説明

廃水処理方法及び装置

【課題】微生物を付着固定化材に付着させるまでの馴養期間を短くでき、且つ包括微生物担体からリークする高活性の微生物を付着固定化材に常時供給することで付着固定化材に高濃度に微生物を保持することができるので、常時安定した良好な処理水を得ることができる。
【解決手段】有機物や無機物を含有する廃水が、原水導入管18を介して生物処理槽12内に流入する。生物処理槽12には包括微生物担体14と付着担体16が充填されている。これにより、有機物や無機物を基質にして包括微生物担体14内部の細菌が増殖し、増殖した高活性の細菌の一部は包括微生物担体14からリークする。リークしたリーク細菌の一部が付着固定化材16に付着し、付着固定化材16の表面で高活性のリーク細菌が増殖する。これにより、付着微生物担体16' が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の廃水処理方法及び装置は、環境保全のために、下水や廃水中のアンモニア性窒素やBOD成分を生物学的に処理して除去する廃水処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1922年に本格的な下水処理場が東京都の三河島処理場で開始されて以来、有機物の処理のみではなく、窒素の処理も下水処理場で行われるようになってきた。特に大都市では集中的な投資が行われ、下水道普及率は90%を越えるまでにいたった。しかしながら閉鎖性水域での環境基準の達成率はほとんど改善されてない。水域での内部要因、例えば藻類の異常繁殖によるものが大きいと言われているが、流入する廃水の外部要因も解消されてない。特に窒素の外部要因が大きく、処理の必要が強く望まれている。
【0003】
窒素はアンモニア性窒素の形態で下水や廃水に多く含まれる。従来、下水処理場や廃水処理場では、アンモニア性窒素を硝化細菌を用いて亜硝酸や硝酸に酸化し、亜硝酸や硝酸を脱室細菌により窒素ガスに変換して除去していた。しかし、硝化細菌は増殖速度が遅いため、安定した窒素除去を行うには、窒素負荷として0.2〜0.4kg−N/m3 /日の範囲の低負荷運転を行う必要があり、生物処理槽として大型の水槽を設けなくてはならない。この対策として、ゲル内部に硝化細菌を包括固定化した包括微生物担体を生物処理槽に投入して硝化細菌を高濃度に保持する方法が一般に普及している(例えば特許文献1や特許文献2)。
【0004】
ところで、硝化細菌を高濃度に保持させる方法としては、上記した包括微生物担体の他に、微生物を付着固定化材に付着固定する方法が古くから行われている。付着固定化材としては、付着担体や付着充填材が用いられており、例えばプラスチックの担体、波板、網状シート、ハニカム状のものがある。これらの付着担体や付着充填材に硝化細菌を付着増殖させることにより高濃度に細菌を保持させ、高速処理を行うものである。硝化細菌ばかりでなく有機物分解細菌なども高濃度に菌を保持し高速処理するために、このような付着担体や付着充填材が使用されてきた。
【特許文献1】特許第3389811号
【特許文献2】特許第3514360号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、付着担体や付着充填材の付着固定化材は、微生物を付着させるまでの馴養期間が長く、また付着させた後も付着した細菌が付着固定化材から剥離することが度々あり、生物処理槽で処理された処理水の水質が安定しないという欠点があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、微生物を付着固定化材に付着させるまでの馴養期間を短くでき、且つ包括微生物担体からリークする高活性の微生物を付着固定化材に常時供給することで付着固定化材に高濃度に微生物を保持することができるので、常時安定した良好な処理水を得ることができる廃水処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理方法において、前記廃水と、微生物を包括固定化した包括微生物担体とを接触させて前記包括微生物担体の微生物を増殖させると共に、該増殖により前記包括微生物担体の担体内部から担体外部にリークしてくる高活性の微生物を含む廃水を付着固定化材に接触させて、前記リークした微生物を付着固定化材に付着増殖させることを特徴とする。
【0008】
請求項1の発明は、廃水に、微生物を包括固定化した包括微生物担体を接触させると、包括微生物担体内部で増殖した微生物の一部が担体外部にリーク(放出)され、リークされた高活性の微生物を含む廃水と付着固定化材とを接触させることで、微生物を付着固定化材に付着させるまでの馴養期間を短くでき、且つ包括微生物担体からリークする微生物を付着固定化材に常時供給することで付着固定化材に高濃度に微生物を保持することができるとの知見に基づいて成されたものである。これにより、常時安定した良好な処理水を得ることができる。
【0009】
包括微生物担体に固定化する微生物としては、例えば活性汚泥、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群、有機物を分解する有機物分解細菌群などの複数の微生物が混在する複合微生物や、硝化細菌、脱窒細菌、嫌気性アンモニア酸化細菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌などの純粋菌株を好適に使用することができる。
【0010】
請求項2は請求項1において、前記基質は有機物及び/又は無機物であることを特徴とする。
【0011】
本発明において包括微生物担体に固定化する微生物は、上記したように硝化細菌や嫌気性アンモニア酸化菌群のように無機物であるアンモニアと亜硝酸を基質とする場合や、アオコ分解菌やPCB分解菌のように有機物であるアオコやPCBを基質とする場合もあるからである。
【0012】
請求項3は請求項1又は2において、前記付着固定化材は、付着担体及び/又は付着充填材であることを特徴とする。このように、付着固定化材としては、廃水中で流動可能な粒状の付着担体や、廃水中に固定床として充填する付着充填材を好適に用いることができる。
【0013】
請求項4は請求項1〜3の何れか1において、前記微生物として硝化細菌を包括固定化した包括微生物担体と、前記基質としてアンモニア性窒素を含有する廃水とを接触させると共に、該アンモニア性窒素負荷を100(mg−N/h/L−担体)以上にすることを特徴とする。
【0014】
アンモニア性窒素負荷を100(mg−N/h/L−担体)以上にすることにより、硝化細菌を包括固定した包括微生物担体から硝化細菌を効率的にリークさせることができるからである。
【0015】
請求項5は請求項1〜3の何れか1において、前記微生物として有機物を分解する有機物分解細菌を包括固定化した包括微生物担体と、前記基質としてBOD成分が含有する廃水とを接触させると共に、該BOD成分負荷を100(mg−BOD/h/L−担体)以上にすることを特徴とする。
【0016】
BOD成分負荷を100(mg−BOD/h/L−担体)以上にすることにより、有機物分解細菌を包括固定した包括微生物担体から有機物分解細菌を効率的にリークさせることができるからである。
【0017】
請求項6は請求項1〜5の何れか1において、前記付着固定化材に対する前記包括微生物担体の容積比(包括微生物担体/付着固定化材)を1/10以上にすることを特徴とする。これにより、付着固定化材に微生物が付着する馴養期間を短くすることができるからである。
【0018】
請求項7は請求項1〜5の何れか1において、前記付着固定化材に対する前記包括微生物担体の容積比(包括微生物担体/付着固定化材)を1/10〜1/5の範囲にすることを特徴とする。これにより、微生物が高価な特殊菌の場合であっても、経費を増大させることなく馴養期間を効果的に短縮することが可能となるからである。
【0019】
請求項8は請求項1〜7の何れか1において、前記包括微生物担体と前記付着固定化材とは同じ生物処理槽内に混在されていることを特徴とする。このように、包括微生物担体と付着固定化材とを同じ生物処理槽内に混在させることにより、包括微生物担体と、包括微生物担体からリークした微生物を付着増殖させた付着固定化材との両方で、廃水を処理することができ、生物処理槽の処理性能を顕著に向上させることができる。
【0020】
請求項9は請求項1〜8の何れか1において、前記包括微生物担体と前記付着固定化材とは別の生物反応槽に投入されており、前記包括微生物担体が投入された第1の生物処理槽からの流出水を前記付着固定化材が投入された第2の生物処理槽に流入させることを特徴とする。これにより、付着固定化材が投入された第2の生物処理槽の立ち上げ運転を行う場合には短期間で立ち上げることができる。また、第2の生物処理槽で定常運転を行う場合には、第1の生物処理槽の包括微生物担体からリークされた微生物を含む流出水が第2の生物処理槽に流入することで、付着固定化材に微生物を高濃度で保持することができるので、第2の生物処理槽の処理性能も高く維持できる。
【0021】
請求項10は請求項1〜9の何れか1において、前記増殖する前の包括微生物担体は、前記付着固定化材に付着させたい微生物を105 (cells/cm3 ) 以上の濃度で包括固定化したものであることを特徴とする。これは、担体内部の微生物濃度が106 (cells/cm3 ) 以上で活性が発現するので、105 (cells/cm3 ) 以上の濃度で固定化することにより、担体内部で108 (cells/cm3 ) 以上に増殖し、これにより包括微生物担体からの微生物のリークが促進されるからである。
【0022】
本発明の請求項11は、前記目的を達成するために、廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理装置において、前記生物処理を行う生物処理槽内に、微生物を包括固定化した包括微生物担体と微生物を付着する付着固定化材とを混在させて成ることを特徴とする。
【0023】
このように、包括微生物担体と付着固定化材とは同じ生物処理槽内に混在させることにより、包括微生物担体と、包括微生物担体からリークした微生物を付着させた付着固定化材との両方で、廃水を処理することができ、廃水処理装置の処理性能を顕著に向上させることができる。
【0024】
請求項12は請求項11において、前記生物処理槽を直列に複数段設けることを特徴とする。これにより、廃水処理装置の処理性能を顕著に更に向上させることができる。
【0025】
本発明の請求項13は、前記目的を達成するために、廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理装置において、前記廃水が流入すると共に微生物を包括固定化した包括微生物担体が投入された第1の生物処理槽と、前記廃水及び前記第1の生物処理槽からの流出水のうちの少なくとも前記第1の生物処理槽の流出水が流入すると共に付着固定化材が投入された第2の生物処理槽と、を備えたことを特徴とする。
【0026】
これにより、付着固定化材が投入された第2の生物処理槽の立ち上げ運転を行う場合には短期間で立ち上げることができる。また、第2の生物処理槽で定常運転を行う場合には、第1の生物処理槽の包括微生物担体からリークされた微生物を含む流出水が第2の生物処理槽に流入することで、付着固定化材に微生物を高濃度に保持することができるので、第2の生物処理槽の処理性能も高く維持できる。
【0027】
請求項14は請求項13において、前記第1の生物処理槽と前記第2の生物処理槽とから成る1組の生物処理槽を、複数段設けたことを特徴とする。これにより、廃水処理装置の処理性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明の廃水処理方法及び装置によれば、微生物を付着固定化材に付着させるまでの馴養期間を短くでき、且つ包括微生物担体からリークする微生物を付着固定化材に常時供給することで付着固定化材に高濃度に微生物を保持することができるので、常時安定した良好な処理水を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下添付図面に従って本発明に係る廃水処理方法及び装置における好ましい実施の形態について詳説する。
【0030】
本発明は、廃水に、微生物を包括固定化した包括微生物担体を接触させると、包括微生物担体内部で増殖した微生物の一部が担体外部にリーク(放出)され、リークされた微生物を含む廃水を付着固定化材に接触させることで、微生物を付着固定化材に付着させるまでの馴養期間を短くでき、且つ付着させた後も微生物が付着固定化材から剥離しにくい付着固定化型の担体や充填材を得ることができるとの知見に基づいて成されたものである。
【0031】
本発明において包括微生物担体に固定化する微生物は純粋菌株、活性汚泥などの複合微生物が用いられる。複合微生物としては、例えば活性汚泥、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群などがある。また、純粋菌株としては、例えば硝化細菌、脱室細菌、嫌気性アンモニア細菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌などがある。包括微生物担体に固定化する微生物の総菌数の濃度は105 (cells/cm3 ) 以上であることが好ましい。これは、担体内部の微生物濃度が106 (cells/cm3 ) 以上で活性が発現するので、105 (cells/cm3 ) 以上の濃度で固定化することにより、担体内部で108 (cells/cm3 ) 以上に増殖し、これにより包括微生物担体からの微生物のリークが促進されるからである。従って、付着固定化型の担体や充填材に付着させたい微生物を包括固定しておくことが原則である。
【0032】
使用される包括微生物担体とは、モノマー材料やプレポリマー材料と微生物を混合し、この混合液を重合して微生物を包括固定化して得られた担体を言う。モノマー材料としてはアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、トリアクリルフォルマールなどを好適に使用することができる。プレポリマ材料としてはポリエチレングリコールジアクリレートやポリエチレングリコールメタアクリレートがよく、その誘導体を用いることができる。包括微生物担体の形状は立方体状(キュービック状)、球状、筒状の他、ひも状、不織布状などを好適に使用でき、特に担体表面に凹凸が多いものは廃水との接触効率がよく一層好ましい。立方体状や球状の包括微生物担体であれば球相当径として1〜10mmの範囲が好ましい。
【0033】
一方、包括微生物担体からリークされた微生物を含む廃水と接触させる付着固定化材としては、廃水中で流動可能な粒状の付着担体や、廃水中に固定床として充填する付着充填材を好適に用いることができる。付着担体や付着充填材の形状や材質は、例えばプラスチックの担体、波板、網状シート、ハニカム状のものなどを好適に使用できる。付着担体としては球状、円筒状、マカロニ状などがよく、また発泡させ表面に凸凹を形成することにより微生物を付着させ易くできる。これらの付着担体や付着充填材の初期状態は微生物は付着していない無生物の担体や充填材であり、表面に凸凹を形成して比表面積を大きくすることで微生物を付着させ易くできるだけでなく、付着した微生物と廃水との接触効率も良くなるからである。例えば、前記した包括微生物担体と同じ比表面積のものを使用することも良い方法である。
【0034】
次に、本発明において包括微生物担体からリークされる微生物の一例として、硝化細菌と有機物分解細菌で実施したリーク試験結果を説明する。
【0035】
表1の組成を有する包括微生物担体を作成し、包括微生物担体に対するアンモニア性窒素負荷を変えたときに、包括微生物担体からリークする硝化細菌のリーク速度を調べた。同様にして、包括微生物担体に対するBOD負荷を変えたときに、包括微生物担体からリークする有機物分解細菌のリーク速度を調べた。尚、包括微生物担体に固定化する硝化細菌は、アンモニアを亜硝酸まで硝化するアンモニア酸化細菌の濃縮液を使用した。
【0036】
【表1】

【0037】
そして、表1の組成を有する包括微生物担体に対するアンモニア性窒素負荷を50から600(mg-N/h/L-担体)まで増加させたときに、包括微生物担体からリークする硝化細菌のリーク速度を測定した結果を図1に示す。
【0038】
図1の横軸はアンモニア性窒素負荷(mg-N/h/L-担体)を示し、縦軸は1日に包括微生物担体(cm 3 )当たりリークされる硝化細菌の個数、即ち硝化細菌のリーク速度を示す。図1から分かるように、アンモニア性窒素負荷が50(mg-N/h/L-担体)のときはリーク速度が1.00×104 (cells/cm3 / 日) と遅いが、アンモニア性窒素負荷を増加していくに従ってリーク速度は大きくなり、アンモニア性窒素負荷が300〜400(mg-N/h/L-担体)付近でリーク速度は略最大に達する。その時のリーク速度は1.00×108 (cells/cm3 / 日) になる。このように、硝化細菌のリークの場合には、硝化細菌の基質であるアンモニア性窒素の負荷を増大させることにより、リーク速度を大きくすることができる。この場合、包括微生物担体からリークした硝化細菌を付着固定化材に効率的に付着させるにはリーク速度が1.00×106 (cells/cm3 / 日) 以上であることが好ましく、そのためにはアンモニア性窒素負荷を100(mg-N/h/L-担体)以上、好ましくは300(mg-N/h/L-担体)以上にすることが望ましい。
【0039】
また、包括微生物担体に対するBOD負荷を50から600(mg-N/h/L-担体)まで増加させたときに、包括微生物担体からリークする有機物分解細菌のリーク速度を測定した結果を図2に示す。
【0040】
図2の横軸はBOD負荷(mg-N/h/L-担体)を示し、縦軸は1日に包括微生物担体(cm 3 )当たりリークされる有機物分解細菌の個数、即ち有機物分解細菌のリーク速度を示す。図2から分かるように、BOD負荷が50(mg-N/h/L-担体)のときはリーク速度が1.00×105 〜106 の範囲(cells/cm3 / 日) と遅いが、BOD負荷を増加していくに従ってリーク速度は大きくなり、BOD負荷が300〜400(mg-N/h/L-担体)付近でリーク速度は略最大に達する。その時のリーク速度は1.00×1010(cells/cm3 / 日) になる。このように、有機物を分解する有機物分解細菌のリークの場合には、有機物分解細菌の基質であるBOD成分の負荷を増大させることにより、リーク速度を大きくすることができる。この場合、包括微生物担体からリークした有機物分解細菌を付着固定化材に効率的に付着させるにはリーク速度が1.00×108 (cells/cm3 / 日) 以上であることが好ましく、そのためにはBOD負荷を100(mg-N/h/L-担体)以上、好ましくは300(mg-N/h/L-担体)以上にすることが望ましい。
【0041】
このリーク試験において、包括微生物担体を作成する際の固定化材料であるポリエチレングリコールジアクリレートの濃度を小さくした方が細菌をリークさせ易いのではないかとの想定のもとに、表1に示すように、ポリエチレングリコールジアクリレート濃度を4、6、8、10、15(重量部)の5段階で変えた。しかし、図1及び図2から分かるように、4〜15重量部の範囲では略同様のリーク速度であった。このことから、リーク速度はリークさせたい細菌の基質負荷に大きく影響されることが分かった。
【0042】
図3及び図4は、包括微生物担体からリークした細菌を付着固定化材に付着させる際に、包括微生物担体と付着固定化材との容積比がどのような関係にあるときに付着固定化材の馴養期間を短くすることができるかを、負荷を変えて行った試験である。
【0043】
図3は、包括微生物担体から硝化細菌をリークさせた廃水を付着固定化材に接触させながら付着固定化材の立ち上げ運転を行ったときの馴養期間である。図4は、包括微生物担体から有機物分解細菌をリークさせた廃水を付着固定化材に接触させながら付着固定化材のBOD処理立ち上げ運転を行ったときの馴養期間である。この試験には、後記する図5の廃水処理装置10を使用し、生物処理槽12に包括微生物担体14と付着固定化材16との両方を混在させて、両者の担体容積比と馴養期間との関係を調べた。
【0044】
図3において、馴養期間は、処理水の窒素除去率、又はBOD除去率が90%になるまでの日数とした。また、硝化処理での負荷は0.1、0.3、0.5、1.0(kg-N/m3 / 日) の4通りとし、BOD処理での負荷は0.1、0.3、0.5、0.8(kg-N/m3 / 日) の4通りとした。尚、図3及び図4ともに、包括微生物担体と付着固定化材の合計充填率を10%で行った。
【0045】
その結果、図3及び図4から分かるように、負荷により馴養期間は異なるものの付着固定化材の合計容積をA、包括微生物担体の合計容積をBとしたときに、付着固定化材に対する包括微生物担体の容積比(A/B)を0.1(1/10)以上、より好ましくは0.2(1/5)以上にすることにより馴養期間を顕著に短くすることができる。これは、包括微生物担体からリークする菌体濃度と付着固定化材の容積との関係で、包括微生物担体の量が少なすぎるとリークする菌体量が少なすぎて、付着固定化材の立ち上げに必要な菌体量を賄えないものと推察される。しかし、微生物が高価な特殊菌の場合では、包括微生物担体が高価となるので、生物処理槽へ投入する包括微生物担体の投入量をできるだけ少なくしたい。従って、この場合には、図3、図4での変曲点での範囲、即ち包括微生物担体の付着固定化材に対する容積比(A/B)を0.1(1/10)〜0.2(1/5)の範囲にすることが好ましい。これにより、微生物が高価な特殊菌の場合であっても、経費を増大させることなく馴養期間を短縮することが可能となる。
【0046】
図5〜図13は、本発明の廃水処理装置における各種の態様を示したものであり、付着固定化材としては、廃水中で流動可能な粒状の付着担体の例で説明する。また、付着担体の表面に微生物が付着した後のものを付着微生物担体と称すると共に、微生物を細菌として説明する。
【0047】
図5の廃水処理装置10は、同じ生物処理槽12内に多数の包括微生物担体14と多数の付着担体16とを共存させた場合であり、有機物や無機物を含有する廃水が、原水導入管18を介して生物処理槽12内に流入する。生物処理槽12には包括微生物担体14と付着担体16が充填されている。これにより、有機物や無機物を基質にして包括微生物担体14内部の細菌が増殖し、増殖した細菌の一部は包括微生物担体14からリークする。リークしたリーク細菌の一部が付着固定化材16に付着し、付着固定化材16の表面でリーク細菌が増殖する。これにより、付着微生物担体16' が形成される。従って、生物処理槽12では、細菌が包括固定された包括微生物担体14と、表面で細菌が付着増殖した付着微生物担体16' とにより、有機物や無機物を含有する廃水が生物学的に浄化される。このように、包括微生物担体14と付着担体16とを同じ生物処理槽12に共存させることにより、包括微生物担体14からリークしたリーク細菌を付着担体16に付着させることができるので、生物処理槽12に包括微生物担体14のみが充填されている場合に比べて、生物処理槽12内の処理に有用な有用細菌を生物処理槽12内に高濃度に保持することができる。従って、生物処理槽12の生物学的な処理性能を向上させることができる。リークした細菌は活性が高く、これらの細菌を付着した付着微生物担体16' は包括微生物担体14よりも活性が高い傾向にある。
【0048】
生物担体理槽12で浄化された処理水は、担体分離手段例えばスクリーン20で包括微生物担体14及び付着微生物担体16' と分離され、流出管22から流出する。図5には図示を省略してあるが、好気反応の場合は生物処理槽12内にエア曝気して酸素を供給し、嫌気反応の場合は包括微生物担体14及び付着微生物担体16' を流動させるための攪拌機や嫌気ガスを吹き込むことによる撹拌などが必要であり、図6、図7、図8、図9についても同様である。
【0049】
図6は本発明の廃水処理装置の別の態様であり、図5の生物処理槽12を多段に設けたものである。尚、以下説明する図6〜図13において、図5と同じ部材は同じ符号を付して説明する。
【0050】
図6の廃水処理装置30によれば、有機物や無機物を含有する廃水が、原水導入管18を介して生物処理槽12に流入する。生物処理槽12は、第1生物処理槽12A、第2生物処理槽12B、第3生物処理槽12Cで構成される。そして、第1生物処理槽12A〜第3生物処理槽12Cには、包括微生物担体14と付着担体16が共存するように投入されており、それぞれの生物処理槽12A〜12Cにおいて、有機物や無機物を基質にして包括微生物担体14内部の細菌が増殖し、増殖した細菌の一部は包括微生物担体14からリークする。リークしたリーク細菌の一部が付着固定化材16に付着し、付着固定化材16の表面でリーク細菌が増殖する。このように、多段に設けた生物処理槽12A〜12Cの全てに包括微生物担体14と付着担体16を共存させる場合には、第1の生物処理槽12Aの包括微生物担体14からリークしたリーク細菌の一部は、付着担体16に付着せずに下流側の第2及び第3の生物処理槽12B、12Cに流れ、第2生物処理槽12Bでリークしたリーク細菌の一部は第3生物処理槽12Cに流れるので、上流側よりも下流側の生物処理槽ほど付着担体16の充填量を多くすることが好ましい。このように、生物処理槽12を多段に設けることで、高濃度の有機物や無機物を有する廃水であっても効率的に除去することができる。
【0051】
図7の本発明の廃水処理装置40は更に別の態様であり、生物処理槽12を多段に設けることは図6と同じであるが、第1の生物処理槽12Aに包括微生物担体14を充填し、第2及び第3の生物処理槽12B、12Cには付着担体16を充填したものである。
【0052】
図7に示す廃水処理装置40によれば、有機物や無機物を含有する廃水が、原水導入管18を介して生物処理槽12に流入する。生物処理槽12は第1生物処理槽12A、第2生物処理槽12B、第3生物処理槽12Cから構成されている。そして、第1生物処理槽16Aには包括微生物担体14が充填され、第2生物処理槽12Bと第3生物処理槽12Cには付着担体16が充填されている。これにより、第1生物処理槽12Aでは有機物や無機物を基質にして包括微生物担体14内部の細菌が増殖し、増殖した細菌の一部は包括微生物担体14からリークする。第1生物処理槽12Aで廃水中の有機物や無機物の一部が除去され、その処理水とリークしたリーク細菌とが第2生物処理槽12Bに流入する。第2生物処理槽12Bに流入したリーク細菌の一部が付着担体16に付着し、付着担体16の表面で細菌が増殖する。また、リーク細菌の一部は第3生物処理槽12Cの付着担体16にも付着する。付着したリーク細菌は付着担体16の表面で増殖する。従って、それぞれの生物処理槽12A〜12Cでは包括微生物担体14や、表面で細菌が付着増殖した付着微生物担体16' により、有機物や無機物を含有する廃水が生物学的に浄化される。浄化された処理水は、担体分離手段例えばスクリーン20で包括微生物担体14や付着微生物担体16' と分離され、流出管22から流出する。
【0053】
図8の廃水処理装置50は図7の変形例であり、多段に設けられた生物処理槽12A〜12Dに、包括微生物担体14と付着担体16とが交互に充填されるように構成したものである。このようにすることで、図7のように、下流側の生物処理槽ほどリーク細菌の濃度が小さくなることがないので、リーク細菌をより効果的に付着担体16に付着させることができる。
【0054】
図9の廃水処理装置60は更に別の態様であり、有機物や無機物を含有する廃水が、分岐された原水導入管18を介して生物処理槽12と有用菌培養槽24とに流入する。そして、生物処理槽12には付着担体16が充填され、有用菌培養槽24には包括微生物担体14が充填されている。これにより、有用菌培養槽24では有機物や無機物を基質にして包括微生物担体14内部の細菌が増殖し、増殖した細菌の一部は包括微生物担体14からリークする。リークしたリーク細菌は生物処理槽12に流入して付着担体16に付着し、付着担体16の表面でリーク細菌が増殖する。これにより、生物処理槽12では、表面でリーク細菌が付着増殖した付着微生物担体16' により、有機物や無機物を含有する廃水が生物学的に浄化される。浄化された処理水は担体分離手段例えばスクリーン20で分離され、流出管22から流出する。このように、廃水の一部を有用菌培養槽24を介して生物処理槽12に導入することで、付着担体16が充填された生物処理槽12の馴養期間(立ち上げ期間)を短縮することができると共に、立ち上がった後もリークした細菌が供給され生物処理槽12における処理性能を安定化させることができる。
【0055】
図10の廃水処理装置70は更に別の態様であり、特に下水などBOD成分とアンモニアを含有する廃水処理に好適な一例である。
【0056】
図10に示すように、廃水処理装置70は、有機物とアンモニア性窒素を含有する廃水が原水導入管18を介して生物処理槽12に流入する。生物処理槽12は、前段側に配置された嫌気槽26と後段側に配置された好気槽28から構成され、好気槽28には硝化細菌を包括固定化化した包括微生物担体14と、付着担体16とが充填されている。また、好気槽28にはエアを曝気する曝気管31が設けられ、曝気管31はブロア32に接続される。これにより、好気槽28では、アンモニア性窒素を基質にして包括微生物担体14内部の硝化細菌が増殖し、増殖した硝化細菌の一部が包括微生物担体14からリークする。リークしたリーク細菌の一部が付着担体16に付着し、付着担体16の表面で硝化細菌が増殖する。好気槽28ではこれらの包括微生物担体14と表面でリークした硝化細菌が増殖した付着微生物担体16' により、アンモニア性窒素が硝化処理され亜硝酸や硝酸を生成する。硝化処理された硝化液は、硝化液循環ライン34を通り嫌気槽26に循環される。嫌気槽26では、硝化液が廃水中の有機物を水素供与体にして、浮遊活性汚泥中の脱窒細菌により亜硝酸や硝酸を窒素ガスに変換する脱窒処理を行う。これにより廃水中のアンモニア性窒素や有機物が除去されて浄化されると共に、浄化された処理水は担体分離手段例えばスクリーン20で包括微生物担体14や付着微生物担体16' が分離され、固液分離槽36に送液される。固液分離槽36において、処理水に同伴された浮遊活性汚泥が固液分離され、上澄み水が流出管22から流出する。固液分離槽36の底部に沈降した浮遊活性汚泥は汚泥返送管38を介して嫌気槽26に返送される。尚、符号41は、嫌気槽26内を攪拌する攪拌機である。
【0057】
図11の廃水処理装置80は更に別の態様であり、BOD成分を含有しないアンモニア含有廃水処理に好適な一例である。
【0058】
図11に示すように、廃水処理装置80は、アンモニア性窒素を含有する廃水が、原水導入管18を介して生物処理槽12に流入する。生物処理槽12は、前段側に配置された好気槽28と後段側に配置された嫌気槽26とから構成され、好気槽28には包括微生物担体14と付着担体16とが充填されている。また、好気槽28にはエアを曝気する曝気管31が設けられ、曝気管31はブロア32に接続される。これにより、好気槽28では、アンモニア性窒素を基質にして包括微生物担体14内部の硝化細菌が増殖し、増殖した硝化細菌の一部は包括微生物担体14からリークする。リークした硝化細菌の一部が付着担体16に付着し、付着担体16の表面で硝化細菌が増殖する。このように、好気槽28では、包括微生物担体14と、表面で硝化細菌が増殖した付着微生物担体16' により、アンモニア性窒素が硝化処理され亜硝酸や硝酸を生成する。この硝化液は後段の嫌気槽26に流入し、メタノール供給ライン38から供給されるメタノールを水素供与体にして浮遊活性汚泥中の脱窒菌により脱窒される。これにより廃水中のアンモニア性窒素が除去されて浄化されると共に、浄化された処理水は固液分離槽36に送液される。固液分離槽36において、処理水に同伴された浮遊活性汚泥が固液分離され、上澄み水が流出管22から流出する。固液分離槽36の底部に沈降した浮遊活性汚泥は汚泥返送管38を介して好気槽28に返送される。尚、符号41は、嫌気槽26内を攪拌する攪拌機である。
【0059】
図12の廃水処理装置90は更に別の態様であり、BOD成分のみを含有するBOD含有廃水処理に好適な一例である。
【0060】
図12に示すように、廃水処理装置90は、有機物を含有する廃水が原水導入管18を介して生物処理槽12に流入する。生物処理槽12は、前段側の好気槽28と後段側の好気槽40とから構成され、前段側の好気槽28には包括微生物担体14と付着担体16とが充填されている。また、後段側の好気槽40には浮遊活性汚泥が保持されている。これにより、前段側の好気槽28では、BOD成分を基質にして包括微生物担体14内部の有機物分解細菌が増殖し、増殖した有機物分解細菌の一部は包括微生物担体14からリークする。リークした有機物分解細菌の一部が付着担体16に付着し、付着担体16の表面で有機物分解細菌が増殖する。従って、前段側の好気槽28では、包括微生物担体14と、表面に有機物分解細菌が増殖した付着微生物担体16' により有機物が分解される。包括微生物担体14からリークした有機物分解細菌の一部は後段側の好気槽40に流入し、浮遊活性汚泥に付着し増殖する。この増殖した浮遊活性汚泥により廃水は高度に浄化される。浄化された処理水は固液分離槽36に送液される。固液分離槽36において、処理水に同伴された浮遊活性汚泥が固液分離され、上澄み水が流出管22から流出する。固液分離槽36の底部に沈降した浮遊活性汚泥は汚泥返送管38を介して後段側の好気槽40に返送される。
【0061】
図13の廃水処理装置100は更に別の態様であり、BOD成分とアンモニア性窒素を含有する廃水を処理するのに好適な一例である。
【0062】
図13に示すように、廃水処理装置100は、上流側から順に、無酸素槽42、亜硝酸生成槽44、嫌気性アンモニア酸化槽48、硝化槽51、固液分離槽36が配置される。そして、無酸素槽42には脱窒細菌を包括固定化した包括微生物担体14Aと付着担体16とが充填される。亜硝酸生成槽44にはアンモニア酸化細菌を包括固定化した包括微生物担体14Bと付着担体16とが充填される。嫌気性アンモニア酸化槽48には嫌気性アンモニア酸化細菌を包括固定化した包括微生物担体14Cと付着担体16とが充填される。
【0063】
このように構成された本発明の廃水処理装置100によれば、BOD成分とアンモニア性窒素を含有する廃水が、原水導入管18を介して無酸素槽42に流入する。無酸素槽42では、硝化液循環ライン34から循環される硝化液中の硝酸や亜硝酸による呼吸によりBOD成分が除去される。無酸素槽42では廃水中のアンモニア性窒素が残存し、残存したアンモニア性窒素を含む第1の流出液の一部が亜硝酸生成槽44に流入し、残りがバイパスライン46を介して嫌気性アンモニア酸化槽48に流入する。亜硝酸生成槽44では、亜硝酸型の硝化処理が行われ、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素に酸化される。そして、亜硝酸生成槽44からの亜硝酸性窒素を含有する第2の流出液と、バイパスライン46からのアンモニア性窒素を含有する第3の流出液とが、嫌気性アンモニア酸化槽48に流入し、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とが同時に脱窒処理される。嫌気性アンモニア酸化槽48で残存したアンモニア性窒素を含有する第4の流出液は、硝化槽51に流入して硝化処理され、残存するアンモニア性窒素が硝化処理される。硝化槽51から流出する硝化液の一部は硝化液循環ライン34を介して前記した無酸素槽42に戻される。硝化槽51で処理された硝化液の残りである処理水は固液分離槽36に送液され、処理水に同伴された浮遊活性汚泥が固液分離され、上澄み水が流出管22から流出する。
【0064】
かかる各槽での処理において、無酸素槽42では、亜硝酸や硝酸を基質として包括微生物担体14A内部の脱窒細菌が増殖し、増殖した脱窒細菌がリークして付着担体16に付着増殖する。亜硝酸生成槽44では、アンモニア性窒素を基質として包括微生物担体14B内部のアンモニア酸化細菌が増殖し、増殖したアンモニア酸化細菌がリークして付着担体16に付着増殖する。嫌気性アンモニア酸化槽48では、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを基質として包括微生物担体14C内部の嫌気性アンモニア酸化細菌が増殖し、増殖した嫌気性アンモニア酸化細菌がリークして付着担体16に付着増殖する。このように、それぞれの槽での処理に有用な細菌を包括固定化した包括微生物担体14A又は14B又は14Cと、付着担体16とを共存させることにより、包括微生物担体14A又は14B又は14Cからリークしたリーク細菌を付着担体16に付着増殖させるため馴養期間を顕著に短縮することができると共に、定常運転期間での処理の安定性を良くすることができる。これは、付着担体16に細菌を付着させた付着微生物担体16' のみでは生物膜の剥離脱落が見られ、付着微生物担体16' の性能低下が生じ易いのに対し、本発明のように、包括微生物担体14から種菌が常に供給されているために付着微生物担体16' の性能回復が早いためと考えられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1の試験では、アンモニア性窒素50mg/L含有する合成廃水を用いて、図5〜図9の各廃水処理装置における馴養期間及び処理水の水質を調べた。試験に使用した包括微生物担体14の組成等は表2の通りである。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示すように、過硫酸カリウムを添加することにより上記組成はゲル化するので、ゲル化物を3mm角型に成形したものを、包括微生物担体14として試験に供した。
【0068】
それぞれの試験条件は次の通りである。
(本発明A)図5の廃水処理装置10を使用した場合
・生物処理槽12の滞留時間…2.4時間
・生物処理槽12における容積負荷…0.5kg-N/m 3 /日
・生物処理槽12への包括微生物担体14の充填率…2%
・生物処理槽12への付着担体16の充填率 …8%
・付着担体として発泡ポリエチレン製の筒状担体(5mmφ×8mm)を使用
・生物処理槽12をエアにより曝気撹拌
(本発明B)図6の廃水処理装置30を使用した場合
・3槽(12A、12B、12C)合計の滞留時間…2.4時間
・3槽(12A、12B、12C)合計の容積負荷…0.5kg-N/m 3 /日
・各槽(12A、12B、12C)における包括微生物担体14の充填率…1%(容積)・各槽(12A、12B、12C)における付着担体16の充填率…9%(容積)
・付着担体として発泡ポリエチレン製の筒状担体(5mmφ×8mm)を使用
・エアにより各槽(12A、12B、12C)を曝気撹拌
(本発明C)図7の廃水処理装置40を使用した場合
・3槽(12A、12B、12C)合計の滞留時間…2.4時間
・3槽(12A、12B、12C)合計の容積負荷…0.5kg-N/m 3 /日
・第1生物処理槽12Aの包括微生物担体14の充填率…10%(容積)
・第2、3の生物処理槽12B、12Cの付着担体16の充填率…10%(容積)
・付着担体として発泡ポリエチレン製の筒状担体(5mmφ×8mm)を使用
・各槽(12A、12B、12C)をエアにより曝気撹拌
(本発明D)図8の廃水処理装置50を使用した場合
・4槽(12A、12B、12C、12D)合計の滞留時間…2.4時間
・4槽(12A、12B、12C、12D)合計の容積負荷…0.5kg-N/m 3 /日
・第1、3生物処理槽(12A、12B)への包括微生物担体14の充填率…10%(容積)
・第2、4生物処理槽(12C、12D)への付着担体16の充填率…10(容積)%
・付着担体として発泡ポリエチレン製の筒状担体(5mmφ×8mm)を使用
・エアにより各槽(12A、12B、12C、12D)を曝気撹拌
(本発明E)図9の廃水処理装置60を使用した場合
・生物処理槽12と有用菌培養槽24の合計滞留時間…2.4時間(生物処理槽:2時間、有用菌培養槽:0.4時間)
・生物処理槽12と有用菌培養槽24の合計容積負荷…0.5kg-N/m 3 /日
・有用菌培養槽24への包括微生物担体14の充填率…20%(容積)
・生物処理槽への付着担体16の充填率 …10%(容積)
・付着担体として発泡ポリエチレン製の筒状担体(5mmφ×8mm)を使用
・生物処理槽12と有用菌培養槽24とをエアにより曝気攪拌
以上の本発明A〜Eの試験条件で廃水処理装置を運転した。そして、処理水のアンモニア性窒素濃度が2mg/L以下になった時点を馴養が終了したと判断し、その期間を馴養期間とした。結果を表3に示す。尚、表3には、従来法についても試験した結果を示した。従来法は、装置図番が図5、図6、図7について、包括微生物担体14を付着担体16に置き換えて、生物処理槽には全て付着担体16が充填されるようにした。即ち、包括微生物担体14の代わりに付着担体16を同じ充填率で充填した。また、従来法の実験開始時には汚泥を投入した。
【0069】
【表3】

【0070】
表3から分かるように、従来法A〜Eでは、馴養期間が30日〜95日と長く、馴養後も処理水の水質が悪化する傾向が時々見られた。これは、細菌が付着担体16から剥離脱落し易く、これにより処理水が悪化したものと推察される。
【0071】
これに対し、本発明A〜Eは、馴養期間が12日〜24日と従来法に比べて短く、馴養後の水質も極めて安定していた。特に、本発明Dの多段に設けられた生物処理槽12A〜12Dに、包括微生物担体14と付着担体16とが交互に充填されるように構成したものは馴養期間が11日で一番短い結果であった。このように、本発明の場合には、包括微生物担体14から細菌がリークすることにより、付着担体16に常に細菌が供給され付着担体表面に安定した生物膜を形成することができる。これにより、処理水の水質を良好且つ安定に維持することができる。また、従来法として、図5の装置に包括微生物担体14のみを10%充填して処理運転したところ、馴養期間14日を要した。これに対し、本発明では12日間と短く、この理由はリークした活性の高い細菌が付着担体16に付着し、高活性になったことにより馴養期間が短縮したものと考えられる。
[実施例2]
実施例2の試験では、各種の廃水を用いて、図10〜13の各廃水処理装置における馴養期間及び処理水の水質を調べた。試験に使用した包括微生物担体14の組成等は表4の通りである。
【0072】
【表4】

【0073】
表4に示すように、過硫酸カリウムを添加することにより上記組成はゲル化するので
ゲル化物を3mm角型に成形したものを、包括微生物担体14として試験に供した。
【0074】
それぞれの試験条件は次の通りである。
(実験F)図10の廃水処理装置70を使用した場合
・使用廃水…BOD120mg/L、NH4 −N30mg/L含有した廃水
・嫌気槽26の滞留時間…4時間
・好気槽28の滞留時間…3時間
・好気槽28への包括微生物担体14(活性汚泥2%含有担体)の充填率…2%(容積)
・好気槽28への付着担体16の充填率 …8%(容積)
・付着担体として発泡ポリプロピレン製の筒状担体(5mmφ×8mm)を使用
・嫌気槽26内を機械撹拌
・好気槽28内をエアによる曝気撹拌
・嫌気槽26の浮遊汚泥濃度…3000〜4000mg/Lで制御
・汚泥返送管38による汚泥返送率…80%
・硝化液循環ライン34による硝化液循環率…300%
(実験G)図11の廃水処理装置80を使用した場合
・使用廃水…NH4 −N100mg/L含有の無機廃水
・好気槽28の滞留時間…4時間
・嫌気槽26の滞留時間…4時間
・好気槽28への包括微生物担体14(活性汚泥2%含有担体)の充填率…2%(容積)
・好気槽28への付着担体16の充填率…10%(容積)
・付着担体として発泡ウレタン製の8mm角型担体を使用
・嫌気槽26を機械撹拌し、メタノール供給ライン38からメタノールを340mg/L相当添加
・好気槽28をエアにより曝気撹拌
・嫌気槽26の浮遊汚泥濃度を3000〜4000mg/Lで制御
・汚泥返送管38による汚泥返送率…80%
(実験H)図12の廃水処理装置90を使用した場合
・使用廃水…BOD200mg/L含有の有機廃水
・前段側の好気槽28の滞留時間…1時間
・後段側の好気槽40Bの滞留時間…3.5時間
・前段側の好気槽28への包括微生物担体14(活性汚泥2%含有担体)の充填率…2%(容積)
・前段側の好気槽28への付着担体16の充填率…10%(容積)
・付着担体として発泡ウレタン製の8mm角型担体を使用
・各好気槽28、40をエアにより曝気撹拌
・後段側の好気槽40の浮遊活性汚泥濃度を3000〜4000mg/Lで制御
・汚泥返送管38による汚泥返送率…50%
(実験I)図13の廃水処理装置100を使用した場合
・使用廃水…BOD50mg/L、NH4 −N200mg/L含有の廃水
・無酸素槽42の滞留時間…1時間
・亜硝酸生成槽44の滞留時間…6時間
・嫌気性アンモニア酸化槽48の滞留時間…4時間
・無酸素槽42への包括微生物担体14(活性汚泥2%含有担体)の充填率…2%(容積)
・亜硝酸生成槽44への包括微生物担体14(担体組成は表5参照)の充填率…2%
・嫌気性アンモニア酸化槽48への包括微生物担体14(担体組成は表6参照)の充填率…2%(容積)
・各槽(42、44、48)へは付着固定化材として不織布板状充填材16を使用し、この不織布板状充填材16を充填率が30%になるように充填した。
・硝化液循環ライン34による返送率…50%
・バイパスライン46により原水流量に対し40%の廃水を嫌気性アンモニア酸化槽48にバイパス
【0075】
【表5】

【0076】
表5に示すように、過硫酸カリウムを添加することにより上記組成はゲル化するので
ゲル化物を3mm角型に成形したものを、包括微生物担体14として亜硝酸生成槽44に投入した。
【0077】
【表6】

【0078】
表6に示すように、過硫酸カリウムを添加することにより上記組成はゲル化する。ゲル化物を3mm角型に成形したものを、包括微生物担体14として嫌気性アンモニア酸化槽48に投入した。
【0079】
以上の本発明F〜Iの試験条件で廃水処理装置を運転した。そして、BOD成分及び/又はNH4 −N成分の除去率が85%以上、あるいは処理水の水質が安定した時点で馴養が終了したと判断し、その期間を馴養期間とした。結果を表7に示す。尚、表7には、従来法についても試験した結果を示した。従来法は、装置図番が図10、図11、図12、図13について、包括微生物担体14を付着担体16に置き換えて、生物処理槽には全て付着担体16又は不織布板状充填材16が充填されるようにした。即ち、包括微生物担体14の代わりに付着担体16又は不織布板状充填材16を同じ充填率で充填した。また、従来法の実験開始時には汚泥を投入した。
【0080】
【表7】

【0081】
表7から分かるように、従来法F〜Iでは、馴養期間が25日〜69日と長く、馴養後も処理水の水質が悪化する傾向が時々見られた。これは、細菌が付着担体16又は不織布板状充填材16から剥離脱落し易く、これにより処理水が悪化したものと推察される。
【0082】
これに対し、本発明F〜Iは、馴養期間が14日〜32日と従来法に比べて短く、馴養後の水質も極めて安定していた。
【0083】
また、廃水の種類が同じ本発明Fと従来法F、本発明Gと従来法F、本発明Hと従来法H、本発明Iと従来法Iとを対比すると、本発明を実施することにより、馴養期間を従来法の半分以下に短縮することが可能となる。これは、本発明の場合には、包括微生物担体14から細菌がリークすることにより、付着担体16に常に細菌が供給され付着担体表面に安定した生物膜を形成されることによるものと推察される。これにより、処理水の水質を良好且つ安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】包括微生物担体からリークする硝化細菌のリーク速度を示した図
【図2】包括微生物担体からリークする有機物分解細菌のリーク速度を示した図
【図3】包括微生物担体と付着固定化材との容積比を変化させたときの硝化処理での馴養期間を示した図
【図4】包括微生物担体と付着固定化材との容積比を変化させたときのBOD処理での馴養期間を示した図
【図5】本発明の廃水処理装置の一態様で生物処理槽が1槽の図
【図6】本発明の廃水処理装置の別の態様で、生物処理槽を多段に設けた図
【図7】本発明の廃水処理装置の更に別の態様で、多段に設けた1槽目に包括微生物担体を充填し、2槽及び3槽目に付着担体を充填するように構成した図
【図8】本発明の廃水処理装置の更に別の態様で、多段に設けた生物処理槽の各槽に交互に包括微生物担体と付着固定化材とを充填するように構成した図
【図9】本発明の廃水処理装置の更に別の態様で、生物処理槽と有用菌培養槽とを設けるように構成した図
【図10】本発明の廃水処理装置の更に別の態様で、BOD成分とアンモニアを含有する廃水に好適な装置として構成した図
【図11】本発明の廃水処理装置の更に別の態様で、BOD成分を含有しないアンモニア含有廃水に好適な装置として構成した図
【図12】本発明の廃水処理装置の更に別の態様で、BOD成分のみを含有する廃水に好適な装置として構成した図
【図13】本発明の廃水処理装置の更に別の態様で、BOD成分とアンモニアを含有する廃水に好適な装置として構成した図
【符号の説明】
【0085】
10、30、40、50、60、70、80、90、100…廃水処理装置、12…生物処理槽、14…包括微生物担体、16…付着固定化材(付着担体、不織布板状充填材等)、16' …包括微生物担体からリークした細菌が付着増殖した付着細菌担体、18…原水導入管、20…スクリーン、22…流出管、24…有用菌培養槽、26…嫌気槽、28…好気槽、31…曝気管、32…ブロアー、34…硝化液循環ライン、36…固液分離槽、38…汚泥返送管、40…後段側の好気槽、42…無酸素槽、44…亜硝酸生成槽、46…バイパスライン、48…嫌気性アンモニア酸化槽、51…硝化槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理方法において、
前記廃水と、微生物を包括固定化した包括微生物担体とを接触させて前記包括微生物担体の微生物を増殖させると共に、該増殖により前記包括微生物担体の担体内部から担体外部にリークしてくる微生物を含む廃水を付着固定化材に接触させて、前記リークした微生物を付着固定化材に付着増殖させることを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
前記基質は有機物及び/又は無機物であることを特徴とする請求項1の廃水処理方法。
【請求項3】
前記付着固定化材は、付着担体及び/又は付着充填材であることを特徴とする請求項1又は2の廃水処理方法。
【請求項4】
前記微生物として硝化細菌を包括固定化した包括微生物担体と、前記基質としてアンモニア性窒素を含有する廃水とを接触させると共に、該アンモニア性窒素負荷を100(mg−N/h/L−担体)以上にすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の廃水処理方法。
【請求項5】
前記微生物として有機物を分解する有機物分解細菌を包括固定化した包括微生物担体と、前記基質としてBOD成分が含有する廃水とを接触させると共に、該BOD成分負荷を100(mg−BOD/h/L−担体)以上にすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の廃水処理方法。
【請求項6】
前記付着固定化材に対する前記包括微生物担体の容積比(包括微生物担体/付着固定化材)を1/10以上にすることを特徴とする請求項1〜5の何れか1の廃水処理方法。
【請求項7】
前記付着固定化材に対する前記包括微生物担体の容積比(包括微生物担体/付着固定化材)を1/10〜1/5の範囲にすることを特徴とする請求項1〜5の何れか1の廃水処理方法。
【請求項8】
前記包括微生物担体と前記付着固定化材とは同じ生物処理槽内に混在されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1の廃水処理方法。
【請求項9】
前記包括微生物担体と前記付着固定化材とは別の生物反応槽に投入されており、前記包括微生物担体が投入された第1の生物処理槽からの流出水を前記付着固定化材が投入された第2の生物処理槽に流入させることを特徴とする請求項1〜8の何れか1の廃水処理方法。
【請求項10】
前記増殖する前の包括微生物担体は、前記付着固定化材に付着させたい微生物を105 (cells/cm3 ) 以上の濃度で包括固定化したものであることを特徴とする請求項1〜9の何れか1の廃水処理方法。
【請求項11】
廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理装置において、
前記生物処理を行う生物処理槽内に、微生物を包括固定化した包括微生物担体と微生物を付着する付着固定化材とを混在させて成ることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項12】
前記生物処理槽を直列に複数段設けることを特徴とする請求項11の廃水処理装置。
【請求項13】
廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理装置において、
前記廃水が流入すると共に微生物を包括固定化した包括微生物担体が投入された第1の生物処理槽と、
前記廃水及び前記第1の生物処理槽からの流出水のうちの少なくとも前記第1の生物処理槽の流出水が流入すると共に付着固定化材が投入された第2の生物処理槽と、を備えたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項14】
前記第1の生物処理槽と前記第2の生物処理槽とから成る1組の生物処理槽を、複数段設けたことを特徴とする請求項13の廃水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−61879(P2006−61879A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250228(P2004−250228)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000005452)日立プラント建設株式会社 (1,767)
【Fターム(参考)】