説明

幹細胞動員を調節するための手段および方法

現在、個体における幹細胞の動員は、幹細胞の回収方法および人体内の疾病過程に治療的介入を施すための方法に使用されている。本発明は動員された幹細胞の数を増加させるための手段と方法を提供し、更に動員された幹細胞の用途も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞技術、特に個体における幹細胞動員に関する。
【0002】
ここ数年の間に、ヒトへの移植用の造血幹細胞/造血前駆細胞(HSC/HPC)の主な材料は、サイトカインで動員した血液幹細胞となった(1−3)。マウスにおいては、いくつものサイトカインとケモカイン、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)が、長期の投与後にはHSC/HPCの動員を誘導するが、しかし、1回の注射でHSC/HPC動員を誘導するものは、IL−8などわずかである(4−6)。動員したHSC/HPCの用途は広いにもかかわらず、HSC/HPCの末梢血への放出に寄与する機構については未だ完全には理解されていない。しかし、HSC/HPCの動員が、複数種の細胞と分子の関与する複数工程からなる機構であることを示す証拠が蓄積されている。
【0003】
定常条件下においてHSC/HPCは、細胞接着性分子を介して骨髄(BM)の微小環境に保持されている。接着ブロッキング実験は、最遅延抗原(VLA)−4/細胞接着分子(VCAM)−1経路、VLA−5/フィブロネクチン経路およびb2インテグリン/細胞接着因子−1(ICAM−1)経路が、CD34+細胞の間質細胞への接着において役割を担うことを明らかにした(7,8)。c−Kit/SCF経路、CXCR−4/間質細胞由来因子−1(SDF−1,CXCL12)経路およびVLA−4/VCAM−1経路の中断は、これら経路がHSC/HPCの動員に関与することを明らかにした(9−15)。
【0004】
本発明者らの過去の研究は、好中球の遊走因子と活性化因子であって、CXCケモカインの1種であるインターロイキン(IL)−8は、急激な(15〜30分で)HPCの動員とHSCの再建活性を誘導することを明らかにした(6,16)。好中球はこの工程になくてはならないものであるが、これは、好中球枯渇性である抗GR−1抗体の投与に続いて好中球減少症となったマウスにおいては、IL−8誘導性のHSC/HPCの動員が完全に喪失していることからわかる(17)。更に、b2インテグリンであるリンパ球機能関連抗原(LFA)−1およびMac−1(CD11b)に対する中和抗体は、完全にIL−8誘導性のHSC/HPC動員を阻害した(18)。b2インテグリンは造血前駆細胞と造血幹細胞の表面に発現されていないため、この効果は、造血前駆細胞および幹細胞の直接的なターゲティングの結果ではない(19,20)。β2インテグリンは、好中球の内皮への強固な付着に密接に関与し、この工程は、IL−8による活性化に続く脱顆粒化を可能とするための必須工程となる。これらの観察結果は、b2インテグリン抗体は、好中球の接着、付着および脱顆粒化を防止することで、IL−8誘導性のHSC/HPC動員を防止していることを示す。好中球の役割は、好中球減少症の宿主におけるIL−8応答性のHSC/HPCの動員が、精製好中球の注入によって復帰したことからも明らかである(17)。更に、好中球顆粒に存在するプロテアーゼは、G−CSF誘導性およびIL−8誘導性のHSC/HPC動員の際にも活性化されていることが知られている(12,13,21)。
【0005】
本発明においては、低線量全身照射(TBI)がIL−8誘導性のHSC/HPC動員を阻害することを観察した。我々は、低線量TBI後に得た骨髄細胞外抽出物(BMEE)は、活性化好中球の放出する酵素であるエラスターゼを阻害することを明らかにした。我々はこの現象が、BMに存在するプロテアーゼ阻害因子であるセルピンa1(α−1アンチトリプシンまたはα−1プロテナーゼとも呼ばれる)の誘導と関連することを示す。我々は、セルピンa1が、外因性の投与に伴うHSC/HPC動員に対する強力な阻害因子であり、放射線誘導性のセルピンa1が低線量TBIの後に観察される動員阻害の原因であることを示す。更に我々は、セルピンa1に特異的な結合体を個体に提供すると、幹細胞動員が向上することを示す。従って、本発明の1つの態様においては、個体における幹細胞の動員性を調節するための方法であって、幹細胞の近傍のエラスターゼ活性を調節することを包含する方法を提供する。エラスターゼを活性化することによって幹細胞の動員性は高まるが、一方、エラスターゼ活性の阻害は、動員性の低下に繋がる。個体における幹細胞の動員性は、循環血中の幹細胞の存在量を測定することによって測定することが好ましい。循環血中の幹細胞数の増加は動員性の上昇を意味するが、一方、幹細胞数の減少は、動員性の低下を意味する。幹細胞はその機能的な特性、即ち、未分化で、多能性であり、広範に渡る自己複製性であることに基づいて測定することが好ましい。幹細胞は、他の方法、例えば、細胞表面の特異的なマーカーまたはマーカーの組み合わせによって検出することもできる。細胞集団に含まれる幹細胞は少ないこともあるので、細胞集団における存在とその量を推定するための誘導体アッセイも開発されている。このような誘導体アッセイは、当然ながら、本発明で使用することもできる。このような誘導体アッセイの例としては、幹細胞の種々の分化ステージにおける子孫を検出するアッセイが挙げられるが、これに限定されるものではない。典型的な例としては、コロニー形成細胞、敷石状領域形成細胞または長期培養開始細胞を誘導体アッセイに使用する。このような細胞を使用する典型的な例は、幹細胞の存在を試験する細胞原料が身近なものであり、このような誘導体アッセイを幹細胞の量を推定するために慣例的に実施する場合である。身近な原料の具体例としては、正常な個体または細胞動員を処置する個体から得た血液が挙げられる。
【0006】
本発明においては、個体における幹細胞の動員は、数ある因子の中でも、エラスターゼとその阻害因子とのバランスによって調節されていることが判明した。例えば、エラスターゼ阻害因子が上方制御されると、幹細胞の動員性が低下する。幹細胞近傍のエラスターゼ活性を増加させることによって、動員性を高めることが好ましい。エラスターゼ活性の増加は種々の方法で達成することができる。好ましい態様においては、プロテアーゼ阻害因子に対する阻害剤を個体に提供することで達成する。エラスターゼのプロテアーゼ活性は数々の異なるプロテアーゼ阻害因子によって阻害することができる。エラスターゼに関連するかどうかに関係なく、個体においてこのような阻害因子を阻害することが、その個体における幹細胞の動員性の向上をもたらすことが観察されている。従って、本発明の別の態様においては、個体における幹細胞の動員性を向上するための方法であって、個体にプロテアーゼ阻害因子に対する阻害剤を提供することを包含する方法を提供する。
【0007】
プロテアーゼ阻害因子に対する数種の阻害剤を作製することができる。好ましい態様において阻害剤は、プロテアーゼ阻害因子に特異的な結合体である。近年では、多数の異なる結合体が存在する。結合体は、抗体のような大きなものでも、小分子のような小さなものでもかまわない。このような小分子の例としては、単鎖Fv断片、単一抗体(monobodies)、VHHドメインやVHドメインなどの他の単一可変ドメイン分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明で使用する結合体は、タンパク性の結合体であることが好ましい。抗体とその機能的部位、誘導体や類似体が、本発明における好ましい結合体である。抗体の機能的部位、誘導体および/または類似体は、本発明で使用する抗体と同種の結合特異性を示すが、結合特異性の程度は必ずしも同じではない。抗体の結合特異性は可変領域に位置づけられる。これら領域には、高度に可変な部位(CDR領域)と比較的保存された部位(フレームワーク領域)がある。抗体の結合特異性は、CDR領域の特徴的なアミノ酸配列、特にCDR3領域のアミノ酸配列と大きく相関している。抗体のCDR3および/または他のCDRは、種々のアミノ酸配列にグラフトすることができる。グラフトを受ける側のアミノ酸配列が、元の抗体のフレームワーク領域と同じ構造環境を提供する場合には、新たに合成した分子は、1種または数種のCDRを提供した抗体と同種の結合特異性を有する。この新たに合成した分子は、CDRの1種または数種を提供した抗体の少なくとも機能的部位を含んでいる。抗体から他の色々な部位を作製することもできる。このような部位の例としては、FAB断片(1または2)、単鎖可変断片(scFv)および単一抗体またはVHHと呼ばれるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらはいずれも、供与抗体の少なくともCDR3領域を含んでいるという共通点がある。CDRは他の抗体や、抗体の一部分にグラフトすることができる。CDRは、抗体(またはその一部)の三次元構造に似ているが、広範に渡る配列の相同性は共有しない構造体にグラフトすることもできる。後者の構造体は、例えば、抗体の三次元モデリングによって得ることができる。分子全体の三次元構造の維持について、アミノ酸置換を試験することができる。モデリングは、少なくともフレームワーク領域の三次元構造が実質的に変化しないことを確認するために使用する。このような誘導体も本発明で使用する結合体である。CDR(フレームワーク領域)の構造環境を提供する一般的な構造とは、種々の異なるタンパク質が使用する構造である。特に他のタンパク質と相互作用するタンパク質の使用する構造である。この一般的な構造は、Ig折りたたみ構造とも呼ばれる。このようなIg折りたたみ構造を有するタンパク質にグラフトしたCDRは、受容タンパク質に供与抗体と同種であるがその程度は必ずしも同じではない結合特異性を付与する。このようなIg折りたたみ構造含有分子は、本発明で使用する抗体の少なくともCDR3を含んでいるため、本発明で使用する抗体と機能的に類似している。最近の方法は、抗体を初めに作製することなく、抗体の誘導体の特異的選択が可能である。このような誘導体は、三次元モデルにおいて抗体のCDR3領域が位置する場所と同じ場所に、特異的結合性ペプチドを有する。本発明においては、これら特異的結合性ペプチドもCDR3領域とみなす。
【0008】
理論に拘束されるものではないが、セルピンa1に特異的な結合体の結合は、幹細胞近傍のプロテアーゼ阻害因子とプロテアーゼの相互作用を防止し、プロテアーゼをより活性化すると考えられる。結合体は、プロテアーゼ阻害因子のプロテアーゼ相互作用部位(の一部)を単純にブロックするおよび/または、プロテアーゼ阻害因子の生体内分布を変化させることによって相互作用を防止する。本発明の好ましい態様においては、特異的結合体を提供するプロテアーゼ阻害因子は、セルピンa1および/またはα2−MGによって同定されるグループに属する。本発明で使用する結合体は、セルピンa1に特異的であることが好ましい。セルピンa1に特異的な結合体を提供することは、特に効率的に幹細胞を動員させる。好ましい態様においては、幹細胞は骨髄由来幹細胞であり、好ましくは造血幹細胞である。従って、本発明は更に、プロテアーゼ阻害因子に特異的な結合体、あるいはこの結合体の機能的な部分、誘導体および/または類似体を用いて、幹細胞を保有する個体において、幹細胞の動員性を促進する方法を提供する。個体は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくは霊長類であり、更に好ましくはヒトである。
【0009】
好ましい態様においては、動員された幹細胞を回収するための準備をしている個体にプロテアーゼ阻害因子に対する阻害剤を提供する。当業界においては、幹細胞を動員するための多数の方法が知られている。好ましい態様においては、個体に成長因子/サイトカインを投与することで動員する。従って、好ましい態様においては、幹細胞動員法の一部として、個体に阻害剤を提供する。好ましい態様においては、幹細胞を収穫する少なくとも1日前に個体に阻害剤を投与する。別の好ましい態様においては、成長因子/サイトカイン処理を開始するのと同じ日に、個体に阻害剤を提供する。本発明は更に、1種または数種の成長因子/サイトカインと共に阻害剤を包含するキットを提供する。キットは、少なくともC−GSFと阻害剤を包含することが好ましい。更に、個体の保有する幹細胞の動員性を促進するための成長因子またはサイトカインと共に、セルピンa1の阻害剤を含有する組成物を提供する。成長因子はC−GSFであることが好ましい。
【0010】
本発明の他の態様においては、個体における成長因子/サイトカイン仲介性幹細胞動員の応答時間を短縮するための方法を提供する。
【0011】
CD97はII型七回膜貫通型受容体のEGF−TM7ファミリーの一員であり、リンパ球、顆粒球、単球を含む造血細胞全般で発現されている。本発明においては、CD97は骨髄由来幹細胞で発現されており、骨髄由来細胞集団から幹細胞に富んだ一群を識別するためにCD97が使用可能であることを示した。従って本発明は、細胞集団内の細胞を同定するための方法であって、細胞集団をCD97に特異的な結合体と接触させ、そして細胞と会合する結合体の相対量に基づいて、細胞を同定することを包含する方法を提供する。上記同定は、細胞と会合したCD97特異的結合体の量が「大量である」、「中量である」、または「検出不能である」のいずれかに細胞集団内の細胞を分類することを包含することが好ましい。CD97の不存在、その存在またはその相対的な検出量を、細胞を分離するための基準として使用することができる。従って、好ましい態様においてこの方法は、同定した細胞を、細胞集団内の細胞の少なくとも一部から分離するための工程を更に包含する。分類方法に則って、細胞に会合したCD97特異的結合体の量が中量であると分類することによって、細胞を同定することが好ましい。幹細胞の含有するCD97は中量である。従って好ましい態様においては、分離した細胞は幹細胞、好ましくは骨髄由来幹細胞である。
【0012】
本発明の好ましい態様においては、上記方法を、造血幹細胞を他の骨髄由来細胞から分離するために使用する。従って、好ましい態様においては、細胞集団を、CD34またはそのホモログに特異的な結合体、CD38またはそのホモログに特異的な結合体、および/またはc−Kitまたはそのホモログに特異的な結合体と接触させるための工程を更に包含する。上記方法は、細胞に会合した、CD34、CD38、および/またはc−Kitあるいはこれらのホモログに特異的な結合体の相対量に基づいて、細胞集団から細胞を分離するための工程を更に包含することが好ましい。別の好ましい態様においては、本発明の方法は、細胞集団内の細胞をマーキングする、細胞集団に存在する他の集団を区別する、または経時的なCD97発現レベルの変化を検出するために使用する。従って本発明の方法は、細胞集団内の細胞からなるサブセットをマーキングするための、CD97に特異的な結合体の使用を包含する。更に別の態様においては、本発明は、CD97またはそのホモログに特異的な結合体を包含する、幹細胞を細胞集団内の他の細胞から分離するためのキットを提供する。細胞と他の細胞との分離は、種々の方法で行うことができる。大量の細胞を分離するための特に簡便な方法は、細胞集団の細胞の一部を固体表面と会合させる工程を導入した方法である。典型的な固体表面は、細胞集団の細胞サブセットに特異的な結合体と会合している。所望の細胞は、固体表面に保持されても、されなくてもよい。従って上記キットは、細胞を分離するために準備された固体表面を更に包含することが好ましい。固体表面の形態としては、カラム、(磁性)ビーズまたは他の表面が挙げられる。特に好ましい態様においては、結合体は固体表面と会合している。従って、好ましい態様においては、キット中の結合体は、固体表面と会合している。キットは、細胞集団内の他の細胞から幹細胞を識別するための結合体を更に包含することが好ましい。
【実施例】
【0013】
実施例1

結果
造血幹細胞の動員は、0.5GyのTBIの24時間後に阻害される
低線量照射がHSC/HPC動員に与える影響を検討するために、マウスのコホートに0.5GyのTBIを施し、TBIから24時間後にIL−8を注射した。IL−8誘導性のHSC/HPCの末梢血への動員は、偽照射対照と比べて、照射マウスにおいて有意に低下しており(IL−8投与群が388.1±233.3 CFU−GMであるのに対して、0.5Gy/IL−8投与群は37.1±51.5 CFU−GMであり、p<0.0001、図1a)、一方、BM内の前駆細胞数は全ての群において同等だった(p>0.5、図1b)。0.5GyのTBI後の、計3回(1日1回)のG−CSF注射によって誘導されるHSC/HPC動員は、TBI後24時間で開始したが、これも偽照射対照と比べて、照射(0.5Gy)マウスにおいて有意に阻害されていた(G−CSF投与群が800±513.6CFU−GMであるのに対し、0.5Gy/G−CSF投与群は91.9±96.7 CFU−GMであり、p<0.0001、図1a)。低線量TBIが末梢血とBMの好中球数に与える影響は観察されなかった(データは示さない)。
【0014】
BM細胞外抽出物はエラスターゼ活性を阻害する
サイトカイン誘導性のHSC/HPC動員が0.5GyのTBI後に阻害されるメカニズムを明らかにするために、マウスのコホートに低線量(0.5Gy)のTBIまたは偽照射を施した。TBI後24時間でマウスを屠殺し、BM細胞外抽出物(BMEE)を収穫した。続いて、BMEEのエラスターゼ活性を、エラスターゼ活性の検出用に設計された発色性基質転換アッセイで評価した。照射したマウスのBMEEからはエラスターゼ活性は検出されなかった(図2a)。3.125μg/mlまたは6.25μg/mlのエラスターゼを低線量(0.5Gy)照射マウスから得たBMEEに添加すると、偽照射対照マウスから得たBMEEと比べ、エラスターゼ活性は有意に(p<0.05)減少した(それぞれ60.3%と44.1%)(図2a)。この結果は、低線量TBI後のBMEEにはエラスターゼ阻害因子が存在することを示している。
【0015】
エラスターゼ活性の阻害は、セルピンa1中和抗体によって逆転することができる
低線量照射マウスから得たBMEEにおけるエラスターゼ活性の阻害が、BMEEに含まれるセルピンa1によって説明できるのか調べるために、中和抗セルピンa1抗体を低線量(0.5Gy)照射マウス(n=2)から得たBMEEと共にインキュベートし、外因性エラスターゼ活性を評価した。予想したように、3.125μg/mlのエラスターゼを0.5Gy照射マウスのBMEEに添加した後には、未照射マウスから得たBMEEと比べて、エラスターゼ活性が阻害されていた。しかし、抗セルピンa1抗体の添加に続いて、エラスターゼ活性が復帰した(図2b)。この結果は、低線量照射マウスから得たBMEEの阻害活性の一因が、セルピンa1であることを示している。
【0016】
低線量TBIによる、セルピンa1 mRNAとタンパク質の誘導
セルピンa1に対する抗体は照射マウス由来BMEEの阻害効果を完全に取り除くため、セルピンa1を、我々のin vitro系においてエラスターゼ活性を阻害するセリンプロテアーゼ阻害因子の第一候補と考えた。低線量(0.5Gy)TBIに続いてセルピンa1 mRNAが誘導されるかどうかを調べるために、TBIから24時間後の0.5Gy照射マウス(n=2)からmRNAを単離した。HPRT発現と比べて、TBIから24時間後にはセルピンa1 mRNAは7倍に増加し(図3a)、3Gyの照射後には50倍に増加した(データは示さない)。より豊富に発現されているハウスキーピング遺伝子であるb−アクチンおよびGAPDHと比較すると、0.5GyのTBIに続くセルピンa1 mRNAの増加は、それぞれ20倍と7倍だった。これらの結果は、セルピンa1 mRNA濃度は、低線量TBIに続いて増加することを示している。セルピンa1 mRNAの上方制御は、セルピンa1タンパク質濃度の増加をもたらすか調べるために、BMEE中のセルピンa1タンパク質の存在をウエスタンブロッティングで検討した。0.5Gy照射マウスまたは偽照射マウスから収穫したBMEEから誘導したタンパク質10μgをアクリル/ビスアクリルアミドゲルにロードし、セルピンa1を化学発光によって可視化した(図3a)。次に、各レーンのバンドを定量化し、同一ブロット上の偽照射対照と相関させた。セルピンa1タンパク質の相対量は、偽照射対照群と比べて、低線量照射(0.5Gy)マウスのBMEEにおいて28%も有意に増加していた(図3b、p<0.0001)。更に、8.0GyのTBIによって、偽照射対照と比べたセルピンa1タンパク質の相対濃度は、63%も増加した(データは示さない)。これらの結果は、低線量TBIによってセルピンa1タンパク質が誘導されることを示している。
【0017】
IL−8誘導性の動員はセルピンa1によって阻害される
IL−8誘導性のHSC/HPC動員において考えられるセルピンa1のin vivoの役割を更に検討するために、IL−8投与の2時間前および5分前に、マウス(n=14)をセルピンa1(300μg/マウス)で処理し、末梢血のコロニー形成単位(CFU−GM)の発生頻度を評価した。IL−8注射前のセルピンa1投与は、完全にIL−8誘導性のHSC/HPC動員を防止した(PBS/IL−8: 685.1±522.1CFU−GM/mlの血液(n=7)、セルピンa1/PBS: 31.5±51.9CFU−GM/mlの血液(n=9)、およびセルピンa1/IL−8: 131.1±180.9CFU−GM/mlの血液(n=14)、p<0.05、図4a)。一方、熱不活化セルピンa1はHSC/HPCの動員を阻害しなかった(779.3±363.0、n=4)。更に、セルピンa1単独では、HSC/HPCの動員を誘導せず、GM−CSF誘導性のin vitroコロニー形成にも影響を与えなかった(データは示さない)。更にBM中のコロニー形成細胞の数に変化はなく、これはセルピンa1投与はin vivoのコロニー形成細胞に影響しないことを示している(図4b)。
【0018】
考察
本報告において、我々は、低線量(0.5Gy)TBIがIL−8誘導性およびG−CSF誘導性のHSC/HPC動員を阻害することを示した。HSC/HPC動員は低線量TBIの5日後には復帰した(データは示さない)ことから、HSC/HPCの動員阻害の基礎となるメカニズムは可逆的であった。更に、BM内部の前駆細胞含量も末梢血リンパ球数も、この低線量照射の影響を受けなかった。好中球エラスターゼとカテプシンGを含むプロテアーゼの放出は、サイトカイン誘導性のHSC/HPC動員における最終経路であるため(10,12,13)、我々はセリンプロテアーゼまたはセリンプロテアーゼ阻害因子のこの過程において考えられる役割を調査した。未照射移植マウスから得た好中球の移植によって、HSC/HPC動員の阻害は部分的に逆転し、これは好中球または好中球誘導性プロテアーゼがこの過程に関与していることを示している(データは示さない)。更に、低線量(0.5Gy)照射マウスから得たBMEEは、基質転換アッセイにおいて、エラスターゼの生物活性を阻害することが判明した。また、抗セルピンa1抗体のBMEEへの添加も阻害を逆転したことから、低線量照射マウスから得たBMEEの阻害活性の一因がセルピンa1であることを明らかにした。
【0019】
エラスターゼなどのセリンプロテアーゼは、セリンプロテアーゼ阻害因子(セルピン)であるセルピンa1とα2−MG(28−30)によって不可逆的に阻害される。セルピンは、高度に保存された二次構造エレメントを有する単一のスーパーファミリーに属し、共有結合することによって標的プロテアーゼを阻害する。この阻害は不可逆的であり、わずか数種のプロテアーゼ分子の放出によって開始されうるタンパク質分解カスケードの効果的な制御に必要である。哺乳動物においてセルピンは、血液凝固、炎症および細胞外マトリクスのターンオーバーを含む、広範に渡るタンパク質分解過程において役割を担っている(31)。α2−MGは、開裂することが可能なドメイン残基からプロテアーゼを誘引する。これによってα2−MG分子が活性化され、立体構造の変化が生じてプロテアーゼを内包し、プロテアーゼが他の基質を攻撃するのを防止する。しかし、数アミノ酸からなる分子はこのエンベロープに侵入し、続いてプロテアーゼによって分解される(30)。セルピンa1は、共有結合と、それに続く標的プロテアーゼの機能阻害によって機能する。セルピンa1とその標的との相互作用を指揮するのは、セルピンa1ポリペプチドの本体から伸長し、阻害因子の特異性を決定する、反応中心ループ(RCL)と呼ばれる約20残基のドメインである。セルピンa1は、ネズミ捕り法と同様に、準安定状態で存在し、RCLの開裂によってそのエネルギーが放出される。エラスターゼがセルピンa1のRCLに結合してRCLを開裂すると、セルピンa1はプロテアーゼ分子を反対の末端に移動する。この過程によってプロテアーゼはセルピンに対して押しつぶされ、その結果、プロテアーゼの破壊性を保障する完全な構造が失われる(32)。
【0020】
α2−MGで阻害されたエラスターゼには、我々が基質阻害アッセイで使用する基質を分解する能力が残っているので、α2−MGによるエラスターゼの阻害を計測することはできなかった(30)。従って、セルピンa1を、我々のin vitro系においてエラスターゼ活性を阻害するセリンプロテアーゼ阻害因子の第一候補と考えた。総BM細胞の定量的RT−PCRによって、低線量TBIに続いてセルピンa1 mRNAが、ハウスキーピング遺伝子と比べて増加することを確認した。更に、ウエスタンブロット解析は、低線量照射マウスから誘導したBMEEにおける相対的セルピンa1タンパク質濃度が増加していることを示した。しかし、in vivoの使用に十分な抗体が存在しないため、HSC/HPC動員の照射誘導性阻害がin vivoの抗セルピンa1抗体処置によって逆転するかどうかを検討することはできなかった。最後に、in vivoのセルピンa1投与時の、IL−8誘導性HSC/HPC動員の不存在によって、HSC/HPC動員におけるセルピンa1の重要性が明らかとなった。熱不活化セルピンa1はIL−8誘導性HSC/HPC動員に何の影響も与えない。この結果は、非特異的効果が見られなかったことから、人為結果というよりは、HSC/HPC動員の阻害における活性化セルピンa1の特異的な役割を指し示していると考えられる。
【0021】
プロテアーゼは、サイトカイン誘導性HSC/HPC動員における調節仲介物質であることが知られている。我々の研究室におけるアカゲザルの研究によって、好中球のアズール顆粒に保存されているマトリクスメタロプロテナーゼ9(MMP−9、ゼラチナーゼB)の重要な役割が明らかとなった。IL−8誘導性のHSC/HPC動員は、ザイモグラフィーで測定した循環MMP−9の誘導と一致していた。更に、MMP−9に対する中和抗体は、IL−8誘導性のHSC/HPC動員を防止した(21)。また、Levesque et al.は、好中球エラスターゼとカテプシンGがG−CSF誘導性およびシクロホスホアミド誘導性のHPC動員に関与していることを示した。このグループは、G−CSF動員患者の血漿におけるVCAM−1開裂産物の濃度上昇を見出した。これに付随して、VCAM−1発現は低下し、BM中の好中球エラスターゼおよびカテプシンGの濃度が上昇した(12,13)。好中球エラスターゼとカテプシンGの別の基質が2つのグループによって個別に発見され、それはSDF−1(CXCL12)が開裂されると、BMの保持する幹細胞が減少するというものである(10,11)。更に、好中球エラスターゼ、カテプシンG、プロテナーゼ3およびマトリクスメタロプロテナーゼ9も、初期の造血細胞が発現するc−Kitを開裂することができる(9)。これらの結果は、G−CSF誘導性の動員は、好中球顆粒中に存在するプロテアーゼによる開裂を介したVCAM−l/VLA−4経路の中断によって仲介されることを示唆している。
【0022】
本研究において、我々はHSC/HPC動員の誘導において、セリンプロテアーゼ(エラスターゼとカテプシンGを含む)のみならず、セリンプロテアーゼ阻害因子も重要な役割を担うことを明らかにした。Winkler et al.の知見は、セルピンa1(と場合によっては他のセリンプロテアーゼ阻害因子)がHSC/HPCの動員において重要な役割を担うという我々の知見を増強するものであり、その知見は、マウスモデルにおけるG−CSF誘導性のHSC/HPC動員を定量的RT−PCRとイムノブロッティングを用いて解析すると、セルピンa1 mRNAとセルピンa3 mRNAが70分の1〜1,000分の1に減少するというものである(33)。更にAKXL組み換え近親交配マウス種の動員に関する遺伝子連鎖解析は、セルピンa1遺伝子の位置する場所の近くの染色体12の領域(50cM付近)が、幹細胞の動員性に関与する可能性を示した(34)。最近、セルピンa1とセルピンa3は造血前駆細胞の動員に関与することが明らかになった(35)。これらの結果は、G−CSF投与後数時間で生じる現象であるプロテアーゼの誘導が、なぜ天然のプロテアーゼ阻害因子、即ち、セルピンa1、の濃度がそれに付随して低下した時にのみHSC/HPCの動員を誘導するのかを説明する。その後プロテアーゼとプロテアーゼ阻害因子の比は、プロテアーゼ側に劇的に傾き、その結果、BMの微小環境における幹細胞と間質エレメントとの間の接着性相互作用が断ち切られる。
【0023】
これらの知見に基づき、我々は以下の一連の事象を、IL−8誘導性のHSC/HPC動員の過程として提案する。IL−8注射に際し、肺と、おそらくは他の臓器(例えばBM)における循環好中球の捕捉によって、瞬間的な好中球減少症が発生する。この捕捉の基礎となるのは、IL−8誘導性のL−セレクチンの分泌と、b2インテグリン、LFA−1およびMac−1(CD11b)の上方制御に続く、好中球の内皮への強固な接着である。内皮に一度接着すると、IL−8による活性化に応答して好中球は脱顆粒化し、MMP−9とセリンプロテアーゼ(即ち、好中球エラスターゼとカテプシンG)を放出する。セリンプロテアーゼの他に、セリンプロテアーゼ阻害因子もBMに存在する。その1種であるセルピンa1はMMP−9の基質であることが知られている(36)。MMP−9によるセルピンa1の開裂は、セリンプロテアーゼ阻害因子であるセルピンa1の不活化をもたらす。更に、セルピンa1に結合する塩素化酸化物の大量放出も、セルピンa1の阻害能を低下させる(37)。我々は、IL−8誘導性のHSC/HPC動員の際には、セルピンa1の不活化に繋がる現象である、好中球によるMMP−9の放出が生じると仮定した(図5)。そうでなければ、セルピンa1は好中球エラスターゼに結合し、不可逆的にセリンプロテアーゼを阻害するはずである。しかし、MMP−9による不活化は、エラスターゼとセルピンa1との比を増加させ、BMの微小環境における好中球エラスターゼ活性の純増加をもたらす。これは、接着性相互作用の崩壊に繋がり、おそらくは造血幹細胞が微小環境において付着している基底膜とマトリクス分子の分解にも繋がると考えられる。定常状態において、セリンプロテアーゼ/セリンプロテアーゼ阻害因子比がプロテアーゼ阻害因子側に傾いていると、HSC/HPCの動員は生じない。
【0024】
従って我々は、セリンプロテアーゼとその阻害因子との繊細なバランスが、サイトカイン誘導性のHSC/HPC動員の開始に欠くことのできないものであることを提案する。
【0025】
材料と方法

動物
8〜12週齢のオスのBalb/cマウスをCharles River(オランダ国、マーストリヒト)より購入し、全ての動員研究に使用した。動物はライデン大学医療センター(Leiden University Medical Center)の動物飼育施設内で、一般的な条件下で飼育した。全ての実験プロトコルが動物実験に関する学内倫理委員会の承認を受けていた。
【0026】
幹細胞の動員
0.1%ウシ血清を含むエンドトキシンなしのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で希釈した30μgのIL−8(オーストリア国、ウイーン、Novartis Research Institute)の1回の腹膜内(i.p.)注射によって、HSCの動員を誘導した。20分後にCO2で窒息させることによりマウスを屠殺し、末梢血とBM細胞を得た。
【0027】
G−CSF誘導性動員は、TBIの24時間後から、各マウスに1日当たり10μgのG−CSF(フィルグラスチム、ノイポゲン)(オランダ国、ブレダ、Amgenより寄贈)を3日間連続してi.p.投与することで達成した。阻害実験においては、300μgのヒト セルピンa1(αl−アンチトリプシン)(ドイツ国、ハイデルベルク、Serva Electrophoresis)をIL−8投与の2時間前および5分前に投与した。セルピンa1は96℃で6分間煮沸することで熱不活化した。熱不活化セルピンa1は、エラスターゼ基質転換アッセイにおいてエラスターゼ活性を阻害しなかった。コロニー形成単位−顆粒球マクロファージ(CFU−GM)は公知の方法(24)に従って培養した。
【0028】
照射プロトコル
線形加速器付のパースペックス製チャンバー(Philips SL 75-5/6 mV)(オランダ国、ベスト、Philips Medical Systems)内で、98cGy/分の線量をマウスに照射した。合計線量が0(偽照射)または0.5Gyとなるように照射した。
【0029】
エラスターゼ活性アッセイ
BMEEは、大腿骨に250μlの冷たいPBSを流すことで得た。細胞懸濁液を2,300gで5分間遠心分離し、上清を−20℃で保存した。エラスターゼ活性は、発色性基質であるN−サクシニル−L−Ala−Ala−Ala−P−ニトロアニリド(オランダ国、ヅビンドレヒト、Sigma)を用いて測定した。プロテアーゼ阻害因子の存在を試験するために、エラスターゼ基質を添加する直前に、標準的な量の精製ブタ膵臓エラスターゼ(Sigma)をBMEEに加えた。エラスターゼ活性は、それぞれ個別の試験の際にエラスターゼ標準を使用することで定量した。
【0030】
抗セルピンa1抗体の調製
抗セルピンa1抗体は、プールした正常マウス血清(Balb/C、C57BL/10とB10)(ベルギー国、Janssen Biochimica)からセルピンa1を精製することで調製した。血清に1等量の0.5Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)を加えることでpHを5.5に調整し、1.95Mになるまで硫酸アンモニウムを加えることで塩析した。室温で2時間後には遠心分離(4000g、20分)で上清を回収し、沈殿は1.95Mの硫酸アンモニウムで洗浄した。集めた上清を1.75Mの硫酸アンモニウムに対して4℃で徹底的に透析し、1.75Mの硫酸アンモニウムで平衡化した親チオ性の吸着材(Affi-Tアガロース)(デンマーク国、Kem En Tec)にアプライした(25,26)。流速を約0.5ml/分とし、同じバッファーで吸着材をその基準線まで洗浄し、1.5Mの硫酸アンモニウムと続く0.1MのNaClで溶出した。画分を、マウスセルピンa1とわずかに交差反応を示した抗ヒトセルピンa1抗体(抗α−1アンチトリプシン、Dako A012)を用いた交差免疫電気泳動とSDS−PAGEで解析したところ、セルピンa1は高純度で1.5Mの硫酸アンモニウム画分に存在し、還元SDS−PAGEにおいて53kDに移動するシャープな単一バンドとして検出された。コントラプシンとアルブミンが主要なタンパク性不純物だった。残留アルブミンは調製物をBlue Sepharose (米国、カリフォルニア州、リッチモンド、BioRad)に吸収させることで取り除いた。
【0031】
この調製物を、ウサギを免疫するために使用した。所望の抗体反応性を有する放血をプールし、公知の塩析法(27)で抗体を部分精製した。得られた抗体を、マウス血清のブロットに対して試験し、分子量が53kDのバンドと反応させた。免疫に使用したセルピンa1がプールした正常マウス血清から得たものであるため、抗体は5種類のマウスセルピンa1タンパク質を全て認識する傾向にある。
【0032】
ウエスタンブロッティング
10μgのタンパク質を14%アクリル/ビスアクリルアミドゲルにロードし、Immobilon-P転写メンブランフィルター(米国、マサチューセッツ州、ベッドフォード、Millipore)に移した。メンブランを1%のブロッキング試薬(ドイツ国、マンハイム、Roche Diagnostics)とインキュベートし、次に、ポリクローナルウサギ抗マウスセルピンa1抗体とインキュベートし、更に西洋ワサビペルオキシダーゼポリクローナル抗ウサギIgG抗体(米国、ウイスコンシン州、マディソン、Promega)とインキュベートし、増強化学発光法で視覚化した。デンシトメトリーをEagle-sightソフトウエアを使用して実施し、照射抽出物対偽照射抽出物の比を各サンプルについて計算した。
【0033】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCR実験のために、BM細胞を回収し、Qiagen RNAeasyミニキット(オランダ国、ルースデン、Westburg)を用いて5×106個の細胞からRNAを単離した。続いてcDNAを合成した。以下のプライマーペアを使用した。セルピンa1用(フォワード(F):CAACACCTCCTCCAAACC、リバース(R):CAGAAACTTCTCCACCAGC)、ハウスキーピング遺伝子である、HPRT用(F:GACTTGCTCGAGATGTCA、R:TGTAATCCAGCAGGTCAG)、β−アクチン用(F:AGACCTCTATGCCAACACAG、R:TAGGAGCCAGAGCAGTAATC)とGAPDH用(F:ATGGCCTTCCGTGTTCCTAC、R:CCTGCTTCACCACCTTCTT)。データは、製造者のソフトウエアを用いて解析し、ハウスキーピング遺伝子の発現量と比べた発現量の変化を計算する比較CT法(2−DDCt)で定量した。全ての反応について、反応の溶融曲線を解析することで非特異的産物についてチェックした。
【0034】
統計解析
Studentのt検定で差異を評価した。p値が0.05未満のものを、統計的に有意とした。

【0035】
実施例2

材料と方法

動物
8〜12週齢のオスのBalb/cマウスをCharles River(オランダ国、マーストリヒト)より購入し、全ての動員研究に使用した。動物には、齧歯動物用の飼料と酸性水を自由に与え、ライデン大学医療センターの動物飼育施設内で、一般的な条件下で飼育した。全ての実験プロトコルが動物実験に関する学内倫理委員会の承認を受けていた。
【0036】
セルソーティングおよび解析用の抗体
CD97の発現は、mCD97の第一EGF様ドメインに対する、ビオチン化ハムスター抗マウスCD97 mAb(クローン1B2)(1)を用いたフローサイトメトリーで評価し、ストレプトアビジン−APCまたはストレプトアビジン−PEで染色した。CD97サブ集団の表現型を分析するために、FITCで標識した、抗CD8(クローン53−6.7)、抗TER119(クローンTer−119)、抗CD4(クローンGK1.5)、抗B220(クローンRA3−6B2)、抗CDllb(クローンMl/70.15.11.5)と抗GR−1(クローンRB6−8C5)、およびPEで標識した抗CD117(c−Kit、クローン...)(全てカリフォルニア州、サンディエゴ、Pharmingenより購入)で染色した。ビオンチン化抗CD90.2(Thyl.2、クローン53−2.1)は市販の抗体で染色した。
【0037】
細胞懸濁液の調製
滅菌操作を用いて、移植マウスの大腿骨、脛骨と上腕骨に2%熱不活化ウシ胎児血清、10%ヘパリン、ペニシリンとストレプトマイシンを添加したRPMI培地(スコットランド、ペイズリー、Life Technologies)を流すことでBMCを得た。DNA分解酵素(1.33mg/ml)とのインキュベーションの後、赤血球を溶解した。続いて、細胞を直接実験に使用するか(総骨髄細胞)、あるいは解析前にFACS Vantage(Beckton Dickinson)でソートした。実験に使用した全ての集団の純度は95%を超えていた。
【0038】
前駆細胞の解析
コロニー形成単位−顆粒球マクロファージ(CFU−GM)を公知の方法(2)で培養した。簡単に説明すると、組み換えマウスGM−CSF(1.25ng/ml、米国、カリフォルニア州、サンディエゴ、Pharmingen)の存在下で、5×105細胞/mlの末梢血単核球を、3.5cmのシャーレ中の半固形培地で培養した。骨髄細胞は、5×104細胞/mlの濃度で培養した。37℃、5%CO2を含む完全加湿雰囲気下で6日間培養した後、倒立型光学顕微鏡でコロニー(20個以上の細胞からなる凝集隗と定義)の数をスコアした。
【0039】
敷石状領域形成細胞(CAFC)の解析
平底96穴プレート(オランダ国、エテン・ルール、Falcon)内の、FBMD−1細胞からなるコンフルエントな基底層に、種々の濃度のソート直後CD97HI細胞、CD97INT細胞、CD97NEG細胞または未分離のBMCを重層し、基底層の下で造血性クローンを形成する前駆細胞の限界希釈解析を行った。特定の細胞の懸濁液を解析するために、我々は、12個の2.5倍希釈段階を使用し、各希釈に付き15個のウェルを使用した。細胞を33℃、10%CO2雰囲気で培養し、培地の半分を交換することで栄養を毎週与えた。重層後7日〜42日の間に、全てのウェルを週1回の間隔で観察し、少なくとも1相の暗い造血性クローン(敷石状領域、少なくとも5個の細胞からなる)が観察された時に陽性とした。CAFC頻度は、ポアソン統計を用いて計算した。
【0040】
BMC移植
線形加速器付のパースペックス製チャンバー(Philips SL 75-5/6 mV)(オランダ国、ベスト、Philips Medical Systems)内で、98cGy/分の線量を被移植マウスに照射した。合計線量が9.5Gy(致死量照射)となるように行った。全身照射の4〜8時間後に、0.2%のウシ血清アルブミンを含む0.2mlの生理食塩水中の骨髄細胞を尾状静脈に注射した。
【0041】
結果

造血前駆細胞の大部分がCD97NEG骨髄細胞画分に存在する
マウス骨髄細胞によるCD97の発現を評価するために、初代BALB/c骨髄細胞を抗CD97モノクローナル抗体で染色した。FACS解析によって、3種の主な集団、即ち、CD97HI細胞、CD97INT細胞とCD97NEG細胞(それぞれの総BM細胞中の平均濃度は71.5%、24.4%と4.4%、図1a)が明らかとなった。CD97発現に基づいて、骨髄細胞をCD97HI集団、CD97INT集団とCD97NEG集団にソートした(図1b)。続いて、CFU−GMのコロニー形成能を、種々のCD97サブセット(n=6)について解析した。総骨髄細胞と比べて、CD97NEG集団においてコロニー形成(CFU−GM)能が2.7倍に増加していた(106個の骨髄細胞当たり、8660.6±7692.0 CFU−GMに対して、3203.7±1527.2 CFU−GM)。CD97HIはわずかなCFU−GM形成細胞(106個の骨髄細胞当たり、178.4±169.6 CFU−GM)しか含んでいないが、CD97INT骨髄細胞は、総骨髄細胞と同等のコロニー形成能を示した(106個の骨髄細胞当たり、3047.0±2902.0CFU−GM、図1c)。これらの結果は、造血前駆細胞の大部分がCD97NEG骨髄細胞画分に存在することを示している。
【0042】
再建造血幹細胞はCD97INT骨髄細胞サブセットに存在する
CD97HI集団、CD97INT集団とCD97NEG集団における初代前駆細胞の長期再建能の頻度を求めるために、ソートしたBALB/c骨髄細胞を敷石状領域形成細胞アッセイで試験した。CD97HI画分、CD97INT画分および総骨髄細胞と比べて、CD97NEG画分に、前駆細胞活性を有する細胞のみからなる7日目のCAFCの大部分が存在していた(7日目の結果は、CD97NEG画分が852±60.7 CAFC/105細胞であるのに対し、CD97HI画分、CD97INT画分と総骨髄細胞はそれぞれ0.23±0.0 CAFC/105細胞、201.2±260.0 CAFC/105細胞と107.6±17.9 CAFC/105細胞であった、図2a)。しかし、数週間に渡る培養の最中にCAFCの頻度は低下し、28日目には、CD97NEG画分からCAFCは検出されなかった。BMのCD97HI画分は、全培養期間を通じて非常に少量のCAFCしか含んでおらず、培養28日後には、CAFCは検出されなかった。一方、CD97INT骨髄細胞は、総骨髄細胞と比べて高頻度のCAFCを7日目に示し、この頻度は全培養期間を通じて高いまま維持された(培養開始7日、14日、21日、28日と35日目のCAFCは、それぞれ、201.2±260.0 CAFC/105細胞、186.7±23.9 CAFC/105細胞、118.2±8.9 CAFC/105細胞、36.5±12.2 CAFC/105細胞と3.1±0.1 CAFC/105細胞(図2a))。
【0043】
続いて、種々のCD97ソート骨髄細胞画分の再建能を調べるために、致死量照射(9.5Gy)を受けた同系の被移植マウスに、1×105個のCD97ソート骨髄細胞を移植した。CD97HI骨髄細胞またはCD97NEG骨髄細胞を移植したマウス(各群のn=10)と、対照の全身照射(TBI)のみを受けたマウス(n=6)は、移植後8週目には一匹も生存していなかった。しかし、1×105個のCD97INT骨髄細胞を移植したマウス(n=10)は、移植後120日を経過しても生存していた(図2b)。CD97INT骨髄細胞が一生を通じた再建能を有することを確認するために、致死量照射(9.5Gy)を受けた二次被移植マウスに、以前に1×105個のCD97INT骨髄細胞の移植を受けたマウス、または1×105個の総骨髄細胞の移植を受けた被移植体から得た1×105個の総骨髄細胞を移植した。移植から100日目には、CD97INT骨髄細胞の二次被移植体であるマウスの4/5と、1×105個の総骨髄細胞の二次被移植体の4/5が生存していた(図2c)。この結果は、CD97INT骨髄細胞画分は、長期再建能を有する造血幹細胞を含むことを示している。
【0044】
CD97INT細胞はc−KitHIThy−1LOLinNEGWGA+である
マウスにおいて造血幹細胞は、c−KitHIThy−1LOLinNEG(ref)と特徴付けられている。CD97HI骨髄細胞画分、CD97INT骨髄細胞画分とCD97NEG骨髄細胞画分におけるc−KitHIThy−1LOLinNEG細胞の存在を評価するために、総未分離骨髄細胞をc−Kitマーカー、Thy−1マーカーと連鎖(Lin)マーカーで染色した。CD97HI発現細胞の大部分がLinマーカーに対して陽性であり、Thy−1マーカーに対して陰性であり、c−Kitを発現していなかった。一方、CD97INT骨髄細胞とCD97NEG骨髄細胞のサブ集団はc−KitHIThy−1LOであり、Linマーカーに対して陰性だった(図3a)。造血幹細胞の別の表現型マーカーの1つは小麦胚アグルチニン(WGA)である。この分子は、糖タンパク質とそれを発現した造血幹細胞のシアル酸残基に結合する(ref)。FACS解析によって、CD97HI細胞はWGA染色に対して陰性であるが、CD97INT骨髄細胞とCD97NEG骨髄細胞の両方がc−KitHIWGA+集団を含有することが明らかとなった(図3a)。別の実験では、ソートしていない骨髄細胞からc−KitHI細胞、Thy−1LO細胞とLinNEG細胞を選択した。続いて、この細胞集団におけるCD97の発現を解析した。C−KitHIThy−1LOLinNEG骨髄細胞の大部分(51.6%)がCD97INT画分に存在し、一方、CD97NEG骨髄細胞のわずか15.3%と、CD97HI骨髄細胞の33.7%がc−KitHIThy−1LOLinNEG集団に存在していた(図3b)。
【0045】
CD97INTc−KitHIThy−1LO細胞は造血幹細胞である
マウス造血幹細胞の単離は複数の工程からなるプロセスであり、磁気と蛍光の両方によるセルソーティング工程が含まれる(ref)。CD97発現に対して選択することによって、造血幹細胞の単離を簡略化できないか検討するために、CD97INTc−KitHIThy−1LO骨髄細胞とCD97INTc−KitHIThy−1LOLinNEG骨髄細胞の前駆細胞含量と、in vitroおよびin vivoの再建能を解析した。
【0046】
C57BL/6のデータ
FACS解析は、移植BM細胞が宿主の再構成を担うことを明らかにした。
【0047】
長期再建能を有する造血幹細胞は、CD97とc−Kitの発現に基づいて単離可能である
長期再建能を有する造血幹細胞の単離が簡略化できないか検討するために、我々はCD97INTc−KitHI骨髄細胞を単離し、これら集団のHSCおよびHPC含量と共に、in vivoの再建能を解析した。
【0048】
参照文献一覧

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33. Winkler, I. G., Hendy, J., Horvath, A., Coughlin, P. and Levesque, J. P. Transcriptional repression of serpins (serine protease inhibitors) enhances active protease levels in the bone marrow during haematopoietic stem cell mobilization. Exp.Hematol. 31, 152 abstract no 275-152. 2003.

34. de Haan, G., Ausema, A., Wilkens, M., Molineux, G. and Dontje, B. (2000) Br. J. Haematol. 110, 638-646.

35. Winkler, I. G., Hendy, J., Coughlin, P., Horvath, A. and Levesque, J. P. (2005) J. Exp. Med. 201, 1077-1088.

36. Liu, Z., Zhou, X., Shapiro, S. D., Shipley, J. M., Twining, S. S., Diaz, L. A., Senior, R. M. and Werb, Z. (2000) Cell 102, 647-655.

37. Weiss, S. J. and Regiani, S. (1984) J. Clin. Invest 73, 1297-1303.
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1−1】実施例1、図1. IL−8誘導性およびG−CSF誘導性のHSC/HPC動員は、低線量全身照射の後に阻害された。マウスは0.5GyのTBIまたは偽照射を受け、続いてIL−8(30mg/マウス、n=12)またはG−CSF(n=10)、あるいは対照であるPBS(n=11)で動員した。末梢血(a)とBM(b)のコロニー形成能を示した。結果は平均±SDで表した。*は、0Gy/IL−8と比べた時のp値が0.0001未満、**は、0Gy/G−CSFと比べた時のp値が0.0001未満。
【図1−2】実施例1、図2. (a)照射マウスから得たBMEEによるエラスターゼ活性の阻害。低線量(0.5Gy、n=9)照射マウスをTBIから24時間後に屠殺し、BMEEを得た。BMEEのエラスターゼ活性を、追加エラスターゼの不存在下および追加エラスターゼの存在下の両方で測定した。*は、偽照射対照群から得たBMEEと比べた時のp値が0.05未満。 (b)エラスターゼ活性は、抗セルピンa1抗体によって復帰する。低線量(0.5Gy)照射マウス(n=2)から得たBMEEを、抗セルピンa1抗体の不存在下または存在下(Ab、それぞれ黒い棒と斜線の棒)で、3.125mg/mlのエラスターゼとインキュベートした。続いて、エラスターゼ活性を発色性基質アッセイで求めた。結果は、偽照射対照群から得たBMEEのエラスターゼ活性に相関させた。
【図1−3】実施例1、図3. 低線量TBIに続く、セルピンa1 mRNAとタンパク質の誘導。 (a)0.5GyのTBIから24時間後の、リアルタイムPCRによる総BM細胞のセルピンa1 mRNAの解析(白い棒、n=2)。0.5GyのTBIから24時間後には、HPRT発現と比べて、セルピンa1 mRNAは7倍に増加した(左のY軸)。0.5Gy照射マウスから得たBM上清(黒い棒、n=7)について、セルピンa1タンパク質の存在をウエスタンブロッティングで解析した。セルピンa1タンパク質の相対濃度は、各バンドの光学濃度測定によって求め、同じブロットの偽照射マウスと相関させた(右のY軸)。 (b)偽照射マウスおよび0.5Gy照射マウスから得たBM上清から、10mgの総タンパク質を取り出し、セルピンa1タンパク質の存在をウエスタンブロッティングで解析した。セルピンa1タンパク質の相対濃度は、各バンドの光学濃度測定によって求めた。
【図1−4】実施例1、図4. セルピンa1は、IL−8誘導性のHSC/HPC動員を阻害する。HSC/HPC動員をIL−8で誘導する2時間前および5分前に、ヒト セルピンa1(300mg)をi.p.注射によってマウスに投与した。対照マウスにはPBSまたは熱不活化セルピンa1を投与した(n=4)。続いて、IL−8(30mg/マウス、n=14)でマウスを動員するか、対照としてPBSを投与し(n=9)、コロニー形成単位(CFU−GM)の数を(a)末梢血と(b)BMで評価した。4回の個別の実験の結果を平均±SDで表した。*は、IL−8処置対照マウスと比べた時のp値が0.05未満。
【図1−5】実施例1、図5. IL−8誘導性のHSC/HPC動員における、好中球、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害因子の役割を表す模式図。IL−8注射に伴い、好中球はLFA−1とMac−1を含む細胞接着分子を上方制御し、続いてローリングと内皮への強固な接着が生じる。(I)一度内皮に付着すると、好中球はIL−8による活性化に応答して脱顆粒し、MMP−9と、好中球エラスターゼを含むセリンプロテアーゼを放出する。セルピンa1を含むセリンプロテアーゼ阻害因子は、血漿に高濃度で存在する。(II)プロテアーゼ/プロテアーゼ阻害因子比がプロテアーゼ側に傾いている(プロテアーゼ過剰な)場合、HSC/HPCと間質エレメントとの細胞接着性相互作用が分解される。(III)続いて、HSC/HPCが末梢血に動員される。(IV,V)BMにおけるプロテアーゼ阻害因子の誘導は、阻害因子の過剰をもたらし(VI)、HSC/HPCの動員は起こらない。 上のパネル。プロテアーゼ活性の陽性および陰性の調節。MMP−9によるセルピンa1(α−1アンチトリプシン、α−1AT)の開裂は、セリンプロテアーゼ阻害因子の不活化をもたらす。セルピンa1は通常は好中球エラスターゼに結合してセリンプロテアーゼを阻害する。しかし、その不活化は、BM微小環境における好中球エラスターゼ活性の純増加をもたらす。これに対してエラスターゼは、MMP−9を不活化し、結果として、セルピンa1の阻害が低下する。セルピンa1の不活化以外には、MMP−9はIL−8をより高い生物活性を示す分子に開裂する。より生物活性の高いIL−8の存在は、MMP−9レベルの上昇に繋がる。
【図2−1】実施例2、図1. マウス骨髄は、CD97発現に基づいて、3種の主要な集団に分けることができる。 (a)マウス骨髄細胞を抗CD97 mAbで染色し、CD97の発現をフローサイトメトリー解析で評価した。 (b)CD97発現に基づいて、骨髄をCD97HI集団、CD97INT集団とCD97NEG集団にソートした。パーセントは、図示したゲートで定義された細胞画分を表す。 (c)解析した、各CD97ソート骨髄細胞集団のコロニー形成能。6回の個別の実験の結果を平均±SDで表した。
【図2−2】実施例2、図2. 造血幹細胞活性がCD97INT集団に存在した。 (a)CD97発現に基づいて、骨髄細胞をCD97HI集団、CD97INT集団とCD97NEG集団にソートした。ソートした集団それぞれのCAFC形成能を5週間に渡って解析した。3回の個別の実験の結果を平均±SDで表した。 (b)CD97でソートした1×105個の骨髄細胞による放射線防護効果。致死量照射を受けた被移植体(9.5Gy、各群はn=10)に、1×105個の総骨髄細胞または1×105個の精製CD97HI骨髄細胞、CD97INT骨髄細胞またはCD97NEG骨髄細胞を移植した。 (c)二次被移植マウスにおける、1×105個のソートした骨髄細胞による放射線防護効果。致死量照射を受け、1×105個のCD97INT骨髄細胞を移植されたた被移植体を、骨髄移植の126日後に屠殺し、骨髄細胞を回収した。続いて、1×105個の総骨髄細胞を、致死量照射(9.5Gy)を受けた二次被移植体(各群はn=5)に投与した。
【図2−3】実施例2、図3. ソートしていないBALB/c骨髄細胞の表現型解析。 (a)CD97INT細胞とCD97NEG細胞は、造血幹細胞の表現型を示す。総骨髄細胞をCD97発現に基づいて、CD97HIサブ集団、CD97INTサブ集団とCD97NEGサブ集団に分けた。各サブ集団について、c−Kitと比べた、Thy−1マーカー、連鎖マーカー(Lin)およびコムギ胚アグルチニン(WGA)の解析を行った。 (b)c−KitHIThy−1LOLinNEG細胞の大部分が、CD97INT集団に存在する。総骨髄細胞を、c−Kit、Thy−1マーカー、Lin−マーカーおよびCD97に対して染色した。c−KitHIThy−1LOLinNEG細胞を取り出し、CD97発現について解析した。
【図2−4】実施例2、図4. c−KitHIThy−1LO骨髄細胞とCD97INTc−KitHIThy−1LO骨髄細胞の、in vitroおよびin vivoの再建能。 (a)ソートした骨髄細胞のCFU−GM解析。 (b)総骨髄細胞と比較した、c−KitHIThy−1LO骨髄細胞とCD97INTc−KitHIThy−1LO骨髄細胞のCAFC解析。KTはc−KitHIThy−1LO細胞である。 (c)致死量照射(9.5Gy)とそれに続く骨髄細胞移植から60日後の被移植体の生存率(各群のnは3〜10)。CD97KTはCD97INTc−KitHIThy−1LO細胞である。
【図2−5】実施例2、図5. c−KitHIThy−1LOLinNEG骨髄細胞とCD97INTc−KitHIThy−1LOLinNEG骨髄細胞の、in vitroおよびin vivoの再建能。 (a)ソートした骨髄細胞のCFU−GM解析。 (b)総骨髄細胞と比較した、c−KitHIThy−1LOLinNEG骨髄細胞とCD97INTc−KitHIThy−1LOLinNEG骨髄細胞のCAFC解析。KTLはc−KitHIThy−1LOLinNEG細胞である。 (c)致死量の全身照射(9.5Gy)とそれに続く骨髄細胞移植の後の被移植体の生存率(各群のnは3〜5)。CD97KTLはCD97INTc−KitHIThy−1LO細胞である。
【図2−6】実施例2、図6. CD97INT骨髄細胞は、C57BL/6マウスにおいて、in vitroおよびin vivoの再建能を有する。 (a)C57BL/6骨髄細胞を抗CD97 mAbで染色し、CD97発現をフローサイトメトリー解析で評価した。 (b)CD97発現に基づいて、骨髄をCD97HI集団、CD97INT集団とCD97NEG集団にソートした。CD97でソートした各骨髄細胞集団のコロニー形成(CFU−GM)能を解析した。 (c)CD97発現に基づいて、骨髄細胞をCD97HI集団、CD97INT集団とCD97NEG集団にソートした。ソートした各集団のCAFC形成能を5週間に渡って解析した。 (d)1×105個のCD97ソートしたC57BL/6(Ly5.1)骨髄細胞による、放射線防護効果。致死量照射(9.5Gy)を受けた被移植体(C57BL/6、Ly5.2、各群はn=5)に、1×105個の総骨髄細胞または1×105個の精製CD97HI骨髄細胞、CD97INT骨髄細胞またはCD97NEG骨髄細胞を移植した。
【図2−7】実施例2、図7. c−KitHI骨髄細胞とCD97INTc−KitHI骨髄細胞の、in vitroおよびin vivoにおける再建能。 (a)ソートした骨髄細胞のCFU−GM解析。 (b)総骨髄細胞と比較した、c−KitHI骨髄細胞とCD97INTc−KitHI骨髄細胞のCAFC解析。 (c)致死量の全身照射(9.5Gy)とそれに続く骨髄細胞移植の後の被移植体の生存率(各群のnは3〜5)。
【配列表フリーテキスト】
【0050】
配列番号1: セルピンa1 mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号2: セルピンa1 mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号3: HPRT mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号4: HPRT mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号5: β−アクチン mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号6: β−アクチン mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号7: GAPDH mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号8: GAPDH mRNA検出用のリバースPCRプライマー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における幹細胞の動員性を調節するための方法であって、幹細胞の近傍のエラスターゼ活性を調節することを包含する方法。
【請求項2】
幹細胞の近傍のエラスターゼ活性を増加させることによって、動員性を高めることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プロテアーゼ阻害因子に対する阻害剤を個体に提供することにより、エラスターゼ活性の増加を達成することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
阻害剤がプロテアーゼ阻害因子に特異的な結合体を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
プロテアーゼ阻害因子がセルピンa1またはα2−MGを含むことを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
幹細胞が造血幹細胞であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
プロテアーゼ阻害因子に特異的な結合体、あるいは該結合体の機能的な部分、誘導体および類似体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて、幹細胞を保有する個体において、該幹細胞の動員性を促進する方法。
【請求項8】
個体の保有する幹細胞の動員性を促進するための成長因子またはサイトカインと共に、セルピンa1の阻害剤を含有する組成物。
【請求項9】
成長因子がC−GSFを含むことを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
細胞集団内の細胞を同定するための方法であって、
細胞集団をCD97に特異的な結合体と接触させ、そして
細胞と会合する結合体の相対量に基づいて、細胞を同定する
ことを包含する方法。
【請求項11】
細胞集団が幹細胞を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
同定した細胞を、該細胞集団内の他の細胞から分離するための工程を更に包含する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
該細胞の同定が、細胞と会合したCD97特異的結合体の量が大量である、中量である、または検出不能であるのいずれかに細胞集団内の細胞を分類することを包含する、請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
細胞に会合したCD97特異的結合体の量が中量であると分類することによって、細胞を同定することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該細胞集団を、CD34またはそのホモログに特異的な結合体、CD38またはそのホモログに特異的な結合体、およびc−Kitまたはそのホモログに特異的な結合体からなる群より選ばれる少なくとも1種と接触させるための工程を更に包含する、請求項10〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
該細胞に会合した、CD34またはそのホモログに特異的な結合体、CD38またはそのホモログに特異的な結合体、およびc−Kitまたはそのホモログに特異的な結合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の相対量に基づいて、該細胞集団から該細胞を分離するための工程を更に包含する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞集団内の細胞からなるサブセットをマーキングするための、請求項10〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
幹細胞に富んだサブセットをマーキングするための、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
CD97またはそのホモログに特異的な結合体を包含する、幹細胞を細胞集団内の他の細胞から分離するためのキット。
【請求項20】
結合体が固体表面に結合していることを特徴とする、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
細胞集団内の他の細胞から幹細胞を識別するための結合体を更に包含する、請求項19または20に記載のキット。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図2−7】
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【公表番号】特表2009−525268(P2009−525268A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551209(P2008−551209)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050023
【国際公開番号】WO2007/084001
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(503107439)
【Fターム(参考)】