説明

延伸ナイロンフィルム、及びその製造方法

【課題】フィルムの滑り性が高温度下、高湿度下でも悪化せず、かつ、フィルム表面の滑り性が制御された延伸ナイロンフィルム、及び、そのような延伸ナイロンフィルムの簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】延伸ナイロンフィルムは、ナイロン樹脂又はその組成物を原料としており、該延伸ナイロンフィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜40μmである球晶が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸ナイロンフィルム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ナイロンフィルムは、強度や耐衝撃性に優れるため、重量物包装や水物包装など使用条件の厳しい分野で多く使用されている。特に、チューブラー二軸延伸法で製膜された二軸延伸ナイロンフィルムは、テンター二軸延伸法で製膜されたものよりも耐衝撃強度が優れており、より厳しい用途での需要が増している。
その一方、二軸延伸ナイロンフィルムの原料であるナイロン樹脂は吸湿しやすいため、特に、高温度下、高湿度下におけるフィルム表面の滑り性が悪化しやすい。そのため、印刷、ラミネート、製袋、あるいは袋への充填といった二次加工時にトラブルを起こしやすくなる。そのような場合、フィルム表面の滑り性を改善するために、原料中にアンチブロッキング剤を添加することが多い。
【0003】
しかし、添加剤だけで対応しようとすると、フィルム両面の滑り性を別々に制御することが困難である。例えば、フィルム両面の滑り性が良すぎると、米袋のような重量物包装袋の表基材として用いた場合、袋を段積みした際に、荷崩れを起こす可能性もある。従って、フィルム両面の滑り性を一律に変えるだけでなく、フィルム両面の滑り性を別々に制御することも重要である。
そこで、二軸延伸ナイロンフィルム両面の滑り性を独自に制御する方法として、多層構成を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1)。この技術によれば、二軸延伸ナイロンフィルムを少なくとも2層構成として、表側の層と裏側の層におけるアンチブロッキング剤の含有量を変えることでフィルムの表側と裏側の滑り性を独自に制御することが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特公平6−13208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る構成では、多層構成とするため、種類の異なった原料を準備しなければならず、そのために原料タンクの増設、さらには原料の混合やその制御が必要となる。また、押出機も多層の設備としなければならず、その運転制御も必要であるなど、全体として工程がかなり煩雑となる。さらに、製造後の二軸延伸フィルムについて、端部等のリサイクルを行う場合、リサイクルした原料を挿入する層を別途設ける必要も生じ、多層構成そのものがさらに複雑になる。
【0006】
そこで、本発明は、高温度下、高湿度下でもフィルムの滑り性が悪化せず、かつ、フィルム表面の滑り性が適度の値となるように制御された延伸ナイロンフィルム、及び、そのような延伸ナイロンフィルムの簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする延伸ナイロンフィルムであって、該延伸ナイロンフィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に、長径が1〜40μmである球晶が存在することを特徴とする。
本発明の延伸ナイロンフィルムによれば、当該フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に、長径が1〜40μmの球晶が存在しているので、その球晶が存在している表面には適度に凹凸(表面粗さ)が形成され、フィルム表面の滑り性を良くすることができる。球晶の長径が1μm未満であると、結果として、延伸ナイロンフィルム表面の滑り性が悪くなる。一方、球晶の長径が40μmを超えると、延伸ナイロンフィルムの強度が低下する傾向にある。
【0008】
本発明の延伸ナイロンフィルムは、例えば、ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする無配向原反フィルム(以下、原反フィルムともいう)であって、少なくともその片面の表面層に球晶が存在しているものを延伸することで得ることができる。この球晶は、原反フィルムの少なくとも片面の全面に存在していると、延伸後も同じ面の全面に球晶が残存するため、延伸ナイロンフィルムとして滑り性が良くなり、実用上好ましい。
【0009】
ここで、本発明においては、延伸ナイロンフィルムを190℃で2分間保持した後に、23℃、50%RHの条下件で、同じフィルム面同士を滑らせて測定したときの静摩擦係数(傾斜法)を、そのフィルム面の「滑り性」として定義する。延伸後のフィルム(上述の球晶が存在する面)の滑り性は、0.1〜0.5の範囲であることが好ましく、0.1〜0.3の範囲であることがより好ましい。
【0010】
原反フィルムの表面層に存在する球晶の長径は、例えば、ダイから押し出された溶融ナイロン樹脂又はその組成物(以下、溶融ナイロン樹脂等ともいう)を水で冷却する場合、水に対する濡れ性を撥水剤で調整することにより制御することができる。すなわち、溶融ナイロン樹脂等に撥水剤を多く含有させると、溶融ナイロン樹脂等の水に対する濡れ性が悪くなり、その結果、原反フィルムの表面層に生成する球晶の長径は小さくなる。撥水剤の含有量を少なくすると、溶融ナイロン樹脂等の水に対する濡れ性が良くなり、その結果、原反フィルムの表面層に生成する球晶の長径は大きくなる。
また、核剤やそれと同様な機能を持つ微粒子、例えばシリカ微粒子やタルク微粒子を溶融ナイロン樹脂等に配合しておくと、原反フィルムの表面層に生成する球晶の長径を小さくできるため、原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムの表面層に残存する球晶の長径も小さく制御することができる。
また、延伸ナイロンフィルムに残存する球晶の長径は、原反フィルムの延伸倍率を大きくすると大きくなり、延伸倍率を小さくすると、小さくなる。
【0011】
本発明は、ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムであって、前記原反フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜30μmである球晶が存在することを特徴とする。
本発明の延伸ナイロンフィルムによれば、延伸前の原反フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜30μmである球晶が存在しているので、フィルムの表面に適度の凹凸(表面粗さ)を形成することができ、延伸後にフィルム表面の滑り性が制御された延伸ナイロンフィルムとすることができる。
球晶の長径が1μm未満であると、結果として、延伸ナイロンフィルム表面が非常に平滑となり、滑り性も悪くなり(例えば、静・動摩擦係数が高くなる)、二次加工適性に劣るようになる。一方、球晶の長径が30μmを超えると、原反フィルムの延伸時に破袋が起きやすくなるとともに延伸後のフィルムの凹凸(表面粗さ)も大きくなり、延伸ナイロンフィルムの滑り性が良くなりすぎて、例えば製袋品の表基材として使用した場合に荷崩れ等のトラブルを起こしやすくなる。
【0012】
本発明は、ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムであって、溶融状態の前記原料を水により冷却することで前記原反フィルムが形成され、前記原料には、撥水剤が1〜500質量ppm含まれていることを特徴とする。
本発明の延伸ナイロンフィルムによれば、原料にエチレンビスステアリン酸アミド(EBS)のような撥水剤が所定量含まれているので、溶融ナイロン樹脂等の水に対する濡れ性が適度に調節され、原反フィルムの表面に適度の凹凸(表面粗さ)を形成することができる。それ故、原反フィルムを延伸した後も、この凹凸(表面粗さ)が反映され、フィルム表面の滑り性が制御された延伸ナイロンフィルムとすることができる。
撥水剤が1質量ppm未満であると、水に対する濡れ性が良すぎて、原反フィルム表面層に巨大な球晶が生じ、原反フィルムの延伸時に破断が起きやすくなる。また、延伸後のフィルムの凹凸(表面粗さ)も大きくなり、延伸ナイロンフィルムの滑り性がよくなりすぎて、例えば製袋品の表基材として使用した場合に荷崩れ等のトラブルを起こしやすくなるおそれがある。一方、撥水剤の量が500質量ppmを超えると、水による冷却が遅くなりすぎて、原反フィルム表面が非常に平滑となり、延伸後の延伸フィルムの滑り性が悪化する。
【0013】
本発明では、前記原料には、アンチブロッキング剤が300〜2500質量ppm含まれていることが好ましい。
本発明によれば、原料には、アンチブロッキング剤が300〜2500質量ppm含まれているので、延伸ナイロンフィルムに適度な滑り性を付与することができる。アンチブロッキング剤の含有量は、500〜2000質量ppmであることがより好ましい。
【0014】
本発明では、前記原料には、滑剤が実質的に含まれていないことが好ましい。
本発明によれば、原料中にオレイン酸アミドやエルカ酸アミドのような滑剤(スリップ剤)を含んでいないので、高温度・高湿度下でもブリード現象を起こすことがなく、フィルム同士がべたついたりすることがない。従って、二次加工(印刷・ラミネート等)適性に悪影響を与えることがない。
【0015】
本発明では、前記原反フィルムの延伸が二軸延伸であることが好ましい。
本発明によれば、原反フィルムの延伸が二軸延伸であるので、二軸延伸ナイロンフィルムとなり、重量物包装や水物包装の表基材として利用範囲が一層広がり、実用的価値が高い。
【0016】
本発明では、前記二軸延伸がチューブラー方式であることが好ましい。
本発明によれば、チューブラー方式の二軸延伸であるため、溶融ナイロン樹脂がチューブ状のまま冷却されて原反フィルムとなる。それ故、例えば、冷却を水冷方式で行えば、外面(水冷面)と内面(空冷面)の冷却速度を大きく変えることができる。従って、原反フィルム表面層に生成する球晶の大きさ、すなわち、両層の表面粗さを変えて、表裏の滑り性が別個に制御された延伸ナイロンフィルムとすることが可能となる。
【0017】
本発明の延伸ナイロンフィルムは、単層であることが好ましい。特に、単層であって、かつ、球晶が該延伸ナイロンフィルムの片面の表層にのみ存在し、他の面は平滑であることが好ましい。
本発明によれば、延伸ナイロンフィルムが単層であるので、単一の原料を準備するだけでよく、押出機も単層の設備でよい。また、製造後の二軸延伸フィルムについて、端部等のリサイクルを行う場合、リサイクルした原料を挿入する層を別途設ける必要もないので製造工程を簡素化できる。また、球晶が該延伸ナイロンフィルムの片面の表層にのみ存在し、他の面は平滑であると、平滑面はラミネート基材との接着性に優れ、安定したラミネート強度が得られる。また、球晶の存在する面はラミネート加工後の滑り適性が良く、製袋・充填等の二次加工適性に優れる。
【0018】
本発明は、溶融したナイロン樹脂又はその組成物を冷却して原反フィルムを成形し、前記原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムの製造方法であって、前記原反フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜30μm、好ましくは2〜20μmである球晶が存在することを特徴とする。
本発明の延伸ナイロンフィルムの製造方法によれば、延伸前の原反フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜30μmである球晶が存在しているので、延伸により、延伸フィルムの表面に適度の凹凸(表面粗さ)を形成することができ、延伸フィルム表面の滑り性を制御することが容易となる。
【0019】
本発明は、溶融したナイロン樹脂又はその組成物を冷却して原反フィルムを成形し、前記原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムの製造方法であって、
溶融状態の前記原料を水により冷却することで前記原反フィルムを成形し、前記原料には、撥水剤が1〜500質量ppm含まれていることを特徴とする
本発明によれば、溶融樹脂から原反フィルムを成形する際に、水で直接冷却するので、水冷された金属ロール(チルロール)による間接冷却にくらべ、冷却速度を十分に上げることが可能となる。また、冷却温度の制御も容易となる。さらに、原料には、撥水剤が1〜500質量ppm含まれているので、溶融ナイロン樹脂等が水に接触して冷却される際に、水に対する濡れ性が適度に調節され、原反フィルムの表面に適度の凹凸(表面粗さ)を形成することができる。それ故、延伸後にフィルム表面の滑り性が制御された延伸ナイロンフィルムを得ることができる。
【0020】
本発明では、前記原反フィルムの延伸がチューブラー方式の二軸延伸であることが好ましい。
本発明によれば、原反フィルムの延伸が二軸延伸であるため、得られた延伸フィルムが物性バランスのとれた二軸延伸ナイロンフィルムとなり、産業上の利用価値は一層高くなる。さらに、二軸延伸がチューブラー方式であるため、結果的に、原反フィルムの製造工程ではチューブ状の溶融樹脂を冷却することとなり、原反フィルム表裏の表面構造を別個に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の延伸ナイロンフィルムは、ナイロン樹脂又はその組成物を原料として得られたものであって、該延伸ナイロンフィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜40μmである球晶が存在する。
また、本発明の延伸ナイロンフィルムは、ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする原反フィルムを延伸して得られたものであって、この原反フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜30μmである球晶が存在する。
さらにまた、本発明の延伸ナイロンフィルムは、ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする原反フィルムを延伸して得られたものであって、溶融状態の原料を水により冷却することで原反フィルムが成形され、この原料には、撥水剤が1〜500質量ppm含まれる。
【0022】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
〔延伸ナイロンフィルムの製造方法〕
(製造装置の概要)
図1は、本発明の延伸ナイロンフィルムを製造する装置の一例として、チューブラー方式の二軸延伸フィルム製造装置100を示す概略図である。
【0023】
二軸延伸フィルム製造装置100は、原反フィルム1を製造するための原反製造装置90と、原反フィルム1を延伸する二軸延伸装置(チューブラー延伸装置)10と、延伸後に折り畳まれた基材フィルム2(以後、単に「フィルム2」ともいう)を予熱する予備熱処理装置(予熱炉)20と、予熱されたフィルム2を上下2枚に分離する分離装置30と、分離されたフィルム2を熱処理(熱固定)する熱処理装置40と、フィルム2が熱固定されるときに、下流側からフィルム2に張力を加える張力制御装置50と、フィルム2が熱固定されてなる二軸延伸ナイロンフィルム3(以後、単に「フィルム3」ともいう)を巻き取る巻取装置60とを備えている。
以下に、この二軸延伸フィルム製造装置100を用いて二軸延伸ナイロンフィルムを製造する各工程を詳細に説明する。
【0024】
(原反フィルム製造工程)
原反製造装置90は、原料であるナイロン樹脂を溶融混練する押出機91と、溶融樹脂をチューブ状に押し出すサーキュラーダイス92と、チューブ状溶融樹脂を冷却する水冷リング93と、冷却された原反フィルム1を折り畳む安定版94と、折り畳まれた原反フィルム1を扁平なフィルムとして次の二軸延伸工程に送るピンチロール95とを備えて構成される。
ここで、原料であるナイロン樹脂としては、ナイロン−6、ナイロン−8、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12等を使用することができる。物性や溶融特性、取り扱いやすさの点からはナイロン−6を用いることが好ましい。
【0025】
原反フィルム1は原料である溶融ナイロン樹脂が水冷リング93により急冷されることで製造(成形)されるが、ナイロン樹脂には、撥水剤が1〜500質量ppmの範囲で添加されており、溶融ナイロン樹脂が冷却水と接触した際に球晶の成長が適度に妨げられる。撥水剤の含有量が1質量ppm未満であると、溶融ナイロン樹脂が水に濡れやすくなって球晶が大きくなりすぎ、次の延伸工程でフィルムの破断が起こりやすくなる。特に、撥水剤を含有していない溶融ナイロン樹脂等をダイから押し出して、その両面を水で冷却すると、原反フィルム両面の表層に生成する球晶がともに大きなものとなり、次の延伸工程での破断が頻発する。また、得られた二軸延伸フィルムの滑り性が良すぎて(静・動摩擦係数が低くなり過ぎる)、例えば製袋品の表基材として使用した場合に荷崩れ等のトラブルを起こしやすくなる。
逆に、撥水剤の含有量が、500質量ppmを超えると、溶融ナイロン樹脂の冷却が徐冷となり過ぎて原反フィルム1の表面層に球晶が発生しにくくなり(発生しても長径が1μm未満になりやすい)、原反フィルム1の表面も非常に平滑となり、二軸延伸後もフィルムの滑り性が悪化する(静・動摩擦係数が高くなり過ぎる)。この撥水剤の量は、好ましくは100〜400質量ppmである。ここで、撥水剤としては、例えば、エチレンビスステアリン酸アミド(EBS)が挙げられる。
このような原反フィルム1の水冷面の表面層に発生する球晶の長径は、1〜30μmであり、好ましくは2〜20μmであり、より好ましくは3〜10μmである。
【0026】
また、原料中にはアンチブロッキング剤を300〜2500質量ppm添加することが好ましい。アンチブロッキング剤が300質量ppm未満では、原反フィルム1を構成するチューブの内面側が平滑になり過ぎて、延伸後のフィルムの巻き取りや、さらに、延伸フィルムを印刷・ラミネートする際(二次加工時)に滑り性が悪化して、シワの発生などを引き起こすようになり好ましくない。逆に、アンチブロッキング剤の2500質量ppmを超えると、原反フィルム1をサーキュラーダイス92から押しだす際にメヤニの発生量が多くなり、サーキュラーダイス92の清掃頻度を上げる必要から連続生産性に劣るようになる。延伸ナイロンフィルム層中のアンチブロッキング剤の含有量は、500〜2000質量ppmであることがより好ましい。
アンチブロッキング剤としては、例えば、シリカ、タルク、カオリン、ケイソウ土等が挙げられる。
【0027】
なお、フィルムに滑り性を付与する目的で、原料中にオレイン酸アミドやエルカ酸アミドのような滑剤(スリップ剤)を添加することがよく行われる。しかし、本発明においては、原料中には、滑剤(スリップ剤)を添加しないほうが好ましい。原料中にオレイン酸アミドやエルカ酸アミドのような滑剤(スリップ剤)を含んでいると、高温度・高湿度下でブリード現象を起こしやすくなり、フィルム同士がべたつき、二次加工(印刷・ラミネート等)適性に悪影響を与える。
【0028】
本実施形態では、二軸延伸がチューブラー方式であるので、結果的に原反フィルム1もチューブ状に成形される。それ故、チューブ状溶融樹脂において、水に直接接触するのは外気に接している側だけである。
図2に、チューブ状の原反フィルム1の断面を模式的に示す。原反フィルム1は、水冷リング93により急冷されて得られたものであるが、外面(水冷面)1Aには球晶が生じ、それが凹凸となって現れている。原反フィルム1の内面(空冷面)1Bには球晶が生じておらず、表面は、非常に平滑である。外面(水冷面)1Aは、延伸後もこの凹凸が反映されるため、滑り性が良く(静・動摩擦係数が低い)、内面(空冷面)1Bは、延伸後も滑り性が悪い(静・動摩擦係数が高い)。これが、チューブラー方式による二軸延伸フィルムの特徴である。
【0029】
(二軸延伸工程)
図1に示すように、チューブラー延伸装置10は、チューブ状の原反フィルム1を内部空気の圧力により二軸延伸(バブル延伸)してフィルム2を製造するための装置であって、原反フィルム製造工程により製造された原反フィルム1を扁平なフィルムとして装置内部に導入するピンチロール11と、赤外線により原反フィルム1を加熱する加熱部12と、バブル延伸された後のフィルム2を折り畳む案内板13と、折り畳まれたフィルム2をピンチして扁平なフィルム2として予熱工程に送るピンチロール14とを備えて構成される。
【0030】
(予熱工程)
予熱炉20は、扁平となったフィルム2を予備的に熱処理するための装置である。フィルム2の収縮開始温度以上であって、フィルム2の融点よりも約30℃低い温度かそれ以下の温度でこのフィルム2を予め熱処理する。この予備的な熱処理により、フィルム2の結晶化度が増して、重なり合ったフィルム同士の滑り性が良好になる。
【0031】
分離装置30は、ガイドロール31と、トリミング装置32と、分離ロール33A、33Bと、溝付きロール34A〜34Cとを備えている。
トリミング装置32は、ブレード321を有しており、ガイドロール31を介して送られた扁平なフィルム2の両端部を切開して2枚の基材フィルム2A、2Bに分離する。そして、上下に離れて位置する一対の分離ロール33A、33Bにより、ガイドロール31を介して送られた両フィルム2A、2B間に空気を介在させながらこれらを分離する。この扁平なフィルム2の切開は、両端部から若干内側にブレード321を位置させることにより、一部分耳部が生じるように行ってもよく、又はフィルム2の折り目部分にブレード321を位置させることにより、耳部が生じないように行ってもよい。
次に、両フィルム2A、2Bの進行方向に順に位置する3個の溝付きロール34A〜34Cにより両フィルム2A、2Bは、再び重ねられる。なお、これらの溝付きロール34A〜34Cは、溝付き加工後、表面にめっき処理を施したものである。この溝を介してフィルム2A、2Bと空気との良好な接触状態が得られる。
【0032】
(熱処理工程)
熱処理装置40は、2枚のフィルム2A、2Bの両端部を把持する手段であるテンター41と、両端部が把持された2枚のフィルム2A、2Bを熱処理するための加熱手段である加熱炉42とを備えている。この加熱炉42は、例えば熱風炉である。
重なった状態のフィルム2A、2Bは、テンター41のクリップ(図示せず)で両端部を把持されながら、フィルム2を構成する樹脂の融点以下であって、融点から約30℃低い温度以上で熱処理(熱固定)され、物性の安定した二軸延伸ナイロンフィルム3(以後、フィルム3ともいう)となる。
また、加熱炉42内のフィルム2A、2Bに対しては、下流側に位置する張力制御装置50により強い張力が加えられるようになっている。
【0033】
(巻取工程)
巻取装置60は、ガイドロール61と、巻取ロール62とを備えている。熱固定されたフィルム3は、張力制御装置50を経て、ガイドロール61を介して2本の巻取ロール62に、フィルム3A、3Bとして巻き取られる。
このようなフィルム3A、3Bの表面層(原反フィルム1の水冷面に相当する側)には、長径が1〜40μmである球晶が存在している。
【0034】
上述のような実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)フィルム3(二軸延伸ナイロンフィルム)の製造方法としてチューブラー二軸延伸方式を採用しており、原反フィルム1もチューブ状となるため、冷却時(原反フィルム1成形時)に、表面と裏面の冷却速度や冷却手段(例えば、水冷、空冷等)を変えることができる。そのため、表面と裏面の結晶形態(フィルム表面の凹凸)を独自に制御することができ、結果として二軸延伸後のフィルム3の滑り性(静・動摩擦係数)を、表面・裏面個別に制御することができる。
【0035】
(2)原反フィルム1の外面(水冷面)1Aに発生する球晶の長径が1〜30μmであるので、二軸延伸後にもこの球晶が反映されたフィルム3を得ることができる。すなわち、フィルム3の表面層(原反フィルム1の水冷面1Aに相当する側)にも、長径が1〜40μmである球晶が存在する。この凹凸(表面粗さ)は、高温下、高湿度下でも変化せず、フィルム3は、適度な滑り性(0.1〜0.5)を示す。
【0036】
(3)原料であるナイロン6に撥水剤が1〜500質量ppm含まれているので、チューブ状溶融樹脂を水で冷却して原反フィルム1を成形する際に、溶融樹脂フィルムの外面(水冷面)を適度な速度で冷却することができる。すなわち、生成する球晶の長径を適度な範囲に制限でき、結果的に凹凸(表面粗さ)を制御することが容易となる。この凹凸(表面粗さ)が反映されたフィルム3は、適度な滑り性(0.1〜0.5)を示す。
【0037】
(4)原料に、アンチブロッキング剤が300〜2500質量ppm含まれていると、フィルム3に適度の滑り性を付与することができ、撥水剤と併用することで滑り性の制御が一層容易となる。
【0038】
(5)原料には、滑剤(スリップ剤)が実質的に含まれていないので、フィルム3を高温度・高湿度下で使用してもブリード現象を起こすことがなく、フィルム3同士がべたついたりすることがない。従って、二次加工(印刷・ラミネート等)適性に悪影響を与えることがない。
【0039】
(6)原反フィルム1(フィルム2、3)が単層であるので単一の原料を準備するだけでよく、押出機も単層の設備でよい。また、製造後の二軸延伸フィルムについて、端部等のリサイクルを行う場合、リサイクルした原料を挿入する層を別途設ける必要もないので二軸延伸フィルムの製造工程を簡素化できる。
【0040】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、層構成などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである
【0041】
例えば、本実施形態では、延伸ナイロンフィルムとして、二軸延伸フィルムを製造したが、一軸延伸フィルムでもよい。また、本実施形態では、二軸延伸方法としてチューブラー方式を採用したが、テンター方式であってもよい。さらに、延伸方法としては同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例は、図1に示す二軸延伸フィルム製造装置100を用いて実施したものである。従って、共通する箇所は実施形態と同じ符号を用いる。
【0043】
[実施例1]
(水冷原反の製造)
撥水剤としてエチレンビスステアリン酸アミド(EBS)を5質量ppm、アンチブロッキング剤として平均粒径1.5μmのシリカ微粉末を1000質量ppm添加したナイロン樹脂を原料として、押出機91により270℃で溶融混練した後、溶融物をサーキュラーダイス92から円筒状のフィルムとして押出し、引き続き水冷リング93で円筒状溶融樹脂の外部のみを25℃の水で急冷して原反フィルム1を作製した。ここで、ナイロン樹脂として使用したものは、宇部興産(株)製ナイロン6〔相対粘度 ηr=3.6〕である。
【0044】
図3に、この原反フィルム1の表面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製 S−2460型)により撮影した写真を示す。原反フィルム1の外面(水冷面)と内面(空冷面)を各々3000倍(A1、B1)、1000倍(A2、B2)、300(A3、B3)倍で観察したものである。水により急冷された外面(水冷面)には、長径が約3〜4μmの球晶が生じているが、徐冷された内面には球晶が生成しておらず、原反フィルム1の内面は非常に平滑であることがわかる。
【0045】
(二軸延伸ナイロンフィルムの製造)
次に、図1に示すように、この原反フィルム1を一対のピンチロール11間に挿通した後、ヒータ(加熱装置)12で加熱すると共に、内部の空気で原反フィルム1をバブル状に膨張させ、下流側の一対のピンチロール14で引き取ることにより、MD方向及びTD方向の同時二軸延伸を行った。この延伸の際の倍率は、MD方向が3.0倍で、TD方向が3.2倍であった。
次に、この延伸フィルム(基材フィルム)2を予熱装置20、及び分離装置30に通した後、熱処理装置40に通し、210℃で熱固定を施して本実施例に係る二軸延伸ナイロンフィルム3を得た。
【0046】
(評価方法)
上述した二軸延伸時の状況、及び得られたフィルム3について、以下のような評価を行った。
(1.延伸成形性)
原反フィルム1をチューブラー二軸延伸する際におけるバブルの安定性を延伸成形性として評価した。具体的には、バブルが安定しているものを○、バブルの揺れがあって不安定なものを×として評価した。なお、当初、バブルの揺れがあっても、微調節でバブルを安定化できたものは、△とした。
【0047】
(2.二次加工適性)
二軸延伸・熱処理後のフィルム3について、市販の多色刷り印刷機にて通常の運転条件で印刷(5色)を行った。フィルムの滑り性が悪いと走行が不安定となり、いわゆるピッチずれが起こるので、以下のような基準で印刷適性(二次加工適性)を判断した。
○:印刷ピッチのずれが0.5mm以内で、実用上問題ないもの
△:印刷ピッチのずれが1mm程度認められたが、印刷機の調整で対応できたもの
×:印刷ピッチのずれが1mm以上あり、印刷機の調整が困難であったもの
【0048】
(3.滑り性)
フィルム3を190℃の加熱炉中で2分間保持した後の静摩擦係数(傾斜法)を測定して滑り性とした。以下の基準で高温下の滑り性の良否を判断した。
○:静摩擦係数が0.3以下
△:静摩擦係数が0.3を越え、0.5以下
×:静摩擦係数が0.5を超える
【0049】
(4.総合評価)
上述した延伸成形性、二次加工適性、及び滑り性のうち全てが○か、あるいは一つだけが△であるものを○とする総合評価を行った。上述の3項目のうち、一つでも×があれば総合評価として×とした。
【0050】
[実施例2〜5、比較例1〜4]
原料処方を変えて、実施例1と同様の製造工程により製膜を行った。評価方法も実施例1と同様である。表1に、実施例、比較例各々の原料処方と評価結果を示す。
なお、実施例2〜5では、原反フィルム1の外面(水冷面)に生成する球晶の長径は、いずれも1〜20μm(大部分の球晶は1〜5μm)の範囲にあった。また、二軸延伸後のフィルム3の外面(原反フィルム1の外面(水冷面)に相当する側)に残存する球晶の長径は、いずれも1〜10μmの範囲にあった。
一方、比較例1については、原反フィルム1の水冷面に長径30μmを超える巨大な球晶とその球晶にもとづく凹凸が多く存在していた。また、比較例2〜4については、原反フィルム1及び延伸後のフィルム3のいずれも表裏ともに平滑であった。
【0051】
【表1】

【0052】
[評価結果]
表1に示すように、実施例1〜5では、原反フィルム1の外面(水冷面)に生じる球晶の長径がいずれも1〜30μmの範囲であり、二軸延伸後のフィルム3の外面(水冷面)の残存する球晶の長径も1〜40μmの範囲であって、さらにまた、原料中の撥水剤の量が5〜500質量ppmの範囲であるため、原反フィルム1の延伸成形性、二軸延伸後のフィルム3の二次加工適性、及びフィルム3の滑り性のいずれも問題なく、総合評価も優れている。
【0053】
一方、比較例1では、撥水剤が添加されておらず、原反フィルム1が溶融状態から急冷されて形成されたため、原反フィルム1の外面(水冷面)に長径が30μmを超える巨大な球晶が多く生じており、延伸時に破断が頻発した。また、比較例2〜4では、逆に撥水剤の量が500質量ppmを超えており、外面(水冷面)に生成する球晶の長径も1μm未満であった。そのため、原反フィルム1の表面は非常に平滑であり、延伸後のフィルム3もその表面が非常に平滑であって、滑り性はいずれも0.5を越えていた。なお、比較例3では、撥水剤が1500質量ppmと非常に多いため、球晶が生成せず、原反フィルム1自体の滑り性が非常に悪くなり、延伸成形性が極めて悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、高温度下、高湿度下でも滑り性が悪化しない二軸延伸ナイロンフィルム、及び、そのような二軸延伸ナイロンフィルムの簡便な製造方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る二軸延伸フィルム製造装置の概略図。
【図2】前記実施形態における原反フィルムの概略断面図。
【図3】本発明の実施例における原反フィルム(外面・内面)の電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0056】
1 無配向原反フィルム(原反フィルム)
2 基材フィルム
3 二軸延伸ナイロンフィルム
10 二軸延伸装置(チューブラー延伸装置)
11 ピンチロール
12 加熱装置(ヒータ)
20 予熱装置
30 分離装置
40 熱処理装置
50 張力制御装置
60 巻取装置
90 原反製造装置
91 押出機
92 サーキュラーダイス
93 水冷リング
94 案内板
95 ピンチロール
100 二軸延伸フィルム製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする延伸ナイロンフィルムであって、
該延伸ナイロンフィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜40μmである球晶が存在することを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項2】
ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする無配向原反フィルム(以下、「原反フィルム」ともいう)を延伸してなる延伸ナイロンフィルムであって、
前記原反フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜30μmである球晶が存在することを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項3】
ナイロン樹脂又はその組成物を原料とする原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムであって、
溶融状態の前記原料を水により冷却することで前記原反フィルムが形成され、
前記原料には、撥水剤が1〜500質量ppm含まれていることを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の延伸ナイロンフィルムにおいて、
前記原料には、アンチブロッキング剤が300〜2500質量ppm含まれていることを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の延伸ナイロンフィルムにおいて、
前記原料には、滑剤が実質的に含まれていないことを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の延伸ナイロンフィルムにおいて、
前記原反フィルムの延伸が二軸延伸であることを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の延伸ナイロンフィルムにおいて、
前記二軸延伸がチューブラー方式であることを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の延伸ナイロンフィルムにおいて、
該延伸ナイロンフィルムが単層であることを特徴とする延伸ナイロンフィルム。
【請求項9】
溶融したナイロン樹脂又はその組成物を冷却して原反フィルムを成形し、前記原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムの製造方法であって、
前記原反フィルムの片面又は両面の少なくとも一方の表面層に長径が1〜30μmである球晶が存在することを特徴とする延伸ナイロンフィルムの製造方法。
【請求項10】
溶融したナイロン樹脂又はその組成物を冷却して原反フィルムを成形し、前記原反フィルムを延伸してなる延伸ナイロンフィルムの製造方法であって、
溶融状態の前記原料を水により冷却することで前記原反フィルムを成形し、
前記原料には、撥水剤が1〜500質量ppm含まれていることを特徴とする延伸ナイロンフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の延伸ナイロンフィルムの製造方法において、
前記原反フィルムの延伸がチューブラー方式の二軸延伸であることを特徴とする延伸ナイロンフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−69569(P2007−69569A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262292(P2005−262292)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】