説明

床版の補強構造及び床版の補強方法

【課題】床版をより強固に補強する。
【解決手段】貫通孔120の中にコンクリートSが充填され固化することによって形成される第一突出部220によって、増厚部210と床版12との間でせん断力が伝達される。言い換えると、貫通孔120に形成された第一突出部220が、貫通孔120の孔断面積分のせん断伝達の機能を果たす。これにより増厚部210(補強部200)と床版12とがより強固に一体化される。よって、補強部200が第一突出部220を有しない構成と比較し、床版12がより強固に補強される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床版の補強構造及び床版の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート製の既設床版を補強する方法として、床面を上面から補強する上面補強工法と床面を下面から補強する下面補強工法とが知られている。
【0003】
例えば、床面を上面から補強する上面補強工法として、固化材により形成されている既設床の表層を除去すると共に、その除去部分に新規表層を形成することにより、既設床の改修を行う既設床の改修工法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、例えば、床面を下面から補強する下面補強工法として、既設コンクリート床版の補強を必要とする部分のコンクリートを、補強箇所の少なくとも両端部分を鉄筋の裏側まで除去し、鉄筋を露出させ、露出した鉄筋に連結金具で補強鉄筋を結合し、この補強部分に短繊維補強モルタル又はコンクリートを吹き付けて増厚する鉄筋コンクリート床版の下面増厚補強工法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−250137号公報
【特許文献2】特開2002−167977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、床版をより強固に補強する補強構造、又は施工性の良い補強方法が望まれている。
【0007】
本発明は、上記を鑑み、床版をより強固に補強する床版の補強構造、又は施工性の良い床版の補強方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、構造物を構成する床版と、前記床版を貫通する貫通孔と、前記床版の下面に形成された増厚部と、前記増厚部から前記貫通孔の中に入り込む突出部と、を有する補強部と、を備える。
【0009】
したがって、床版の下面に形成された増厚部から貫通孔に入り込む突出部によって、増厚部と床版との間でせん断力が伝達される。よって、床版を補強する補強部が突出部を有しない構成と比較し、床版がより強固に補強される。
【0010】
請求項2の発明は、前記床版の上面における前記構造物を構成する梁又は壁との接合部又はその近傍には、梁又は壁に沿って溝部が形成されている。
【0011】
したがって、溝部によって床版の端部の固定度が低下するので、床版における接合部の負担が低減する。
【0012】
請求項3の発明は、構造物を構成する床版に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、前記床版の下側に型枠を配置する型枠設置工程と、前記床版の前記貫通孔から充填材を前記床版の下面と前記型枠との間の空間及び前記貫通孔の中に充填し固化させることによって、前記床版の下面に形成させた増厚部と前記増厚部から前記貫通孔の中に入り込む突出部とを有する補強部を形成する補強部形成工程と、を備える。
【0013】
したがって、床版の上面側から貫通孔を介して充填材を充填して床版の下面に補強部を形成するので、床版の下面側から施工する構成と比較し、施工性がよい。また、貫通孔の中に充填され固化することによって形成される突出部によって、増厚部と床版との間でせん断力が伝達される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、床版に貫通孔を形成しない構成と比較し、床版をより強固に補強、又は施工性を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る床版の補強構造が適用された床版を示す上側から見た平面図である。
【図2】図1の2−2線に沿った断面を示す断面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った断面を示す断面図である。
【図4】床版を補強する工程を、(A)〜(C)に順番に示す工程図である。
【図5】本発明の実施形態に係る床版の補強構造が適用された床版の第一のバリエーションを示す図2に対応する断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る床版の補強構造が適用された床版の第二のバリエーションを示す図3に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<床版の補強構造>
本発明の実施形態に係る床版の補強構造について、図1〜図3を用いて説明する。
【0017】
図1〜図3に示すように、本実施形態にける鉄筋コンクリート造の構造物10は、床版12、壁14、16等で構成されている。そして、図2と図3とに示すように、構造物10の上階と下階の間にある構造床である鉄筋コンクリート造の床版12に本発明の実施形態の床版の補強構造が適用され補強されている。
【0018】
床版12の下面12Aの下側には型枠110が設けられている。本実施形態では、型枠110は波形鋼板で構成されている。なお、鉛直方向をZ方向とし、波形鋼板の波形方向をX方向とし、X方向とZ方向とに直交する方向をY方向とする。なお、Y方向は、波形の稜線方向と一致する。また、図1の一点破線Tは、図2に示すように、波形の山部分の稜線を表している。
【0019】
波形鋼板で構成された型枠110の上側凹状の凹部112に対応する床版12には、上下方向に貫通する貫通孔120が形成されている。
【0020】
図1に示すように、本実施形態においては、凹部112毎に貫通孔120が形成されると共に、Y方向に一定の間隔をあけて複数形成されている。
【0021】
また、壁16における床版12との接合部位の近傍には、水平方向に貫通する横孔122が形成されている。
【0022】
そして、図2と図3とに示すように、波形鋼板で構成された型枠110の凹部112(型枠110と床版12の下面12Aとの間の空間)、床版12に形成された貫通孔120、及び壁16に形成された横孔122に、それぞれコンクリートSが充填され固化することによって補強部200が形成されている。
【0023】
よって、補強部200は、床版12の下面12A(型枠110の凹部112)に形成された増厚部210と、増厚部210から貫通孔120に入り込む(貫通孔120に延出する)第一突出部220と、増厚部210から横孔122に入り込む(横孔122に延出する)第二突出部222(図3参照)と、を有している。
【0024】
また、本実施形態においては、第一突出部220の上面220Bと床版12の上面12Bとは略同一面とされている。
【0025】
なお、第一突出部220の上面220Bが床版12の上面12Bよりも下側、つまり貫通孔120の部分が凹状となった構成であってもよい。或いは、第一突出部220の上面220Bが床版12の上面12Bから突出した構成であってもよい。
【0026】
また、本実施形態においては、図1と図3とに示すように、補強部200の増厚部210の中に、Y方向に沿って複数の鉄筋230が配筋されている。鉄筋230の端部230Aは、壁16に形成された横孔122に延出する第二突出部222の中に配筋されている。
【0027】
また、図1と図2とに示すように、床版12の上面12Bにおける壁16の接合部(端部)の近傍には、壁16に沿って(X方向に沿って)、溝部50が形成されている。
【0028】
<床版の補強方法>
つぎに、本発明の実施形態に係る床版の補強方法(施工方法)について、図4を用いて説明する。
【0029】
図4(A)と図4(B)とに示すように、構造物10を構成する床版12に貫通孔120を形成する(コア抜きを行う)。更に、壁16に横孔122を形成する(図1と図3を参照)。また、床版12の上面12Bにおける壁16との接合部の近傍に、壁16に沿って(X方向に沿って)、溝部50形成する(図1と図3とを参照)。
【0030】
つぎに、図4(C)に示すように、鉄筋230を先組みした型枠110を床版12の下側に設置する。
【0031】
なお、波形鋼板で構成された型枠110の凹部112と貫通孔120とが一致するように貫通孔120の形成位置と型枠110の設置位置を予め調整する。
【0032】
型枠110は、支保工等で仮固定する。なお、型枠110の仮固定の方法はどのような方法であってもよい。例えば、壁14や壁16に治具等で仮固定してもよい。
【0033】
図4(D)に示すように、床版12の上面12B側から、貫通孔120からコンクリートSを打設し、床版12の下面12Aと型枠110との間の空間(型枠110の凹部112)、貫通孔120、及び横孔122(図1、図3を参照)の中に、コンクリートSを充填する。
【0034】
充填したコンクリートSが固化することによって、鉄筋230が配筋された増厚部210、第一突出部220、及び第二突出部222(図3を参照)を有する補強部200が形成される。
【0035】
なお、上記補強方法(施工方法)は一例であって、他の補強方法(施工方法)で補強(施工)してもよい。
【0036】
例えば、型枠110を設置したのち、貫通孔120を形成してもよい。この場合、貫通孔120をあける際に発生するコンクリート片等が型枠110の上に落ちる。よって、コンクリート片等が補強部200(増厚部210)に混入されるが、混入されても強度的に問題がなければ、この順番の工程であってもよい。なお、この順番の工程の場合、上述したように貫通孔120をあける際に発生するコンクリート片等が型枠110の上に落ちるので、下階のフロア(床)の汚れを防止又は低減することができる。
【0037】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0038】
本実施形態では、床版12の上面12B側から貫通孔120を介してコンクリートSを打設して、床版12の下面12Aに補強部200を形成するので、床版12の下面12A側から増打ち補強を行な方法と比較し、施工性がよい。
【0039】
このように、既存の床版12に補強部200を形成、すなわち下側増打ち補強を行うことで、床版12の耐力及び剛性が向上する。
【0040】
また、貫通孔120の中にコンクリートSが充填され固化することによって形成される第一突出部220によって、増厚部210と床版12との間で、水平方向のせん断力が伝達される。言い換えると、貫通孔120に形成された第一突出部220が、貫通孔120の孔断面積分のせん断伝達の機能を果たす。これにより増厚部210(補強部200)と床版12とがより強固に一体化される。よって、補強部200が第一突出部220を有しない構成と比較し、床版12がより強固に補強される。
【0041】
なお、別の観点から説明すると、床版12に形成された貫通孔120は、床版12の上面12B側から床版12の下面12A側に補強部200(増厚部210)を形成するためのコンクリートSの打設用(充填用)の孔とシアコッターとを兼ねる。
【0042】
また、本実施形態においては、壁16に形成された横孔122に入り込む第二突出部222を形成することで、壁16にも水平方向のせん断力が伝達される。更に、補強部200(床版12)にかかる荷重は第二突出部22を介して壁16に伝達される。よって、補強部200が第二突出部222を有しない構成と比較し、床版12がより強固に補強される。
【0043】
更に、本実施形態では、鉄筋230の強度や本数を調整することによって、補強部200(増厚部210)の剛性を容易に調整することができる。
【0044】
また、床版12の上面12Bにおける壁16との接合部(端部)の近傍に壁16に沿って(X方向に沿って)、溝部50を形成することによって、床版12における壁16との接合部(端部)の固定度が低下する。これにより、床版12における壁16との接合部(端部)の負担が低減すると共に、床版12の下面12Aに形成された補強部200がモーメントを負担する。
【0045】
なお、本実施形態では、型枠110を撤去していない。そして、型枠110を強度部材(補強部材)として機能させることで、型枠110を撤去した場合と比較し、床版12の耐力及び剛性が向上する。更に、型枠110に波形鋼板を用いることで、例えば、型枠に平板を用いた構成と比較し、コンクリートSの容積を少なくすることがきると共に、波形形状がリブとなって効果的に床版12の耐力及び剛性を向上することができる。
【0046】
また、型枠110と補強部200(増厚部210)とをより一体化させるために、補強部200(増厚部210)に埋設する突起部(例えばスタッド)を型枠110に設けてもよい。
【0047】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態及びバリエーションに限定されない。
【0048】
例えば、上記実施形態では、床版12の略全面を補強部200で補強したが、これに限定されない。床版12の一部に補強部を形成し、床版12の一部のみを補強した構成であってもよい。
【0049】
また、例えば、図5に示す第一のバリエーションのように、型枠110の下面110Aを反射塗料等で鏡面仕上げとしてもよい。そして、南側の窓310や開口部に反射庇320を設け、反射庇320で反射した太陽光Lを、型枠110の下面110Aで、室内に向け反射・分散させるようにしてもよい。
【0050】
なお、上記実施形態のように既存の床版12の補強改修とする目的として、緑化、IT化や集積化に伴う情報機器等の重荷重対応が考えられる。
【0051】
また、例えば、図6に示す第二のバリエーションのように、床版12の上面12Bの上に、植物を栽培可能な土400や固形培地等を敷いて緑化する場合、充填材として連続空隙硬化体、例えば、透水性コンクリートSSを使用し、本実施形態のように型枠110に遮水性の高い材料を使用することで、土400に散水した水が第一突出部220を介して排水されると共に、増厚部210に保水することができる。
【0052】
また、図6に示すように型枠110を斜めに配置したり、型枠110の中央部にむくり(図示略)を形成したりすることで、図中の二点破線の矢印Mで示すように、型枠110の端部110Tから壁16を伝って排水させることができる。更に、壁16の壁面を緑化する場合に、上述した壁16を伝う排水を用いることができる。
【0053】
また、図6に示すように緑化に適用する場合、図5に示す第一のバリエーションを適用し、太陽光Lを室内に向け反射・分散させる構成とすることは、太陽光Lを十分に当てた方が良い植物栽培では好適とされる。
【0054】
また、上記本実施形態では、型枠110として波形鋼板を用いたが、これに限定されない。例えば、平板の鋼板であってもよい。或いは、樹脂製や木製の型枠であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、型枠110を撤去せずに強度部材として利用したが、これに限定されない。コンクリートS又は透水性コンクリートSSが固化した後で、型枠110を撤去してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、鉄筋230は一方向に沿って配置していたが、これに限定されない。例えば、平面視格子状に鉄筋を配置してもよい。或いは、上下方向にも鉄筋を配筋してもよい。なお、上下方向に鉄筋を配筋する場合は、鉄筋の端部が床版12に形成された貫通孔120に延出する第一突出部220の中に配筋してもよい。
【0057】
なお、補強部の中に鉄筋が配置されていない構成であってもよい。或いは、鉄筋以外の、例えば、PC鋼線等を配筋した構成であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、充填材としてコンクリートS又は透水性コンクリートSSを用いたが、これに限定されない。例えば、繊維補強コンクリートやモルタルを充填材として用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、壁16を貫通する横孔122をあけて第二突出部222を形成したが、これに限定されない。壁16に凹部を形成し、この凹部に充填材が充填され第二突出部が形成された構成であってもよい。つまり、第二突出部222が壁16を貫通していない構成であってよい。或いは、第二突出部222が形成されていない構成であってもよい。
【0060】
また、既存の構造物10は、鉄筋コンクリート造であったが、これに限定されない。例えば、鉄骨鉄筋コンクリート造の構造物であってもよい。
【0061】
また、本発明は既存の構造物10の既存の床版12の補強改修以外にも適用できる。つまり、構造物を新築する際の床版にも本発明を適用することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、上階と下階の間にある構造床(床スラブ)である床版12に本発明を適用したが、これに限定されない。例えば、橋や高架道路を構成する床版にも本発明を適用することができる。
【0063】
また、上記実施形態及びバリエーションが適宜組み合わされて実施することも可能である。
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
10 構造物
12 床版
16 壁
50 溝部
110 型枠
120 貫通孔
200 補強部
210 増厚部
220 第一突出部(突出部)
S コンクリート(充填材)
SS 透水性コンクリート(充填材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を構成する床版と、
前記床版を貫通する貫通孔と、
前記床版の下面に形成された増厚部と、前記増厚部から前記貫通孔の中に入り込む突出部と、を有する補強部と、
を備える床版の補強構造。
【請求項2】
前記床版の上面における前記構造物を構成する梁又は壁との接合部又はその近傍には、梁又は壁に沿って溝部が形成されている請求項1に記載の床版の補強構造。
【請求項3】
構造物を構成する床版に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記床版の下側に型枠を配置する型枠設置工程と、
前記床版の前記貫通孔から充填材を前記床版の下面と前記型枠との間の空間及び前記貫通孔の中に充填し固化させることによって、前記床版の下面に形成させた増厚部と前記増厚部から前記貫通孔の中に入り込む突出部とを有する補強部を形成する補強部形成工程と、
を備える床版の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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