説明

建物

【課題】狭隘で、杭の施工が必要な敷地において、敷地を有効に活用して建物内の床面積を広くとり、なおかつ基礎のコンクリートボリュームや鉄筋量を増やすことなくコストを低減する。
【解決手段】建物1は、地中に埋設された杭10と、柱20及び柱20の間に架け渡された床梁21で構成され、柱20が杭10で支持された主架構11と、主架構11から外側に張り出した梁40、41で構成された副架構12と、を有している。副架構12を構成する梁40、41は、主架構11の所定の階の床梁21と等しい高さに架けられ、主架構11の床梁21と副架構12を構成する梁21の上には、床50が連続的に形成されている。主架構11は、柱20の下端付近に架け渡された1階の床梁21aを備えるとともに、柱20が直接杭10に支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭隘かつ杭の施工が必要な敷地において、敷地を有効に活用できる建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の建築工事において、敷地内の地盤が軟弱な場合、杭の埋設や、柱状の地盤改良が必要になる。杭や柱状の地盤改良体(以下、総称して「杭」とする。)は、一般に、建物の柱の下方に基礎を介して配置されており、柱を同一鉛直線上で支持する。
【0003】
しかしながら、建物を高密に建築することが許容された都市部では、狭隘な敷地をほぼ埋め尽くすように、隣地境界に近接して建物を建築することが多く、このような条件下で杭を施工すると、隣地境界近くの地盤を乱すことによって近隣建物に悪影響を及ぼす可能性がある。かかる場合、杭の位置を柱とともに隣地境界から離す必要があり、こうなると、建物の床面積が小さくなり、敷地を有効に活用することができなくなる。
【0004】
そこで、特許文献1に記載されているように、杭を柱の下方に設置せずに柱より建物の内側に設置することが考えられるが、このような構成では、柱と杭の心ずれ(軸力の作用する位置と反力の作用する位置のずれ)によって、基礎には付加的に曲げモーメントやせん断力が作用し、その結果、基礎のコンクリートのボリュームや鉄筋量を増加させる必要があり、基礎工事における手間やコストが増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-348884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、狭隘且つ杭の施工が必要な敷地において、床面積が広く確保でき、なおかつ基礎工事における手間やコストを増大させることがない建物を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、地中に埋設された杭と、柱及び該柱の間に架け渡された床梁で構成され、前記柱が前記杭上に支持された主架構と、前記主架構から外側に張り出した梁で構成された副架構と、を有し、前記副架構を構成する梁は、前記主架構の所定の階の床梁と等しい高さに架けられ、前記主架構の床梁と前記副架構の張り出し梁の上には、床が連続的に形成されている建物である。
【0008】
本発明によれば、狭隘な敷地においても、、副架構により床面積を広く確保することができ、なおかつ、主架構の柱の下方に杭が設置されているので、柱と杭の心ずれ(軸力の作用する位置と反力の作用する位置のずれ)による付加的な力が作用しないので、基礎工事における手間やコストを増大させることがない。
【0009】
前記主架構が、前記柱の下端付近に架け渡された1階の床梁を備えるとともに、前記柱が直接前記杭に支持されていてもよい。かかる場合、通常柱と杭との間に形成される鉄筋コンクリートの基礎が省略されることで、基礎工事を完全に省略することができる。
【0010】
前記杭の上端が、中央が低い湾曲形状に形成され、前記柱が当該杭の上端に揺動自在に設置されていてもよい。かかる場合、建物を手間とコストをかけずに簡易に免震化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、狭隘且つ杭の施工が必要な敷地において、床面積が広く確保でき、なおかつ基礎工事における手間やコストを増大させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】建物の躯体構造の一例を示す説明図である。
【図2】建物の副架構の構成例を示す縦断面の説明図である。
【図3】建物の副架構の構成例を示す横断面の説明図である。
【図4】上面が湾曲した杭と柱の支持構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る建物1の躯体構成の一例を示す説明図である。
【0014】
建物1は、例えば鉄骨ラーメン構造の工業化住宅、すなわち、所定の平面モジュールを有し、材質、断面寸法(柱であれば外形寸法、梁であれば背、幅、ウェブ厚等)、接合部の納まり等の基本構成が標準化(規格化)され、予め工場等で製造された鉄骨部材の組み合わせによって架構が構成される住宅である。
【0015】
建物1は、地中に埋設された複数の杭10と、杭10に支持される主架構11と、主架構11の外周部に外側に張り出すように取り付けられた副架構12を有している。
【0016】
杭10は、円柱形状を有し、中心が建物1の通りの各交点にほぼ一致するように配置されている。なお、「通り」とは、柱や梁の平面的な配置の基準となるの仮想の基準線であり、通り同士の間隔は平面モジュールの整数倍となるように設定される。杭10は、例えばソイルセメント柱状改良体の内部に羽根付き鋼管を回転埋設された複合杭を用いることができる。
【0017】
主架構11は、角形鋼管からなり建物1の通りの交点上に立設された複数本の柱20と、H形鋼からなり当該柱20の間に水平に架け渡された複数本の床梁21で構成されている。柱20は、対応する杭10上に立設されており、鉄筋コンクリートの基礎を介することなく、杭10上に直接支持されている。柱20と杭10とは、柱20の下端のベースプレートが杭10の上端10aから突設されたアンカーボルトを介して接合されている。
【0018】
床梁21は、各階の床レベルに対応する高さに架け渡されて各階の床50を支持しており、特に、通常は鉄筋コンクリートの基礎の地中梁で支持される1階の床50aについても、地中梁にかえて、柱20の下端付近に架け渡された1階床梁21aで支持されている。床50は、平面モジュールの整数倍の寸法(例えば長さは2倍〜8倍、幅は1倍または2倍)を有するALC(軽量気泡コンクリート)製の床パネルからなる。
【0019】
図1〜図3に示すように副架構12は、外通り上の柱20又は床梁21から持ち出された床片持ち梁40、及び片持ち梁40の先端に架け渡された鼻先梁41で構成されており、主架構11の外周部に位置する柱20または床梁21から外側に張り出すように構成されている。片持ち梁40及び鼻先梁41は、床梁21と同一の高さと幅を有するH形鋼からなり、床梁21と等しい高さに架けられている。
【0020】
図2及び図3に示すように、主架構11を構成する床梁21や副架構12を構成する片持ち梁40、鼻先梁41で支持された床50は、ALC(軽量気泡コンクリート)製の床パネルからなる。床50には、例えば長さ及び幅が建物1の通り間の距離(平面モジュールの寸法)の整数倍(例えば長さは2倍〜8倍、幅は1倍または2倍)の複数種のALC(軽量気泡コンクリート)製の床パネルが用いられている。
【0021】
建物1の外壁60には、例えば幅が平面モジュールの1倍または2倍のALC製の外壁パネルが、建物1の外周部にある梁(主架構11の外通りの床梁21、副架構12の鼻先梁41や片持ち梁40)に、定規金物等を介して取り付けられて、外壁が構成される。
【0022】
本実施の形態によれば、杭10を主架構11からの副架構12の張り出し分だけ隣地境界から離すことができるので、杭10の施工の際に、近隣建物に及ぼす影響を低減させることができる。また、主架構11の柱20の下方に杭10を設置するので、柱と杭の心ずれ(軸力の作用する位置と反力の作用する位置のずれ)による付加的な力が作用しない。従って、基礎を構成するコンクリートや鉄筋のボリュームを増やす必要がなく、基礎工事における手間やコストを増大させることがない。また、主架構11から外側に張り出す副架構12を設け、主架構11の床梁21の上と同様に、副架構12を構成する鼻先梁41や片持ち梁40の上にも床50を連続的に形成するので、狭隘な敷地であっても床面積を広く確保することができる。
【0023】
また、主架構11が、柱20の下端付近に架け渡された1階層の床梁21aを備えるとともに、柱20が直接杭10に支持されているので、通常の柱と杭との間に形成されるコンクリートの基礎や地中梁の工事を完全に排除でき、コストをさらに低減することができる。
【0024】
上記実施の形態において、図4に示すように杭10の上端10aを、中央が低い湾曲形状に形成し、柱20を杭10の上端10aに固定せず揺動自在に載置してもよい。かかる場合、杭10の上端10aが曲面すべり支承として機能し、建物1を手間とコストをかけずに簡易に免震化することができる。
【0025】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0026】
例えば、以上の実施の形態で記載した建物1における副架構12を設置する位置や数は、任意に選択できる。副架構12は、隣地境界に近接する面の全長に亘って設けてもよいし、部分的に設けてもよい。また、副架構12は、全階層に設けてもよいし、一部の階層にのみ設けてもよい。また、副架構12は、主架構11の外周の全周に亘って設けてもよいし、一部にのみ設けてもよい。また、以上の実施の形態において、杭10上に直接柱20が支持されていたが、基礎を介して柱20が支持される場合にも本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 建物
10 杭
11 主架構
12 副架構
20 柱
21 床梁
21a 1階の床梁
40 片持ち梁
41 鼻先梁
50 床
50a 1階の床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された杭と、
柱及び該柱の間に架け渡された床梁で構成され、前記柱が前記杭で支持された主架構と、
前記主架構から外側に張り出した梁で構成された副架構と、を有し、
前記副架構を構成する梁は、前記主架構の所定の階の床梁と等しい高さに架けられ、
前記主架構の床梁と前記副架構を構成する梁の上には、床が連続的に形成されている、建物。
【請求項2】
前記主架構が、前記柱の下端付近に架け渡された1階の床梁を備えるとともに、前記柱が直接前記杭に支持されている、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記杭の上端が、中央が低い湾曲形状をなし、
前記柱が当該杭の上端に揺動自在に載置されている、請求項2に記載の建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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