説明

床面沿いに可動な装置の位置を検出するローカライゼーションシステム

本発明に係るローカライゼーションシステムは、床面沿いに可動な装置の状態を検出するためのものであり、複数個のフロア送受信機を有し、そのフロア送受信機がそれぞれ床面沿い位置の点状標識となるフロアアンテナを有するフロア送受信システムと、当該可動な装置に装着され、床面を向く送受信面を有し、且つフロアアンテナのうち複数個の位置をその送受信面で同時的且つ連続的に検出する送受信タブレットと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面沿いに可動な装置、特に可動な産業用ロボットやカメラロボットの状態を検出するローカライゼーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
映画やテレビジョン番組の制作に際し、俳優、ニュースキャスタ等を初めとする人物の背景にバーチャル画像が使用されることがある。なかでもよく知られているのはブルースクリーン法やグリーンスクリーン法である。そのバーチャル画像を事後的に実画像と整合させ視角を揃えるには、スタジオカメラでの撮影時に、そのカメラの焦点位置及び撮影方向(空間的姿勢)を精密に記録しておく必要がある。
【0003】
そのため、スタジオ内照明システムに連続発光型の受動符号標識を幾つか組み込み、それをスタジオカメラ上の小型追尾カメラで連続撮影するのが普通である。個々の標識に識別用の円環状バーコードが付され、狭帯域LED及び反射素材が適宜使用されているので、通常のスタジオ内照明環境であれば常に所要個数以上の標識を捉えることができる。即ち、追尾カメラから得られる画像の処理で、スタジオカメラの位置及び姿勢を検出することができる。標識の位置が既知であるので、スタジオカメラの位置及び姿勢を精密に検出することができる。この位置検出原理による商品としてはRADAMEC Broadcast Robotics社のfree−D system等がある。
【0004】
MGS社がblue.i Studio Navigatorなる商品名で販売しているローカライゼーションシステムもある。このシステムでは、ロータリエンコーダ付のサーボ軸を複数本有するカメラを使用し、それらの軸の回転位置を監視することで、そのカメラの位置及び姿勢を随時検出する。更に、そのカメラは可動なカメラ用フレームに実装され、その床にディジタル符号化パターンが付された特殊なスタジオ内で使用される。従って、そのスタジオの床上でカメラ用フレームを移動させつつ、そのフレーム上のカメラでディジタル符号化パターンを読み取ることで、そのスタジオの床面に沿った位置及び相対姿勢を検出することができる。但し、床面を無塵状態にしておかないと、床面上のパターンを精密に読み取ることができない。
【0005】
更に、ローカライゼーションシステムとしては、輸送車両や自走式真空清掃車両の姿勢を制御するため倉庫の床やカーペットにRF−ID送信機を組み込む一方、そのRF−ID送信機の床面沿い位置を検出するため及び相応の移動指令乃至姿勢制御信号を受信するためのRF−IDアンテナを車両側に設けたものが知られている。RF−ID送信機の床面沿い位置が容易に求まるようにするには車両側のRF−IDアンテナを大きくすればよいが、大きなRF−IDアンテナを使用すると床面沿い位置の検出精度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−135641号公報(A)
【特許文献2】独国特許出願公開第10342767号明細書(A1)
【特許文献3】国際公開第08/092471号パンフレット(A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここに、本発明は、床面沿いに可動な装置の状態を検出するローカライゼーションシステム、特にその位置検出精度が高く且つ保守がほとんど必要ないものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、請求項1記載のローカライゼーションシステムを提案する。請求項2以降に記載したのは本発明の改良的乃至発展的な実施形態である。
【0009】
本発明により実現されるのは、床面沿いに可動な装置の状態を検出するローカライゼーションシステムである。このシステムは、フロア送受信システム及び送受信タブレットを備える。フロア送受信システムは複数個のフロア送受信機を有し、個々のフロア送受信機が床面沿い位置の点状標識となるフロアアンテナを有する。送受信タブレットは、当該可動な装置に装着され、床面を向く送受信面を有し、且つフロアアンテナのうち複数個の位置をその送受信面で同時的且つ連続的に検出する。なお、可動な装置の状態とは、その装置の位置及び姿勢(床面に沿った向き)のことである。
【発明の効果】
【0010】
こうして実現されるローカライゼーションシステムは、例えば、準点状アンテナが蜂巣配置等に従い所定間隔で組み込まれた床の表面に沿い、可動な装置上に装着された一種の平板状アンテナが移動し、その平板状アンテナで準点状アンテナの位置を検出する構成となる。その平板状アンテナは、受信動作を通じ、床に組み込まれている準点状アンテナのうち複数個の位置をmmオーダという高い精度で同時的に検出し、その結果に基づき自分、ひいては装着先装置の位置及び姿勢を検出する。この構成では、個々のフロアアンテナとして誘導ベースで作動するものを使用するのが望ましい。そうすれば、外部電源からフロアアンテナへの給電を不要にすることができる。
【0011】
フロア送受信機は、例えば、その捲回軸が床面に対しほぼ垂直でフロアアンテナとして機能するコイルと、そのコイルとの電気的接続を介し送受信タブレットとRF通信する電子回路基板と、を有する。この構成では、床に設置したフロアアンテナが好適な準点状となり、床面沿い位置を示す点状標識を好適に提供することができる。
【0012】
電子回路基板は、例えば、送受信タブレットとのRF通信により、送受信タブレットに位置識別子を送信する。この構成では、可動な装置の位置及び姿勢を、その初期位置を設定することなく直ちに検出することができる。
【0013】
フロア送受信機のコイルは、例えばその直径が5mm未満、好ましくは2mm未満のコイルである。この構成では、床へのフロア送受信機組込を簡便に行うことができる。既設の床にドリルで孔を形成し、そのなかにフロア送受信機のコイルを(電子回路基板と共に)収めることもできる。送受信タブレットから給電されるため、フロア送受信機に配線する必要がないからである。
【0014】
フロア送受信システムは、例えば、その背面に盲孔があるものを含めフロアパネルを複数枚有する。その盲孔内には、コイル端から床面までの距離が15mm未満、好ましくは10mm未満、更に好ましくは5mm未満になるよう、フロア送受信機のコイルそれぞれを実装する。この構成では、フロア送受信システムの設置やフロア送受信機不調時の保守をより簡便に行うことができる。
【0015】
この構成では、フロアパネルを例えば石膏繊維製とし、盲孔を例えばドリル加工で形成する。
【0016】
フロア送受信機のコイルは、例えば、巻き取り可能床材に組み込まれた平板状コイルとする。この構成では、その床材を簡便に輸送できるため、本発明に係るローカライゼーションシステムを持ち運んで使用することができる。その平板状コイルの直径は、50〜150mmの範囲内で定めるのが望ましい。
【0017】
送受信タブレットの送受信面から床面までの平均距離は、例えば15mm未満、好ましくは10mm未満、更に好ましくは5mm未満とする。この構成では、可動な装置のなかでもテレビジョンスタジオ用スタジオカメラ等に適する精密なローカライゼーションシステムが得られる。
【0018】
送受信タブレットは、例えば、自タブレットの送受信面から床面までの距離を所定距離に保つスペーサ要素を有する。
【0019】
スペーサ要素は例えばプラスチック製とする。この構成では、摩耗したスペーサ要素を容易に交換することができる。
【0020】
送受信タブレットは、例えば、フロア送受信機のフロアアンテナの位置をいちどきに1個ずつ検出可能な要素タブレットを複数個有する。フロア送受信機のフロアアンテナは、例えば、移動中の送受信タブレットに備わる要素タブレットのうち受信動作中のもので、フロアアンテナのうちいずれかを捉えることができるよう、床面に配置する。この構成では、フロアアンテナの位置検出に関わるプログラミング費用を最小限に留め、本発明をより簡便に実施することができる。特に、送受信タブレットに要素タブレットが複数個備わる点が有益である。
【0021】
本発明に係るローカライゼーションシステムを映画スタジオで使用する場合、上掲の可動な装置としては例えば可動カメラロボット又は産業用ロボットを使用する。無論、当該可動な装置としてカメラスタンドを使用することもできる。
【0022】
本発明に係るローカライゼーションシステムは、可動な産業用ロボットやカメラロボットと併用可能であり、またそれはとりわけ有益なことである。例えば、ハンドやカメラを有するロボットの移動先が大まかに指定されているとする。また、そのロボットの可動スタンドに組み込まれている駆動システムを用い、その可動スタンドをその移動先まで床面沿いに移動させたとする。この場合、その駆動システムを用い移動させた後の可動スタンドの位置は、移動先の指定がそもそも大まかであるため若干不正確となるが、この不正確さの影響は容易に打ち消すことができる。それは、本システムにて、床面沿い位置をmmオーダの精度で検出することができるからである。その結果に基づき、ロボット機構、例えばロボットアームをmmオーダの精度で動かすことができるので、移動先指定の不正確さが原因でそのロボットの可動スタンドの位置が不正確になった分を、その機構の動きで補うことができる。こうしてローカライゼーションシステムをロボット機構と連携させることで、そのハンドや撮影用カメラをmmオーダの精度で空間移動させることが可能な可動ロボットを実現することができる。
【0023】
そして、上掲の可動な装置として、可動エアクッションシステム付の産業用ロボット又はカメラロボットを使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明における送受信タブレットの一例構成を示す概略模式図である。
【図2】本発明における送受信タブレットの別例構成を示す概略模式図である。
【図3A】本発明におけるフロア送受信システム側フロアパネルの一例構成を示す概略上面図である。
【図3B】本発明におけるフロア送受信システム側フロアパネルの一例構成を示す概略背面図である。
【図3C】本発明におけるフロア送受信システム側フロアパネルの一例構成を示す図3B内線A−A’沿い概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に関し図面を参照してより詳細に例示説明する。各図中、同様の部材には同一の参照符号を付してある。
【0026】
図1に、本発明に係るローカライゼーションシステムにおける送受信タブレット10の一例構成を示す。
【0027】
この送受信タブレット10は可動な装置に装着可能な構成である。図1に示したのは装着時に床面を向く面(下面)である。後に詳述する通り、床にはフロア送受信機が組み込まれている。そのため、タブレット10には下面から床面まで距離を所定距離に保つプラスチック製のスペーサ要素12が設けられている。スペーサ要素12があるのでタブレット10を床面上方で好適に動かすことができる。スペーサ要素12として小径のボールキャスタを使用してもよい。タブレット10を図示しない可動装置に装着する際には、そのスペーサ要素12が床面から離れることなく水平方向に移動するようにすると共に、その可動装置に対するタブレット10の床面沿い相対位置が変わらないようにすることが重要である。タブレット10の位置及び姿勢を検出することで、その可動装置の位置及び姿勢を精密に検出できるようにするためである。その可動装置の好適例としては、ローラで移動させうるカメラ用フレーム上に据えられたカメラロボットのほか、可動エアクッションプラットフォーム上に据えられたカメラロボットを掲げることができる。
【0028】
送受信タブレット10の下側には送受信面14がある。この面14は所定距離を以て床面と対向配置される面であり、床に組み込まれているフロアアンテナのうち複数個の位置を同時的に検出できるように構成されている。面14は評価用電子回路16に接続されており、その回路16では面14による受信信号が評価される。
【0029】
図2に、本発明に係るローカライゼーションシステムにおける送受信タブレット10の別例構成を示す。このタブレット10では、めいめいに送受信面を有する要素タブレット18が4個、所定距離を以て床面に対向し共通の送受信面14を形成するよう配置されている。要素タブレット18は、自分と対向しているフロアアンテナの位置をいちどきに1個ずつ検出できるように構成されており、またUSBプロトコル等に準拠するデータライン20を介しデータラインノード22例えばUSBハブに接続されている。ライン20を介し伝送された信号はノード22にて結合され、共通データライン24を介し評価用電子回路16へと送られる。要素タブレット18内に個別の送受信面に加え個別の評価用電子回路を設ける構成としてもよい。そうした構成では、フロアアンテナ位置に関し要素タブレット18内で評価が行われ、その結果がUSBプロトコルに則りライン20経由で評価用電子回路16に送られることになる。評価用電子回路16はPCや集積回路で実現することができる。
【0030】
図3A〜図3Cに、本発明におけるフロア送受信システム側フロアパネル26の一例構成を示す。
【0031】
図3Aに明示されている通り、このフロア送受信システムで使用されるフロアパネル26は、通常のフロアパネルと比べ違うところのない上面形状を有している。従って、テレビジョンスタジオ等で使用するに当たり特定の色、例えばグリーンスクリーン法等で慣習的に用いられている色で、パネル26の上面を塗ることができる。更に、本発明で使用されるフロア送受信システムは塵埃や擦過に強く、その耐久性が非常に高いものである。フロア送受信システムを構成する全ての電子部品が、湿気その他の外因からパネル26によって護られているからである。
【0032】
図3Bたる下面図や、図3Cたる図3B内線A−A’沿い横断面図に明示されている通り、このフロア送受信システムで使用されるフロアパネル26の背面側には、フロアアンテナ28として使用されるコイルが配置され、対応する電子回路基板30と電気的に接続されている。コイル28が配置されている場所は、パネル26の背面から表面直下に至る円筒状の盲孔32内である。各基板30が配置されている場所は、パネル26の背面に形成された浅い角筒状の凹部34内である。こうすることで、コイル28及び基板30で構成されるフロア送受信機36がパネル26の背面から突出することを防いでいる。
【0033】
フロアパネル26は石膏繊維製であり、盲孔32や凹部34はそれへのミル加工やドリル加工で形成されている。もっとも、図3B及び図3Cに示した構成は一例に過ぎず、コイル28や電子回路基板30は様々な形態で配置することができる。例えば、パネル26へのドリル加工だけでフロア送受信機36の実装準備が整うよう、コイル28と基板30を同じ盲孔32内に収める形態にしてもよい。送受信機36同士の間隔を拡げるため、複合ナビゲーションや走行距離計測を併用する形態にしてもよい。送受信タブレット10の送受信面14に沿い配置されている要素タブレット18にて送受信機36を全く検出できないときでも、複合ナビゲーションで得られた情報を利用することができる。
【0034】
ここからは、複数枚のフロアパネル26からなるフロア送受信システムに対する送受信タブレット10の機能・連携手順について説明する。
【0035】
まず、フロア送受信システムは、テレビジョンスタジオ等のスペースに設置される。そこにフロアパネル26を複数枚敷くことで、周知の中空床構造をとる床を、フロア送受信システムで形成することができる。複数枚のパネル26を漆喰等で固め、モジュール構造のフロア送受信システムにするのが望ましい。その構成要素に不調が生じたときに、該当するパネル26を交換するだけで足り、床構造全体を拵え直す必要がないからである。パネル交換実施後は、新たに組み込まれることとなったフロアアンテナ28を校正する。
【0036】
フロア送受信機36は、自パネル26沿い位置の点状標識となるフロアアンテナ乃至コイル28が一定間隔で並ぶよう、フロアパネル26上に並んでいる。従って、パネル26を複数枚敷くと、それらのコイル28が、そのフロア送受信システムにおける床面沿い位置の点状標識ともなる。その送受信機36は、コイル28が送信アンテナとしてだけでなく駆動電力取得用の受信アンテナとしても使用されるよう、RF−ID技術に倣い構成されている。電子回路基板30は、接続先のコイル28を用い床面沿い位置を送受信タブレット10に送信する。このとき、基板30から完全な位置データを送信する必要はない。床面沿い位置を一意に指し示すフロア送受信機識別子をタブレット10に送信する構成が簡略でよい。そうする場合は、受信した識別子を用い床面沿い位置を読み出すことができるよう、送受信機36の位置に関する諸データを、そのタブレット10上の要素タブレット18や評価用電子回路16に保持させておく。
【0037】
コイル28は、図3Cに示した通りフロアパネル26上の盲孔32に収まっている。その捲回軸は、パネル26で形成される床面に対しほぼ垂直である。その直径は約1mmであるので、このコイル28は、送受信方向が床面に対しほぼ点状に交差する準点状のフロアアンテナと見なすことができる。これより若干大きな直径、例えば約5mm乃至10mmにしてもよい。但し、ドリル加工を施したパネル26を固定設置する場合は、そのドリル加工が容易になるのでコイル28の直径は小さい方がよい。コイル28の形状は円筒形、長さは約20mmである。その端部からパネル26の表面までの距離は盲孔32の開口部からパネル26の表面までの距離にほぼ等しい。コイル28から送受信タブレット10までの距離をできるだけ小さくするため、コイル28の端部からパネル26の表面までの距離は15mm未満、好ましくは10mm未満、更に好ましくは5mm未満とする。
【0038】
但し、フロア送受信機に備わるコイルの直径がずっと大きく、例えば約50mm〜150mmに上る形態でも、本発明を実施することができる(図示せず)。その場合は、送受信面14を用いコイル中心点を検出するよう送受信タブレット10を構成する。タブレット10によるコイル中心点の位置検出精度はコイルが大きくても変わらない。また、コイルはその大径化した分は肉薄化できる。その肉薄なコイルをPVC製の床材に組み込み、巻き取り可能なタイプのコイル付床材とすることもできる。
【0039】
次に、送受信タブレット10は、本ローカライゼーションシステムを使用し床面沿いに可動な装置の状態を検出する際、フロア送受信システムで形成される床面(複数枚あるフロアパネル26の表面)の上方を随時移動する。そのスペーサ要素12の寸法は、要素タブレット18の送受信面が床面にできるだけ接触せず前者が擦過・受傷しないよう、それでいて前者からから後者までの距離ができるだけ小さくなるよう設計しておく。タブレット10の送受信面から床面までの平均距離は15mm未満、好ましくは10mm未満、更に好ましくは5mm未満とする。
【0040】
要素タブレット18の送受信面は、本ローカライゼーションシステムの稼働中にその向かいに来たコイル28を捉えその位置を調べるための面である。そのため、要素タブレット18の送受信面には、送信モード・受信モード間で切り替わりながら作動する水平アンテナ及び垂直アンテナが埋め込まれている。それらはいずれも長尺の誘導ループとして構成されており、水平アンテナの層と垂直アンテナの層の重なり合いで、水平アンテナと垂直アンテナが直交するアンテナグリッドが形成されている。そのアンテナグリッドは受信信号強度を評価する評価用電子回路に接続されているので、コイル28のうち、その要素タブレット18の送受信面で捉えうる範囲内にあるものの位置を、精密に検出することができる。また、それら送受信面に埋め込まれているアンテナは電磁信号を輻射する。その信号はフロア送受信機36の送信部内にある共振回路、即ちコイル28と電子回路基板30内のコンデンサとで構成されている回路を励振する。送受信機36は、この励振動作を通じ獲得した駆動電力で基板30を作動させる。基板30は、それに応じ、対応するコイル28を用いそのコイル28の向かいにある要素タブレット18へと信号を送信する。その信号は、その要素タブレット18の送受信面に埋め込まれているアンテナによって受信される。コイル28と要素タブレット18側送受信面内アンテナとの間で行われるこのRF通信は、位置識別子乃至フロア送受信機識別子を信号として送信する形態で行うこともできる。
【0041】
本発明は、図2に示す構成を用い、フロア送受信機36のコイル28を要素タブレット18でいちどきに1個ずつ検出する、といった単純な形態で実施することができる。この形態は、個々の要素タブレット18の送受信面内にいちどきに1個ずつしかコイル28が入ってこないよう、フロアアンテナたるコイル28が床に組み込まれている場合に適している。送受信タブレット10の位置及び姿勢が確実に検出されるようにするため、図示例では4個の要素タブレット18が送受信タブレット10の送受信面14内に配置されている。モジュール型の構成がとられているため、4個の要素タブレット18を互いに異なる方向に沿い隙間なく並べることで、送受信面14における不感帯の発生も抑えることができる。更に、要素タブレット18を4個使用することで、要素タブレットやフロア送受信機の不調による影響を抑えることもできる。
【0042】
要素タブレット18としては、従来から知られているグラフィックタブレット等を使用することができる。約1mmの分解能を有するグラフィックタブレットを使用することで、可動装置の空間位置を高精度検出可能なローカライゼーションシステムを実現することができる。
【0043】
実用に当たっては、本ローカライゼーションシステムを他のローカライゼーションシステムと連携させることが可能である。従って、例えば、精密な床面沿い位置検出が必要とされる特定の区画だけにフロア送受信機36を設置することとし、その狭間に当たる区画では複合ナビゲーションや走行距離計測に位置検出を行わせることもできる。こうした構成では、本発明に係るローカライゼーションシステムが設置されている区画にて、可動な装置の位置及び姿勢が厳密に検出されるため、本発明に係るローカライゼーションシステムの出力を利用し、走行距離計測用の走行センサを然るべく再校正することもできる。従って、走行距離計測が利用される狭間区画を跨ぎカメラロボット、産業用ロボット等といった可動装置を使用することができる。
【0044】
カメラロボットや産業用ロボットを駆動システムによって移動させ、本発明に係るローカライゼーションシステムが設置されている区画内で使用する場合、指定された床面沿い位置が若干不正確であっても、その分をそのロボットに備わるアームの動きで容易に補うことができる。例えば、移動先の位置を大まかに指定し産業用ロボットを作業区画の面前まで移動させた後、本発明に係るローカライゼーションシステムを用い床面沿い位置をmmオーダ精度で精密検出し、得られた情報を制御装置に送りそのロボットのハンドやそのロボットに搭載されている撮影用カメラをその作業区画内で動かすことで、ハンドやカメラの目標位置に対する精度をmmオーダにすることができる。即ち、作業区画における自分の精密な所在位置をそのロボットに知らせ、そのハンドを目標位置に対しmmオーダの精度で位置決めさせることができるため、新たなトレーニングを施すことなく、産業用ロボット等に様々な作業区画で様々な挙動を実行させることができる。
【0045】
上掲の可動装置としては様々な構成のものを使用することができる。例えば、自律的在庫確保システムで使用される輸送装置に送受信タブレットを装着してもよい。また、生化学的設備で輸送ロボットや作業ロボットとして使用される可動装置に送受信タブレットを装着すれば、その精度が高く、使用範囲が広く、且つ無菌性が高い環境で稼働させうるロボットシステムを得ることができる。即ち、高い精度が求められるため、従来は人間が防護服を着て行っていた作業を、本発明が適用されたロボットシステムに行わせることができる。更に、放射性物質、爆発物、病原性生体/化学物質等、危険物質を扱う作業やその輸送といった分野にも適用することができる。
【0046】
本発明に係るローカライゼーションシステムは、自律製造ロボット等でも使用することができる。その最たる利点は、所在特定がRF通信を介し非接触で行われるため、塵埃、油分等の汚濁物で汚れないようフロア送受信システムや送受信タブレットをくるみ、フォールトフリー動作を図れることである。
【0047】
本発明に係るローカライゼーションシステムは、テレビジョンスタジオで使用されるカメラロボット用の位置検出システム等、既知の位置検出システムには見られない様々な長所を有している。
【0048】
まず、本発明に係るローカライゼーションシステムによれば、他に例を見ない高水準な位置検出精度が得られる。mmオーダという精度は、アンテナサイズが妨げとなるためRF−IDシステムでは実現できないものである。また、そのフロアパネル26が塵埃や擦過に強いため、本発明に係るローカライゼーションシステムは耐久性が非常に高いものとなる。これは、従来から知られている光学的位置検出システムと対照的な点である。更に、原則として床全体を剥がさず修理することができない従来のローカライゼーションシステムに対し、本発明に係るローカライゼーションシステムでは、多数使用されるパネル26のうち不調が起きたものだけを交換し、新たに入れたパネル26のコイル28を校正するだけで足りる。本発明に係るローカライゼーションシステムでは、更に、20ms未満という高い時間分解能を実現することができる。この時間分解能は、画像処理による重い情報処理負荷が妨げとなるため従来システムではほとんど実現されていないものである。光学的位置検出システム等の従来システムと違い、屋根や壁を含め光学標識を空間的に配備する必要がないので、それらの光学標識を対象とする面倒な校正処理を実行する必要がない。加えて、本発明に係るローカライゼーションシステムでは、フロア送受信システムの表面を通常の床面と同様に扱うことができる。即ち、本ローカライゼーションシステムに対し配慮を払うことなく、所与条件に従いフロア送受信システムの表面に周囲と同様の色やマーキングを付すことができる。そして、本ローカライゼーションシステムは非接触形態で稼働するので、スペーサ要素12に対するそれを除き、擦過を理由とした構成要素の保守を実行する必要がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面沿いに可動な装置の状態を検出するローカライゼーションシステムであって、
複数個のフロア送受信機(36)を有し、そのフロア送受信機(36)がそれぞれ床面沿い位置の点状標識となるフロアアンテナ(28)を有するフロア送受信システムと、
上記可動な装置に装着され、床面を向く送受信面(14)を有し、且つフロアアンテナ(28)のうち複数個の位置をその送受信面(14)で同時的且つ連続的に検出する送受信タブレット(10)と、
を備えるローカライゼーションシステム。
【請求項2】
請求項1記載のローカライゼーションシステムであって、そのフロア送受信機(36)が、
その捲回軸が床面に対しほぼ垂直でフロアアンテナとして機能するコイル(28)と、
そのコイル(28)との電気的接続を介し送受信タブレット(10)とRF通信する電子回路基板(30)と、
を有することを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項3】
請求項2記載のローカライゼーションシステムであって、その電子回路基板(30)が、送受信タブレット(10)とのRF通信により、送受信タブレット(10)に位置識別子を送信することを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項4】
請求項2又は3記載のローカライゼーションシステムであって、そのフロア送受信機(36)に備わるコイル(28)の直径が5mm未満、好ましくは2mm未満であることを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項5】
請求項2乃至4のうちいずれか一項記載のローカライゼーションシステムであって、そのフロア送受信システムが、その背面に盲孔(32)があるものを含めフロアパネル(26)を複数枚有し、そのフロア送受信機(36)に備わるコイル(28)それぞれが、コイル端から床面までの距離が15mm未満、好ましくは10mm未満、更に好ましくは5mm未満になるようその盲孔(32)内に実装されたことを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項6】
請求項5記載のローカライゼーションシステムであって、そのフロアパネル(26)が石膏繊維製であり、盲孔(32)がドリル加工で形成されていることを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項7】
請求項2又は3記載のローカライゼーションシステムであって、そのフロア送受信機(36)に備わるコイル(28)が、巻き取り可能床材に組み込まれた平板状コイルであることを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちいずれか一項記載のローカライゼーションシステムであって、その送受信タブレット(10)に備わる送受信面(14)から床面までの平均距離が、15mm未満、好ましくは10mm未満、更に好ましくは5mm未満であることを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか一項記載のローカライゼーションシステムであって、その送受信タブレット(10)が、自タブレット(10)の送受信面(14)から床面までの距離を所定距離に保つスペーサ要素(12)を有することを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項10】
請求項9記載のローカライゼーションシステムであって、そのスペーサ要素(12)がプラスチック製であることを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項11】
請求項1乃至10のうちいずれか一項記載のローカライゼーションシステムであって、その送受信タブレット(10)が、フロア送受信機(36)に備わるフロアアンテナ(28)の位置をいちどきに1個ずつ検出可能な要素タブレット(18)を複数個有する一方、そのフロアアンテナ(28)が、移動中の送受信タブレット(10)に備わる要素タブレット(18)のうち受信動作中のものでフロアアンテナ(28)のうちいずれかを捉えることができるよう床面に配置されたことを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項12】
請求項11記載のローカライゼーションシステムであって、その送受信タブレット(10)が要素タブレット(18)を複数個有することを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項13】
請求項1乃至12のうちいずれか一項記載のローカライゼーションシステムであって、上記装置が、可動カメラロボット、産業用ロボット又はカメラスタンドであることを特徴とするローカライゼーションシステム。
【請求項14】
請求項1乃至12のうちいずれか一項記載のローカライゼーションシステムであって、上記装置が、可動エアクッションシステム付の産業用ロボット又はカメラロボットであることを特徴とするローカライゼーションシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate


【公表番号】特表2012−515904(P2012−515904A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546678(P2011−546678)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000279
【国際公開番号】WO2010/083977
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(509105330)ロボティクス テクノロジー リーダーズ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】