説明

延伸フィルム

【課題】プロジェクションスクリーンとして重要な特性である散乱反射性を強化することにより、透過視認性および散乱反射視認性が向上し、かつ外光散乱によるコントラスト低下が防止された、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムに好適な延伸フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を含むマトリックス相および分散相からなる延伸フィルムであり、
マトリックス相および分散相の屈折率が下記式(1)(2)を満たし、
|(N+N)/2−(n+n)/2|≦0.05 ・・・(1)
|n−N|>0.05 ・・・(2)
(式中、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向(x方向)のマトリックス屈折率、nはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が、全ジカルボン酸成分の重量を基準として1モル%以上20モル%以下のナフタレンジカルボン酸残基を含有している延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸フィルムに関する。更に詳しくは、透過視認性と散乱反射光による視認性の両特性ともに優れ、かつコントラスト特性にも優れた、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムとして好適な延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窓、ショウウインドウに透明なプロジェクションスクリーンを貼合し、プロジェクターからコンテンツ画像を投影することが行われている。具体的には、コンビニエンスストアなどの商店の窓、デパートなどのショウウインドウ、イベントスペースなどに設置された透明パーティションなどに、その透過視認性を保持したまま、商品情報、広告などのさまざまなコンテンツが投影表示され、有用なディスプレイ手法として利用されてきている。
【0003】
また、自動車、バイク、飛行機、ヘリコプター、船舶などの乗り物には、運転者(操縦者)などに各種情報を知らせるための様々な機器が設けられている。例えば自動車には、走行速度、回転数、燃料残量、時間、走行距離などを知らせるための機器が設けられている。自動車には、この他、ナビゲーション情報を知らせるためのナビゲーション装置が設けられることもある。
自動車においては、これらの情報表示のための機器の多くは、フロントウィンドウ下方に配置されているため、運転中に運転者がフロントウィンドウ下方の機器を見て情報を読み取る時には、視点を比較的大きく移動させている。そこで、安全運転のために視点の移動距離を小さくすべく、ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置と呼ばれる表示装置が提案されている。HUD装置としては、透明なプロジェクションスクリーンにプロジェクターからコンテンツ画像を投影して、情報を表示するものが提案されている。そのようなスクリーンをフロントウィンドウ下部のウィンドウガラス面や、ウィンドウ近くの運転席(操縦席)内部に配置することで、運転者は比較的小さな視点移動で情報を読み取ることができる。
これらの使用形態の場合には、窓やショウウインドウ、透明パーティション、乗り物のフロントウインドウ基材が本来有している透過視認性を損なわずに、プロジェクションスクリーンとしての良好な散乱反射性を発現させる、という相反する特性が求められる。
【0004】
かかる各種プロジェクションにおいて、光を投影するソースとしては、輝度、消費電力の少なさなどの点で、小型の液晶表示装置(LCD)などを透過させた光を投射する、いわゆる液晶プロジェクター(LCP)が用いられることが多い。
LCPから出射する光は、LCDの出射側偏光板を通して出てきたものであるから、直線偏光である。したがって、プロジェクションスクリーンとしては、LCPから出射した直線偏光のみを散乱すればよく、該偏光の振動方向と直交した方向の偏光線分については、できるだけ透過させたほうが、透明基材の透過視認性を確保するためには有利であり、一種の散乱型偏光子としての特性を持つものが好ましい。
【0005】
散乱型偏光子の機能を有する材料として、例えば特許文献1、2および非特許文献1、2には、高分子材料と液晶との複合体を延伸することにより液晶を配向させた異方性散乱体を散乱型偏光板として用いる方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3、4、5および非特許文献3、4には非相溶系の高分子ブレンドフィルムを延伸することにより同様に散乱型偏光板とする方法が開示されている。また、特許文献6にはポリエチレンテレフタレートからなる高分子マトリックス中に高分子粒子を含有する、選択散乱性を有する配向フィルムが開示されている。そして、特許文献6によると、かかる配向フィルムを含んでなるスクリーンは透明で表示品位が高く、透過型や反射型プロジェクタスクリーンとして用いられることが開示されている。
【0007】
透明タイプのプロジェクションスクリーンの場合、その使用目的から、投影画像とスクリーンの向こう側にある物体を、同時に見るものであるものの、散乱光による投影画像の視認性を高めようとすると透過視認性能の低下が避けられず、さらなる改良が求められている。また、かかる使用目的の場合、必然的にスクリーンには外光が入射することになる。この外光は投射光と同様にスクリーンで散乱反射してしまうため、投影画像のコントラストが悪くなり、視認性低下の一因となる。外光は、一般的に無偏光であるため、スクリーンに外光による視認性低下防止の機能を発現させるには、スクリーン平面状のすべての方向にわたって、拡散反射率をある程度の値より低く保つことが求められる。
【0008】
そこでプロジェクションスクリーンとして、従来よりもさらに散乱反射光による投影画像の視認性とスクリーンの向こう側にある物体を視認できる透過視認性の両特性を両立させ、かつコントラスト特性にも優れた、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムに適したフィルムが求められているのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開平8−76114号公報
【特許文献2】特開平9−274108号公報
【特許文献3】特表2000−506989号公報
【特許文献4】特表2000−506990号公報
【特許文献5】米国特許第5867316号公報
【特許文献6】国際公開第2006/009293号パンフレット
【非特許文献1】O.A.Aphonin, et al.; Liq. Cryst., 15, 3, 395(1993)
【非特許文献2】O.A.Aphonin; Liq. Cryst., 19, 4, 469(1995)
【非特許文献3】H.Yagt, et al.; Adv. Mater., 10, 2, 934(1998)
【非特許文献4】M.Miyatake, et al.; IDW'98, 247(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、プロジェクションスクリーンとして重要な特性である散乱反射性を強化することにより、透過視認性および散乱反射視認性が向上し、かつ外光散乱によるコントラスト低下が防止された、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムに好適な延伸フィルムを提供することにある。
【0011】
さらに本発明の目的は、プロジェクションスクリーンとして重要な特性である散乱反射性を強化することにより、透過視認性および散乱反射視認性が向上し、かつ外光散乱によるコントラスト低下が防止され、さらに耐紫外線特性に優れた、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムに好適な延伸フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を含むマトリックス相および分散相からなり、マトリックス相を構成する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂として、一定量のナフタレンジカルボン酸残基を含有した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を用いることにより効果的に散乱効率を高めることができ、従来よりも分散相の添加量が少なくても散乱軸方向の散乱反射性を高めることが可能となり、結果として従来よりもさらに透過視認性および散乱反射視認性の両特性が向上し、かつ外光散乱によるコントラスト低下が防止された、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムに好適な延伸フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を含むマトリックス相および分散相からなる延伸フィルムであり、
マトリックス相および分散相の屈折率が下記式(1)(2)を満たし、
|(N+N)/2−(n+n)/2|≦0.05 ・・・(1)
|n−N|>0.05 ・・・(2)
(式中、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向(x方向)のマトリックス屈折率、nはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が、全ジカルボン酸成分の重量を基準として1モル%以上20モル%以下のナフタレンジカルボン酸残基を含有している延伸フィルムによって達成される。
【0014】
また本発明の延伸フィルムは、好ましい態様として、分散相の含有量が延伸フィルムの重量を基準として0.01重量%以上25重量%以下であること、ナフタレンジカルボン酸残基が2,6−ナフタレンジカルボン酸残基であること、該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の全ジカルボン酸成分の重量を基準として1モル%以上(100−m)モル%以下のテレフタル酸残基を含有しており、mがナフタレンジカルボン酸残基の含有量であること、分散相が1次粒子径が0.01〜10μmである粒子または粒子の凝集体もしくは熱可塑性樹脂であること、粒子の凝集体がコアシェル型粒子の凝集体であること、延伸フィルムの下記式(3)で表わされるヘーズ比Rが0.0を超え0.55未満であること、
ヘーズ比R=Hy/Hx ・・・(3)
(式中、Hyはy方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値であり、Hxはx方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値をそれぞれ表わす)
y方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの平行光線透過率が65%以上100%未満であり、かつx方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線反射率が15%以上30%未満であること、延伸フィルムがさらに紫外線吸収性化合物を含有してなること、紫外線吸収性化合物が下記式(1)および(2)の構造式で表される環状イミノエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を未反応の形態で用いたものであること、
【化1】

(式(1)中、Xは2価の芳香族残基であり、かつXに結合する構造式(1)中のイミノ窒素およびカルボニル炭素はX内に隣接して位置する元素と結合し、nは1〜3のいずれか整数であり、Rはn価の炭化水素残基でありかつヘテロ原子を含有しても良く、Rはn=2の場合に直接結合であることができる。)
【化2】

【化3】

【化4】

(式(2)中、Aは構造式(2−a)または構造式(2−b)で表される基であり、RおよびRは同一または異なる1価の炭化水素基であり、Xは4価の芳香族残基でありかつヘテロ原子を含有していてもよい。)
紫外線吸収性化合物の含有量が延伸フィルムの重量を基準として0.01重量%以上10重量%以下であること、JIS K6783bに準拠してサンシャインウエザーメーターを用いて1000時間照射した耐候性試験後の色相変化が1.0未満であり、かつヘーズ変化量が10%未満であること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
【0015】
本発明の延伸フィルムは、また、屋外に暴露して使用することができ、高透明プロジェクションスクリーン用または高散乱プロジェクションスクリーン用に使用する態様を包含するものである。
また本発明は、かかる延伸フィルムを用いた高透明プロジェクションスクリーンまたは高散乱プロジェクションスクリーンをも包含するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来よりもさらに透過視認性および散乱反射視認性の両特性が向上し、かつ外光散乱によるコントラスト低下が防止された延伸フィルムを提供することができ、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムとして有用であることから、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳しく説明する。
<屈折率特性>
本発明の延伸フィルムは、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を含むマトリックス相および分散相からなり、マトリックス相および分散相の屈折率が下記式(1)(2)を満たしていることを要する。
|(N+N)/2−(n+n)/2|≦0.05 ・・・(1)
|n−N|>0.05 ・・・(2)
(式中、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向(x方向)のマトリックス屈折率、nはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
【0018】
本発明のフィルムは、x、y、z方向のマトリックス相および分散相の屈折率がそれぞれ式(1)、(2)を満たす場合に、x方向、すなわちマトリックスと分散相の屈折率差が最も大きい方向と平行な直線偏光を強く光散乱し、一方、フィルム平面内でx方向と直交するy方向と平行な直線偏光は散乱することなく透過するという光学特性を発現する。x方向は散乱軸に相当する。
上式中、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表す。nはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向(x方向)のマトリックス屈折率を表し、本発明においては高延伸倍率方向と一致する。nはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nはx方向の分散相屈折率、Nはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す。
また、x方向と平行な直線偏光は、x方向の振動面をもつ直線偏光と同義であり、y方向と平行な直線偏光はy方向の振動面をもつ直線偏光と同義である。
【0019】
上記式(1)において、|(N+N)/2−(ny+nz)/2|>0.05の場合は、yz平面内において、マトリックス相と分散相の屈折率差が大きいため、x方向以外での光散乱が増加して偏光度が低下し、透過視認性の低下につながる。また(1)式の下限は0である。
【0020】
また上記式(2)において、|nx−Nx|≦0.05の場合は、散乱軸であるx方向の光散乱性能が不十分となり、必要である偏光の出射が低下し、偏光度を低下させることとなる。
|nx−Nx|は0.05を超える範囲で、屈折率差が大きい方がよりx方向の光拡散性能が高まり、好ましくは0.07以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.13以上である。一方、|nx−Nx|の値が大きくなるに従い、次第に後方散乱性が増加して全光線透過率が低下し、光の取り出し効率の低下につながることから、上限は0.25以下であることが好ましく、より好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.17以下である。
【0021】
本発明の偏光選択性散乱フィルムは、yz平面内でマトリックス相と分散相の屈折率の平均がほぼ一致し((1)式)、かつx方向においてマトリックス相と分散相の屈折率の差が大きく、差の絶対値が0.05を越えることにより、フィルム中を透過する光の中で多く存在するフィルム面内に対して斜め入射する偏光に対して高い光散乱性を示す。
【0022】
このように、本発明の散乱異方性を有する高分子フィルムは、フィルム面内の一方向でなくyz平面内でマトリックスと分散相の屈折率がほぼ一致し、かつx方向においてマトリックスと分散相の屈折率の差が大きく、差の絶対値が特定値以上であることにより、フィルムに入射する光の中で最も多く存在するフィルム面内に対して斜め入射する偏光に対して高い散乱異方性を示す。
【0023】
本発明の屈折率特性を有するフィルムは、後述するように、固有の屈折率が近いマトリックス相の構成成分および分散相の構成成分を含む組成物を、溶融押出法により未延伸シートにし、該未延伸シートを少なくとも一方向に延伸して一軸延伸に近い延伸を行うことによって得ることができる。さらに、マトリックス相として一定量のナフタレンジカルボン酸残基を含有する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を用い、延伸に伴う一方向のマトリックス相の屈折率を効率的に変化させ、一方、分散相として延伸による屈折率変化の小さい粒子を用いることにより、本発明の屈折率特性を達成することができる。
【0024】
マトリックスの屈折率は、yz平面内においては等方的に近いほど好ましく、下記式(4)を満足することがより好ましい。
0.85<ny/nz≦1.2 ・・・(4)
(ここで、nはマトリックスの屈折率を表し、nはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向のマトリックス屈折率であり、nはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率をそれぞれ表す)
(3)式で表されるny/nzが1に近いほど、Y軸方向の視野角が広がる。
【0025】
また、式(1)(2)および(4)の屈折率関係を達成する上で、本発明の偏光選択性散乱フィルムは、フィルム平面内で最も屈折率が高い方向のマトリックス屈折率nxとフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率nとは同一でないことが必要である。
【0026】
<マトリックス相>
本発明の延伸フィルムは、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を含むマトリックス相および分散相からなる。マトリックス相を形成する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、全ジカルボン酸成分の重量を基準として1モル%以上20モル%以下のナフタレンジカルボン酸残基を含有していることを要する。熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂がかかる含有量の範囲でナフタレンジカルボン酸残基を含有することにより、延伸に伴う一方向のマトリックス相の屈折率変化が大きくなり、分散相との屈折率差がつきやすいため、ナフタレンジカルボン酸残基を含有しない系に較べて分散相の含有量が少なくても散乱軸方向の散乱反射性を高めることができる。その結果、従来よりもさらに透過視認性および散乱反射視認性の両特性が向上し、かつ外光散乱によるコントラスト低下が防止される。
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、フィルムを延伸したときの高分子鎖が配向しやすい結晶性あるいは半結晶性であり、かつ透明で、延伸フィルムにしたときの分散相との屈折率差を満たすものであれば、特に限定されない。熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が非晶性の場合、フィルムを延伸する際の高分子鎖の配向が難しいため、分散相との屈折率差が大きくなりにくく、十分な散乱異方性を得ることができない。
かかる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂として、熱可塑性芳香族ポリエステルの全ジカルボン酸成分の重量を基準として1モル%以上(100−m)モル%以下の範囲でテレフタル酸残基を含有する熱可塑性芳香族ポリエステルであることが好ましい。ここで、mはナフタレンジカルボン酸残基の含有量を表わす。テレフタル酸残基の含有量の下限値は、より好ましくは50モル%、さらに好ましくは80モル%、特に好ましくは85モル%である。またテレフタル酸残基の含有量の上限値は、より好ましくは99モル%、さらに好ましくは95モル%、特に好ましくは90モル%である。
【0027】
また、熱可塑性芳香族ポリエステルのジオール成分はエチレングリコール残基であることが好ましく、その含有量は全ジオール成分量を基準として80モル%以上100モル%以下であることが好ましい。エチレングリコール残基含有量の下限は、90モル%であることがより好ましく、95モル%であることがさらに好ましい。
これらの中でも、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の主たる成分はポリエチレンテレフタレートが好ましい。主たる成分量は、上述のテレフタル酸残基量に従って定められる。
【0028】
ナフタレンジカルボン酸残基の含有量は、5モル%以上15モル%以下であることが好ましく、10モル%以上15モル%以下であることがさらに好ましい。ナフタレンジカルボン酸残基の含有量が下限に満たない場合、分散相との屈折率差効果が十分でない。一方、ナフタレンジカルボン酸残基の含有量が上限を超える場合、マトリックス樹脂全体としての屈折率が大きくなりすぎ、透過視認性に悪影響を与える。また、上限値を超える場合、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が非晶性を示すようになり、延伸に伴う屈折率変化が生じなくなる。
ナフタレンジカルボン酸残基は、延伸により得られる分子鎖配向方向への屈折率増大効果がもっとも顕著な、2,6−ナフタレンジカルボン酸残基が好ましい。
【0029】
熱可塑性芳香族ポリエステルがテレフタル酸残基を含んでいる場合、かかる屈折率特性を満たす範囲内であれば、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を含有してもよく、イソフタル酸、フタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸を例示することができる。また、熱可塑性芳香族ポリエステルがエチレングリコール残基を含んでいる場合、かかる屈折率特性を満たす範囲内でエチレングリコール以外のジオール成分を含有することができ、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールの如き脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。
【0030】
<分散相>
本発明の延伸フィルムの分散相は、1次粒子径が0.01〜10μmである粒子または粒子の凝集体もしくは熱可塑性樹脂であることが好ましい。
粒子としては、透明な有機粒子あるいは無機粒子であれば特に制限は無い。好ましくはフィルムを延伸したときにボイドの生じにくい有機粒子である。ここで1次粒子径とは粒子の最小単位の大きさである。1次粒子径が0.01以下の場合は散乱反射性能が生じない可能性が高く、10μmを越える場合は延伸時にボイドが生じやすくなる。かかる粒子は、延伸後のマトリックス相のy方向、z方向の屈折率と同じか屈折率差が0.035以下である屈折率を有することがさらに好ましい。
【0031】
有機系の粒子の種類として、例えばアクリル粒子、スチレン粒子、シリコーン粒子、スチレン−ブタジエンゴム粒子、アクリル−アクリルコアシェル型粒子、アクリル−スチレン−ブタジエンコアシェル粒子が挙げられる。特にコアシェル型粒子は、ゴム弾性を有するため延伸によるボイド生成をさらに抑制することができ、本発明の諸光学特性を得やすい。
【0032】
マトリックス相の主たる成分がポリエチレンテレフタレートの場合、分散相に用いる粒子の種類としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、メタクリレート−スチレン共重合体、アクリル−アクリルコアシェル型粒子、アクリル−スチレン−ブタジエンコアシェル粒子が例示される。これら分散相の屈折率は、1.51〜1.58であることが好ましい。
分散相が熱可塑性樹脂組成物の場合、熱可塑性樹脂としては、高透明でマトリックス相を形成する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂と非相溶であれば特に制限されないが、延伸後のマトリックス相のy方向、z方向の屈折率と同じか屈折率差が0.035以下である屈折率を有することが好ましい。
【0033】
マトリックス相の主たる成分がポリエチレンテレフタレートの場合、分散相に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、メタクリレート−スチレン共重合体が例示される。これら分散相の屈折率は、1.51〜1.58であることが好ましい。
【0034】
分散相が熱可塑性樹脂組成物の場合、マトリックス中に分散相の高分子が島状に分散している。分散相の形態としては一般に延伸方向に長軸を持つ楕円球であるが、その平均径としては0.1〜400μmが好ましい。平均径が0.1μm未満の場合は、光学的な作用を生じないことがあり、また400μmより大きい時は散乱の異方性が不十分となることがある。より好ましくは0.5〜50μmである。
本発明の分散相は、分散相がフィルム延伸方向に変形することでボイドが生じない点で、粒子の凝集体であることが好ましい。分散相が粒子の凝集体で構成されることにより、フィルム延伸方向に変形するに際し、マトリックス相のように分子配向しながら屈折率の変化を伴う変形ではなく、個々の1次粒子の形は維持したまま凝集体が変形するため、分散相としての屈折率変化は伴わない点に特徴を有している。特に1次粒子径がサブミクロンオーダーの粒子の場合、表面エネルギーの影響で凝集体になりやすく、フィルムを延伸したときに凝集体が変形することによりボイドが生じにくいため、本発明の屈折率特性、光線透過率、ヘーズを得ることができる。また粒子の凝集体は、熱可塑性樹脂に較べて分散相のサイズコントロールがしやすいため、散乱強度をコントロールしやすく、また波長依存性をなくすことができるため散乱光の着色を防ぐことができる。
【0035】
分散相の含有量は、延伸フィルムの重量を基準として0.01重量%以上25重量%以下であることが好ましい。分散相の含有量は、かかる範囲内において分散相の含有量が増加するに従い、散乱光を多重に散乱させて出射光を正面方向に立ち上げることができる。またかかる範囲内において分散相の含有量を減らすことにより、多重散乱を減らしシャープな出射パターンを得る等のコントロールが可能である。
ただし分散相の含有量が上限を超える場合は、過度の多重散乱のため、偏光分離効果が低下する傾向にあり、また下限に満たない場合は散乱が著しく少なく、この場合も偏光分離性能を確保することが難しくなる。フロントウィンドウとしての透過視認性を確保する目的から、分散相の含有量は、0.1重量%以上10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
<紫外線吸収性化合物>
本発明の延伸フィルムは、ナフタレンジカルボン酸残基を含有するため、屋外などで使用した場合に紫外線により基材劣化や変色が生じやすく、スクリーンとして用いた場合に基材劣化による視認性の低下や着色による投影画像品位の低下が生じることがある。
そこで、耐候性を付与する目的で紫外線吸収性化合物を含有することが好ましい。紫外線吸収性化合物としては、構造式(1)あるいは構造式(2)で表わされる環状イミノエステルの少なくとも1種類を未反応の形態で用いることが、耐候性を効率よく発揮させうること、ポリエステルフィルムの黄色着色の防止が容易となることから好ましい。
【0037】
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0038】
構造式(1)中、Xは2価の芳香族残基であり、かつXに結合する構造式(1)中のイミノ窒素およびカルボニル炭素はX内に隣接して位置する元素と結合する。nは1,2または3である。Rはn価の炭化水素残基で、これはさらにヘテロ原子を含有していてもよい。またはRはn=2のとき直接結合であることができる。
構造式(2)中、Aは構造式(2−a)で表される基であるか、または構造式(2−b)で表される基である。RおよびRは同一もしくは異なる1価の炭化水素基である。Xは4価の芳香族残基で、これはさらにヘテロ原子を含有していてもよい。
【0039】
上記の紫外線吸収性化合物の含有量は、延伸フィルムの重量を基準として0.01重量%以上10重量%以下であることが好ましい。紫外線吸収性化合物の含有量は、0.1重量%以上5重量%以下であることがさらに好ましく、0.2重量%以上3重量%以下であることがかかる効果を向上させるために特に好ましい。紫外線吸収性化合物の含有量が下限に満たない場合、フィルムの耐候性が低下し、変色することがある。一方、紫外線吸収性化合物の含有量が上限を超え、過剰に存在すると、ポリエステルフィルムの黄色着色やブリードアウトによる外観悪化、機械的特性の劣化などが生じることがある。
【0040】
紫外線吸収性化合物の添加方法は特に限定されないが、ポリエステル重合工程での添加、フィルム製膜前の溶融工程での樹脂中への練込み、二軸延伸フィルムへの含浸、などを挙げることができ、特にポリエステル重合度低下を防止できる点で、フィルム製膜前の溶融工程での樹脂中への練込みが好ましい。その際の紫外線吸収性化合物の練込みは、該化合物粉体の直接添加法、マスターバッチ法などにより行うことができる。
【0041】
<その他添加剤>
本発明のフィルム原料組成物には、本発明の趣旨を超えない範囲でラジカル捕獲タイプ、還元剤タイプなどの安定剤、加工助剤、難燃剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【0042】
<ヘーズ比>
本発明の延伸フィルムの下記式(3)で表わされるヘーズ比Rは、0.0以上0.55未満であることが好ましい。
ヘーズ比R=Hy/Hx ・・・(3)
(式中、Hyはy方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値であり、Hxはx方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値をそれぞれ表わす)
ここで、ヘーズ値は、JISK7105に準拠して下記式(5)により求められる。
H=(拡散透過率/全光線透過率)×100 ・・・(5)
なおy方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hy、x方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hxは、それぞれの方向の直線偏光について、上式により求められる。
ヘーズ比Rが上限を超えると偏光分離性能が低下することがある。かかるヘーズ値特性は、マトリックス相と分散相のx方向、y方向、z方向の屈折率がそれぞれ式(1)、式(2)を満たすこと、すなわちマトリックス相と分散相の屈折率特性に着目したそれぞれの材料を組み合わせ、後述する製膜条件で少なくとも一方向に延伸して一軸延伸に近い延伸を行うことにより得られる。
【0043】
<光線透過率および光線反射率>
本発明の延伸フィルムは、y方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの平行光線透過率が65%以上100%未満であり、かつx方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線反射率が15%以上30%未満であることが好ましい。
ここで平行光線透過率とは、入射光線と同一正線上で測定される平行光線透過率であり、JISK7105に準拠して、全光線透過率から拡散透過率を差し引いて求められる。
y方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの平行光線透過率の下限値は、70%であることがより好ましく、85%であることがさらに好ましく、88%であることが特に好ましい。また、y方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの平行光線透過率の上限値は、95%であることがより好ましく、92%であることがさらに好ましい。
また、x方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線反射率の上限値は25%であることがより好ましく、20%であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明の延伸フィルムは、該平行光線透過率および該全光線反射率がそれぞれかかる範囲にあることにより、高透明プロジェクションスクリーンに適しており、より高い透明性を維持しながら反射視認性が高いスクリーンを得ることができる。一方、該平行光線透過率が低いフィルムあるい該全光線反射率が高すぎるフィルムの場合、フロントウィンドウなどに用いた際の透過視認性が劣ることがある。また該全光線反射率が低い場合は十分な散乱反射光による視認性が得られないことがある。
【0045】
一方、全光線反射率が上限を超える場合、透過率が低下し、高透明プロジェクションスクリーンとしての使用は難しくなるが、高散乱プロジェクションスクリーンとして用いることが可能である。
光線透過率および光線反射率は、マトリックス相と分散相のy方向、z方向の屈折率特性が式(1)を満たすこと、および分散相の含有量が延伸フィルムの重量を基準として0.01%以上3重量%未満であることによって達成される。
【0046】
<耐侯性>
本発明の延伸フィルムは、JISK6783bに準拠してサンシャインウエザーメーターを用いて1000時間照射した耐候性試験(以下、屋外暴露促進試験と称することがある)後の色相変化が1.0未満であり、かつ、ヘーズ変化量が10%未満であることが好ましい。
【0047】
本発明における色相変化は、L*a*b*で表わされる色相データから、下記式(6)に基づき求められる。
ΔE=((L*−L*2+(a*−a*2+(b*−b*21/2
・・・(6)
(式中、ΔEは色相変化、L*、a*、b*は屋外暴露促進試験実施前のそれぞれL*値、a*値、b*値、L*、a*、b*は屋外暴露促進試験実施後のそれぞれL*値、a*値、b*値である。)
このΔE値が1.0未満であれば、スクリーンの色目の変化が視認し難いものとなり、屋外での使用に耐えうる。また色相変化が0.5未満であれば、さらに好ましい。
【0048】
また、フィルムの耐候性が十分でない場合、フィルムを構成する熱可塑性芳香族ポリエステルの劣化により白化が生じる。かかる耐候性試験後のフィルムのヘーズ変化量が10%以上では、フィルムの光学特性、特に、光線透過率の低下が生じ、スクリーンとしての視認性が低下することがある。
本発明のフィルムは、ナフタレンジカルボン酸残基を含むため、紫外線による色相変化が生じやすいが、紫外線吸収性化合物を含有することにより、これらの耐候特性が得られる。
【0049】
<フィルムの製膜方法>
本発明のフィルムは、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融押出固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸した延伸フィルムであって、該樹脂のマトリックス中に分散相を有しているものであり、以下の方法により製造することができる。
【0050】
(溶融押出キャスティング)
本発明のフィルムは、マトリックス相及び分散相の構成成分を含む樹脂組成物を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸して一軸延伸に近い延伸を行うことにより得られる。
溶融押出には、従来公知の手法を用いることができる。具体的には、乾燥した前述の樹脂組成物ペレットを押出機に供給し、Tダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法や、樹脂ペレットを供給した押出機にベント装置をセットし、溶融押出時に水分や発生する各種気体成分を排出しながら、同じくTダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法が挙げられる。
スリットダイより押出された溶融樹脂は、キャストされ冷却固化させる。冷却固化の方法は、従来公知のいずれの方法をとっても良いが、回転する冷却用ロール上に溶融樹脂をキャストし、シート化する方法が例示される。
【0051】
冷却用ロールの表面温度は、マトリックス相を形成する熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−100)℃〜(Tg+20)℃の範囲に設定するのが好ましい。また冷却用ロールの表面温度は、マトリックス相を形成する熱可塑性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−30)℃〜(Tg−5)℃の範囲に設定するのがさらに好ましい。冷却ロールの表面温度が上限を超える場合、溶融樹脂が固化する前に該ロールに粘着することがある。また冷却ロールの表面温度が下限に満たない場合、固化が速すぎて該ロール表面を滑ってしまい、得られるシートの平面性が損なわれることがある。
冷却ロールへのキャスティングの際に、溶融樹脂が冷却ロール上へ着地する位置近傍に金属ワイヤーを張り、電流を流すことで静電場を発生させ樹脂を帯電させて、冷却ロールの金属表面上への密着性を高めることも、フィルムの平面性を高める観点から有効である。その際、樹脂組成物中に、本発明の趣旨を超えない範囲で、電解質性物質を添加してもよい。
【0052】
(延伸)
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも一方向に延伸して一軸延伸に近い延伸を行うことにより、フィルムの光学特性などを、本発明の目的と合致させることができる。
かかる延伸の方法は、逐次延伸機または同時延伸機を用いて行うことができる。また高い生産性を得るためには、フィルムは、上述のシート製造に引続く連続的工程にて製造されることが好ましい。以下、延伸方法を例示する。
例えば、縦方向(連続製膜方向、製膜方向、長手方向、MDと記載することがある。)に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
【0053】
ロールを用いる延伸方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、熱媒を通したロールで誘導加熱する方法、赤外加熱ヒーターなどで外部から加熱する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。またオーブン中で延伸する方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、フィルム両端をクリップなどにより把持するテンター式オーブンにてクリップ間隔を延伸倍率にしたがって広げる方法、オーブン中にロール系を設置しフィルムをパスさせて延伸する方法、オーブン内で幅方向をまったくフリーにして入側と出側の速度差のみで延伸する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。
また、幅方向(連続製膜方向に直交する方向、横方向、TDと記載することがある。)に延伸する場合は、クリップなどにより端部を把持する方式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。
【0054】
(延伸温度)
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、Tg〜(Tg+40℃)の温度とするのが好ましい。フィルムの延伸温度がTg(マトリックス相の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂のガラス転移点温度)に満たない場合は、延伸自体が困難であり、一方延伸温度が(Tg+40℃)を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、分子鎖の配向が不足し、得られたフィルムの高延伸方向(x方向)におけるマトリックス相と分散相との屈折率バランスがとりにくくなることがある。
延伸温度のより好ましい範囲は、Tg〜(Tg+20℃)である。
【0055】
(延伸倍率)
延伸倍率のコントロールは、一軸延伸に近い延伸フィルムとし、本発明の屈折率特性を発現する上で最も重要である。
延伸倍率は、RMD>RTDまたはRTD>RMDであることが好ましい。RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率を示す。これは、RMDとRTDとが等しくなく、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きいことを意味する。また、これは必ずしも二軸延伸のみを意味するものではなく、延伸直交方向がフリーの状態での一軸延伸により直交方向が実質的に収縮しRMD>RTDの場合のRTD、あるいはRTD>RMDの場合のRMDの値が1未満になる場合、さらには、テンター方式延伸装置などを用いてむしろ積極的に直交方向を収縮させる場合をも包含する。
【0056】
延伸倍率は、さらに好ましくは、RMD>RTDの場合にはRMD/RTDが1.0を超え7.0以下、かつRTDが0.7以上2.0以下の範囲、またはRTD>RMDの場合にはRTD/RMDが1.0を超え7.0以下、かつRMDが0.7以上2.0以下の範囲である。
MD/RTDまたはRTD/RMDが1.0、すなわちRMD=RTDの場合は、得られたフィルムの高延伸方向(x方向)におけるマトリックス相と分散相との屈折率の関係は式(1)(2)の関係を満足することができない。
MD>RTDの場合のRMD/RTD、あるいはRTD>RMDの場合のRTD/RMDが、7.0を超える場合、本発明の屈折率特性が得られなくなり、また延伸倍率の低い方向の機械特性が低下して脆くなる可能性がある。
MD>RTDの場合のRTD、あるいはRTD>RMDの場合のRMDが0.7に満たない場合、すなわち延伸直交方向がフリーな場合に、延伸直交方向が極端に収縮すると、フィルムの平面性や均一性を損なうばかりか、この場合も延伸倍率の低い方向の機械特性が低下し脆くなる可能性がある。一方、RMD>RTDの場合のRTD、あるいはRTD>RMDの場合のRMDが2.0を超える場合はnzが小さくなりすぎ、マトリックス相の屈折率バランスのうち、特にny/nzの値が本発明に規定した範囲にならないことがある。
【0057】
延伸倍率の相互関係は、より好ましくはRMD>RTDの場合にはRMD/RTDが、またはRTD>RMDの場合にはRTD/RMDが3.0以上5.5以下である。またそれぞれの延伸方向の好ましい範囲は、RMD>RTDの場合にはRMDが3.0以上6.0以下、かつRTDが0.95以上1.75以下の範囲、またはRTD>RMDの場合にはRTDが3.0以上6.0以下、かつRMDが0.95以上1.75以下の範囲である。
【0058】
(延伸速度)
延伸速度は5〜500000%/分であることが好ましい。
【0059】
(熱固定処理)
本発明のフィルムの製造工程においては、熱寸法安定性を付与させるために、熱固定処理を施すことが好ましい。熱固定処理は、延伸したフィルムに一定の張力をかけて寸法を所定の条件にて固定した状態で、樹脂が十分結晶化しうる温度で熱処理を行うものである。
具体的な手法として多く用いられるものとして、テンター式オーブンにて延伸した後、クリップ把持にて寸法を所定の値に固定したまま、熱処理温度に設定したゾーンにフィルムを導く方法を例示することができる。寸法固定する条件として、延伸直後の幅を保つ方法、幅を縮めて弛緩させる方法、または逆に幅を広げて更なる緊張を与える方法、のいずれの方法を用いてもよく、所望する物性により適宜選択すればよい。また縦方向の寸法安定性を向上させるためには、上記熱処理ゾーン内で、フィルムを把持したクリップの間隔を所定の値に制御する方法、熱処理ゾーン中にてフィルムをクリップ把持から開放し、入/出側の速度比微調整により所望する物性を得る方法、などを例示することができる。
【0060】
該熱処理温度は、マトリックス相の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の結晶融解温度より20℃以上低い温度で行うことが好ましく、30℃以上低いことがさらに好ましい。熱処理による結晶化は、被熱による樹脂中分子鎖運動の活性化とそれに引続く結晶化との共奏過程であり、処理温度が高すぎると、分子鎖運動が活発になりすぎて延伸により生成した配向も損なわれてしまうことがあり、本発明に規定する屈折率特性が得られなくなることがあるためである。
必要に応じ、この熱固定処理に加え、熱弛緩処理などの更なる熱寸法安定化処理を施してもよい。
【0061】
(フィルムの後加工)
延伸したフィルムは、他基材との貼合時の接着性向上などの必要に応じて、表面活性化処理(コーティング、コロナ放電、プラズマ処理など)などの後加工を施しても良い。この後加工はフィルム延伸工程中に行っても良く、また別工程で行っても良い。
【0062】
<スクリーン>
本発明の延伸フィルムは良好な透過視認性と良好な散乱反射性とを有するため、各種のスクリーン用途に用いることができ、具体的には高透明スクリーン用途、高散乱スクリーン用途として用いることができる。また具体的なスクリーン用途としてプロジェクションスクリーン用途が挙げられ、視認者と表示装置の位置関係により、透過型プロジェクションスクリーン(リアプロジェクションスクリーンと称することがある)、反射型プロジェクションスクリーン(フロントプロジェクションスクリーンと称することがある)のいずれにも用いることができる。
これらのスクリーン用途の中でも高透明スクリーン用途が好ましく、その具体的な用途の一例としてヘッドアップディスプレイ(HUD)プロジェクションスクリーン用フィルムに好適に使用することができる。また、1つのスクリーンで透過型、反射型の両方のプロジェクションスクリーンとして用いることも可能である。
【0063】
なお本発明における高透明スクリーンは、前述の全光線反射率が30%未満である、より透過視認性の高いスクリーンであり、透過型プロジェクションスクリーン、反射型プロジェクションスクリーンのいずれにも使用することができる。また本発明における高散乱スクリーンは、前述の全光線反射率が30%以上である、より散乱反射性の高いスクリーンであり、透過型プロジェクションスクリーン、反射型プロジェクションスクリーンのいずれにも使用することができる。
【0064】
(高透明スクリーン用途)
本発明のフィルムは、良好な透過視認性と良好な散乱反射性とを有するため、各種の高透明スクリーン用フィルムとして好適に使用することができる。具体的には本発明のフィルムの少なくとも片面に粘着剤または接着剤加工を施し、ガラス板、透明樹脂シートなどの透明基材に貼合して、窓、パーティションなどの透明建材として用いることができ、広告、案内・情報、芸術、装飾などの映像コンテンツを投影する透過型プロジェクションスクリーン、反射型プロジェクションスクリーンとして使うことができる。
また本発明のフィルムは、良好な透過視認性と良好な散乱反射性とをするため、HUDプロジェクションスクリーン機能を持った自動車などのフロントウィンドウ用の合せガラス用中間膜として好適に使用することができる。具体的には本発明のフィルムの両面にポリビニルブチラールやエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂のような公知の合せガラス中間膜用素材を配し、2枚のガラスの間に挿入して圧着貼合する方法および使用形態が例示される。
【0065】
(高散乱スクリーン用途)
本発明のフィルムは、良好な散乱反射性にもかかわらず、散乱させたくない外光のうちのほぼ半分以上を透過軸偏光成分として透過させるため、各種の高散乱タイプの透過型プロジェクションスクリーン用フィルム、反射型プロジェクションスクリーン用フィルムとして好適に使用することができる。具体的には本発明のフィルムの片面に、黒色層などの光吸収層を積層させることにより、本発明のフィルムを透過した不必要な外光を吸収させることができ、コントラストのきわめて高い投影画像を得ることができる。屋外などの明所において、高コントラストが要求される場面では、きわめて有用なスクリーンを提供することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0067】
(1)屈折率
得られたフィルムを用い、波長473nm、633nm、830nmの3種のレーザー光にて、屈折率計(Metricon社製、プリズムカプラ)を用いて測定された、3方向における屈折率nx、ny、nzを、下記のCauchyの屈折率波長分散フィッティング式
ni(λ)=a/λ+b/λ+c
(ここで、ni(λ):波長λ(nm)における各方向の屈折率(i=x、y、z)、a、b、c:定数、をそれぞれ示す。添字j(j=1,2)は、本測定時に観測される2種類の屈折率値に便宜的につけた番号である)
に代入し、得られた3つの式からa、b、cの定数を求め、しかる後に589.3nmにおける屈折率(nx(589.3)、ny(589.3)、nz(589.3))を算出した。
各方向それぞれにおいて、niおよびniのいずれかがマトリックス相の屈折率n、他方が分散相の屈折率Nであるが、これらは、下記の方法により各相単独の屈折率n’i、N’を測定し、これに近い値を選択することにより判別した。
【0068】
(1−1)マトリックス相の屈折率
各実施例、比較例で使用したマトリックス相の熱可塑性ポリエステル樹脂のみを用いて、各実施例、比較例と同じ条件でフィルムを作成し、上記(1)と同じ方法にて3方向における屈折率n’i(i=x、y、z)を測定した。
【0069】
(1−2a)分散相が微粒子、あるいはその凝集体からなる場合
浸液法にて、微粒子あるいはその凝集体単独の屈折率N’を直接測定した。屈折率が既知の標準液を準備し、スライドガラスとカバーガラス間に少量のサンプル粉体とともに挟んで液膜とし、アナライザーをはずした偏光顕微鏡にセットする。光源としてNaD線を用い、光量を絞った状態で観察すると、サンプルと標準液の屈折率が異なる場合、サンプル粉体の周囲にBecke線が観測される。顕微鏡のサンプルステージを下から上にごくわずかに動かした際に、サンプルの屈折率の方が標準液のものより高い場合はBecke線がサンプル粉体から標準液の方に移動し、逆の場合は、Becke線は逆方向に移動する。各実施例、比較例で使用した分散相の種類に応じて順次標準液の屈折率を変えながら測定を繰り返し、Becke線が観測されなくなったときの標準液の屈折率を分散相単独の屈折率N’とした。
【0070】
(1−2b)分散相が高分子化合物をマトリックス中に溶融混合分散させてなるものである場合
該高分子化合物単独の板状サンプルを作成し、上記(1)と同じ方法にて3方向における屈折率N’i(i=x、y、z)を測定し、さらにこれらを平均して分散相単独の屈折率N’を算出した。
該高分子化合物単独の板状サンプルは、該高分子化合物の樹脂ペレット少量を2枚のテフロン(登録商標)シート間に挟んで加熱ステージのついたプレス機にセットし、該高分子化合物の熱分解温度より10℃以上低く、かつガラス転移温度または融点より十分高い温度にて、0.5MPa、1分プレスした後、ガラス転移温度以下に急冷して作成した。
【0071】
(2)フィルムの平行光線透過率、全光線反射率およびヘーズ
得られたフィルムについて、JISK7105に準拠してフィルムの全光線透過率を測定した。
市販の偏光フィルムを、その透過軸が、得られたフィルムの最大屈折率方向およびその直交方向と平行になるように重ね合せたサンプルを、それぞれ作成した。
該サンプルを、ヘーズメーター(日本精密光学(株)製、POICヘーズメーター SEP−HS−D1)内に、偏光フィルムを光源側に、かつ偏光フィルムの透過軸方向が鉛直となるようにセットし、JISK7105に準拠してフィルムの平行光線透過率およびヘーズを測定した。
一方で、市販の分光光度計にて可視光線部分に得られたフィルムの吸収がないことを確認した後、100−(全光線透過率)を全光線反射率(%)とした。
【0072】
(3)屋外曝露促進試験
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製、WEL−SUN−HCL型)を使用し、JIS−K−6783bに準じて、得られたフィルムに1000時間(屋外曝露1年間に相当)照射することにより屋外曝露促進試験を行った。
【0073】
(4)耐候性1(色相変化)
表面平滑な標準白板(x=93.03、y=94.95、z=112.32)の上に、屋外曝露促進試験実施前および実施後のサンプルフィルムを重ね、該フィルム面の色相を、色差計(日本電色工業(株)製、SZ−II型)を用いて反射法にて測定した。得られたデータをL*a*b*にて表現し、下記式に基づき色相変化を求め、下記式(6)の基準により耐候性を評価した。
ΔE=((L*−L*2+(a*−a*2+(b*−b*21/2
・・・(6)
(式中、ΔEは色相変化、L*、a*、b*は屋外暴露促進試験実施前のそれぞれL*値、a*値、b*値、L*、a*、b*は屋外暴露促進試験実施後のそれぞれL*値、a*値、b*値である。)
○:色相変化が1.0未満
×:色相変化が1.0以上
【0074】
(5)耐候性2(ヘーズ値変化)
屋外曝露促進試験実施前および実施後のサンプルについて、(2)のように市販の偏光フィルムをサンプルに重ねることなく、ヘーズメーター(日本精密光学(株)製、POICヘーズメーター SEP−HS−D1)内でヘーズ値を測定し、厚さ100μmのフィルムにおけるヘーズ値を計算し、試験前後のヘーズ値変化をもって、下記の基準により耐候性を評価した。
○:ヘーズ値変化が10%未満
×:ヘーズ値変化が10%以上
【0075】
(6)外光によるコントラスト特性
得られたフィルムを、市販の光学用粘着シート(日東電工(株)、透明両面接着テープCS9621)を介して、915mm×1220mmサイズの市販のアクリル板に貼付して、試験用スクリーンを作成した。照度200lxの室内で該スクリーンを床面に垂直に設置し、2m離れた位置から、30°の入射角にて、白地に黒、白地に50%灰色、50%灰色地に黒、の文字映像を投影した。プロジェクターは、1000lm(ルーメン)の液晶タイプの市販品に、偏光制御フィルター(カラーリンクジャパン製、カラーセレクトGM20)を取り付けたものを使用した。投影画像を20人の被験者に見せ、5点満点で、投影画像鮮鋭性の評価をさせ、評点を平均し、コントラスト特性とした。各被験者は、透過型投影(被験者がスクリーンを介してプロジェクターと反対の位置から視認する投影方法で、被験者−スクリーン−プロジェクターの位置関係にある)、反射型投影(被験者がプロジェクターと同じ側からスクリーンを視認する投影方法で、スクリーン−プロジェクターおよび被験者の位置関係にある)の両方について評価を行った。
【0076】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル132重量部、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル23重量部(ポリエステルの全ジカルボン酸成分あたり12モル%)、エチレングリコール96重量部、ジエチレングリコール3.0重量部、酢酸マンガン0.05重量部、酢酸リチウム0.012重量部を精留塔、留出コンデンサを備えたフラスコに仕込み、撹拌しながら150〜235℃に加熱しメタノールを留出させエステル交換反応を行った。メタノールが留出した後、リン酸トリメチル0.03重量部、二酸化ゲルマニウム0.04重量部を添加し、反応物を反応器に移した。ついで撹拌しながら反応器内を徐々に0.5mmHgまで減圧するとともに290℃まで昇温し重縮合反応を行った。
【0077】
得られたナフタレンジカルボン酸12モル%共重合ポリエステル(PET/NDC12;固有粘度(o−クロロフェノール、25℃)=0.6dl/g)のペレット99.3重量%を、分散相を構成する成分としてロームアンドハース製コアシェル型粒子(コア部:ジビニルベンゼン架橋スチレン〜ブタジエン共重合樹脂 シェル部:共重合アクリル樹脂)「パラロイドBTA712」(商品名)0.7重量%と混合し、160℃で4時間乾燥後、一軸混練押出機に供給し、溶融温度285℃で溶融後、フィルターで濾過し、スリットダイから押出した。
この溶融物を、表面温度をマトリックス樹脂のTgより低くした回転冷却ドラム上に押出し、厚み400μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムをテンターに供給し、85℃にて横方向に500%/分の延伸速度で4.0倍に延伸し、引き続き、テンター内で定幅を保ったまま、150℃にて1分間の熱処理を施し、100μm厚みの延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
ポリエチレンテレフタレートホモポリマーをマトリックス相とする比較例1のフィルムに比べ、分散相濃度が少ないにもかかわらず高いx方向の全光線反射率が得られ、同時にy方向の平行光線透過率も高くでき、透過視認性と散乱反射性の両立性に優れたものであった。
【0078】
[実施例2]
原料樹脂組成物として、PET/NDC12ペレット90.0重量%、コアシェル型粒子(「パラロイドBTA712」(商品名))10.0重量%とを混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
ポリエチレンテレフタレートホモポリマーをマトリックス相とする比較例2のフィルムに比べ、分散相濃度が少ないにもかかわらず高いx方向の全光線反射率が得られ、同時にy方向の平行光線透過率もより高くでき、透過視認性と散乱反射性の両立性に優れたものであった。
【0079】
[実施例3]
実施例1で用いたPET/NDC12ポリマーの重合工程の終了時に、該ポリマー90重量部に対して構造式(3)に示す化合物を10重量%添加して得られた紫外線吸収性化合物含有PET/NDC12ポリマー(PET/NDC12/UV;固有粘度(o−クロロフェノール、25℃)=0.6dl/g)のペレット10.0重量%と、構造式(3)に示す化合物を含まないPET/NDC12ペレット89.3重量%を混合して170℃で3時間乾燥後、分散相を構成する成分であるコアシェル型粒子(「パラロイドBTA712」(商品名))0.7重量%と混合した。かかる原料樹脂組成物を一軸混練押出機に供給し、溶融温度285℃で溶融後、フィルターで濾過し、ダイから押出した。
【化9】

【0080】
この溶融物を、表面温度をマトリックス樹脂のTgより低くした回転冷却ドラム上に押出し、厚み400μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムをテンターに供給し、85℃にて横方向に500%/分の延伸速度で4.0倍に延伸し、引き続き、テンター内で定幅を保ったまま、150℃にて1分間の熱処理を施し、100μm厚みの延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
ポリエチレンテレフタレートホモポリマーをマトリックス相とする比較例1のフィルムに比べ、分散相濃度が少ないにもかかわらず高いx方向の全光線反射率が得られ、同時にy方向の平行光線透過率も高くでき、透過視認性と散乱反射性の両立性に優れたものであった。
また得られたフィルムは、屋外暴露促進試験実施後の色相変化、ヘーズ値変化ともに小さく、耐侯性に優れていた。
【0081】
[実施例4]
原料樹脂組成物として、PET/NDC12/UVペレット10.0重量%と、構造式(3)に示す化合物を含まないPET/NDC12ペレット80.0重量%、コアシェル型粒子(「パラロイドBTA712」(商品名))10.0重量%を用いた以外は、実施例3と同様にして延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
ポリエチレンテレフタレートホモポリマーをマトリックス相とする比較例2のフィルムに比べ、分散相濃度が少ないにもかかわらず高いx方向の全光線反射率が得られ、同時にy方向の平行光線透過率もより高くでき、透過視認性と散乱反射性の両立性に優れたものであった。
また、得られたフィルムは、屋外暴露促進試験実施後の色相変化、ヘーズ値変化ともに小さく、耐侯性に優れていた。
【0082】
[比較例1]
原料樹脂組成物として、ポリエチレンテレフタレートホモポリマー(PET)(帝人ファイバー(株)製、固有粘度(o−クロロフェノール、25℃)=0.6dl/g)のペレット99.0重量%と、コアシェル型粒子(「パラロイドBTA712」(商品名))1.0重量%との混合物を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。実施例1、3対比、全光線反射率がやや低いにもかかわらず、平行光線透過率も低く、コントラスト特性が劣っていた。
【0083】
[比較例2]
原料樹脂組成物として、PETペレット85.0重量%、コアシェル型粒子(「パラロイドBTA712」(商品名))15.0重量%とを混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。実施例2、4対比、全光線反射率がやや低いにもかかわらず、平行光線透過率も低く、コントラスト特性が劣っていた。
【0084】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、従来よりもさらに透過視認性および散乱反射視認性の両特性が向上し、かつ外光散乱によるコントラスト低下が防止された延伸フィルムを提供することができ、高透明または高散乱プロジェクションスクリーン用フィルムとして有用であることから、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を含むマトリックス相および分散相からなる延伸フィルムであり、
マトリックス相および分散相の屈折率が下記式(1)(2)を満たし、
|(N+N)/2−(n+n)/2|≦0.05 ・・・(1)
|n−N|>0.05 ・・・(2)
(式中、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向(x方向)のマトリックス屈折率、nはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が、全ジカルボン酸成分の重量を基準として1モル%以上20モル%以下のナフタレンジカルボン酸残基を含有していることを特徴とする延伸フィルム。
【請求項2】
分散相の含有量が延伸フィルムの重量を基準として0.01重量%以上25重量%以下である請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
ナフタレンジカルボン酸残基が2,6−ナフタレンジカルボン酸残基である請求項1または2に記載の延伸フィルム。
【請求項4】
該熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の全ジカルボン酸成分の重量を基準として1モル%以上(100−m)モル%以下のテレフタル酸残基を含有しており、mがナフタレンジカルボン酸残基の含有量である、請求項1〜3のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項5】
分散相が1次粒子径が0.01〜10μmである粒子または粒子の凝集体もしくは熱可塑性樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項6】
粒子の凝集体がコアシェル型粒子の凝集体である請求項5に記載の延伸フィルム。
【請求項7】
延伸フィルムの下記式(3)で表わされるヘーズ比Rが0.0以上0.55未満である請求項1〜6のいずれかに記載の延伸フィルム。
ヘーズ比R=Hy/Hx ・・・(3)
(式中、Hyはy方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値であり、Hxはx方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値をそれぞれ表わす)
【請求項8】
y方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの平行光線透過率が65%以上100%未満であり、かつx方向と平行な直線偏光を延伸フィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線反射率が15%以上30%未満である請求項1〜7のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項9】
延伸フィルムがさらに紫外線吸収性化合物を含有してなる請求項1〜8のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項10】
紫外線吸収性化合物が下記式(1)および(2)の構造式で表される環状イミノエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を、未反応の形態で用いたものである請求項9に記載の延伸フィルム。
【化1】

(式(1)中、Xは2価の芳香族残基であり、かつXに結合する構造式(1)中のイミノ窒素およびカルボニル炭素はX内に隣接して位置する元素と結合し、nは1〜3のいずれか整数であり、Rはn価の炭化水素残基でありかつヘテロ原子を含有しても良く、Rはn=2の場合に直接結合であることができる。)
【化2】

【化3】

【化4】

(式(2)中、Aは構造式(2−a)または構造式(2−b)で表される基であり、RおよびRは同一または異なる1価の炭化水素基であり、Xは4価の芳香族残基でありかつヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項11】
紫外線吸収性化合物の含有量が延伸フィルムの重量を基準として0.01重量%以上10重量%以下である請求項9または10に記載の延伸フィルム。
【請求項12】
JIS K6783bに準拠してサンシャインウエザーメーターを用いて1000時間照射した耐候性試験後の色相変化が1.0未満であり、かつヘーズ変化量が10%未満である請求項9〜11のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項13】
屋外に暴露して使用される請求項9〜12のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項14】
高透明プロジェクションスクリーン用に用いられる請求項1〜12のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項15】
請求項14に記載された延伸フィルムを用いた高透明プロジェクションスクリーン。
【請求項16】
高散乱プロジェクションスクリーン用に用いられる請求項1〜12のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項17】
請求項16に記載された延伸フィルムを用いた高散乱プロジェクションスクリーン。

【公開番号】特開2010−126547(P2010−126547A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299403(P2008−299403)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】