説明

座席構造

【課題】 軽量化を図り、乗物の燃費向上、省エネ等にさらに貢献できる座席構造を提供する。
【解決手段】 クッションフレーム100に支持される面状支持部材150を、前部フレーム110に前部弾性支持部材160を介し、さらにこの前部弾性支持部材を面ファスナ170ーを介して固定している。前部弾性支持部材160の弾性と面ファスナー170の面方向の弾性により、面状支持部材150及びベースネット300を弾性支持できるため、トーションバーやアームが不要で構造の簡素化が図られ、軽量化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、列車などの乗物用シートに適する座席構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、振動吸収特性、衝撃吸収特性等を向上させるため、シートクッション部の前部にトーションバーを配置し、このトーションバーによりベースクッションを弾性的に支持し、その上部に、三次元立体編物やウレタン材などを配置したクッション構造を備えた座席構造を種々提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2007/077699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたような従来の座席構造を簡易に示すと図9に示したようになる。すなわち、トーションバー500に連結したアーム510の先端部間に掛け渡した支持フレーム520にベースネット530の前端縁530aを係合し、後端縁530bをクッションフレーム540の後部541に係合し、その上に三次元立体編物やビーズ発泡体等のクッション材550を配置している。図10(a)に示したように、着座した際には、クッション材550及びベースネット530は、座骨結節部に対応する部分を中心として下側に変位するが、相対的にアーム510及び支持フレーム520が上方に回動し、大腿部を下方から押圧する。また、着座者が姿勢の変化により大腿部側に重心を移した場合、図10(b)に示したようにアーム510及び支持フレーム520は下方に回動する。
【0005】
上記した座席構造は、トーションバー500の弾性を利用することにより、三次元立体編物等の比較的薄いクッション材550で所望のストロークが得られ、かつ所望の振動吸収特性が得られる。このため従来一般の座席構造で採用されている所定厚みのウレタン材をクッションパンやバックパン上に積層するタイプと比較し、軽量の座席構造を得ることができる。しかし、乗物用シートにおいては、乗物の燃費向上、省エネ等の観点からさらなる軽量化が要請されている。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、より軽量化を図り、乗物の燃費向上、省エネ等にさらに貢献できる座席構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の座席構造は、クッションフレーム及びバックフレームを備えてなる座席構造であって、前記クッションフレームは、前後方向に所定間隔をおいて設けられる前部フレーム及び後部フレームを有してなり、前記クッションフレームの前部フレーム及び後部フレーム間に支持される面状支持部材と、前部が前記面状支持部材の前部に支持され、上部が前記バックフレームの上部に支持され、クッション用ベースネット部とバック用ベースネット部とが一体になっているベースネットと、前記面状支持部材と前記クッションフレームの前部フレームとの間に配設され、圧縮方向に変位可能であると共に、前後への揺動方向にも変位可能である前部弾性支持部材と、前記前部弾性支持部材を前記クッションフレームの前部フレームに固定する面ファスナーとを有し、前記前部弾性支持部材の弾性と前記面ファスナーの面方向の弾性が、前記面状支持部材及び前記ベースネットの弾性支持に利用されていることを特徴とする。
【0008】
前記ベースネットの前部が袋状に形成され、この袋状に形成された部分が前部面状支持部材の前部を被覆して配設されていることが好ましい。前記クッション用ベースネット部の袋状に形成された部分が前部面状支持部材の前部を被覆した状態で、両者が面ファスナーを介して配設されていることが好ましい。前記ベースネットの少なくとも上部が袋状に形成され、この袋状に形成された部分が前記バックフレームの少なくとも上部を被覆して配設されていることが好ましい。前記ベースネットを測定ジグに張って測定した際の減衰比が0.15以下であり、前記クッションフレーム及びバックフレームに張設した際の着座者の重心付近を支持する部位の減衰比が0.1〜0.15であることが好ましい。前記前部弾性支持部材は、所定厚さの三次元立体編物を有してなり、厚さ方向の弾性及び前後への揺動方向の弾性が作用する構成であることが好ましく、前記前部弾性支持部材は、前記三次元立体編物と前記前部フレームとの間に介在される発泡樹脂弾性部材をさらに有してなることが好ましい。前記面状支持部材と前記クッションフレームの後部フレームとの間に配設される後部弾性支持部材をさらに有することが好ましい。前記後部弾性支持部材は、所定厚さの三次元立体編物を有してなることが好ましい。前記面状支持部材は、所定厚さの発泡樹脂弾性部材を有して形成されていることが好ましい。前記面状支持部材は、中央部が凹状となっている断面湾曲状に形成され、無負荷時において、前記ベースネットと前記面状支持部材との間に間隙が形成される構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の座席構造は、クッションフレームに支持される面状支持部材を、前部フレームに前部弾性支持部材を介し、さらにこの前部弾性支持部材を面ファスナーを介して固定している。従って、面状支持部材及びベースネットのそれ自体の弾性が機能すると共に、前部弾性支持部材の弾性と面ファスナーの面方向の弾性によって面状支持部材及びベースネットが弾性支持されるているため、トーションバーやアームが不要で構造の簡素化が図られ、軽量化を図ることができる。また、ベースネットが、クッションフレーム及びバックフレームを一体的に被覆し、バックフレームに吊られた構成であるため、シートクッション部の後部付近はこの構成によっても所定の弾性が機能する。従って、シートクッション部の後部付近の弾性を補う金属バネ等が不要であり、その点でも軽量化に寄与する。また、ベースネットの前部を袋状に形成し、面状支持部材の前部をこの袋状に形成した部分で被覆して配設することが好ましく、さらには、ベースネットの少なくとも上部を袋状に形成し、バックフレームの少なくとも上部をこの袋状に形成した部分で被覆して配設することがより好ましい。このように面状支持部材やバックフレームに係合する部位を袋状に形成して係合することにより、ベースネットの袋状に形成した部分付近では、一方向だけでなく他方向にも弾性が機能するため、柔らかなバネ特性を作り出すことができる。また、面状支持部材として発泡樹脂弾性部材を用いることにより軽量化を図ることができる。また、中央部が凹状となっている断面湾曲状に形成されたものを用いることで、無負荷時においてベースネットと面状支持部材との間で間隙が形成されるため、この間隙がストロークとなり、所定のストロークを得るにあたって、面状支持部材としてより薄いものを用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態に係る座席構造の外観を示した斜視図である。
【図2】図2は、図1の分解斜視図である。
【図3】図3は、図1のA−A線矢視図である。
【図4】図4は、上記実施形態の座席構造の作用を説明するための図1のA−A線矢視図である。
【図5】図5は、面状支持部材を後部弾性支持部材に連結しない態様を示した図である。
【図6】図6は、本発明の他の実施形態に係る座席構造の外観を示した斜視図である。
【図7】図7(a)は、図6のA−A線矢視図であり、図7(b)は図6及び図7(a)のC部付近の外観図であり、図7(c)は、図6及び図7(a)のC部付近の表皮を除いた図であり、図7(d)は、図7(c)のB−B線矢視図である。
【図8】図8は、ベースネットとして三次元立体編物を用いたシートとウレタン材を用いたシートの腰部に対応する部位の減衰比を示した一例である。
【図9】図9は、従来の座席構造におけるシートクッション部の概略構成を示した断面図である。
【図10】図10(a),(b)は、従来のシートクッション部の作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係る座席構造1を示した斜視図であり、図2はその分解斜視図である。これらの図に示したように、座席構造1は、シートクッション部10及びシートバック部20を備え、シートクッション部10はクッションフレーム100を有し、シートバック部20はバックフレーム200を有している。
【0012】
本実施形態の座席構造1は、特に航空機の客室用シートとして用いられるもので、通路側座席1a及び窓側座席1bを有している。クッションフレーム100は、フロアに固定される脚部1cに支持されてフロアから所定の高さに配置される。クッションフレーム100は、前部フレーム110と、前部フレーム110に対して所定間隔をおいて配置される後部フレーム120とを有し、前部フレーム110と後部フレーム120との両側部に、サイドフレーム130が掛け渡されている。なお、前部フレーム110と後部フレーム120は、本実施形態では通路側座席1a及び窓側座席1bで共通のフレームとしているが、それぞれ別々のフレームから構成してもよい。
【0013】
クッションフレーム110には、面状支持部材150が支持される。面状支持部材150は、所定厚さの発泡樹脂弾性部材を有して形成されている。発泡樹脂弾性部材は好ましくはビーズ発泡体から形成される。ビーズ発泡体は、ポリスチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンのいずれか少なくとも一つを含む樹脂のビーズ法による発泡成形体が用いられる。発泡倍率は任意であり限定されるものではない。面状支持部材150は、発泡樹脂弾性部材のみから構成してもよいが、外表面は例えば難燃性布帛で被覆することが好ましい。
【0014】
面状支持部材150は、平面視では略四角形に形成され、クッションフレーム100の前部フレーム110及び後部フレーム120間に掛け渡されるように配設されると共に、各側部は、それぞれサイドフレーム130に支持される。面状支持部材150は、図3の断面図に示したように、前部151寄りの底面には、幅方向に沿って凹状部151aが形成されており、この凹状部151aが、前部フレーム110上に位置するように設定される。凹状部151aと前部フレーム110との間には前部弾性支持部材160が介在される。
【0015】
前部弾性支持部材160は、本実施形態では所定厚さの三次元立体編物161と発泡樹脂弾性部材162とを積層して構成される。三次元立体編物161は、所定間隔離間した一対のグランド編地と、一対のグランド編地間を連結する連結糸とから形成されたものであり。グランド編地や連結糸の素材、あるいは厚さ等は、圧縮及び揺動変位により所望の弾性を機能させることができる限り限定されるものではない。本実施形態では、所望の弾性を得るために1枚の三次元立体編物161を二つ折りにして、外面を布材161aで被覆したものを用いている。もちろん、二つ折りではなく、三次元立体編物を複数枚を積層したものでもよい。
【0016】
前部弾性支持部材160を構成する発泡樹脂弾性部材162は、上記面状支持部材150と同様に例えばビーズ発泡体から構成され、布材162aにより被覆されている。そして、三次元立体編物161及び発泡樹脂弾性部材162は、それぞれを被覆する各布材161a,162a同士が縫製等により一体化されている。
【0017】
前部弾性支持部材160は、三次元立体編物161が面状支持部材150の底面の凹状部151aに縫製等により固定され、発泡樹脂弾性部材162が前部フレーム110の上面に固定される。具体的には、発泡樹脂弾性部材162と前部フレーム110とは、両者間に面ファスナー170を介在させて固定される。面ファスナー170は、フック及びループ間の係合により連結されるため、フック及びループの撓みによる面方向に沿った弾性作用により、発泡樹脂弾性部材162と前部フレーム110との間での相対運動が可能となる。従って、前部弾性支持部材160の三次元立体編物161が圧縮される方向に変位することで着座時のストローク感が確保されると共に、大腿部が面状支持部材150の前部151寄りの部分を押圧することで、前部弾性支持部材160の三次元立体編物161が前方に押しつぶされるように変位しながら、面ファスナー170の面方向に沿った弾性により、前部フレーム110を中心として三次元立体編物161が前方に倒れる方向に変位していく。前部弾性支持部材160は、このように圧縮されながら前方に揺動するように変位することで、着座時におけるストローク感を確保すると共に、振動吸収作用を担う。特に、本実施形態では、前部フレーム110が断面略C字状であり、面ファスナー170を介して発泡樹脂弾性部材162が積層される面が断面円弧状であるため、前部弾性支持部材160は前後に回転揺動変位しやすくなっている。
【0018】
面状支持部材150はまた、後部152寄りに下方に突出する下方突出部152aを有する。ここで、後部フレーム120は、断面略J字状に形成されており、面状支持部材150の後部152は、「J」の文字の上部横線に相当する上辺部120aの上部に位置し、下方突出部152aが「J」の文字の下部円弧部120bの上面に支持される。下方突出部152aと後部フレーム120の下部縁弧部120bとの間には、後部弾性支持部材180が配設される。本実施形態では、後部弾性支持部材180は、三次元立体編物181を二つ折りにしたものを布材181aにより被覆し、この布材181aを下方突出部152a及び後部フレーム120の下部縁弧部120bに縫製などにより固定して設けられている。
【0019】
面状支持部材150の両側部の下面は、各サイドフレーム130に、面ファスナー(図示せず)を介して固定される。従って、前後振動が付加された際に、面状支持部材150の両側部と各サイドフレーム130とを相対変位させる弾性が、該面ファスナーの面方向に作用する。
【0020】
バックフレーム200は、クッションフレーム100の各サイドフレーム130の後部と後部フレーム120との交差部付近に各下端部が連結されて上方に延びるサイドフレーム230を、通路側座席1a及び窓側座席1bのそれぞれに備えている。そして、通路側座席1a及び窓側座席1bのそれぞれにおける一対のサイドフレーム230の上端部間には、着座者の頭部が当接する上部フレーム210が掛け渡されている。なお、上部フレーム210は、発泡樹脂弾性部材、特にビーズ発泡体で被覆されていることが好ましい。頭部が当接した際に、発泡樹脂弾性部材の有する弾性により頭部の当たり感を低減し、柔らかく支持できる。
【0021】
シートクッション部10にはクッション用ベースネット部310が配設され、シートバック部20にはバック用ベースネット部320が配設される。本実施形態のベースネット300は、クッション用ベースネット部310とバック用ベースネット部320とが一体的に形成されている。なお、ここでいう「一体的に形成されている」とは、クッション用ベースネット部310とバック用ベースネット部320とが1枚のベースネット素材で構成されているもの、複数枚のベースネット素材を適宜の位置で縫い継いで一体化したものの両方を含む意味である。
【0022】
クッション用ベースネット部310の前部311は、その裏面が、面状支持部材150の前部151の前端面151bに係止部材、本実施形態では面ファスナー312を介して固着され、面状支持部材150の表面を覆って、面状支持部材150の後部152方向に延びている。バック用ベースネット部320は、一体になっているクッション用ベースネット部310の後部位置から引き続き、バックフレーム200の表側を被覆して、上部フレーム210に掛け回されて上部321が支持され、さらに、バックレーム200の裏側を被覆し、裏側端部322がクッションフレーム100の後部フレーム120の裏面に縫製により固着される。なお、ベースネット300は、クッション用ベースネット部310に相当する部分から、バック用ベースネット部320のランバーサポートに相当する範囲までは2枚重ねになっており、着座時におけるストローク感を高めている。また、バック用ベースネット部320の上部321付近における頭部が当接する部位も2枚重ねになっており、頭部当接時におけるストローク感を高めている。
【0023】
ベースネット300は、薄型でありながら所定の弾性を有する三次元立体編物から形成することが好ましい。但し、二次元ネット材、あるいは、二次元ネット材に薄手のウレタン材を積層したものであっても所定の弾性を備えていれば使用可能である。ベースネット300は、クッション用ベースネット部310の前部311が面状支持部材150の前部151に支持され、バック用ベースネット部320の上部321がバックフレーム200の上部フレーム210に吊られるように支持されている。従って、着座動作時や振動入力時において、クッション用ベースネット部310の後部とバック用ベースネット部320下部との境界付近330が上下及び前後に変位すると、クッション用ベースネット部310の前後の伸縮、バック用ベースネット部320の上下の伸縮が生じ、それらの伸縮により所定の弾性が作用する。ベースネット300は、三次元立体編物、二次元ネット材等のいずれも、好ましくは、該ベースネット300を伸び率0%で測定ジグに張設し、直径98mmの圧縮板で加圧した際の静荷重特性のヒステリシスロスが50%以下、より好ましくは30%以下のものが望ましい。また、上記測定ジグに伸び率0%で張られたベースネット300に重さ6.7kgのウエイトを落下させた際の減衰比が、0.5以下、好ましくは0.35以下のものがよいが、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.15以下のものが望ましい。それにより、ベースネット300が高い復元力を発揮でき、振動吸収性、衝撃吸収性をさらに向上させることができる。
【0024】
なお、ベースネット300のうち、少なくとも、クッション用ベースネット部310の前部311からバック用ベースネット部320の上部321までの表面は、皮革、合成皮革、ファブリック等からなる表皮400により被覆される。
【0025】
本実施形態によれば、人が着座すると、図4の二点鎖線で示したように、シートクッション部10において、表皮400及びクッション用ベースネット部310と共に、面状支持部材150が下方に変位し、前部弾性支持部材160の三次元立体編物161が押しつぶされていく。また、クッション用ベースネット部310が下方に変位していくと、一体に形成されたバック用ベースネット部320が下方に伸びていく。これらのバネ作用により、着座動作時におけるストロークが得られる。特に、面状支持部材150がビーズ発泡体等の発泡樹脂弾性部材から形成されていることから、高剛性となり、張力構造体であるベースネット300の引っ張り方向の弾性をよく引き出す。また、前部弾性支持部材160の不安定な前後への回転変位によってもベースネット300の引っ張り方向の弾性が機能しやすくなる。この面状支持部材150を硬い層とした場合に、硬い層が、上記のバネ作用を果たす張力構造体であるベースネット300の引っ張り方向の弾性と下部に配設された前部弾性支持部材の圧縮特性との2つのバネの層により支持され、さらに、硬い層の上面にベースネット300及び表皮400の圧縮特性による柔らかい層が支持されていることから、安定した支持感のある中でストローク感を奏することができる。
【0026】
また、着座者が脚部を伸ばしたりすると、大腿部が面状支持部材150の前部151付近を下方に押圧する。すると、面状支持部材150を支持する前部弾性支持部材160が、圧縮方向だけでなく、前方向にも回転変位していく。それにより、前部弾性支持部材160の三次元立体編物161の弾性が作用すると共に、クッション用ベースネット部310の面方向への弾性と、さらには、面ファスナー170の面方向への弾性も作用するため、金属バネを使用しない簡易な構成でありながら、脚部を伸ばした際にも十分なストローク感が得られる。
【0027】
一方、乗物の動作時(走行時)において、フロアから前部フレーム110及び後部フレーム120を介して伝達される振動に対しては、前部弾性支持部材160の三次元立体編物161の弾性、後部弾性支持部材180の三次元立体編物181の弾性、ベースネット300の伸縮、前部弾性支持部材160を前部フレーム120に支持している面ファスナー170の面方向の弾性、さらには、面状支持部材150の両側部をサイドフレーム130に支持している面ファスナーの面方向の弾性等が作用する。これにより、金属バネを採用しない簡易かつ軽量な構造であっても、高い振動吸収特性を達成できる。
【0028】
なお、面状支持部材150は、図2に示したように、中央部150aが凹状となっている断面湾曲状に形成されたものを用いることが好ましい。それにより、ベースネット300のクッション用ベースネット部310と面状支持部材150の中央部150aとの間には、無負荷時において間隙が形成されることになる。そのため、着座動作時には、この間隙がなくなるまで、すなわち、クッション用ベースネット部310の裏面が面状支持部材150の中央部150aの表面に当接するまでがストローク感としてさらに作用することになり、面状支持部材150を平坦面に形成した場合よりも、同じ厚さでありながら、より高いストローク感を得ることができる。
【0029】
また、図5に示したように、面状支持部材150の下方突出部152aを、後部弾性支持部材180(図5では2枚の三次元立体編物の積層体から構成した例を示している)に一体化せずに、載置しただけの構成とすることもできる。この場合には、着座者が脚部を伸ばした時など、面状支持部材150の前部151を下方に押圧する力が作用した際に、下方突出部152aが固定されていないため、面状支持部材150が前傾しやすくなり、臀部や大腿部への追従性が向上し、フィット感が高まるという利点がある。
【0030】
図6及び図7は、本発明の他の実施形態に係る座席構造1を示した図である。本実施形態では、クッション用ベースネット部310の前部を袋状に加工したベースネット袋状部3110を有するものである。ベースネット袋状部3110は、面状支持部材150の前部151の上面、下面及び両側面を包み込むことができるように、クッション用ベースネット部310の前部を上側から下側に折り、さらに後部側に折り返し、両側部に側部被覆部3110aを設けて袋状にしている。側部被覆部3110aを設けて袋状に加工する手段は任意であり、例えば、縫製によりマチを作る手段を利用したり、つまみ縫いをしたり、あるいは、成型手段を用いたりすることができる。
【0031】
クッション用ベースネット部310にベースネット袋状部3110を形成した場合、それを被覆する表皮400にも、このベースネット袋状部3110を被覆することができるように、該表皮400におけるシートクッション部10の前部を袋状に加工した表皮袋状部4110を形成することが好ましい。表皮袋状部4110も、ベースネット袋状部3110と同様、前部を上側から下側に折り、さらに後部側に折り返して両側部に側部被覆部4110aをマチ縫い、つまみ縫い等により設けて形成される。この際、外観上、ベースネット袋状部3110が表皮袋状部4110により隠れるように、ベースネット袋状部3110の端縁ライン(図7のCライン)よりも、表皮袋状部4110の端縁ライン(図7のBライン)が後方側になるように形成することが好ましい。
【0032】
このように、ベースネット袋状部3110を形成し、面状支持部材150の前部151の上面、下面及び両側面を包み込む構成とすることより、ベースネット袋状部3110付近は、前後方向及び幅方向だけでなく、面状支持部材150の厚み方向にも弾性が作用し、クッション用ベースネット部310のバネ特性をより柔らかにし、着座者の動きに対する追従性、振動吸収性のさらなる向上を図ることができる。また、ベースネット袋状部3110は、面状支持部材150の前部151との間で面ファスナー190を介して固定されることが好ましい。これにより、この面ファスナー190の面方向の弾性も直列配列で作用する。
【0033】
ベースネット300は、上記実施形態と同様に、三次元立体編物、二次元ネット材、二次元ネット材に薄手のウレタン材を積層したもの等を用いることができ、上記のようにヒステリシスロスが50%以下、好ましくは30%以下のものが望ましい。また、減衰比が0.5以下、好ましくは0.35以下のものを用いることができるが、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.15以下のものを用いることが望ましい。ベースネット300としてこのようなものを用いた上で、上記のように、ベースネット袋状部3110を形成し、さらに、バック用ベースネット部320をバックフレーム200の少なくとも上部を覆うように袋状に形成して配設することで、ベースネット300における着座者の重心付近を支持する部位、すなわち、クッション用ベースネット部310の後部及びバック用ベースネット部320の下部(腰椎・骨盤支持部)の減衰比を所望の値とすることができる。例えば、測定ジグに張設して測定した際の減衰比が0.15以下のもの、好ましくは、0.1〜0.15のものを用いるとすると、実際にクッションフレーム100及びバックフレーム200に伸び率5%以下で張設し、本実施形態のようにベースネット袋状部3110を形成し、バック用ベースネット320の上部も袋状とすると、着座者の重心付近を支持する部位の減衰は0.1〜0.15となる。これは、ベースネット袋状部3110及び袋状に形成したバック用ベースネット320の上部の袋状の部分の復元力が高く、さらに、上記の面ファスナー190の面方向の弾性も作用するためであり、重心付近でも高い復元力が得られるものである。これにより、着座者の動きに対する追従性、離席したときの形状の復元性、着座時のストローク感をさらに高めることができる。
【0034】
ここで、図8は、シートバック部の腰部付近の減衰比を示した図である。「Development Seat」は、三次元立体編物を袋状にしてバックフレームに張設し、下端部を剛性の高いビーズ発泡体に回し込み、直径3.2mmのSバネをバックフレームに取り付けて、該Sバネによりビーズ発泡体を支持した構造である。なおSバネとビーズ発泡体間の面圧を下げるために、Sバネには合成樹脂の支持プレートが設定されている。本実施形態はこのSバネの代わりに面ファスナーや前部弾性支持部材が設けられ、さらに、一方の張力構造体に、シートを構成する他方のフレーム(バックフレームであればクッションフレームのこと、クッションフレームであればバックフレームのこと)に張設された他方の張力構造体からの復元力が付与されたものである。「Conventional Seat」は、バックフレームに支持したワイヤ上にウレタンを積層したシートである。この図から、「Conventional Seat」の減衰比が約0.2であるのに対し、三次元立体編物を袋状にして面ファスナーと他方のフレームに支持された張力構造体、さらには、前部弾性支持部材で支持することにより、減衰比を0.15程度とすることができることがわかった。本実施形態によれば、「Development Seat」のSバネと同様の機能を果たす本実施形態の面ファスナー、張力構造体、前部弾性部材等の構成で0.15程度の減衰比を達成でき、「Development Seat」と同程度若しくはそれ以上の高いバネ感が得られることできると共に、金属バネを用いていないため、軽量化を図ることができる。なお、「Conventional Seat」のように、ワイヤにウレタンを支持するのではなく、バックフレームにSバネを3本設け、そのSバネにウレタンを支持した従来よく用いられているシートの場合、パッド支持部材の剛性がSバネによって担保されているため、パッド支持部の剛性が低くなり、そのシートバック部の腰部付近の減衰比は約0.3に上昇していた。すなわち、上記の事実は、クッション材の構成要素である柔らかい層、硬い層、バネの層の中の硬い層の剛性がバネの層で作られる減衰比に大きな影響を与えることが示唆されたことを示す。
【0035】
なお、図6及び図7の実施形態では、前部弾性部材160として、二つ折りにした三次元立体編物161からなるものを用い、前部フレーム110との間で、上記実施形態で用いた発泡樹脂弾性部材162を積層せずに、面ファスナー170を介して該前部フレーム110に取り付けている。発泡樹脂弾性部材162が積層されないためその分の弾性は作用しないが、面ファスナ170の面方向の弾性及び二つ折りの三次元立体編物161の回転揺動方向の弾性は作用し、要求される性能に応じてこのような構成とすることも可能である。
【0036】
また、上記各実施形態では、バック用ベースネット部320は、バックフレーム200の上部フレーム210に上部321が支持されると共に、バックレーム200の裏側を被覆するように配設されている。すなわち、バック用ベースネット部320は、バックフレーム200の全体(上部フレーム210からサイドフレーム230の下部までを含む範囲)を覆う大きさの袋状に形成されている。これにより、バック用ベースネット部320は、面方向(上下方向、幅方向)に加えて、バックフレーム200の表裏方向にもバネ特性が作用し、着座者の動きに対する追従性や振動吸収性の向上に寄与するが、バックフレーム200の上部フレーム210からサイドフレーム230の中途部(好ましくは着座者の胸部に対応する付近に至る範囲程度)までを袋状に形成する構成とすることもできる。それにより、胸部付近を境に、着座者の背部の支持圧が変化し、中折れ姿勢を作りやすい構造とすることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 座席構造
10 シートクッション部
20 シートバック部
100 クッションフレーム
110 前部フレーム
120 後部フレーム
130 サイドフレーム
150 面状支持部材
160 前部弾性支持部材
170 面ファスナー
180 後部弾性支持部材
200 バックフレーム
210 上部フレーム
230 サイドフレーム
300 ベースネット
310 クッション用ベースネット部
3110 ベースネット袋状部
320 バック用ベースネット部
400 表皮
4110 表皮袋状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッションフレーム及びバックフレームを備えてなる座席構造であって、
前記クッションフレームは、前後方向に所定間隔をおいて設けられる前部フレーム及び後部フレームを有してなり、
前記クッションフレームの前部フレーム及び後部フレーム間に支持される面状支持部材と、
前部が前記面状支持部材の前部に支持され、上部が前記バックフレームの上部に支持され、クッション用ベースネット部とバック用ベースネット部とが一体になっているベースネットと、
前記面状支持部材と前記クッションフレームの前部フレームとの間に配設され、圧縮方向に変位可能であると共に、前後への揺動方向にも変位可能である前部弾性支持部材と、
前記前部弾性支持部材を前記クッションフレームの前部フレームに固定する面ファスナーと
を有し、
前記前部弾性支持部材の弾性と前記面ファスナーの面方向の弾性が、前記面状支持部材及び前記ベースネットの弾性支持に利用されていることを特徴とする座席構造。
【請求項2】
前記クッション用ベースネット部の前部が袋状に形成され、この袋状に形成された部分が前部面状支持部材の前部を被覆して配設されている請求項1記載の座席構造。
【請求項3】
前記クッション用ベースネット部の袋状に形成された部分が前部面状支持部材の前部を被覆した状態で、両者が面ファスナーを介して配設されている請求項2記載の座席構造。
【請求項4】
前記バック用ベースネット部の少なくとも上部が袋状に形成され、この袋状に形成された部分が前記バックフレームの少なくとも上部を被覆して配設されている請求項1〜3のいずれか1に記載の座席構造。
【請求項5】
前記ベースネットを測定ジグに張って測定した際の減衰比が0.15以下であり、前記クッションフレーム及びバックフレームに張設した際の着座者の重心付近を支持する部位の減衰比が0.1〜0.15である請求項1〜4のいずれか1に記載の座席構造。
【請求項6】
前記前部弾性支持部材は、所定厚さの三次元立体編物を有してなり、厚さ方向の弾性及び前後への揺動方向の弾性が作用する構成である請求項1〜5のいずれか1に記載の座席構造。
【請求項7】
前記前部弾性支持部材は、前記三次元立体編物と前記前部フレームとの間に介在される発泡樹脂弾性部材をさらに有してなる請求項6記載の座席構造。
【請求項8】
前記面状支持部材と前記クッションフレームの後部フレームとの間に配設される後部弾性支持部材をさらに有する請求項1〜7のいずれか1に記載の座席構造。
【請求項9】
前記後部弾性支持部材は、所定厚さの三次元立体編物を有してなる請求項8記載の座席構造。
【請求項10】
前記面状支持部材は、所定厚さの発泡樹脂弾性部材を有して形成されている請求項1〜9のいずれか1に記載の座席構造。
【請求項11】
前記面状支持部材は、中央部が凹状となっている断面湾曲状に形成され、無負荷時において、前記ベースネットと前記面状支持部材との間に間隙が形成される構成である請求項1〜10のいずれか1に記載の座席構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−1293(P2013−1293A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135835(P2011−135835)
【出願日】平成23年6月19日(2011.6.19)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】