説明

延伸フィルムの製造方法

【課題】光学延伸フィルムの製法において、例えば、横延伸後のフィルム弛みによって発生するシワから発生する不具合(巻き取り時のフィルムの破断)がなく、長時間連続的に巻き取る事が出来るの製法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムの両横端部を、左右2列のクリップで掴み横延伸させた後、クリップから開放されたフィルムを巻き取る延伸フィルムの製法において、クリップから開放されたフィルムが、最初に接触する第1ロールにシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールを用いることを特徴とする延伸フィルムの製法である。光学用延伸フィルムの製造方法に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法に関する。特に、横延伸後のフィルム弛みによって発生するシワから発生する不具合(巻き取り時のフィルムの破断)がない状態で長時間連続的に巻き取る事が出来る延伸フィルムの製法に関する。特に、光学用延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面性や低複屈折性といった特性が求められる光学用途に用いられるフィルムは溶液製膜によって製造されることが多かった。しかし、近年の表示画像装置の価格下落に伴い、生産性・コストに優れる溶融製膜法によるフィルム化が必要になってきた。
また、従来より偏光子保護フィルムとしては一般的にセルローストリアセテート(TAC)が用いられていた。TACは光線透過率が高いこと、偏光子との接着が良好であること等の点で優れるが、応力に対する複屈折変化量をさらに低減すべく、改善を求められているのが実状である。
このなかで、高い透明性や光学的な均質性などからアクリル系樹脂が注目されている。ところが、アクリル系樹脂は一般的に可撓性が低いという欠点があり、溶融製膜法によるフィルム化ではフィルム破断が多発して生産性に劣っていた。そこで、縦横二軸延伸を施すことにより可撓性を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、特許文献2のように、テンター速度よりも遅い速度の引取りロールにより弛緩状態で引取る二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関して開示されている。この方法はフィルムを一旦弛ませた状態にして幅出しロールでシワを除去する方法である。しかし、光学フィルムとして用いる場合にはテンターを出たフィルムに流れ方向の張力をかけておかなければ、ボウイング現象によって光学特性や耐折強度などの機械特性が不均一となるため、フィルムを一旦弛ませた状態にすることは好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−162835号公報
【特許文献2】特開平3−275332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、検討した結果、例えば、横延伸機後のフィルムについてはクリップで挟まれた部分は延伸されていないばかりかクリップ跡によって破断しやすくなっているとの課題を認識した。また、クリップから解放されたフィルムは幅方向(MD方向)の張力から解放され、流れ方向への搬送張力によってシワがたちやすい状態になっていると考えた。このシワが幅方向の一定の位置に生じる場合はフィルムを搬送するロール上でシワがつぶされて折れスジ状の外観異常となる。また、このシワが運転時間と共にランダムに発生する場合、或いは運転時間の経過に伴ってゆらぐ場合には、折れスジ状にはならないものの薄いスジ状の外観異常となる。さらに、シワがゆらいで端部に至った場合には、フィルムが破断してしまう。
このようなシワは幅出しロール(クロスガイダー)によって除去する事が困難で有り、クロスガイダーは設置場所以前のシワを除去する装置であり、クロスガイダー以降で発生したシワは除去できないため、光学用途には対応しきれなかった。
そこで、本発明者らは、例えば、横延伸後のフィルム弛みによって発生するシワから発生する不具合(巻き取り時のフィルムの破断)を解消するために、ロール間の空中でクロスガイダー等を用いてシワ取りを行うより、シワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールを用いる方が効果的にフィルム巻き取り時等のフィルム破断抑制に影響する事を見出し、長時間連続的に巻き取る事が出来る光学延伸フィルムの製造方法に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記事情に鑑み、フィルム製造の初期技術を検討した結果、以下の方法によって、光学フィルムを不具合がない状態で長時間連続製造する製造方法を見出した。すなわち、
〔1〕アクリル系重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールを、走行するフィルムの少なくとも上下いずれかの面に用いることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
〔2〕幅方向端部をクリップで掴んで少なくとも一方向に延伸する工程において、クリップから開放されたフィルムが最初に接触する第1ロールに、前記フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールを使用することを特徴とする、〔1〕に記載の延伸フィルムの製造方法である。流れ方向に連続的に発生するシワおよび/または弛みを解消する事もできる。
〔3〕前記フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構が、フィルムの幅方向にシワを伸張するロールであることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の延伸フィルムの製造方法である。上記同様に、流れ方向に連続的に発生するシワおよび/または弛みを解消する事もできる。
〔4〕前記フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構が、フィルムのシワおよび/または弛みに追随できる機能を有するロールであることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の延伸フィルムの製造方法である。上記同様に、流れ方向に連続的に発生するシワおよび/または弛みを解消する事もできる。
〔5〕前記フィルムの流れ方向に連続的に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールの表面材質がゴムであることを特長とする、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法である。上記同様に、流れ方向に連続的に発生するシワおよび/または弛みを解消する事もできる。

〔6〕該第1ロールに接触させた後、延伸時にクリップで掴んだ部分を除去する工程を更に含む〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。〔1〕における該第1ロールとは、「シワおよび/または弛みを解消する機構を有するロール」のことである。
〔7〕前記延伸時にクリップで掴んだ部分を除去する工程において、フィルムの流れ方向にシワおよび/または弛みの無い部分をスリットすることを特長とする、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
〔8〕該アクリル系重合体を主成分とする熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度110℃以上200℃以下の耐熱アクリル樹脂である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
〔1〕〜〔8〕の発明は、光学用延伸フィルムの製造方法に適している。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、延伸フィルムを破断することなく、連続的に製造することができる。特に、延伸光学フィルムの製造方法に適する。
以下に本発明を詳述する。本明細書において「主成分」とは、50重量%以上含有していることが意図される。なお、範囲を示す「a〜b」は、a以上b以下であることを示す。
本発明の延伸フィルムの製法は、溶融押出しにてフィルム化できるアクリル系樹脂全般に効果がある。本発明の製法は、膜厚が、10μm〜600μm、好ましくは、20μm〜400μmの光学フィルムに適している。
なお、フィルムの幅方向をMD方向、フィルムの流れ方向をTD方向と記載する。
次に本発明に用いるアクリル系樹脂について説明する。
本発明に用いるアクリル樹脂は、主成分として、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体を重合して得られる樹脂およびその誘導体である。例えば、一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、枝分かれ鎖状、若しくは環状のアルキル基を示す。)で表される構造を有する化合物(単量体)、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。これらのうち1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。中でも、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチルが最も好ましい。
また、(メタ)アクリル樹脂は、耐熱性の観点より、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドおよびメチルマレイミドなどのN−置換マレイミドが共重合されていてもよいし、分子鎖中(重合体中の主骨格中または主鎖中ともいう)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造およびグルタルイミド構造などが導入されていてもよい。中でも、フィルムの着色(黄変)し難さの点で、窒素原子が含まれない構造が好ましい。また、正の複屈折率(正の位相差)を発現させやすい点で、主鎖にラクトン環構造を有するものが好ましい。主鎖中のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、特に6員環が好ましい。このように、主鎖中のラクトン環構造が6員環である場合としては、後述する一般式(2)や、特開2004−168882号公報において表される構造などが挙げられるが、主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成するうえにおいて、重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を高い重合収率で得易い点や、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、一般式(2)で表される構造であることが好ましい。また、これらの(メタ)アクリル樹脂は、耐熱性を損なわない範囲で共重合可能なその他の単量体成分を共重合した単位を有していても良い。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいても良い。)
共重合可能なその他の単量体成分としては、具体的にはスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル類等があげられる。以上の(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1,000以上2,000,000以下の範囲内、より好ましくは5,000以上1,000,000以下の範囲内、さらに好ましくは10,000以上500,000以下の範囲内、特に好ましくは50,000以上500,000以下の範囲内である。
上記(メタ)アクリル樹脂を製造する方法としては、特開2005−146084号公報、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報、特開2008−9378号公報、特開2008−231748号公報など公知の方法を用いて(メタ)アクリル酸エステルを含有する単量体組成物を重合すればよい。
また、本発明に用いるアクリル樹脂には、併用できる他の熱可塑性樹脂を併用してもよい。併用できる他の熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂と熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを含む共重合体、具体的にはアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50重量%以上含有する重合体が挙げられる。なお、アクリル樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた熱可塑性樹脂組成物のガラス転移点を測定することによって確認することができる。具体的には、示差走査熱量測定器により測定されるガラス転移点がラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂との混合物について1点のみ観測されることによって、熱力学的に相溶していると言える。
さらに本発明に用いるアクリル樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤および可塑剤、ゴム粒子などの可梼性向上剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、目的に悪影響を及ぼさない範囲で添加する必要がある。
【0011】
フィルムを成形する方法としては、従来公知の任意の方法が可能である。例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)及び溶融押出法等などが挙げられ、そのいずれをも採用することができる。例えば溶液キャスト法(溶液流延法)を用いてフィルムを得ようとする場合は、主成分である熱可塑性樹脂と、必要によりその他の重合体やその他の添加剤などを良溶媒中に撹拌混合して均一混合液とし、支持フィルムやドラムにキャストして自己支持性を有するまで予備乾燥した後、支持フィルムやドラムから剥がして乾燥すると得ることができる。 溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、およびこれらの混合溶媒などの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;などが挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、ベルト式キャスティングマシンなどが挙げられる。
溶融押出法はT型ダイス等を装着した押出機、或いはインフレーション法によって、熱可塑性樹脂、或いは、必要によりその他の重合体やその他の添加剤などを予め混練した熱可塑性樹脂を加熱溶融にて押し出し、得られるフィルムを引き取ることにより任意の厚みを持つフィルムとすることができる。
本発明に係るフィルムは延伸を行って延伸フィルムとしてもよい、延伸フィルムを得るための延伸方法としては、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸;フィルムの延伸時にその片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理してフィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することにより、延伸方向と厚さ方向とにそれぞれ配向した分子群が混在する複屈折性フィルムを得る延伸等が挙げられる。耐折り曲げ性が向上する点で、二軸延伸が好ましい。
延伸等を行う装置としては、例えば、ロール延伸機、オーブン型延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これら何れの装置を用いても本発明に係る位相差フィルムを得ることができるが、フィルムの流れ方向(X方向)と幅方向(Y方向)に逐次二軸延伸を行う場合にはロール延伸機、或いはオーブン型縦延伸機とテンター型延伸機の組み合わせで行うことが望ましいが、同時二軸延伸機を用いてフィルムの流れ方向(X方向)と幅方向(Y方向)に同時に延伸を行っても良い。
【0012】
次に、本発明に使用するフィルムの流れ方向のシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールについて説明する。本発明にて使用されるフィルムの流れ方向に連続的に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構機構としては、湾曲させた軸上にボールベアリングが内蔵された複数個のスプールを配列し、静止した軸を中心にロールを湾曲したまま回転させるロール(エキスパンダーロール)を使用することができる。
また、シワおよび/または弛みに追随できる機能を有するロールとしては、例えばエアー圧、水圧、或いは油圧によってフィルムの流れ方向のシワおよび/または弛みを自動調整する機構を持つロール、エアーフロート式のターンバー(浮上運搬ロール)、スポンジなどの柔らかい表面を持つロール、或いは独自に回転軸の位置が移動可能な複数の小ロールが幅方向に並んで形成されたロール(マルチテンションロール)を使用することができる。
これらフィルムの流れ方向のシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールは、テンタークリップから開放された直後に配置し、クリップから解放されたフィルムに発生するフィルムの流れ方向のシワおよび/または弛みを直ちに除去することが好ましい。
【0013】
次に延伸時にクリップで掴んだ部分をスリットする方法について述べる。スリットする刃は、剪断でフィルムをカットするシアーカッターが好ましい。
なお、このときフィルムの流れ方向のシワ部分をスリットしてしまうと、フィルム破断が起こってしまう。このため、スリットはフィルムの流れ方向のシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールの下流側で行うことが好ましく、フィルムの流れ方向のシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールの直後でスリットを行うことがより好ましい。また、テンタークリップから開放された直後にフィルムの流れ方向のシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールを配置し、その直後でスリットを行うことがさらに好ましい。
【0014】
<測定方法>
本発明における物性の測定は以下の方法で行う。実施例及び比較例においても、同様の方法で行った。
(重合反応率、重合体組成分析)
重合反応時の反応率および重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC17A)を用いて測定して求めた。
(脱アルコール反応率(ラクトン環化率))
脱アルコール反応率(ラクトン環化率)を、重合で得られた重合体組成からすべての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる重量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において重量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による重量減少から求めた。
すなわち、ラクトン環構造を有した重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の重量減少率の測定を行い、得られた実測重量減少率を(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の理論重量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した重量減少率)を(Y)とする。なお、理論重量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における前記原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値(X、Y)を脱アルコール計算式:
1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))
に代入してその値を求め、%で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
そして、上記脱アルコール反応率の分だけラクトン環化反応が行われたと仮定して、下記式
ラクトン環の含有割合(重量%)=B×A×MR/Mm
(式中、Bは、ラクトン環化前の重合体における、ラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体構造単位の重量含有割合であり、MRは生成するラクトン環構造単位の式量であり、Mmはラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の分子量であり、Aは脱アルコール反応率である)
により、ラクトン環含有割合を算出することができる。
(重量平均分子量)
重合体の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム、クロロホルム溶媒)のポリスチレン換算により求めた。
(樹脂およびフィルムの熱分析)
樹脂およびフィルムの熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。尚、上記ガラス転移温度の測定は、30〜250℃の温度範囲で行った。また、非相溶性混合ポリマーなどのようにガラス転移温度(Tg)が2点以上測定される場合には、それぞれのポリマーにおけるガラス転移温度(Tg)の加重平均を求めて使用した。
(メルトフローレート)
メルトフローレートは、JIS K7210に基づき、試験温度240℃、荷重10kgで測定した。
(フィルムの厚さ)
デジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いて測定した。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
[製造例1]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した1m2の反応釜に、204kgのメタクリル酸メチル(MMA)、51kgの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、249kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として281gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加すると同時に、561gの重合開始剤と5.4kgのトルエンからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、255gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A−18)を加え、還流下(約90〜110℃)で5時間、環化縮合反応を行った。
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数150rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(Φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で15kg/時間の処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なペレットを得た。
次いでΦ50mm、多条フライト構造のミキシング部を有するフルフライト型スクリューからなるL/D=36の単軸押出し機を用い、耐熱アクリル樹脂ペレット90部、AS樹脂(旭化成ケミカルズ社製スタイラックAS783)10部および酢酸亜鉛0.04部をシリンダ設定温度270℃にて50kg/時間の処理速度で溶融押出しをおこない、樹脂ペレット(1A)を作成した。得られた樹脂ペレット(1A)の質量平均分子量は132000、ラクトン環含有割合は28.5%であり、ガラス転移温度は125℃であった。
[製造例2]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量1m2の反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)150kg、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)75kg、メタクリル酸n−ブチル(BMA)25kg、トルエン250kgを仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.15kgを添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.30kgとトルエン3.5kgからなる開始剤溶液を6時間かけて滴下しながら、還流下(約105℃〜111℃)で溶液重合を行い、開始剤溶液の滴下後さらに2時間かけて熟成を行った。
得られた重合体(2A)の重量平均分子量は195000であり、重合反応率は96.2%であった。また、重合体(2A)中のMHMAの構造単位の含有率は、30.2質量%で、MMA構造単位の含有率は、59.9質量%、BMA構造単位の含有率は9.9質量%であった。
得られた重合体溶液に、環化触媒としてリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学社製、Phoslex A−8)0.250kgを加え、還流下、約85〜105℃で2時間、環化縮合反応(重合体を分子内脱アルコール反応させ、重合体分子内にラクトン環構造を形成させる反応)を行った。
次いで、得られた重合体溶液を、熱交換器に通して220℃まで昇温し、バレル温度250℃、回転数170rpm、減圧度13.3hPa〜400hPa(10mmHg〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で、15kg/時間の処理速度で導入し、押出機内で環化縮合反応と脱揮処理を行った。その際、第一フォアベントと第二フォアベントとの中間で、オクチル酸亜鉛(日本化学産業社製、ニッカオクチックス亜鉛18%)9.8質量部、チバ・スペシャリティケミカルズ社製Irganox1010、0.8質量部、旭電化工業社製アデカスタブAO−412S0.8質量部、トルエン88.6質量部からなる溶液を0.46kg/時間の速度で液注した。前記脱揮操作により、透明な樹脂ペレット(2B)を得た。得られた樹脂ペレット(2B)の重量平均分子量は128000であり、ガラス転移温度は133℃、メルトフローレートは12.4g/10分であった。
(実施例1)
製造例1で得られた樹脂ペレット(1A)を温度270℃で溶融押出して、厚み180μmの未延伸フィルムを成膜し、次いで、温度130℃まで加熱して縦方向に1.9倍に延伸を行った。次に、フィルムの両端部から20mmの位置を2インチのクリップで掴みテンターへ供給し、温度140℃で横方向に2.2倍延伸し、クリップから開放された時点の左右2列のクリップ間距離が920mmの二軸延伸フィルムを得た。
なお、クリップから開放されたフィルムが、最初に接触する第1ロールにエキスパンダーロール(ユー技研工業株式会社製UEフラットエキスパンダー、以下EXPロールと記載)を配した。
クリップから開放された時点で、フィルムには横延伸張力から開放されたことによるしわが発生していたが、EXPロール上でシワは解消され、シアーカッターで幅700mmにトリミングした後、ポリエチレン製の保護フィルムを貼り付け、巻取機で巻取ることができた。途中でフィルムが破断することもなく、連続して500mの二軸延伸フィルムを得た。
(実施例2)
製造例2で得られた樹脂ペレット(2B)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、二軸延伸フィルムを得た。
クリップから開放された時点で、フィルムには横延伸張力から開放されたことによるしわが発生していたが、EXPロール上でシワは解消され、シアーカッターで幅700mmにトリミングした後、ポリエチレン製の保護フィルムを貼り付け、巻取機で巻取ることができた。途中でフィルムが破断することもなく、連続して500mの二軸延伸フィルムを得た。
(実施例3)
EXPロールの代わりにマルチテンションロール(王子エンジニアリング製、セグメント長100mm、セグメント数12個、以下、MTロールと省略することがある)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、二軸延伸フィルムを得た。
クリップから開放された時点で、フィルムには横延伸張力から開放されたことによるしわが発生していたが、MTロール上でシワは解消され、シアーカッターで幅700mmにトリミングした後、ポリエチレン製の保護フィルムを貼り付け、巻取機で巻取ることができた。途中でフィルムが破断することもなく、連続して500mの二軸延伸フィルムを得た。
【0016】
(比較例1)
EXPロールの代わりに金属製ガイドロール(搬送ロールとして使用する通常のロール)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、二軸延伸フィルムを得た。
クリップから開放された時点で、フィルムには横延伸張力から開放されたことによるしわが発生していたが、このシワは金属製ガイドロール上で解消できず、このシワがシアーカッターでのスリット部に到った際にフィルム破断が起こった。連続して500mの二軸延伸フィルムを得ることはできなかった。
また、シワが金属製ロール上でフィルム面に転写し、フィルムの外観不良となったため、光学フィルムとしての使用には問題があった。
【0017】
(比較例2)
製造例2で得られた樹脂ペレット(2B)を用いた以外は比較例1と同じ方法で、二軸延伸フィルムを得た。
クリップから開放された時点で、フィルムには横延伸張力から開放されたことによるしわが発生していたが、このシワは金属製ガイドロール上で解消できず、このシワ由来のフィルム破断が発生した。また、このシワがシアーカッターでのスリット部に到った際にもフィルム破断が発生した。連続して500mの二軸延伸フィルムを得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によれば、延伸フィルムを破断することなく、連続的に製造することができる。本発明の製造方法により得られる延伸フィルムは、各種画像表示装置(液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等)の光学フィルム、特に偏光板の保護フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールを、走行するフィルムの少なくとも上下いずれかの面に用いることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
幅方向端部をクリップで掴んで少なくとも一方向に延伸する工程において、クリップから開放されたフィルムが最初に接触する第1ロールに、前記フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールを使用することを特徴とする、請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構が、フィルムの幅方向にシワを伸張するロールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構が、フィルムのシワおよび/または弛みに追随できる機能を有するロールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記フィルムの流れ方向に発生するシワおよび/または弛みを解消する機構を有するロールの表面材質がゴムであることを特長とする、請求項1から4のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
該第1ロールに接触させた後、延伸時にクリップで掴んだ部分を除去する工程を更に含む請求項1〜5のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記延伸時にクリップで掴んだ部分を除去する工程において、フィルムの流れ方向にシワおよび/または弛みの無い部分をスリットすることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項8】
該アクリル系重合体を主成分とする熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度110℃以上200℃以下の耐熱アクリル樹脂である請求項1〜7のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−162740(P2010−162740A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5950(P2009−5950)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】