説明

建設機械におけるキャブの支持構造

【課題】油圧ショベル1が転倒する等してキャブ6に過大な負荷が働いた場合に、該キャブ6の脱落防止ができるよう強度ある支持構造を提供する。
【解決手段】
前側支柱9と前下梁材16とのあいだに断面冂字形をした枠補強材19を溶着して補強すると共に、筒状の前下梁材16を貫通した第一支持部材20を、前下梁材16および枠補強材19にそれぞれ溶着して剛性化し、さらに機体フレーム5を貫通したカラー部21aを第一支持部材20の下端に突き当てた状態で鍔状部21bをカラー部21aに機体フレーム5の下側から突き当て、ボルト22を鍔状部21b、カラー部21aを通して第一支持部材20に螺合することで一体化し、キャブ6が脱落する負荷が働いた場合、鍔状部21bが機体フレーム5に突き当たることで脱落しないように支持をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルやホイールローダ等の建設機械におけるキャブの支持構造の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械のなかには機体フレームにキャブを搭載することがあり、この場合に、キャブ内でのオペレータの作業性(居住性)を向上するため、キャブをゴムマウントやビスカスマウントのような防振マウントを介して機体フレームに支持している。ところでこのようにキャブを備えた機体が転倒する等してキャブに過大な負荷が働いたとき、防振マウントに限界荷重を越えた負荷が働くことがあり、このような場合、防振マウントが破壊し、キャブが機体フレームから脱落してしまうという惧れがある。
そこでこれを避けるため、機体フレームに溶着したボルトをキャブのフロアプレート(床板)に遊嵌状に貫通させ、その貫通上端部に、フロアプレートから間隙を存する状態でナットを固定し、防振マウントが破壊する前にナットがフロアプレートに当接してキャブの機体フレームからの脱落を回避できるようにしたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−193103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記従来のものは、ボルトがフロアプレートに貫通する構成であるため、その分、フロアプレートの有効面積が狭くなってキャブ内での居住性が損なわれてしまうだけでなく、フロアプレートは平板材で構成されるため強度的に弱く、補強材で別途補強する必要があるが、フロアプレートを補強する場合に、フロアプレートの上面(キャブ内面)に補強材を取り付けることはフロアプレートの平滑性が損なわれて好ましくなく、そこでフロアプレートの下面に取り付けることになるが、この場合に広い取り付けスペースを確保することが難しく、この結果、強度的に優れた冂字形の鋼材を用いての補強が難しく、せいぜい平板材をフロアプレートに面当てしての補強程度に留まり、そのうえナットによる抜止め当接であるので当接面積が小さいことが相まって充分な支持強度を確保するのが難しい、という問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、柱材および下梁材を枠材の一部として用いて枠組み形成されたキャブを、機体フレームに防振マウントを介して搭載した建設機械において、前記下梁材を貫通せしめた第一支持部材を該下梁材に溶着する一方、第一支持部材の下端面に、機体フレームを上下に貫通する状態で第二支持部材の上端面を突き当てて、該第一、第二支持部材同士を該第二支持部材の下端面から挿入したボルトを介して固定し、さらに第二支持部材には、機体フレームに形成した第二支持部材の貫通孔からの抜止めがなされる大きさの鍔状部が、前記キャブ搭載状態で機体フレームの下側に隙間が存するようにして設けられていることを特徴とすることを特徴とする建設機械におけるキャブの支持構造である。
請求項2の発明は、前記柱材と下梁材とのあいだに形成されるコーナー部に枠補強材を組み込んで溶着すると共に、第一支持部材を、下梁材の枠補強材組み込み部位に貫通せしめて枠補強材に溶着したことを特徴とする請求項1記載の建設機械におけるキャブの支持構造である。
請求項3の発明は、枠補強材は間隙を存して対向する一対の板材を備え、第一支持部材は、枠補強材の少なくとも一方の板材に溶着されていることを特徴とする請求項2記載の建設機械におけるキャブの支持構造である。
請求項4の発明は、下梁材の枠補強材溶着部位には凹溝が形成され、該凹溝に第一支持部材の上側貫通部を嵌合し溶着していることを特徴とする請求項2または3記載の建設機械におけるキャブの支持構造である。
請求項5の発明は、枠補強材は、直角三角形状をし、下梁材および柱材の両突き当て端縁部が開口した断面冂字形の板材であり、第一支持部材の枠補強材との溶着位置は、該枠補強材の下梁材に突き当てられる鋭角頂部に偏倚した位置であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1記載の建設機械におけるキャブの支持構造である。
請求項6の発明は、下梁材は上下板がある筒材であり、第一支持部材は、下梁材の上下板にそれぞれ溶着されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1記載の建設機械におけるキャブの支持構造である。
請求項7の発明は、第二支持部材は、機体フレームの貫通孔を貫通するカラー部材を備えて構成され、該カラー部材が鍔状部と第一支持部材とに突き当てられることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1記載の建設機械におけるキャブの支持構造である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、強度的に強い下梁材を、キャブの脱落防止をする支持部材として用いることができ、しかも該支持位置がフロアプレート部位ではなく下梁材位置となるためキャブ内の居住性を損なうことがなく、さらに機体フレームからの抜止めをするものがナットでなく鍔状部であるため、充分な抜止め強度を確保したものにできることになって強度的に優れたキャブの脱落防止支持ができることになる。
請求項2の発明とすることにより、柱材と下梁材とのあいだを補強するための枠補強材が第一支持部材と一体化されることになって剛性化され、キャブの脱落防止支持の更なる強度アップを、フロアプレートには関与しない状態でできることになる。
請求項3の発明とすることにより、キャブの脱落防止の支持をする第一、第二支持部材が、一対の板材からなる枠補強材と、該枠補強材によって強固に補強された柱材と下梁材と一体化されることになって更なる強度アップが達成できることになる。
請求項4の発明とすることにより、第一支持部材と枠補強材との一体化が、より強度アップがなされることになって、キャブの脱落防止支持がさらに充実する。
請求項5の発明とすることにより、枠補強材が断面冂字形をしていて強度アップとなり、しかも第一支持部材と該枠補強材との溶着位置が、鋭角頂部に偏倚した位置であるため、枠補強材の両板面を差し渡す天井板面に近いところとなって更なる剛性化を達成できることになる。
請求項6の発明とすることにより、第一支持部材が、筒状をした下梁材の上下板に溶着されることになって更なる剛性化を達成できることになる。
請求項7の発明とすることにより、第二支持部材の構成が簡略化される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】油圧ショベルの全体側面図である。
【図2】キャブの枠組み状態を示す斜視図である。
【図3】機体フレームの部分斜視図である。
【図4】キャブの支持部位を示す部分縦断面図である。
【図5】キャブの脱落防止状態を示す部分縦断面図である。
【図6】キャブの支持部位を示す部分断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。図中1は建設機械の一つである油圧ショベルであって、該油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体2に、バケット式の作業アタッチメント3が設けられた上部旋回体4が旋回自在に設けられている。上部旋回体4の機体フレーム5には、運転席6aを保護すべく囲繞する後述のキャブ6が前半部一側に搭載され、エンジンルーム7が後半部に設けられ、カウンターウエイト8が後端部に設けられて構成されていること等は何れも従来通りである。
【0009】
前記キャブ6は、前側左右コーナー部の柱材9と、後側左右コーナー部の柱材10と、これら柱材9、10の上端部間に支架される左右上側の梁材11、前上側梁材12、後上側梁材13、柱材9、10の下端部間に支架される左下側梁材14、右下側梁材15、前下側梁材16、後下側梁材17等の各種部材を枠材として用いて枠組み形成され、これら枠組みされた各空間部に板材や窓材、さらにはドア等の必要部材を組み込んで構成されていること等も従来どおりである。
そしてキャブ6のフロアプレート6bが、機体フレーム5に形成されるキャブ取付け座5aに防振マウント18を介して支持されるが、その支持構造については例えば特開2006−168449号公報において既に公知となっている技術を採用すればよく、その詳細については省略する。図中、18aは防振マウント18をフロアプレー6bに固定するためのボルトである。
【0010】
19は断面冂字形をした直角三角形状の枠補強材であって、該枠補強材19は、直角部を挟んで両側に形成される開口縁部19a、19bを前記前側支柱9と前下側梁材16がなす内角(直角)面部に突き合わせる状態で溶着により固定され、前側支柱9と前下側梁材16とを補強している。
【0011】
前記前下側梁材16は、前側板16a、上側板16b、下側板16cとにより異形筒形状となって一体に構成され、強度アップがなされるように配慮されているが、筒部は、上下間隔が小さい前筒部16dと該前筒部16dに対して上側に大きくなっていて、上面に前記枠補強材19が突き当たって固定されている後筒部16eとから構成され、この後筒部16eの上下板には、前記枠補強材19の開口縁部19bの左右方向中間位置(本実施の形態では枠補強材19の左右方向内側の鋭角頂部に偏倚した中間位置)に貫通孔16f、16gが穿設され、該貫通孔16f、16gに棒状(本実施の形態では円柱状)をした第一支持部材20が貫通され、溶着により後筒部16eの上下板に固定されているが、第一支持部材20の上側貫通孔16fから貫通した貫通部20aが、枠補強材19の前側板19cに切欠き形成した凹溝部19dに内嵌し、溶着により枠補強材19と一体化されている。
尚、本実施の形態では、キャブ6の脱落防止の支持を、乗降用ドアがあるキャブ左側前側部の1箇所で実施しているが、支持はこれに限定されず、必要において適位置に適数箇所実施することができる。
【0012】
21は第二支持部材であって、該第二支持部材21は、筒状をしたカラー部21aと、該カラー部21aの下端に突当て状に設けられ、カラー部21aの筒に対応した貫通孔21cが形成された鍔状部21bとから構成されている。尚、本実施の形態ではカラー部21aと鍔状部21bとを別体で構成したが、溶着する等して一体化してもよいことは勿論である。
一方、前記第一支持部材20には下端側が開口する状態で螺子孔20bが刻設されており、そして第二支持部材21は、機体フレーム5に形成され、鍔状部21bよりも小径の貫通孔5bを下側からカラー部21aを貫通して該カラー部21a上端面を、第一支持部材20の下端面に突き当て、この状態でさらに、鍔状部21bをカラー部21aの下端に突当て、そして鍔状部21bに形成の貫通孔21cから挿入したボルト22を第一支持部材20の螺子孔20bに螺入固定することで、第一、第二の支持部材20、21が一体化される。
この状態では鍔状部21bと機体フレーム5とのあいだには、防振マウント18の防振機能を損なわない範囲での隙間Sが形成されているが、機体が転倒する等してキャブ5に大きな負荷が働いて前側支柱9が上動してキャブ6が傾むいた場合に、鍔状部21bが機体フレーム5に下側から当接して抜止めがなされ、これによってキャブ5の脱落防止をするようになっている。
【0013】
叙述の如く構成された本発明を実施するための形態において、油圧ショベルに搭乗するオペレータは、防振マウント18を介して支持されるキャブ6によって居住性が良い状態で保護されることになるが、機体が転倒する等してキャブ6に過大な負荷が働いてキャブ6が傾き、前側支柱9が持ち上がる方向の負荷が働いた場合に、第一、第二の支持部材20、21が前側支柱9と共に持ち上がり、そして鍔状部21bが機体フレーム5に下側から突き当たることになってこれ以上の持ち上がりが規制され、これによって前側支柱9が脱落してしまうことが回避され、オペレータの保護が図れることになる。
【0014】
このように本発明が実施されたものにおいては、キャブ6の脱落防止を図る支持ができることになるが、この脱落防止をする第一、第二支持部材20、21が、従来のようにキャブ6のフロアプレート6b部位ではなく、強度がある前側梁材16部位に設けられているので、フロアプレート6bをいちいち補強する必要がないうえ、フロアプレート6bには支持部材が突出することもなく、キャブ6内の居住空間が狭くなったりフロアプレート6bの平滑性が損なわれてしまうこともない。
そのうえ鍔状部21bが機体フレーム5に突き当たることで脱落防止がなされるため、必要に応じて鍔状部21bを大きくすることで充分な強度アップが図れることになる。
【0015】
しかもこのものでは、前側支柱9と前下梁材16とを補強するため設けた枠補強材19に第一支持部材20が溶着されているため、該前側支柱9、前下梁材16、そして枠補強材19が第一支持部材20と一体になった剛性構造となり、さらなる強度アップが図れることになる。さらにこのものにおいて、枠補強部材19は、直角三角形状をし、間隙を存した一対の前後板材を備えた断面冂字形になっているため補強強度に優れるが、このうちの前側板材19cに形成した凹溝19dに第一支持部材20の前下梁材16から貫通した上端部20aが嵌合しそして溶着されているため、第一支持部材20と枠補強材19との高い一体化が図れることになって更なる強度アップが達成できることになる。
しかもこの場合に、第一支持部材20と枠補強材16との固定位置が、枠補強材16が前下梁材16に突き当てられていて強度的に優れた鋭角頂部に偏寄した位置であるため、ここにおいても更なる強度アップが達成できることになる。
【0016】
またこのものでは、前下梁材16が筒状になっており、そして第一支持部材20が前下梁材16の上下に形成した貫通孔16f、16gを貫通する状態でこれら孔周縁に溶着により固定されているため、第一支持部材20の前下梁材16との固定も強度が高いものになって更なる強度アップが達成できることになる。
【0017】
そのうえこのものでは、第二支持部材21がカラー部21aと鍔状部21bとで構成されているが、これらは互いに突き当てる構造になっているため、カラー部材21aの長さを換えることで、防振マウント18を変更する等のマイナーな変更に対応できることになって都合が良い。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、油圧ショベルやホイールローダ等の建設機械におけるキャブの強度の高い脱落防止の支持をすることに利用できる。
【符号の説明】
【0019】
1 油圧ショベル
5 機体フレーム
5a 貫通孔
6 キャブ
9 前柱材
16 前下梁材
16f、16g 貫通孔
18 防振マウント
19 枠補強材
19d 凹溝
20 第一支持部材
20a 上端面
20b 螺子孔
21 第二支持部材
21a カラー部
21b 鍔状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材および下梁材を枠材の一部として用いて枠組み形成されたキャブを、機体フレームに防振マウントを介して搭載した建設機械において、前記下梁材を貫通せしめた第一支持部材を該下梁材に溶着する一方、第一支持部材の下端面に、機体フレームを上下に貫通する状態で第二支持部材の上端面を突き当てて、該第一、第二支持部材同士を該第二支持部材の下端面から挿入したボルトを介して固定し、さらに第二支持部材には、機体フレームに形成した第二支持部材の貫通孔からの抜止めがなされる大きさの鍔状部が、前記キャブ搭載状態で機体フレームの下側に隙間が存するようにして設けられていることを特徴とすることを特徴とする建設機械におけるキャブの支持構造。
【請求項2】
前記柱材と下梁材とのあいだに形成されるコーナー部に枠補強材を組み込んで溶着すると共に、第一支持部材を、下梁材の枠補強材組み込み部位に貫通せしめて枠補強材に溶着したことを特徴とする請求項1記載の建設機械におけるキャブの支持構造。
【請求項3】
枠補強材は間隙を存して対向する一対の板材を備え、第一支持部材は、枠補強材の少なくとも一方の板材に溶着されていることを特徴とする請求項2記載の建設機械におけるキャブの支持構造。
【請求項4】
下梁材の枠補強材溶着部位には凹溝が形成され、該凹溝に第一支持部材の上側貫通部を嵌合し溶着していることを特徴とする請求項2または3記載の建設機械におけるキャブの支持構造。
【請求項5】
枠補強材は、直角三角形状をし、下梁材および柱材の両突き当て端縁部が開口した断面冂字形の板材であり、第一支持部材の枠補強材との溶着位置は、該枠補強材の下梁材に突き当てられる鋭角頂部に偏倚した位置であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1記載の建設機械におけるキャブの支持構造。
【請求項6】
下梁材は上下板がある筒材であり、第一支持部材は、下梁材の上下板にそれぞれ溶着されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1記載の建設機械におけるキャブの支持構造。
【請求項7】
第二支持部材は、機体フレームの貫通孔を貫通するカラー部材を備えて構成され、該カラー部材が鍔状部と第一支持部材とに突き当てられることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1記載の建設機械におけるキャブの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−270557(P2010−270557A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125400(P2009−125400)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】