説明

座席装置

【課題】座席装置を利用する人が他の座席装置を利用する他人との関係において心理的に不快な気持ちを抱くことを少なくでき、プライバシーを尊重された快適な気分での利用を可能とする座席装置を提供する。
【解決手段】座席装置10はシート12の後方及び両側方を覆うバックシェル13の後側壁の上端部にカバー装置24が設けられている。カバー装置24は、可撓性を有する材料で袋状をなすように形成されたカバー部材26と、該カバー部材26を渦巻きばね27の付勢力で不使用態様の非展開状態にして収納保管する収納ボックス25とを備えている。カバー部材26は内部に空気が供給されて充満することにより、シート12のバックレスト19に背中を当接させた状態にある人の頭部分を呼吸確保のための空間域を介在させた状態でカバー可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空機や車両等の客室内に設置した場合に好適な座席装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、航空機や車両等の客室内には様々な種類の乗客用座席装置が設置されている。例えば、航空機の場合、エコノミークラスの客室内には二人掛けや三人掛けの座席装置が主として設置される一方、ファーストクラスの客室内には乗客に対して十分なゆとり感や快適感を与えられるように、座部やバックレスト(背もたれ)が大型とされた一人掛けの座席装置が主として設置されている。そして、このようなファーストクラスに設置される座席装置では、近時、例えば特許文献1に記載の座席装置のように、バックレストを後方へ単に所定角度だけ傾倒させるリクライニング状態ばかりでなく、バックレストを後方へ更に大きく傾倒させて座部やレッグレスト(脚支え)と共に略水平状態とするベッド状態の態様もとれるようになっている。すなわち、座席装置がベッドとしても機能するようになっている。そのため、乗客は長時間に亘る飛行中において通常状態及びリクライニング状態での着座姿勢のみならず、その座席装置をベッド状態とすれば仰臥姿勢をとることも可能となり、着座姿勢よりも身体が楽な仰臥姿勢で快適に睡眠をとることができるようになっている。
【特許文献1】特開2000−33900号公報(請求項10、段落番号[0124]、図16)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記したような座席装置が設置される客室内には、通常、各座席装置の脇に通路が設けられている。そして、そのような通路は、客室乗務員だけに限らず、他の乗客も客室内の移動時に利用する。そのため、座席装置をベッド状態にして仰臥姿勢をとった場合、その乗客は自分の表情(例えば寝顔など)を座席装置脇の通路を歩いて通り過ぎる他の乗客から見下ろされることになり、心理的に不快な気持ちを抱くようになる。なお、この点は、座席装置を通常状態やリクライニング状態にして着座姿勢をとっている場合にも、座席装置脇の通路を通り過ぎる他の乗客からは見下ろされる姿勢となるため、乗客のプライバシー尊重という見地からすると、決して好ましいものではなかった。また、前後や左右で隣り合う他の乗客が座席装置の上方(客室天井)に設けられた座席照明灯を点灯させた場合には、はからずもそのような他の乗客が点灯した照明灯の光を顔の略正面から受けることになり、この点でも、乗客は心理的に不快な気持ちを抱くことがあった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、座席装置を利用する人が他の座席装置を利用する他人との関係において心理的に不快な気持ちを抱くことを少なくでき、プライバシーを尊重された快適な気分での利用を可能とする座席装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、座席装置に係る請求項1に記載の発明は、少なくとも座部とバックレストとを有するシートと、該シートのバックレストに背中を当接させた状態にある人の頭部分を呼吸確保のための空間域を介在させた状態でカバー可能なカバー部材とを備えたことを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の座席装置において、前記シートの近傍には、前記カバー部材を収納保管するための収納部が設けられており、前記カバー部材は、前記収納部内に収納保管された不使用態様と、前記収納部内から引き出された使用態様とを取り得る構成とされていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の座席装置において、前記収納部は、前記シートが前記バックレストを略直立とした通常状態にある場合において該バックレストの後側上方となる位置に設けられており、前記カバー部材は、不使用態様から使用態様へ移行する場合に、前記収納部内から前側下方に向けて引き出される構成とされていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の座席装置において、前記カバー部材は、前記頭部分をカバーした状態において少なくとも頭部分の前面側と対向することになる部分が可撓性を有する材料で形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の座席装置において、前記カバー部材は、可撓性を有する材料によって袋状をなすように形成されたものであり、その内部への流体の供給に基づき膨張して使用態様の展開状態となるものであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の座席装置において、前記カバー部材は、常に、その内部に流体が充満して膨張した展開状態とされていることを特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の座席装置において、前記カバー部材は、常には不使用態様の非展開状態とされており、その内部に流体が供給されることにより膨張して使用態様の展開状態となるものであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の座席装置において、前記カバー部材には、常には渦巻き状をなして前記カバー部材をロール状に巻き上げて不使用態様の非展開状態に保持するスプリングが装着されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項9に記載の発明は、請求項7又は請求項8に記載の座席装置において、前記カバー部材には、該カバー部材の内部へ流体を供給するための流体供給装置が流体供給経路を介して接続されており、該流体供給経路の途中にはバルブ装置が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1〜請求項9のうち何れか一項に記載の座席装置において、前記シートは、前記バックレストが座部と共に略水平となるベッド状態にすることが可能とされており、該ベッド状態とした場合において前記カバー部材が使用態様とされた場合には、該カバー部材の端縁が前記バックレストに背中を当接させた仰臥状態にある人の胸部に当接する構成とされていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1〜請求項10のうち何れか一項に記載の座席装置において、前記シートの後側には、該シートの後方及び両側方を覆うバックシェルが設けられており、前記カバー部材が使用態様とされた場合には、該カバー部材とバックシェルとによって閉鎖空間域が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、座席装置を利用する人は、バックレストに背中を当接させた状態にあるとき、自分の頭部分をカバー部材によって呼吸可能な状態を確保しつつカバーすることができる。そのため、自分の顔が他人から直接見られることをカバー部材によって抑制できるようになる。従って、座席装置を利用する人は他の座席装置を利用する他人との関係で心理的に不快な気持ちを抱くことが少なくなり、プライバシーが尊重された快適な気分で座席装置を利用することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、座席装置の利用者がカバー部材を使わないときは、そのカバー部材をシートの近傍の収納部内に収納保管しておくことができるため、座席装置の利用者が着座したり離座したりする際の邪魔になることもない。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、カバー部材を使用態様とする際には、該カバー部材をシートの後側上方位置にある収納部内から前側下方へ向けて変位させるものであるため、シートを通常状態としたままで前記カバー部材を使用態様とする場合でも、不使用態様から使用態様へ移行する途中のカバー部材がバックレストに背中を当接させた状態の着座姿勢にある人の頭部分にぶつかることもない。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、シートのバックレストに背中を当接させた状態にある人が不意に起きあがって頭部分をカバー部材にぶつけた場合でも、頭部分に強い衝撃を受けないようにすることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、カバー部材には内部に流体が供給されて膨張した展開状態において良好なクッション性を付与することができる。
請求項6に記載の発明によれば、カバー部材は常に内部に流体が充満して膨張した展開状態とされているので、カバー部材を使用する度毎に流体の供給作業をする必要が無く、迅速にカバー部材を使用することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、カバー部材を使用したい場合は、不使用態様の非展開状態となっているカバー部材内へ流体(例えば空気)を供給するようにすれば、簡単に使用態様の展開状態とすることができる。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、カバー部材を使用態様から不使用態様に戻したいときは、カバー部材内に充満して該カバー部材を使用態様の展開状態に保形している空気を、該カバー部材内から流出するようにしてやれば、スプリングの付勢力によりカバー部材はロール状に巻き上げられ、不使用態様の非展開状態へと簡単に戻すことができる。
【0022】
請求項9に記載の発明によれば、流体供給装置から流体供給経路を介してカバー部材内に流体を供給してカバー部材を使用態様の展開状態とした後、バルブ装置により流体供給経路を介しての流体の流動を遮断すれば、前記カバー部材を使用態様の展開状態に保持することができる。
【0023】
請求項10に記載の発明によれば、シートをベッド状態にして仰臥状態にある人の胸部にカバー部材の端縁が当接した場合には、その人の上半身をカバー部材でカバーすることができる。
【0024】
請求項11に記載の発明によれば、カバー部材とバックシェルとによって閉鎖空間域が形成されるため、該空間域内の雰囲気環境(温度、湿度など)を外部の雰囲気環境とは異なるものに調整することも可能となる。しかも、その際には調整対象となる閉鎖空間域は小さな容量であるため、簡単に雰囲気環境の調整ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を、航空機におけるファーストクラスの客室に設置される一人掛けの座席装置に具体化した一実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。
図1に示すように、本実施形態の座席装置10は、平面視した場合に一側が切り欠かれた略矩形環状をなすパーティション11と、そのパーティション11の内側に設置されるシート12とを備えている。前記パーティション11は、シート12の後方及び両側方を覆うように配置されるバックシェル13と、該バックシェル13と向かい合うようにしてシート12の前方に配置されるフロントシェル14と、前記バックシェル13とフロントシェル14の片側同士を連結するサイドシェル15とが一体化した構成になっている。
【0026】
前記サイドシェル15の内面側には操作パネル16が設けられており、該操作パネル16を用いた操作内容により、座席装置10が装備する様々な機器(例えば、座席照明灯や後述するカバー装置24等)を使用態様又は不使用態様とすることができるようになっている。そして、前記パーティション11においてサイドシェル15が設けられていない側が座席装置10の入口10aとされ、該入口10aを介して座席装置10内と該座席装置10の脇に設けられた通路Pとの出入りができるようになっている。
【0027】
一方、前記シート12は、図示しないスライド機構を介して前後方向へのスライド移動自在とされたシート基部17を備えており、該基部17の上にクッション材からなる座部18が設けられている。座部18の後側縁には背もたれとして機能するバックレスト19が、その下端部を支点として前後方向への傾動自在に設けられており、バックレスト19の上端部にはヘッドレスト20が設けられている。また、前記座部18の前側縁にはレッグレスト21が、その上端部を支点として前後方向への傾動自在に設けられ、座部18の左右両側縁にはアームレスト22が夫々設けられている。なお、座部18の後側縁寄り位置には、左右両アームレスト22間に亘るようにシートベルト23が設けられている。
【0028】
そして、本実施形態の座席装置10では、前記シート12が、バックレスト19を略直立とする通常状態、その通常状態からバックレスト19が後方へ所定角度だけ傾倒されるリクライニング状態、及びそのリクライニング状態からバックレスト19が更に後方へ傾倒されて略水平となるベッド状態という3つのシート態様を取り得るようになっている。因みに、図1及び図2は通常状態のシート態様を示し、図4〜図6はベッド状態のシート態様を示している。この図4等からも理解されるように、ベッド状態のシート態様では、シート基部17が通常状態(及びリクライニング状態)のときよりも前方へスライド移動した状態において、前記座部18とバックレスト19及びレッグレスト21が略水平状態となるように構成されている。
【0029】
図1及び図2(a)(b)に示すように、前記バックシェル13は、その左右両側壁の上端面13aが前下がりの円弧面形状をなすように形成されており、左右両側壁間を連結する後側壁の上端部にはカバー装置24が取り付けられている。カバー装置24は、前面側に開口部25aが形成された横長箱状の収納ボックス(収納部)25を備えており、該収納ボックス25内に可撓性を有する材料によって袋状をなすように形成されたカバー部材26が収納保管されている。因みに、前記材料としては、カバー部材26を袋状に成型した場合において当該カバー部材26に可撓性を付与できる材料であれば種々の樹脂材料を使用可能であり、本実施形態の場合は一例として有色のビニール樹脂材料が使用されている。このカバー部材26は、図2(b)に示すように、収納ボックス25の内奥位置に基端部が取り付け固定されており、その先端側がロール状に巻き上げられた非展開状態で収納ボックス25内に収納保管されている。すなわち、図3に示すように、カバー部材26内の左右両側には渦巻きばね(スプリング)27が装着されており、常には、この渦巻きばね27の巻き上げ方向への付勢力によって前記カバー部材26はロール状に巻き上げられた不使用態様の非展開状態とされて前記収納ボックス25内に収納保管されるようになっている。
【0030】
また、図2(a)(b)に示すように、前記バックシェル13の後側壁は、内面パネル13bと外面パネル13cとの間の内部空間に縦パイプ(流体供給経路)28が上下方向へ沿うように配設されている。この縦パイプ28は、その上端部が前記収納ボックス25内まで突出しており、前記袋状をなすカバー部材26の基端部下面側に対して、該カバー部材26の内部と連通するように接続されている。一方、前記バックシェル13の内側で前記シート12の後側となる床面上には空気圧縮機(流体供給装置)29が設置され、該空気圧縮機29には水平パイプ(流体供給経路)30が連結されている。この水平パイプ30は、その先端部がバックシェル13の内面パネル13bを貫通して内部空間まで突出しており、その内部空間の下部において、前記縦パイプ28の下端部と電磁バルブ(バルブ装置)31を介して連結されている。
【0031】
そして、前記電磁バルブ31の開弁状態において空気圧縮機29が駆動された際には、水平パイプ30及び縦パイプ28を介して空気(流体)が前記カバー部材26内に供給され、その空気供給を受けてカバー部材26が渦巻きばね27の付勢力に抗して膨張し、図3に示すように収納ボックス25外で展開状態となるように構成されている。その場合、カバー部材26は、該カバー部材26の先端部(端縁)26aがバックシェル13の左右両側壁の前下がり円弧面状をなす前記上端面13aに摺接ガイドされて図3に示す状態となる。
【0032】
そこで次に、上記のように構成された本実施形態の座席装置10の作用について、特に前記シート12がベッド状態のシート態様とされた場合において、前記カバー装置24が使用された場合の作用に着目して以下説明する。
【0033】
さて、図4に示すように、シート態様がベッド状態とされた場合には、前述したように前記座部18とバックレスト19(ヘッドレスト20)及びレッグレスト21が略水平状態となる。従って、この状態では、その座席装置10を利用する人32が背中33をバックレスト19に当接させると、その人32は頭部分34をヘッドレスト20に載せた状態で上方を向いた仰臥姿勢となる。そのため、そのような仰臥姿勢にあるときに、他の乗客(他人)が座席装置10の脇の通路Pを歩いて通り過ぎると、自分の表情(寝顔など)を前記他の乗客に見下ろされることになり、心理的に不快な感じを抱くようになる。また、その仰臥姿勢では、客室の天井に設けられた座席照明灯の光が眩しく感じることもある。従って、そのような場合、仰臥姿勢をとった前記人32は前記サイドシェル15に設けられた操作パネル16を用いて前記カバー装置24を駆動させる。すなわち、前記操作パネル16を使用して、カバー部材26を不使用態様の非展開状態から使用態様の展開状態へ移行させるための操作を行う。
【0034】
すると、その操作が行われたことに基づき、前記空気圧縮機29が駆動を開始し、前記水平パイプ30及び縦パイプ28を介して前記カバー部材26の内部に空気が供給される。なお、その際、前記電磁バルブ31は開弁状態とされている。すると、空気圧縮機29からの空気供給を受けて、カバー部材26が収納ボックス25内から収納ボックス25外へ引き出されるようにして膨張し始める。すなわち、渦巻きばね27によりロール状に巻き上げられた不使用態様の非展開状態から、渦巻きばね27の付勢力に抗して収納ボックス25の開口部25aから前方へ引き出されるように基端部側から徐々に膨張して使用態様の展開状態へと移行し始める。例えば、図5に示すように、先端部26aは未だ巻き上げられた状態ではあるが、基端部側はバックシェル13における前下がり円弧面状の上端面13aに沿う膨らみ形態となり、仰臥姿勢にある人32の頭部分34をカバーし始めるようになる。
【0035】
そして、前記空気圧縮機29からの空気供給が更に継続され、カバー部材26の内容量に応じて予め設定された容量の空気供給が完了すると、空気圧縮機29の駆動が停止される。また、この空気圧縮機29の駆動停止に追随して前記電磁バルブ31が開弁状態から閉弁状態に切り替わる。すると、図6に示すように、カバー部材26は先端部26aが前記仰臥姿勢にある人32の胸部35に当接する位置まで垂れ下がり、図3に示したような使用態様の展開状態(空気が充満した状態)となってその膨張動作を停止する。そして、この使用態様の展開状態では、前記人32の頭部分34が胸部35から上の身体部位を含めてカバー部材26により上方及び前方からカバーされることになる。なお、前記人32は、その頭部分34をカバー部材26によってカバーされた状態でも、カバー部材26との間には空間域40(図4参照)が形成され、呼吸を確保することができる。
【0036】
因みに、このカバー部材26が前記人32の胸部35に先端部26aを当接させることによりカバー部材26の内側にバックシェル13と協働して形成する空間域40は一種の閉空間(閉鎖空間域)となる。すなわち、厳密な意味での密閉空間とはならないが、それでも座席装置10が設けられた客室全体よりは小容量の閉空間が形成されることになる。そのため、この閉空間たる空間域40内の雰囲気環境(温度、湿度など)については客室全体の雰囲気環境とは異なるものに調整することも可能とされる。
【0037】
その後、前記カバー部材26によるカバー状態(使用態様の展開状態)を解消したい場合には、前記人32が操作パネル16を用いて前記カバー装置24を再駆動させる。すなわち、今度は前記操作パネル16を使用して、カバー部材26を使用態様の展開状態から不使用態様の非展開状態へ移行させるための操作を行う。すると、その操作が行われたことに基づき、前記電磁バルブ31は閉弁状態から開弁状態に切り替わり、カバー部材26内に充満された空気が前記縦パイプ28及び水平パイプ30を介して空気圧縮機29側へ流出することを許容する。
【0038】
すると、カバー部材26内から空気が前記縦パイプ28等を経由して流出し、カバー部材26は、図6に示す使用態様の展開状態から渦巻きばね27の付勢力により巻き上げられ、図5に示す状態を経て、最終的に図4に示す元の状態(不使用態様の非展開状態)へ巻き戻される。従って、前記仰臥姿勢にあった人32は、自分の胸部35から上の身体部位を覆っていた前記カバー部材26のカバー状態が解消され、起き上がり動作が可能となる。
【0039】
上記実施形態の座席装置10によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)座席装置10を利用する人は、バックレスト19に背中33を当接させた状態(例えばシート12をベッド状態にした仰臥姿勢)にあるとき、自分の頭部分34を含めた胸部35から上の身体部分をカバー部材26によって呼吸可能な状態を確保しつつカバーすることができる。そのため、座席装置10の脇の通路Pを通り過ぎる他人から自分の表情(寝顔など)を直接見られることをカバー部材26によって抑制できる。従って、座席装置10を利用する人は他の座席装置10を利用する他人との関係で心理的に不快な気持ちを抱くことが少なくなり、プライバシーが尊重された快適な気分で座席装置10を利用することができる。
【0040】
(2)座席装置10を利用する人32がカバー部材26(カバー装置24)を使わないときは、そのカバー部材26をシート12の近傍にあるバックシェル13に設けられた収納ボックス25内に収納保管しておくことができるため、座席装置10を利用する人32が着座したり離座したりする際の邪魔になることもない。
【0041】
(3)カバー部材26を使用態様とする際には、該カバー部材26をバックシェル13の後側壁上端部(シート12の後側上方位置)に取り付けられた収納ボックス25内から前側下方へ向けて変位させるものとなっている。そのため、シート12を通常状態としたままでカバー部材26を使用態様とする場合でも、不使用態様から使用態様へ移行する途中のカバー部材26がバックレスト19に背中33を当接させた状態の着座姿勢にある人32の頭部分34にぶつかることもない。
【0042】
(4)シート12のバックレスト19に背中33を当接させた状態にある人32が不意に起きあがって頭部分34をカバー部材26にぶつけるようなことがあっても、カバー部材26は可撓性を有する材料からなり、内部に空気が充満されることで保形されたものであるため、頭部分34に強い衝撃を受けないようにすることができる。すなわち、カバー部材26は内部に充満された空気により良好なクッション性を有するため、特に、気流の影響で乱高下することのある航空機における座席装置10においては人32の頭部分34が仮にぶつかったとしても衝撃緩和性に優れた好適なカバー部材26となる。
【0043】
(5)カバー部材26(カバー装置24)を使用したい場合は、不使用態様の非展開状態となっているカバー部材26内へ空気圧縮機29の駆動に基づいて空気(流体)を供給するようにすれば、簡単に使用態様の展開状態とすることができる。
【0044】
(6)カバー部材26を内部に空気が充満した使用態様の展開状態から所定方向へ巻き上げられた不使用態様の非展開状態に戻したいときは、カバー部材26内に充満している空気を流出させてやればよい。そうすれば、渦巻きばね(スプリング)27の付勢力によりカバー部材26を元のロール状に巻き上げることができ、不使用態様の非展開状態へと簡単に戻すことができる。
【0045】
(7)空気圧縮機(流体供給装置)29から水平パイプ(流体供給経路)30及び縦パイプ(流体供給経路)28を介してカバー部材26内に空気(流体)を供給してカバー部材26を使用態様の展開状態とした後、電磁バルブ(バルブ装置)31を閉弁状態とすることで、水平パイプ30等を介しての空気の流動を遮断することができる。このように電磁バルブ(バルブ装置)31を閉弁状態にして空気の流動を遮断すれば、前記カバー部材26を使用態様の展開状態にした形状(内部に空気が充満した状態)に保持することができる。
【0046】
(8)シート12をベッド状態にして仰臥状態にある人32の胸部35にカバー部材26の先端部(端縁)26aが当接した場合には、その人32の上半身をカバー部材26でカバーすることができる。
【0047】
(9)カバー部材26とバックシェル13とによって一種の閉空間(閉鎖空間域)が形成されるため、該空間域40内の雰囲気環境(温度、湿度など)を客室全体(カバー部材26の外部)の雰囲気環境とは異なるものに調整することも可能となる。しかも、その際には調整対象となる前記空間域40は客室全体に比較して小さな容量であるため、簡単に雰囲気環境の調整ができる。
【0048】
なお、本実施形態は以下のような別の実施形態(別例)に変更してもよい。
・カバー装置24を駆動させて、カバー部材26によりバックレスト19に背中33を当接させた状態にある人32の頭部分34をカバーするのは、シート12がベッド状態のシート態様にある場合に限らず、通常状態又はリクライニング状態のシート態様にあって前記人32が着座姿勢のときに行うようにしてもよい。
【0049】
・カバー装置24を駆動させて、カバー部材26によりバックレスト19に背中33を当接させた状態にある人32の頭部分34をカバーする場合には、少なくとも頭部分34をカバーできるカバー態様であれば、胸部35から上の身体部位に限定されず、身体全体を覆うようなカバー態様にしてもよい。
【0050】
・前記カバー部材26には渦巻きばね27を装着することなく、単に非展開状態にして収納ボックス25内に収納保管させておくものであってもよい。
・前記カバー部材26を使用態様の展開状態とする場合には、その内部を充満するために供給される流体として空気以外に水等の他の流体を利用することも可能である。
【0051】
・前記カバー部材26は、必ずしも全体が可撓性を有する材料にて形成されたものである必要はなく、カバー態様となったときに少なくとも頭部分34の前面側(顔)と対向することになる部分が可撓性を有する材料で形成されていればよい。
【0052】
・前記カバー部材26は、可撓性を有する材料で形成されたシート体や網体が手動にて収納ボックス25内から引き出されて使用態様とされるものであってもよい。
・前記カバー部材26の収納ボックス25はバックシェル13の後側壁の上端部にではなく、左右何れかの側壁の上端部に取り付けられているものであってもよい。要するに、収納ボックス25の開口部25aから垂れ下がるように引き出されて着座姿勢又は仰臥姿勢にある人32の少なくとも頭部分34をカバーする態様とできるならば、収納ボックス25の取り付け位置は任意に変更可能である。
【0053】
・前記実施形態において、カバー部材26は常に内部に空気(流体)が充満して膨張した展開状態とされている構成としてもよい。なお、その場合、常に展開状態とされているカバー部材26はバックシェル13の後側壁上の収納ボックス25内に収納できないことになるが、例えば前記バックシェル13の後側壁の内面パネル13bと外面パネル13cとの間の内部空間など、人32がシート12に着座した場合に邪魔とならない位置に収納できるようにするとよい。このようにした場合は、カバー部材26を使用する度毎に空気(流体)の供給にかかる時間も無いので、その分、迅速にカバー部材26を使用することができる。
【0054】
・前記実施形態において、カバー部材26は必ずしも縦パイプ(流体供給経路)28等を介して空気圧縮機(流体供給装置)29と常時接続された構成でなくてもよい。
・前記実施形態において、流体供給装置を空気圧縮機29に代えて送風ファン等の送風機により構成してもよい。また、そうした流体供給装置からカバー部材26内へ供給される流体は、空気に限らず他の気体や水等の液体でもよく、要するに、カバー部材26内に供給されて充満することによりカバー部材26を展開状態とできる各種の流体が適用可能である。
【0055】
・前記実施形態では航空機におけるファーストクラスの客室に設置される座席装置10に具体化したが、これに限らずエコノミークラスの客室に設置される座席装置に具体化してもよい。また、航空機に限らず鉄道車両やバス及び船舶等の他の輸送交通機関における客室に設置される座席装置に具体化してもよい。更には、建物内において複数の座席装置が設置される仮眠室などの室内スペースに設置される座席装置に具体化することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施形態の座席装置の斜視図。
【図2】(a)は座席装置の一部正断面図、(b)はその要部拡大図。
【図3】カバー装置の使用状態を示す斜視図。
【図4】ベッド状態のシート態様としたシートに人が仰臥姿勢をとっている状態を示す正面図。
【図5】図4の状態からカバー装置が駆動開始された直後の状態を示す正面図。
【図6】図5の状態からカバー装置が駆動終了した状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0057】
10…座席装置、12…シート、13…バックシェル、18…座部、19…バックレスト、24…カバー装置、25…収納ボックス(収納部)、26…カバー部材、26a…カバー部材の先端部(端縁)、27…渦巻きばね(スプリング)、28…縦パイプ(流体供給経路)、29…空気圧縮機(流体供給装置)、30…水平パイプ(流体供給経路)、31…電磁バルブ(バルブ装置)、32…人、33…背中、34…頭部分、35…胸部、40…閉鎖空間域(空間域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも座部とバックレストとを有するシートと、該シートのバックレストに背中を当接させた状態にある人の頭部分を呼吸確保のための空間域を介在させた状態でカバー可能なカバー部材とを備えた座席装置。
【請求項2】
前記シートの近傍には、前記カバー部材を収納保管するための収納部が設けられており、前記カバー部材は、前記収納部内に収納保管された不使用態様と、前記収納部内から引き出された使用態様とを取り得る構成とされている請求項1に記載の座席装置。
【請求項3】
前記収納部は、前記シートが前記バックレストを略直立とした通常状態にある場合において該バックレストの後側上方となる位置に設けられており、前記カバー部材は、不使用態様から使用態様へ移行する場合に、前記収納部内から前側下方に向けて引き出される構成とされている請求項2に記載の座席装置。
【請求項4】
前記カバー部材は、前記頭部分をカバーした状態において少なくとも頭部分の前面側と対向することになる部分が可撓性を有する材料で形成されている請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の座席装置。
【請求項5】
前記カバー部材は、可撓性を有する材料によって袋状をなすように形成されたものであり、その内部への流体の供給に基づき膨張して展開状態となるものである請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の座席装置。
【請求項6】
前記カバー部材は、常に、その内部に流体が充満して膨張した展開状態とされている請求項5に記載の座席装置。
【請求項7】
前記カバー部材は、常には不使用態様の非展開状態とされており、その内部に流体が供給されることにより膨張して使用態様の展開状態となるものである請求項5に記載の座席装置。
【請求項8】
前記カバー部材には、常には渦巻き状をなして前記カバー部材をロール状に巻き上げて不使用態様の非展開状態に保持するスプリングが装着されている請求項7に記載の座席装置。
【請求項9】
前記カバー部材には、該カバー部材の内部へ流体を供給するための流体供給装置が流体供給経路を介して接続されており、該流体供給経路の途中にはバルブ装置が設けられている請求項7又は請求項8に記載の座席装置。
【請求項10】
前記シートは、前記バックレストが座部と共に略水平となるベッド状態にすることが可能とされており、該ベッド状態とした場合において前記カバー部材が使用態様とされた場合には、該カバー部材の端縁が前記バックレストに背中を当接させた仰臥状態にある人の胸部に当接する構成とされている請求項1〜請求項9のうち何れか一項に記載の座席装置。
【請求項11】
前記シートの後側には、該シートの後方及び両側方を覆うバックシェルが設けられており、前記カバー部材が使用態様とされた場合には、該カバー部材とバックシェルとによって閉鎖空間域が形成される請求項1〜請求項10のうち何れか一項に記載の座席装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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