説明

座ぐり切削工具

【課題】シンプルな構造で刃具を径方向に出没させることができる座ぐり切削工具を提供する。
【解決手段】座ぐり切削工具11は、軸線に沿って延び、軸線方向後端部が工作機械のホルダに装着可能な差し込み形状であるメインシャフト12と、メインシャフトの軸線方向先端部に回動可能に支持され、メインシャフトに沿って倒れる収納位置と、メインシャフトに対して起立する突出位置とにされる刃具13と、メインシャフトの外周に相対回転可能に設けられた筒状体であって、側面に窓28を有し、周方向一方の第1回転位置で刃具13を覆うことにより刃具を収納位置に保持し、周方向他方の第2回転位置で窓28から刃具13を露出させることにより刃具を窓から径方向外側に突出させて突出位置にするガイドスリーブ16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のホルダに装着される切削工具に関し、特に、ワークの下孔に挿入後、刃具を出没させて下孔の裏面側に裏座ぐり加工を施す座ぐり切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
裏座ぐり加工は、NC加工機などで工作物の表裏面を貫通する下孔を予め形成しておき、工作機械のホルダに取り付けた座ぐりアーバを表面側から工作物の下孔に挿入して座ぐりアーバの先端を工作物の裏面から突き出し、座ぐりアーバの先端から刃具を径方向に拡張突出して工作物の裏面に座ぐりを施すものである。裏座ぐり加工終了後、刃具を座ぐりアーバの先端に没入して、下孔から座ぐりアーバを引き抜く。
【0003】
かかる裏座ぐり加工において刃具の出没を自動で実施する技術としては従来種々のものがある。例えば、特開平11−156612号公報(特許文献1)には、クーラント液の圧力を駆動源として、アーバ先端部から刃具を径方向外側へ突出させたり、刃具をアーバ先端部の径方向内方へ没入させたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−156612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のようにクーラント液の圧力を用いて刃具を出入する座ぐりアーバは、工具内部に液圧を導くシリンダ室と、液圧を直線運動に変換するピストンと、ピストンと刃具とを連結して刃具を動作せしめるロッド等が必要であるため、構造が複雑になり、コストアップである。
【0006】
本発明は、上述の実情に鑑み、シンプルな構造で刃具を径方向に出没させることができる座ぐり切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため本発明による座ぐり切削工具は、軸線に沿って延び、軸線方向後端部が工作機械のホルダに装着可能な差し込み形状であるメインシャフトと、メインシャフトの軸線方向先端部に回動可能に支持され、メインシャフトに沿って倒れる収納位置と、メインシャフトに対して起立する突出位置とにされる刃具と、刃具を回動起立させて突出位置に付勢する付勢部材と、メインシャフトの外周に相対回転可能に設けられた筒状体であって、側面に窓を有し、周方向一方の第1回転位置で刃具を覆うことにより刃具を収納位置に保持し、周方向他方の第2回転位置で窓から刃具を露出させることにより刃具を窓から径方向外側に突出させて突出位置にするガイドスリーブとを備える。
【0008】
かかる本発明によれば、メインシャフトの外周に相対回転可能に設けられたガイドスリーブが刃具を出没させることから、複雑な構造を解消することができ、コスト上有利である。
【0009】
裏座ぐり加工において、座ぐり切削工具の外径寸法を工作物の下孔の内径寸法よりも僅かに小さく選定し、下孔の内周面と座ぐり切削工具の外径面との間で回転抵抗が生じることを回避するとともに、座ぐりアーバを下孔に容易に抜き差し可能にすることが常套である。しかし従来にあっては、下孔の内周面と座ぐりアーバの外周面との間で座ぐり加工時の回転抵抗が生じたり、溶着が生じたりする場合があった。
【0010】
この問題を解決するため、好ましい実施形態として、ガイドスリーブの外周面上であって、少なくとも加工すべき工作物の下孔に接する領域に設けられて工作物との摩擦を減ずる低摩擦部をさらに備える。かかる実施形態によれば、筒状体であるガイドスリーブの外周面に低摩擦部が設けられることから、工作物の下孔に座ぐり切削工具を挿入して裏座ぐり加工するときに、下孔の内周面とガイドスリーブの外周面との間の回転抵抗を好適に減ずることができる。
【0011】
なお、低摩擦部はガイドスリーブの外周面のうち少なくとも加工すべき工作物の下孔に接する領域に設けられる。一例として低摩擦部は、ガイドスリーブ外周面の全周に亘って設けられ、好ましくは、窓よりも後端側の軸線方向領域に設けられる。
【0012】
一実施形態として、低摩擦部は、ガイドスリーブの外周面上に形成された表面処理層である。表面処理層は、例えば、イオン窒化処理、DLC(Diamond Like Carbon)コーティング処理、TiN(窒化チタン)コーティング処理及び鏡面状ラッピング処理等である。
【0013】
他の実施形態として、低摩擦部は、ガイドスリーブの外周面上に取り付けられたパイプ部材である。パイプ部材は、ガイドスリーブの外周に嵌合固定されてガイドスリーブとともに回転するものであってもよいし、あるいはガイドスリーブの外周に相対回転自在に嵌め合わされるものであってもよい。
【0014】
刃具を出没させるに際し、ガイドスリーブは、操作者により手動でメインシャフトに対して相対回転されてもよく、あるいは工作機械の動作により自動で相対回転されてもよい。好ましい実施形態として、ガイドスリーブは、前進時に工作物の表面に当接する段差を含み、段差には工作物との衝突を緩和する緩衝材が設けられている。かかる実施形態によれば、座ぐり切削工具を工作物の下孔に表面から挿通し、段差を工作物の表面に押し当てた際に、工作物の表面を傷つけない。そして、工作機械がメインシャフトまたはガイドスリーブを相対回転させることにより、自動で刃具を出没させることができる。
【0015】
ところで裏座ぐり加工の終了後、刃具は収納位置に収納されるものであるが、切粉が噛み込んだ場合など、必ずしも収納位置まで没入するとも限らない。そうすると、座ぐり切削工具を引き抜く際に刃具が座ぐり孔に衝突して座ぐり切削工具が破損する懸念がある。そこで好ましい実施形態として、メインシャフトは、主要部と、刃具を支持する刃具支持部と、主要部と刃具支持部とを接続する連結部とを有し、連結部は、主要部と刃具支持部との間に過度の引離力が加わったときに両者の接続を解くように構成されている。かかる実施形態によれば、自動で刃具を出没させるに際し、万が一、刃具が収納位置まで完全に没入せず、多少なりとも窓から外径側へ突出する場合であっても、下孔から座ぐり切削工具を引き抜く際に、刃具が工作物の裏面に衝突してメインシャフトの主要部と刃具支持部とを引き離そうとする過度の引離力が連結部に加わる。これによりメインシャフトの主要部と刃具支持部とが分離し、刃具はメインシャフトから外れる。したがって、座ぐり切削工具や工作物の深刻な破損を防止することができる。
【0016】
メインシャフトとガイドスリーブとの連結構造は特に限定されないが、好ましい実施形態として、ガイドスリーブの内周面またはメインシャフトの外周面の一方には、周方向に延びる条溝が形成され、ガイドスリーブの内周面またはメインシャフトの外周面の他方には、条溝と係合する突起が形成され、突起は条溝の一端部および他端部に選択的に保持される。かかる実施形態によれば、突起が周方向に延びる条溝に係合し、条溝の一端および他端に選択的に保持されることから、刃具を収納位置あるいは突出位置に容易に回動・保持することができる。なお、条溝の一端部がガイドスリーブの第1回転位置に対応し、条溝の他端部がガイドスリーブの第2回転位置に対応する。
【0017】
座ぐり加工において切削液を座ぐり孔に供給する方式は特に限定されないが、好ましい実施形態として、メインシャフトは、軸線方向後端部から先端側に向かって延び突出位置における刃具へ切削液を噴出する切削液通路を有する。かかる実施形態によれば、座ぐり孔に切削液を効率よく供給することが可能となり、座ぐり加工を好適に実行することができる。
【0018】
刃具の構造は特に限定されないが、好ましい実施形態として、刃具は、軸線方向後端側および軸線方向先端側に刃部をそれぞれ有する。かかる実施形態によれば、表座ぐり加工および裏座ぐり加工の双方が可能になる。
【0019】
刃具の構造は特に限定されないが、好ましい実施形態として、刃具は、刃具本体と、刃具本体に取り付けられて工作物を切削するインサートチップとを有する。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明は、周方向に相対回転可能なガイドスリーブによって、メインシャフトに取り付けられた刃具を出没させることから、複雑なシリンダ機構を解消することができてコスト上有利である。本発明によれば、自動あるいは手動でガイドスリーブを相対回転させてよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例になる座ぐりアーバを示す平面図である。
【図2】同実施例になる座ぐりアーバを一部断面にして示す要部側面図である。
【図3】図2のIII−IIIにおける断面図である。
【図4】図2のIV−IVにおける断面図である。
【図5】刃具が突出位置にされた座ぐりアーバを示す平面図である。
【図6】刃具が突出位置にされた座ぐりアーバを一部断面にして示す側面図である。
【図7】刃具が突出位置にされた座ぐりアーバを示す正面図である。
【図8】図6のVIII−VIIIにおける断面図である。
【図9】図6のIX−IXにおける断面図である。
【図10】自動で刃具を出没させる様子を示す説明図である。
【図11】同実施例になる座ぐりアーバの切削液通路を示す側面図である。
【図12】刃具の変形例を示す図である。
【図13】他の実施例になる座ぐりアーバを一部断面にして示す要部側面図である。
【図14】さらに他の実施例になる座ぐりアーバを模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【0023】
座ぐり切削工具になる座ぐりアーバ11は、図1および図2に一点鎖線で示す回転軸線(以下、軸線という)に沿って延びる長尺な円柱形状のメインシャフト主要部12は、軸線方向先端部に径方向出没可能な刃具13を有するとともに軸線方向後端部にシャンク部14が形成される。シャンク部14は所定の半径で表される円筒面14aと、この円筒面を裁断切除するよう形成された平坦な傾斜面14bとを有する形状であり、図示しない工作機械のホルダの先端に差し込まれて装着される。なおシャンク部14は、多種多様なホルダにチャッキング可能である。
【0024】
メインシャフト主要部12の外周面におけるシャンク部14よりも先端側には、フランジ部17が隣接して形成される。フランジ部17の外径寸法は、シャンク部14の外径寸法よりも大きい。また、メインシャフト主要部12の外径寸法は、フランジ部17と、フランジ部の先端側に隣接する円柱状の軸線方向領域12aと、領域12aの先端側に隣接する円柱状の軸線方向中央領域12bと、軸線方向中央領域12bの先端側に隣接する円柱状の軸線方向先端領域12cの順で、段階的に小さくなる。
【0025】
メインシャフト主要部12の軸線方向先端領域12cに含まれるメインシャフト先端部には、内径方向に窪んだ凹部19が形成される。また、メインシャフト主要部12の先端には、ねじ21を介して円柱形状のシャフト先端部材22が取り付けられる。メインシャフトの先端部分であるシャフト先端部材22の外径寸法は、軸線方向先端領域12cの外径寸法と同一である。シャフト先端部材22は、凹部19と隣接する。シャフト先端部材22とメインシャフト主要部12との間には、凹部19を通過するよう枢軸23が架設される。枢軸23は、軸線と平行に延び、刃具13を回動可能に枢支する。これにより刃具13は、図2および図3に示すようにメインシャフトに沿って倒れて凹部19内に収納される収納位置と、図5〜図8に示すようにメインシャフト主要部12に対して起立して凹部19から突出する突出位置とに回動する。
【0026】
枢軸23の先端部は、シャフト先端部材22に形成されて軸線と平行に延びる貫通孔22hを貫通する。貫通孔22hには先端側から留めねじ23tが螺合される。これにより、枢軸23が貫通孔22hから抜け出ることが防止される。
【0027】
枢軸23の後端部は、メインシャフト主要部12の先端から後方に向かって窪んだ穴12hに挿通される。
【0028】
シャフト先端部材22の内部の貫通孔22hと枢軸23との環状隙間には、スプリング29が設けられている。スプリング29は、刃具13とシャフト先端部材22とにそれぞれ係合し、刃具13を回動起立させて突出位置に付勢する付勢部材である。
【0029】
シャフト先端部材22は、ねじ21によってメインシャフト主要部12の先端に固定される。しかしながらシャフト先端部材22は、過度の引離力が加わったときにメインシャフト主要部12から分離する。つまり本実施例では、座ぐりアーバ11が、メインシャフト主要部12と、刃具13を支持する刃具支持部に含まれるシャフト先端部材22および枢軸23と、主要部と刃具支持部とを接続する連結部としてのねじ21とを有し、ねじ21は、主要部と刃具支持部との間に過度の引離力が加わったときに両者の接続を解くように構成されている。
【0030】
メインシャフト主要部12のうちフランジ部17よりも先端側の部位には、両端開口の筒状体であるガイドスリーブ16が被せられる。ガイドスリーブ16は、メインシャフト主要部12の軸線方向領域12aと、軸線方向中央領域12bと、軸線方向先端領域12cにまたがって設けられ、メインシャフト主要部12の外周面に相対回転可能に支持される。ガイドスリーブ16の軸線方向後端にはフランジ部32が形成される。
【0031】
ガイドスリーブ16の外周面の外径寸法は、軸線方向後端のフランジ部32で最も大きく、軸線方向先端側が最も小さい。具体的には、フランジ部32の外径寸法と、フランジ部32よりも軸線方向先端側に位置する円筒形状の領域16aの外径寸法と、領域16aよりも軸線方向先端側に位置する円筒形状の領域16bの外径寸法の順で、段階的に小さくなる。そして、ガイドスリーブ外周の領域16aと領域16bとの境界には、環状段差34が形成される。環状段差34には工作物との衝突を緩和する緩衝材35が設けられている。
【0032】
フランジ部32を含むガイドスリーブ16が金属製であるのに対し、緩衝材35はウレタンなど柔らかい樹脂、あるいはゴムなどの弾性素材など、金属よりも柔らかい素材で形成される。詳しくは後述するが、緩衝材35の表面は、軸線に直角な環状の平面であり、座ぐりアーバ11の前進時に工作物の表側(座ぐりアーバ11側)の表面と当接する。
【0033】
ガイドスリーブ16の外周面のうち、少なくとも加工すべき工作物の下孔に接する表面領域16sには、低摩擦となるような表面処理が施される。低摩擦部としての表面処理層16sに施される表面処理は、例えば、イオン窒化処理、DLC(Diamond Like Carbon)コーティング処理、TiN(窒化チタン)コーティング処理及び鏡面状ラッピング処理等の低摩擦処理である。この表面処理は外周面の360°全周にわたって施される。表面処理層16sは、領域16bの全てに形成されてもよく、あるいは領域16bの一部に形成されてもよいが、少なくとも緩衝材35と窓28との間の軸線方向領域に形成される。
【0034】
ガイドスリーブ16の内周面と、メインシャフト主要部12の軸線方向中央領域12bの外周面との間には、環状空間が画成され、かかる環状空間には、スプリング24が縮設される。スプリング24の軸線方向後端は、領域12aと軸線方向中央領域12bとの境界の環状段差に当接する一方、スプリング24の軸線方向先端は、ガイドスリーブ16の内周に設けられた環状段差に当接し、ガイドスリーブ16をメインシャフト主要部12の先端側へ付勢する。
【0035】
スプリング24よりも先端側のガイドスリーブ16には、径方向に貫通するねじ孔25(図4、図9参照)が穿設され、ねじ孔25にねじ26が螺合する。ねじ26の頭部は、ガイドスリーブ16に固着し、ねじ26の先端26tは、メインシャフト主要部12の外周面の軸線方向中央領域12bに形成された条溝27と係合する。条溝27は、軸線方向中央領域12bに設けられ、周方向に延び、一端部27aおよび他端部27bがそれぞれ僅かに軸線方向前方へ延びる。
【0036】
ねじ先端26tは条溝27に沿って案内されることから、ガイドスリーブ16の回転角度は一端部27aと他端部27bとの間に規制される。また、ねじ先端26tが条溝27の両端部27a,27bに位置する場合を除き、ガイドスリーブ16は軸線方向に相対摺動不能にされる。
【0037】
これに対し、ねじ先端26tが条溝27の両端部27a,27bに位置する場合、ガイドスリーブ16は軸線方向に僅かに相対摺動可能である。そして、スプリング24によってねじ先端26は軸線方向先端側に付勢され、一端部27aまたは他端部27bに嵌め合わされる。これにより、ガイドスリーブ16は周方向に相対回転不能にされる。
【0038】
ガイドスリーブ16の先端部側面には窓28が形成される。窓28は凹部19の近傍にあって、ガイドスリーブ16の相対回転によって凹部19を遮断ないし開放する。図1〜図4を参照して、ガイドスリーブ16に固設されたねじ26のねじ先端26tが一端部27aに位置するとき、ガイドスリーブ16は周方向一方の第1回転位置にされ、窓28と凹部19との周方向位置が異なって凹部19を遮断する。かくして、ガイドスリーブ16は刃具13を覆うことにより刃具13を凹部19内の収納位置に保持する。
【0039】
刃具13を突出させる場合、メインシャフト主要部12に対してガイドスリーブ16を相対回転させる。そうすると窓28の周方向位置と凹部19の周方向位置が一致し、刃具13が露出する。そして、スプリング29の付勢力によって刃具13が回動起立する。
【0040】
図5〜図9を参照して、ガイドスリーブ16に固設されたねじ26のねじ先端26tが他端部27bに位置するとき、ガイドスリーブ16は周方向他方の第2回転位置にされ、窓28と凹部19との周方向位置が一致して凹部19を開放する。かくして、窓28から刃具13を露出させることにより刃具13を窓28から径方向外側に突出させて突出位置にする。
【0041】
図8を参照して、座ぐり加工は、刃具13を工作物に当接させながらメインシャフト主要部12を反時計回りに回転することにより行う。刃具13は切削時に工作物から時計回りの力を受けるが、凹部19を画成する壁面が突出位置にある刃具13を支持する。これにより、刃具13は時計回りの力によって押し倒されることなく、安定して座ぐり加工を行うことができる。
【0042】
刃具13を没入させる場合、メインシャフト主要部12に対してガイドスリーブ16を相対回転させ、ねじ先端26tを他端部27bから一端部27aに移動させる。この際、刃具13は、図8中、メインシャフト主要部12に対して反時計回りに回転する窓28の窓枠28pに押し倒され、スプリング29の付勢力に抗してメインシャフト主要部12に沿って倒れる。これにより、刃具13を収納位置に復帰させる。
【0043】
本実施例の座ぐりアーバ11を用いた座ぐり加工において、刃具の出没は、図10に示すように、工作機械のホルダ101が座ぐりアーバ11を前進させて、環状段差34を工作物201の前側(座ぐりアーバ側)の前面203に押し付けることにより、自動で行うことができる。
【0044】
図10を参照して裏座ぐり加工の手順につき説明すると、まず刃具を収納位置にした状態で、工作機械のホルダ101が、座ぐりアーバ11を、工作物201の下孔202に挿通する。下孔202の内径は、ガイドスリーブ16の表面領域16sの外径よりも僅かに大きく、ガイドスリーブ16の軸線方向領域16bが下孔202を貫通して、窓28およびシャフト先端部材22が裏面204から突出する。
【0045】
引き続き、座ぐりアーバ11を前進させて、環状段差34を工作物201の前側(座ぐりアーバ側)の前面203に押し付ける。そうすると、ガイドスリーブ16は前面203を越えて前進することができず、メインシャフト主要部12が前進する。これによりスプリング24が押し縮められ、ガイドスリーブ16がメインシャフト主要部12に対して僅かに相対後退する。これにより、ねじ先端26tと一端部27aとの嵌め合いが解除される。
【0046】
次に、工作機械のホルダ101が、ガイドスリーブ16に対して、メインシャフト主要部12を一回転方向に相対回転させる。これにより、ねじ先端26tが一端部27aから条溝27に沿って移動し、他端部27bにされる。また、窓28が凹部19の周方向位置まで移動して、刃具13が突出位置にされる。
【0047】
次に工作機械のホルダ101が、座ぐりアーバ11を後退させると、ガイドスリーブ16がスプリング24によって先端側に付勢され、ねじ26のねじ先端26tは他端部27bに嵌り合う。そして、座ぐりアーバ11を回転させながら切削送り速度で後退させ、刃具13を裏面204に当接させて、裏面204に裏座ぐり加工を行う。
【0048】
裏座ぐり加工が終了すると、工作機械のホルダ101は、座ぐりアーバ11を前進させて、環状段差34を工作物201の前側(座ぐりアーバ側)の前面203に押し付ける。そうすると、ガイドスリーブ16は前面203を越えて前進することができず、メインシャフト主要部12が前進する。これによりスプリング24が押し縮められ、ガイドスリーブ16がメインシャフト主要部12に対して僅かに相対後退する。これにより、ねじ先端26tと他端部27bとの嵌め合いが解除される。
【0049】
次に、工作機械のホルダ101が、ガイドスリーブ16に対して、メインシャフト主要部12を他回転方向に相対回転させる。これにより、ねじ先端26tが他端部27bから条溝27に沿って移動し、一端部27aにされる。また、窓28が凹部19の周方向位置から遠ざかって、刃具13が収納位置にされる。
【0050】
次に工作機械のホルダ101が、座ぐりアーバ11を後退させると、ガイドスリーブ16がスプリング24によって先端側に付勢され、ねじ26のねじ先端26tは一端部27aに嵌り合う。そして、座ぐりアーバ11を早送り速度で後退させ、下孔202から引き抜く。
【0051】
以上に説明した裏座ぐり加工では、工作機械のホルダ101がガイドスリーブ16の環状段差34を工作物201に押し付けながら回転することにより自動で刃具13を出没させるものである。ただし本実施例の座ぐりアーバ11は、自動で刃具13を出没させるものに限られず、メインシャフト主要部12を固定し、操作者が手動でガイドスリーブ16を相対回転させることにより刃具13を出没させることを排除するものではない。
【0052】
なお、かかる本実施例において刃具を没入させる際、切粉の詰まり等によって刃具13が収納位置まで完全に没入せず、多少なりとも窓から外径側へ突出する場合がある。かかる非常の場合には、ねじ21がメインシャフト主要部12から抜け出して、座ぐりアーバ11および工作物201の損傷を最小限にすることができる。
【0053】
具体的には、刃具13が窓28から外径側へ突出した状態で座ぐりアーバ11を早送り速度で後退させると、刃具13が裏面204の座ぐり孔の底面に衝突し、通常よりも大きな軸線方向の引離力がねじ21に加わる。そうするとねじ21先端部がメインシャフト主要部12から抜け出し、ねじ21と、シャフト先端部材22と、枢軸23と、刃具13がメインシャフト主要部12から分離して裏面204側に残される。そして、メインシャフト主要部12およびガイドスリーブ16が下孔202から引き抜かれる。
【0054】
図11は、座ぐりアーバ11の切削液通路を示す側面図である。メインシャフト主要部12は、シャンク部14の後端から軸線方向先端側に向かって延びる切削液通路36を有する。切削液通路36は、メインシャフト主要部12の内部に設けられて軸線方向に延び、その先端部36fが90度向きを変えて軸線と直角方向に延びる。かかる切削液通路先端部36fは、窓28から露出して突出位置における刃具13へ指向する。切削液通路36は、裏座ぐり加工中にホルダ101から切削液を供給されて、矢の向きに刃具13へ切削液を噴出する。これにより刃具13は裏座ぐり加工中に冷却される。
【0055】
以上の説明から明らかなように本実施例の座ぐりアーバ11によれば、メインシャフト主要部12の外周に相対回転可能に設けられた筒状体であって、側面に窓28を有し、周方向一方の第1回転位置(図1〜図4参照)で刃具13を覆うことにより刃具を収納位置に保持し、周方向他方の第2回転位置(図5〜図9参照)で窓28から刃具13を露出させることにより刃具を窓から径方向外側に突出させて突出位置にするガイドスリーブ16を備える。これにより、簡易な構造で刃具を出没することができ、コスト上有利である。
【0056】
また本実施例によれば、ガイドスリーブ16の外周面上であって、少なくとも加工すべき工作物201の下孔202に接する領域に設けられて工作物201との摩擦を減ずる低摩擦部として、ガイドスリーブ16の外周面上に形成された表面処理層16sをさらに備える。これにより、工作物201の下孔202に座ぐりアーバ11を挿入して裏座ぐり加工するときに、下孔202の内周面とガイドスリーブ16の外周面との間の回転抵抗を好適に減ずることができる。
【0057】
また本実施例によれば、ガイドスリーブ16は、前進時に工作物201の表面203に当接する環状段差34を含み、環状段差34には工作物201との衝突を緩和する緩衝材35が設けられている。これにより、環状段差34を工作物の表面203に押し当てた際に、工作物の表面を傷つけない。そして、工作機械が座ぐりアーバ11を前進ないし後退させることにより、自動で刃具を出没させることができる。
【0058】
また本実施例によれば、メインシャフトは、メインシャフト主要部12と、刃具13を支持する刃具支持部としてのシャフト先端部材22および枢軸23と、メインシャフト主要部と刃具支持部とを接続する連結部としてのねじ21を有し、連結部は、メインシャフト主要部と刃具支持部との間に過度の引離力が加わったときに両者の接続を解くように構成されている。これにより、自動で刃具13を出没させるに際し、万が一、刃具が収納位置まで完全に没入せず、多少なりとも窓28から外径側へ突出する場合であっても、下孔202から座ぐりアーバ11を引き抜く際に、刃具13が工作物201の裏面204に衝突してメインシャフト主要部12とシャフト先端部材22とを引き離そうとする過度の引離力がねじ21に加わる。これによりメインシャフト主要部12とシャフト先端部材22とが分離し、刃具13はメインシャフトから外れる。したがって、座ぐりアーバ11や工作物201の深刻な破損を防止することができる。
【0059】
また本実施例によれば、メインシャフト主要部12の外周面には、周方向に延びる条溝27が形成され、ガイドスリーブ16の内周面には、条溝27と係合する突起であるねじ先端26tが固定され、ねじ先端26tは条溝27の一端部27aおよび他端部27bに選択的に保持される。一端部27aはガイドスリーブ16の第1回転位置に対応し、他端部27bはガイドスリーブ16の第2回転位置に対応することから、刃具13の出没を容易に行うことが可能となり、さらに刃具13を収納位置あるいは突出位置に保持することができる。
【0060】
また本実施例によれば、メインシャフト主要部12は、軸線方向後端部から先端側に向かって延び突出位置における刃具13へ切削液を噴出する切削液通路36を有する。これにより、座ぐり孔に切削液を効率よく供給することが可能となり、座ぐり加工を好適に実行することができる。
【0061】
次に本発明の変形例になる座ぐりアーバにつき、図12に沿って説明する。図12に示す座ぐりアーバ41は、刃具を除きすべての部品が前述した座ぐりアーバ11と共通する。座ぐりアーバ41の刃具43は、枢軸に取り付けられて回動する刃具本体46と、刃具本体46に取り付けられて工作物を切削する刃部になるインサートチップ44,45を有する。具体的には、座ぐりアーバ41の軸線方向後方へ指向する刃具本体46の後端縁にインサートチップ44を有し、軸線方向前方へ指向する刃具本体46の先端縁にインサートチップの刃部45を有する。
【0062】
かかる変形例によれば、軸線方向後端側および軸線方向先端側に刃部をそれぞれ有することから、座ぐりアーバ41が挿入される工作物201の裏面204に、後端側の刃部44を用いて裏座ぐり加工を施して座ぐり孔205を形成することができるのみならず、工作物201の表面203にも、先端側の刃部45を用いて表座ぐり加工を施して座ぐり孔206を形成することができる。そして、工作物201よりも先端側にある裏側工作物207の表面208に表座ぐり加工を施して座ぐり孔209を形成することができる。さらに、裏側工作物207の下孔210に座ぐりアーバ41を挿通し、裏側工作物207の裏面211に裏座ぐり加工を施すことができ、表座ぐり加工および裏座ぐり加工の双方が可能になる。しかも座ぐりアーバ41の全長をさらに長く選定することにより、裏側工作物207よりもさらに先端側にある図示しない裏側工作物にも座ぐり加工を施すことが可能となる。
【0063】
次に本発明の他の実施形態になる座ぐりアーバにつき、図13に沿って説明する。図13は本発明の他の実施例を一部断面にして示す要部側面図である。この実施例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。図13に示す実施例の座ぐりアーバ51では、表面処理層16sに代えて、自身の外周面が低摩擦処理されたパイプ部材52を設ける。
【0064】
パイプ部材52は、環状段差34よりも軸線方向先端側に配置され、環状段差34によって、軸線方向後方への移動を規制される。窓28の近傍には、ガイドスリーブ16の外周面に沿って周方向に延びるスナップリング53を設ける。スナップリング53は窓28よりも軸線方向後方に配置され、パイプ部材52が軸線方向前方へ抜け出ることを防止する。なお好ましくは、パイプ部材52の軸線方向寸法は、下孔202の長さ寸法よりも長い。パイプ部材52の外周面上には、低摩擦処理された表面処理層52sが形成される。この表面処理層52sは、例えば、イオン窒化処理、DLC(Diamond Like Carbon)コーティング処理、TiN(窒化チタン)コーティング処理及び鏡面状ラッピング処理等である。
【0065】
図13に示す実施例の座ぐりアーバ51によれば、ガイドスリーブ16の外周面上であって、少なくとも加工すべき工作物の下孔に接する領域にパイプ部材52が取り付けられることから、裏座ぐり加工の際、座ぐりアーバ51の外周と下孔の内周面との間で回転抵抗を減ずることができる。なおパイプ部材52は、ガイドスリーブ16とともに共回りしてもよい。
【0066】
変形例としてパイプ部材52は、窓28よりも軸線方向後端側でガイドスリーブ16の外周に相対回転自在に支持されてもよい。
【0067】
次に本発明のさらに他の実施形態になる座ぐりアーバにつき、図14に沿って説明する。図14は本発明のさらに他の実施例を模式的に示す分解斜視図である。この実施例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。図14に示す座ぐりアーバ61では、軸線に沿って延び、軸線方向後端部が工作機械のホルダに装着可能な差し込み形状である円柱形状のメインシャフト62と、メインシャフト62の先端部に被せられるガイドスリーブ16と、メインシャフト62の先端寄りに取り付けられた刃具13とを備える。
【0068】
メインシャフト62の先端部62sよりも後方には刃具13を収容するための凹部19を形成する。また、メインシャフト62の外周には、座ぐりアーバ61の軸線と平行に延びる条溝63を形成する。条溝63は、メインシャフト先端部62sと、凹部19と、凹部19よりも後方の領域62kとにまたがって延びる。
【0069】
直線状に延びる枢軸64の中程には刃具13を設ける。枢軸64の両端は刃具13からそれぞれ突出する。刃具13を枢支する枢軸64は、条溝63に収容される。これにより、枢軸64の先端部64sはメインシャフト先端部62sに配置され、枢軸64の後端領域はメインシャフト後端領域62kに配置される。
【0070】
ガイドスリーブ16はメインシャフト62に対して相対回転する。そして、周方向一方の第1回転位置で刃具13を覆うことにより刃具を凹部19内の収納位置に保持する。また、周方向他方の第2回転位置で窓28から刃具13を露出させることにより刃具13を窓28から径方向外側に突出させて突出位置にする。
【0071】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明になる座ぐり切削工具は、工作機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0073】
11 座ぐりアーバ、12 メインシャフト主要部、13 刃具、14 シャンク部、16 ガイドスリーブ、16s 表面処理層、17 フランジ部、19 凹部、21 ねじ、22 シャフト先端部材、23 枢軸、24 スプリング、26 ねじ、26t ねじ先端、27 条溝、28 窓、29 スプリング、32 フランジ部、34 環状段差、35 緩衝材、36 切削液通路、41 座ぐりアーバ、43 刃具、44,45 インサートチップ(刃部)、46 刃具本体、51 座ぐりアーバ、52 パイプ部材、53 スナップリング、61 座ぐりアーバ、62 メインシャフト、63 条溝、64 枢軸、101 ホルダ、201 工作物、202 下孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延び、軸線方向後端部が工作機械のホルダに装着可能な差し込み形状であるメインシャフトと、
前記メインシャフトの軸線方向先端部に回動可能に支持され、メインシャフトに沿って倒れる収納位置と、メインシャフトに対して起立する突出位置とにされる刃具と、
前記刃具を回動起立させて前記突出位置に付勢する付勢部材と、
メインシャフトの外周に相対回転可能に設けられた筒状体であって、側面に窓を有し、周方向一方の第1回転位置で前記刃具を覆うことにより刃具を前記収納位置に保持し、周方向他方の第2回転位置で前記窓から前記刃具を露出させることにより刃具を窓から径方向外側に突出させて前記突出位置にするガイドスリーブとを備える、座ぐり切削工具。
【請求項2】
前記ガイドスリーブの外周面上であって、少なくとも加工すべき工作物の下孔に接する領域に設けられて工作物との摩擦を減ずる低摩擦部をさらに備える、請求項1に記載の座ぐり切削工具。
【請求項3】
前記低摩擦部は、前記ガイドスリーブの外周面上に形成された表面処理層である、請求項2に記載の座ぐり切削工具。
【請求項4】
前記低摩擦部は、前記ガイドスリーブの外周面上に取り付けられたパイプ部材である、請求項2に記載の座ぐり切削工具。
【請求項5】
前記ガイドスリーブは、前進時に工作物の表面に当接する段差を含み、前記段差には工作物との衝突を緩和する緩衝材が設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載の座ぐり切削工具。
【請求項6】
前記メインシャフトは、主要部と、前記刃具を支持する刃具支持部と、前記主要部と前記刃具支持部とを接続する連結部とを有し、前記連結部は、前記主要部と前記刃具支持部との間に過度の引離力が加わったときに両者の接続を解くように構成されている、請求項1〜5のいずれかに記載の座ぐり切削工具。
【請求項7】
前記ガイドスリーブの内周面または前記メインシャフトの外周面の一方には、周方向に延びる条溝が形成され、
前記ガイドスリーブの内周面または前記メインシャフトの外周面の他方には、前記条溝と係合する突起が形成され、
前記突起は前記条溝の一端部および他端部に選択的に保持される、請求項1〜6のいずれかに記載の座ぐり切削工具。
【請求項8】
前記メインシャフトは、軸線方向後端部から先端側に向かって延び前記突出位置における前記刃具へ切削液を噴出する切削液通路を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の座ぐり切削工具。
【請求項9】
前記刃具は、軸線方向後端側および軸線方向先端側に刃部をそれぞれ有する、請求項1〜8のいずれかに記載の座ぐり切削工具。
【請求項10】
前記刃具は、刃具本体と、前記刃具本体に取り付けられて工作物を切削するインサートチップとを有する、請求項1〜9のいずれかに記載の座ぐり切削工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−61525(P2012−61525A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205026(P2010−205026)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(591028072)株式会社日研工作所 (43)
【Fターム(参考)】