説明

延伸フィルム、位相差フィルム、および複合光学部材

【課題】安価に作製でき、厚みが比較的薄く、皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ経時的な寸法変化や面内位相差値変化が小さく、光学特性の安定性に優れた光学用フィルムとして有用な斜め延伸フィルム、ならびにこれを用いた位相差フィルムおよび複合光学部材を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する長尺の樹脂フィルムからなり、フィルム幅方向に対する配向軸の角度が1〜85°である斜め延伸フィルム、ならびにこれを用いた位相差フィルムおよび該位相差フィルムと他の光学部材との積層体からなる複合光学部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムを斜め延伸してなる斜め延伸フィルムに関する。また、本発明は、その斜め延伸フィルムを用いた位相差フィルムおよび複合光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は、高画質、薄型、軽量、低消費電力などの特長を有し、テレビジョン、パーソナルコンピュータなどのフラットパネルディスプレイとして広く使用されている。
【0003】
カラー液晶ディスプレイには、単純マトリクス方式で構造が簡単な超ねじれネマチック(STN)液晶が用いられるが、STN液晶に基づく楕円偏光により、液晶ディスプレイ表示の色相が緑色ないし黄赤色を帯びるという問題を生じる。この問題を解決する手段の一つとして、位相差フィルムを用い、STN液晶の複屈折による位相差を補償し、楕円偏光を直線偏光に戻す対策が講じられている。
【0004】
位相差フィルムを製造する方法としては、たとえば、未延伸フィルムの長さ方向または幅方向に一軸延伸したフィルムより、所望の配向軸を有するように延伸フィルムの辺に対して所定の傾斜角度で、その延伸フィルムを裁断する方法が知られている。しかしながら、この方法では、最大面積が得られるように裁断しても、裁断ロスが必ず生じ、製品歩留まりに乏しいという問題があった。
【0005】
また、特許文献1には、ポリカーボネートやポリエステルなどからなるプラスチックフィルムを横または縦方向に一軸延伸しつつ、その延伸方向の左右を異なる速度で前記延伸方向とは相違する縦または横方向に引張延伸して、配向軸を前記一軸延伸方向に対して傾斜させる延伸フィルムの製造方法が提案されている。しかしながら、この方法で得られる延伸フィルムは、皺が発生したり、厚みムラなどが生じたりして、精度に優れたフィルムを得ることは困難であった。
【0006】
さらに、特許文献2には、ポリビニルアルコールなどからなるポリマーフィルムの一方端の実質的な保持開始点から、実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L1、およびポリマーフィルムのもう一端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L2と、二つの実質的な保持解除点までの距離Wが、|L2−L1|>0.4Wの関係を満たし、かつポリマーフィルムの支持性を保ち、揮発分率が5%以上の状態を存在させて延伸した後、収縮させながら揮発分率を低下させる光学用ポリマーフィルムの製造方法が記載されている。しかしながら、この方法で得られたフィルムにおいても、長期間使用したときに光学特性が変化したりする問題があった。
【0007】
また、近年、液晶表示装置の厚みの低減が追求され、液晶表示装置に用いられる光学部材にも従来以上の薄肉化が求められている。特許文献3に、脂環式構造を有する重合体樹脂、たとえば、ノルボルネン系重合体や単環の環状オレフィン重合体を用いた長尺の未延伸フィルムを斜め方向に延伸する技術が開示されているが、前記のポリカーボネートフィルム同様、現在以上の薄肉化には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−9912号公報
【特許文献2】特開2002−86554号公報
【特許文献3】特開2003−342384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、安価に作製でき、厚みが比較的薄く、皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ経時的な寸法変化や面内位相差値変化が小さく、光学特性の安定性に優れた光学用フィルムとして有用な斜め延伸フィルムを提供することである。また、本発明のもう一つの目的は、当該斜め延伸フィルムからなる位相差フィルム、およびこれを用いた複合光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する長尺の樹脂フィルムからなり、フィルム幅方向に対する配向軸の角度が1〜85°である斜め延伸フィルムを提供する。
【0011】
本発明の斜め延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物の斜め延伸フィルムであることが好ましい。また、該樹脂組成物は、脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%含有することが好ましい。上記脂環族飽和炭化水素樹脂の軟化点は、110〜145℃の範囲内であることが好ましい。
【0012】
上記ポリプロピレン系樹脂は、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンとの共重合体からなるか、または実質的にプロピレンの単独重合体からなることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、面内位相差値が40nm以上である上記斜め延伸フィルムからなる位相差フィルム、および、該位相差フィルムと他の光学部材との積層体からなる複合光学部材を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の斜め延伸フィルムは、厚みが比較的薄く、皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ経時的な寸法変化や面内位相差値変化が小さく、光学特性の安定性に優れるものであり、位相差フィルムとして有用である。また、本発明の斜め延伸フィルムは長尺物であるので、ロール状に巻き取って保存することができる。たとえば、本発明の斜め延伸フィルムを位相差フィルムとして用い、直線偏光板と貼り合わせて楕円偏光板を製造する場合、特にロール・トゥ・ロールによる連続生産が可能となるため、高い生産性が得られるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】未延伸フィルムを、テンター延伸により斜め延伸する様子を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
<斜め延伸フィルム>
本発明の斜め延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する長尺の樹脂フィルムであって、フィルム幅方向に対する配向軸の角度θが1〜85°である斜め延伸フィルムである。後で詳述するように、本発明の斜め延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する長尺の未延伸フィルムを、その幅方向に対して1〜85°の方向に連続的に斜め延伸することにより得ることができる。
【0017】
上記角度θは1〜85°である限り特に限定されない。角度θを1〜85°の間で任意の値に設定することにより、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを所望の値に制御することができる。
【0018】
本発明の斜め延伸フィルムは、薄膜化が可能であり、皺や厚みムラがなく精度に優れ、さらに、経時的な寸法変化や面内位相差値変化が小さく、光学特性の安定性に優れることから、位相差フィルム、特に中小型用途向けの波長板として有用である。本発明の斜め延伸フィルムの膜厚は、後述する本発明の位相差フィルムと同様の膜厚とすることができる。
【0019】
なお、本発明の斜め延伸フィルムの飽和吸水率は、好ましくは0.01重量%以下、より好ましくは0.007重量%以下である。飽和吸水率が0.01重量%を超えると、使用環境によっては、フィルムに寸法変化が生じて内部応力が発生することがある。内部応力が発生すると、たとえば、反射型液晶表示装置における位相差フィルムとして用いた場合に、黒表示が部分的に薄くなる(白っぽく見える)などの表示ムラが発生するおそれがある。飽和吸水率が上記範囲にある斜め延伸フィルムからなる位相差フィルムは、長期間使用してもディスプレイの表示ムラが発生しにくく、光学特性の安定性により優れる。本発明において、斜め延伸フィルムの飽和吸水率は、ASTM D570に従い、23℃の水中に24時間浸漬して増加重量を測定することにより得られる値である。
【0020】
(ポリプロピレン系樹脂)
本発明の斜め延伸フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂であってもよいし、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなる樹脂であってもよい。プロピレンの単独重合体は、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体に比べて、結晶化度がより高くなるため、フィルム剛性と降伏強度をより高くすることができる点において有利である。したがって、ポリプロピレン系樹脂として、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂を用いることにより、斜め延伸フィルムの製造工程での取り扱い性をより向上させることが可能となる。
【0021】
ここで、「実質的にプロピレンの単独重合体」は、プロピレンユニットの含有量が100重量%である重合体のほか、未延伸フィルムの生産性向上等を目的として0.6重量%程度以下の範囲でエチレンユニットが含有されたプロピレン/エチレン共重合体も含むものとする。
【0022】
プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーの1種または2種以上を少量共重合させたものであることが好ましい。具体的には、このような共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、コモノマーユニットを、たとえば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下の範囲で含有する樹脂であることができる。共重合体におけるコモノマーユニットの含有量は、少なくとも0.6重量%を超え、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマーユニットの含有量を1重量%以上とすることにより、加工性や透明性を有意に向上させ得る。一方、コモノマーユニットの含有量が20重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の融点が下がり、耐熱性が低下する傾向にある。なお、2種以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含有量が、上記範囲であることが好ましい。
【0023】
プロピレンに共重合されるコモノマーは、たとえば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンであることができる。α−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4);1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5);1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6);1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7);1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8);1−ノネン(C9);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)など。
【0024】
上記α−オレフィンの中でも、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテンおよび1−ヘキセンがより好ましい。
【0025】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含有量や1−ブテンユニットの含有量は、たとえば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行ない、求めることができる。
【0026】
本発明の斜め延伸フィルムの透明度や加工性を上げる観点からは、共重合体は、プロピレンを主体とするプロピレンと上記α−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましく、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体であることがより好ましい。プロピレン/エチレンランダム共重合体におけるエチレンユニットの含有量は、上述のとおり、1〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることがさらに好ましい。
【0027】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、またはアタクチックのいずれであってもよい。本発明においては、耐熱性の点から、シンジオタクチックまたはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0028】
ポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、樹脂組成および膜厚が均一な斜め延伸フィルム作製用未延伸フィルムを得ることができる。
【0029】
本発明の斜め延伸フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。公知の重合用触媒としては、たとえば、次のようなものを挙げることができる。
【0030】
(1)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒など。
【0031】
上記(1)および(2)の触媒系におけるマグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報などに記載の触媒系が挙げられる。上記(2)の触媒系における有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどが好ましく用いられ、電子供与性化合物としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどが好ましく用いられる。
【0032】
また、上記(3)のメタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
【0033】
上記触媒系の中でも、本発明においては、上記(2)の触媒系が最も一般的に使用できる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂は、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。
【0035】
(脂環族飽和炭化水素樹脂)
本発明の斜め延伸フィルムを構成する脂環族飽和炭化水素樹脂は、石油樹脂に分類される樹脂である。石油樹脂とは、石油類の熱分解により生成する分解油留分を重合し固化させた熱可塑性樹脂であって、たとえば、C5留分を原料とした脂肪族系石油樹脂;C9留分を原料とした芳香族系石油樹脂;C5留分とC9留分の2種を共重合して得られる共重合系石油樹脂;ならびに、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、または共重合系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明においては、上記石油樹脂のなかでも、特に、脂環族飽和炭化水素樹脂を用いる。脂環族飽和炭化水素樹脂は典型的には、芳香族系石油樹脂を水素化して得られる水素化系石油樹脂である。脂環族飽和炭化水素樹脂は、得られる斜め延伸フィルムの経時的な面内位相差値変動を抑制する効果が高い。また、無色透明であって、耐候性に優れており、位相差フィルムに好適に適用することができる斜め延伸フィルムの原料として有利な特性を兼備している。
【0037】
本発明で用いる脂環族飽和炭化水素樹脂は、軟化点が110℃以上、145℃以下であることが好ましい。より好ましくは、115℃以上、135℃以下である。軟化点が110℃より低いと斜め延伸フィルムの耐熱性が低下する傾向にあり、また、軟化点が145℃を超えると、未延伸フィルムの延伸性が悪くなり、斜め延伸フィルムの生産性が低下する傾向にある。
【0038】
脂環族飽和炭化水素樹脂として、市販品を用いることもできる。このような市販品としては、荒川化学工業(株)製の「アルコン」シリーズが挙げられる。「アルコン」シリーズは、芳香族系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂である。
【0039】
本発明の斜め延伸フィルムは、脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%の範囲内で含有することができ、好ましくは3〜20重量%の範囲内で脂環族飽和炭化水素樹脂を含有する。脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量が0.1重量%未満であると、経時的な面内位相差値変動を抑制する効果が十分に得られず、30重量%を超えると、斜め延伸フィルムに経時的な脂環族飽和炭化水素樹脂のブリードアウトが生じる懸念がある。
【0040】
<斜め延伸フィルムの作製方法>
本発明の斜め延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物から長尺の未延伸フィルムを作製し、得られた未延伸フィルムを、その幅方向に対して1〜85°の方向に連続的に斜め延伸することにより得ることができる。
【0041】
(未延伸フィルムの作製)
未延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物を製膜することにより作製される。当該樹脂組成物の調製方法は、少なくとも脂環族飽和炭化水素樹脂が、得られる樹脂組成物中に均一に分散される方法である限り特に限定されるものではなく、たとえば、ポリプロピレン系樹脂を調製する重合工程における重合反応途中または重合反応直後の重合反応混合物に脂環族飽和炭化水素樹脂を添加する方法を挙げることができる。脂環族飽和炭化水素樹脂は、溶剤に溶解した溶液として添加してもよいし、容易に分散し得るように粉末状に粉砕し、粉体として添加してもよいし、加熱して溶融状態で添加してもよい。
【0042】
また、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練しながら脂環族飽和炭化水素樹脂を添加した後、さらに溶融混練する方法によっても樹脂組成物を得ることができる。これら溶融混練は、たとえば、リボンブレンダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ロール、各種ニーダー、単軸押出機、二軸押出機などの混練機を用いて行なうことができる。このようにして得られた樹脂組成物は、溶融混練後、冷却することなく溶融状態のまま未延伸フィルムへの成形加工に供してもよいし、冷却してペレット体等の成形物にした後、これを再度加熱して未延伸フィルムへの成形加工に供してもよい。また、冷却した後、冷却状態のままプレス成形等の方法により未延伸フィルムに成形することもできる。
【0043】
樹脂組成物中の脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、樹脂組成物の重量を100重量%とするとき、通常0.1〜30重量%の範囲内であり、好ましくは3〜20重量%の範囲内である。脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量が0.1重量%未満であると、経時的な面内位相差値変動を抑制する効果が十分に得られず、30重量%を超えると、斜め延伸フィルムに経時的な脂環族飽和炭化水素樹脂のブリードアウトが生じる懸念がある。
【0044】
上記樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加物を含有してもよい。添加物としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。上記樹脂組成物は、1種または2種以上の添加剤を含有することができる。
【0045】
酸化防止剤としては、たとえば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ステアリン酸等の高級脂肪酸およびその塩などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状あるいはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。
【0046】
また、造核剤は、無機系造核剤、有機系造核剤のいずれでもよい。無機系造核剤としては、タルク、クレイ、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、有機系造核剤としては、芳香族カルボン酸の金属塩類、芳香族リン酸の金属塩類などの金属塩類、高密度ポリエチレン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリシクロペンテン、ポリビニルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中でも有機系造核剤が好ましく、さらに好ましくは前記の金属塩類および高密度ポリエチレンである。造核剤の添加量は、樹脂組成物に含有されるポリプロピレン系樹脂100重量%に対して0.01〜3重量%の範囲内であることが好ましく、0.05〜1.5重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
上記樹脂組成物を、任意の方法で製膜することにより未延伸フィルムとすることができる。この未延伸フィルムは、透明で実質的に面内位相差のないものである(通常30nm以下)。製膜方法としては、たとえば、1)溶融状態(一旦ペレット体とした後加熱して溶融状態としたものであってもよい)の樹脂組成物を押出成形する方法、2)溶剤を含む樹脂組成物(樹脂組成物に別途溶剤を添加してもよい)を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法、および3)樹脂組成物をプレス成形する方法などを挙げることができる。これらの方法によって、面内位相差が実質的にない樹脂組成物の未延伸フィルムを得ることができる。
【0048】
未延伸フィルムを製造する好ましい方法の一例として、押出成形による製膜法について詳しく説明する。押出成形においては、樹脂組成物は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は、180〜300℃程度とすることができる。溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られる未延伸フィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる可能性がある。また、溶融状シートの温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、溶融状シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりすることがある。
【0049】
押出機は、単軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。たとえば単軸押出機の場合は、スクリューの長さLと直径Dとの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積V1と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積V2との比である圧縮比V1/V2が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプまたはマドック型の混練部分を有するタイプなどのスクリューを用いることが好ましい。樹脂組成物の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点から、L/Dが28〜36であり、圧縮比V1/V2が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることがより好ましい。
【0050】
また、樹脂組成物の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気、または真空にすることが好ましい。さらに、樹脂組成物が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上5mmφ以下のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの押出機先端部分の樹脂圧力を高めるとは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。
【0051】
押出に使用されるTダイは、樹脂組成物の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融した樹脂組成物との摩擦係数の小さい材料でめっき、またはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっきなどが挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる未延伸フィルムが得られる。Tダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
【0052】
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの厚み方向長さ>180mm、
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの厚み方向長さ>220mm、
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの高さ方向長さ>250mm、
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの高さ方向長さ>280mm。
【0053】
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状樹脂組成物の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、面内位相差が極めて低いレベルでより均一化された未延伸フィルムを得ることができる。
【0054】
なお、樹脂組成物の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、樹脂組成物中の異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。
【0055】
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロール、またはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間で挟圧され、両ロールによって冷却固化されて、未延伸フィルムとなる。タッチロールは、ゴムなどの弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に、樹脂組成物の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、樹脂組成物の溶融状シートとタッチロールとの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
【0056】
樹脂組成物の溶融状シートを、前記のような金属製冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるにあたり、冷却ロールとタッチロールは、いずれもその表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させることが好ましく、具体的には、両ロールの表面温度は0℃以上30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、溶融状シート中の結晶成分が成長してしまい、得られる未延伸フィルムの透明性が低下することがある。両ロールの表面温度は、より好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、両ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露が生じて水滴が付着し、未延伸フィルムの外観を悪化させる場合がある。
【0057】
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態が未延伸フィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸があると、得られる未延伸フィルムの厚み精度を低下させる場合がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は、フィルムの剥離が可能な限りできるだけ鏡面状態に近い方が好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.4S以下であることが好ましく、0.05S〜0.2Sであることがより好ましい。
【0058】
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のタッチロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を生じさせることなくフィルムに成形することが容易となる。
【0059】
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上300N/cm以下とすることが好ましく、100N/cm以上250N/cm以下とすることがより好ましい。線圧を前記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながら未延伸フィルムを製造することが容易となる。
【0060】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、樹脂組成物の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、溶融状シートと強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。二軸延伸フィルムの厚さは、通常、5〜50μm程度であり、好ましくは10〜30μmである。
【0061】
Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)は、200mm以下とすることが好ましく、160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを前記のように短くすることで、配向のより小さい未延伸フィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され、通常、50mm以上である。
【0062】
未延伸フィルムの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
【0063】
金属製冷却ロールとタッチロールとにより挟圧され、冷却固化されて得られる未延伸フィルムは、必要に応じて端部をスリットした後、通常、巻き取り機によってロール状に巻き取られる。この際、未延伸フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面、または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧する場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0064】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺の未延伸フィルムは、透明性に優れ、かつ配向の小さい、すなわち位相差の小さいフィルムである。具体的にその透明性は、JIS K 7105に従って測定される全ヘイズ値が10%以下、好ましくは7%以下であることが好ましい。また、その面内位相差値(レターデーション値)は、通常30nm以下、好ましくは15nm以下であり、さらには7nm以下、とりわけ5nm以下であるのが一層好ましい。樹脂組成物の製膜条件や厚みの制御により、上記範囲内のヘイズ値および面内位相差値を有する未延伸フィルムを得ることができる。
【0065】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺の未延伸フィルムは、その厚みが5μm以上、さらには10μm以上であるのが好ましい。厚みが5μmより小さくなると、そのフィルムの取り扱いが困難になる場合がある。またフィルムの厚みは200μm以下であるのが好ましく、さらには150μm以下であるのがより好ましい。厚みが200μmより大きくなると、全ヘイズ値が増加したり、斜め延伸フィルムの厚みが厚くなったりするため、求められる位相差フィルム、または複合光学部材の薄肉化に適合しない場合がある。
【0066】
(斜め延伸フィルムの作製)
以上のようにして得られる未延伸フィルムをその幅方向に対して任意の角度θ(1°≦θ≦85°)の方向に連続的に斜め延伸することにより、フィルムの幅方向に対して角度θの配向軸を有する長尺の斜め延伸フィルムを連続的に得ることができ、これを連続的に巻き取っていくことによりロール状の斜め延伸フィルムが得られる。
【0067】
角度θを1〜85°の間で任意の値に設定することにより、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを所望の値に制御することができる。
【0068】
斜め延伸の方法としては、その幅方向に対して1〜85°の方向に連続的に延伸して、ポリマーの配向軸を所望の角度に傾斜させることができるものであれば特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0069】
また、斜め延伸に用いる延伸機は特に制限されず、横または縦方向に左右異なる速度の送り力もしくは引張り力または引取り力を付加できるようにした従来公知のテンター式延伸機を使用することができる。また、テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機などがあるが、ロール状のフィルムを連続的に斜め延伸処理することができるものであれば特に制限されず、種々のタイプの延伸機を使用することができる。
【0070】
本発明において好適に使用することができる、テンター延伸による未延伸フィルムの斜め延伸の一例を図1に示す。図1において、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺の未延伸フィルム100を、一定の方向(フィルム搬送方向20)に搬送しながら、テンター300を用いて斜め延伸する。フィルムの搬送方向20は、未延伸フィルム100の長手方向と同じである。図1に示されるチャック位置301および302でチャックされたフィルムは、左側が相対的に遅い速度(左移動速度41)で左移動位置501へ、右側が相対的に速い速度(右移動速度42)で右移動位置502へ移動することによって、斜め延伸が達成される。図1に示される例において、斜め延伸されたフィルムの配向軸の方向(配向軸方向Y)は、フィルムの幅方向Xと角度θ(1°≦θ≦85°)をなす方向である。
【0071】
ここで、本発明に用いることができる斜め延伸の方法は、図1に示される例に限定されるものではなく、たとえば、特開昭50−83482号公報、特開平2−113920号公報、特開平3−182701号公報、特開2000−9912号公報、特開2002−86554号公報、特開2002−22944号公報などに記載された方法を用いてもよい。
【0072】
未延伸フィルムを斜め延伸する際の温度は、90℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点以下であることが好ましい。オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。また、延伸倍率は、通常、1.01〜10倍、好ましくは1.01〜5倍である。
【0073】
<位相差フィルムおよび複合光学部材>
本発明の位相差フィルムは、上記斜め延伸フィルムからなる。本発明の位相差フィルムは、上記長尺の斜め延伸フィルム(ロール状斜め延伸フィルム)自体であってもよく、あるいは、これを適宜のサイズに裁断した枚葉体であってもよい。後者の場合においては、本発明の斜め延伸フィルムがその幅方向に対して傾斜した配向軸を有するものであることから、位相差フィルム枚葉体を製造する際の裁断ロスを最小限に抑えることができる。また、本発明の斜め延伸フィルムを主に構成するポリプロピレン系樹脂は結晶性であるため、位相差値の発現率が極めて高く、延伸によって容易に大きな位相差値を得ることができる。したがって、上記斜め延伸フィルムを用いることにより、薄い膜厚で所望の位相差値を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0074】
また、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる樹脂フィルムは、波長400nmにおける面内の最大屈折率と最小屈折率との差(複屈折)Δn400と、波長500nmにおける面内の最大屈折率と最小屈折率との差(複屈折)Δn500との比(Δn400/Δn500、位相差の波長分散)が1.05未満であるため、このような樹脂フィルムからなる1/2波長板と1/4波長板とを組み合わせた場合、優れた広帯域1/4波長板とすることができる。さらに、ポリプロピレン系樹脂は、その光弾性係数が約2×10-13cm2/dyne前後と小さいため、位相差フィルムをポリプロピレン系樹脂から構成することにより、1/2波長板と1/4波長板との貼合時、もしくは直線偏光板との貼合時に、貼りムラを抑制することができる。また、耐熱性試験時での白抜けをも抑制することができる。
【0075】
本発明の位相差フィルムの膜厚は、たとえば30μm以下程度とすることができ、好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。膜厚が20μmを超えると、薄膜化のメリットが有効に発揮されにくくなる。また、その膜厚があまり小さいと、フィルムにシワなどが発生しやすく、巻き取りや貼合時のハンドリング性を悪化させる傾向にある。そこで、位相差フィルムの膜厚は5μm以上であることが好ましく、さらには8μm以上であることがより好ましい。
【0076】
本発明の位相差フィルムは、その面内位相差値(レターデーション値)R0が、40nm以上であることが好ましく、70〜300nmの範囲であることがより好ましい。また、位相差フィルムのNz係数は、1.1〜2の範囲が好ましく、とりわけ1.4〜1.8の範囲にあることがより好ましい。位相差フィルムの面内位相差値R0およびNz係数は、上記範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて適宜選択され得る。ここで、位相差フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、および位相差フィルムの厚みをdとしたときに、位相差フィルムの面内位相差値R0、厚み方向の位相差値Rth、およびNz係数は、それぞれ下式(A)、(B)および(C)で定義される。
【0077】
0=(nx−ny)×d (A)
th=[(nx+ny)/2−nz]×d (B)
z=(nx−nz)/(nx−ny) (C)。
【0078】
本発明の位相差フィルムは、これを他の光学部材に積層させることにより複合光学部材としてもよい。他の光学部材としては、たとえば、本発明の位相差フィルムが1/2波長板である場合における1/4波長板、本発明の位相差フィルムが1/4波長板である場合における1/2波長板、直線偏光板などを挙げることができる。本発明の位相差フィルムに、これら他の光学部材の1種または2種以上を粘着剤または接着剤等を用いて積層、貼合することにより、複合光学部材を得ることができる。かかる複合光学部材は、液晶表示装置等の画像表示装置に好適に適用することができる。
【0079】
上述のロール状斜め延伸フィルムを位相差フィルムとして用いると、複合光学部材を作製する場合において、ロール状の他の光学部材(たとえばロール状の直線偏光板)とのロール・トゥ・ロール方式による連続貼合が可能となるため、高い生産性を得ることができる。ロール・トゥ・ロール方式による連続貼合においては、位相差フィルムの長手方向と、直線偏光板等の他の光学部材の長手方向が平行となるように貼合することができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0081】
[参考例1]
ポリプロピレン系樹脂(住友化学(株)製「ノーブレンFS2011DG3」、MFR=約2.3g/10分、エチレン含量=約0.5重量%)90重量部と、脂環族飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業(株)製「アルコン P-125」、軟化点125℃)10重量部とを単軸押出機を用いて溶融混練し、ついで樹脂温度250℃で溶融押出を行ない、20℃の冷却ロールにて急冷することにより厚さ40μmの未延伸フィルムを得た。
【0082】
[実施例1]
参考例1で得られた未延伸フィルムを135℃に加熱して、図1に準じたテンター延伸機に導入し、左右の移動速度に5%の速度差をもたせて横一軸延伸(幅方向)とともに速度差による縦方向の引っ張り延伸を実施する。得られる斜め延伸フィルムは、皺や厚みムラがない良好な外観を有している。また、このフィルムの幅方向に対する配向軸(遅相軸)の角度を偏光顕微鏡で測定すると、平均で15°であり、その膜厚は10μm、面内位相差値は140nmである。
【0083】
続いて、この斜め延伸フィルムを幅510mm、長さ760mmに裁断し、その片面を厚さ25μmのアクリル系粘着剤を介して無アルカリガラスと貼合する。この貼合物を、60℃、90%RHの恒温恒湿槽へ導入し、720時間後の斜め延伸フィルムの寸法を測定すると、幅509mm、長さ759mmであり、面内位相差値は139.5nmである。この貼合された斜め延伸フィルムは、720時間後においてもガラスと良好に密着しており、剥がれや気泡は観察されない。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
20 フィルム搬送方向、41 左移動速度、42 右移動速度、100 未延伸フィルム、300 テンター、301,302 チャック位置、501 左移動位置、502 右移動位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する長尺の樹脂フィルムからなり、
フィルム幅方向に対する配向軸の角度が1〜85°である斜め延伸フィルム。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物の斜め延伸フィルムであり、
前記樹脂組成物は、前記脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%含有する請求項1に記載の斜め延伸フィルム。
【請求項3】
前記脂環族飽和炭化水素樹脂の軟化点が110〜145℃の範囲内である請求項1または2に記載の斜め延伸フィルム。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂は、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンとの共重合体からなる請求項1〜3のいずれかに記載の斜め延伸フィルム。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂は、実質的にプロピレンの単独重合体からなる請求項1〜3のいずれかに記載の斜め延伸フィルム。
【請求項6】
面内位相差値が40nm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の斜め延伸フィルムからなる位相差フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の位相差フィルムと他の光学部材との積層体からなる複合光学部材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−152736(P2011−152736A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16371(P2010−16371)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】