説明

廃棄物および副生物から炭酸カルシウムを調製する方法

本発明は、以下の工程を含む、炭酸カルシウムの製造方法に関する:弱酸および弱塩基から生成される塩の水溶液を第一抽出溶媒として使用して、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物を抽出することにより、バナジウムに富む第一残留物を沈降させると共に、カルシウムに富む第一濾液を生成させ;該第一濾液を該第一残留物から濾過により分離し;炭酸塩化ガスを使用して、カルシウムに富む該第一濾液を炭酸塩化することにより、炭酸カルシウム沈殿物と第二濾液とを生成させ;および該炭酸カルシウムを該第二濾液から2回目の濾過により分離する。さらに、本発明は、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物から炭酸カルシウムとバナジウムを抽出する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物から炭酸カルシウムを調製する方法と、該廃棄物または副生物から炭酸カルシウムとバナジウムとを抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造業は世界中の最も大きな産業の1つであり、毎年10億メートルトン以上の鋼を製造している。製鉄過程および製鋼過程から、大量のスラグが副生物として製造される(全世界で毎年3億〜4億メートルトンの量である)。製鋼スラグの現在の用途は、セメント骨材、道路建設、化学肥料およびライミング材料である。また、製鋼業が大気に放出するCOは、人為的なCO総排出量の約6〜7%を占める。しかしながら、スラグは、スラグ残渣から分離されるならば利用価値のある多くの成分、例えばCa、Si、Fe、Mg、Al、Mn、VおよびCrなどを含有する。
【0003】
合成炭酸カルシウム、または沈降炭酸カルシウム(PCC)は、今日においては、3種類の異なる方法で製造されている。該方法は、石灰ソーダ法、塩化カルシウム法および焼成/炭酸塩化法である。石灰ソーダ法の場合、水酸化カルシウムと炭酸ナトリウムを反応させて水酸化ナトリウム溶液を調製し、該溶液から炭酸カルシウムを沈殿させる。塩化カルシウム法の場合、水酸化カルシウムと塩化アンモニウムを反応させ、アンモニアガスと塩化カルシウム溶液を生成させる。精製した後、この溶液を炭酸ナトリウムと反応させて炭酸カルシウム沈殿物と塩化ナトリウム溶液を生成させる。最も一般的に使用される第三の製造方法の場合、酸化カルシウムを水で水和させて水酸化カルシウムスラリーを調製する。その後、該スラリーをCOに富む煙道ガスと反応させて炭酸カルシウムを沈殿させる。
【0004】
一般的なPCC製造法は、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを原料として必要とする。該原料は、一般的には石灰石を焼成(即ち燃焼)させて調製するので、多量のCOを排出させる。また、不純物はPCCの質に悪影響を及ぼすので、使用されるべき未使用石灰石に含まれる不純物の濃度を低くする必要がある。
【0005】
先行技術には、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物、例えば、製鉄スラグおよび製鋼スラグ等から種々の成分を分離する方法に関して幾つかの例が開示されている。例えば、水中で二酸化炭素(CO)ガスを用いて、アルカリ金属を炭酸塩に変換することにより、スラグからアルカリ金属を分離する方法が挙げられる。この方法は、例えば米国特許第4225565号明細書、欧州特許第0263559号明細書、米国特許第5466275号明細書および特開昭57−111215号公報に開示されている。
【0006】
さらに、特開2005-097072号公報は、二酸化炭素を含有するガスを、アルカリ土類金属および弱塩基と強酸との塩を含有する水溶液と接触させることにより、アルカリ土類金属炭酸塩を製造する方法を提供する。
【0007】
韓国特許第20040026382号明細書は、脱硫スラグと二酸化炭素若しくはCO含有排ガスを使用して、炭酸カルシウムを製造する方法を提供する。この方法の場合、脱硫スラグを水に添加した後、系のpHを12以上に調整し、得られるカルシウム溶出溶液をCO若しくはCO含有排ガスとpH7以上の条件下で反応させる。
【0008】
特開2007-022817号公報は、製鋼スラグ中に存在するCaOをCOガスで炭酸塩化することにより、製鋼スラグを処理する方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4225565号明細書
【特許文献2】欧州特許第0263559号明細書
【特許文献3】米国特許第5466275号明細書
【特許文献4】特開昭57−111215号公報
【特許文献5】特開2005-097072号公報
【特許文献6】韓国特許第20040026382号明細書
【特許文献7】特開2007-022817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物と、二酸化炭素(CO)に富む煙道ガスを効率的に利用する方法を提供することである。
【0011】
特に、本発明の目的は、穏やかな条件を使用して該廃棄物または副生物からカルシウムおよび他の金属を抽出する方法、および現在おこなわれている多くの炭酸カルシウムの製造方法と比べて、より低い二酸化炭素排出量しか伴わない、市場性のある炭酸カルシウムを製造する方法を提供することである。
【0012】
これらの目的および他の目的並びにこれらの目的の既知の方法と比べて有利な点は、以下の記載および請求項の記載のように、本発明により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、石灰石の採鉱および焼成を不要とし、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物、例えば製鉄スラグおよび製鋼スラグ(高炉スラグ、転炉鋼スラグ、脱硫スラグおよびレードルスラグを含む)などを利用して炭酸カルシウムを製造する、新規な方法が提供される。また、本発明方法は、このような産業から排出されるCO含有煙道ガスの実質的な量を消費できる可能性を有する。さらに、本発明方法は、廃棄物または副生物からその後に抽出することができる利用価値のある金属(例えばバナジウム等)の濃度を高める。
【0014】
従って、本発明は、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物から炭酸カルシウムを製造する方法と、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物から炭酸カルシウムおよびバナジウムを抽出する方法に関する。
【0015】
より詳細には、炭酸カルシウムを製造するための本発明による方法は、請求項1に規定される事項により特徴づけられる。
【0016】
さらに、炭酸カルシウムおよびバナジウムを抽出するための本発明による方法は、請求項3に規定される事項により特徴づけられる。
【0017】
本発明の方法により顕著な利点が得られる。すなわち、本発明は、未使用の石灰石の代わりに、低コストの産業上の副生物を原料として使用できる新規な方法を提供する。したがって、石灰石の採鉱および輸送を必要としない。更に、エネルギーを大量消費する石灰石の焼成を該方法において省略するので、COの排出量を削減できる。
【0018】
例えば、製鉄工場および製鋼工場から排出される煙道ガス中のCO濃度を効果的に減少できるので、該工場からのCOの排出量は局地的に削減される。例えば、製鋼所で局地的に製造される製鉄スラグおよび製鋼スラグを炭酸塩化することにより、各製鋼所からの二酸化炭素の排出量を8〜21%削減できる(フィンランドの製鋼所に関する調査に基づく)。
【0019】
また、他の有用元素および/または有毒元素、例えばバナジウムなどは、カルシウムが激減した残留物からより簡単に抽出できる。これによって付加的な利点がもたらされる。即ち、有用金属が得られて有毒元素が除去されるので、残留物は、未処理の廃棄物または副生物に比べて環境に対する有害性が低く、技術用途に対する適性が高い。
【0020】
次に、本発明は、添付の図面および詳細な説明を参照してより詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明による方法における好ましい実施態様(灰色の破線内)を説明する工程図である。
【図2】図2は、酢酸アンモニウム溶液中での鋼転炉スラグの溶解を説明するグラフである。
【図3】図3は、塩化アンモニウム溶液中での鋼転炉スラグの溶解を説明するグラフである。
【図4】図4は、硝酸アンモニウム溶液中での鋼転炉スラグの溶解を説明するグラフである。
【図5】図5は、リン酸二水素アンモニウム溶液中での鋼転炉スラグの溶解を説明するグラフである。 図6は、CHCOONHと鋼転炉スラグから調製した溶液を使用して、30℃で調製したカルサイトの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図7は、NHNOと鋼転炉スラグから調製した溶液を使用して、30℃で調製したカルサイトの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図8は、NHClと鋼転炉スラグから調製した溶液を使用して、30℃で調製したカルサイトの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図9は、NHNOと鋼転炉スラグから調製した溶液を使用して、70℃で調製したカルサイトの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物、例えば、製鉄スラグおよび製鋼スラグなどから炭酸カルシウムを製造すると共に、該廃棄物および副生物中に含まれる有用な金属であって、その後で抽出される該金属、例えばバナジウムの濃度を増加させる方法に関する。
【0023】
本発明の実施態様によると、該方法は以下の工程a)〜工程d)を含む(図1参照):
a)産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物の溶解、
b)濾過、
c)残留物の炭酸塩化、および、
d)濾過。
【0024】
この実施態様によると、弱酸と弱塩基から生成された塩の水溶液で抽出することにより、溶解工程が行われる。好ましくは、弱塩基はアンモニアである。最も好ましくは、塩は酢酸アンモニウムである(CHCOONH)。
【0025】
この方法を用いることにより、炭酸カルシウムは、炭酸塩化工程とその後の濾過工程後に沈殿物として得られる。
【0026】
本発明による別の実施態様によると、本発明方法は、バナジウムを抽出するために溶解工程a)で得た第一残留物を処理する更なる工程を含む。この実施態様によると、本発明方法は以下の工程a)〜工程f)を含む(図1参照):
a)産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物の溶解、
b)濾過、
c)第一残留物の炭酸塩化、
d)濾過、
e)第一残留物の溶解、および
f)濾過。
【0027】
この実施態様によると、塩の水溶液、好ましくはアンモニウム塩の水溶液、より好ましくは酢酸アンモニウム(CHCOONH)水溶液、塩化アンモニウム(NHCl)水溶液、硝酸アンモニウム(NHNO)水溶液またはその他のアンモニウム塩水溶液、最も好ましくは酢酸アンモニウム(CHCOONH)水溶液で抽出することにより、溶解工程が行なわれる。
【0028】
産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物は、好ましくは製鉄スラグおよび製鋼スラグ、より好ましくは、製鉄産業および製鋼産業の高炉スラグ、鋼転炉スラグ、脱硫スラグまたはレードルスラグである。
【0029】
図1の工程図によると、まず、第一抽出溶媒を用いて、0〜100℃、好ましくは10〜70℃、より好ましくは10〜30℃の温度で、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物(例えば製鉄スラグおよび製鋼スラグなど)から、カルシウムを選択的に抽出する(工程a参照)。最も好ましくは、塩の水溶液を用いて、室温(特に20℃〜25℃の温度)で該抽出を行う。第一抽出溶媒中の塩濃度は0.2M〜5M、好ましくは0.5M〜2Mである。
【0030】
酢酸アンモニウムを用いる抽出は、以下の化学反応式1で表される:
【0031】
【化1】

【0032】
式中、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物はCaO・SiOとして簡略化されているが、カルシウム(および他の多くの化合物)は、これらの生成物中のいくつかの異なる相中に存在していてもよい。抽出工程a)を経ることで、バナジウムに富んだ第一残留物(例えば残留スラグなど)が生成され、カルシウムに富み生成された第一濾液から該残留物を沈降させる。
【0033】
一般に、第一濾液は、廃棄物または副生物中に存在する60%〜90%(好ましくは65%〜85%)のカルシウムを含有する。
【0034】
固体状の第一残留物を沈降させ、該沈降物を、好ましくは濾過により溶液(即ち第一濾液)から分離させる(工程b参照)。
【0035】
次に、炭酸塩化ガスを炭酸塩化反応器内へ導入し、該反応器内において、好ましくは、該ガスをカルシウムに富む第一濾液内を通過させて泡立たせるか、あるいは第一濾液を、炭酸塩化反応器として機能するガススクラバー内に噴霧させることによって、炭酸カルシウムを沈降させる(工程c参照)。炭酸塩化は、0℃〜100℃、好ましくは10℃〜70℃、より好ましくは10℃〜30℃の温度で行われる。最も好ましくは、炭酸塩化は、室温(特に20℃〜25℃)で、ガス(好ましくはCOまたはCO含有ガス、最も好ましくは、製鋼業で生じるCO含有煙道ガス)を用いて、以下の化学反応式2で表されるようにして行われる。
【0036】
【化2】

【0037】
沈殿した炭酸カルシウムを沈降させて沈降物を生成させ、該沈降物を、生成した第二濾液から濾取る(工程d参照)。生成した炭酸カルシウムから分離した第二濾液を、第一抽出溶媒として使用するために、工程a)へと再循環させてもよい。
【0038】
一般的に第一抽出溶媒全量に対して0.1wt%〜1wt%の、少量の第一抽出溶媒(例えば酢酸アンモニウム溶液)は、CO濃度の低い炭酸塩化ガスと共に蒸発するので、CO濃度の低いガス流と共に炭酸塩化工程c)から取り出される。本発明の好ましい実施態様によると、例えば、凝縮器を用いて該溶媒を凝縮させることにより、該溶媒を再生する。その結果、該溶媒は、独立してまたは第二濾過液とは共に工程a)へ再循環させることができる。一方、該ガス流は煙道ガスの排出口へ戻してもよい。
【0039】
工程a)〜工程d)を行った後の、炭酸カルシウムとして沈殿したカルシウムの収率は、一般に、廃棄物または副生物中に存在するカルシウムの20%〜35%、好ましくは24%〜30%である。
【0040】
カルシウムの抽出後(工程a〜工程dの後)、第一残留物中の他の元素の濃度はより高くなる。適切な溶媒を用いることで、種々の他の元素を同様に抽出できる。第一残留物は、例えばバナジウムに富んでいるので、バナジウムを抽出することが特に有効である。以下の化学反応式3で示すように、第一残留物を第二抽出溶媒(好ましくはリン酸二水素アンモニウムの水溶液)中に溶解させることにより、バナジウムに富む第一残留物からバナジウムを抽出できる(工程e参照)。
【0041】
【化3】

【0042】
式中、産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物中のバナジウムは、いくつかの異なる化合物として存在できるが、Vとして簡略化されている。第二抽出溶媒中の塩濃度は、0.2M〜5M、好ましくは0.5M〜2Mである。バナジウムの溶解は0℃〜100℃、好ましくは10℃〜70℃、より好ましくは10℃〜30℃の温度で行われる。最も好ましくは、該溶解は室温(特に20℃〜25℃)で行われ、その結果、バナジウムの含有量が少ない第二残留物が沈殿すると共に、バナジウムに富む第三濾液が生成する。その後、該沈殿物と該濾液を、例えば濾過により分離する。
【0043】
第三濾液は、産業上の廃棄物または副生物中に存在する20%〜30%のバナジウム、好ましくは約25%のバナジウムを含有する。
【0044】
例えば電気分解法を用いることで、このバナジウムに富む濾液から金属バナジウムを調製できる。
【0045】
本発明において使用される好ましい廃棄物または副生物は、製鉄スラグおよび製鋼スラグであるが、ケイ酸カルシウム、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムを1種またはそれ以上含有する他の産業上の廃棄物または副生物も、本発明方法の概念における原料として使用できる。
【実施例】
【0046】
実施例1−鋼転炉スラグからのカルシウムの抽出
実験は、鋼転炉スラグからのカルシウムの抽出率を調べるために行った。密封した三角フラスコ内に、0.5M濃度、1M濃度および2M濃度で、各アンモニウム塩(酢酸塩、硝酸塩および塩化物)の水溶液溶媒各50mlを入れ、1gの鋼転炉スラグバッチ(74μm−125μm)を該溶媒に溶解させた。結果の信頼性と再現性を高めるために各実験を3回行った。溶液を室温(20℃)で100rpmの速度で攪拌し、スラグを添加して1時間後に、0.45μmのフィルターを用いて該溶液を濾過した。誘導結合プラズマ原子発光分光分析(ICP−AES)を使用して、濾過した溶液中のCa、Si、Fe、Mg、Al、Mn、VおよびCr(鋼転炉スラグ中の主な元素)の濃度を測定した。また、使用した鋼転炉スラグのフラクションを、全温浸とICP−AESを用いて分析した。バッチ試料をX線蛍光(XRF)およびX線回折(XRD)により分析した。
【0047】
蒸留水を使用した場合、鋼転炉スラグ中に含まれる僅か10%のカルシウムが抽出されたが、酢酸アンモニウムの2M水溶液を使用した場合、69%のカルシウムが抽出された(図2参照)。さらに、2Mの硝酸アンモニウム水溶液および2Mの塩化アンモニウム水溶液を使用した場合、それぞれ、鋼転炉スラグ中に含まれるカルシウムの82%および73%が抽出された(図3および図4参照)。他の元素について得られた濃度は低く、6%までのケイ素が抽出されたが、その他の測定元素の量は、XRF分析の検出限界を下回った。
【0048】
実施例2−鋼転炉スラグからのバナジウムの抽出
リン酸二水素アンモニウムの1M水溶液を使用して、温度を室温(20℃)に維持することで、製鋼スラグ中に含まれる25%のバナジウムが抽出されたが、カルシウムの大部分が不溶解で残留していた(図5参照)。さらに、36%のシリコンが該溶液中に溶解した。このことは、溶解したケイ素がシリカゲルとして沈殿して該溶液中に高濃度のバナジウムが残存する高温(例えば60〜80℃)で、バナジウムを抽出できることを意味する。したがって、リン酸二水素アンモニウムを用いることによって、バナジウムを選択的に抽出できる。
【0049】
実施例3−炭酸塩化
アンモニウム塩と鋼転炉スラグから溶解したカルシウムとを含有する水溶液の炭酸塩化を、30℃と70℃で試験した。実験は、温度制御した水浴を用いて加熱したガラス製の反応器(1000ml)内でおこなった。溶媒蒸発に起因する溶液の損失を防ぐために、反応器を、水道水を利用する凝縮器と接続した。溶液温度とpH値を連続的に監視した。マグネチックスターラーを使用して溶液を600〜700rpmで攪拌した。窒素流を1リットル/分の量で該溶液内を通過させて泡立たせる条件下で、所望の温度まで加熱した後、窒素流を二酸化炭素流(1リットル/分)に置き換えた。二酸化炭素流で70分間連続的に暴露した後、反応器を水浴から取りだし、0.45μmの膜を用いて溶液を濾過した。沈殿物を洗浄し、一晩掛けて115℃〜120℃で乾燥させた。XRD、XRF、全炭素量(TC)および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて沈殿物を分析した。
【0050】
窒素流を二酸化炭素流に置き換えた直後に、溶液は透明から白色へと変化した。洗浄および濾過した沈殿物のXRD分析によると、該沈殿物はカルサイト形態の炭酸カルシウムから成ることが判った。XRDスペクトルにおいて、他の相は観察されなかった。XRFおよびTC分析は、沈殿物の主な元素がCaとCであることを裏付けた。XRFにより特定された他の成分の合計量が、沈殿物の0.14wt%〜0.21wt%にしか達していないので、調製したカルサイトの純度が99.8%であることが判る。沈殿物のSEM写真(図6、7、8および9)は、沈殿物が約5〜30μmの直径を有する菱面体形状のカルサイトであることを示す。製紙用充填材用途に対して好ましいカルサイトは、一般的により小さく、偏三角面体(scaleohedral)(六方晶系)を示すが、一般的に、該沈殿物の形態は種々の処理パラメーターにより調整される。
【0051】
NHClおよびNHAcから調製した溶液を使用した場合、スラグ中のカルシウムから沈降カルシウムへの全転化率は28〜29%であり、NHNOから調製した溶液を使用した場合、該転化率は24%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a)〜工程d)を含む、炭酸カルシウムの製造方法:
a)弱酸および弱塩基から生成される塩の水溶液を第一抽出溶媒として使用して、産業上のアルカリ性の廃棄物および副生物を抽出することにより、第一残留物を沈降させると共に、カルシウムに富む第一濾液を生成させ、
b)該第一濾液を濾過により該第一残留物から分離し、
c)炭酸塩化ガスを使用して、カルシウムに富む該第一濾液を炭酸塩化することにより、炭酸カルシウム沈殿物と第二濾液とを生成させ、および、
d)該炭酸カルシウムを濾過により該第二濾液から分離する。
【請求項2】
第一抽出溶媒が酢酸アンモニウム(CHCOONH)水溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の工程a)〜工程f)を含む、製鉄スラグおよび製鋼スラグから炭酸カルシウムとバナジウムとを抽出する方法:
a)第一抽出溶媒を使用して、産業上のアルカリ性の廃棄物および副生物を抽出することにより、バナジウムに富む第一残留物を沈降させると共に、カルシウムに富む第一濾液を生成させ、
b)該第一濾液を濾過により該第一残留物から分離し、
c)炭酸塩化ガスを使用して、カルシウムに富む該第一濾液を炭酸塩化することにより、炭酸カルシウム沈殿物と第二濾液とを生成させ、
d)炭酸カルシウムを濾過により該第二濾液から分離し、
e)第二抽出溶媒を使用して該第一残留物を溶解させることにより、バナジウム含有量が少ない第二残留物を沈降させると共に、バナジウムに富む第三濾液を生成させ、および
f)該第二残留物を濾過により該第三濾液から分離する。
【請求項4】
使用する第一抽出溶媒が、弱酸および弱塩基から生成される塩の水溶液である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
使用する第一抽出溶媒が、アンモニウム塩、好ましくは酢酸アンモニウム(CHCOONH)、塩化アンモニウム(NHCl)または硝酸アンモニウム(NHNO)の水溶液である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
使用する第二抽出溶媒がリン酸二水素アンモニウムの水溶液である請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
産業上のアルカリ性の廃棄物または副生物が、製鉄スラグおよび製鋼スラグ、好ましくは、製鉄産業および製鋼産業の高炉スラグ、鋼転炉スラグ、脱硫スラグまたはレードルスラグから選択される請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
炭酸塩化で使用するガスが、COまたはCO含有ガス、好ましくは製鉄産業および製鋼産業で生じるCO含有煙道ガスである請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第一濾液内に炭酸塩化ガスを吹込むか、あるいは第一濾液を煙道ガススクラバー内に噴霧させることにより、炭酸塩化が行われる請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
蒸発した第一抽出溶媒を少量含む炭酸塩化に使用したCOの濃度の低いガス流を、炭酸塩化工程から取り出し、該溶媒を凝縮させて工程a)に再循環させることによって、該溶媒を第一抽出溶媒として使用する請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
工程d)において生成した炭酸カルシウムから分離した第二濾液を工程a)に再循環させることにより、該濾液を第一抽出溶媒として使用する請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程a)、工程c)および工程e)が、10℃〜90℃、好ましくは20℃〜70℃、最も好ましくは20℃〜25℃の温度で行われる請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
バナジウムに富む第三濾液を電気分解に付すことにより金属バナジウムを生成させる請求項3〜12のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−523615(P2011−523615A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511046(P2011−511046)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050455
【国際公開番号】WO2009/144382
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(510063878)アールト・ユニバーシティ・ファウンデイション (6)
【氏名又は名称原語表記】Aalto University Foundation
【出願人】(510316844)
【出願人】(510316855)
【氏名又は名称原語表記】RAUTARUUKKI OYJ
【Fターム(参考)】