説明

廃棄物の焼却方法

【課題】旋回溶融式溶融炉を使用した廃棄物の焼却装置で低空気比での燃焼を行うにあたって、燃焼室内の失火を抑えて、窒素酸化物の排出量を抑えるとともに、廃棄物の処理が停滞することを抑え、かつ助燃剤の無駄な消費を抑制することを目的とする。
【解決手段】空気比1.0以下の環境で燃焼溶融を行う溶融炉の主燃焼室13に、主燃焼室13の種火を供給する主燃焼室用バーナ61とともに、この主燃焼室用バーナ61の補助となるパイロットバーナ74を設け、このパイロットバーナ74を、廃棄物の燃焼運転中は常時燃焼させておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、廃棄物をガス化して焼却する焼却炉において、主燃焼室の失火による温度低下と、それによる窒素酸化物の生成を抑える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミや家庭ゴミなどの廃棄物を処理する焼却炉では、ガス化炉で廃棄物を熱分解ガスと固形分であるチャー(炭素質や灰分を含む固形分をいう。)とに分解し、熱分解ガスを燃焼させるとともに灰分を溶融させる溶融炉が用いられている。この灰分を熱溶融するためには1200℃以上の高温が必要となる。しかし、単に助燃剤となる燃料を大量に供給して徹底して燃焼させることで高温化させようとすることは、昨今の資源保護の観点から望ましくない。このため、廃棄物自体のエネルギーで自己熱溶融できるように、助燃無しで十分な高温にすることが検討されている。
【0003】
その検討課題の一つとして、主燃焼室で十分に燃焼を行うために、燃焼を起こす火の元となるバーナを最適化するための検討が行われている。
【0004】
例えば特許文献1には、主燃焼室に備えた点火用のパイロットバーナにより、主となる起動バーナに点火するより前に主燃焼室を暖めることで、起動バーナの点火までに十分に高温にしておき、低温燃焼を防ぐと共に、起動バーナによる急激な加熱を防ぐ方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱容量が大きい主バーナと、それよりは熱容量が小さい補助バーナとを備えた燃焼室での燃焼が提案されている。これは、熱容量の大きな主バーナは、一度火が消えると点火するまでの間に時間がかかり、その間に燃焼室内の温度が低下してしまうだけでなく、点火にエネルギーコストもかかるので、主バーナの点火までの間は補助バーナで加熱するとともに、補助バーナの火を種火として、速やかに主バーナを点火できるようにして、燃焼室内の温度を維持する方法である。また、主バーナの点火後も補助バーナを点火させ続けることで、燃焼室内の温度低下を抑制する方法も記載されている。
【0006】
一方で、高温の溶融炉では、酸素濃度が高いほど、燃焼用空気中の窒素と酸素が反応して、所謂サーマルNOxと呼ばれる窒素酸化物が生じやすくなるため、燃焼条件を適切に調整する必要がある。その一つとして、低空気比燃焼技術の検討が行われている。これは空気供給による熱損失を抑えて、外部から供給する空気により炉内が冷却されることを抑え、炉内の高温化を図るものである。また、使用する燃焼用空気を減らすため、最終的に排ガスとなるガス量を削減することもできる。さらに、空気量を減らすことでサーマルNOxの生成を抑制することができる。
【0007】
具体的には、溶融炉での空気比を1.0以下とすることが望ましいとされている。この空気比は、熱分解ガスや助燃剤を完全燃焼させることができる理論空気量に対する、実際の空気供給量の比である。しかし、焼却される廃棄物の性質は一定ではなく、ガス化炉で生じる熱分解ガス及びチャーの発生量には変動が生じる。このため、溶融炉を実際に運転すると、空気比が1.0を上回ることがしばしば発生する。こうなると、高温燃焼であるために空気中の窒素と酸素が反応するサーマルNOxの発生が著しく、窒素酸化物の発生を抑制することが難しい。
【0008】
これに対して、燃焼用空気の量を状況に応じて調整するという方法が挙げられる。廃棄物の焼却は定常的ではなく、焼却する廃棄物の内容に応じて時々刻々と状況が変化するが、燃焼により生じる排ガス中の酸素濃度を測定し、この酸素濃度が予め定めた設定値に近づくように、燃焼用空気の供給量を調整するフィードバック制御を行うものである。この他、ごみの処理量や助燃剤の使用量の測定値から理論空気量を計算し、これを元に供給する空気量を制御する制御方法もある。
【0009】
さらに、溶融炉内で十分に攪拌、混合を行いつつ内部温度を制御するために、排ガスを循環させることが行われている。燃焼用空気の量が増減するため、これにより攪拌混合を行うよりも、定常的に排ガスを送り込む方が確実に攪拌混合出来るためである。また、排ガス自体は燃焼用空気よりも酸素濃度が低いため、低空気比での燃焼の邪魔になりにくい。
【0010】
【特許文献1】特開2002−22126号公報
【特許文献2】特開2004−163070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、熱分解ガスや燃焼用空気の量が変動することで、溶融炉の主燃焼室内の燃焼状況は大きく変動することがある。特に、熱分解ガスや炭素質の保有熱量が高く、十分に主燃焼室が高温になるために助燃剤の使用量を絞り込んでいる場合に、低空気比での燃焼を行おうとして空気供給量を絞ると、酸素と助燃剤との両方が極端に不足して、燃焼室内での燃焼の火種となる主燃焼室用バーナが失火する可能性がある。また、空気と熱分解ガスとの混合が不十分となり、着火に遅れが生じてくるため、助燃剤への着火も期待できなくなり、主燃焼室での燃焼ゾーンが後段の溶融池側へ移行する。こうなると、主燃焼室内での燃焼自体が維持できなくなってしまう。
【0012】
一方で、主燃焼室での燃焼が途絶えても、主燃焼室で溶融された固形分等が落下し、ガスが流れ込んでくることになる溶融炉後段の溶融池は高温を維持していることが多い。これは、溶融炉に落ちた溶融状態の固形分や、溶融炉自体を構成する耐火物がなお高温であるために、輻射伝熱が起こり、主燃焼室で燃焼されなかった熱分解ガスや助燃剤等が溶融池付近で燃焼を起こしているためと考えられる。しかし、溶融池部分に燃焼が集中することで熱負荷が過大になりすぎてしまうおそれがあり、また、自己脱硝が十分に進行せず、窒素酸化物が大量に排出されてしまうことがあった。
【0013】
そこでこの発明は、旋回溶融式溶融炉を使用した廃棄物の焼却装置で低空気比での燃焼を行うにあたって、燃焼室内の失火を抑えて、窒素酸化物の排出量を抑えるとともに、廃棄物の処理が停滞することを抑え、かつ助燃剤の無駄な消費を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、空気比1.0以下に制御された環境で燃焼溶融を行う溶融炉の主燃焼室に、主燃焼室の種火を供給する主燃焼室用バーナとともに、この主燃焼室用バーナの補助となるパイロットバーナを設け、このパイロットバーナを、廃棄物の燃焼運転中は常時燃焼させておくことで、上記の課題を解決したのである。
【0015】
低空気比環境であっても、パイロットバーナを常時燃焼させておくことにより、主燃焼室での燃焼を途切れさせることなく続けることができ、溶融池への燃焼状態の移行を防ぐことができるようになる。この常時燃焼を実現するため、パイロットバーナに火炎検知器を設け、パイロットバーナ自体の失火を検知した場合には速やかにパイロットバーナを再点火するようにする。
【発明の効果】
【0016】
この発明にかかる焼却方法により、低空気比燃焼を行う溶融炉であっても、主燃焼室における燃焼の停止を抑制することができ、適切な燃焼制御を続けながら廃棄物の処理が可能になる。結果として、窒素酸化物の発生を抑制することができる。
【0017】
従来、パイロットバーナは、着火用の火種であるために、常時燃焼させていても無駄であると考えられ、特に助燃剤として、保存に手間が掛かる分燃焼量を抑えたいLPGを使用する場合は、速やかにパイロットバーナを消火していた。しかし、そのデメリット以上に、常時パイロットバーナを燃焼させて燃焼状態を維持することで、失火後の温度再上昇のために無駄になる助燃剤の量を減らし、かつ、廃棄物の処理を途切れさせないことによるメリットの方が大きく、燃焼装置の運用をより効率的に行えるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明について、図1に示す実施形態により説明する。図1は、この発明にかかる廃棄物焼却装置の溶融炉の断面図である。溶融炉の上流に設けられたガス化炉で廃棄物Aを熱分解して得られた熱分解ガスBと、炭素質や灰分を含む固形分Cとが、熱分解ガス・チャー導入口63を通じて、主燃焼室13の上部に供給される。一方で、バーナ燃焼用空気口62からは燃焼用空気Dが主燃焼室13の上部に供給される。これらを、主燃焼室13の上部に設けた主燃焼室用バーナ61により点火して、熱分解ガスBを燃焼させる。主燃焼室用バーナ61自体の燃焼に用いる助燃剤Mは、助燃剤供給管64から導入し、それとともに、助燃剤を燃焼させるための助燃剤燃焼用空気Nも供給される。これらにより形成される炎により点火される、熱分解ガスBと、それを燃焼させるための燃焼用空気Dとを供給する熱分解ガス・チャー導入口63及びバーナ燃焼用空気口62の主燃焼室13への供給口は、主燃焼室用バーナ61の周囲を取り巻くように設置されている。
【0019】
燃焼により、熱分解ガスBは二酸化炭素等になり、固形分C中の灰分は高熱により熱溶融する。主燃焼室13の壁面には、上中下段の三段に亘り、それぞれ円周方向等間隔に複数のノズル71,72,73が設けられている。これらから燃焼用ガスと排ガスとを吹き込むことで、旋回流を生じさせて熱分解ガスBと燃焼用空気Dとを攪拌するとともに、燃焼した気体を順次下方の溶融池14へと押し流す。また、溶融した固形分C中の灰分(スラグ)は壁面を伝って溶融池14へと落下し、出滓口15を経て系外へ排出される。
【0020】
上記の主燃焼室用バーナ61の、主燃焼室13に向いた点火部分の近傍に、パイロットバーナ74の先端が設けてある。このパイロットバーナ74は、主燃焼室用バーナ61への点火を行うために、主燃焼室用バーナ61よりも先に点火するものであり、主燃焼室用バーナ61よりも熱容量が小さく、熱分解ガスBではなく助燃剤を燃焼させるものである。すなわち、それぞれは、パイロットバーナ74の先端に生じる炎が、主燃焼室用バーナ61に燃え移ることが可能な位置関係で設けられている。
【0021】
このパイロットバーナ74の拡大図を図2に示す。燃料である灯油が、油入口101から送油管102を通して、バーナの先端のノズルチップ103まで供給される。一方で、燃焼用空気入口管105を通じて、燃焼用空気が供給される。スパークプラグ107の先端にあるスパークロッド108が発する火花により、供給される灯油に点火する。なお、ディフューザ111は、下流部に燃焼ガスの循環流を発生させ、混合気への着火を促進させる保炎器である。
【0022】
また、このパイロットバーナ74には、ノズルチップ103近傍の点火状態を検知する火炎検知器112が併設されている。この火炎検知器は、燃焼している炎の存在の有無を確認できるものであれば特に限定されるものではなく、炎が消えたことを検知した場合には、パイロットバーナ74へ信号を送り、スパークプラグ107をスパークさせ、速やかに再点火させるようになっている。具体的には、赤外線式、紫外線式などの方式が挙げられ、パイロットバーナ74の後部に取り付けて検知させると好ましい。
【0023】
主燃焼室13に供給される熱分解ガスBは、その前のガス化炉に投入される廃棄物により量や質が大きく変化し、熱分解ガスBが特に多くなると、保有熱量が多くなり、助燃剤を使用しなくても十分に燃焼が進み、助燃剤を供給することで燃焼が進みすぎ、高温になりすぎる場合もある。この場合、助燃剤の供給量を一時的に最小限にまで絞ることで、過度の高温化を防ぐ。この環境で、さらに主燃焼室の燃焼空気を、上記の通りの低空気比で制御すると、熱分解ガスや炭素質への着火も不安定になり、助燃剤の低下と相乗して、主燃焼室用バーナ61が吹き消えてしまうことで、主燃焼室13の失火が起こると考えられる。
【0024】
この発明にかかる焼却方法では、このパイロットバーナ74の失火時には速やかに点火させることができるようにして常時燃焼させておく。これにより、主燃焼室用バーナ61が失火してもパイロットバーナ74は燃焼しているため、パイロットバーナ74の炎により、主燃焼室13内の燃焼を維持し続けることができる。このため、主燃焼室13が失火して溶融池14に燃焼の主体が移動することを防ぎ、溶融池14に過度の熱負荷がかかることを抑えられる。また、再点火のために廃棄物の処理が滞り、助燃剤を浪費することを防ぐことができる。
【0025】
なお、主燃焼室用バーナ61とパイロットバーナ74とは、その燃料が共通していると機構が簡略化できて好ましい。この燃料としては、灯油や液化石油ガス(以下「LPG」と略記する。)が挙げられる。しかし、主燃焼室用バーナ61は通常消費する量が大量であるため、高圧環境を維持しなければならないLPGでは保存にかかる手間や費用が軽視できなくなる。このため、主燃焼室用バーナ61が用いる燃料は、常温で液体の燃料を用いると好ましく、灯油が好適に用いられる。これに伴い、パイロットバーナ74も灯油を燃料とすることが好ましい。
【0026】
この発明にかかる焼却方法は、主燃焼室13の空気比が、所謂、低空気比と呼ばれる、燃焼用空気の供給量を抑えた環境に適用する意義がある。具体的には、空気比が1.3以下であるとよく、1.0以下であると特に失火しやすいため、この発明がより有益となる。なお、空気比とは、主燃焼室13に供給される熱分解ガスBと助燃剤とを完全燃焼させるのに必要な理論空気量に対する実際の空気量の比である。空気が過剰であると、固形分Cを溶融可能にしなければならない高温環境で、サーマルNOxとしての窒素酸化物が発生しやすいため、燃焼用空気Dの供給量を絞る必要があるので、空気比1.0以下の低空気比での運転を行う。ただし、空気比が低すぎると、不完全燃焼が起きて一酸化炭素が発生しやすくなり、図3に示すように主燃焼室13を含む溶融炉12の下流に二次燃焼室21を設けて完全燃焼しようとしても難しくなるので、主燃焼室の空気比の制御目標の下限は0.8以上であるとよく、0.9以上であるのが好ましい。なお、ここで記載の空気比は目標値であり、投入される廃棄物の量や質により熱分解ガスBの量や質が変化し、必要な空気量も大きく変動することがあるので、一時的に上記の空気比の範囲から逸脱することがある。
【0027】
上記のような空気比に制御する具体的な方法としては、例えば、主燃焼室13の下流、溶融炉12の出口12a部分に酸素濃度計17を設けて、この酸素濃度計17の値が、予め定めた目標値になるように、溶融炉出口酸素濃度調節計18によって主燃焼室13に供給される燃焼用空気Dの量を調節する溶融炉供給空気調整弁19を調整するフィードバック制御を行う方法が挙げられる。なお、酸素濃度計の代わりに、又は併用して、窒素酸化物濃度計、一酸化炭素濃度計を用いて、それぞれについて予め定めた目標値に近づくように燃焼条件を調節するフィードバック制御を行ってもよい。
【0028】
この発明による効果が好適に発揮されるのは、熱分解ガスBが十分に供給されることで、主燃焼室13内が十分に高温になり、主燃焼室用バーナ61における助燃剤Mの供給量を絞って、主燃焼室用バーナ61による燃焼を抑えた状況で、さらに、上記の通り低空気比での燃焼を実現するために、燃焼用空気Dの供給量が制御されて変動した場合が挙げられる。このような助燃剤の低下と燃焼用空気Dの不足との相乗効果が起きて、主燃焼室用バーナ61が失火したとしても、燃焼し続けるパイロットバーナ74が種火となって、速やかに主燃焼室用バーナ61に再点火することができ、主燃焼室13内での燃焼状態を維持し続けることができる。
【0029】
また、逆に、主燃焼室用バーナ61における助燃剤の燃焼が不要なほどに、熱分解ガスBと固形分Cに含まれる成分とにより供給される熱容量が十分確保でき、燃焼溶融を行うために必要な温度を維持出来る場合には、主燃焼室用バーナ61への助燃剤の供給を意図的に停止して、上記主燃焼室用バーナ61の火を消して、パイロットバーナ74のみを種火として燃焼を続けることで、助燃剤の無駄な消費を抑えてもよい。主燃焼室用バーナ61は、焼却を始める前の起動時において昇温を行う役割もあるため、主燃焼室13の規模に対して十分に大きい熱容量を有していることが多い。しかし、一般的に主燃焼室用バーナ61に用いられるバーナは、供給できる最低油量と最高油量(LPGの場合も含む。)の比であるターンダウン比が1:10程度であり、最低油量に絞っても十分な省エネができない。このため、油量を絞るのではなく、そもそも燃焼を止めてしまい、種火の維持を主燃焼室用バーナ61の最低油量より消費油量が小さいパイロットバーナ74に任せることで、より効果的な省エネが可能となる。
【0030】
このような、熱分解ガスBと固形分Cのみで十分な熱容量を確保出来る状態になったことを検知する方法としては、主燃焼室13内の温度で判断し、設定された温度値以上で油量を制御する方法が挙げられる。具体的には、主燃焼室13内の温度を測定する温度計を設置するとともに、この温度計の測定値が1200℃以上となったら、上記主燃焼室用バーナ61への助燃剤Mの供給を停止し、測定値が1150℃以下となったら助燃剤Mの供給を再開するように制御する制御機構を設ける。
【0031】
この発明にかかる方法により、主燃焼室の燃焼状態を維持することによって、低温、不完全燃焼による窒素酸化物や一酸化炭素の発生を抑制することができる。また、主燃焼室内の温度が安定するため、燃焼効率を維持でき、主燃焼室やその下流に設けた二次燃焼室等で燃焼条件を適正にするための制御による変化を小さくすることもできる。さらに、従来、失火の際に起きていた、高温状態に復帰させるための暖機運転を行う必要がなくなった。これにより、助燃剤の消費量を抑制することができるとともに、廃棄物の処理作業が途切れにくくなるため、結果として廃棄物の処理量を増やすことができる。
【実施例】
【0032】
(実施例)
この発明にかかる焼却方法を実際に実行した実施例について、以下に説明する。主燃焼室とその周辺の構造は、図1のような構成とし、パイロットバーナは図2に記載の構造である物を用いて行った。パイロットバーナ74の先端で燃焼する炎により、主燃焼室用バーナ61に点火できるようにした。主燃焼室用バーナ61及びパイロットバーナ74に供給する助燃剤はいずれも灯油とした。
【0033】
上段ノズル71として100Aのノズルを円周方向等間隔に6本、中段ノズル72、下段ノズル73として50Aノズルを円周方向等間隔にそれぞれ3本づつ設けてある。なお、これらのノズル71〜73はいずれも旋回流を生じるように、同一方向に傾いた方向を向いて設置されている。
【0034】
火炎検知器112としては、赤外線検知器を使用して、パイロットバーナの後部に設け、パイロットバーナ74先端部での失火を速やかに検知できるようにした。検知した場合には、信号ケーブルにより直接パイロットバーナ74を制御して、プラグをスパークさせて再点火するようにした。
【0035】
燃焼装置全体の構成及びフローは図3のように行った。すなわち、主燃焼室13と二次燃焼室21とにより二段燃焼を行うため、それぞれに燃焼用空気Dと攪拌用の排ガスJ’を供給して、熱分解ガスB、又はその未燃焼ガスを燃焼させた。また、溶融炉の出口12aに排ガスJ’を供給することで二次燃焼室に供給される気体を冷却した。排ガス再循環用送風機33から排ガス溶融炉環流配管32、排ガス溶融炉出口環流配管43、及び排ガス二次燃焼室環流配管42に供給する排ガスJ’は、二次燃焼室21から排出されたガスJを、誘引送風機31に繋がる一連の煙道24、24’を通じてガス冷却室25、空気予熱器26、減温塔29を通り、冷却した後、バグフィルタ30で集塵してダストを除去したものを環流させた。なお、空気予熱器26では、溶融炉燃焼用空気送風機27から空気供給配管28を通して送られる導入前の燃焼用空気Dと熱交換した。溶融した灰分はスラグFとして水槽16に送った。
このとき、二次燃焼室21の出口に温度計46を設けて、その測定値に従い二次燃焼室出口温度調節計47により二次燃焼室燃焼用空気調整弁48を調整して、二次燃焼用送風機44から二次燃焼室空気導入配管45を通り二次燃焼室21に供給される二次燃焼用空気D’の供給量を調整した。また、主燃焼室用バーナ61に送る空気はバーナ供給空気調整弁41により調整した。
【0036】
上記の主燃焼室に設けられたノズルのうち、中段ノズル72から排ガスJ’を供給し、上段ノズル71と下段ノズル73から燃焼用空気Dを供給する。供給される燃焼用空気Dの量は、熱分解ガスBに対する空気比が0.8〜1.0になるように制御する。この制御のため、溶融炉出口12aに赤外線レーザー式である酸素濃度計17を設け、この酸素濃度計の値が1.5%となるように燃焼用空気を供給して、主燃焼室の目標空気比が0.8〜0.9となるようにフィードバック制御を行った。また、主燃焼室13と二次燃焼室21とを合わせた燃焼装置全体に供給される燃焼用空気と熱分解ガスBとの空気比が1.3となるように燃焼用空気の量を制御した。
【0037】
上記の条件で運用した際の、二次燃焼室21から排出される排ガスJの温度計46を設けた箇所における、一酸化炭素(CO)濃度、窒素酸化物(NOx)濃度、酸素(O)濃度と、溶融炉出口12aにおける酸素濃度を図4に示す。なお、CO濃度とNOx濃度は、12%酸素濃度での換算値を示す。窒素酸化物濃度は平均的に80ppm以下で推移した。さらに、一酸化炭素濃度は、初期の時点に二つのピークが現れたのみで、それ以降はまったくグラフに現れない程度の値であり、一旦燃焼を安定させると、一酸化炭素の発生をほぼ完全に抑えて完全燃焼を達成できていることがわかった。
【0038】
また、このときのガス化炉11、溶融炉出滓口15、主燃焼室13における温度の変遷を図5に示す。ある程度ガス化炉の温度に影響が見られるが、主燃焼室は800℃を下回ることがなく、平均して1000℃程度を維持できており、出滓口は1300℃前後を推移しており、いずれも温度は安定していることがわかり、燃焼効率の低下は見られず、廃棄物投入を停止する必要に迫られることはなかった。
【0039】
(比較例)
上記の実施例において、パイロットバーナを、燃料としてLPGを使用するものとし、主燃焼室用バーナに着火後消火する場合の、温度計46を設けた箇所におけるCO濃度、NOx濃度、O濃度と溶融炉出口12aにおける酸素濃度を図6に示す。また、その際の、ガス化炉、溶融炉出滓口15と、主燃焼室13とにおける温度の変遷を図7に示す。ガス化炉の温度は比較的安定しているものの、主燃焼室の温度が600℃以下にまで急激に減少することがあった(図中「温度低下」部分を示す。)。温度低下の直前には一酸化炭素濃度の急激な上昇が見られ、不完全燃焼が起きていたことがわかり、それから窒素酸化物が大量に生成する間に、主燃焼室内は急激に温度が低下していた。その間、出滓口の温度の低下はほとんど見られなかった。これは、主燃焼室での燃焼は途絶えても、溶融池での輻射伝熱により熱分解ガスが溶融池付近で燃焼するため、出滓口での温度は結果としてほとんど変わっていないものと考えられる。
【0040】
その温度低下後には、一旦廃棄物の供給を絞って熱分解ガスの供給量を抑えた上で、パイロットバーナに点火して、主燃焼室用バーナに火を移して点火し、十分に主燃焼室内の温度が戻るまで暖機運転を行い(図中「温度上昇」部分を示す。)、その後に、廃棄物の投入を再開した。
【0041】
(結果)
パイロットバーナを常時燃焼させておくことにより、主燃焼室での燃焼が途絶えてしまうことを防ぎ、不完全燃焼による一酸化炭素の発生や窒素酸化物の発生を抑制することができた。また、十分な燃焼温度での燃焼状態を長時間に亘って維持することができるため、灰分の溶融を途切れずに行うことができ、それに由来するスラグの回収率を高めることができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明にかかる焼却方法を実施する溶融炉主燃焼室の例を示す断面図
【図2】(a)この発明で用いるパイロットバーナの例を示す図、(b)(a)の燃料口側からの図
【図3】この発明を実施する焼却装置及び方法の例を示すフロー図
【図4】実施例におけるCO,O,NOxの濃度の変遷を示すグラフ
【図5】実施例におけるガス化炉、溶融炉の温度の変遷を示すグラフ
【図6】比較例におけるCO,O,NOxの濃度の変遷を示すグラフ
【図7】比較例におけるガス化炉、溶融炉の温度の変遷を示すグラフ
【符号の説明】
【0043】
A 廃棄物
B 熱分解ガス
C 固形分
D,D’ 燃焼用空気
E 燃焼後のガス
F スラグ
J、J’ 排ガス
M 助燃剤
N 助燃剤燃焼用空気
11 ガス化炉
12 溶融炉
12a (溶融炉の)出口
13 主燃焼室
14 溶融池
15 出滓口
16 水槽
17 酸素濃度計
18 溶融炉出口酸素濃度調節計
19 溶融炉供給空気調整弁
20,20’ 信号ケーブル
21 二次燃焼室
24、24’ 煙道
25 ガス冷却室
26 空気予熱器
27 溶融炉燃焼用空気送風機
28 空気供給配管
29 減温塔
30 バグフィルタ
31 誘引送風機
32 排ガス溶融炉環流配管
33 排ガス再循環用送風機
41 バーナ供給空気調整弁
42 排ガス二次燃焼室環流配管
43 排ガス溶融炉出口環流配管
44 二次燃焼用送風機
45 二次燃焼室空気導入配管
46 温度計
47 二次燃焼室出口温度調節計
48 二次燃焼室燃焼用空気調整弁
61 主燃焼室用バーナ
62 バーナ燃焼用空気口
63 熱分解ガス・チャー導入口
64 助燃剤供給管
71 上段ノズル
72 中段ノズル
73 下段ノズル
74 パイロットバーナ
101 油入口
102 送油管
103 ノズルチップ
105 燃焼用空気入口管
107 スパークプラグ
108 スパークロッド
111 ディフューザ
112 火炎検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を熱分解させた熱分解ガスと固形分とを空気比0.8以上1.0以下の環境に制御された主燃焼室で燃焼溶融させる廃棄物の焼却方法であって、
前記燃焼溶融中に、主燃焼室の種火を供給する主燃焼室用バーナへの点火を行う、助燃剤により燃焼させるパイロットバーナを、常時燃焼させておくことを特徴とする、廃棄物の焼却方法。
【請求項2】
火炎検知器により上記パイロットバーナの失火を検知し、検知後速やかに上記パイロットバーナを再点火することで常時燃焼させる請求項1に記載の廃棄物の焼却方法。
【請求項3】
上記主燃焼室用バーナ及び上記パイロットバーナの燃料として灯油を用いる、請求項1又は2に記載の廃棄物の焼却方法。
【請求項4】
上記熱分解ガスと、上記固形分に含まれる炭素質とによる熱容量のみにより、上記の燃焼溶融に必要な温度を維持できる際に、上記主燃焼室用バーナへの助燃剤の供給を停止して上記主燃焼室用バーナの火を消して、上記パイロットバーナのみを点火させておくことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに廃棄物の焼却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−224144(P2008−224144A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63782(P2007−63782)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人全国都市清掃会議 刊行物名 第28回全国都市清掃研究・事例発表会 講演論文集 発行年月日 平成18年12月27日
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】