説明

廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度測定方法

【課題】排ガス流路の大きさなどに関係なく、燃焼排ガスの測定の信頼性を向上させること。
【解決手段】廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度を放射温度計により測定する燃焼排ガスの温度測定方法であって、放射温度計は、燃焼排ガスの流路内の測定部位までの距離に応じて視野径が定められるものとする。ここで、測定部位は、複数の測定点を直線上に配置してなる温度測定用の機材を流路内に挿入し、この測定された結果に基づいて定められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度測定方法に係り、特に、都市ごみや産業廃棄物などの加熱処理で発生する熱分解ガスや熱分解カーボンを燃焼することにより生じる高温の燃焼排ガスの温度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみや産業廃棄物などの処理法として、例えば、廃棄物を熱分解反応器で熱分解し、生成された熱分解ガスと熱分解残渣の一部を燃焼溶融炉に導いて燃焼処理する方法が知られている。ここで、燃焼溶融炉から排出される燃焼排ガスの流路内には、高温空気加熱器が配置されており、その伝熱管内を流れる低温の被加熱空気を高温の燃焼排ガス(例えば、1000〜1100℃)と熱交換することにより、熱回収することが行われている。この回収された熱エネルギーは、例えば、熱分解の熱源として利用される。
【0003】
ところで、この高温空気加熱器を構成する耐火性の伝熱管には、腐食性の成分とダストを含む高温の燃焼排ガスが吹き付けるため、これによる伝熱管の損傷を防ぐため、燃焼排ガスの温度を測定し、排ガス温度を所定の範囲に管理することが行われている。従来、燃焼排ガスの温度は、高温空気加熱器の上流側の排ガス流路の壁面に設置される熱電対を用いて測定されていた。
【0004】
しかし、燃焼排ガス中のダストが熱電対の保護管の表面に堆積することにより、真の燃焼排ガスの温度よりも低い温度が検出されるという問題があった。ここで、ダストとは、熱分解カーボン中に含まれる無機物からなる灰分であって、溶融スラグに吸収されずに残ったものである。
【0005】
このような問題を解決するため、例えば、放射温度計により外部の覗き窓を介して燃焼排ガスの特定波長域の放射エネルギーを計測する温度の測定方法が開示されている(特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特許第2800871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、放射温度計を用いて燃焼排ガスの温度を測定する場合、燃焼排ガス中のダストが発する放射エネルギーを放射温度計により測定し、この測定された放射エネルギーを温度に変換して得られるダストの温度に基づいて、ダストの温度とほぼ等しい燃焼排ガスの温度が検出される。
【0008】
しかしながら、例えば、排ガス流路の大きさが比較的小さく、放射温度計とその対向する流路の内壁面までの距離(流路幅)が短いときは、ダストの発する放射エネルギーよりも、その背景の壁面から発せられる放射エネルギーの比率の方が大きくなることがある。この場合、内壁面の温度は、通常、燃焼排ガスの温度よりも低いことから、放射温度計により検出される燃焼排ガスの温度は、真の燃焼排ガスの温度よりも低い温度、つまり内壁面の温度に近い値となって検出されるおそれがある。
【0009】
本発明は、このような放射温度計を用いて測定することによる問題点に鑑みてなされたものであり、排ガス流路の大きさなどに関係なく、燃焼排ガスの温度測定の信頼性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、放射温度計が有する機種固有の視野径に着目することにより、所望の測定部位における視野径に基づいて放射温度計の機種を選定し、測定装置の最適化を図ることにより、測定の信頼性を向上させることを目的としている。ここで、視野径とは、放射温度計の測定距離に対する検出可能なスポット径(測定径)をいい、任意の測定距離における直径を表している。
【0011】
次に、本発明の原理について図面を用いて説明する。
【0012】
図1に示すように、放射温度計1は、燃焼排ガスの流路壁面5aに形成される覗き窓の外側に配置されている。この放射温度計1の空間中の検出可能な視野3を横から見ると、測定距離に応じて所定の角度の広がりをもっており、放射温度計1側から見ると、多々の径をもつ円の重なりとして捉えることができる。
【0013】
ここで、放射温度計1と対向する流路壁面5bの視野径を全視野7とした場合、例えば、地点Aでは、全視野7に対する視野径9の面積比が小さいため、背景の温度に平均化されてしまい、地点Aの燃焼排ガスの真の温度が得られにくい傾向がある。これに対し、地点Bでは、全視野7に対する視野径11の面積比が比較的大きいため、平均化されても地点Bの燃焼排ガスの真の温度に近い値を得ることができる。
【0014】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するため、廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度を放射温度計により測定する燃焼排ガスの温度測定方法であって、放射温度計は、燃焼排ガスの流路内の測定部位までの距離に応じて視野径が定められることを特徴としている。
【0015】
例えば、放射温度計の測定部位を燃焼排ガスの流路断面の中央付近として設定した場合(通常、最高温度の領域となる)、その測定部位までの距離に応じた視野径を基準として放射温度計を選定するようにする。すなわち、全視野に対する視野径の面積比ができるだけ大きな機種を選定することにより、放射温度計と対向する背景の流路壁面の温度の影響を少なくすることができ、燃焼排ガス温度の測定の信頼性を向上させることができる。ここで、全視野に対する視野径の面積比は、予め所定の値として定めておくこともできる。
【0016】
このように、所望の測定部位の視野径に基づいて放射温度計の機種を適宜選定することにより、排ガス流路の大きさなどに関係なく、燃焼排ガスの温度を高い精度で検知することができる。ここで、放射温度計としては、二色式放射温度計を用いることにより、燃焼排ガスの温度を精度よく、かつ簡易的に求めることができる。
【0017】
また測定部位は、複数の測定点を直線上に配置してなる温度測定用の機材を流路内に挿入し、この測定された結果に基づいて定めるようにしてもよい。すなわち、燃焼排ガスに偏流などが生じる排ガス流路においては、燃焼排ガスの温度分布を予測できない場合もあることから、このような温度測定用の機材を用いて、流路断面の温度を予め測定しておくことにより、例えば、最高温度を示す測定部位について効率よく測定することができる。これにより、燃焼排ガスの測定の信頼性を一層向上させることができる。
【0018】
ここで、温度測定用の機材の測定点には、熱電対が配置されていてもよい。これによれば、機材の構成が簡単になり、高い精度の測定を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、排ガス流路の大きさなどに関係なく、燃焼排ガスの温度測定の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図5は、高温空気加熱器が設置される燃焼溶融炉の構造を示す断面図である。
【0021】
燃焼溶融炉21は、U字形の形状を有し、上流側は燃焼溶融部22となり、高温空気加熱器23はその下流側に配設されている。燃焼溶融部22の頂部には、図示しない加熱処理炉から発生した熱分解ガス(熱分解カーボンを含む。以下同じ。)24が流入する供給ライン25が設置されており、熱分解ガス24中の燃焼成分は、図示しない燃焼用空気の導入により高温(例えば、1300℃)で燃焼・溶融されて、溶融スラグ27とともに高温の燃焼排ガス28を生成する。溶融スラグ27は、スラグ排出口31を流下して外部に排出されて冷却固化される一方、燃焼排ガス28は、下流の高温空気加熱器23に向かって流れる。
【0022】
高温空気加熱器23は、燃焼排ガス28の流れ方向と直交するように耐火性の伝熱管29が複数並列に配置されている。
【0023】
燃焼排ガス28は、塩素などを含む腐食性の高温ガス(例えば、1000〜1100℃)であり、伝熱管29内を流れる被加熱空気と熱交換される。この熱交換により加熱された被加熱空気は、例えば、熱分解ガス24を生成する熱分解反応器に戻されて、熱分解の熱源として利用される。
【0024】
このように、高温空気加熱器23を構成する伝熱管29には、腐食性の高温の燃焼排ガス28が吹き付けることから、伝熱管29の損傷や腐食による減肉を防ぐため、例えば、A−A位置において燃焼排ガス28の温度を測定し、所定温度を超えないように管理されている。
【0025】
本実施の形態では、燃焼排ガス28の温度を二色式温度計により検知するようにしている。この二色式放射温度計(以下、適宜、放射温度計と略す。)は、異なる二つの測定波長における赤外線放射エネルギーの比に基づいて測定対象の温度を求めるものであり、ここでは、燃焼排ガス28中に含まれるダストが発する放射エネルギーを測定することにより、ダストの温度を検知している。そして、ダストの温度は、燃焼排ガス28の温度とほぼ同じとみなすことができるため、燃焼排ガス28の温度を検出することができる。
【0026】
このようにして検出された燃焼排ガス28の温度に基づいて、例えば、後流側を流れる低温の燃焼排ガスの一部を上流側の所定位置に導いて、高温空気加熱器23を流れる燃焼排ガス28の温度が制御されている。
【0027】
次に、図5のA−A位置において燃焼排ガスの温度を測定する手順について説明する。
【0028】
図2に示すように、周囲を炉壁33で形成された排ガス流路の一側壁には、覗き窓35を介して、放射温度計37が取り付けられており、その周囲には、温度測定用の機材39を挿入するためのノズル41が複数設けられている。
【0029】
図3は、温度測定の機材23の一例を示す構成図である。この機材39は、金属管43の長手方向に、複数の熱電対45を等間隔に配置して構成される。熱電対45は、金属管43に形成された小孔から外部に露出するように配置されており、小孔と熱電対の隙間は気密に形成されている。また、金属管43は、適宜断熱材などで被覆し、或いは、管内に冷却用空気を通流させるなど、周知の方法により熱的影響を少なくするようにしてもよい。
【0030】
機材39はノズル41の栓を外した状態で、燃焼排ガス28の流れ方向と直交するように排ガス流路内に差し込まれる。機材39の先端は、放射温度計37と対向する炉壁33の近傍まで達するようになっている。
【0031】
燃焼排ガス28の温度を測定する際は、まず、ノズル41を介して機材39を排ガス流路内に挿入し、熱電対45により燃焼排ガス28の温度を測定する。ここで、排ガス流路内に挿入される機材39は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0032】
排ガス流路内に機材39が挿入されて、排ガス流路の断面方向の温度分布が測定されると、例えば、測定部位となる最高温度を示す領域が特定される。そして、放射温度計37の設置位置から測定部位までの測定距離が定まると、その測定距離に応じた放射温度計の視野径に基づいて、最適な放射温度計が選定される。
【0033】
放射温度計37の選定においては、放射温度計37と対向する炉壁33の視野径を全視野とした場合、その全視野に対する測定部位の視野径の面積比ができるだけ大きな機種を選定するようにする。
【0034】
図4は、このようにして選定された放射温度計を用いたときの燃焼排ガスの温度の検出領域を説明する模式図である。図に示すように、例えば、排ガス流路の流路幅aが比較的狭い箇所に放射温度計37が設置された場合、その放射温度計37の有する視野径によっては、例えば、温度の検出領域が51となり、放射温度計37と対向する炉壁33の内面の温度の影響を受けて、燃焼排ガスの最高温度よりも低い温度が検出されることがある。
【0035】
これに対し、本実施の形態により選定された放射温度計、つまり、所定の測定部位における視野径がより大きい、或いは、所定値以上の放射温度計を用いることにより、検出領域を53まで拡げることができる。
【0036】
これにより、測定部位が検出領域53に含まれることになり、放射温度計37と対向する炉壁33の温度の影響を少なくし、燃焼排ガス温度の最高温度を検出することができるため、測定の信頼性を向上させることができる。
【0037】
また、本実施の形態では、排ガス流路の温度を予め測定用の機材39で測定することにより、測定部位を定めておき、その測定部位の視野径に基づいて放射温度計37が選定されると、測定用の機材39は排ガス流路から抜き出し、放射温度計37のみによる温度測定となるが、この方法に限らず、例えば、必要に応じて、機材39を排ガス流路内に再び挿入し、放射温度計39による測定とともに熱電対による測定を同時に行うことにより放射温度計39の測定結果を検証するようにしてもよい。
【0038】
また、本実施の形態では、放射温度計37を排ガス流路の一側壁のみに設置する例を説明したが、この構成に限らず、例えば、排ガス流路に対向させて複数の放射温度計37を設置するようにしてもよいし、併せて、炉壁近傍に熱電対を対向させて配置するようにしてもよい。これによれば、温度測定の信頼性を一層向上させることができる。
【実施例】
【0039】
本発明の燃焼排ガスの温度測定方法を検証するために、2種類の二色式放射温度計を用いて燃焼排ガスの温度測定結果について比較を行った。なお、燃焼排ガスの温度の測定位置は、図5のA−A位置とした。
【0040】
二色式放射温度計には、測定距離に応じた視野径の大きさ(広角度)が互いに異なるインパック社製のISQ−5型/MB14を用いた。いずれの二色式放射温度計も、A−A位置に設けられた覗き窓を介して排ガス流路内の燃焼排ガスの温度が測定できるように設置した。また、二色式放射温度計による温度測定と同時に、図3の温度測定用の機材を排ガス流路内に挿入して、流路断面の各位置の温度を比較測定した。
【0041】
図6は、本実施例の二色式放射温度計における測定距離と視野径との関係を表した図である。横軸は、放射温度計から炉壁までの測定距離(mm)を表し、縦軸は、上下の線の差を視野径(mm)として表している。なお、図の中央に記載した数字は、炉壁面位置の視野径(全視野)の面積に対する各測定距離の視野径の面積の比率を表し、上段は放射温度計A、下段は放射温度計Bをそれぞれ表している。
【0042】
この図より、測定距離1200(mm)未満では、放射温度計Bの方が放射温度計Aよりも視野径が大きくなっているのに対し、測定距離1200(mm)を超えると、その大小関係が逆転していることが分かる。
【0043】
図7は、放射温度計Aによる測定と同時に、機材による測定を連続して行ったときの燃焼排ガスの温度(℃)の測定結果を比較して表したものである。なお、機材による測定結果は、各熱電対の測定位置を炉壁より500mmの間隔で配置して測定したものである。
【0044】
この図より、放射温度計Aによる燃焼排ガスの温度の測定値は、機材による熱電対の測定結果と比較して、検出温度が低くなっていることから、炉壁の温度の影響を受けていることが分かる。
【0045】
一方、図8は、放射温度計Bによる測定と同時に機材による測定を連続して行ったときの燃焼排ガスの温度の測定結果を比較して表したものである。この図より、放射温度計Bによる燃焼排ガスの測定値は、熱電対による測定値の最高温度とほぼ一致していることから、炉壁の温度の影響をほとんど受けていないことが分かる。
【0046】
以上の結果から、例えば、流路断面の最高温度を示す測定距離800〜1200(mm)付近の位置を測定部位とし、その位置の視野径の面積比が大きい方の放射温度計Bを用いることにより、検出領域を放射温度計の手前側まで拡げて炉壁の温度の影響を最小限に抑えるとともに、燃焼排ガスの最高温度を精度よく測定することができる。これにより、燃焼排ガス温度の測定の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明における放射温度計の測定原理を説明するための図である。
【図2】本発明における燃焼排ガスの温度測定方法を実施するための構成を説明する排ガス流路の断面図である。
【図3】本発明における燃焼排ガスの温度測定方法を実施するための温度測定用の機材の斜視図である。
【図4】本発明における燃焼排ガスの検出領域を説明するための模式図である。
【図5】本発明の燃焼排ガスの温度測定方法が適用される燃焼溶融炉の構造を示す断面図である。
【図6】二色式放射温度計における測定距離と視野径との関係を表した図である。
【図7】本発明の実施例において放射温度計Aによる測定と機材による測定を同時に行ったときの燃焼排ガスの温度(℃)の測定結果を表したグラフである。
【図8】本発明の実施例において放射温度計Bによる測定と機材による測定を同時に行ったときの燃焼排ガスの温度(℃)の測定結果を表したグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1,37 放射温度計
3 視野
5 流路壁面
7 全視野
9,11 視野径
23 高温空気加熱器
28 燃焼排ガス
29 伝熱管
33 炉壁
39 機材
41 ノズル
45 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度を放射温度計により測定する燃焼排ガスの温度測定方法であって、
前記放射温度計は、前記燃焼排ガスの流路内の測定部位までの距離に応じて視野径が定められることを特徴とする廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度測定方法。
【請求項2】
前記測定部位は、複数の測定点を直線上に配置してなる温度測定用の機材を前記流路内に挿入し、この測定された結果に基づいて定められることを特徴とする請求項1に記載の廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度測定方法。
【請求項3】
前記測定点には、熱電対が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度測定方法。
【請求項4】
前記放射温度計は、二色式放射温度計であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の廃棄物焼却炉の燃焼排ガスの温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−249462(P2008−249462A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90663(P2007−90663)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】