説明

廃液回収装置、および液体噴射装置

【課題】廃液容器において液体吸収材が目詰まりすることなく長期間使用可能な廃液回収装置を実現する。
【解決手段】微粒子KRを含むインクを噴射可能な液体噴射ヘッド19から排出されるインクの廃インクを受容するキャップ24と、キャップが受容した廃インクから、当該廃インクに含まれる微粒子KRを分離するとともに、分離した微粒子KRを分離動作に連続して廃インクから除去する分離手段40と、分離手段によって微粒子KRが除去された廃インクが吸収されて回収される廃インク吸収材35を有する廃液容器33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドから排出された液体の廃液を回収する廃液回収装置、およびこの廃液回収装置を備えた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体を媒体に対して噴射させる液体噴射装置の一種として、インクジェット式プリンター(以下、「プリンター」ともいう。)が広く知られている。このプリンターは、インクカートリッジから供給されたインク(液体)を液体噴射ヘッドに形成されたノズルから媒体に対して噴射することにより印刷を行っている。このようなプリンターでは、例えば特許文献1に開示されているように、通常、インクの噴射不良を低減させることを目的として、液体噴射ヘッドに対するメンテナンス動作が行われる。そして、このメンテナンス動作で液体噴射ヘッドから排出されるインク、すなわち廃インクを廃液容器に回収する廃液回収装置が備えられている。
【0003】
特許文献1に記載のプリンターにおけるメンテナンス動作は、ノズル開口を囲んだ状態となって液体噴射ヘッドに当接可能に形成されたキャップ(液体受容部材)を、インクを噴射するノズルを囲うようにして液体噴射ヘッドに当接させた状態にする。そして、この状態でキャップ内を吸引ポンプで吸引することにより、ノズルから増粘したインクなどをキャップ内に排出させる。あるいは、キャップを液体噴射ヘッドと対向する状態にして、ノズル内のインクを加圧することで、ノズルから増粘したインクなどを強制的にキャップ内に排出させる。このとき、キャップ内に放電することによってインクに泡が発生しないようにしながらキャップ内にインクを排出させるようにしている。さらに、キャップ内に排出されたインクを、吸引ポンプを介して排出管から廃液容器に廃インク(廃液)として排出するように廃液回収装置が構成されている。こうして、液体噴射ヘッドから排出された廃インクは、キャップを介して廃液容器に回収されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−208199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のプリンターにおけるメンテナンス動作では、放電によってインクの泡の発生は抑制するものの、液体噴射ヘッドからキャップ内に排出されたインク中における溶質成分を除去するようにはなっていない。そのため、廃液容器に排出されたインクに溶質成分である微粒子が含まれていると、初期的には廃液容器に収容された多孔質の液体吸収材に吸収されて保持されるものの、微粒子が分散して溶解している溶媒液(水分や揮発成分)が次第に蒸発すると、廃液容器内には微粒子が堆積して残留することになる。そして、液体吸収体に残留した微粒子が多くなることによって液体吸収体に目詰まりが生じ、そのため新たに回収された廃インクが液体吸収材に吸収されずに廃液容器から溢れ出る虞がある。従って、従来は廃液容器内の液体吸収材を定期的に交換したり洗浄したりするなど、何らかのメンテナンスが必要であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、廃液容器において液体吸収材が目詰まりすることなく長期間使用可能な廃液回収装置を実現することを主な目的とする。さらに、このような廃液回収装置を備えた液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の廃液回収装置は、微粒子を含む液体を噴射可能な液体噴射ヘッドから排出される前記液体の廃液を受容する液体受容部材と、前記液体受容部材が受容した前記廃液から、当該廃液に含まれる前記微粒子を分離するとともに、分離した前記微粒子を分離動作に連続して前記廃液から除去する分離手段と、前記分離手段によって前記微粒子が除去された前記廃液が排出されて回収される液体吸収部材を有する廃液容器と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、廃液容器に回収される廃液に含まれていた微粒子は、廃液容器内に回収される前に廃液中から分離手段によって除去されるので、廃液容器内の液体吸収材に微粒子による目詰まりが生じることが抑制される。この結果、廃液回収装置をメンテナンスすることなく長期間使用することができる。しかも、廃液中からの微粒子の分離と除去が連続して行なわれるので、微粒子は廃液中から分離したまま除去されずに廃液に接触した状況に放置されることがなく、その結果、そのように放置された微粒子が廃液中に再び溶け込んでしまう虞を抑制できる。
【0009】
本発明の廃液回収装置において、前記分離手段は、前記液体受容部材が受容した前記廃液を導入して貯留する廃液貯留部と、前記廃液貯留部に貯留された前記廃液に浸漬される浸漬位置と前記廃液には浸漬されない非浸漬位置との間を少なくとも一部が連続して通過するように移動する移動部材と、前記浸漬位置において前記廃液から分離して前記移動部材に付着した前記微粒子を前記非浸漬位置において前記移動部材から除去する除去部と、を備える。
【0010】
上記構成によれば、廃液に含まれる微粒子を、浸漬位置と非浸漬位置との間を少なくとも一部が連続して通過するように移動する移動部材によって、廃インクからの分離後に滞留することなく除去することができる。
【0011】
本発明の廃液回収装置において、前記移動部材は、前記廃液貯留部に対して鉛直方向から傾いた方向を回転軸として回転する円板形状を有している。
上記構成によれば、移動部材を円板形状とすることによって分離手段を上下方向において薄く形成することができるので、廃液回収装置の小型化が可能である。
【0012】
本発明の廃液回収装置において、前記分離手段は、前記移動部材を一方の電極とし、この一方の電極と前記廃液貯留部に貯留された前記廃液に浸漬した他方の電極との間に電圧を印加することによって、前記廃液中から前記微粒子を分離して前記移動部材に付着させる。
【0013】
上記構成によれば、廃液に含まれる微粒子を電気泳動によって分離することができるので、例えば電圧の調節によって適切に微粒子を移動部材に静電吸着によって付着させて、廃液から分離することができる。
【0014】
本発明の廃液回収装置において、前記分離手段は、前記液体受容部材に備えられている。
上記構成によれば、液体受容部材と分離手段とを一体化することができるので、廃液回収装置を小型化することができる。
【0015】
本発明の液体噴射装置は、媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、上記構成を有する廃液回収装置と、を備えた。
上記構成によれば、上記廃液回収装置が奏する効果を有する液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る実施形態の廃液回収装置を備えたプリンターの概略構成を示す斜視図。
【図2】実施形態の廃液回収装置の構成図。
【図3】実施形態における微粒子の分離手段の構成を示す平面図。
【図4】変形例で、キャップに分離手段を備えた廃液回収装置の構成図。
【図5】微粒子の分離手段の構成の変形例を示す平面図。
【図6】分離手段における移動部材の構成の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、廃液回収装置を備えた液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」ともいう)において具体化した実施形態について、以下、図を参照して説明する。なお、以降の説明を容易にするため、図1に示したように、鉛直方向における重力方向を下方向、反重力方向を上方向とする。また、これと交差する方向であって、プリンターに給送された用紙Pが画像の形成時において搬送される搬送方向を前方向、搬送方向と反対方向を後方向とする。さらに重力方向および搬送方向の双方と交差する方向であってキャリッジ16が往復移動する方向すなわち走査方向を、前方から見て、それぞれ右方向、左方向と呼ぶことにする。
【0018】
図1に示すように、液体噴射装置としてのプリンター11における略矩形箱状をなすフレーム12内の下部には、その長手方向に沿って媒体の一例である用紙Pを印刷時に支持するための支持部材13が延設されている。そして、この支持部材13上には、フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構により用紙Pが支持部材13の短手方向に給送されるようになっている。
【0019】
フレーム12内における支持部材13の上方には、該支持部材13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。すなわち、キャリッジ16にはガイド軸15の軸線方向に貫通するように支持孔16aが形成されるとともに、該支持孔16aにガイド軸15が挿通される。従って、キャリッジ16はガイド軸15の軸線方向つまり走査方向に往復移動できるように支持されている。
【0020】
フレーム12の後壁内面におけるガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとの間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。従って、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介してガイド軸15の軸線方向に移動するようになっている。
【0021】
キャリッジ16の下面側には液体噴射ヘッド19が設けられるとともに、該液体噴射ヘッド19の下面となるノズル形成面19aには液体としてのインクを噴射する複数のノズル22(図2参照)の開口が形成されている。一方、キャリッジ16上には液体噴射ヘッド19に対してインクを供給するためのインクカートリッジ20が着脱可能に装着されている。
【0022】
インクカートリッジ20内のインクは、液体噴射ヘッド19に備えられた圧電素子21(図2参照)の駆動により、インクカートリッジ20から液体噴射ヘッド19へと供給され、該液体噴射ヘッド19の各ノズル22(図2参照)から支持部材13上に給送された用紙Pに噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0023】
そして、フレーム12内において用紙Pと対応しないホームポジション領域(非印刷領域)には、非印刷時に液体噴射ヘッド19のクリーニングによってノズル22から排出される廃液としての廃インクを回収するための廃液回収装置23が設けられている。廃液回収装置23は、液体受容部材の一例であるキャップ24と、インクに含まれる微粒子(例えばインク顔料)を分離してインク(ここでは廃インク)から除去する分離手段40と、廃インクを吸収して回収する廃液容器33とを有している。
【0024】
次に、廃液回収装置23を構成するこれらの構成要素について、図2を参照して詳しく説明する。
図2に示すように、廃液回収装置23が有するキャップ24は、有底四角箱状をなすとともに内部に廃インクを吸収する吸収材26を備えている。また、該キャップ24を昇降させるための昇降装置(図示略)を備えている。そして、キャリッジ16をホームポジション領域に移動させた状態で、キャップ24を昇降装置の駆動によって上昇させると、該キャップ24が各ノズル22を囲うように液体噴射ヘッド19のノズル形成面19aに対して当接するようになっている。
【0025】
キャップ24の底壁24aからは突部24cが下方に向かって突設されるとともに、該突部24c内にはキャップ24内からインクを排出するための排出口25が上下方向に貫通するように形成されている。そして、この突部24cには、可撓性を有する排出チューブ32の一端側が接続されると共に、該排出チューブ32の他端側は、上方が開口された有底四角箱状の貯留容器43の開口部上方に位置するように配設される。
【0026】
キャップ24と貯留容器43との間における排出チューブ32の中間部には、キャップ24側から貯留容器43側へ向かって廃インクを流動させる場合に、排出チューブ32を押しつぶしながら回転するように駆動されるチューブポンプ34が設けられている。従って、廃インクは、チューブポンプ34の駆動による吸引によって、図2において廃インク滴E1で示したように液体噴射ヘッド19から排出されたのち、図2において廃インク滴E2で示したように吸収材26を通過し、さらに図2において廃インク滴E3で示したように分離手段40を構成する貯留容器43の内部に流れ出るようになっている。
【0027】
次に、分離手段40の構成について図2および図3を参照して説明する。分離手段40は、この貯留容器43と、導電性部材(例えば金属板)で形成された移動部材42と、この移動部材42の上面側及び下面側に対をなすように配設された一対のスクレイパー46,47と、を有している。
【0028】
貯留容器43は、排出チューブ32の他端側から流れ出た廃インク(廃インク滴E3)が、その内部に溜まるようになっている。従って、貯留容器43の内部は、廃インクが溜る廃液貯留部として機能する。そして、この廃液貯留部となる貯留容器43の内部には、平板状をなす金属製の電極部材41が、その下面を貯留容器43の底部内面に密着させるようにして固定されている。この電極部材41は、上方から見た平面視での輪郭形状が貯留容器43の開口部の輪郭形状と略同一の矩形状に形成されている図3参照。そして、この電極部材41には、プリンター11に備えられた電圧供給部44から所定の電圧が供給されるようになっている。
【0029】
移動部材42は、所定の厚さを有する円板形状(図3参照)を有し、モーター(駆動手段)45の回転軸45aに固定されている。従ってモーター45の回転によって回転(ここでは上方から見て時計方向に回転)するようになっている。この移動部材42は導電性の材料で形成されるとともに、図示しない接続端子(例えばブラシなど)を介して接地(アース)電圧に接続されている。
【0030】
また、移動部材42は、回転軸45aの軸方向が上下方向に対して斜めになっており、移動部材42の前方側の部分が先下りになり、後方側の部分が先上りになるように配置されている。すなわち、移動部材42は、図3において二点鎖線で示した円の外側の環状領域部42aにおいて先下りになる前方側の部分が、貯留容器43の内部に溜まった廃インク中に浸漬するように、その回転軸45aの軸方向が上下方向に対して斜めに配置されている。そのため、移動部材42の回転に伴い、その環状領域部42aにおける周方向の一部は、貯留容器43内の廃インク中に浸漬される浸漬位置S1(図3における斜線部参照)と、廃インク中には浸漬されない非浸漬位置S2との間を順次に連続して通過するように移動することになる。その結果、移動部材42の環状領域部42aのうち浸漬位置S1を通過して非浸漬位置S2に移動した領域部分が、移動部材42の円板面の表裏両面に形成される。
【0031】
一方、移動部材42の環状領域部42aにおいて、先上がりになる後方側の部分の一部分には、その一部分の表裏両面に対してそれぞれ接触もしくは微小の隙間を隔てて位置するように表裏一対のスクレイパー46,47が配設されている。スクレイパー46,47は、図3に示すように、長手方向を有する略直方体の形状を有する。そして、移動部材42における環状領域部42aの浸漬位置S1において廃インク中に浸漬された部分が回転して近づいてくる方向側に形成された側壁面46a(47a)が、回転軸45aを通る直線に対して鋭角を形成するように、回転方向(ここでは時計方向CW)に角度α傾いて配置されている。なお、本実施形態では、スクレイパー46,47は、移動部材42の円板面に対して垂直方向から見たとき、少なくとも側壁面46aの位置と側壁面47aの位置とがほぼ重なるように対をなす態様に配設されている。
【0032】
また、この側壁面46a(47a)の長手方向の領域のうち、回転する移動部材42の環状領域部42aの表裏各面に対して垂直方向から見たとき平面的に重なる係合範囲HSにおいて、その重力方向側となる下側領域には廃液貯留部となる貯留容器43が位置しないようになっている。そして、この下側領域には、上方から見たとき係合範囲HSを内包する領域範囲を有する開口部が上方に形成された収容箱48が配設されている。
【0033】
さて、貯留容器43には、内部に貯留した廃インクの液面の位置が貯留容器43の内底面から所定の高さ以上に高くなったとき、図2において廃インク滴E4で示したように、この高くなった部分の廃インクが貯留容器43から流れ出るようになっている。すなわち、貯留容器43の前方上側には、貯留容器43内から廃インクを排出するための廃液流出口43bが左右方向に貫通して形成された廃液流出部43aが設けられている。
【0034】
この廃液流出部43aには、可撓性を有する廃液チューブ49の一端側が接続されると共に、この廃液チューブ49の他端側は、上方が開口された有底四角箱状の廃液容器33の開口部上方に位置するように配設される。廃液容器33内には、該廃液容器33内に排出されたインクを吸収して保持する廃インク吸収材35が、廃液チューブ49の他端側と接するように収容されている。従って、貯留容器43から流れ出た廃インクは、廃液チューブ49内を通過したのち、図2において廃インク滴E5で示したように、液体吸収部材としての廃インク吸収材35に吸収されるようになっている。
【0035】
次に、このように構成された廃液回収装置23の作用、すなわち廃液回収装置23における分離手段40の作用について、図2および図3を参照して説明する。
さて、図2及び図3に示すように、分離手段40は、分離部40Aと除去部40Bとを有し、排出チューブ32から流出した廃インク(廃インク滴E3)が貯留容器43の内部(廃液貯留部)に溜まった状態において、廃インクの溶媒中に分散した微粒子(例えばインク顔料)KRを、連続して分離および除去することが行われる。
【0036】
すなわち、モーター45が連続回転することによって、移動部材42が同様に連続回転し、その環状領域部42aにおける周方向の一部が貯留容器43内の廃インク中に浸漬される浸漬位置S1と廃インクには浸漬されない非浸漬位置S2との間を順次に連続して通過する。このとき、電極部材41には電圧供給部44から所定の電圧が供給されるとともに、移動部材42には、回転中において常にアース電圧が接続される。
【0037】
すると、電極部材41と移動部材42との間に電圧が印加されるので、浸漬位置S1において貯留容器43内に溜まった廃インクに含まれる微粒子KRには、この印加される電圧に応じて発生する電界が作用する。そのため、正極性を帯びた微粒子KRは、浸漬位置S1で廃インク中に環状領域部42aを浸漬させた状態にある負極の移動部材42に向けて廃インクの溶媒中を泳動することにより、この移動部材42に静電吸着されて移動部材42の円板面(両面)上に付着する。
【0038】
このような付着が継続して行われることによって、微粒子KRは廃インクから連続して分離され、移動部材42における環状領域部42aの表裏両面に堆積する。従って、分離手段40におけるこれらの電極部材41、環状領域部42aを有する移動部材42、貯留容器43、及び電圧供給部44からなる構成は、廃インクから微粒子KRを分離する分離部40Aとして機能する。
【0039】
その後、廃インクから分離され移動部材42の環状領域部42a上に堆積した微粒子KRは、移動部材42の回転によって浸漬位置S1から非浸漬位置S2へ移動し、やがてスクレイパー46,47の側壁面46a,47aに到達する。
【0040】
このとき、移動部材42の環状領域部42a上に堆積した微粒子KRは、その環状領域部42aの表裏各面と接触もしくは微小の隙間を隔てて位置するように配設されたスクレイパー46,47と、その側壁面46a,47aの下端縁辺と上下方向において係合する。この結果、微粒子KRは、移動部材42の回転に伴って、その移動部材42の環状領域部42a上から削られるようにして継続的に除去される。従って、分離手段40におけるこれらの移動部材42の環状領域部42aに接触もしくは微小の隙間を隔てて位置するスクレイパー46,47の構成は、移動部材42から微粒子KRを除去する除去部40Bとして機能する。
【0041】
なお、移動部材42における環状領域部42aの表面となる上側の面から除去された微粒子KRは、前述するようにスクレイパー46が回転軸45aを通る直線に対して角度α傾いて配置されていることから、係合範囲HSにおいて側壁面46aに沿って内周側から外周側に移動し、最終的には移動部材42の外周縁から収容箱48内に落下する。また、移動部材42における環状領域部42aの裏面となる下側の面から除去された微粒子KRは、除去された直後にスクレイパー47の係合範囲HSの下側に位置する収容箱48内に落下する。あるいは、除去後落下せず下側の面に継続して付着する微粒子KRは、スクレイパー46と同様に回転軸45aを通る直線に対して角度α傾いて配置されているスクレイパー47の側壁面47aに沿って内周側から外周側に移動し、最終的には移動部材42の外周縁から収容箱48内に落下する。
【0042】
この結果、分離手段40において貯留容器43に貯留された廃インクは微粒子KRが除去され、図2において廃インク滴E4で示したように、貯留容器43から流れ出る廃インクには溶質成分となる微粒子KRが含まれない、もしくは殆ど含まれない溶媒液となる。そして、図2において廃インク滴E5で示したように、廃液容器33の廃インク吸収材35には、微粒子KRが除去されてほぼ溶媒液のみとなった廃インクが吸収される。
【0043】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)廃液容器33に回収される廃インクに含まれていた微粒子KRは、廃液容器33に回収される前に廃インク中から分離手段40によって除去されるので、廃液容器33内の廃インク吸収材35に微粒子KRによる目詰まりが生じることが抑制される。この結果、廃液回収装置23をメンテナンスすることなく長期間使用することができる。しかも、廃インク中からの微粒子KRの分離動作に連続して微粒子KRの除去が行なわれるので、微粒子KRは廃インク中から分離したまま除去されずに廃インクに接触した状況に放置されることがなく、その結果、そのように放置された微粒子KRが廃インク中に再び溶け込んでしまう虞を抑制できる。
【0044】
(2)廃インクに含まれる微粒子KRを、浸漬位置S1と非浸漬位置S2との間を環状領域部42aの周方向の一部が連続して通過するように移動する移動部材42によって、廃インクからの分離後に滞留することなく除去することができる。また、非浸漬位置S2において微粒子KRが除去される位置は、廃インクを貯留した貯留容器43が重力方向に位置しないので、除去された微粒子KRが重力によって落下しても再び廃インクの液内に戻ることがない。
【0045】
(3)移動部材42を円板形状とすることによって、分離手段40を上下方向において薄く形成することができるので、廃液回収装置23の小型化が可能である。また、移動部材42を傾けることによって、廃インクは円板面に沿って重力方向となる貯留容器43側へ移動する。従って廃インクは移動部材42に付着して貯留容器43外へ流れ出ることを抑制することができる。
【0046】
(4)廃インクに含まれる微粒子KRを電気泳動によって分離することができるので、例えば電圧の調節によって適切に微粒子KRを移動部材42に静電吸着によって付着させて、廃インク中から分離することができる。
【0047】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、分離手段40は、キャップ24に備えられていてもよい。本変形例について、図4を参照して説明する。なお、図4において、上記実施形態と同じ構成要素については同符号を付すとともに、これらについての説明を省略する。
【0048】
図4に示すように、本変形例では、キャップ24内に収容された吸収材26に対して、移動部材42における環状領域部42aの先下がりの前方側の部分が、接触もしくは微小の隙間を隔てて位置するように、円板形状をなす移動部材42の傾きに合わせた切り込み部26aが吸収材26に設けられている。そして、吸収材26の下側には、上記実施形態と同様に、平板状をなす金属製の電極部材41がその下面をキャップ24の底壁24aの内面に密着させるようにして固定されている。この電極部材41には電圧供給部44から所定の電圧が供給される。
【0049】
本変形例における電極部材41は、上方から見た平面視での輪郭形状がキャップ24の開口部24bの輪郭形状と略同一の矩形状に形成されている。また、この電極部材41の略中央部、すなわちキャップ24内に固定された場合にキャップ24の底壁24aに開口した排出口25と上下方向で対応する部位には、排出口25と同径で電極部材41の厚み方向に貫通する貫通孔41aが形成されている。
【0050】
次に、本変形例における分離手段40の作用を説明する。
本変形例の分離手段40では、キャップ24において分離部40Aが形成される。これによって、チューブポンプ34の吸引によってキャップ24から排出チューブ32へ流出した廃インク(図4において廃インク滴E2)は、微粒子KRがほぼ除去された溶媒液となる。
【0051】
具体的には、モーター45が連続回転することによって、移動部材42の環状領域部42aにおける周方向の一部が先下がりの前方側の部分となる度に吸収材26の切り込み部26aに進入する。すなわち、移動部材42の環状領域部42aは、浸漬位置S1において、吸収材26に吸収された廃インクに浸漬しながら継続して回転する。
【0052】
そして、このとき電極部材41には電圧供給部44から所定の電圧が供給されるとともに、移動部材42には回転中において常にアース電圧が接続される。すると、電極部材41と移動部材42との間に電圧が印加されるので、吸収材26に吸収された廃インクに含まれる微粒子KRには、この印加される電圧に応じて発生する電界が作用する。そのため、正極性を帯びた微粒子KRは、浸漬位置S1を環状領域部42aの一部が通過する負極の移動部材42に向けて吸収材26を移動(泳動)することにより、この移動部材42に静電吸着されて移動部材42の環状領域部42aの表裏両面上に付着する。
【0053】
この付着が継続して行われることによって、微粒子KRは吸収材26に吸収されている廃インクから連続して分離され、移動部材42の環状領域部42aの表裏両面に堆積する。従って、分離手段40におけるこれらの構成は廃インク中から微粒子KRを分離する分離部40Aとして機能する。
【0054】
その後、廃インク中から分離され移動部材42の環状領域部42a上に堆積した微粒子KRは、移動部材42の回転によって吸収材26の切り込み部26aから離脱して、分離部40Aと反対側すなわち移動部材42の後方側に位置する除去部40Bへ移動する。そして、上記実施形態と同様に、除去部40Bにおいてスクレイパー46,47によって移動部材42から削り取られるようにして除去される。
【0055】
従って、本変形例の分離手段40においてキャップ24の吸収材26に吸収された廃インクは微粒子KRが連続して除去され、キャップ24から流れ出る廃インク(廃インク滴E2)は、微粒子KRがほぼ除去された溶媒液となるのである。この結果、排出チューブ32の他端側から流れ出た廃インク(廃インク滴E3)も、微粒子KRがほぼ除去された溶媒液となることから、廃液容器33の廃インク吸収材35に吸収される廃インクは、微粒子KRを含まない、もしくは殆ど含まない溶媒液となる。
【0056】
上記説明した変形例によれば、上記実施形態の効果(1)〜(4)に加え、以下の効果を得ることができる。
(5)キャップ24と分離手段40とを一体化することができるので、廃液回収装置23を小型化することができる。
【0057】
・上記実施形態において、分離手段40は、微粒子KRの電気泳動を利用して移動部材42に微粒子KRを静電吸着して付着する方法に限らず、他の方法によって微粒子KRを付着させるようにしてもよい。例えば、貯留容器43内に上方から流入する廃インクにおいて溶質成分(インク顔料)が凝集するように、貯留容器43内に凝集剤(例えば、多価金属イオン)を添加して、凝集した微粒子KRを移動部材42に対して上方から付着させるようにしてもよい。
【0058】
なお、凝集剤を用いる場合は、微粒子は廃インク中を重力方向に降下するため、貯留容器43の形状を移動部材42の外形に沿う形状とすることが好ましい。すなわち、図5に示すように、貯留容器43は、移動部材42の円板形状の外周縁に対して接するか僅かに離間するように円弧状の壁面43hが前側に形成された略半円形の開口部を有する箱形状とする。こうすることによって、分離部40Aでは、浸漬位置S1において、凝集によって上方(紙面手前)から重力方向となる下方(紙面奥側)に降下落下する微粒子KRのほぼ全部を、移動部材42の環状領域部42aによって受け止めて付着させることができる。
【0059】
なお、このように凝集によって微粒子KRを分離する場合において、移動部材42の環状領域部42aの下側の面に微粒子KRが殆ど付着しない場合は、移動部材42の下側に配設されるスクレイパー47は不要である。
【0060】
・上記実施形態において、分離手段40を構成する移動部材42は、円板形状の部材を回転する構成に限らず、他の構成を採用することができる。例えば、導電性を有する無端状のベルトが、廃インクに対して浸漬状態と非浸漬状態とを連続して繰り返す構成であってもよい。本変形例について図6を参照して説明する。なお、図6において、上記実施形態と同じ構成要素については同符号を付すとともに、これらについての説明は省略する。
【0061】
図6に示すように、本変形例の移動部材51は前後方向においてほぼ隙間なく貯留容器43の内部に収まる幅を有する無端状のベルト形状を有するとともに、搬送ローラー52〜57に張架されている。搬送ローラー52〜57は、前後方向に軸心を有し両端が回転自在に軸支された回転軸に設けられるとともに、移動部材51の幅の両端部に1つずつ(すなわち一対)配設されている。そして、各搬送ローラー52〜57と移動部材51とが、例えば孔と歯車とによって構成されるスプロケット構造によって係合し、モーター45の回転によって搬送ローラー52が回転駆動されることによって、移動部材51は図中矢印で示したように、幅方向と交差する搬送方向に移動するようになっている。
【0062】
すなわち、本変形例では、移動部材51は、貯留容器43の内部に溜まった廃インクに浸漬したのち、この廃インクに浸漬したベルト部分が貯留容器43の下側を移動するようになっている。そして、貯留容器43の底部に設けられた電極部材41には電圧供給部44から所定の電圧が供給されるとともに、移動部材51には、移動中において常にアース電圧が接続される。従って、貯留容器43内において分離部40Aが形成される。すなわち、廃インクにおいて正極性を有した微粒子KRが静電吸着によって廃インク内を移動中の移動部材51に付着するように構成されている。一方、貯留容器43の下側において、除去部40Bが形成される。すなわち、移動部材51の移動によって微粒子KRが貯留容器43の下側に移動したとき、微粒子KRがスクレイパー46,47によって移動部材51から削り取られて収容箱48に除去されるように構成されている。
【0063】
従って、本変形例の移動部材51を分離手段40に採用しても、廃インクから連続して微粒子を分離して除去することができる。また、微粒子KRが除去される位置が貯留容器43の下側に位置しているので、除去された微粒子KRが落下して再び廃インクに混ざることはない。
【0064】
・上記実施形態および上記変形例において、移動部材42,51において微粒子KRが付着する面は複数の貫通孔が形成されたメッシュ形状の面になっていてもよいし、貫通孔を有さない平坦面になっていてもよい。
【0065】
・上記実施形態において、スクレイパー46,47の位置は、微粒子KRを効果的に除去できるように、それぞれ異なる位置であってもよい。なお、移動部材42の板厚が薄い金属板である場合は、円板部分において捻り応力の発生を抑制するように、上記実施形態のように円板面の両側において同じ位置に配設することが好ましい。
【0066】
・上記実施形態において、電極部材41にアース線を接続して接地するとともに、移動部材42に接続端子(例えばブラシなど)を介して電圧供給部44から電圧を供給するようにしてもよい。なお、この場合には、正極性の微粒子KRを移動部材42に静電吸着させるために、移動部材42には電圧供給部44から負電圧が印加されることが望ましい。
【0067】
・上記実施形態において、電圧供給部44は、廃インク中に含まれる微粒子KRが負極性を有する場合には、移動部材42が負極となり電極部材41が正極となるように電圧を印加することにより、微粒子KRを移動部材42に付着させるようにしてもよい。
【0068】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
11…液体噴射装置としてのプリンター、19…液体噴射ヘッド、23…廃液回収装置、33…廃液容器、35…液体吸収部材としての廃インク吸収材、40…分離手段、40A…分離部、40B…除去部、42,51…移動部材、45a…回転軸、KR…微粒子、S1…浸漬位置、S2…非浸漬位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を含む液体を噴射可能な液体噴射ヘッドから排出される前記液体の廃液を受容する液体受容部材と、
前記液体受容部材が受容した前記廃液から、当該廃液に含まれる前記微粒子を分離するとともに、分離した前記微粒子を分離動作に連続して前記廃液から除去する分離手段と、
前記分離手段によって前記微粒子が除去された前記廃液が吸収されて回収される液体吸収部材を有する廃液容器と、
を備えることを特徴とする廃液回収装置。
【請求項2】
請求項1に記載の廃液回収装置において、
前記分離手段は、
前記液体受容部材が受容した前記廃液を導入して貯留する廃液貯留部と、
前記廃液貯留部に貯留された前記廃液に浸漬される浸漬位置と前記廃液には浸漬されない非浸漬位置との間を少なくとも一部が連続して通過するように移動する移動部材と、
前記浸漬位置において前記廃液から分離して前記移動部材に付着した前記微粒子を前記非浸漬位置において前記移動部材から除去する除去部と、
を備えることを特徴とする廃液回収装置。
【請求項3】
請求項2に記載の廃液回収装置において、
前記移動部材は、前記廃液貯留部に対して鉛直方向から傾いた方向を回転軸として回転する円板形状を有していることを特徴とする廃液回収装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の廃液回収装置において、
前記分離手段は、前記移動部材を一方の電極とし、この一方の電極と前記廃液貯留部に貯留された前記廃液に浸漬した他方の電極との間に電圧を印加することによって、前記廃液中から前記微粒子を分離して前記移動部材に付着させることを特徴とする廃液回収装置。
【請求項5】
請求項3に記載の廃液回収装置において、
前記分離手段は、前記液体受容部材に備えられていることを特徴とする廃液回収装置。
【請求項6】
媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の廃液回収装置と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−143968(P2012−143968A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4061(P2011−4061)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】