説明

床材及びその製造方法

【課題】バイオマス原料であるポリ乳酸系樹脂を使用し、木質感やリサイクル適性に優れた木質樹脂発泡成形体を基材とした床材において、より環境負荷の小さい、バイオマス原料比率の高い床材を提供しようとするものである。
【解決手段】熱可塑性樹脂4と木質充填材3と気泡2とを含有する木質樹脂発泡成形体5の表面に前記木質樹脂発泡成形体5に含有される熱可塑性樹脂4と同系の熱可塑性樹脂を主体とする化粧シート1が積層されてなる床材である。該熱可塑性樹脂4としてはポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸系樹脂とを用い、発泡成形用発泡剤として重曹−クエン酸系発泡剤により発泡成形を行う。前記熱可塑性樹脂に用いるポリ乳酸系樹脂の高分子末端は、エポキシ当量100〜2000g/eqのエポキシ基含有アクリル系重合体であるカルボキシル基反応性末端封鎖剤により耐加水分解処理されることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建て住宅やマンション、アパート、保養所、オフィスビル、店舗等の建築物における室内床面に使用するための床材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、戸建て住宅等の建築物における室内床面用の床材としては、木質系フローリング材が最も広く流行している。この木質系フローリング材とは、厚み5〜15mm程度の天然木材の無垢板や、厚み5〜15mm程度の積層合板等の木質基材上に、厚み数百μm〜数mm程度の天然木材の突板を貼着したもの、或いはそれらの塗装品等である。
【0003】
これらの天然木材を使用した木質系フローリング材は、その表面の意匠が天然木材の木目という、最も自然で親しみやすく美麗な意匠であることから、従来広く消費者に受け容れられている。
【0004】
しかし、日光に当たると変色し易いことや、水に濡れると膨れや割れ、反り、腐蝕、突板の剥離等を起こし易い。したがって、特に浴室脱衣所、洗面所や厨房等の様な水廻りの部位への使用には問題がある。さらには、天然素材であることから、色調や木目形状などの品質や価格、供給量などが不安定であることなどの問題点も指摘されている。
【0005】
特に近年では、地球環境保護問題への社会的関心が高まるにつれて、環境破壊に繋がる天然木材の大量消費は白眼視される様になり、床材などの建築材料の分野においても、資源のリサイクル利用への取り組みが求められる様になっている。
【0006】
しかし、木質系フローリング材を再度床材としてリサイクル利用することは、技術的にも経済的にも極めて困難であり、粉砕してパーティクルボード用原料としてリサイクル利用される程度に留まっているが、これも近年の急激な供給増に見合った用途開発が進まないために過剰在庫を抱え、リサイクル利用は行き詰まりの状況にあり、大半は埋め立てや焼却による最終処分が行われているのが現状である。
【0007】
そこで、床材を使用後に再度、同種の床材の原料として再利用可能な、リサイクル適性のある床材の開発が、社会的に強く要望される様になっている。こうした要望に応えるものとして、本発明者らは既に、熱可塑性樹脂と木質系充填剤を含有する木質樹脂成形体の表面に、該木質樹脂成形体に含有される熱可塑性樹脂と同系の熱可塑性樹脂を主体とする化粧シートを積層してなる床材を提案した(特許文献1参照)。
【0008】
この床材は、熱可塑性樹脂を主成分とするので耐水性や耐候性に優れ、物性的にも意匠的にも品質の安定した製品を安価に大量供給可能であり、切削や釘打ち等の加工性も木質系フローリング材と同等である。しかも、木質樹脂成形体と表面材である化粧シートの材質が同系であるため、使用後はそのまま粉砕して前記木質樹脂成形体の成形材料として再利用できるという、優れたリサイクル適性を備えたものである。
【0009】
さらに、本発明者らは、水系又は溶剤系接着剤による接着性や、天然木材に似た暖かい触感を与える断熱性、快い歩行感を与える弾力性等の改善を目的として、前記木質樹脂成形体を発泡させて得られる木質樹脂発泡成形体を基材として使用した床材をも、既に提案した(特許文献2参照)。
【0010】
さらに、我々は、環境へ与える負荷軽減を目的として、上記木質樹脂発泡成形体に用いる熱可塑性樹脂の、バイオマスプラスチックへの代替を検討してきた。つまり、いわゆる汎用樹脂である石油系樹脂を、植物由来のプラスチックであるバイオマスプラスチックに置き換えることで、天然由来の木質系充填剤とバイオマスプラスチックとをあわせた比率を高くすることを目的とした床材の検討を進めてきた。
【0011】
なかでも、とうもろこしなどから微生物を利用した発酵法により製造する、L−乳酸を原料とするポリ乳酸は、融点がおよそ170℃と高く、また、生産設備の整備による低コストでの生産により、石油系樹脂との価格差も縮まり、バイオマス原料として関心が高い材料である。
【0012】
しかしながら、前記熱可塑性樹脂としてポリ乳酸を用いた場合に、いくつかの問題点が確認された。ポリ乳酸の成形物の特徴として、非常に硬くて脆い点が挙げられる。我々が検討を進めていく床材としての仕様に関しては,落下物などによるへこみや割れに対する耐衝撃性が必要となり,ポリ乳酸単体で必要物性を得ることは困難である。また、コストやクッション性、取り回しの観点からポリ乳酸を発泡成形体とすることは必須条件である。しかしながら、ポリ乳酸の加水分解性のため、ポリ乳酸の発泡成形体作成に不具合が確認された。具体的には、重曹系発泡剤を用いた化学発泡において、ポリ乳酸の加水分解による不具合が確認された。
【特許文献1】特開2001−353815号公報
【特許文献2】特開2002−120347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、熱可塑性樹脂と木質系充填剤を含有する木質樹脂発泡成形体を有する床材において、バイオマス原料であるポリ乳酸系樹脂を熱可塑性樹脂として利用するときの、耐衝撃性の不足と加水分解性に起因する発泡成形の問題点の改善を図り、より環境負荷の小さい、バイオマス比率の高い床材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
熱可塑性樹脂および木質系充填剤を含有する木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体と化粧シートを有する床材において、前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸系樹脂であり、ポリ乳酸系樹脂の高分子末端は、カルボキシル基反応性末端封鎖剤で耐加水分解処理されたものであり、重曹−クエン酸系発泡剤により発泡成形されたことを特徴とする床材である。
【0015】
前記木質樹脂発泡成形体全体を100質量部としたときに、木質系充填剤とポリ乳酸系樹脂が合わせて30質量部以上、90質量部以下であることが好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂および木質系充填剤を含有する木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体と化粧シートを有する床材において、前記熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸系樹脂とを用い、ポリ乳酸系樹脂の高分子末端を、カルボキシル基反応性末端封鎖剤で耐加水分解処理したうえで、重曹−クエン酸系発泡剤を用いて発泡成形することを特徴とする床材の製造方法。
【0017】
前記カルボキシル基反応性末端封鎖剤として、エポキシ当量100〜2000g/eqのエポキシ基含有アクリル系重合体を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸系樹脂とを用いることで、床材におけるバイオマス比率を高めるとともに、床材として十分な耐衝撃性を付与することができる。また、ポリ乳酸系樹脂の高分子末端を、カルボキシル基反応性末端封鎖剤で耐加水分解処理したうえで、重曹−クエン酸系発泡剤を用いることにより良好な発泡成形体をもつ床材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明における床材の一実施形態例を示した断面図である。
床材の構成は、熱可塑性樹脂4と、木質系充填剤3との混合物を、発泡(内部に気泡2が存在)させつつ成形してなる木質樹脂発泡成形体5に、前記熱可塑性樹脂と同系の熱可塑性樹脂からなる化粧シート1が積層されてなるものである。
【0020】
本発明における熱可塑性樹脂4としては、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを組み合わせて用いる必要がある。
【0021】
一般的なポリ乳酸のガラス転移温度は約60℃であり、常温では非常に硬くて脆い材料である。床材として落下物などに対する耐衝撃性は重要な物性であり、ポリ乳酸単体による成形物を用いて床材としての必要な物性を得ることは難しい。そこで、耐衝撃性に優れた材料であるポリオレフィン系樹脂をポリ乳酸に組み合わせることで、ポリ乳酸の欠点である耐衝撃性を補うとともに、ポリ乳酸のもうひとつの欠点である、低い溶融粘度、伸張粘度に起因する成形性の悪さをも改良することが可能である。
【0022】
ポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいても構わない。他の共重合成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、テレフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、プロピオラクトンなどのラクトン類が挙げられる。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体や、これらを接着性の向上の目的で酸変性したもの、あるいはアイオノマー等から適宜選択が可能で、単一でも複数種の混合でも構わない。
【0024】
これらの中でも、床材として要求される剛性や表面硬度、寸法安定性などの面で、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂が最も適している。
【0025】
また、本発明において、重曹−クエン酸系発泡剤を用いることが特徴である。重曹−クエン酸系発泡剤による化学発泡は、物理発泡と比較して、ガス供給装置など設備的な増設が必要なく、また、マスターバッチ化した重曹−クエン酸系発泡剤などを用いることで、添加量(発泡倍率)の調整も容易であるなどのメリットをもつ。さらに、本発明における木質系充填剤との組み合わせにおいては、重曹−クエン酸系発泡剤の反応におけるアルカリ性の付与が、木質系充填剤を用いた際に発生する木酢ガス等による酸性物質を中和することにより,押出機スクリューやバレル、金型ダイ等の腐食を抑えるという重要なメリットをもっている。
【0026】
重曹−クエン酸系発泡剤とは、炭酸水素ナトリウムとクエン酸またはその塩を組み合わせた発泡剤を示す。クエン酸またはその塩としては、クエン酸、またはクエン酸と各種金属との塩、具体的にはクエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0027】
上記発泡剤を、発泡剤の分解温度以下で、ポリ乳酸またはポリオレフィン系樹脂とあらかじめ溶融混練しマスターバッチ化して用いることが、発泡倍率の調整や取り回しの点からも好ましい。
【0028】
本発明における、重曹−クエン酸系発泡剤を用いた発泡成形では、重曹(炭酸水素ナトリウム)が水を触媒とした反応により炭酸ナトリウムとなる第一次発泡と、炭酸水素ナトリウムとクエン酸との反応による第二次発泡との化学反応を利用している。一方、熱可塑性樹脂4に含まれるポリ乳酸は非常に加水分解性の高い材料であり、押出成形を行う際には十分な乾燥が必要である。したがって、発泡成形の反応時に生成される水分によるポリ乳酸の加水分解が問題となる。ポリ乳酸の加水分解による分子量低下により、成形物の機械物性が低下し、ポリ乳酸の溶融粘度が低下するとともに、加水分解により第一次発泡に必要な水分が消費されることにより、良好な発泡セルの形成が困難となる。また、ポリ乳酸の高分子末端であるカルボキシル基が存在することにより、ポリ乳酸の加水分解を促進する。
【0029】
そこで、本発明では、ポリ乳酸の末端カルボキシル基を、カルボキシル基反応性末端封鎖剤により処理することにより、ポリ乳酸の加水分解を防ぎ、発泡剤として重曹−クエン酸系発泡剤を使用することが可能となる。
【0030】
本発明で使用するカルボキシル基反応性末端封鎖剤としては、ポリマーのカルボキシル末端基を封鎖することのできる化合物であればよく、一般的なポリマーのカルボキシル末端の封鎖剤として用いられているものを用いることができる。
【0031】
本発明において、カルボキシル基反応性末端封鎖剤は、ポリ乳酸の末端カルボキシル基を封鎖するのみではなく、ポリ乳酸や木質系充填材の熱分解や加水分解などで生成する酸性低分子化合物のカルボキシル基も封鎖することができる。また、上記末端封鎖剤は、熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端も封鎖できる化合物であることが好ましい。
【0032】
このようなカルボキシル基反応性末端封鎖剤としては、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物などのエポキシ化合物、N、N´−ジ−2、6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2、6、2′、6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ポリカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物、2、2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2、2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物、オキサジン化合物から選ばれる少なくとも一種または二種以上の化合物を任意に選択して使用することができる。
【0033】
本発明においては、さらにカルボキシル基反応性末端封鎖剤の反応触媒を添加することが好ましい。ここで言う反応触媒とは、カルボキシル基反応性末端封鎖剤と、ポリ乳酸の末端カルボキシル基や酸性低分子化合物のカルボキシル基との反応を促進する化合物であり、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物第4級アンモニウム塩、リン酸エステル、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0034】
また、本発明では、前記カルボキシル基反応性末端封鎖剤が、エポキシ基含有アクリル系重合体であることが好ましい。これにより、より効果的にポリ乳酸の末端カルボキシル基を封鎖することができる。さらに、エポキシ当量100〜2000g/eqのエポキシ基含有アクリル系重合体であることで、ポリ乳酸の分子鎖長延長や分岐分子鎖付与が可能となり、これにともなう溶融粘度、伸張粘度の向上により、発泡成形性を改良することができる。
エポキシ当量が100g/eq未満であると、押出成形時や他成分との溶融混練時に起こる反応の制御が困難となる。また、エポキシ当量が2000g/eqを超えると、耐加水分解性の改善、ポリ乳酸の分子鎖延長や分岐分子鎖付与にともなう溶融粘度、伸張粘度の向上などを得られにくい。
【0035】
本発明でいうエポキシ基含有アクリル系重合体とは、アクリル酸グリシジル、および/または、メタクリル酸グリシジルと、アクリル酸系単量体との共重合体、もしくは、アクリル酸グリシジル、および/または、メタクリル酸グリシジルと、アクリル酸系単量体と、他重合性二重結合を含む単量体との共重合体を示す。
【0036】
上記アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、などの(メタ)アクリル酸エステルや、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール基をもつ(メタ)アクリル酸エステルや、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸およびこれらの塩や、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸、これらの酸無水物およびこれらの塩や、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジn−ブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジt−ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジn−ブチル、フマル酸メチルエチル、フマル酸メチル−n−ブチル、イタコン酸メチルエチル、イタコン酸エチル−t−ブチル等のジカルボン酸エステル等が挙げられる。
【0037】
上記他重合性二重結合を含む単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン誘導体や、メチルビニルケトン、n−ブチルビニルケトンなどの不飽和ケトンや、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステルや、メチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテルや、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデン等のシアン化ビニルや、アクリルアミドやそのアルキル置換アミドや、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸やこれらの塩や、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−マレイミドなどのビニル化合物等を挙げられる。
【0038】
本発明では、木質樹脂発泡成形体5において、発泡成形体全体を100質量部としたときに、バイオマス原料である木質系充填剤3とポリ乳酸系樹脂が合わせて30質量部以上、90質量部以下であることが好ましい。バイオマス比率が下がると、具体的には、木質系充填剤3とポリ乳酸系樹脂が合わせて30質量部未満であると、本発明の環境負荷の少ない床材としての特徴が薄れてしまう。一方、バイオマス比率が上がると、具体的には、90質量部以上では、石油系原料の低比率により、必要な耐衝撃性を満たした床材の製造が困難である。
【0039】
本発明に用いられる、木質系充填剤3の平均粒径は、1〜200μmが好ましく、10〜150μmがより好ましい。平均粒径が1μm未満のものは取り扱いが困難であるうえに、特に木質系充填剤の配合量が多い場合は、樹脂への分散が悪く、木質樹脂発泡成形体5の機械強度が低下する。また、200μmより大きいと、成形品の均質性、平面性、機械的強度が低下する。
【0040】
また、木質系充填剤3の配合量については、熱可塑性樹脂4の100質量部に対して、10質量部から300質量部まで適宜選択が可能であるが、成形性、均質性や安定性を高めるために、木質系充填剤3は、熱可塑性樹脂4の100質量部に対して20〜200質量部、より好ましくは30〜150質量部の配合量とすることが望ましい。木質系充填剤3の配合量が多すぎると、床材の曲げ弾性率が上がり、しなやかさが失われるために、施工性が悪化したり(特に、隅部への施工時や一枚交換時に、床材を撓ませて施工することが難しくなる)、曲げた時に割れ易くなる。一方、木質系充填剤3の配合量が少なすぎると、線膨張係数が大きくなり、寸法安定性が低下するために、温度変化によって、床材同士の間の目隙きや、床材同士の突き上げによる浮き等を発生したりする原因となる。
【0041】
本発明において、木質樹脂発泡成形体5の成形のための、前記熱可塑性樹脂4と木質系充填剤3と重曹−クエン酸系発泡剤で構成される発泡性木質樹脂組成物には、必要に応じて熱安定剤、酸中和剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料などの着色剤、充填剤、帯電防止剤、滑剤、結晶核剤、難燃剤、ブロッキング防止剤、脱水剤、半透明化のための光散乱剤、艶調整剤等を添加することもできる。
【0042】
これらの添加剤のうち熱安定剤としてはヒンダードフェノール系、硫黄系、リン系等、酸中和剤としてはステアリン酸金属塩、ハイドロタルサイト等、紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等があり、光安定剤としてはヒンダードアミン系等がある。
【0043】
難燃剤としてはハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、塩素系難燃剤等があり、充填剤としては炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、アルミナ、タルク、マイカ、珪酸マグネシウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化鉄、カーボンブラック、金属粉等がある。
【0044】
滑剤としては炭化水素系滑剤、脂肪酸、高級アルコール系、脂肪酸アマイド系、金属石鹸系、エステル系、フッ素系等が、顔料としては縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母等のパール顔料等があり、これらの添加剤を任意の組み合わせで用いるのが一般的である。
【0045】
結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として使用されているもの、タルク、クレー、ゼオライトなどの無機系結晶核剤や、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸カルシウムなどの有機カルボン酸金属塩やソルビトール系などを用いることができる。
【0046】
本発明において、木質樹脂発泡成形体5を成形するための木質樹脂組成物には、前記熱可塑性樹脂4と木質系充填剤3と重曹−クエン酸系発泡剤が添加されて、成形過程において発泡される。
【0047】
本発明において、木質樹脂発泡成形体5の成形としては通常の異形押出法を用いることができる。なかでも、連続的かつ安定的に発泡成形可能はセルカ成形法が好ましい。
【0048】
本発明において、木質樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂4、木質系充填剤3、カルボキシル基反応性末端封鎖剤、およびその他の添加剤の混練については、特に方法を問わないが、バンバリーミキサーによって混練し、ペレタイザーでペレット化する方法や、2軸押出混練機によって混合、ペレット化する方法などが一般的である。また、木質系充填剤3は、含水率が大きいと、ペレタイズ時に発泡の原因となるために、混練前に予め乾燥機やホッパードライヤーで含水率を8%以下に抑えることが望ましい。
【0049】
本発明の床材は、木質樹脂発泡成形体5の表面に、熱可塑性樹脂4と同系の熱可塑性樹脂を主体とする化粧シート1を積層することが好ましい。前記同系の熱可塑性樹脂、具体的にはポリ乳酸とポリオレフィン系樹脂とすることで、リサイクル処理時に混合しても大きな物性変化を伴わずにリサイクルが可能となる。
【0050】
積層される化粧シート1について重要な点は、上記した通り主に木質樹脂発泡成形体5に含有される熱可塑性樹脂4と同系の熱可塑性樹脂を用いることと、木目、石目、布目、抽象柄などの意匠の印刷が施されていることで、化粧シート自体の構成については何ら制約を受けるものではない。
【0051】
この化粧シート1は、例えば着色シートに印刷を施した単層化粧シート、着色シートに印刷を施したシートに、透明シートをドライラミネート法、エクストルージョンラミネート法、熱ラミネート法などによって貼り合わせた複数の層からなる化粧シートや、透明シートの裏面に印刷を施したバック刷りの単層の化粧シートなどから用途に応じて適宜選択が可能である。
【0052】
化粧シート1の厚さは特に問わないが、0.05〜0.3mm程度の範囲内とされるのが通例である。化粧シート1と木質樹脂発泡成形体5との積層方法は特別な方法は必要なく、例えば接着剤を介したドライラミネート法又はウェットラミネート法や、接着剤を介した又は介さない熱ラミネート法、超音波融着法や高周波融着法、木質樹脂発泡成形体5の発泡押出成形と同時に冷却サイジング金型内に化粧シート1を導入して貼り合わせる成形同時ラミネート法等、従来公知の方法を任意に用いることができる。
【0053】
本発明では、熱可塑性樹脂4としてポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸系樹脂とを用いることで、床材におけるバイオマス比率を高めるとともに、床材として十分な耐衝撃性を付与することができる。
【0054】
本発明では、熱可塑性樹脂4として用いるポリ乳酸系樹脂の高分子末端が、カルボキシル基反応性末端封鎖剤により耐加水分解処理をしたうえで、前記重曹−クエン酸系発泡剤を用いた際に、良好な発泡成形体を得ることができる。
【0055】
本発明では、前記カルボキシル基反応性末端封鎖剤が、エポキシ当量100〜2000g/eqのエポキシ基含有アクリル系重合体であることにより、より効果的にポリ乳酸の末端カルボキシル基を封鎖することができるとともに、ポリ乳酸の分子鎖長延長や分岐分子鎖付与が可能となり、これにともなう溶融粘度、伸張粘度の向上により、さらに発泡成形性を改良することができる。
【0056】
本発明では、木質樹脂発泡成形体において、発泡成形体全体を100質量部としたときに、バイオマス原料である木質系充填剤とポリ乳酸系樹脂が合わせて30質量部以上、90質量部以下であるような、環境負荷の小さいバイオ比率の高い床材を提供する。
【実施例1】
【0057】
熱可塑性樹脂としてポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)、ホモポリプロピレン樹脂(プライムポリマー:E200GV)を重量比50:50で配合した熱可塑性樹脂100質量部と、木質系充填剤として木材をカッターミルで破断し、これをボールミルにより粉砕して微粉状にした平均粒径100μmの木質系充填材50質量部と、エポキシ基含有アクリル重合体(日本油脂:ブレンマーCP−15(エポキシ当量1000g/eq))3質量部とを2軸押出混練機によって混合し、ペレット化して、木質樹脂組成物を作製した。この木質樹脂組成物100質量部に対して、重曹−クエン酸系発泡剤を2質量部添加し、1軸押出機により押出成形を実施した。最終形状としては幅200mm、厚さ6mmの断面長方形状に成形し、発泡倍率1.4倍の木質樹脂発泡成形体を作製した。
【実施例2】
【0058】
熱可塑性樹脂としてポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)、ホモポリプロピレン樹脂(プライムポリマー:E200GV)を重量比50:50で配合した熱可塑性樹脂100質量部と、木質系充填剤として木材をカッターミルで破断し、これをボールミルにより粉砕して微粉状にした平均粒径100μmの木質系充填材50質量部と、ポリカルボジミイド化合物(日清紡:カルボジライトHMV−8CA)とを2軸押出混練機によって混合し、ペレット化して、木質樹脂組成物を作製した。この木質樹脂組成物100質量部に対して、重曹−クエン酸系発泡剤を4質量部添加し、1軸押出機により押出成形を実施した。最終形状としては幅200mm、厚さ6mmの断面長方形状に成形し、発泡倍率1.3倍の木質樹脂発泡成形体を作製した。
【0059】
<比較例1>
前記実施例1において、カルボキシル基反応性末端封鎖剤であるエポキシ基含有アクリル重合体を添加しない以外は、実施例1と同一の要領にて木質樹脂発泡成形体を作製した。
【0060】
<比較例2>
前記実施例1において、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂のみを用い、カルボキシル基反応性末端封鎖剤であるエポキシ基含有アクリル重合体を添加しない以外は、実施例1と同一の要領にて木質樹脂発泡成形体を作製した。
【0061】
<性能比較>
実施例1、2および比較例2においては、重曹−クエン酸系発泡剤を用いて良好な木質樹脂発泡成形体を得ることができた。しかしながら、カルボキシル基反応性末端封鎖剤を使用していない比較例1では発泡剤添加量を調整しても、良好な発泡成形体を得ることが不可能であった。また、実施例1と2を比較すると、エポキシ基含有アクリル重合体を用いた実施例1のほうが発泡成形性にすぐれるという結果であった。また、実施例1、2で作成したバイオマスを含んだ木質樹脂発泡成形体と、比較例2で作成した石油系原料であるポリプロピレン樹脂のみからなる木質樹脂発泡成形体の耐衝撃強度を測定、比較したところ、ほぼ同程度であった。したがって、本発明により環境負荷が小さく、かつ、必要な耐衝撃強度を有する床材を成形できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の床材の一実施例の断面図である
【符号の説明】
【0063】
1…化粧シート
2…気泡
3…木質充填剤
4…熱可塑性樹脂
5…木質樹脂発泡成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および木質系充填剤を含有する木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体と化粧シートを有する床材において、前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸系樹脂であり、ポリ乳酸系樹脂の高分子末端は、カルボキシル基反応性末端封鎖剤で耐加水分解処理されたものであり、重曹−クエン酸系発泡剤により発泡成形されたことを特徴とする床材。
【請求項2】
前記木質樹脂発泡成形体全体を100質量部としたときに、木質系充填剤とポリ乳酸系樹脂が合わせて30質量部以上、90質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の床材。
【請求項3】
熱可塑性樹脂および木質系充填剤を含有する木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体と化粧シートを有する床材において、前記熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸系樹脂とを用い、ポリ乳酸系樹脂の高分子末端を、カルボキシル基反応性末端封鎖剤で耐加水分解処理したうえで、重曹−クエン酸系発泡剤を用いて発泡成形することを特徴とする床材の製造方法。
【請求項4】
前記カルボキシル基反応性末端封鎖剤として、エポキシ当量100〜2000g/eqのエポキシ基含有アクリル系重合体を用いることを特徴とする請求項3に記載の床材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−75367(P2008−75367A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257060(P2006−257060)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】