説明

廃石膏ボードを用いた窒素酸化物除去用触媒の製造方法

【課題】廃石膏ボードのリサイクルにより、安価な窒素酸化物除去用触媒を製造する方法を提供する。
【解決手段】廃石膏ボードを粉砕後、必要により、廃石膏と紙とを篩い分けし、さらに、好ましくは300〜600℃の温度範囲で焼成して外壁紙と接着剤とを焼成除去した後、これに水と脱硝触媒成分とを、混合比が、重量比で1:100〜50:50で、混合することを特徴とする、廃石膏ボードを用いた窒素酸化物除去用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物である石膏ボード廃材(以下、廃石膏ボードと称する)のリサイクル処理方法に関し、より詳しくは、廃石膏ボードを用いて窒素酸化物除去用触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードは建築資材として広く普及しており、その生産量は現在、年間およそ400万トンにも達している。その一方、建築物の解体時などにおいて発生する廃石膏ボードも増加しており、その排出量は2010年までに100万t/年に達すると予測されている。このような廃石膏ボードは、主に埋め立て処理されてきたが、近年の埋め立て規制の強化により、安価な埋め立て処理は困難となっている。これに対し、廃石膏ボードを埋め立て処理せず、再利用する技術が数多く提案されている。例えば、廃石膏ボードを再び石膏ボード原料として用いる方法(特許文献1)や、セメント原料としてリサイクル処理する方法(特許文献2)があり、その他、地盤改良材等にも利用されている。
【0003】
一方、発電所、各種工場、自動車などから排出される排煙中のNOxは、光化学スモッグや酸性雨の原因物質であり、その効果的な除去方法として、アンモニア(NH)を還元剤とした選択的接触還元による排煙脱硝法が火力発電所を中心に幅広く用いられている。このNHによる還元に有効な触媒成分としては、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)など多数の遷移金属が知られており、現在主流なのは、Mo、W、Vを活性成分にした酸化チタン(TiO)系触媒である(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-269299号公報
【特許文献2】特開2002-87816号公報
【特許文献3】特開昭50-128681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石膏ボードを原料として再利用する方法では、以下の課題が残されている。すなわち、廃石膏ボードをセメント原料としてリサイクル処理する方法では、廃石膏ボードを1150℃以上で焼成処理して回収される無水石膏は結晶粒子が粗大化しているため、再石膏化がしにくいなどの点から、セメント原料としての利用は十分進んでいない。したがって、廃石膏ボードをセメント原料以外の用途で再資源化し、有効利用できるための廃石膏ボードのリサイクル処理方法が望まれている。
【0006】
また、脱硝触媒については、脱硝触媒の活性成分であるMo、W、Vはそのほとんどが埋蔵量の少ない希少金属であるが、これら希少金属の主用途は鉄鋼原料用であり、近年、世界的に需要が急増し価格高騰が続いている。また、資源保護、資源の有効利用の観点から、これら希少金属の使用量の低減が求められている。
【0007】
本発明の課題は、廃石膏ボードのリサイクルにより、安価な窒素酸化物除去用触媒を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)廃石膏ボードを粉砕後、これに水と脱硝触媒成分とを混合することを特徴とする、廃石膏ボードを用いた窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
(2)廃石膏ボードを粉砕後、廃石膏と紙とを篩い分けし、さらに焼成して外壁紙と接着剤とを除去した後、これに水と脱硝触媒成分とを混合することを特徴とする、廃石膏ボードを用いた窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
(3)該廃石膏ボード由来の石膏と脱硝触媒成分との混合比が、重量比で1:100〜50:50であることを特徴とする(1)または(2)に記載の方法。
(4)焼成温度が300〜600℃の範囲である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0009】
本発明者らは、廃石膏ボードの有効利用法について鋭意検討した結果、廃石膏ボードは、脱硝触媒成分と混合することで脱硝触媒として再利用することができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
廃石膏ボードの主成分は二水石膏(CaSO4・2HO)であるが、二水石膏は、脱硝触媒成分と共に混合すると、脱硝触媒ペーストの保水性が高まる。このように二水石膏を添加した脱硝触媒ペーストは、焼成後に脱水されて無水石膏となるが、脱水により触媒が多孔質化され、脱硝性能の向上を図ることができる。
【0011】
また、廃石膏ボードには、外装紙や接着剤が付着しているが、これらの成分であるパルプや有機物は混練助剤として作用するため、これらが混入することでペーストの混練性が改善されるという利点もある。しかし、これらの成分が多すぎると焼成時に触媒を焼損させることもあるため、予め廃石膏ボードを破砕して篩にかけた後、予め焼成などにより取り除いておいてもよい。廃石膏ボードは、230℃以上1150℃以下で焼成すると、II型の無水石膏になるが、II型の無水石膏は水と混合することにより再び二水石膏に戻すことができる。
【0012】
また、石膏微粉末は、酸化チタンと水と共にニーダで混合することにより酸化チタン粒子の隙間に石膏微粒子が入り込む。これにより、酸化チタン粒子同士の接触を防止するため、熱による酸化チタン粒子の結晶成長を抑制する効果が期待できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来、主に埋め立て処理されていた廃石膏ボードを有効利用して安価で実用的な脱硝脱硝を製造することができ、資源の有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、 廃石膏ボードを予め粉砕して得られる破砕物と脱硝触媒成分とを水とともに混合することにより脱硝触媒を得るものであるが、ここでいう「廃石膏ボード」とは、住宅やビルの解体廃材や、石膏ボード工場・加工場・流通倉庫や新築現場で発生する新築廃材を意味する。このうち、解体廃材では下地材、断熱材、金物、仕上げ材等を予め取り除いた後用いることが好ましい。解体廃材に比べ新築系廃材は異物の混入が少ないため用いやすい。これら廃石膏ボードは、破砕後そのまま用いることもできるが、石膏ボード表面に付着した外装紙及び接着剤を焼成して灰化して取り除いた後用いてもよい。その場合、230℃〜1150℃の範囲で焼成してII型の無水石膏にすると好結果が得られる。
【0015】
脱硝触媒成分は、通常脱硝触媒に用いている触媒成分であればどのようなものでもよいが、チタン、モリブデン、タングステン、バナジウムから選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる組成物が好適である。チタン原料には、酸化チタンの他、含水酸化チタンや酸化チタンのゾル状物など乾燥や焼成により酸化チタンを形成するものであれば、いずれも使用が可能である。モリブデン、タングステン、バナジウム原料には、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸バナジルなどのオキソ酸塩などを用いることが可能である。
【0016】
これら原料を水と共に混練して得たペースト状物を担体に担持するか、もしくは予め脱硝触媒成分の原料のみを水と共に混練後、乾燥、場合によって焼成して得られる破砕物を、廃石膏原料と水と共に混練してペースト状物を得、これを担体に担持する方法を用いてもよい。また、廃石膏原料は、予め水和して二水石膏としたあと脱硝触媒成分と混合してもよいし、無水石膏のまま用い、触媒成分との混合時に水和させてもよい。
【0017】
廃石膏ボード由来の石膏と脱硝触媒成分との混合比は、重量比で1:100〜50:50の範囲内が好ましい。石膏の添加量がこれより少なすぎると、廃石膏ボードの再利用率が低下するため好ましくない。石膏の添加量がこれより多すぎると、脱硝性能の低下を引き起こすため好ましくない。
【0018】
本発明による担体への担持方法としては、通常脱硝触媒を製造する時に採用される担持方法を取ることができる。例えば、板状触媒を得るには、廃石膏原料と脱硝触媒成分と水とを混練して得られるペーストに無機製短繊維を混合した、水分が30%前後の触媒ペーストを、ローラを用いて金属あるいはセラミック製の網状物の目を埋めるように塗布する方法を採ることができる。更に、水分が30-35%の触媒ペーストに無機性短繊維を添加したものを金型で押出してハニカム状に成形する方法も可能である。また、担体として無機繊維製コルゲートハニカムやセラミック製不織布、セラミックハニカム担体などを用いる場合には、第一成分、第二成分と水とを混合して得られる30〜50wt%のスラリに浸漬して繊維間隙あるいは表面に触媒スラリをコーティングする方法が適する。
【0019】
上記した触媒ペースト、触媒スラリ、及び含浸溶液に、コロイダル状のシリカ、増粘効果のある水溶性のセルロースエーテルやポリビニールアルコールなど結合性や強度を高めるための添加剤を添加することも、本発明の範囲内である。
【0020】
以上の各方法により各種基材に担持されたものは、必要に応じて切断、成形、変形などの処理を経た後、風乾や熱風乾燥など公知の手段で乾燥され、しかる後に350〜600℃で焼成して触媒として用いられる。
本発明の触媒を実現するための実施例として、板状触媒を得る例を示す。
【実施例1】
【0021】
廃石膏ボード1.0kgを破砕後、酸化チタン(石原産業社製、商品名MCH)3.36kg、モリブデン酸アンモニウム(NH4)6Mo7O24・4HO)0.42kg、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO)0.39kgと、シリカゾル(日産化学社製、商品名OSゾル)2.0kgを水と共にニーダで混練してペースト状物を得た後、これにシリカアルミナ系セラミック繊維(ITM社製)0.75kgを添加して混練し触媒ペーストを得た。得られたペーストを厚さ0.2mmのSUS430製鋼板をメタルラス加工した基材の上に置き、これを二枚のポリエチレンシートに挟んで一対の加圧ローラを通して、メタルラス基材の網目間及び表面に塗布した。これを風乾後、500℃で2時間焼成して板状触媒を得た。このときの、脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、石膏とTi-Mo-V成分酸化物の重量比は20/80、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
【実施例2】
【0022】
実施例1の石膏を4kgに、シリカゾルを3.2kgに、シリカアルミナ系セラミック繊維を1.2kgに変えた以外は実施例1と同様にして板状触媒を得た。このときの脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、石膏とTi-Mo-V成分酸化物の重量比は50/50、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
【実施例3】
【0023】
実施例1の石膏を0.04kgに、シリカゾルを1.6kgに、シリカアルミナ系セラミック繊維を0.61kgに変えた以外は実施例1と同様にして板状触媒を得た。このときの脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、石膏/ Ti-Mo-V成分重量比は1/99、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
【実施例4】
【0024】
廃石膏ボード10kgを破砕後、500℃で5時間焼成し、石膏ボードに付着した紙や接着剤を灰化し除去した。焼成後の石膏1kgを使用する以外は実施例1と同様にして板状触媒を得た。このときの、脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、石膏とTi-Mo-V成分酸化物の重量比は20/80、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
【実施例5】
【0025】
酸化チタン(石原産業社製、商品名MCH)10kg、モリブデン酸アンモニウム1.25kg、メタバナジン酸アンモニウム1.16kgを水と共にニーダで混練してペースト状物を得た後、2mmφに押し出した後乾燥し、450℃で焼成したあとハンマーミルによって150μm以下に粉砕し脱硝触媒粉末を得た。得られた脱硝触媒粉末4kgと、粉砕した廃石膏ボード1kg、シリカゾル2.0kgと水とを、共にニーダで混練してペースト状物を得た後、これにシリカアルミナ系セラミック繊維(ITM社製)0.75kgを添加して混練し触媒ペーストを得た。得られたペーストを厚さ0.2mmのSUS430製鋼板をメタルラス加工した基材の上に置き、これを二枚のポリエチレンシートに挟んで一対の加圧ローラを通して、メタルラス基材の網目間及び表面に塗布した。これを風乾後、500℃で2時間焼成して板状触媒を得た。このときの、脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、石膏とTi-Mo-V成分酸化物の重量比は20/80、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
【0026】
[比較例1]
実施例5において、石膏を添加しない以外は実施例5と同様にして板状触媒を得た。このときの、脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
[比較例2]
実施例5において、石膏を4kg、脱硝触媒粉末を1kgに変えた以外は実施例5と同様にして板状触媒を得た。このときの、脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、石膏とTi-Mo-V成分酸化物の重量比は80/20、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
[比較例3]
廃石膏ボード10kgを破砕後、1200℃で5時間焼成する以外は、実施例1と同様にして板状触媒を得た。この場合、触媒ペースト水分は25%のものしか得られなかった。このときの、脱硝触媒成分のTi/Mo/V比は原子比で88/5/7であり、石膏とTi-Mo-V成分酸化物の重量比は20/80、メタルラスを除いた全担持重量は1kg/mであった。
【0027】
実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた脱硝触媒を表2に示す条件で脱硝率を測定した結果を表1に、実施例1及び比較例2の触媒の細孔容積を水銀圧入法で測定した結果を表3に示す。表1より、本発明による実施例1〜5の脱硝触媒の性能は高く、石膏を添加していない比較例1の触媒と同等の性能を有することが分かる。なお、本発明の範囲外である比較例2の触媒は、脱硝率の低下が大きいことが分かる。また、表3より、廃石膏ボードを1200℃以上で焼成した石膏を用いる比較例3の触媒では、細孔容積が小さい触媒となることが分かる。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃石膏ボードを粉砕後、これに水と脱硝触媒成分とを混合することを特徴とする、廃石膏ボードを用いた窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項2】
廃石膏ボードを粉砕後、廃石膏と紙とを篩い分けし、さらに焼成して外壁紙と接着剤とを除去した後、これに水と脱硝触媒成分とを混合することを特徴とする、廃石膏ボードを用いた窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項3】
該廃石膏ボード由来の石膏と脱硝触媒成分との混合比が、重量比で1:100〜50:50であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
焼成温度が300〜600℃の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−194452(P2010−194452A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41782(P2009−41782)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】