説明

廃水処理方法

【課題】シクロヘキサノンオキシムを含む廃水から、好適に有機物を減少させることを可能とする廃水処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シクロヘキサノンオキシムを含む廃水を、フェントン酸化処理した後に、生物学的処理を行う廃水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサノンオキシムを製造する方法の1つとして、チタノシリケート触媒の存在下に、シクロヘキサノンを過酸化水素とアンモニアでアンモキシム化反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1においては、このアンモキシム化反応により得られた反応液に対し、有機溶媒による抽出や、水を用いた洗浄を行うことにより、目的物であるシクロヘキサノンオキシムを回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−199686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、回収時に分液で生じる水(廃水)には、未反応原料であるシクロヘキサノン、目的物であるシクロヘキサノンオキシム、その他副生物が含まれている。そのため、これらの有機物を減少させ、環境負荷を低減させた後でなければ、投棄処理することができない。工場設備等において排出される多量の廃水から、このような有機物を減少させるための処理方法としては、活性汚泥を用いた微生物処理(生物学的処理)が広く用いられている。
【0005】
しかしながら、発明者らの事前検討により、廃水に含まれるシクロヘキサノンオキシムは、生物学的処理の阻害要因となり、上述の廃水から通常の生物学的処理によって有機物を減少させることは困難であることが分かった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、シクロヘキサノンオキシムを含む廃水から、好適に有機物を減少させることを可能とする廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、シクロヘキサノンオキシムを含む廃水を、フェントン酸化処理した後に、生物学的処理を行う廃水処理方法を提供する。
【0008】
本発明の一態様においては、前記フェントン酸化処理は、前記廃水に酸を加えpH1〜2に調整すること、過酸化水素を前記廃水に加えること、及び鉄(II)塩を前記廃水に加えることを含むことが望ましい。
【0009】
本発明の一態様においては、前記廃水は、チタノシリケート触媒の存在下に、シクロヘキサノン、過酸化水素及びアンモニアを反応させて、シクロヘキサノンオキシム、水及び未反応のシクロヘキサノンを含む反応液を得た後、前記反応液を有機溶媒と混合した後、有機層と水層とに分離することで生じる水層であることが望ましい。
【0010】
本発明の一態様においては、前記廃水は、前記有機層を水と混合した後、有機層と水層とに分液して得られる水層をさらに含むことが望ましい。
【0011】
本発明の一態様においては、前記フェントン酸化処理に先だって、前記廃水からシクロヘキサノンの沸点以下の沸点を有する成分を蒸留することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シクロヘキサノンオキシムを含む廃水を好適に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のシクロヘキサノンオキシムの製造工程を示すフロー図である。
【図2】本実施形態のシクロヘキサノンオキシムの製造工程を示すフロー図である。
【図3】本実施形態の廃水処理方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態の廃水処理方法について説明する。図1,2は、本実施形態の廃水処理方法の処理対象である廃水が生じる、シクロヘキサノンオキシムの製造工程を示すフロー図である。図3は、本実施形態の廃水処理方法を示すフロー図である。
【0015】
一つの態様において、シクロヘキサノンオキシムは、チタノシリケート触媒(以下、単に「触媒」と称することがある)の存在下にシクロヘキサノンを過酸化水素とアンモニアでアンモキシム化反応させて、残存アンモニア、及びシクロヘキサノンオキシムを含む反応液を得る反応工程(1);前記反応液から残存アンモニアを留去させ、缶出液としてシクロヘキサノンオキシムと水との混合液を得る第一蒸留工程(2);前記混合液から有機溶媒によりシクロヘキサノンオキシムを抽出して、シクロヘキサノンオキシム抽出液を得る抽出工程(3);シクロヘキサノンオキシム抽出液を水で洗浄する洗浄工程(4);洗浄後のシクロヘキサノンオキシム抽出液から有機溶媒を留去させ、缶出液として粗製シクロヘキサノンオキシムを得る第二蒸留工程(5);及び、粗製シクロヘキサノンオキシムから残存シクロヘキサノンを留去させ、缶出液として精製シクロヘキサノンオキシムを得る第三蒸留工程(6)の一連の工程により製造される。
【0016】
これらの工程は、全てを連続式で行ってもよいし、一部を連続式で行い、一部を回分式で行ってもよいし、全てを回分式で行ってもよいが、シクロヘキサノンオキシムの生産性、さらには得られるシクロヘキサノンオキシムの熱安定性ないし品質の点からは、全てを連続式で行うのが好ましい。
【0017】
ここで、本実施形態の廃液処理方法の対象となる廃液は、抽出工程(3)及び洗浄工程(4)で生じる水層である。これらの水層には、目的物であるシクロヘキサノンオキシムや、未反応原料であるシクロヘキサノン、または反応副生物のような有機物が含まれている。このような有機物を含む廃水は環境負荷が高いため、本発明の実施形態の廃水処理方法を用いて有機物を減少させた後に廃棄する。
以下、シクロヘキサノンオキシムの製造から廃水処理まで順を追って説明する。
【0018】
図1に示すように、シクロヘキサノンオキシムの製造工程においては、反応工程(1)を行う反応器1、第一蒸留工程(2)を行う第一蒸留塔2、抽出工程(3)を行う抽出器3、洗浄工程(4)を行う洗浄器4、第二蒸留工程(5)を行う第二蒸留塔5、第三蒸留工程(6)を行う第三蒸留塔6がこの順に用いられ、目的物であるシクロヘキサノンオキシムを製造する。
【0019】
まず、反応器1に触媒が分散した反応液を所定量滞留させ、この中に、シクロヘキサノン11、過酸化水素12、アンモニア13及び必要により溶媒等を供給しながら、アンモキシム化反応を行い、これら原材料と同質量の反応液14を抜き出す〔反応工程(1)〕。
【0020】
ここで、反応液14の抜き出しは、フィルター等を介して、その液相のみを抜き出し、触媒は反応器1内に留まるようにするのがよい。触媒も一緒に抜き出す場合は、抜き出された反応液14から触媒を分離する工程が必要となり、また反応器1への触媒の供給も必要となる。なお、触媒濃度は、その活性や反応条件等にもよるが、反応液(触媒+液相)の容量あたりの質量として、通常1g/L以上200g/L以下である。また、反応器1としては、過酸化水素の分解を防ぐ観点から、グラスライニングが施されたものやステンレススチール製のものを使用するのがよい。
【0021】
過酸化水素の使用量は、シクロヘキサノンに対し、通常0.5モル倍以上3モル倍以下、好ましくは0.5モル倍以上1.5モル倍以下である。また、アンモニアの使用量は、シクロヘキサノンに対し、通常1モル倍以上、好ましくは1.5モル倍以上である。ここで、アンモニアは、シクロヘキサノンや過酸化水素より過剰に使用して、反応液中に残存させるようにし、これにより、シクロヘキサノンの転化率やシクロヘキサノンオキシムの選択率が高められる。
【0022】
使用しうる反応溶媒の好適な例としては、反応混合物の液相を均一に保持し易いことから、炭素数1〜6程度のアルコール類が好ましい。なかでも、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、及びt−アミルアルコールのようなアルコール類や水、又はそれらの混合溶媒がより好ましい。
【0023】
反応温度は通常50℃以上120℃以下、好ましくは70℃以上100℃以下である。
また、反応液中へのアンモニアの溶解度を高めるため、反応は加圧下に行うのがよい。
【0024】
こうして得られる反応液14中には、目的物のシクロヘキサノンオキシムと共に、理論上、シクロヘキサノンの2モル倍の生成水が含まれる(C10O+NH+H→C10NOH+2HO)。また、過酸化水素としては、通常10質量%以上70質量%以下程度の水溶液(過酸化水素水)が使用されるので、過酸化水素を添加するために持ち込まれる水も含まれる。さらに、上で述べたようにアンモニアを過剰に使用することで、未反応のアンモニアが含まれる。また、シクロヘキサノンを完全に反応させるのは困難であるので、未反応のシクロヘキサノンも含まれる。
【0025】
そこで、次にこのシクロヘキサノンオキシム、水、アンモニア及びシクロヘキサノンを含む反応液14を、第一蒸留塔2に導入して蒸留し、留分15としてアンモニアを回収すると共に、缶出液16として、シクロヘキサノンオキシム、水及びシクロヘキサノンの混合物を得る〔第一蒸留工程(2)〕。
この蒸留は、通常、常圧で行えばよいが、必要により加圧下又は減圧下に行ってもよい。
【0026】
留分15として回収されるアンモニアは、反応器1にリサイクルするのが望ましい。また、反応工程(1)で有機溶媒を使用する場合、すなわち反応器1に有機溶媒を供給する場合には、この有機溶媒は反応液14に含まれて第一蒸留塔2に導入されるが、これも留分15として回収し、反応器1にリサイクルするのが望ましい。有機溶媒も反応器1へリサイクルするためには、反応工程(1)で使用される有機溶媒は、シクロヘキサノンオキシムより低沸点である必要がある。なお、有機溶媒の種類によっては、その共沸組成等により水を同伴して留出するので、この水も一緒に反応器1にリサイクルすればよい。例えば、t−ブチルアルコールであれば、水を12質量%以上18質量%以下程度含んだ状態で留出するので、この含水t−ブチルアルコールを反応器1にリサイクルすればよい。また、アンモニアは通常、ガスの状態で圧縮機を用いて反応器1にリサイクルするが、加圧下に低温に冷却して、有機溶媒ないし含水有機溶媒に溶解させ、溶液として反応器1にリサイクルしてもよい。
【0027】
第一蒸留塔2から抜き出される缶出液16は、抽出器3に導入され、有機溶媒17と混合後、缶出液16中のシクロヘキサノンオキシム及びシクロヘキサノンが有機溶媒で抽出されてなる有機層18と、抽出残液である水層19とに分離される〔抽出工程(3)〕。
【0028】
この抽出用の有機溶媒17は、水と分液可能であって、シクロヘキサノンオキシム溶解能を有し、かつシクロヘキサノンオキシムより低沸点である必要がある。その好適な例としては、トルエンのような芳香族炭化水素類;シクロヘキサンのような脂環式炭化水素類;ヘキサンやヘプタンのような脂肪族炭化水素類;ジイソプロピルエーテルやt−ブチルメチルエーテルのようなエーテル類;酢酸エチルのようなエステル類等が挙げられるが、中でもトルエンのような芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素類が好ましく、特にトルエンのような芳香族炭化水素類が好ましい。
【0029】
有機溶媒17の使用量は、缶出液16中のシクロヘキサノンオキシムに対し、通常0.1質量倍以上2質量倍以下、好ましくは0.3質量倍以上1質量倍以下である。抽出温度は、通常、常温から有機溶媒17の沸点までの範囲で選択されるが、好ましくは40℃以上90℃以下である。
【0030】
なお、抽出器3としては、多段抽出が可能なものを用いてもよいし、混合部と分液部が分離したいわゆるミキサーセトラータイプのものを1段ないし多段で用いてもよい。
【0031】
抽出器3からの有機層18は、洗浄器4に導入され、水20と混合後、有機層18から不純物が水洗除去されてなる有機層21と、この不純物が水に溶解してなる水層22とに分離される〔洗浄工程(4)〕。
【0032】
この不純物としては、例えば反応工程(1)で副生しうる硝酸アンモニウムや亜硝酸アンモニウム等が挙げられる。洗浄用の水20の使用量は、有機層18中のシクロヘキサノンオキシムに対し、通常0.05質量倍以上1質量倍以下であり、また洗浄温度は、通常40℃以上90℃以下である。なお、洗浄器4としては、抽出器3と同様、多段抽出が可能なものを用いてもよいし、混合部と分液部が分離したいわゆるミキサーセトラータイプのものを1段ないし多段で用いてもよい。
【0033】
上述の抽出器3で生じる水層19と、洗浄器4で生じる水層22とは、後述の廃水処理工程で処理される。
【0034】
洗浄器4からの有機層21を、第二蒸留塔5に導入して蒸留することにより、留分23として、有機層21中の有機溶媒を回収することができると共に、缶出液24として、前記未反応のシクロヘキサノンを含む粗製シクロヘキサノンオキシムを得ることができる〔第二蒸留工程(5)〕。
【0035】
また、その際、有機層21中に溶解ないし分散した状態で含まれる水は、有機溶媒と共に留分23として回収される。この蒸留は、通常、有機溶媒の沸点により常圧ないし微減圧で行われる。
【0036】
留分23として回収される有機溶媒及び水は、それぞれ、抽出器3に導入される抽出用の有機溶媒17の少なくとも一部及び洗浄器4に導入される洗浄用の水20の少なくとも一部としてリサイクルするのが望ましい。具体的には、留分23として回収される有機溶媒及び水を、分液器7に導入して、主として有機溶媒17を含む有機層と、主として水20を含む水層とに分離し、有機層を抽出器3に導入し、水層を洗浄器4に導入すればよい。
【0037】
第二蒸留塔5の缶出液24として抜き出される粗製シクロヘキサノンオキシムを、第三蒸留塔6に導入して蒸留することにより、留分25として、シクロヘキサノンを回収することができると共に、缶出液26として、シクロヘキサノンが除去ないし低減された精製シクロヘキサノンオキシムを得ることができる〔第三蒸留工程(6)〕。
【0038】
この蒸留は、通常、圧力10kPa以下の減圧下に、温度140℃以下で行われる。こうして得られる精製シクロヘキサノンオキシムは、熱安定性に優れ、気相ベックマン転位用の原料として好適に用いることができる。気相ベックマン転位における副反応抑制の観点からは、前記精製シクロヘキサノンオキシム中のシクロヘキサノン濃度が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下となるように、上記蒸留条件を調整するのがよい。
【0039】
留分25として回収されるシクロヘキサノンは、反応器1にリサイクルするのが望ましい。なお、長期運転等により留分25中の不純物の蓄積が顕著となれば、少なくとも一部を精留等により精製すればよい。
【0040】
以上のプロセスにより得られる精製シクロヘキサノンオキシムの熱安定性をさらに高めるには、洗浄工程(4)を工夫する、具体的には、洗浄工程(4)を、塩基を含む水溶液による第一洗浄工程(4a)と、実質的に塩基を含まない通常の水(所謂、蒸留水、脱イオン水、精製水等)による第二洗浄工程(4b)とを含む二段階洗浄とするのが好ましい。このとき、第一洗浄工程(4a)で用いる塩基を含む水溶液として、第二洗浄工程(4b)で発生した水層を塩基と混合して調製したものを使用することにより、洗浄工程(4)全体で発生する水層の量を低減できる。また、第二洗浄工程(4b)で用いる塩基を実質的に含まない水としては、第二蒸留工程の留分である水を使用できる。
【0041】
さらに、以上のプロセスにおけるシクロヘキサノンオキシムのロスを低減するためには、抽出工程(3)で排出される水層及び洗浄工程(4)で排出される水層中に微量に含まれうるシクロヘキサノンオキシムを、有機溶媒で抽出して回収するのが望ましい。ここで使用される有機溶媒は、抽出工程(3)で使用されるものと同様であることができる。そこで、抽出工程(3)で使用するための有機溶媒を、まず上記水層からの微量のシクロヘキサノンオキシムの回収に使用してから、抽出工程(3)で使用するようにするのが望ましい。また、このシクロヘキサノンオキシムの回収は、多段抽出により行うのが望ましい。
【0042】
図2は、上記の二段階洗浄及びシクロヘキサノンオキシム回収の例を、模式的に示すフロー図であり、図1の破線で囲まれた部分は、この図2のフロー図に置き換えることができる。
【0043】
すなわち、まず、上記の二段階洗浄に関し、抽出器3からの有機層18は、第一洗浄器4aに導入され、塩基を含む水溶液20aと混合後、有機層21aと水層22aとに分離される〔第一洗浄工程(4a)〕。ここで、水溶液20aに含まれる塩基としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニア等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムなどが挙げられる。その水溶液20a中の濃度は、通常0.01〜2N、好ましくは0.05〜0.5Nである。洗浄温度は好ましくは60〜90℃であり、塩基を含む水溶液20aの使用量は、有機層18中のシクロヘキサノンオキシムに対し、好ましくは0.2〜2質量倍である。次いで、第一洗浄器4aからの有機層21aは、第二洗浄器4bに導入され、実質的に塩基を含まない水20bと混合後、有機層21bと水層22bとに分離される〔第二洗浄工程(4b)〕。実質的に塩基を含まない水20bの使用量は、有機層21b中のシクロヘキサノンオキシムに対し、好ましくは0.1〜10質量倍である。そして、有機層21bは、第二蒸留塔5に導入され、蒸留が行われる。また、水層22bは、塩基又はその水溶液27と混合され、この混合液が、第一洗浄器4aに導入される塩基を含む水溶液20aの少なくとも一部として、リサイクルされる。第二洗浄器4bに導入される実質的に塩基を含まない水20bの少なくとも一部としては、第二蒸留塔5の留分23からの水層(水20)が使用できる。
【0044】
次に、上記のシクロヘキサノンオキシム回収に関し、抽出器3からの水層19と第一洗浄器4aからの水層22aは、回収器8に導入され、有機溶媒17と混合後、水層19及び水層22a中の微量のシクロヘキサノンオキシムが有機溶媒17で抽出されてなる有機層28と、抽出残液である水層29とに分離される。そして、有機層28は、抽出器3に導入され、第一蒸留塔2の缶出液16からシクロヘキサノンオキシムを抽出するための有機溶媒の少なくとも一部として使用される。また、水層29は、排水として処理される。回収器8に導入される有機溶媒17の少なくとも一部としては、第二蒸留塔5の留分23からの有機層(有機溶媒17)が使用できる。なお、回収器8としては、抽出器3や洗浄器4と同様、多段抽出が可能なものを用いてもよいし、混合部と分液部が分離したいわゆるミキサーセトラータイプのものを1段ないし多段で用いてもよい。
【0045】
上述の回収器8で生じる水層29は、後述の廃水処理工程で処理される。
【0046】
また、洗浄工程(4)で排出される水層中に微量に含まれうるシクロヘキサノンオキシムを回収するために、前記水層を、第一蒸留工程(2)の缶出液であるシクロヘキサノンオキシムと水との混合液と共に、抽出工程(3)に付すのも有利である。その際、この抽出工程(3)を多段抽出により行えば、前記抽出工程(3)から排出される水層を、実質的にシクロヘキサノンオキシムを含まない回収処理不要のものとすることができ、一層有利である。
以上のようにして、シクロヘキサノンオキシムを製造する。
【0047】
一方、図1の水層19及び水層22、または図2の水層29は、図3に示す廃水処理工程にて処理される。これらの水層には、目的物であるシクロヘキサノンオキシムや、未反応原料であるシクロヘキサノン、または反応副生物のような有機物が含まれている。発明者らの検討により、このような水層(廃水)に含まれるシクロヘキサノンオキシムは、通常の廃水処理に用いられる活性汚泥での微生物処理の阻害要因となり、微生物処理によって有機物を減少させることは困難であることが分かった。
【0048】
そこで、本実施形態の廃水処理方法においては、シクロヘキサノンオキシムを含む廃水に対し、フェントン酸化処理を行った後に、生物学的処理を行うことにより、廃水処理を行う。詳しくは、廃水に酸を加えpH1〜2に調整し、過酸化水素を加えた後、鉄(II)塩をさらに加えることにより、フェントン酸化処理を行い、その後、塩基を加えてpHを4以上10以下に上げた廃水について生物学的処理を行う。また、フェントン酸化処理に先だって、廃水からシクロヘキサノンの沸点以下(すなわち155.65℃以下)の沸点を有する成分(低沸点成分)を蒸留しておき、後段の廃水処理工程の負荷を下げることとしている。「シクロヘキサノンの沸点以下の沸点を有する成分」には、シクロヘキサノンと、シクロヘキサノンよりも沸点の低い成分と、が含まれる。
【0049】
図3に示すように、このような廃水処理工程においては、水層19,22、または29に含まれる低沸点成分を蒸留する蒸留塔31、水層19,22、または29のフェントン酸化処理を行う酸化処理槽32、塩基を加えてpH調整する中和槽33、生物学的処理を行う汚泥槽34がこの順に用いられ、廃水を処理する。
【0050】
まず、上述のシクロヘキサノンオキシムの製造工程で排出された水層19,22、または29を、蒸留塔31に導入して蒸留し、留分としてシクロヘキサノンの沸点以下の沸点を有する成分(低沸点成分41)を回収する共に、缶出液42として、シクロヘキサノンオキシム及びシクロヘキサノンを含む廃水を得る。
【0051】
次いで、缶出液42を酸化処理槽32に導入し、フェントン酸化処理を行う。
酸化処理槽32においては、まず、導入された缶出液42(すなわち廃水)に酸43と過酸化水素44とが加えられる。酸43としては、廃水のpHを1〜2に下げることが可能であれば、有機酸、無機酸のいずれも用いることができるが、後述のフェントン酸化処理及び生物学的処理における工程負荷を上げないために無機酸を用いることが好ましい。
無機酸としては、硫酸が好ましい。酸43と過酸化水素44と入れる順は、いずれが先であってもよく、また同時であってもよい。
【0052】
過酸化水素44としては、通常の10質量%以上70質量%以下程度の濃度を有する水溶液(過酸化水素水)を使用可能である。
【0053】
ここで、廃水のpHを1〜2に低下させることにより、廃水に含まれるシクロヘキサノンオキシムには、酸触媒存在下の加水分解反応が起こり、シクロヘキサノンとヒドロキシルアミンとに分解する(C10NOH+HO→C10O+NHOH)。上述したように、シクロヘキサノンオキシムは生物学的処理の阻害要因となるが、前記加水分解により、良好にシクロヘキサノンオキシムの総量を減少させることができる。
【0054】
さらに、酸化処理槽32においては、廃水に鉄(II)塩45が加えられる。鉄(II)塩及び過酸化水素44(フェントン試薬)が反応することにより、OHラジカルを生じ(H+Fe2+→Fe3++OH+・OH)、前記OHラジカルが廃水に含まれる有機物を酸化する(フェントン酸化処理)。
【0055】
鉄(II)塩45としては、水溶性を有するものであれば種々の塩を用いることができるが、対イオンが上述のpH調整で用いる酸の対イオンと共通するとよい。上述のように、pHを調整するための酸としては硫酸が好適に用いられることから、鉄(II)塩45としては硫酸鉄(II)が好ましい。
過酸化水素水の使用量としては、廃水に対し、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましい。
鉄(II)塩の使用量としては、過酸化水素に対し、0.0001〜1モル倍であることが好ましく、0.0005〜0.5モル倍であることがより好ましい。
フェントン酸化処理は、鉄(II)塩45を加えた後、温度50〜150℃で0.1〜10時間攪拌することが好ましい。
【0056】
このようなフェントン酸化処理によって、廃水に含まれるシクロヘキサノンや反応副生物が酸化され分解される。シクロヘキサノンオキシムについては、例えば総量を廃水中の1ppm以下に管理可能となる。このようにして、酸化処理槽32の缶出液46として、フェントン酸化処理がなされた廃水を得る。
【0057】
さらに、中和槽33においては、缶出液46のpHを調節するために塩基47が加えられる。塩基47としては、廃水のpHを4以上に上げることが可能であれば、有機塩基、無機塩基のいずれも用いることができるが、後述の生物学的処理における工程負荷を上げないために無機塩基を用いることが好ましい。無機塩基としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液が好適に用いられる。
前記塩基を加えた後の廃水のpHは、4以上10以下が好ましい。
【0058】
高濃度の有機物が含まれる廃水の処理を行う場合、上述のフェントン酸化処理を用いる方法は、凝集、沈殿、濾過、吸着などの物理化学的処理を用いる方法と比べて、処理費用の低廉化が可能である。さらに、本実施形態の廃水処理方法では、フェントン酸化処理により廃水に含まれる有機物の一部が分解されるため、廃水に含まれる有機物の量が変動しても、フェントン試薬の量又はフェントン酸化処理の処理時間を変更することにより、生物学的処理に適した有機物量にまで低減させた廃水とすることができる。
【0059】
例えば、廃水に含まれる有機物量の指標としては、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand、COD)や、全有機炭素(Total Organic Carbon、TOC)が用いられる。上記フェントン酸化処理では、これらCODやTOCの値を基準(閾値)として用い、フェントン酸化処理の処理時間、用いる試薬量、その他の処理条件を調整することにより、CODやTOCの値が閾値を下回るように制御することができる。これにより、廃水のCODやTOCの値が生物学的処理に適した値となるまで低減させた後に、後段の汚泥槽34に送液するというような運用が可能となる。
「閾値」とは、微生物反応を阻害することなく、生物学的処理を行うことができる最大値である。
【0060】
次いで、中和槽33から排出される缶出液48を汚泥槽34に導入し、生物学的処理を行う。汚泥槽34には活性汚泥が貯留されており、活性汚泥を攪拌する攪拌設備や、曝気処理を行う曝気設備を有することとしてもよい。水層19,22、または29に含まれていたシクロヘキサノンオキシムは、上述のフェントン酸化処理により良好に低減しているため、微生物反応を阻害することなく、好適に生物学的処理を行って有機物を低減させることができる。
「生物学的処理」とは、細菌などの微生物の持つ浄化作用を利用して、廃水を処理する方法で、活性汚泥法や生物膜法などがある。
「活性汚泥」とは、廃水を通気状態で長時間処理したときに生じる綿状の塊をいい、廃水中の浮遊物、細菌および原生動物などから構成される。
【0061】
このようにして、汚泥槽34の缶出液49として、含有する有機物が低減した廃水を得ることができ、投棄処理することが可能となる。
以上のようにして、廃水処理を行う。
【0062】
以上のような廃水処理方法によれば、シクロヘキサノンオキシムを含む廃水を好適に処理することができる。
【0063】
なお、本実施形態においては、チタノシリケート触媒の存在下に、シクロヘキサノン、過酸化水素及びアンモニアを反応させて(アンモキシメーション反応)シクロヘキサノンオキシムを製造する工場設備において生じる廃水(上述の水層19,22、または29)を処理することとして説明したが、これに限らない。
【0064】
例えば、他の方法によりシクロヘキサノンオキシムを製造する製造工程において、反応液から分離させる水層を廃棄する際に、前記水層にシクロヘキサノンオキシムが含まれている場合にも、本発明の廃水処理方法を適用することが可能である。すなわち、他のシクロヘキサノンオキシムの製造方法により生じる水層(廃液)についても、前記水層を予めフェントン酸化処理した後、生物学的処理を行うことにより、好適に廃水処理を行うことが可能である。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成の組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0066】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
[1.生物学的処理の阻害の検証]
まず、シクロヘキサノンオキシムが混在することによる生物学的処理の阻害について検証した。
【0068】
実施例においては、純水にシクロヘキサノンオキシムを加え、濃度0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%のシクロヘキサノンオキシム水溶液(以下、擬似廃水と称する)を調整した。
【0069】
上記擬似廃水について、活性汚泥を用いた生物学的処理を行い、処理開始時と、処理開始から21時間目と、の擬似廃水に含まれる窒素量を測定して、生物学的処理により擬似廃水から減少した窒素量(窒素減少量)を測定した。用いた活性汚泥は、廃水中の窒素を硝酸塩の形で固定するものである。生物学的処理は、実機の活性汚泥槽からサンプリングした流水排水1Lと活性泥スラリー1L、及び擬似廃水90mlを混合し、攪拌しながら32℃に保持することにより行った。
【0070】
得られた測定値に基づいて、下記式から、生物学的処理の阻害の程度を示す硝化阻害性を算出した。硝化阻害性の値は、大きいほど生物学的処理が阻害されていることを示している。算出結果について下記表1に示す。
硝化阻害性(%)=[(X−Y)/X]×100
(X:シクロヘキサノンオキシム0%濃度の擬似廃水を処理したときの窒素減少量、Y:各濃度の擬似廃水を処理したときの窒素減少量)
【0071】
なお、廃水に含まれる窒素量は、JIS K−0102(工場排水試験方法)に従って測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
検証の結果、シクロヘキサノンオキシムの濃度が高くなるほど、硝化が阻害されている(生物学的処理が阻害されている)ことが確認された。
【0074】
[2.フェントン酸化処理の効果の検証]
次いで、フェントン酸化処理による廃水処理の効果について検証した。
実施例においては、チタノシリケート触媒の存在下に、シクロヘキサノン、過酸化水素及びアンモニアを反応させて(アンモキシメーション反応)シクロヘキサノンオキシムを製造する工場設備において生じる実機廃水(上述の水層19,22、または29に対応)を用い、COD及びTOCの値、シクロヘキサノンオキシムの濃度を測定することにより、本発明の効果を検証した。
【0075】
(pHの測定)
廃水のpHは、pH計(型番D−53S、HORIBA(株)社製)を用いて2回測定した平均値を採用した。
【0076】
(シクロヘキサノンオキシムの測定)
ガスクロマトグラフィーを用いて、分析し、面積百分率によりシクロヘキサノンオキシム濃度を算出した。
【0077】
(COD、TOC測定用のサンプル調整)
廃水のCOD及びTOCは、後述の方法によるフェントン酸化処理後の廃水100gに、1%分解酵素(アクアスーパー、三菱ガス化学(株)製、主成分:カタラーゼ)水溶液を0.33g加えた後、1時間攪拌して得られるサンプル液について測定した。
【0078】
(CODの測定)
廃水のCODは、JIS K−0102(工場排水試験方法)に沿って測定した。
【0079】
(TOCの測定)
廃水のTOCは、JIS K−0102(工場排水試験方法)に沿って測定した。
【0080】
(実施例1)
廃水200.1g(シクロヘキサノンオキシム濃度は640ppm)と98%硫酸0.84gとを混合し、pH=1.6(27℃)に調整した後、廃水を90℃に昇温した。廃水に60%過酸化水素水1.19g(廃水に対し過酸化水素として約0.36質量%)と、硫酸鉄(II)・7水和物0.59g(過酸化水素に対し約0.1mol比)とをさらに加え、90℃にて1時間攪拌した後、廃水の温度が40℃以下となるまで冷却した。冷却した廃水に水酸化ナトリウム0.69gを加えて攪拌し、pH>4と成るように調整することで、フェントン酸化処理後、汚泥槽に投入前の廃水(上述の缶出液48)に対応する処理液を得た。
【0081】
(実施例2〜9)
硫酸鉄(II)量、過酸化水素量、90℃での攪拌時間、の各処理条件を、下記表1、2に記載する条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして処理液を得た。
【0082】
(比較例1)
硫酸鉄(II)を加えないこと以外は実施例1と同様にして、処理液を得た。
【0083】
(比較例2)
廃水に98%硫酸0.21gを混合し、pH=2.9(27℃)に調整する以外は、実施例1と同様にして処理液を得た。
【0084】
(比較例3)
廃水に98%硫酸0.06gを混合し、pH=3.8(27℃)に調整する以外は、実施例1と同様にして処理液を得た。
【0085】
各処理条件と、COD、TOC及びシクロヘキサノンオキシムの濃度の各測定結果と、を下記の表2、3に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
測定の結果、実施例1〜9では廃水原液からCOD、TOC及びシクロヘキサノンオキシムの大幅な低減が確認できた。さらに、硫酸鉄(II)を加えずフェントン酸化処理を行わない比較例1と比べ、さらなるCOD、TOC及びシクロヘキサノンオキシムの低減が確認できた。
【0089】
本発明によれば、生物学的処理を行う前の廃水からシクロヘキサノンオキシムを検出限界以下にまで減少させることができるため、シクロヘキサノンオキシムにより阻害されることなく、好適に生物学的処理を実施可能であることが期待できる。併せて、フェントン酸化処理を行うことにより、廃水中の有機物が分解されているため、後段の生物学的処理の負荷を下げることができる。
【0090】
また、過酸化水素量や硫酸鉄(II)の使用量を制御すること、及び処理時間を調節することにより、COD及びTOCの値を好適に制御できることが確認できた。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、シクロヘキサノンオキシムを含む廃水を好適に処理することができる。
【符号の説明】
【0092】
1…反応器、2…第一蒸留塔、3…抽出器、4…洗浄器、4a…第一洗浄器、4b…第二洗浄器、5…第二蒸留塔、6…第三蒸留塔、7…分液器、8…回収器、11…シクロヘキサノン、12,44…過酸化水素、13…アンモニア、14…反応液、15,23,25…留分、17…有機溶媒、18,21,21a,21b,28…有機層、19,22,22a,22b,29…水層、20,20b…水、20a…水溶液、27…塩基又はその水溶液、31…蒸留塔、32…酸化処理槽、33…中和槽、34…汚泥槽、41…低沸点成分、16,24,26,42,46,48,49…缶出液、43…酸、45…鉄(II)塩、47…塩基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキサノンオキシムを含む廃水を、フェントン酸化処理した後に、生物学的処理を行う廃水処理方法。
【請求項2】
前記フェントン酸化処理は、前記廃水に酸を加えpH1〜2に調整すること、過酸化水素を前記廃水に加えること、及び鉄(II)塩を前記廃水に加えることを含む請求項1に記載の廃水処理方法。
【請求項3】
前記廃水は、チタノシリケート触媒の存在下に、シクロヘキサノン、過酸化水素及びアンモニアを反応させて、シクロヘキサノンオキシム、水及び未反応のシクロヘキサノンを含む反応液を得た後、前記反応液を有機溶媒と混合した後、有機層と水層とに分離することで生じる水層である請求項1または2に記載の廃水処理方法。
【請求項4】
前記廃水は、前記有機層を水と混合した後、有機層と水層とに分液して得られる水層をさらに含む請求項3に記載の廃水処理方法。
【請求項5】
前記フェントン酸化処理に先だって、前記廃水からシクロヘキサノンの沸点以下の沸点を有する成分を蒸留する請求項1から4のいずれか1項に記載の廃水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−107074(P2013−107074A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−228921(P2012−228921)
【出願日】平成24年10月16日(2012.10.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】