説明

座席装置

【課題】客室乗務員等の確認者が遠くからでも、背凭れ30の傾倒角度を含む座席姿勢がアップライト状態であるか否かを極めて容易に確認することができ、簡易な構成によりコスト低減も可能な座席装置を提供する。
【解決手段】背凭れ30がアップライト状態ないしリクライニング状態の何れかの状態を判別するための判別手段50を備え、この判別手段50は、座席上部にて座席姿勢の変化に影響されない固定位置に配されるベース部材と、該ベース部材に対して座席上部より目視可能な位置に連結され、背凭れ30の傾動に連動して前記ベース部材に対する相対的な位置が変化する識別子70とを有し、識別子70の位置の変化により座席姿勢がアップライト状態にあるか否かを判別可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座部の後端側に背凭れが傾動可能に支持され、該背凭れの傾倒角度を含む座席姿勢の変化が可能な座席装置に関し、特に航空機用座席に適するものであり、詳しくはアップライトないしリクライニング等の傾動状態を判別することができる座席装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から航空機の運航において、乗客の安全上の配慮から離陸時、着陸時、および滑走路内の走行時という3つの時間帯では、航空機用座席に関しては背凭れが全く傾倒していないアップライト状態にしておく必要があった。背凭れがアップライト状態になっているか否かの確認は、客室乗務員(CA: Cabin Attendant)の目視によって行われていた。
【0003】
このような航空機用座席の背凭れ角度を確認する従来技術として、本出願人は既に特許文献1に開示されているように、リクライニングの際に背凭れがアップライト状態であるか否かの表示を行う航空機用座席を提案している。
かかる航空機用座席は、背凭れの傾倒が最も小さいアップライト状態ないしアップライト状態よりも背凭れの傾倒が大きいリクライニング状態の何れか一方の状態の時に目視可能に出現する所定部位に、アップライト状態にあるか否かを判別する判別手段を設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−82744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に記載された従来の技術では、前記判別手段を設ける所定位置が、具体的にはシートバックの側面部分であったり、あるいはシートバックの背面下方に設定されていた。そのため、客室乗務員が判別手段の状態、すなわちアップライト状態であるか否かを確認する際には、確認対象となる座席の側方あるいは後方の比較的近い位置まで近づいて目視しなければならず、遠くからでは容易に確認することができないという問題点があった。
【0006】
本発明は、以上のような従来の技術が有する問題点に着目してなされたものであり、客室乗務員等の確認者が遠くからでも、背凭れの傾倒角度を含む座席姿勢がアップライト状態であるか否かを極めて容易に確認することができ、また、簡易な構成によりコスト低減も可能となる座席装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]座部(20)の後端側に背凭れ(30)が傾動可能に支持され、該背凭れ(30)の傾倒角度を含む座席姿勢の変化が可能な座席装置(10)において、
前記背凭れ(30)の傾倒が最も小さいアップライト状態ないし該アップライト状態よりも傾倒が大きいリクライニング状態の何れかの状態を判別するための判別手段(50)を備え、
前記判別手段(50)は、座席上部にて前記座席姿勢の変化に影響されない固定位置に配されるベース部材(51)と、該ベース部材(51)に対して座席上部より目視可能な位置に連結され、前記背凭れ(30)の傾動に連動して前記ベース部材(51)に対する相対的な位置が変化する識別子(70)とを有し、該識別子(70)の位置の変化により前記座席姿勢が前記アップライト状態にあるか否かを判別可能であることを特徴とする座席装置(10)。
【0008】
[2]前記座席装置(10)は、座席の後方にシェル(40)が固定配置され、該シェル(40)の前方にて座部(20)が移動可能に支持されると共に、該座部(20)の後端側に背凭れ(30)が傾動可能に支持された航空機用座席であり、
前記ベース部材(51)を、前記シェル(40)の上端部の両端のうちの何れかに配置し、
前記識別子(70)を、前記ベース部材(51)に対して前記シェル(40)の上端部より上下方向に出没可能に連結したことを特徴とする[1]に記載の座席装置(10)。
【0009】
[3]前記識別子(70)は、リンク機構を介して前記ベース部材(51)に連結され、該リンク機構により前記背凭れ(30)の傾動に連動して、前記シェル(40)の上端部より上方に突出した上位置と、前記シェル(40)の上端部より下方に没入した下位置とに出没可能であることを特徴とする[2]に記載の座席装置(10)。
【0010】
[4]前記リンク機構は、前記ベース部材(51)に対して上下方向に移動可能に連結されたスライドレール部材(61)と、該スライドレール部材(61)の上端に一端が押し引き可能に連結された状態で、前記ベース部材(51)に揺動可能に枢支されたリンク部材(65)とを有し、
前記スライドレール部材(61)の下端に、前記背凭れ(30)のフレーム(31)側に係脱して該背凭れ(30)の傾動に連動するための被係合部(62)を設け、
前記識別子(70)は、前記ベース部材(51)に対して上下方向に移動可能に連結された状態で、前記リンク部材(65)の他端に押し引き可能に連結され、かつ該識別子(70)は付勢手段(73)によって上方向に付勢され、
前記座席姿勢がアップライト状態の際、上方に傾動した前記背凭れ(30)のフレーム(31)により前記付勢手段(73)の付勢力に抗して前記スライドレール部材(61)は上方に移動し、前記リンク部材(65)の揺動に伴って前記識別子(70)は下位置となる一方、
前記座席姿勢がリクライニング状態の際、下方に傾動した前記背凭れ(30)のフレーム(31)から前記スライドレール部材(61)は離脱し、前記付勢手段(73)の付勢力により前記識別子(70)は上位置に移動すると共に、前記リンク部材(65)の揺動に伴って前記スライドレール部材(61)は下方に移動することを特徴とする[3]に記載の座席装置(10)。
【0011】
[5]前記識別子(70)は上下方向に移動するボタン状の部材であり、
前記識別子(70)が下位置にある際、ボタン状の上端面(74)が前記シェル(40)の上端部と連なり、少なくとも前記上端面(74)は前記シェル(40)の上端部と同系色の色が施され、
前記識別子(70)が上位置にある際、ボタン状の側端面(75)が前記シェル(40)の上端部より上方に突出し、少なくとも前記側端面(75)は前記シェル(40)の上端部とは異なる色が施されたことを特徴とする[4]に記載の座席装置(10)。
【0012】
前記本発明は次のように作用する。
前記[1]に記載の座席装置(10)は、背凭れ(30)の傾倒角度を含む座席姿勢が変化可能であり、着座者は背凭れ(30)を傾倒が最も小さいアップライト状態ないし該アップライト状態よりも傾倒が大きいリクライニング状態の何れかの状態に適宜調整することができる。かかる座席姿勢がアップライト状態であるか否かを、着座者とは別の確認者は判別手段(50)によって判別することができる。
【0013】
前記判別手段(50)は、座席上部にて座席姿勢の変化に影響されない固定位置に配されるベース部材(51)と、該ベース部材(51)に対して座席上部より目視可能な位置に連結され、背凭れ(30)の傾動に連動して前記ベース部材(51)に対する相対的な位置が変化する識別子(70)とを有し、該識別子(70)の位置の変化により前記座席姿勢が前記アップライト状態にあるか否かを判別する。ここで識別子(70)は、座席上部より目視可能な位置にあり、背凭れ(30)が傾動すると固定位置にあるベース部材(51)に対して位置が変化するため、遠くからでも極めて容易に確認することができる。
【0014】
例えば、座席姿勢がアップライト状態のときに識別子(70)が基準位置にあり、座席姿勢をリクライニング状態にするために背凭れ(30)を傾倒させると識別子(70)が所定位置まで変化する場合には、座席上部の識別子(70)が前記基準位置にあることを目視できれば、遠くからでも座席姿勢がアップライト状態であることを確認できたことになる。
【0015】
このような座席装置(10)は、具体的には例えば前記[2]に記載したように、座席の後方にシェル(40)が固定配置され、該シェル(40)の前方にて座部(20)が移動可能に支持されると共に、該座部(20)の後端側に背凭れ(30)が傾動可能に支持された航空機用座席に適用すると良い。かかる航空機用座席については、乗客の安全上の配慮から背凭れ(30)がアップライト状態になっていることを確認する必要がある時間帯があるため、この時間帯に客室乗務員が容易に確認することが可能となる。
【0016】
特に、座席の後方にシェル(40)がある場合には、前記ベース部材(51)をシェル(40)の上端部の両端のうちの何れかに配置する。そして、前記識別子(70)は、ベース部材(51)に対してシェル(40)の上端部より上下方向に出没可能に連結する。これにより、着座者の居住空間を区画するシェル(40)を、座席姿勢の変化に影響されないベース部材(51)の固定位置としても利用することができる。また、シェル(40)の上端部の両端のうちの何れかより識別子(70)が出没するため、着座者の頭部に阻まれることなく遠方からでも目視することができる。
【0017】
前記[3]に記載の座席装置(10)によれば、前記識別子(70)は、リンク機構を介して前記ベース部材(51)に連結され、該リンク機構により背凭れ(30)の傾動に連動して、前記シェル(40)の上端部より上方に突出した上位置と、前記シェル(40)の上端部より下方に没入した下位置とに出没可能である。このようなリンク機構を介して、識別子(70)を背凭れ(30)の傾動に確実に連動させることができる。
【0018】
このようなリンク機構としては、具体的には例えば前記[4]に記載したようなものが考えられる。すなわち、リンク機構は、ベース部材(51)に対して上下方向に移動可能に連結されたスライドレール部材(61)と、該スライドレール部材(61)の上端に一端が押し引き可能に連結された状態で、ベース部材(51)に揺動可能に枢支されたリンク部材(65)とを有する。
【0019】
前記スライドレール部材(61)の下端に、背凭れ(30)のフレーム(31)側に係脱して該背凭れ(30)の傾動に連動するための被係合部(62)を設け、前記識別子(70)は、ベース部材(51)に対して上下方向に移動可能に連結された状態で、前記リンク部材(65)の他端に押し引き可能に連結され、かつ識別子(70)は付勢手段(73)によって上方向に付勢される。
【0020】
このようなリンク機構によれば、リンク部材(65)のシーソー状の揺動により、座席姿勢がアップライト状態の際、上方に傾動した背凭れ(30)のフレーム(31)にスライドレール部材(61)は押されて、付勢手段(73)の付勢力に抗して上方に移動し、スライドレール部材(61)に一端が連結されたリンク部材(65)は揺動し、この揺動に伴って識別子(70)は下位置となる。
【0021】
一方、座席姿勢がリクライニング状態の際、下方に傾動した背凭れ(30)のフレーム(31)からスライドレール部材(61)は離脱するため、付勢手段(73)の付勢力により識別子(70)は上位置に移動すると共に、識別子(70)に他端が連結されているリンク部材(65)は逆方向に揺動し、この揺動に伴ってスライドレール部材(61)は下方に移動することになる。
【0022】
このような比較的簡易な構成のリンク機構によって、背凭れ(30)の傾動に識別子(70)の出没を連動させることができる。また、離陸時や着陸時等に安全上のためにアップライト状態にする必要があるが、その際リクライニングをしている着座者がいた場合、識別子(70)が目立つことになり判別しやすい。仮に、アップライト状態のときに識別子(70)が突出し、リクライニング状態のときに識別子(70)が没入する構成の場合は、少数の可能性が高いリクライニング状態の識別子(70)が判断し難いことになる。
【0023】
前記[5]に記載の座席装置(10)によれば、前記識別子(70)は上下方向に移動するボタン状の部材であり、識別子(70)が下位置にある際、ボタン状の上端面(74)がシェル(40)の上端部と連なり、少なくとも前記上端面(74)はシェル(40)の上端部と同系色の色が施される。これにより、アップライト状態のときは識別子(70)がシェル(40)の上端部の一部として見分けが付きにくくなり、意匠的に見栄えが良い。
【0024】
また、識別子(70)が上位置にある際、ボタン状の側端面(75)がシェル(40)の上端部より上方に突出し、少なくとも前記側端面(75)はシェル(40)の上端部とは異なる色が施される。これにより、リクライニング状態のときは識別子(70)が目立つことになり、識別子(70)を容易に判別することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る座席装置によれば、背凭れがアップライト状態ないしリクライニング状態の何れかの状態を判別するための判別手段を備え、この判別手段は、座席上部にて座席姿勢の変化に影響されない固定位置に配されるベース部材と、該ベース部材に対して座席上部より目視可能な位置に連結され、背凭れの傾動に連動して前記ベース部材に対する相対的な位置が変化する識別子とを有するから、識別子の位置の変化により座席姿勢がアップライト状態にあるか否かを判別可能であり、客室乗務員等の確認者が遠くからでも、背凭れの傾倒角度を含む座席姿勢がアップライト状態であるか否かを極めて容易に確認することができる。
【0026】
また、背凭れの傾動角度を検知するような特別な装置を設けることなく、人間の目で直接に目視して確認することができるので、装置の誤動作や誤認等に起因する誤った判別をしてしまう虞がなく、また座席自体を大幅に設計変更する必要もなく、比較的簡易な構成によりコストを低減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る座席装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る座席装置を示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る座席装置を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る座席装置のシェルの内部のフレーム構造において判別手段の識別子が下位置にある状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る座席装置のシェルの内部のフレーム構造において判別手段の識別子が上位置にある状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る座席装置のシェルの内部のフレーム構造に背凭れのバックフレームを組み付けた状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る座席装置のシェルの一部を分解した状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る座席装置の判別手段を示す分解斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る座席装置の判別手段の識別子が上位置にある状態を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る座席装置の判別手段の識別子が下位置にある状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づき本発明を代表する実施の形態を説明する。
図1〜図10は、本発明の一実施の形態を示している。
本実施の形態に係る座席装置10は、座席の後方にシェル40が固定配置され、該シェル40の前方にて座部20が移動可能に支持されると共に、該座部20の後端側に背凭れ30が傾動可能に支持された航空機用座席である。かかる航空機用座席は、航空機の客室内に設置されるものである。
【0029】
図1は、座席装置10を示す斜視図であり、図2は、同座席装置10を示す正面図であり、図3は、同座席装置10を示す側面図である。図1〜図3に示すように、座席装置10は、その土台をなす座席フレーム11上に、2人用の座部20および背凭れ30、およびシェル40が保持されている。
【0030】
座席フレーム11は、図3に示すように、航空機の客室内のフロア上に固定される前脚部12および後脚部13と、各脚部12,13の両側で前後に掛け渡された補強側部14の他、これらの上側に組み付けられた同じく金属製の枠組み等から構成されている。このような座席フレーム11上に、座部20および背凭れ30がそれぞれ所定の範囲内で移動可能に支持され、座席姿勢の変化が可能となっており、後方にシェル40が固定配置されている。なお、座部20等は図示省略したモータによって電動で移動させるが、手動で移動できるようにしても良い。
【0031】
座部20は、金属製のボトムフレーム(図示せず)にクッション材が装着され、表面はカバー材で被覆されている。座部20(ボトムフレーム)は、座席フレーム11上で緩やかに揺動するように弧状の軌跡上を前後方向に移動可能に支持されている。また、座部20の前端下方には、レッグレスト21が配設されている。レッグレスト21は、着座者が上下方向に回動させて位置調整できるものである。
【0032】
一対に並ぶ座部20の両側部には、それぞれアームレスト22が配設されている。各アームレスト22の内部には、引き出して使用可能なテーブル(図示せず)が収納されている。各アームレスト22の前端には、それぞれ操作部23が設けられている。操作部23は、背凭れ30を後方に傾倒してリクライニングしたり、傾倒している背凭れ30を元の位置に戻したりする等、背凭れ30の位置を調整する他、前記レッグレスト21の位置等を調整する際に操作するものである。なお、通路側のアームレスト22は、その後部を回転中心として通常の使用位置から前部を上方に跳ね上げた退避位置まで回動可能に支持しても良い。
【0033】
また、各座部20の間には、センターコンソール24が固設されている。センターコンソール24の上面部の前端には、左右一対に並ぶ小テーブル25が設けられている。また、センターコンソール24の上面部ないし後方へ立ち上がる部位には、左右の空間を仕切るパーテーション26が設けられている。また、センターコンソール24の座席側内面には、映画・ビデオ、音楽、ゲーム等の機内サービスを利用するための各種操作ボタンを備えたコントローラ27が設けられている。さらに、センターコンソール24の前面部にはパソコン用電源28等も設けられている。
【0034】
背凭れ30は、金属製のバックフレーム31(図6参照)を内蔵しており、このバックフレーム31にクッション材が装着され、表面はカバー材で被覆されている。背凭れ30の背面側には、着座者の居住空間を区画するシェル40が配設されている。バックフレーム31は、前記座席フレーム11に対して傾動可能に支持されている。また、バックフレーム31は、シェル40内部のフレーム構造に対して所定範囲で傾動するように連結されている。なお、バックフレーム31は、前記座部20のボトムフレームにも連結されており、背凭れ30の傾動に座部20も連動して背凭れ30と座部20の相対姿勢が維持されるように設定されている。
【0035】
シェル40には、本発明の根幹を成す判別手段50が設けられている。判別手段50は、背凭れ30の傾倒が最も小さいアップライト状態ないし該アップライト状態よりも傾倒が大きいリクライニング状態の何れかの状態を判別するための機構である。判別手段50は、座席上部にて背凭れ30の傾倒角度を含む座席姿勢の変化に影響されない固定位置に配されるベース部材51と、該ベース部材51に対して座席上部より目視可能な位置に連結され、前記背凭れ30の傾動に連動して前記ベース部材51に対する相対的な位置が変化する識別子70とを有する。
【0036】
図4および図5は、シェル40の内部のフレーム構造を示す斜視図であり、図6は、同シェル40の前側に背凭れ30のバックフレーム31を組み付けた状態を示す斜視図である。図7は、同シェル40の分解斜視図であり、図8は、判別手段50の分解斜視図である。また、図9は、判別手段50の識別子70が上方に突出した上位置にある状態を示す斜視図であり、図10は、判別手段50の識別子70が下方に没入した下位置にある状態を示す斜視図である。
【0037】
図4〜図8に示すように、ベース部材51は、シェル40の上端部の両端のうちの座席中央寄りに配置されており、識別子70は、ベース部材51に対してシェル40の上端部より上下方向に出没可能に連結されている。ここで識別子70は、リンク機構を介してベース部材51に連結され、該リンク機構により背凭れ30の傾動に連動して、シェル40の上端部より上方に突出した上位置(図5参照)と、シェル40の上端部より下方に没入した下位置(図4参照)とに出没可能となっている。このような識別子70の位置の変化により、前記座席姿勢がアップライト状態にあるか否かを判別可能に構成されている。
【0038】
詳しくは図8に示すように、先ずベース部材51は、金属板を図示した形状に加工したものであり、その上下端には、それぞれシェル40内部のフレーム材41の上端の一側端側にネジ止めするための取付部52,53が設けられている。また、ベース部材51の上部には略水平な支持部54が形成され、該支持部54上には、識別子70を上下方向に移動可能に連結するための凸部55の他、後述するリンク部材65を揺動可能に枢支する軸受部56が設けられている。
【0039】
さらに、上下の取付部52,53の間には、上下方向に延びて次述するスライドレール部材61を移動可能に連結するレール受け部57が設けられている。レール受け部57には、スライドレール部材61を移動可能に案内するストッパ58がネジ止めされるが、このストッパ58の取り付け位置を調整できるように、複数のネジ孔57aが上下方向に連設されている。また、レール受け部57の表面には、スライドレール部材61が摺接する際の摩擦抵抗を低減するための樹脂板59が貼り付けられている。
【0040】
リンク機構は、前記ベース部材51に対して上下方向に移動可能に連結されたスライドレール部材61と、該スライドレール部材61の上端に一端が押し引き可能に連結された状態で、前記ベース部材51に揺動可能に枢支されたリンク部材65とを有して成る。スライドレール部材61は、金属板を図示した形状に加工したものであり、その下端には、前記背凭れ30のバックフレーム31に係脱して該背凭れ30の傾動に連動するための被係合部62が略水平なフランジ状に設けられている。バックフレーム31には、図6に示すように、被係合部62に対して係脱する位置に係合片32が突設されている。
【0041】
また、スライドレール部材61の上端には、リンク部材65の一端にある長穴66に貫通し、該リンク部材65の一端を長穴66の遊びの範囲で回動および押し引き可能に枢支する連結部63が設けられている。さらに、スライドレール部材61において前記レール受け部57(樹脂板59)に摺接する部位には、上下一対のストッパ58,58(図9参照)が相対的に移動可能に嵌合するためのガイド溝64が上下方向に延びるように形成されている。
【0042】
リンク部材65は、金属製の棒状の部材であり、前述したように一端には長穴66が形成され、中央より他端寄りの位置に回転中心となる中心軸67を枢支するための枢支孔67aが形成され、他端には次述する識別子70に連結するための連結ピン68を突設する固定孔68aが形成されている。
【0043】
識別子70は、前記ベース部材51の凸部55に対して上下方向に移動するボタン状の部材である。識別子70の底面より内部に向って凹部71が形成され、この凹部71が前記凸部55に上下方向に移動可能に嵌っている。このように識別子70は、凸部55に対して上下方向に移動可能に連結された状態で、前記リンク部材65の他端に連結ピン68を介して押し引き可能に連結されている。
【0044】
識別子70の後面側には、連結ピン68がある程度水平方向に移動できる状態で回動および押し引き可能に枢支する長穴72が形成されている。また、識別子70の凹部71内には、付勢手段であるコイルバネ73が内装されており、このコイルバネ73によって識別子70はベース部材51に対して上方向に付勢されている。すなわち、識別子70は、ベース部材51に対して上下方向に移動可能に連結された状態で、リンク部材65の他端に押し引き可能に連結され、かつコイルバネ73によって上方向に付勢されている。
【0045】
図4に示すように識別子70は、下位置にある際にボタン状の上端面74が前記シェル40の上端部と連なるように位置決めされ、前記上端面74はシェル40の上端部と同系色の色が施されている。本実施の形態では同系統の樹脂で成形されている。また、図5に示すように識別子70は、上位置にある際に両側端面75がシェル40の上端部より上方に突出するが、この両側端面75はシェル40の上端部とは異なる色が施されている。本実施の形態では異なる色で明瞭に識別可能なシールが貼着されている。
【0046】
次に、本実施の形態に係る座席装置10の作用を説明する。
座席装置10は、背凭れ30の傾倒角度を含む座席姿勢が変化可能であり、着座者は背凭れ30を傾倒が最も小さいアップライト状態ないし該アップライト状態よりも傾倒が大きいリクライニング状態の何れかの状態に適宜調整することができる。ただし、航空機の運航における安全上の配慮から離着陸時等には、背凭れ30がアップライト状態であることが求められており、客室乗務員は個々の座席がアップライト状態であるか否かを判別手段50によって判別する。
【0047】
座席装置10の座席姿勢がアップライト状態の際、シェル40の内側で上方に傾動したバックフレーム31の係合片32がスライドレール部材61の被係合部62に係合して(図6参照)、コイルバネ73の付勢力に抗してスライドレール部材61を上方に押し上げる。これにより、スライドレール部材61に一端が連結されたリンク部材65は、一端が上方に識別子70側の他端が下方に揺動し、この揺動に伴い識別子70は下位置となり、アップライト状態では当該位置に保持される。図4に示すように、下位置にある識別子70は、その上端面74がシェル40の上端部と連なり、しかも、上端面74はシェル40の上端部と同系色の色が施されているため、意匠的にも違和感が無く見栄えが良い。
【0048】
一方、アップライト状態から背凭れ30を傾動させてリクライニング状態にすると、バックフレーム31がシェル40の内側を下方に向かって傾動する。このとき、バックフレーム31にある係合片32は、スライドレール部材61の被係合部62から離脱する。すると、コイルバネ73の付勢力により識別子70が上位置に移動して、識別子70はシェル40の上端部よりも上方に突出した上位置に保持される。なお、識別子70の上位置への移動に伴いリンク部材65の一端も上方に他端は下方に揺動する。このリンク部材65の揺動に伴って、他端側に連結されているスライドレール部材61は下方に移動する。なお、このリクライニング状態からアップライト状態に戻すときは、前述した動作を逆に辿ることになる。
【0049】
図5に示すように、上位置にある識別子70は、両側端面75がシェル40の上端部より上方に突出する。この両側端面75にはシェル40の上端部とは異なる色が施されており、リクライニング状態の際に突出した識別子70が目立つことになり、識別子70を座席の側方、後方あるいは前方の離れた位置からでも極めて容易に目視することができる。従って、航空機が離着陸したり、滑走路内を走行したりするとき等、背凭れ30をアップライト状態にしておく必要があるときに、客室乗務員は遠くからでも座席姿勢がアップライト状態にあるか否かを極めて容易に確認することが可能となる。
【0050】
特に本実施の形態では、判別手段50を座席の後方に配設されたシェル40に配置したから、着座者の居住空間を区画するシェル40を、座席姿勢の変化に影響されないベース部材51の固定位置としてそのまま利用することができる。また、シェル40の上端部の両端のうちの一端側に判別手段50を配置したから、識別子70は着座者の頭部に阻まれることなく遠方からでもアップライト状態であるか否かを多くの座席で瞬時に判断することが可能となる。
【0051】
また、離陸時や着陸時等に乗客は安全上のためアップライト状態にする必要があるが、その際リクライニングをしている乗客がいた場合、識別子70が目立つことになり判別しやすい。仮に、アップライト状態のときに識別子70が突出し、リクライニング状態のときに識別子70が没入する構成の場合では、少数の可能性が高いリクライニング状態の識別子70が判断し難いことになる。
【0052】
また、前述したリンク機構を介して識別子70を背凭れ30の傾動に確実に連動させることができる。このようなリンク機構は比較的簡易に構成可能であり、コストを低減することができ、メンテナンスも容易に行うことができる。また、背凭れの傾動角度を検知するような特別な装置を設けることなく、人間の目で直接に目視して確認することができるので、装置の誤動作や誤認等に起因する誤った判別をしてしまう虞がなく、また座席自体を大幅に設計変更する必要もない。
【0053】
さらに詳しくは前述したリンク機構では、リンク部材65の回転中心である中心軸67を識別子70に近い位置に設定したから、てこの原理で識別子70をコイルバネ73の付勢力に抗して容易に動かすことができる。また、リンク機構全体をコンパクトに構成することができ、限られたスペース内に組み付けることができる。また、ベース部材51のレール受け部57に複数のネジ孔57aを上下方向に連設したので、実際のシェル40等の製造寸法のバラツキに応じて、識別子70の基準位置を定めるリンク部材65ないしスライドレール部材61の取り付け位置を組み付け時に位置決め調整することもできる。
【0054】
なお、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述したような実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、アップライト状態のときに識別子70が突出し、リクライニング状態のときに識別子70が没入する構成にしても良い。また、識別子70の形状も図示したボタン状のものに限らない。さらに、航空機用座席に限られるものではなく、船舶や鉄道車両等の各種乗物用の座席装置に適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、特に航空機の客室内に設置される航空機用座席として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10…座席装置
11…座席フレーム
20…座部
21…レッグレスト
22…アームレスト
23…操作部
24…センターコンソール
25…小テーブル
26…パーテーション
27…コントローラ
30…背凭れ
31…バックフレーム
32…係合片
40…シェル
50…判別手段
51…ベース部材
52,53…取付部
54…支持部
55…凸部
56…軸受部
57…レール受け部
57a…ネジ孔
58…ストッパ
59…樹脂板
61…スライドレール部材
62…被係合部
63…連結部
64…ガイド溝
65…リンク部材
66…長穴
67…中心軸
67a…枢支孔
68…連結ピン
68a…固定孔
70…識別子
71…凹部
72…長穴
73…コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部の後端側に背凭れが傾動可能に支持され、該背凭れの傾倒角度を含む座席姿勢の変化が可能な座席装置において、
前記背凭れの傾倒が最も小さいアップライト状態ないし該アップライト状態よりも傾倒が大きいリクライニング状態の何れかの状態を判別するための判別手段を備え、
前記判別手段は、座席上部にて前記座席姿勢の変化に影響されない固定位置に配されるベース部材と、該ベース部材に対して座席上部より目視可能な位置に連結され、前記背凭れの傾動に連動して前記ベース部材に対する相対的な位置が変化する識別子とを有し、該識別子の位置の変化により前記座席姿勢が前記アップライト状態にあるか否かを判別可能であることを特徴とする座席装置。
【請求項2】
前記座席装置は、座席の後方にシェルが固定配置され、該シェルの前方にて座部が移動可能に支持されると共に、該座部の後端側に背凭れが傾動可能に支持された航空機用座席であり、
前記ベース部材を、前記シェルの上端部の両端のうちの何れかに配置し、
前記識別子を、前記ベース部材に対して前記シェルの上端部より上下方向に出没可能に連結したことを特徴とする請求項1に記載の座席装置。
【請求項3】
前記識別子は、リンク機構を介して前記ベース部材に連結され、該リンク機構により前記背凭れの傾動に連動して、前記シェルの上端部より上方に突出した上位置と、前記シェルの上端部より下方に没入した下位置とに出没可能であることを特徴とする請求項2に記載の座席装置。
【請求項4】
前記リンク機構は、前記ベース部材に対して上下方向に移動可能に連結されたスライドレール部材と、該スライドレール部材の上端に一端が押し引き可能に連結された状態で、前記ベース部材に揺動可能に枢支されたリンク部材とを有し、
前記スライドレール部材の下端に、前記背凭れのフレーム側に係脱して該背凭れの傾動に連動するための被係合部を設け、
前記識別子は、前記ベース部材に対して上下方向に移動可能に連結された状態で、前記リンク部材の他端に押し引き可能に連結され、かつ該識別子は付勢手段によって上方向に付勢され、
前記座席姿勢がアップライト状態の際、上方に傾動した前記背凭れのフレームにより前記付勢手段の付勢力に抗して前記スライドレール部材は上方に移動し、前記リンク部材の揺動に伴って前記識別子は下位置となる一方、
前記座席姿勢がリクライニング状態の際、下方に傾動した前記背凭れのフレームから前記スライドレール部材は離脱し、前記付勢手段の付勢力により前記識別子は上位置に移動すると共に、前記リンク部材の揺動に伴って前記スライドレール部材は下方に移動することを特徴とする請求項3に記載の座席装置。
【請求項5】
前記識別子は上下方向に移動するボタン状の部材であり、
前記識別子が下位置にある際、ボタン状の上端面が前記シェルの上端部と連なり、少なくとも前記上端面は前記シェルの上端部と同系色の色が施され、
前記識別子が上位置にある際、ボタン状の側端面が前記シェルの上端部より上方に突出し、少なくとも前記側端面は前記シェルの上端部とは異なる色が施されたことを特徴とする請求項4に記載の座席装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−254147(P2012−254147A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128246(P2011−128246)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(390010054)コイト電工株式会社 (136)
【Fターム(参考)】