説明

延伸シートの製造方法および異方性光学シートの製造方法

【課題】延伸時のボーイングの発生を抑制して、延伸前後におけるシート表面の立体構造の形状の崩れを防止できる延伸シートの製造方法を提供する。
【解決手段】延伸ユニット24の入口側に設置された第1ロール31と、延伸炉の出口側に設置された第2ロール32との間で、所定幅に裁断された樹脂シート21をその長さ方向に一軸延伸する工程を有する延伸シートの製造方法であって、上記延伸炉の内部では、樹脂シート21を延伸温度に予熱する第1工程と、予熱した樹脂シート21を延伸温度にて延伸する第2工程と、延伸した樹脂シート21Pを冷却する第3工程がこれらの順に連続して行われ、上記第2工程における樹脂シート21の延伸倍率をP、樹脂シート21のシート幅をW、上記第2工程を実施する延伸炉の炉長をLとしたときに、L≧W×Pの関係を満足させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの長さ方向に延伸する工程を有する延伸シートの製造方法に関し、更に詳しくは、延伸方向と平行な稜線方向を有する立体構造が表面に形成された樹脂シートを延伸して光学異方性を付与する延伸シートの製造方法および異方性光学シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高分子シート又はフィルムからなる基材の延伸には、基材走行方向であるMD(Machine Direction)方向にのみ延伸するロール延伸と、基材幅方向であるTD(Transverse Direction)方向にのみ延伸するテンターが用いられている。基材に求められる特性が一軸延伸で得られる場合はどちらか一方を、二軸延伸が必要な場合は両者を直列に組み合わせ、逐次二軸延伸として延伸シート又はフィルムの製造が行われている(例えば下記特許文献1,2参照)。
【0003】
また、基材種によっては、MD及びTDを同時に延伸する必要があるものもあり、その場合には同時二軸延伸が用いられている。しかし、この同時二軸延伸は延伸条件設定の難易度が高いため、現状は特定の基材にのみ用いられている。
【0004】
ロール延伸の一例を図6に示す。この方式は、一定温度に加熱された予熱ロール(2A,2B,2C,2D)により加熱された樹脂シート1を、延伸ロール(3E,3F,3F,3H)に速度差をつけて、各ロール間で延伸を行う。それ以降は、必要に応じて熱固定ロール(4I,4J)、冷却ロール(5K,5L)等が付加される。また近年では、光学フィルム用途として、図7に示すように、延伸ロール3Gを取り外し、延伸ロール3F−3H間でIRヒータ6により加熱し延伸する方式も用いられている。
【0005】
このロール延伸は、樹脂シートの温度が下がらぬように極めて小さいロール間ギャップの範囲で延伸を行うため、ロール上で樹脂シートの滑りが発生しスクラッチが入り易い。また、ロールと樹脂シートの摩擦が発生するため、幅方向(反延伸方向)を拘束する力となる。このため、例えばプリズム形状等の立体構造が表面に形成された樹脂シートを延伸した場合、当該立体構造の形状を維持することができない。また、図8に示すように、TD方向(幅方向)にボーイングと呼ばれる弓状の曲がり7が発生し、この改善が問題となる。
【0006】
次に、TD方向に一軸延伸を行うテンター装置の概略を図9に示す。この方式は、走行する樹脂シート1の幅方向の両端をクリップ8A,8Bでクランプして延伸を行う。クリップ8A,8Bはそれぞれ、樹脂シート1の両端に対向して設置されたレール9A,9Bに沿って走行可能であるとともに、樹脂シート1の長さ方向に沿って所定ピッチでそれぞれ複数設置されている。テンターは、延伸前の樹脂シートを幅方向に伸ばすため大型の製品を製作するには有効な手段である。なお、例えば特許文献3には、プリズムシートをテンターによって延伸し、シート面内に屈折率の異方性を付与するプリズムシートの製造方法が開示されている。
【0007】
しかし、上述のテンターを用いた延伸では、クリップ8A,8Bによる樹脂シートの長さ方向の拘束が、樹脂シートの反延伸方向である長さ方向の収縮を妨げるように作用するため、延伸したシートには図示するようにボーイング10が大きくなる。
【0008】
一方、一部の基材に用いられている同時二軸延伸の概要を図10に示す。この方式は、前述したテンターと同様に基材幅方向の両端をクリップでクランプし、TD方向及びMD方向に同時に延伸する。基本的に、MDの延伸倍率を1.0倍にするとTD一軸と同様の動作となる。
【0009】
しかし、TDテンターのクリップがほぼ隙間なく密着しているのに対し、同時二軸はMD方向の収縮を考慮し間隔が大きいため、延伸時にネックインと呼ばれるクビレ11が発生する。このネックインが発生することによりシートの完成寸法が小さくなることが、この方式の大きな課題である。
【0010】
【特許文献1】特開平7−108598号公報
【特許文献2】特開2000−263642号公報
【特許文献3】WO2006/071621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上で述べた延伸方式は、いずれの方式もボーイングと呼ばれる弓状の曲がりが発生する。このため、表面にプリズム形状を有する樹脂シートを延伸する場合、延伸されたシート面内で一定の形状を維持することは困難である。
【0012】
図11に示すとおり、代表的なプリズムシート12は、一定の底角θを有する直線的な斜面13a,13bによりプリズム13が構成されている。そのため、プリズム13の頂点部分に複屈折を発現させるには、図中D1で示すプリズム13の稜線方向に延伸する必要があり、反対に、図中D2で示すプリズム13の配列方向に延伸しても頂点部は伸びず、図12に模式的に示すようにプリズム形状が変形してしまう。
【0013】
また、プリズム稜線方向(D1)の延伸でも、一方向に延伸したことによる反延伸方向(D2)の収縮を妨げる方向に力が働いた場合、同様にプリズム形状の変形が発生する。例えば、ロール延伸時にロールと基材の間の摩擦により発生する力が、基材の反延伸方向の収縮を妨げるように作用する。また、テンターを用いた延伸では、クリップによる基材の長さ方向の拘束が、基材の反延伸方向の収縮を妨げるように作用する。
【0014】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、延伸時のボーイングの発生を抑制して、延伸前後におけるシート表面の立体構造の形状の崩れを防止できる延伸シートの製造方法および異方性光学シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の延伸シートの製造方法は、延伸炉の入口側に設置された第1ロールと、延伸炉の出口側に設置された第2ロールとの間で、所定幅に裁断された樹脂シートをその長さ方向に一軸延伸する工程を有する延伸シートの製造方法であって、上記延伸炉の内部では、樹脂シートを延伸温度に予熱する第1工程と、予熱した樹脂シートを延伸温度にて延伸する第2工程と、延伸した樹脂シートを冷却する第3工程がこれらの順に連続して行われ、樹脂シートの延伸倍率をP、樹脂シートのシート幅をW、上記第2工程を実施する延伸炉の炉長をLとしたときに、L≧W×Pの関係を満たすことを特徴とする。
【0016】
本発明の延伸シートの製造方法においては、延伸炉内部において樹脂シートの延伸処理を実施する部位の炉長を、樹脂シートのシート幅(W)と延伸倍率(P)の積以上の長さに設定することで、当該樹脂シートの反延伸方向である幅方向への収縮が阻害されないようにしている。これにより、樹脂シートのボーイングの発生を効果的に抑えることが可能となる。
【0017】
また、本発明の延伸シートの製造方法は、延伸炉の入口側に設置された第1ロールと、延伸炉の出口側に設置された第2ロールとの間で、所定幅に裁断された樹脂シートをその長さ方向に一軸延伸する工程を有する延伸シートの製造方法であって、樹脂シートは、少なくとも一方の面に、長さ方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、上記延伸炉の内部では、樹脂シートを延伸温度に予熱する第1工程と、予熱した樹脂シートを延伸温度にて延伸する第2工程と、延伸した樹脂シートを冷却する第3工程がこれらの順に連続して行われ、樹脂シートの延伸倍率をP、樹脂シートのシート幅をW、上記第2工程を実施する延伸炉の炉長をLとしたときに、L≧W×Pの関係を満たすことを特徴とする。
【0018】
本発明の延伸シートの製造方法においては、延伸炉内部において樹脂シートの延伸処理を実施する部位の炉長を、樹脂シートのシート幅(W)と延伸倍率(P)の積以上の長さに設定することで、当該樹脂シートの反延伸方向である幅方向への収縮が阻害されないようにしている。これにより、樹脂シートのボーイングの発生を効果的に抑えることができるとともに、シート表面の立体構造の形状の崩れを防止できる。
【0019】
シート表面に形成される立体構造としては、プリズム体やレンチキュラーレンズ体など、偏向性あるいは集光性を有する立体構造が挙げられる。この立体構造は、シートの一方の面だけに限られず、シート両面に形成されていてもよい。これにより、プリズムシートやレンチキュラーレンズシート等の延伸シートからなる光学シートを高精度に製造することができる。
【0020】
そして、本発明の異方性光学シートの製造方法は、延伸炉の入口側に設置された第1ロールと、延伸炉の出口側に設置された第2ロールとの間で、所定幅に裁断された樹脂シートをその長さ方向に一軸延伸することで、樹脂シートの幅方向と長さ方向に関して屈折率の異方性をもたせる異方性光学シートの製造方法であって、樹脂シートは、少なくとも一方の面に、長さ方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、延伸炉の内部では、樹脂シートを延伸温度に予熱する第1工程と、予熱した樹脂シートを延伸温度にて延伸する第2工程と、延伸した樹脂シートを冷却する第3工程がこれらの順に連続して行われ、樹脂シートの延伸倍率をP、樹脂シートのシート幅をW、上記第2工程を実施する延伸炉の炉長をLとしたときに、L≧W×Pの関係を満たすことを特徴とする。
【0021】
本発明の異方性光学シートの製造方法においては、延伸炉内部において樹脂シートの延伸処理を実施する部位の炉長を、樹脂シートのシート幅(W)と延伸倍率(P)の積以上の長さに設定することで、当該樹脂シートの反延伸方向である幅方向への収縮が阻害されないようにしている。これにより、樹脂シートのボーイングの発生を効果的に抑えることができるとともに、シート表面の立体構造の形状の崩れを防止でき、更に面内の光学的異方性(複屈折)の均一化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、延伸時におけるボーイングの発生を抑制することができ、形状精度に優れた延伸シートを製造することができる。また、シート表面に形成された立体構造の形状を崩すことなく安定した延伸処理が可能となる。更に、延伸処理によって面内屈折率の異方性を付与するに際して、シート面内における光学的異方性の均一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1および図2は本発明の実施形態において使用されるロール延伸装置20の概略構成を示す側面図および要部平面図である。図示するロール延伸装置20は、所定幅に裁断された樹脂シート又はフィルム(以下「樹脂シート」と総称する。)21をその長さ方向(X軸方向)に走行させながら、この長さ方向(X軸方向)に延伸するための装置である。
【0025】
ロール延伸装置20は、延伸ユニット24と、延伸ユニット24の入口側に設置された巻出しユニット27と、延伸ユニット24の出口側に設置された巻取りユニット29とを備えている。巻出しユニット27は、樹脂シート21をロール状態から巻き出す巻出しロール26と、樹脂シート21を挟持して延伸ユニット24へ供給する第1ロール31及びそのバックアップロール31aを備えている。また、巻取りユニット29は、延伸した樹脂シート21Pを巻き取る巻取りロール28と、樹脂シート21を挟持して巻取りロール28へ案内する第2ロール32及びそのバックアップロール32aを備えている。
【0026】
樹脂シート21は、第1ロール31と第2ロール32とによってその長さ方向(X軸方向)の両端が支持された状態で走行し、延伸ユニット24の内部においてその長さ方向に延伸される。樹脂シート21の延伸は、第1ロール31の回転速度よりも第2ロール32の回転速度を速くすることによって行われ、延伸倍率はこれら第1,第2ロール31,32の回転速度差で決定される。
【0027】
延伸ユニット24は、入口側から順に、予熱部24A、延伸部24B及び冷却部24Cが設置された延伸炉で構成されている。予熱部24Aは、延伸ユニット24へ供給された樹脂シート21を所定の延伸温度に予熱する(第1工程)。延伸温度としては、樹脂シート21のガラス転移点をTg[℃]としたとき、例えば、Tg+10℃以上、Tg+30℃以下の温度とされる。延伸部24Bは、延伸温度に加熱された樹脂シート21をその長さ方向に延伸する(第2工程)。冷却部24Cは、延伸した樹脂シート21PをTg以下の所定温度にまで冷却する(第3工程)。樹脂シート21は、これら予熱部24A、延伸部24B及び冷却部24Bを連続的に供給される。なお必要に応じて、延伸部24Bと冷却部24Cとの間に熱固定部が設置される。
【0028】
本実施形態では、樹脂シート21の延伸倍率をP、樹脂シート21の幅をWとしたときに、延伸部24Bの炉長(L)が、L≧W×Pの関係を満たすように設定されている。これにより、後述するように、樹脂シート21の延伸時におけるその幅方向のボーイングの発生を抑制するようにしている。
【0029】
樹脂シート21は、透光性の高分子シート又はフィルムからなる。特に、樹脂シート21は、結晶性又は半結晶性高分子の樹脂材料からなり、例えば結晶化度が10%以下のアモルファス状態の高分子シート又はフィルムが用いられている。
【0030】
図3Aは、樹脂シート21の表面形態を示す概略斜視図である。樹脂シート21の表面には、樹脂シート21の長さ方向(X軸方向)に稜線方向を有する立体構造21aが、樹脂シート21の走行方向(X軸方向)に多数配列されている。立体構造21aは、樹脂シート21の長さ方向から見たときの形状が例えば頂角90度の二等辺三角形からなるプリズム形状を有する。そして、樹脂シート21は、ロール延伸装置20によって長さ方向(プリズム稜線方向)に所定の延伸倍率で延伸されることで、図3Bに示すように立体構造21aが形状的に相似縮小されるとともに、立体構造21aの配列ピッチが微細化される。なお、立体構造21aは上述のプリズム体に限られず、シリンドリカルレンズ等のレンチキュラーレンズ体であってもよい。
【0031】
一般的に、高分子シートをその長さ方向(MD方向)に延伸する場合、図4に示すような挙動を示す。ここで、延伸前の高分子シートの幅をW、長さをL、厚さをTとし、長さ方向にP倍延伸するときに、反延伸方向(幅方向)を拘束しない場合には、延伸後の寸法Wa、La、Taは以下の通りとなる。
Wa=W・(1/√P)、La=L・P、Ta=T・(1/√P) …(1)
【0032】
(1)式に示したように、延伸後のシートの体積は、延伸前のそれと変化しない。また、図4はシートが所定サイズにカットされた枚葉の状態を示しているが、シートが連続的なウェブ状態でも同様の挙動を示す。この場合、シートの長さ方向の両端を支持するロールの挟持作用によって、延伸時における幅方向(反延伸方向)の自由な収縮が阻害されると、ボーイングと呼ばれる曲がりが発生し、シート表面に形成されている立体構造の形状精度の面内不均一化をもたらす。
【0033】
そこで本実施形態では、ロール延伸装置20における延伸ユニット24の延伸部24Bの炉長Lを上述のように、樹脂シート21のシート幅Wと延伸倍率Pとの積(W×P)以上の大きさとなるように設定している。これにより、図2に示したように、延伸部24Bにおいて樹脂シート21に作用する引っ張り応力S1がシート長さ方向に平行となり、第1ロール31(及び31a)と第2ロール32(及び32a)の挟持作用によって樹脂シート21の幅方向の収縮が阻害されないようにしている。
【0034】
具体的に、シート幅200mmのPEN(ポリエチレンナフタレート)製の樹脂シートをその長さ方向に4倍延伸するにあたり、延伸部24Bの炉長Lを800mmに設定して実際に延伸処理を施したところ、ボーイングの発生を抑制できたことが確認された。また、シート表面に形成したプリズム形状が延伸前後において相似関係が確保されていることも確認された。なお、ボーイング抑制の観点から、延伸部24Bの炉長Lは長いほど好ましい。
【0035】
したがって本実施形態によれば、樹脂シート21の延伸時において、反延伸方向である幅方向の拘束をなくし、シート長さ方向の延伸量に応じたシート幅方向の収縮を確保することが可能となる。これにより、ボーイングの発生が効果的に抑制されることになる。また、上述の延伸処理によって延伸プリズムシート21Pを作製されるので、延伸方向と反延伸方向とで屈折率が相違する光学的異方性を備えたプリズムシート(異方性光学シート)21Pを得ることができる。特に、プリズム稜線方向の延伸時にプリズム配列方向の適正な収縮動作を確保することができるので、屈折率異方性の面内均一化を図ることができる。
【0036】
ここで、樹脂シート21の構成材料としては、延伸方向に屈折率が大となる高分子材料と、延伸方向に屈折率が小となる高分子材料があるが、何れの材料も使用可能である。延伸方向に屈折率が大となる高分子材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)及びこれらの混合物又はPET−PENコポリマー等の共重合体、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリアミド等が挙げられる。一方、延伸方向に屈折率が小となる高分子材料としては、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン−メチルメタクリレート共重合体及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0037】
また、上述のようにして製造される延伸シート21Pの面内屈折率異方性(複屈折)の大きさは特に限定されないが、後述するように、液晶表示装置用のプリズムシートに当該延伸シート21Pが用いられる場合には、複屈折は大きい方が好ましい。具体的に、複屈折の大きさは、0.05以上、好ましくは1.0以上、更に好ましくは2.0以上である。
【0038】
本実施形態においては、樹脂シート21(21P)の構成材料として、PETやPENなどの延伸方向に屈折率が大となる樹脂材料が用いられている。上記延伸処理により、延伸シート21Pには、X軸方向(プリズム稜線方向)の面内屈折率(nx)の方が、Y軸方向(プリズム配列方向)の面内屈折率(ny)よりも大きい屈折率異方性(nx>ny)を有している。このような構成の延伸プリズムシート21Pは、プリズム21aの形成面を出射する光について、プリズム稜線方向の偏光成分の出射光量よりも、プリズム配列方向の偏光成分の出射光量の方が多いという光学特性を備える。
【0039】
図5は、上述した構成の延伸シート21Pをプリズムシートとして用いた液晶表示装置40の概略構成図である。この液晶表示装置40は、液晶表示パネル41と、この液晶表示パネル41を挟む第1偏光板42A及び第2偏光板42Bと、プリズムシート21Pと、拡散シート43と、バックライトユニット44とを備えている。
【0040】
プリズムシート21Pは、上述のロール延伸装置20によって製造された延伸シートを所定幅に裁断してなるもので、液晶表示装置40の正面輝度を向上させるための輝度向上フィルムとして用いられる。プリズムシート21Pは、バックライトユニット44からの照明光(バックライト光)を拡散出射する拡散シート43の光出射面側に配置され、プリズム21aの形成面が液晶表示パネル41側に向けられることで、拡散シート43からの出射光を正面方向に集光する機能を果たす。
【0041】
また、液晶表示パネル41を挟む一対の偏光板42A,42Bはそれぞれの透過軸a,bが互いに直交するように配置されている。図示の例では、プリズムシート21Pは、バックライトユニット44側に位置する第1偏光板42Aの透過軸aに対して、プリズムシート21Pのプリズム配列方向(Y軸方向)がほぼ平行となるように配置されている。
【0042】
この例では、プリズム稜線方向(X軸方向)に屈折率が大となる光学的異方性を有するプリズムシート21Pを用いる場合に特に効果的であり、出射光量の多い方の偏光成分を効率よく液晶表示パネル41へ入射させることができることから、正面輝度の向上を図れるようになる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0044】
例えば以上の実施形態では、表面に立体構造21aが形成された高分子シート又はフィルムからなる基材の延伸方法について説明したが、表面に立体構造が形成されない平坦な高分子シート又はフィルムからなる基材の延伸処理に対しても本発明は適用可能であり、このような基材を用いても延伸時におけるボーイングを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態において用いられるロール延伸装置の概略側面図である。
【図2】本発明の実施形態において用いられるロール延伸装置の概略平面図である。
【図3】本発明の実施形態において用いられる樹脂シートの構成を示す概略斜視図である。
【図4】延伸前後における基材(高分子シート)の幅、長さ、厚さの寸法変化を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態において作製された異方性光学シートをプリズムシートとして用いた液晶表示装置の概略構成図である。
【図6】従来のロール延伸装置の概略構成図である。
【図7】従来の他のロール延伸装置の要部の概略構成図である。
【図8】従来のロール延伸装置の問題点を説明する要部の概略平面図である。
【図9】従来のテンター装置の概略構成図である。
【図10】従来の他のテンター装置の概略構成図である。
【図11】プリズムシートの概略構成図である。
【図12】従来の延伸方法によって作製したプリズムシートのプリズム形状が崩れた様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0046】
20…ロール延伸装置、21…樹脂シート、21a…立体構造(プリズム)、21P…延伸シート、プリズムシート(異方性光学シート)、24…延伸ユニット、24A…予熱部、24B…延伸部、24C…冷却部、31…第1ロール、32…第2ロール、40…液晶表示装置、41…液晶表示パネル、42A,42B…偏光板、43…拡散シート、44…バックライトユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸炉の入口側に設置された第1ロールと、前記延伸炉の出口側に設置された第2ロールとの間で、所定幅に裁断された樹脂シートをその長さ方向に一軸延伸する工程を有する延伸シートの製造方法であって、
前記延伸炉の内部では、前記樹脂シートを延伸温度に予熱する第1工程と、予熱した樹脂シートを前記延伸温度にて延伸する第2工程と、延伸した樹脂シートを冷却する第3工程がこれらの順に連続して行われ、
前記樹脂シートの延伸倍率をP、前記樹脂シートのシート幅をW、前記第2工程を実施する前記延伸炉の炉長をLとしたときに、
L≧W×P
の関係を満たす
ことを特徴とする延伸シートの製造方法。
【請求項2】
延伸炉の入口側に設置された第1ロールと、前記延伸炉の出口側に設置された第2ロールとの間で、所定幅に裁断された樹脂シートをその長さ方向に一軸延伸する工程を有する延伸シートの製造方法であって、
前記樹脂シートは、少なくとも一方の面に、長さ方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、
前記延伸炉の内部では、前記樹脂シートを延伸温度に予熱する第1工程と、予熱した前記樹脂シートを前記延伸温度にて延伸する第2工程と、延伸した前記樹脂シートを冷却する第3工程がこれらの順に連続して行われ、
前記樹脂シートの延伸倍率をP、前記樹脂シートのシート幅をW、前記第2工程を実施する前記延伸炉の炉長をLとしたときに、
L≧W×P
の関係を満たす
ことを特徴とする延伸シートの製造方法。
【請求項3】
前記立体構造は、プリズム体またはレンチキュラーレンズ体である
ことを特徴とする請求項2に記載の延伸シートの製造方法。
【請求項4】
延伸炉の入口側に設置された第1ロールと、前記延伸炉の出口側に設置された第2ロールとの間で、所定幅に裁断された樹脂シートをその長さ方向に一軸延伸することで、前記樹脂シートの幅方向と長さ方向に関して屈折率の異方性をもたせる異方性光学シートの製造方法であって、
前記樹脂シートは、少なくとも一方の面に、長さ方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、
前記延伸炉の内部では、前記樹脂シートを延伸温度に予熱する第1工程と、予熱した前記樹脂シートを前記延伸温度にて延伸する第2工程と、延伸した前記樹脂シートを冷却する第3工程がこれらの順に連続して行われ、
前記樹脂シートの延伸倍率をP、前記樹脂シートのシート幅をW、前記第2工程を実施する前記延伸炉の炉長をLとしたときに、
L≧W×P
の関係を満たす
ことを特徴とする異方性光学シートの製造方法。
【請求項5】
前記透光性のシートとして、延伸方向に屈折率が大となる材料を用いる
ことを特徴とする請求項4に記載の異方性光学シートの製造方法。
【請求項6】
前記透光性のシートとして、延伸方向に屈折率が小となる材料を用いる
ことを特徴とする請求項4に記載の異方性光学シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−83176(P2009−83176A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253080(P2007−253080)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】