説明

建築物の免震工法

【課題】 きわめて簡易な構造を有する安価な補強具を用いて充分な免震効果を得ることとができるばかりか施工もさほどの労力を必要とすることもなく、建築物の土台、柱、梁などの構造材が交差するコーナー部に沿って取り付けるだけの簡単な作業で済み、新築は勿論のこと、既存の建物にも簡単に施工を可能にする。
【解決手段】 円弧状に湾曲させた複数枚のばね板11,12の間に粘弾性材13を積層してなる補強具1を、建築物3の土台31、柱32、梁33などの構造材が交差するコーナー部に沿って配置するとともに補強具1の両端部に設けた固着手段2,2を介してコーナー部を挟んで互いに交差する構造材にそれぞれ固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の免震工法、殊に、建築物の土台、柱、梁などの構造材が交差するコーナー部に設置して補強し、地震や強風から建築物を守るための建築物の免震工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物について地震や台風時などの強風によって建物に加えられる振動によって建物の傾斜や倒壊を防ぐため各種の耐震手段が提示されている。
【0003】
そして、建築物の土台、柱、梁などの構造材が交差するコーナー部に沿って配置する免震補強具が例えば、特開2001−140341号公報、特開2003−96919号公報、特開2003−64771号公報、実用新案登録第3028231号公報などに提示されている。
【0004】
ところが、前記公報に提示されている免震補強具や補強工法は、免震効果が充分でなかったり、取付作業が面倒であったり、構造が複雑であったりするものであり、満足のいくものではなかった。
【特許文献1】特開2001−140341号公報
【特許文献2】特開2003−96919号公報
【特許文献3】特開2003−64771号公報
【特許文献4】実用新案登録第3028231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、充分な免震効果を発揮するばかりか取り付け作業も容易で経済的にも優れた建築物の耐震工法を提供するものである。
【0006】
前記課題を解決するため、本発明である建築物の耐震工法は、円弧状に湾曲させた複数枚のばね板の間に粘弾性材を積層してなる補強具を、建築物の土台、柱、梁などの構造材が交差するコーナー部に沿って配置するとともに前記補強具の両端部に設けた固着手段を介して前記コーナー部を挟んで互いに交差する構造材にそれぞれ固定することを特徴とする。
【0007】
また、前記ばね板がばね鋼材により形成されているとともに、前記粘弾性材がブチルゴム系、ジエンゴム系、ポリイソブチレン系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ビニル系などの高分子材料を主成分とし、更に、粘弾性材がシート状である場合、前記固着手段が、複数個設けられているととりつけられた補強具が回転してしまう心配がなく、補強具の両端に形成されたボルト孔と、これらのボルト孔および構造材に穿孔した貫通孔とに連通して嵌挿される取付けボルトとからなる場合、前記補強具の両端に形成されたボルト孔の内、内側のばね板に形成されたボルト孔が長孔である場合が好ましい。加えて、前記取付けボルトを段付きボルトとし、頭部の下面に沿って配置するワッシャの底面と段の下面に沿って配置するワッシャの上面との間隔が前記補強具の厚さよりも僅かに広く形成することにより、補強具が締め付けられてしまうことがなく充分な免震効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、きわめて簡易な構造を有する安価な補強具を用いて充分な免震効果を得ることとができるばかりか施工もさほどの労力を必要とすることもなく、建築物の土台、柱、梁などの構造材が交差するコーナー部に沿って取り付けるだけの簡単な作業で済み、新築は勿論のこと、既存の建物にも簡単に施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0010】
図1は本発明である本発明である建築物の耐震工法に使用する補強具の一例を示すものであり、補強具1は、円弧状に湾曲させた2枚のばね鋼材により形成されている例えば厚さが1〜10mm、幅が50〜100mm、長さが300〜1500mm程度の内側のばね板11,外側のばね板12の間に、例えばブチルゴム系、ジエンゴム系、ポリイソブチレン系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ビニル系などの高分子材料を主成分とする粘弾性材13を積層してなる。
【0011】
粘弾性材13は、例えば0.1〜5mm程度が好ましく、接着力に優れて製造容易であるとともに環境的にも問題のないものが好ましく剪断変形がばね板11,11に加わったときに、厚さ方向の変位が過大となって剥がれることがないことが必要である。
【0012】
また、補強具1の両端には2個ずつの固着手段2,2がそれぞれ設けられている。各固着手段2は、内側のばね板11,粘弾性材13および外側のばね板12にそれぞれ連通して形成されるボルト孔21,22,23と、前記ボルト孔21,22,23に挿入される取付けボルト24と、前記取付けボルト24に挿入されるワッシャ25,26および螺締されるナット27により構成され、殊に、内側のばね板11に形成されているボルト孔21は軸線方向に延びる長孔となっており、補強具1に振動や衝撃が加わったときに取付けボルト24に貫通している内側のばね板11が粘弾性材13を介して外側ばね板12に粘着した状態で軸線方向に移動して免震効果を発揮する。
【0013】
次に、前記補強具1を用いた本発明である建築物の免震工法について説明する。
【0014】
図2乃至図3は木造住宅における本発明の実施の形態の一例を示すものであり、補助具1が建築物3の土台31、柱32、梁33などの構造材が互いに交差するコーナー部に設置される。更に、詳しく説明すると、図3および図4に示すように、例えば土台の内側面31a,31aに補強具1の外側のばね板12を当てて配置するとともに内側のばね板11側からワッシャ25を介して内側のばね板11,粘弾性材13および外側のばね板12にそれぞれ連通して形成されるボルト孔21,22,23に差し込んだ取付けボルト24を、構造材である土台31に形成したボルト孔31bに差し込み、外側面31cに突出させた先端にワッシャ26を介してナット27を螺締して固定する。特に、本実施の形態では補強具1の両端には2個ずつの固着手段2,2がそれぞれ設けられているので、補強具1を確実に固着することができるばかりか、もしもいずれかが緩んだとしても他の3つの固着手段2によりがたついたり機能の低下を生じる心配がない。
【0015】
図4は本実施の形態を更に詳細に示すものであり、図4(a)に示すように、取付けボルト24が段段付きボルトであり、ワッシャ25が取付けボルト24の頭部側の太径部に嵌挿されるばねワッシャ25aとその先端側に嵌挿されるワッシャ25bおよび段部を形成する小径部に嵌挿されるワッシャ25cとから構成され、ワッシャ26がばねワッシャ26aとワッシャ26bとから構成される。
【0016】
そして、図4(b)に示すように、はじめに取付けボルト24の頭部側の太径部にばねネワッシャ25aとその先端側にワッシャ25bを嵌挿した状態で、補強具1を内側のばね板11,粘弾性材13および外側のばね板12にそれぞれ連通して形成されるボルト孔21,22,23に差し込むとともに取付けボルト24の小径部にワッシャ25cを嵌挿し、土台31に形成したボルト孔31bに差し込み、外側面31cに突出させた先端にワッシャ26bおよびばねワッシャ26aを介してナット27を螺締して固定する。
【0017】
本実施の形態では、取付けボルト24に段付きボルトを用い、取付けボルト24における頭部の下面に沿って配置するワッシャ25bの底面と、段の下面に沿って配置するワッシャ25cの上面との間隔L1が補強具1の厚さL2よりも僅かに(例えば1〜3mm程度)広く形成されている。
【0018】
従って、取付けボルト24を締め付けたとしても補強具1は常にワッシャ25bとワッシャ25cとの間に所定の隙間を有して配置されることになり、ばね板11およひ12が互いに密着して免震効果を発揮できないという事態に陥る心配がない。更に、取付けボルト24の両端にはばねワッシャ25a、ばねワッシャ26aを用いたので取付けボルト24の螺締が確実で緩んだりする心配もない。
【0019】
図5は、土台31に横揺れが加わったときの状態を示す説明図であり、補強具1を構成する内側のばね板11と外側のばね板12とが互いに交差する土台31,31同士を連結することで変形を防止して復元作用を発揮するとともに、内側のばね板11と外側のばね板12との間に挟持された粘弾性材13が弾発緩衝性が発揮されて振動エネルギーを吸収し、揺れを分散して耐震、免震効果を発揮する。
【0020】
特に本実施の形態では、内側のばね板11に形成したボルト孔21が長孔を呈しているので内側のばね板11が軸線方向に移動可能であって内側のばね板11と外側のばね板12との間に挟持された粘弾性材13がその弾発緩衝効果を充分に発揮することができる。
【0021】
尚、本実施の形態では、建築物3の土台31、柱32、梁33などの構造材が互いに交差する全てのコーナー部に設置する場合を示したが、必ずしも全てのコーナー部に設置する必要もなく、建築物の構造や設置されている地形などに応じて適宜設置箇所を選択すればよい。
【0022】
また、本実施の形態は新築の場合で全ての壁や床などを設置していない場合を示したが、既存の建築物に設置する場合には設置する部分の壁や床などを部分的に剥がして設置すればよい。
【0023】
更に、本実施の形態は木造建築に実施した場合を示したが、プレハブ建築や鉄骨建築にも実施することができる。
【0024】
図6は本発明に用いられる補強具の損失係数を比較例とともに示したものであり、Aは厚さ0.5mmと0.3mmの2ばね板の間に厚さ0.5mmフィルム状粘弾性材(ポリエステル系)を積層させた本発明であり、B、C,Dは比較例であって、Bは厚さ0.4mmのばね板を2枚合わせたもの、Cは厚さ0.5mmと0.3mmのばね板とを合わせたもの、Dは厚さ0.8mmのばね板単体である。
【0025】
図6に示した損失係数の値によれば、本発明の実施例が比較例に比べて損 失係数が大きく免震効果のあることが判明し、Aの厚さ0.5mmと0.3mmの2枚のばね板の間に厚さ0.5mmフィルム状粘弾性材(ポリエステル系)を積層させたものに大きな効果が確認された。
【0026】
更に、図7乃至図10は、本発明に用いられる補強具構造モデルと比較例とについての振動レベルと周波数との関係(周波数応答)示すものであり、図7は厚さ0.5mmと0.3mmの2枚のばね板の間に厚さ0.5mmフィルム状粘弾性材(ポリエステル系)を積層させた本発明、図8は厚さ0.4mmのばね板を2枚合わせたもの、図9は厚さ厚さ0.5mmと0.3mmのばね板とを合わせたもの、図10は厚さ0.8mmのばね板単体である比較例であり、
図7に示した本発明の周波数応答が優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に使用される補強具を示す斜視図であり、(a)は内側からの斜視図、(b)は外側から見た斜視図。
【図2】本発明の実施の形態により施工された建築物を示す斜視図。
【図3】図2のIII−III線に沿う拡大部分断面図。
【図4】図3のIV−IV線に沿う拡大部分断面図。
【図5】図2に示した建築物の土台部についての免震機構の説明図。
【図6】本発明の実施の形態に用いた補強具と比較例についての損失係数を示す関係図。
【図7】本発明の実施の形態に用いた補強具の周波数応答を示す関係図。比較例の周波数応答を示す関係図。
【図8】比較例の周波数応答を示す関係図。
【図9】異なる比較例の周波数応答を示す関係図。
【図10】更に異なる比較例の周波数応答を示す関係図。
【符号の説明】
【0028】
1 補強具、 2 固着手段、 3 建築物、 11 ばね板、 12 ばね板、 13 粘弾性材、 21,22,23 ボルト孔、 24 取付けボルト、 31 土台、 32 柱、 33 梁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧状に湾曲させた複数枚のばね板の間に粘弾性材を積層してなる補強具を、建築物の土台、柱、梁などの構造材が交差するコーナー部に沿って配置するとともに前記補強具の両端部に設けた固着手段を介して前記コーナー部を挟んで互いに交差する構造材にそれぞれ固定することを特徴とする建築物の免震工法。
【請求項2】
前記ばね板がばね鋼材により形成されているとともに、前記粘弾性材がブチルゴム系、ジエンゴム系、ポリイソブチレン系、ポリエステル系、ポリアクリル系、ビニル系などの高分子材料を主成分とする請求項1記載の建築物の免震工法。
【請求項3】
前記固着手段が、補強具の両端に形成されたボルト孔と、これらのボルト孔および構造材に穿孔したボルト孔とに連通して嵌挿される取付けボルトとからなる請求項1または2記載の建築物の免震工法。
【請求項4】
前記固着手段が、複数個設けられている請求項1,2または3記載の建築物の免震工法。
【請求項5】
前記固着手段におけるボルト孔の内、内側のばね板に形成されたボルト孔が長孔である請求項4記載の建築物の免震工法。
【請求項6】
前記取付けボルトが段付きボルトであり、頭部の下面に沿って配置するワッシャの底面と段の下面に沿って配置するワッシャの上面との間隔が前記補強具の厚さよりも僅かに広く形成されている請求項4または5記載の建築物の免震工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−57388(P2006−57388A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242342(P2004−242342)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(591160408)株式会社道光産業 (3)
【出願人】(504320499)
【Fターム(参考)】