説明

廃水の処理方法

【課題】本発明は、希薄な炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水から効率よく有機フッ素界面活性剤を取り除く方法を提供する。
【解決手段】炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水から該有機フッ素界面活性剤を除去する廃水処理方法であって、(1)炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水中で水藻を培養して該有機フッ素界面活性剤を水藻中に取り込み、(2)該廃水から該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離することを特徴とする廃水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水から該界面活性剤を除去する廃水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機フッ素系化合物はその熱安定性などの特徴から工業分野で広く使用されている。しかしながらその化学的な安定性のため生態系での分解速度が遅い。例えばパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やパーフルオロオクタン酸(PFOA)は生態系への影響が懸念されている。
【0003】
これまで、一般的に廃水中の微量有機物の吸着除去において活性炭などの吸着材を用いて行う方法は広く知られている。しかしながら、このような固体吸着材は吸着量が限られており目的とする処理能力を維持するためには定期的に固体吸着材を交換する必要がある。
【0004】
また廃水中の有機物の除去には、微生物分解を応用した廃水処理方法も広く用いられるが、有機フッ素化合物はその化学的な安定性のためこのような微生物分解の処理で容易には廃水中の有機フッ素化合物を分解することは困難である。
【0005】
例えば、特許文献1には、有機フッ素系化合物を含む廃水中、マイクロナノバブルにより活性化した微生物を用いて有機フッ素系化合物を分解する方法が記載されている。しかし、具体的にどのような微生物を用いるかについては記載がなく、マイクロナノバブル発生槽等の特殊な装置を用いる必要がある。
【0006】
また、特許文献2に示されるように藻を用いて廃水中の有機物の除去を行う方法も知られているがこのような装置を用いても化学的に安定な有機フッ素化合物は分解することは出来ない。
【0007】
なお、クロレラなど微細藻類にドコサヘキサエン酸などの長鎖脂肪酸が取り込まれることは知られているが(非特許文献1)、化学的に安定で微細藻類が栄養とすることは全く不可能な有機フッ素化合物がこれら微細藻類に取り込まれるということは知られていない。
【0008】
このように、廃水中の有機フッ素化合物、特に有機フッ素界面活性剤を安価に効率よく合理的に取り除く方法は知られていない。
【特許文献1】特開2007−90206号公報
【特許文献2】特開平7−124581号公報
【非特許文献1】J. Oleo. Sci., Vol.54, No.1 p15-19
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、希薄な炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水から効率よく有機フッ素界面活性剤を取り除く方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来の問題点に鑑み、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やパーフルオロオクタン酸(PFOA)等の炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を廃水から効率的に除去する方法について鋭意研究を行った。その結果、被処理水としての該有機フッ素界面活性剤を含む廃水を、藻類を培養している処理槽に導入したところ、該有機フッ素界面活性剤が藻類に取り込まれることを見出した。この有機フッ素界面活性剤を取り込んだ藻類を廃水から分離することにより、処理水中の有機フッ素界面活性剤の濃度を大きく低減できることを見いだした。かかる知見に基づき更に研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、有機フッ素界面活性剤を含む廃水の処理方法を提供する。
【0012】
項1. 炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水から該有機フッ素界面活性剤を除去する廃水処理方法であって、(1)炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水中で水藻を培養して該有機フッ素界面活性剤を水藻中に取り込み、(2)該廃水から該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離することを特徴とする廃水処理方法。
【0013】
項2. 前記有機フッ素界面活性剤がパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及び/又はパーフルオロオクタン酸(PFOA)である項1に記載の廃水処理方法。
【0014】
項3. 前記水藻がクロレラ及びスピルニナから選ばれる微細藻である項1又は2に記載の廃水処理方法。
【0015】
項4. 前記(2)の分離手段が遠心分離である項1〜3のいずれかに記載の廃水処理方法
項5. 前記(2)で該廃水の一部を抜き出して該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離し、該廃水中に残った水藻をさらに(1)に供し、この操作を繰り返すことを特徴とする項1〜4のいずれかに記載の廃水処理方法。
【0016】
項6. 前記(2)で該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離した後の廃水を、さらに活性炭処理することを特徴とする項1〜5のいずれかに記載の廃水処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の処理方法によれば、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やパーフルオロオクタン酸(PFOA)等の炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水から、該有機フッ素界面活性剤を効率的に取り除くことができる。
【0018】
PFOSやPFOAは、高分子化合物の重合反応用界面活性剤として用いられるため、該重合反応後の廃水に比較的多量に含有する。そのため、本発明の処理方法は、該重合反応後の廃水からPFOSやPFOAを除く廃水処理方法として特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明につきさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明の被処理廃水は、炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水であり、該有機フッ素界面活性剤を含むものであれば特に限定はない。該有機フッ素界面活性剤としては、例えば炭素数7〜10のもの好ましく、炭素数8のものがより好ましい。具体的には、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、パーフルオロオクタン酸(PFOA)等が挙げられ、特にPFOAが好適である。被処理廃水中の該有機フッ素界面活性剤の濃度は、通常100ppm〜1ppm程度、さらに50ppm〜10ppm程度であればよい。
【0021】
かかる被処理廃水としては、上記の炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水であれば特に限定はないが、例えば、フッ素化合物を扱う装置の工程からの廃水が挙げられ、特に、該有機フッ素界面活性剤を用いて高分子化合物の重合反応を行った後に生じる重合反応後の廃水が好ましく選択される。
【0022】
炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を取り込む水藻は、廃水中で生育出来るものであれば特に限定はない。培養効率、吸着後の分離の容易さなどを考慮すると、処理水中で沈殿せず浮遊した状態を維持出来ることが好ましく、この点でクロレラ、スピルニナなどの微細藻類が適している。
【0023】
廃水中に導入される水藻の重量は、通常、乾燥重量で処理排水に対して、0.1〜10wt%程度、好ましくは0.5〜5wt%程度である。
【0024】
培養液としては、水藻が好適に増殖できるものであれば特に限定はなく、例えば、植物の成長に必要な元素を添加出来るものであれば良い。特に、窒素、燐酸、カリ等の混合肥料などが好適に使用できる。
【0025】
処理槽は水藻の培養が維持できる構造であれば問題なく、一般的な開放型の槽構造をもち、上部から太陽光などがあたるものが好ましい。攪拌は排水、給水などの水流によるもので可能であるが必要に応じて攪拌翼などによる攪拌を行っても良い。
【0026】
典型的な培養方法は、処理槽中に、炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水、水藻及び培養液を加えて、培養する。温度は特に制御する必要はなく、設備の簡便さを考慮すれば大気温度で行うことになる。この間、水藻が増殖するとともに、該有機フッ素界面活性剤は水藻に取り込まれる。
【0027】
本発明では、処理槽中で、有機フッ素界面活性剤を水藻に取り込む(吸着する)ことにより、廃水中の濃度を低減するものであるため、該有機フッ素界面活性剤を分解させるための特殊な装置を必要としない。特に、PFOSやPFOAのような分解速度が遅い化合物を含む廃水の場合には分解には時間がかかるが、分解を待たずに分離(吸着)するのに必要な時間だけ処理槽に滞留すればよく効率良く処理が行える。
【0028】
上記の所定時間培養した後、該廃水から有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離する。分離方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、沈殿槽を用いた分離等が挙げられるが、作業効率の点から遠心分離が好ましい。
【0029】
上記の処理槽中の廃水をすべて分離処理に供した場合、該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻が除かれ、分離後の廃水中における該有機フッ素界面活性剤の量は大幅に低減される。再度、処理槽に、炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水、水藻及び培養液を加えて培養し、同様の分離操作を行うことができる。いわゆるバッチ式で処理することが可能である。
【0030】
或いは、上記の処理槽中の廃水の一部を抜き出して分離処理に供した場合、抜き出された廃水から該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻が取り除かれ、分離後の廃水中における該有機フッ素界面活性剤の量は大幅に低減される。処理槽中に残った廃水には一部水藻が残るため、さらにこれに該有機フッ素界面活性剤、及び必要に応じ培養液を加えて培養し、該有機フッ素界面活性剤を水藻中に取り込ませる。この操作を繰り返すことにより、連続的に該有機フッ素界面活性剤を含む廃水を処理することができる。この場合、処理槽中の水藻の濃度はほぼ一定に保たれ、実質的に水藻の追加なしに廃水処理が長時間継続できる。
【0031】
なお、分離された水藻は、該有機フッ素界面活性剤を含むため、これが分解できる温度で焼却処理される。
【0032】
上記で分離処理された後の廃水は、十分に該有機フッ素界面活性剤が低減されているが、更に活性炭処理を行うことにより、より低減することができる。例えば、分離処理後の廃水に活性炭を加えて攪拌する、或いは活性炭を充填した流路に廃水を通過させる等の処理が可能である。この処理により、通常、廃水中の該有機フッ素界面活性剤の濃度はppbオーダーにまで低減できる。
【実施例】
【0033】
つぎに本発明を合成例および実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
実施例1(クロレラによる吸着実験)
500ml三角フラスコに、生クロレラV12(クロレラ工業製)(乾燥重量135g/L)15g(乾燥重量2.03g)を入れ、これに培養液(ハイポネックス原液6−10−5(ハイポネックス社)を100倍に希釈した溶液)を加え200mlとした(溶液A)。これに100ppmのPFOA水溶液200mlを加え、50ppmのPFOAの培養液400mlとした。
【0035】
同様にして、溶液Aに100ppmのペルフルオロへキサン酸(C11COOH)(以下「PFHA」と略す)水溶液を加え、50ppmの培養液400mlとした。
【0036】
また、同様にして、溶液Aにω−Hペルフルオロノナン酸(HC16COOH)(以下「HPFNA」と略す)の100ppm溶液200mlを加え、50ppmの培養液400mlとした。
【0037】
上記の3つのサンプルについて、それぞれ一日約9時間エアーポンプでエアーを送りながら室温で培養し、途中溶液をサンプリングしフィルターでろ過後、LCでそれぞれのカルボン酸の水中濃度を定量した。結果を下記に示す。単位はppmである。
【0038】
【表1】

【0039】
上記の3つのサンプルを比較するため、それぞれのカルボン酸の経時的な残存率をプロットしたグラフを図1に示す。
【0040】
表1及び図1より、上記の条件下、PFOAでは一週間程度で水相に残存するカルボン酸は1/10以下に減少した。また、ω−Hペルフルオロノナン酸では15日程度で1/4程度に減少した。これらに対して、ペルフルオロへキサン酸ではほとんど吸着は進行しなかった。
【0041】
また、クロレラに吸着させることで1ppm程度の濃度まで濃度が低下したPFOAを含む培養液をフィルターでろ過後活性炭を充填したカラムに通じたところ溶液中のPFOA濃度は1ppb以下となった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】クロレラによるカルボン酸の吸着実験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水から該有機フッ素界面活性剤を除去する廃水処理方法であって、(1)炭素数7以上の有機フッ素界面活性剤を含む廃水中で水藻を培養して該有機フッ素界面活性剤を水藻中に取り込み、(2)該廃水から該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
前記有機フッ素界面活性剤がパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及び/又はパーフルオロオクタン酸(PFOA)である請求項1に記載の廃水処理方法。
【請求項3】
前記水藻がクロレラ及びスピルニナから選ばれる微細藻である請求項1又は2に記載の廃水処理方法。
【請求項4】
前記(2)の分離手段が遠心分離である請求項1〜3のいずれかに記載の廃水処理方法
【請求項5】
前記(2)で該廃水の一部を抜き出して該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離し、該廃水中に残った水藻をさらに(1)に供し、この操作を繰り返すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の廃水処理方法。
【請求項6】
前記(2)で該有機フッ素界面活性剤を取り込んだ水藻を分離した後の廃水を、さらに活性炭処理することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の廃水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−22887(P2009−22887A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188785(P2007−188785)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】