説明

建設機械のすべり軸受給脂管理方法とその装置

【課題】建設機械の多関節フロントの関節部に設けるすべり軸受に間歇的に給脂する建設機械において、軸受の潤滑状況を自動的に改善することができ、軸受部の構成部材の延命化を可能にするすべり軸受給脂管理方法とその装置を提供する。
【解決手段】すべり軸受の温度を検出し、検出温度と予め設定されている基準温度とを比較する。検出温度が基準温度より高い場合には、対応するすべり軸受の給脂頻度を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械において、作業用アタッチメントの関節部等に設けられるすべり軸受へのグリス給脂を管理する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルのように関節部を有する作業用アタッチメントを備えた建設機械においては、その関節部にすべり軸受が設けられる。このようなすべり軸受を有する建設機械のうち、大型のものには、各関節部に設けるすべり軸受に対し、給脂ポンプによりグリス供給配管を通してグリス供給を行なう装置が備えられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなすべり軸受において、グリスによる潤滑状況が良好でないまま建設機械を稼働し続けた場合、軸受部の構成部材であるピンやブッシュにかじりを生じたり、偏摩耗を起こしたりしてピンやブッシュの交換を余儀なくされる。このようなピンやブッシュの交換作業には長時間を要し、建設機械の稼働率を大幅に低下させることになる。
【0004】
このため、従来は、かじりや偏摩耗がなく、潤滑状況が順調であるか否かを確認するため、グリスが軸受に行き届いているかを目視により確認したり、グリス供給配管に損傷が無いかを目視により点検したり、作業用アタッチメントを動かした際に軸受におけるかじり音が発生していないかどうかを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−106620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、目視や音によりグリスの供給状況を確認するためには、建設機械の稼働を一たん止めて点検するための時間を設ける必要があり、建設機械の稼働率を低下させることになる。特に資源掘削等のために24時間稼働する大型油圧ショベル等においては建設機械の稼働を止めることは稼働率を低下させるために実践しにくい。
【0007】
また、軸受部のピンやブッシュの摩耗量を目視によって直接確認することは困難である。また、グリス供給配管を目視により点検する場合、グリスが漏れていたとしても、グリス供給配管をきれいに洗浄しなければこの漏れを確認することができず、点検に手間と時間を要する。
【0008】
このように、目視による潤滑状況の確認が困難かあるいは実践しにくいため、この潤滑状況の悪い状況が放置されがちになる。しかし潤滑状況の悪い状況が放置されると軸受部の摩耗量が大きくなり、がたつきが発生し、軸受部の構成部材であるピンやブッシュの寿命を短くするという不具合を招く。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、潤滑状況を自動的に改善することができ、軸受部を構成する部材の摩耗の進行を防いで軸受部の構成部材の延命化を可能にする建設機械のすべり軸受給脂管理方法とその装置を提供することを目的とする。また本発明の他の目的は、軸受の潤滑状況を建設機械の稼働中に確実に検知することができるすべり軸受給脂管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の建設機械のすべり軸受給脂管理方法は、建設機械の多関節フロントの関節部に設けるすべり軸受に給脂ポンプにより間歇的に給脂する建設機械のすべり軸受給脂管理方法において、
前記すべり軸受の温度を検出し、
前記すべり軸受の検出温度と予め設定されている基準温度とを比較し、
前記検出温度が前記基準温度より高い場合には、前記すべり軸受の給脂頻度を増加させることを特徴とする。
【0011】
請求項2の建設機械のすべり軸受給脂管理装置は、建設機械の多関節フロントの関節部に設けるすべり軸受に間歇的に給脂する建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
前記すべり軸受の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサによる検出温度と予め設定されている基準温度とを比較する温度比較手段と、
前記温度比較手段により、前記検出温度が前記基準温度以上であると判定された場合に、前記すべり軸受の給脂頻度を増加させる給脂頻度変更手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項3の建設機械のすべり軸受給脂管理装置は、請求項2に記載の建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
前記検出温度を表示する温度表示手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項4の建設機械のすべり軸受給脂管理装置は、請求項2または3に記載の建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
前記検出温度が前記基準温度以上である場合に高温度であることを報知する高温度報知手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項5の建設機械のすべり軸受給脂管理装置は、請求項2から4までのいずれか1項
に記載の建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
給脂時間間隔を短くした状態でも軸受温度が高温度状態が持続する際に警報を発する潤滑異常警報手段をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、2の発明によれば、潤滑状況の不良が軸受温度上昇を導くという経験則に基づき、軸受温度を検出して潤滑状況を判断し、軸受温度が高い場合にはグリス給脂頻度を高めて潤滑状況を改善させるため、軸受の潤滑状況が悪い状況で放置されることが無くなり、潤滑状況が自動的に改善される。このため、軸受部を構成する部材の摩耗の進行を防ぎ、軸受部の構成部材の延命化が達成できる。また、建設機械を止めることなく、建設機械の稼働中に軸受の潤滑状況を検知することができるので、潤滑状況点検によって建設機械の稼働率が低下することを回避できる。
請求項3の発明によれば、検出された軸受温度を温度表示手段によって表示するため、目視や音による確認に比較し、軸受の潤滑状況を確実に検知することができる。
請求項4の発明によれば、軸受の検出温度が予め設定された基準温度より高い場合には、温度が高いことを表示する高温度報知手段を備えたので、オペレータは軸受の潤滑状況が好ましくないことを知ることができる。
請求項5の発明によれば、給脂頻度を上げたにも係らず軸受の検出温度が基準温度より高い状態が継続した場合には、潤滑状況が異常であることを報知する潤滑異常警報手段を備えたので、オペレータはこの異常を見過ごすことなく、好適な対策をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用する建設機械の一種である油圧ショベルの一例を示す側面図である。
【図2】本発明によるすべり軸受給脂管理方法を実施する軸受部の一例を示す側面図である。
【図3】本発明によるすべり軸受給脂管理方法を実施する装置の一実施の形態を示す構成図である。
【図4】建設機械の多関節フロントの操作レバーの操作量とすべり軸受の温度との関係の一例を示す図である。
【図5】本発明によるすべり軸受給脂管理方法を実施する装置の一実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図6】図5の装置の処理例を説明するフローチャートである。
【図7】図5の装置の処理例を説明するグラフである。
【図8】図5の装置の処理の他の例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明を適用する建設機械の一種である油圧ショベルの一例を示す側面図である。図1において、1は下部走行体、2は下部走行体1に旋回装置3を介して設置された上部旋回体、4は上部旋回体2に搭載された油圧パワーユニット、5は同じく運転室、7は上部旋回体2に取付けられた多関節構造の作業用アタッチメントである。
【0018】
この例の作業用アタッチメント7は、上部旋回体2にピン8を中心としてブームシリンダ9により俯仰可能に取付けられたブーム10と、このブーム10の先端にピン11を中心としてアームシリンダ12により上下回動可能に取付けられたアーム13と、このアーム13の先端にピン14を中心としてバケットシリンダ15およびリンク16,17により回動可能に取付けられたバケット19とからなる。20,21はそれぞれブームシリンダ9の両端を上部旋回体2およびブーム10にそれぞれ連結するピン、22,23はそれぞれアームシリンダ12の両端をブーム10に設けたブラケット24とアーム13に設けたブラケット25に連結するピン、27はバケットシリンダ15をブラケット25に連結するピン、28はバケットシリンダ15をリンク16,17の一端に連結するピン、29,30はそれぞれリンク16,17の各他端をアーム13、バケット19に連結するピンである。
【0019】
図2は上部旋回体2に対するブーム10の取付け部を示す側面図であり、本発明の給脂装置を適用する軸受部の一例として示すものである。図2において、2aは上部旋回体2に設けた作業用アタッチメント取付け用のブラケット、2bは前記ピン8を取付けるためにブラケット2aに設けたボス、10aは同じくブーム10側のボスである。43は後述のようにピン8の両端にボルト44により設ける蓋、51a〜51cは後述の温度センサ50a〜50cの信号をコントローラ61(図3参照)に伝えるケーブルである。
【0020】
なお本発明の給脂方法と給脂装置は、ブーム10を取付けるピン8のみならずブーム10にアーム13を取付けるピン11や、アーム13にバケット19を取付けるピン14の軸受部にも適用される。また、油圧シリンダ9,12,15取付け用のピン20〜23,27,28や、リンク16,17取付け用のピン29,30の軸受部に対しても必要に応じて適用できる。
【0021】
図3は本発明による軸受部の給脂装置の一実施の形態を示す構成図である。図3に示すように、33,45はそれぞれブーム側ボス10aと上部旋回体2側ボス2bに内嵌した多孔質金属からなるブッシュであり、グリスを含浸させるものである。ピン8はこれらのブッシュ33,45に回動可能に貫挿される。ブッシュ33によりボス10a側の軸受部を構成し、ブッシュ45によりボス2b側の軸受部を構成する。36はボス2bとボス10aとの間の隙間をシールするために設けられたシール材である。
【0022】
37はボス10aおよびブッシュ33に半径方向に貫通して設けた給脂ポート、38はピン8の内部に軸心方向全長にわたって設けた給脂孔、39は同じくピン8に半径方向に貫通し、かつ前記給脂孔38に連通させて設けた給脂孔、40はピン8のブッシュ33に内嵌する部分の外周においてピン8の長手方向に設けた給脂溝である。41a,41bはピン8の両端部のボス2b,2bに内嵌する部分の外周において、ピン8の長手方向に設けた給脂溝である。
【0023】
43はピン8の両端に被せる蓋である。44はこれらの蓋43をボス2bに固定するボルトである。47は蓋43に設けた給脂ポートであり、蓋43の内部の隙間48およびブッシュ45とピン8との間に給脂するものである。50aは軸受の温度を検出するためにボス10aに設けた温度センサ、50b,50cは同じくボス2b,2bに設けた温度センサである。このようにブーム10側のボス10aと両側のブラケット2a,2aに設けたボス2b,2bとにそれぞれ温度センサ50aと50b,50cとを設ける理由は、この実施の形態のピン8がこれらのボス10a,2b,2bに対してピン8が回動可能であり、これらのボス10a,2b,2bの各部について、それぞれ潤滑異常が発生する可能性があり、異なる温度となる可能性があるからである。
【0024】
52はグリスを貯えたグリスタンク、53はこのグリスタンク52内のグリスを軸受部に給脂配管54a,54b,54cを通して供給する給脂ポンプである。55はこの給脂ポンプ53を駆動するモータであり、本例ではこのモータとして油圧モータを用いているが電動モータを用いてもよい。57はエンジン58により駆動される油圧ポンプ、59はこの油圧ポンプ57から吐出される作動油を貯える作動油タンクである。60は油圧ポンプ57から吐出される作動油の油圧モータ55への供給、停止を制御する電磁弁,60aはそのソレノイドである。
【0025】
61はこの電磁弁60等の制御を行う演算処理装置を含むコントローラ、62は後述のように、グリスによる軸受の潤滑状態等の表示を行なうモニタである。63はブーム10の操作を行なう操作レバーであり、この操作レバーを操作することにより、ブームシリンダ9用コントロール弁(図示せず)を切換え、油圧ポンプからのブームシリンダ9への作動油の供給を制御する。これにより、ブームシリンダ9に伸縮動作を行なわせてブーム10を俯仰させる。この操作レバー63の操作情報および温度センサ50a〜50cの検出信号はそれぞれ信号線56,51a〜51cを介してコントローラ61に入力される。
【0026】
図3の装置において、電磁弁60が図示の位置(下位置)にあると、油圧モータ55に作動油は供給されず、給脂ポンプ53は停止状態にあり、軸受部には給脂は行なわれない。コントローラ61から電磁弁60のソレノイド60aに操作電流が流されると、電磁弁60は上位置に切換わる。このため、油圧ポンプ57から吐出された作動油が油圧モータ55に供給され、油圧モータ55が作動する。このため、油圧モータ55により給脂ポンプ53が駆動され、給脂タンク52内のグリスが給脂配管54a,54bを通して給脂ポート37から給脂溝40を通してブッシュ33とピン8との間に供給される。
【0027】
また、給脂ポンプ53から吐出されたグリスは、給脂配管54a,54cを通してピン8の端部と一方のカバー43との隙間48にも供給される。そしてこの一方のカバー43とピン8の端部との間の隙間48に供給されたグリスは、給脂孔38、39を通してこの一方のカバー43側の給脂溝41aに供給され、一方のボス2b内のブッシュ45とピン8との間に供給される。さらにこの一方のカバー43とピン8との隙間48に供給されたグリスは、給脂孔38を通して他方のカバー43側のカバー43とピン8との隙間48に供給され、給脂溝41bを通して他方のボス2b内のブッシュ45とピン8との間に供給される。
【0028】
この電磁弁60の切換えによる給脂は、コントローラ61により予め設定された一定の時間間隔をもって間歇的に行われる。この時間間隔は軸受部の温度が後述の基準温度以下である場合には8分〜60分程度に設定される。本発明においては、後述のように、この給脂の時間間隔を、軸受の潤滑状況に応じて変更する。
【0029】
なお、ブーム10にアーム13を取付けるピン11の軸受部や、バケット19をアーム13に取付けるピン14の軸受部に対しても1台の給脂ポンプ53からマニホールドを介してグリスを供給する。
【0030】
図4は、ブームの上げ下げ操作における操作量と軸受温度変化の一例を示すグラフである。ここで、操作量とは、操作レバー63が電気レバーである場合、電圧で表示されるものであり、例えば操作量0(中立位置)が2.5V、100%(ブーム上げフル操作)が4.5V、−100%(ブーム下げフル操作)が0.5Vとして現れるものである。また、操作レバーが油圧操作式の場合は、操作量は圧力で表示され、この操作圧力を電気信号に変換してコントローラ61に入力する。図4に示すように、軸受部にかじり等の異常がある場合には軸受温度の上昇度合は異常が無い場合よりも急激になる。
【0031】
図5はこの実施の形態において、軸受の給脂管理を行なうための装置の機能ブロック図であり、コントローラ61に付帯した信号変換装置や演算装置等により実現されるものである。図5において、操作情報検出手段65は、操作レバー63として電気レバーを用いた場合、操作レバー63の操作量がしきい値以上(ブーム上げにおいては例えば50%以上、ブーム下げ操作においては例えば−50%以下)であるときに、操作レバー63が操作されたものとして検出するものである。
【0032】
基準温度設定手段66は、給脂時間間隔を変更するしきい値となる基準温度を設定するものであり、キーボードやスイッチ等により実現されるものである。この実施の形態においては、この基準温度として、後述のように、高低2種類の基準温度T0,T1を設定する。
【0033】
温度表示手段67は、温度センサ50a〜50cにより検出される軸受温度をモニタ62に表示させる。温度比較手段69は、通常の時間間隔で給脂する場合、軸受温度Tと高い側の基準温度T0(例えば100℃)や低い側の基準温度T1(例えば60℃)とを比較する。高温度報知手段70は、T≧T0である際にモニタ62に軸受温度が高温度である旨の報知を行なう。なお、温度比較手段67による温度表示や、高温度報知手段70による高温報知は常時行なうのではなく、一定時間ごとに表示を行なうか、あるいはオペレータの表示のための操作装置の操作により必要に応じてモニタ62に表示させるようにしてもよい。
【0034】
タイマー71は、図3に示した電磁弁60のソレノイド60aに通電する給脂時の間の2種の休止期間を設定する。そのうちの一つは通常の時間間隔t1(例えば15分)であり、他の一つは短い時間間隔t2(例えば3分)である。給脂頻度変更手段72は、通常の時間間隔t1で給脂している状態において、温度比較手段69により軸受温度が高温度(T≧T0)であると判定された際に、タイマー71の設定時間を通常の時間t1から短い時間t2に変更する。また、短い時間t2で給脂している状態において、軸受温度Tが低い側の基準温度T1(例えば60℃)以下(T≦T1)になると、給脂時間間隔を通常の時間t1に戻す。
【0035】
潤滑異常判定手段74は、給脂時間間隔が短い時間t2で作業している際に、軸受温度Tと基準温度T0とを比較し、T≧T0であれば潤滑異常と判断し、潤滑異常警報手段76によりモニタ62にて潤滑異常を表示する。なお、高温度であることや潤滑異常を報知する手段は、モニタ62の表示画面に文字やマーク等により表示する以外に、ランプや音等で報知することもできる。
【0036】
図6は図4のコントローラ61の動作の一例を示すフローチャートである。建設機械の作業開始後、操作レバー63の操作情報検出手段65により操作レバー63の操作を検出する(ステップ1)。そして、この操作が検出されると、温度比較手段69により、温度センサ50a〜50cによりそれぞれ検出される軸受温度Tと、基準温度設定手段66により設定された基準温度T0とを比較する(ステップ2)。
【0037】
そしてT<T0であれば、高温度報知手段70による高温表示または潤滑異常警報手段76による警報が発せられている場合にはこれらの表示を解除する(ステップ3)。また、このとき、給脂頻度変更手段72により、タイマーの設定時間を通常の時間t1に設定するかあるいはその時間t1を維持する(ステップ4)。そしてこの時間間隔t1の時間経過を待ち(ステップ5)、この時間t1経過後に駆動回路77により図3に示した電磁弁60のソレノイド60aに所定時間通電して油圧モータ55を作動させ、これにより油圧ポンプ53を所定時間駆動して軸受にグリスを供給する(ステップ6)。そしてステップ1に戻り、操作レバー63の操作検出を待つ。
【0038】
一方、温度比較手段69により軸受温度Tが基準温度T0以上である(T≧T0)と判定(ステップ2)された場合には、高温度報知手段70によりモニタ62に高温である旨の表示を行なわせる(ステップ7)。また、T≧T0である場合には、給脂頻度変更手段72により、タイマー71の設定時間を通常の時間t1より短い時間t2に設定または維持する(ステップ8)。そして操作レバー63の操作情報検出(ステップ9)により、その後の経過時間tの計測を開始し、タイマー71の設定時間t2が経過した後に図3に示した電磁弁60のソレノイド60aに所定時間通電して油圧モータ55を作動させ、これにより油圧ポンプ53を所定時間駆動してピン8の軸受部にグリスを供給する(ステップ10,11)。
【0039】
次に軸受温度Tと高い側の基準温度T0とを比較し(ステップ12)、T<T0であれば高温度報知手段70による報知を停止する(ステップ13)。そして次に軸受温度Tと低い側の基準温度T1とを比較し(ステップ14)、T≦T1、すなわち軸受温度が十分低下したと思われる場合には、通常の給脂時間間隔t1に戻ることを予想してステップ1に戻る。反対に、T>T1であれば、給脂時間間隔をt2の短い時間に維持したまま、ステップ9の操作情報検出に戻る。
【0040】
一方、給脂時間間隔をt2と短くした給脂サイクルにおいて、T≧T0であれば、給脂時間間隔をt2と短くしたにも係らず、軸受温度Tが低下しなかったとして、潤滑異常警報手段76によりモニタ62に潤滑異常を報知させる(ステップ15)。
【0041】
図7はこの実施の形態の処理例を示すタイムチャートである。このタイムチャートは、高い側の基準温度T0が100℃、低い側の基準温度T1が60℃であり、通常の給脂時間間隔t1が15分、短い給脂時間間隔t2が3分である場合について示す。図7のタイムチャートにおいて、線a〜eは温度センサ50a〜50cのうちの1つにより検出される軸受温度Tを示す。これらの線a〜eのうち、初期の段階での軸受温度Tの変化を表示する線aは、通常の給脂時間間隔t1で給脂を繰り返すことにより、軸受温度Tが上昇している状態を示す。この軸受温度Tが上昇して高い側の基準温度T0に達すると、給脂時間間隔がt2に切換えられ、短い時間間隔t2で繰り返し給脂されることにより、軸受温度Tが線cに示すように降下する。
【0042】
軸受温度Tが降下して低い側の基準温度T1以下になると、給脂時間間隔が長い時間間隔t1に変化するので、線bで示すように軸受温度Tが次第に上昇する。そして軸受温度Tが再度T0以上になると、給脂時間間隔を再度t2と短くする。このタイムチャートの例ではこの給脂時間間隔をt2に変更した当初の間は線dに示すように軸受温度Tが低下しているが、その後、上昇に転じ、再度線eに示すように高い側の基準温度T0を超えているので、この場合には潤滑異常警報手段76によりモニタ62にて潤滑異常を知らせる警報が発せられる。
【0043】
図8は図5で示される装置の別の処理態様を示すフローチャートである。この図8の例においては、潤滑異常判定手段74は、短い給脂時間間隔t2における基準回数Naを予め設定しておき、短い給脂時間間隔t2での繰り返し給脂回数Nを計数する(ステップ13)。そして短い給脂時間間隔t2での給脂のサイクルにおいて、軸受温度Tが低い側の基準温度T1より高いことを条件(ステップ16)として、給脂の度毎に給脂回数Nが基準回数Naに達したか否かを監視する(ステップ17)。そして、給脂回数Nが基準回数Naに達したら、T≧T0であるか否かを判定し(ステップ18)、T≧T0であれば潤滑異常である旨の警報を発する(ステップ19)。他の処理は図7の例と同様である。なお、図8に示す処理方式においては、ステップ14〜16の処理は必ずしも必要ではない。なお、図8の処理を行なう場合、基準回数Naは例えば3〜10回程度に設定することが好ましいが、他の回数に設定してもよい。
【0044】
このように、本実施の形態においては、潤滑状況の不良が軸受温度上昇を導くという経験則に基づき、軸受温度Tを検出して潤滑状況を判断して表示するため、目視や音による確認に比較し、潤滑不良を確実に検知することができる。また、軸受温度Tが高い場合にはグリス給脂頻度を高めて潤滑状況を改善させるため、軸受の潤滑状況が悪い状況で放置されることが無くなり、潤滑状況が自動的に改善される。このため、軸受部を構成するピン8やブッシュ33,45の摩耗の進行を防ぐことができるので、軸受部の構成部材の延命化が達成できる。また、建設機械を止めることなく、油圧ショベル等の建設機械の稼働中に軸受の潤滑状況の異常を検知することができるので、潤滑状況点検による建設機械の稼働率の低下を回避することができる。
【0045】
また、上記実施の形態においては、軸受の検出温度Tが基準温度T0より高い場合には、これを表示する高温度報知手段70を備えたので、オペレータは潤滑状況が悪い場合にこれを知ることができる。
【0046】
また、上記実施の形態においては、給脂頻度を上げたにも係らず軸受の検出温度が基準温度より高い状態が継続した場合には、潤滑状況が異常であることを報知する潤滑異常警報手段76を備えたので、オペレータはこの異常を見過ごすことなく、好適な対策をとることができる。
【0047】
本発明は、油圧ショベルのバケットの代わりに他の作業具を取付けた他の建設機械、あるいは作業用アタッチメント7の構造を変えた各種建設機械、さらにはクレーン等の建設機械に適用することができる。また、本発明は、作業用アタッチメント7以外の軸受部に適用することが可能である。また、本発明において、給脂を行なう駆動装置としては、油圧ポンプ以外に油圧シリンダを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0048】
1:下部走行体、2:上部旋回体、3:旋回装置、4:油圧パワーユニット、5:運転室、7:作業用アタッチメント、8:ピン、9:ブームシリンダ、10:ブーム、10a:ボス、11:ピン、12:アームシリンダ、13:アーム、14:ピン、15:バケットシリンダ、16,17:リンク、19:バケット、20〜23:ピン、24,25:ブラケット、27〜30:ピン、33,45:ブッシュ、36:シール材、37,47:給脂ポート、38,39:給脂孔、40,41a,41b:給脂溝、43:蓋、48:隙間、50a〜50c:温度センサ、51a〜51c:信号線、52:グリスタンク、53:給脂ポンプ、54a〜54c:給脂配管、55:モータ、57:油圧ポンプ、58:エンジン、59:作動油タンク、60:電磁弁、60a:ソレノイド、61:コントローラ、62:モニタ、63:操作レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の多関節フロントの関節部に設けるすべり軸受に間歇的に給脂する建設機械のすべり軸受給脂管理方法において、
前記すべり軸受の温度を検出し、
前記すべり軸受の検出温度と予め設定されている基準温度とを比較し、
前記検出温度が前記基準温度より高い場合には、前記すべり軸受の給脂頻度を増加させることを特徴とする建設機械のすべり軸受給脂管理方法。
【請求項2】
建設機械の多関節フロントの関節部に設けるすべり軸受に間歇的に給脂する建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
前記すべり軸受の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサによる検出温度と予め設定されている基準温度とを比較する温度比較手段と、
前記温度比較手段により、前記検出温度が前記基準温度以上であると判定された場合に、前記すべり軸受の給脂頻度を増加させる給脂頻度変更手段とを備えたことを特徴とする建設機械のすべり軸受給脂管理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
前記検出温度を表示する温度表示手段をさらに備えたことを特徴とする建設機械のすべり軸受給脂管理装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
前記検出温度が前記基準温度以上である場合に高温度であることを報知する高温度報知手段をさらに備えたことを特徴とする建設機械のすべり軸受給脂管理装置。
【請求項5】
請求項2から4までのいずれか1項に記載の建設機械のすべり軸受給脂管理装置において、
給脂時間間隔を短くした状態でも軸受温度が高温度状態が持続する際に警報を発する潤滑異常警報手段をさらに備えたことを特徴とする建設機械のすべり軸受給脂管理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−162944(P2011−162944A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23743(P2010−23743)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】