。培地の成分を表2に示した。
【0095】
5xサプリメントの成分を一緒に混合した後に、10N NaOHを添加することによって、pHを7.4に調節した。標準的な浸透圧計を用いて、溶液の重量オスモル濃度を測定した。5xサプリメントの初期重量オスモル濃度は、通常、約100mOsm/kgであった。5xサプリメントを400mLの基本培地DMEM/F12(Hyclone, カタログ番号SH30004)(重量オスモル濃度約300mOsm/kg)と組み合わせてmTeSR(登録商標)1-Fを得ることを考慮に入れながら、重量オスモル濃度を上げるために塩(NaCl)を使用した。以下の式を用いて、5xサプリメントに添加しなければならない塩の量を計算した。例えば、5xサプリメントおよび基本培地を混合した後に、270の重量オスモル濃度を得るためには:
[270-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=0.30g/LのNaCl
である。
【0096】
x量のNaClを5xサプリメントに添加した。重量オスモル濃度の異なる4種類の培地:260mOsm/kg、280mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kgを調製した。
【0097】
実施例6.AggreWell(商標)400におけるEB形成のための、ヒト多能性細胞の単一細胞懸濁液の作製
ヒト多能性幹細胞コロニーから単一細胞を作製し、AggreWell(商標)400プロトコールおよび装置において使用する手順は、技術マニュアル29146(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.)に記載されている。
【0098】
簡単に述べると、セミコンフルエントな未分化H1の継代46 hESCを含有する10cmプレートをインキュベーターから取り出し、滅菌した組織培養フードの中に入れた。mTeSR(登録商標)1維持培地をH9培養物から吸引し、次いで、各プレートを、2mLの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスし、次いで、吸引し、捨てた。Accutase(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号07920)を用いて、付着hESC培養物を解離して単一細胞にした。未分化H9細胞培養を含有する各10cmプレートには、3mLのAccutaseを直接添加した。次いで、穏やかに振盪しながら、約10分間または細胞がプレートから容易に剥離するまで、プレートを37℃でインキュベートした。全ての残存凝集塊が完全に解離したことを確実にし、かつディッシュ表面にまだ付着している全ての細胞を取り外すために、セロロジカルピペットを用いて、H1細胞懸濁液を穏やかに2〜3回ピペッティングした。懸濁液を50mLコニカルチューブに移した。各プレートを10mLの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスし、リンス液を、細胞懸濁液を含有する同じ50mLチューブに移した。
【0099】
同じ手順を用いて、MEF上で増殖させたH9 hESC(実施例3を参照されたい)を解離して、単一細胞懸濁液にした。EBの中にある大部分のフィーダー細胞はEB形成中に死滅し、EBの胚葉誘導プロセスを妨害しないと考えられる。
【0100】
細胞懸濁液を、350xg、室温(15〜25℃)で7分間、遠心分離した。上清を吸引し、捨てた。細胞ペレットを、1mL体積の培地mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、または340mOsm/kgに再懸濁した。EB形成中の細胞生存を高めるために、最終濃度10μg/mLのY27632 rock阻害剤(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号07171/2)も培地に添加した(Watanabe et al, 2007)。標準的な技法を用いて、90μLのトリパンブルー(Invitrogen,カタログ番号15250061)で10μLの細胞懸濁液試料を1:10に希釈し、血球計算器で未染色細胞を計数することによって、生細胞を計数した。1μLあたりの細胞の数から、EB形成に使用するための細胞の体積を計算することができる(実施例7)。1枚のhESC 10cmディッシュから7〜10x106個の細胞が得られた。
【0101】
実施例7.mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kg培地が入っているマイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)を用いてヒト多能性幹細胞からEBを形成して、3種類の胚葉を誘導する
AggreWell(商標)400を用いると、制御されたサイズのEBを非常に効率的に作製することができる。簡単に述べると、実施例1の方法を用いて、未分化なH1 hESCをセミコンフルエントまで培養した。技術マニュアル番号29146(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.)に記載のように、滅菌した組織培養フードの中でAggreWell(商標)400プレートを容器から取り出した。8マイクロウェルを備えるプレートウェルをそれぞれ、1mLの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスし、次いで、吸引によってPBSを除去した。1mLの培地を、AggreWell(商標)400プレートの各ウェルに添加した。3種類の胚葉細胞タイプ:外胚葉、内胚葉、および中胚葉を誘導するために、EB形成用に4種類の重量オスモル濃度:270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kgを有する培地を使用した(調製:実施例4を参照されたい)。EB形成中の細胞生存を高めるために、最終濃度10μg/mlのY27632 rock阻害剤も培地に添加した。マイクロウェルから全ての小さな泡を取り除くために、AggreWell(商標)400プレートを、プレートホルダーが備え付けられているスインギングバケットローター(swinging bucket rotor)に入れて3000xgで2分間、遠心分離した。次いで、AggreWell(商標)400プレートを放置する一方で、実施例6の方法を用いてH1 hESC細胞の単一細胞懸濁液を調製した。2.4x106個の細胞を含有する、ある体積の細胞懸濁液を、前もって調製されたAggreWell(商標)400プレートの各ウェルに添加した。この量の細胞は約1200個のマイクロウェルに分配されて、それぞれ約2,000個の細胞からなるEBを形成する。前記のように、培地を、1ウェルにつき2mLの最終体積まで添加した。マイクロウェルの中の細胞を捕捉するために、AggreWell(商標)400プレートを100xgで3分間、遠心分離した。プレートを、37℃、5%CO2、および95%湿度で24時間インキュベートした。図4は、AggreWell(商標)400ウェルのマイクロウェルの中にある、分配されたH1 hESC単一細胞を示す。
【0102】
実施例8.「こそぎ落としEB」法によるEB形成および3種類の胚葉への分化を誘導するための懸濁培養
EBはまた、こそぎ落とし法によって日常的に作製することもできる。この方法では、EBのサイズおよび形状を制御することができない。EBを形成するために、機械的なこそぎ落としを用いて、付着したヒト多能性幹細胞コロニーを組織培養プレートから取り出した。結果として生じたランダムなサイズの細胞凝集塊を非付着性懸濁培養に入れ、EBを、37℃、5%C02、および95%湿度の標準的な組織培養インキュベーターの中で5日間インキュベートし、培地を2日ごとに交換した。このために、ディッシュを一方に傾け、1000μlピペットチップを用いて、EBを乱すことなく培地体積の約半分を除去した。3種類の胚葉を誘導するために、実施例7に記載のものと同じ培地を使用した。新鮮な培地を5mlまで添加した。実施例9および11〜13に記載のように、外胚葉、中胚葉、および内胚葉が誘導されるようにEBをさらに処理した。図5は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で形成して1日後の、こそぎ落とされたEBを示す。
【0103】
実施例9.mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、および280mOsm/kgの中でEBを5日間、懸濁培養して、神経外胚葉細胞系列を誘導する
実施例7に記載のように、H9 hESC細胞からEBを形成した。簡単に述べると、2.4x106個のヒトES細胞を含有する単一細胞懸濁液をAggreWell(商標)400のウェルに添加して、それぞれ2,000個の細胞からなる約1200個のEBを作製した。
【0104】
次いで、EBの大部分を取り外すために、滅菌した組織培養フードの中で1mlディスポーザブルピペットチップを用いてAggreWell(商標)400マイクロウェルの中にある培地を2〜3回上下に穏やかにピペッティングすることによって、EBを収集した。EBを収集するために、懸濁液を、50mLコニカルチューブの上に置いた上下逆さの40μmナイロンセルストレーナー(Falcon)に通して、凝集していない単一細胞および破片を除去した。全ての凝集物を取り外すために表面全体にわたってピペッティングしながら、AggreWell(商標)400表面を、さらに5回、それぞれ1mlのDMEM/F-12を用いて洗浄した。全ての洗浄液をセルストレーナーメンブレンに適用した。セルストレーナーを上下反対にし、低付着性(low-adherence)6ウェルを覆うように近づけた。形成したEBの神経外胚葉への分化を誘導するために、mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、または280mOsm/kg培地を用いて、メンブレンからEBを洗い流した。ストレーナーを6ウェル超低付着性ディッシュ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号27145)のシングルウェルの上に置きながら、約5mLの培地を用いてEBをナイロンメンブレンから取り出した。EBを、37℃、5%CO2、および95%湿度の標準的な組織培養インキュベーターに入れて5日間インキュベートし、培地を2日ごとに交換した。このために、ディッシュを一方に傾け、1000μlピペットチップを用いて、EBを乱すことなく培地体積の約半分を除去した。新鮮な培地を5mlまで添加した。図6は、倍率2x、10x、および40xの、AggreWell(商標)400プレートの中で24時間インキュベートした後の遊離EBを示す。AggreWell(商標)400プレートからEBが回収された時に、形態学的な違いは観察されなかった。
【0105】
実施例10.重量オスモル濃度範囲270〜320mOsm/kgの培地を含有する付着単層培養におけるヒト多能性幹細胞から神経前駆細胞へのインビトロ分化の誘導
このために、BD Matrigel(商標)上に、またはヒトフィーダー細胞もしくはマウスフィーダー細胞上に播種されたクラスターまたは単一細胞層として、ヒト多能性幹細胞を使用した。クラスターとして細胞を播種するために、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて、幹細胞コロニーを解離した。または、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、または機械的なこそぎ落としなどがあるが、これに限定されない、hESCクラスターを作製する任意の酵素的方法、化学的方法、または機械的方法を使用することができる。培養培地を除去した後に、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスした。PBSを、室温で約10分間、細胞上に残した。5mLセロロジカルピペットを用いて、細胞を穏やかに上下にピペッティングし、15mLコニカルチューブに移した。凝集塊を350xg、室温で5分間、遠心分離した。1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を除去し、細胞を、1mLのmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたは320mOsm/kgに再懸濁した。簡単に述べると、1000μlピペットチップを用いて細胞をチューブの底から剥がした。任意で、1x濃度のN2A(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07152)およびB27(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07153)を誘導培地に添加した。細胞凝集塊懸濁液を、BD Matrigel(商標)でコーティングされた6ウェルプレートの5つのウェル間に分配した。
【0106】
付着誘導に使用する単一細胞懸濁液を得るために、実施例6の方法を使用した。細胞を、6ウェルあたり細胞約2x105個の密度で、mTeSR(登録商標)1-F 270 mOsm/kgまたは320mOsm/kgに播種した。培地を2日ごとに交換した。
【0107】
図7は、誘導5日後の、播種された凝集塊から現われた神経前駆細胞を示す。神経分化の間に、ヒト多能性幹細胞は、「神経ロゼット」と呼ばれる、放射状に組織化された円柱上皮細胞の形成を特徴とする形態形成事象を経る(Zhang et al. 2001 ; Perrier et al. 2004)。これらの構造は、発生の適切な合図に応答して様々な領域特異的なニューロン細胞タイプおよびグリア細胞タイプに分化することができる細胞を含む(Perrier et al. 2004; Li et al. 2005)。ロゼットは様々なサイズおよび形状で現われ、容易に特定することができる。どちらの培地(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび320mOsm/kg)でも、ロゼットはほぼ同じ効率で形成し、3日後に目に見えた。誘導期間は5〜6日であった。矢印はロゼットのいくつかの例を示す。
【0108】
実施例11.mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、および280mOsm/kgの中で懸濁培養した後にEBを播種して、神経外胚葉性前駆細胞を増殖させる
実施例6および7の方法を用いてEBを形成および培養した後に、EBを顕微鏡下で視覚化した。異なる重量オスモル濃度で培養したEBにおいて、はっきりとした形態学的な違いは観察されなかった。
【0109】
個々の神経前駆細胞を培養できるようにするために、任意で、機械的破砕を用いて、EBを解離して小さなクラスターにした。または、このために、単独のまたは酵素的解離法と組み合わせた他の化学的方法を、あるいは酵素的解離を、使用することができる。この手順によって、これらの構造から神経前駆細胞が増殖し、多層細胞クラスターおよび細胞単層を形成することができた。機械的破砕の場合、1000μlピペットチップを用いて、6ウェルプレートからEBを15mLコニカルチューブに移した。室温で5分間インキュベートすることによって、EBはチューブの底に沈殿した。上清を除去し、チューブの底にペレット状のEBが残った。1mlの新鮮なmTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、または280mOsm/kgを対応するチューブに添加した。1000μlピペットチップを用いて、EBの粘稠性に応じて5〜20回、上下にピペッティングすることによって、かろうじて目に見える小さなクラスターを含有する細胞懸濁液が作製されるまで、細胞を解離した。15mLチューブ1本の細胞懸濁液(6ウェルプレート1つにおいて培養したEBに相当する)を6ウェルディッシュの3個のウェルに分配した。各ウェルは、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた3枚のカバーガラスを備える(実施例18を参照されたい)。培地を2mlまで注ぎ、プレートを前後に穏やかに揺らすことによって、細胞を均等に分配した。ディッシュを37℃に戻した。数時間後に付着が観察された。図8は、2日後の付着EBを示す。矢印は、ロゼットのいくつかの例を示す。ロゼットは3種類全ての培地に存在し、付着させて2日後に見ることができる。実施例12に記載のように、ロゼットのパーセント、従って、神経誘導効率を評価した。
【0110】
実施例12.存在する神経外胚葉のパーセントを求めるための、260〜280mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲内の培地中での懸濁培養から得られた付着EBの形態学的評価
解離したEBを播種した2日後に(実施例11を参照されたい)、ロゼット構造が目に見えるようになった(図8)。これらの神経ロゼットは、サイズの異なる(size-ranged)ロゼット、複数の細胞層のある「ひだ状」ロゼット、および細胞単層の「星状」ロゼットの混合物であった。ロゼットを含有するコロニーのパーセントを見積もるために、スコアリング基準を設けた。基準を厳しくするために、50%超のロゼットが存在するコロニーのみを計数した。これより低いパーセントのコロニーは含めなかった。以下の式を用いて、神経ロゼットの全パーセントを計算した:「コロニーの総数/存在するロゼットが50%を超えるコロニーの数」。図9はロゼット数の結果をまとめたものである。
【0111】
実施例13.重量オスモル濃度範囲が290〜340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でEBを5日間、懸濁培養および播種すると、内胚葉細胞系列および中胚葉細胞系列が誘導され、外胚葉細胞系列は効率的に誘導されない
実施例6および7に記載の方法ならびに培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kgを用いて、H1 hESCを用いてEBを形成し、異なる胚葉の細胞を誘導した。実施例11の方法に記載のようにEBを培養し、付着させた。前記実施例において使用したmTeSR(登録商標)1-F 260〜280mOsm/kgと比較して、280より高い重量オスモル濃度では、形態学的な違いがはっきりと観察された。290mOsm/kgの重量オスモル濃度において観察されたロゼットは低重量オスモル濃度と比較して少なかった。EBを付着させた後に観察することができる細胞形態を図10に示した。図17は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよびmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で誘導された細胞上にあるネスチンおよびSox1の免疫細胞化学的染色(実施例17を参照されたい)を示す。重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地を用いると多くのロゼットが観察されたのに対して、他の3種類の重量オスモル濃度ではロゼット形成が減少した。さらに、培地mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgにおけるネスチンおよびSox1の発現は、培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgと同程度に重ならなかった。以前に公表されたように(Odorico et al., 2001 ; Ferreira et al., 2007, Gerrard et al., 2005)、平らな「丸石状」の細胞ならびに平らな細胞および紡錘状の形態の細胞から明らかなように、まず間違いなく、付着EBコロニーに存在する他の細胞系列は内胚葉由来および中胚葉由来のものであった(図10を参照されたい)。これらの中胚葉性前駆細胞および内胚葉性前駆細胞がネスチンを発現する可能性はあり、これは、以前に述べられている現象である(Wiese et al., 2004)。図11に示したように、これらの細胞は、ネスチン/Sox1ダブルポジティブ細胞と比較して平らなようにみえる。
【0112】
実施例12に記載のスコアリング基準を用いて、ロゼット構造のパーセント、従って、外胚葉/神経前駆細胞のパーセントを見積もり、mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kgおよび340mOsm/kgを用いて行われた実験のパーセントを図12に示した。
【0113】
実施例14.神経ロゼットコロニーが選択的に剥離され、mTeSR(登録商標)1 260〜280mOsm/kgの中では、付着EB培養物から神経前駆細胞が播種されるが、mTeSR(登録商標)1 340mOsm/kgの中では、付着EB培養物から神経前駆細胞が播種されない。
付着条件で最低3日間、培養期間5〜6日で培養した後に、実施例12に記載のようにEBの機械的破砕によって作製されたコロニーを、任意で、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて化学的に解離した。別の化学的方法が用いられてもよく、化学的方法と酵素の使用が組み合わされてもよい。また、酵素は単独で、または機械的方法と組み合わせて用いられてもよい。任意で、酵素はAccutase(商標)である。
【0114】
この目的は、さらに増殖することができる単一の神経前駆細胞の集団を得ることであった。この方法は、選択的に神経前駆細胞を収集できることが見出された。これは、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4の新規の特性であり、以前に述べられたことはない。他の細胞タイプはプレートから効率的に剥離せず、後の破砕段階において収集されない。図13は、形態学的変化の時間経過/プレートからの神経前駆細胞の剥離を示す。
【0115】
この手順には、細胞培養培地を吸引した後に、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4によって短時間、洗浄することが含まれる。コロニーを、6ウェルディッシュのシングルウェルあたり1mlの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で覆った。ディッシュを、滅菌した細胞培養フードの中で室温で、最低30分間、任意で90分間、最大2時間までインキュベートした。60分後、神経前駆細胞を含有するコロニーはプレートから剥がれ始めた(図13を参照されたい)。細胞を収集するのに最適な時点は、細胞を穏やかに粉砕しようとすることで確かめられた(通常、90分)。穏やかな破砕を用いて細胞がプレートから剥離されなければ、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4とさらにインキュベートした。細胞が容易に剥離されたら、さらに粉砕した(任意で5〜10x)。これから、ほぼ単一細胞からなる懸濁液が得られた。平らな形態を示し、神経運命にない細胞はプレートに付着したままであった。細胞懸濁液を15mLコニカルチューブに移し、300xgで5分間、遠心分離した。bFGF(10ng/mL)を含有するmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg 1mLに細胞を再懸濁した後に、シングル6ウェルの細胞を、1ウェルにつき3つのガラススライド(12mm直径)を備える、プレコーティングされたポリ-L-オルニチン/ラミニン6ウェルディッシュ(実施例18を参照されたい)の上に播種した。1日おきに培地を交換した。これらの培養条件下で、細胞は、少なくとも3継代にわたって、任意でさらに長く未分化に保つことができ(実施例16を参照されたい)、さらに、実施例16に記載の手順を用いて、神経前駆細胞を特定するために免疫染色の処理もされた。1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4による剥離は非常に効率的であり、神経ロゼットに対して選択的であり、この段階の間に汚染非神経細胞を同時に収集しない。図14は、播種して3日後、6日後、および12日後の、播種された神経前駆細胞を示す。図15は、細胞播種後6日目に行われた、神経細胞マーカーであるネスチンおよびSox1についての免疫細胞化学的染色を示す。
【0116】
最初に、培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgに供し、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて神経前駆細胞に解離したヒトESCは典型的なロゼット構造を生じた。このロゼット構造はネスチンおよびSox1について共染色された。
【0117】
実施例6、7、および13に記載のように、最初に、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で形成および培養された付着EBコロニーから、Sox1およびネスチンを同時発現している神経前駆細胞を得ることができなかった。
【0118】
胚葉誘導、特に、外胚葉運命の誘導、これに続く神経前駆細胞の選択に及ぼす培地重量オスモル濃度の影響の概要を示すために、実施例12および13は、EB形成および培養に使用した培地の重量オスモル濃度が、多能性ヒト幹細胞がたどる胚葉運命を成熟細胞タイプに分化する方向に向けることをはっきりと証明している。実施例14から、重量オスモル濃度範囲260〜280mOsm/kgの培地中で得られた神経前駆細胞は選択的に継代することができ、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で作製および増殖されたEBから得ることができないことが分かる。このことから、異なる重量オスモル濃度が細胞運命の決定に影響を及ぼすと再度、強調される。
【0119】
実施例15.機械的選択手順による神経ロゼットからの神経前駆細胞の選択
高度に純粋な神経前駆細胞集団を得るために、(実施例11において作製されたように)付着EBコロニーから神経ロゼットを手作業で単離した。このために、注射器に取り付けた湾曲した26ゲージ針を使用した。針を用いて、多くのロゼットが存在する領域をポリ-L-オルニチン/ラミニンマトリックスから切断し、200μlピペットチップを用いてディッシュから取り出すことによって、ロゼットを単離した。ロゼットを滅菌1mlチューブに移した。切除された全てのロゼット構造をプールした後に、200μlピペットチップを用いて機械的に破壊し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した(実施例18)。2〜3つのシングル6ウェルから単離されたロゼットを1つの6ウェルディッシュ上に播種した。この手順から高度に純粋な神経前駆細胞集団が得られた。この神経前駆細胞集団は、図16に示したように、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ(実施例18を参照されたい)の上に播種した1日後に、ロゼットを含有する小さなクラスターを形成した。次いで、実施例16に記載の方法に従って、これらのクラスターの中の神経前駆細胞をさらに継代および維持することができた。
【0120】
実施例16.神経前駆細胞を継代する方法
神経前駆細胞を継代する様々な方法を利用することができる。以下で使用する方法は、神経細胞の単一細胞懸濁液を作製するために首尾一貫して機能する。前記の実施例14または15からの培養神経前駆細胞が80〜90%コンフルエントに達した時に(3〜4日後)、0.5%トリプシン-EDTA(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07910)に短時間曝露することによって、神経前駆細胞を継代した。継代は3〜4日ごとに行い、以下で概説する。この段階のために、培地を吸引し、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で1回、洗浄した。PBSを吸引した後に、500〜600μlの0.5%トリプシン-EDTAを6ウェルの神経前駆細胞に添加した。細胞がディッシュから剥離し始めるまで、または最大5分間、ディッシュを37℃でインキュベートした。同体積の培地または10%の胎仔ウシ血清(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号06902)を含有する1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を添加することによって、トリプシンを不活性化した。5mlセロロジカルピペットを用いて、細胞を注意深く粉砕した。細胞懸濁液を300xgで5分間、遠心分離した。上清を吸引し、細胞を取り外すために、細胞ペレットを穏やかに軽くたたいた。500μlの新鮮な培養培地を添加し(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg+10ng/ml bFGF)、1000μlピペットチップを用いて、細胞を2〜4回粉砕した。細胞を1:3〜1:6の比で分割した。培地を1日おきに交換した。図17は、播種して2日後の、継代1の継代神経前駆細胞を示す。
【0121】
実施例17.mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび340mOsm/kgの中で誘導および増殖された神経前駆細胞のマーカー発現に基づく免疫細胞化学による特定
実施例6、7、9、11、および13に記載のように、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたは340mOsm/kgを用いて、外胚葉由来の前駆細胞を様々な程度まで誘導した。破壊されたEB(実施例11および13を参照されたい)を、1ウェルにつき3枚の(ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた)カバーガラス(VWRマイクロカバーガラス, カタログ番号89015724)を備える6ウェルの上に播種した。外胚葉性前駆細胞、従って、神経前駆細胞のパーセントを評価するために、神経マーカーについて免疫細胞化学を行った(図11)。選択および増殖後の神経前駆細胞の存在(実施例14、15、および16;図14および17)も調べた。任意で、細胞が播種されて2日後に、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで室温で20分間、固定した。カバーガラスを1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で2回洗浄し、免疫細胞化学が行われるまで、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4に溶解して4℃で保管した。
【0122】
免疫細胞化学の日に、細胞を、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて室温で、短時間リンスした。穏やかに振盪しながら、10%正常ロバ血清(Jackson Immunoresearch Laboratories, カタログ番号017000121)および0.2%Triton X(Sigma, カタログ番号T9284)からなるブロッキング溶液を室温で1時間、適用した。その後に、適切な濃度の抗体(以下を参照されたい)および2%正常ロバ血清を含有する一次抗体溶液を室温で1時間、添加した。
【0123】
初期胚外胚葉を特定するために、抗体が、Sox1(ヤギα-Sox1, 1:200, Neuromics,カタログ番号GT15208)およびネスチン(マウスα-ネスチン,1:3000, Millipore, カタログ番号MAB5326)に対して作製された。一次抗体とインキュベートした後、穏やかに振盪しながら、細胞を、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて3x15分間、室温で洗浄した。一次抗体が得られた種に対して作製され、ロバにおいて作製され、FITC(α-マウス)(Jackson Immunoresearch Laboratories, カタログ番号715095150;1:500)またはテキサスレッド(α-ヤギ)(Jackson Immunoresearch Laboratories, カタログ番号705075003;1:500)に結合した二次抗体を用いた30分のインキュベーション段階によって、一次抗体を検出した。非特異的結合を洗い流すために、細胞を、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて3回、洗浄した。カバーガラスをマウントするために、細胞を蒸留水に短時間浸けた。DAPI(Vector laboratories, カタログ番号H-1500)を含有するマウント溶液を1滴カバーガラスに落とし、細胞を下向きにして、カバーガラスをガラススライド(Corning microslides, カタログ番号2947)の上にマウントした。ガラススライドの上にマウントしたカバーガラスを完全に乾燥させた後に、各フルオロフォアに適切なフィルターを用いて、蛍光顕微鏡下で免疫蛍光を視覚化した。図8に示したように、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で誘導および培養された神経ロゼットを含有する細胞において、ネスチンおよびSox1の同時発現が観察された。図11は、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で培養した神経前駆細胞におけるネスチンおよびSox1の同時発現を示す。mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で誘導された付着EBコロニーおよび神経前駆細胞は、全体的に見て、これらの2つのマーカーによる染色が弱かった。
【0124】
実施例18.ポリ-L-オルニチン/ラミニンによるディッシュのコーティング
細胞またはEBを培養容器に付着させた前記の全ての実施例において、培養前に細胞外マトリックスまたはマトリックスの組み合わせを調製した。例えば、プラスチックポリスチレン細胞培養ディッシュ、ならびに24ウェルプレートのシングルウェルの中に配置されるカバーガラス、またはシングル6ウェルの中に3個同じものが配置されるカバーガラスを、任意で、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングした。簡単に述べると、プラスチック培養ディッシュまたはカバーガラスを、ポリ-L-オルニチン(Sigma, カタログ番号P4957)で、室温で、任意で一晩、少なくとも2時間覆った。ディッシュを、室温の1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で2回洗浄した。3回目の洗浄液は、滅菌した蒸留水またはDMEM/F12からなった。5μg/mlの濃度のラミニン(Sigma, カタログ番号L2020)を氷冷DMEM/F12に溶解した。氷冷したセロロジカルピペットを用いてディッシュから水またはDMEM/F12を吸引した後に、ラミニン溶液を添加した。シングル6ウェルには1mlを使用し、シングル24ウェルには500μlを使用した。プレートを、任意で12時間、少なくとも2.5時間、37℃にした。細胞を播種する前に、ラミニン溶液を捨て、培地を添加した。
【0125】
実施例19:ニューロンへの神経前駆細胞の分化およびその検出
mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地からbFGFを除去し、GDNF、cAMPなどがあるが、これに限定されない因子を添加することによって、神経前駆細胞の分化を開始した。この培地と細胞を最低5日間インキュベートした。培地を2日ごとに交換した。図18は、成熟ニューロンマーカーであるTUJ1によって染色されたニューロン(免疫細胞化学的染色法については、実施例17を参照されたい)を示す。ニューロンは、実施例7、9、および11に記載のように、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを用いてEBとして最初に誘導されたhESCのみから得ることができ(図18の左側)、実施例7および13に記載のように、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgを用いてEBとして最初に誘導されたhESCから得ることができなかった(図18の右側)。
【0126】
実施例20.合成無血清培地中、BD Matrigel(商標)コーティング上での凝集物としてのヒト多能性幹細胞の培養
合成無血清培地中、BD Matrigel(商標)でコーティングされたディッシュ上でヒト多能性細胞を維持した。BD Matrigel(商標)コーティングの手順を含むヒト多能性幹細胞を維持するための詳細なプロトコールは、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.によるマニュアル番号29106「Maintenance of hESCs AND hiPSCs in mTeSR(登録商標)1 and TeSR(商標)2」において見られる。細胞を継代するための本実施例に記載の手順を、ヒト胚性幹細胞H1株およびH9株ならびにヒト人工多能性幹細胞4D1株に適用した。コロニーが大きく、合体し始め、縁と比較して中央の密度が濃くかつ明るい位相となった時に、細胞を継代した(図1を参照されたい)。播種された凝集物のサイズおよび密度に応じて、初回播種の5〜7日後に、培養物を継代した。
【0127】
幹細胞培養物から培地を吸引し、細胞をDMEM/F-12(2mL/ウェル)でリンスした。1mg/mLの濃度のディスパーゼ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07923)を1ウェルにつき1mL添加した。ディッシュを、7分間、37℃にした。
【0128】
コロニーの縁がわずかに折り畳まれているように見えたら、ディスパーゼを除去し、残っているディスパーゼを希釈するために、各ウェルを1ウェルにつき2mLのDMEM/F-12で2〜3回、穏やかにリンスした。2mL/ウェルのDMEM/F-12またはmTeSR(登録商標)1をウェルに添加し、細胞スクレーパー(例えば、Corningカタログ番号3010)またはセロロジカルピペットチップを用いて、コロニーをこそげ落とした。
【0129】
剥離した細胞凝集物を15mLコニカルチューブに移し、ウェルを、さらに2mLのDMEM/F-12でリンスして、残りの凝集物を全て収集した。残っている細胞を含有する、リンスされた培地を同じ15mLチューブに添加した。
【0130】
凝集物を含有する15mLチューブを300xg、室温(15〜25℃)で5分間、遠心分離した。上清を吸引した。15mLチューブに収集したhESC凝集物の各ウェルについて、1〜2mLのmTeS(登録商標)1を添加した。P1000マイクロピペットを用いて上下に(1〜2回)ピペッティングすることによって、ペレットを穏やかに再懸濁した。細胞を凝集物として維持した。「凝集塊カウント」法を用いて、凝集塊の数を見積もった。付着および増殖している可能性の高い、正しいサイズ(直径が約50〜60pm)の凝集塊を数え上げるために、顕微鏡の接眼レンズの中に入れられているマイクロメーターを使用する。凝集塊カウントを行うために、30μLのDMEM/F-12を96ウェル平底プレートのウェル2つに分注した。カウンティンググリッドとして役立つように、これらのウェルの底の中心に「+」を書いた。5μLの新たに混合した凝集塊懸濁液を各ウェルに添加した。約3500μm2またはこれより大きい凝集塊を2回繰り返してカウントした。これは、直径が約60μmの凝集塊に相当する。以下の式:
1μlあたりの凝集塊の総数=カウントしたx個の凝集塊/5μLの懸濁液総体積
を用いて、1μlあたりの凝集塊の総数を見積もった。
【0131】
播種されているウェルまたはディッシュのサイズに応じて、決められた数の凝集塊を播種した。適切な播種密度についての表1の案内を用いて、新たなディッシュに播種するのに使用する凝集塊懸濁液の体積(y)を計算した。例えば、6ウェルに対する(y)は以下に等しい:350/1μLあたりにカウントされる凝集塊の数。
【0132】
BD Matrigel(商標)でコーティングされた新たな6ウェルにつき2mLのmTeSR(登録商標)1と共に、ヒト多能性幹細胞凝集物を播種した。ウェルの表面全体にわたって細胞を均等に分散させるために、プレートを数回、素速く短時間で前後左右に動かした。プレートを37℃インキュベーターに入れた。前記のプロトコールを、H1細胞、H9細胞、および4D1細胞に適用し、これらの細胞を、本開示に記載の実施例のための一貫した細胞供給源として使用した。
【0133】
図19は、培養5日目の未分化なH1 hESC(A)および4D1 iPSC(B)を示す。
【0134】
実施例21.BD Matrigel(商標)コーティングのある合成無血清培地中での単一細胞としてのヒト多能性幹細胞の培養
ヒト多能性幹細胞を、mTeSR(登録商標)1などの合成無血清培地中で、BD Matrigel(商標)でコーティングされた6ウェルディッシュ上で維持した。本実施例において、ヒト胚性幹細胞H9株細胞を単一細胞として培養し、これらの細胞を実施例37に使用した。継代時間は、細胞コロニーの集密度に基づいて決められた。細胞コロニーは、前の継代から5〜6日間培養した後に約70%コンフルエント(図20A)に達した。
【0135】
細胞を継代するために、幹細胞培養物から培地を吸引し、細胞をDMEM/F-12(2mL/ウェル)でリンスした。1ウェルにつき1mLのAccutase(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07920)を添加した。全ての細胞が剥がれるまで、ディッシュを8〜10分間、37℃にした。
【0136】
5mlのDMEM/F-12をAccutaseに添加し、5mLセロロジカルピペットを用いて、細胞凝集物を解離して単一細胞懸濁液にした。細胞を15mLコニカルチューブに移し、ウェルをさらに2mLのDMEM/F-12でリンスして、残りの細胞を収集した。残っている細胞を含有する、リンスされた培地を同じ15mLチューブに添加した。
【0137】
単一細胞懸濁液を含有する15mLチューブを300xg、室温(15〜25℃)で5分間、遠心分離した。上清を吸引した。各ウェルから収集し、次いで、15mLチューブに移した幹細胞を、1〜2mLのmTeS(登録商標)1に溶解して日常的に再懸濁した。P1000マイクロピペットを用いて(1〜2回)上下に穏やかにピペッティングすることによって、ペレットを再懸濁した。標準的な技法を用いて、90μLのトリパンブルー(Invitrogen, カタログ番号15250061)で10μL細胞懸濁液試料を1:10に希釈し、血球計算器で未染色細胞を計数することによって、生細胞を計数した。1μlあたりの細胞の数から、新鮮なMatrigel(商標)でコーティングした6ウェルディッシュに播種される細胞の体積を計算することができる。播種後の細胞生存を高めるために(Watanabe et al, 2007)、最終濃度10μg/mLのY27632 rock阻害剤(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07171/2)と共に細胞3x103〜5x103/1cm2の密度で、Y27632が無い場合は、2x104〜5x104/1cm2の密度で、細胞を播種した。図20(C)は、播種して1日後に2x104/cm2の密度で播種された多能性幹細胞(H9)を示す。
【0138】
実施例22.mTeSR(登録商標)1の中、BD Matrigel(商標)上で凝集物または単一細胞として増殖させたヒト多能性幹細胞株の多能性の形態学的評価
胚葉誘導を成功させるために、高度に純粋な多能性幹細胞の集団を使用した。以下の実施例のために、ヒト胚性幹細胞H1株、H9株、およびヒト人工多能性幹細胞4D1株を使用した。以下の基準を用いて、細胞の形態および質を評価した(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.による技術マニュアル番号29106に記載されている)。図1および19に示したように、未分化なヒト多能性幹細胞が、密集した多細胞のコロニーとして増殖した。これらは、高い核:細胞質比および顕著な核小体を示した。これらのコロニーは特異な境目を特徴とした。健康なhESC(およびiPSC)コロニーは中心で多層状になり、位相差顕微鏡下で観察した時に、位相の明るい細胞のクラスターとなった。分化は、境目の完全性の消失、コロニー内での全体の不均一な細胞形態、および明らかに異なる細胞タイプの出現を特徴とした。分化細胞タイプを示すコロニーのパーセントは、(4xおよび10x対物レンズを使用した)顕微鏡下でコロニーを観察することによって見積もられた。効率的に胚葉を誘導するために、分化が40〜50%の培養物を用いた実施例37を除き、分化コロニーが15%未満の培養物を以下の実施例において使用した。
【0139】
この多能性評価基準を、凝集物として培養したヒト多能性幹細胞(実施例20)ならびに単一細胞として培養した細胞(実施例21)に使用した。
【0140】
実施例23.重量オスモル濃度範囲の異なる培地製剤:重量オスモル濃度270mOsm/kgの因子フリーのmTeSR(登録商標)1培地
改変TeSR(mTeSR(登録商標)1、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号05850)のための完全培地製剤および調製方法は、Ludwig et al, Nature Methods 3(8): 637, 2006において公表されている。これは、Ludwig et al., Nature Biotechnology 24(2): 185, 2006において公表されているオリジナルのTeSR製剤をベースとし、以下の変更:ヒト血清アルブミン(HSA)とウシ血清アルブミン(BSA)との交換を加えた。
【0141】
因子フリーのmTeSR(登録商標)1(mTeSR(登録商標)1-F)培地を製造するために、以下の5種類の因子:GABA、ピペコリン酸、bFGF、TGFβ1、塩化リチウム以外は、mTeSR(登録商標)1試薬の全てを5倍濃度で含有する5xサプリメントを作製した。培地の成分を表2に示した。
【0142】
5xサプリメントの成分を一緒に混合した後に、10N NaOHを添加することによって、pHを7.4に調節した。標準的な浸透圧計を用いて、溶液の重量オスモル濃度を測定した。5xサプリメントの初期重量オスモル濃度は、通常、約100mOsm/kgであった。5xサプリメントを400mlの基本培地DMEM/F12(Hyclone, カタログ番号SH30004)と組み合わせてmTeSR(登録商標)1-Fを得ることを考慮に入れながら、重量オスモル濃度を上げるために塩(NaCl)を使用した。以下の式を用いて、5xサプリメントに添加しなければならない塩の量を計算した:5xサプリメントおよび基本培地を混合した後に、270の重量オスモル濃度を得るためには
[270-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=0.30g/LのNaCl
である。
【0143】
x量のNaClを5xサプリメントに添加して、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを得た。
【0144】
実施例24.AggreWell(商標)800においてEBを形成するための、ヒト多能性細胞の単一細胞懸濁液の作製
ヒト多能性幹細胞から単一細胞を作製し、AggreWell(商標)800プロトコールおよび装置において使用する手順は、技術マニュアル29146(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.)に記載されている。以下の実施例において単一細胞懸濁液に解離され、AggreWell(商標)800においてEBを作製するのに用いられたヒト多能性幹細胞株は、ヒト胚性幹細胞H1株、H9株、および人工多能性幹細胞4D1株であった。多能性幹細胞から単一細胞懸濁液を得る方法の詳細は実施例6に記載されている。本実施例において、細胞を再懸濁するのに使用した培地はmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgであった(実施例23を参照されたい)。AggreWell(商標)800におけるEBの作製は以下の実施例に記載されている。
【0145】
実施例25.マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fにおけるヒト多能性幹細胞からのEB形成、その後の同じ培地における懸濁培養
実施例24に記載のように、ヒト多能性幹細胞(本実施例ではヒト人工多能性幹細胞4D1株を使用した)の単一細胞懸濁液を得た。ここで、EB 1個あたり2000個の細胞のサイズを有するEBをAggreWell(商標)800において作製した。一般的に、AggreWell(商標)800では、1000個の細胞〜20000個の細胞のサイズのEBを作製することができる。実施例7に記載のように、プレートを調製した。AggreWell(商標)400ウェルと比較して、AggreWell(商標)800プレートのシングルウェルには約300個のマイクロウェルが含まれる。表3に示したように、AggreWell(商標)800において2,000個の細胞を含むEBを得るためには、プレートの各ウェルに600,000個の細胞を添加する必要がある。600,000個の細胞を含有する、実施例22において作製された単一細胞懸濁液の体積を、得られた細胞数に基づいて求めた(細胞数の計算については、実施例6を参照されたい)。この体積を、前もって調製されたAggreWell(商標)800プレートの各ウェルに添加した(実施例7を参照されたい)。本実施例において使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fであった。細胞懸濁液を、AggreWell(商標)800プレートの約300個のマイクロウェルに分配した。培地を、1ウェルにつき最終体積2mLまで添加した。マイクロウェルにある細胞を捕捉するために、AggreWell(商標)800プレートを100xgで3分間、遠心分離した。プレートを、37℃、5%CO2および95%湿度で24時間インキュベートした。
【0146】
24時間後、EBの大部分を取り外すために、AggreWell(商標)800マイクロウェルの中で、1mLディスポーザブルピペットチップを用いて培地を2〜3回穏やかに上下にピペッティングすることによって、EBを収集した。EBを収集するために、懸濁液を、50mlコニカルチューブの上に置いた上下逆さの40μmナイロンセルストレーナー(Falcon)に通して、単一細胞および破片を除去した。全ての凝集物を取り外すために表面全体にわたってピペッティングしながら、AggreWell(商標)800表面を、さらに5〜10回、それぞれ1mlのDMEM/F-12で洗浄した。全ての洗浄液をセルストレーナーメンブレンに適用した。セルストレーナーを上下反対にし、低付着性6ウェルを覆うように近づけた。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地を用いて、メンブレンからEBを洗い流した。ストレーナーを、6ウェル超低付着性ディッシュ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号27145)のシングルウェルの上に置きながら、約5mLの培地を用いてEBをナイロンメンブレンから取り出した。EBを、37℃、5%CO2、および95%湿度の標準的な組織培養インキュベーターに入れて5日間インキュベートし、培地を2〜3日ごとに交換した。このために、ディッシュを一方に傾け、1000μlピペットチップを用いて、EBを乱すことなく培地体積の約半分を除去した。新鮮な培地を5mlまで添加した。図21は、24時間後、収集前の、AggreWell(商標)800プレートのマイクロウェルの中で4D1多能性幹細胞から作製されたEB(倍率4xおよび倍率10x)、ならびに2日間および4日間、懸濁培養された後の遊離EB、倍率2xおよび倍率10xを示す。
【0147】
実施例26.神経外胚葉を得るための、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からのEB形成、その後の懸濁培養、それに続くEBの播種
実施例24に記載のように、ヒト人工多能性幹細胞4D1株から単一細胞懸濁液を得、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)800の中でEBを作製し、実施例25に記載のように懸濁培養した。5日後に、EBをポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレート上に播種した(プレートのコーティングについては実施例18、ならびにEBを解離し、その後に解離EBを播種するための手順については実施例11を参照されたい)。播種して3日後に、実施例12の方法を用いて、外胚葉の存在を評価した。図22は、ヒト人工幹細胞4D1株からEB 1個あたり2000個の細胞のサイズで形成した、付着され播種されたEBの中にある神経ロゼットを示す。
【0148】
実施例27.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fまたは重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1を含有するマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)の中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導、それに続く、同じ培地中でのEBの培養および播種
実施例24に記載のように、ヒト人工多能性幹細胞4D1株およびヒト胚性幹細胞H9株から単一細胞懸濁液を得た。2種類の異なる培地、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを使用した以外は、実施例25に記載のようにAggreWell(商標)800の中でEBを作製した。表3の計算を用いて、両培地中で、4D1細胞からEB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEBを作製した。両培地、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で、実施例24および25に記載の方法ならびに表3に示されたEBサイズの計算を用いて、H9細胞から5000個の細胞のサイズのEBを作製した。実施例25に記載のように24時間後に、マイクロウェル装置からEBを収集した。これは、EB 1個あたり5000個の細胞を含有するEBの場合、EBをマイクロウェルから取り外すために異なる技法を用いたプロトコールと異なる。3000個の細胞より大きなEBを取り外すためには、大口径のチップ(例えば、Raininカタログ番号HR-1000 WS)、または口径サイズを大きくするために無菌的にチップが切断された普通の1000μlディスポーザブルピペットチップ。さらに、AggreWell(商標)800ウェルからのEBの回収を向上させるために、EBを取り外すには普通の1000μlディスポーザブルチップを使用し、セルストレーナー上にあるEBを収集するには、さらに幅の広い(切断した)チップを使用した(実施例25を参照されたい)。
【0149】
実施例25に記載のように、EBを懸濁培養し、5日後に、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレート上に播種した(プレートのコーティングについては実施例18、EBの播種については実施例11を参照されたい)。播種して4〜5日後に、実施例12の方法を用いて、外胚葉の存在を評価した。図23は、両培地中で両細胞株(H9 A〜D、4D1 E〜H)から形成した、付着され播種されたEBの中にある神経ロゼットを示す。熟練者の判断に依れば、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの培地に存在する神経ロゼットは、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較して明らかに多い。実施例12に記載のように、神経ロゼットのスコアリングを行った(4D1付着EBは4日目にスコアリングし、H9付着EBは5日目にスコアリングした)。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fにおける神経ロゼット含有コロニー(面積の50%超が神経ロゼットで覆われているコロニー)のパーセントは、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較して高い。図23にはスコアリング結果も示した。
【0150】
実施例28.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているマイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)の中でのサイズの異なるEBを5日間、連続培養して、外胚葉を誘導する
実施例6に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から単一細胞懸濁液を得た。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみを使用した以外は実施例7に記載のように、EBを作製した。異なるサイズのEB:500個、1000細胞、および2000個の細胞を形成した。細胞数に応じて、AggreWell(商標)400ウェルに添加する単一細胞懸濁液体積を計算した。この数は表3に示されている。本実施例では、24時間後にAggreWell(商標)400プレートからEBを収集する(実施例9を参照されたい)代わりに、EBを最大11日間マイクロウェルの中に放置した。ディスポーザブル1mLチップを取り付けたマイクロピペッターを用いて、個々のAggreWell(商標)400ウェルから約1.5mlの培地を除去することによって、培地を毎日交換した。予め温めた(37℃)新鮮なmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地をウェルにゆっくりと分配し、それによって、確実に、マイクロウェルの中のEBが乱されないようにした。
【0151】
実施例29.マイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)を用いて、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でヒト多能性幹細胞から神経外胚葉を誘導して、異なるサイズのEBを作製し、同じ装置の中でEBを培養し、EBを播種する
実施例27に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から様々なサイズ(EB 1個あたり500個、1000個、および2000個の細胞)のEBを作製した。EBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgが入っているマイクロウェル装置AggreWell(商標)400の中で5日間、培養した。EBを遊離して播種するために、EBを超低付着性プレート上に播種せず、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレートに直接播種した以外は、実施例9に記載の方法と同じ方法を使用した(実施例18を参照されたい)。2mLの培地を用いて、セルストレーナー(Falcon)からEBを洗浄した(実施例9を参照されたい)。ウェルの表面全体にわたってEBを均等に分散させるために、6ウェルプレートを前後に動かした。プレートを、37℃、5%CO2、および95%湿度のインキュベーターに、形態学的評価の前に少なくとも2日間入れた。実施例12に記載のように、外胚葉を示す神経ロゼットの形態学的評価を行った。図24は、播種して1日後の、様々なサイズの付着EB(EB 1個あたり500個の細胞(A、B)、EB 1個あたり1000個の細胞(C、D)、EB 1個あたり2000個の細胞(E、F))を示す。当業者には、神経ロゼットは、全ての付着EBの中に、ほぼ100%の程度で存在する。
【0152】
実施例30.重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞の非常に効率的な神経外胚葉誘導と、外胚葉を誘導するための、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)の中でのEBの形成および連続培養、その後のEBの播種
実施例7に記載のように、AggreWell(商標)400の中で、ヒト胚性幹細胞H9株からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fであった。2種類のサイズのEB:EB 1個あたり500個の細胞およびEB 1個あたり2000個の細胞を作製した。実施例29に記載のように、EBをマイクロウェル装置の中で5日間培養し、次いで、播種した。図25は、両培地中に2種類のサイズで播種された2日目のEBの形態ならびにスコアリング結果(面積の50%超がロゼットを含有するコロニー)を示す。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導が、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fより効率的であることが分かった。
【0153】
実施例31.外胚葉を誘導するための、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)における異なるサイズのEBの5日間の連続培養
実施例24に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から単一細胞懸濁液を得た。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみを使用した以外は実施例25に記載のように、EBを作製した。AggreWell(商標)800中で、異なるサイズのEB:2000個、5000個、10000個、15000個、および20000個の細胞を形成した。細胞数に応じて、AggreWell(商標)800ウェルに添加する単一細胞懸濁液体積を計算した。この数は表3に示されている。本実施例では、24時間後にAggreWell(商標)800プレートからEBを収集する代わりに、EBを最大11日間マイクロウェルの中に放置した。ディスポーザブル1mLチップを取り付けたマイクロピペッターを用いて、個々のAggreWell(商標)800ウェルから約1.5mLの培地を除去することによって、培地を毎日交換した。予め温めた(37℃)新鮮なmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地をウェルにゆっくりと分配し、それによって、確実に、マイクロウェルの中のEBが乱されないようにした。
【0154】
実施例32.マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)の中でEBを形成および培養し、その後にEBを播種するために、この装置を用いた、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞から神経外胚葉の誘導
実施例31に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から様々なサイズのEBを作製した。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgが入っているマイクロウェル装置AggreWell(商標)800の中で、EBを5日間培養した。EBを遊離して播種するために、EB 1個あたり3000個より多い細胞のEBの場合、EBを超低付着性プレート上に播種せず、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレートに直接播種した以外は、実施例27記載の方法と同じ方法を使用した(実施例18を参照されたい)。2mLの培地を用いて、セルストレーナー(Falcon)からEBを洗浄した。表面全体にわたってEBを均等に分散させるために、6ウェルプレートを前後に動かした。プレートを、37℃、5%CO2、および95%湿度のインキュベーターに、培養物を形態学的に評価する前に少なくとも2日間入れた。外胚葉を示す神経ロゼットの形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図26は、EBを解離および播種する前、5日目のAggreWell(商標)800のマイクロウェルの中にある様々なサイズの付着EBを示す。図27は、播種して1日後のEBを示す。経験者には、神経ロゼットはほぼ100%の程度で存在する。このことから、EB形成ならびに連続培養のために様々な数のヒト多能性幹細胞をAggreWell(商標)800の中で使用した時に、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgは、マイクロウェルの中で極めて高い効率で神経外胚葉を誘導できることが分かる。
【0155】
実施例33.重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞の非常に効率的な神経外胚葉誘導と、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)におけるEBの形成および培養
実施例31に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、ヒト胚性幹細胞H9株からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fであった。2種類のサイズ:EB 1個あたり2000個の細胞およびEB 1個あたり5000個の細胞のEBを作製した。EBをマイクロウェル装置内で5日間培養し、次いで、実施例31に記載のように播種した。図28は、播種されたEBの2日目の形態を示す。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fより効率的であることが分かった。
【0156】
実施例34.重量オスモル濃度範囲が異なる培地製剤:重量オスモル濃度400mOsm/kgおよび450mOsm/kgの因子フリーのmTeSR(登録商標)1培地
改変TeSR(mTeSR(登録商標)1、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号05850)のための完全培地製剤および調製方法は、Ludwig et al, Nature Methods 3(8): 637, 2006において公表されている。これは、Ludwig et al., Nature Biotechnology 24(2): 185, 2006において公表されているオリジナルのTeSR製剤をベースとし、以下の変更:ヒト血清アルブミン(HSA)とウシ血清アルブミン(BSA)との交換を加えた。
【0157】
因子フリーのmTeSR(登録商標)1(mTeSR(登録商標)1-F)培地を製造するために、以下の5種類の因子:GABA、ピペコリン酸、bFGF、TGFβ1、塩化リチウム以外は、mTeSR(登録商標)1試薬の全てを5倍濃度で含有する5xサプリメントを作製した。培地の成分を表2に示した。
【0158】
5xサプリメントの成分を一緒に混合した後に、10N NaOHを添加することによって、pHを7.4に調節した。標準的な浸透圧計を用いて、溶液の重量オスモル濃度を測定した。5xサプリメントの初期重量オスモル濃度は、通常、約100mOsm/kgであった。5xサプリメントを400mLの基本培地DMEM/F12(Hyclone, カタログ番号SH30004)と組み合わせて、mTeSR(登録商標)1-Fを得ることを考慮に入れながら、重量オスモル濃度を上げるために塩(NaCl)を使用した。以下の式を用いて、5xサプリメントに添加しなければならない塩の量を計算した:例えば、5xサプリメントおよび基本培地を混合した後に、400の重量オスモル濃度を得るためには
[400-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=4.3g/LのNaCl
である。
【0159】
x量のNaClを5xサプリメントに添加した。
【0160】
重量オスモル濃度の異なる2種類の培地:400mOsm/kgおよび450mOsm/kgを調製した。
【0161】
実施例35.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)400の中でのヒト多能性幹細胞の神経外胚葉誘導は、320mOsm/kg、340mOsm/kg、400mOsm/kg、および450mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲のmTeSR(登録商標)1-Fと比較して非常に効率的である
単一細胞懸濁液を、実施例6に記載のH9 hESCから得た。実施例7に記載のように、AggreWell(商標)400の中でEBを形成した。EB作製に使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kg(実施例23)、320mOsm/kg、340mOsm/kg(実施例5)、400mOsm/kg、および450mOsm/kg(実施例34)のmTeSR(登録商標)1-Fであった。培地には、EB形成中の細胞生存を高めるために、最終濃度10μg/mLのY27632 rock阻害剤も添加した。EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEBを作製し、24時間後に取り出し(実施例9を参照されたい)、破砕によって、播種するまで懸濁培養するか(実施例11を参照されたい)、またはAggreWell(商標)プレートの中に5日間放置し、次いで、播種した(実施例29を参照されたい)。
【0162】
図29は、培地mTeSR(登録商標)1-F 450mOsm/kgを除く様々な培地に入れて2日後のEB付着を示す。この培地の中で形成されたEBが1日目に示された。ロゼットのパーセントは、270重量オスモル濃度の培地において最も高く(100%)、320mOsm/kgおよび340mOsm/kgでは低下し、400mOsm/kgおよび450mOsm/kgではロゼット形成は観察されなかった。340より高い重量オスモル濃度では、播種後に細胞剥離および細胞死が観察されず、形態学的に特異な細胞タイプを特定できなかったことに留意のこと。図30は、これらの2回の実験のスコアリング結果を示す。面積の>50%がロゼットを含有するコロニーならびに全てのコロニーを計数した。ロゼットを含有するコロニーの比ならびに結果として生じたパーセントを示した。1日目の450mOsm/kg条件の目視検査からロゼットは認められなかった。
【0163】
実施例36.重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で、単一細胞培養物として維持されたヒト多能性幹細胞の非常に効率的な神経外胚葉誘導と、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)におけるEBの形成および培養
実施例21に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株を、継代51〜継代55(p51〜p55)の4継代にわたって培養単一細胞として継代した。AggreWell(商標)800においてEBを形成するために、実施例24に記載のように、継代55のH9単一細胞懸濁液を得た。実施例31および32に記載のように、EBを形成および回収した。図31は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)の中では神経ロゼットがmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(B)と比較して効率的に形成されたことを示す。このことから、重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地は、凝集物または単一細胞として培養したヒト多能性幹細胞において神経外胚葉を効率的に誘導できることが分かる。
【0164】
実施例37.高い分化パーセントを示すヒト多能性幹細胞培養物からの、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを含有するマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた効率的な神経外胚葉誘導
40〜50%の分化を示すH9細胞培養物からEBを形成した。実施例22に記載のように、細胞分化を形態学的に評価した。図32は、継代後およびEB作製前の、培養5日目の継代52 H9細胞(H9p52)を示す(A〜D)。分化した領域を丸で囲んだ。実施例24に記載のように、EB形成用の単一細胞を得、実施例25に記載のように、EBをAggreWell(商標)800の中で形成した。実施例31および32に記載のようにEBを培養および播種した。播種して2日後に、実施例12に記載のように神経ロゼットの形態学的評価を行った。図32は、播種後2日目のEBの形態ならびにスコアリング結果(ロゼットを含有する領域が>50%のコロニー)も示す(E〜H、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中でのEB作製(E、F);mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中でのEB作製(G、H))。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、出発集団中の多能性細胞のパーセントが85%未満でも、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fより効率的であることが分かった。85%未満は、本開示に記載の他の全ての実施例のカットオフとして用いられる未分化細胞含有コロニーのパーセントである。
【0165】
実施例38.mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを含有するマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた、ヒト胚性幹細胞H7株からの効率的な神経外胚葉誘導
実施例20に記載のように、hESC H7株を培養および継代した。EB 1個あたり5000個の細胞を使用した以外は実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgを用いて、p38細胞からEBを形成および培養した。実施例31に記載のように、EBをマイクロウェルから遊離し、播種した。図33は、播種されされて1日後の付着EBを示す。実施例12に記載のように、神経外胚葉が存在するかどうか形態学的評価を行った。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中でEBを形成および培養した場合、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較して、より多くの神経ロゼットが存在する。
【0166】
実施例39.EB形成および培養のためにマイクロウェル装置AggreWell(商標)400を用いた、Knockout(商標)D-MEM 340mOsm/kgと比較した、Knockout(商標)D-MEM 270mOsm/kgの中でのヒト多能性幹細胞培養物からの効率的な神経外胚葉誘導
実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中でヒト胚性幹細胞H9株(p44)からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、実施例5および22に記載のように塩化ナトリウムを用いて調節された、重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのKnockout(商標)-D-MEM(Invitrogenカタログ番号10829-018)であった(Knockout(商標)-D-MEMの標準的な重量オスモル濃度は約265mOsm/kgである)。EB 1個あたり2000個の細胞を含むEBを、Knockout(商標)-D-MEM 270mOsm/kgおよびKnockout(商標)-D-MEM 340mOsm/kgの中で形成した。実施例29に記載のように、EBをAggreWell(商標)400の中で5日間培養し、次いで、収集および播種した。図34は、播種されたEBの2日目の形態を示す。ロゼット構造の特定による、播種されたEBの形態学的評価から、重量オスモル濃度270mOsm/kg のKnockout(商標)-D-MEM中で培養したヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのKnockout(商標)-D-MEMと比較して効率であることが分かった。実施例12に記載のように、神経ロゼットのスコアリングを6日目に行い、パーセントを図34に示した。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのKnockout(商標)-D-MEMは、重量オスモル濃度340mOsm/kg のKnockout(商標)-D-MEMと比較して神経ロゼット誘導能が高いことが分かった。従って、調節された270mOsm/kgの重量オスモル濃度は、Knockout(商標)-D-MEMなどの別の培地製剤でも、ヒト多能性幹細胞の効率的な神経外胚葉誘導を支持した。
【0167】
実施例40.EB形成および培養のためにAggreWell(商標)400を用いた、重量オスモル濃度340mOsm/kgのNeurobasal(商標)培地と比較して、重量オスモル濃度270mOsm/kgのNeurobasal(商標)培地中で培養したヒト多能性幹細胞培養物からの効率的な神経外胚葉誘導
実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中でヒト胚性幹細胞H9株(p44)からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、実施例5および22に記載のように塩化ナトリウムを用いて調節された重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのNeurobasal(商標)培地(Invitrogenカタログ番号21103049)であった(Neurobasal(商標)培地の標準的な重量オスモル濃度は約220mOsm/kgである)。Neurobasal(商標)培地270mOsm/kgおよびNeurobasal(商標)培地340mOsm/kgの中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含むEBを作製した。EBをマイクロウェル装置内で5日間培養し、次いで、実施例29に記載のように播種した。図35は、AggreWell(商標)400プレートのマイクロウェルの中にある5日目のEB、ならびに収集および播種されて2日後のEBの形態を示す。Neurobasal(商標)培地270mOsm/kg中で、マイクロウェルならびに付着EBの中のロゼットは、Neurobasal(商標)培地340mOsm/kgより多く見えた。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのNeurobasal(商標)の中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのNeurobasal(商標)より効率的であることが分かった。実施例12に記載のように、播種後6日目にロゼットのスコアリングを行った。これから、重量オスモル濃度270mOsm/kgのNeurobasal(商標)の神経ロゼットパーセントの方が高いことは明らかである。従って、重量オスモル濃度270mOsm/kgの他の培地製剤も神経外胚葉を効率的に誘導するのに有用である。
【0168】
実施例41.2種類のウシ血清アルブミン(BSA)ロットを用いて調製された、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較して優れている
異なるBSAロットを入手および使用して、神経外胚葉誘導用の培地製剤mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび340mOsm/kgを調製した。実施例28および30に記載のように、AggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800を用いて、EB 1個あたり500個、2000個、および5000個の細胞を含有するEBをヒト胚性幹細胞H9株(それぞれ、p41、p45、およびp44)から作製した。mTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)270mOsm/kgまたはmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)340mOsm/kgが入っているAggreWell(商標)400(EB 1個あたり500個の細胞)またはAggreWell(商標)800(EB 1個あたり2000個および5000個の細胞)の中で、EBを5日間培養した。実施例29および31に記載の方法と同じ方法を用いて、EBを遊離および播種した。実施例12に記載のように、神経ロゼットを特定することによって形態学的評価を行った。図36は、播種して3日後の付着EBを示す。当業者には、mTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)270mOsm/kgの中で形成されたロゼットの量はmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)340mOsm/kgと比較して多く、重量オスモル濃度が低い培地のロゼットの方が形態学的に見分けが付くことが明らかになる。さらに、BSAロット3を含有するmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で培養した3日目の付着EBのスコアリングから、神経ロゼットのパーセントは、BSAロット3を含有するmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較して高いことが明らかである。従って、重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地は効率的な神経誘導およびロゼット形成を誘導する。
【0169】
実施例42.様々なサイズのEBを作製および培養するための、AggreWell(商標)400または800を用いた、BSAロット2を含有する重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F中でのヒト多能性幹細胞からの効率的かつ首尾一貫した神経外胚葉誘導
実施例30に記載のように、サイズの異なるEB(EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞)を、AggreWell(商標)800中でヒト胚性幹細胞H9株(p44およびp53)から形成した。実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中で、ヒトESC H1株p59から2000個の細胞を含有するEBも形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kg のmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2を含有する)が入っている、これらのAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを5日間培養した。実施例29および31に記載の方法に従って、後で播種するために、EBを遊離した。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。付着EB培養物には、実質的に100%のロゼットが存在した。図37は、播種して2日後の、サイズの異なる付着EBを示す。これらの結果から、BSAロット2を含有する重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを含有するAggreWell(商標)800またはAggreWell(商標)400の中で形成および培養されたEBにおける神経外胚葉誘導は非常に効率的であり、首尾一貫していることがはっきりと分かった(n=20実験)。
【0170】
実施例43.EBを作製および培養するためにAggreWell(商標)400を用いて、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを用いてTeSR(商標)2において培養したヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導効率はmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較して高い
実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400において、TeSR(商標)2(STEMCELL TECHNNOLOGIES INC.カタログ番号05860)の中で前もって培養および維持されたヒト胚性幹細胞H9株(p52)から、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを含有するAggreWell(商標)400の中でEBを形成し、マイクロウェルの中で5日間培養した。EBを遊離し、EBを播種する方法は実施例29に記載の通りである。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図38は、付着させて2日後の付着EBを示す。重量オスモル濃度の低い培地(270mOsm/kg)中で培養した細胞は、重量オスモル濃度の高い培地(340mOsm/kg)の中で培養した細胞より多くのロゼットを生じた。2日目に神経ロゼットもスコアリングし、図38にパーセントを示した。重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地中で播種されたEBは90%のロゼットを含有したのに対して、重量オスモル濃度340mOsm/kgの培地中で播種されたEBは18%のロゼットを含有した。
【0171】
実施例44.EBを作製および培養するために、AggreWell(商標)400およびAggreWell(商標)800を用いた、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのTeSR(商標)2培養ヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉誘導(両培地ともBSAロット2を含有する)
本実施例では、TeSR(商標)2(STEMCELL TECHNNOLOGIES INC. カタログ番号05860)の中で前もって培養および維持されたヒト胚性幹細胞H9株(p64)を用いて、EBを作製した。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2)またはmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2)340mOsm/kgが入っているAggreWell(商標)400の中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成し、この装置の中で、実施例28に記載のように5日間培養した。EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEBを、前記の両培地が入っているAggreWell(商標)800の中でも形成し、この装置の中で、実施例30に記載のように5日間培養した。EBを遊離および播種する方法は実施例29および31に記載されている。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図39は、AggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800から遊離され、2日間播種された後の付着EBを示す。EBを2日目に神経ロゼットについてもスコアリングし、図39にパーセントを示した。270mOsm/kg培地が入っているAggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800の中で形成されたEBは82〜89%の範囲でロゼットを含有し、340mOsm/kg培地が入っているAggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800の中で形成されたEBは41〜46%の範囲でロゼットを含有した。結果から、270mOsm/kgの重量オスモル濃度が神経外胚葉誘導を効率的に支持することが確かめられた。
【0172】
実施例45. EBを作製および培養するための、AggreWell(商標)400を用いた、重量オスモル濃度270mOsm/kgのTeSR(商標)2-F(HSA含有)の中での、TeSR(商標)2培養ヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのTeSR(商標)2-F(HSA含有)と比較して非常に効率的である
本実施例では、TeSR(商標)2(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号05860)の中で前もって培養および維持されたヒト胚性幹細胞H9株(p52)を用いて、EBを形成した。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのTeSR(商標)2-F(HSA含有)が入っているAggreWell(商標)400の中で形成し、実施例28に記載のようにマイクロウェルの中で5日間培養した。EBを遊離および播種する方法は実施例29に記載されている。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図40は、付着させて2日後の付着EBを示す。重量オスモル濃度の低い培地(TeSR(商標)2-F(HSA含有)270mOsm/kg)は、重量オスモル濃度の高い培地(TeSR(商標)2-F(HSA含有)340mOsm/kg)より多くのロゼットを含有する。EBを2日目にもスコアリングして、図40にパーセントを示した。重量オスモル濃度が低い(270mOsm/kg)培地の中で作製されたEBは23%のロゼットを含有し、重量オスモル濃度が高い(340mOsm/kg)の中で作製されたEBは5%のロゼットを含有する。
【0173】
要約すると、結果から、動物タンパク質を含まない培地(HSA含有)の中で前もって培養および維持されたヒト多能性幹細胞も、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fまたは重量オスモル濃度270mOsm/kgのTeSR(商標)2-Fの中で培養された時に神経ロゼットを生じることが分かった。
【0174】
実施例46.さらなるサプリメントを含有する、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgの中での神経外胚葉誘導の評価
実施例9に記載のプロトコールを用いて、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgが入っている、AggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800プレートの中でhESC H9株からEBを形成し、実施例11に記載のように24時間後に遊離した。または、実施例30に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)800プレートマイクロウェルの中でEBを形成および培養し、実施例31に記載のように遊離した。EB形成の間に、形成して最初の24時間、サプリメントを培地に添加し、ULA培養物に5日間添加した。または、細胞をAggreWell(商標)800プレートマイクロウェル内で5日間培養した時に、サプリメントを培地に添加した。図41は、EBを付着させ、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fならびに20ng/ml bFGFまたは20ng/ml bFGFおよび1%B27(Invitrogen,カタログ番号0080085SA)、1%N2A(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号07152)の中で付着、形成、および培養して6日後の、ULA培養物からのEBを示す。同じ図は、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgの中で形成され、1%N2A、100ng/ml Fgf8/200ng/ml shh、または1%B27を添加したAggreWell(商標)800マイクロウェルの中で5日間培養された、付着4日後のEBを示す。この実験(データ示さず)において使用した他のサプリメントは、2%および5%BSA、1%非必須アミノ酸(NEAA)(Invitrogenカタログ番号11140050)、Fgf8(100ng/ml)、およびshh(200ng/ml)または300ng/ml Noggin(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号02525)であった。さらなるサプリメントには、SM1(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号05711)、アスコルビン酸、レチノイン酸、cAMP、BDNF、フォルスコリン、NeuroCult(登録商標)Proliferation Supplements(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号057011)、N2B(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07156)、インシュリン-トランスフェリン(Transferin)-セレン(ITS)、ならびに神経前駆細胞の増殖および分化に適した他の添加物が含まれるが、これに限定されない。
【0175】
実施例47.AggreWell(商標)800を用いてmTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgの中で作製され、異なる時点で播種されたEBにおける効率的な神経外胚葉誘導
実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800中でヒト胚性幹細胞H9株(p36およびp42)からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っている、これらのAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを培養した。後で播種するために、異なる時点(2日目、3日目、4日目、5日目、7日目、8日目、9日目、および11日目)でマイクロウェルからEBを収集した以外は、実施例31に記載の方法に従ってEBを遊離した。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図42および43は、播種して1〜5日後の、異なる時点で遊離および播種された付着EBを示す。付着EBは、AggreWell(商標)800における初期形成後1日目と早い段階で播種された場合には、播種されて3日後(合計で4日)、または2日目に播種された場合には、播種されて1日後(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で誘導されて合計3日)、高含有率の神経ロゼットを示す。11日目と遅い段階で播種され、播種されて5日後に分析されたEBでも(EB形成後、合計16日)、様々なサイズのロゼット(図43の丸)、細胞単層、神経前駆細胞(図43の細い矢印)、および成熟ニューロン(図43の太い矢印)の混合物を特定することができた。本実施例から、AggreWell(商標)800プレートの中で2日以内と早い段階で神経ロゼットが誘導され、播種されて1日と早い段階で明らかになることが分かる。EBをAggreWell(商標)800プレートの中で24時間保持し、その後で播種すると、播種されたEBは、EBの播種後3日以内にロゼットを示す。AggreWell(商標)800の中で最大11日間培養され、収集され、次いで、5日間培養されたEB(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で合計16日間)は、当業者によって特定可能な、神経運命への様々な段階への方向付け(commitment)を示す形態を有する神経細胞を含むロゼット(すなわち、初期神経前駆細胞がロゼットに存在し、二極性の形態を有する単一星細胞神経前駆細胞がロゼットから成長し、ニューロンは軸索投射(axonal projection)を有する)を生じた。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを含有するAggreWell(商標)800装置の中で、合計6日間、7日間、9日間、10日間、および12日間、EBを培養する実験も行った。さらに、AggreWell(商標)800マイクロウェルの中で1日および5日間培養した後に播種された付着EBの中にあるSox1陽性神経前駆細胞(NPC)のパーセントを求めるために、フローサイトメトリー分析によって付着EB培養物も分析した。図42のFACSプロットは、5日目の付着EBの中に、35.21%のSox1陽性細胞が検出されたのに対して、1日付着されたEBの中に、0.77%のSox1陽性が検出されたことを示す。
【0176】
実施例48.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)の中で形成および培養され、異なる表面上に播種されたEBにおける効率的な神経外胚葉誘導
実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、hESC H9株p38からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。実施例31に記載のように、EBをAggreWell(商標)から遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。様々な濃度のラミニン:1μg/mL、10μg/mL、および20μg/mLを使用した以外は実施例18に記載のように、プレートをコーティングした。図44は、付着させて3日後のEBを示す。全ての条件において100%の神経ロゼット形成が存在する。従って、異なる濃度のラミニンを用いて、同等の効率でEBを付着させることができた。
【0177】
実施例49.重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で前もって形成されたEBを、その後のニューロスフェア懸濁培養において培養すると、播種後に、神経ロゼットおよびニューロン成長が非常に効率的に誘導される
【0178】
実施例9に従って、重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)400の中で、H9 p51 hESCからEBを形成した。実施例11に従って、EBをマイクロウェルから遊離した。実施例51に記載のように、1mg/mlディスパーゼを用いて付着EBを解離し、再播種した。翌日、丸くなって凝集物または「ニューロスフェア」になった多くの細胞凝集塊が存在した。セロロジカル5mLピペットを用いて、これらのニューロスフェアを超低付着性(ULA)プレートに移し、以前の培養において用いられたのと同じ培地(すなわち、重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F)の中で5日間培養した。次いで、ニューロスフェアを収集し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した(実施例18を参照されたい)。図45は、播種後1日目のニューロスフェアを示し、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみ、または1%B27(Invitrogen, カタログ番号0080085SA)および/もしくは1%N2A(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07152)を含有する重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成された、付着したニューロスフェアを示す。投射を伸ばしたニューロン(矢印)が、3種類全ての培養培地において観察された。ニューロスフェア培養培地には他のサプリメント(実施例46に記載)も使用された。または、図46に示したように、ULA培養で、重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中に13日間保ち、収集し、6日間播種したEBから、神経ロゼット(太い矢印)およびニューロン(細い矢印)が得られた。
【0179】
本実施例から、ニューロスフェアとして、重量オスモル濃度が低い培地:重量オスモル濃度260mOsm/kgもしくは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成されたEB培養物(初回継代後、次いで、ULAディッシュに移された)、またはULAディッシュの中で長期間培養されたEB培養物は、ロゼットおよびニューロンを含むニューロン集団となることが分かる。
【0180】
実施例50.マイクロウェル装置においてEBを形成する前に、hPSC培養物を重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを用いて前条件付けすると、重量オスモル濃度320mOsmのmTeSR(登録商標)1-Fの中での神経誘導効率が高まる
本実施例では、記載のように、hPSC株をmTeSR(登録商標)の中で培養した。ここでは、継代47のhESC H9株を使用した。EB形成前に、培養培地を、重量オスモル濃度320mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fに交換し、細胞を24時間培養した。この段階は、神経外胚葉形成の効率を高めるために、特に、実施例9に記載のプロトコールにおける神経外胚葉形成の効率を高めるために行った。全てのEBを、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成した。実施例12に記載のように、神経ロゼット形成によって神経誘導を評価した。EBを、実施例9に記載のように、AggreWell(商標)400の中で前条件付けされたH9細胞から形成し、(実施例11に記載のように)24時間後に遊離して、ULAプレートの中で5日間培養した。図47は、播種し、ポリ-L-オルニチン/ラミニン上に付着させて4日後のEBを示す。神経ロゼットパーセントは、非条件培地(mTESR(登録商標)1)の49%(左の写真)から、hESCを重量オスモル濃度320mOsm/kgのmTESR(登録商標)1-Fの中で前条件付けした場合の72%(右の写真)まで増大した。
【0181】
実施例51.付着EBを解離し、神経前駆細胞(NPC)を得るための方法
実施例9に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F が入っているAggreWell(商標)800の中でヒト胚性幹細胞H9株 p47から、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。実施例11に記載のように、24時間後にEBを遊離し、ULAディッシュの中で培養し、培養して5日後にポリ-L-オルニチン/ラミニン上に播種した。播種して7〜8日後に、様々な解離剤:cell dissociation buffer enzyme-free PBS based(Gibco, カタログ番号13151-014)、EDTA(0.02%)、ディスパーゼ1mg/ml(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07923)、Accutase(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07920)、Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit(Mouse)(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号05707)、およびトリプシン(0.05%)(Sigma, check)を用いて、付着EBを解離した。付着EBを、cell dissociation buffer enzyme-free PBS based(Gibco, カタログ番号13151-014)に溶解して室温で0.5〜1時間、解離した。0.02%EDTA溶液を用いて、同じインキュベーション手順を適用した。インキュベーション後、(P-1000ピペットチップを用いて約10回)溶液中で破砕することによって、細胞を解離した。15mM HEPES(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号36254)を添加したDMEM/F-12 1mLを用いて、培養ディッシュを1回洗浄し、実施例14に記載のように、細胞を遠心分離した。上清を捨て、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F 2mLを用いて、細胞ペレットを解離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンもしくはmatrigel(またはその他)でコーティングされた6ウェルプレート上で播種した。細胞を様々な密度で播種し、本実施例では、1:1分割を行った。ディスパーゼを用いて解離する場合、培養物から誘導培地(重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F)を除去した後に、1mg/mlのディスパーゼ溶液1mLを付着EB培養物に添加した。プレートを37℃インキュベーターに入れ、付着EBコロニーがプレートから剥離し始めるまで、培養物を観察した。この段階は、通常、10〜40分かかった。ディスパーゼを除去し、細胞をDMEM-F12で3回洗浄した。破砕および遠心分離の段階は前述され、実施例14に記載されている。誘導培地を捨てた後に、Accutaseを細胞に添加した。標準的なプロトコールに従って、全ての細胞がプレートから剥離するまで(通常、5〜10分)、細胞をインキュベートした。Accutaseを不活性化するために、DMEM-F12 5mLを細胞に添加し、P-1000ピペットチップを用いて細胞を穏やかに1〜2回解離した。ペレットの遠心分離および解離ならびに播種は前述されている。Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit(Mouse)は、http://www.stemcell.com/en/Products/All-Products/NeuroCult-Chemical-Dissociation-Kit-Mouse.aspx(Manual: Chemical Dissociation of Neurospheres Derived from Adult and Embryonic Mouse CNS using the NeuroCult(登録商標)Chemical Dissociation Kit - 2009)に記載のように使用した。前記および実施例14に記載のように、解離細胞を遠心分離し、細胞ペレットを解離し、細胞を播種した。トリプシン解離のために、0.05%の濃度のトリプシンを使用して、付着EB培養物を解離した。培養培地を吸引した後に、細胞を、予め温めた(37℃まで)トリプシンと37℃で1〜2分間、または細胞がディッシュから剥離するまでインキュベートした。D-PBS Without Ca++およびMg++(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号37350)に溶解した、10% ES-Cult(登録商標) Fetal Bovine Serum for Neural Differentiation(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号06955)1〜2mLを添加することによって、トリプシンを不活性化した。破砕、遠心分離、および播種の段階は前述されている。図48は、記載された様々な試薬を用いて解離された、播種して4〜6日後のNPCを示す。図49は、Accutase(本実施例)、HBSS(実施例52)、またはPBS(実施例14)を用いて解離されている、再播種して3日後の、NPCマーカーであるネスチンおよびSox1について染色されたNPCを示す。NPCはまた異なる密度で播種されたことも留意のこと。本実施例から、様々な試薬を用いて付着EBを解離することができ、結果として生じたNPC含有懸濁液が形態およびマーカー染色の点で互いに似ていることが分かる。
【0182】
実施例52.異なる時点で播種された異なるサイズの付着EB内にある神経ロゼットからの効率的な神経前駆細胞単離
実施例30に記載のように、ヒト胚性幹細胞H7株およびH9株(それぞれ、継代38または35、36、41、45)から、EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞を含有するEBをAggreWell(商標)800において形成させた。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを5日間培養した。EBを異なる時点(5日目、6日目、7日目、9日目、および11日目)でマイクロウェルから収集した以外は実施例31に記載の方法に従って、後で播種するためにEBを遊離した。図50は、EBをAggreWell(商標)800プレートから遊離した後、異なる時点(5日目、6日目、および11日目)の付着EB(様々なサイズ)を示す。付着EBを解離して、NPCを得た(代表例のみを示す)。神経ロゼットは全ての条件において存在した。本実施例では、カルシウムおよびマグネシウムフリー(Ca2+およびMg2+)のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Sigmaカタログ番号C1419)を使用した以外は実施例14に記載の方法を用いて、付着EBからNPCを選択的に選択した。誘導培地(重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F)を捨てた後、細胞を室温で0.5〜2時間インキュベートした。実施例14に記載のように、細胞を解離および遠心分離した。上清を除去し、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F 2mLを用いて、細胞ペレットを解離した。NPCを様々な密度でポリ-L-オルニチン/ラミニン上に再播種した(コーティング手順については、実施例18を参照されたい)。図51は、培養して5日目または6日目の、単離および再播種されたNPCを示す。これらは、異なる時点で播種されたEBから単離され、異なる時点で解離もされた。図52は、再播種して4日後のNPCを示し、これも、NPCマーカー(PSA-NCAM、SOX1、およびネスチン、ならびに密着結合タンパク質およびロゼット管腔マーカーであるZO-1)について免疫細胞化学的に染色された細胞(方法については実施例17を参照されたい)の写真を含む。理解しやすいように、図53の表は個々の実験をまとめたものである。1番目の縦列は、EBをAggreWell(商標)800プレートから遊離した日を示す。2番目の縦列は、付着EBを解離した日を示す。3番目の縦列は、AggreWell(商標)およびmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgにおけるEB形成からの日数を合計したものを示す。4番目の縦列はEBのサイズを示す。5番目の縦列は、写真を撮影した日と、NPCを培養した日数を合計したものを示す。
【0183】
実施例53.付着EB内にある神経ロゼットからの効率的な神経前駆細胞単離、および異なる濃度のラミニン上での、これらの細胞の培養
実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、ヒト胚性幹細胞H9株(p65)からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っている、これらのAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを12日間培養した。実施例31に記載の方法に従い、12日目にEBを播種するように変更を加えて、後で播種するためにEBを遊離した。実施例51に記載の方法に従って、播種した後4日目に、神経前駆細胞を付着EBから単離した。本実施例では、0.05%の濃度のトリプシンを使用した。ポリ-L-オルニチンまたは4種類の濃度のラミニンでコーティングされた6cmウェルに細胞を再播種した。コーティングは、実施例18に記載のように、ラミニン濃度に変更を加えて行った。図54は、播種後4日目の付着EBを示す(上横列)。中央の横列は、1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、および20μg/mlラミニン(左から右)に播種された、付着EBから単離されて3日後のNPCを示す。下横列は、播種して7日後の同じ細胞を示す。図55は、10μg/mlおよび20μg/mlラミニン上で3日目、ならびに1μg/mlおよび5μg/mlラミニン上で7日目のNPCの免疫細胞化学的染色を示す。実施例17に記載のように染色を行い、ニューロン数に及ぼすラミニン濃度の影響を確かめるために、ニューロンマーカーであるTUJ-1について細胞を染色した。本実施例は、様々な濃度のラミニン上でNPCを再播種することができ、付着された神経/ニューロン細胞の形態またはマーカー発現は影響を受けないことを示す。
【0184】
実施例54.重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で22日間、作製および培養されたEBからのニューロンおよび神経前駆細胞の効率的な解離および単離
実施例30に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを用いて、ヒト胚性幹細胞H9株からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBをAggreWell(商標)800中で形成した。実施例31に記載のように、EBを培養11日目にマイクロウェルプレートから遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。実施例53に記載の方法に従って播種した後11日目に、付着EBから神経前駆細胞を単離した。図56および57は、播種後11日目の付着EBを示す。培養物にはNPCが存在するだけでなく、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成および培養された付着EB構造から成長している成熟ニューロンも存在した。重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成および増殖されたEBには、ごくわずかなNPCおよびニューロンしか観察されなかった。NPCは、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で増殖させた解離EBのみから作製され、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fからは作製できなかった。3日目の、再播種された細胞の免疫細胞化学(実施例17を参照されたい)はNPCおよびニューロンの混合物を示し、それぞれ、ネスチンおよびSox1またはTUJ-1の発現によって確かめられた。
【0185】
実施例55.様々な解離試薬および表面コーティングを試験した、数回の継代にわたる神経前駆細胞の増殖
実施例30に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを用いて、ヒト胚性幹細胞H9株(p36および41)からEB 1個あたり2000個または10000個の細胞を含有するEBをAggreWell(商標)800中で形成した。実施例31に記載のように、EBをマイクロウェルプレートから遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。7日目にAggreWellから2000個の細胞を含有するEBを遊離し、AggreWellにおける培養5日目に5000個または10000個の細胞を含有するEBを遊離した。実施例52に記載の方法に従って播種した後、11日目(EB 1個あたり2000個の細胞の場合)または7日目(EB 1個あたり5000個および10000個の細胞の場合)に、付着EBから神経前駆細胞を単離した。図58は、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上で培養して、4日目(EB 1個あたり2000個の細胞)または6日目(EB 1個あたり10000個の細胞)のNPCを示す(継代1=P1)。これらのNPCを、HBSSまたはTryplE(Sigma,カタログ番号)を用いて解離し、結果として生じた細胞を、二次培養物として、ポリ-L-オルニチン/ラミニンまたはmatrigel(それぞれ、EB 1個あたり2000個または10000個の細胞)でコーティングされたディッシュ上で再播種した。HBSS解離は、0.5時間〜1時間、室温でNPCをインキュベートすることによって行い、細胞の剥離が観察された。細胞を、HBSS溶液に溶解して、P-1000ピペットチップを用いて穏やかに5〜10回粉砕した。実施例52に記載のように、細胞を遠心分離し、細胞ペレットを解離した。TryplEを用いてNPCを剥離するために、実施例51および実施例53の方法を使用した。図58は、細胞1.3x105/cm2の密度で播種された、3日目(EB 1個あたり2000個の細胞)または1日目(EB 1個あたり10000個の細胞)の継代2=P2細胞を示す。継代3(P3)で、細胞を、3日目にトリプシン処理した(EB 1個あたり2000個の細胞)(実施例51および実施例53を参照されたい)、または2日目にTryplE処理した(EB 1個あたり10000個の細胞)。図58は、3日目または4日目のP3細胞を示す。これらは、それぞれ、誘導後、合計29日または24日が経過している。図59の表は、2000個または10000個の細胞を含有するEBに由来する細胞に対して分割を行った様々な時点をまとめたものである。神経前駆細胞マーカーに対して免疫細胞化学的染色(方法については実施例17を参照されたい)を行った。ニューロン前駆細胞マーカーであるMusashiおよびロゼット管腔マーカーであるZO-1の発現を示す(図59)。MusashiおよびZO-1について染色されたp1d5細胞(EB 1個あたり2000個の細胞に由来する)においてNPCが示された。ロゼットはまた、DAPI細胞染色によって示されたように、EB 1個あたり10000個の細胞に由来するp1d6細胞においても見られる。成熟ニューロンがNPC(ここでは、マーカーTUJ-1によって示される)と混合している。これらの結果は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で培養された細胞から得られたが、NPCは、bFGF(10〜20ng/mL)、EGF(10〜20ng/mL)、B27(1〜2x)、またはN2A(1x)を添加した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で培養することもできた。
【0186】
本実施例から、様々な解離剤を用いて、3継代にわたって継代培養用のNPCを解離でき、これらのNPCを様々なマトリックス上に再播種できることが分かる。
【0187】
従って、実施例15に記載のように、または実施例51および55に記載の任意の解離方法よって、機械的単離によって得られた神経ロゼット構造ならびに再播種された結果として生じたNPCを用いて、複数の継代にわたってさらに増殖させるためにNPCを解離することができる。要約すると、AggreWell(商標)800から異なる時点で収集されたEBからNPCを単離することができ、該AggreWell(商標)800に付着したEBは、異なる時点で、および異なる日数にわたって培養するとロゼットを示すことが、前記の5つの実施例から分かる。EBをAggreWell(商標)マイクロウェル中で24時間培養することができる、または、次いで、遊離してULAプレート中で培養することができる、または12日間までマイクロウェルの中に残すことができる。また、様々なサイズのEBを形成することができ、これらのEBから、ほぼ同じ効率でNPCを単離することができる。さらに、様々な解離試薬を用いてNPCを単離することができ、NPCを、異なる濃度のラミニン上ならびに異なる表面上に再播種することができる。EBを播種した後、3〜11日の時間枠内に(これは合計で11〜22日間に相当する)、NPCを単離することができ、NPCとして増殖する能力ならびにニューロンおよび星状細胞に自発的に分化する能力が失われることなく数回継代することができる。実施例57および図66を参照されたい。
【0188】
実施例56.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で作製された神経ロゼット内にある細胞、および重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で作製された非神経細胞の表現型および分子の特徴付け
本実施例では、継代63のhESC H9株を使用した。実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中でEB 1個あたり500個の細胞を含有するEBを形成し、実施例29に記載のように、マイクロウェルの中で5日間培養した後にEBを遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュに付着させた。2種類の培地:重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fおよび重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを使用した。付着EBの神経ロゼットに存在する神経前駆細胞を特徴付けるために、実施例17に記載のように、免疫細胞化学を行った。文献に記載されているNPCマーカーを使用した。使用した最も初期の神経マーカーはPax6であり、これに続く後期マーカーはSox1およびネスチンであった。図60に示したように、Pax6およびSox1は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成された付着EBのロゼット内で発現し、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成されたEBでは弱く発現していたか、存在しなかった。図61は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成された複数回の実験に由来する付着EBにおいて、Pax6、Sox1、およびネスチンのマーカー発現が同時発現していることを示す。図62は、Pax6およびSox1とZO-1との同時発現を示す。図62はまた、ロゼット構造内の放射状グリア細胞マーカーであるBLBPの染色を示す。図63は、主に、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成および培養されたEBにおいて発生する非神経細胞を示す。この非神経細胞はロゼット構造を有さず、形態が「平ら」である(本実施例では、H9 p52 hES細胞を使用した)。これらの平らな細胞および非ロゼット構造は中胚葉系列または内胚葉系列に由来する可能性が高い。qPCR用の細胞を得るために、200Pピペットチップを用いて、これらの細胞を付着EBコロニーの間で前後に動かすことによって、こそぎ落とした。対照として、ロゼット構造を手作業で選択した。両方の細胞タイプを1.5mLエッペンドルフチューブに移し、最大速度で1〜2分間、遠心分離した。トリゾル(Invitrogen, カタログ番号15596-018)および標準方法を用いて、RNAを抽出した。逆転写酵素PCRを1回行って、cDNAコピーを作製し(残っているRNAはRNaseを用いて消化した)、遺伝子特異的プライマーおよびSybrGreen(商標)(GE Healthcare)を用いて、製造業者のプロトコールを用いてcDNAを増幅した。SybrGreenの組み込みによる望ましい産物の増幅を、7900-HT機器(Applied Biosystems)を用いてモニタリングし、標準的なプログラム(RQ Manager 1.2)を用いてデータ分析を行った。qPCR結果を図64に示した。これは、「神経ロゼット細胞」にあるネスチン転写物およびSox1転写物が「(平らな)非神経細胞」より多いことを証明している。
【0189】
要約すると、形態学的、免疫細胞化学的な特徴付け、ならびに神経マーカーについてのFACSおよびqPCRから、重量オスモル濃度270のmTeSR(登録商標)1-Fの中での神経外胚葉誘導は効率的であり、NPCを単離および増殖し、ニューロンおよび星状細胞に分化できることが分かる。比較すると、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成されたEBは神経ロゼット構造が少なく、NPCを単離することができない。重量オスモル濃度が280mOsm/kgおよび340mOsm/kgより高くなると、神経由来細胞とは異なる形態を有し、中胚葉系列または内胚葉系列に由来する非外胚葉細胞が増える可能性が高い。
【0190】
実施例57.ニューロンおよび星状細胞への神経前駆細胞(NPC)の自発的分化
実施例55に記載のように、NPC、ニューロン、および星状細胞の混合物を含有する、神経前駆細胞を数継代にわたって継代した。本実施例では、実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、hESC H9株 p36からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。実施例31に記載のように、EBを遊離し、5日間播種した。次に、実施例52に記載のように、HBSSを用いて付着細胞を解離し、継代した。細胞を8日間培養し(継代1)、実施例55に記載のようにHBSSで解離し、2回目の継代を行った。細胞をさらに5日間培養し、次いで、TryplEを用いて解離した(3回目の継代)。図65は、継代1の8日目(p1d8)、p2d2、およびp3d3のNPCを示す。継代1および2では、主にNPCが観察されたのに対して、継代3では、ニューロン亜集団が自発的に発生した。例えば、図66は、GABA作動性ニューロンのマーカーを発現する細胞を示す。星状細胞の存在を示すGFAP陽性細胞もまた、NPCの自発的分化において特定できる。
【0191】
実施例58.重量オスモル濃度が270mOsm/kgであり、サプリメントを含む、およびサプリメントを含まないmTeSR(登録商標)1-Fの中にある付着培養物の中で培養されたhPSCにおける効率的な神経外胚葉誘導
実施例21に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株を、継代51〜継代55(p51〜p55)の4継代にわたって培養単一細胞として継代した。1.7x105個の細胞を、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみが入っている6ウェルディッシュの上に、または2%B27、1%N2Aまたは1%B27(Invitrogen, カタログ番号17504-044)が添加された重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っている6ウェルディッシュの上に播種した。神経誘導前および神経誘導中のhPSC付着培養物には、Matrigelおよびポリ-L-オルニチンを使用した。播種および誘導の3日後と早い段階で、神経ロゼットは当業者にはっきりとわかった。図67は、誘導培地(重量オスモル濃度270mOsm/kg のmTeSR(登録商標)1-F)の中、matrigel上に播種して7日後の、誘導されたロゼット構造を示す。
【0192】
現在好ましい実施例と考えられているものに関連して本開示が説明されたが、この開示は、開示された実施例に限定されないことが理解されるはずである。それとは反対に、この開示は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲の内で様々な修正および同等の配置を含むことが意図される。
【0193】
全ての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれ個々の刊行物、特許、および特許出願が参照によりその全体が組み入れられるように詳細かつ個々に示されるのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
【表3】
【0197】
参考文献:
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2010年6月15日に出願された同時係属中の米国特許仮出願第61/354,947号および2009年10月13日に出願された同第61/251,130号の優先権の恩典を主張する。これらの内容は全て、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【0002】
開示の分野
本開示は、幹細胞を胚葉に、さらには細胞系列に分化させる方法に関する。本開示はまた前記分化のための培地に関する。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
ヒト胚性幹(ES)細胞は、発生中の胚盤胞から単離された多能性細胞である。人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、遺伝学的手法および非遺伝学的手法によって再プログラミングされた体細胞から最初に単離された多能性細胞である(総説については、Amabile and Meissner, 2009を参照されたい)。ES細胞ならびにiPS細胞は、分化事象を研究するための優れたインビトロ系として、ならびに基礎研究用、薬物スクリーニング用、および再生治療用の特殊化した様々な細胞タイプを多量に作製するための無限の供給源として役立つ。
【0004】
ヒト胚性幹細胞および人工多能性幹細胞を含むヒト多能性幹細胞から、ある特定の胚葉細胞タイプおよびその後の最終的な組織タイプを誘導するプロトコールは非常に多く、多種多様にあり、現在、標準化されていない。これらのプロトコールには、一般的に、以下の3つの主なプロトコールのカテゴリーを用いた分化が関与する(総説については、Murry and Keller, 2008を参照されたい)。
1.多能性幹細胞と、他の細胞タイプ、例えば、フィーダー細胞との共培養(例えば、D'Amour et al., 2005, Perrier et al., 2005)または体細胞タイプとの共培養(例えば、マウス内胚葉様細胞株との共培養を介した心筋細胞の誘導)に基づく(Mummery et al., 2007));ある特定の肺葉運命を誘導する、フィーダー細胞によって条件付けされた(Schulz et al., 2003)または因子を添加した(D'Amour et al., 2005)培地中での、共培養に基づくプロトコール。
2.血清を含む、または血清を含まない、およびモルフォゲンの添加を含む、単層としての付着培養に基づくプロトコール(Nat et al., 2007; Chambers et al., 2009)。
3.胚様体(EB)と呼ばれる三次元凝集物の形成に基づくプロトコール。EBの中の細胞は多分化能があり、3種類の胚葉(内胚葉、中胚葉、または外胚葉)のどの細胞にも発生する傾向がある(Odorico et al., 2001)。通常、モルフォゲンも、誘導のきっかけとして働くようにEB形成時に直接添加されるか、または望ましい細胞系列の生存を選択的に支持するようにさらに後の時点で(例えば、EBを播種した後に)添加される(胚性幹細胞プロトコールを参照されたい)。
【0005】
これらのプロトコールの主な欠点は以下のようにまとめることができる。これらのプロトコールは各研究室に独特のものであり、作業者および研究室にかなり左右されるので、時間および労力に莫大な投資をすることなく他の研究室に移転および再現することは非常に難しい。前記の3種類のプロトコールカテゴリーにおいて用いられる培地製剤は、研究室とプロトコールとの間で首尾一貫しない様々な培地成分、添加物、サプリメント混合物からなる。培養培地中の個々の成分およびその使用濃度の詳細なリストは入手できないことが多く、特に、民間供給業者の予め混合されたサプリメントが用いられる時には入手できないことが多い。
【0006】
多能性幹細胞に由来する培養物は最も明確な条件下でさえも、様々な系列および様々な発生段階の細胞タイプからなり、本質的に不均一である。不均一性は、固有の細胞間シグナル伝達、および前記のプロトコールの一部において細胞を操作する際に用いられる時点のばらつきによって説明がつくことがある。誘導されている望ましい細胞タイプのパーセントを高めるために適用されている解決策の1つは、培地への添加物としてサイトカインまたは増殖因子のようなモルフォゲンを使用することである。これらは非常に費用がかかり、供給源に応じて一定しないことがある。
【0007】
不均一性を制御する別の一般的なアプローチは、望ましい細胞タイプを得るために選択戦略、例えば、機械的選択、またはある特定の培地サプリメントおよび因子を用いた選択的生存の促進を使用することである。機械的選択は非常に時間がかかることがあり、また、望ましい細胞タイプの完全に純粋な集団を生じることはほとんどない。細胞タイプを誘導するために、ある特定のサプリメント(例えば、神経誘導用のN2サプリメント)を使用する主な欠点は、実際の前駆細胞が単離された時に、プロトコールの後の段階で細胞生存を妨害することである(Dhara et al., 2008)。
【0008】
特に、前記のようにプロトコールが多段階からなり、選択戦略を含む時、多くのプロトコールの別の欠点は、純粋な分化細胞集団を得るのにかかる時間である。手順全体が最大数週間かかることがある。
【0009】
ヒト多能性幹細胞に由来する分化細胞タイプは、細胞移植などの治療アプローチの対象である。現行の研究目標は、ヒト多能性幹細胞培養物および分化系列からの動物由来タンパク質の除去に焦点を合わせている(Mallon et al., 2006)。多くの現行のプロトコールにおいて、胚葉誘導に用いられる、いわゆるフィーダー細胞は、一般的に、マウス組織に由来する。さらに、EBの分化、特に中胚葉へのEBの分化では、特徴決定されていない動物由来産物である胎仔ウシ血清が、培養培地に用いられる。
【0010】
単層培養における細胞播種密度は多くのプロトコールにおいて詳細に明らかにされていないことが多く、かつこれは、前記のように細胞固有のシグナル伝達のために誘導される望ましい細胞タイプのパーセントに影響を及ぼすことがある。EBのサイズおよび形状のばらつきに対処するEB形成に基づく分化プロトコールを用いると、初期誘導事象も潜在的に影響を受けることがある。
【0011】
培養培地の重量オスモル濃度が細胞の増殖、生存、および分化に影響を及ぼすという、いくつかの証拠が文献にある。例えば、mTeSR(商標)培地の重量オスモル濃度は、ヒトES細胞の未分化状態を良好に維持するために、ほとんどの細胞培養培地において用いられる290〜330mOsm/kgの標準的な重量オスモル濃度と比較して高い340mOsm/kgの重量オスモル濃度に調節された(Ludwig et al., 2006)。他方で、分化細胞タイプ、例えば、CNSから単離された初代ニューロンは、標準的な重量オスモル濃度と比較して低い重量オスモル濃度(230〜280mOsm/kg)の培地で良好に生存する(Brewer et al., 1993; Brewer and Price 1996; Kivell et al., 2000)。入手可能な情報から、ある特定の重量オスモル濃度は、細胞を未分化状態で維持して、生存を促進するのに有効であるか、または既に分化した細胞もしくは成熟細胞を分化状態で維持するのに有効であるかのいずれかであると示唆されている。
【0012】
多能性幹細胞を分化させるためのプロトコールが標準化されていないことも文献において広く議論されている(総説については、Sanchez-Pernaute and Sonntag, 2006を参照されたい)。
【0013】
ヒトES細胞は、
1.マウスまたはヒトに由来する特定の胚性線維芽細胞に固有の活性によって方向付けられて、インビトロで神経組織を生じることができる。この活性は、間質由来誘導活性(stromal derived inducing activity)すなわちSDIAと呼ばれる(Perrier et al., 2004, Sonntag et al., 2007)。
2.単層として、凝集塊(clump)または単一細胞として付着条件下で自発的に、ならびにN2およびB27などのサプリメントが添加されて(Nat et al., 2007)、またはモルフォゲン添加によって方向付けられて(Osafune et al., 2007)、インビトロで神経組織を生じることができる。
3.胚様体(EB)として知られる分化中の細胞の凝集塊として自発的にインビトロで神経組織を生じることができる。これは、初期胚において起こっている事象を模倣するEB内部に誘導因子が存在するために起こると考えられている。これらのEBは、外胚葉系列のニューロン細胞を含む、3種類全ての胚葉の細胞を含有する(Odorico et al., 2001, Zhang et al., 2001, Yan et al., 2005)。
【0014】
現在に至るまで、神経外胚葉を誘導する前述の3つの方法全てが非効率であり、不均一な細胞集団を生じ、これらの多くが非神経性であった。
【0015】
しかしながら、ヒト胚性幹細胞(hESC)が、レチノイン酸(Schuldiner et al., 2001)、Fgf2(Zhang et al., 2001)、条件培地(Schulz et al., 2003; Shin et al., 2006)、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤(Itsykson et al., 2005, Gerrard et al., 2005, Sonntag et al., 2007)、またはSMADシグナル伝達阻害剤、SB431542(Chambers et al., 2009; Kim et al., 2010)のようなモルフォゲンに曝露されると、さらに高い神経/ニューロン分化効率が実現した。
【0016】
これらのプロトコールを用いると神経細胞の発生が増加するが、これらのプロトコールの大半では、分化中のES細胞培養物から比較的純粋なニューロン細胞集団を得るために、この混合物から神経細胞を後で選択しなければならなかった。インビトロでは、現れつつある初期神経前駆細胞は他の細胞タイプと形態学的に異なり、「神経ロゼット」と呼ばれる放射状に組織化された円柱上皮細胞の形成を特徴とする(Zhang et al. 2001, 2005; Elkabetz et al., 2008)。これらの構造は、Pax6およびSox1などの初期神経外胚葉マーカーを発現する細胞を含み、発生の適切な合図に応答して様々な領域特異的なニューロン細胞タイプおよびグリア細胞タイプに分化することができる(Yan et al., 2005, Perrier et al. 2004; Li et al. 2005)。培養中、徐々に、Pax6陽性細胞はPax6発現をダウンレギュレートし、Sox1発現を維持する。しかしながら、Pax6陽性細胞はネスチンも発現し始める。インビボでの神経発生において、神経板段階の神経前駆細胞と神経管閉鎖後に現われる神経前駆細胞を比較した時に、同様のタンパク質発現プロファイルが観察されている(Jessell 2000)。現在、ネスチンおよびSox1タンパク質の同時発現ならびに「神経ロゼット」の形成は、神経前駆細胞を検出するための信頼性の高い基準とみなされている(Elkabetz et al., 2008; Elkabetz and Studer 2009; Koch et al., 2009; Peh et al. 2009)。
【0017】
さらなる選択手順なく、ヒト多能性細胞を純粋なまたは高濃度の神経前駆細胞集団に制御して分化させ、その後に、これらの細胞を、中枢神経系(CNS)の3種類の細胞タイプ:ニューロン、星状細胞、およびオリゴデンドロサイトに分化させることは、この分野において極めて望ましいであろう。なぜなら、これらの全ての細胞集団が、CNSの発生および疾患の基礎研究および応用研究に真の利益を提供するからである。
【0018】
要約すると、この分野には、短期間で3種類の胚葉を誘導し、その後に、これらに由来するさらに特殊化した細胞タイプを誘導するための標準化された培地製剤およびプロトコールが無い。この分野はまた、異なる研究室において再現が容易であり、作業者に依存する標準化されたプロトコールが無いという損害を受けている。
【発明の概要】
【0019】
本開示の概要
本発明者らは、選択的なかつ標準化された様式で望ましい分化した細胞タイプが得られる培地製剤を開発することによって、多能性幹細胞分化の分野における主な制限の一部を解決した。本発明者らは、培養培地の重量オスモル濃度を操作することによって、未分化多能性幹細胞からの3種類の胚葉:中胚葉、外胚葉、および内胚葉の初期誘導を偏らせることができることを示した。このような培地は、純粋な胚葉前駆細胞集団を作製する、モルフォゲンフリー、血清フリー、およびフィーダーフリーの系を可能にする。
【0020】
従って、本開示は、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養する工程および細胞を胚葉前駆細胞に分化させる工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する。
【0021】
1つの態様において、本開示は、以下の工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する:
(a)多能性幹細胞を解離してクラスターまたは単一細胞にする工程;
(b)(a)由来の解離細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で培養する工程;および
(c)(b)の細胞を解離し、該細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種し、該培養培地中で少なくとも1日培養して、胚葉前駆細胞を作製する工程。
【0022】
1つの態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞をマイクロウェル装置内で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、および該マイクロウェル装置内での培養を24時間超にわたり前記培養培地中で続け、次に、該凝集物を遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。1つの態様において、凝集物を、マイクロウェル装置内で最大14日間、任意で5〜6日間培養した後に遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。別の態様において、凝集物をマイクロウェル装置内で最大11日間培養する。
【0023】
別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を前記マイクロウェル装置内で前記培養培地中で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、該凝集物を該マイクロウェル装置から遊離させ、次に、該遊離した凝集物を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養する工程、該凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。1つの態様において、細胞を最大14日間、任意で5〜6日間、懸濁培養した後、凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0024】
さらに別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養し、次に該細胞を解離する工程、およびコーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。1つの態様において、細胞を最大14日間、任意で5〜6日間、懸濁培養した後に、解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0025】
さらなる態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも3日間培養する工程を含む。1つの態様において、細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上で最大14日間、任意で5〜6日間、培養培地中で培養する。別の態様において、付着細胞をフィーダー上で培養する。
【0026】
1つの態様において、培養培地はダルベッコ最小必須培地を含み、任意で、ビタミン類、微量元素類、セレン、インシュリン、脂質、b-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、抗生物質、bFGF、B27、N2、またはこれらの混合物をさらに含む。別の態様において、培養培地は、表2に示した成分を含む。
【0027】
1つの態様において、幹細胞は、哺乳動物多能性幹細胞、任意で、ヒト多能性幹細胞である。別の態様において、多能性幹細胞は人工多能性幹細胞または胚性幹細胞である。さらに別の態様において、胚葉は、外胚葉性、内胚葉性、および/または中胚葉性である。
【0028】
1つの態様において、凝集物またはクラスターは胚様体を含む。1つの態様において、胚様体は500〜20,000個の細胞を含む。
【0029】
1つの態様において、解離細胞を最初にマイクロウェル装置内で培養する、かつ/または懸濁培養する場合の、外胚葉性前駆細胞の誘導における使用に関して、培養培地は260〜280mOsm/kgである。別の態様において、解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種する場合の、外胚葉性前駆細胞の誘導における使用に関して、培養培地の重量オスモル濃度は270〜320mmOsm/kgである。
【0030】
以下の工程を含む、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の神経前駆細胞を維持する方法も、本明細書において提供される:本明細書に記載の方法に従って外胚葉性前駆細胞を作製する工程;培養物から外胚葉性前駆細胞を解離する工程;前記前駆細胞を該培養培地中に播種して少なくとも1日培養する工程。1つの態様において、重量オスモル濃度は約270mOsm/kgである。別の態様において、培養培地はbFGFを含む。さらに別の態様において、前駆細胞を播種して少なくとも4日間培養する。さらなる態様において、外胚葉性前駆細胞をさらに分化させて、ニューロン、オリゴデンドロサイト、または星状細胞を形成させる。
【0031】
別の態様において、解離細胞を最初にマイクロウェル装置内で培養する、かつ/または懸濁培養する場合の、内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞の誘導に関して、培養培地の重量オスモル濃度は280mOsm/kg超、任意で290〜340mOsm/kgである。別の態様において、解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種する場合の、内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞の誘導に関して、培養培地の重量オスモル濃度は320mOsm/kg超、任意で320〜340mOsm/kgである。
【0032】
以下の工程を含む、重量オスモル濃度290〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を維持する方法も、本明細書において提供される:本明細書に記載の方法に従って中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を作製する工程;付着培養物から中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を解離する工程;ならびに前記前駆細胞を播種および培養する工程。1つの態様において、中胚葉性前駆細胞および内胚葉性前駆細胞をさらに分化されて、間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、骨格筋細胞、膵細胞、または肝細胞を形成させる。
【0033】
胚葉分化の誘導、ならびに細胞分化を調節することができる剤のスクリーニングアッセイ、または本明細書に記載の方法によって作製された細胞の一次スクリーニングもしくは二次スクリーニングに有用な培養培地組成物も本明細書において提供される。
【0034】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は本開示の好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本開示の精神および範囲の中で様々な変更および修正が当業者に明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
以下、本開示を添付の図面に関連して説明する。
【図1】BD Matrigel(商標)上で培養した5日目のヒト胚性幹細胞(H9 p51)を示す。倍率:2x(左)、10x(右)。
【図2】マウス線維芽細胞(MEF)上で培養した培養4日目のヒト胚性幹細胞を示す。倍率:2x。
【図3】未分化多能性ヒトESC(左側)の形態および分化の徴候を示した培養物(右側)の形態を示す。上:倍率2x、下:10x。
【図4】AggreWellにおけるEB形成を示す。単一細胞懸濁液を、AggreWell(商標)400プレートのシングルウェルに入れて分配する。それぞれのマイクロウェルには2000個の細胞が保持される。倍率:2x(左)および10x(右)。
【図5】懸濁培養して1日後の、こそぎ落とされたEBを示す。倍率:2x(左)および10x(右)。
【図6】AggreWell(商標)400プレート中で24時間インキュベートした後のEBを示す。AggreWell(商標)400プレート中で強制的に凝集させることによって形成したEBをセルストレーナーに適用して、単一細胞を除去した。倍率2x、10x、および40x。
【図7】付着培養条件で5日目の、ヒト胚性幹細胞から誘導された神経ロゼットを示す。使用した培地は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg+1xB27/N2A(上横列)およびmTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg+1xB27/N2A(下横列)であった。矢印はロゼット構造を示す。左縦列:倍率2x、右縦列:倍率10x。
【図8】EBをベースとする条件で、3種類の異なる培地が入っているAggreWell(商標)400の中で誘導された神経ロゼットを示す。上横列:mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg;中央の横列:mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg;下横列:mTeSR(登録商標)1-F 280mOsm/kg。矢印はロゼット構造を示す。左縦列:倍率2x、右縦列:倍率10x。
【図9】mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg(33.3%);mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(40.6%)またはmTeSR(登録商標)1-F 280mOsm/kg(30%)の中でEBを誘導および培養した実験の平均ロゼット数を示す。
【図10】mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(上横列、左にある2枚の写真);mTeSR(登録商標)1-F 290mOsm/kg(上横列、右にある2枚の写真);mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg(下横列、左にある2枚の写真)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(下横列、右にある2枚の写真)の中で5日間、懸濁培養した後の付着EBの形態を示す。倍率:2x(各条件で左の写真)および10x(各条件で右の写真)。
【図11】3日後の付着EBを示す。ネスチン(左縦列)およびSox1(右縦列)の免疫細胞化学的染色。Sox1発現のある写真の領域を線引きした(白色の線)。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(上横列)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(下横列)の中で、EBを形成した。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で誘導された細胞におけるSox1発現細胞領域は、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で誘導された細胞と比較して明らかに大きい。倍率20x。
【図12】mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg(13%)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(7.9%)の中でEBを誘導および培養した個々の実験の平均ロゼット数を示す。
【図13】1xPBS(Caフリー、Mgフリー)pH7.4を用いた選択的な神経前駆細胞解離手順の間の細胞形態の写真を示す。上横列、左の写真:解離前のロゼットコロニー。上横列、中央:解離中(20分)。上横列、右の写真:解離中(40分)。下横列、左の写真:解離中(60分)。下横列、中央:解離後(破砕(90分)によって神経前駆細胞が剥がれた時)。下横列、右:破砕後、ディッシュに残っていた細胞。倍率:下横列の左および中央を除く全て:10x;下横列の左および中央:2x。
【図14】3日目(上横列)、6日目(中央の横列)、および12日目(下横列)の、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて選択的に解離された後に播種された神経前駆細胞を示す。左縦列:mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび右縦列:mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg。倍率:左:4x、右:10x。
【図15】PBSを用いて選択的に解離されて6日後の神経前駆細胞を示す。細胞を播種し、ネスチン抗体およびSox1抗体(右縦列)を用いて免疫細胞化学を行った。左縦列は、核対比染色としてDAPI染色された同じ細胞を示す。最初に、細胞を、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(上横列)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(下横列)の中で誘導および増殖させた。明らかに、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で得られた神経前駆細胞に存在する、両抗体で染色された細胞は少なかった。倍率20x。
【図16】選択されて2日後の、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で形成、増殖、および付着されたEBに由来する手作業で選択されたロゼットコロニーを示す。倍率10x。
【図17】神経前駆細胞が継代され、付着2日後(左)または付着5日後(右)に写真が撮影されたことを示す。倍率10x。
【図18】mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(左)の中で培養された神経前駆細胞に由来するニューロンは抗TUJ1抗体によって染色されたが、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(右)の中で培養された神経前駆細胞に由来するニューロンは染色されなかったことを示す。TUJ1抗体染色およびSox1抗体染色は別々の矢印で示した。Sox1はニューロンでは発現しない。倍率20x。
【図19】BD Matrigel(商標)上で培養した、継代39の5日目のヒト胚性幹細胞H1株(A)および継代33の5日目のヒト人工多能性幹細胞4D1株(B)を示す。倍率:2x(A、B)および10x(C)。
【図20】単一細胞懸濁液として継代後、培養5日目の約70%コンフルエントなヒト胚性幹細胞株コロニー(H9)(A、B)、および、2x104/cm2の密度で再播種して1日後のH9(C)を示す。倍率2x(A)、10x(BおよびC)。
【図21】AggreWell(商標)800プレートのマイクロウェル中で4D1多能性幹細胞から作製された、24時間後および回収前(AおよびB)のEBを示す。懸濁培養して2日後(C)ならびに4日後(DおよびE)のAggreWell(商標)800から回収されたEB。倍率:4x(A)、10x(B、E)、2x(CD)。
【図22】3日目の、ポリ-L-オルニチン/ラミニンプレートに付着させたEBにおいて観察された神経ロゼットの代表的な画像を示す(A〜D)。ここに示したEB 1個あたり約2000個の細胞の付着EBは、AggreWell(商標)800を用いて、ヒト人工幹細胞4D1株から前もって作製された。倍率:2x(A)、10x(B〜D)。
【図23】細胞4D1株(A〜D)およびH9(E〜H)から作製された、ポリ-L-オルニチン/ラミニンプレートに付着させたEBにおいて観察された神経ロゼット(いくつかの例については矢印)を示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EB(A〜D)およびEB 1個あたり5000個の細胞を含有する付着EB(E〜H)を、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B、E、F)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D、G、H)の中で培養した。対応する画像の中にスコアリング結果も%として示した。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図24】H9ヒト胚性幹細胞から前もって作製された異なるサイズのEBを播種して1日後の付着EBを示す。EBの異なるサイズは以下の通りである:EB 1個あたり500個の細胞(AおよびB)、EB 1個あたり1000個の細胞(CおよびD)、ならびにEB 1個あたり2000個の細胞(EおよびF)。倍率2x左(A、C、およびE)、10x右縦列(B、D、およびF)。
【図25】マイクロウェル装置から回収され、ポリ-L-オルニチン(orthinine)/ラミニンでコーティングされたプレート上に播種されたEBの2日目の形態を示す。対応する画像の中にスコアリング結果を%として示した。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で作製したEB(A、B、およびC)ならびにmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で作製したEB(D、EおよびF)。試験したEBサイズは、EB 1個あたり2000個の細胞のEB(CおよびF)ならびにEB 1個あたり500個の細胞のEB(A、B、D、およびE)であった。倍率:2x(A、C、D、F)および10x(B、E)。
【図26】EBを回収および播種する前の、5日目のAggreWell(商標)800のマイクロウェル内にある様々なサイズのEBを示す。以下のEBサイズを示した:EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEB(AおよびB)、EB 1個あたり5000個の細胞のサイズのEB(CおよびD)、EB 1個あたり10000個の細胞のサイズのEB(EおよびF)、EB 1個あたり15000個の細胞のサイズのEB(G)、ならびにEB 1個あたり20000個の細胞のサイズのEB(H)。倍率:4x(A、C、E、H)、10x(B、D、F、G)。
【図27】マイクロウェル装置から回収された様々なサイズのEB、およびポリ-L-オルニチン/ラミニンプレート上に播種して1日後のEBを示す。以下のEBサイズを示した:EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEB(A、B)、EB 1個あたり5000個の細胞のサイズのEB(C、D)、EB 1個あたり10000個の細胞のサイズのEB(E、F)、EB 1個あたり15000個の細胞のサイズのEB(G、H)、ならびにEB 1個あたり20000個の細胞のサイズのEB(I、J)。倍率:2x(A、C、E、G、I)および10x(B、D、F、H、J)。
【図28】mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A〜D)およびmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(E〜H)の中で作製され、ポリ-D-オルニチン/ラミニン上に播種された、2日目のEBの形態を示す。以下のEBサイズを示した:EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEB(A、B、E、F)ならびにEB 1個あたり5000個の細胞のサイズのEB(C、D、G、H)。倍率:2x(A、C、E、G)および10x(B、D、F、H)。
【図29】重量オスモル濃度の異なる培地中で作製され、次いで、同じ培地が入っているポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたプレート上に播種された、2日後のEBの付着を示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B)、mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg(C、D)、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(E、F)、mTeSR(登録商標)1-F 400mOsm/kg(G、H)、およびmTeSR(登録商標)1-F 450mOsm/kg(I、J)の中で前もって作製された、付着EB。倍率:左2x(A、C、E、G、I)、および10x(B、D、F、H、J)。
【図30】重量オスモル濃度の異なる培地(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg;mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kg、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg、およびmTeSR(登録商標)1-F 400mOsm/kg)の中で作製された、2日後の付着EBのスコアリング結果を示す。1日目に、mTeSR(登録商標)1-F 450mOsm/kgを含有する培養物にロゼットが存在するかどうか目視検査した。
【図31】付着3日後のEBを示す。EBは、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(B)の中で、4継代(p51〜p55)にわたって単一細胞懸濁液として継代されたヒト胚性幹細胞H9株から前もって作製された。倍率2x。
【図32】EB形成前の継代52の5日目のH9細胞を示す(A〜D)。丸で囲んだ領域は、低倍率のコロニーの分化した領域(A、C)および高倍率の同じ領域(B、D)を示す。ここでは、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で前もって形成され、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたプレートに付着させて2日後のEBを示した(E、F)。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。ここでは、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で前もって形成され、ポリ-D-オルニチン/ラミニンでコーティングされたプレートに付着させて2日後のEBを示した(G、H)。倍率:2x(A、C、E、G)および10x(B、D、F、H)。
【図33】播種して1日後の、hESC H7株 p38から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり5000個の細胞を含有するEBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D)の中で作製した。倍率2x(A、C、D)、10x(B)。
【図34】播種して2日後の、hESC H9株p44から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、Knockout(商標)-D-MEM 270mOsm/kg(A、B)またはKnockout(商標)-D-MEM 340mOsm/kg(C、D)の中で作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C)、10x(B、D)。
【図35】AggreWell(商標)400のマイクロウェル中でhESC H9株p44から作製された5日目、EBを遊離および播種する直前の、EB 1個あたり2000個の細胞のサイズを有するEBを示す(A、D)。B、C、E、Fは、播種して2日後の付着EBを示す。EBを、Neurobasal(商標)270mOsm/kg(A、B、C)またはNeurobasal(商標)340mOsm/kg(D、E、F)の中で作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(B、E)、4x(A、D)および10x(C、F)。
【図36】播種して3日後の、hESC H9株p41から作製された、EB 1個あたり500個の細胞を含有する付着EB(A、B、E、F)、hESC H9株p45から作製されたEB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EB(C、D)、およびhESC H9株p44から作製されたEB 1個あたり5000個の細胞を含有する付着EB(G、H)を示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット2)(C、G)、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット3)(A、B)、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(BSAロット2)(D、H)、またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(BSAロット3)(E、F)の中で、EBを作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x。
【図37】播種して2日後の、hESC H9株p44およびp53から作製された、EB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EB(A、B)、EB 1個あたり5000個の細胞を含有する付着EB(C、D)、EB 1個あたり10000個の細胞を含有する付着EB(E、F)を示す。G、Hは、2000個の細胞を含有する付着EBを示し、それぞれhESC H1株p59から作製された。全てのEBは、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット2)の中で作製された。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図38】播種して2日後の、hESC H9株p52から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、B)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D)の中で作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C)、10x(B、D)。
【図39】播種して2日後の、hESC H9株p64から作製された付着EBを示す。AggreWell(商標)400(A〜D)またはAggreWell(商標)800(E〜H)を用いて、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(BSAロット2)(A、B、E、F)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(C、D、G、H)の中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図40】播種して2日後の、hESC H9株p52から作製された、EB 1個あたり2000個の細胞を含有する付着EBを示す。TeSR(商標)2-F 270mOsm/kg(HSA含有)(A、B)またはTeSR(商標)2-F 340mOsm/kg(HSA含有)(C、D)の中でEBを作製した。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x(A、C)、10x(B、D)。
【図41】懸濁培養(ULAディッシュ)した後に、コーティングされたディッシュ上に播種して6日後の、hESC H9株p52から作製された付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)、20ng/mL bFGFを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(B)、または20ng/mL bFGF、1%B27、および1%N2Aを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(C)の中で、EBを作製した。D〜Fは、播種して4日後の付着EBを示す。これらのEBを、AggreWell(商標)800プレートの中で5日間培養した後に、1%N2Aを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(D)、100ng/mL FGF8および200ng/mL SHHを添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(E)、または1%B27を添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(F)に播種した。倍率2x(A、B、C、D、F)、10x(E)。
【図42】播種後の日数が異なる、hESC H9株p36およびp42から作製された付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを作製した。(A)に示したEBは、EB形成後1日目に播種され、播種後3日目に示された(培養して合計4日)。(B)に示したEBは、EB形成後1日目に播種され、播種後5日目に示された(培養して合計6日)。(C)に示したEBは、EB形成後2日目に播種され、播種後1日目に示された(培養して合計3日)。(D)に示したEBは、EB形成後2日目に播種され、播種後5日目に示された(培養して合計7日)。(E、F)に示したEBは、EB形成後3日目に播種され、播種後3日目に示された(培養して合計6日)。(G)に示したEBは、EB形成後4日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計6日)。(H)に示したEBは、EB形成後5日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計7日)。(I)は、神経マーカーであるSox1の抗体で染色された、1日目に播種された付着EBのFACSプロットを示す(0.77%陽性細胞)。(J)は、5日目に播種されたEBのSox1陽性細胞のFACSプロットを示す(35.21%陽性細胞;(IおよびJ)にある左のプロットは生細胞のゲーティングを示す)。倍率2x(A〜E、G、H)、10x(F)。
【図43】播種後の日数が異なる、hESC H9株p36およびp42から作製された付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを作製した。(A、B)に示したEBは、EB形成後7日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計9日)。(C、D)に示したEBは、EB形成後8日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計10日)。(E、F)に示したEBは、EB形成後11日目に播種され、播種後2日目に示された(培養して合計13日)。(G、H、I)に示したEBは、EB形成後11日目に播種され、播種後5日目に示された(培養して合計16日)。(G)の丸はロゼット構造を示し、(H)の細い矢印は神経前駆細胞を示し、(I)の太い矢印は成熟ニューロンを示す。倍率2x(A、C、E)、10x(B、D、F、G、H、I)。
【図44】異なる表面に播種して3日後の、hESC H9株p38から作製された付着EBを示す。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で作製した。(A)は、ポリ-L-オルニチンおよび1μg/mLのラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種したEBを示す。(B)は、ポリ-L-オルニチンおよび10μg/mLのラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種したEBを示す。(C)は、ポリ-L-オルニチンおよび20μg/mLのラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種したEBを示す。倍率2x。
【図45】超低付着性(ULA)ディッシュプレートの中で5日間、懸濁培養した後、1日目のニューロスフェアを示す。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみ(A)、または1%B27を添加した重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(B)、または1%N2Aを添加した重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(C)の中で最初に形成された付着EBからニューロスフェアを作製した。矢印は、付着したニューロスフェアから成長しているニューロンおよび伸長している軸索を示す。
【図46】播種後6日目の付着EBを示す。重量オスモル濃度260mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(A〜C)または重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(D〜F)の中でEBを形成し、AggreWell(商標)800の中で13日間、培養した。A〜Fにおいて、神経ロゼットを太い矢印で示し、ニューロンを細い矢印で示した。倍率10x(A、B、C、E、F)、4x(D)。
【図47】播種して4日後の、hESC H9株p47から作製された付着EBを示す。hESCを、EB形成までhESC維持培地中で培養したか(A)、またはmTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kgの中で24時間前条件付けした(B)。次いで、EBをmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で作製し、5日間、懸濁培養した(ULAディッシュ)。この後に、EBを付着させた。対応する画像の中にスコアリング結果を「%」として示した。倍率2x。
【図48】様々な方法によって解離した、付着EBから得られた神経前駆細胞(NPC)を示す。EBは、AggreWell(商標)400および重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でhESC H9株p47から前もって作製されている。EBを5日間、懸濁培養(ULAディッシュ)した後に、播種した。(A)に示したNPCは、細胞解離緩衝液である酵素非含有PBSベースの、0.02%EDTA溶液(B)、1mg/mLディスパーゼ(C)、Accutase(商標)(D)、Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit(Mouse)(E)、または0.05%トリプシン-EDTA(F)を用いて付着EBから得られた。倍率10x。
【図49】播種して3日後に様々な解離方法を用いて解離され、免疫細胞化学(ICC)を用いてNPCマーカーであるSox1(細胞核を染色する)およびネスチン(細胞質を染色する;(C)の矢印)について染色された、付着EBから得られた神経前駆細胞(NPC)を示す。(A)のNPCは、Accutase(商標)を用いて解離された付着EBから得られた。(B)に示したNPCは、HBSSを用いて解離された付着EBから得られた。(C)に示したNPCは、Ca++およびMg++を含まないD-PBSを用いて解離されたEBから得られた。倍率20x。
【図50】播種後の日数が異なる、hESC H7株およびH9株(それぞれ、継代38、または継代35、継代36、継代41、継代45)から作製された、EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞を含有する付着EBを示す。AggreWell(商標)800プレートから異なる時点でEBを遊離もした。(A、B)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり5000個の細胞)を5日目に遊離および播種した。写真は、播種後7日目の細胞形態を表す。(C、D)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり10000個の細胞)を5日目に遊離および播種した。写真は、播種後7日目の細胞形態を表す。(E、F)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり2000個の細胞)を11日目に遊離および播種した。写真は、播種後5日目の細胞形態を表す。(G、H)に示した付着EB(初期形成では、EB 1個あたり10000個の細胞)を6日目に遊離および播種した。写真は、播種後8日目の細胞形態を表す。倍率2x(A、C、E、G)、10x(B、D、F、H)。
【図51】解離した付着EBから播種して5日後(A、B)または6日後(C〜I)のNPCを示す(図50に記載)。異なる日に、AggreWell(商標)800プレートからEBを前もって遊離した。(A、B)に示したNPCは、8日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、5日目に解離された。(C)に示したNPCは、6日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり10000個の細胞)を付着させた後、8日目に解離された。(D、E、F)に示したNPCは、5日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり5000個の細胞)を付着させた後、7日目に解離された。(G、H)に示したNPCは、5日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり10000個の細胞)を付着させた後、7日目に解離された。(I)に示したNPCは、5日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり5000個の細胞)を付着させた後、6日目に解離された。倍率20x(A、D、G)、40x(B、C、E、F、H、I)。
【図52】解離した付着EBから単離し、播種して4日後のNPCを示す(図50に示した)。異なる日に、AggreWell(商標)800プレートからEBを遊離した。(A)に示したNPCは、7日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、11日目に単離された。(B)は、ニューロンマーカーであるPSA-NCAMについての同じNPCの免疫細胞化学的(ICC)染色を示す(矢印は、ロゼット構造の陽性染色された管腔を示す)。(C)は、ニューロンロゼットマーカーであるZO-1についての同じNPCのICC染色を示し、ロゼットの管腔が特異的に染色された(矢印)。(D)に示したNPCは、9日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、9日目に単離された。(E)は、ニューロンマーカーであるSox1についての同じNPCのICC染色を示す(丸は、存在するロゼット構造の一部を示す)。(F)は、ニューロンマーカーであるネスチンについての同じNPCのICC染色を示す(ここで矢印によって示されたように、ネスチンは細胞質を染色する。全ての細胞が陽性である)。(G)に示したNPCは、11日目にAggreWell(商標)800から遊離されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)を付着させた後、7日目に単離された。(H)は、ニューロンマーカーであるネスチンについての同じNPCのICC染色を示す(全ての細胞が陽性である)。全ての染色細胞を、DAPIを用いて青色に細胞を対比染色した。倍率10x(A、D、G)、20x(B、C、E、F、H)。
【図53】2継代が終了した時点でのNPCの年齢およびNPCの供給源のリストを含む、図50〜52からの結果をまとめたチャートを示す。1.マイクロウェルからEBを遊離した日、2.付着EBからNPCを単離した日(図50に示した)、3.付着EBを解離した時の全日数(図50に示した)、4.EB 1個あたりの細胞の数、および5.NPCの写真を撮影した日(図51または52に示した)。全日数は培養した日数に等しい。
【図54】hESC H9株p65から作製された付着EBおよび単離NPCを示す。EBを、AggreWell(商標)800プレートの中で、EB 1個あたり2000個の細胞のサイズで形成した。EBを遊離するまで12日間、プレートの中で培養した。(A〜D)は、播種後4日目の付着EBを示す。(E〜H)は、付着EBから単離され、1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、および20μg/mlラミニン(それぞれ、E〜H)に播種されて3日後のNPCを示す。(I〜L)は、播種されて7日後の同じNPCを示す。倍率10x。
【図55】10μg/mlラミニンまたは20μg/mlラミニンに播種された場合は3日目、1μg/mlラミニンまたは5μg/mlラミニンに播種された場合は7日目に抗TUJ-1抗体を用いて染色された、図54に示したNPCを示す(ニューロンは、明るい外観と、ニューロンから伸長している軸索によって特定することができる)。DAPIを用いて青色に細胞を対比染色した。倍率20x。
【図56】hESC H9株から作製された付着EBおよび単離NPCを示す。EBをAggreWell(商標)800の中で作製し、遊離し、11日目に播種した。付着後11日目に、付着EBの写真を撮影した(A、B、D、E)。これらの付着EBからNPCを得、播種後3日目のNPCを示した(C、F)。EBの形成、付着EBの培養、およびその後のNPCの培養には、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A〜C)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(D〜F)を使用した。倍率2x(A、B、D、E)、10x(C、F)。
【図57】神経マーカーであるネスチン、ニューロンマーカーであるTUJ1(A、B)、および神経マーカーであるSox1(C)に対する抗体で染色された、図56に記載のNPCを示す。(A)および(B)の矢印は、ネスチン陽性細胞の密度が高い領域を示す((B)の方が少ない)。多くの細胞がSox1を発現する。倍率20x。
【図58】hESC H9株p36およびp41から得られたNPCを示す。AggreWell(商標)800の中で異なるサイズのEB(EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞)を形成し、5日目または7日目に遊離した。NPCを、11日目(EB 1個あたり2000個の細胞の場合)または7日目(EB 1個あたり5000個および10000個の細胞の場合)に付着EBから単離した。(A)は、AggreWellの中で7日間、前もって培養されたEB(EB 1個あたり2000個の細胞)から単離され、付着EB培養物として11日間増殖され、次いで、培養して4日目にHBSSで処理されたNPCを示す。(B)は、HBSSを用いて、付着EBから 7日目に単離された6日目のNPCを示す。これらのEB(EB 1個あたり10000個の細胞)は、AggreWellの中で5日間、前もって培養された。(C)は、HBSSを用いて(A)の細胞を解離した後の、培養3日目の継代2 NPCを示す。これらのNPCを、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。(D)は、TryplEを用いて(B)の細胞を解離した後の、培養1日目の継代2 NPCを示す。これらのNPCを、matrigelでコーティングされたディッシュ上に播種した。E)は、トリプシンを用いて、(C)の細胞を解離した後の、培養3日目の継代3 NPCを示す。これらのNPC を、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。(F)は、TryplEを用いて(D)の細胞を解離した後の、培養4日目の継代3 NPCを示す。これらのNPCを、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。倍率10x。
【図59】図58に記載の結果をまとめたものである。(A)は、神経マーカーであるmusashiについて、およびロゼットマーカーであるZO-1を用いて染色された継代1の5日目のNPCを示す(全ての細胞がmusashi陽性であり、ZO-1は、よく目につくロゼット構造の管腔を染色する)。(B)は、ニューロンマーカーであるTUJ-1について染色された、継代1の6日目(p1d6)のNPCを示す(矢印は、いくつかの軸索構造を示している)。倍率20x。
【図60】神経マーカーであるPax6(A、E)およびSox1(B、F)について染色された付着EBを示す。(C、G)は2種類のマーカーのオーバーレイを示し、(D、H)は細胞のDAPI対比染色を示す。AggreWell(商標)400の中でhESC H9株p63から、EB 1個あたり500個の細胞を含有するEBを形成し、5日後に遊離および播種した。(A〜D)に示した付着EBを培養するために、誘導培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを使用したのに対して、(D〜H)に示した付着EBを培養するために、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgを使用した。(E、G、およびH)と比較して(A、C、およびD)から、形成されたEBから得られ、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で培養された細胞は神経マーカーであるPax6およびSox1を多く発現していることが分かる。倍率10x。
【図61】神経前駆細胞が豊富なことを証明するために、様々な実験に由来し、播種後の日数が異なる、神経マーカーであるPax6およびSox1(A)、Sox1およびネスチン(B)、ならびにSox1およびネスチン(C)について共染色された付着EBを示す。全ての細胞が3つ全てのマーカー組み合わせをそれぞれ同時発現している。倍率10x。
【図62】様々な実験に由来し、播種後の日数が異なる、神経マーカーであるPax6およびロゼットマーカーであるZO-1(A)について共染色された、神経マーカーであるSox1およびロゼットマーカーであるZO-1(B)について共染色された、ならびに放射状グリア(radial glia)マーカーであるBLBPおよび神経マーカーであるネスチン(C、D)について共染色された付着EBを示す。ネスチンおよびBLBPについて、(A)および(B)では全ての細胞がダブルポジティブであり、(C)および(D)ではロゼット構造がダブルポジティブであり、写真の中で明るく見える。倍率10x(A、B)、20x(C、D)。
【図63】播種して2日後の付着EBを示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)またはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(B、C)の中で、hESC H9株p51からEBを作製した。(A)の細い矢印は神経ロゼットを示す。(BおよびC)の太い矢印は、付着EBを取り囲んでいる平らな細胞を示す。これらの図には神経ロゼットは存在しないことに留意のこと。倍率10x。
【図64】H9 p52 hEScから前もって作製された、2日目の付着EB(図63に記載)から単離された、神経ロゼット細胞および「平らな」非神経細胞におけるネスチン(ダークグレー)およびSox1(ライトグレー)転写物発現のqPCR結果(比較定量(RQ値))を示すグラフを示す。神経ロゼット細胞および「平らな」非神経細胞は、それぞれ、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で作製された。
【図65】継代1の8日目(p1d8)(A)、p2d2(B)、およびp3d3(C)のNPC(H9;p36細胞)を示す。NPCは、播種後、5日目に付着EBから得られた(5日目にAggreWellから遊離された)。継代1および2では、主にNPCが観察されたのに対して、継代3では、ニューロン亜集団が自発的に発生した。(D)は、神経マーカーであるネスチンおよびニューロンマーカーであるTUJ-1について染色されたp1細胞を示す。(E)は、神経マーカーであるネスチンおよびニューロンマーカーであるTUJ-1について染色されたp3細胞を示す。矢印は、ニューロンから伸びている軸索を示している。(D)より(E)に存在するニューロンの方が多い。倍率10x。
【図66】全ニューロンマーカーであるTUJ-1(短く太い矢印で示される)(A)およびGABA作動性ニューロンマーカーであるGABA(矢印)(B)について共染色された、NPCに由来する自発的に分化したニューロンを示す。(C)は、TUJ-1染色およびGABA染色の重複部分を示し、全てのニューロンがGABA作動性ニューロンとは限らないことを示す。(B)および(C)の矢印は陽性GABA作動性ニューロンを示す。(D)NPCの自発的に分化したニューロンの中に、星状細胞の存在を示すGFAP陽性細胞(太い矢印)も特定することができる。TUJ-1陽性染色ニューロンはGFAP(細い矢印)について共染色されない。倍率40x。
【図67】単一細胞懸濁液として4継代にわたって継代されたhESC H9株 継代55からの神経誘導を示す。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A、D)、1%N2A、1%B27を添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(B、E)、または2%B27を添加したmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中、matrigel上で、7日間、神経外胚葉を誘導した後の付着NPC培養物。倍率2x(A〜C)、10x(D〜F)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
開示の詳細な説明
開示の方法
胚葉前駆細胞の誘導
本発明者らは、重量オスモル濃度が管理された培地中で幹細胞を培養することによって胚葉前駆細胞を誘導する方法を開発した。
【0037】
従って、本開示は、重量オスモル濃度340mOsm/kg未満、任意で240〜340mOsm/kgまたは260〜340mOsm/kgの範囲の培養培地中で幹細胞を培養する工程、および細胞を胚葉前駆細胞に分化させる工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する。
【0038】
1つの態様において、本開示は、以下の工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法を提供する:
(a)多能性幹細胞を解離してクラスターまたは単一細胞にする工程;
(b)(a)由来の解離細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で培養する工程;および
(c)(b)の細胞を解離し、該細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種し、該培養培地中で少なくとも1日培養して、胚葉前駆細胞を作製する工程。
【0039】
1つの態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞をマイクロウェル装置内で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、および該マイクロウェル装置内での培養を24時間超にわたり前記培養培地中で続け、次に、該凝集物を遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。凝集物は、任意で、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上、マイクロウェル装置内で培養した後に、遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0040】
別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を前記マイクロウェル装置内で前記培養培地中で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、該凝集物を該マイクロウェル装置から遊離させ、次に該遊離させた凝集物を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養する工程、該凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。凝集物を、任意で2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上懸濁培養した後に、遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0041】
さらに別の態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養し、次に該細胞を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む。この方法では、EBは、こそぎ落とし法によって幹細胞から作製し、培養培地中で少なくとも1日培養する。凝集物は、任意で、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上、懸濁培養した後に、解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる。
【0042】
さらなる態様において、(b)の解離細胞を培養する工程は、(a)由来の解離細胞を、コーティングされた培養ディッシュまたはフィーダーの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも3日間培養する工程を含む。細胞は、任意で、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上、付着培養物中で培養する。
【0043】
本明細書で使用する「重量オスモル濃度」という用語は、溶媒1キログラムあたりの溶質をオスモルで表した溶液濃度を指す。溶媒1キログラムあたりの溶質のオスモルは、1kgあたりの粒子の数に相当する。この場合、溶媒1kgあたりのイオン(塩:NaClに由来する場合=2)の濃度であり、1kgあたりの分子の数を指す重量モル濃度(mol/kg)の2倍である。当業者であれば、ある特定の重量オスモル濃度の培地を得るために必要な塩の量を容易に求めることができる。このような算出の一例は実施例5に見られる。
【0044】
幹細胞培養培地は当技術分野において公知である。1つの態様において、培養培地は無血清である。別の態様において、培養培地はダルベッコ最小必須培地を含む。さらに、培養培地は、ビタミン類、微量元素類、セレン、インシュリン、脂質、β-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、抗生物質、bFGF、B27、N2、またはこれらの混合物を含んでもよい。典型的な培養培地の例には、mTeSR(登録商標)1-F、Knockout(商標)D-MEM、Neurobasal(商標)培地、およびTeSR(商標)2が含まれる。幹細胞を分化させるために、成分の一部も培地に使用することができる。例えば、B27、bFGF、およびN2は外胚葉誘導に一般的に用いられる。これらの成分の組み合わせは中胚葉誘導および内胚葉誘導にも使用することができる。1つの態様において、本明細書に記載の培養培地は、表2に示した成分を含む、多能性フリーまたは因子フリーの培地を含み、重量オスモル濃度は、本明細書に記載のように塩を添加することによって望ましいレベルまで調節される。
【0045】
本明細書で使用する「幹細胞」という用語は、自己複製能を有する細胞を指す。1つの態様において、幹細胞は多能性幹細胞である。本明細書で使用する「多能性の」という用語は、様々な細胞タイプに分化する能力を維持している未分化細胞を指す。1つの態様において、多能性は、例えば、実施例4に記載のように形態学的に確かめられる。このような態様において、細胞のコロニーが1%未満の分化を示す場合、細胞は多能性とみなされる。1つの態様において、多能性幹細胞は胚性幹細胞である。別の態様において、多能性幹細胞は、遺伝学的方法または化学的方法を用いて任意の体細胞から得られた人工多能性幹細胞である。
【0046】
胚性幹細胞は、哺乳動物の初期胚である胚盤胞の内部細胞塊から得ることができる。人工多能性幹細胞(iPSC)は、身体の体細胞を再プログラミングすることによって得られる。「多能性幹細胞」という用語には、培養された胚性幹細胞株および任意の組織に由来する人工多能性幹細胞株が含まれるが、それに限定されるわけではない。人工多能性幹細胞は哺乳動物細胞から得ることができる。幹細胞はまた、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ(drosophila)、およびイモリなどの非哺乳動物供給源においても発見されている。1つの態様において、多能性幹細胞はヒトである。
【0047】
1つの態様において、凝集物またはクラスターは、Y27632(rock阻害剤)の存在下で形成される。Y27632(rock阻害剤)は単一幹細胞の生存を高めるために添加される。
【0048】
本明細書で使用する「凝集物」という用語は、ある細胞が別の細胞に付着しているもの、または複数の細胞が一緒になって付着しているもの、または細胞の集まりが一緒になって付着しているものを指す。このような凝集物は、ヒト多能性幹細胞のコンフルエント培養物もしくはセミコンフルエント培養物を破壊した後に細胞から、またはヒト多能性幹細胞のコンフルエント培養物もしくはセミコンフルエント培養物を破壊することによって得られた細胞のクラスターから形成される。本明細書で使用する「胚様体」または「EB」という用語は、ヒト多能性幹細胞に由来する三次元凝集物を指す。胚様体は、ヒト多能性幹細胞をこそげ落とすことを含む、様々なプロトコールを用いて形成される。凝集物および胚様体は同義に用いられる。しかしながら、場合によっては、凝集物は、特に、実施例7に示したAggreWell(商標)400または実施例24に示したAggreWell(商標)800と呼ばれるマイクロウェル装置を用いた時の凝集物を指す。1つの態様において、胚様体は500〜20,000個の細胞を含む。
【0049】
さらなる態様において、(c)における解離および付着された培養物は、少なくとも1日、任意で、3〜6日間、前記培養培地中で培養される。
【0050】
本明細書で使用する「解離」という用語は、細胞凝集物またはクラスターをさらに小さな凝集物もしくは異なるサイズにするか、または単一細胞懸濁液にすることを指す。本明細書に記載の細胞の解離は、酵素的手段、化学的手段、または機械的手段を含むが、それに限定されるわけではない任意の方法によるものでよい。1つの態様において、解離は機械的手段を含む。別の態様において、解離は、Accutase、ディスパーゼ、Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit、またはトリプシンなどの酵素的手段を含む。
【0051】
1つの態様において、コーティングされた培養ディッシュは、細胞付着を促進する因子、例えば、細胞外マトリックス分子、合成分子、合成ペプチド、または化学基質を含む。別の態様において、コーティングされた培養ディッシュは、ポリ-L-オルニチン/ラミニン、ラミニンのみ、またはMatrigelを含む。ラミニンの濃度は当業者によって容易に求められ、1〜20ug/mL、例えば、1ug/mL、5ug/mL、10ug/mL、または20ug/mLを含む。ポリ-L-オルニチンの濃度は当業者によって容易に求められ、1〜100ug/mL、例えば、1ug/mL、5ug/mL、10ug/mL、または20ug/mLを含む。
【0052】
本明細書で使用する「分化」という用語は、幹細胞などの特殊化していない細胞が、ある特定の前駆細胞ならびにさらに特殊化した体細胞を含むが、それに限定されるわけではない特定の系列に方向付けられるように、特殊化した細胞タイプになるプロセスを指す。幹細胞を分化させるための条件は当技術分野において容易に知られる。
【0053】
本明細書で使用する「胚葉前駆細胞」という用語は、哺乳動物胚形成中に形成される3種類の細胞層に分化することができる細胞を指す。従って、1つの態様において、胚葉は、皮膚および神経組織に発生する外側の胚葉を指す、外胚葉;消化器系および呼吸器系の内層に発生する内側の胚葉を指す、内胚葉;および/または筋肉、骨および軟骨、ならびに血液および結合組織に発生する中間の胚葉を指す、中胚葉を指す。
【0054】
外胚葉分化
本発明者らは、最初にマイクロウェル装置内で培養された、および/または懸濁培養される解離細胞については、重量オスモル濃度範囲260〜280mOsm/kgの培養培地中で、ならびに本明細書に記載の方法に従って、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種される解離細胞については、重量オスモル濃度範囲270〜320mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養することによって、外胚葉性胚葉を誘導できることを示した。従って、1つの態様において、培養培地の重量オスモル濃度は、外胚葉性前駆細胞を誘導する場合、260〜280mOsm/kgである。別の態様において、本明細書に記載の方法において用いられる培養培地の重量オスモル濃度は、外胚葉性前駆細胞を誘導する場合、270〜320mOsm/kgである。
【0055】
なおさらなる態様において、本明細書に記載の方法は、Pax6、Sox1、Sox2、A2B5、CD15、CD24、CD29、CD81、CD133、PSA-NCAM、ビメンチン、Musashi1、Musashi2、およびネスチンより選択される神経細胞運命に関連するマーカーの存在に基づいて外胚葉性前駆細胞または神経前駆細胞を特定する工程をさらに含む。
【0056】
本開示はまた、以下の工程を含む、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の神経前駆細胞を維持する方法を提供する:本明細書に記載の方法に従って外胚葉性前駆細胞を作製する工程、付着培養物から外胚葉性前駆細胞を解離する工程;前記前駆細胞を播種して少なくとも1日培養する工程。1つの態様において、単一の神経前駆細胞をbFGFの存在下で維持する。別の態様において、前駆細胞を播種し、少なくとも4日間培養する。1つの態様において、細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する。1つの態様において、コーティングされた培養ディッシュは、細胞付着を促進する因子、例えば、細胞外マトリックス分子、合成分子、合成ペプチド、または化学基質を含む。別の態様において、コーティングされた培養ディッシュはポリ-L-オルニチン/ラミニンを含む。典型的なラミニン濃度は本明細書に記載の通りである。
【0057】
1つの態様において、bFGFの濃度は10〜100ng/mLである。別の態様において、細胞を、少なくとも3継代にわたって培養状態で増殖させかつ維持する。1つの態様において、細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。
【0058】
本発明者らは、付着培養物を、pH7.0〜8.0のCa2+およびMg2+フリーの1xPBS緩衝液とインキュベートすると、単一の神経前駆細胞を選択的に遊離または解離できることを発見した。従って、別の態様において、単一の神経前駆細胞は、Ca2+およびMg2+フリーの1xPBSまたは1xハンクス緩衝液, pH7.0〜8.0を含む緩衝液中で解離される。1つの態様において、単一細胞は緩衝液中で1〜2時間インキュベートされる。別の態様において、細胞は緩衝液中で30〜90分間インキュベートされる。
【0059】
さらに別の態様において、分化細胞を作製するために、細胞は、DMEM-F12、N2、B27もしくはその組み合わせ、非必須アミノ酸、ホルモン、脂質、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、レチノイン酸、TGFβ(ニューロン)、ソニックヘッジホッグ(SHH)、甲状腺ホルモン、BMPファミリーの任意のメンバー、EGFおよびPDGF(オリゴデンドロサイト)、シクロパミン、または他の任意のSHH阻害剤(星状細胞)を含むニューロン細胞分化培地において培養される。分化細胞を、任意で、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。分化のために、bFGFは除去される。1つの態様において、分化細胞は、ニューロン、星状細胞、またはオリゴデンドロサイトを含む。これらは、任意で、TUJ1、MAP2(ニューロン)、A2B5、GFAP、GLAST(グリア細胞、星状細胞、および放射状グリア細胞)、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、O4、OLIG2、GalC、ならびにNG2(オリゴデンドロサイト)より選択されるマーカーの存在に基づいて特定される。
【0060】
内胚葉分化/中胚葉分化
本発明者らは、本明細書に記載の方法によって、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する前に、マイクロウェル装置内でおよび/または細胞懸濁液中で培養される解離細胞の場合は、重量オスモル濃度範囲が280mOsm/kgを上回る、任意で、290〜340mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養することによって、ならびに本明細書に記載の方法によって、コーティングされた培養ディッシュの上に直接播種される解離細胞の場合は、重量オスモル濃度320mOsm/kg超、任意で320〜340mOsm/kgの培養培地中で幹細胞を培養することによって、内胚葉/中胚葉を誘導できることを示した。従って、別の態様において、本明細書に記載の方法において用いられる培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、280mOsm/kgより高い。別の態様において、培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、290〜340mOsm/kgである。さらに別の態様において、本明細書に記載の方法において用いられる培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、320mOsm/kgより高い。なおさらなる態様において、培養培地の重量オスモル濃度は、内胚葉性前駆細胞/中胚葉性前駆細胞を誘導する場合、320〜340mOsm/kgである。
【0061】
1つの態様において、重量オスモル濃度280mOsm/kg超の、任意で320mOsm/kg超の培養培地は中胚葉運命になるように分化を引き起こし、間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、および骨格細胞を生じることができる。別の態様において、重量オスモル濃度280mOsm/kg超の、任意で320mOsm/kg超の培養培地は内胚葉運命になるように分化を引き起こし、膵臓、腸細胞、および肝細胞を生じることができる。
【0062】
なおさらなる態様において、本明細書に記載の方法は、Sox17、HNF1β、HNF3β、Gata4、Gata6、CXCR4(CD184)、AFP(内胚葉)およびBry、MixL1、Snail、Bmp2、Bmp4、CD31、およびCD34(中胚葉)より選択されるマーカーの存在に基づいて、内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞を特定する工程をさらに含む。
【0063】
本開示はまた、以下の工程を含む、重量オスモル濃度290〜340mOsm/kgの培養培地中で単一の内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞を維持する方法を提供する:本明細書に記載の方法に従って内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞を作製する工程、付着培養物から単一の内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞を解離する工程;ならびに前記前駆細胞を播種および培養する工程。1つの態様において、細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する。
【0064】
1つの態様において、内胚葉および中胚葉を得るために、培養培地に誘導因子が添加される。因子は、例えば、BMPおよびFGFファミリーのメンバーならびにアクチビンAを含む(Boyd et al., 2009; Kubo et al., 2004; Lee et al., 2009, Takei et al., 2009, Sulzbacher et al., 2009)。
【0065】
1つの態様において、細胞を、少なくとも3継代にわたって培養中で増殖させかつ維持する。1つの態様において、細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。
【0066】
本発明者らは、付着培養物を、pH7.0〜8.0のCa2+およびMg2+フリーの1xPBS緩衝液とインキュベートすると、単一の外胚葉性前駆細胞または神経前駆細胞を遊離または解離できることを発見した。従って、別の態様において、内胚葉性前駆細胞または中胚葉性前駆細胞は、pH7.0〜8.0のCa2+およびMg2+フリーの1xPBS緩衝液の緩衝液中で解離することによって、培養物から外胚葉細胞を遊離し、従って、培養のために、内胚葉細胞および/または中胚葉細胞をプレートに付着させたままにすることによって得られる。内胚葉性前駆細胞および中胚葉性前駆細胞は表面から剥がれず、従って、この方法は、高濃度の内胚葉細胞および中胚葉細胞の集団を残したまま、外胚葉性前駆細胞を取り除き、次いで、これらを解離することができる。
【0067】
さらに別の態様において、分化細胞を作製するために、細胞を、中胚葉細胞分化培地または内胚葉細胞分化培地の中で培養する。任意で、前記分化細胞を、本明細書に記載のように、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する。このような分化培地には、胎仔ウシ血清(FBS)、BMPおよびFGFファミリーのメンバー、フォリスタチン、Noggin、ならびにアクチビンAが含まれるが、それに限定されるわけではない。1つの態様において、分化細胞は、間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、骨格筋細胞(中胚葉)、膵細胞、腸細胞、または肝細胞(内胚葉)を含む。
【0068】
別の態様において、分化細胞系列は、Stro1、コラーゲン2、MyoD、Sox9、アクチン、Msx2、Runx2、Dlx5(間葉系幹細胞);CD44、CD151、Sox9、オステオネクチン、コラーゲン2(軟骨細胞)、MyoD(心筋細胞)、CD34、CD31、CD133、Tie2(造血幹細胞)、アクチン、α-アクチニン、MyoD、デスミン(骨格筋細胞)、Islet1、Islet2、Pdx1、インシュリン(膵細胞)、Hnf1β、Cdx2(腸細胞)、アルブミン、ApoE(肝細胞)を含むが、それに限定されるわけではない分化マーカーを用いて特定される。
【0069】
本開示のアッセイ
本明細書に記載の方法によって作製された細胞を用いると、神経系の初期発生中の事象を実験によって検討し、治療能力、例えば、再生プロセスを誘導する能力を有する可能性のある新たな遺伝子およびポリペプチド因子を特定することが可能になる。さらなる薬学的用途には、毒性アッセイおよび創薬プラットフォーム、例えば、神経保護化合物のハイスループットスクリーニングの開発が含まれ得る。インビトロでのhES細胞から神経前駆細胞の作製は、神経変性疾患の潜在的な細胞療法のための、ならびに神経系に因子を送達および発現するための無限の細胞供給源として役立つかもしれない。
【0070】
本明細書に記載の方法によって作製された神経前駆細胞および分化神経細胞は、ヒト神経発生の細胞生物学および分子生物学の研究のために、神経の分化および再生において役割を果たす遺伝子、増殖因子、および分化因子の発見のために、創薬のために、ならびに催奇作用、毒性作用、および神経保護作用のスクリーニングアッセイの開発のために使用することができる。
【0071】
従って、本開示は、以下の工程を含む、胚葉細胞をスクリーニングする方法を提供する:
(a)本明細書に記載の方法によって、外胚葉性胚葉細胞、内胚葉性胚葉細胞、および/または中胚葉性胚葉細胞の培養物を調製する工程;
(b)該胚葉細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;ならびに
(c)処理された該胚葉細胞を分析に供する工程。
【0072】
別の態様において、以下の工程を含む、神経前駆細胞をスクリーニングする方法が提供される:
(a)本明細書に記載の方法によって、神経前駆細胞の培養物を調製する工程;
(b)該神経前駆細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;および
(c)処理された該神経前駆細胞を分析に供する工程。
【0073】
1つの態様において、試験剤は、特定の細胞タイプへの胚葉細胞または神経前駆細胞の分化に及ぼす作用について試験されている化学物質または他の物質である。このような態様において、分析は、分化細胞タイプのマーカーを検出する工程を含んでもよい。外胚葉性前駆細胞または神経前駆細胞から神経を分化させる場合、マーカーには、ネスチン、Sox1、およびTUJ1が含まれるが、それに限定されるわけではない。内胚葉細胞から内胚葉を分化させる場合、マーカーには、Sox7、Sox17、HNF-1β、HNF3β、Gata4、Gata6、CXCR4(CD184)、α-フェトプロテイン(AFP)(内胚葉)が含まれるが、それに限定されるわけではない。中胚葉細胞から中胚葉を分化させる場合、マーカーには、Bry、MixL1、Snail、Bmp2、Bmp4、CD31、CD34、(中胚葉)が含まれるが、それに限定されるわけではない。1つの態様において、スクリーニングアッセイは、再生プロセスの誘導または神経保護化合物の提供など治療能力を有する可能性のある化合物を特定するのに用いられる。
【0074】
別の態様において、試験剤は化学物質または薬物であり、スクリーニングは、化学物質または薬物の一次スクリーニングとして、または二次薬理学評価スクリーニングおよび毒物学評価スクリーニングとして用いられる。
【0075】
本開示の培養培地
本開示はまた、胚葉前駆細胞を誘導するのに有用な培養培地組成物を提供する。1つの態様において、培養培地は、340mOsm/kgより低い重量オスモル濃度を含む。別の態様において、培養培地は、240〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。さらに別の態様において、培養培地は、260〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。
【0076】
本開示はまた、外胚葉性胚葉前駆細胞の誘導において使用するための培養培地組成物を提供する。1つの態様において、培養培地は、260〜280mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。別の態様において、培養培地は、270〜320mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。さらに、本開示は、中胚葉性胚葉前駆細胞および/または内胚葉性胚葉前駆細胞の誘導において使用するための培養培地を提供する。1つの態様において、培養培地は、280mOsm/kgより高い重量オスモル濃度、任意で、290〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。別の態様において、培養培地は、320mOsm/kgより高い重量オスモル濃度、任意で、320〜340mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む。
【0077】
培養培地は、幹細胞分化において有用な任意の培養培地でよい。例えば、培養培地は、任意で、多能性因子フリーであり、または、望ましい重量オスモル濃度、任意で260〜340mOsm/kg、260〜280mOsm/kg、290〜340mOsm/kg、または約270mOsm/kgになるように調節された、表2に示した成分を含む、因子フリーの培地である。当業者であれば、溶液の重量オスモル濃度を調節する方法を容易に理解するであろう。例えば、重量オスモル濃度は、実施例5に記載のように塩を添加することによって調節することができる。簡単に述べると、5xサプリメントに添加される塩の量は、以下の式を用いて計算される。例えば、5xサプリメント(初期重量オスモル濃度100mOsm/kg)および基本培地(ここでは、初期重量オスモル濃度300mOsm/kg)を混合した後に、270の重量オスモル濃度を得るためには、
[270-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=0.30g/L NaCl
である。
【0078】
他の任意の培地調製法および出発培地製剤によって、NaCl濃度を調節することによって、重量オスモル濃度270を得ることができる。
【0079】
前述の開示は本開示を大まかに説明している。以下の特定の実施例を参照することによって、さらに完璧に理解することができる。これらの実施例は例示のためだけに示され、本開示の範囲を限定すると意図されない。状況によっては、形態の変更および均等物の置換が示唆されるかまたは有効であることが、意図される。本明細書において特定の用語が用いられているが、このような用語は説明の意味で用いられ、限定を目的としない。
【0080】
以下の非限定的な実施例は本開示を例示する。
【実施例】
【0081】
実施例1.無血清合成培地中のBD Matrigel(商標)コーティング上での凝集物としてのヒト多能性幹細胞の培養
ヒト多能性細胞を、無血清合成培地の中、BD Matrigel(商標)でコーティングされたディッシュ上で維持した。詳細なプロトコールは、BD Matrigel(商標)コーティングの手順を含む、ヒト多能性幹細胞を維持するための、STEMCELL TECHNOLOGIES INCによるマニュアル番号29106「Maintenance of Human Embryonic Stem Cells in mTeSR(登録商標)1」において見られる。コロニーが大きく、合体し始め、縁と比較して中央の密度が濃くかつ明るい位相となった時に、細胞を継代した(図1を参照されたい)。播種された凝集物のサイズおよび密度に応じて初回播種の5〜7日後に、培養物を継代した。
【0082】
幹細胞培養物から培地を吸引し、細胞をDMEM/F-12(2mL/ウェル)でリンスした。1mg/mLの濃度のディスパーゼ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07923)を1ウェルにつき1mL添加した。ディッシュを37℃で7分間置いた。
【0083】
コロニーの縁がわずかに折り畳まれているように見えたら、ディスパーゼを除去し、残っているディスパーゼを希釈するために、各ウェルを1ウェルにつき2mLのDMEM/F-12で2〜3回、穏やかにリンスした。2mL/ウェルのDMEM/F-12またはmTeSR(登録商標)1をウェルに添加し、細胞スクレーパー(例えば、Corningカタログ番号3010)またはセロロジカルピペットチップを用いて、コロニーをこそぎ落とした。
【0084】
剥離した細胞凝集物を15mLコニカルチューブに移し、ウェルを、さらに2mLのDMEM/F-12でリンスして、全ての残りの凝集物を収集した。残っている細胞を含有する、リンスされた培地を同じ15mLチューブに添加した。
【0085】
凝集物を含有する15mLチューブを300xg、室温(15〜25℃)で5分間、遠心分離した。上清を吸引した。15mLチューブに収集したhESC凝集物の各ウェルについて、1〜2mLのmTeSR(登録商標)1を添加した。P1000マイクロピペットを用いて上下に(1〜2回)ピペッティングすることによって、ペレットを穏やかに再懸濁した。細胞を凝集物として維持した。「凝集塊カウント」法を用いて、凝集塊の数を見積もった。付着および増殖している可能性の高い、正しいサイズ(直径が約50〜60μm)の凝集塊を数え上げるために、顕微鏡の接眼レンズの中に入れられているマイクロメーターを使用する。凝集塊カウントを行うために、30μLのDMEM/F-12を96ウェル平底プレートのウェル2つに分注した。カウンティンググリッド(counting grid)として役立つように、これらのウェルの底の中心に「+」を書いた。5μLの新たに混合した凝集塊懸濁液を各ウェルに添加した。約3500μm2またはこれより大きい凝集塊を2回繰り返してカウントした。これは、直径が約60μmの凝集塊に相当する。以下の式:
1μlあたりの凝集塊の総数=カウントしたx個の凝集塊/5μLの懸濁液総体積
を用いて、1μlあたりの凝集塊の総数を見積もった。
【0086】
播種されているウェルまたはディッシュのサイズに応じて、決められた数の凝集塊を播種した。適切な播種密度についての表1の案内を用いて、新たなディッシュに播種するのに使用する凝集塊懸濁液の体積(y)を計算した。例えば、6ウェルに対する(y)は以下に等しい:350/1μLあたりにカウントされる凝集塊の数。
【0087】
BD Matrigel(商標)でコーティングされた新たな6ウェルにつき2mLのmTeSR(登録商標)1と共に、hESC凝集物を播種した。ウェルの表面全体にわたって細胞を均等に分散させるために、プレートを数回、素速く短時間で前後左右に動かした。プレートを37℃インキュベーターに入れた。mTeSR(登録商標)1およびBD Matrigel(商標)の中で培養したhESCを、本開示における分化プロトコール用の一貫した細胞供給源として使用することができる。図1は、培養5日目、継代51の未分化なH9 hESCを示す。
【0088】
実施例2.hES細胞の培養物を維持するためのマウス胚線維芽細胞層(MEF)の調製
標準的なプロトコール(WiCell Research Instituteウェブページ:https://www.wiceil.orgおよびDravid et al., Human Embryonic Stem Cell Protocols, Humana press)に従って、放射線を照射した胚13日目マウス胚線維芽細胞(MEF)(CF-1マウス株)を調製した。ヒト多能性幹細胞をMEFに播種する日の前日に、WiCell Research Instituteの標準的なプロトコールに従って、放射線を照射したMEFのバイアルを解凍して標準的な「MEF培地」に入れた。6ウェルあたりの約2x105個の細胞に相当する、約2x104細胞/cm2を播種した。図2は、MEF上で培養された4日目のhESCを示す。
【0089】
実施例3.マウスフィーダー細胞上でのヒト多能性幹細胞の培養
マウスフィーダー細胞上で維持されたヒト多能性幹細胞は、本開示における分化プロトコール用の一貫した細胞供給源として使用することもできる。
【0090】
WiCell Research Institute ウェブページ(https://www.wicell.org)およびDravid et al., Human Embryonic Stem Cell Protocols, Humana press)において見られるWiCell Research Instituteの標準的なプロトコールに従って、hESC培地(DMEM-F12(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号36254)、25%knock-out serum replacer(Invitrogen,カタログ番号10828028)、200mM L-グルタミン(Invitrogen, カタログ番号25030081)、0.1mM β-メルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号63689)、1xNEAA溶液(Invitrogen,カタログ番号11140050)、4ng/ml bFGF(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号02634)の中で、MEF(実施例2を参照されたい)上で、H9 hESCを増殖させた。
【0091】
簡単に述べると、フィーダー層が2週齢を超え、コロニーが合体し始めるか、または大きくなり中心の密度が濃くなった時に、細胞を分割した。ヒト多能性幹細胞を継代するために、6ウェルあたり、DMEM/-F12に溶解した1mg/mlコラゲナーゼIV型(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号07909)溶液を使用した。培養培地を吸引し、コラゲナーゼ溶液を37℃で5分間添加した。5mlセロロジカルピペットを用いて、表面の細胞を洗浄するためにコラゲナーゼ溶液を上下にゆっくりとピペッティングしながら、細胞をプレートからこそげ落とした。懸濁液を15mlコニカルチューブ(Falcon)に移し、300gで5分間遠心分離した。上清を吸引し、2〜3mlのhESC培地を添加した。チューブを穏やかに軽くたたくことによって、ペレットを再構成し、300xgで5分間、再遠心分離した。その間に、培地をMEFから吸引し、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で2回洗浄した。上清をペレット状のhESCから除去し、12mLの新鮮なhESC培地を添加した。10mlセロロジカルピペットを用いて、ペレットを注意深く再懸濁し、細胞懸濁液をMEFの6ウェルプレートに分配した(これはhESCの1:6分割比に等しい)。細胞を均等に分配させるために、プレートを数回、前後左右に動かした。次いで、プレートをインキュベーターに戻した。
【0092】
実施例4.mTeSR(登録商標)1の中、BD Matrigel(商標)上で増殖させたヒト多能性幹細胞(hPSC)の多能性の形態学的評価
胚葉誘導を成功させるために、高度に純粋な多能性幹細胞の集団を使用した。以下の基準を用いて、細胞の形態および質を評価した(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.による技術マニュアル番号29106に記載されている)。図1に示したように、未分化なヒト多能性幹細胞が、密集した多細胞のコロニーとして増殖した。未分化なヒト多能性幹細胞は、高い核:細胞質比および顕著な核小体を示した。これらのコロニーは特異な境目を特徴とした。健康なhPSCコロニーは中心で多層状になり、位相差顕微鏡下で観察した時に、位相の明るい細胞のクラスターとなった。分化は、境目の完全性の消失、コロニー内での全体の不均一な細胞形態、および明らかに異なる細胞タイプの出現を特徴とした。多能性のパーセントは、(4xおよび10x対物レンズを使用した)顕微鏡下でコロニーを観察することによって見積もられた。分化が1%未満の場合にしか、細胞を胚葉誘導に使用しなかった。図3は、左縦列に多能性幹細胞を示し、右縦列に、分化している中心のあるコロニーの一例(赤色の枠および大写し)を示す。
【0093】
実施例5.重量オスモル濃度範囲の異なる培地製剤:重量オスモル濃度が改変された因子フリーのmTeSR(登録商標)1培地
改変TeSR(mTeSR(登録商標)1、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号05850)のための完全培地製剤および調製方法は、Ludwig et al, Nature Methods 3(8): 637, 2006において公表されている。これは、Ludwig et al., Nature Biotechnology 24(2): 185, 2006において公表されているオリジナルのTeSR製剤をベースとし、以下の変更:ヒト血清アルブミン(HSA)とウシ血清アルブミン(BSA)との交換を加えた。
【0094】
因子フリーのmTeSR(登録商標)1(mTeSR(登録商標)1-F)培地を製造するために、以下の5種類の因子:GABA、ピペコリン酸、bFGF、TGFβ1、塩化リチウム以外は、mTeSR(登録商標)1試薬の全てを5倍濃度で含有する5xサプリメントを作製した。培地の成分を表2に示した。
【0095】
5xサプリメントの成分を一緒に混合した後に、10N NaOHを添加することによって、pHを7.4に調節した。標準的な浸透圧計を用いて、溶液の重量オスモル濃度を測定した。5xサプリメントの初期重量オスモル濃度は、通常、約100mOsm/kgであった。5xサプリメントを400mLの基本培地DMEM/F12(Hyclone, カタログ番号SH30004)(重量オスモル濃度約300mOsm/kg)と組み合わせてmTeSR(登録商標)1-Fを得ることを考慮に入れながら、重量オスモル濃度を上げるために塩(NaCl)を使用した。以下の式を用いて、5xサプリメントに添加しなければならない塩の量を計算した。例えば、5xサプリメントおよび基本培地を混合した後に、270の重量オスモル濃度を得るためには:
[270-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=0.30g/LのNaCl
である。
【0096】
x量のNaClを5xサプリメントに添加した。重量オスモル濃度の異なる4種類の培地:260mOsm/kg、280mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kgを調製した。
【0097】
実施例6.AggreWell(商標)400におけるEB形成のための、ヒト多能性細胞の単一細胞懸濁液の作製
ヒト多能性幹細胞コロニーから単一細胞を作製し、AggreWell(商標)400プロトコールおよび装置において使用する手順は、技術マニュアル29146(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.)に記載されている。
【0098】
簡単に述べると、セミコンフルエントな未分化H1の継代46 hESCを含有する10cmプレートをインキュベーターから取り出し、滅菌した組織培養フードの中に入れた。mTeSR(登録商標)1維持培地をH9培養物から吸引し、次いで、各プレートを、2mLの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスし、次いで、吸引し、捨てた。Accutase(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号07920)を用いて、付着hESC培養物を解離して単一細胞にした。未分化H9細胞培養を含有する各10cmプレートには、3mLのAccutaseを直接添加した。次いで、穏やかに振盪しながら、約10分間または細胞がプレートから容易に剥離するまで、プレートを37℃でインキュベートした。全ての残存凝集塊が完全に解離したことを確実にし、かつディッシュ表面にまだ付着している全ての細胞を取り外すために、セロロジカルピペットを用いて、H1細胞懸濁液を穏やかに2〜3回ピペッティングした。懸濁液を50mLコニカルチューブに移した。各プレートを10mLの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスし、リンス液を、細胞懸濁液を含有する同じ50mLチューブに移した。
【0099】
同じ手順を用いて、MEF上で増殖させたH9 hESC(実施例3を参照されたい)を解離して、単一細胞懸濁液にした。EBの中にある大部分のフィーダー細胞はEB形成中に死滅し、EBの胚葉誘導プロセスを妨害しないと考えられる。
【0100】
細胞懸濁液を、350xg、室温(15〜25℃)で7分間、遠心分離した。上清を吸引し、捨てた。細胞ペレットを、1mL体積の培地mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、または340mOsm/kgに再懸濁した。EB形成中の細胞生存を高めるために、最終濃度10μg/mLのY27632 rock阻害剤(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号07171/2)も培地に添加した(Watanabe et al, 2007)。標準的な技法を用いて、90μLのトリパンブルー(Invitrogen,カタログ番号15250061)で10μLの細胞懸濁液試料を1:10に希釈し、血球計算器で未染色細胞を計数することによって、生細胞を計数した。1μLあたりの細胞の数から、EB形成に使用するための細胞の体積を計算することができる(実施例7)。1枚のhESC 10cmディッシュから7〜10x106個の細胞が得られた。
【0101】
実施例7.mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kg培地が入っているマイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)を用いてヒト多能性幹細胞からEBを形成して、3種類の胚葉を誘導する
AggreWell(商標)400を用いると、制御されたサイズのEBを非常に効率的に作製することができる。簡単に述べると、実施例1の方法を用いて、未分化なH1 hESCをセミコンフルエントまで培養した。技術マニュアル番号29146(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.)に記載のように、滅菌した組織培養フードの中でAggreWell(商標)400プレートを容器から取り出した。8マイクロウェルを備えるプレートウェルをそれぞれ、1mLの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスし、次いで、吸引によってPBSを除去した。1mLの培地を、AggreWell(商標)400プレートの各ウェルに添加した。3種類の胚葉細胞タイプ:外胚葉、内胚葉、および中胚葉を誘導するために、EB形成用に4種類の重量オスモル濃度:270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kgを有する培地を使用した(調製:実施例4を参照されたい)。EB形成中の細胞生存を高めるために、最終濃度10μg/mlのY27632 rock阻害剤も培地に添加した。マイクロウェルから全ての小さな泡を取り除くために、AggreWell(商標)400プレートを、プレートホルダーが備え付けられているスインギングバケットローター(swinging bucket rotor)に入れて3000xgで2分間、遠心分離した。次いで、AggreWell(商標)400プレートを放置する一方で、実施例6の方法を用いてH1 hESC細胞の単一細胞懸濁液を調製した。2.4x106個の細胞を含有する、ある体積の細胞懸濁液を、前もって調製されたAggreWell(商標)400プレートの各ウェルに添加した。この量の細胞は約1200個のマイクロウェルに分配されて、それぞれ約2,000個の細胞からなるEBを形成する。前記のように、培地を、1ウェルにつき2mLの最終体積まで添加した。マイクロウェルの中の細胞を捕捉するために、AggreWell(商標)400プレートを100xgで3分間、遠心分離した。プレートを、37℃、5%CO2、および95%湿度で24時間インキュベートした。図4は、AggreWell(商標)400ウェルのマイクロウェルの中にある、分配されたH1 hESC単一細胞を示す。
【0102】
実施例8.「こそぎ落としEB」法によるEB形成および3種類の胚葉への分化を誘導するための懸濁培養
EBはまた、こそぎ落とし法によって日常的に作製することもできる。この方法では、EBのサイズおよび形状を制御することができない。EBを形成するために、機械的なこそぎ落としを用いて、付着したヒト多能性幹細胞コロニーを組織培養プレートから取り出した。結果として生じたランダムなサイズの細胞凝集塊を非付着性懸濁培養に入れ、EBを、37℃、5%C02、および95%湿度の標準的な組織培養インキュベーターの中で5日間インキュベートし、培地を2日ごとに交換した。このために、ディッシュを一方に傾け、1000μlピペットチップを用いて、EBを乱すことなく培地体積の約半分を除去した。3種類の胚葉を誘導するために、実施例7に記載のものと同じ培地を使用した。新鮮な培地を5mlまで添加した。実施例9および11〜13に記載のように、外胚葉、中胚葉、および内胚葉が誘導されるようにEBをさらに処理した。図5は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で形成して1日後の、こそぎ落とされたEBを示す。
【0103】
実施例9.mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、および280mOsm/kgの中でEBを5日間、懸濁培養して、神経外胚葉細胞系列を誘導する
実施例7に記載のように、H9 hESC細胞からEBを形成した。簡単に述べると、2.4x106個のヒトES細胞を含有する単一細胞懸濁液をAggreWell(商標)400のウェルに添加して、それぞれ2,000個の細胞からなる約1200個のEBを作製した。
【0104】
次いで、EBの大部分を取り外すために、滅菌した組織培養フードの中で1mlディスポーザブルピペットチップを用いてAggreWell(商標)400マイクロウェルの中にある培地を2〜3回上下に穏やかにピペッティングすることによって、EBを収集した。EBを収集するために、懸濁液を、50mLコニカルチューブの上に置いた上下逆さの40μmナイロンセルストレーナー(Falcon)に通して、凝集していない単一細胞および破片を除去した。全ての凝集物を取り外すために表面全体にわたってピペッティングしながら、AggreWell(商標)400表面を、さらに5回、それぞれ1mlのDMEM/F-12を用いて洗浄した。全ての洗浄液をセルストレーナーメンブレンに適用した。セルストレーナーを上下反対にし、低付着性(low-adherence)6ウェルを覆うように近づけた。形成したEBの神経外胚葉への分化を誘導するために、mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、または280mOsm/kg培地を用いて、メンブレンからEBを洗い流した。ストレーナーを6ウェル超低付着性ディッシュ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号27145)のシングルウェルの上に置きながら、約5mLの培地を用いてEBをナイロンメンブレンから取り出した。EBを、37℃、5%CO2、および95%湿度の標準的な組織培養インキュベーターに入れて5日間インキュベートし、培地を2日ごとに交換した。このために、ディッシュを一方に傾け、1000μlピペットチップを用いて、EBを乱すことなく培地体積の約半分を除去した。新鮮な培地を5mlまで添加した。図6は、倍率2x、10x、および40xの、AggreWell(商標)400プレートの中で24時間インキュベートした後の遊離EBを示す。AggreWell(商標)400プレートからEBが回収された時に、形態学的な違いは観察されなかった。
【0105】
実施例10.重量オスモル濃度範囲270〜320mOsm/kgの培地を含有する付着単層培養におけるヒト多能性幹細胞から神経前駆細胞へのインビトロ分化の誘導
このために、BD Matrigel(商標)上に、またはヒトフィーダー細胞もしくはマウスフィーダー細胞上に播種されたクラスターまたは単一細胞層として、ヒト多能性幹細胞を使用した。クラスターとして細胞を播種するために、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて、幹細胞コロニーを解離した。または、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、または機械的なこそぎ落としなどがあるが、これに限定されない、hESCクラスターを作製する任意の酵素的方法、化学的方法、または機械的方法を使用することができる。培養培地を除去した後に、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4でリンスした。PBSを、室温で約10分間、細胞上に残した。5mLセロロジカルピペットを用いて、細胞を穏やかに上下にピペッティングし、15mLコニカルチューブに移した。凝集塊を350xg、室温で5分間、遠心分離した。1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を除去し、細胞を、1mLのmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたは320mOsm/kgに再懸濁した。簡単に述べると、1000μlピペットチップを用いて細胞をチューブの底から剥がした。任意で、1x濃度のN2A(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07152)およびB27(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07153)を誘導培地に添加した。細胞凝集塊懸濁液を、BD Matrigel(商標)でコーティングされた6ウェルプレートの5つのウェル間に分配した。
【0106】
付着誘導に使用する単一細胞懸濁液を得るために、実施例6の方法を使用した。細胞を、6ウェルあたり細胞約2x105個の密度で、mTeSR(登録商標)1-F 270 mOsm/kgまたは320mOsm/kgに播種した。培地を2日ごとに交換した。
【0107】
図7は、誘導5日後の、播種された凝集塊から現われた神経前駆細胞を示す。神経分化の間に、ヒト多能性幹細胞は、「神経ロゼット」と呼ばれる、放射状に組織化された円柱上皮細胞の形成を特徴とする形態形成事象を経る(Zhang et al. 2001 ; Perrier et al. 2004)。これらの構造は、発生の適切な合図に応答して様々な領域特異的なニューロン細胞タイプおよびグリア細胞タイプに分化することができる細胞を含む(Perrier et al. 2004; Li et al. 2005)。ロゼットは様々なサイズおよび形状で現われ、容易に特定することができる。どちらの培地(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび320mOsm/kg)でも、ロゼットはほぼ同じ効率で形成し、3日後に目に見えた。誘導期間は5〜6日であった。矢印はロゼットのいくつかの例を示す。
【0108】
実施例11.mTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、および280mOsm/kgの中で懸濁培養した後にEBを播種して、神経外胚葉性前駆細胞を増殖させる
実施例6および7の方法を用いてEBを形成および培養した後に、EBを顕微鏡下で視覚化した。異なる重量オスモル濃度で培養したEBにおいて、はっきりとした形態学的な違いは観察されなかった。
【0109】
個々の神経前駆細胞を培養できるようにするために、任意で、機械的破砕を用いて、EBを解離して小さなクラスターにした。または、このために、単独のまたは酵素的解離法と組み合わせた他の化学的方法を、あるいは酵素的解離を、使用することができる。この手順によって、これらの構造から神経前駆細胞が増殖し、多層細胞クラスターおよび細胞単層を形成することができた。機械的破砕の場合、1000μlピペットチップを用いて、6ウェルプレートからEBを15mLコニカルチューブに移した。室温で5分間インキュベートすることによって、EBはチューブの底に沈殿した。上清を除去し、チューブの底にペレット状のEBが残った。1mlの新鮮なmTeSR(登録商標)1-F 260mOsm/kg、270mOsm/kg、または280mOsm/kgを対応するチューブに添加した。1000μlピペットチップを用いて、EBの粘稠性に応じて5〜20回、上下にピペッティングすることによって、かろうじて目に見える小さなクラスターを含有する細胞懸濁液が作製されるまで、細胞を解離した。15mLチューブ1本の細胞懸濁液(6ウェルプレート1つにおいて培養したEBに相当する)を6ウェルディッシュの3個のウェルに分配した。各ウェルは、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた3枚のカバーガラスを備える(実施例18を参照されたい)。培地を2mlまで注ぎ、プレートを前後に穏やかに揺らすことによって、細胞を均等に分配した。ディッシュを37℃に戻した。数時間後に付着が観察された。図8は、2日後の付着EBを示す。矢印は、ロゼットのいくつかの例を示す。ロゼットは3種類全ての培地に存在し、付着させて2日後に見ることができる。実施例12に記載のように、ロゼットのパーセント、従って、神経誘導効率を評価した。
【0110】
実施例12.存在する神経外胚葉のパーセントを求めるための、260〜280mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲内の培地中での懸濁培養から得られた付着EBの形態学的評価
解離したEBを播種した2日後に(実施例11を参照されたい)、ロゼット構造が目に見えるようになった(図8)。これらの神経ロゼットは、サイズの異なる(size-ranged)ロゼット、複数の細胞層のある「ひだ状」ロゼット、および細胞単層の「星状」ロゼットの混合物であった。ロゼットを含有するコロニーのパーセントを見積もるために、スコアリング基準を設けた。基準を厳しくするために、50%超のロゼットが存在するコロニーのみを計数した。これより低いパーセントのコロニーは含めなかった。以下の式を用いて、神経ロゼットの全パーセントを計算した:「コロニーの総数/存在するロゼットが50%を超えるコロニーの数」。図9はロゼット数の結果をまとめたものである。
【0111】
実施例13.重量オスモル濃度範囲が290〜340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でEBを5日間、懸濁培養および播種すると、内胚葉細胞系列および中胚葉細胞系列が誘導され、外胚葉細胞系列は効率的に誘導されない
実施例6および7に記載の方法ならびに培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg、290mOsm/kg、320mOsm/kg、および340mOsm/kgを用いて、H1 hESCを用いてEBを形成し、異なる胚葉の細胞を誘導した。実施例11の方法に記載のようにEBを培養し、付着させた。前記実施例において使用したmTeSR(登録商標)1-F 260〜280mOsm/kgと比較して、280より高い重量オスモル濃度では、形態学的な違いがはっきりと観察された。290mOsm/kgの重量オスモル濃度において観察されたロゼットは低重量オスモル濃度と比較して少なかった。EBを付着させた後に観察することができる細胞形態を図10に示した。図17は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよびmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で誘導された細胞上にあるネスチンおよびSox1の免疫細胞化学的染色(実施例17を参照されたい)を示す。重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地を用いると多くのロゼットが観察されたのに対して、他の3種類の重量オスモル濃度ではロゼット形成が減少した。さらに、培地mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgにおけるネスチンおよびSox1の発現は、培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgと同程度に重ならなかった。以前に公表されたように(Odorico et al., 2001 ; Ferreira et al., 2007, Gerrard et al., 2005)、平らな「丸石状」の細胞ならびに平らな細胞および紡錘状の形態の細胞から明らかなように、まず間違いなく、付着EBコロニーに存在する他の細胞系列は内胚葉由来および中胚葉由来のものであった(図10を参照されたい)。これらの中胚葉性前駆細胞および内胚葉性前駆細胞がネスチンを発現する可能性はあり、これは、以前に述べられている現象である(Wiese et al., 2004)。図11に示したように、これらの細胞は、ネスチン/Sox1ダブルポジティブ細胞と比較して平らなようにみえる。
【0112】
実施例12に記載のスコアリング基準を用いて、ロゼット構造のパーセント、従って、外胚葉/神経前駆細胞のパーセントを見積もり、mTeSR(登録商標)1-F 320mOsm/kgおよび340mOsm/kgを用いて行われた実験のパーセントを図12に示した。
【0113】
実施例14.神経ロゼットコロニーが選択的に剥離され、mTeSR(登録商標)1 260〜280mOsm/kgの中では、付着EB培養物から神経前駆細胞が播種されるが、mTeSR(登録商標)1 340mOsm/kgの中では、付着EB培養物から神経前駆細胞が播種されない。
付着条件で最低3日間、培養期間5〜6日で培養した後に、実施例12に記載のようにEBの機械的破砕によって作製されたコロニーを、任意で、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて化学的に解離した。別の化学的方法が用いられてもよく、化学的方法と酵素の使用が組み合わされてもよい。また、酵素は単独で、または機械的方法と組み合わせて用いられてもよい。任意で、酵素はAccutase(商標)である。
【0114】
この目的は、さらに増殖することができる単一の神経前駆細胞の集団を得ることであった。この方法は、選択的に神経前駆細胞を収集できることが見出された。これは、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4の新規の特性であり、以前に述べられたことはない。他の細胞タイプはプレートから効率的に剥離せず、後の破砕段階において収集されない。図13は、形態学的変化の時間経過/プレートからの神経前駆細胞の剥離を示す。
【0115】
この手順には、細胞培養培地を吸引した後に、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4によって短時間、洗浄することが含まれる。コロニーを、6ウェルディッシュのシングルウェルあたり1mlの1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で覆った。ディッシュを、滅菌した細胞培養フードの中で室温で、最低30分間、任意で90分間、最大2時間までインキュベートした。60分後、神経前駆細胞を含有するコロニーはプレートから剥がれ始めた(図13を参照されたい)。細胞を収集するのに最適な時点は、細胞を穏やかに粉砕しようとすることで確かめられた(通常、90分)。穏やかな破砕を用いて細胞がプレートから剥離されなければ、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4とさらにインキュベートした。細胞が容易に剥離されたら、さらに粉砕した(任意で5〜10x)。これから、ほぼ単一細胞からなる懸濁液が得られた。平らな形態を示し、神経運命にない細胞はプレートに付着したままであった。細胞懸濁液を15mLコニカルチューブに移し、300xgで5分間、遠心分離した。bFGF(10ng/mL)を含有するmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg 1mLに細胞を再懸濁した後に、シングル6ウェルの細胞を、1ウェルにつき3つのガラススライド(12mm直径)を備える、プレコーティングされたポリ-L-オルニチン/ラミニン6ウェルディッシュ(実施例18を参照されたい)の上に播種した。1日おきに培地を交換した。これらの培養条件下で、細胞は、少なくとも3継代にわたって、任意でさらに長く未分化に保つことができ(実施例16を参照されたい)、さらに、実施例16に記載の手順を用いて、神経前駆細胞を特定するために免疫染色の処理もされた。1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4による剥離は非常に効率的であり、神経ロゼットに対して選択的であり、この段階の間に汚染非神経細胞を同時に収集しない。図14は、播種して3日後、6日後、および12日後の、播種された神経前駆細胞を示す。図15は、細胞播種後6日目に行われた、神経細胞マーカーであるネスチンおよびSox1についての免疫細胞化学的染色を示す。
【0116】
最初に、培地mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgに供し、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて神経前駆細胞に解離したヒトESCは典型的なロゼット構造を生じた。このロゼット構造はネスチンおよびSox1について共染色された。
【0117】
実施例6、7、および13に記載のように、最初に、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で形成および培養された付着EBコロニーから、Sox1およびネスチンを同時発現している神経前駆細胞を得ることができなかった。
【0118】
胚葉誘導、特に、外胚葉運命の誘導、これに続く神経前駆細胞の選択に及ぼす培地重量オスモル濃度の影響の概要を示すために、実施例12および13は、EB形成および培養に使用した培地の重量オスモル濃度が、多能性ヒト幹細胞がたどる胚葉運命を成熟細胞タイプに分化する方向に向けることをはっきりと証明している。実施例14から、重量オスモル濃度範囲260〜280mOsm/kgの培地中で得られた神経前駆細胞は選択的に継代することができ、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で作製および増殖されたEBから得ることができないことが分かる。このことから、異なる重量オスモル濃度が細胞運命の決定に影響を及ぼすと再度、強調される。
【0119】
実施例15.機械的選択手順による神経ロゼットからの神経前駆細胞の選択
高度に純粋な神経前駆細胞集団を得るために、(実施例11において作製されたように)付着EBコロニーから神経ロゼットを手作業で単離した。このために、注射器に取り付けた湾曲した26ゲージ針を使用した。針を用いて、多くのロゼットが存在する領域をポリ-L-オルニチン/ラミニンマトリックスから切断し、200μlピペットチップを用いてディッシュから取り出すことによって、ロゼットを単離した。ロゼットを滅菌1mlチューブに移した。切除された全てのロゼット構造をプールした後に、200μlピペットチップを用いて機械的に破壊し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した(実施例18)。2〜3つのシングル6ウェルから単離されたロゼットを1つの6ウェルディッシュ上に播種した。この手順から高度に純粋な神経前駆細胞集団が得られた。この神経前駆細胞集団は、図16に示したように、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ(実施例18を参照されたい)の上に播種した1日後に、ロゼットを含有する小さなクラスターを形成した。次いで、実施例16に記載の方法に従って、これらのクラスターの中の神経前駆細胞をさらに継代および維持することができた。
【0120】
実施例16.神経前駆細胞を継代する方法
神経前駆細胞を継代する様々な方法を利用することができる。以下で使用する方法は、神経細胞の単一細胞懸濁液を作製するために首尾一貫して機能する。前記の実施例14または15からの培養神経前駆細胞が80〜90%コンフルエントに達した時に(3〜4日後)、0.5%トリプシン-EDTA(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07910)に短時間曝露することによって、神経前駆細胞を継代した。継代は3〜4日ごとに行い、以下で概説する。この段階のために、培地を吸引し、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で1回、洗浄した。PBSを吸引した後に、500〜600μlの0.5%トリプシン-EDTAを6ウェルの神経前駆細胞に添加した。細胞がディッシュから剥離し始めるまで、または最大5分間、ディッシュを37℃でインキュベートした。同体積の培地または10%の胎仔ウシ血清(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号06902)を含有する1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を添加することによって、トリプシンを不活性化した。5mlセロロジカルピペットを用いて、細胞を注意深く粉砕した。細胞懸濁液を300xgで5分間、遠心分離した。上清を吸引し、細胞を取り外すために、細胞ペレットを穏やかに軽くたたいた。500μlの新鮮な培養培地を添加し(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg+10ng/ml bFGF)、1000μlピペットチップを用いて、細胞を2〜4回粉砕した。細胞を1:3〜1:6の比で分割した。培地を1日おきに交換した。図17は、播種して2日後の、継代1の継代神経前駆細胞を示す。
【0121】
実施例17.mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび340mOsm/kgの中で誘導および増殖された神経前駆細胞のマーカー発現に基づく免疫細胞化学による特定
実施例6、7、9、11、および13に記載のように、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたは340mOsm/kgを用いて、外胚葉由来の前駆細胞を様々な程度まで誘導した。破壊されたEB(実施例11および13を参照されたい)を、1ウェルにつき3枚の(ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた)カバーガラス(VWRマイクロカバーガラス, カタログ番号89015724)を備える6ウェルの上に播種した。外胚葉性前駆細胞、従って、神経前駆細胞のパーセントを評価するために、神経マーカーについて免疫細胞化学を行った(図11)。選択および増殖後の神経前駆細胞の存在(実施例14、15、および16;図14および17)も調べた。任意で、細胞が播種されて2日後に、細胞を1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで室温で20分間、固定した。カバーガラスを1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で2回洗浄し、免疫細胞化学が行われるまで、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4に溶解して4℃で保管した。
【0122】
免疫細胞化学の日に、細胞を、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて室温で、短時間リンスした。穏やかに振盪しながら、10%正常ロバ血清(Jackson Immunoresearch Laboratories, カタログ番号017000121)および0.2%Triton X(Sigma, カタログ番号T9284)からなるブロッキング溶液を室温で1時間、適用した。その後に、適切な濃度の抗体(以下を参照されたい)および2%正常ロバ血清を含有する一次抗体溶液を室温で1時間、添加した。
【0123】
初期胚外胚葉を特定するために、抗体が、Sox1(ヤギα-Sox1, 1:200, Neuromics,カタログ番号GT15208)およびネスチン(マウスα-ネスチン,1:3000, Millipore, カタログ番号MAB5326)に対して作製された。一次抗体とインキュベートした後、穏やかに振盪しながら、細胞を、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて3x15分間、室温で洗浄した。一次抗体が得られた種に対して作製され、ロバにおいて作製され、FITC(α-マウス)(Jackson Immunoresearch Laboratories, カタログ番号715095150;1:500)またはテキサスレッド(α-ヤギ)(Jackson Immunoresearch Laboratories, カタログ番号705075003;1:500)に結合した二次抗体を用いた30分のインキュベーション段階によって、一次抗体を検出した。非特異的結合を洗い流すために、細胞を、1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4を用いて3回、洗浄した。カバーガラスをマウントするために、細胞を蒸留水に短時間浸けた。DAPI(Vector laboratories, カタログ番号H-1500)を含有するマウント溶液を1滴カバーガラスに落とし、細胞を下向きにして、カバーガラスをガラススライド(Corning microslides, カタログ番号2947)の上にマウントした。ガラススライドの上にマウントしたカバーガラスを完全に乾燥させた後に、各フルオロフォアに適切なフィルターを用いて、蛍光顕微鏡下で免疫蛍光を視覚化した。図8に示したように、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で誘導および培養された神経ロゼットを含有する細胞において、ネスチンおよびSox1の同時発現が観察された。図11は、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で培養した神経前駆細胞におけるネスチンおよびSox1の同時発現を示す。mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中で誘導された付着EBコロニーおよび神経前駆細胞は、全体的に見て、これらの2つのマーカーによる染色が弱かった。
【0124】
実施例18.ポリ-L-オルニチン/ラミニンによるディッシュのコーティング
細胞またはEBを培養容器に付着させた前記の全ての実施例において、培養前に細胞外マトリックスまたはマトリックスの組み合わせを調製した。例えば、プラスチックポリスチレン細胞培養ディッシュ、ならびに24ウェルプレートのシングルウェルの中に配置されるカバーガラス、またはシングル6ウェルの中に3個同じものが配置されるカバーガラスを、任意で、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングした。簡単に述べると、プラスチック培養ディッシュまたはカバーガラスを、ポリ-L-オルニチン(Sigma, カタログ番号P4957)で、室温で、任意で一晩、少なくとも2時間覆った。ディッシュを、室温の1xPBS(Caフリー、Mgフリー)、pH7.4で2回洗浄した。3回目の洗浄液は、滅菌した蒸留水またはDMEM/F12からなった。5μg/mlの濃度のラミニン(Sigma, カタログ番号L2020)を氷冷DMEM/F12に溶解した。氷冷したセロロジカルピペットを用いてディッシュから水またはDMEM/F12を吸引した後に、ラミニン溶液を添加した。シングル6ウェルには1mlを使用し、シングル24ウェルには500μlを使用した。プレートを、任意で12時間、少なくとも2.5時間、37℃にした。細胞を播種する前に、ラミニン溶液を捨て、培地を添加した。
【0125】
実施例19:ニューロンへの神経前駆細胞の分化およびその検出
mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地からbFGFを除去し、GDNF、cAMPなどがあるが、これに限定されない因子を添加することによって、神経前駆細胞の分化を開始した。この培地と細胞を最低5日間インキュベートした。培地を2日ごとに交換した。図18は、成熟ニューロンマーカーであるTUJ1によって染色されたニューロン(免疫細胞化学的染色法については、実施例17を参照されたい)を示す。ニューロンは、実施例7、9、および11に記載のように、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを用いてEBとして最初に誘導されたhESCのみから得ることができ(図18の左側)、実施例7および13に記載のように、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgを用いてEBとして最初に誘導されたhESCから得ることができなかった(図18の右側)。
【0126】
実施例20.合成無血清培地中、BD Matrigel(商標)コーティング上での凝集物としてのヒト多能性幹細胞の培養
合成無血清培地中、BD Matrigel(商標)でコーティングされたディッシュ上でヒト多能性細胞を維持した。BD Matrigel(商標)コーティングの手順を含むヒト多能性幹細胞を維持するための詳細なプロトコールは、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.によるマニュアル番号29106「Maintenance of hESCs AND hiPSCs in mTeSR(登録商標)1 and TeSR(商標)2」において見られる。細胞を継代するための本実施例に記載の手順を、ヒト胚性幹細胞H1株およびH9株ならびにヒト人工多能性幹細胞4D1株に適用した。コロニーが大きく、合体し始め、縁と比較して中央の密度が濃くかつ明るい位相となった時に、細胞を継代した(図1を参照されたい)。播種された凝集物のサイズおよび密度に応じて、初回播種の5〜7日後に、培養物を継代した。
【0127】
幹細胞培養物から培地を吸引し、細胞をDMEM/F-12(2mL/ウェル)でリンスした。1mg/mLの濃度のディスパーゼ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07923)を1ウェルにつき1mL添加した。ディッシュを、7分間、37℃にした。
【0128】
コロニーの縁がわずかに折り畳まれているように見えたら、ディスパーゼを除去し、残っているディスパーゼを希釈するために、各ウェルを1ウェルにつき2mLのDMEM/F-12で2〜3回、穏やかにリンスした。2mL/ウェルのDMEM/F-12またはmTeSR(登録商標)1をウェルに添加し、細胞スクレーパー(例えば、Corningカタログ番号3010)またはセロロジカルピペットチップを用いて、コロニーをこそげ落とした。
【0129】
剥離した細胞凝集物を15mLコニカルチューブに移し、ウェルを、さらに2mLのDMEM/F-12でリンスして、残りの凝集物を全て収集した。残っている細胞を含有する、リンスされた培地を同じ15mLチューブに添加した。
【0130】
凝集物を含有する15mLチューブを300xg、室温(15〜25℃)で5分間、遠心分離した。上清を吸引した。15mLチューブに収集したhESC凝集物の各ウェルについて、1〜2mLのmTeS(登録商標)1を添加した。P1000マイクロピペットを用いて上下に(1〜2回)ピペッティングすることによって、ペレットを穏やかに再懸濁した。細胞を凝集物として維持した。「凝集塊カウント」法を用いて、凝集塊の数を見積もった。付着および増殖している可能性の高い、正しいサイズ(直径が約50〜60pm)の凝集塊を数え上げるために、顕微鏡の接眼レンズの中に入れられているマイクロメーターを使用する。凝集塊カウントを行うために、30μLのDMEM/F-12を96ウェル平底プレートのウェル2つに分注した。カウンティンググリッドとして役立つように、これらのウェルの底の中心に「+」を書いた。5μLの新たに混合した凝集塊懸濁液を各ウェルに添加した。約3500μm2またはこれより大きい凝集塊を2回繰り返してカウントした。これは、直径が約60μmの凝集塊に相当する。以下の式:
1μlあたりの凝集塊の総数=カウントしたx個の凝集塊/5μLの懸濁液総体積
を用いて、1μlあたりの凝集塊の総数を見積もった。
【0131】
播種されているウェルまたはディッシュのサイズに応じて、決められた数の凝集塊を播種した。適切な播種密度についての表1の案内を用いて、新たなディッシュに播種するのに使用する凝集塊懸濁液の体積(y)を計算した。例えば、6ウェルに対する(y)は以下に等しい:350/1μLあたりにカウントされる凝集塊の数。
【0132】
BD Matrigel(商標)でコーティングされた新たな6ウェルにつき2mLのmTeSR(登録商標)1と共に、ヒト多能性幹細胞凝集物を播種した。ウェルの表面全体にわたって細胞を均等に分散させるために、プレートを数回、素速く短時間で前後左右に動かした。プレートを37℃インキュベーターに入れた。前記のプロトコールを、H1細胞、H9細胞、および4D1細胞に適用し、これらの細胞を、本開示に記載の実施例のための一貫した細胞供給源として使用した。
【0133】
図19は、培養5日目の未分化なH1 hESC(A)および4D1 iPSC(B)を示す。
【0134】
実施例21.BD Matrigel(商標)コーティングのある合成無血清培地中での単一細胞としてのヒト多能性幹細胞の培養
ヒト多能性幹細胞を、mTeSR(登録商標)1などの合成無血清培地中で、BD Matrigel(商標)でコーティングされた6ウェルディッシュ上で維持した。本実施例において、ヒト胚性幹細胞H9株細胞を単一細胞として培養し、これらの細胞を実施例37に使用した。継代時間は、細胞コロニーの集密度に基づいて決められた。細胞コロニーは、前の継代から5〜6日間培養した後に約70%コンフルエント(図20A)に達した。
【0135】
細胞を継代するために、幹細胞培養物から培地を吸引し、細胞をDMEM/F-12(2mL/ウェル)でリンスした。1ウェルにつき1mLのAccutase(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07920)を添加した。全ての細胞が剥がれるまで、ディッシュを8〜10分間、37℃にした。
【0136】
5mlのDMEM/F-12をAccutaseに添加し、5mLセロロジカルピペットを用いて、細胞凝集物を解離して単一細胞懸濁液にした。細胞を15mLコニカルチューブに移し、ウェルをさらに2mLのDMEM/F-12でリンスして、残りの細胞を収集した。残っている細胞を含有する、リンスされた培地を同じ15mLチューブに添加した。
【0137】
単一細胞懸濁液を含有する15mLチューブを300xg、室温(15〜25℃)で5分間、遠心分離した。上清を吸引した。各ウェルから収集し、次いで、15mLチューブに移した幹細胞を、1〜2mLのmTeS(登録商標)1に溶解して日常的に再懸濁した。P1000マイクロピペットを用いて(1〜2回)上下に穏やかにピペッティングすることによって、ペレットを再懸濁した。標準的な技法を用いて、90μLのトリパンブルー(Invitrogen, カタログ番号15250061)で10μL細胞懸濁液試料を1:10に希釈し、血球計算器で未染色細胞を計数することによって、生細胞を計数した。1μlあたりの細胞の数から、新鮮なMatrigel(商標)でコーティングした6ウェルディッシュに播種される細胞の体積を計算することができる。播種後の細胞生存を高めるために(Watanabe et al, 2007)、最終濃度10μg/mLのY27632 rock阻害剤(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07171/2)と共に細胞3x103〜5x103/1cm2の密度で、Y27632が無い場合は、2x104〜5x104/1cm2の密度で、細胞を播種した。図20(C)は、播種して1日後に2x104/cm2の密度で播種された多能性幹細胞(H9)を示す。
【0138】
実施例22.mTeSR(登録商標)1の中、BD Matrigel(商標)上で凝集物または単一細胞として増殖させたヒト多能性幹細胞株の多能性の形態学的評価
胚葉誘導を成功させるために、高度に純粋な多能性幹細胞の集団を使用した。以下の実施例のために、ヒト胚性幹細胞H1株、H9株、およびヒト人工多能性幹細胞4D1株を使用した。以下の基準を用いて、細胞の形態および質を評価した(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.による技術マニュアル番号29106に記載されている)。図1および19に示したように、未分化なヒト多能性幹細胞が、密集した多細胞のコロニーとして増殖した。これらは、高い核:細胞質比および顕著な核小体を示した。これらのコロニーは特異な境目を特徴とした。健康なhESC(およびiPSC)コロニーは中心で多層状になり、位相差顕微鏡下で観察した時に、位相の明るい細胞のクラスターとなった。分化は、境目の完全性の消失、コロニー内での全体の不均一な細胞形態、および明らかに異なる細胞タイプの出現を特徴とした。分化細胞タイプを示すコロニーのパーセントは、(4xおよび10x対物レンズを使用した)顕微鏡下でコロニーを観察することによって見積もられた。効率的に胚葉を誘導するために、分化が40〜50%の培養物を用いた実施例37を除き、分化コロニーが15%未満の培養物を以下の実施例において使用した。
【0139】
この多能性評価基準を、凝集物として培養したヒト多能性幹細胞(実施例20)ならびに単一細胞として培養した細胞(実施例21)に使用した。
【0140】
実施例23.重量オスモル濃度範囲の異なる培地製剤:重量オスモル濃度270mOsm/kgの因子フリーのmTeSR(登録商標)1培地
改変TeSR(mTeSR(登録商標)1、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号05850)のための完全培地製剤および調製方法は、Ludwig et al, Nature Methods 3(8): 637, 2006において公表されている。これは、Ludwig et al., Nature Biotechnology 24(2): 185, 2006において公表されているオリジナルのTeSR製剤をベースとし、以下の変更:ヒト血清アルブミン(HSA)とウシ血清アルブミン(BSA)との交換を加えた。
【0141】
因子フリーのmTeSR(登録商標)1(mTeSR(登録商標)1-F)培地を製造するために、以下の5種類の因子:GABA、ピペコリン酸、bFGF、TGFβ1、塩化リチウム以外は、mTeSR(登録商標)1試薬の全てを5倍濃度で含有する5xサプリメントを作製した。培地の成分を表2に示した。
【0142】
5xサプリメントの成分を一緒に混合した後に、10N NaOHを添加することによって、pHを7.4に調節した。標準的な浸透圧計を用いて、溶液の重量オスモル濃度を測定した。5xサプリメントの初期重量オスモル濃度は、通常、約100mOsm/kgであった。5xサプリメントを400mlの基本培地DMEM/F12(Hyclone, カタログ番号SH30004)と組み合わせてmTeSR(登録商標)1-Fを得ることを考慮に入れながら、重量オスモル濃度を上げるために塩(NaCl)を使用した。以下の式を用いて、5xサプリメントに添加しなければならない塩の量を計算した:5xサプリメントおよび基本培地を混合した後に、270の重量オスモル濃度を得るためには
[270-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=0.30g/LのNaCl
である。
【0143】
x量のNaClを5xサプリメントに添加して、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを得た。
【0144】
実施例24.AggreWell(商標)800においてEBを形成するための、ヒト多能性細胞の単一細胞懸濁液の作製
ヒト多能性幹細胞から単一細胞を作製し、AggreWell(商標)800プロトコールおよび装置において使用する手順は、技術マニュアル29146(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.)に記載されている。以下の実施例において単一細胞懸濁液に解離され、AggreWell(商標)800においてEBを作製するのに用いられたヒト多能性幹細胞株は、ヒト胚性幹細胞H1株、H9株、および人工多能性幹細胞4D1株であった。多能性幹細胞から単一細胞懸濁液を得る方法の詳細は実施例6に記載されている。本実施例において、細胞を再懸濁するのに使用した培地はmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgであった(実施例23を参照されたい)。AggreWell(商標)800におけるEBの作製は以下の実施例に記載されている。
【0145】
実施例25.マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fにおけるヒト多能性幹細胞からのEB形成、その後の同じ培地における懸濁培養
実施例24に記載のように、ヒト多能性幹細胞(本実施例ではヒト人工多能性幹細胞4D1株を使用した)の単一細胞懸濁液を得た。ここで、EB 1個あたり2000個の細胞のサイズを有するEBをAggreWell(商標)800において作製した。一般的に、AggreWell(商標)800では、1000個の細胞〜20000個の細胞のサイズのEBを作製することができる。実施例7に記載のように、プレートを調製した。AggreWell(商標)400ウェルと比較して、AggreWell(商標)800プレートのシングルウェルには約300個のマイクロウェルが含まれる。表3に示したように、AggreWell(商標)800において2,000個の細胞を含むEBを得るためには、プレートの各ウェルに600,000個の細胞を添加する必要がある。600,000個の細胞を含有する、実施例22において作製された単一細胞懸濁液の体積を、得られた細胞数に基づいて求めた(細胞数の計算については、実施例6を参照されたい)。この体積を、前もって調製されたAggreWell(商標)800プレートの各ウェルに添加した(実施例7を参照されたい)。本実施例において使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fであった。細胞懸濁液を、AggreWell(商標)800プレートの約300個のマイクロウェルに分配した。培地を、1ウェルにつき最終体積2mLまで添加した。マイクロウェルにある細胞を捕捉するために、AggreWell(商標)800プレートを100xgで3分間、遠心分離した。プレートを、37℃、5%CO2および95%湿度で24時間インキュベートした。
【0146】
24時間後、EBの大部分を取り外すために、AggreWell(商標)800マイクロウェルの中で、1mLディスポーザブルピペットチップを用いて培地を2〜3回穏やかに上下にピペッティングすることによって、EBを収集した。EBを収集するために、懸濁液を、50mlコニカルチューブの上に置いた上下逆さの40μmナイロンセルストレーナー(Falcon)に通して、単一細胞および破片を除去した。全ての凝集物を取り外すために表面全体にわたってピペッティングしながら、AggreWell(商標)800表面を、さらに5〜10回、それぞれ1mlのDMEM/F-12で洗浄した。全ての洗浄液をセルストレーナーメンブレンに適用した。セルストレーナーを上下反対にし、低付着性6ウェルを覆うように近づけた。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地を用いて、メンブレンからEBを洗い流した。ストレーナーを、6ウェル超低付着性ディッシュ(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号27145)のシングルウェルの上に置きながら、約5mLの培地を用いてEBをナイロンメンブレンから取り出した。EBを、37℃、5%CO2、および95%湿度の標準的な組織培養インキュベーターに入れて5日間インキュベートし、培地を2〜3日ごとに交換した。このために、ディッシュを一方に傾け、1000μlピペットチップを用いて、EBを乱すことなく培地体積の約半分を除去した。新鮮な培地を5mlまで添加した。図21は、24時間後、収集前の、AggreWell(商標)800プレートのマイクロウェルの中で4D1多能性幹細胞から作製されたEB(倍率4xおよび倍率10x)、ならびに2日間および4日間、懸濁培養された後の遊離EB、倍率2xおよび倍率10xを示す。
【0147】
実施例26.神経外胚葉を得るための、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からのEB形成、その後の懸濁培養、それに続くEBの播種
実施例24に記載のように、ヒト人工多能性幹細胞4D1株から単一細胞懸濁液を得、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)800の中でEBを作製し、実施例25に記載のように懸濁培養した。5日後に、EBをポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレート上に播種した(プレートのコーティングについては実施例18、ならびにEBを解離し、その後に解離EBを播種するための手順については実施例11を参照されたい)。播種して3日後に、実施例12の方法を用いて、外胚葉の存在を評価した。図22は、ヒト人工幹細胞4D1株からEB 1個あたり2000個の細胞のサイズで形成した、付着され播種されたEBの中にある神経ロゼットを示す。
【0148】
実施例27.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fまたは重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1を含有するマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)の中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導、それに続く、同じ培地中でのEBの培養および播種
実施例24に記載のように、ヒト人工多能性幹細胞4D1株およびヒト胚性幹細胞H9株から単一細胞懸濁液を得た。2種類の異なる培地、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを使用した以外は、実施例25に記載のようにAggreWell(商標)800の中でEBを作製した。表3の計算を用いて、両培地中で、4D1細胞からEB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEBを作製した。両培地、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で、実施例24および25に記載の方法ならびに表3に示されたEBサイズの計算を用いて、H9細胞から5000個の細胞のサイズのEBを作製した。実施例25に記載のように24時間後に、マイクロウェル装置からEBを収集した。これは、EB 1個あたり5000個の細胞を含有するEBの場合、EBをマイクロウェルから取り外すために異なる技法を用いたプロトコールと異なる。3000個の細胞より大きなEBを取り外すためには、大口径のチップ(例えば、Raininカタログ番号HR-1000 WS)、または口径サイズを大きくするために無菌的にチップが切断された普通の1000μlディスポーザブルピペットチップ。さらに、AggreWell(商標)800ウェルからのEBの回収を向上させるために、EBを取り外すには普通の1000μlディスポーザブルチップを使用し、セルストレーナー上にあるEBを収集するには、さらに幅の広い(切断した)チップを使用した(実施例25を参照されたい)。
【0149】
実施例25に記載のように、EBを懸濁培養し、5日後に、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレート上に播種した(プレートのコーティングについては実施例18、EBの播種については実施例11を参照されたい)。播種して4〜5日後に、実施例12の方法を用いて、外胚葉の存在を評価した。図23は、両培地中で両細胞株(H9 A〜D、4D1 E〜H)から形成した、付着され播種されたEBの中にある神経ロゼットを示す。熟練者の判断に依れば、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの培地に存在する神経ロゼットは、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較して明らかに多い。実施例12に記載のように、神経ロゼットのスコアリングを行った(4D1付着EBは4日目にスコアリングし、H9付着EBは5日目にスコアリングした)。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fにおける神経ロゼット含有コロニー(面積の50%超が神経ロゼットで覆われているコロニー)のパーセントは、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較して高い。図23にはスコアリング結果も示した。
【0150】
実施例28.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているマイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)の中でのサイズの異なるEBを5日間、連続培養して、外胚葉を誘導する
実施例6に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から単一細胞懸濁液を得た。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみを使用した以外は実施例7に記載のように、EBを作製した。異なるサイズのEB:500個、1000細胞、および2000個の細胞を形成した。細胞数に応じて、AggreWell(商標)400ウェルに添加する単一細胞懸濁液体積を計算した。この数は表3に示されている。本実施例では、24時間後にAggreWell(商標)400プレートからEBを収集する(実施例9を参照されたい)代わりに、EBを最大11日間マイクロウェルの中に放置した。ディスポーザブル1mLチップを取り付けたマイクロピペッターを用いて、個々のAggreWell(商標)400ウェルから約1.5mlの培地を除去することによって、培地を毎日交換した。予め温めた(37℃)新鮮なmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地をウェルにゆっくりと分配し、それによって、確実に、マイクロウェルの中のEBが乱されないようにした。
【0151】
実施例29.マイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)を用いて、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でヒト多能性幹細胞から神経外胚葉を誘導して、異なるサイズのEBを作製し、同じ装置の中でEBを培養し、EBを播種する
実施例27に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から様々なサイズ(EB 1個あたり500個、1000個、および2000個の細胞)のEBを作製した。EBを、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgが入っているマイクロウェル装置AggreWell(商標)400の中で5日間、培養した。EBを遊離して播種するために、EBを超低付着性プレート上に播種せず、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレートに直接播種した以外は、実施例9に記載の方法と同じ方法を使用した(実施例18を参照されたい)。2mLの培地を用いて、セルストレーナー(Falcon)からEBを洗浄した(実施例9を参照されたい)。ウェルの表面全体にわたってEBを均等に分散させるために、6ウェルプレートを前後に動かした。プレートを、37℃、5%CO2、および95%湿度のインキュベーターに、形態学的評価の前に少なくとも2日間入れた。実施例12に記載のように、外胚葉を示す神経ロゼットの形態学的評価を行った。図24は、播種して1日後の、様々なサイズの付着EB(EB 1個あたり500個の細胞(A、B)、EB 1個あたり1000個の細胞(C、D)、EB 1個あたり2000個の細胞(E、F))を示す。当業者には、神経ロゼットは、全ての付着EBの中に、ほぼ100%の程度で存在する。
【0152】
実施例30.重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞の非常に効率的な神経外胚葉誘導と、外胚葉を誘導するための、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)400)の中でのEBの形成および連続培養、その後のEBの播種
実施例7に記載のように、AggreWell(商標)400の中で、ヒト胚性幹細胞H9株からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fであった。2種類のサイズのEB:EB 1個あたり500個の細胞およびEB 1個あたり2000個の細胞を作製した。実施例29に記載のように、EBをマイクロウェル装置の中で5日間培養し、次いで、播種した。図25は、両培地中に2種類のサイズで播種された2日目のEBの形態ならびにスコアリング結果(面積の50%超がロゼットを含有するコロニー)を示す。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導が、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fより効率的であることが分かった。
【0153】
実施例31.外胚葉を誘導するための、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)における異なるサイズのEBの5日間の連続培養
実施例24に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から単一細胞懸濁液を得た。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみを使用した以外は実施例25に記載のように、EBを作製した。AggreWell(商標)800中で、異なるサイズのEB:2000個、5000個、10000個、15000個、および20000個の細胞を形成した。細胞数に応じて、AggreWell(商標)800ウェルに添加する単一細胞懸濁液体積を計算した。この数は表3に示されている。本実施例では、24時間後にAggreWell(商標)800プレートからEBを収集する代わりに、EBを最大11日間マイクロウェルの中に放置した。ディスポーザブル1mLチップを取り付けたマイクロピペッターを用いて、個々のAggreWell(商標)800ウェルから約1.5mLの培地を除去することによって、培地を毎日交換した。予め温めた(37℃)新鮮なmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg培地をウェルにゆっくりと分配し、それによって、確実に、マイクロウェルの中のEBが乱されないようにした。
【0154】
実施例32.マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)の中でEBを形成および培養し、その後にEBを播種するために、この装置を用いた、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞から神経外胚葉の誘導
実施例31に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株から様々なサイズのEBを作製した。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgが入っているマイクロウェル装置AggreWell(商標)800の中で、EBを5日間培養した。EBを遊離して播種するために、EB 1個あたり3000個より多い細胞のEBの場合、EBを超低付着性プレート上に播種せず、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされた6ウェルプレートに直接播種した以外は、実施例27記載の方法と同じ方法を使用した(実施例18を参照されたい)。2mLの培地を用いて、セルストレーナー(Falcon)からEBを洗浄した。表面全体にわたってEBを均等に分散させるために、6ウェルプレートを前後に動かした。プレートを、37℃、5%CO2、および95%湿度のインキュベーターに、培養物を形態学的に評価する前に少なくとも2日間入れた。外胚葉を示す神経ロゼットの形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図26は、EBを解離および播種する前、5日目のAggreWell(商標)800のマイクロウェルの中にある様々なサイズの付着EBを示す。図27は、播種して1日後のEBを示す。経験者には、神経ロゼットはほぼ100%の程度で存在する。このことから、EB形成ならびに連続培養のために様々な数のヒト多能性幹細胞をAggreWell(商標)800の中で使用した時に、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgは、マイクロウェルの中で極めて高い効率で神経外胚葉を誘導できることが分かる。
【0155】
実施例33.重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞の非常に効率的な神経外胚葉誘導と、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)におけるEBの形成および培養
実施例31に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、ヒト胚性幹細胞H9株からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kgおよび340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fであった。2種類のサイズ:EB 1個あたり2000個の細胞およびEB 1個あたり5000個の細胞のEBを作製した。EBをマイクロウェル装置内で5日間培養し、次いで、実施例31に記載のように播種した。図28は、播種されたEBの2日目の形態を示す。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fより効率的であることが分かった。
【0156】
実施例34.重量オスモル濃度範囲が異なる培地製剤:重量オスモル濃度400mOsm/kgおよび450mOsm/kgの因子フリーのmTeSR(登録商標)1培地
改変TeSR(mTeSR(登録商標)1、STEMCELL TECHNOLOGIES INC.,カタログ番号05850)のための完全培地製剤および調製方法は、Ludwig et al, Nature Methods 3(8): 637, 2006において公表されている。これは、Ludwig et al., Nature Biotechnology 24(2): 185, 2006において公表されているオリジナルのTeSR製剤をベースとし、以下の変更:ヒト血清アルブミン(HSA)とウシ血清アルブミン(BSA)との交換を加えた。
【0157】
因子フリーのmTeSR(登録商標)1(mTeSR(登録商標)1-F)培地を製造するために、以下の5種類の因子:GABA、ピペコリン酸、bFGF、TGFβ1、塩化リチウム以外は、mTeSR(登録商標)1試薬の全てを5倍濃度で含有する5xサプリメントを作製した。培地の成分を表2に示した。
【0158】
5xサプリメントの成分を一緒に混合した後に、10N NaOHを添加することによって、pHを7.4に調節した。標準的な浸透圧計を用いて、溶液の重量オスモル濃度を測定した。5xサプリメントの初期重量オスモル濃度は、通常、約100mOsm/kgであった。5xサプリメントを400mLの基本培地DMEM/F12(Hyclone, カタログ番号SH30004)と組み合わせて、mTeSR(登録商標)1-Fを得ることを考慮に入れながら、重量オスモル濃度を上げるために塩(NaCl)を使用した。以下の式を用いて、5xサプリメントに添加しなければならない塩の量を計算した:例えば、5xサプリメントおよび基本培地を混合した後に、400の重量オスモル濃度を得るためには
[400-((0.8x300mOsm)+(0.2x100mOsm))]/2000x58.44x1.05=4.3g/LのNaCl
である。
【0159】
x量のNaClを5xサプリメントに添加した。
【0160】
重量オスモル濃度の異なる2種類の培地:400mOsm/kgおよび450mOsm/kgを調製した。
【0161】
実施例35.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)400の中でのヒト多能性幹細胞の神経外胚葉誘導は、320mOsm/kg、340mOsm/kg、400mOsm/kg、および450mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲のmTeSR(登録商標)1-Fと比較して非常に効率的である
単一細胞懸濁液を、実施例6に記載のH9 hESCから得た。実施例7に記載のように、AggreWell(商標)400の中でEBを形成した。EB作製に使用した培地は、重量オスモル濃度270mOsm/kg(実施例23)、320mOsm/kg、340mOsm/kg(実施例5)、400mOsm/kg、および450mOsm/kg(実施例34)のmTeSR(登録商標)1-Fであった。培地には、EB形成中の細胞生存を高めるために、最終濃度10μg/mLのY27632 rock阻害剤も添加した。EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEBを作製し、24時間後に取り出し(実施例9を参照されたい)、破砕によって、播種するまで懸濁培養するか(実施例11を参照されたい)、またはAggreWell(商標)プレートの中に5日間放置し、次いで、播種した(実施例29を参照されたい)。
【0162】
図29は、培地mTeSR(登録商標)1-F 450mOsm/kgを除く様々な培地に入れて2日後のEB付着を示す。この培地の中で形成されたEBが1日目に示された。ロゼットのパーセントは、270重量オスモル濃度の培地において最も高く(100%)、320mOsm/kgおよび340mOsm/kgでは低下し、400mOsm/kgおよび450mOsm/kgではロゼット形成は観察されなかった。340より高い重量オスモル濃度では、播種後に細胞剥離および細胞死が観察されず、形態学的に特異な細胞タイプを特定できなかったことに留意のこと。図30は、これらの2回の実験のスコアリング結果を示す。面積の>50%がロゼットを含有するコロニーならびに全てのコロニーを計数した。ロゼットを含有するコロニーの比ならびに結果として生じたパーセントを示した。1日目の450mOsm/kg条件の目視検査からロゼットは認められなかった。
【0163】
実施例36.重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で、単一細胞培養物として維持されたヒト多能性幹細胞の非常に効率的な神経外胚葉誘導と、マイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)におけるEBの形成および培養
実施例21に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株を、継代51〜継代55(p51〜p55)の4継代にわたって培養単一細胞として継代した。AggreWell(商標)800においてEBを形成するために、実施例24に記載のように、継代55のH9単一細胞懸濁液を得た。実施例31および32に記載のように、EBを形成および回収した。図31は、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kg(A)の中では神経ロゼットがmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kg(B)と比較して効率的に形成されたことを示す。このことから、重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地は、凝集物または単一細胞として培養したヒト多能性幹細胞において神経外胚葉を効率的に誘導できることが分かる。
【0164】
実施例37.高い分化パーセントを示すヒト多能性幹細胞培養物からの、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを含有するマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた効率的な神経外胚葉誘導
40〜50%の分化を示すH9細胞培養物からEBを形成した。実施例22に記載のように、細胞分化を形態学的に評価した。図32は、継代後およびEB作製前の、培養5日目の継代52 H9細胞(H9p52)を示す(A〜D)。分化した領域を丸で囲んだ。実施例24に記載のように、EB形成用の単一細胞を得、実施例25に記載のように、EBをAggreWell(商標)800の中で形成した。実施例31および32に記載のようにEBを培養および播種した。播種して2日後に、実施例12に記載のように神経ロゼットの形態学的評価を行った。図32は、播種後2日目のEBの形態ならびにスコアリング結果(ロゼットを含有する領域が>50%のコロニー)も示す(E〜H、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中でのEB作製(E、F);mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgの中でのEB作製(G、H))。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、出発集団中の多能性細胞のパーセントが85%未満でも、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fより効率的であることが分かった。85%未満は、本開示に記載の他の全ての実施例のカットオフとして用いられる未分化細胞含有コロニーのパーセントである。
【0165】
実施例38.mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを含有するマイクロウェル装置(AggreWell(商標)800)を用いた、ヒト胚性幹細胞H7株からの効率的な神経外胚葉誘導
実施例20に記載のように、hESC H7株を培養および継代した。EB 1個あたり5000個の細胞を使用した以外は実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgまたはmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgを用いて、p38細胞からEBを形成および培養した。実施例31に記載のように、EBをマイクロウェルから遊離し、播種した。図33は、播種されされて1日後の付着EBを示す。実施例12に記載のように、神経外胚葉が存在するかどうか形態学的評価を行った。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中でEBを形成および培養した場合、mTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較して、より多くの神経ロゼットが存在する。
【0166】
実施例39.EB形成および培養のためにマイクロウェル装置AggreWell(商標)400を用いた、Knockout(商標)D-MEM 340mOsm/kgと比較した、Knockout(商標)D-MEM 270mOsm/kgの中でのヒト多能性幹細胞培養物からの効率的な神経外胚葉誘導
実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中でヒト胚性幹細胞H9株(p44)からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、実施例5および22に記載のように塩化ナトリウムを用いて調節された、重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのKnockout(商標)-D-MEM(Invitrogenカタログ番号10829-018)であった(Knockout(商標)-D-MEMの標準的な重量オスモル濃度は約265mOsm/kgである)。EB 1個あたり2000個の細胞を含むEBを、Knockout(商標)-D-MEM 270mOsm/kgおよびKnockout(商標)-D-MEM 340mOsm/kgの中で形成した。実施例29に記載のように、EBをAggreWell(商標)400の中で5日間培養し、次いで、収集および播種した。図34は、播種されたEBの2日目の形態を示す。ロゼット構造の特定による、播種されたEBの形態学的評価から、重量オスモル濃度270mOsm/kg のKnockout(商標)-D-MEM中で培養したヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのKnockout(商標)-D-MEMと比較して効率であることが分かった。実施例12に記載のように、神経ロゼットのスコアリングを6日目に行い、パーセントを図34に示した。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのKnockout(商標)-D-MEMは、重量オスモル濃度340mOsm/kg のKnockout(商標)-D-MEMと比較して神経ロゼット誘導能が高いことが分かった。従って、調節された270mOsm/kgの重量オスモル濃度は、Knockout(商標)-D-MEMなどの別の培地製剤でも、ヒト多能性幹細胞の効率的な神経外胚葉誘導を支持した。
【0167】
実施例40.EB形成および培養のためにAggreWell(商標)400を用いた、重量オスモル濃度340mOsm/kgのNeurobasal(商標)培地と比較して、重量オスモル濃度270mOsm/kgのNeurobasal(商標)培地中で培養したヒト多能性幹細胞培養物からの効率的な神経外胚葉誘導
実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中でヒト胚性幹細胞H9株(p44)からEBを形成および培養した。本実施例において使用した培地は、実施例5および22に記載のように塩化ナトリウムを用いて調節された重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのNeurobasal(商標)培地(Invitrogenカタログ番号21103049)であった(Neurobasal(商標)培地の標準的な重量オスモル濃度は約220mOsm/kgである)。Neurobasal(商標)培地270mOsm/kgおよびNeurobasal(商標)培地340mOsm/kgの中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含むEBを作製した。EBをマイクロウェル装置内で5日間培養し、次いで、実施例29に記載のように播種した。図35は、AggreWell(商標)400プレートのマイクロウェルの中にある5日目のEB、ならびに収集および播種されて2日後のEBの形態を示す。Neurobasal(商標)培地270mOsm/kg中で、マイクロウェルならびに付着EBの中のロゼットは、Neurobasal(商標)培地340mOsm/kgより多く見えた。結果から、重量オスモル濃度270mOsm/kgのNeurobasal(商標)の中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのNeurobasal(商標)より効率的であることが分かった。実施例12に記載のように、播種後6日目にロゼットのスコアリングを行った。これから、重量オスモル濃度270mOsm/kgのNeurobasal(商標)の神経ロゼットパーセントの方が高いことは明らかである。従って、重量オスモル濃度270mOsm/kgの他の培地製剤も神経外胚葉を効率的に誘導するのに有用である。
【0168】
実施例41.2種類のウシ血清アルブミン(BSA)ロットを用いて調製された、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較して優れている
異なるBSAロットを入手および使用して、神経外胚葉誘導用の培地製剤mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgおよび340mOsm/kgを調製した。実施例28および30に記載のように、AggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800を用いて、EB 1個あたり500個、2000個、および5000個の細胞を含有するEBをヒト胚性幹細胞H9株(それぞれ、p41、p45、およびp44)から作製した。mTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)270mOsm/kgまたはmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)340mOsm/kgが入っているAggreWell(商標)400(EB 1個あたり500個の細胞)またはAggreWell(商標)800(EB 1個あたり2000個および5000個の細胞)の中で、EBを5日間培養した。実施例29および31に記載の方法と同じ方法を用いて、EBを遊離および播種した。実施例12に記載のように、神経ロゼットを特定することによって形態学的評価を行った。図36は、播種して3日後の付着EBを示す。当業者には、mTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)270mOsm/kgの中で形成されたロゼットの量はmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2またはロット3)340mOsm/kgと比較して多く、重量オスモル濃度が低い培地のロゼットの方が形態学的に見分けが付くことが明らかになる。さらに、BSAロット3を含有するmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で培養した3日目の付着EBのスコアリングから、神経ロゼットのパーセントは、BSAロット3を含有するmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較して高いことが明らかである。従って、重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地は効率的な神経誘導およびロゼット形成を誘導する。
【0169】
実施例42.様々なサイズのEBを作製および培養するための、AggreWell(商標)400または800を用いた、BSAロット2を含有する重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F中でのヒト多能性幹細胞からの効率的かつ首尾一貫した神経外胚葉誘導
実施例30に記載のように、サイズの異なるEB(EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞)を、AggreWell(商標)800中でヒト胚性幹細胞H9株(p44およびp53)から形成した。実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中で、ヒトESC H1株p59から2000個の細胞を含有するEBも形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kg のmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2を含有する)が入っている、これらのAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを5日間培養した。実施例29および31に記載の方法に従って、後で播種するために、EBを遊離した。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。付着EB培養物には、実質的に100%のロゼットが存在した。図37は、播種して2日後の、サイズの異なる付着EBを示す。これらの結果から、BSAロット2を含有する重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを含有するAggreWell(商標)800またはAggreWell(商標)400の中で形成および培養されたEBにおける神経外胚葉誘導は非常に効率的であり、首尾一貫していることがはっきりと分かった(n=20実験)。
【0170】
実施例43.EBを作製および培養するためにAggreWell(商標)400を用いて、mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを用いてTeSR(商標)2において培養したヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉の誘導効率はmTeSR(登録商標)1-F 340mOsm/kgと比較して高い
実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400において、TeSR(商標)2(STEMCELL TECHNNOLOGIES INC.カタログ番号05860)の中で前もって培養および維持されたヒト胚性幹細胞H9株(p52)から、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを含有するAggreWell(商標)400の中でEBを形成し、マイクロウェルの中で5日間培養した。EBを遊離し、EBを播種する方法は実施例29に記載の通りである。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図38は、付着させて2日後の付着EBを示す。重量オスモル濃度の低い培地(270mOsm/kg)中で培養した細胞は、重量オスモル濃度の高い培地(340mOsm/kg)の中で培養した細胞より多くのロゼットを生じた。2日目に神経ロゼットもスコアリングし、図38にパーセントを示した。重量オスモル濃度270mOsm/kgの培地中で播種されたEBは90%のロゼットを含有したのに対して、重量オスモル濃度340mOsm/kgの培地中で播種されたEBは18%のロゼットを含有した。
【0171】
実施例44.EBを作製および培養するために、AggreWell(商標)400およびAggreWell(商標)800を用いた、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fと比較した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中でのTeSR(商標)2培養ヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉誘導(両培地ともBSAロット2を含有する)
本実施例では、TeSR(商標)2(STEMCELL TECHNNOLOGIES INC. カタログ番号05860)の中で前もって培養および維持されたヒト胚性幹細胞H9株(p64)を用いて、EBを作製した。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2)またはmTeSR(登録商標)1-F(BSAロット2)340mOsm/kgが入っているAggreWell(商標)400の中で、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成し、この装置の中で、実施例28に記載のように5日間培養した。EB 1個あたり2000個の細胞のサイズのEBを、前記の両培地が入っているAggreWell(商標)800の中でも形成し、この装置の中で、実施例30に記載のように5日間培養した。EBを遊離および播種する方法は実施例29および31に記載されている。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図39は、AggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800から遊離され、2日間播種された後の付着EBを示す。EBを2日目に神経ロゼットについてもスコアリングし、図39にパーセントを示した。270mOsm/kg培地が入っているAggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800の中で形成されたEBは82〜89%の範囲でロゼットを含有し、340mOsm/kg培地が入っているAggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800の中で形成されたEBは41〜46%の範囲でロゼットを含有した。結果から、270mOsm/kgの重量オスモル濃度が神経外胚葉誘導を効率的に支持することが確かめられた。
【0172】
実施例45. EBを作製および培養するための、AggreWell(商標)400を用いた、重量オスモル濃度270mOsm/kgのTeSR(商標)2-F(HSA含有)の中での、TeSR(商標)2培養ヒト多能性幹細胞からの神経外胚葉誘導は、重量オスモル濃度340mOsm/kgのTeSR(商標)2-F(HSA含有)と比較して非常に効率的である
本実施例では、TeSR(商標)2(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号05860)の中で前もって培養および維持されたヒト胚性幹細胞H9株(p52)を用いて、EBを形成した。EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを、重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのTeSR(商標)2-F(HSA含有)が入っているAggreWell(商標)400の中で形成し、実施例28に記載のようにマイクロウェルの中で5日間培養した。EBを遊離および播種する方法は実施例29に記載されている。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図40は、付着させて2日後の付着EBを示す。重量オスモル濃度の低い培地(TeSR(商標)2-F(HSA含有)270mOsm/kg)は、重量オスモル濃度の高い培地(TeSR(商標)2-F(HSA含有)340mOsm/kg)より多くのロゼットを含有する。EBを2日目にもスコアリングして、図40にパーセントを示した。重量オスモル濃度が低い(270mOsm/kg)培地の中で作製されたEBは23%のロゼットを含有し、重量オスモル濃度が高い(340mOsm/kg)の中で作製されたEBは5%のロゼットを含有する。
【0173】
要約すると、結果から、動物タンパク質を含まない培地(HSA含有)の中で前もって培養および維持されたヒト多能性幹細胞も、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fまたは重量オスモル濃度270mOsm/kgのTeSR(商標)2-Fの中で培養された時に神経ロゼットを生じることが分かった。
【0174】
実施例46.さらなるサプリメントを含有する、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度340mOsm/kgと比較した、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgの中での神経外胚葉誘導の評価
実施例9に記載のプロトコールを用いて、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgが入っている、AggreWell(商標)400またはAggreWell(商標)800プレートの中でhESC H9株からEBを形成し、実施例11に記載のように24時間後に遊離した。または、実施例30に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)800プレートマイクロウェルの中でEBを形成および培養し、実施例31に記載のように遊離した。EB形成の間に、形成して最初の24時間、サプリメントを培地に添加し、ULA培養物に5日間添加した。または、細胞をAggreWell(商標)800プレートマイクロウェル内で5日間培養した時に、サプリメントを培地に添加した。図41は、EBを付着させ、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fならびに20ng/ml bFGFまたは20ng/ml bFGFおよび1%B27(Invitrogen,カタログ番号0080085SA)、1%N2A(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号07152)の中で付着、形成、および培養して6日後の、ULA培養物からのEBを示す。同じ図は、mTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgの中で形成され、1%N2A、100ng/ml Fgf8/200ng/ml shh、または1%B27を添加したAggreWell(商標)800マイクロウェルの中で5日間培養された、付着4日後のEBを示す。この実験(データ示さず)において使用した他のサプリメントは、2%および5%BSA、1%非必須アミノ酸(NEAA)(Invitrogenカタログ番号11140050)、Fgf8(100ng/ml)、およびshh(200ng/ml)または300ng/ml Noggin(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号02525)であった。さらなるサプリメントには、SM1(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号05711)、アスコルビン酸、レチノイン酸、cAMP、BDNF、フォルスコリン、NeuroCult(登録商標)Proliferation Supplements(STEMCELL TECHNOLOGIES INC.カタログ番号057011)、N2B(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07156)、インシュリン-トランスフェリン(Transferin)-セレン(ITS)、ならびに神経前駆細胞の増殖および分化に適した他の添加物が含まれるが、これに限定されない。
【0175】
実施例47.AggreWell(商標)800を用いてmTeSR(登録商標)1-F重量オスモル濃度270mOsm/kgの中で作製され、異なる時点で播種されたEBにおける効率的な神経外胚葉誘導
実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800中でヒト胚性幹細胞H9株(p36およびp42)からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っている、これらのAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを培養した。後で播種するために、異なる時点(2日目、3日目、4日目、5日目、7日目、8日目、9日目、および11日目)でマイクロウェルからEBを収集した以外は、実施例31に記載の方法に従ってEBを遊離した。外胚葉を示す神経ロゼットの存在による形態学的評価を、実施例12に記載のように行った。図42および43は、播種して1〜5日後の、異なる時点で遊離および播種された付着EBを示す。付着EBは、AggreWell(商標)800における初期形成後1日目と早い段階で播種された場合には、播種されて3日後(合計で4日)、または2日目に播種された場合には、播種されて1日後(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で誘導されて合計3日)、高含有率の神経ロゼットを示す。11日目と遅い段階で播種され、播種されて5日後に分析されたEBでも(EB形成後、合計16日)、様々なサイズのロゼット(図43の丸)、細胞単層、神経前駆細胞(図43の細い矢印)、および成熟ニューロン(図43の太い矢印)の混合物を特定することができた。本実施例から、AggreWell(商標)800プレートの中で2日以内と早い段階で神経ロゼットが誘導され、播種されて1日と早い段階で明らかになることが分かる。EBをAggreWell(商標)800プレートの中で24時間保持し、その後で播種すると、播種されたEBは、EBの播種後3日以内にロゼットを示す。AggreWell(商標)800の中で最大11日間培養され、収集され、次いで、5日間培養されたEB(mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgの中で合計16日間)は、当業者によって特定可能な、神経運命への様々な段階への方向付け(commitment)を示す形態を有する神経細胞を含むロゼット(すなわち、初期神経前駆細胞がロゼットに存在し、二極性の形態を有する単一星細胞神経前駆細胞がロゼットから成長し、ニューロンは軸索投射(axonal projection)を有する)を生じた。mTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgを含有するAggreWell(商標)800装置の中で、合計6日間、7日間、9日間、10日間、および12日間、EBを培養する実験も行った。さらに、AggreWell(商標)800マイクロウェルの中で1日および5日間培養した後に播種された付着EBの中にあるSox1陽性神経前駆細胞(NPC)のパーセントを求めるために、フローサイトメトリー分析によって付着EB培養物も分析した。図42のFACSプロットは、5日目の付着EBの中に、35.21%のSox1陽性細胞が検出されたのに対して、1日付着されたEBの中に、0.77%のSox1陽性が検出されたことを示す。
【0176】
実施例48.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)の中で形成および培養され、異なる表面上に播種されたEBにおける効率的な神経外胚葉誘導
実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、hESC H9株p38からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。実施例31に記載のように、EBをAggreWell(商標)から遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。様々な濃度のラミニン:1μg/mL、10μg/mL、および20μg/mLを使用した以外は実施例18に記載のように、プレートをコーティングした。図44は、付着させて3日後のEBを示す。全ての条件において100%の神経ロゼット形成が存在する。従って、異なる濃度のラミニンを用いて、同等の効率でEBを付着させることができた。
【0177】
実施例49.重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で前もって形成されたEBを、その後のニューロスフェア懸濁培養において培養すると、播種後に、神経ロゼットおよびニューロン成長が非常に効率的に誘導される
【0178】
実施例9に従って、重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)400の中で、H9 p51 hESCからEBを形成した。実施例11に従って、EBをマイクロウェルから遊離した。実施例51に記載のように、1mg/mlディスパーゼを用いて付着EBを解離し、再播種した。翌日、丸くなって凝集物または「ニューロスフェア」になった多くの細胞凝集塊が存在した。セロロジカル5mLピペットを用いて、これらのニューロスフェアを超低付着性(ULA)プレートに移し、以前の培養において用いられたのと同じ培地(すなわち、重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F)の中で5日間培養した。次いで、ニューロスフェアを収集し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した(実施例18を参照されたい)。図45は、播種後1日目のニューロスフェアを示し、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみ、または1%B27(Invitrogen, カタログ番号0080085SA)および/もしくは1%N2A(STEMCELL TECHNOLOGIES INC. カタログ番号07152)を含有する重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成された、付着したニューロスフェアを示す。投射を伸ばしたニューロン(矢印)が、3種類全ての培養培地において観察された。ニューロスフェア培養培地には他のサプリメント(実施例46に記載)も使用された。または、図46に示したように、ULA培養で、重量オスモル濃度260mOsm/kgまたは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中に13日間保ち、収集し、6日間播種したEBから、神経ロゼット(太い矢印)およびニューロン(細い矢印)が得られた。
【0179】
本実施例から、ニューロスフェアとして、重量オスモル濃度が低い培地:重量オスモル濃度260mOsm/kgもしくは270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成されたEB培養物(初回継代後、次いで、ULAディッシュに移された)、またはULAディッシュの中で長期間培養されたEB培養物は、ロゼットおよびニューロンを含むニューロン集団となることが分かる。
【0180】
実施例50.マイクロウェル装置においてEBを形成する前に、hPSC培養物を重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを用いて前条件付けすると、重量オスモル濃度320mOsmのmTeSR(登録商標)1-Fの中での神経誘導効率が高まる
本実施例では、記載のように、hPSC株をmTeSR(登録商標)の中で培養した。ここでは、継代47のhESC H9株を使用した。EB形成前に、培養培地を、重量オスモル濃度320mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fに交換し、細胞を24時間培養した。この段階は、神経外胚葉形成の効率を高めるために、特に、実施例9に記載のプロトコールにおける神経外胚葉形成の効率を高めるために行った。全てのEBを、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成した。実施例12に記載のように、神経ロゼット形成によって神経誘導を評価した。EBを、実施例9に記載のように、AggreWell(商標)400の中で前条件付けされたH9細胞から形成し、(実施例11に記載のように)24時間後に遊離して、ULAプレートの中で5日間培養した。図47は、播種し、ポリ-L-オルニチン/ラミニン上に付着させて4日後のEBを示す。神経ロゼットパーセントは、非条件培地(mTESR(登録商標)1)の49%(左の写真)から、hESCを重量オスモル濃度320mOsm/kgのmTESR(登録商標)1-Fの中で前条件付けした場合の72%(右の写真)まで増大した。
【0181】
実施例51.付着EBを解離し、神経前駆細胞(NPC)を得るための方法
実施例9に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F が入っているAggreWell(商標)800の中でヒト胚性幹細胞H9株 p47から、EB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。実施例11に記載のように、24時間後にEBを遊離し、ULAディッシュの中で培養し、培養して5日後にポリ-L-オルニチン/ラミニン上に播種した。播種して7〜8日後に、様々な解離剤:cell dissociation buffer enzyme-free PBS based(Gibco, カタログ番号13151-014)、EDTA(0.02%)、ディスパーゼ1mg/ml(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07923)、Accutase(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号07920)、Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit(Mouse)(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号05707)、およびトリプシン(0.05%)(Sigma, check)を用いて、付着EBを解離した。付着EBを、cell dissociation buffer enzyme-free PBS based(Gibco, カタログ番号13151-014)に溶解して室温で0.5〜1時間、解離した。0.02%EDTA溶液を用いて、同じインキュベーション手順を適用した。インキュベーション後、(P-1000ピペットチップを用いて約10回)溶液中で破砕することによって、細胞を解離した。15mM HEPES(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号36254)を添加したDMEM/F-12 1mLを用いて、培養ディッシュを1回洗浄し、実施例14に記載のように、細胞を遠心分離した。上清を捨て、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F 2mLを用いて、細胞ペレットを解離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンもしくはmatrigel(またはその他)でコーティングされた6ウェルプレート上で播種した。細胞を様々な密度で播種し、本実施例では、1:1分割を行った。ディスパーゼを用いて解離する場合、培養物から誘導培地(重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F)を除去した後に、1mg/mlのディスパーゼ溶液1mLを付着EB培養物に添加した。プレートを37℃インキュベーターに入れ、付着EBコロニーがプレートから剥離し始めるまで、培養物を観察した。この段階は、通常、10〜40分かかった。ディスパーゼを除去し、細胞をDMEM-F12で3回洗浄した。破砕および遠心分離の段階は前述され、実施例14に記載されている。誘導培地を捨てた後に、Accutaseを細胞に添加した。標準的なプロトコールに従って、全ての細胞がプレートから剥離するまで(通常、5〜10分)、細胞をインキュベートした。Accutaseを不活性化するために、DMEM-F12 5mLを細胞に添加し、P-1000ピペットチップを用いて細胞を穏やかに1〜2回解離した。ペレットの遠心分離および解離ならびに播種は前述されている。Neurocult(登録商標)Chemical Dissociation Kit(Mouse)は、http://www.stemcell.com/en/Products/All-Products/NeuroCult-Chemical-Dissociation-Kit-Mouse.aspx(Manual: Chemical Dissociation of Neurospheres Derived from Adult and Embryonic Mouse CNS using the NeuroCult(登録商標)Chemical Dissociation Kit - 2009)に記載のように使用した。前記および実施例14に記載のように、解離細胞を遠心分離し、細胞ペレットを解離し、細胞を播種した。トリプシン解離のために、0.05%の濃度のトリプシンを使用して、付着EB培養物を解離した。培養培地を吸引した後に、細胞を、予め温めた(37℃まで)トリプシンと37℃で1〜2分間、または細胞がディッシュから剥離するまでインキュベートした。D-PBS Without Ca++およびMg++(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号37350)に溶解した、10% ES-Cult(登録商標) Fetal Bovine Serum for Neural Differentiation(STEMCELL TECHNOLOGIES INC., カタログ番号06955)1〜2mLを添加することによって、トリプシンを不活性化した。破砕、遠心分離、および播種の段階は前述されている。図48は、記載された様々な試薬を用いて解離された、播種して4〜6日後のNPCを示す。図49は、Accutase(本実施例)、HBSS(実施例52)、またはPBS(実施例14)を用いて解離されている、再播種して3日後の、NPCマーカーであるネスチンおよびSox1について染色されたNPCを示す。NPCはまた異なる密度で播種されたことも留意のこと。本実施例から、様々な試薬を用いて付着EBを解離することができ、結果として生じたNPC含有懸濁液が形態およびマーカー染色の点で互いに似ていることが分かる。
【0182】
実施例52.異なる時点で播種された異なるサイズの付着EB内にある神経ロゼットからの効率的な神経前駆細胞単離
実施例30に記載のように、ヒト胚性幹細胞H7株およびH9株(それぞれ、継代38または35、36、41、45)から、EB 1個あたり2000個、5000個、および10000個の細胞を含有するEBをAggreWell(商標)800において形成させた。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っているAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを5日間培養した。EBを異なる時点(5日目、6日目、7日目、9日目、および11日目)でマイクロウェルから収集した以外は実施例31に記載の方法に従って、後で播種するためにEBを遊離した。図50は、EBをAggreWell(商標)800プレートから遊離した後、異なる時点(5日目、6日目、および11日目)の付着EB(様々なサイズ)を示す。付着EBを解離して、NPCを得た(代表例のみを示す)。神経ロゼットは全ての条件において存在した。本実施例では、カルシウムおよびマグネシウムフリー(Ca2+およびMg2+)のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Sigmaカタログ番号C1419)を使用した以外は実施例14に記載の方法を用いて、付着EBからNPCを選択的に選択した。誘導培地(重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F)を捨てた後、細胞を室温で0.5〜2時間インキュベートした。実施例14に記載のように、細胞を解離および遠心分離した。上清を除去し、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-F 2mLを用いて、細胞ペレットを解離した。NPCを様々な密度でポリ-L-オルニチン/ラミニン上に再播種した(コーティング手順については、実施例18を参照されたい)。図51は、培養して5日目または6日目の、単離および再播種されたNPCを示す。これらは、異なる時点で播種されたEBから単離され、異なる時点で解離もされた。図52は、再播種して4日後のNPCを示し、これも、NPCマーカー(PSA-NCAM、SOX1、およびネスチン、ならびに密着結合タンパク質およびロゼット管腔マーカーであるZO-1)について免疫細胞化学的に染色された細胞(方法については実施例17を参照されたい)の写真を含む。理解しやすいように、図53の表は個々の実験をまとめたものである。1番目の縦列は、EBをAggreWell(商標)800プレートから遊離した日を示す。2番目の縦列は、付着EBを解離した日を示す。3番目の縦列は、AggreWell(商標)およびmTeSR(登録商標)1-F 270mOsm/kgにおけるEB形成からの日数を合計したものを示す。4番目の縦列はEBのサイズを示す。5番目の縦列は、写真を撮影した日と、NPCを培養した日数を合計したものを示す。
【0183】
実施例53.付着EB内にある神経ロゼットからの効率的な神経前駆細胞単離、および異なる濃度のラミニン上での、これらの細胞の培養
実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、ヒト胚性幹細胞H9株(p65)からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っている、これらのAggreWell(商標)マイクロウェル装置の中で、EBを12日間培養した。実施例31に記載の方法に従い、12日目にEBを播種するように変更を加えて、後で播種するためにEBを遊離した。実施例51に記載の方法に従って、播種した後4日目に、神経前駆細胞を付着EBから単離した。本実施例では、0.05%の濃度のトリプシンを使用した。ポリ-L-オルニチンまたは4種類の濃度のラミニンでコーティングされた6cmウェルに細胞を再播種した。コーティングは、実施例18に記載のように、ラミニン濃度に変更を加えて行った。図54は、播種後4日目の付着EBを示す(上横列)。中央の横列は、1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、および20μg/mlラミニン(左から右)に播種された、付着EBから単離されて3日後のNPCを示す。下横列は、播種して7日後の同じ細胞を示す。図55は、10μg/mlおよび20μg/mlラミニン上で3日目、ならびに1μg/mlおよび5μg/mlラミニン上で7日目のNPCの免疫細胞化学的染色を示す。実施例17に記載のように染色を行い、ニューロン数に及ぼすラミニン濃度の影響を確かめるために、ニューロンマーカーであるTUJ-1について細胞を染色した。本実施例は、様々な濃度のラミニン上でNPCを再播種することができ、付着された神経/ニューロン細胞の形態またはマーカー発現は影響を受けないことを示す。
【0184】
実施例54.重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で22日間、作製および培養されたEBからのニューロンおよび神経前駆細胞の効率的な解離および単離
実施例30に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgまたは340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを用いて、ヒト胚性幹細胞H9株からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBをAggreWell(商標)800中で形成した。実施例31に記載のように、EBを培養11日目にマイクロウェルプレートから遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。実施例53に記載の方法に従って播種した後11日目に、付着EBから神経前駆細胞を単離した。図56および57は、播種後11日目の付着EBを示す。培養物にはNPCが存在するだけでなく、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成および培養された付着EB構造から成長している成熟ニューロンも存在した。重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成および増殖されたEBには、ごくわずかなNPCおよびニューロンしか観察されなかった。NPCは、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で増殖させた解離EBのみから作製され、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fからは作製できなかった。3日目の、再播種された細胞の免疫細胞化学(実施例17を参照されたい)はNPCおよびニューロンの混合物を示し、それぞれ、ネスチンおよびSox1またはTUJ-1の発現によって確かめられた。
【0185】
実施例55.様々な解離試薬および表面コーティングを試験した、数回の継代にわたる神経前駆細胞の増殖
実施例30に記載のように、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを用いて、ヒト胚性幹細胞H9株(p36および41)からEB 1個あたり2000個または10000個の細胞を含有するEBをAggreWell(商標)800中で形成した。実施例31に記載のように、EBをマイクロウェルプレートから遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上に播種した。7日目にAggreWellから2000個の細胞を含有するEBを遊離し、AggreWellにおける培養5日目に5000個または10000個の細胞を含有するEBを遊離した。実施例52に記載の方法に従って播種した後、11日目(EB 1個あたり2000個の細胞の場合)または7日目(EB 1個あたり5000個および10000個の細胞の場合)に、付着EBから神経前駆細胞を単離した。図58は、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュ上で培養して、4日目(EB 1個あたり2000個の細胞)または6日目(EB 1個あたり10000個の細胞)のNPCを示す(継代1=P1)。これらのNPCを、HBSSまたはTryplE(Sigma,カタログ番号)を用いて解離し、結果として生じた細胞を、二次培養物として、ポリ-L-オルニチン/ラミニンまたはmatrigel(それぞれ、EB 1個あたり2000個または10000個の細胞)でコーティングされたディッシュ上で再播種した。HBSS解離は、0.5時間〜1時間、室温でNPCをインキュベートすることによって行い、細胞の剥離が観察された。細胞を、HBSS溶液に溶解して、P-1000ピペットチップを用いて穏やかに5〜10回粉砕した。実施例52に記載のように、細胞を遠心分離し、細胞ペレットを解離した。TryplEを用いてNPCを剥離するために、実施例51および実施例53の方法を使用した。図58は、細胞1.3x105/cm2の密度で播種された、3日目(EB 1個あたり2000個の細胞)または1日目(EB 1個あたり10000個の細胞)の継代2=P2細胞を示す。継代3(P3)で、細胞を、3日目にトリプシン処理した(EB 1個あたり2000個の細胞)(実施例51および実施例53を参照されたい)、または2日目にTryplE処理した(EB 1個あたり10000個の細胞)。図58は、3日目または4日目のP3細胞を示す。これらは、それぞれ、誘導後、合計29日または24日が経過している。図59の表は、2000個または10000個の細胞を含有するEBに由来する細胞に対して分割を行った様々な時点をまとめたものである。神経前駆細胞マーカーに対して免疫細胞化学的染色(方法については実施例17を参照されたい)を行った。ニューロン前駆細胞マーカーであるMusashiおよびロゼット管腔マーカーであるZO-1の発現を示す(図59)。MusashiおよびZO-1について染色されたp1d5細胞(EB 1個あたり2000個の細胞に由来する)においてNPCが示された。ロゼットはまた、DAPI細胞染色によって示されたように、EB 1個あたり10000個の細胞に由来するp1d6細胞においても見られる。成熟ニューロンがNPC(ここでは、マーカーTUJ-1によって示される)と混合している。これらの結果は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で培養された細胞から得られたが、NPCは、bFGF(10〜20ng/mL)、EGF(10〜20ng/mL)、B27(1〜2x)、またはN2A(1x)を添加した、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で培養することもできた。
【0186】
本実施例から、様々な解離剤を用いて、3継代にわたって継代培養用のNPCを解離でき、これらのNPCを様々なマトリックス上に再播種できることが分かる。
【0187】
従って、実施例15に記載のように、または実施例51および55に記載の任意の解離方法よって、機械的単離によって得られた神経ロゼット構造ならびに再播種された結果として生じたNPCを用いて、複数の継代にわたってさらに増殖させるためにNPCを解離することができる。要約すると、AggreWell(商標)800から異なる時点で収集されたEBからNPCを単離することができ、該AggreWell(商標)800に付着したEBは、異なる時点で、および異なる日数にわたって培養するとロゼットを示すことが、前記の5つの実施例から分かる。EBをAggreWell(商標)マイクロウェル中で24時間培養することができる、または、次いで、遊離してULAプレート中で培養することができる、または12日間までマイクロウェルの中に残すことができる。また、様々なサイズのEBを形成することができ、これらのEBから、ほぼ同じ効率でNPCを単離することができる。さらに、様々な解離試薬を用いてNPCを単離することができ、NPCを、異なる濃度のラミニン上ならびに異なる表面上に再播種することができる。EBを播種した後、3〜11日の時間枠内に(これは合計で11〜22日間に相当する)、NPCを単離することができ、NPCとして増殖する能力ならびにニューロンおよび星状細胞に自発的に分化する能力が失われることなく数回継代することができる。実施例57および図66を参照されたい。
【0188】
実施例56.重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で作製された神経ロゼット内にある細胞、および重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で作製された非神経細胞の表現型および分子の特徴付け
本実施例では、継代63のhESC H9株を使用した。実施例28に記載のように、AggreWell(商標)400の中でEB 1個あたり500個の細胞を含有するEBを形成し、実施例29に記載のように、マイクロウェルの中で5日間培養した後にEBを遊離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコーティングされたディッシュに付着させた。2種類の培地:重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fおよび重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fを使用した。付着EBの神経ロゼットに存在する神経前駆細胞を特徴付けるために、実施例17に記載のように、免疫細胞化学を行った。文献に記載されているNPCマーカーを使用した。使用した最も初期の神経マーカーはPax6であり、これに続く後期マーカーはSox1およびネスチンであった。図60に示したように、Pax6およびSox1は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成された付着EBのロゼット内で発現し、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成されたEBでは弱く発現していたか、存在しなかった。図61は、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成された複数回の実験に由来する付着EBにおいて、Pax6、Sox1、およびネスチンのマーカー発現が同時発現していることを示す。図62は、Pax6およびSox1とZO-1との同時発現を示す。図62はまた、ロゼット構造内の放射状グリア細胞マーカーであるBLBPの染色を示す。図63は、主に、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成および培養されたEBにおいて発生する非神経細胞を示す。この非神経細胞はロゼット構造を有さず、形態が「平ら」である(本実施例では、H9 p52 hES細胞を使用した)。これらの平らな細胞および非ロゼット構造は中胚葉系列または内胚葉系列に由来する可能性が高い。qPCR用の細胞を得るために、200Pピペットチップを用いて、これらの細胞を付着EBコロニーの間で前後に動かすことによって、こそぎ落とした。対照として、ロゼット構造を手作業で選択した。両方の細胞タイプを1.5mLエッペンドルフチューブに移し、最大速度で1〜2分間、遠心分離した。トリゾル(Invitrogen, カタログ番号15596-018)および標準方法を用いて、RNAを抽出した。逆転写酵素PCRを1回行って、cDNAコピーを作製し(残っているRNAはRNaseを用いて消化した)、遺伝子特異的プライマーおよびSybrGreen(商標)(GE Healthcare)を用いて、製造業者のプロトコールを用いてcDNAを増幅した。SybrGreenの組み込みによる望ましい産物の増幅を、7900-HT機器(Applied Biosystems)を用いてモニタリングし、標準的なプログラム(RQ Manager 1.2)を用いてデータ分析を行った。qPCR結果を図64に示した。これは、「神経ロゼット細胞」にあるネスチン転写物およびSox1転写物が「(平らな)非神経細胞」より多いことを証明している。
【0189】
要約すると、形態学的、免疫細胞化学的な特徴付け、ならびに神経マーカーについてのFACSおよびqPCRから、重量オスモル濃度270のmTeSR(登録商標)1-Fの中での神経外胚葉誘導は効率的であり、NPCを単離および増殖し、ニューロンおよび星状細胞に分化できることが分かる。比較すると、重量オスモル濃度340mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fの中で形成されたEBは神経ロゼット構造が少なく、NPCを単離することができない。重量オスモル濃度が280mOsm/kgおよび340mOsm/kgより高くなると、神経由来細胞とは異なる形態を有し、中胚葉系列または内胚葉系列に由来する非外胚葉細胞が増える可能性が高い。
【0190】
実施例57.ニューロンおよび星状細胞への神経前駆細胞(NPC)の自発的分化
実施例55に記載のように、NPC、ニューロン、および星状細胞の混合物を含有する、神経前駆細胞を数継代にわたって継代した。本実施例では、実施例30に記載のように、AggreWell(商標)800の中で、hESC H9株 p36からEB 1個あたり2000個の細胞を含有するEBを形成した。実施例31に記載のように、EBを遊離し、5日間播種した。次に、実施例52に記載のように、HBSSを用いて付着細胞を解離し、継代した。細胞を8日間培養し(継代1)、実施例55に記載のようにHBSSで解離し、2回目の継代を行った。細胞をさらに5日間培養し、次いで、TryplEを用いて解離した(3回目の継代)。図65は、継代1の8日目(p1d8)、p2d2、およびp3d3のNPCを示す。継代1および2では、主にNPCが観察されたのに対して、継代3では、ニューロン亜集団が自発的に発生した。例えば、図66は、GABA作動性ニューロンのマーカーを発現する細胞を示す。星状細胞の存在を示すGFAP陽性細胞もまた、NPCの自発的分化において特定できる。
【0191】
実施例58.重量オスモル濃度が270mOsm/kgであり、サプリメントを含む、およびサプリメントを含まないmTeSR(登録商標)1-Fの中にある付着培養物の中で培養されたhPSCにおける効率的な神経外胚葉誘導
実施例21に記載のように、ヒト胚性幹細胞H9株を、継代51〜継代55(p51〜p55)の4継代にわたって培養単一細胞として継代した。1.7x105個の細胞を、重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fのみが入っている6ウェルディッシュの上に、または2%B27、1%N2Aまたは1%B27(Invitrogen, カタログ番号17504-044)が添加された重量オスモル濃度270mOsm/kgのmTeSR(登録商標)1-Fが入っている6ウェルディッシュの上に播種した。神経誘導前および神経誘導中のhPSC付着培養物には、Matrigelおよびポリ-L-オルニチンを使用した。播種および誘導の3日後と早い段階で、神経ロゼットは当業者にはっきりとわかった。図67は、誘導培地(重量オスモル濃度270mOsm/kg のmTeSR(登録商標)1-F)の中、matrigel上に播種して7日後の、誘導されたロゼット構造を示す。
【0192】
現在好ましい実施例と考えられているものに関連して本開示が説明されたが、この開示は、開示された実施例に限定されないことが理解されるはずである。それとは反対に、この開示は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲の内で様々な修正および同等の配置を含むことが意図される。
【0193】
全ての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれ個々の刊行物、特許、および特許出願が参照によりその全体が組み入れられるように詳細かつ個々に示されるのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
【表3】
【0197】
参考文献:
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法:
(a)多能性幹細胞を解離してクラスターまたは単一細胞にする工程;
(b)(a)由来の解離細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で培養する工程;および
(c)(b)の細胞を解離し、該細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種し、該培養培地中で少なくとも1日培養して、胚葉前駆細胞を作製する工程。
【請求項2】
(b)が、(a)由来の解離細胞をマイクロウェル装置内で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、および該マイクロウェル装置内での培養を24時間超にわたり前記培養培地中で続け、次に、該凝集物を遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記凝集物を最大11日間マイクロウェル中で培養した後に、遊離させ、前記コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
(b)が、(a)由来の解離細胞を前記マイクロウェル装置内で前記培養培地中で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、該凝集物を該マイクロウェル装置から遊離させ、次に該遊離させた凝集物を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養する工程、該凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記凝集物が胚様体を含む、請求項2〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記胚様体が500〜20,000個の細胞を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
(b)が、(a)由来の解離細胞を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養し、次に該細胞を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
(b)が、(a)由来の解離細胞をコーティングされた培養ディッシュまたはフィーダー上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも3日間培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記培養培地がダルベッコ最小必須培地を含み、かつ、ビタミン類、微量元素類、セレン、インシュリン、脂質、β-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、抗生物質、bFGF、B27、N2、またはこれらの混合物をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記多能性幹細胞が哺乳動物多能性幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞または胚性幹細胞である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記胚葉が、外胚葉性、内胚葉性、および/または中胚葉性である、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
外胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が260〜280mOsm/kgである、請求項2〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
外胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が270〜320mOsm/kgである、請求項8記載の方法。
【請求項16】
以下の工程を含む、単一の神経前駆細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で維持する方法:
請求項14または15記載の方法に従って外胚葉性前駆細胞を作製する工程;
付着培養物から該外胚葉性前駆細胞を解離する工程;
該前駆細胞を該培養培地中に播種して少なくとも1日培養する工程。
【請求項17】
前記重量オスモル濃度が約270mOsm/kgである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
Ca2+およびMg2+フリーの緩衝液を含む緩衝溶液を用いて、前記細胞を解離する、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
Ca2+およびMg2+フリーの緩衝液が、pH7.0〜pH8.0のpH範囲を有する1xPBSまたは1xハンクス緩衝塩類溶液を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記前駆細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する、請求項16〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記細胞を、少なくとも3継代にわたって培養状態で増殖させかつ維持する、請求項16〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記神経前駆細胞をさらに分化させてニューロン、星状細胞、および/またはオリゴデンドロサイトを形成させる、請求項16〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が290〜340mOsm/kgである、請求項2〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が320〜340mOsm/kgである、請求項8記載の方法。
【請求項26】
以下の工程を含む、単一の中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を、重量オスモル濃度320〜340mOsm/kgの培養培地中で維持する方法:
請求項24または25記載の方法に従って中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を作製する工程;
付着培養物から該中胚葉性前駆細胞および/または該内胚葉性前駆細胞を解離する工程;ならびに
該前駆細胞を播種および培養する工程。
【請求項27】
前記前駆細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記細胞を、少なくとも3継代にわたって培養状態で増殖させかつ維持する、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
前記細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記中胚葉性前駆細胞および前記内胚葉性前駆細胞をさらに分化させて間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、骨格筋細胞、膵細胞、または肝細胞を形成させる、請求項26〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
以下の工程を含む、胚葉細胞をスクリーニングする方法:
(a)請求項1から13のいずれか一項記載の方法に従って、外胚葉性、内胚葉性、または中胚葉性の胚葉細胞の培養物を調製する工程;
(b)該胚葉細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;および
(c)処理された胚葉細胞を分析に供する工程。
【請求項32】
以下の工程を含む、神経前駆細胞をスクリーニングする方法:
(a)請求項16〜22のいずれか一項記載の方法に従って、神経前駆細胞の培養物を調製する工程;
(b)神経前駆細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;および
(c)処理された神経前駆細胞を分析に供する工程。
【請求項33】
多能性幹細胞から作製された凝集物またはクラスターから外胚葉性胚葉前駆細胞を誘導するのに使用するための、260〜280mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む培養培地。
【請求項34】
付着培養物から外胚葉性胚葉前駆細胞を誘導するのに使用するための、270〜320mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む培養培地。
【請求項35】
凝集物または胚様体から中胚葉性胚葉前駆細胞および/または内胚葉性胚葉前駆細胞を誘導するのに使用するための、320mOsm/kg超の重量オスモル濃度を含む培養培地。
【請求項1】
以下の工程を含む、胚葉前駆細胞の集団を作製する方法:
(a)多能性幹細胞を解離してクラスターまたは単一細胞にする工程;
(b)(a)由来の解離細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で培養する工程;および
(c)(b)の細胞を解離し、該細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種し、該培養培地中で少なくとも1日培養して、胚葉前駆細胞を作製する工程。
【請求項2】
(b)が、(a)由来の解離細胞をマイクロウェル装置内で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、および該マイクロウェル装置内での培養を24時間超にわたり前記培養培地中で続け、次に、該凝集物を遊離させ、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記凝集物を最大11日間マイクロウェル中で培養した後に、遊離させ、前記コーティングされた培養ディッシュの上に付着させる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
(b)が、(a)由来の解離細胞を前記マイクロウェル装置内で前記培養培地中で約24時間培養して、凝集物を形成させる工程、該凝集物を該マイクロウェル装置から遊離させ、次に該遊離させた凝集物を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養する工程、該凝集物を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記凝集物が胚様体を含む、請求項2〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記胚様体が500〜20,000個の細胞を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
(b)が、(a)由来の解離細胞を該培養培地中で少なくとも1日懸濁培養し、次に該細胞を解離し、コーティングされた培養ディッシュの上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも1日培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
(b)が、(a)由来の解離細胞をコーティングされた培養ディッシュまたはフィーダー上に付着させ、かつ該培養培地中で少なくとも3日間培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記培養培地がダルベッコ最小必須培地を含み、かつ、ビタミン類、微量元素類、セレン、インシュリン、脂質、β-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、抗生物質、bFGF、B27、N2、またはこれらの混合物をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記多能性幹細胞が哺乳動物多能性幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞または胚性幹細胞である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記胚葉が、外胚葉性、内胚葉性、および/または中胚葉性である、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
外胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が260〜280mOsm/kgである、請求項2〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
外胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が270〜320mOsm/kgである、請求項8記載の方法。
【請求項16】
以下の工程を含む、単一の神経前駆細胞を、重量オスモル濃度260〜340mOsm/kgの培養培地中で維持する方法:
請求項14または15記載の方法に従って外胚葉性前駆細胞を作製する工程;
付着培養物から該外胚葉性前駆細胞を解離する工程;
該前駆細胞を該培養培地中に播種して少なくとも1日培養する工程。
【請求項17】
前記重量オスモル濃度が約270mOsm/kgである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
Ca2+およびMg2+フリーの緩衝液を含む緩衝溶液を用いて、前記細胞を解離する、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
Ca2+およびMg2+フリーの緩衝液が、pH7.0〜pH8.0のpH範囲を有する1xPBSまたは1xハンクス緩衝塩類溶液を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記前駆細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する、請求項16〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記細胞を、少なくとも3継代にわたって培養状態で増殖させかつ維持する、請求項16〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記神経前駆細胞をさらに分化させてニューロン、星状細胞、および/またはオリゴデンドロサイトを形成させる、請求項16〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が290〜340mOsm/kgである、請求項2〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
内胚葉性前駆細胞および/または中胚葉性前駆細胞を誘導する場合の前記培養培地の重量オスモル濃度が320〜340mOsm/kgである、請求項8記載の方法。
【請求項26】
以下の工程を含む、単一の中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を、重量オスモル濃度320〜340mOsm/kgの培養培地中で維持する方法:
請求項24または25記載の方法に従って中胚葉性前駆細胞および/または内胚葉性前駆細胞を作製する工程;
付着培養物から該中胚葉性前駆細胞および/または該内胚葉性前駆細胞を解離する工程;ならびに
該前駆細胞を播種および培養する工程。
【請求項27】
前記前駆細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上に播種する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記細胞を、少なくとも3継代にわたって培養状態で増殖させかつ維持する、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
前記細胞を、コーティングされた培養ディッシュの上で増殖させかつ維持する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記中胚葉性前駆細胞および前記内胚葉性前駆細胞をさらに分化させて間葉系幹細胞、軟骨細胞、心筋細胞、造血幹細胞、骨格筋細胞、膵細胞、または肝細胞を形成させる、請求項26〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
以下の工程を含む、胚葉細胞をスクリーニングする方法:
(a)請求項1から13のいずれか一項記載の方法に従って、外胚葉性、内胚葉性、または中胚葉性の胚葉細胞の培養物を調製する工程;
(b)該胚葉細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;および
(c)処理された胚葉細胞を分析に供する工程。
【請求項32】
以下の工程を含む、神経前駆細胞をスクリーニングする方法:
(a)請求項16〜22のいずれか一項記載の方法に従って、神経前駆細胞の培養物を調製する工程;
(b)神経前駆細胞を1種または複数種の試験剤で処理する工程;および
(c)処理された神経前駆細胞を分析に供する工程。
【請求項33】
多能性幹細胞から作製された凝集物またはクラスターから外胚葉性胚葉前駆細胞を誘導するのに使用するための、260〜280mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む培養培地。
【請求項34】
付着培養物から外胚葉性胚葉前駆細胞を誘導するのに使用するための、270〜320mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む培養培地。
【請求項35】
凝集物または胚様体から中胚葉性胚葉前駆細胞および/または内胚葉性胚葉前駆細胞を誘導するのに使用するための、320mOsm/kg超の重量オスモル濃度を含む培養培地。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【公表番号】特表2013−507135(P2013−507135A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533443(P2012−533443)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001610
【国際公開番号】WO2011/044684
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(506084966)ステムセル テクノロジーズ インコーポレーティッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001610
【国際公開番号】WO2011/044684
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(506084966)ステムセル テクノロジーズ インコーポレーティッド (2)
【Fターム(参考)】
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